(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ゴム物品用の電子デバイスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
B29D 30/00 20060101AFI20230720BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20230720BHJP
G06K 19/077 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B29D30/00
B60C19/00 J
G06K19/077 232
G06K19/077 144
G06K19/077 296
(21)【出願番号】P 2022504294
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(86)【国際出願番号】 IB2020056656
(87)【国際公開番号】W WO2021014278
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】102019000012636
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】マリア クリスティーナ カッカミ
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ ヨツィア
(72)【発明者】
【氏名】ラファエレ ディ ロンザ
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト ロンバルディ
(72)【発明者】
【氏名】マリア セシリア パランビ
(72)【発明者】
【氏名】ジャコモ アンドレイニ
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-132291(JP,A)
【文献】特開2014-024544(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017209552(DE,A1)
【文献】特表2020-528584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00-30/72
G06K 19/077
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム物品に適用される電子デバイス1を製造する方法であって、前記デバイスは、電子素子5、6、7と、互いの間に前記電子素子5、6、7
の全体を包含するようにサンドイッチ状に配置された2つの熱可塑性材料の層3と、少なくとも1つの前記熱可塑性材料の層3の外側表面3aを覆うように配置された少なくとも外側ゴム層4と、を備え、前記方法は、(a)その操作中に、エラストマーゴムのラテックスおよびレゾルシノールとホルムアルデヒドとの組み合わせを含む塩基性水溶液からなる接着剤溶液が、前記熱可塑性材料の層3の1つの少なくとも1つの外側表面3aに塗布される、堆積操作と、(b)その操作中に、前記接着剤溶液が塗布された前記熱可塑性材料の層が、120~230℃の範囲の温度に、2~15分の範囲の時間、保たれる、加熱操作と、を含む事前ステップを含む、ゴム物品に適用される電子デバイス1を製造する方法。
【請求項2】
少なくとも1つの前記熱可塑性材料の層3は、絶縁材料でできている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記絶縁材料は、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドを含む群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記絶縁材料は、PET、ナイロンおよびポリエチレンナフタレートからなる群に含まれる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基性水溶液は、イソシアネート保護基を有する
、レゾルシノールおよびホルムアルデヒドからなる予備縮合樹脂を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基性水溶液は、リグニン
、および尿素とチオ尿素との間で選択される化学物質を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記エラストマーゴムのラテックスは、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジンのラテックスまたはスチレン-ブタジエン-ビニルピリジンとスチレン-ブタジエンとの混合物のラテックスを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記堆積操作は、熱可塑性材料の層3の両表面に前記接着剤溶液が塗布されることを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ゴム物品は、タイヤである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電子素子は、RFIDチップ5と、前記チップ5に接続された第1のアンテナ6と、前記第1のアンテナ6に電磁的に結合された第2のアンテナ7と、を備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品に使用される電子デバイスを製造する方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、タイヤ用途のためのパッチ無線周波数識別(RFID)デバイスを指し、その説明は、一般性を失うことなく明示的に参照されるであろう。
