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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】信号解析装置および信号解析方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 23/173 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
G01R23/173 F
G01R23/173 J
G01R23/173 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022005202
(22)【出願日】2022-01-17
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 基史
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-313616(JP,A)
【文献】特開2022-140347(JP,A)
【文献】特開平11-51990(JP,A)
【文献】特開2007-333478(JP,A)
【文献】特開平10-170570(JP,A)
【文献】米国特許第7080398(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 23/173
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定信号としてのバースト信号を解析する信号解析装置であって、
測定周波数を設定する周波数設定部(70)と、
前記被測定信号のうち前記測定周波数の信号成分の電力を所定の時間間隔で測定して電力の測定データを取得する測定部(3)と、
前記周波数設定部が前記バースト信号のスプリアス成分の周波数を前記測定周波数として設定した条件下で前記測定部により取得された時間ドメインの電力測定データから、前記スプリアス成分の電力値を算出する算出部(90)と、を備え、前記算出部は、
前記バースト信号の1周期以上の時間長の対象区間(L)内においてバースト幅(W)に対応する算出区間(S)をスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出する区間平均算出部(93)と、
前記算出した平均値のうち最大となる平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する電力値決定部(94)と、
を備えることを特徴とする信号解析装置。
【請求項2】
前記周波数設定部が前記バースト信号のメイン周波数を前記測定周波数として設定した条件下で前記測定部により予め取得された電力の事前測定データから、前記バースト信号の周期および前記バースト幅を測定するバースト特性測定部(62)をさらに備える、請求項1に記載の信号解析装置。
【請求項3】
前記対象区間(L)の時間長が、前記バースト信号の周期(T)の2倍である、請求項1または2に記載の信号解析装置。
【請求項4】
前記対象区間(L)の時間長が、前記バースト信号の周期(T)と前記バースト幅(W)の和に等しい、請求項1または2に記載の信号解析装置。
【請求項5】
前記区間平均算出部は、前記対象区間(L)内において前記算出区間(S)を前記対象区間の一端部から他端部に向けて前記電力測定データ1個に対応する時間長のステップ幅でスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出する、請求項1~4のいずれか一項に記載の信号解析装置。
【請求項6】
前記区間平均算出部は、前記対象区間(L)内において前記算出区間(S)を前記対象区間の一端部から他端部に向けて第1のステップ幅でスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出していき該平均値と所定の閾値を比較することでスライド範囲を限定し、限定したスライド範囲において前記算出区間を前記第1のステップ幅より小さい第2のステップ幅でスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出し、
前記電力値決定部は、前記第2のステップ幅でスライドさせるごとに算出された平均値のうち最大となる平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の信号解析装置。
【請求項7】
前記区間平均算出部は、前記算出された平均値のうち極大を示す平均値が取得できると、以後のスライドを中止し、前記電力値決定部は、前記極大を示す平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の信号解析装置。
【請求項8】
被測定信号としてのバースト信号を解析する信号解析方法であって、
測定周波数を設定する周波数設定ステップ(ST31)と、
前記被測定信号のうち前記測定周波数の信号成分の電力を所定の時間間隔で測定して電力の測定データを取得する測定ステップ(ST32)と、
前記周波数設定ステップにて前記バースト信号のスプリアス成分の周波数を前記測定周波数として設定した条件下で前記測定ステップを実行して取得された時間ドメインの電力測定データから、前記スプリアス成分の電力値を算出する算出ステップと、を含み、前記算出ステップは、
前記バースト信号の1周期以上の時間長の対象区間(L)内においてバースト幅(W)に対応する算出区間(S)をスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出する区間平均算出ステップ(ST35)と、
前記算出した平均値のうち最大となる平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する電力値決定ステップ(ST37)と、
を含むことを特徴とする信号解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バースト信号を解析対象とする信号解析装置および信号解析方法に関するものであり、特にバースト信号のスプリアス測定に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル業務用無線機などの被測定対象(DUT)から送信されるデジタル変調信号のスペクトラム解析や変調解析を行うために、スペクトラムアナライザやシグナルアナライザなどの信号解析装置が用いられている。
【0003】
従来の信号解析装置は、例えば、局部発振器から出力される局発信号の周波数を掃引しつつ、DUTから送信された被測定信号と局発信号とを混合して中間周波数の信号に変換し、該中間周波数の信号をフィルタで帯域制限して検波し、横軸に周波数、縦軸に信号レベル(電力)を示すスペクトラム波形として表示部に表示するようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
DUTから送信される被測定信号として、パワーを出しているオン区間とパワーを出していないオフ区間とを交互に繰り返す周期信号であるバースト信号がある(例えば、ARIB標準規格STD-T61、STD-T115等参照)。
