(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】高速ノズル故障検出方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230720BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/01 401
B41J2/01 403
B41J2/165
(21)【出願番号】P 2020556888
(86)(22)【出願日】2019-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2019060233
(87)【国際公開番号】W WO2019206831
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-25
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516255493
【氏名又は名称】キャノン プロダクション プリンティング ホールディング ビー. ヴィ.
【氏名又は名称原語表記】Canon Production Printing Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Van der Grintenstraat 10, 5914 HH Venlo, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カレータ,アモル・アー
(72)【発明者】
【氏名】クライン・クーアーカンプ,クーン・ジョーン
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174267(JP,A)
【文献】特開2011-240563(JP,A)
【文献】特開2012-171209(JP,A)
【文献】特表2018-501126(JP,A)
【文献】特開2013-146979(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02842752(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の吐出ユニット(E)を有するインクジェットプリンタにおけるノズル故障検出方法であって、各々の吐出ユニットが、ノズル(14)と、ノズルと関連付けられる液体チャンバ(34)であって、ノズル(14)からインク液滴を排出するように、その液体チャンバ内で圧力波にエネルギーを印加するための電気機械変換器(42)を有する液体チャンバ(34)とを備え、方法は、所与の最小検出頻度によって各々吐出ユニットに対して実施されるノズル故障検出ステップを備え、各々のノズル故障検出ステップは、
液滴の吐出を生じさせず、吐出ユニットが動作不良状態にあるか否かに敏感である圧力変動を形成する波形(64)によって、変換器(42)にエネルギーを印加するステップと、
動作不良状態を検出するために圧力変動を測定するステップと、
を備える方法において、
印刷される画像コンテンツに依存しないマスクパターン(22)を画定するステップであって、前記マスクパターンは、暗い背景(26)上のブランク画素(24)の位置を、ブランク画素が、肉眼での認識が困難な程度に精細となるように画像(20)の区域に亘って分布させられるように画定するステップと、
画像が印刷されているとき、
対応する複数のノズル(14)がマスクパターン(22)に属する画素位置内にあるタイミングにおいて、各吐出ユニット(E)に対してノズル故障検出ステップを実施するステップと、
を備え、
所与の最小検出頻度は、印刷されるシート(18)の前進速度が、シート(18)の前進方向(y)におけるマスクパターン(22)の長さで除算されたものにより与えられることを特徴とする方法。
【請求項2】
マスクパターン(22)が、印刷される画像
である連続するタイルに繰り返し適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
検出波形(64)が、吐出ユニットが動作状態にある場合にのみ、インクチャンバ(24)内の残留圧力変動を抑制するように設計されるクエンチパルス(68)が後に続く作動パルス(66)を含み、動作不良状態が、クエンチパルス(68)の後の残留圧力変動の振幅をしきい値(f)と比較することにより検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