【背景技術】
【0003】
タイヤ業界では、製造業者は、タイヤの生産、使用および廃棄中に、タイヤの自動的かつ明確な識別を可能にする解決策が必要であることを表明している。
【0004】
例えば、タイヤの生産に特に関連して、製造業者は、タイヤの自動的かつ明確な識別によって、生産プロセスおよび物流業務を最適化し、自動制御システムの使用をサポートし、タイヤの効率的な位置確認/追跡を実行することが可能になり得、したがって、スマートタイヤ工場の建設が可能となり得る。
【0005】
しかしながら、製造業者がタイヤの生産および単一のタイヤの生産履歴を処理することが可能になるにもかかわらず、タイヤに適用されたバーコードの使用を含む解決策は、限られた数の情報の項目の記録と、所定の視線での1つずつのコードの読み取りと、タイヤの生産中および/または通常の操作/使用中にコードがキャンセルまたは損傷されそれによって読み取り不能になるかまたはいずれにしても読み取りが困難になるリスクと、に関する一連の欠点の影響を受ける。
【0006】
バーコードの使用に対する代替手段は、タイヤ用のパッチ無線周波数識別(RFID)デバイスを含む。このデバイスは、多層平面の可撓性構造からなり、これは、互いの間に、RFIDチップと、チップに接続された第1のアンテナと、少なくとも部分的に第1のアンテナに電磁的に結合された第2のアンテナと、を包含するようにサンドイッチ状に配置されたPETで作られた2つの絶縁層およびそれぞれの絶縁層の外側表面を覆うように各々配置された2つの外側ゴム層を実質的に備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、PETのような絶縁材料は、「低い比誘電率および低い導電率を有する無損失材料」を意味する。
【0008】
この解決策は、絶縁層とそれらが接触しているそれぞれのゴム層との間の接着に関して臨界点を有することが、実験により示されている。
【0009】
当業者がすぐに理解し得るように、アンテナおよびチップを囲む絶縁PET層が2つの外側ゴム層に正しく接着されていない場合、RFIDおよびタイヤ層の周囲のゴムは、損傷し得る。特に、デバイスの分割が起こり得、これは必然的にデバイスの正しい動作を危険にさらし、デバイスが格納されるゴム層に損傷を与える可能性が生じ得る。
【0010】
実際、外側ゴム層との接着が失敗したために絶縁層がデバイスから外れる場合、タイヤの周囲のゴムに切り傷や亀裂が生じ得る。
【0011】
基本的に、タイヤに挿入される他の多くの電子デバイスでも同じ技術的問題に遭遇し得るが、RFIDはその一例にすぎない。他の電子デバイスは、温度センサー、圧力センサー、さらには環境発電機などのタイヤ用途で使用される一般的なセンサーであり得る。
【0012】
したがって、タイヤに適用される電子デバイスの正しい構造安定性を保証する解決策が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者は、前述の必要性を満たすことが可能な方法を考案した。
【0014】
本発明の主題は、ゴム物品に適用される電子デバイスを製造する方法であって、前記デバイスは、電子素子と、互いの間に前記電子素子を包含するようにサンドイッチ状に配置された2つの熱可塑性材料の層と、少なくとも1つの前記熱可塑性層の外側表面を覆うように配置された少なくとも外側ゴム層と、を備え、前記方法は、(a)その操作中に、エラストマーゴムのラテックスおよびレゾルシノールとホルムアルデヒドとの組み合わせを含む塩基性水溶液からなる接着剤溶液が、前記熱可塑性材料の層の1つの少なくとも1つの外側表面に塗布される、堆積操作と、(b)その操作中に、前記接着剤溶液が塗布された前記熱可塑性材料の層が、120~230℃の範囲の温度に、2~15分の範囲の時間、保たれる、加熱操作と、を含む事前ステップを含む、ゴム物品に適用される電子デバイスを製造する方法である。
【0015】
好ましくは、少なくとも1つの熱可塑性材料の層は、絶縁材料でできている。
【0016】
好ましくは、当該絶縁材料は、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドを含む群の中から選択される。
【0017】
好ましくは、当該絶縁材料は、PET、ナイロンおよびポリエチレンナフタレートからなる群に含まれる。
【0018】
好ましくは、当該ゴム物品はタイヤである。
【0019】
好ましくは、当該電子素子は、RFIDチップと、チップに接続された第1のアンテナと、第1のアンテナに電磁的に結合された第2のアンテナと、を備える。
【0020】
当該塩基性水溶液は、好ましくは、イソシアネート保護基を有するレゾルシノールおよびホルムアルデヒドからなる予備縮合樹脂を含む。
【0021】
当該塩基性水溶液は、好ましくは、リグニンおよび尿素とチオ尿素との間で選択される化学物質を含む。
【0022】
当該エラストマーゴムのラテックスは、好ましくは、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジンのラテックスまたはスチレン-ブタジエン-ビニルピリジンとスチレン-ブタジエンとの混合物のラテックスを含む。
【0023】
当該堆積操作は、好ましくは、当該接着剤溶液が熱可塑性材料の層の両表面に塗布されることを含む。
【0024】
本発明のさらなる主題は、本発明の方法による方法によって実現されることを特徴とする、ゴム物品に使用される電子デバイスである。
【0025】
