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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20230721BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230721BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20230721BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230721BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D7/61
C09D5/18
C09D5/02
C09D5/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023065944
(22)【出願日】2023-04-13
【審査請求日】2023-04-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314004233
【氏名又は名称】翔飛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100170025
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利郎
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107793853(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108841230(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109021831(CN,A)
【文献】特開2008-106202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全防火塗料に対して50重量%~70重量%の範囲内の濃度で、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかを粉砕することで得られ、平均粒子径が5.0mm以下である粉砕物と、
全防火塗料に対して30重量%~50重量%の範囲内の濃度である1液型水系アクリル樹脂エマルジョンと、
を含有し、
建材の表面に形成された、水系アクリル樹脂エマルジョンと密着付与剤とを混合させた2液型水系アクリル樹脂エマルジョンによる下塗塗膜の表面に塗布される、
防火塗料。
【請求項2】
前記防火塗料の膜厚は、0.5mm~5.0mmの範囲内である、
請求項1に記載の防火塗料。
【請求項3】
建材の表面に形成された、水系アクリル樹脂エマルジョンと密着付与剤とを混合させた2液型水系アクリル樹脂エマルジョンによる下塗塗膜と、
前記下塗塗膜の表面に塗布される防火塗料と、
を備え、
前記防火塗料は、
全防火塗料に対して50重量%~70重量%の範囲内の濃度で、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかを粉砕することで得られ、平均粒子径が5.0mm以下である粉砕物と、
全防火塗料に対して30重量%~50重量%の範囲内の濃度である1液型水系アクリル樹脂エマルジョンと、
を含有する、
防火塗布物。
【請求項4】
建材の表面に、水系アクリル樹脂エマルジョンと密着付与剤とを混合させた2液型水系アクリル樹脂エマルジョンを塗布することで、当該表面に下塗塗膜を形成する第一の形成工程と、
前記下塗塗膜の表面に、防火塗料を塗布することで、当該表面に防火塗料塗膜を形成する第二の形成工程と、
を備え、
前記防火塗料は、
全防火塗料に対して50重量%~70重量%の範囲内の濃度で、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかを粉砕することで得られ、平均粒子径が5.0mm以下である粉砕物と、
全防火塗料に対して30重量%~50重量%の範囲内の濃度である1液型水系アクリル樹脂エマルジョンと、
を含有する、
防火塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋根瓦の葺き替えや住宅の取り壊しの際に、大量の廃瓦が出てくる。従来、この廃瓦は、瓦礫として最終処理場で埋め立てられていたが、近年、廃瓦を破砕して道路の舗装材の骨材として用いることで、廃棄物を少なくして資源の再利用を図っている。
【0003】
