(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】外科アクセスシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/34 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
A61B17/34
(21)【出願番号】P 2021549880
(86)(22)【出願日】2020-03-13
(86)【国際出願番号】 US2020022700
(87)【国際公開番号】W WO2020186189
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-23
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506243057
【氏名又は名称】エルエスアイ ソルーションズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】サウアー, ジュード, エス.
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-503646(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0078302(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0010346(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/116897(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニューレと、カニューレ内に同軸に挿入可能なオブチュレータと、
球形のボールジョイントと、を備え、
前記カニューレが
、カニューレ管軸に沿って基端から先端まで延びるカニューレ管と、前記カニューレ管の先端に配置された先端チップを備え、前記先端チップが、前記先端チップの周りに分布する1つまたは複数の長手方向チャネル
を有し、前記1つまたは複数の長手方向チャネルの各々が、処置中に縫合糸チューブを解放可能に保持するように構成された長手方向に延びる溝であり、
前記オブチュレータが、先端チップと、アクチュエータを有する格納可能なカッティング要素と、を有
し、
前記球形のボールジョイントが、中央チャネル軸に沿って延びる中央チャネルを備え、前記中央チャネル軸が前記カニューレ管軸と同軸を成すように前記カニューレ管の一部が前記中央チャネルに収容され、
前記ボールジョイントは、前記カニューレ管軸に沿ってスライド可能に変位可能であるとともに前記カニューレ管の外面の一部に選択的にロック可能である、外科アクセスシステム。
【請求項2】
前記先端チップが前記先端チップの周りの1つまたは複数の周方向チャネルをさらに備え、前記1つまたは複数の周方向チャネルの各々が、処置中に縫合糸の一部を解放可能に保持するように構成された周方向に延びる溝である、請求項1に記載の外科アクセスシステム。
【請求項3】
前記カニューレの前記先端チップが、前記
カニューレ管とつながっている、請求項
2に記載の外科アクセスシステム。
【請求項4】
さらに、少なくとも1つの縫合糸スネアを備えた、請求項1に記載の外科アクセスシステム。
【請求項5】
前記オブチュレータが、細長い管をさらに備える、請求項1に記載の外科アクセスシステム。
【請求項6】
前記オブチュレータがオブチュレータノブをさらに備え、前記オブチュレータノブが前記オブチュレータの前記細長い管の内部と連絡する通路を有する、請求項
5に記載の外科アクセスシステム。
【請求項7】
前記オブチュレータの前記先端チップが、前記オブチュレータの前記細長い管の内部と連絡する1つまたは複数の通路をさらに備える、請求項
5に記載の外科アクセスシステム。
【請求項8】
前記オブチュレータの前記先端チップが、1つまたは複数の通路からなる2つのグループをさらに備え、1つまたは複数の通路からなるこれらグループが、中央の通路によって分離されている、請求項
7に記載の外科アクセスシステム。
【請求項9】
前記オブチュレータは、前記オブチュレータの前記細長い管内の流体の流れを制御するように構成されたスライド可能なプランジャ要素をさらに備える、請求項
5に記載の外科アクセスシステム。
【請求項10】
前記オブチュレータは、前記スライド可能なプランジャ要素に結合された中空のアクチュエータをさらに備える、請求項
9に記載の外科アクセスシステム。
【請求項11】
前記オブチュレータが、前記格納可能なカッティング要素に結合されたアクチュエータロッドをさらに備える、請求項
10に記載の外科アクセスシステム。
【請求項12】
前記格納可能なカッティング要素に結合された前記アクチュエータロッドが、前記スライド可能なプランジャ要素に結合された前記中空のアクチュエータの内側に、スライド可能に係合される、請求項
11に記載の外科アクセスシステム。
【請求項13】
前記格納可能なカッティング要素は、ブレード、メス、およびはさみからなる群から選択される、請求項1に記載の外科アクセスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科装置に関し、より具体的には、三尖弁逆流症の矯正に有用な外科アクセス装置またはシステム、並びにその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三尖弁(TV)疾患に対する安全で効果的な治療は、依然として重要で満たされていない臨床的ニーズの領域である。三尖弁逆流(TR)または収縮期の右心房への血液の病理学的漏出は、左側弁膜症または心筋症の心臓病患者に非常によく見られ、米国では150万人以上が罹患していると推定され、米国で年間約20万人、ヨーロッパで30万人以上の患者が発生していると推定されている。TV複合体からの特定の解剖学的特徴は、原因となるメカニズム(一次対二次)およびTR患者の心室のリモデリングの進行段階によって、異なる可能性がある。TRはほとんどの場合機能的であり、主に、左側の心疾患、心房細動、または肺高血圧症によって引き起こされる、環状拡張および右心室リモデリングからの弁尖テザリングが原因である。
【0003】