【0005】
特許文献1に記載の信号解析装置では、被測定信号であるバースト信号のうち受信周波数に対応する信号成分を検波し、検波出力が基準電圧を越えている間を測定時間として、この間に検波出力のピーク値を検出し、検出したピーク値を波形メモリに記憶する。検波出力が基準電圧以下になって測定時間が終了すると、受信部の受信周波数を次の周波数にステップ可変するようになっている。
【0006】
連続波信号だけでなくバースト信号を被測定信号とするときも、例えば規格の要件を満たしていることを確認するために、スプリアス成分の電力を測定するスプリアス測定が行われている。スプリアス測定では、周波数ドメインの測定でスプリアス成分を検出した後、スプリアス成分が存在する周波数を固定して時間ドメインでスプリアス成分の電力を測定する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-172871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の信号解析装置にあっては、バースト信号のスプリアス測定において、スプリアス成分の電力が低い場合、ノイズの影響を受けて基準電圧を超えるかどうかが不安定になる問題があり、改善が求められていた。
【0009】
また、従来の方法でのバースト信号のスプリアス成分の電力の時間ドメインでの測定では、測定値にバースト信号のオフ区間も含まれてしまうため、実質的な送信データ部分であるオン区間の電力を正確に測定できない問題があった。
【0010】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、バースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができる信号解析装置および信号解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の信号解析装置は、上記目的達成のため、被測定信号としてのバースト信号を解析する信号解析装置であって、測定周波数を設定する周波数設定部(70)と、前記被測定信号のうち前記測定周波数の信号成分の電力を所定の時間間隔で測定して電力の測定データを取得する測定部(3)と、前記周波数設定部が前記バースト信号のスプリアス成分の周波数を前記測定周波数として設定した条件下で前記測定部により取得された時間ドメインの電力測定データから、前記スプリアス成分の電力値を算出する算出部(90)と、を備え、前記算出部は、前記バースト信号の1周期以上の時間長の対象区間(L)内においてバースト幅(W)に対応する算出区間(S)をスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出する区間平均算出部(93)と、前記算出した平均値のうち最大となる平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する電力値決定部(94)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上述のように、本発明の信号解析装置は、区間平均算出部が、バースト信号の1周期以上の時間長の対象区間内においてバースト幅に対応する算出区間をスライドさせるごとに、算出区間内の電力測定データの平均値を算出し、電力値決定部が、算出した平均値のうち最大となる平均値をスプリアス成分の電力値として決定するようになっている。この構成により、特許文献1などの従来技術のように信号電力の測定時にバースト信号のオン区間およびオフ区間を判別して測定する必要がなく、バースト信号のオン区間のみを対象としてスプリアス成分の電力を精度よく測定することができる。
【0013】
また、本発明の信号解析装置は、前記周波数設定部が前記バースト信号のメイン周波数を前記測定周波数として設定した条件下で前記測定部により予め取得された電力の事前測定データから、前記バースト信号の周期および前記バースト幅を測定するバースト特性測定部(62)をさらに備える構成であってもよい。
【0014】
この構成により、本発明の信号解析装置は、バースト信号の周期やバースト幅が不明の場合であっても、手動で入力する必要がなく、バースト信号のオン区間のみの電力を測定することができるので、バースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で確実に測定することができる。また、人為的な操作ミスも少なくなるので、スプリアスの測定結果に生じた問題が、被測定信号を送信するDUTに起因するものか、信号解析装置の設定に起因するものか等の要因の分析を容易に行うことができる。
【0015】
また、本発明の信号解析装置は、前記対象区間(L)の時間長が、前記バースト信号の周期(T)の2倍であることが好ましい。
【0016】
この構成により、所定の対象区間内にバースト信号のオン区間が分離せず完全な形で1つは存在するので、算出区間の適切なスライド操作により算出区間をバースト信号のオン区間に対応させることができる。これにより、バースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができる。
【0017】
また、本発明の信号解析装置は、前記対象区間(L)の時間長が、前記バースト信号の周期(T)と前記バースト幅(W)の和に等しい構成であってもよい。
【0018】
この構成により、所定の対象区間内にバースト信号のオン区間が分離せず完全な形で少なくとも1つは存在するので、算出区間の適切なスライド操作により算出区間をバースト信号のオン区間に対応させることができる。これにより、バースト信号のオン区間のみを対象としてバースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができる。
【0019】
また、本発明の信号解析装置において、前記区間平均算出部は、前記対象区間(L)内において前記算出区間(S)を前記対象区間の一端部から他端部に向けて前記電力測定データ1個に対応する時間長のステップ幅でスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出する構成であってもよい。
【0020】
この構成により、算出区間の適切なスライド操作により確実に算出区間をバースト信号のオン区間に対応させることができる。これにより、バースト信号のオン区間のみを対象としてバースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができる。
【0021】
また、本発明の信号解析装置において、前記区間平均算出部は、前記対象区間(L)内において前記算出区間(S)を前記対象区間の一端部から他端部に向けて第1のステップ幅でスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出していき該平均値と所定の閾値を比較することでスライド範囲を限定し、限定したスライド範囲において前記算出区間を前記第1のステップ幅より小さい第2のステップ幅でスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出し、前記電力値決定部は、前記第2のステップ幅でスライドさせるごとに算出された平均値のうち最大となる平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する構成であってもよい。