ここで、産業廃棄物として廃棄されていた廃瓦の微粉末(粒径3mm以下)と、同じく今まで産業廃棄物であった色違いの弾性アクリルエマルジョン廃塗料とを混合して外壁用の塗料として再利用する技術が存在する。特開2008-106202号公報(特許文献1)には、粒径3mm以下の廃瓦の破砕微粉末と弾性アクリルエマルジョン廃塗料との混合物からなる外壁用塗料が開示されている。この外壁用塗料は、廃瓦の破砕微粉末20~50重量%と弾性アクリルエマルジョン廃塗料50~80重量%との混合物である。これにより、屋根の葺き替え現場や家屋の取り壊し現場で多量に排出される瓦、特に舗装材として利用するために破砕したときに出る廃瓦の微粉末を有効に再利用することが出来ると共に、弾性アクリルエマルジョン廃塗料の再利用も図れるとしている。又、瓦は1200度前後で焼成されているため、粉末になった状態でも堅牢さを維持し、アクリルエマルジョン塗料に混合しても粘りが発生せず、粘土質が遊離することもない。塗装作業も簡単であるとしている。更に、瓦は多孔質のため、この塗料は、熱伝導率が小さく、断熱効果があり、破砕時に生ずる廃瓦の微粉末の角が弾性アクリルエマルジョン廃塗料で被覆されるため、塗装面が粗面であっても柔らかな触感を呈し、擦られた肌や物を傷つけることがないとしている。そして、瓦特有の色彩が弾性アクリルエマルジョン廃塗料の色彩と融合して、塗布された壁面に美しい外観を付与出来るとしている。
【0004】
又、特開2010-156169号公報(特許文献2)には、粒径0.5~2ミリの瓦材の砕砂53~58重量%と、アクリル系樹脂塗料と、サクビ系樹脂塗料と、不飽和ポリエステル系樹脂塗料と、エポキシ系樹脂塗料のなかから選ばれる一つ又は複数の樹脂塗料20~25重量%と、ポリビニルアルコールを主剤とする増粘剤3~6重量%と、炭酸カルシウム4~7重量%と、シリコン1~2重量%と、セメント3~6重量%と、水7~9重量%を混合した屋根補修材料が開示されている。これにより、ポリビニルアルコールを主剤とする増粘剤又はメチルセルローズを主剤とする増粘剤を加えるようにしたことより、屋根補修材料の粘り性が向上し、屋根補修材料の分離を防止できるとしている。又、炭酸カルシウムを加えるようにしたことより、屋根補修材料の硬化性が向上するとしている。更に、繋ぎの目的でビニール製の微細繊維を混合するので、塗布された塗布層の安定的な定着性が確保され、剥離や脱落の起こりにくい塗布層が得られるとしている。そして、屋根補修材料の塗布施工性が向上して、簡単に塗布作業を行えるようになり、完成した塗布層の表面は美しく強固なものとなり、その色彩も黒色又は赤色とすることは当然のこと、それ以外の中間色も、黒色又は赤色の補修材料を適宜混合割合で混合することで自由に得ることができるとしている。又、従来の屋根補修材料では達成することが困難であった、2~3ミリ厚の厚塗りが可能となり、その結果、塗布層面の遮熱性や色持ち、さらには耐久性に優れるという効果を発揮するとしている。
【0005】
又、特開2023-5171号公報(特許文献3)には、遮熱剤と、ポリウレアまたはその原料とを含む遮熱塗料組成物が開示されている。この遮熱剤は、中空セラミック粒子及び白色顔料からなる群から選択される少なくとも1種であり、耐火剤が白色の耐火材である。これにより、耐用年数の長い遮熱塗膜を形成することが出来るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-106202号公報
【文献】特開2010-156169号公報
【文献】特開2023-5171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、廃瓦等の粉砕物を用いた塗料は、防火性や遮熱性が不十分という課題があり、現在でも、粉砕物の配合比率やバインダーの種類の選定、塗布形態等が鋭意研究されている。特に、防火性が不十分な塗料の場合、建材の表面に塗布したとしても、建材の防火性向上につながらないことから、使用を断念するユーザも多く、市場に出回り難いという課題がある。
【0008】
ここで、特許文献1に記載の技術では、廃瓦の破砕微粉末と弾性アクリルエマルジョン廃塗料との混合物からなる外壁用塗料を外壁に塗布して、外壁の断熱性を向上させているものの、防火性が向上しているか不明である。特に、外壁用塗料単体での塗膜では、外壁への接着力が不十分で、時間と共に塗膜が剥がれ落ちるという可能性が高い。
【0009】
又、特許文献2に記載の技術では、屋根補修材料に増粘剤を添加することで、粘り性を向上させて、屋根補修材料と屋根との分離を防止しているものの、粘り性だけでは、屋根との接着力に限界があり、又、防火性や断熱性が向上しているか不明である。
【0010】
又、特許文献3に記載の技術では、遮熱剤とポリウレアとを組み合わせることで、耐用年数の長い遮熱塗膜を形成しているが、防火性と遮熱性は、異なる性質であり、この技術で防火性が向上しているか不明であり、又、遮熱塗料単体での塗膜では、塗布対象への接着力が不十分である可能性が高い。
【0011】
そこで、本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、塗布対象への接着力に優れ、且つ、防火性及び遮熱性を有し、美観性を向上させることが可能な防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る防火塗料は、粉砕物と、1液型水系アクリル樹脂エマルジョンと、を含有する。粉砕物は、全防火塗料に対して50重量%~70重量%の範囲内の濃度で、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかを粉砕することで得られ、平均粒子径が5.0mm以下である。1液型水系アクリル樹脂エマルジョンは、全防火塗料に対して30重量%~50重量%の範囲内の濃度である。防火塗料は、建材の表面に形成された、2液型水系アクリル樹脂エマルジョンによる下塗塗膜の表面に塗布される。
