IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日精化工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】顔料分散液
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20230720BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20230720BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230720BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C09D11/326
C09D17/00
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023003188
(22)【出願日】2023-01-12
【審査請求日】2023-04-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100220205
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 伸和
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】狩野 克彦
(72)【発明者】
【氏名】久米 浩介
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 智佳子
(72)【発明者】
【氏名】深井 拓也
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-199928(JP,A)
【文献】特開2022-073013(JP,A)
【文献】特許第6886062(JP,B1)
【文献】特開2017-031287(JP,A)
【文献】特開2012-193249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00 - 13/00
C09C 1/00 - 3/12
C09D 15/00 - 17/00
B41M 5/00
B41M 5/50 - 5/52
B41J 2/01
B41J 2/165 - 2/20
B41J 2/21 - 2/215
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液であって、
前記分散剤が、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含む、数平均分子量が5,000~15,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2~1.6であり、酸価が100mgKOH/g以上のA-Bブロックコポリマーであり、
前記ポリマー鎖Aが、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の構成単位(A-1)と、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びイソボルニルメタクレートからなる群より選択される少なくとも一種の構成単位(A-2)と、を含む、前記構成単位(A-1)及び前記構成単位(A-2)の合計含有量が70質量%以上であり、ガラス転移点温度が50℃以上であり、数平均分子量が2,000~10,000であり、分子量分布が1.1~1.5のポリマーブロックであり、
前記ポリマー鎖Bが、メタクリル酸に由来する構成単位(B-1)と、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-2)と、を含む、前記構成単位(B-1)の含有量が25~50質量%であり、数平均分子量が2,000~10,000のポリマーブロックであり、
前記A-Bブロックコポリマー中、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%がアンモニアで中和されているとともに、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかで中和されている顔料分散液。
【請求項2】
前記A-Bブロックコポリマー中、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の40~60モル%がアンモニアで中和されているとともに、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の40~60モル%が水酸化ナトリウムで中和されている請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項3】
前記顔料の含有量が5~60質量%であり、
前記分散剤の含有量が0.5~20質量%であり、
前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり
前記水の含有量が20~80質量%である請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項4】
前記水溶性有機溶媒が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1~3のいずれか一項に記載の顔料分散液。
【請求項5】
前記顔料が、黄色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料、橙色顔料、黒色顔料、及び白色顔料からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記黄色顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、150、155、及び180からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記赤色顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、254、269、これらの固溶体、C.I.ピグメントバイオレット19、23、及びこれらの固溶体からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記青色顔料が、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び15:6からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記緑色顔料が、C.I.ピグメントグリーン7、36、及び58からなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記橙色顔料が、C.I.ピグメントオレンジ43であり、
前記黒色顔料が、C.I.ピグメントブラック7であり、
前記白色顔料が、C.I.ピグメントホワイト6である請求項1~3のいずれか一項に記載の顔料分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用の水性インクを搭載したプリンターや印刷機は、その高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、及びカラー写真用と用途が多岐にわたってきており、特に産業用の高速印刷機として検討が進んでいる。そして、高速印刷及び高画質化に対応すべく、ヘッドから吐出するインク液滴の微小化が進行している。ヘッドから吐出するインキ液滴を微小化するには、インク中の顔料をより微細化するとともに、微細化した顔料の粒子を分散媒体中に微分散させることが必要である。
【0003】
微細化した顔料を含有するインクを用いることで、鮮明性及び色濃度等が向上した、なかでも「色の冴え」の指標となる彩度が向上した画像等の印刷物を印刷することができる。また、インクジェット記録用の加工紙(写真紙、ワイドフォーマット用紙など)に印刷した場合には、記録される画像のグロス値が向上する。しかし、微細化した顔料を含有するインクは紙に浸透しやすいため、画像の発色性が低下する傾向にある。
