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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20230720BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230720BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B62D3/12 501B
B62D5/04
F16F15/08 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021125631
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023020327
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-06-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓造
(72)【発明者】
【氏名】下田 勝海
(72)【発明者】
【氏名】青山 雅
(72)【発明者】
【氏名】山田 展資
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010345(WO,A1)
【文献】特開2013-233858(JP,A)
【文献】特開2014-84002(JP,A)
【文献】特開2013-63723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/00-3/14
B62D 5/04
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるステアリング部材の操舵に応じて回転する第一シャフト部材と、
前記第一シャフト部材に設けられ前記第一シャフト部材と共に回転する第一ピニオンギヤと、
モータにより回転駆動される第二シャフト部材と、
前記第二シャフト部材に設けられ前記第二シャフト部材と共に回転する第二ピニオンギヤと、
前記第一ピニオンギヤ及び前記第二ピニオンギヤに噛み合うラックギヤを有し車輪を転舵するラックシャフトと、
前記ラックシャフトを収容するケース部材と、
前記ラックシャフトを前記第一ピニオンギヤに向けて付勢する第一付勢機構と、
前記ラックシャフトを前記第二ピニオンギヤに向けて付勢する第二付勢機構と、を備え、
前記ケース部材は、前記第一付勢機構を収容する第一収容部と、前記第二付勢機構を収容する第二収容部と、を有し、
前記第一付勢機構は、前記ラックシャフトに当接し前記ラックシャフトの移動に追従して前記第一収容部内で可動な第一当接部と、前記第一当接部を前記ラックシャフトに向けて付勢する第一付勢部材と、を有し、
前記第二付勢機構は、前記ラックシャフトに当接し前記ラックシャフトの移動に追従して前記第二収容部内で可動な第二当接部と、前記第二当接部を前記ラックシャフトに向けて付勢する第二付勢部材と、を有し、
前記第一当接部及び前記第二当接部は、前記車輪を転舵する前記ラックシャフトの移動量の増加に伴い、前記ケース部材により対応する前記第一収容部及び第二収容部内での移動が規制されて前記ラックシャフトに追従不能となり、
前記第一当接部及び前記第二当接部は、前記ラックシャフトに追従不能となり前記ラックシャフトに対して滑り始めるタイミングが互いに異なることを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のステアリング装置であって、
前記第一収容部と前記第一当接部の間と、前記第二収容部と前記第二当接部の間と、には異なる大きさの隙間が形成されることを特徴とするステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のステアリング装置であって、
前記第一付勢機構は、前記第一当接部と、前記第一収容部と、の間に圧縮されて設けられる環状の第一弾性部をさらに有し、
前記第二付勢機構は、前記第二当接部と、前記第二収容部と、の間に圧縮されて設けられる環状の第二弾性部をさらに有し、
前記第一弾性部から前記第一当接部に作用する応力と、前記第二弾性部から前記第二当接部に作用する応力と、は異なることを特徴とするステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載のステアリング装置であって、
前記第一弾性部及び前記第二弾性部のうち、対応する前記第一当接部及び前記第二当接部に作用する応力が大きい一方は、軸方向に離れて設けられる二つの環状の弾性部材を有し、
前記二つの弾性部材のうち前記ラックシャフトから離れて設けられる一方の弾性部材は、前記ラックシャフトの近くに設けられる他方の弾性部材よりも線径が大きく形成されることを特徴とするステアリング装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のステアリング装置であって、
前記第一当接部は、前記第二当接部よりも先に前記ラックシャフトに対して滑り始めるように形成されることを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ラックをピニオンに向けて押し付ける予圧機構を備えるラックアンドピニオン式のステアリング装置が記載されている。予圧機構は、ハウジングの円筒部にラックガイド、予圧ばね、及び調整ねじが順に挿入されて構成され、予圧ばねによりラックガイドをラックに向けて付勢することで、ラックをピニオンに向けて押し付ける。これにより、ラックとピニオンとの間で生じるバックラッシュが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-241051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような予圧機構は、バックラッシュによる異音の発生を防止するために、例えば予圧ばねの付勢力を強くしてラックをピニオンに向けて強く押し付けるように構成されることが一般的である。この構成では、ラックがピニオンに強く押し付けられ移動しづらいため、ラックに車輪からの荷重が逆入力されてピニオン等に接触することによる異音の発生も防止される反面、ステアリング装置の操舵性が悪化するおそれがある。