【0022】
この構成により、より短い時間でスプリアス成分の電力値の追い込みを実行することができる。
【0023】
また、本発明の信号解析装置において、前記区間平均算出部は、前記算出された平均値のうち極大を示す平均値が取得できると、以後のスライドを中止し、前記電力値決定部は、前記極大を示す平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する構成であってもよい。
【0024】
この構成により、より短い時間でスプリアス成分の電力値の追い込みを実行することができる。
【0025】
また、本発明の信号解析方法は、被測定信号としてのバースト信号を解析する信号解析方法であって、測定周波数を設定する周波数設定ステップ(ST31)と、前記被測定信号のうち前記測定周波数の信号成分の電力を所定の時間間隔で測定して電力の測定データを取得する測定ステップ(ST32)と、前記周波数設定ステップにて前記バースト信号のスプリアス成分の周波数を前記測定周波数として設定した条件下で前記測定ステップを実行して取得された時間ドメインの電力測定データから、前記スプリアス成分の電力値を算出する算出ステップと、を含み、前記算出ステップは、前記バースト信号の1周期以上の時間長の対象区間(L)内においてバースト幅(W)に対応する算出区間(S)をスライドさせるごとに、前記算出区間内の前記電力測定データの平均値を算出する区間平均算出ステップ(ST35)と、前記算出した平均値のうち最大となる平均値を前記スプリアス成分の電力値として決定する電力値決定ステップ(ST37)と、を含むことを特徴とする。
【0026】
この構成により、特許文献1などの従来技術のように信号電力の測定時にバースト信号のオン区間およびオフ区間を判別して測定する必要がなく、バースト信号のオン区間のみを対象としてスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、バースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができる信号解析装置および信号解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る信号解析装置の構成を示すブロック図である。
図2】バースト信号を説明するための図である。
図3】トレースデータ群の生成過程を説明するための図である。
図4】バースト信号のスプリアス成分の追い込み処理を説明する図である。
図5】本発明の実施形態に係る信号解析装置による信号解析方法のフローチャートである。
図6】掃引時間の自動設定処理を説明するためのフローチャートである。
図7】バースト周期算出処理を説明するためのフローチャートである。
図8】バースト信号のスプリアス成分の追い込み処理を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明の実施形態に係る信号解析装置が備える表示部の表示画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る信号解析装置1の概略構成を示すブロック図である。本実施形態に係る信号解析装置1は、例えば、スペクトラムアナライザであり、DUT2から送信された被測定信号であるバースト信号の周波数特性(周波数スペクトラム)を測定し、その周波数スペクトラムの波形を表示器に表示するものである。具体的には、図1に示すように、信号解析装置1は、中間周波数変換部10、アナログデジタル変換部(ADC)20、信号処理部30、測定データ記憶部40、解析処理部50、データ時間幅制御部60、制御部70、表示部80、および操作部81を備えている。なお、中間周波数変換部10、ADC20、信号処理部30、および測定データ記憶部40は、本実施形態の測定部3を構成している。
【0031】
また、本実施形態の信号解析装置1は、バースト信号のスプリアス成分の電力をより正確に測定するために、追い込み処理部90を備えている。なお、本実施形態の追い込み処理部90は、本発明の算出部に対応する。また、本実施形態の中間周波数変換部10、ADC20、信号処理部30、および測定データ記憶部40は、本発明の測定部3に対応する。
【0032】
DUT2は、例えば、バースト信号を用いるデジタル業務用無線機などである。DUT2の通信規格としては、例えば、ARIB(一般社団法人電波産業会)の標準規格STD-T61、STD-T115などが挙げられる。DUT2と中間周波数変換部10とは、同軸ケーブルなどで有線接続されるか、あるいは、無線通信アンテナを介して無線接続される。
【0033】
図2は、バースト信号を説明するための図である。バースト信号はバースト波からなり、バーストが存在する区間であるオン区間と、バーストが存在しない区間であるオフ区間とが交互に周期的に繰り返す信号である。DUT2からの送信データはオン区間であるバースト部分に含まれる。図2のバースト波は、周期T、オン区間の幅に等しいバースト幅Wの周期信号である。
【0034】
(中間周波数変換部)
図1に戻り、中間周波数変換部10は、DUT2から送信された被測定信号S1を、中間周波数を有する中間周波数信号S5に変換するものであり、アッテネータ11と局部発振器12とミキサ13とバンドパスフィルタ14とを備えている。
【0035】
アッテネータ11は、内部に抵抗を有し、DUT2からの被測定信号S1を後段の信号処理に適した信号レベルに減衰させるものであり、インピーダンスを変化させない電子部品である。
【0036】
局部発振器12は、制御部70の制御下で動作する電圧制御発振器(VCO(Voltage-controlled oscillator))を備え、局発信号S3を出力するようになっている。局発信号S3は、元の被測定信号S1の特定の周波数の値よりも変換先の周波数の値の分だけ高い周波数あるいは低い周波数の正弦波である。局発信号S3の周波数は、後で説明する掃引信号発生部72から出力される掃引ランプ信号により所定の周波数範囲にわたって掃引されるようになっている。
【0037】
本実施形態の信号解析装置1は、局発信号S3の周波数を掃引せず、特定周波数に固定して時間ドメインにおいて所定の時間間隔で被測定信号の特定周波数成分の電力を測定する、いわゆる「ゼロスパン測定」を行うこともできる。
【0038】
ミキサ13は、アッテネータ11で減衰された周波数fの信号S2と、局部発振器12から出力された周波数fの局発信号S3とを混合し、2つの信号の和および差の周波数の出力信号、すなわち中間周波数|f-f|またはf+fの混合信号S4を生成するものである。つまり、ミキサ13は、アッテネータ11からの信号S2を局発信号S3と混合することにより周波数変換を行うようになっている。
【0039】
バンドパスフィルタ14は、ミキサ13から出力される混合信号S4から中間周波数を有する中間周波数信号S5を抽出するようになっている。
