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特許7316590多細胞チューモロイドの形成およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】多細胞チューモロイドの形成およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230721BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20230721BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
C12N5/09
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021110827
(22)【出願日】2021-07-02
(62)【分割の表示】P 2017513594の分割
【原出願日】2015-05-19
(65)【公開番号】P2021164468
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】62/000,081
(32)【優先日】2014-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507333812
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・サウス・フロリダ
(73)【特許権者】
【識別番号】516350271
【氏名又は名称】トランスジェネックス ナノバイオテック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】モハパトラ、 サブハラ
(72)【発明者】
【氏名】モハパトラ、 シャム エス.
(72)【発明者】
【氏名】ダス、 モハッシェタ
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-511372(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0316392(US,A1)
【文献】PLoS ONE,2012年,Vol.7, No.2, e30753
【文献】Cancer Research,2014年,Vol.74, No.19, Supplement,Abstract No.2035,Proceedings: AACR Annual Meeting 2014; April 5-9, 2014
【文献】Journal of Cellular Biochemistry,2011年,Vol.112,p.3604-3611
【文献】Journal of Cellular Biochemistry,2012年,Vol.113,p.3363-3370
【文献】Progress in Medicine,2013年,Vol.33, No.3,p.418-420
【文献】Experimental Cell Research,2001年,Vol.266,p.74-86
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
C12Q 1/02-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および内皮細胞(EC)を三次元(3D)ナノ繊維足場上において細胞培養培地で共培養することを含み、ここでTC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、前記細胞培養培地が間葉系幹細胞培養上清を含有し、前記間葉系幹細胞培養上清が前記細胞培養培地の総量の少なくとも20%存在し、前記間葉系幹細胞培養上清は継代5回目又は継代6回目の間葉系幹細胞の培養上清である、多細胞チューモロイドを形成する方法。
【請求項2】
前記腫瘍細胞が乳癌細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳癌細胞が対象者の腫瘍に由来する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも20%~50%存在する、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞培養上清がVEGFを少なくとも800pg/mL含有する、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記間葉系幹細胞培養上清がIL-6を少なくとも100pg/mL含有する、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記間葉系幹細胞培養上清がTGF-β1を少なくとも1200pg/mL含有する、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞培養培地が5%~10%マトリゲルをさらに含む、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記3Dナノ繊維足場が繊維状誘導スマートスキャフォールドである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および内皮細胞(EC)を三次元(3D)ナノ繊維足場上において細胞培養培地で共培養することを含み、ここでTC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、前記細胞培養培地がある量の間葉系幹細胞培養上清を含有し、前記間葉系幹細胞培養上清が前記細胞培養培地の総量の少なくとも20%存在し、前記間葉系幹細胞培養上清は継代5回目又は継代6回目の間葉系幹細胞の培養上清である、多細胞チューモロイドを形成させることと、
前記多細胞チューモロイドをある量の抗癌剤に曝露させ、腫瘍増殖または幹細胞性を示すバイオマーカーの発現または存在の量を測定し、該発現または存在を適切な対照における発現または存在と比較して、前記抗癌剤の有効性を決定することと、
を含む、抗癌剤の腫瘍細胞に対する有効性を決定する方法。
【請求項11】
前記腫瘍細胞が乳癌細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記乳癌細胞が対象者の腫瘍に由来する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記乳癌細胞が標準的な乳癌細胞系由来である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも20%~50%存在する、請求項10~請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記間葉系幹細胞培養上清が、VEGFを少なくとも800pg/mL、IL-6を少なくとも100pg/mL、およびTGF-β1を少なくとも1200pg/mL含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記量の前記抗癌剤に曝露後の前記多細胞チューモロイドにおけるKi-67の発現を測定する工程をさらに含む、請求項10~請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記量の前記抗癌剤に曝露後の前記細胞培養培地に存在するVEGFまたはIL-6の量を測定する工程をさらに含む、請求項10~請求項16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2015年5月19日に出願された「抗癌剤創薬の方法」の名称を有する米国仮出願第62/000,081号の利益を主張するものであり、該仮出願の全体は参照により本明細書に組み込まれる。
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本発明は、米国国立衛生研究所により与えられた助成金番号第HHSN261201300044C号の下での政府の支援により行われた。米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
臨床開発に入っている潜在的抗癌剤は、高騰する新薬開発費(約8億ドル)にもかかわらず、損耗レベルが高い(約95%)。そのような高い損耗率は、二次元(2D)細胞培養アッセイおよびインビボ動物モデルでの抗癌剤創薬、有効性試験、および医薬品開発に使用される現在のアプローチに起因している。そのため、抗癌剤創薬、有効性試験、および医薬品開発のための改善されたツールおよび技法に対する喫緊の満たされていない需要が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本明細書に記載されるのは、多細胞チューモロイド(tumoroid)を形成する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
幾つかの態様において前記方法は、腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および内皮細胞(EC)を細胞培養培地で共培養する工程を含んでもよく、ここでTC対CAF対ECの数の比は5対1対1であり、細胞培養培地はある量の間葉系幹細胞培養上清(mesenchymal stem cell conditioned media)を含有する。腫瘍細胞は乳癌細胞であってもよい。腫瘍細胞は対象者に由来してもよい。幾つかの実施形態において、乳癌細胞は対象者の腫瘍に由来する。幾つかの態様において間葉系幹細胞培養上清は、細胞培養培地の総量の少なくとも約20%存在する。さらなる態様において間葉系幹細胞培養上清は、細胞培養培地の総量の少なくとも約20%~約50%存在する。間葉系幹細胞培養上清は、VEGFを少なくとも約800pg/mL含有してもよい。間葉系幹細胞培養上清は、IL-6を少なくとも約100pg/mL含有してもよい。間葉系幹細胞培養上清間葉系幹細胞培養上清は、TGF-β1を少なくとも約1200pg/mL含有する。TGF-β1を少なくとも約1200pg/mL。間葉系幹細胞培養上清は、VEGFを少なくとも約800pg/mL、IL-6を少なくとも約100pg/mL、およびTGF-β1を少なくとも約1200pg/mL含有してもよい。さらなる態様において細胞培養培地は、約%~約10%マトリゲルをさらに含有してもよい。幾つかの態様においてTC、CAF、およびECは、三次元足場で共培養される。三次元足場は、繊維状誘導スマートスキャフォールド(fibrous induced smart scaffold)であってもよい。
【0005】