【0005】
また、特許文献1に記載のステアリング装置は、いわゆるシングルピニオン式である。特許文献1に記載のような予圧機構を、デュアルピニオン式のステアリング装置の二つのピニオンのそれぞれに適用することも考えられる。この場合は、バックラッシュによる異音の発生を防止するには、二つのピニオンのそれぞれをラックに向けて強く押し付けられなければならず、ラックがより移動しづらくなる。そのため、デュアルピニオン式のステアリング装置では特に操舵性が悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、デュアルピニオン式のステアリング装置の異音の発生を防止しつつ、操舵性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ステアリング装置であって、運転者によるステアリング部材の操舵に応じて回転する第一シャフト部材と、第一シャフト部材に設けられ第一シャフト部材と共に回転する第一ピニオンギヤと、モータにより回転駆動される第二シャフト部材と、第二シャフト部材に設けられ第二シャフト部材と共に回転する第二ピニオンギヤと、第一ピニオンギヤ及び第二ピニオンギヤに噛み合うラックギヤを有し車輪を転舵するラックシャフトと、ラックシャフトを収容するケース部材と、ラックシャフトを第一ピニオンギヤに向けて付勢する第一付勢機構と、ラックシャフトを第二ピニオンギヤに向けて付勢する第二付勢機構と、を備え、ケース部材は、第一付勢機構を収容する第一収容部と、第二付勢機構を収容する第二収容部と、を有し、第一付勢機構は、ラックシャフトに当接しラックシャフトの移動に追従して第一収容部内で可動な第一当接部と、第一当接部をラックシャフトに向けて付勢する第一付勢部材と、を有し、第二付勢機構は、ラックシャフトに当接しラックシャフトの移動に追従して第二収容部内で可動な第二当接部と、第二当接部をラックシャフトに向けて付勢する第二付勢部材と、を有し、第一当接部及び第二当接部は、車輪を転舵するラックシャフトの移動量の増加に伴い、ケース部材により対応する第一収容部及び第二収容部内での移動が規制されてラックシャフトに追従不能となり、第一当接部及び第二当接部は、ラックシャフトに追従不能となりラックシャフトに対して滑り始めるタイミングが互いに異なることを特徴とする。
【0008】
この発明では、第一付勢機構の第一当接部及び第二付勢機構の第二当接部が、ラックシャフトの移動に追従できずにラックシャフトに対して滑り始めるタイミングが互いに異なる。ラックシャフトは、各当接部に対して滑りながら移動して車輪を転舵する。よって、各当接部とラックシャフトの間の摩擦力が大きいと、ステアリング装置の操舵性が悪化する。当該摩擦力は、各当接部がラックシャフトに対して静止した状態では、各当接部がラックシャフトに対して滑っている状態よりも大きくなる。つまり、各当接部がラックシャフトに対して静止した状態での各当接部とラックシャフトの間の摩擦力の総量は、各当接部がラックシャフトに対して滑っている状態よりも大きくなる。したがって、各当接部の一方が先にラックシャフトに対して滑り始めるようにすることで、ラックシャフトが転舵のために移動する際に各当接部それぞれに対して滑り始めるために必要な力を、各当接部が同時に滑り始める場合と比較して小さくすることができる。よって、ステアリング装置の操舵性を向上させることができる。また、第一当接部及び第二当接部がラックシャフトに対して滑り始めるタイミングを変えても、第一付勢機構及び第二付勢機構がラックシャフトを付勢する付勢力は変わらないため、バックラッシュや、車輪からの逆入力による異音の発生を防止しつつ、ステアリング装置の操舵性を向上させることができる。
【0009】
本発明は、第一収容部と第一当接部の間と、第二収容部と第二当接部の間と、には異なる大きさの隙間が形成されることを特徴とする。
【0010】
これらの発明では、第一収容部と第一当接部の間の隙間と、第二収容部と第二当接部との間の隙間と、の大きさを個別に設定することで、ラックシャフトの動きやすさを調整することができる。
【0011】
本発明は、第一付勢機構は、第一当接部と、第一収容部と、の間に圧縮されて設けられる環状の第一弾性部をさらに有し、第二付勢機構は、第二当接部と、第二収容部と、の間に圧縮されて設けられる環状の第二弾性部をさらに有し、第一弾性部から第一当接部に作用する応力と、第二弾性部から第二当接部に作用する応力と、は異なることを特徴とする。
【0012】
この発明では、第一弾性部と、第二弾性部と、を異ならせることで、ラックシャフトの動きやすさを調整することができる。
【0013】
本発明は、第一弾性部及び第二弾性部のうち、対応する第一当接部及び第二当接部に作用する応力が大きい一方は、軸方向に離れて設けられる二つの環状の弾性部材を有し、二つの弾性部材のうちラックシャフトから離れて設けられる一方の弾性部材は、ラックシャフトの近くに設けられる他方の弾性部材よりも線径が大きく形成されることを特徴とする。
【0014】
この発明では、二つの弾性部材の線径を変えることで、ラックシャフトを動きにくくすることができる。
【0015】
本発明は、第一当接部は、第二当接部よりも先にラックシャフトに対して滑り始めるように形成されることを特徴とする。
【0016】
