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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】ピット装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/045 20060101AFI20230721BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230721BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20230721BHJP
   B23K 26/323 20140101ALI20230721BHJP
   B65D 90/10 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
E02D29/045 Z
B23K26/21 N
B23K26/322
B23K26/323
B65D90/10 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022104070
(22)【出願日】2022-06-07
【審査請求日】2023-02-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390017813
【氏名又は名称】株式会社日本ピット
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 希
(72)【発明者】
【氏名】西原 良彦
(72)【発明者】
【氏名】河野 淳
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3219873(JP,U)
【文献】登録実用新案第3232621(JP,U)
【文献】特開平7-228316(JP,A)
【文献】特開2017-179827(JP,A)
【文献】特開2019-188921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/045
B23K 26/323
B23K 26/322
B23K 26/21
B65D 90/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造において、前記亜鉛鍍金鋼板は、配管ピット又は排水ピットの開口部の蓋体を開閉可能に支持した平面矩形状の底板枠とし、前記ステンレス鋼板は、前記底板枠の四周外端面に内面を接続する側面枠体とし、前記亜鉛鍍金鋼板の底板枠の四周外端面と前記ステンレス鋼板製の側面枠体の内面との溶接部はファイバーレーザー溶接により前記ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との合金層を形成してなることを特徴とするピット装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
室内等の床面に設けられる配線ケーブル用或いは給排水用のピットや、屋外の処理施設等に埋設される各種槽には、それらの開放上面(即ち設置面の開口部)を塞いで設置面と上面が略面一となる所謂「配管ピットの開口部の蓋装置」が付設される。
【0003】
この通称ピット蓋装置は、従来、必要な耐荷を確保するために蓋本体を鋼板より形成していた。蓋本体は、断面L型のステンレス製側枠アングルの間にSS製底板を溶接して上部開放型のボックスを作成し、このボックス内における底板上にモルタルを敷きその上にタイルを貼設して歩行者等の重量を受けても耐えられる剛性にしてある。
従って前記従来のピット蓋装置は、側枠アングルや底板が厚いSS製の重量体になり、しかもこれら部材間の全係合部に溶接棒を用いてアーク溶接しなければならない。
このように従来のピット蓋装置は、製作には多くの工程を要し且つ重筋作業を伴うもので必然的にコストが大幅に嵩むものであった。
これ等の現状から、本発明者等は、製作が極めて簡易であり、しかも軽量化を可能にしながら十分な強度を有し且つ大幅なコストダウンを可能にする蓋装置として、ステンレス鋼板と炭素鋼板との組み合わせで該軽量化と、十分な強度を有し安価に製作が簡易にできる研究を開始した。
【0004】
