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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ワーク加工装置及び加工制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 3/12 20060101AFI20230720BHJP
   G05B 19/02 20060101ALI20230720BHJP
   B23Q 15/24 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G05D3/12 301C
G05B19/02 Z
B23Q15/24
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021575790
(86)(22)【出願日】2021-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2021003605
(87)【国際公開番号】W WO2021157538
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2020016600
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長田 玲於
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-044449(JP,A)
【文献】特開平10-032001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 3/12
G05B 19/02
B23Q 15/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動するワークが通過したことを検出して検出信号を発するセンサユニットと、前記ワークを移動させつつ加工機構を起動させて前記ワークに所定の加工工具による加工を行う加工ユニットと、前記センサユニットからの検出信号に基づいて前記加工ユニットの動作を制御する加工制御ユニットと、を備えたワーク加工装置であって、
前記加工制御ユニットは、前記加工ユニットの前記加工機構に所定の制御周期ごとに動作指令信号を発する主制御部と、前記制御周期における周期開始時刻に対して前記検出信号を受信した検出時間を計時する計時部と、前記検出時間を含む各種パラメータを記憶するメモリと、を含み、
前記制御周期と前記検出時間との差を応答遅延時間と定義するとともに、
前記主制御部は、前記応答遅延時間に基づいて前記制御周期ごとに前記動作指令信号を変更するワーク加工装置。
【請求項2】
前記センサユニットは、前記ワークに対して非接触型のセンサとして構成されている
請求項1に記載のワーク加工装置。
【請求項3】
前記メモリは、複数のワークが同時に移動している場合に、個々のワークに対する検出時間を記憶するように構成され、
前記加工制御ユニットは、前記個々のワークに対する前記応答遅延時間に基づいてワーク毎に前記動作指令信号を変更する
請求項1又は2に記載のワーク加工装置。
【請求項4】
前記主制御部は、前記応答遅延時間に基づいて次の周期開始時刻までに前記加工工具が移動すると仮定した遅延相当移動量を演算して前記加工工具の移動速度を前記遅延相当移動量に対応して変更するとともに、前記センサユニットから前記検出信号を受信した検出時刻以降の所定の周期開始時刻において変更された動作指令信号を発する
請求項1~3のいずれか1項に記載のワーク加工装置。
【請求項5】
前記加工制御ユニットに接続された入力インターフェースをさらに含み、
前記主制御部は、前記入力インターフェースから入力された任意の変更パターンに応じて前記移動速度を変更する
請求項4に記載のワーク加工装置。
【請求項6】
前記加工制御ユニットは、前記遅延相当移動量を演算して前記移動速度を前記制御周期ごとに変更する変更指令作成部をさらに含む
請求項5に記載のワーク加工装置。
【請求項7】
移動するワークが通過したことを検出するセンサユニットからの検出信号に基づいて、前記ワークを移動させつつ加工ユニットの加工機構を起動させて前記ワークに所定の加工工具による加工を行う加工制御方法であって、
前記加工機構を制御する所定の制御周期における周期開始時刻に対して前記検出信号を受信した検出時間を計時するとともに、前記制御周期と前記検出時間との差から応答遅延時間を算出し、前記応答遅延時間に基づいて前記加工機構への動作指令信号を前記制御周期ごとに変更して前記加工の制御を行う加工制御方法。
【請求項8】
前記センサユニットは、前記ワークに対して非接触型のセンサとして構成されている
請求項7に記載の加工制御方法。
【請求項9】