【0004】
また、高速印刷に伴い、インクの吐出安定性が重要視される傾向にある。さらに、印刷を一時停止するとヘッドでインクが乾燥し、吐出不良となる場合がある。このため、乾燥したインクが次に吐出されるインクやクリーニング液に容易に溶解し、顔料の分散状態が元に戻る、いわゆる再分散性が良好であることもインクに要求されている。
【0005】
一方、産業分野では、プラスチック製のフィルムなどの非吸収性の記録媒体(基材)に対しても印刷する場合がある。そして、密着性、耐湿摩擦性、耐乾摩擦性、及び耐アルコール性(耐アルコールラビング性)に優れた画像を非吸収性の基材に印刷するには、各種の液体に溶けにくい耐久性の良好な塗膜を形成しうるインクが必要とされる。すなわち、インクに対しては、乾燥しても速やかに元の状態に戻る再溶解性(再分散性)と、各種の液体に溶けにくい耐久性の良好な塗膜を形成しうる耐久性といった、相反する特性を備えることが要求されている。
【0006】
また、水性インクジェットインクは、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色を用いて基本色を表現している。そして、色範囲を拡大すべく、オレンジ、グリーン、及びレッドなどの色が用いられるとともに、紙やフィルムに良好な白を表現すべく、二酸化チタン顔料などの白色顔料も用いられることがある。但し、二酸化チタン顔料は無機化合物であるために比重が大きく、長期保存中に沈降しやすい。さらに、保存条件によっては、二酸化チタン顔料はハードケーキを形成することもあるため、インクの機能が損なわれることもある。インク中の顔料が沈降した場合、インクを撹拌して顔料の分散状態を元に戻す必要がある。しかし、沈降した顔料がハードケーキを形成してしまうと、インクを撹拌したとしても顔料を再分散させることは一般的に困難である。
【0007】
記録される画像の耐久性を高めるとともに、顔料の分散性を向上すべく、配合する樹脂や界面活性剤の構成を工夫した種々のインクジェット用のインク等がこれまでに提案されている(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第5403313号公報
【文献】特開2008-45023号公報
【文献】特許第4157868号公報
【文献】特表2009-515007号公報
【文献】国際公開第2013/008691号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~5で提案されたインク等であっても、発色性、耐摩擦性、耐アルコール性、及び非吸収性の基材に対する密着性に優れた画像を記録することは困難であった。さらに、上記のインク等であっても、吐出安定性及び再分散性については必ずしも優れているとはいえず、改良の余地があった。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、発色性、耐摩擦性、耐アルコール性、及び非吸収性の基材に対する密着性に優れた画像を記録しうる、吐出安定性及び再分散性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、顔料が高度に微分散された顔料分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下に示す顔料分散液が提供される。
[1]水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する顔料分散液であって、前記分散剤が、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含む、数平均分子量が5,000~15,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2~1.6であり、酸価が100mgKOH/g以上のA-Bブロックコポリマーであり、前記ポリマー鎖Aが、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の構成単位(A-1)と、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びイソボルニルメタクレートからなる群より選択される少なくとも一種の構成単位(A-2)と、を含む、前記構成単位(A-1)及び前記構成単位(A-2)の合計含有量が70質量%以上であり、ガラス転移点温度が50℃以上であり、数平均分子量が2,000~10,000であり、分子量分布が1.1~1.5のポリマーブロックであり、前記ポリマー鎖Bが、メタクリル酸に由来する構成単位(B-1)と、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-2)と、を含む、前記構成単位(B-1)の含有量が25~50質量%であり、数平均分子量が2,000~10,000のポリマーブロックであり、前記A-Bブロックコポリマー中、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%がアンモニアで中和されているとともに、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかで中和されている顔料分散液。
[2]前記A-Bブロックコポリマー中、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の40~60モル%がアンモニアで中和されているとともに、前記メタクリル酸に由来するカルボキシ基の40~60モル%が水酸化ナトリウムで中和されている前記[1]に記載の顔料分散液。
[3]前記顔料の含有量が5~60質量%であり、前記分散剤の含有量が0.5~20質量%であり、前記水溶性有機溶媒の含有量が30質量%以下であり前記水の含有量が20~80質量%である前記[1]又は[2]に記載の顔料分散液。
[4]前記水溶性有機溶媒が、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]~[3]のいずれかに記載の顔料分散液。
[5]前記顔料が、黄色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料、橙色顔料、黒色顔料、及び白色顔料からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記黄色顔料が、C.I.ピグメントイエロー74、150、155、及び180からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記赤色顔料が、C.I.ピグメントレッド122、202、254、269、これらの固溶体、C.I.ピグメントバイオレット19、23、及びこれらの固溶体からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記青色顔料が、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び15:6からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記緑色顔料が、C.I.ピグメントグリーン7、36、及び58からなる群より選択される少なくとも一種であり、前記橙色顔料が、C.I.ピグメントオレンジ43であり、前記黒色顔料が、C.I.ピグメントブラック7であり、前記白色顔料が、C.I.ピグメントホワイト6である前記[1]~[4]のいずれかに記載の顔料分散液。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発色性、耐摩擦性、耐アルコール性、及び非吸収性の基材に対する密着性に優れた画像を記録しうる、吐出安定性及び再分散性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、顔料が高度に微分散された顔料分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<顔料分散液>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の顔料分散液の一実施形態は、水性インクジェットインクを調製するために用いられる、顔料、分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有するものである。以下、本実施形態の顔料分散液の詳細について説明する。
