(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】校正装置、校正方法及び工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 23/00 20060101AFI20230720BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20230720BHJP
G01B 5/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B23Q23/00
B23Q17/00 A
G01B5/00 P
(21)【出願番号】P 2022067598
(22)【出願日】2022-04-15
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】黄 穂生
(72)【発明者】
【氏名】中村 風人
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-519137(JP,A)
【文献】特表2019-509902(JP,A)
【文献】特開2021-074806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 23/00
B23Q 15/00
B23Q 17/00
G01B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械で用いるタッチプローブのための校正装置であって、
棒状に形成され、軸方向に沿って前記校正装置から進出可能な軸部と、
内側において前記軸部を支持する外筒部と、
前記外筒部の内部に配置され、進出する方向へ向けて前記軸部を付勢する付勢部と、
前記外筒部に配置され、前記軸部を前記外筒部に対して固定可能な固定部と、
前記軸部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、
前記軸部の先端に形成され、前記軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部と、を備える校正装置。
【請求項2】
工作機械で用いるタッチプローブのための校正装置であって、
棒状に形成され、軸方向に沿って前記校正装置から進出可能な軸部と、
内側において前記軸部を支持する外筒部と、
前記外筒部の内部に配置され、進出する方向へ向けて前記軸部を付勢する付勢部と、
前記外筒部に配置され、前記軸部を前記外筒部に対して固定可能な固定部と、
前記外筒部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、
前記軸部の先端部に形成され、前記軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部と、を備える校正装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の校正装置を取り付け可能な前記工作機械であって、
加工工具を取付けるための主軸であって、前記加工工具に代えて基準工具及び前記タッチプローブを取り付け可能な主軸と、
加工対象が取付けられるテーブルと、
前記主軸と前記テーブルとを相対移動させる送り軸部と、を備える工作機械。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の校正装置を用いた前記タッチプローブの校正方法であって、
前記校正装置を前記工作機械に配置することと、
前記工作機械の主軸に基準工具を取り付け、前記基準工具の先端が前記軸部の前記Z校正部の軸方向上方側の位置になるように前記主軸を移動させることと、
前記付勢部によって前記軸部を前記基準工具へ向けて付勢することと、
前記基準工具に当接した前記軸部を前記固定部で固定することと、
前記工作機械の前記主軸に前記タッチプローブを取り付けることと、
前記軸部の軸方向と直交する方向の仮座標を取得し、該仮座標に基づいて該軸方向及び該軸方向と直交する方向の校正値を取得することと、を含む校正方法。
【請求項5】
前記校正装置を前記工作機械に配置することと、前記基準工具に当接した前記軸部を前記固定部で固定することとは、マニピュレーターを用いて行い、
前記工作機械の前記主軸に前記基準工具を取り付けることと、前記工作機械の前記主軸に前記タッチプローブを取り付けることとは、工具交換装置を用いて行う、請求項4に記載の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、校正装置、校正方法及び工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、加工を精度よく行うために加工対象となるワークの位置情報、すなわち座標を必要とする。位置情報は、加工する現場において作業者がワークを工作機械に取り付けた後に、作業者の手作業による測定、又は、工作機械に装備され、センサを備えた測定装置による測定によって取得される。ここでいう測定装置とは、センサを有する測定システムであるため、基準となるゲージ等を用いて測定誤差を認識し、測定結果を校正する必要がある。このような校正作業は、キャリブレーション作業とも呼ばれ、測定結果の精度はキャリブレーション作業の精度に強く依存する。