この発明では、ステアリング装置のストロークの初期において、第一当接部がラックシャフトに対して滑り始めた直後には、第二当接部がラックシャフトに追従できるため、第二当接部及びラックシャフトは動きが阻害されずに大きく移動することができる。これにより、ステアリング装置のストロークの初期の応答性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、デュアルピニオン式のステアリング装置の異音の発生を防止しつつ、操舵性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成図である。
図2】ラックシャフトの部分断面図である。
図3】第一付勢機構近傍の部分断面図である。
図4】第二付勢機構近傍の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るステアリング装置としての電動パワーステアリング装置100について説明する。
【0020】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置100は、運転者によるステアリング部材としてのステアリングホイール1の操舵に応じて回転する第一シャフト部材としてのステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11に設けられステアリングシャフト11と共に回転する第一ピニオンギヤ16と、第一ピニオンギヤ16に噛み合うラックギヤ12aを有し車輪2を転舵するラックシャフト12と、を備える。
【0021】
ステアリングシャフト11は、運転者がステアリングホイール1を操作するステアリング操作に伴って回転する入力シャフト13と、ラックシャフト12を変位させる出力シャフト15と、入力シャフト13と出力シャフト15とを連結するトーションバー14と、により構成される。
【0022】
ラックシャフト12は、車両の左右方向に延びて設けられる軸状部材であり、タイロッド5及びナックルアーム4を介して車輪2に連結される。
【0023】
出力シャフト15とラックシャフト12とは、出力シャフト15の端部に設けられる第一ピニオンギヤ16と、ラックシャフト12に設けられるラックギヤ12aと、からなるラックアンドピニオン機構を介して互いに連結される。出力シャフト15のトルクは、互いに噛み合う第一ピニオンギヤ16及びラックギヤ12aを介してラックシャフト12の軸心方向の荷重に変換されてラックシャフト12に伝達される。これにより、ラックシャフト12は、伝達されるトルクにより軸心方向に変位し、タイロッド5を介して車輪2を転舵する。
【0024】
また、電動パワーステアリング装置100は、操舵補助トルクの動力源であるモータとしての電動モータ21と、電動モータ21により回転駆動される第二シャフト部材としての駆動シャフト22と、駆動シャフト22に設けられ駆動シャフト22と共に回転する第二ピニオンギヤ23と、電動モータ21の回転を減速して駆動シャフト22に伝達する減速部50と、を備える。
【0025】
減速部50は、電動モータ21により駆動されるウォームシャフト51と、駆動シャフト22に設けられるウォームホイール52と、からなるウォームギヤ機構である。ウォームシャフト51とウォームホイール52とは互いに噛み合っており、電動モータ21のトルクは、ウォームシャフト51及びウォームホイール52を介して駆動シャフト22に伝達される。また、第二ピニオンギヤ23とラックギヤ12aとは互いに噛み合っており、電動モータ21から駆動シャフト22に伝達されたトルクは、第二ピニオンギヤ23及びラックギヤ12aを介してラックシャフト12にさらに伝達される。
【0026】
また、電動パワーステアリング装置100は、トーションバー14に作用するトルクを検出するトルクセンサ40と、トルクセンサ40の検出値に応じて電動モータ21の駆動を制御するコントローラ30と、をさらに備える。
【0027】
コントローラ30は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUにより実行される制御プログラム等を記憶するROM(Read-Only Memory)と、CPUの演算結果等を記憶するRAM(random access memory)と、を含むマイクロコンピュータで構成される。コントローラ30は、単一のマイクロコンピュータで構成されていてもよいし、複数のマイクロコンピュータで構成されていてもよい。
【0028】
トルクセンサ40は、運転者によるステアリング操作に伴って入力シャフト13に付与される操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクに対応する電圧信号をコントローラ30に出力する。コントローラ30は、トルクセンサ40からの電圧信号に基づいて、電動モータ21が出力するトルクを演算し、そのトルクが発生するように電動モータ21の駆動を制御する。
【0029】
このように、上記構成の電動パワーステアリング装置100では、入力シャフト13に付与される操舵トルクをトルクセンサ40にて検出し、その検出結果に基づいて電動モータ21の駆動をコントローラ30にて制御して運転者のステアリング操作をアシストすることが可能である。以上のように、電動パワーステアリング装置100は、運転者による操舵トルクと電動モータ21による操舵補助トルクとがそれぞれ独立してラックシャフト12に入力されるデュアルピニオン式のステアリング装置である。
【0030】
図2に示すように、電動パワーステアリング装置100は、ラックシャフト12を収容するケース部材としてのラックハウジング17と、ステアリングシャフト11を収容するシャフトハウジング18と、減速部50及び駆動シャフト22を収容するウォームハウジング53と、を備える。
【0031】
ラックハウジング17は、軸方向に貫通して形成されラックシャフト12が収容される収容孔17aと、外周面に一端が開口し収容孔17aと交差するように形成される第一挿通孔17b及び第二挿通孔17cと、を有する。シャフトハウジング18は、第一挿通孔17bに出力シャフト15が挿通するようにして、図示しないボルトを介してラックハウジング17に連結される。ウォームハウジング53は、第二挿通孔17cに駆動シャフト22が挿通するようにして、図示しないボルトを介してラックハウジング17に連結される。