【0014】
(顔料)
本実施形態の顔料分散液は、微分散状態の顔料を含有する。顔料としては、水性インクジェットインクに用いられる従来公知の有機顔料及び無機顔料を用いることができる。有機顔料としては、フタロシアニン系、アゾ系、アゾメチンアゾ系、アゾメチン系、アンスラキノン系、ぺリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクリドン系19、イソインドリン系、イソインドリノン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、インダスレン系顔料等の有彩色顔料;ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料等を挙げることができる。無機顔料としては、体質顔料、酸化チタン系顔料、酸化鉄系顔料、スピネル顔料等を挙げることができる。
【0015】
顔料の具体例をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、97、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、175、180、181、185、191;C.I.ピグメントレッド4、5、9、23、48、49、52、53、57、97、112、122、122を含む固溶体、123、144、146、147、149、150、166、168、170、176、177、180、184、185、192、202、207、214、215、216、217、220、221、223、224、226、227、228、238、240、242、254、255、264、269、272;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36、58;C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63;C.I.ピグメントブラック7;C.I.ピグメントホワイト6;等を挙げることができる。
【0016】
なかでも、発色性、分散性、及び耐候性等の観点から、黄色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料、橙色顔料、黒色顔料、及び白色顔料からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。そして、黄色顔料は、C.I.ピグメントイエロー74、150、155、及び180からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。赤色顔料は、C.I.ピグメントレッド122、202、254、269、これらの固溶体、C.I.ピグメントバイオレット19、23、及びこれらの固溶体からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。青色顔料は、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び15:6からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。緑色顔料は、C.I.ピグメントグリーン7、36、及び58からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。橙色顔料は、C.I.ピグメントオレンジ43であることが好ましい。黒色顔料は、C.I.ピグメントブラック7であることが好ましい。白色顔料は、C.I.ピグメントホワイト6であることが好ましい。
【0017】
印刷物(画像)に隠蔽力が必要とされる場合以外は、有機系の微粒子顔料を用いることが好ましい。高精彩で透明性を示す印刷物が必要とされる場合には、ソルトミリング等の湿式粉砕又は乾式粉砕で微細化した顔料を用いることが好ましい。ノズル詰まりの回避等を考慮すると、1.0μm超の粒子径を有する顔料を除去した、数平均粒子径0.2μm以下の有機顔料や、数平均粒子径0.4μm以下の無機顔料を用いることが好ましい。数平均粒子径が上記範囲内の顔料を用いることで、記録される印字物の光学濃度、彩度、発色性、及び印字品質を向上させることができるとともに、インク中における顔料の沈降を適度に抑制することができる。顔料の数平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡や光散乱粒度分布計などを使用して測定することができる。
【0018】
顔料は、未処理の顔料;その表面に官能基が導入された自己分散性顔料;カップリング剤や活性剤等の表面処理剤若しくはポリマー等で表面処理された、又はカプセル化等された処理顔料;のいずれであってもよい。また、顔料は、分散剤で処理されていてもよい。例えば、顔料を合成する際、顔料化する際、又は顔料を微細化する際に、分散剤を共存させてもよい。分散剤と顔料を水中で混合及び撹拌して分散させた後、貧溶媒中に析出させて、又は酸析して顔料を処理してもよい。
【0019】
(分散剤)
分散剤は、水溶性有機溶媒及び水を含む液媒体中に顔料を分散させるための成分であり、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含む、数平均分子量が5,000~15,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2~1.6であり、酸価が100mgKOH/g以上のA-Bブロックコポリマーである。
【0020】
分散剤は、ポリマー鎖A(以下、「A鎖」とも記す)及びポリマー鎖B(以下、「B鎖」とも記す)を含むA-Bブロックコポリマーである。A鎖は、水不溶のポリマーブロックである。また、B鎖は、メタクリル酸に由来する構成単位(B-1)を含む、メタクリル酸に由来するカルボキシ基がアルカリで中和されている水溶性のポリマーブロックである。A鎖は水不溶性のポリマーブロックであることから、疎水性が高く、疎水性の顔料に吸着する。そして、A鎖が水不溶性のポリマーブロックであることから、A-Bブロックコポリマー(分散剤)は長期間にわたって吸着した顔料から脱離しにくく、顔料の微分散状態を維持することができる。また、インクジェット方式で吐出した場合であっても、A鎖は顔料から脱離しにくいため、吐出安定性も良好である。B鎖は、水溶性のポリマーブロックである。このB鎖によって、顔料の凝集を抑制することができる。
【0021】
ポリマー鎖A(A鎖)は、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種の構成単位(A-1)と、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、及びイソボルニルメタクレートからなる群より選択される少なくとも一種の構成単位(A-2)と、を含むポリマーブロックである。
【0022】
A鎖中、構成単位(A-1)及び構成単位(A-2)の合計含有量は70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。A鎖は、芳香族環及びシクロアルキル環を有する、疎水性の高いポリマーブロックであることから、顔料に効率的に吸着する。
【0023】
A鎖のガラス転移点温度(Tg)は50℃以上、好ましくは55~155℃である。すなわち、ガラス転移温度が高いことから、A鎖は比較的硬質なポリマーブロックである。A鎖のガラス転移温度(Tg)は、熱分析して測定することができる。また、A鎖のガラス転移温度(Tg)は、計算によって簡易的に求めることもできる。具体的には、x成分のモノマーを共重合したポリマーのガラス転移温度(℃)を「T」とし、それぞれのモノマーの組成比(質量比)を「W、W、・・・」とし、それぞれのモノマーのホモポリマーのガラス転移温度(℃)を「T、T、・・・」とする。この場合、このポリマーのガラス転移温度(T(℃))は、下記式(1)より算出することができる。