【0013】
又、本発明に係る防火塗布物は、建材の表面に形成された、2液型水系アクリル樹脂エマルジョンによる下塗塗膜と、前記下塗塗膜の表面に塗布される防火塗料と、を備える。
【0014】
又、本発明に係る防火塗布方法は、建材の表面に、2液型水系アクリル樹脂エマルジョンを塗布することで、当該表面に下塗塗膜を形成する第一の形成工程と、前記下塗塗膜の表面に、防火塗料を塗布することで、当該表面に防火塗料塗膜を形成する第二の形成工程と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、塗布対象への接着力に優れ、且つ、防火性及び遮熱性を有し、美観性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法の概念図である。
図2】本発明に係る防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法の概念写真である。
図3】実施例1-4と比較例1-4の下塗塗料と防火塗料との各成分と結果を示す表である。
図4】実施例5-10と比較例5-6の下塗塗料と防火塗料との各成分と結果を示す表である。
図5】粉砕物が、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかの場合の防火塗料塗膜の写真
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0018】
本発明者は、長年、瓦等の廃材の耐熱性に着目し、廃材を用いた防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法について鋭意研究しており、下記の構成を採用することで、驚くべきことに、塗布対象への接着力、防火性、遮熱性、美観性に優れることを発見し、後述する実施例に基づいて、本発明を完成させたのである。
【0019】
即ち、本発明に係る防火塗料1は、図1に示すように、粉砕物10と、1液型水系アクリル樹脂エマルジョン11と、を含有する。粉砕物10は、全防火塗料1に対して50重量%~70重量%の範囲内の濃度で、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかを粉砕することで得られ、平均粒子径が5mm以下である。又、1液型水系アクリル樹脂エマルジョン11は、全防火塗料1に対して30重量%~50重量%の範囲内の濃度である。
【0020】
又、防火塗料1は、建材Bの表面に形成された、水系アクリル樹脂エマルジョン20と密着付与剤21とを混合させた2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2による下塗塗膜22の表面に塗布される。これにより、塗布対象への接着力に優れ、且つ、防火性及び遮熱性を有し、美観性を向上させることが可能となる。
【0021】
即ち、本発明では、先ず、下塗の塗料として、接着力の優れる2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2を採用し、これを建材Bの表面に塗布して下塗塗膜22を形成させている。ここで、2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2は、1液型水系アクリル樹脂エマルジョンと比較して、塗布対象に対する接着力・密着力が高く、且つ、硬化後の耐候性に優れるため、内装、外装に限らず、防火塗装の下塗として極めて有効である。
【0022】
次に、本発明では、下塗塗膜22の表面に、粉砕物10と1液型水系アクリル樹脂エマルジョン11とを含有する防火塗料1を塗布している。ここで、下塗塗膜22も防火塗料1も、共通するアクリル樹脂を含有することから、両者の接着力・密着力を高め、塗布対象(建材B)に対する防火塗料塗膜12の接着力を高めることが可能となり、時間と共に防火塗料塗膜12や粉砕物10が剥がれ落ちることを防止することが出来る。
【0023】
更に、本発明では、防火塗料1に含有される粉砕物10は、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかを粉砕することで得られており、且つ、全防火塗料1に対して50重量%~70重量%の範囲内の濃度である。ここで、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルは、全て無機物で構成されることから、いずれも防火性を高めることが出来る。
【0024】
そして、本発明では、防火塗料1に含有される粉砕物10は、平均粒子径が5.0mm以下である。この防火塗料1を塗布することで、防火塗料塗膜12には、粉砕物10に起因する凹凸表面が形成される。この凹凸表面に照射される光は、平均粒子径が5.0mm以下の粉砕物10によって乱反射することになり、光の吸収を抑える。特に、平均粒子径が5.0mm以下の粉砕物10では、熱に起因する赤外線の光の乱反射を促進する。その結果、本発明では、遮熱性を高めることが出来る。