そこで、一般に金属の溶接方法は「融接」「固相溶接」および「ろう接」の3つに分類される。融接(ゆうせつ)は溶接界面が液相と液相の接触による溶接(Welding)被溶接金属の溶接部を加熱し、溶融させて溶接する方法であり、代表的なものとして電気・ガス・レーザ溶接がある。固相溶接(こそうせつごう)は溶接界面が固相と固相の接触による溶接(SolidStateBonding)で被溶接金属に機械的圧力を加え、溶接界面に局部的な塑性変形を生じさせ、溶接する方法であり、拡散溶接や超音波金属溶接が挙げられる。ろう接(ろうせつ)は溶接界面が液相と固相の接触による溶接(Brazing:ブレージング)で被溶接金属よりも融点の低いロウ材を溶接界面に流し、溶接する方法であり、各種ロウ付けがこれに当たる。
【0005】
そしてこのような金属溶接の選択は、材質、形状の他に表面状態や表面処理によって最適な溶接工法を選択することが必要である。
而してステンレス鋼板と炭素鋼板の溶接は即ち、異種金属溶接方法は材質によって融点・硬度・電気抵抗値等の違いがあり、材質によってはその特性を把握できていないと、非常に困難である。必要なのは、材質の特性の把握を行い、適切な溶接方法の選択が必要である。
更に、溶接の信頼性、コスト等による工法の選択についても重要な要素となる。
【0006】
本発明は前述しように「ステンレス鋼と亜鉛鍍金炭素鋼板との面溶接構造」であるがステンレス鋼と炭素鋼板との溶接自体に従来からいろいろな問題点が指摘されおり単純にはいかない。
即ち、溶接材料の選定を誤ると、溶接により炭素鋼板の希釈を受けるので、溶接金ステンレス中のNi、Cr含有量が減少し、脆く割れやすい組織になる。そこで、一般的にはNi、Cr含有量の多い309系溶材を限定的に使用していた。
例えば309系溶接材料を用いて炭素鋼による希釈(溶接条件)をコントロールすればステンレス鋼板とほぼ同等の成分となるため、高温割れの生じない安定した溶接金属を得ることが出来ると言われている。
【0007】
ステンレス鋼ステンレス304(18Cr-8Ni)と軟鋼(SS41)の異材溶接をD309溶接棒を用いて継手溶接を行った場合、図6にあるシェフラーの状態図により、溶接金属の組成を推定することができる。ステンレス304(18Cr-8Ni)と軟鋼(SS41)のNi当量(%Ni+30×%C+0.5×%Mn)とCr当量(%Cr+%Mo+1.5×%Si+0.5×%Nb)をそれぞれ算出し、図6にプロット(A,B)する。両点を直線で結んだ中央が溶接点(C)となる。
【0008】
さらに、D309溶接棒のNi当量、Cr当量をそれぞれ算出し、図6にプロット(D)すると、ここでD点とC点の直線上が溶接金属組成の存在するラインとなる。
母材への希釈が少ない段階では、溶接金属はD309の組成に近いオーステナイト+フェライトの混合領域があり、希釈の増加に伴ってその組成はオーステナイト単層の預域を経て、オーステナイト+マルテンサイトの混合領域へと変化していく。
ここで、溶接時の割れを防止するには、溶接金属の組成をオーステナイト+フェライト混合領域にすることが有効であるので、この観点から溶接時の希釈をE点より右側(希釈率約30%以下)になるようにする必要がある。実際の施工においては、磁気吹きの影響で軟鋼側の方がステンレス鋼側よりも希釈を受け、図6中のC点は軟鋼(B点)側に移動するので、希釈をさらに低めに抑える必要がある。一般的には、高温割れ防止の観点から溶接金属中のフェライト量を最低でも約3%以上確保することが必要とされている。軟鋼の炭素鋼板の板厚が厚い場合には、炭素鋼板の開先面に309系溶材にてバタリングを行い、溶接を行った方が耐割れ性の点から有効であると言われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように従来からステンレス鋼と炭素鋼との異種金属溶接は簡単にはいかない。
本発明は、前記のように制限される溶接棒を用いることなく、従って希釈率を抑えることなく、オーステナイト+フェライトの混合領域にすることなくしかも開先を加工することなく、溶接中のバタリングを防止して、溶接時の割れ、歪が無い健全な溶接を迅速簡単にしかも安価に可能にして、しかも、製作が極めて簡易であり、軽量化を有利に可能にしながら十分な溶接状態を有する「ステンレス鋼板と炭素鋼板との面溶接構造」の応用例として「ピット装置」を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前述の課題を解決するものでありその技術的特徴は次の(1)~(2)の通りである。