【0003】
特許文献1には、工作機械に取り付け可能なベースと、球状のキャリブレーションアーチファクトとを含む工作機械用のキャリブレーション装置が開示されている。しかしながら、上下方向、すなわちZ軸方向の座標原点は、基準工具とゲージブロックとを用いて手動で取得する必要がある。具体的には、測定者は、ゲージブロックが基準工具と球との間に挟み込まれるまで工具を手動で下降するといった工程が必要となり、キャリブレーション装置を使用する場合であってもキャリブレーション作業は煩雑なものとなる。また、水平方向、すなわちX軸方向及びY軸方向座標とZ軸方向座標のキャブレーション作業は別個に行う必要がある。このため、キャリブレーション作業の作業時間と作業工数が増加する。さらに、手作業を伴うキャリブレーション作業には技能が必要とされるため、測定者の技能に応じて測定精度にばらつきが生じ、このような煩雑な作業に係る技能を他人に教えることも容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情を鑑み、加工対象測定用のタッチプローブを容易に校正することができる校正装置、校正方法及び工作機械の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様によれば、工作機械で用いるタッチプローブのための校正装置であって、棒状に形成され、軸方向に沿って校正装置から進出可能な軸部と、内側において軸部を支持する外筒部と、外筒部の内部に配置され、進出する方向へ向けて軸部を付勢する付勢部と、外筒部に配置され、軸部を外筒部に対して固定可能な固定部と、軸部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、軸部の先端に形成され、軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部と、を備える、校正装置が提供される。
【0007】
また、本発明の一の態様によれば、工作機械で用いるタッチプローブのための校正装置であって、棒状に形成され、軸方向に沿って校正装置から進出可能な軸部と、内側において軸部を支持する外筒部と、外筒部の内部に配置され、進出する方向へ向けて軸部を付勢する付勢部と、外筒部に配置され、軸部を外筒部に対して固定可能な固定部と、外筒部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、軸部の先端部に形成され、軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部と、を備える、校正装置が提供される。
【0008】
さらに、本発明の一の態様によれば、本発明の一の態様に係る校正装置が取り付け可能な工作機械であって、加工工具を取付けるための主軸であって、加工工具に代えて基準工具及びタッチプローブを取り付け可能な主軸と、加工対象が取付けられるテーブルと、主軸とテーブルとを相対移動させる送り軸部と、を備える工作機械が提供される。
【0009】
また、本発明の一の態様によれば、本発明の一の態様に係る校正装置を用いたタッチプローブの校正方法であって、校正装置を工作機械に配置することと、工作機械の主軸に基準工具を取り付け、基準工具の先端が軸部のZ校正部の軸方向上方側の位置になるように主軸を移動させることと、付勢部によって軸部を基準工具へ向けて付勢することと、基準工具に当接した軸部を固定部で固定することと、工作機械の主軸にタッチプローブを取り付けることと、軸部の軸方向と直交する方向の仮座標を取得し、仮座標に基づいて軸方向及び軸方向と直交する方向の校正値を取得することと、を含む校正方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一の態様に係る校正装置によると、校正装置は、軸方向に沿って校正装置から進出可能な軸部と、進出する方向へ向けて軸部を付勢する付勢部と、軸部を外筒部に対して固定可能な固定部とを備える。このため、軸部を付勢部によって付勢し、軸部が進出した位置で固定することができるため、軸部の軸方向における位置決めを簡便、かつ、短時間に行うことができる。また、校正装置は、軸部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、軸部の先端に形成され、軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部とを備える。このため、軸部に沿った方向及び軸部に直交する方向の位置合わせを1つの軸部、すなわち校正装置で簡便に行うことができる。これによって、作業者の技能レベルに依存することなく、簡便に校正作業を行うことができ、このような校正作業を定期的に行うことも可能になるため、加工品の品質、すなわち加工精度を安定させることができる。
【0011】
