(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】高低差敷地の収納構造及び建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/02 20060101AFI20230721BHJP
E04H 1/06 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
E04H1/02
E04H1/06
(21)【出願番号】P 2019162795
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 健治
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196953(JP,A)
【文献】特開2010-209656(JP,A)
【文献】特開2019-073953(JP,A)
【文献】特開平10-246015(JP,A)
【文献】特開2007-315167(JP,A)
【文献】特開2014-031682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/02-1/06
E04H 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高低差のある敷地の段差部分に跨って配置される建物に、収納物を収納するための高低差敷地の収納構造であって、
前記建物の低地側に配置された室の上部に、天井面が前記建物の高地側に配置された室の天井面と略同一の高さで形成される収納スペースを備え、
前記収納スペースの床部は、
前記建物のうち当該収納スペースの床部を除いた前記建物
の本体を支持する梁材及び柱材から独立して形成される鉄骨架台によって下方から支持され
、
前記梁材及び前記柱材は、建物基礎によって支持され、
前記鉄骨架台は、当該鉄骨架台専用の架台用基礎に支持固定されることを特徴とする高低差敷地の収納構造。
【請求項2】
前記低地側に配置された室は、ビルトインガレージであることを特徴とする請求項1に記載の高低差敷地の収納構造。
【請求項3】
前記建物は複数階からなり、
前記収納スペースは、前記建物の各階同士を繋ぐ階段室の踊り場に面して配置され、且つ、当該階段室と行き来可能であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高低差敷地の収納構造。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の高低差敷地の収納構造を具備することを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高低差のある敷地の段差部分に跨って配置された建物の収納構造、及びその構造を具備する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高低差のある敷地の段差部分に跨って建物を配置する場合、建物の低地側にビルトインガレージを設置する場合がある(例えば、特許文献1及び特許文献2)。これらの発明では、駐車場を住宅内部に取り込むことにより、住宅の屋外に駐車場を配置した場合と比較して住宅の居住面積が圧迫されることを防止することができる。
【0003】
しかしながら、このような高低差敷地の段差部分に跨って住宅を配置するとともに、住宅の低地側にビルトインガレージを設置すると、ビルトインガレージの天井高が不必要に高くなり、ビルトインガレージ上部に無駄な空間が生じるという問題があった。そこで高低差のある敷地ではないものの、ビルトインガレージ上部に収納スペースを形成することによってビルトインガレージ上部の空間を有効活用することができる発明が提案されている(たとえば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-117544
【文献】特開平11-62293
【文献】特開平9-189077
【0005】
一方、高低差敷地の段差部分に跨って配置される建物は、高低差の無い敷地に配置される建物と比較して構造が特殊となるため一般的に構造評価が複雑になる。そのため、建物の低地側に配置されたビルトインガレージの上部に、特許文献3に記載されているような当該ビルトインガレージと一体的に形成された収納スペースを設置すると、建物の構造解析がより複雑となるだけでなく、建物に構造上の弱点を生じさせる虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した課題を鑑みてなされたものであって、高低差敷地の段差部分に跨って配置される建物において、低地側に配置される室の上部空間を収納スペースとして有効活用するとともに、建物のうち収納スペースの床部を除いた建物の本体の構造への影響を最小限に抑えることができる高低差敷地の収納構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の高低差敷地の収納構造は、高低差のある敷地の段差部分に跨って配置される建物に、収納物を収納するための高低差敷地の収納構造であって、前記建物の低地側に配置された室の上部に、天井面が前記建物の高地側に配置された室の天井面と略同一の高さで形成される収納スペースを備え、前記収納スペースの床部は、前記建物のうち当該収納スペースの床部を除いた前記建物の本体を支持する梁材及び柱材から独立して形成される鉄骨架台によって下方から支持され、前記梁材及び前記柱材は、建物基礎によって支持され、前記鉄骨架台は、当該鉄骨架台専用の架台用基礎に支持固定されることを特徴としている。