【0032】
図3に示すように、電動パワーステアリング装置100は、ラックシャフト12を第一ピニオンギヤ16に向けて付勢する第一付勢機構60を備える。第一付勢機構60は、ラックハウジング17に設けられる第一収容部17dに収容される。言い換えれば、ラックハウジング17は、第一付勢機構60を収容する第一収容部17dを有する。第一収容部17dは、ラックシャフト12及び出力シャフト15に対して垂直に延び、収容孔17aの内周面及びラックハウジング17の外周面に開口する貫通孔である。
【0033】
第一付勢機構60は、ラックシャフト12に当接する第一当接部としての第一ヨーク61と、第一ヨーク61をラックシャフト12に向けて付勢する第一付勢部材としての第一スプリング62と、ラックハウジング17の第一収容部17dの開口を塞ぐ第一カバー63と、第一ヨーク61の外周面に設けられる弾性部材としての二つのOリング64a,64bと、を有する。Oリング64a,64bによって、第一弾性部64が形成される。
【0034】
第一ヨーク61は、第一収容部17dに摺動自在に収容される。第一ヨーク61には、ラックシャフト12の外周面に沿うように当接面61aが設けられ、当接面61aにラックシャフト12が当接して第一収容部17dに収容される。これにより、第一ヨーク61の当接面61aとラックシャフト12の間には、静止摩擦力が作用する。また、第一ヨーク61の外径は、第一収容部17dの内径よりも小さく形成される。このため、第一ヨーク61の外周面と第一収容部17dの内周面の間には、隙間65が形成される。なお、図3においては、隙間65の大きさを誇張して示している。また、第一ヨーク61の外周面には、第一収容部17dの軸方向に離れて環状の溝61b,61cが形成される。溝61bは、溝61cよりもラックシャフト12から離れて設けられる。
【0035】
第一弾性部64のOリング64a,64bは、溝61b,61cにそれぞれ一部が収容され、第一ヨーク61と第一収容部17dの間に圧縮して設けられる。このように、Oリング64a,64bは、軸方向に離れて設けられ、Oリング64aがOリング64bよりもラックシャフト12から離れて設けられる。これにより、これにより、第一ヨーク61は、第一収容部17dの内周面との間に隙間65が設けられた状態で、第一弾性部64によって第一収容部17dに対して弾性支持される。言い換えれば、第一弾性部64から第一ヨーク61に第一ヨーク61を支持する応力が作用する。よって、第一ヨーク61は第一収容部17d内で径方向に可動であり、隙間65の大きさの分だけ、当接するラックシャフト12の移動に追従することができる。第一ヨーク61がラックシャフト12に追従する動作については後述する。
【0036】
第一スプリング62は、中心軸がラックシャフト12の中心軸と直交するように配置される。また、第一カバー63は、第一収容部17dに設けられる雌ねじ(図示省略)に螺合してラックハウジング17に取り付けられる。第一スプリング62は、第一ヨーク61と第一カバー63との間に圧縮状態で設けられる。これにより、第一スプリング62は、第一ヨーク61を介してラックシャフト12を第一ピニオンギヤ16に向けて付勢する。
【0037】
図4に示すように、電動パワーステアリング装置100は、ラックシャフト12を第二ピニオンギヤ23に向けて付勢する第二付勢機構70を備える。第二付勢機構70は、ラックハウジング17に設けられる第二収容部17eに収容される。言い換えれば、ラックハウジング17は、第二付勢機構70を収容する第二収容部17eを有する。第二収容部17eは、ラックシャフト12及び駆動シャフト22に対して垂直に延び、収容孔17aの内周面及びラックハウジング17の外周面に開口する貫通孔である。
【0038】
第二付勢機構70は、ラックシャフト12に当接する第二当接部としての第二ヨーク71と、第二ヨーク71をラックシャフト12に向けて付勢する第二付勢部材としての第二スプリング72と、ラックハウジング17の第二収容部17eの開口を塞ぐ第二カバー73と、第二ヨーク71の外周面に設けられる弾性部材としてのOリング74a,74bと、を有する。Oリング74a,74bによって、第二ヨーク71と第二収容部17eの間に圧縮して設けられる第二弾性部74が形成される。第二ヨーク71の外周面には、第二収容部17eの軸方向に離れて環状の溝71b,71cが形成される。Oリング74a,74bは、溝71b,71cにそれぞれ一部が収容され、第二収容部17eの内周面との間に隙間75が設けられた状態で、第二弾性部74によって第二収容部17eに対して弾性支持される。第二付勢機構70は、第一付勢機構60と基本的な構成は同一であるため、詳細な説明は省略する。なお、第一付勢機構60と第二付勢機構70とが異なる点は後述する。
【0039】
次に、第一ヨーク61及び第二ヨーク71がラックシャフト12に追従する動作について説明する。本動作は、第一ヨーク61及び第二ヨーク71で同様であるため、第一ヨーク61がラックシャフト12に追従する動作を例にして説明する。
【0040】
ラックシャフト12は、第一ピニオンギヤ16からの入力等により車輪2の転舵のために自身の軸方向に移動する場合と、第一ピニオンギヤ16からの入力及び振動等により自身の軸方向に対して垂直な方向に移動する場合がある。第一ピニオンギヤ16とラックシャフト12は斜めに噛み合うため、このように、第一ピニオンギヤ16からの入力によってラックシャフト12が自身の軸方向及び径方向に移動する。
【0041】