複数のワークが同時に移動している場合に、個々のワークに対する検出時間を記憶するとともに、前記個々のワークに対する前記応答遅延時間に基づいてワーク毎に前記動作指令信号を変更する
請求項7又は8に記載の加工制御方法。
【請求項10】
前記動作指令信号は、前記応答遅延時間から次の周期開始時刻までに前記加工工具が移動する遅延相当移動量に対応して前記加工工具の移動速度が変更されるとともに、前記センサユニットから前記検出信号を受信した検出時刻以降の所定の周期開始時刻に発せられる
請求項7~9のいずれか1項に記載の加工制御方法。
【請求項11】
前記動作指令信号の変更は、ユーザが任意の変更パターンから選択可能である
請求項10に記載の加工制御方法。
【請求項12】
前記変更パターンとして、前記移動速度の速度パターンを任意に選択可能とした
請求項11に記載の加工制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク加工装置及びその加工制御方法に関し、特に、移動するワークが通過したことを検出して検出信号を発するセンサユニットと、当該ワークを移動させた状態で加工機構を起動させてワークに所定の加工工具による加工を行う加工ユニットと、センサユニットからの検出信号に基づいて加工ユニットの動作を制御する加工制御ユニットと、を備えたワーク加工装置及びこれを用いた加工制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の速度で移動するワークに所定の加工を繰り返しかつ連続的に行うことによって、多数のワークを加工及び製造する手法の一例として、複数のワークが搬送機構上に連続的に搬送され、当該ワークの移動中に(すなわち搬送しつつ)、別途制御される加工ユニットにより所定の加工をワーク毎に実施する装置及びその加工制御方法がある。このような装置では、同一の繰り返し加工を周期的かつ連続的に複数のワークに対して実行できることから、所定の加工を施したワークの大量生産等に適している。
【0003】
一方、上記した装置及び加工制御方法では、例えば搬送機構上において複数のワークを搬送するような場合に、加工ユニットにおける加工位置に対して連続的に搬送されるワークの位置決めが加工精度に大きく影響する。このため、通常は搬送機構上に搬送されるワークを何らかのセンサで検知し、その検出信号に基づいて加工ユニットでの加工を制御する手法が採用されている。
【0004】
こうした加工制御の一例として、例えば特許文献1には、バイポーラ電池を構成するバイポーラ電極を製造する装置であって、帯状の導電性シートと、この導電性シートの両面のそれぞれにおいてその長手方向に間欠的に配列された複数の活物質層とを有するワークを長手方向に搬送する搬送装置と、上記導電性シートの短手方向に沿った回転軸を有しその周りに回転することによって隣り合う活物質層間において導電性シートを切断する切断ロールと、隣り合う活物質層間のピッチを測定するセンサと、測定されたピッチと基準値との差に応じて上記切断ロールを長手方向に移動する駆動装置と、を備えた装置及びその制御方法が開示されている。これにより、切断ロールの搬送方向への位置を調整できるため、切断位置の位置ずれを解消できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-50096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば特許文献1に示されるような装置では、ワークが連続的に搬送される搬送装置とワークを搬送しつつ加工する切断ロールを含む駆動装置とは別々の制御手段により制御されるため、切断ロールを移動させる駆動装置を制御する制御装置では、搬送装置を搬送されるワークの通過を検出するセンサの検出信号をトリガーとして切断ロールの動作を開始する指令を発するのが一般的である。このような制御装置では、リアルタイムに制御を行うための制御周期と上記センサでの検出信号の受信タイミングが異なる(ずれる)ため、その「ずれ」に伴って切断手段(例えば特許文献1の切断ロール)がワークと接触するタイミングもワークごとにずれてしまい、加工精度に影響を及ぼすことになってしまう。
【0007】
このような経緯から、所定の速度で移動するワークを加工する加工装置を制御する際に、制御周期とワークの検出タイミングとのずれに起因する加工精度の低下を抑制できるワーク加工装置及びこれを用いた加工制御方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による、移動するワークが通過したことを検出して検出信号を発するセンサユニットと、前記ワークを移動させた状態で加工機構を起動させて前記ワークに所定の加工工具による加工を行う加工ユニットと、前記センサユニットからの検出信号に基づいて前記加工ユニットの動作を制御する加工制御ユニットと、を備えたワーク加工装置は、前記加工制御ユニットが、前記加工ユニットの前記加工機構に所定の制御周期ごとに動作指令信号を発する主制御部と、前記制御周期における周期開始時刻に対して前記検出信号を受信した検出時間を計時する計時部と、前記検出時間を含む各種パラメータを記憶するメモリと、を含み、前記制御周期と前記検出時間との差を応答遅延時間と定義するとともに、前記主制御部は、前記応答遅延時間に基づいて前記動作指令信号を変更するように構成される。