一次TRはTR症例の10%以下であり、先天性(エプスタイン奇形、脱出症)または後天性疾患(リウマチ熱、心内膜炎、カルチノイド、心筋内線維症、心臓内誘導、または医原性外傷)が原因である。今日、TV疾患は、しばしば後期慢性心不全のマーカーと見なされる。TVは厳しい予後と関連しており、ほとんどの患者は難治性の右心不全と臓器不全が現れるまで生涯にわたる治療を受けている。
【0004】
二次TRは、治療目的で3つの段階に分けられている。初期段階では、右心室の最初の拡張が、弁尖のテザリングなしで三尖弁輪拡張を導く。環状ベースのシステムが、これらの最初の段階のTRを簡単に修復する。経カテーテルTV療法の長期耐久性データがなく、外科に基づいている場合、TRの再発を減らすために、可能であれば、リングが縫合弁輪形成術よりも好まれる。第2段階では、進行性の右心室および三尖弁輪の拡張が発生し、弁尖の接合が損われる。進行性テザリングおよび三尖弁輪拡張の場合には、弁輪形成術のみを使用した経カテーテル三尖弁修復(TTVr)が成功する可能性は低い。最後に、右心室がリモデルを続けると、さらに弁尖のテザリングが悪化し、接合性の欠如と大規模または集中的なTRが発生する。深刻なテザリングが発生した場合、修復の試みは無駄であると見なされる可能性がある。
【0005】
図1Aは、心臓の側断面図である。心臓10が、関連する解剖学的フィーチャのいくつかとともに概略的に示されている。三尖弁16(TV)は複雑な構造であり、いくつかの解剖学的特異性がそれを独特なものにしている。
図1Aに示されるTV構造は、通常、3つの弁尖(中隔尖22、後尖24、および前尖20)と、腱索26と、通常3つの乳頭筋28を有する。上大静脈12および下大静脈14の一般的な位置も示されている。
【0006】
図1Bに示すように、三尖弁16は4つの心臓弁の中で最大であり、非常に薄く壊れやすい弁尖は、潜在的に大きな逆流開口領域を構成している。三尖弁16は、サドル形状の楕円形をなす三尖弁輪18に囲まれている。この三尖弁輪18は、左側心疾患の患者の前外側自由壁において主に拡張するにつれて平坦かつ円形になる。慢性心房細動に続いて、洞調律のバース(verse)が、TR患者におけるあまり目立たない弁尖テザリングを伴って、主に後縁に沿って拡大する。3つの弁尖、すなわち前尖20と中隔尖22と後尖24が
図1Bにも示されている。僧帽弁34と僧帽弁輪36、大動脈弁30と大動脈弁輪32、肺動脈弁38と肺動脈弁輪40の相対的な位置も参考のために示されている。4つの主要な解剖学的構造がTVを取り囲んでいるため、TV疾患への介入のリスクがある。すなわち、前中隔交連から3~5 mmの膜中隔を横切る伝導系(房室結節および右ヒス束)、右冠状動脈(中隔尖および後尖から5.5mm以内、前尖から7 mmの右房室溝を囲んでいる)、バルサルバの非冠状静脈洞、および冠状静脈洞口は、後中隔交連の重要なランドマークである。TV構造は克服すべき追加の困難な問題を提起する。カルシウムの不足、上大静脈(SVC)および下大静脈(IVC)に関連する角形成、経心尖アプローチを妨げる小柱が形成された薄い右心室、既存の心臓埋め込み型電子デバイス等である。
【0007】
従来のTV手術は、通常、侵襲性の高い外科アクセスと心肺バイパスを必要とする。このアプローチは、現代の診療におけるすべての心臓弁手術の中で最も高い死亡リスクの1つと関連し続けているため(手術による死亡率は8.8%から9.7%)、未治療のTR患者の数に比べて利用されることはめったにない(現代における10年間にわたる米国の全国的な登録簿で見ると、わずか5,005の三尖弁の手術が実行されただけである)。耐久性は、TVに取り組むほとんどの外科的介入のアキレス腱のままである。右心室リモデリングと機能不全、三尖弁輪サイズの進行、肺高血圧症などの多くの要因が、外科的TR矯正後に観察されるTR再発率の高さに寄与している可能性がある。外科的経験は、縫合弁輪形成術と比較して、リング弁輪形成術のより持続的な耐久性を示している。修復を超えてTVを交換する場合も同様である。しかし、修復と比較して、TV交換の周術期の死亡率が増加することへの懸念により、時間の経過とともに、交換ではなくTV修理に向かう傾向にある(三尖弁輪の拡張がより大きく、右心室機能障害がより深刻であることが、患者の選択バイアスにいくらか関連している)。
【0008】
心臓外科の進歩により、低侵襲の外科技術を使用して心臓弁を修復または交換することが可能になった。低侵襲技術が改善されたため、外科医はますます小さなアクセスホールを介して患者を手術できるようになり、周術期の痛みが少なくなり、回復時間が短くなった。患者が心肺バイパス(CPB)を使用しなければならない時間を短縮するために、より多くの措置が講じられ続けているが、外科医は、CPBを必要せずに、鼓動している心臓に対して特定の手術を実行できるように努力することで、可能なことの限界を押し上げ続けている。低侵襲条件下で鼓動している心臓に対して特定の心臓外科手術を実行できることがさらに望ましいであろう。たとえば、心臓がまだ鼓動している間に、患者の肋骨の間に配置され心臓の右心房に入り込んだカニューレを介して、三尖弁の修復を実行できることが非常に望ましい。このようなアプローチが取られた場合、右心房の圧力により血液がこのカニューレに部分的に充填される傾向がある。もちろん右心房内に血液があるため、この血液が残念ながら右心房と三尖弁の組織に対する外科医の視界を完全に覆い隠してしまう。心エコー検査でも、それ自体では、外科医が一連の関連する縫合のために縫合装置を血液領域を通して方向付けるのに困難な時間を要するであろう。したがって、直接見ることなく内視鏡で見ることがない条件下であっても、患者のより良い治療結果を得るべく、鼓動中の心臓を低侵襲で手術するのを可能にするために、三尖弁などの心臓弁へのアクセスを提供し、その周りにしっかりと縫合糸を配置することができる低侵襲性の縫合糸配置システムおよび方法を有することが望ましいであろう。より速くより信頼性の高い心臓手術は、手術チームの疲労を軽減し、重要なリソースのより効率的な使用を可能にするなど、追加の利点を提供する。心臓手術を促進することで、患者の治療結果を改善することもできる。低侵襲の外科アクセスシステムは、他の分野の外科手術でも有用性を見いだせる可能性がある。
【発明の概要】
【0009】