本発明は、無線周波数識別デバイスを分解図で示す添付の図を参照して、説明的かつ非限定的な実施形態の以下の説明を閲覧すると、最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】図において、番号1は、全体として、本発明による無線周波数識別(RFID)デバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
デバイス1は、トランシーバアセンブリ2と、トランシーバアセンブリ2の向かい合う側にサンドイッチ状に配置された2つのPTE層3と、PTE層3のそれぞれの外側表面3aに各々配置された2つの外側ゴム層4と、を備える。トランシーバアセンブリ2は、RFIDチップ5と、RFIDチップ5に接続された第1のアンテナ6と、第1のアンテナ6に電磁的に結合された第2のアンテナ7と、を備える。
【0028】
図に示すタイプの2つの無線周波数識別(RFID)デバイスを製造した。2つのデバイスは、それらのうちの1つが、各PET層3の外側表面3a上に本発明による接着剤溶液を堆積させることによって製造されたという点でのみ互いに異なる。
【0029】
接着剤溶液は、ブラシ(堆積操作)によって表面3aに塗布された。
【0030】
表Iは、使用した接着剤溶液の組成を重量部で示す。
【0031】
【0032】
接着剤溶液を塗布した後(堆積操作)、2つのPET層3を加熱操作に供した。加熱操作には、接着剤溶液が塗布された2つのPTE層3を220℃のオーブン内で3分間維持することが含まれていた。
【0033】
上記とは異なり、本発明のさらなる実施形態によれば、接着剤溶液は、イソシアネート保護基を有するレゾルシノールおよびホルムアルデヒドからなる予備縮合樹脂と、リグニンおよび尿素とチオ尿素との間で選択される化学物質と、を含む。この接着剤溶液は、遊離形態のホルムアルデヒドを使用する必要がないという利点を提供する。
【0034】
上記の事前ステップを実行した後、プロセスは、トランシーバアセンブリ2が2つのPTE層3の間に格納される第1のステップに進み、続いて、2つのPTE層3がその外側を2つのそれぞれの非加硫ゴム層4で覆われる第2のステップに進む。
【0035】
あるいは、2つのPET層3は、2つのそれぞれの部分的または完全に加硫されたゴム層4で外側を覆われ得る。
【0036】
そうすることによって、第1のRFIDデバイスが製造された。
【0037】
第2のRFIDデバイスを、事前ステップを実行しなかったことを唯一の例外として、上記の方法を繰り返して製造した。言い換えると、第2のRFIDデバイスの製造プロセスにおいて、第1のステップは、接着剤溶液を塗布されていないPET層3を使用して実行された。
【0038】
上記とは異なり、本発明の好ましい実施形態によれば、接着剤溶液は、PET層3の両表面に塗布され得る。
【0039】
使用中、上記のRFIDデバイスは、タイヤの未硬化ゴム部分に含まれる。
【0040】
あるいは、上記のRFIDデバイスは、タイヤの硬化ゴム部分に適用され得る。
【0041】
RFIDデバイスがタイヤ内部に挿入されると、加硫ステップが実行される。そうすることによって、RFIDデバイスのゴム層は、加硫中に周囲のゴムと架橋され、デバイスの位置の安定性が確保される。
【0042】
第1および第2のRFIDデバイスは、ASTM D1876法に従って接着試験に供された。当該試験は、各1つのPET層3と外側表面3aを覆うように配置されたそれぞれのゴム層4との間の接着力を測定する。
【0043】
表IIは、前述の試験で得られた値を示す。
【0044】
【0045】
表IIに示される値は、本発明の方法が、PET層3とそれぞれのゴム層4との間の強い接着を確実にし得、こうして、デバイスの分割およびそれによって引き起こされる問題を回避し得ることを明確に証明する。
【0046】
図に示されているタイプの他の2つの無線周波数識別(RFID)デバイス(第3および第4のRFIDデバイス)を製造した。第3および第4のRFIDデバイスは、PETではなくナイロン製の層3を備えるため、第1および第2のRFIDデバイスとは異なる。
【0047】
加えて、第3および第4のRFIDデバイスは、加熱操作(b)において使用される条件が互いに異なる。
【0048】
特に、第3のRFIDデバイスでは、表Iの接着剤溶液をナイロン層の表面3aにブラシで塗布した(堆積操作)。
接着剤溶液を塗布した後(堆積操作)、2つのナイロン層3を加熱操作に供した。加熱操作は、接着剤溶液が塗布された2つのナイロン層3を220℃のオーブン内で5分間維持することを含んだ。
【0049】
第4のRFIDデバイスでは、表Iの接着剤溶液をナイロン層の表面3aにブラシで塗布した(堆積操作)。
接着剤溶液を塗布した後(堆積操作)、2つのナイロン層3を加熱操作に供した。加熱操作は、接着剤溶液が塗布された2つのナイロン層3を155℃のオーブン中で10分間維持することを含んだ。
【0050】
第1、第3および第4のRFIDデバイスについて、それぞれの表面3aに同じ量の接着剤溶液を塗布した。
【0051】
各1つのナイロン層3と外側表面3aを覆うように配置されたそれぞれのゴム層4との間の接着力を測定するために、第3および第4のRFIDデバイスを、ASTM D1876法に従って接着試験に供した。
【0052】
表IIIは、前述の試験で得られた値を示す。
【0053】
【0054】
また、表IIIに示される値は、本発明の方法がナイロン層3とそれぞれのゴム層4との間の強い接着を確実にし得、こうして、デバイスの分裂およびそれによって引き起こされる問題を回避し得ることを明確に証明する。
【0055】
上述のように、本発明は、ゴム物品、例えばタイヤに適用される任意の電子デバイスに適合する。
【0056】
電子デバイスによっては、1つのゴム層4のみを使用し得る。