【0009】
また、本発明の一態様による、移動するワークが通過したことを検出するセンサユニットからの検出信号に基づいて、前記ワークを移動させつつ加工ユニットの加工機構を起動させて前記ワークに所定の加工工具による加工を行う加工制御方法は、前記加工機構を制御する所定の制御周期における周期開始時刻に対して前記検出信号を受信した検出時間を計時するとともに、前記制御周期と前記検出時間との差から応答遅延時間を算出し、前記応答遅延時間に基づいて前記加工機構への動作指令信号を前記制御周期ごとに変更して前記加工の制御を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、移動するワークの通過を検出したセンサユニットからの検出信号に基づいて、加工ユニットの加工機構を起動させてワークに所定の加工工具による加工を行う際に、加工機構を制御する所定の制御周期における周期開始時刻に対して検出信号を受信した検出時間を計時するとともに、制御周期と検出時間との差として定義された応答遅延時間に基づいて、加工機構への動作指令信号を制御周期ごとに変更して加工工具の制御を行うようにしたため、所定の速度で移動するワークを加工する加工装置を制御する際に、制御周期とワークの検出タイミングとのずれに起因する加工精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の代表的な一例であるワーク加工装置の構成を示す概略図である。
図2図1に示した加工制御ユニットの代表的な一例を示すブロック図である。
図3A図1に示したワーク加工装置が実行する基準加工状態の一例を示す概略図である。
図3B図1に示したワーク加工装置が実行する基準加工状態の一例を示す概略図である。
図4A】実施例1による加工制御方法を示す概略図である。
図4B】実施例1による加工制御方法を示す概略図である。
図5A】実施例2による加工制御方法を示す概略図である。
図5B】実施例2による加工制御方法を示す概略図である。
図6A】実施例3による加工制御方法を示す概略図である。
図6B】実施例3による加工制御方法を示す概略図である。
図7A】実施例4による加工制御方法を示す概略図である。
図7B】実施例4による加工制御方法を示す概略図である。
図8A】実施例5による加工制御方法を示す概略図である。
図8B】実施例5による加工制御方法を示す概略図である。
図9図1に示した加工制御ユニットの変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の代表的な一例による、所定の速度で移動するワークが通過したことを検出するセンサユニットからの検出信号に基づいて、当該ワークを移動させつつ加工ユニットの加工機構を起動させてワークに所定の加工工具による加工を行うワーク加工装置及びこれを用いた加工制御方法の実施形態を図面と共に説明する。
【0013】
図1は、本発明の代表的な一例であるワーク加工装置の構成を示す概略図である。図1に示すように、ワーク加工装置100は、ワークWを移動させつつ加工する態様の一例として、所定の一方向Aに一定速度でワークWを搬送する搬送機構110と、搬送中のワークWが通過したことを検出するセンサユニット120と、ワークWを搬送させつつ加工機構134を起動させてワークWに所定の加工を行う加工ユニット130と、センサユニット120からの検出信号に基づいて加工ユニット130の動作を制御する加工制御ユニット140と、加工制御ユニット140にユーザが情報を入力する入力インターフェース150と、を備える。ここで、加工制御ユニット140は、センサユニット120及び加工ユニット130とそれぞれ信号線162及び163を介して接続されており、各種の信号のやり取りを行うように構成される。なお、図1に示した一例では、発明の理解を単純化するためにワークWを所定の一方向に一定速度で移動する場合を例示しているが、ワークWの通過をセンサユニット120で検知できた上で、当該ワークWの進路と速度とをそれぞれ把握できるものであれば、一方向あるいは一定速度に限定するものではない。
【0014】
搬送機構110は、その一例として、ワークの搬送方向Aに延びるベース112と、当該ベース112の上面に上記搬送方向Aに沿って形成された搬送路114と、搬送路114上においてワークWを保持しつつ移動するパレット116と、搬送機構110の動作を制御する搬送制御部118と、を含む。なお、図1においては、ワークWを保持するパレット116を4つ同時に搬送する場合を例示しているが、パレット116は単数でも複数でも任意の数を採用し得る。