【0008】
本発明の第2の高低差敷地の収納構造は、前記低地側に配置された室が、ビルトインガレージであることを特徴としている。
【0009】
本発明の第3の高低差敷地の収納構造は、前記建物が複数階からなり、前記収納スペースが前記建物の各階同士を繋ぐ階段室の踊り場に面して配置され、当該階段室と行き来可能であることを特徴としている。
【0011】
本発明の第1の建物は、第1から第3のいずれかに記載の高低差敷地の収納構造を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の高低差敷地の収納構造によると、建物の低地側に配置された室の上部に、天井面が建物の高地側に配置された室の天井面と略同一の高さで形成される収納スペースを備えているので、低地側に配置された室の上部空間をスキップフロア状の収納スペースとして有効活用することができる。また、収納スペースの床部は、建物のうち収納スペースの床部を除いた建物の本体を支持する梁材及び柱材から独立して形成される鉄骨架台によって下方から支持されるので、建物内に収納スペースを設置しても建物の構造評価への影響を最小限に抑えることができ、建物の構造上の弱点が生じることを回避することができる。さらに、鉄骨架台は、梁材及び柱材を支持する建物基礎ではなく当該鉄骨架台専用の架台用基礎に支持固定されるので、梁材及び柱材と同時に施工を行う必要がなく、これらの構造材の施工を複雑にすることがない。また、建物全体の工事進捗状況を見計らいながら設置することができるので、施工性を向上させることができる。
【0013】
本発明の第2の高低差敷地の収納構造によると、低地側に配置された室が、高い天井高を確保する必要性の低いビルトインガレージであるため、収納スペースの体積を拡大してより効率的に収納物を収納することが可能となる。
【0014】
本発明の第3の高低差敷地の収納構造によると、収納スペースは、建物の各階同士を繋ぐ階段室の踊り場に面して配置され、当該階段室と行き来可能であるので、各階の階段室に面する室~収納スペース間の移動を短縮することができ、収納物の出し入れを容易に行うことができる。
【0016】
本発明の第1の建物によると、建物は第1から第3のいずれかに記載の高低差敷地の収納構造を具備しているので、建物の本体の構造への影響を最小限に抑えつつ低地側に配置された室廻りの空間を効率的に有効活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る高低差敷地の収納構造の実施形態について各図を参照しつつ説明する。本願の高低差敷地の収納構造は、主に、高低差のある敷地に跨って配置される住宅において、低地側にビルトインガレージを設けた場合に用いられる構造であるが、同様の敷地条件に立設する建物であれば住宅に限らず宿泊施設や事務所ビルなど住宅以外の建物にも適用することができ、また、低地側に配置される室はビルトインガレージに限らず倉庫や厨房などとしてもよい。本実施形態では、住宅の低地側にビルトインガレージを設けた場合について説明する。なお、本願において「東」「西」「南」「北」とは、
図2における「右」「左」「下」「上」を指し、また「独立する」とは、部材同士が互いに接合されたり固定されたりすることなく分離していて、縁が完全に切れていることを指す。
【0019】
図1に示す高低差敷地の収納構造1は、高低差のある敷地S1の段差部分に跨って配置される住宅2の低地側の室廻りを有効活用するための構造であって、低地側に配置されたビルトインガレージ3の上部に形成される収納スペース4を備えている。
図1及び
図2に示す敷地S1は、南北方向へ延びる段差を有する平面視略矩形状の敷地で、東西方向の道路境界線L1、2を介して第1前面道路R1、第2前面道路R2と接するとともに、南北方向の隣地境界線L3、L4を介してそれぞれ隣地S2、S3と隣接している。また敷地S1には東西方向へ細長な住宅2が配置されており、住宅2の南側に配置された玄関ポーチ51と道路R1とは、玄関アプローチ52によって行き来可能となっている。そして、第1前面道路R1の道路面レベルは第2前面道路R2の道路面レベルよりも低く、
図1に示す敷地S1の高低差H1は1000mm~1500mm程度であり、玄関アプローチ52にはこの段差を解消するためのアプローチ階段52aが形成されている。
【0020】
図1に示すように住宅2は3階建ての建物で、1階については東側と西側とで高低差が生じており、収納スペース4は低地側のビルトインガレージ3の上部に配置され、1階と2階との中間に位置してスキップフロア状の空間を形成している。
図2に示すように、住宅2の1階は玄関土間61及び玄関ホール62からなる玄関6、玄関6の西側に隣接する和室7、和室7の北側に位置する納戸8及び第1トイレ9、玄関6の東側に隣接するクローク10及びシューズクローゼット11、1階と2階とを繋ぐ階段室12、階段室12よりも東側に位置する収納スペース4、和室7及びシューズクローゼット11を除く室同士を繋ぐ廊下13、そして、
図1に示す収納スペース4の下部に位置するビルトインガレージ3、から構成されている。またビルトインガレージ3及び収納スペース4を除く各室は高地側に配置されており、
図2に示す階段14によって低地側のビルトインガレージ3と行き来可能となっている。なお
図1に示すように、住宅2の2階には家族が集まるLDK15や第2トイレ16、主寝室用のクローゼット17、3階には共用クローゼット18や子供部屋19が配置されている。
【0021】