また、腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および内皮細胞(EC)を細胞培養培地で共培養することを含み、ここでTC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、細胞培養培地がある量の間葉系幹細胞培養上清を含有する、多細胞チューモロイドを形成する工程と、多細胞チューモロイドをある量の抗癌剤に曝露させる工程と、を含む、抗癌剤の有効性を決定する方法も記載される。幾つかの態様において、腫瘍細胞は乳癌細胞である。乳癌細胞は対象者の腫瘍に由来してもよい。乳癌細胞は、標準的な乳癌細胞系由来であってもよい。間葉系幹細胞培養上清は、細胞培養培地の総量の少なくとも約20%存在してもよい。間葉系幹細胞培養上清は、細胞培養培地の総量の少なくとも約20%~約50%存在してもよい。間葉系幹細胞培養上清は、VEGFを少なくとも約800pg/mL、IL-6を少なくとも約100pg/mL、およびTGF-β1を少なくとも約1200pg/mL含有してもよい。抗癌剤の有効性を決定する方法は、ある量の抗癌剤に曝露後の多細胞チューモロイドにおけるKi-67の発現を測定する工程をさらに含んでもよい。抗癌剤の有効性を決定する方法はまた、該量の抗癌剤に曝露後の培養培地に存在するVEGFまたはIL-6の量を測定する工程を含むこともできる。
【0006】
本開示のさらなる態様は、以下に記載された様々な実施形態の詳細な記載を、添付図面と併せて参照することで容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1A~1Bは、癌関連線維芽細胞(CAF)および内皮細胞(EC)と共に(図1B)、または該細胞なしで(図1A)培養した約5日後の、BT474乳癌細胞由来チューモロイドの増殖を示す代表的な蛍光顕微鏡画像を示した図である。
図2図2は、EV(vWF、緑色の細胞)およびCAF(SMA陽性、赤い細胞)および核(DAPI、青)を示す、BT474乳癌共培養チューモロイドの共焦点顕微鏡画像(合成zスタック画像)を示した図である。
図3図3は、ELISAにより測定された図1A~1Bおよび2の培養細胞の上清中のVEGFの量を示すグラフを示した図である。培養細胞により産生されたVEGFの量を決定する前に、細胞を5日間培養した。
図4図4Aおよび4Bは、癌関連線維芽細胞(CAF)および内皮細胞(EC)と共に(図4B)、または該細胞なしで(図4A)培養した約5日後のHCC1569乳癌細胞由来チューモロイドの増殖を示す代表的な蛍光顕微鏡画像を示した図である。示されている結果は、3つのうち1つの代表的な実験からである。
図5図5A~5Cは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)培養上清(CM)に存在するVEGF(図5A)、IL-6(図5B)、および活性TGF-β1(図5C)を示すグラフを示した図である。ヒトMSCは、アルファMEMおよび15%血清中で培養した。各継代約48時間後に継代(p)p2~p6の培養上清を回収した。回収した培養上清を遠心分離し、濾過し(0.45μmフィルターを用いて)、使用まで-80℃で保管した。p2~p6のCMにおける増殖因子の発現をELISAにより調べた。VEGFの特異度を示すためにVEGF抗体の中和を使用した。*p<0.05。
図6図6A~6Hは、生細胞(緑)および死細胞(赤)を検出するためにカルセインAM/EthD-1により染色した、BT474乳癌細胞の単独培養(図6A~6D)またはBT474乳癌細胞およびEC+CAFの共培養(図6E~6H)の代表的な蛍光顕微鏡画像を示した図である。倍率:100×。標準的な増殖培地(GM)対CM(GM:CM)の比は、約100:0から約50:50に及んだ。
図7図7は、図6A~6Hに示されたチューモロイドのチューモロイド直径を示した図である。チューモロイド直径はImage Jを用いて測定した。3足場/群および10チューモロイド/足場を調べた。*p<0.05。
図8図8Aから8Bは、生細胞を緑色、死細胞を赤色に染色するカルセインAM/EthD-1で染色したBT474チューモロイド培養物(図8A)、および3D足場におけるBT474の単独培養物に関するKi-67染色(図8B)を示した図である。
図9図9Aおよび19Bは、単独培養または共培養で増殖したBT474(図9A)およびHCC1569(図9B)チューモロイドにおけるラパチニブに対する反応差を示すグラフを示した図である。培養2日後、示された濃度(μM)のラパチニブで約72時間、細胞を処理した。細胞生存率をPrestoBlue(登録商標)アッセイにより測定した。
図10】10Aおよび10Bは、ラパチニブ処理BT474(図10A)共培養チューモロイド、または対照非処理チューモロイド(図10B)におけるKi-67発現を示す代表的な画像を示した図である。共培養2日後、2.5μMのラパチニブで72時間、細胞を処理し、対照およびラパチニブ処理培養物におけるKi-67発現を免疫組織化学により決定した。
図11図11A~11Cは、3D足場での単独培養物またはCAFおよびECとの共培養BT474細胞に由来するBT474チューモロイドにおけるVEGF(図11A)、IL-6(図11B)、およびTGF-β1(図11C)に対するラパチニブの影響を示すグラフを示した図である。BT474チューモロイドを、ラパチニブ(2.5~10μM)の存在下または非存在下で単独培養または共培養し、5日目の培養上清中のVEGF、IL-6、およびTGF-β1のレベルをELISAにより決定した。*p<0.05。
図12図12A~12Dは、FiSSで培養した場合にSCTを形成する乳癌細胞を示した図である。細胞(10×10)をFiSSにおいて約5日間培養した。形成されたチューモロイドを、生細胞を緑色、死細胞を赤色に染色するカルセインAM/EthD-1で染色した。
図13図13は、FiSSにおける乳癌細胞の増殖を示すグラフを示した図である。細胞(10×10)をFiSSにおいて9日間、該足場で3通り培養した。チューモロイドサイズをImage J分析により測定した。
図14図14A~14Dは、FiSSにおいてCAFおよび/またはECと共培養した乳癌細胞の増殖を示した図である。5日目のMCF-7またはHCC-1569チューモロイドを、ECもしくはCAF(5×10)またはECおよびCAF(それぞれ2.5×10)の組み合わせとFiSSでさらに4日間、3通り培養した。9日目のMCTを、生細胞を緑色、死細胞を赤色に染色するカルセインAM/EthD-1で染色した。
図15図15は、FiSSにおいてCAFおよび/またはECと共培養した乳癌細胞の増殖を評価するPresto Blueアッセイの結果を示すグラフを示した図である。MCTの増殖を、9日目にPresto Blueアッセイを用いてモニターした。
図16図16A~16Fは、MCF7(図16Aおよび16D)、HCC1569(図16Bおよび16F)、およびBT474(図16Cおよび16F)乳癌細胞系に由来するカルセイン染色SCT(図16A~16C)およびMCT(図16D~16F)を示した図である。腫瘍細胞をFiSSにおいて単独培養(上段)またはCAFおよびECと共培養し、生細胞を緑色、死細胞を赤色に染色するカルセインAM/EthD-1で染色した。MCF7、HCC1569およびBT474に由来する5日目のSCTおよびMCTが示されている。
図17図17A~17Fは、VWFおよびSMAについて免疫染色し、DAPIにより対比染色した固定チューモロイドの代表的な画像を示した図である。EC(vWF、緑色の細胞)、CAF(SMA陽性、赤い細胞)およびDAPI(全ての細胞核)を示すMCTの代表的な蛍光画像(図17A~17C)および共焦点顕微鏡画像(合成zスタック画像)(図17D~17F)が示されている。
図18図18A~18Dは、FiSS誘導SCTとマトリゲルベースの3D培養により形成されたコロニーとの比較の代表的な画像を示した図である。細胞(3×10)は10%マトリゲルを補充した増殖培地の存在下、マトリゲル被覆プレートの層で培養した。細胞を5日間培養し、スフェロイドをカルセインAMで染色し、蛍光顕微鏡により調べた。図18Aおよび18Cはマトリゲルで形成されたコロニーを示し、図18Bおよび18DはFiSSで形成されたSCTを示す。図19A~19BはMCF7細胞からの結果を示し、図18C~18DはBT474細胞からの結果を示す。
図19図19は、MCF7-SCTおよび-MCTにおけるVEGF発現を示すグラフを示した図である。MCF7チューモロイドを5日間培養し、5日目の培養上清中のVEGFのレベルをELISAにより決定した。
図20図20は、アレイ1およびアレイ2のシグナル強度を示すスキャンデータの画像を示した図である。パネル1~8は、標準曲線のための様々な標準を有する対照を含有した。パネル9~12はSCT試料を含有した。パネル13~16はMCT試料を含有した。
図21図21は、図20のアレイに使用された抗体のリストを含む表を示した図である。
図22図22A~22Cは、SCTおよびMCTチューモロイドにより産生されたIL-6(図22A)、IL-8(図22B)、およびMCP-1(図22C)のタンパク質発現を示すグラフを示した図である。BT474チューモロイド(SCT、青いバー、およびMCT、赤いバー)を図9A~9Bのようにラパチニブ(0.5~12.5μM)の存在下または非存在下で培養し、5日目の培養上清中のIL-6、IL-8、MCP-1のレベルをサンドイッチELISAにより決定した(図20~21)。*p<0.05。
図23図25A~25Cは、SCTおよびMCTチューモロイドにより産生されたPDGF-BB(図25A)、DKK-1(図25B)、およびOPG(図25C)のタンパク質発現を示すグラフを示した図である。BT474チューモロイド(SCT、青いバー、およびMCT、赤いバー)を図9A~9Bのようにラパチニブ(0.5~12.5μM)の存在下または非存在下で培養し、5日目の培養上清中のPDGF-BB、DKK-1、OPGのレベルをサンドイッチELISAにより決定した(図20~21)。*p<0.05。
図24図24は、SCTおよびMCTチューモロイドにより産生されたMMP-3のタンパク質発現を示すグラフを示した図である。BT474チューモロイド(SCT、青いバー、およびMCT、赤いバー)を図9A~9Bのようにラパチニブ(0.5~12.5μM)の存在下または非存在下で培養し、5日目の培養上清中のMMP-3のレベルをサンドイッチELISAにより決定した(図20~21)。*p<0.05。
図25図25は、化合物の臨床有効性を決定または予測するのに使用することができる様々なバイオマーカーを記載した図である。