ラックシャフト12が自身の軸方向に移動する際には、第一ヨーク61の当接面61aとラックシャフト12の間に摩擦力が作用する。これにより、第一ヨーク61がラックシャフト12の移動に追従する。また、第一ヨーク61には、第一弾性部64の支持力が作用する。第一ヨーク61がラックシャフト12とともに移動するのに伴い、第一弾性部64の移動方向前側が圧縮され、移動方向とは逆方向に第一ヨーク61に対して第一弾性部64から作用する支持力が増加する。第一ヨーク61は、ラックシャフト12の移動方向とは逆向きに作用する力が、当接面61aとラックシャフト12の間に作用する摩擦力よりも大きくなると、ラックシャフト12に対して滑り始める。
【0042】
より詳細には、ラックシャフト12が自身の軸方向に移動すると、第一ヨーク61は、ラックシャフト12の移動方向前方に対する隙間65を埋めるように第一弾性部64の支持力に抗してラックシャフト12の移動方向に並進する。ラックシャフト12の移動量が増えると、第一弾性部64が圧縮されるため、第一ヨーク61が第一弾性部64から受ける支持力が大きくなる。第一弾性部64の支持力が比較的大きく設定される場合は、第一弾性部64の支持力が当接面61aとラックシャフト12の間に作用する摩擦力よりも大きくなると、ラックシャフト12が第一収容部17dの内周面に接触する前に、第一ヨーク61はラックシャフト12に対して滑り始める。
【0043】
第一弾性部64の支持力が比較的小さく設定される場合は、ラックシャフト12が第一収容部17dの内周面に接触するまでは、第一弾性部64の支持力が当接面61aとラックシャフト12の間に作用する摩擦力を超えない。
【0044】
第一ヨーク61が第一収容部17dの内周面に接触すると、第一ヨーク61は、第一弾性部64の支持力に加えて、第一収容部17dの内周面から、ラックシャフト12の移動方向とは逆向きの反力を受ける。第一ヨーク61が第一収容部17dに接触した状態からラックシャフト12がさらに移動量すると、第一ヨーク61が第一収容部17dの内周面から受ける反力が増加する。そして、第一ヨーク61に対して、ラックシャフト12の移動方向とは逆向きに作用する力が、当接面61aとラックシャフト12の間に作用する摩擦力よりも大きくなり、第一ヨーク61はラックシャフト12に対して滑り始める。よって、第一ヨーク61が第一収容部17dの内周面に接触して移動が規制されてラックシャフト12に追従不能となる。
【0045】
第一ヨーク61がラックシャフト12の移動に追従した状態では、当接面61aとラックシャフト12の間には静止摩擦力が作用する。また、第一ヨーク61がラックシャフト12に対して滑る状態では、当接面61aとラックシャフト12の間には動摩擦力が作用する。
【0046】
第一ヨーク61は、隙間65を小さくすることで、早く第一収容部17dの内周面に接触して第一収容部17dの内周面から反力を受けるため、第一弾性部64の支持力が小さくても早くラックシャフト12に対して滑り始めるように構成できる。また、第一弾性部64の支持力を大きくすることで、ラックシャフト12の移動方向とは逆向きに作用する力が当接面61aとラックシャフト12の間に作用しラックシャフト12の移動方向に向かう摩擦力よりも早く大きくなるため、第一収容部17dの内周面に接触する前に早くラックシャフト12に対して滑り始めるように構成できる。このように、隙間65の大きさ及び第一弾性部64の支持力を変更することで、第一ヨーク61がラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングを変更することができる。また、第一ヨーク61がより早くラックシャフト12に対して滑り始めるようにすると、ラックシャフト12が静止した状態から第一ヨーク61に対して滑り始めるまでの間に、ラックシャフト12がより動きづらくなる。
【0047】
また、ラックシャフト12が自身の軸方向に対して垂直な方向に移動すると、第一ヨーク61は、隙間65を埋めるようにラックシャフト12の移動方向に向かって傾き、ラックシャフト12に追従する。これにより、第一ヨーク61は、ラックシャフト12が軸方向に対して垂直な方向に移動した場合でも、ラックシャフト12に追従することができる。
【0048】
一般に、ラックシャフトをピニオンギヤに向けて付勢する付勢機構は、バックラッシュによる異音の発生を防止するために、例えば付勢部材の付勢力を強くしてラックをピニオンに向けて強く押し付けるように構成される。この構成では、ラックがピニオンに強く押し付けられ移動しづらいため、ラックに車輪からの荷重が逆入力されてピニオン等に接触することによる異音の発生も防止される反面、ステアリング装置の操舵性が悪化するおそれがある。また、このような付勢機構を、デュアルピニオン式のステアリング装置の二つのピニオンのそれぞれに適用すると、ラックはそれぞれのピニオンに強く押し付けられ、より移動しづらくなる。そのため、デュアルピニオン式のステアリング装置の操舵性が悪化するおそれがある。
【0049】
これに対して、本実施形態における電動パワーステアリング装置100は、第一ヨーク61の当接面61a及び第二ヨーク71の当接面71aは、ラックシャフト12に追従不能となりラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングがそれぞれ異なるように形成される。
【0050】
第一ヨーク61及び第二ヨーク71がラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングをそれぞれ異ならせるには、前述のように、各隙間65,75の大きさや、各弾性部64,74の支持力の大きさをそれぞれ異ならせる。各弾性部64,74の支持力の大きさは、例えば、各弾性部64,74を構成するOリングの数、材質、形状を変えることにより調整することができる。本実施形態においては、第一ヨーク61が、第二ヨーク71よりも先にラックシャフト12に対して滑り始めるように形成される。具体的には、第一ヨーク61の周囲に形成される隙間65が第二ヨーク71の周囲に形成される隙間75よりも小さく形成される。また、第一ヨーク61の周囲に設けられる第一弾性部64の支持力(言い換えれば、第一弾性部64から第一ヨーク61に作用する応力)は、第二ヨーク71の周囲に設けられる第二弾性部74の支持力(言い換えれば、第二弾性部74から第二ヨーク71に作用する応力)よりも大きく形成される。より具体的には、第一弾性部64のOリング64a,64bのうちラックシャフト12から離れて設けられるOリング64aは、Oリング64bよりも線径が大きく形成され、他のOリング64b,74a,74bは同じ線径に形成される。