(1)、ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造において、前記ステンレス鋼板は、配管ピット又は排水ピットの開口部の蓋受枠体に開閉可能に支持された蓋体の四周枠とし、前記亜鉛鍍金鋼板は、前記蓋体の四周枠内に平面配置し上面に床仕上げ材を配置した床基板とし、前記ステンレス鋼板製の四周枠の内壁面と前記亜鉛鍍金鋼板製の床基板の外側端面との溶接部はファイバーレーザー溶接により前記ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との合金層を形成してなることを特徴とするピット装置。
(2)、ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造において、前記亜鉛鍍金鋼板は、配管ピット又は排水ピットの開口部の蓋体を開閉可能に支持する蓋受体の平面矩形状の底板枠とし、前記ステンレス鋼板は、前記底板枠の四周外端面に内面を接続する側面枠体とし、前記亜鉛鍍金鋼板の底板枠の四周外端面と前記ステンレス鋼板製の側面枠体の内面との溶接部はファイバーレーザー溶接により前記ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との合金層を形成してなることを特徴とするピット装置
【発明の効果】
【0011】
本発明において使用するファイバーレーザー溶接とは一般に非接触で局所的な加熱が可能ビームの小径スポットによる高いエネルギー密度溶接スピードが高速CW(連続発振)溶接による連側照射ファイバーレーザーによる非接触溶接であるが、本発明の前記ピット装置において、蓋体の「ステンレス製の四周枠の上部内壁面との溶接相手を亜鉛鍍金鋼板製の側端部にして溶接する」、また前記蓋受枠体の「ステンレス製の四周枠の内壁面との溶接相手の平面矩形状の底板を亜鉛鍍金鋼板にして溶接する」ことによって、そのいずれの溶接部も引張強度が母材の亜鉛鍍金鋼板よりも高く得ることができる。
さらに該溶接部は焼けや歪みが殆ど無く、薄物でもきれいで滑らかな溶接ビードを実現し外観が美しく仕上がるので、溶接工程の大幅な削減を可能にした。
また溶接の際に発生するスパッタ(溶融金属の飛散)の発生が極端に少なく、従ってスパッタの固着の問題も皆無に近く、また溶接部表面にくぼみができないので仕上げ処理も不要である。
等々の優れた新規な作用効果を呈するため堅牢で安価なピット装置の製作が有利に可能になった。
これ等の作用効果は「ステンレス鋼板と単なる炭素鋼板とのファイバーレーザー面溶接」では全く得られない新規な作用効果である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のピット装置の実施例「開口部の蓋装置」を示す縦断面説明図である。
図2図1の蓋体100の平面説明図(1)と平面展開説明図(2)である。
図3図1の蓋受枠体200の平面説明図である。
図4図1の円J内の要部拡大断面図である。
図5】表1の例1における溶接部の合金層の顕微鏡写真(1)とその拡大スケッチ図(2)である。
図6】シェフラーの状態図
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明を実施するための形態を以下に紹介の図1図5に示す実施例と共に詳細に説明する。
【実施例
【0014】
図1図2(1)(2)において、本例の配管ピットPの開口部POの蓋装置Fは、蓋体100とこれを開閉可能にセットする蓋受枠体200とからなる。
蓋体100は、ステンレス304(18Cr-8Ni)製の四周枠101と、前記四周枠101内に嵌めた亜鉛鍍金鋼板製の蓋102とからなる。
【0015】
ステンレス304(18Cr-8Ni)製の四周枠101は、厚み3.0mm 引張強度38kg/mm、硬度(ブリネルリネル硬さ:HBW換算)≦187)であり、上部に多数の嵌込突起101Tを形成してある。
亜鉛鍍金鋼板製の蓋102は、平面矩形で母材SS400の厚み3.2mm、引張強度400-510N/mm、硬度(ブリネル硬さ:HBW換算)120-400、亜鉛目付量150g/mであり、四周囲に前記嵌入口101inに嵌入する嵌込突起102outを形成する。
前記亜鉛鍍金鋼板製の蓋102の上面には、図1に示すように、下地モルタル充填層103を構成しその上に樹脂製の床仕上げ平板104を配置して成る。
前記四周枠101の下端部には、前記蓋受枠体200の底板201の上面に当接する際のクッション材105を装着してある。
【0016】
更に図4において、(1)に示すように、ステンレス304製の四周枠101の前記嵌入口101inと、亜鉛鍍金鋼板製蓋102の嵌込突起102outとの溶接部Z1、Z2はファイバーレーザー溶接機による前記ステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との合金層を形成してなる。