1/T={W/(T+273)}+{W/(T+273)}+・・・ …(1)
【0024】
各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、ウェブサイト「https://polymer.nims.go.jp/」から得た値を用いることができる。例えば、メチルメタクリレートのホモポリマー(Tg=105℃)、ベンジルメタクリレートのホモポリマー(Tg=54℃)、シクロヘキシルメタクリレートのホモポリマー(Tg=83℃)、ジシクロペンタニルメタクリレートのホモポリマー(Tg=120℃)、イソボルニルメタクリレートのホモポリマー(Tg=110℃)等である。
【0025】
A鎖の数平均分子量(Mn)は2,000~10,000、好ましくは3,000~7,000である。A鎖のMnが2,000未満であると、顔料から脱離しやすくなる。一方、A鎖のMnが10,000超であると、水性の液媒体中で粒子化してしまい、顔料に吸着できなくなる場合がある。Mnを上記の範囲内とすることで、水性の液媒体中で溶解又は膨潤したA鎖が顔料に効率的に吸着する。なお、本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、いずれも、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0026】
A鎖の分子量分布(PDI=重量平均分子量/数平均分子量)は1.1~1.5、好ましくは1.2~1.45である。すなわち、A鎖は分子量が比較的揃ったポリマーブロックである。ポリマーの分子量を揃えることで、高分子量のポリマーや低分子量のポリマーが少なく、顔料の分散性に寄与するポリマー鎖が多く含まれることになるので好ましい。
【0027】
A鎖は、必要に応じて、構成単位(A-1)及び構成単位(A-2)以外のその他の構成単位をさらに含んでいてもよい。その他の構成単位を構成するモノマーとしては、スチレン;メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル基やアルケニル基を有する(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコ-ルモノメチルエーテル(メタ)アクリレート等のグリコールエーテル系(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート;等を挙げることができる。
【0028】
ポリマー鎖B(B鎖)は、メタクリル酸に由来する構成単位(B-1)と、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-2)と、を含む、ポリマーブロックである。そして、B鎖は、構成単位(B-1)の含有量が25~50質量%、好ましくは26~40質量%である高酸価のポリマーブロックである。
【0029】
B鎖は、高酸価であることから、中和されて水に溶解するポリマーブロックである。また、カルボキシ基がプラスチック製のフィルム等の非吸収性基材の表面と水素結合するので、印刷皮膜との密着性を高めることができる。さらに、カルボキシ基が中和されていることから、水和性が高い。このため、酸化チタン等の顔料が沈降したとしても、顔料の凝集を抑制し、撹拌するだけで元の分散状態に戻すことができる。構成単位(B-1)の含有量が25質量%未満であると、A-Bブロックコポリマーは水には溶解するが、再分散性や印刷皮膜の密着性が低下する。一方、構成単位(B-1)の含有量が50質量%超であると、重合性が低下するとともに、水和する部分が多くなるので、顔料分散液の粘度が過度に高くなることがある。
【0030】
B鎖は、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、及びシクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも一種に由来する構成単位(B-2)を含むポリマーブロックである。B鎖は、この構成単位(B-2)を含むことで、A鎖と同様にガラス転移温度(Tg)が高く、基材との密着性や耐摩擦性に寄与することができる。
【0031】
構成単位(B-2)が、シクロヘキシルメタクリレートのみに由来する構成単位であると、構成単位(B-1)を多く含んでいても、シクロヘキシル基の疎水性が高いため、中和しても水に溶解しにくくなる場合がある。このため、構成単位(B-2)は、メチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートの少なくともいずれかに由来する構成単位;又はメチルメタクリレート及びベンジルメタクリレートの少なくともいずれかと、シクロヘキシルメタクリレートとに由来する構成単位;であることが好ましい。なお、ベンジルメタクリレートを用いると、芳香族環を有することから、PETフィルム等の非吸収性の基材に対する密着性をさらに向上させることができる。
【0032】
B鎖の数平均分子量(Mn)は2,000~10,000、好ましくは3,000~7,000である。B鎖のMnが2,000未満であると、分子量が小さすぎてしまい、A鎖を水に溶解及び分散させることが困難になる。一方、B鎖のMnが10,000超であると、分子量が大きすぎてしまい、顔料分散液の粘度が過度に高くなる場合がある。
【0033】
A-Bブロックコポリマー(分散剤)の数平均分子量(Mn)は5,000~15,000、好ましくは6,000~13,000である。A-BブロックコポリマーのMnが5,000未満であると、A鎖及びB鎖のいずれかの分子量が極端に小さくなる場合があるとともに、分散安定性が低下する場合がある。一方、A-BブロックコポリマーのMnが15,000超であると、A鎖及びB鎖のいずれかの分子量が極端に大きくなる場合があり、それぞれのポリマーブロックの性能が十分に発揮されなくなる場合がある。
【0034】
A-Bブロックコポリマーの分子量分布(PDI=重量平均分子量/数平均分子量)は1.2~1.6、好ましくは1.3~1.5である。分子量分布が上記の範囲外であると、分子量の範囲外のものを多く含むことになり、所望とする性能が発揮できなく場合がある。
【0035】
A-Bブロックコポリマーの酸価は100mgKOH/g以上、好ましくは105~150mgKOH/gである。A-Bブロックコポリマーの酸価が100mgKOH/g未満であると、水に溶解する部分が少なくなり、再分散性が発揮できなくなる場合がある。
【0036】
A-Bブロックコポリマー中、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%がアンモニアで中和されている。そして、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかで中和されている。すなわち、A-Bブロックコポリマーは、揮発性のアルカリと、中和塩として残るアルカリとで中和され、イオン化している。揮発性のアルカリであるアンモニアによって、カルボキシ基の一部が中和されている。このA-Bブロックコポリマー(分散剤)とする顔料分散液で調製したインクで印刷物(画像)を記録すると、アンモニアが揮発してカルボキシ基が生成する。すなわち、イオン化していたカルボキシ基が、水不溶のカルボキシ基となり、画像の塗膜が水不溶性となる。そして、A-Bブロックコポリマー中には芳香族環やシクロアルキル基等の疎水性基が存在するので、画像の耐摩擦性及び耐アルコール性が向上する。
【0037】
また、アンモニアは揮発するが、ナトリウム塩やカリウム塩は、記録後もそのままの状態で存在することとなる。すなわち、インクジェット方式の記録ヘッドでインクが乾燥した場合、アンモニアは揮発するが、ナトリウム塩やカリウム塩はそのままの状態で存在する。記録ヘッドでインクが乾燥しても、その沸点が所定の温度以上の水溶性有機溶媒は残存する。カルボキシ基のナトリウム塩やカリウム塩と水溶性有機溶媒が存在することで、次に吐出されるインクやクリーニング液でインクの乾燥物が容易に再溶解(再分散)し、乾燥による記録ヘッドの詰まりが抑制される。また、印刷後には乾燥することで水溶性有機溶媒はほとんど揮発してしまい、水溶性のナトリウム塩やカリウム塩が存在することになる。但し、A-Bブロックコポリマー中には芳香族環やシクロアルキル基等の疎水性基が存在するので、画像の耐摩擦性及び耐アルコール性は高いレベルに維持される。