図26図26A~26Dは、FiSS誘導SCTとマトリゲルベースの3D培養とのラパチニブ応答の比較を示す、カルセインAM染色チューモロイドの代表的な画像を示した図である。細胞(3×10)は10%マトリゲルを補充した増殖培地の存在下、マトリゲル被覆プレートの層で培養した。培養3日後、細胞をラパチニブの示された濃度で処理し、72時間後に調べた。スフェロイドをカルセインAMで染色し、蛍光顕微鏡により調べた。
図27図27A~27Bは、マトリゲル(図27A)またはFiSS(図27B)で培養したチューモロイドの細胞生存率を決定するPresto Blue(登録商標)アッセイからの結果を示すグラフを示した図である。
図28図28A~28Dは、Operettaを用いたHCAを示す代表的なZスタック画像を示した図である。Zスタック画像はOperetta(Perkin Elmer)を用いて取得し、Image J(図28A~28B)、およびimage J閾値分析(図28Cおよび28D)に供した。DAPIおよびKi67の平均強度を決定した。
図29図29は、ラパチニブの存在下または非存在下で約72時間、BT474チューモロイドを培養し、チューモロイドを固定し、Ki-67についてチューモロイドを免疫染色した結果を示すグラフを示した図である。免疫染色の定量は、Operettaを用いて完了した。相対Ki-67強度を示す。
図30図30A~30Bは、PrestoBlueアッセイを用いたチューモロイド培養におけるZ’因子分析を示した図である。FiSSを予め加えた96ウェルプレートにLLC1細胞を5000細胞/ウェルで播種した。48時間後、10%DMSO(ビヒクル)を含有する100μlの新鮮培地をウェルに補充した。72時間後、ウェルをPrestoBlue試薬とインキュベートし、蛍光を測定した(BioTek Synergyプレートリーダー)。
図31図31は、完全なCellTiter-Glo試薬浸透を示す代表的なSCTの共焦点画像を示した図である。
図32図32は、CellTiter-Glo 2.0アッセイを用いて決定したBT474細胞の生存率(4ウェル/群の複製物における)を示すグラフを示した図である。発光は、BioTek Synergyプレートリーダーを用いて測定した。データは平均±SDを表す。
図33図33A~33Bは、製造したFiSS-96ウェルマイクロプレートで培養したMCF7(図33A)、およびBT-474(図33B)チューモロイドの最小ウェル間変動を示すグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示がより詳細に記載される以前に、この開示は記載された特定の実施形態に限定されず、そのため当然ながら当該形態と異なり得ることが理解されるべきである。本明細書に使用される用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであり、限定することが意図されていないことも理解されるべきである。
【0009】
値の範囲が示される場合、その範囲の上限と下限の間の、文脈が特に明確に指示しない限り下限の単位の10分の1までの介在値、およびその範囲内の任意の他の記載された値または介在値は、本開示内に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限および下限は、より小さな範囲に独立に含まれてもよく、同様に、記載された範囲内の任意の特に除外された限界値に従って本開示内に包含される。記載された範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それらの含まれた限界値のどちらか一方または両方を除外する範囲もまた本開示に含まれる。
【0010】
特に規定のない限り、本明細書に使用される全ての技術用語および科学用語は、この開示が属する技術分野の当業者により通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似したまたは同等の任意の方法および材料を本開示の実施または試験において使用することもできるが、好ましい方法および材料がこれより記載される。
【0011】
この明細書に引用された全ての刊行物および特許は、個々の刊行物または特許が、参照により組み込まれると具体的および個別に示されているかのように参照により本明細書に組み込まれ、ならびに刊行物が引用された関連における方法および/または材料を開示および記載するために参照により本明細書に組み込まれる。いかなる刊行物の引用も、出願日前のその開示のためであり、先行開示を理由に、本開示がそのような刊行物に先行する権利を有さないことの承認として解釈されるべきではない。さらに、示された公開日は実際の公開日と異なる可能性があり、個別に確認する必要があり得る。
【0012】
この開示を読めば当業者に明らかとなるように、本明細書に記載および例示された個々の実施形態は、本開示の範囲または趣旨を逸脱することなく、他の幾つかの実施形態のいずれかの特徴から容易に区別または組み合わせることができる個別の構成要素および特徴を有する。いずれの列挙された方法も、列挙された事象の順番、または論理的に可能な任意の他の順番で実施することができる。
【0013】
本開示の実施形態は、特に指示のない限り、当業者の技能の範囲内である分子生物学、微生物学、ナノテクノロジー、有機化学、生化学、植物学等の技法を使用する。そのような技法は、文献に十分に説明されている。
【0014】
定義
本明細書において「チューモロイド」は、腫瘍細胞の微小転移性の密集した凝集体を指す。チューモロイドは、細胞外マトリックスにおいて腫瘍進行を駆動するのと同じ生化学的、ナノトポグラフィー的、および機械的要因に応答することができる。
【0015】
本明細書で使用される用語「癌」、「癌細胞」、「新生物細胞」、「新生物」、「腫瘍」、および「腫瘍細胞」(互換的に使用される)は、比較的自律性の増殖を示す結果、細胞増殖の制御の著しい喪失(すなわち、細胞分裂の脱制御)を特徴とする異常な増殖表現型を示す細胞を指す。新生物細胞は、悪性または良性であってもよい。転移性細胞または組織は、該細胞が隣接する身体構造に侵入し、該構造を破壊し得ることを意味する。癌は、星状細胞腫、副腎皮質癌、虫垂癌、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳癌、脳幹神経膠腫、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、皮膚T細胞リンパ腫、腺管癌、子宮内膜癌、上衣腫、ユーイング肉腫、食道癌、眼癌、胆嚢癌、胃癌(gastric cancer)、消化管癌、胚細胞腫瘍、神経膠腫、肝細胞癌、組織球増殖症、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、眼内黒色腫、カポジ肉腫、腎臓癌、咽頭癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、マクログロブリン血症、黒色腫、中皮腫、口腔癌、多発性骨髄腫、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌(pharyngeal cancer)、下垂体癌、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌、網膜芽腫、横紋筋肉腫、肉腫、皮膚癌、小細胞肺癌、小腸癌、扁平細胞癌、胃癌(stomach cancer)、T細胞リンパ腫、精巣癌、咽頭癌(throat cancer)、胸腺腫、甲状腺癌、栄養膜腫瘍、尿道癌、子宮癌、子宮肉腫、膣癌、外陰癌、およびウィルムス腫瘍から選択され得る。幾つかの実施形態において、癌は前立腺癌である。
【0016】
用語「細胞」、「細胞系」、および「細胞培養物」には、その子孫が含まれる。全ての子孫は、故意または偶然の変異のためにDNA含量が正確に同一でない場合があることも理解される。最初に形質転換された細胞について選別されたのと同じ機能または生物学的特性を有するバリアント子孫が含まれる。本発明において使用される「宿主細胞」は、一般的には原核細胞または真核細胞宿主である。
【0017】
本明細書において「足場」は、(1)細胞-生体材料相互作用、細胞接着、および細胞外マトリックス沈着を促し、(2)細胞生存、増殖、および/もしくは分化を可能にするガス、栄養素、および/もしくは調節因子の十分な輸送を可能にし、(3)目的とする培養条件下、組織再生の速度に近い制御可能な速度で生物分解し、ならびに/または(4)インビボで導入される場合、最小程度の炎症もしくは毒性を誘発し得る三次元多孔性固体生体材料を指す。
【0018】
本明細書において「幹細胞性」は、他の分化した細胞タイプと幹細胞を区別する特性、特徴(構造的または機能的)、および分子サインを指す。
【0019】
本明細書において「幹細胞性因子」は、幹細胞自己再生または幹細胞に固有の他の特性もしくは特徴に必要とされるまたは関与する、OCT-4、SSEA、CD133、ABCG2、Nestin、Sox2、Naong、CD44、EpCAM(ESA、TROP1)、CD24(HSA)、CD90、CD200、およびALDHを含むがこれらに限定されない遺伝子またはタンパク質を指す場合がある。
【0020】
本明細書において「繊維状足場」は、ランダムに配向された繊維により形成される三次元構造を指す。幾つかの実施形態において、エレクトロスピニング法がランダムに配向された繊維構造物を得るために使用される。
【0021】
本明細書において互換的に使用される「対象者」、「個体」、または「患者」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。哺乳動物には、マウス、サル、ヒト、家畜、競技用動物、および愛玩動物が含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
本明細書において、「組成物」は、活性剤および、不活性(例えば、検出可能な薬剤または標識)または活性な(アジュバントなどの)別の化合物または組成物の組み合わせを指す。
【0023】
本明細書において「対照」は、比較目的で実験に使用される代替の対象者または試料であり、独立変数以外の変数の影響を最小限にするまたは区別するために含まれる。
【0024】
本明細書において「陽性対照」は、全ての試薬が適切に機能していること、および実験が適切に行われることを条件として、所望の結果をもたらすように設計された「対照」を指す。
【0025】
本明細書において「陰性対照」は、全ての試薬が適切に機能していること、および実験が適切に行われることを条件として、効果または結果をもたらさないように設計された「対照」を指す。「陰性対照」と互換可能な他の用語には、「偽(sham)」、「プラセボ」、および「模擬(mock)」が含まれる。
【0026】
本明細書において「培養」は、細胞が細胞集団として増殖し老化を回避できる条件下で細胞を維持することを指す。「培養」には、細胞がさらに分化もする条件、または、細胞が分化をする条件も含まれ得る。