【0051】
ここで、ラックシャフト12は、第一ヨーク61及び第二ヨーク71に対して滑りながら移動して車輪2を転舵する。よって、各ヨーク61,71の当接面61a,71aとラックシャフト12の間の摩擦力が大きいと、電動パワーステアリング装置100の操舵性が悪化する。当該摩擦力は、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して静止した状態では、静止摩擦力となるため、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑っている状態と比較して大きくなる。つまり、各ヨーク61,71の両方がラックシャフト12に対して静止した状態の各ヨーク61,71の当接面61a,71aとラックシャフト12の間の摩擦力の総量は、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑っている状態よりも大きくなる。このため、各ヨーク61,71が同時に滑り始める構成では、ラックシャフト12を移動させる際には最大静止摩擦力の二倍の力が必要になる。
【0052】
電動パワーステアリング装置100では、上記のように、第一ヨーク61が、第二ヨーク71よりも先にラックシャフト12に対して滑り始める。このため、第二ヨーク71が滑り始める際には、第一ヨーク61には動摩擦力が作用するため、ラックシャフト12を移動させる力は最大静止摩擦力の二倍の力よりも小さい力でよい。よって、ラックシャフト12が転舵のために移動する際に各ヨーク61,71それぞれに対して滑り始めるために必要な力の最大値を、各ヨーク61,71が同時に滑り始める場合と比較して小さくすることができる。よって、電動パワーステアリング装置100の操舵性を向上させることができる。
【0053】
また、第一付勢機構60及び第二付勢機構70がラックシャフト12を付勢する付勢力は変わらないため、バックラッシュや、車輪2からの逆入力による異音の発生を防止しつつ、電動パワーステアリング装置100の操舵性を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態においては、前述のように第一ヨーク61が第二ヨーク71よりも先にラックシャフト12に対して滑り始めるように形成される。電動パワーステアリング装置100のストロークの初期において、第一ヨーク61がラックシャフト12に対して滑り始めた時には、第二ヨーク71は第二収容部17eの内周面に接触していない。つまり、ラックシャフト12の移動方向に対して、第二ヨーク71と第二収容部17eの内周面との間には隙間75が形成される。よって、第一ヨーク61がラックシャフト12に対して滑り始めた直後には、第二ヨーク71はラックシャフト12に追従できるため、第二ヨーク71及びラックシャフト12は、隙間75の分だけ動きが阻害されずに大きく移動することができ、ラックシャフト12の移動量が大きくなる。これにより、電動パワーステアリング装置100のストロークの初期の応答性を向上させることができる。
【0055】
なお、電動パワーステアリング装置100は、第二ヨーク71が第一ヨーク61よりも先にラックシャフト12に対して滑り始めるように形成されてもよい。この構成では、ラックシャフト12が静止した状態から第二ヨーク71に対して滑り始めるまでの間に、ラックシャフト12がより動きづらくなる。つまり、上記構成よりもラックシャフト12が動きづらくなるため、ラックシャフト12への逆入力により生じる異音を防止することができる。
【0056】
また、各付勢機構60,70には、各弾性部64,74が設けられなくてもよい。この場合は、隙間65,75を異ならせることで、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングを異ならせればよい。また、各ヨーク61,71の軸方向の長さや、各弾性部64,74が設けられる位置を変えることで、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングを異ならせてもよい。具体的には、各ヨーク61,71を軸方向に短くしたり、各弾性部64,74が設けられる位置をラックシャフト12に近くすると、各ヨーク61,71が動く支点がラックシャフト12に近くなることで、各弾性部64,74を支点として各ヨーク61,71がラックシャフト12に追従して動きやすくなる。これにより、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングが早くなる。
【0057】
以上の本実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0058】
電動パワーステアリング装置100は、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングを異ならせることで、ラックシャフト12が移動する際に各ヨーク61,71それぞれに対して滑り始めるために必要な力を、各ヨーク61,71が同時に滑り始める場合と比較して小さくすることができる。よって、電動パワーステアリング装置100の操舵性を向上させることができる。また、第一付勢機構60及び第二付勢機構70がラックシャフト12を付勢する付勢力は変わらないため、バックラッシュや、車輪2からの逆入力による異音の発生を防止しつつ、電動パワーステアリング装置100の操舵性を向上させることができる。
【0059】