【0015】
図2において、搬送路114は、ワークWを保持したパレット116を搬送方向Aに一定速度で移動させるような構造を備えている。このような搬送路114としては、複数の搬送ローラを用いた構造や、リニア駆動機構を含む構造等が例示できるが、任意の構造を採用し得る。なお、ワークWを安定して支持して搬送するためにパレット116を用いた場合を例示しているが、パレット116を省略して直接ワークWを搬送路114で移動するように構成してもよい。また、パレット116は、ワークWを直接クランプ保持する構造のものや、静電チャック構造のもの等、任意の構造のものを採用し得る。
【0016】
センサユニット120は、その一例として、センサ支持体122と、当該センサ支持体122から下向きに視野(検知領域)を有するセンサ本体124と、を含み、ワークWの一部が測定基準面Pを搬送方向Aに横切った(通過した)時に、検出信号S図2参照)を発するように構成される。このようなセンサ本体124としては、ワークWの通過を検知できるものであれば、任意の構造のものを採用し得るが、ワークWあるいはパレット116に接触して検知する「接触型」又はこれらに接触せずに検知する「非接触型」のいずれでもよい。なお、図1に示したセンサユニット120においては、センサ本体124として光電センサを適用している。
【0017】
加工ユニット130は、その一例として、支持体132と、当該支持体132から搬送路114に向けて加工工具136を取り付けた加工機構134と、を含み、加工機構134が搬送路114上を搬送されるワークWに対して加工位置Pに配置された加工工具136を移動速度Vで進退させることにより、加工工具136によってワークWに所定の加工を行うように構成されている。ここで、図1に示すように、センサユニット120の測定基準面Pから加工位置Pまでの距離を基準搬送距離Dと定義する。また、加工工具136としては、ワークWの切断を行う切断刃や穴あけ工具、あるいはワークWの表面に印刷や貼り付け加工を行う工具等の任意の構造のものを採用し得る。
【0018】
図2は、図1に示した加工制御ユニットの代表的な一例を示すブロック図である。図2に示すように、加工制御ユニット140は、その一例として、加工ユニット130の加工機構134に動作指令信号Sを発する主制御部142と、当該主制御部142の制御周期における周期開始時刻に対してセンサユニット120からの検出信号Sを受信した検出時間T図3参照)を計時する計時部144と、計時した検出時間Tを含む各種パラメータを記憶するメモリ146と、を含むように構成される。そして、主制御部142は、センサユニット120での検出時刻Tから制御周期Tまでの応答遅延時間T-Tに基づいて、制御周期Tごとに加工ユニット130に出力される動作指令信号Sを変更する機能を有する。
【0019】
計時部144は、例えばセンサユニット120からの検出信号Sが入力されたことをリアルタイムでモニタリングするためのセンサ検出回路(ラッチ回路)として構成される。計時部144は、その一例として、1μsecごとにカウントアップするカウンタ(図示せず)を内蔵しており、このカウンタは上記した主制御部142の制御周期毎にプリセットされ、検出信号Sが入力されると検出時間T及び応答遅延時間T-Tを算出してメモリ146に記憶させる。
【0020】
ここで、計時部144及びメモリ146は、搬送機構110に複数のワークWが搬送されている場合には、個々のワークWに対する検出時間T及び応答遅延時間T-Tを算出して記憶できるように構成される。これにより、複数のワークWを同時に搬送しつつ加工することが可能となるため、ワーク加工装置100全体の生産性を向上させることができる。
【0021】
また、入力インターフェース150は、ワーク加工装置100を使用するユーザが加工に必要な条件や追加的な情報等を入力し得る入力手段として構成され、入力された情報等は加工制御ユニット140に送信される。このような入力インターフェース150としては、表示画面やキーボード等を備えた入力端末あるいはタッチパネル式の入力ユニット等が例示できる。また、図1においては、入力インターフェース150が加工制御ユニット140と有線で接続されている状態が例示されているが、これらを無線通信で接続して情報のやり取りを行うように構成してもよい。
【0022】
図3A及び図3Bは、図1に示したワーク加工装置が実行する基準加工状態の一例を示す概略図である。本発明の代表的な一例による加工制御方法においては、搬送機構110と加工ユニット130とを個別の制御ユニットにて独立して制御するとともに、加工ユニット130の加工制御については、センサユニット120からの検出信号Sに基づいて実行するタイプの構成を用いている。このため、搬送機構110を搬送されるワークWをセンサユニット120が検知したタイミングと加工ユニット130がワークWに所定の加工を行うタイミングとの間に、基準となる「基準加工状態」を想定する。