【0027】
本明細書において、細胞の文脈における「増殖(expansion)」または「増殖された(expanded)」は、同一であってもなくてもよい最初の細胞集団由来の特徴的な細胞タイプ(複数可)の数の増加を指す。増殖に使用される最初の細胞は、増殖から生成された細胞と同じである必要はない。例えば、増殖細胞は、最初の細胞集団のエクスビボまたはインビトロでの増殖および分化により作製されてもよい。
【0028】
本明細書において「発現」は、ポリヌクレオチドがRNA転写物に転写される過程を指す。mRNAおよび他の翻訳されたRNA種の文脈において、「発現」は、転写されたRNAがその後にペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質に翻訳される過程(複数可)も指す。
【0029】
本明細書において「濃縮された」は、容積当たりの分子の濃度または数が自然発生の対応物より大きいという点で、自然発生の対応物と区別できるポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、またはそれらの断片を含むがこれらに限定されない分子を指す。
【0030】
本明細書において「希釈された」は、容積当たりの分子の濃度または数が自然発生の対応物より小さいという点で、自然発生の対応物と区別できるポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体、またはそれらの断片を含むがこれらに限定されない分子を指す。
【0031】
本明細書において「間葉系幹細胞」または「MSC」は、脂肪、骨、軟骨、および筋肉組織を構成する細胞に分化することができる多能性細胞を本明細書では指す。
【0032】
本明細書において「生体適合性の」または「生体適合性」は、健常者または対照患者における宿主応答と比較して、材料またはその誘導体に対して代謝産物などの有害なまたはさもなければ不適切な宿主応答を患者において誘発することなく、患者により使用される材料の能力を指す。
【0033】
本明細書において「生分解性の」は、細菌もしくは他の生体または有機的過程により分解される材料または化合物の能力を指す。
【0034】
本明細書において「幹細胞」は、複数の細胞タイプに分化することができる、任意の自己再生する、分化全能性(totipotent)、多能性(pluripotent)細胞、多能性(multipotent)細胞、前駆細胞または前駆体細胞を指す。
【0035】
考察
販売承認を受ける薬物は、臨床開発に入る薬物の推定9%にすぎない。新たな薬物の失敗率が高い理由の幾つかは、臨床的有効性の欠如をもたらすヒト疾患の背後の生物学の理解の乏しさ、薬物毒性、および副作用にある。臨床開発に入っている潜在的抗癌剤は、高騰する新薬開発費(約8億ドル)にもかかわらず、約95%の損耗率を有する。この高い損耗率は、二次元(2D)細胞培養アッセイおよびインビボ動物モデルを用いた抗癌剤創薬、癌細胞応答試験、および医薬品開発に使用されるアプローチに起因し得る。
【0036】
2D細胞培養系は、(1)2D細胞培養系における細胞が不自然な形態を示すこと、(2)2D細胞培養系における細胞はより低い生存能および乏しい分化能力を有すること、(3)2D細胞培養系における細胞は、インビボで発現される場合、同じ遺伝子およびタンパク質のプロフィールとは実質的に異なる遺伝子およびタンパク質発現プロフィールの変化を有すること、(4)2D細胞培養系における細胞は人工的代謝を示すこと、ならびに(5)新薬が臨床試験においてどれほどよく効くかを正確に予測できないことを含む、腫瘍生物学に関する幾つかのデメリットを有する。
【0037】
三次元細胞培養系および腫瘍モデルは、2D系の欠陥の多くを克服することができる。一般的に3D系は、2Dインビトロ細胞培養系およびモデルと比べて、シグナル伝達分子の生理、構造、濃度勾配、ならびに細胞外マトリックスの組成、構造、および機械力を含む、インビボでの腫瘍微小環境の模倣が改善され得る。3Dインビトロ腫瘍モデル系が記載されているが、現在の3Dインビトロ腫瘍モデル系は限界がないわけではない。
【0038】
多細胞腫瘍スフェロイド(MTS)モデルは、現在、最もよく確証された3Dモデル系と考えられている。MTSモデルは、ハイドロゲル、フィルム、または足場の形態で、様々な生体基質、天然基質、および合成基質を用いて実施されている。さらに、液体オーバーレイ、スピナーフラスコ、旋動回転およびハンギングドロップ法を含む幾つかの異なる技法が、スフェロイドを増殖させるのに使用されている。進歩があるにもかかわらず、MTSモデルはまだ幅広く採用されていない。実際、3D細胞培養の採用の中央値のレベルは、全ての細胞培養作業の約25%未満であった。生物学的関連性、幅広い適用性/汎用性、ハイスループット、およびスケーラビリティ/自動化を低コストで有するモデルが産業上求められている。現在のMTSモデルを含む現在の3Dモデルは、それらが長い培養時間を必要とし、サイズ分布が幅広いスフェロイドを形成し、機械的利用が難しいため、これらの要求を満たしていない。固形腫瘍またはその相互作用を模倣する能力に関連した、現在のMTSモデルの生物学的関連性はほとんど理解されていない。さらに、生物学的関連性に関する問題を克服するために動物またはヒト起源の足場を使用するMTSモデルは、疾患伝播のリスクおよび乏しい再現性に悩まされ、候補薬化合物の臨床有効性の決定における使用可能性が大幅に限定されている。
【0039】
3D培養用の生体模倣足場を開発する上で、多くの努力が払われてきた。現在最もよく開発された足場は、ポリスチレンまたはPCLから構築されたものであり、これらは、生体適合性ではあるが人工の表面における細胞の増殖を可能にする。これらの足場の1つの重大な限界は、培養中に足場からスフェロイドを取り出すためにトリプシンへのより長時間の曝露が必要であり、これが細胞にストレスを加え、任意の実験または有効性テストから得られた結果を、良く言っても解釈しにくくすることである。RGD修飾PEGハイドロゲルなどの完全合成足場は、人工的な細胞-細胞または細胞-マトリックス相互作用を作り出し、腫瘍-間質相互作用を標的にする薬物のスクリーニングを困難にする可能性がある。
【0040】
ハンギングドロップおよび磁気ナノ3D技術などの非足場ベースのアプローチが存在するが、限界がないわけではない。ハンギングドロップ法では、中心部の細胞が餓死し、不安定になり、死滅することから、スフェロイドの増殖は直径500μmに限定される。さらに、ハンギングドロップスフェロイドは単一腫瘍細胞から現れるため、その生物学的関連性が問題となる。磁気ナノ3D系は非常に高価であり、このように生成されたスフェロイドも、ハンギングドロップ法により製造されたものと同じ中心の壊死に悩まされる。どちらの場合も、観察される腫瘍微小環境は、腫瘍細胞および間質細胞に不均質性が存在するインビボでの腫瘍微小環境とは極めて異なる可能性がある。
【0041】
現在のモデルの欠陥を考慮して、本明細書に記載されるのは、臨床および医薬品開発状況において薬物有効性試験を容易にすることができるチューモロイドモデル系の3D培養のため組成物、方法、および系である。本明細書に記載された3D培養方法および系、ならびに本開示の他の組成物、化合物、方法、特徴、および利点は、以下の図面、発明を実施するための形態、および例を吟味すれば当業者に明らかであり、または明らかになるであろう。そのようなさらなる組成物、化合物、方法、特徴、および利点は全てこの記載内に含まれ、本開示の範囲内であることが意図される。
【0042】
多細胞チューモロイドを形成する方法
ここで記載されるのは、多細胞チューモロイドを形成する方法である。形成されたチューモロイドの細胞集団は、異種であってもよい(すなわち異なる細胞タイプを含む)。該方法は、インビボでの腫瘍微小環境を模倣する大型のチューモロイド(直径約500μm超)をもたらすことができる。幾つかの実施形態において該方法は、腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および内皮細胞(EC)を細胞培養培地で共培養する工程を含んでもよい。幾つかの実施形態において、共培養はマクロファージを含むこともできる。幾つかの実施形態において、細胞共培養体(cell co-culture)はTC、CAF、およびECのみを含有する。他の実施形態において、細胞共培養体はTC、CAF、EC、およびマクロファージのみを含有する。細胞培養は、所望のサイズのチューモロイドが形成されるまで、細胞の1回または複数回の継代を通じて継続することができる。形成されたチューモロイドは、直径約1μm~約500μm、500μm超、または500μM~約1,000μMであってもよい。任意の培養において、チューモロイドサイズは実質的に均一であってもよい。
【0043】
細胞培養培地は、ある量の間葉系幹細胞(MSC)培養上清を含有することもできる。幾つかの実施形態において、細胞の共培養は3D足場で培養される。3D足場は繊維状誘導スマートスキャフォールド(FiSS)であってもよい。本明細書において、用語FiSSは、その全体が表示されているのと同様に参照により本明細書に組み込まれるGirardら(2013)PlosONE 8(10)e75345に記載された3D繊維状足場(3P足場とも呼ばれる)を指す。
【0044】
細胞の共培養
TC、CAF、EC、およびマクロファージは、本明細書に記載されているように共培養することができる。幾つかの実施形態において、TC対CAF対ECの比は約5対約1対約1であってもよい。言い換えれば、培養でのTC、CAF、およびECそれぞれの総数の比は、約5対約1対約1の比で存在してもよい。TC対CAF対ECの比は、約1~約10:約1~約10:約1~約10の範囲であってもよい。TC対CAF対EC対マクロファージの比は、5:1:1:1の範囲であってもよい。TC対CAF対EC対マクロファージの比は、約1~約10:約1~約10:約1~約10:約1~約10の範囲であってもよい。TC、CAF、EC、およびマクロファージは、自己由来、異種、またはその組み合わせであってもよい。
【0045】
TC:共培養は、腫瘍細胞を含んでもよい。幾つかの実施形態において、腫瘍細胞は乳癌細胞を含んでもよい。他の実施形態において、腫瘍細胞は乳癌細胞のみであってもよい。幾つかの実施形態において、腫瘍細胞は肺癌細胞を含んでもよい。他の実施形態において、腫瘍細胞は乳癌細胞のみである。TCは、腫瘍の生検によるなど対象者に由来してもよい。幾つかの実施形態において、生検はTC源として直接(すなわち、生検を共培養で直接培養して)使用される。他の実施形態において、生検はインビトロで培養されてもよく、インビトロでの生検培養由来のTC子孫細胞がTC源として使用されてもよい。TCは、臨床有効性試験に使用される標準的な細胞系であってもよく、または市販の他の細胞系であってもよい。TCは、1:1から10:1~1:10のTC対マクロファージの比で存在してもよい。TCは、1:1から10:1~1:10のTC対ECの比で存在してもよい。TCは、1:1から10:1~1:10のTC対CAFの比で存在してもよい。