【0040】
本実施形態の中間周波数変換部10は、被測定信号S1を減衰した信号S2と局発信号S3との混合を1回行う1段構成であるが、局発信号との混合を複数回行う複数段構成としてもよい。
【0041】
(ADC)
ADC20は、バンドパスフィルタ14から出力されるアナログの中間周波数信号S5を所定のサンプリングレートでサンプリングして、デジタルデータに変換する。スペクトラム解析モードでは、ADC20は、このアナログデジタル変換により得られたデジタル中間周波数信号S6を信号処理部30に送るようになっている。また、変調解析モードでは、ADC20は、アナログデジタル変換により得られたデジタル中間周波数信号S6を測定データ記憶部40に送るようになっている。ADC20は、限定するものではないが、例えば、分解能が16ビット、サンプリングレートが100Msps(samples per second)である。
【0042】
(信号処理部)
信号処理部30は、ADC20により取得されたデジタル中間周波数信号S6に対して、帯域制限や検波処理などのデジタル信号処理を行うものであり、RBW(Resolution BandWidth)フィルタ31、対数変換部32、VBW(Video BandWidth)フィルタ33、および検波器34をこの順で或いは別の適当な順で備えている。例えば、検波器34は、必要に応じて、RBWフィルタ31と対数変換部32の間に入れてもよい。信号処理部30は、限定するものではないが、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)により構成される。
【0043】
RBWフィルタ31は、デジタルのバンドパスフィルタで構成されており、通信規格に応じて設定された分解能帯域幅でデジタル中間周波数信号S6をフィルタリングするようになっている。RBWフィルタ31を通過した信号は、必要ならば増幅器(不図示)によりゲイン調整された後に対数変換部32に送られる。
【0044】
対数変換部32は、RBWフィルタ31から出力された信号の信号レベル(強度または電力)を対数値に変換するようになっている。別言すれば、対数変換部32により、信号レベルがdB単位に変換される。対数変換部32を通過した信号は、次のVBWフィルタ33に入力される。表示部80にログスケールで表示しない場合は、RBWフィルタ31を通った信号を、対数変換部32に送らず、次のVBWフィルタ33に送るように、切替可能な構成となっている。
【0045】
VBWフィルタ33は、例えばデジタルのローパスフィルタで構成され、遮断周波数で定まるビデオ帯域幅を有する。VBWフィルタ33は、対数変換部32から出力される信号に対してあらかじめ定められたビデオ帯域幅の帯域制限処理を行って、表示部80に最終的に表示されるスペクトラム波形の高周波成分(雑音成分)を除去した信号を出力するようになっている。
【0046】
検波器34は、設定された検波モードに従って、VBWフィルタ33から出力された信号の電力を算出し、電力値(検波値)として出力するようになっている。検波モードとして、Positive Peak、Negative Peak、Sample、RMS(Root Mean Square)などがある。
【0047】
測定データ記憶部40は、検波器34による検波処理により得られた電力値を、各周波数ポイントでの測定データ(ポイントデータともいう)として記憶するようになっている。測定データは、被測定信号の周波数成分と該周波数成分の信号電力の値を対で含んでおり、被測定信号のスペクトラム(トレースデータ群)を生成する元データ群である。なお、ゼロスパン測定では、測定データ記憶部40は、検波器34により得られた電力値を、各時間ポイントでの測定データとして記憶するようになっている。
【0048】
本実施形態では、ADC20を中間周波数変換部10と信号処理部30の間に設けているが、構成はこれに限定されず、ADC20を信号処理部30の後に配置してもよい。この場合、信号処理部30はアナログ回路で構成する。
【0049】
(解析処理部)
解析処理部50は、スペクトラム解析モード時に被測定信号S1のスペクトラムを測定・解析するスペクトラム解析部51と、変調解析モード時に被測定信号S1の変調を解析する変調解析部52とを備えている。スペクトラム解析モードと変調解析モードは、ユーザが選択できるようになっている。
【0050】
スペクトラム解析部51は、スペクトラム解析モードで、信号処理部30により検波されて得られる信号電力の測定データに対して、所定の信号解析処理を行うようになっている。スペクトラム解析部51が実行する信号解析処理としては、例えば、被測定信号S1のスペクトラムの生成、チャネルパワー(Channel Power:CHP)、占有帯域幅(Occupied Band Width:OBW)、隣接チャネル漏洩電力比(Adjacent Channel Leakage Ratio:ACLR)、スペクトラムエミッションマスク(Spectrum Emission Mask:SEM)、スプリアス放射、バースト平均電力などの被測定信号の品質を評価するための測定が挙げられる。なお、スペクトラム解析部51は、本発明のスペクトラム生成部に対応する。
【0051】
図1に示すように、スペクトラム解析部51は、トレースデータ生成部51aを備えている。トレースデータ生成部51aは、まず、測定データ記憶部40に記憶された測定データから、各トレースポイントに対応付けられた周波数範囲であるトレースバケット内に周波数成分が存在する測定データを抽出する。そして、トレースデータ生成部51aは、抽出した測定データに基づいて、被測定信号S1のスペクトラムとしてトレースデータ群を生成するようになっている。各トレースデータは、被測定信号S1の周波数成分と該周波数成分での信号電力の値を対で含んでいる。
【0052】
「トレースデータ」は、最終的に表示部80の画面に表示(トレース)される各トレースポイントでの電力値のデータである。例えば、各トレースデータは、トレースポイントごとに割り当てられた周波数範囲(トレースバケット)の中心周波数と、抽出された測定データを検波して得られる電力値の情報を有している。
【0053】
図3は、トレースデータ群の生成を説明するための図である。図3に示すように、スペクトラム解析部51は、後で説明するデータ時間幅制御部60のデータ時間幅設定部63により設定されたデータ時間幅Dに含まれる測定データに対して、トレースデータ生成部51aによるデータ処理を施し、周波数スペクトラムとしてトレースデータ群を生成するようになっている。
【0054】
変調解析部52は、変調解析モードにおいて、被測定信号S1から得られたデジタル中間周波数信号S6を直交復調して、互いに直交する直交信号I(t)およびQ(t)を生成するようになっている。直交復調では、例えばヒルベルト変換を利用した直交分配器を用いることができる。
【0055】
具体的には、変調解析部52は、直交復調により得られた直交信号I(t)およびQ(t)に対して、所定の信号解析処理を行うようになっている。変調解析部52が実行する信号解析処理としては、例えば、被測定信号の振幅(パワー)、位相、周波数などの時間変化を示す時系列データやスペクトラムの生成、チャネルパワー(CHP)、占有帯域幅(OBW)、隣接チャネル漏洩電力比(ACLR)、バースト平均電力、変調精度(EVM)、送信パワーレベル、送信スペクトラムマスク、エラーベクトル振幅などの被測定信号S1の品質を評価するための測定が挙げられる。