【0023】
すなわち、図3Aに示すように、まず、搬送路114上を搬送方向Aに沿って移動するワークWを保持するパレット116の搬送方向Aにおける先端116aが、測定基準面Pを時刻tで横切ったとする。そして、「基準加工状態」においては、この時刻tが、主制御部142の制御周期Tの周期開始時刻(例えば図3Aにおけるt)と一致するものと定義する。なお、図3Aにおいては、パレット116の先端116aを検知対象としているが、ワークWの搬送方向Aにおける先端を検知対象としてもよい。
【0024】
このとき、時刻tでセンサユニット120が検出信号Sを出力すると、これを受けた加工制御ユニット140では、主制御部142が当該時刻tから所定の制御周期経過後(例えば1周期T経過後の時刻t)に、加工機構134に対して加工工具136を移動速度Vで駆動させるようを指示する分配パルスとして、制御周期Tごとに動作指令信号Sを出力する。そして、「基準加工状態」においては、搬送路114を一定速度で基準搬送距離Dだけ送られてきたワークWの所定の加工位置と移動速度Vで駆動される加工工具136とが加工位置Pでちょうど接触する関係となるように動作が実行される。
【0025】
これら一連の動作を、経過時間と工具の移動速度との関係で示したのが図3Bである。図3Bに示すように、基準加工状態では、時刻tでワークWの通過を検知すると、時刻tで加工工具136の駆動が開始され、所定周期だけ加工工具136を加速期間Tと等速移動期間Tで駆動した後、時刻tpで加工位置PにおいてワークWへの加工が実施される。これにより、「基準加工状態」では、主制御部142の制御周期Tの周期開始時刻とセンサユニット120のワーク検出時刻とが一致するときに、ワークWの正しい加工位置に加工工具136による加工を実行することができる。
【0026】
なお、図3A及び図3Bに示す基準加工状態の一例において、加工工具136の移動は、一定の加速度による加速期間Tと等速で推移する等速移動期間Tとで構成される場合が例示されているが、これはあくまでも一例であって、加速期間Tは任意の速度パターンでの加速が可能である。また、等速移動期間Tについても同様に、等速であることは必須ではなく、任意の速度パターンを採用することができる。さらに、加工工具136の移動を加速期間Tのみによる制御で行ってもよい。
【0027】
次に、図4A図8Bを用いて、本発明の代表的な一例によるワーク加工装置を用いた加工制御方法の具体的な実施例を説明する。本発明の代表的な一例による加工制御方法は、その特徴の一つとして、上述したセンサユニット120がワークWを検出した検出時刻と主制御部142が加工ユニット130に指令信号を発する周期開始時刻との「ずれ」を補正する補正パターンを、入力インターフェース150を用いてユーザが任意に選択し得る点が挙げられる。そこで、以下の実施例においては、ユーザが選択し得る補正パターンの具体的な態様を例示する。
【0028】
<実施例1>
図4A及び図4Bは、実施例1による加工制御方法を示す概略図である。実施例1による加工制御方法においては、センサユニット120でワークWを検知するタイミングが主制御部142の制御周期Tから検出時刻tだけ遅れた場合に、本来その「遅れ」が存在しないとき(つまり基準加工状態)に応答遅延時間T-Tの間で加工工具136が駆動されるはずだった遅延相当移動量Sを演算して求め、当該遅延相当移動量Sを実際の加工工具136の移動速度に追加(上乗せ)する制御が実行される。
【0029】
すなわち、図4Aに示すように、ワークWを保持するパレット116が、測定基準面Pを制御周期の開始時刻tから所定時間後の時刻tで測定基準面Pを横切った場合、図3Aと比較すると、実施例1では、ワークWは検出時間Tだけ遅れた検出時刻tでセンサユニット120に検知され、見かけ上で検出時間Tに対応する距離だけ先に送られた状態になる。そこで、検出時刻tで検出信号Sを受けた加工制御ユニット140では、主制御部142が、応答遅延時間T-Tに基づいて次の周期開始時刻までに加工工具136が移動すると仮定した遅延相当移動量Sを演算して、加工工具136の移動速度Vを遅延相当移動量Sに対応して変更した動作指令信号Sを生成する。
【0030】
このとき、主制御部142は、センサユニット120から検出信号Sを受信した検出時刻t以降の所定の周期開始時刻において上記のように変更された制御指令信号Sを制御周期Tごとに出力する。つまり、実施例1では、図3に示した「基準加工状態」における加工制御に対して、主制御部142が、応答遅延時間T-Tに基づいて演算された遅延相当移動量Sに対応する速度分だけ、加速期間Tの区間で加工工具136の移動速度Vを早める(上乗せする)制御指令信号Sを制御周期Tごとの分配パルス信号として加工ユニット130に出力することで、ワークWの検出遅れに対応する加工工具136の加工タイミング(加工工具136とワークWとの接触タイミング)の調整を行う。