個々のノズル(14)に対するノズル故障検出ステップが、プリンタのドロップオンデマンド期間より大きくない持続期間を有する時間区間(t1-t4)の中で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
動作不良状態が任意のノズル(14)に対して検出されたとき、ノズル故障補償アルゴリズムが、そのノズルに対して動作され、ノズル故障が存続する限り動作が保たれ、
ノズル故障補償アルゴリズムは、引き続くノズルの走査パス(x)において近隣のノズルを動作させることにより、ノズル故障を補償する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
特定の吐出ユニットの動作不良状態が検出されたとき、その検出ユニットがスイッチを切られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
動作不良状態が特定のノズルに対して検出されたとき、他のノズル故障検出プロセスが、動作不良の性質の特性をさらに明らかにするために、そのノズルに対して実施され、動作不良の性質が識別された場合、保守ステップが動作不良を除去するために実施される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
ノズル故障補償アルゴリズムが、ブランク画素(24)の画素位置に対して実施され、
ノズル故障補償アルゴリズムは、ブランク画素に関連するノズルの近隣のノズルを動作させることによって、ノズル故障を補償する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の吐出ユニットを有するインクジェットプリンタにおけるノズル故障検出方法であって、それら吐出ユニットの各々は、ノズルと、ノズルと関連付けられる液体チャンバであって、ノズルからインク液滴を排出するように、その液体チャンバ内で圧力波にエネルギーを印加するための電気機械変換器を有する液体チャンバとを備え、本方法は、所与の最小検出頻度によって、各々の吐出ユニットに対して実施されることになるノズル故障検出のステップを備え、各々のノズル故障検出ステップは、
- 液滴の吐出を引き起こさないが、吐出ユニットが動作不良状態にあるか否かに対して敏感な圧力変動を形成する検出波形によって変換器にエネルギーを印加するステップと、
- 動作不良状態を検出するために圧力変動を測定するステップと、
を備える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既知のインクジェット印刷ヘッドは複数の吐出ユニットを備え、各々の吐出ユニットは、所定量の液体を保持するための液体チャンバを備える。一般に、液体は、溶剤系もしくは水性インク、昇温においてのホットメルトインク、またはUV硬化性インクなどのインクであるが、液体は、任意の他の種類の液体であり得る。他の例は、正確に放出されることを必要とする液体を含む。
【0003】
インクジェット印刷ヘッドの各々の吐出ユニットは、圧力波を液体チャンバ内で保持される液体内で生成するために、液体チャンバに動作可能に結合される電気機械変換器をさらに備える。既知の電気機械変換器は、2つの電極と、それらの電極の間に配置される圧電材料の層とを備える圧電アクチュエータである。電場が、電極に亘る電圧印加により付与されるとき、圧電材料は機械的に変形し、圧電アクチュエータの変形は、圧力波を液体内で生成する。静電アクチュエータなどの他の種類の電気機械変換器もまた、インクジェット印刷ヘッドにおいての使用に対して既知である。
【0004】
各々の吐出ユニットは、液体チャンバと流体連通しているノズルをさらに備える。適切な圧力波が液体チャンバ内の液体内で生成される場合、液体の液滴が、ノズルを通して排出される。液体がインクの場合、液滴は、記録媒体に衝突し、記録媒体上に画像ドットを形成し得る。そのような画像ドットのパターンは、当技術分野においてよく知られているように、記録媒体上に画像を形成し得る。
【0005】
上記で説明されたインクジェット印刷ヘッドの既知の不利な点は、吐出ユニットの動作不良に影響されやすいことである。特に、空気泡がノズル内に、または液体チャンバ内に取り込まれ得るということが知られている。そのような空気泡は、吐出ユニットの音響特性を変化させ、結果として、圧力波が生成されるときに液滴が形成されないことがある。動作不良の別の既知の原因は、ノズルを(部分的に)閉塞するほこり粒子である。ほこりの存在は、液体の流れを閉塞するのみでなく、さらには、音響特性を変化させる。