外科アクセスシステムが開示されている。カニューレを有する外科アクセスシステムは先端チップを有する。先端チップは、先端チップの周囲に分布する1つまたは複数の長手方向チャネルを有するとともに、先端チップの周囲に1つまたは複数の周方向チャネルを有する。外科アクセスシステムはまた、カニューレに同軸に挿入可能なオブチュレータを含む。オブチュレータは、先端チップを含むとともに、アクチュエータを有する格納可能なカッティング要素を含む。外科アクセスシステムはまた、関節インターフェースを含む。
【0010】
外科アクセスシステムはまた、カニューレの先端チップを含む。この先端チップは、先端チップの1つ以上の周方向チャネルに沿って周方向に分布する1つ以上のブリッジをさらに含む。オブチュレータはさらに、細長い管と、この細長い管内の流体の流れを制御するように構成されたスライド可能なプランジャ要素とを含む。
【0011】
手術部位にアクセスする方法も開示されている。手術部位にアクセスする方法は、心臓の壁に少なくとも1本の巾着縫合糸を配置する工程と、前記少なくとも1本の巾着縫合糸をカニューレに固定する工程と、格納可能なブレードを有する外科アクセスシステムのオブチュレータチップを、心臓の壁と接触するように配置する工程と、前記格納可能なブレードで前記壁を切開する工程と、切開した壁を外科アクセスシステムの前記カニューレに固定する工程と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【0013】
【
図2】外科アクセスシステムで使用するためのカニューレの右上斜視図である。
【0014】
【
図3】
図2のカニューレの組立工程の分解図である。
【0015】
【
図4】外科アクセスシステムで使用するためのオブチュレータの斜視図である。
【0016】
【
図5A】
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分の組立工程を示す分解斜視図である。
【0017】
【
図6A】外科アクセスシステムの組立工程を示す分解図である。
【0018】
【0019】
【
図7A】
図6Bの外科アクセスシステムを用いた手術ステップを示す側面図である。
【0020】
【
図8A】
図2のカニューレの先端チップの正面図である。
【
図8B】同カニューレの先端チップの左側面図である。
【
図8C】同カニューレの先端チップの右側面図である。
【
図8D】同カニューレの先端チップの背面図である。
【
図8E】同カニューレの先端チップの上面図である。
【
図8F】同カニューレの先端チップの底面図である。
【0021】
【
図9A】外科アクセスシステムのためのオブチュレータの代替の実施形態の正面図であり、回転ランプのフィーチャを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図2は、外科アクセスシステムで使用するためのカニューレの右上斜視図である。カニューレ50は、使用中に外科医に最も近くに配される基端50Pと、外科医から離れて配される先端50Dとを有する。カニューレ50は、基端50Pにカニューレトップ58を有する。カニューレトップ58はカニューレトップカプラー66に結合され、ひいてはカニューレ管54に結合されている。カニューレ管は、この図示の実施形態では中空の細長い管である。カニューレ先端チップ52は、カニューレ管54の先端50Dに結合されている。カニューレ50は、カニューレ管54にスライド可能に係合するユニバーサルボールジョイント56を有する。ユニバーサルボールジョイント56は、開口64およびセットスクリューチャネル62を画成する。開口64は、ヒンジ(この図には示されていない)の反対側に配置されている。ユニバーサルボールジョイント56は、カニューレ管54の長手に沿ってスライド可能であり、患者間の解剖学的変化に応じて(例えば胸壁と患者の心臓の右心房との間の距離、またはアクセスを希望する可能性のある特定の手術部位に固有の他の解剖学的距離に基づいて)、外科医の裁量で設定することができる。ユニバーサルボールジョイント56の所望の位置が決定されると、セットスクリュー63が軸65に沿って挿入され、締め付けられて、低侵襲外科手術中にユニバーサルボールジョイント56が動くのを制限する。この実施形態では、セットスクリューチャネル62が示され、締付力(tension)を調整するセットスクリュー63が記述されているが、ユニバーサルボールジョイント56または他の同様のスライド可能なジョイントの締付力を設定、調整、または再調整する他の手段は、当業者にとって自明である。ユニバーサルボールジョイント56は、カニューレ50から分離していてもよいし、カニューレ50とつながっていてもよい。ユニバーサルボールジョイント56またはその代替の実施形態は、関節インターフェースと呼ばれる。本明細書に記載の外科アクセスシステムの関節インターフェースは、外科アクセスシステムに結合または接続されるインターフェースであり、3つの平面内での再配置と独立した動きを可能にし、これら再配置と独立した動きを提供するように構成される。解剖学的には、これらの3つの運動面は矢状面、前頭面、および横断面と呼ばれるが、デカルト座標系では、3つの面はx、y、およびzと呼ばれる。これらの参照移動面は、文脈のために提供されており、代替の参照面または移動面の説明をカバーすることを意図していることを理解されたい。
【0023】
図3は、
図2のカニューレの組み立て工程を示す分解図である。カニューレ先端チップ52は、周方向の(円周の)巾着縫合糸チャネル(circumferential pursestring suture channel)82、いくつかの長手方向溝(longitudinal grooves)84または長手方向チャネル((longitudinal channels))、シンチ糸チャネル(シンチ縫合糸チャネル;cinch suture cannel)86、いくつかのブリッジ88、カニューレ先端開口90を画成する。ブリッジ88は、ブリッジオリフィス89(この図には示されていない)をさらに画成する。シンチ糸チャネル86および巾着縫合糸チャネル82は、カニューレ先端チップ52上に配置された円周方向のチャネルであり、縫合糸または組織または他の材料をその円周方向チャンネル内で案内するためのくぼみを提供するように構成されている。本明細書で使用される「縫合糸」という用語は、任意の糸、ケーブル、ワイヤー、フィラメント、ストランド、ライン、ヤーン、ガット、または同様の構造をカバーし、天然および/または合成を問わず、モノフィラメント、複合フィラメント、またはマルチフィラメントの形態(三つ編み、織り、ねじり、またはその他の方法で一緒に保持されている)を含むことを意図することを理解されたい。勿論、それらの材料と構造の均等、置換、組み合わせをも含む。