【0056】
(制御部)
制御部70は、中間周波数変換部10、ADC20、信号処理部30等の動作を制御し、表示部80への周波数スペクトラムの表示を制御し、各種パラメータの設定を行うよう構成されたものであり、タイミング信号発生部71、掃引信号発生部72、および測定条件設定部73を備えている。なお、本実施形態の制御部70、掃引信号発生部72、および測定条件設定部73は、本発明の周波数設定部、掃引部、および設定部にそれぞれ対応する。
【0057】
タイミング信号発生部71は、設定された掃引時間などのパラメータに基づき、掃引信号発生部72による掃引信号の発生のタイミングを与えるタイミング信号を発生し、掃引信号発生部72に送るようになっている。
【0058】
また、タイミング信号発生部71は、ADC20におけるA/D変換のタイミングを示すタイミング信号を発生し、ADC20に出力する。ADC20は、タイミング信号発生部71から出力されたタイミング信号に同期してA/D変換を行う。
【0059】
具体的には、タイミング信号発生部71は、基準となるクロック信号を分周して各部の駆動周波数に合ったタイミング信号を発生しており、固定周波数(サンプリングレート)のタイミング信号をADC20に出力するとともに、このタイミング信号に同期しサンプリングレートよりも低い周波数のタイミング信号を掃引信号発生部72に出力している。
【0060】
掃引信号発生部72は、スペクトラム解析モードにおいて、局部発振器12から出力される局発信号S3の周波数fLを所定の周波数範囲にわたって周波数掃引するための掃引ランプ信号を生成するようになっている。掃引信号発生部72は、タイミング信号発生部71から送られたタイミング信号に同期して掃引ランプ信号を発生し、局部発振器12に出力する。局部発振器12は、掃引信号発生部72から出力された掃引ランプ信号により発振周波数を変化させる。なお、変調解析モードやゼロスパン測定モードでは、局部発振器12から出力される局発信号S3の周波数fLは固定される。
【0061】
測定条件設定部73は、操作部81等からのユーザ入力に基づき、周波数スパン、掃引開始周波数、掃引終了周波数、中心周波数、RBWフィルタ31の分解能帯域幅、VBWフィルタ33のビデオ帯域幅等のパラメータや測定モードなど、必要な測定条件を設定するよう構成されている。また、測定条件設定部73は、例えばチェックボックスのチェック状況に応じて掃引時間を自動設定するか否かを設定するようになっている。
【0062】
制御部70は、例えばCPU、ROM、RAM、HDD、SDDなどを含むマイクロコンピュータまたはパーソナルコンピュータ等で構成され、信号解析装置1を構成する上記各部の動作を制御する。また、制御部70は、ROM等に記憶された所定のプログラムをRAMに移して実行することにより、信号処理部30、解析処理部50、データ時間幅制御部60の少なくとも一部をソフトウェア的に構成することが可能である。なお、信号処理部30、解析処理部50、およびデータ時間幅制御部60の少なくとも一部は、FPGAやASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのデジタル回路で構成することも可能である。あるいは、信号処理部30、解析処理部50、およびデータ時間幅制御部60の少なくとも一部は、デジタル回路によるハードウェア処理と所定のプログラムによるソフトウェア処理とを適宜組み合わせて構成することも可能である。
【0063】
表示部80は、例えばLCDやCRTなどの表示機器で構成され、解析処理部50による解析処理結果などを表示するようになっている。例えば、スペクトラム解析モードの場合、表示部80は、トレースデータ生成部51aにより生成されたトレースデータ群を、横軸が周波数、縦軸が信号電力を示す表示画面に周波数スペクトラムの波形として表示する。また、表示部80は、制御部70から出力される制御信号に応じて、測定条件などを設定するためのボタン、ソフトキー、プルダウンメニュー、テキストボックスなどの操作対象の表示を行うようになっている。
【0064】
操作部81は、ユーザによる操作入力を受け付けるためのものであり、例えば表示部80に設けられたタッチパネルで構成される。あるいは、操作部81は、キーボードまたはマウスのような入力デバイスを含んで構成されてもよい。また、操作部81は、リモートコマンドなどによる遠隔制御を行う外部制御装置で構成されてもよい。操作部81への操作入力は、制御部70により検知されるようになっている。例えば、操作部81により、送信電力、送信周波数、通信規格名に関する情報をユーザが設定することや、変調解析モードとスペクトラム解析モードの切り替えをユーザが指定することなどが可能である。
【0065】
図9は、測定条件の設定時において表示部80に表示された表示画面100の一例である。図9に示すように、操作部81の操作により表示部80上で設定されたデータを基に、測定条件設定部73が測定条件を設定する。
【0066】
図9に示す表示画面100は、測定対象設定部101、測定項目設定部102、およびスプリアス測定設定部103を含んでいる。
【0067】
測定対象設定部101は、設定項目として送信電力および送信周波数を含み、操作部81を操作してDUT2から送信される際の送信電力および送信周波数を設定できるようになっている。
【0068】
測定項目設定部102は、測定項目として送信電力等、スプリアス、占有周波数帯域、および隣接チャネル漏洩電力を含み、操作部81を操作してチェックボックスにチェックを入れることにより、測定項目を選択できるようになっている。
【0069】
測定項目設定部102においてスプリアスが選択されている場合、スプリアス測定設定部103が表示される。スプリアス測定設定部103は、規格設定部104、測定パラメータ設定部105、掃引時間自動設定部106、およびゼロスパン測定設定部107を含んでいる。
【0070】
規格設定部104は、操作部81を操作してDUT2の通信規格を設定できるようになっている。
【0071】
測定パラメータ設定部105は、設定項目として掃引開始周波数、掃引終了周波数、アッテネータ、分解能帯域幅、ビデオ帯域幅、検波モード、および掃引時間を含み、操作部81を操作して各測定パラメータを設定できるようになっている。
【0072】
掃引時間自動設定部106は、ユーザが操作部81を操作してチェックボックスにチェックを入れることにより、掃引時間の自動設定を設定するようになっている。
【0073】
ゼロスパン測定設定部107は、設定項目としてマージン、分解能帯域幅、ビデオ帯域幅、検波方式を含み、操作部81を操作して各設定項目を設定できるようになっている。
【0074】
(データ時間幅制御部)
次に、データ時間幅制御部60について説明する。
【0075】
データ時間幅制御部60は、スペクトラム解析に用いる測定データのデータ時間幅Dを制御するものであり、図1に示すように、データ時間幅制御部60は、バースト波判定部61、バースト周期算出部62、およびデータ時間幅設定部63を備えている。