【0046】
CAF:共培養はCAFを含むことができる。インビボでCAFは、固有の腫瘍微小環境を提供することにより腫瘍細胞の増殖および浸潤に積極的に関与する。CAFは、腫瘍微小環境内の静止常在性線維芽細胞または周皮細胞の、間葉間葉移行(mesenchymal mesenchymal transition)による分化転換から生じてもよい。CAFは、骨髄間葉系幹細胞、正常上皮細胞もしくは上皮から間葉への移行による形質転換上皮細胞、および/または内皮から間葉筋アクチン(SMA)による内皮細胞に由来してもよい。
【0047】
腫瘍進行には、CAFと腫瘍細胞の間の正のおよび相互のフィードバックが必要である。癌細胞は、線維芽細胞活性表現型を誘導および維持し得、これが今度は、細胞外マトリックス(ECM)リモデリング、細胞増殖、血管新生の促進、幹細胞性の維持、炎症の制御、免疫応答の制御、快適な代謝環境および上皮-間葉移行の促進により腫瘍進行を持続する一連の増殖因子およびサイトカインを産生し得る。そのような増殖因子には、肝細胞増殖因子(HGF)、形質転換増殖因子β(TGF-β)、表皮増殖因子(EGF)、間質由来因子1(SDF-1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)、および血管内皮増殖因子(VEGF)が含まれ得る。間接的には、CAFは、プラスミノーゲン活性化因子およびマトリックスメタロプロテアーゼなどのタンパク質分解およびECMの分解に関与するプロテアーゼおよび他の分子を分泌して、腫瘍進行を促進および維持することができる。これは、腫瘍進行を持続することができる、既述の増殖因子およびサイトカインの放出をもたらし得る。CAFは、免疫細胞において多面的機能も有し得る。既述のように、CAFにより分泌される増殖因子、サイトカイン、およびケモカインの多様性は、強炎症性だが免疫抑制性である環境をもたらす可能性がある。
【0048】
CAFは、腫瘍の生検によるなど対象者に由来してもよい。幾つかの実施形態において、生検はCAF源として直接使用される。他の実施形態において、生検はインビトロで培養されてもよく、インビトロでの生検培養由来の子孫CAFがCAFの源として使用されてもよい。CAFは、臨床有効性試験に使用される標準的な細胞系であってもよく、または市販の他のCAF細胞系であってもよい。CAFは、1:1から10:1~1:10のCAF対マクロファージの比で存在してもよい。CAFは、1:1から10:1~1:10のCAF対ECの比で存在してもよい。CAFは、1:1から10:1~1:10のCAF対TCの比で存在してもよい。
【0049】
EC:共培養はECを含有することができる。ECは、1:1から10:1~1:10のEC対マクロファージの比で存在してもよい。ECは、1:1から10:1~1:10のEC対CAFの比で存在してもよい。ECは、1:1から10:1~1:10のEC対TCの比で存在してもよい。
【0050】
マクロファージ:幾つかの実施形態において、共培養はマクロファージも含有することができる。マクロファージは、1:1から10:1~1:10のTC対マクロファージの比で存在してもよい。マクロファージは、1:1から10:1~1:10のEC対マクロファージの比で存在してもよい。マクロファージは、1:1から10:1~1:10のCAF対マクロファージの比で存在してもよい。マクロファージは、特に血管新生の促進を通じて腫瘍発症を促進することができる。CAFは、免疫細胞の動員および機能を制御することができる。CAFは、腫瘍微小環境においてマクロファージ動員を誘導し、MCP/CCL2、IL1-βIL-6、CXCL1、CXCL2、CXCL5、およびCCL3の発現および/または分泌により刺激されたSDF-1を介して、マクロファージにおける免疫抑制表現型を誘導することが実証されている。
【0051】
3D培養足場:上述の細胞は、3D足場で一定時間共培養することができる。3D足場は、繊維状誘導スマートスキャフォールド(FiSS)であってもよい。本明細書において、用語FiSSは、その全体が表示されているのと同様に参照により本明細書に組み込まれるGirardら(2013)PlosONE 8(10)e75345に記載された3D繊維状足場(3P足場とも呼ばれる)を指す。
【0052】
足場は、任意の適切な技法または方法により製造することができる。そのような技法および方法には、電界紡糸、溶液流延/ソルトリーチング、氷粒リーチング(ice particle leaching)、ガスフォーミング/ソルトリーチング、溶媒蒸発、凍結乾燥、熱誘起相分離、マイクロモールディング、フォトリソグラフィ、マイクロフルイディクス、乳化、脱細胞化プロセス、自己組織化、極細繊維湿式紡糸(microfiber wet spinning)、メルトブロー加工、スポンジ複製法、単純なリン酸カルシウム被覆法、インクジェット印刷、メルトベースラピッドプロトタイピング処理、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。当業者は、足場製造に使用される技法(複数可)または方法(複数可)が、特に足場に存在する成分に応じて異なることを理解するであろう。
【0053】
足場材料は、合成、生物由来、またはその組み合わせであってもよい。足場材料は、分解性または非分解性であってもよい。足場材料は生体適合性であってもよい。合成足場材料には、PLA、PLG、PLGA、およびPHA、PLLA、PGA、PCL、PDLLA、PEOに基づくPEE、およびPBTが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0054】
細胞培養培地:細胞の共培養は培養培地で培養される。培養培地は、チューモロイド形成の時間経過と共に変更し得る。例えば、細胞培養培地は培養中に交換されてもよく(細胞を継代するときなどに)、または補充されてもよい。交換培地は前の培地と同じ処方であってもよく、または異なる処方を有してもよい。他の培地成分は、培養中に培地に補充されてもとく、これは培地処方の変化をもたらし得る。
【0055】
細胞培養培地は、これらに限定されないが増殖因子、栄養素(例えば窒素、ブドウ糖、アミノ酸)、抗真菌剤、抗生物質、イオン、血清、および/またはそれらの組み合わせを場合により補充することができる適切な標準基本培地であってもよい。適切な基本培地には、DMEM、DME、RMPI-1640、およびMEMが含まれるが、これらに限定されない。他のものは、当業者により理解されよう。
【0056】
幾つかの実施形態において、培養培地は約5~約10%のマトリゲルを補充される。細胞培養培地は、VEGF、IL6、TGF-β1、またはそれらの組み合わせを補充されてもよい。幾つかの実施形態において、VEGFの量は、少なくとも800pg/mLであってもよく、約1~約1200pg/mL、約100pg/mL~約1200pg/mL、または約800pg/mL~約1200pg/mLの範囲であってもよい。幾つかの実施形態において、IL6の量は、少なくとも100pg/mLであってもよく、約1~約500pg/mL、約100pg/mL~約500pg/mL、または約200pg/mL~約500pg/mLの範囲であってもよい。幾つかの実施形態において、TGF-β1の量は、少なくとも1200pg/mLであってもよく、約1~約1800pg/mL、約900pg/mL~約1800pg/mL、または約1200pg/mL~約1800pg/mLの範囲であってもよい。
【0057】
幾つかの実施形態において細胞培養培地は、チューモロイドの増殖を促進するように構成された増殖培地および培養上清で作られる。増殖培地の処方は、当業者により理解されよう。培養上清は、培養培地合計の約1%~約99%の濃度で存在してもよい。幾つかの実施形態において培養上清は、培養培地合計の少なくとも20%である。さらなる実施形態において、培養上清は、細胞培養培地合計の約20%~約50%であってもよい。
【0058】
培養上清は、ヒト間葉系幹細胞(MSC)培養上清であってもよい。MSC培養上清は、1つまたは複数の継代にわたってヒトMSC細胞を培養し、MSC細胞が培養された培地を回収して得ることができる。幾つかの実施形態において、MSC培養上清は、継代5回目および/または継代6回目で回収された細胞培養培地から得られる。MSC培養上清は、MSC細胞により分泌された分子および他の化合物を含有することができる。幾つかの実施形態においてMSC培地は、VEGF、IL6、TGF-β1、またはそれらの組み合わせを含有してもよい。幾つかの実施形態において、MSC培養上清中のVEGFの量は少なくとも800pg/mLであってもよく、約1~約1200pg/mL、約100pg/mL~約1200pg/mL、または約800pg/mL~約1200pg/mLの範囲であってもよい。幾つかの実施形態において、MSC培養上清中のIL6の量は少なくとも100pg/mLであってもよく、約1~約500pg/mL、約100pg/mL~約500pg/mL、または約200pg/mL~約500pg/mLの範囲であってもよい。幾つかの実施形態において、MSC培養上清中のTGF-β1の量は少なくとも1200pg/mLであってもよく、約1~約1800pg/mL、約900pg/mL~約1800pg/mL、または約1200pg/mL~約1800pg/mLの範囲であってもよい。
【0059】
多細胞チューモロイドの使用方法
本明細書に記載されているように形成されたチューモロイドは、抗癌剤または医薬品を含む薬物などの化合物または組成物の有効性および/または効果を決定するのに使用することができる。そのため、本明細書に記載された方法およびチューモロイドは、臨床試験および創薬のモデル系として有用であり得る。チューモロイドが対象者自身の腫瘍から形成される実施形態において、特定の治療レジメンの有効性が調べられてもよい。幾つかの実施形態において、本明細書に記載されたチューモロイドおよび培養方法は、癌幹細胞のインビトロ集団を増殖するのに使用することができる。
【0060】
抗癌剤などの化合物または組成物の有効性および/または効果を決定する方法は、多細胞チューモロイドを形成する工程、および、多細胞チューモロイドを抗癌剤などのある量の化合物または組成物に曝露させる工程を含んでもよい。ここで、チューモロイドを形成する工程が本明細書のどこかに記載されている。チューモロイドを形成する工程は、TC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、細胞培養培地がある量の間葉系幹細胞培養上清を含有する条件において、TC、ECS、およびCAFを細胞培養培地で共培養する工程を含んでもよい。細胞共培養体は、マクロファージを場合により含むこともできる。幾つかの実施形態において、細胞共培養体はTC、CAF、およびECのみを含む。他の実施形態において、細胞共培養体はTC、CAF、EC、およびマクロファージのみを含む。