図1に示すビルトインガレージ3は居住者が所有する車両を駐車するスペースであり、東側に設置されたシャッターSSを開操作することによって第1前面道路R1と行き来可能となっている。またビルトインガレージ3上部に形成される収納スペース4は、居住者の趣味に使用する物品や蔵書などの収納物を保管するためのスペースであり、床面のレベルが高地側の1階床面レベルよりも高く、且つ、天井面の高さが廊下13の天井面の高さと略同一に形成されて通常の室よりも低い天井高となっている。そして収納スペース4は、1階の階段室12の踊り場12aに面して配置されて階段室12と行き来可能となっているため、居住者は外出時や帰宅時に通過する玄関ホール62や階段室12に面する2階のLDK15から収納スペース4までの移動を手短にして収納動線を効果的に省略することができる。
【0022】
図1に示す廊下13の天井高H2は2400mm~2500mm程度であり、ビルトインガレージ3の天井高H3は2200mm~2600mm程度、収納スペース4の天井高H4は1300mm~1400mm以下で形成される。このように収納スペース4の天井高H4を低く抑えることによって、収納スペース4は建築基準法上の小屋裏空間となり、収納スペース4が配置される部分は階数に算定されない。したがって、階数が増えることにより法令上求められる耐火性能の向上や設置する設備器具等の増加を回避することができ、建物の建設費用を効果的に抑えることができる。また低地側に配置されるビルトインガレージ3は高い天井高を必要としない駐車場であるため、ビルトインガレージ3の上部空間をスキップフロア状の収納スペース4として有効活用することができる。
【0023】
続いて、収納スペース4の支持構造について説明する。
図3及び
図4に示すように、収納スペース4の床部4aは複数の形鋼を接合して形成した鉄骨架台Aによって下方から支持されており、収納スペース4の床部4aを直接支持する架台用梁材A1と、架台用梁材A1を下方から支持する支柱A2と、から構成されている。
図5に示すH形鋼である架台用梁材A1は、
図2に示す収納スペース4の平面形状を考慮して組まれており、またH形鋼及び鋼管からなる支柱A2は、鉄骨架台Aに作用する水平力を考慮して、H形鋼のフランジの向きが隣合うH形鋼のフランジと互い違いになるように調整されている。
【0024】
図3及び
図5に示す鉄骨架台Aは、収納スペース4の床部4aを除いた住宅2の本体を支持する梁材B1や柱材B2とは別に形成される部材であり、収納スペース4の床部4aのみを支持している。
図5に示すように、鉄骨架台Aの支柱A2は柱材B2を支持する建物基礎C1とは別の架台用基礎C2に柱脚を支持固定され、柱材B2とは完全に縁が切れた状態となっている。建物基礎C1及び架台用基礎C2は同時に施工される鉄筋コンクリート製の基礎であり構造的に一体となっているが、鉄骨架台Aが梁材B1や柱材B2に接合されていないため、鉄骨架台Aが住宅2の構造に与える影響は小さい。つまり、住宅2
の本体の構造評価をする際は、鉄骨架台Aが架台用基礎C2よりも下方の構造体へ与える影響のみを考慮すればよい。したがって、ビルトインガレージ3の上部に収納スペース4を設置しても住宅2の構造解析に与える影響は小さく、住宅2全体の構造評価が複雑になることを効果的に回避することできる。また鉄骨架台Aは梁材B1及び柱材B2から独立し、また、支持される基礎も両部材B1、B2とは異なるため、鉄骨架台Aは梁材B1及び柱材B2の建方と同時に施工を行う必要がない。したがって、鉄骨架台Aが梁材B1及び柱材B2の施工を複雑にして住宅2全体の工期を遅延させる虞がなく、鉄骨架台Aを住宅2全体の工事進捗状況に応じて設置した後は、鉄骨架台Aの上部に例えば軽量気泡コンクリート、パーティクルボード、フローリング材などの床材を順に載置して収納スペース4の床部4aを仕上げればよい。
【0025】
このように、本願の高低差敷地の収納構造1は、通常であれば不必要に高くなってしまうビルトインガレージ3の天井高を抑えてビルトインガレージ3上部にスキップフロア型の収納スペース4を形成しているので、ビルトインガレージ3上部の空間を有効活用することができる。また、収納スペース4の床部4aは、当該床部4aを除いた住宅2の本体を支持する梁材B1及び柱材B2から独立して形成される鉄骨架台Aによって下方から支持されるので、収納スペース4を設置しても住宅2の構造評価への影響を最小限に抑えることができる。
【0026】
なお本実施形態では、住宅2のビルトインガレージ3上部に収納スペース4を設置した場合について説明したが、居住者が車両を所有していない場合などはビルトインガレージ3に代わって低地側の空間を倉庫としてもよく、その場合は、例えば屋内で使用するものを収納スペース4に収納し、屋外で使用するアウトドア用品やスポーツ用品等を倉庫に収納するなど収納物の種類に応じて使い分けてもよい。また低地側に駐車場ではない室を配置する場合は、必要に応じて収納スペース4の床部4aに低地側の室へ通じる開口部や昇降階段を設置し、収納スペース4と低地側の室とを行き来可能として利便性を向上させてもよい。
【0027】
本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る高低差敷地の収納構造及び建物は、高低差のある敷地に跨って建物を配置する際に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 高低差敷地の収納構造
2 住宅(建物)
3 ビルトインガレージ(低地側に配置された室)
4 収納スペース
4a 収納スペースの床部
12 階段室
12a 踊り場
13 廊下(高地側に配置された室)
A 鉄骨架台
B1 梁材
B2 柱材
C1 建物基礎
C2 架台用基礎