【0038】
A-Bブロックコポリマー中、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30モル%未満がアンモニアで中和されていると、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムで中和されているカルボキシ基の割合が相対的に多くなるので、印刷物の耐摩擦性が低下する。一方、A-Bブロックコポリマー中、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の70モル%超がアンモニアで中和されていると、インクの再溶解性(再分散性)が不十分になる。なお、A-Bブロックコポリマー中、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の40~60モル%がアンモニアで中和されているとともに、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の40~60モル%が水酸化ナトリウムで中和されていることが好ましい。
【0039】
分散剤(A-Bブロックコポリマー)は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法、及びリビングラジカル重合法等のリビング性を有する重合法によって製造することが好ましい。なかでも、条件、材料、及び装置等の観点から、リビングラジカル重合法が好ましい。特に、有機化合物を触媒として用いるとともに、有機ヨウ化物を重合開始化合物として用いるRTCP法やRCMP法が好ましい。これらの方法は、比較的安全な市販の化合物を使用し、重金属や特殊な化合物を使用せず、コスト及び精製の面で有利である。さらに、成長末端を第3級のヨウ素とすることで、精度のよいブロック構造を一般的な設備を用いて容易に形成することができる。
【0040】
A鎖とB鎖のいずれのポリマーブロックを先に重合してもよい。A鎖を重合した後にB鎖を重合することが好ましい。先にB鎖を重合すると、重合率が100%未満であった場合に、残存したモノマーに由来する構成単位が、後に重合するA鎖に導入されてしまう場合がある。この場合、B鎖の構成成分であるメタクリル酸がA鎖に多く導入されてしまうので、A鎖が水に溶解しやすくなる可能性がある。
【0041】
有機溶媒中で溶液重合してA-Bブロックコポリマーを製造することが好ましく、顔料分散液に配合する水溶性有機溶媒と同一の有機溶媒中で溶液重合することがさらに好ましい。重合後、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、及び水酸化カリウム水溶液等を添加してカルボキシ基を中和し、水溶液化させることで、A-Bブロックコポリマーの溶液を得ることができる。また、有機溶媒中で重合した後、貧溶剤に添加してポリマーを析出させる。析出したポリマーを、水、又は水及び水溶性有機溶媒に分散させた後、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、及び水酸化カリウム水溶液等を添加してカルボキシ基を中和し、水溶液化させることによっても、A-Bブロックコポリマーの溶液を得ることができる。
【0042】
(分散媒体)
本実施形態の顔料分散液は、顔料の分散媒体として、水及び水溶性有機溶媒を含む液媒体を含有する。水としては、イオン交換水、蒸留水、及び精製水等を用いることが好ましい。
【0043】
水溶性有機溶媒は、保湿剤として機能するだけでなく、乾燥防止剤としても機能するとともに、プラスチック製のフィルムに対する濡れ性向上の作用をも有する。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1,2-ヘキサンジオール等のアルキレングリコール系溶媒;エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶媒;グリセリン、ジグリセリン、グリセリンのエチレンオキサイド付加物等のグリセリン系溶媒;2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド系溶媒;テトラメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン等の尿素系溶媒;エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;等を挙げることができる。
【0044】
水溶性有機溶媒は、保湿及び乾燥防止等の観点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0045】
分散剤は、顔料分散液や水性インクジェットインクに含有させる水溶性有機溶媒を用いる溶液重合によって製造することが好ましい。これらの水溶性有機溶媒を重合溶媒として用いると、重合して得られるポリマー溶液をそのまま用いて顔料分散液を調製することが可能であることから、工程を簡略化することができる。
【0046】
(その他の添加剤)
本実施形態の顔料分散液には、必要に応じて、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、界面活性剤、防腐剤、前述の水溶性有機溶媒以外の有機溶媒、レベリング剤、表面張力調整剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、フィラー、ワックス、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、帯電防止剤、金属微粒子、磁性粉等を挙げることができる。
【0047】
顔料分散液に界面活性剤を含有させることで、顔料分散液やインクの表面張力を所定の範囲に維持することができる。なお、25℃におけるインクの表面張力は、15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。界面活性剤としては、シリコーン系、アセチレングリコール系、フッ素系、アルキレンオキサイド系、及び炭化水素系の界面活性剤等を挙げることができる。なかでも、シリコーン系、アセチレングリコール系、及びフッ素系の界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、一般的には、インクが発泡する原因となったり、フィルム表面でインクが弾かれる原因となったりすることがある。このため、顔料分散液への界面活性剤の添加量を適切に制御することが好ましい。
【0048】
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール、チアベンダゾール、ソルビタン酸カリウム、ソルビタン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、チアゾスルファミド、及びピリジンチオールオキシド等を挙げることができる。
【0049】
(顔料分散液)
顔料分散液中の顔料の含有量は、5~60質量%であることが好ましい。顔料が有機顔料である場合、顔料分散液中の有機顔料の含有量は、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがさらに好ましい。また、顔料が無機顔料である場合、顔料分散液中の無機顔料の含有量は、20~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。
【0050】
顔料分散液中の分散剤の含有量は、0.5~20質量%であることが好ましい。顔料分散剤の含有量が0.5質量%未満であると、顔料を安定的に分散させることが困難になる。一方、顔料分散剤の含有量が20質量%超であると、粘度が高くなりすぎるとともに、非ニュートニアン粘性を示してしまい、インクジェット方式で直線的に吐出できなくなる場合がある。
【0051】