【0061】
抗癌剤などの化合物または組成物の有効性および/または効果を決定する方法は、腫瘍増殖または幹細胞性を示すバイオマーカーの発現または存在の量を測定する工程、および該発現または存在を適切な対照の発現または存在と比較する工程を場合により含んでもよい。被験試料におけるバイオマーカーの発現または存在の量の変化(量の増加または減少のいずれか)は、癌に対する化合物または組成物の有効性または無効性を示すことができる。バイオマーカーは、チューモロイド自体またはチューモロイドが存在する培養培地において測定されてもよい。幾つかの実施形態において前記方法は、チューモロイドにおけるKi-67の発現を測定する工程、および該発現を適切な対照と比較する工程をさらに含む。対照と比較してKi-67の発現および/または存在の減少は、被験化合物または被験組成物が癌に対して有効であることを示すことができる。他の実施形態において前記方法は、培養物に存在するVEGFおよび/またはIL-6の量を測定する工程、ならびに該発現または存在を適切な対照と比較する工程をさらに含んでもよい。対照と比較してVEGFおよび/またはIL-6の発現および/または存在の減少は、被験化合物または被験組成物が癌に対して有効であることを示すことができる。
【実施例
【0062】
本開示の実施形態を一般的に記載してきたところ、以下の実施例は、本開示の幾つかのさらなる実施形態を記載するものである。本開示の実施形態は、以下の例ならびに対応する文章および図に関連して記載されるが、本開示の実施形態をこの記載に限定することは意図されておらず、むしろ、本開示の実施形態の趣旨および範囲内に含まれる全ての代替物、変更例、および同等物を包含することが意図されている。
【0063】
実施例1:チューモロイドアッセイ(Z因子分析)の最適化
3D細胞培養においては、ハイスループット系スクリーニングへの該培養の組み込みにおいて重要である再現性に主な障害があった。チューモロイドアッセイにおけるウェル間の変動を決定するために、n=8ウェル/群、異なる濃度のFiSSにおけるMCF-7細胞を、PrestoBlue(登録商標)アッセイにより播種5日後に腫瘍形成性を測定した。統計上の効果量の尺度であるZ因子を、方程式1を用いて決定した。
【0064】
【数1】

【0065】
アッセイ結果は、Z因子約0.755の小さなウェル間変動を示した。これは良好な範囲にあり、ハイスループットスクリーニングに対する本明細書に記載されたチューモロイドアッセイの即応性を示唆するものである。
【0066】
実施例2:チューモロイド共培養の特徴付け
BT474またはHCC1569細胞を、ECおよびCAFと共培養した。共培養における腫瘍細胞(BT474またはHCC1569)対EC対CAFの比は、5:1:1(腫瘍細胞:EC:CAF)であった。図2A~5Bに示されているように、ECおよびCAFとの共培養は、増加した増殖能および高いVEGF発現を有する頑強なチューモロイドを誘導した(図3)。図1A~1Bは、癌関連線維芽細胞(CAF)および内皮細胞(EC)と共に(図1B)、または無しで(図1A)約5日培養した後のBT474乳癌細胞由来チューモロイドの増殖を示す代表的な蛍光顕微鏡画像を示す。
【0067】
多細胞チューモロイドにおけるCAFおよびECの存在を、それぞれ、CAFおよびECに対する抗平滑筋アクチン(SMA)抗体および抗フォンウィルブランド因子(vWF)抗体を用いたIHCと、それに続く共焦点顕微鏡法により確認した。図2は、EV(vWF、緑色の細胞)およびCAF(SMA陽性、赤い細胞)および核(DAPI、青)を示すBT474乳癌共培養チューモロイドの共焦点顕微鏡画像(合成zスタック画像)を示す。チューモロイド免疫染色形態CAF(赤、抗SMA陽性)およびEC(緑、抗vWF陽性)の合成zスタック画像を、図2に示す。共培養後5日目でCAFがチューモロイド全体に分散しているのが見出されたのに対し、ECは大部分が多細胞チューモロイドの端で見出された。
【0068】
図3は、ELISAにより測定した図1A~1Bおよび図2の培養細胞の上清中のVEGFの量を示すグラフを示す。培養細胞により産生されたVEGFの量を決定する前に、細胞を5日間培養した。チューモロイドの上清中のVGEFレベルの比較で、BT474+CAF+EC誘導チューモロイドに比べてBT474チューモロイドのVGEFが少ないことが示される(図3)。図4A~4Bに示されるように、HC15969を用いた共培養でも、BT474で観察されたと同じようなチューモロイドの数および直径の増加がもたらされた。
【0069】
実施例3:増殖因子の送達および対照
本明細書に記載された共培養においてチューモロイド増殖を増進させることが可能な増殖因子を調べるための、培養中のチューモロイド増殖に対する漸増血清濃度の影響。結果(示されていない)は、血清濃度の増加がチューモロイド増殖に著しい影響を与えるものでないことを示唆するものである。増殖培地へのマトリゲル(約5%~約10%)の添加により、FiSSで培養した場合のHCC1569細胞のチューモロイド発生が高まった。これは、約5%~約10%マトリゲルによる増殖培地(GM)の補充によって、他のタイプの乳癌細胞由来のチューモロイドの増殖を増進させられることを示唆している。
【0070】
チューモロイド増殖に影響を与える因子をテストするために、チューモロイド増殖に対するhMSC CMの影響を調べた。hMSCにより放出される増殖因子を調べた。この目的のために、継代2、3、5および6などの異なる継代のhMSCのCMを回収し、VEGF、IL-6、およびTGF-βのレベル。図5A~5Cは、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)培養上清(CM)に存在するVEGF(図5A)、IL-6(図5B)、および活性TGF-β1(図5C)を示すグラフを示す。ヒトMSCは、アルファMEMおよび15%血清中で培養した。各継代約48時間後に継代(p)p2~p6の培養上清を回収した。回収した培養上清を遠心分離し、濾過し、使用まで保管した。p2~p6のCMにおける増殖因子の発現をELISAにより調べた。VEGFの特異度を示すためにVEGF抗体の中和を使用した。*p<0.05。図5A~5Cに示されたデータは、hMSC-p2およびhMSC-p3と比べてhMSC-p5およびhMSC-p6のCMにおいて、有意に高いレベル(約1ng/mL)のVEGF(図5A)およびIL-6(約250~450pg/mL)(図5B)が見出されたことを示している。CMに存在しているものの、hMSC継代のCM間でTGF-β1のレベルの有意な差は観察されなかった(図5C)。
【0071】
BT474チューモロイドは、hMSCに由来する様々な濃度のCMの存在下、BT474細胞から培養した。p5-hMSC CMがVEGF、IL-6、およびTGF-β1の最大の産生を示す限りにおいて、BT474 GMに様々な濃度のp5-hMSC CMを補充し、BT474細胞のみ(単独培養)またはCAFおよびECの存在下(共培養)で培養し、チューモロイド増殖を調べた。図6A~6Hは、生細胞(緑)および死細胞(赤)を検出するためにカルセインAM/EthD-1により染色した、BT474乳癌細胞の単独培養(図6A~6D)またはBT474乳癌細胞およびEC+CAFの共培養(図6E~6H)の代表的な蛍光顕微鏡画像を示す。倍率:100×。標準的な増殖培地(GM)対CM(GM:CM)の比は、約100:0から約50:50に及んだ。図6A~7に示されたデータは、CMを約20%、約40%、または約50%で添加すると、単独培養および共培養の両方においてチューモロイド直径が増加したことを示している。GM:CM(約50%)を添加すると、単独培養および共培養チューモロイド下で産生されたチューモロイドの両方について、チューモロイド直径が有意に増加した。
【0072】
実施例4:臨床的有効性を決定するためのバイオマーカー
チューモロイドの臨床バイオマーカーとしてのKi67。臨床試験は、臨床的有効性のマーカーとしてKi67を利用する。Ki67がチューモロイドにおいて発現されるかどうかを決定するために、BT474細胞(10)をFiSSで5日間培養した。形成されたチューモロイドを固定し、抗Ki67抗体を用いて免疫染色した。図8Aから8Bは、生細胞を緑色、死細胞を赤色に染色するカルセインAM/EthD-1で染色したBT474チューモロイド培養物(図8A)、および3D足場におけるBT474の単独培養物に関するKi-67染色(図8B)を示す。
【0073】
チューモロイドのバイオマーカーとしてのVEGFおよびIL6。単独培養チューモロイドおよび共培養チューモロイドは、培養培地に放出された有意な量のVEGFおよびIL-6を産生した。共培養では、培養培地に放出されるVGEFおよびIL-6の量が2倍増加した。共培養において産生されたVGEFおよびIL-6のレベルの上昇は、これらの増殖因子が共培養で観察された細胞の増殖およびチューモロイドの増殖の増加に関与し得ることを示唆している。したがって、当データは、これらの2つのタンパク質が臨床的有効性のバイオマーカーとして機能し得ることを示唆している。
【0074】
実施例5:ハーセプチンおよびラパチニブを用いたチューモロイドによる臨床有効性の予測
BT474およびHCC1569の単独培養または共培養に由来するチューモロイドの、ラパチニブに対する感受性を調べた。ラパチニブは、EGFRおよびHER2を標的にする二重低分子チロシンキナーゼ阻害剤である。図9A~9Bに示されたデータに示されているように、チューモロイドはラパチニブ処理に対し様々な反応性を有した。BT474細胞は、2DまたはFiSSのいずれで培養した場合も、ラパチニブに対して感受性であることが観察された(IC50<2.5μM)が、ECおよびCAFの存在下でMT474-MCTは、ラプチニブ(Laptinib)に対して有意により高い耐性を有することが観察された(IC50>10μM)。HCC1569も、ECおよびCAFの存在下で培養した場合、ラパチニブに対する耐性の増加を示した。確立されたチューモロイドをラパチニブで処理した場合、類似の結果が観察された。
【0075】
実施例6:臨床的有効性のバイオマーカー
Ki-67は、癌治験における臨床有効性の代理マーカーとして使用することができる。Ki-67の発現。単独培養チューモロイドおよび共培養チューモロイドを、ラパチニブを漸増濃度として(0~10μM)処理した。チューモロイドを固定し、Ki-667について免疫染色した。ラパチニブ(2.5mM)による処理が、Ki-67の発現に影響を与えるかどうかをテストした。結果は、ラパチニブ処理がチューモロイド形成を阻害するだけでなく、Ki-67染色を完全に抑制することを示し、腫瘍細胞の増殖の完全な阻害を示唆した(図10Aおよび10B)。