【0031】
これら一連の動作を、経過時間と工具の移動速度との関係で示したのが図4Bである。図4Bに示すように、実施例1による加工制御方法では、まず、例えば時刻tから制御周期Tに対する検出時間Tだけ遅れた検出時刻tでセンサユニット120がワークWの通過を検知すると、検知信号Sを受けた主制御部142は、検出時刻t以降の所定の周期開始時刻(例えば時刻t)において加工工具136の駆動を開始する制御指令信号Sを出力する。
【0032】
これと同時に、仮に検出時刻tに駆動を開始して加工工具136が時刻tまでの間に移動したと想定される遅延相当移動量Sを以下の数1を用いて演算する。ここで、速度Vは、応答遅延時間T-Tでの加工工具136の任意の速度パターンを意味するものとする。
[数1]
S=V×(T-T
【0033】
そして、主制御部142は、加工工具136の駆動中に、上記のとおり演算された遅延相当移動量Sに対応する速度を加速期間T中に追加(上乗せ)する形で、加工工具136の移動速度Vが応答遅延時間T-Tを考慮した遅延相当移動量Sと等価な速度となるように、制御周期Tごとに変更された制御指令信号Sを分配パルスとして出力する。これにより、ワークWを検知した検出時間Tに応じた応答遅延時間T-Tを考慮して、ワークWの正しい加工位置に加工工具136による加工を実行することができる。
【0034】
<実施例2>
図5A及び図5Bは、実施例2による加工制御方法を示す概略図である。実施例2による加工制御方法においては、実施例1で示した制御方法に対して、加速期間Tの区間長さをユーザが任意に選択できるようにしたものである。
【0035】
すなわち、図5Aに示すように、ワークWが検出時間Tに対応する距離だけ先に送られた状態でセンサユニット120に検知された場合、検出時刻tで検出信号Sを受けた加工制御ユニット140では、実施例1と同様に、主制御部142が、応答遅延時間T-Tに基づく遅延相当移動量Sを演算するとともに、加工工具136の移動速度Vを遅延相当移動量Sに対応して変更した制御指令信号Sを、センサユニット120からの検出信号Sを受信した検出時刻t以降の所定の周期開始時刻において、制御周期Tとごとに分配パルスとして出力する。このとき、ユーザが入力インターフェース150から予め加速期間TAの区間長さ(制御周期の整数倍となる長さ)を選択して入力しておく。
【0036】
これら一連の動作を、経過時間と工具の移動速度との関係で示したのが図5Bである。図5Bに示すように、実施例2による加工制御方法では、実施例1の場合と同様に、例えば時刻tから検出時間Tだけ遅れた検出時刻tでセンサユニット120がワークWの通過を検知すると、検知信号Sを受けた主制御部142は、検出時刻t以降の所定の周期開始時刻(例えば時刻t)において加工工具136の駆動を開始する制御指令信号Sを出力する。
【0037】
これと同時に、仮に検出時刻tに駆動を開始して加工工具136が時刻tまでの間に移動したと想定される遅延相当移動量Sを上記した数1を用いて演算する。そして、主制御部142は、加工工具136の駆動中に、演算された遅延相当移動量Sに対応する速度を、予めユーザが選択した加速期間T(時刻t~tまでの区間)中に追加(上乗せ)する形で変更することにより、加工工具136の移動速度Vが応答遅延時間T-Tを考慮した遅延相当移動量Sと等価な速度となるように、制御周期Tごとに制御指令信号Sを出力する。
【0038】
これにより、実施例2においても、ワークWを検知した検出時間Tに応じた応答遅延時間T-Tを考慮して、ワークWの正しい加工位置に加工工具136による加工を実行することができる。なお、図5Bに示すように、加速期間Tを長く取ることにより、実施例1の場合に比べて加速期間Tから等速移動期間Tへの速度遷移が滑らかになるため、等速移動期間Tでの速度制御の精度を向上させることも可能となる。
【0039】
<実施例3>
図6A及び図6Bは、実施例3による加工制御方法を示す概略図である。実施例3による加工制御方法は、ユーザの選択に基づいて、加工工具136の移動速度Vの補正を等速移動期間Tの間に行うことにしたものである。
【0040】
すなわち、図6Aに示すように、ワークWが検出時間Tに対応する距離だけ先に送られた状態でセンサユニット120に検知された場合、検出時刻tで検出信号Sを受けた加工制御ユニット140では、実施例1と同様に、主制御部142が、応答遅延時間T-Tに基づく遅延相当移動量Sを演算するとともに、加工工具136の移動速度Vを遅延相当移動量Sに対応して変更した制御指令信号Sを、センサユニット120から検出信号Sを受信した検出時刻t以降の所定の周期開始時刻において、制御周期Tごとに分配パルスとして出力する。このとき、ユーザが入力インターフェース150から加工工具136の移動速度Vの補正を等速移動期間Tの間に行う旨を選択して入力しておく。