また、電動パワーステアリング装置100は、当接面61aが当接面71aよりも先にラックシャフト12に対して滑り始めるように形成されることで、第一ヨーク61がラックシャフト12に対して滑り始めた直後には、第二ヨーク71及びラックシャフト12は動きが阻害されずに大きく移動することができる。これにより、電動パワーステアリング装置100のストロークの初期の応答性を向上させることができる。
【0060】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0061】
<変形例>
上記実施形態の電動パワーステアリング装置100では、第一付勢機構60及び第二付勢機構70によりラックシャフト12が付勢されることによって第一ピニオンギヤ16及び第二ピニオンギヤ23がラックシャフト12に保持される保持力が生じる。具体的には、本実施形態における保持力とは、ラックシャフト12を通じて第一ピニオンギヤ16及び第二ピニオンギヤ23に作用する力のことを示す。第一ピニオンギヤ16及び第二ピニオンギヤ23には、第一付勢機構60及び第二付勢機構70からラックシャフト12を通じて力が作用する。さらに、第一ピニオンギヤ16及び第二ピニオンギヤ23には、自身からラックシャフト12に入力する力の反力として、ラックシャフト12から力が作用する。上記保持力とは、上記の二つの力を合わせたものである。
【0062】
電動パワーステアリング装置100は、第一付勢機構60によりラックシャフト12が付勢されることによって第一ピニオンギヤ16がラックシャフト12に保持される第一保持力と、第二付勢機構70により付勢されることによってラックシャフト12により第二ピニオンギヤ23が保持される第二保持力と、は異なるように構成されてもよい。第一保持力は、例えば、第一スプリング62のセット荷重を変更することで調整可能である。これは、第一スプリング62の付勢力が変化することで、ラックシャフト12を通じて第一ピニオンギヤ16に作用する力が変化するためである。第一スプリング62のセット荷重を大きくすると、第一スプリング62の付勢力が大きくなり、ラックシャフト12を通じて第一ピニオンギヤ16に作用する力が大きくなる。そのため、第一保持力は増加する。反対に、第一スプリング62のセット荷重を小さくすると、第一スプリング62の付勢力が小さくなり、ラックシャフト12を通じて第一ピニオンギヤ16に作用する力が小さくなる。そのため、第一保持力は減少する。第二保持力についても同様に、第二スプリング72のセット荷重を変更することで調整可能である。このように、電動パワーステアリング装置100は、第一付勢機構60及び第二付勢機構70を構成する部材により、第一保持力と第二保持力とを個別に設定することができる。
【0063】
また、電動パワーステアリング装置100は、第一スプリング62のセット荷重が第二スプリング72のセット荷重よりも小さい、言い換えれば、第一保持力は、第二保持力よりも小さい構成では、第一ピニオンギヤ16がラックシャフト12から受ける反力は、第二ピニオンギヤ23がラックシャフト12から受ける反力よりも小さくなる。このため、ラックシャフト12が、駆動シャフト22からの入力よりもステアリングシャフト11からの入力で移動しやすい。これにより、電動パワーステアリング装置100の操舵性を向上させることができる。また、第二保持力は第一保持力よりも高いため、ラックシャフト12と第二ピニオンギヤ23との間で生じるバックラッシュを防止することができる。このように、電動パワーステアリング装置100は、異音の発生の防止と、操舵性の向上と、を両立させることができる。
【0064】
なお、他の方法で第一保持力が第二保持力よりも小さい構成としてもよい。例えば、第一ヨーク61と第二ヨーク71を別の材料で形成する、あるいは、当接面61aと当接面71aを別の材料でコーティングして形成するなどで、ラックシャフト12に対する第一ヨーク61の摩擦係数が第二ヨーク71の摩擦係数よりも小さい構成としてもよい。第一ヨーク61の摩擦係数が小さいと、第一ヨーク61の当接面61aとラックシャフト12との間で生じる摩擦力は小さくなる。これにより、第一ピニオンギヤ16がラックシャフト12から受ける反力は、第二ピニオンギヤ23がラックシャフト12から受ける反力よりも小さくなる。よって、第一保持力が第二保持力よりも小さくなり、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0065】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0066】
ステアリング装置としての電動パワーステアリング装置100は、運転者によるステアリング部材としてのステアリングホイール1の操舵に応じて回転する第一シャフト部材としてのステアリングシャフト11と、 ステアリングシャフト11に設けられステアリングシャフト11と共に回転する第一ピニオンギヤ16と、モータとしての電動モータ21により回転駆動される第二シャフト部材としての駆動シャフト22と、駆動シャフト22に設けられ駆動シャフト22と共に回転する第二ピニオンギヤ23と、 第一ピニオンギヤ16及び第二ピニオンギヤ23に噛み合うラックギヤ12aを有し車輪2を転舵するラックシャフト12と、ラックシャフト12を収容するケース部材としてのラックハウジング17と、ラックシャフト12を第一ピニオンギヤ16に向けて付勢する第一付勢機構60と、ラックシャフト12を第二ピニオンギヤ23に向けて付勢する第二付勢機構70と、を備え、ラックハウジング17は、第一付勢機構60を収容する第一収容部17dと、第二付勢機構70を収容する第二収容部17eと、を有し、第一付勢機構60は、ラックシャフト12に当接しラックシャフト12の移動に追従して第一収容部17d内で可動な第一当接部としての第一ヨーク61と、第一ヨーク61をラックシャフト12に向けて付勢する第一付勢部材としての第一スプリング62と、を有し、第二付勢機構70は、ラックシャフト12に当接しラックシャフト12の移動に追従して第二収容部17e内で可動な第二当接部としての第二ヨーク71と、第二ヨーク71をラックシャフト12に向けて付勢する第二付勢部材としての第二スプリング72と、を有し、第一ヨーク61及び第二ヨーク71は、車輪2を転舵するラックシャフト12の移動量の増加に伴い、ラックハウジング17により移動が規制されてラックシャフト12に追従不能となり、第一ヨーク61及び第二ヨーク71は、ラックシャフト12に追従不能となりラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングが互いに異なる。