本発明の一の態様に係る校正装置によると、校正装置は、軸方向に沿って校正装置から進出可能な軸部と、進出する方向へ向けて軸部を付勢する付勢部と、軸部を外筒部に対して固定可能な固定部とを備える。このため、軸部を付勢部によって付勢し、軸部が進出した位置で固定することができるため、軸部の軸方向における位置決めを簡便、かつ、短時間に行うことができる。また、校正装置は、外筒部の外周面に沿って形成されたXY校正部と、軸部の先端に形成され、軸部の軸方向と直交する平面を有するZ校正部とを備える。このため、軸部に沿った方向及び軸部に直交する方向の位置合わせを1つの軸部、すなわち校正装置で簡便に行うことができる。これによって、作業者の技能レベルに依存することなく、簡便に校正作業を行うことができ、このような校正作業を定期的に行うことも可能になるため、加工品の品質、すなわち加工精度を安定させることができる。
【0012】
本発明の一の態様に係る工作機械によると、本発明の一の態様に係る校正装置を取り付けることができると共に、主軸に基準工具及びタッチプローブを取り付けることができる。このため、校正作業を簡便かつ短時間で行うことができる。
【0013】
本発明の一の態様に係る校正方法によると、軸部に沿った方向及び軸部に直交する方向の位置合わせを1つの校正装置で連続的に行うことができる。これによって、簡便かつ短時間で校正作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る校正装置の斜視図を示す。
【
図2】
図2は、校正装置の軸部を進出させた状態の斜視図を示す。
【
図5】
図5は、基準工具と校正装置とが取り付けられた工作機械の側面図を示す。
【
図6】
図6は、仮の基準座標と基準座標の関係を表すZ校正部の平面図を示す。
【
図7】
図7は、タッチプローブの校正方法を説明するための斜視図を示す。
【
図8】
図8は、X軸方向及びY軸方向の基準座標の取得方法を説明するための平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る校正装置、工作機械及び校正方法を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。
図1及び
図2に、校正装置10の斜視図を示す。
図5及び
図7に示すように、校正装置10は、工作機械50において、例えば、ワーク(図示省略)の位置を正確に測定することを目的としてタッチプローブ60の位置を校正するために用いられる。このため、校正装置10は、加工対象としてのワーク(図示省略)を取り付けるための工作機械50のテーブル52に取り付けられる。図中には、工作機械50を工場等の床面のような水平面上に配置したときの装置前後方向、装置左右方向及び装置上下方向を矢印で示す。図中のXは、装置左右方向(X軸方向)を示しており、Yは、装置前後方向(Y軸方向)を示しており、Zは、装置上下方向(Z軸方向)を示す。
【0017】
図1及び
図2に示すように、校正装置10は、外筒部12と、軸部14と、固定部16とを備える。校正装置10は、外筒部12を工作機械50のテーブル52(
図5参照)の上面に配置し、棒状に形成された金属製の軸部14を外筒部12の上方側へ向けて進出させる。このとき、進出した軸部14の位置を固定するために固定部16が形成されている。
【0018】
図1及び
図3に示すように、外筒部12は、金属製であり、その外周形状は円柱状に形成されている。外筒部12の上方側の中心部には、軸部14を締め付けるための円筒状の締付部18が外筒部12と一体で形成されている。締付部18及び外筒部12の中心部は、外筒部12及び締付部18に収容される軸部14の軸方向、すなわちZ軸方向に沿って穴部20が貫通形成されている。締付部18及び外筒部12の上方側部分における穴部20の内径は、軸部14を収容し、かつ、締め付けることができるように、軸部14の外径とほぼ同一に形成されている。
【0019】
図3に示すように、外筒部12の底面側には、穴部20を塞ぐように磁石22が配置されている。このため、金属製のテーブル52(
図5参照)に配置された校正装置10の位置がずれないように安定させることができる。穴部20に収容された軸部14の下端部と磁石22との間には、付勢部としてのコイルバネ24が配置されている。このため、穴部20に収容された軸部14を上方側、すなわち基準工具56及びタッチプローブ60側(
図5及び
図7参照)へ向けて付勢することができる。これによって、軸部14の上方側に配置された基準工具56に軸部14を当接させることができる。
【0020】
穴部20に収容された軸部14の上方側には、外周形状が円柱状に形成されたXY校正部26が形成されている。XY校正部26は、軸部14の他の部分よりも軸部14の径方向に延在し、かつ、その中心軸が軸部14の中心軸と一致するように形成されている。
【0021】
軸部14の先端には、軸部14の軸方向と直交する、すなわち校正装置10が取り付けられるテーブル52の上面(水平面)に平行な平面を有するZ校正部28が形成されている。このため、Z校正部28の平面上における、いかなるX軸方向及びY軸方向の位置に基準工具56及びタッチプローブ60が当接した場合であっても、当接した位置におけるZ軸方向の位置を一定にすることができる。
【0022】
図4に示すように、締付部18の径方向外側に形成された固定部16は、締付部18を押圧するための金属製の押圧部30と、押圧部30を加圧するための金属製のカムレバー32と、押圧部30の外側を覆うように配置された硬質樹脂製の覆い部34と、カムレバーを突き当てる突き当て部31と、を有する。なお、ここでは、覆い部34は硬質樹脂製として説明するが、これに限らず、覆い部が硬質樹脂以外の他の材料で構成されてもよい。