【0006】
液体内の残留圧力波を検知することが、本技術分野においてよく知られている。圧力波の生成の後、吐出ユニットの音響特性は、経時的に弱まる残留圧力波を結果的に生じさせる。この残留圧力波を検知および分析することが、吐出ユニットの音響特性に関する詳細な情報をもたらす。残留圧力波から導出される音響特性と、動作可能状態での吐出ユニットの音響特性との間の比較は、吐出ユニットの動作状態を導出することを可能とする。その上、動作不良状態が導出される場合に、動作不良状態に対する原因を残留圧力波から決定することが知られている。
【0007】
動作状態を検出するための既知の方法の不利な点は、残留圧力波を検知するために必要とされる時間、および、残留圧力波の分析のために必要とされる時間である。検知および分析のために必要とされる、この相対的に長い期間に起因して、各々の液滴吐出の後に各々の吐出ユニットに対する分析を実施することは可能でない。その上、連続的な液滴吐出の間に充分な時間が存することになる場合でさえ、各々の液滴吐出の後に各々の吐出ユニットを分析するために必要とされる計算力は、このことが商業的に引き合わないこととなるほどに高いことになる。
【0008】
冒頭の段落において規定されたタイプの方法が、国際公開第2016/113232号において開示されている。この方法において、圧力波を液体内で生成後、電気機械変換器が、液体内の残留圧力波を抑制するために作動させられる。残留圧力波のそのような抑制は、一般にはクエンチングとも呼称される。クエンチングの後、液体内の残留圧力波の振幅が検知される。検知された振幅に基づいて、吐出ユニットは、(i)残留圧力波の振幅がしきい値より下であるならば、動作可能状態にある、さもなければ、(ii)残留圧力波の振幅がしきい値より上であるならば、動作不良中、または少なくとも故障に陥りやすい状態にあるということが決定される。
【0009】
次の液滴吐出に対して吐出ユニットを準備するために、吐出ユニット内のいかなる残留圧力波も除去するためのクエンチングが、従来技術より既知である。残留圧力波は、引き続いて生成される圧力波に影響を及ぼし、それによって、引き続く液滴に、寸法、速度および/または他の任意の特性において影響を及ぼす。クエンチングは、先の液滴形成からの影響力を伴わない液滴形成を確実にすることが知られている。
【0010】
引用された文献において説明されている方法は、クエンチパルス、すなわち、残留圧力波をクエンチするために電気機械変換器に付与される作動パルスは、良好に機能する(動作可能な)液体チャンバ内での作動後に、通常は残存する残留圧力波に対して高度に適合されるという考えに基づく。液体チャンバの音響特性は既知であり、そのような既知の音響特性に基づいて、クエンチパルスは設計されている。そのようなクエンチパルスは、普通、タイミングおよび振幅に関して、ならびにしばしば、複数の他のパラメータに関しても調整される。正しく調整されるならば、そのときにのみ、非常に低い振幅を伴う残留圧力波が残存する。そのため、一般的に、クエンチパルスの後に残存するいかなる残留圧力波も、非常に低い振幅を有するはずであり、なぜならば、クエンチパルスは、そのようにするように設計されているからである。
【0011】
液体チャンバの音響特性が、ほこり粒子もしくは気体(普通は空気)泡の存在、または、任意の他の原因に起因して変化するならば、クエンチパルスは、残留圧力波の振幅を充分に低下させることができないことになる。所定の環境の下で、クエンチパルスは残留圧力波の振幅を増大することさえある。
【0012】
振幅を検知し、(低い)しきい値との比較により振幅の値をただ単に評価することは、掛かる時間が比較的短く、要する計算力は相対的にわずかである。吐出ユニットの状態を検出するために使用される圧力波は、適切な残留圧力波が生成され、一方で、液滴が排出されないようなもの(すなわち、非吐出圧力波)であり得る。次いで、対応するクエンチパルスを使用して、そのような残留圧力波がクエンチされ得るものであり、この方法は、よって、液滴を排出することなく履行され得る。そのような実施形態は、吐出ユニットの動作状態を容易および迅速に検出することを可能とし、検出波形は、吐出ユニットの動作可能または動作不良に対する残留圧力波の感度を最適化するように微調整され得る。
【0013】
かくして、この方法は、印刷ジョブの間、特に、印刷ジョブの間に吐出される2つの液滴の間、例えば、2つの連続する記録シートの間の間隙が印刷ヘッドを通過する間、または、印刷されることになる画像の画像コンテンツが、吐出ユニットが休止するということを要する期間内でさえ、吐出ユニットの動作状態を検証することを可能とする。