【0076】
バースト波判定部61は、スペクトラム解析モード時にスペクトラム解析を行う前の準備段階にて、測定データから被測定信号が周期性のバースト波であるか否かを判定するようになっている。具体的には、バースト波判定時に、測定部3が、測定周波数をバースト信号のメイン周波数に固定したゼロスパンモードで所定の時間間隔で被測定信号の電力を測定して事前測定データ(以後、単に測定データとも称する)を取得する。そして、バースト波判定部61が、測定データから最大値と最小値を取得し、最大値と最小値の差がバースト波判定用の閾値よりも大きいか否かを調べ、大きい場合にバースト波であると判定し、小さい場合に連続波であると判定する。
【0077】
バースト周期算出部62は、被測定信号がバースト波であると判定された場合、バースト信号のメイン周波数を測定周波数として設定した場合に測定部3により取得された電力の事前測定データから、バースト信号の周期と必要に応じてバースト幅を算出する。事前測定データは、各時間ポイントにおける電力値のデータ、すなわち時間ドメインの電力値データである。バースト周期算出部62により用いられる事前測定データとして、バースト波判定時に取得された事前測定データを代用してもよい。
【0078】
具体的には、バースト周期算出部62は、まず、立上り閾値と立下り閾値とトリガ条件を設定する。立上り閾値は、例えば測定部3により測定した電力の最大値の2/3程度としてもよく、立下り閾値は、例えば測定部3により測定した電力の最小値の2/3程度としてもよい。次いで、測定部3は、制御部70の制御下にて、測定周波数をバースト信号のメイン周波数に固定するゼロスパンモードで所定の時間の間、所定の時間間隔にて被測定信号の電力を測定して測定データを測定データ記憶部40に格納する。バースト周期算出部62は、測定データ記憶部40から測定データを読み出し、測定データとトリガレベルを比較し、最初の立上り、最初の立下り、次の立上りを検出する。そして、バースト周期算出部62は、2番目の立上りの時間t3と最初の立上りの時間t1との差(t3-t1)をバースト信号の周期Tとして算出する。また、バースト周期算出部62は、最初の立下り時間t2と最初の立上り時間t1との差(t2-t1)をバースト幅Wとして算出する(図2参照)。
【0079】
データ時間幅設定部63は、算出した周期Tに基づいてトレースデータ群の生成に用いる測定データの時間幅であるデータ時間幅Dを設定するようになっている。掃引信号発生部72は、データ時間幅Dに等しい掃引時間で測定周波数の掃引を行う。ここで「掃引時間」とは、信号解析装置1において設定された掃引開始周波数と掃引終了周波数により定まる周波数範囲を掃引するのに費やされる時間である。掃引信号発生部72は、設定された掃引時間に基づいて掃引ランプ信号を発生し、局部発振器12からの局発信号S3の周波数を掃引する。
【0080】
データ時間幅設定部63は、例えば、1トレースデータの生成に用いる測定データの時間幅が、バースト周期算出部62により算出された周期以上となるように、データ時間幅Dすなわち掃引時間を設定する。これにより、1トレースデータの測定に少なくとも1周期分のバースト波を必ず含むので、バースト信号のオフ区間の測定がスペクトラムの測定結果を不正確にすることを抑制することができ、バースト信号の電力の測定をより正確に行うことができる。
【0081】
(追い込み処理部)
追い込み処理部90は、バースト信号のスプリアス成分の電力をゼロスパンモードにて所定の時間間隔で測定して得られた時間ドメインの電力測定データ(単に測定データともいう)を基に、スプリアス成分の電力値をより精密に算出するものである。このために、追い込み処理部90は、データ取得部91と区間設定部92と区間平均算出部93と電力値決定部94とを有している。なお、本実施形態の追い込み処理部90は、本発明の算出部に対応する。
【0082】
データ取得部91は、測定部3によりバースト信号のスプリアス成分の電力をゼロスパンモードにて所定の時間間隔で測定して得られた時間ドメインの測定データのうち、バースト信号の周期Tの2倍の時間長を有する対象区間Lに含まれる測定データを、測定データ記憶部40から取得するようになっている。時間ドメインの測定データは、各時間ポイントでの信号電力の測定値を示すデータである。
【0083】
区間設定部92は、対象区間L内おいてバースト幅Wに対応する算出区間Sを設定あるいはスライドさせるようになっている。区間設定部92は、区間平均算出部93により区間平均値が算出されるごとに算出区間Sを所定のステップ幅(例えば1測定データ幅)でスライドさせるようになっている。バースト信号の周期Tとバースト幅Wの情報は、バースト周期算出部62により取得される。
【0084】
区間平均算出部93は、区間設定部92により設定された算出区間Sに含まれる測定データの平均値(区間平均値)を算出するようになっている。区間平均算出部93は、区間設定部92が対象区間L内において算出区間Sをスライドさせるごとに、区間平均値を算出する。対象区間Lの時間長は、バースト信号の周期Tの2倍とするのが好ましいが、これに限定されず、バースト信号の周期Tとバースト幅Wの和の時間長に等しくしてもよい。
【0085】
また、対象区間Lの時間長は、バースト信号の周期T以上に設定してもよい。例えば、対象区間Lの時間長がバースト信号の周期Tに等しい場合は、データ取得部91は、オン区間の測定データが連続して得られるように、適切な時間ポイントから測定データを取得するようにする。
【0086】
電力値決定部94は、区間設定部92により算出区間をスライドさせつつ区間平均算出部93により算出された区間平均値のうち、最大となる区間平均値をスプリアス成分の電力値として決定するようになっている。
【0087】
上述のように、追い込み処理部90は、バースト周期の2周期分の対象区間L内においてバースト幅に対応する算出区間Sをスライドさせながら算出区間S内の電力測定データの区間平均値を算出していき、算出された区間平均値のうち最大となる区間平均値をスプリアス成分の電力値として決定する「追い込み処理」を実行する。
【0088】
図4は、バースト信号のスプリアス成分の追い込み処理を説明する図である。図4において、符号200で示す部分は、周期Tおよびバースト幅Wのバースト信号を示す。対象区間Lは、バースト信号の周期Tの2倍に設定されている。符号210で示す部分は、対象区間L内において算出区間Sがスライドされている様子を示している。算出区間Sの左端が対象区間Lの左端に一致した状態から開始し、所定のステップ幅(1測定データ分)ずつスライドさせ、算出区間Sの右端が対象区間Lの右端に達した状態になるとスライドを終了する。符号220で示す部分は、スライド毎に算出区間Sに含まれる電力測定データの区間平均値をプロットした図である。算出区間Sがバースト信号のオン区間に一致したとき、区間平均値が最大あるいは極大を示している。
【0089】
本実施形態では、区間設定部92が、対象区間L内において算出区間Sを対象区間Lの一端部から他端部に向けて測定データ1個に対応する時間幅のステップ幅でスライドさせるごとに、区間平均算出部93が、算出区間S内の電力測定データの区間平均値を算出するが、これに限定されない。