前記溶接部Z1、Z2は、拡大して示すように、前記嵌入口101inの母材の鉄SS400と鍍金亜鉛Zn及び嵌込突起102outの母材ステンレス304との合金層が微量に薄く均一に形成されている。
このファイバーレーザー溶接機による溶接部Z1、Z2の合金層は母材亜鉛鍍金鋼板の39kg/mmより充分に高い強度43~53kg/mmを有していた。
【0017】
図1図3(1)(2)において、前記蓋受枠体200は、平面矩形状の底板201と、四周枠202とからなる。
底板201は、亜鉛鍍金鋼板製(母材SS400,厚み3.2mm、引張強度39.46kg/mm、硬度(ブリネル硬さHBW換算):120-400、亜鉛目付量120g/mである。
前記四周枠202は、ステンレス厚み3.2mm、硬度(ブリネルリネル硬さ:HBW換算)≦187)である。
更に図4において、(2)に示すように、前記底板201の外側端面と、前記四周枠202の内側下部面との溶接部Z3、Z4はファイバーレーザー溶接機による亜鉛合金層である。
前記亜鉛合金層の溶接部Z3、Z4は、拡大して示すように、前記底板201の母材SS400と鍍金亜鉛Zn及び前記四周枠202の母材ステンレス304との合金層が微量に薄く均一に形成されている。
【0018】
以上により得られた前記亜鉛合金層の溶接部Z1~Z4とその近傍は焼けや歪みが殆ど無く、強度も母材以上と高く安定しており、きれいで滑らかな溶接ビードが得られ、堅牢で外観が美しいピット装置に仕上がった。また溶接の際に発生するスパッタ(溶融金属の飛散)の発生が極端に少なく、溶接部表面にくぼみがなく、スパッタの固着の問題も皆無に近く仕上げ処理も不要であり、溶接加工工程及びコストの大幅な節減ができた。
【0019】
前例の他の例として、表1には前記亜鉛鍍金鋼板とステンレス304鋼板との面溶接の組み合わせ仕様によるファイバーレーザー溶接機による溶接部の合金層の強度の実験例を4例紹介する。
【0019】
【表1】
前記表1における例1~4において使用のファイバーレーザー溶接機の仕様概要は、レーザーの定格出力(CW)500W、発信制御モード:パルスモード・ショート/ロング、パルス幅(CW):50.0~900.0ms(ショート)10.0~99.99s(ロング)の連続波、レーザー波長:1075nm±10nm、電源:単相 AC200V±10%である。
表2に前記ファイバーレーザー溶接機詳細仕様例を示す。
【0020】
【表2】
【0021】
表1の例1における溶接部の合金層は図5の(1)に顕微鏡写真を、その拡大スケッチ図を図5の(2)に記載し、図5の(2)に示す成分測定点A~Fの成分分析測定値は表3に記載の通りであった。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、前述の効果及び実施例に記載のとおり優れた作用効果を呈するものであり、金属加工業界等に貢献すること多大なものがある。
【符号の説明】
【0022】
P:配管ピット
PO:開口部
F:蓋装置
100:蓋体
101:ステンレス製の四周枠
102:平面矩形の亜鉛鍍金鋼板製蓋
103:下地のモルタル充填層
104:樹脂製の床仕上げ平板
200:蓋受枠体
201:平面矩形状で亜鉛鍍金鋼板製の底板
202:ステンレス製の四周枠
Z1~Z4:ファイバーレーザー溶接部
【要約】      (修正有)
【課題】溶接時の割れ、歪の無い健全なステンレス鋼板と炭素鋼板との面溶接構造を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼板は、配管ピット又は排水ピットの開口部の蓋受枠体に開閉可能に支持された蓋体の四周枠とし、亜鉛鍍金鋼板は、蓋体の四周枠内に平面配置し上面に床仕上げ材を配置した床基板とし、ステンレス鋼板製の四周枠の内壁面と亜鉛鍍金鋼板製の床基板の外側端面との溶接部はファイバーレーザー溶接により合金層の溶接部を形成してなる。またステンレス鋼板と亜鉛鍍金鋼板との面溶接構造において、亜鉛鍍金鋼板は、配管ピット又は排水ピットの開口部の蓋体を開閉可能に支持した平面矩形状の底板枠とし、ステンレス鋼板は、底板枠の四周外端面に内面を接続する側面枠体とし、亜鉛鍍金鋼板の底板枠の四周外端面とステンレス鋼板製の側面枠体の内面との溶接部はファイバーレーザー溶接により合金層を形成してなることを特徴とするピット装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6