【0014】
マルチパス印刷プロセスにおいて、ノズル故障の発生が、走査パスの終了時、または、その終了前の、どこかの時点において検出されるならば、一般的には充分であり、なぜならば、それでもなお、引き続く走査パスにおいて近隣のノズルを動作させることにより、ノズル故障に対して補償すること、すなわち、ノズル故障により引き起こされる可視のアーチファクトをカムフラージュすることが可能だからである。しかしながら、単一パスのプロセスにおいて、ノズル故障は、それが発生した後に可能な限りすぐに検出されることが重要であり、そのことによって、故障補償アルゴリズムは、可能な限りすぐに動作され得る。補償されないノズル故障は、後で除去することができない可視のアーチファクトを結果的に生じさせ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
それゆえに、本発明の目的は、ノズル故障を、それが発生した短い時間の後に直ちに検出することを可能にする、ノズル故障検出方法を提供することある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的を達成するために、本発明による方法は、
- 印刷される画像コンテンツに非依存的であるマスクパターンを画定するステップであって、前記マスクパターンは、暗い背景上のブランク画素の位置を、ブランク画素が、肉眼での認識か困難な程度に精細となるように画像区域に亘って分布させられるように画定するステップと、
- 画像が印刷されているとき、各ノズルがマスクパターンに属する画素位置上にあるタイミングにおいて、各々の吐出ユニットに対してノズル故障検出ステップを実施するステップと、
を備える。
【0018】
本発明は、画像が印刷されている間に故障検出ステップを「急いで」実施するために、上記で説明された高速ノズル故障検出法(FFD)を利用する。液滴は故障検出ステップの間に吐出され得ないので、この検出ステップは、それ自体が、印刷される画像内に、アーチファクト、すなわちブランク画素(白黒印刷の事例においては白および、カラー印刷の事例においては、誤った色を伴う画素)を生じさせることとなる。しかしながら、故障検出は、非常に短時間で達成することができるので、結果的に生じるアーチファクトは、非常に小さい数の近接する画素に亘ってのみ広がることになる。理想的には、検出は、単一の画素位置のみが影響を及ぼされることになるほどに高速である。次いで、故障検出ステップにより影響を及ぼされる画素位置が、マスクパターンによって選択されるとき、アーチファクトは、画像区域に亘って均一に分布させられる、および、それゆえに事実上知覚不可能である、孤立させられたブランク画素のみからなることとなる。
【0019】
印刷される画像コンテンツに依存せず、マスクパターンは、各吐出ユニットが、所定の最小検出頻度によって、起こり得るノズル故障に対して試験されるように画定され得るものであり、そのことによって、ノズル故障の発生と、その故障の検出との間の時間遅延は、最大検出頻度に対応する期間を決して超過しないことになる。次いで、ノズル故障が検出されると、ノズル故障の補償および/またはノズル故障の消失などの、適した対応策が実施可能となり、そのことによって、単一パスプロセスにおいてでさえ、ノズル故障により形成されるアーチファクトは、ノズル故障の発生と検出との間の遅延時間に長さが対応する、相対的に短い画素ラインに局限されることになる。
【0020】
本発明の有用なさらなる発展形態が、従属請求項において示される。
【0021】
追加的な故障検出ステップが、印刷されることになる画像コンテンツの見地から、ユニットがいずれにしても動作していない画素位置において、各吐出ユニットに対して実施可能である。このことは、平均検出頻度をいっそうさらに増大することになる。
【0022】
一実施形態において、特定の吐出ユニットに対するノズル故障が検出されたとき、ノズル故障補償アルゴリズムが直ちに呼び出される。
【0023】
上で議論した、非常に高速のノズル故障検出ステップは、大部分の事例において、吐出ユニットが動作不良状態にあるかどうかの質問に対し、「はい」または「いいえ」の答えのみを提供することができるということが認められるであろう。動作不良の性質および原因に関する、より詳細な情報を得るために、残留圧力波の、より綿密な、および時間がかかる分析が必要にあることとなる。動作不良の精確な性質がまだ知られていない限り、動作不良が、所定の異常を伴う液滴の吐出を結果的に生じさせる、ノズルの部分的な詰まりに起因するということは排除され得ない。このことは、補償が困難なアーチファクトを引き起こし得るので、予測可能な結果を得るために、吐出ユニットを完全に使用不可能にすることおよび、単に故障の補償に頼ることが好まれ得る。