【0024】
種々のチャネルの追加の機能およびカニューレ先端チップ52の他の特徴については、
図7A-7Eを参照しながら後述する。カニューレ先端チップ52は、軸76に沿ってカニューレ管54の先端54Dに配置され、固定される。ユニバーサルボールジョイント56は、セットスクリューチャネル62および開口64を画成し、さらに、可撓性ヒンジ78およびセンターチャネル80を画成する。可撓性ヒンジは、ユニバーサルボールジョイント56がわずかに開くことを可能にし、例えば、セットスクリューからの締付力がかかっていないときには、ユニバーサルボールジョイント56がカニューレ管54の長さに沿ってスライドするのを可能にする。ユニバーサルボールジョイント56は、軸74に沿ってカニューレ管54の基端54Pに配置される。ユニバーサルボールジョイント56は、アクセスしている内部の手術箇所に対する患者の外側の位置に関する距離上の解剖学的変化に応じて、カニューレ管54に沿った任意の点に配置することができる。最後に、カニューレトップカプラー66を画成するカニューレトップ58は、軸68に沿ってカニューレ管スペーサー70に固定的に結合され、これによりカニューレトップ58は、カニューレ管54の基端54Pに固定される。この段差は、カニューレ管54の長手に沿ってユニバーサルボールジョイント56を拘束する。
図3で組み立てられる構成要素は、ろう付け、溶接、超音波溶接、または当業者に知られている他の結合手段によって固定される。さらに、カニューレの組み立てに関連して説明される個々の構成要素は、組み合わせて形成されてもよく、必ずしも別個の構成要素である必要はない。
【0025】
図4は、外科アクセスシステムで使用するためのオブチュレータ(閉塞器;obturator)の斜視図である。オブチュレータ92は、使用中に外科医に最も近く配置される基端92Pと、外科医から離れて配向される先端92Dとを有する。オブチュレータ92は、オブチュレータ92の先端92Dでオブチュレータ管96に結合されたオブチュレータ先端チップ94を有する。このオブチュレータ先端チップ94の詳細および特徴は、
図5Fを参照しながら後述する。オブチュレータ92の基端92Pは、オブチュレータノブ98、プランジャノブ100、およびカッターノブ102を有する。これらのノブ98、100、102は、本明細書に記載の外科アクセスシステムのオブチュレータ92の部分の特徴を利用するために、操作者によって作動させることができる。オブチュレータノブ98はさらに栓104を画成する。この栓104は、バキューム入口106と弁108をさらに画成する。バキューム入口は供給源に接続することができる。この供給源は、オブチュレータの先端チップ94にバキュームを提供したり、他の流体の先端チップ94への流れ又は先端チップ94からの流れを提供する。流れの大きさは、バルブ108を作動させることによって制御し、オン又はオフすることができる。オブチュレータ92の構成要素の組み立ておよび特徴および詳細を、
図5A-5Nを参照しながら説明する。当業者に知られている流体の流れまたは気流の調節の代替手段を使用してもよい。
【0026】
図5A-5Nは、
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分の一連の組立工程を示す分解図である。
図5Aは、オブチュレータ92の組み立て工程において、カッターブレード116を 軸115に沿って、カッティング要素駆動ロッド110により画成されたスロット112に挿入する状況を示している。カッターブレード116は、カッターブレードエッジ118と2つの穴117を有している。カッティング要素駆動ロッド110はまた、スロット112のいずれか一方側に2つの穴114を画成する。
図5Bは、2つのピン120を、カッティング要素駆動ロッド110の2つの穴114とカッターブレード116のブレード穴117に挿入し、最後に、カッティング要素駆動ロッド110の反対側の2つの対応する穴(この図には示されていない)に挿入する状況を示す。これらピン120は、カッティング要素駆動ロッド110の端部にブレードを保持する。他の実施形態では、当業者にとって自明な単一部品のカッティング要素または同様の構成を含み得る。
図5Cは、カッティング要素122の完成したサブアセンブリを示している。この格納可能な要素122は、オブチュレータ92内の他の機構、例えば、後述するスライド可能なプランジャ要素とは独立して作動させることができる。この要素122は、その機能的カッティング要素としての機械的ブレードで構成されているが、貫通したり制御された切開を形成したりすることができる他の鋭利な工具を、カッティング要素の実施形態の代わりに用いてもよい。例えば、メス、はさみ、焼灼要素、レーザー要素などである。本実施形態のカッターブレード116は、矩形のカッターブレード116の患者に面する側すなわち先端側にカッターブレードエッジ118を有するが、メスは、三角形のカッターブレードを有し、その片側または両側に鋭いエッジが形成されている。格納可能なカッティング要素は、はさみの形態であってもよい。その場合、2つのブレード部材は、互いにスライドする鋭利な対向エッジを有し、組織と接触した状態で互いに作動または旋回することにより、切断動作を開始する。
【0027】
図5Dは、
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分のための別の組み立て工程を示す。バキュームプランジャ130は、バキュームプランジャ130よりも小さい直径を有するプランジャ凹部134を画成する。バキュームプランジャ130はさらに、バキュームプランジャ130の全長にわたって連通する2つのバキュームポート136およびブレード用スロットを画成する。2つのバキュームポート136は、バキュームプランジャ130が基端方向に引き戻されたときに、オブチュレータ92のバキューム入口106からオブチュレータ先端チップ94に流体の流れを送る。2つのバキュームポート136は、バキュームプランジャ130がより先端方向に前方に押されたときに、バキューム入口106からオブチュレータ先端チップ94への流体の流れを遮断する。バキュームプランジャ130はさらに、オブチュレータ管96内にしっかりと嵌るように構成される。バキュームプランジャ130とオブチュレータ管96との間には、流体の流れを密封ないしは遮断するガスケットまたは他の手段を介在させることができる。バキュームプランジャ130の他の実施形態は、異なる数または方向または形状のバキュームポートを有し得る。さらに、オブチュレータ先端チップ94への真空を制御する代替の方法を使用することができ、その方法は当業者にとって知られている。カッティング要素122が軸128に沿ってバキュームプランジャ130のブレード用スロットに挿入されているときに、ブレード用スロットは、カッティング要素122のカッターブレードエッジ118がバキュームプランジャ130の長さ方向に通過するのを許容する。