【0023】
押圧部30は、締付部18の外側を囲むように、すなわち挟み込むように形成され、内幅が締付部18の外径と同一に形成された内側部36を有する。また、押圧部30の一方の長手方向端部は、外筒部12にボルトで締結されており、他方の長手方向端部には内側部36まで貫通する隙間30aが形成されている。さらに、押圧部30の他方の長手方向端部には、軸部分が隙間30aまで延在するピン38が取り付けられている。押圧部30の外側は、覆い部34に覆われており、覆い部34は、その内側部分がピン38と当接するように形成されている。覆い部34の外側には、覆い部34を挟んでピン38の頭部とピン38の軸方向に沿って対向する部分にカムレバー32が配置されている。
【0024】
図3及び
図4に示すように、カムレバー32は、Z軸方向に沿って延在し、下端が外筒部12に連結された中心軸周りに水平方向に沿って回動可能に形成されている。また、カムレバー32は、中心軸側においてカム形状に形成されたカム部32aと、カム部32aから中心軸の径方向、ここでは水平方向に沿って延在するレバー部32bとを有する。このため、レバー部32bを突き当て部31に当接する側へ向けて回動させるとカム部32aがピン38及び押圧部30を押圧するため、内側部36は締付部18を押圧する。これによって、締付部18が軸部14を締め付けるため、軸部14を締付部18に対して固定することができる。また、レバー部32bを突き当て部31から離隔する側(
図2参照)へ向けて回動させると、ピン38及び押圧部30はカム部32aによって押圧されなくなるため、内側部36は締付部18を押圧しなくなる。これによって、締付部18は軸部14を解放するため、軸部14はコイルバネ24のばね力によって上方側へ向けて進出することができる。
【0025】
校正方法の説明を通じて、本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50の作用効果を以下に説明する。
【0026】
図5に示すように、はじめに、加工対象測定用のタッチプローブ60(
図7参照)の校正を行う工作機械50のテーブル52に校正装置10を設置する。ここで、Z校正部28の上面(平面)が、工作機械50の工具を取り付けるための主軸54の下側端面に対して平行になるように、すなわちZ校正部28の平面が水平になるように校正装置10を設置する。
【0027】
つぎに、長さLTが明らかになっている基準工具56を主軸54に装着し、基準工具56の位置決めをする。位置決めは、工作機械50に配置され、主軸54をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に沿って移動させるための送り軸部としての送り軸装置(図示省略)によって、校正装置10の軸部14の上方側に位置するように位置決めされる。
【0028】
基準工具56が位置決めされると、固定部16のカムレバー32を校正装置10の外側へ向けて回動させて、軸部14(図中一点鎖線)の固定を解除する。このため、軸部14(図中実線)はコイルバネ24によって付勢され、Z校正部28が基準工具56の先端に接触するまで上方側へ向けて上昇する。Z校正部28と基準工具56の先端とが当接した状態で、カムレバー32を突き当て部31側へ向けて回動させて、軸部14を固定する。
【0029】
図6に示すように、Z校正部28の平面に基準工具56の先端が当接した位置が、Z軸方向の基準Z座標Zmとされる。また、基準Z座標Zmを設定したX軸方向及びY軸方向の位置は、必ずしもZ校正部28の中心、すなわち基準座標(Xm,Ym)とはならない。そこで、Z校正部28の平面に基準工具56の先端が当接した位置をX軸方向及びY軸方向の仮基準座標(Xm1,Ym1)とされる。
【0030】
基準Z座標Zm及び仮基準座標(Xm1,Ym1)が設定されると、基準工具56に代えて、
図7に示すタッチプローブ60を主軸54に装着し、タッチプローブ60の先端に配置された測定子62が、仮基準座標(Xm1,Ym1)に位置決めされる。このように主軸54に装着されたタッチプローブ60によって、X軸、Y軸及びZ軸の位置の校正が行われる。
【0031】
はじめに、X軸方向及びY軸方向の基準座標(Xm,Ym)を取得する。なお、タッチプローブ60は、測定対象と接触すると信号を発することができる。工作機械は、制御装置と信号を受信する受信装置を備えており、タッチプローブ60が測定対象と接触したことを検知できる。また、タッチプローブ60の測定子62は、基準座標(Xm,Ym)の取得における測定時には、移動方向に対して常に同じ位相を向くように制御されている。
図8に示すように、工作機械50は、送り軸装置によって主軸54を移動させ、仮基準座標(Xm1,Ym1)にあるタッチプローブ60の測定子62をX軸正方向(X軸+方向)へ経路C3(
図7参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置C3PにおいてX座標を測定する。また、タッチプローブ60の測定子62をX軸負方向(X軸-方向)へ経路C4(