【0076】
臨床的有効性のバイオマーカーを同定および評価するために、単独培養および共培養チューモロイドを両方とも漸増濃度のラパチニブ(約0から約10μM)で処理した。培養5日後、培養物の上清をVEGF、IL-6、およびTGF-βのレベルについてテストした。図11A~11Cは、3D足場での単独培養物またはCAFおよびECとの共培養BT474細胞に由来するBT474チューモロイドにおけるVEGF(図11A)、IL-6(図11B)、およびTGF-β1(図11C)に対するラパチニブの影響を示すグラフを示す。BT474チューモロイドを、ラパチニブ(2.5~10μM)の存在下または非存在下で単独培養または共培養し、5日目の培養上清中のVEGF、IL-6、およびTGF-β1のレベルをELISAにより決定した。*p<0.05。データは、単独培養および共培養チューモロイドが両方とも相当量のVEGF、IL-6、およびTGF-βを分泌したことを示している。ラパチニブ処理(約2.5μM~5μM)は、共培養チューモロイドにおけるVEGF、IL-6、およびTGF-βの分泌を有意に減少させた。データは、Ki67に加えてこれらの因子が、共培養チューモロイドにおける抗癌剤の臨床有効性のバイオマーカーとして機能し得ることを示している。
【0077】
実施例7:乳癌腫瘍細胞と間質細胞との共培養およびTSIの評価
チューモロイド培養の確立:条件をチューモロイド発生のために最適化した。HCC1569を除いて、乳房腫瘍細胞系MCF7、BT-474およびMDA-MB-231は全て、播種密度3,000から10,000細胞/96ウェル当たりでチューモロイドを形成した(ここでは単一細胞チューモロイド(SCT)と呼ばれる)。HCC1569の細胞系はゆるく接着しており、単層で培養した場合、細胞の約50%が浮遊物として残ったことが観察された。この細胞系によるチューモロイド形成を最適化する間に、HCC-1569細胞は、培養培地に10%マトリゲルを補充すると、他の細胞系と同じ頻度でチューモロイドを容易に発生させることが、思いがけなく観察された。図12A~12Dは、4細胞系全てが5日目にSCTを容易に発生させたことを示している。チューモロイド増殖を9日目までモニターし、5日目および9日目のSCTのサイズを測定した(図13)。各細胞タイプのチューモロイドは、サイズが3~20%差次的に増殖した。
【0078】
実施例8:チューモロイド共培養の確立および特徴付け
乳癌細胞とCAFおよびECなどの間質細胞との共培養が、インビボでの腫瘍を模倣できる多細胞チューモロイド(MCT)を形成するかどうかを調べるために、共培養試験を行った。5日目のMCF-7チューモロイドとECまたはCAFのどちらかとの共培養では、共培養3~5日後に識別可能なMCTが誘導された(図14A~14D)が、細胞の正味の増殖は低減した(図15)。しかし、MCF-7細胞とECおよびCAFの両方との共培養は、チューモロイドサイズおよび数を有意に増加させただけでなく(図14A~14D)、細胞増殖も回復させた(図15)。同様に、HCC-1569細胞系では、CAFおよびECと同時に共培養した場合、チューモロイドサイズおよび数が有意に増加した(図14A~14D)。共培養条件を最適化し、EC(103)およびCAF(103)との共培養腫瘍細胞(3~5×103)は、若干増加した増殖能を有する頑強なMCTを誘導したことが観察された(図16A~16F)。MCTにおけるCAFおよびECの存在を、それぞれ、CAFおよびECに特異的な抗平滑筋アクチン(SMA)抗体および抗フォンウィルブランド因子(vWF)抗体を用いたIHCと、それに続く共焦点顕微鏡法により確認した。CAF(赤、抗SMA陽性)およびEC(緑、抗vWF陽性)について免疫染色したMCTの代表的な蛍光画像および合成zスタック画像を観察した。共培養後5日目でCAFがチューモロイド全体に分散しているのが見出されたのに対し、ECは大部分がMCTの端で見出された(図17A~17F)。実験の別のセットにおいて、MDA-MB-231およびECの共培養もチューモロイド発生を示したが、正味の細胞増殖は低減した。まとめると、これらの結果は、チューモロイドと間質細胞との共培養が有意にチューモロイド発生を増加させることを示している。
【0079】
実施例9:FiSS培養とマトリゲルベースの3D培養との比較
FiSSチューモロイドの性能を他の3Dベースの培養プラットフォームと比較するために、増殖因子低減マトリゲルを用いた2つの乳癌細胞系、MCF7およびBT474におけるスフェロイド形成を評価した。比較のために、同数の細胞をFiSSにプレーティングし、調べた。細胞を5日間培養し、スフェロイドをカルセインAMで染色し、蛍光顕微鏡により調べた。図18A~18Dに示された結果は、MCF7(図18A~18B)においてマトリゲル培養がFiSSと類似したスフェロイドの数およびサイズを誘導したのに対し、BT474(図18C~18D)ではマトリゲル培養はFiSSよりまとまりのないコロニーを形成したことを示している。しかし、さらに、マトリゲルの内部に組み込まれているマトリゲル培養のコロニーはほとんどないことが見出された。
【0080】
実施例10:チューモロイドにおける細胞-細胞または細胞-ECM接着の評価
SCTおよびMCT培養におけるバイオマーカーの特徴付けに向けて、チューモロイドの培養上清に分泌される因子を調べた。チューモロイドの上清中のVGEFレベルの比較により、MCF7-MCTと比べてMCF7-SCTはVGEFが少ないことが示された(図19)。さらに、図11A~11Cに示されているように、BT474-SCTおよび-MCTは両方とも有意な量のVEGFおよびIL-6を産生した。興味深いことに共培養は、培養培地に放出されるVGEFおよびIL-6の量の2倍の増加を示した。共培養で産生されたVGEFおよびIL-6のレベルのこの増加は、共培養で見られる細胞の増殖およびチューモロイドの増殖の増加に重要であり得ることを示唆するものであり、したがって、これらの2つのタンパク質は臨床的有効性のマーカーとして機能する可能性がある。
【0081】
さらに、SCTおよびMCT培養において放出される因子および分子を特徴付けするために、マルチプレックスサンドイッチELISAアッセイを利用し、複数のタンパク質/因子の検出を同時に可能にするヒトQuantibody Array(RayBiotech Inc.)を使用した。図20は、アレイ1および2、パネル1~8のシグナル強度を示すスキャンデータを示している。図21の表2にリストされた幾つかの因子を含有するヒト骨代謝アレイを選択した。このリストには、接着分子(E-セレクチン、ICAM-1、P-カドヘリン、VE-カドヘリン)、増殖因子(aFGF、アクチビンA、アンドロゲン受容体(AR)、bFGF、骨形成タンパク質(BMP)-2、BMP-4、BMP-6、BMP-7、BMP-9、dickkopf-1(DKK-1)、IGF-1、オステオプロテゲリン(OPG)、オステオポンチン(OPN)、PDGF-BB、TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3)、ケモカイン(単球走化性タンパク質1(MCP-1))、マクロファージ炎症性タンパク質(MIP)-1α、VCAM-1)、サイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-8、IL-11、IL-17、M-CSF)、NFkBの受容体活性化因子(RANK)、オステオアクチビン、SDF-1α、TNF関連活性化誘導サイトカイン(TRANCE))、およびMMP-2、-3、-9、-13などのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が含まれる。
【0082】
これらの因子のいずれかがSCTおよびMCTで発現されるかどうかを決定するために、本発明者らは、QAH-BMA-1000アレイをBT474-SCTおよびMCTの培養上清のプールと4通りインキュベートした。実験は製造者のプロトコルを用いて行った。適切な陽性対照を使用してシグナル強度を正規化した。生データの結果が図20に示されている。このデータの分析は、SCTと比較してMCTで41因子のうち7つが有意に変化して見出されたことを示した。これらには、PDGF-BB、OPGおよびDKK-1などの増殖因子、MCP-1、IL-6およびIL-8などのケモカイン、ならびにプロテアーゼMMP-3(例えば図23A~25参照)が含まれる。
【0083】
実施例11:ELISAを用いたラパチニブ処理チューモロイドにおける増殖因子の決定
これらの結果をさらに確証するために、図20~21に記載されたquantibody Arrayを用いてSCTおよびMCTの培養上清を調べた。ラパチニブ処理培養物を、SCTと比較してMCTで差次的に発現が見られる因子について調べた。図22A~24は、結果を示すグラフを示した図である。結果は、MCTの培養上清がIL-6およびIL-8における>7倍の増加を示し、用量依存的にラパチニブ処理すると基礎レベルまで低減したことを示した(図22A~22B)。対照的に、単球走化性タンパク質(MCP-1)発現は、MCTにおいて変わらないままであった。しかし、ラパチニブ処理は、MCP-1発現をSCTにおいて完全に消失させたが、MCTでは中程度(12.5uMラパチニブの存在下で高々50%)に消失させた。これは、MCTにおけるラパチニブに対する耐性が、持続的MCP-1に起因する可能性があることを示唆するものである(図22C)。
【0084】
増殖因子のうちPDGF-BB(図23A)は、SCTおよびMCTの両方で発現が見られたが、ラパチニブ処理はいずれのチューモロイドでもその発現を変えなかった。対照的に、Wntシグナル伝達阻害剤である発現DKK-1(図23B)および骨再形成の負の調節因子であるOPG(図23C)が、MCTで唯一発現が見られたが、SCTでは見られなかった。DKK-1の発現のみが、ラパチニブ処理により有意に低減した(図23B)。他のMMPではなくMMP-3の発現が、SCTと比較してMCTで>20倍増加して見出され、ラパチニブ処理でごくわずかに低減することも見出された(図24)。図25は、乳癌患者におけるMCTで見出されたこれらのマーカーの臨床的関連性を記載する表を示す。
【0085】
実施例12:薬物応答の予測に関する3D FiSSとマトリゲルとの比較