図5Dのサブアセンブリは、プランジャ駆動管124を軸126に沿ってカッティング要素122に被せて配置し、プランジャ駆動管124をバキュームプランジャ130に固定することによって完了する。カッティング要素122は、プランジャ駆動管124内で前後にスライドするように構成される。プランジャ駆動管124ないしは中空アクチュエータは、要素122の作動から独立して作動することができるスライド可能なプランジャ要素である。
図5Eは、
図5Dに示されるオブチュレータの組み立て工程の結果を示す。内側オブチュレータアセンブリ140は、この図に示されている。
【0028】
図5Fは、
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分のための別の組立工程を示す。オブチュレータ先端チップ94は、カッティング要素用スロット148、ストップリング144、いくつかの先端ポート146、およびシャフト結合用凹部142を画成する。カッティング要素用スロット148は、前述のように、バキュームプランジャ130のブレード用スロット138と整列するように構成され、使用時にカッティング要素122がオブチュレータ先端チップ94を通って突出することを可能にする。先端ポート146は、流体の流れが通過するための通路であり、バキュームプランジャ130が先端方向に押されたときにバキュームプランジャ130の2つのバキュームポート136と整列しないようにして、カッティング要素用スロット148のどちら側にも形成されている。この実施形態では、2つのグループの通路の先端ポート146を示しており、各グループは、ブレード用スロット138のいずれかの側に配置されている。ブレード用スロット138は、中央通路と見なすことができる。一般に、これらの通路は、流体の流れがオンまたは作動したときに、機器の先端から、流体が導入される反対側の端部またはポートまで、連絡している。逆に、流体の流れがオフになると、機器の先端から、流体が導入される可能性のある反対側の端部またはポートまでの流れが中断される。これは、全長にわたって中空の円筒部材、種々の内部構成要素の特定のポート、内腔ないしは内部チャネルを備えた中実のチューブまたはシリンダー、またはそれらの任意の組み合わせを有することによって達成することができる。3つ以上のグループの通路(この配置は当業者に知られている)を有する代替の実施形態もあり得る。この配置は、バキュームプランジャ130がオブチュレータ先端チップ94の内側を先端方向に押したときに、流体の流れを効果的に遮断する。オブチュレータ管96は、中心150を画成する中空の細長い管または筒である。代替の実施形態は中空ではなく、中実の管である。したがって、様々なカッティング要素や、プランジャ要素や、流体の流れの構成要素を作動させるために、管の長さに沿って内腔またはチャネルを有する。オブチュレータ先端チップ94のシャフト接続用凹部142は、ストップリング144がオブチュレータ管96の端部に接触するまで、軸152に沿って挿入されるようになっている。それからオブチュレータ先端チップ94がオブチュレータ管96に固定され、この組立ステップが完了する。
図5Gは、
図5Fに示されたオブチュレータの組立ステップの結果を示す。この図に、外側オブチュレータアセンブリ154が示されている。
図5Hは、
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分のための別の組立工程を示す。
図5Eの内側オブチュレータアセンブリ140が、軸156に沿って
図5Gの外側オブチュレータアセンブリ154に挿入される。
図5Jは、
図5Hに示されるオブチュレータの組立工程の結果を示す。オブチュレータサブアセンブリ158がこの図に示されている。オブチュレータ先端チップ94、オブチュレータ管96、プランジャ駆動管124、およびカッティング要素駆動ロッド110の向きおよび配置が示されている。
【0029】
図5Kは、
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分のための別の組立工程を示している。
図5Jのオブチュレータサブアセンブリ158が示されている。オブチュレータノブ98はさらに、栓104(この図には示されていない)からオブチュレータ先端チップ94まで流体の流れを伝達するように構成された中央穴164とバキュームポート162を画成する。オブチュレータノブ98をオブチュレータチューブ96の端部に到るまでカッティング要素駆動ロッド110およびプランジャ駆動管124をスライドさせることによって、オブチュレータノブ98がオブチュレータ管96に固定される。プランジャノブ100は、中央穴166を画成し、プランジャ駆動管124を軸160に沿ってプランジャノブ100の中央穴166に挿入することによって、プランジャ駆動管124に固定される。プランジャ駆動管124とこれに取り付けられたプランジャノブ100は、事前に取り付けられたオブチュレータノブ98から独立して、ならびにカッティング要素駆動ロッド110から独立して移動することに留意されたい。カッターノブ102はまた、中央の穴を画成する。最後に、カッティング要素駆動ロッド110が、軸160に沿ってカッターノブ102の中央穴168に挿入され、固定される。この実施形態では、オブチュレータノブ98は、オブチュレータに組み立てられると動かない。プランジャノブ100は、オブチュレータノブ98およびカッターノブ102から独立してプランジャ駆動管124を動かし、これによりバキュームプランジャ130を、先端方向又は基端方向に動かす。このプランジャノブはまた、アクチュエータまたはプランジャアクチュエータと見なすことができる。