図7参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置C4PにおいてX座標を測定する。ここで、位置C3P及び位置C4PのY座標はYm1で一定であるため、工作機械50は、これらのX座標の平均値を位置C3Pと位置C4Pとの中間位置における第1のX座標を算出することができる。
【0032】
さらに、工作機械50は、送り軸装置によって主軸54を移動させ、X座標を第1のX座標としたタッチプローブ60の測定子62をY軸正方向(Y軸+方向)へ経路C5(
図7参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてY座標を測定する。また、タッチプローブ60の測定子62をY軸負方向(Y軸-方向)へ経路C6(
図7参照)に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてY座標を測定する。ここで、2箇所のX座標は第1のX座標で一定であるため、工作機械50は、これらのY座標の平均値を中間位置におけるY座標、すなわち基準座標Ymとして算出することができる。
【0033】
さらに、工作機械50は、送り軸装置によって主軸54を移動させ、Y座標を基準座標Ymとしたタッチプローブ60の測定子62をX軸+方向へ経路C3に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてX座標を測定する。また、タッチプローブ60の測定子62をX軸-方向へ経路C4に沿って移動する。移動された測定子62がXY校正部26に接した位置においてX座標を測定する。ここで、2箇所のY座標はYmで一定であるため、工作機械50は、これらのX座標の平均値を中間位置におけるX座標、すなわち基準座標Xmとして算出することができる。これによって、タッチプローブ60の測定子62を基準座標(Xm,Ym)に位置決めする。
【0034】
図7に示されるように、基準座標(Xm,Ym)に位置決めされたタッチプローブ60の測定子62によって、X軸方向位置及びY軸方向位置の校正測定が行われる。はじめに、タッチプローブ60の測定子62をX軸+方向へ位置決めする、すなわち経路C3に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でX軸+方向の校正測定を行い、X軸+方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。また、タッチプローブ60の測定子62をX軸負方向(X軸-方向)へ位置決めする、すなわち経路C4に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でX軸-方向の校正測定を行い、X軸-方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。
【0035】
さらに、タッチプローブ60の測定子62をY軸+方向へ位置決めする、すなわち経路C5に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でY軸+方向の校正測定を行い、Y軸+方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。また、タッチプローブ60の測定子62をY軸-方向へ位置決めする、すなわち経路C6に沿って移動する。移動した測定子62がXY校正部26に接した位置でY軸-方向の校正測定を行い、Y軸-方向の校正値(X座標及びY座標)を取得する。X軸+方向、X軸-方向、Y軸+方向及びY軸-方向の校正値の取得を複数回繰り返し、その平均値が校正値として工作機械50に記憶される、すなわち記録される。
【0036】
工作機械50は、X軸+方向、X軸-方向、Y軸+方向及びY軸-方向の校正値からタッチプローブ60の測定子62の主軸54に対する偏心量を演算し、基準座標(Xm,Ym)から偏心量を考慮した基準座標(Xm2,Ym2)へと補正する(図中C7)。このように、補正された基準座標(Xm2,Ym2)へ位置決めされたタッチプローブ60の測定子62をZ軸負方向(Z軸-方向)へ位置決めする、すなわち経路C8に沿って移動する。移動した測定子62がZ校正部28に接した位置でZ軸-方向の校正測定を行い、Z軸-方向の校正値(Z座標)を取得する。これを複数回繰り返し、その平均値が校正値として工作機械50に記録される。
【0037】
本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50によれば、Z校正部28が形成された軸部14をコイルバネ24によって外筒部12からZ軸方向に沿って進出させることができ、固定部16によって進出した位置、すなわち基準工具56の先端がZ校正部28に当接した位置で軸部14を固定することができる。このため、基準工具56のZ軸方向の位置合わせを簡便に行うことができる。また、タッチプローブ60の校正作業を行うためには、X軸、Y軸及びZ軸方向の基準座標を取得する必要があるが、既存の手段では、工具長が把握されている基準工具を数μm単位で徐々に近づけつつ、ゲージブロックを出し入れして接触確認を行う作業を手動で実施する必要があった。このため、位置合わせに非常に時間がかかり、また誤操作による基準工具とゲージブロックの衝突のリスクもあった。しかしながら、ここでは、基準工具56は、Z軸方向の位置合わせの前に所定の位置までZ校正部28に近づけるだけでよく、簡便かつ安全にZ校正部の位置合わせをすることができる。