分散剤の含有量は、顔料の種類、表面性質、及び粒子径等に応じて設定することが好ましい。具体的には、有機顔料100質量部に対して、顔料分散剤5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。また、無機顔料100質量部に対して、顔料分散剤1~20質量部とすることが好ましく、3~10質量部とすることがさらに好ましい。
【0052】
顔料分散液中の水溶性有機溶媒の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。水溶性有機溶媒の含有量が30質量%超であると、印刷皮膜中に水溶性有機溶媒が残存しやすくなるので、ブロッキングが生じやすくなるとともに、画像の耐水性や耐擦性等の物性が低下することがある。また、顔料分散液の粘度が高くなり、顔料から分散剤が脱離して凝集したりする場合がある。
【0053】
顔料分散液中の水の含有量は、20~80質量%であることが好ましい。適当量の水を含有する水性の顔料分散液とすることで、水性インクジェットインクを容易に調製することができる。
【0054】
顔料分散液中の界面活性剤の含有量が多すぎると、顔料が凝集しやすくなることがある。このため、界面活性剤の含有量を適切に制御することが好ましい。顔料分散液中の界面活性剤の含有量は、0~3.5質量%であることが好ましく、0.01~2質量%であることがさらに好ましい。また、顔料分散液中の防腐剤の含有量は、0.05~2質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
顔料分散液は、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、顔料、分散剤、水、及び水溶性有機溶媒を混合するとともに、撹拌及び分散処理してプレ顔料分散液を得る。混合、撹拌、及び分散処理する際には、従来公知の混合機、撹拌装置、及び分散装置を使用することができる。撹拌機としては、ディゾルバーやホモジナイザー等を挙げることができる。混合機及び分散装置としては、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスビーズやジルコニアビーズが装填された縦型メディア分散機及び横型メディア分散機、コロイドミル、ジェットミル、高圧ホモジナイザー、並びに超音波分散機等を挙げることができる。また、メディア分散機に装填するメディアとしては、1mm以下のビーズを使用することが好ましい。このようなビーズをメディアとして用いることで、顔料の結晶や形状を破壊が破壊されにくく、いわゆるソフト分散することができる。
【0056】
上記の混合、撹拌、及び分散処理によって顔料を一次粒子にまで分散することが好ましい。但し、顔料は、必要とする粒子径に凝集していてもよい。顔料の分散状態は、従来公知の方法で確認することができる。例えば、光学顕微鏡や電子顕微鏡を使用して確認する、光散乱等の粒度分布測定機にて測定する、及び分光光度計を使用して吸光度を測定して確認することができる。分散処理後、遠心ろ過やフィルターろ過等によって粗大粒子を除去してもよい。その後、必要に応じて他の添加剤等を加えることで、顔料分散液を得ることができる。
【0057】
顔料分散液の物性は、調製しようとする水性インクジェットインクの物性に合わせて適宜設計される。水性インクジェットインクの粘度は、顔料の種類等に応じて、記録ヘッドのノズルからインクジェット方式によって吐出しうる適度な粘度に調整される。例えば、有機顔料を含有するインクの25℃における粘度は、2~10mPa・sであることが好ましい。また、無機顔料含有するインクの25℃における粘度は、5~30mPa・sであることが好ましい。
【0058】
顔料分散液の25℃におけるpHは、7.0~10.0であることが好ましく、7.5~9.5であることがさらに好ましい。顔料分散液のpHが7.0未満であると、分散剤が析出しやすくなるとともに、顔料が凝集しやすくなることがある。一方、顔料分散液のpHが10.0超であると、アルカリ性が強くなるので、取り扱いにくくなる場合がある。また、顔料分散液の25℃における表面張力は、15~45mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがさらに好ましい。
【0059】
本実施形態の顔料分散液は、水性インクジェットインクに配合する顔料分散液として有用である。インクジェットインクは、民生用、産業用、及び捺染用等のインクジェットプリンターに適用することができる。印刷対象となるメディア(記録媒体)としては、普通紙、光沢紙、マット紙、PET等のポリエステルや塩化ビニル等で形成されたフィルム、綿やポリエステル等の繊維、アルミ板等の金属等を挙げることができる。本実施形態の顔料分散液を用いて調製されるインクを用いることで、無機充填剤を多く含有する紙に対しても、発色性に優れた画像を高速記録することができる。また、本実施形態の顔料分散液を用いて調製されるインクは、高速印刷に適していることから、産業用のラベル印刷、パッケージング印刷、及びワイドフォーマット用インクジェットプリンターに好適である。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0061】
<顔料分散液の製造>
(実施製造例1)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(BDG)290.5部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MPG)290.5部、ヨウ素5.4部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、V-70)20.1部、ベンジルメタクリレート(BzMA)110.0部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)132.0部、N-アイオドコハクイミド(NIS)0.43部を反応容器に入れた。窒素を流しながら40℃に加温して撹拌し、4時間重合してA鎖(ポリマー)を形成した。得られた液体の一部をサンプリングし、180℃で恒量に達した不揮発分から換算した重合転化率は99.2%であった。また、サンプリングした液体をアセトンに溶解させ、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、モノマーはほとんど検出されなかった。0.1mmol/Lのジメチルホルムアミド溶媒を展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリマーの分子量を測定した。その結果、ポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は5,000であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.20であった。
【0062】
サンプリングした液体の一部を大量のヘキサンに添加してよく撹拌し、白い析出物を得た。得られた析出物を減圧乾燥して残存する溶媒を留去した。そして、熱分析により測定した析出物(ポリマー)のガラス転移温度(Tg)は、68.6℃であった。なお、前述の式(1)より算出したポリマー(A鎖)のTg(計算値)は69.2℃であり、ほぼ同等の値であることを確認した。
【0063】
BzMA187.9部、及びメタクリル酸(MAA)125.2部を添加し、3時間重合してB鎖を形成し、A-Bブロックコポリマーを得た。B鎖中、MAAに由来する構成単位(構成単位(B-1))の含有量(MMA含有量)は40%である。反応液の一部をサンプリングして測定した固形分は48.6%であり、固形分から算出した重合率は約100%であった。A-BブロックコポリマーのMnは10,700であり、PDIは1.31であった。また、B鎖のMn(「A-BブロックコポリマーのMn」-「A鎖のMn」)は5,700であった。
【0064】
サンプリングした反応液0.5部をコニカルビーカーに入れ、トルエン/エタノール=1/1(質量比)40mLを加えて溶解させた後、フェノールフタレインを添加した。そして、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して測定したA-Bブロックコポリマーの酸価は、146.9mgKOH/gであった。なお、モノマー組成から算出される酸価とほぼ同一であることを確認した。