【0067】
この構成では、第一付勢機構60の第一ヨーク61及び第二付勢機構70の第二ヨーク71が、ラックシャフト12の移動に追従できずにラックシャフト12に対して滑り始めるタイミングが互いに異なる。ラックシャフト12は、各ヨーク61,71に対して滑りながら移動して車輪2を転舵する。よって、各ヨーク61,71とラックシャフト12の間の摩擦力が大きいと、電動パワーステアリング装置100の操舵性が悪化する。当該摩擦力は、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して静止した状態では、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑っている状態よりも大きくなる。つまり、各ヨーク61,71の両方がラックシャフト12に対して静止した状態では、各ヨーク61,71とラックシャフト12の間の摩擦力の総量は、各ヨーク61,71がラックシャフト12に対して滑っている状態よりも大きくなる。よって、各ヨーク61,71の一方が先にラックシャフト12に対して滑り始めるようにすることで、ラックシャフト12が転舵のために移動する際に各ヨーク61,71それぞれに対して滑り始めるために必要な力を、各ヨーク61,71が同時に滑り始める場合と比較して小さくすることができる。よって、電動パワーステアリング装置100の操舵性を向上させることができる。また、第一付勢機構60及び第二付勢機構70がラックシャフト12を付勢する付勢力は変わらないため、バックラッシュや、車輪からの逆入力による異音の発生を防止しつつ、電動パワーステアリング装置100の操舵性を向上させることができる。
【0068】
また、電動パワーステアリング装置100は、第一収容部17dと第一ヨーク61の間と、第二収容部17eと第二ヨーク71の間と、には異なる大きさの隙間65,75が形成される。
【0069】
この構成では、第一収容部17dと第一ヨーク61の間の隙間65と、第二収容部17eと第二ヨーク71の間の隙間75と、の大きさを個別に設定することで、ラックシャフト12の動きやすさを調整することができる。
【0070】
また、電動パワーステアリング装置100は、第一付勢機構60は、第一ヨーク61と、第一収容部17dと、の間に圧縮されて設けられる環状の第一弾性部64をさらに有し、第二付勢機構70は、第二ヨーク71と、第二収容部17eと、の間に圧縮されて設けられる環状の第二弾性部74をさらに有し、第一弾性部64から第一ヨーク61に作用する応力と、第二弾性部74から第二ヨーク71に作用する応力と、は異なる。
【0071】
この構成では、第一弾性部64と、第二弾性部74と、を異ならせることで、ラックシャフト12の動きやすさを調整することができる。
【0072】
また、電動パワーステアリング装置100は、第一弾性部64及び第二弾性部74のうち、対応する第一ヨーク61及び第二ヨーク71に作用する応力が大きい一方は、軸方向に離れて設けられる二つの環状の弾性部材としてのOリング64a,64b(74a,74b)を有し、二つのOリング64a,64b(74a,74b)のうちラックシャフト12から離れて設けられる一方のOリング64a(74a)は、ラックシャフト12の近くに設けられる他方のOリング64b(74b)よりも線径が大きく形成される。
【0073】
この構成では、二つのOリング64a,64b(74a,74b)の線径を変えることで、ラックシャフト12を動きにくくすることができる。
【0074】
また、電動パワーステアリング装置100は、第一ヨーク61は、第二ヨーク71よりも先にラックシャフト12に対して滑り始めるように形成される。
【0075】
この構成では、電動パワーステアリング装置100のストロークの初期において、第一ヨーク61がラックシャフト12に対して滑り始めた直後には、第二ヨーク71がラックシャフト12に追従できるため、第二ヨーク71及びラックシャフト12は動きが阻害されずに大きく移動することができる。これにより、電動パワーステアリング装置100のストロークの初期の応答性を向上させることができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0077】
ステアリング装置は、ステアリングシャフト側にもステアリング操作をアシストする機構を有するいわゆる2アシスト式のものであってもよい。
【符号の説明】
【0078】
1・・・ステアリングホイール(ステアリング部材)、2・・・車輪、11・・・ステアリングシャフト(第一シャフト部材)、12・・・ラックシャフト、12a・・・ラックギヤ、16・・・第一ピニオンギヤ、17・・・ラックハウジング(ケース部材)、17d・・・第一収容部、17e・・・第二収容部、21・・・モータ(電動モータ)、22・・・駆動シャフト(第二シャフト部材)、23・・・第二ピニオンギヤ、60・・・第一付勢機構、61・・・第一当接部、62・・・第一スプリング(第一付勢部材)、64・・・第一弾性部、64a、64b・・・Oリング(弾性部材)、70・・・第二付勢機構、71・・・第二当接部、72・・・第二スプリング(第二付勢部材)、74・・・第二弾性部、74a、74b・・・Oリング(弾性部材)、100・・・電動パワーステアリング装置(ステアリング装置)
図1
図2
図3
図4