【0024】
その一方で、1つ以上の非印刷パルスが、動作不良の性質を識別するように、より詳細に残留圧力波を分析するために、動作不良の吐出ユニットの変換器に印加され得る。次いで、ノズルを清浄すること、または、印刷ヘッドのノズル面を拭くことなどの適切な保守動作が、次の機会に、例えば、現在の走査パスの終了において、または、印刷されるページが完了されたときに起動されても良い。
【0025】
高速故障検出ステップの高い感度のおかげで、非常に小さい空気泡がノズル内へと引き込まれる事象を、空気泡が、たとえ動作不良を引き起こすには小さすぎても検出することさえ可能である。しかしながら、吐出ユニットが、そのような事例において動作を維持するならば、空気泡は成長し、最終的には動作不良を引き起こす傾向にある。残留波のより詳細な分析が、そのような状況が発生したということを明らかにするとき、吐出ユニットは一時的に使用不可能とされてもよく、空気泡が縮小し、最終的には消滅することが、変換機に、そのために特別に形成された波形でエネルギーを印加するこにより生じさせる試みがなされてもよい。この方法により、本発明は、ノズル故障を、先手を打って阻止することさえも、ある程度まで可能にする。
【0026】
カラー印刷において、異なる色成分に対して使用されるマスクパターンは同一であり得る、あるいは互いに異なるものとなり得る。後者の事例において、ブランク画素は白ではなく、単に色ずれを示すことになる。
【0027】
実施形態例が、ここで図面と関連して説明されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明による方法が用いられる、インクジェットプリンタおよび印刷プロセスの概略図である。
【
図2】印刷ヘッドの吐出ユニットの機械的部分の、そのユニットを制御および監視するための電子回路と共に示す断面図である。
【
図3】吐出ユニットの変換器に印加される波形および、吐出ユニットのインクチャンバ内の圧力波の時間図である。
【
図4】本発明による方法の本質的なステップを例示する流れ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、プラテン16に面し、プラテン16の上方を通過させられる記録媒体18上へとインク液滴を吐出することを、印刷される画像20を記録媒体上に形成するように配置されるノズル14の列を伴うノズル面12を有するページワイドインクジェット印刷ヘッド10を示す。
【0030】
図面は、画像20の画像コンテンツを示すのではなく、代わりに、ノズル故障検出プロセスにおいて使用されるマスクパターン22の象徴的表現を示す。マスクパターン22は、暗い背景26上のブランク画素24のパターンと仮定することができる。図面の再現性の理由から、マスクパターン22は反転して、すなわち背景26は白で示されており、ブランク画素24は黒で示されている。ブランク画素24の画素位置は、一様な密度を伴って、画像20の区域に亘ってランダムに分布させられるように見えるが、画素位置の分布は、実際には単に擬似ランダムであり、厳密に1つのブランク画素24が、ノズル14の内の関連付けられる1つによって印刷される各々の画素列内に発生するということを保証するように設計されている。
【0031】
下記で詳細に説明されることになるように、マスクパターン22は、ノズル故障検出ステップのタイミングを、ノズル14の各々に対して実施されるように制御する。シート18が、副走査方向yに前進させられ、ノズル14が主走査方向xに広がる、連続する画素ラインを印刷するためにエネルギーを印加される際、所与のノズル14に対する故障検出ステップが、ノズル14と同じ画素列内に配置されるブランク画素24がノズルと位置合わせされるときの時間において実施される。故障検出ステップが実施されるとき、ノズルは液滴を吐出することができず、そのことによって、画素24はブランクのままにされる。故障検出プロセスは、それが、単一のドロップオンデマンド期間の中で、すなわち、列内の次の画素がノズル14の位置に到達する前に完了できるほどに高速であり、そのことによって、このノズルは、再び、次のインクドットを吐出することに対して用意が整う。これにより、印刷される画像20は、マスクパターン22により指定される画素位置においてのみ、ブランク画素24により「穴をあけられる」ことになる。