【0065】
28%アンモニア水を44.2部及び水246.3部を別容器に入れてアンモニア水溶液を用意した。また、水酸化ナトリウム29.1部及び水261.4部を他の別容器に入れて水酸化ナトリウム水溶液を用意した。水酸化ナトリウム水溶液及びアンモニア水溶液の順に反応液に添加し、メタクリル酸に由来するカルボキシ基を中和して水溶液化した。すなわち、カルボキシ基の50mol%をアンモニアで中和し、カルボキシ基の残りの50mol%を水酸化ナトリウムで中和した。水を添加して固形分を調整し、固形分25.0%である分散剤D-1の溶液を得た。
【0066】
(実施製造例2~9、比較製造例1~5)
表1~4に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の実施製造例1と同様にして、分散剤D-2~9、比較分散剤C-1~5の溶液を得た。なお、表中の略号の意味を以下に示す。
・DCMA:ジシクロペンタニルメタクリレート
・IBXMA:イソボルニルメタクリレート
・MMA:メチルメタクリレート
・EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート
・PPG:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
・MTPG:トリプロピレングリコールモノメチルエーテル
・MDPA:3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
<エマルジョンバインダーの製造>
(参考製造例)
BDG131.7部、ヨウ素0.5部、V-70 2.6部、BzMA44部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)13部、及びNIS0.11部を反応容器に入れた。40℃に加温して撹拌し、4時間重合してポリマーを形成した。固形分から算出した重合率は、約100%であった。GPCにより測定したポリマーのMnは15,000であり、PDIは1.31であった。
【0072】
BzMA52.8部及びMAA12.9部を添加し、4.5時間重合してブロックコポリマーを形成した。重合率は約100%であり、ほとんどのモノマーが重合したことを確認した。ブロックコポリマーのMnは23,000であり、PDIは1.45であり、酸価は69.0mgKOH/gであった。
【0073】
28%アンモニア水10部及び水253.4部の混合物を添加して、透明感のある若干黄味で半透明の低粘度エマルジョン(エマルジョンバインダー)を得た。B型粘度計で測定したエマルジョンの粘度は79.6mPa・sであり、固形分は24.6%であった。また、エマルジョン粒子の数平均粒子径は115nmであった。
【0074】
<顔料分散液の製造(1)>
(実施例1)
酸化チタン(商品名「CR-50」、石原産業社製)60部、分散剤D-1 12部、1,2-ヘキサンジオール6部、及びイオン交換水22部をディスパーで混合した後、0.5mmΦのジルコニアビーズを充填(充填率:80%)した横型ビーズミル(商品名「DYNO-MILL KDL A型」、シンマルエンタープライゼス社製)を使用して分散処理した。5μmのメンブレンフィルターでろ過して粗粒子を除去した後、イオン交換水を添加して濃度を調整し、顔料濃度が50%である白色の顔料分散液W-1を得た。得られた顔料分散液W-1中の顔料の数平均粒子径は295nmであった。また、得られた顔料分散液W-1の粘度は13.5mPa・sであり、pHは8.9であり、表面張力は30.0mN/mであった。
【0075】
(実施例2、3、比較例1)
表5に示す種類の分散剤を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、白色の顔料分散液W-2、W-3、及びCW-1を得た。得られた顔料分散液の物性を表5に示す。
【0076】
<評価(1)>
(沈降回復性)
水で希釈した顔料分散液1.5gを2mL容量のポリプロピレン製マイクロチューブに入れた。小型遠心機(商品名「ディスクボーイFB-4000」、倉敷紡績社製)を使用し、9,000rpmで1分間遠心分離処理して、マイクロチューブの底部にハードケーキを形成した。形成したハードケーキが下側になるようにマイクロチューブを鉛直に保持して30分間室内に静置した。その後、手操作で振とう混合し、以下に示す評価基準にしたがって沈降回復性を評価した。結果を表5に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とする。
◎:数回の振とうで沈降がなくなった。
○:10回の振とうで沈降がなくなった。
△:20回の振とうで沈降がなくなった。
×:振とうしても沈降物がなくならなかった。
【0077】
(再分散性)
顔料分散液をガラスプレートに滴下し、60℃、湿度40%に設定した恒温恒湿槽に入れて12時間乾燥させた後、形成された乾燥物に純水を添加した。水を添加した乾燥物の状態を目視及び顕微鏡で観察し、以下に示す評価基準にしたがって再分散性を評価した。結果を表5に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とする。さらに、再分散後の顔料の数平均粒子径を測定した。結果を表5に示す。
【0078】
[再分散性(目視)]
◎:ブツ及び膜がなく、液体となった。
○:微量のブツが見えたが、膜はなかった。
△:ブツ及び膜があったが、液体も存在した。
×:再分散しなかった。
【0079】
[再分散性(顕微鏡)]
◎:凝集物などの異物がなかった。
○:微量の凝集物が見えたが、膜状破片などはなかった。
△:凝集物及び膜状破片が見えた。
×:異物が多かった。
【0080】
【0081】
<顔料分散液の製造(2)>
(実施例4)
銅フタロシアニンブルー(C.I.ピグメントブルー15:3、商品名「A-220」、大日精化工業社製)20部、分散剤D-4 28部、BDG1部、及び水51部を用い、前述の実施例1と同様にして分散処理した。イオン交換水を添加して濃度を調整し、顔料濃度が15%であるシアン色の顔料分散液C-1を得た。得られた顔料分散液C-1中の顔料の数平均粒子径は105nmであった。また、得られた顔料分散液C-1の粘度は3.2mPa・sであり、pHは8.6であり、表面張力は40.5mN/mであった。
【0082】
(実施例5~9、比較例2~5)
表6及び7に示す種類の分散剤を用いたこと以外は、前述の実施例4と同様にして、シアン色の顔料分散液C-2~6及びCC-1~4を得た。得られた顔料分散液の物性を表5に示す。
【0083】
<評価(2)>
(保存安定性)
顔料分散液を70℃で1週間保存した。保存後の顔料分散液中の顔料の数平均粒子径、顔料分散液の粘度及びpHを測定した。結果を表6及び7に示す。また、保存後の顔料分散液中の顔料の数平均粒子径や、顔料分散液の粘度の変化が小さかったものを「○」と評価し、大きかったものを「×」と評価した。結果を表6及び7に示す。
【0084】
(再分散性)
前述の「評価(1)」における「再分散性」と同様の評価を行った。結果を表6及び7に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
<インクの製造(1)>
(実施応用例1~6、比較応用例1、2)
表8に示す種類の顔料分散液を用意した。顔料分散液40部、水44部、1,2-ヘキサンジオール5部、グリセリン10部、及び界面活性剤(商品名「サーフィノール465」、日信化学社製)1部を混合して十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して、インクジェット用のインクIC-1~6、ICC-1及び2を調製した。
【0088】
<評価(3)>
調製したインクをカートリッジにそれぞれ充填し、インクジェットプリンター(商品名「EM930C」、セイコーエプソン社製)に装着した。このインクジェットプリンターを使用し、普通紙(無機充填剤(炭酸カルシウム)を多く含有する紙、商品名「Colorlok紙」、ヒューレットパッカード社製)に、最大印刷物濃度のベタ画像(印刷物)を記録した。
【0089】
(吐出安定性)