【0041】
これら一連の動作を、経過時間と工具の移動速度との関係で示したのが図6Bである。図6Bに示すように、実施例3による加工制御方法では、実施例1の場合と同様に、例えば時刻tから検出時間Tだけ遅れた検出時刻tでセンサユニット120がワークWの通過を検知すると、検知信号Sを受けた主制御部142は、検出時刻t以降の所定の周期開始時刻(例えば時刻t)において加工工具136の駆動を開始する制御指令信号Sを出力する。
【0042】
これと同時に、主制御部142は、仮に検出時刻tに駆動を開始して加工工具136が時刻tまでの間に移動したと想定される遅延相当移動量Sを上記した数1を用いて演算する。そして、加工工具136の駆動中に、演算された遅延相当移動量Sに対応する速度を、予めユーザが選択した等速移動期間T中に追加(上乗せ)する形で変更する制御指令信号Sを制御周期Tごとに出力する。これにより、加工工具136の移動速度Vが検出時間Tに応じた応答遅延時間T-Tを考慮した遅延相当移動量Sと等価な速度となり、ワークWの正しい加工位置に加工工具136による加工を実行することができる。
【0043】
<実施例4>
図7A及び図7Bは、実施例4による加工制御方法を示す概略図である。実施例4による加工制御方法は、ユーザの選択に基づいて、加工工具136の移動速度Vの補正を加工工具136の移動開始から均等に追加(上乗せ)するようにしたものである。
【0044】
すなわち、図7Aに示すように、ワークWが検出時間Tに対応する距離だけ先に送られた状態でセンサユニット120に検知された場合、検出時刻tで検出信号Sを受けた加工制御ユニット140では、実施例1と同様に、主制御部142が、応答遅延時間T-Tに基づく遅延相当移動量Sを演算するとともに、加工工具136の移動速度Vを遅延相当移動量Sに対応して変更した制御指令信号Sを、センサユニット120から検出信号Sを受信した検出時刻t以降の所定の周期開始時刻において、制御周期Tごとに分配パルスとして出力する。このとき、ユーザが入力インターフェース150から加工工具136の移動速度Vの補正として、加工工具136の移動開始から均等に(等速で)追加する旨を選択して入力しておく。
【0045】
これら一連の動作を、経過時間と工具の移動速度との関係で示したのが図7Bである。図7Bに示すように、実施例4による加工制御方法では、実施例1の場合と同様に、例えば時刻tから検出時間Tだけ遅れた検出時刻tでセンサユニット120がワークWの通過を検知すると、検知信号Sを受けた主制御部142は、検出時刻t以降の所定の周期開始時刻(例えば時刻t)において加工工具136の駆動を開始する制御指令信号Sを出力する。
【0046】
これと同時に、主制御部142は、仮にその検出時刻tに駆動を開始して加工工具136が時刻tまでの間に移動したと想定される遅延相当移動量Sを上記した数1を用いて演算する。そして、加工工具136の駆動中に、演算された遅延相当移動量Sに対応する速度を、予めユーザが選択したように加工工具136の移動開始から均等に(等速で)追加する形で変更する制御指令信号Sを制御周期Tごとに出力する。これにより、加工工具136の移動速度Vが検出時間Tに応じた応答遅延時間Tを考慮した遅延相当移動量Sと等価な速度となり、ワークWの正しい加工位置に加工工具136による加工を実行することができる。
【0047】
このとき、遅延相当移動量Sに基づいて加工工具136の移動速度Vを補正する際のパラメータをさらに任意に設定できる。例えば、予め補正完了時間を入力しておき、当該補正完了時間内に等分で速度を加算するように構成する、あるいは予め加工工具136の補正完了距離(移動量)を入力しておき、当該補正完了距離内に等分で速度を加算するように構成してもよい。
【0048】
<実施例5>
図8A及び図8Bは、実施例5による加工制御方法を示す概略図である。実施例5による加工制御方法は、ユーザの選択に基づいて、加工工具136の移動速度Vの補正を、加速期間Tでは速度追加分を徐々に大きくしかつ等速移動期間Tでは徐々に小さくするようにしたものである。
【0049】
すなわち、図8Aに示すように、ワークWが検出時間Tに対応する距離だけ先に送られた状態でセンサユニット120に検知された場合、検出時刻tで検出信号Sを受けた加工制御ユニット140では、実施例1と同様に、主制御部142が、応答遅延時間T-Tに基づく遅延相当移動量Sを演算するとともに、加工工具136の移動速度Vを遅延相当移動量Sに対応して変更した制御指令信号Sを、センサユニット120から検出信号Sを受信した検出時刻tD以降の所定の周期開始時刻において、制御周期Tごとに分配パルスとして出力する。このとき、ユーザが入力インターフェース150から加工工具136の移動速度Vの補正として、加速期間Tでは速度追加分を徐々に大きくしかつ等速移動期間Tでは徐々に小さくする旨を選択して入力しておく。