【0090】
例えば、区間設定部92が、対象区間L内において算出区間Sを対象区間Lの一端部から他端部に向けて第1のステップ幅でスライドさせるごとに、区間平均算出部93が、算出区間S内の電力測定データの区間平均値を算出していき該区間平均値と所定の閾値を比較してスライド範囲を限定し、限定したスライド範囲において区間設定部92が算出区間Sを第1のステップ幅より小さい第2のステップ幅でスライドさせるごとに、区間平均算出部93が算出区間S内の電力測定データの区間平均値を算出するようにしてもよい。電力値決定部94は、第2のステップ幅でスライドさせるごとに算出された区間平均値のうち最大となる区間平均値をスプリアス成分の電力値として決定する。
【0091】
また、区間設定部92は、区間平均算出部93により算出された区間平均値のうち極大を示す区間平均値が取得できると、以後のスライド操作を中止し、電力値決定部94が、極大を示す区間平均値をスプリアス成分の電力値として決定するようにしてもよい。これにより、より短い時間で追い込み処理を実行することができる。
【0092】
(信号解析方法)
次に、本実施形態に係る信号解析方法を説明する。
【0093】
図5は、本実施形態に係る信号解析方法のフローチャートである。図5に示すように、まず、測定条件設定部73が測定条件を設定する(ステップST1)。測定条件設定部73は、ユーザによる操作部81の操作に従って信号解析に必要なパラメータや測定モード等の測定条件を設定してもよいし、自動で設定してもよい。設定する測定条件としては、例えば、測定モード、送信電力、送信周波数、測定項目、通信規格、掃引開始周波数、掃引終了周波数、分解能帯域幅、ビデオ帯域幅、掃引時間自動設定などが挙げられる。
【0094】
測定モードとして、スペクトラム解析モードと変調解析モードがある。測定モードがスペクトラム解析モードに設定されている場合、スペクトラム解析を行い、変調解析モードに設定されている場合、変調解析を実行する。以下では、スペクトラム解析モードが設定されている場合について説明する。
【0095】
制御部70は、測定条件設定部73により設定された掃引時間自動設定の設定状態を確認し、掃引時間自動設定が有効か否かを判定する(ステップST2)。
【0096】
掃引時間自動設定が有効に設定されている場合(ステップST2でYES)、データ時間幅制御部60は、掃引時間の自動設定を行う(ステップST3)。掃引時間自動設定が有効に設定されていない場合(ステップST2でNO)、ユーザが手動で掃引時間を設定する(ステップST4)。
【0097】
信号解析装置1は、データ時間幅制御部60により設定された掃引時間を用いて、制御部70の制御下でスペクトラムの測定を行い(ステップST5)、表示部80にスペクトラムの測定結果を表示する(ステップST6)。
【0098】
次に、掃引時間の自動設定ステップST3について説明する。
【0099】
図5に示すように、測定条件設定部73は、掃引時間の自動設定に必要な測定の測定条件を設定する(ステップST10)。測定条件設定部73は、ユーザによる操作部81の操作に従ってパラメータ等の測定条件を設定してもよいし、自動で設定してもよい。設定する測定条件としては、例えば、測定モード、測定周波数、分解能帯域幅(RBW)、ビデオ帯域幅(VBW)、トレースポイント数、検波方式等が挙げられる。ここで、測定モードとしては、ゼロスパン測定モードに設定される。測定周波数は、バースト信号のメイン周波数(送信周波数)に設定される。
【0100】
信号解析装置1の測定部3は、制御部70の制御下で所定時間の間、所定の時間間隔にて設定された測定周波数でのゼロスパン測定を実行する(ステップST11)。ゼロスパン測定により得られた、各時間ポイントでの検波値は、測定データとして測定データ記憶部40に格納される。
【0101】
バースト波判定部61は、ゼロスパン測定により得られた測定データから信号電力の最大値と最小値を検出する(ステップST12)。
【0102】
バースト波判定部61は、信号電力の最大値と最小値の差が、バースト波判定用の閾値より大きいか否かを判定し(ステップST13)、大きいならば(ステップST13でYES)、バースト波と判定し(ST14)、そうでないならば(ステップST13でNO)、連続波と判定する(ST18)。
【0103】
ステップST13およびST14にてバースト波と判定された場合、バースト周期算出部62は、トリガレベルとして立上り閾値および立下り閾値を算出する(ステップST15)。バースト周期算出部62は、例えば、立上り閾値を信号電力の最大値の2/3程度とし、立下り閾値を信号電力の最小値の2/3程度とする。
【0104】
バースト周期算出部62は、立上り閾値および立下り閾値を用いて、バースト周期および必要に応じてバースト幅を算出する(ステップST16)。
【0105】
データ時間幅設定部63は、算出されたバースト周期に基づいて掃引時間を設定する(ステップST17)。具体的には、データ時間幅設定部63は、1トレースデータ(あるいはトレースポイント)当たりの掃引時間が、バースト周期算出部62により算出されたバースト信号の周期Tよりも長くなるように、掃引信号発生部72における掃引時間(データ時間幅)を設定する。
【0106】
次に、バースト周期およびバースト幅の算出ステップST16について説明する。
【0107】
図7に示すように、測定条件設定部73は、立上り閾値、立下り閾値などのトリガレベルを測定条件として設定する(ステップST20)。
【0108】
信号解析装置1は、制御部70の制御下で所定時間の間、所定の時間間隔にて設定された測定周波数にてゼロスパン測定を実行する(ステップST21)。ゼロスパン測定により得られた、各時間ポイントでの電力値は、測定データとして測定データ記憶部40に格納される。なお、このゼロスパン測定のステップST21は、ゼロスパン測定ステップST11の結果を代用する場合には、省略してもよい。
【0109】
バースト周期算出部62は、測定データ記憶部40からゼロスパン測定の測定データを読み出し、トリガレベルと比較して、最初の立上り、最初の立下り、および次の(2番目)の立上りを検出する(ステップST22)。
【0110】
バースト周期算出部62は、2番目の立上り時間t3から最初の立上り時間t1を引き、その差分(t3-t1)をバースト信号の周期Tとして取得する(ステップST23)(図2参照)。また、バースト周期算出部62は、最初の立下り時間t2から最初の立上り時間t1を引き、その差分(t2-t1)をバースト幅Wとして取得する(ST24)(図2参照)。
【0111】
(スプリアス測定)
次に、バースト信号のスプリアス成分の電力の精密な測定について説明する。
【0112】
図8に示すように、制御部70は、バースト信号のスペクトラム解析により、あるいはユーザ入力により、バースト信号のスプリアス成分の周波数の情報を取得する(ステップST30)。
【0113】