【0032】
例えば400または600dpiの典型的な解像度を有するプリンタにおいて、個々の画素のサイズは、ブランク画素24が、画像の暗い背景上でさえ、肉眼によってほとんど目に見えないほどに小さいことになる。当然ながら、ブランク画素24が、白い画像区域内に偶然配置されるならば、その画素は、まったく目に見えないことになる。
【0033】
実用的な実施形態において、ノズル14の数は、
図1において示されるノズルの数よりも著しく多く、したがって、ブランク画素24のサイズは、
図1におけるよりも著しく小さくなることが理解されるであろう。
【0034】
マスクパターン22は、主走査方向xにおいて、印刷ヘッド10の幅全体に亘って広がるが、副走査方向yにおける、そのマスクパターンの寸法は、印刷されることになるページの寸法より小さくて良い。かくして、
図1において示される画像20は、単に、完全な印刷される画像のタイルと考えられるべきであり、全体のページの画像は、多数の連続するタイルから構成されることになる。マスクパターン22は、ノズル故障検出ステップが、ノズル14の各々に対してタイル毎に1回実施されるように、各々のタイルに反復して適用される。その結果、故障検出ステップが各々の個々のノズルに対して実施される最小検出頻度は、副走査方向yにおけるシート18の前進速度が、その方向yにおけるマスクパターン22の長さで除算されたものにより与えられる。ノズル故障が印刷プロセスの間に発生するのがいつであれ、そのノズルに対する、故障の発生と、次の故障検出ステップにおいての故障の検出との間の時間遅延は、決して最小検出頻度の逆数より大きくならないことになる。
【0035】
個々のノズル14に対する故障検出ステップを、ここで印刷ヘッド10の単一の吐出ユニットEを示す
図2と関連して説明されることになる。印刷ヘッドは、薄い可撓性膜32の両反対側に接合されるウェハ28および支持部材30により構成される。
【0036】
液体チャンバ34を形成する凹部が、膜32と係合するウェハ10の面、例えば、
図2における底面内に形成される。液体チャンバ34は、本質的に矩形の形状を有する。
図2における左側端部がウェハ20の厚さ方向に貫通するインク供給ライン36に接続され、インク供給ライン36は液体チャンバ34への液体インクの供給に役立つ。
【0037】
図2における右側の、液体チャンバ34の反対側は、膜32内の開口部を通してチャンバ38に接続され、チャンバ38は支持部材30内に形成され、支持部材の底面に形成されるノズル14内へと開口する。
【0038】
膜32に近接し、かつチャンバ38から分離されて、支持部材30は、膜32に接合される圧電変換器42を収容する別の空洞40を形成する。
【0039】
インク供給ライン36、液体チャンバ34、チャンバ38およびノズル14は、液体インクによって満たされる。ここで示されていないインク供給システムが、インクがノズル14を通って外に漏れることを防止するために、大気圧よりわずかに下に、例えば、-1000Paの相対圧力で、この液体インクの圧力を保つ。ノズルオリフィスにおいて、液体インクはメニスカス44を形成する。
【0040】
圧電変換器42は、
図2の下側部分において示されている電子回路に接続される電極を有する。示される例において、変換器の1つの電極は、導線46および抵抗器48を介して接地される。変換器の別の電極は、フィードバックネットワーク52によってフィードバック制御される増幅器50の出力側に接続され、それによって、変換器に印加される電圧Vは、増幅器の入力導線54上の信号に比例することになる。入力線路54上の信号は、ローカルデジタルコントローラ58からのデジタル入力を受信するD/Aコンバータ56により生成される。コントローラ58は、プロセッサ60に接続される。
【0041】
インク液滴がノズル14から放出されることになるとき、プロセッサ60は、コントローラ58にコマンドを送出し、そのコントローラ58は、D/Aコンバータ56および増幅器50が変換器42に電圧パルスを付与することを引き起こすデジタル信号を出力する。この電圧パルスは、変換器が曲げモードで変形することを引き起こす。より具体的には、変換器42は、下方に屈曲することを引き起こされ、そのことによって、変換器42に接合される膜32もまた下方に屈曲され、液体チャンバ34の体積が増大することになる。結果として、追加的なインクが、供給ライン36を経て吸い込まれることになる。次いで、電圧パルスが再びオフに下がるとき、膜32は、元の状態へと戻るように屈曲することになり、そのことによって、正の音圧波が液体チャンバ34内の液体インク内で生成される。この圧力波はノズル14に伝搬し、インク液滴の排出を生じさせる。