【0050】
これら一連の動作を、経過時間と工具の移動速度との関係で示したのが図8Bである。図8Bに示すように、実施例5による加工制御方法では、実施例1の場合と同様に、例えば時刻tから検出時間Tだけ遅れた検出時刻tでセンサユニット120がワークWの通過を検知すると、検知信号Sを受けた主制御部142は、検出時刻t以降の所定の周期開始時刻(例えば時刻t)において加工工具136の駆動を開始する制御指令信号Sを出力する。
【0051】
これと同時に、主制御部142は、仮に検出時刻tに駆動を開始して加工工具136が時刻tまでの間に移動したと想定される遅延相当移動量Sを上記した数1を用いて演算する。そして、加工工具136の駆動中に、演算された遅延相当移動量Sに対応する速度を、予めユーザが選択したように加速期間Tでは速度追加分を徐々に大きくしかつ等速移動期間Tでは徐々に小さくする形で変更する制御指令信号Sを制御周期Tごとに出力する。これにより、加工工具136の移動速度Vが検出時間Tに応じた応答遅延時間Tを考慮した遅延相当移動量Sと等価な速度となり、ワークWの正しい加工位置に加工工具136による加工を実行することができる。また、本実施例の制御によれば、加工工具136の速度遷移を滑らかにできる。
【0052】
図9は、図1に示した加工制御ユニットの変形例を示すブロック図である。図9に示すように、変形例による加工制御ユニット140は、その一例として、主制御部142と、計時部144と、メモリ146と、検出時間Tに応じた応答遅延時間T-Tに基づいて加工ユニット130に出力される動作指令信号Sを変更するための分配パルス成分を個別に作成する変更指令作成部148と、を含むように構成される。このように変更指令作成部148を主制御部142に対して独立して設けることにより、主制御部142が変更指令を作成する場合に比べてその動作負荷を低減できる。
【0053】
以上のように、図1図9で示したワーク加工装置及びこれを用いた加工制御方法によれば、移動するワークの通過を検出したセンサユニットからの検出信号に基づいて、加工ユニットの加工機構を起動させてワークに所定の加工工具による加工を行う際に、加工機構を制御する所定の制御周期における周期開始時刻に対して検出信号を受信した検出時間を計時するとともに、当該検出時間に応じた応答遅延時間に基づいて加工機構への動作指令信号を制御周期ごとに変更して加工工具の制御を行うようにしたため、所定の速度で移動するワークを加工する加工装置を制御する際に、制御周期とワークの検出タイミングとのずれに起因する加工精度の低下を抑制できる。
【0054】
また、実施例1~5で示したとおり、上記応答遅延時間に対応した遅延相当移動量に基づいて加工工具の移動速度を補正する際に、ユーザが移動速度の速度パターンを任意に選択できるようにしたため、ユーザの様々なニーズや得たい効果に対応した制御が可能となる。
【0055】
さらに、これまでセンサユニットでのワークの検出が加工制御ユニットの主制御部の制御周期に依存していたため、当該制御周期がワークの位置ずれ補正精度限界となっていたのに対して、上記した実施態様によれば、計時部のカウンタのクロック周期が補正精度限界となるため、ワークの位置ずれに対する補正精度が格段に向上する。例えば、その一例として、ワークの搬送速度を18m/min、主制御部の制御周期を10msec、計時部のクロック周期を1μsecとすると、主制御部のみによる位置決め精度が最大3mm程度の位置ずれとなるのに対して、上記実施形態によれば、位置決め精度を最大0.3mm程度にまで向上できる。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。本発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0057】
例えば、上記した実施形態では、計時部144が検出時間Tから応答遅延時間T-Tを算出する動作を実行する場合を例示したが、当該応答遅延時間T-Tを算出する動作を主制御部142が実行するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0058】
100 ワーク加工装置
110 搬送機構
112 ベース
114 搬送路
116 パレット
118 搬送制御部
120 センサユニット
122 センサ支持体
124 センサ本体
130 加工ユニット
132 支持体
134 加工機構
136 加工工具
140 加工制御ユニット
142 主制御部
144 計時部
146 メモリ
148 変更指令作成部
150 入力インターフェース
162、163 信号線
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9