インクのドットが飛ばない、及びインクのドットが飛び散った等の記録中の吐出不良を観察し、以下に示す評価基準にしたがってインクの吐出安定性を評価した。結果を表8に示す。なお、「○」を合格とする。
○:吐出不良がなかった。
△:インク液滴の他に微少のスプラッシュが認められた。
×:途中で吐出しなくなった、又はドットの飛び散りが認められた。
【0090】
(印刷物の外観)
記録した印刷物の外観を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって印刷物の外観を評価した結果を表8に示す。なお、「○」を合格とする。
○:スジやムラが認められず、均一な印刷物であった。
×:スジやムラが認められた。
【0091】
(光学濃度)
光学濃度計(商品名「マクベスRD-914」、マクベス社製)を使用し、記録した画像の光学濃度(OD値)を5回測定してその平均値を算出した。結果を表8に示す。
【0092】
【0093】
<インクの製造(2)>
(実施応用例7~12、比較応用例3~5)
表8に示す種類の顔料分散液を用意した。参考製造例で製造したエマルジョンバインダー16.0部、顔料分散液28.6部、プロピレングリコール18.0部、界面活性剤(商品名「シルフェイスSAG503A」、日信化学社製)0.5部、ポリエチレンワックス0.7部、及び水36.2部を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ5μmのメンブランフィルターでろ過して、フィルム印刷用のインクジェットインクIC-7~12、ICC-3~5を調製した。調製したインクの粘度を表9に示す。
【0094】
<評価(4)>
プレートヒーター付きのインクジェット印刷機(商品名「MMP825H」、マスターマインド社製)、及び以下に示す種類の基材を用意した。調製したインクをカートリッジにそれぞれ充填し、用意したインクジェット印刷機に装着した。この印刷機を使用し、以下に示す種類の基材に画像(印刷物)を記録した。具体的には、プレートヒーターを用いて表面温度が55℃になるように基材を加熱してからインクを付与して印刷した後、90℃に温めた恒温槽で10分間乾燥させて印刷物を得た。
・OPPフィルム(ポリプロピレンフィルム、フタムラ化学社製、厚さ50μm)
・PETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、フタムラ化学社製、厚さ50μm)
【0095】
(吐出安定性、印刷物の外観)
前述の「評価(3)」における「吐出安定性」及び「印刷物の外観」と同様の評価を行った。結果を表9に示す。
【0096】
(密着性)
記録した画像にセロファンテープを十分に押し当ててから剥離した。基材からの画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の密着性を評価した。結果を表9に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とする。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0097】
(耐摩擦性(耐乾摩擦性及び耐湿摩擦性))
学振型摩擦堅牢度試験機(商品名「RT-300」、大栄科学社製)を使用し、乾燥した白布により、500gの加重で画像の表面を100往復する乾摩擦試験、及び水を湿らせた白布により、200gの加重で画像の表面を100往復する湿摩擦試験を行った。摩擦試験後の画像の剥がれ具合を目視で観察し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐摩擦性(乾摩擦性及び湿摩擦性)を評価した。結果を表9に示す。なお、「◎」、「○」、及び「△」を合格とする。
◎:まったく剥がれなかった。
○:僅かに剥がれた。
△:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が小さかった。
×:剥がれなかった面積よりも、剥がれた面積の方が大きかった。
【0098】
(耐アルコール性)
画像に70%エタノール水溶液を滴下して10秒間放置した。放置後、画像上を綿棒で複数回往復した。画像が剥がれた回数を計測し、以下に示す評価基準にしたがって画像の耐アルコール性を評価した。結果を表9に示す。なお、「◎」及び「○」を合格とする。
◎:20回以上
○:10~20回未満
△:5~10回未満
×:すぐにはがれる~5回未満
【0099】
【0100】
<顔料分散液の製造(3)>
(実施例10~15)
以下に示す各色の顔料を用意した。そして、銅フタロシアニンブルーに代えて、用意した各色の顔料をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例4と同様にして、顔料分散液Y-1、M-1、Bk-1、R-1、G-1、及びO-1を得た。得られた顔料分散液の物性を表10に示す。
・イエロー顔料:C.I.ピグメントイエロー155、アゾ系顔料、商品名「CFY6241」、大日精化工業社製
・マゼンタ顔料:C.I.ピグメントレッド122、キナクリドン顔料、商品名「CFR-130」、大日精化工業社製
・ブラック顔料:C.I.ピグメントブラック7、カーボンブラック、商品名「ラーベン1200」、ビルラ社製
・レッド顔料:C.I.ピグメントレッド254、ジケトピロロピロール顔料、商品名「CFR6742」、大日精化工業社製
・グリーン顔料:C.I.ピグメントグリーン36、ハロゲン化銅フタロシアニン顔料、商品名「CFG6450」、大日精化工業社製
・オレンジ顔料:C.I.ピグメントオレンジ43、多環縮合系顔料、商品名「CFO6292」、大日精化工業社製
【0101】
<評価(5)>
(保存安定性、再分散性)
前述の「評価(2)」における「保存安定性」及び「再分散性」と同様の評価を行った。結果を表10に示す。
【0102】
【0103】
<インクの製造(3)>
(実施応用例13~18)
表11に示す種類の顔料分散液を用いたこと以外は、前述の実施応用例1と同様にして、インクジェット用のインクIY-1、IM-1、IBk-1、IR-1、IG-1、及びIO-1を調製した。
【0104】
<評価(6)>
(吐出安定性、印刷物の外観、光学濃度)
前述の「評価(3)」における「吐出安定性」、「印刷物の外観」、及び「光学濃度」と同様の評価を行った。結果を表11に示す。
【0105】
【0106】
<インクの製造(4)>
(実施応用例19~24)
表12に示す種類の顔料分散液を用いたこと以外は、前述の実施応用例7と同様にして、フィルム印刷用のインクジェットインクIY-2、IM-2、IBk-2、IR-2、IG-2、及びIO-2を調製した。調製したインクの粘度を表12に示す。
【0107】
<評価(7)>
(吐出安定性、印刷物の外観、密着性、耐摩擦性、耐アルコール性)
前述の「評価(3)」における「吐出安定性」、「印刷物の外観」、及び「光学濃度」と同様の評価を行った。結果を表12に示す。
【0108】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の顔料分散液は、水性インクジェットインクを調製するために用いられる顔料分散液として有用である。
【要約】
【課題】発色性、耐摩擦性、耐アルコール性、及び非吸収性の基材に対する密着性に優れた画像を記録しうる、吐出安定性及び再分散性に優れた水性インクジェットインクを調製することが可能な、顔料が高度に微分散された顔料分散液を提供する。
【解決手段】水性インクジェットインクを調製するために用いられる顔料分散液である。顔料の分散剤が、ポリマー鎖A及びポリマー鎖Bを含む、数平均分子量が5,000~15,000であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.2~1.6であり、酸価が100mgKOH/g以上のA-Bブロックコポリマーであり、A-Bブロックコポリマー中、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%がアンモニアで中和されているとともに、メタクリル酸に由来するカルボキシ基の30~70モル%が水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくともいずれかで中和されている。
【選択図】なし