【0042】
変換器42の電極はまたA/Dコンバータ62に接続され、そのA/Dコンバータ62は、変換器をまたぐ電圧降下および、さらには抵抗器48をまたぐ電圧降下を、それによって暗黙裡には、変換器を通って流れる電流を測定する。対応するデジタル信号が、これらの信号から変換器42のインピーダンスを導出することができるコントローラ58に転送される。測定されたインピーダンスがプロセッサ60に信号伝達され、そのプロセッサ60において、インピーダンス信号が下記で説明されることになるように、さらに処理される。
【0043】
液滴のノズル14からの排出を生じさせた音響波は、開放ノズルにおいて(位相反転を伴って)反射させられることになり、液体チャンバ34内へと戻るように伝搬することになる。その結果、液滴が排出された後でさえ、徐々に減衰する音圧波が導管16内に依然として存在し、対応する圧力変動が曲げ応力を膜32およびアクチュエータ42上に作用させる。圧電変換器上でのこの機械的歪みは変換器のインピーダンスの変化につながり、この変化は、上記した電子回路によって測定可能である。測定されるインピーダンス変化は、音響波の圧力変動を表し、それゆえに、これらの圧力変動を説明する時間依存関数P(t)を導出するために使用することができる。
【0044】
図3(A)は、変換器42に印加され得る電圧信号V(t)の波形64を示す。通常印刷モードにおいて、波形は、上記した膜32のたわみを生じさせ、かつノズルを通してインク液滴を排出するのに十分に大きい振幅を有する作動パルス66を備える。波形は、この例では反対の極性を有するクエンチパルス68をさらに含む。クエンチパルス68のタイミングおよび振幅は、そのクエンチパルス68が、液滴が排出された後にインクチャンバ34内で振動し、徐々に減衰する残留圧力波を打ち消す(クエンチする)ように選択される。通常印刷モードにおいて、クエンチパルス68は、液体チャンバ34内の圧力変動が、別の作動パルス66が次のドロップオンデマンドサイクルにおいて印加されるときの時間において、事実上ゼロに低減されることを保証する。
【0045】
図3は、時間t1から時間t4の範囲に及び、かつ、例えば10μsの持続期間を有する、1つの完全なドロップオンデマンドサイクルを示す。作動パルスは時間t2において印加され、クエンチパルスは時間t3において印加される。
【0046】
しかしながら、
図3は、実際には、インク液滴が排出される通常印刷動作を例示するのではなく、代わりに、ノズル故障検出ステップに当てはまるものである。その結果、
図3(A)において示される波形64は検出波形であり、その検出波形において、作動パルス66およびクエンチパルス68の振幅およびタイミング(および任意選択で形状)は、液滴を排出するためではなく、むしろノズル故障の検出のために最適化されている。つまり、
図3(A)において示される作動パルス66の振幅は、液滴が排出されないほどに小さい。その結果、作動パルスのエネルギーは、形成された液滴上へと伝達されるのではなく、インクチャンバ34内の液体内に留まり、そのことが、より高い振幅を有する「残留」圧力波を結果的に生じさせる。
【0047】
図3(B)において、破線で示される曲線70は、吐出ユニットが動作状態にある、すなわち、液滴が所望されるように排出されたであろうという事例において、故障検出ステップにおいて形成される残留圧力波に対する圧力関数P(t)が、十分に大きい作動パルス66の振幅を有したということを表す。クエンチパルス68のタイミングおよび振幅は、曲線70により示される残留圧力波が、弱め合う干渉によりほとんど完全に打ち消されるように設計されており、それよって、
図3(B)において、圧力波の振幅は時間t3において急激に減少する。
【0048】
他方で、吐出ユニットEが、任意の種類の動作不良状態、例えばノズル14が部分的に、または完全に詰まった状態、あるいは、空気泡がノズル内に、またはチャンバ38内に、または液体チャンバ34もしくはインク供給導管36内に存在する状態にあるならば、音響特性、すなわち、音響波の反射および伝達の挙動は、クエンチパルス68のタイミングおよび振幅が、もはや残留圧力波との弱め合う干渉に対して調整されず、この圧力波を効率的に抑制することに失敗し、または、