その特徴がバキュームプランジャ130を移動するように作動させ又は移動に影響を与えるために用いられ、これにより、オブチュレータ92を通る流体の流れをオンまたはオフに作動させるからである。また、カッターノブ102は、オブチュレータノブ98およびプランジャノブ100から独立して、カッティング要素駆動ロッド110を動かし、これによりカッターブレード116を先端方向または基端方向に動かす。このカッターノブ102はまた、アクチュエータまたはカッティングアクチュエータと見なすことができる。この特徴がカッティング要素122を移動するように作動させ又は移動に影響を与えるために用いられるからである。カッティング要素駆動ロッド110はまた、アクチュエータロッド又はアクチュエーション駆動ロッドと見なすことができる。このロッドないしワイヤは、オブチュレータ先端チップ94のカッティング要素用スロット148に対してカッターブレード116を出し入れするために使用されるからである。
図5Lは、
図5Kに示されるオブチュレータの組立工程の結果を示す。この図では、オブチュレータ先端チップ94、オブチュレータ管96、オブチュレータノブ98、プランジャノブ100、カッターノブ102の組立状態での方向および位置が示されている。
【0030】
図5Mは、
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分の最後の組立工程を示している。オブチュレータノブ98に画成されたバキュームポート162は、栓104を受け入れるように構成された流体通路である。栓104に画成された中央孔164が軸165に沿ってバキュームポート162に挿入される。バキュームポート162は、外科アクセスシステムの外側からオブチュレータ92のオブチュレータ管96の内部への流体の流れを可能にする通路である。この組立工程により、
図4のオブチュレータ92が得られる。
【0031】
図5Nは、
図4の外科アクセスシステムのオブチュレータ部分の側面図である。この側面図は、組み立てられたオブチュレータ92に、プランジャノブ100およびカッターノブ102の関節運動に関する詳細を追加して示す。矢印101は、プランジャノブ100の関節運動の方向を示している。プランジャノブ100がオブチュレータ92の先端92Dに向かって移動すると、プランジャノブ100に結合されたプランジャ駆動管124もまた、このプランジャ駆動管124に挿入されたカッター駆動ロッド110から独立して先端方向に移動し、前述したようにオブチュレータ92を通る流体の流れを遮断する。逆に、プランジャノブ100がオブチュレータ92の基端92Pに向かって移動すると、プランジャノブ100は結合されたバキュームプランジャ130と共に基端方向に移動し、オブチュレータ92を通る流体の流れがオンになる。矢印103は、カッターノブ102の関節運動の方向を示している。カッターノブ102がオブチュレータ92の先端92Dに向かって移動すると、カッター駆動ロッド110もまた、プランジャ駆動管124内で独立して先端方向に移動し、前述のようにカッターブレード116が作動され、オブチュレータ先端チップ94から前進する。逆に、カッターノブ102がオブチュレータ92の基端92Pに向かって移動すると、カッター駆動ロッド110もまた、プランジャ駆動管124内で独立して基端方向に移動し、カッターブレード116はオブチュレータ先端チップ94内に格納される。
【0032】
図6Aは、外科アクセスシステムの組立工程を示す分解図である。
図6Aは、オプションの外科器具ホルダー172を示している。外科器具ホルダー172の終端にはクランプアダプタ170が取り付けられている。開き状態で示されたクランプアダプタ170は、
図2のカニューレ50のユニバーサルボールジョイント56に被さるように配置される。
図2に示されるように、調整ねじ178を締めることによって、ジョー176は閉じられるとともに締め付けられる。
図4のオブチュレータ92は、軸169に沿ってカニューレ50の中心に挿入される。
図6Bは、
図6Aの外科アクセスシステムの斜視図である。
【0033】
図示の外科アクセスシステム174は、前述のように、低侵襲の三尖弁修復手術を実行する目的で、患者の右心房へのアクセスを提供するために使用することができる。外科アクセスシステム174の同様の実施形態はまた、手術部位への低侵襲アクセスが有利である他の手術においても有用である。外科アクセスシステムは、カニューレ50、オブチュレータ92、およびユニバーサルボールジョイント56を有する。ユニバーサルボールジョイントは、調整ねじ178およびレバーロック180を有するクランプアダプタ170に保持される。クランプアダプタ170は外科器具ホルダー172に取り付けられている。外科器具ホルダー172は、外科アクセスシステム174を低侵襲外科手術で使用するために潜在的な初期位置に保持する。クランプアダプタ170は、前述のように、カニューレ管にスライド可能に取り付けられたユニバーサルボールジョイント56を保持するジョー176を有する。クランプアダプタの代替の実施形態または代替クランプ要素は、当業者に知られている。クランプアダプタ170および外科器具ホルダー172と組み合わされたユニバーサルボールジョイント56は、複数の自由度の動き、および低侵襲手術部位へのアクセスに有利な任意の数の位置に外科アクセスシステムを配置する能力を提供する。適切な手術器具ホルダとして、LSI Solutions、Inc.(ニューヨーク州ビクター、www.lsisolutions.com)のminiARM(登録商標)器具ホルダなどを、このような外科手術に用いる(ただし、これに限定されない)。
【0034】
本明細書に記載の実施形態における関節インターフェースの有利な特徴は、ユニバーサルボールジョイント56が、必要に応じて解剖学的変化に応じて、カニューレ管54の長さに沿って最初に適切に設置され得ることである。これは、カニューレ管54の軸に沿う関節運動を提供し、1つの平面での関節運動を提供する。図示のようにクランプ要素またはクランプアダプタ170内に保持された実質的に球形のユニバーサルボールジョイント56を有することは、残りの2つの次元における調節を提供する。ユニバーサルボールジョイント56およびクランプアダプタ170のこの配置は、すべての平面での関節運動を提供し、それ故、外科医によって再配置可能であり、低侵襲手術部位へのアクセスを柔軟に提供する。