臨床的有効性の予測に関して、マトリゲルベースの3D培養と比較してFiSSチューモロイドを評価するために、3日齢BT-474 SCT(マトリゲルまたはFiSSで培養)をラパチニブで処理し、チューモロイド形成(図26A~26D)および細胞生存率(図27A~27B)を調べた。マトリゲルは、FiSSチューモロイドと比較して多数のより小さなサイズのチューモロイドを誘導したが、それらのラパチニブに対する応答は図27A~27Bに示されているように類似していた。
【0086】
実施例13:試料の高含量スクリーニングで使用するためのFiSSプラットフォームの実現可能性の決定
チューモロイド培養物の自動イメージングおよび定量
高含量分析(HCA)は、蛍光顕微鏡法および定量的画像分析を行うための自動プラットフォームであり、マイクロタイタープレートに固定され染色された細胞を分析するのに使用されており、リン酸化、転移、細胞1個当たりベースのタンパク質の存在量、および細胞学的変化を含む多くの細胞変化を(ソフトウェアにより)定量化することができる。HCA分析を行うためにOperetta(Perkin Elmer)におけるFiSSチューモロイドのデータ取得を開始した。
【0087】
BT474に関する高含量イメージングの定量を最適化するために、チューモロイドを72時間インキュベートし、次いで20×対物レンズを備えるOperetta HCI Systemで撮像した。足場におけるBT474チューモロイドの単一平面zスタック画像をDAPIで染色し、Perkin Elmer製のOperetta高含量イメージングシステムを用いて画像を取得した。代表的なフィールドを20×倍率で選択し、各z平面間、2umの間隔でこれらのフィールドのzスタックを取得した。Zスタックを、画像処理ソフトウェアImage J(NIH)を用いて分析した。図28A~28Dに示される結果は、Image J分析がOperetta(Perkin Elmer)を用いて取得したチューモロイドのzスタック画像データを定量化するのに使用できることを示している。HCAを用いて本発明者らは、異なる濃度のラパチニブで処理したBT474チューモロイドにおけるKi-67発現の変化を定量化した。結果は、ラパチニブ処理BT474チューモロイド培養物における用量依存的Ki-67発現を示すものである(図29)。
【0088】
チューモロイドアッセイの最適化:(Z因子分析)
3D細胞培養においては、ハイスループット系スクリーニング(HTS)への該培養の組み込みに重要な再現性に主な障害があった。以前の試験において、レザズリン(青)からレゾルフィン(高蛍光性の赤)への変換により細胞代謝および生存率のリアルタイムモニタリングを可能にするPrestoBlueアッセイの実現可能性が実証されていた。変換は代謝的に活性な細胞の数に比例し、故に定量的に測定することができる。LLC1チューモロイドに関するPrestoBlueアッセイ(Life Technologies、NY)の精度を実証するために、FiSSを予め加えた96ウェルプレートでLLC1細胞を培養した。バックグラウンド蛍光を考慮するために、一部のウェルは、LLC1チューモロイドなしでFiSSおよび培地のみを含有した。72時間後、PrestoBlueアッセイを行った。スクリーニングアプリケーションとしての該アッセイの適合性を評価するために、Z’因子を計算した。Z’因子は0.63および0.72で計算し、HTS即応性に優れていると見なされた(図30A~30B)。結果は、96ウェルプレートにおいてPrestoBlueアッセイは、チューモロイド培養の最小ウェル間変動を示し、反復実験における標準偏差(SD)は12%および10%以内であることが見出されたことを示している。
【0089】
生存率アッセイには数時間のインキュベーションが必要であるため、HTSでは、アッセイ試薬の添加が細胞を直ちに破壊し、これにより試薬を生存細胞集団とインキュベーションするという要件を取り除くATPベースのアッセイ、例えばCellTiter-Glo(Promega、MD)が好まれる。細胞増殖阻害が、添加した化合物の細胞毒性であるのか、それとも細胞静止作用によるものかであるのかを判別するために、死細胞の細胞死関連パラメーター、例えば、膜完全性(DNAへの色素の結合)、カスパーゼ3/7活性(後期アポトーシス)、プロテアーゼ活性の変化が測定される。3Dチューモロイド培養に関するATPベースのアッセイの実現可能性をテストするために、細胞代謝の包括的な指標であるATPを測定するためルシフェラーゼ反応を使用する発光生存率アッセイである、CellTiter-Glo 2.0の潜在能力を調べた。Mg2+およびATPの存在下、ルシフェラーゼはルシフェリンをオキシルシフェリンに変換し、発光の形態でエネルギーを同時に放出する。シグナル強度は、代謝活性と相関する存在するATPの量に正比例する。このアッセイは、早ければ試薬添加10分後にデータを記録することができ、発光シグナルは極めて安定的である(半減期>5時間)ため、HTSにとって理想的である可能性がある。パイロット試験において、本発明者らは、CellTiter-Glo試薬がチューモロイドに浸透できるかどうかを評価した。5日目のBT474-SCTの培地へのCellTox Green(2×)の添加と、それに続くルシフェリン試薬との10分間および20分間のインキュベーションは、CellTiter-Glo試薬がチューモロイド溶解の20分以内にSCT(直径:180uM)に浸透したことを示した(図31)。
【0090】
CellTiter-Gloアッセイを使用して、BT474乳癌細胞系に由来するチューモロイドの増殖を阻害する上で6つの化合物の潜在能力を評価した。このパイロット試験からの結果は、例えば、D4化合物はBT474増殖を1:1000用量で阻害する(>70%)が、1:10,000用量では阻害しないことを示した(図32)。
【0091】
FiSSの大容量製造の自動化
足場の大規模製造の質を向上する試みにおいて、電界紡糸技術を可能にし、様々なポリマー、化学製品、および生物製剤に適合する世界初の統合機器である、適合Spraybaseシステムを使用した。Spraybaseは、FiSS技術に必要とされる使いやすさ、安全性、柔軟性、およびスケーラビリティ(scalability)を提供する。Spraybaseは、我々のニーズに応じて様々なサイズの繊維を形成するのに使用することができる。ローラードラムと組み合わせたSpraybaseは、チューモロイド技術用の大容量のFiSSマットを製造するための最良のアプローチを提供する。抗癌剤のハイスループットスクリーニングおよび高含量イメージングのための96および384マイクロウェルFiSSプレートの両方を製造可能なこのプロセスのさらなる自動化を発展させる努力も払われている。チューモロイド形成を調べるのに、製造した96ウェルFiSSマイクロプレートの潜在能力を用いて、Z’因子を計算した。Z因子は、スクリーニングアプリケーションとしてのプレートの適合性を評価するのに使用した。結果は、製造した96ウェルマイクロプレートで培養したMCF7およびBT474細胞が、それぞれZ’因子、0.87および0.846、Z因子、0.812および0.501でチューモロイドを形成することを示した。これらの結果は、FiSS-製造した製造96ウェルマイクロプレートがチューモロイド培養のウェル間変動が最小限であり、故に抗癌剤のHTSに優れていると見なされたことを示している(図33A~33B)。
本発明の例示的な態様を以下に記載する。
<1> 腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および上皮細胞(EC)を細胞培養培地で共培養する工程を含み、ここでTC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、前記細胞培養培地がある量の間葉系幹細胞培養上清を含有する、多細胞チューモロイドを形成する方法。
<2> 前記腫瘍細胞が乳癌細胞である、<1>に記載の方法。
<3> 前記乳癌細胞が対象者の腫瘍に由来する、<2>に記載の方法。
<4> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%存在する、<1>~<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%~約50%存在する、<1>~<3>のいずれか一項に記載の方法。
<6> 前記間葉系幹細胞培養上清がVEGFを少なくとも約800pg/mL含有する、<1>~<5>のいずれか一項に記載の方法。
<7> 前記間葉系幹細胞培養上清がIL-6を少なくとも約100pg/mL含有する、<1>~<6>のいずれか一項に記載の方法。
<8> 前記間葉系幹細胞培養上清がTGF-β1を少なくとも約1200pg/mL含有する、<1>~<7>のいずれか一項に記載の方法。
<9> 前記細胞培養培地が約5%~約10%マトリゲルをさらに含む、<1>~<8>のいずれか一項に記載の方法。
<10> 前記TC、CAF、およびECが三次元足場で共培養される、<1>~<9>のいずれか一項に記載の方法。
<11> 前記三次元足場が繊維状誘導スマートスキャフォールドである、<10>に記載の方法。
<12> 腫瘍細胞(TC)、癌関連線維芽細胞(CAF)、および上皮細胞(EC)を細胞培養培地で共培養することを含み、ここでTC対CAF対ECの数の比が5対1対1であり、前記細胞培養培地がある量の間葉系幹細胞培養上清を含有する、多細胞チューモロイドを形成させる工程と、
前記多細胞チューモロイドをある量の抗癌剤に曝露させる工程と、
を含む、抗癌剤の有効性を決定する方法。
<13> 前記腫瘍細胞が乳癌細胞である、<12>に記載の方法。
<14> 前記乳癌細胞が 対象者の腫瘍に由来する、<13>に記載の方法。
<15> 前記乳癌細胞が標準的な乳癌細胞系由来である、<13>に記載の方法。
<16> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%存在する、<12>~<15>のいずれか一項に記載の方法。
<17> 前記間葉系幹細胞培養上清が、前記細胞培養培地の総量の少なくとも約20%~約50%存在する、<12>~<15>のいずれか一項に記載の方法。
<18> 前記間葉系幹細胞培養上清が、VEGFを少なくとも約800pg/mL、IL-6を少なくとも約100pg/mL、およびTGF-β1を少なくとも約1200pg/mL含有する、<12>に記載の方法。
<19> 前記量の前記抗癌剤に曝露後の前記多細胞チューモロイドにおけるKi-67の発現を測定する工程をさらに含む、<12>~<18>のいずれか一項に記載の方法。
<20> 前記量の前記抗癌剤に曝露後の前記培養培地に存在するVEGFまたはIL-6の量を測定する工程をさらに含む、<12>~<19>のいずれか一項に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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