図3(B)において実線の曲線72により例示されているように、残留圧力波を、強め合う干渉により上昇させさえするように変化させられることになる。その結果、曲線72により表される圧力波の振幅は、t3とt4との間の時間区間において、顕著により大きくなる。
【0049】
吐出ユニットの動作不良状態は、それゆえに、単純に時間t3とt4との間の圧力波の振幅が所定のしきい値fより上であるかどうかをチェックすることにより、非常に容易かつ短時間の中で検出することができる。そうであるならば、吐出ユニットは動作不良状態にあるということが判断され得るが、ユニットが何の種類の動作不良状態にあるかは、まだ決定することができない。他方で、振幅がしきい値fより下に留まるならば、吐出ユニットは動作状態にあるということが結論付けることができる。
【0050】
この判断は、きわめて短い時間の中で、印刷ヘッドの単一のドロップオンデマンド期間の中でさえ為され得るということが認識されるであろう。
【0051】
図3(B)においてさらに示されるように、ユニットが動作不良状態にあるか、それとも動作状態にあるかに関わらず、圧力波の振幅は、常に、それより上でインク液滴が噴射されることになるしきい値である、しきい値jより下に留まる。その結果、画素は、
図3(B)において示される時間t1とt4との間のドロップオンデマンド期間において、吐出ユニットEによって印刷され得ないものであり、その結果、ブランク画素24が、印刷される画像内に形成されることになる。
【0052】
本発明の原理によるノズル故障検出を伴う印刷プロセスの本質的なステップが、
図4にの流れ線図において要約されている。
【0053】
ステップS1において、マスクパターン22が、パターンにより決定される最小検出頻度が印刷ジョブに対する品質要件と整合するように画定される。
【0054】
ステップS2において、画像20、または、複数の画像もしくはタイルが媒体シート18上に印刷され、
図2および3に関連して説明されるような高速ノズル故障検出ステップが、各ノズル14に対して、そのノズルがブランク画素24の画素位置に到達すると直ちに実施される。インクドットがその位置において印刷されないことになることが予め分かっているので、故障補償ルーチンが、ブランク画素24の可視性をさらに低減するために、その特定の画素位置に対して作動され得る。例えば、(近隣の画素列内の、および、さらには同じ列内の、ただし、ブランク画素28の前にある、およびそのブランク画素の後に続く)近隣の画素位置に対するインク液滴の体積が、それぞれの作動パルス66の振幅を増大することにより増大され得る。
【0055】
ステップS3において、ノズル故障がノズル14のいずれかに対して検出されたかどうかがチェックされる。
【0056】
ノズル故障が検出されると直ちに、動作不良中ノズルは、ステップS4においてスイッチを切られ、故障補償が、近隣の画素列内の画素に対して継続される。
【0057】
次いで、ステップS5において、詳細な故障分析が、動作不良の性質の特性をさらに明らかにするために、動作不良中の吐出ユニットに対して実施される。その目的のために、吐出ユニットの変換器が、液滴を吐出するには小さすぎる作動パルス66を有する波形によってエネルギーを印加される。引き続くクエンチパルス68は含まれ得る、または省略され得るものであり、インクチャンバ34内で減衰する圧力波は、発生したノズル故障のタイプを識別するために、時間の延長された期間に亘って分析されることになる。
【0058】
次いで、ステップS5における故障分析の結果に依存して、ノズル処置が、(例えば、印刷されることになる2つの順々に続くページの間の時間間隙内に、ノズル面12を拭くことにより、または、ノズルを清浄化することにより)ノズルを動作状態へと戻すために、ステップS6において任意選択で実施され得る。
【0059】
ステップS7において、マスクパターン22の端部に到達したかどうかがチェックされる。そうであるならば(Y)、マスクパターンはステップS8において繰り返され、それによってステップS2に戻るようにループすることにより、次のタイルまたは画像20が印刷可能となるものであり、高速ノズル故障検出が継続され得る。
【0060】
ノズル故障がステップS3において検出されないならば(M)、ステップS4からS6は飛ばされる。
【0061】
ステップS3は、ノズル14の内の1つが、マスクパターン内のブランク画素28の内の1つの画素位置に到達したときはいつも実施されるということが理解されるであろう。その結果、2つ以上のノズル故障が検出され、ステップS4からS6が、次いで、動作不良中ノズルの各々に対して実施されるという事例が存し得る。