制御部70の測定条件設定部73は、スプリアス測定に必要な測定条件を設定する(ステップST31)。測定条件設定部73は、ユーザによる操作部81の操作に従ってパラメータ等の測定条件を設定してもよいし、自動で設定してもよい。設定する測定条件としては、例えば、測定モード、測定周波数、分解能帯域幅(RBW)、ビデオ帯域幅(VBW)、トレースポイント数、検波方式が挙げられる。ここで、測定モードとしては、ゼロスパン測定モードに設定される。
【0114】
信号解析装置1は、制御部70の制御下において、所定の時間の間、所定の時間間隔にてスプリアス成分の周波数でのゼロスパン測定を実行する(ステップST32)。ゼロスパン測定により得られた時間ドメインの電力測定データは測定データ記憶部40に格納される。
【0115】
次いで、追い込み処理部90は、電力測定データを用いて追い込み処理を実行する。具体的には、データ取得部91は、所定の時間長の対象区間Lに対応した電力測定データを測定データ記憶部40から取得する(ステップST33)。本実施形態では、対象区間Lは、バースト信号の周期Tの2倍に等しい。
【0116】
追い込み処理部90の区間設定部92は、対象区間L内においてバースト幅Wに対応する算出区間Sを、対象区間Lの一方の端部からもう一方の端部に向けて、所定のステップ幅(例えば1測定データ分)でスライドさせる(ステップST34)。
【0117】
区間平均算出部93は、区間設定部92によるスライド操作ごとに算出区間S内の電力測定データの区間平均値を算出する(ステップST35)。
【0118】
区間設定部92は、例えば、算出区間Sの端部が対象区間Lの他端に到達したか否かを判断することにより、算出区間Sのスライド操作が終了したか否かを判定する(ステップST36)。
【0119】
スライド操作が終了していないと判定された場合(ステップST36でNO)、ステップST34に戻る。スライド操作が終了したと判定された場合(ステップST36でYES)、電力値決定部94は、区間平均算出部93により算出された区間平均値のうち最大となる区間平均値を検出し、スプリアス成分の電力値として決定する(ステップST37)。決定されたスプリアス分の電力値の情報は、表示部80に表示するようにしてもよい。
【0120】
(作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係る信号解析装置1は、追い込み処理部90が、スプリアス成分の周波数でのゼロスパン測定により得られた時間ドメインの電力測定データから、バースト信号の2周期分の時間長の対象区間L内に取得された電力測定データを取得し、対象区間L内においてバースト幅Wに対応する算出区間Sをスライドさせるごとに、算出区間S内の電力測定データの区間平均値を算出し、算出された区間平均値のうち最大となる区間平均値をスプリアス成分の電力値として決定するようになっている。この構成により、従来技術のように信号電力の測定時にバースト信号のオン区間およびオフ区間を判別して測定する必要がなく、バースト信号のオン区間のみを対象としてスプリアス成分の電力を精度よく測定することができる。また、単に電力測定データの最大値からスプリアス成分の電力を求めると、ノイズの電力を誤って採用する恐れがあるが、本実施形態の追い込み処理によりノイズの影響を受けにくくなっている。
【0121】
また、データ取得部91により電力測定データが取得される対象区間Lが、少なくともバースト周期の2周期分であるので、対象区間L内にバースト信号のオン区間が分離せず完全な形で1つは存在するので、算出区間Sの適切なスライド操作により算出区間Sをバースト信号のオン区間に対応させることができる。これにより、バースト信号のオン区間のみを対象としてスプリアス成分の電力を精度よく測定することができる。
【0122】
また、本実施形態の信号解析装置1は、バースト信号の周期Tおよびバースト幅Wを算出するバースト周期算出部62を備え、追い込み処理部90は、算出されたバースト信号の周期Tおよびバースト幅Wに基づいて追い込み処理を実行するようになっている。この構成により、バースト信号の周期Tやバースト幅Wが不明の場合であっても、手動で入力する必要がなく、バースト信号のオン区間のみの電力を測定することができるので、バースト信号のスプリアス成分の電力を精度よく測定することができる。また、人為的な操作ミスも少なくなるので、測定結果に生じた問題が、被測定信号を送信するDUT2に起因するものか、信号解析装置1の設定に起因するものか等の要因の分析を容易に行うことができる。
【0123】
上記実施形態では、対象区間Lをバースト信号の周期Tの2倍に設定したが、これに限定されず、対象区間Lは、2周期分より長くてもよく、また、少なくとも1周期T+バースト幅Wあれば、データ取得部91が任意の時間ポイントから開始して取得した電力測定データであっても、対象区間L内に1つのオン区間を含むことができる。
【0124】
上記の実施形態の信号解析装置1は、周波数掃引型の構成であったが、これに限定されず、FFT型の構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0125】
以上述べたように、本発明は、バースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができるという効果を有し、掃引型、FFT型を問わず、バースト信号を解析する信号解析装置および信号解析方法として有用である。
【符号の説明】
【0126】
1 信号解析装置
2 DUT
3 測定部
10 中間周波数変換部
11 アッテネータ
12 局部発振器
13 ミキサ
14 バンドパスフィルタ
20 アナログデジタル変換器(ADC)
30 信号処理部
31 RBWフィルタ
32 対数変換器
33 VBWフィルタ
34 検波器
40 測定データ記憶部
50 解析処理部
51 スペクトラム解析部
51a トレースデータ生成部
52 変調解析部
60 データ時間幅制御部
61 バースト波判定部
62 バースト周期算出部(バースト特性測定部)
63 データ時間幅設定部
70 制御部(周波数設定部)
71 タイミング信号発生部
72 掃引信号発生部
73 測定条件設定部
80 表示部
81 操作部
90 追い込み処理部(算出部)
91 データ取得部
92 区間設定部
93 区間平均算出部
94 電力値決定部
100 表示画面
【要約】      (修正有)
【課題】バースト信号のスプリアス成分の電力を高い精度で測定することができる信号解析装置および信号解析方法を提供する。
【解決手段】測定周波数を設定する制御部70と、被測定信号のうち測定周波数の信号成分の電力を所定の時間間隔で測定して電力の測定データを取得する測定部3と、制御部がバースト信号のスプリアス成分の周波数を測定周波数として設定した条件下で測定部により取得された時間ドメインの電力測定データから、スプリアス成分の電力値を算出する追い込み処理部90と、を備える。追い込み処理部は、バースト信号の2周期の時間長の対象区間内においてバースト幅に対応する算出区間をスライドさせるごとに、算出区間内の電力測定データの平均値を算出する区間平均算出部93と、算出した平均値のうち最大となる平均値をスプリアス成分の電力値として決定する電力値決定部94とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9