図6Aおよび
図6Bに示されるように、クランプアダプタ170が外科器具ホルダー172に取り付けられた状態で、さらなる調整可能性および再配置可能性が、操作者または外科医によって達成され得る。代替のユニバーサルジョイントが、本明細書に記載されている外科アクセスシステムで使用することができる。ユニバーサルジョイントは、一般的な装置の複数のセグメント、チューブ、ロッド、またはリムを接続するカップリングまたはジョイントである。セグメントの軸は互いに傾斜しており、回転運動を伝達できる場合と伝達できない場合がある。カップリングは、十字形のシャフトによって連結された、互いに近接した一対のヒンジを含む。そのような配置で構成されたユニバーサルジョイントは、ジョイントによって結合されたロッドまたはセグメントが直線に配向されていない間、ロッドまたはセグメントの回転運動を可能にする。
【0035】
図7A~7Eは、
図6Bの外科アクセスシステムを使用した手術ステップの側面図である。
図7Aは、右心房の壁182を示しており、これは、本明細書に記載されているような外科アクセスシステムの標的となる手術部位である。外科アクセスシステムの使用の準備として、カニューレ管54の長手に沿ったユニバーサルボールジョイント56の位置が設定される。適切な右前面アクセス部位を選択し、胸壁の右側の境界にある2番目の肋間空間を切開する。皮下組織は、主要な筋線維および肋間筋線維とともに、可能な限り鈍い切開で、裂かれ分割される。オプションでリトラクターを使用して、適切なアクセスポートが構築される。また、適切な縫合糸管理装置もオプションで使用してもよい。必要に応じて、脂肪または他の組織のさらなる切開、移動、または除去が行われる。本明細書に概説される外科的処置の後続のステップの間に、外科アクセスシステム174の配置を支援するために、追加の視覚化方法を用いることができる。
【0036】
図7Bは、
図6Bの外科アクセスシステムの使用を示す手術ステップの側面図である。
図7Bは、右心房壁182の切開部位の周りに配置された2つの同心の巾着縫合糸184、186を示している。各巾着縫合糸の一端が右心房壁182に出入りしている。これは、LSI Solutions、Inc.(ニューヨーク州ビクター、www.lsisolutions.com)のPRESTIGE(登録商標)装置などの適切な外科用縫合装置を使用して実現できるが、これに限定されない。巾着縫合糸184、186が完了すると、各巾着縫合糸184、186にLSI Solutions,Inc. (ニューヨーク州ビクター、www.lsisolutions.com)のMINI-RUMEL(登録商標)装置を使用して、それらは両方ともスネア(snare)される(拘束される;罠に掛けられる)。
図7B は、それぞれの縫合糸チューブ188、190内にスネアされ包み込まれた巾着縫合糸184、186を示している。このような装置は、縫合糸スネアを使用する1つの方法であるが、低侵襲の外科手術中に縫合糸をスネアリングし組織化し包み込む他の手段は、当業者によく知られている。例としては、チューブ構造における単純なスネアが挙げられる。この場合、バタフライクランプなどの一般的なクランプ方法で縫合糸またはスネアを所定の位置に保持でき、または縫合糸ロック装置を使用してチューブ内の縫合糸の位置を、解放可能かつ繰り返し可能にロックおよびロック解除することができる。縫合糸チューブ188、190は、カニューレ50の先端チップ52に位置する長手方向溝84に取り付けられている。長手方向溝84またはチャネルは、使用中にカニューレの近くに保持されるように、縫合糸または縫合糸チューブを解放可能に保持する。本明細書に示される後続の手術ステップの前に、縫合糸チューブ188、190は、
図7Cに示されるように、シンチ糸(シンチ縫合糸;cinch suture)192を使用してカニューレ50の先端チップ52にさらに固定される。シンチ糸192は、カニューレ先端チップ52のシンチ縫合チャネル86に沿って配置される。
【0037】
図7Cは、手術ステップの側面図であり、
図6Bの外科アクセスシステムの使用を示す。この手術ステップは、本明細書に記載の外科アクセスシステム174を利用する例示的な手術シーケンスにおける次のステップを示す。
図7Cは、外科アクセスシステム174の先端174Dが手術部位に導入され、オブチュレータ先端チップ94が右心房壁182と直接接触する所定の位置まで移動された状態を示す。ユニバーサルボールジョイント56は、患者の胸壁および右心房壁182からの距離を勘案して、カニューレ管54上の適切な位置に移動される。シンチ糸192は、縫合糸チューブ188、190を越え、シンチ糸チャネル86を通って、カニューレ先端チップ52の1つ以上のブリッジ88の下に配置された1つ以上のブリッジオリフィス89に挿入される。シンチ糸192は、外科アクセスシステム174のカニューレ50の周りに縫合糸チューブ188、190をさらに固定する。縫合糸チューブ188、190はまた、追加の安全を提供するシンチ糸192を用いて、それぞれの長手方向溝84に保持される。シンチ糸192によって固定されたときに、巾着縫合糸184、186の動きが縫合糸チューブ188、190内で制限されないことに留意されたい。シンチ糸192は、結び目または機械的留め具を使用して固定することができるが、この図には示されていない。オブチュレータチップ94の吸引機能は、前述のように、オブチュレータノブの栓バルブを開き、プランジャノブを作動させ、これによりプランジャ駆動管およびバキュームプランジャを作動させることによって、作動される。ブレード用スロットのいずれかの側にグループ化された先端ポート146を介して吸引を適用することにより、バキューム流の作動が、右心房壁182の組織をオブチュレータ先端チップ94の下に引き付ける。ブレード用スロットは、ブレード要素またはカッティング要素が通過することができる細長い通路であり、オブチュレータ先端チップ94を通る流体の流れを許容するオブチュレータ先端チップ94内の通路から分離されている。
【0038】
図7Dは、手術ステップの側面図であり、
図6Bの外科アクセスシステムの使用を示す。