【0038】
本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50によれば、校正装置10は、軸部14の外周面に沿って形成されたXY校正部26と、軸部14の先端に形成され、Z軸方向と直交する平面を有するZ校正部28とを備える。このため、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の位置合わせを1つの軸部14、すなわち校正装置10によって簡便に行うことができる。これによって、作業者の技能レベルに依存することなく、校正作業を行うことができる。さらに、このような簡便な校正作業を定期的に行うことが可能になるため、加工品の品質、すなわち加工精度を安定させることができる。
【0039】
本実施形態に係る工作機械50によると、工作機械50には校正装置10を取り付けることができると共に、工作機械50の主軸54に基準工具56及びタッチプローブ60を取り付けることができる。このため、校正作業を簡便かつ短時間で行うことができる。
【0040】
本実施形態に係る校正方法によると、軸部14の軸方向に沿ったZ軸方向及び軸方向に直交するX軸方向及びY軸方向の位置合わせを1つの校正装置10で連続的に行うことができる。これによって、簡便かつ短時間で校正作業を行うことができる。
【0041】
以上により、本実施形態に係る校正装置10、校正方法及び工作機械50は、加工対象測定用のタッチプローブ60を容易に校正することができる。
【0042】
なお、固定部16は、押圧部30と、カムレバー32と、覆い部34と、突き当て部31と、を有するとして説明したが、これに限らない。例えば、固定部は、軸部の外周を包囲する薄肉円筒部と、回転させるとカム部分の接触によって薄肉円筒部を変形させ固定することができるカムレバー部と、軸部を固定する方向にカムレバー部を回転させたときにカムレバー部が突き当たる突き当て部と、を有して構成されてもよい。カムレバー部を回転させるだけで、軸部を固定することができ、突き当て部によって容易にトルク管理できるといった作用効果を得ることができる。また、これに代えて、締付部の外周側に設けた、ねじ締め方式の丸軸用クランプ等によって軸部が固定されてもよい。
【0043】
また、XY校正部26は、軸部14の外周に形成されているとして説明したが、これに限らず、外筒部の外周面に形成されてもよい。外筒部の外周面にXY校正部を形成した場合には、軸部の進出によってXY校正部とZ校正部の位置関係が変化するため、この変化量の補正が必要になるものの、XY校正部が軸部の外周面に形成されている場合と同様に、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の位置合わせを1つの校正装置によって簡便に行うことができる。
【0044】
さらに、外筒部12は磁石22によって金属製のテーブル52に固定されているとして説明したが、これに限らず、ボルト締め等の手段によって工作機械の任意の位置に着脱可能に配置されてもよく、又は、工作機械の所定の位置に常に固定されていてもよい。着脱可能に配置される場合には、不使用時には工作機械の外側に保管しておけるため、切りくずやクーラントの影響を受けない。また、着脱可能であれば複数の工作機械で使用することができる。
【0045】
また、校正装置を工作機械に配置することと、基準工具に当接した軸部を固定部で固定することとは、マニピュレーターを用いて行い、工作機械の主軸に基準工具を取り付けることと、工作機械の主軸にタッチプローブを取り付けることとは、工具交換装置を用いて行ってもよい。オペレータが介在せずとも、マニピュレーターによって自動で校正をおこなうことができる。また、校正装置を工作機械に配置したときのマニピュレーターの座標情報から、仮基準座標Xm1、Ym1を決定する仮基準座標決定部を備えていてもよいし、軸部を固定する前に基準工具と軸部の当接を確認する撮像装置を備えていてもよい。工作機械の制御装置は、予め設定された周期毎に校正を行うよう工作機械を制御してもよい。
【0046】
以上、校正装置10、校正方法及び工作機械50の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【符号の説明】
【0047】
10 校正装置
12 外筒部
14 軸部
16 固定部
24 コイルバネ(付勢部)
26 XY校正部
28 Z校正部
50 工作機械
52 テーブル
54 主軸
56 基準工具
60 タッチプローブ
【要約】 (修正有)
【課題】加工対象測定用のタッチプローブを容易に校正することができる校正装置。校正方法及び工作機械を提供する。
【解決手段】工作機械で用いるタッチプローブのための校正装置は、棒状に形成され、軸方向に沿って校正装置から進出可能な軸部14と、内側において軸部14を支持する外筒部12と、外筒部12の内部に配置され、進出する方向へ向けて軸部14を付勢するコイルバネ24と、外筒部12に配置され、軸部14を外筒部12に対して固定可能な固定部16と、軸部14の外周面に沿って形成されたXY校正部26と、軸部14の先端に形成され、軸部14の軸方向と直交する平面を有するZ校正部28と、を備える。
【選択図】
図3