図7Dは、外科アクセスシステム174の格納可能なブレードの作動を示している。オブチュレータ先端チップ94が右心房壁182と密着している間に、オブチュレータ92の基端においてユーザにより、カッターノブ102を方向194に右心房壁182に向かって押すことによって、カッターノブ102が作動される。カッターノブ102を作動させると、カッティング要素駆動ロッド110とカッターブレード116のカッターブレードエッジ118が方向194に押し出され、右心房壁182の組織を切り裂く。これにより、右心房壁182組織に切開198を残す。
【0039】
図7Eは、手術ステップの側面図であり、
図6Bの外科アクセスシステムの使用を示す。切開198が右心房壁182に形成された後、カッターブレード116は即座に引き込まれ、カニューレ先端チップ52が、切開198の部位で切開された右心房壁182内に前進する。カニューレ先端チップ52は、右心房壁182が切開198の点でカニューレ先端チップ52の巾着縫合糸チャネル82内に配置されるまで、前進する。巾着縫合糸184、186は、縫合糸ロックまたはMINI-RUMEL(登録商標)などの他の装置を用いて、保持されている。カニューレ50の位置の適切な位置決めは、クランプアダプタ170内のユニバーサルボールジョイント56の調節および外科器具ホルダー172の再配置によって再び確認することができる。吸引もこの時点でオフになり中止される。外科アクセスシステム174のオブチュレータ92部分は、切開198および低侵襲手術部位から除去され、カニューレ50を、追加の手術を実施するために、所定の位置に残置する。
【0040】
図8A~8Fはそれぞれ、
図3のカニューレの先端チップの正面図、左側面図、右側面図、背面図、上面図、および底面図である。これらの図は、周方向の巾着縫合糸チャネル82、長手方向溝84、シンチ糸チャネル86、カニューレ先端開口90、およびいくつかのブリッジ88を含むカニューレ先端チップ52の特徴をより詳細に、かつ様々な観点から示す。前に示したように、各ブリッジ88は、シンチ糸を受け入れるブリッジオリフィス89を画成している。シンチ糸はブリッジ88の上または下を通り、必ずしもブリッジオリフィス89に通されていなくてもよい。カニューレチップの代替の実施形態では、ブリッジまたはオリフィスを有さない。カニューレチップの代替の実施形態は、異なる構成または角度を有することができ、縫合糸(suture)、糸(thread)、ワイヤまたは組織を保持するための異なる数の溝または開口を有することができる。
【0041】
図9A,
図9Bは、外科アクセスシステムのためのオブチュレータの代替の実施形態の正面図であり、回転ランプ(rotating ramp)のフィーチャを示す。
図9Aは、格納位置(後退位置)にあるオブチュレータの先端の正面図である。オブチュレータ先端チップ200は、前述のようにいくつかの先端ポート202およびカッティング要素用スロット204を画成し、またオブチュレータ先端チップ200の外周に位置するランプ凹部206をも画成する。ランプ凹部206は、回転ランプ208の回転運動に適合するようなサイズと形状を有しており、ここでは部分円の要素として示されている。回転ランプは、ベース面210、ランプ面212ならびにサイドプロファイル面210を有する外側プロファイルを画成する。ベース面210は、
図9Aの正面図から観察されるように、実質的に円形である。ランプ面212は、回転されたときにベース面210によって形成される実質的に円形のプロファイルを超えて、円周方向に延びている。サイドプロファイル面210は、回転ランプ208が格納位置にあるときに、オブチュレータ先端チップ200の外周プロファイルに従う円弧を画成する。回転ランプ208は、ピボット点216を中心に回転する。この回転はアクチュエータ218によって制御される。この実施形態のアクチュエータ218はレバーとして示されており、例えば前述のオブチュレータノブ98の近傍など、オブチュレータ先端チップ200より基端側の位置に配置されている。
【0042】
図9Bは、突出位置にあるオブチュレータの先端チップの正面図である。アクチュエータ218は方向220に動かされており、回転ランプ208がピボット点216を中心に回転し、その結果、サイドプロファイル面210がランプ凹部206内に移動し、ランプ面212がオブチュレータ先端チップの外周に位置している。これにより、回転ランプ208が突出位置にある間、オブチュレータ先端チップ200の有効周囲長を一時的に増加させる。オブチュレータ先端チップ200の有効周囲長を一時的に増加させる目的で、図示されたもの以外の形状を回転ランプ208で利用できることに留意されたい。外科アクセスシステムのカニューレおよびオブチュレータを切開された心房壁に前進させるのを助けるために追加の周囲長が必要な場合、回転ランプ208は、回転するとオブチュレータチップ200の有効円周長が一時的に増加する形状を有する。回転ランプ208は、図示のレバー、あるいはボタン、ノブ、または当業者に知られている他の手段などのアクチュエータ218によって作動し、突出または格納させることができる。アクチュエータはオブチュレータの他の場所に配置してもよい。回転ランプ208は、オブチュレータ先端チップ200内において次のような態様で構成されている。オブチュレータが記載された外科アクセスシステムのカニューレに完全に挿入されると、回転ランプ208がカニューレチップを超えて突出し、回転ランプ208が外科アクセスシステムによって画成された周囲を超えて突出する。
図9Bに示される作動位置または突出位置において。回転ランプ208は組織を外向き拡張または引っ張り、これにより、組織がカニューレチップを越えてカニューレチップの周方向巾着縫合糸チャネルに入るのを助ける。
【0043】
例えば三尖弁逆流の修復に使用される外科アクセスシステムの様々な利点、およびその方法が、論じられた。実施形態は、本明細書において例として説明されている。詳細な開示は、例示することを意図しており、限定するものではないことは、当業者には明らかであろう。本明細書に明示的に記載されていないが、様々な変更、改善、および修正が当業者によりなされるであろう。これらの変更、改善、および修正は、ここに示唆されることを意図しており、クレームされた発明の精神および範囲内にある。さらに、処理される要素またはシーケンスの列挙された順序、それらのための数字、文字、または他の符号の使用は、特許請求の範囲で指定されている場合を除き、順序を限定することを意図しない。本発明は、特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定される。