【0025】
そして、本発明では、下塗塗膜22も防火塗料1も、共通するアクリル樹脂を含有し、アクリル樹脂は、基本的に、透明であることから、防火塗料の塗膜12の色合いは、全て粉砕物10に影響される。ここで、粉砕物10は、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかであり、これらには特有の色合いが存在し、それぞれの色合いが防火塗料塗膜12に綺麗に反映されることになる。その結果、塗布対象(建材B)の美的価値を上げて、美観性を向上させることが可能となる。
【0026】
本発明は、このような総合的な作用により、塗布対象への接着力に優れ、且つ、防火性及び遮熱性を有し、美観性を向上させることが可能となるのである。
【0027】
ここで、粉砕物10に採用される瓦、煉瓦、陶磁器、タイルの種類に特に限定は無いが、例えば、廃材として回収された瓦、廃材として回収された煉瓦、廃材として回収された陶磁器、廃材として回収されたタイル等であっても良いし、新材であっても構わない。又、これらに貝殻、土、砂等の無機物が含まれても構わない。粉砕物10に採用される瓦、煉瓦、陶磁器、タイルは、1種類であっても、複数種類組み合わせても構わない。
【0028】
又、粉砕物10の平均粒子径は、5.0mm以下であれば、特に限定は無いが、例えば、1.0mm-5.0mmの範囲内であると好ましく、2.0mm-5.0mmの範囲内であると更に好ましい。尚、平均粒子径が5.0mm以下の粉砕物10を得る方法は、例えば、メッシュが5.0mmの篩に粉砕物を通す方法を挙げることが出来る。
【0029】
又、1液型水系アクリル樹脂エマルジョン11の種類に特に限定は無いが、例えば、架橋剤を含有した水系アクリル樹脂エマルジョンを挙げることが出来る。ここで、1液型水系アクリル樹脂エマルジョンとは、例えば、「(メタ)アクリルモノマーの重合体」のエマルション又は「(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーとの共重合体」のエマルションを挙げることが出来る。1液型水系アクリル樹脂エマルジョンは、例えば、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの内の少なくとも1種を含有する(メタ)アクリルモノマーと、必要に応じてその他のモノマーとを、乳化剤又は分散安定剤の存在下で、水中にて攪拌下乳化重合して得られる。アクリル樹脂のガラス転移温度は、30度~60度の範囲内であると、防火塗料1の塗膜12の耐候性や防火性が向上するため、好ましい。アクリルモノマーには、シリコンやフッ素を含有していても構わない。
【0030】
又、防火塗料塗膜12の膜厚に特に限定は無いが、例えば、0.5mm~5.0mmの範囲内であると好ましく、1.0mm~5.0mmの範囲内であれば更に好ましい。ここで、粉砕物10の平均粒子径が5mm以下であり、且つ、防火塗料塗膜12の膜厚が0.5mm~5.0mmの範囲内であれば、必然的に、粉砕物10は、表面に表出して、粉砕物10に起因する凹凸表面が形成される。これにより、防火性や遮熱性、美観性を確実に向上させることが出来る。又、防火塗料塗膜12の膜厚が0.5mm~5.0mmの範囲内であれば、必要最低限の防火塗料1の塗布量で済み、塗布操作を簡素化出来る。
【0031】
又、粉砕物10と1液型水系アクリル樹脂エマルジョン11との混合比率は、重量比で、1:0.3-1.0であると好ましい。これにより、粉砕物10に起因する凹凸表面を適切に形成させることが可能となるとともに、吹付塗装等の防火塗料1の塗布の際に、粉砕物10による目詰まりが生じる等の不具合を防止することが出来る。
【0032】
又、防火塗料1の塗布方法に特に限定は無いが、例えば、吹付塗装方法(スプレー方式)、刷毛塗装方法、ローラー塗装方法等を挙げることが出来る。又、防火塗料1の塗布回数に特に限定は無いが、例えば、1回塗り、2回塗り、3回塗り、4回塗り等を挙げることが出来る。
【0033】
又、防火塗料1の塗布量に特に限定は無いが、例えば、0.5kg/m~3.0kg/mの範囲内であると好ましく、1.0kg/m~2.5kg/mの範囲内であると更に好ましい。
【0034】
又、2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2に含有される水系アクリル樹脂エマルジョン20の種類に特に限定は無いが、例えば、「(メタ)アクリルモノマーの重合体」のエマルション又は「(メタ)アクリルモノマーと他のモノマーとの共重合体」のエマルションを挙げることが出来る。水系アクリル樹脂エマルジョン20は、上述と同様に、例えば、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの内の少なくとも1種を含有する(メタ)アクリルモノマーと、必要に応じてその他のモノマーとを、乳化剤又は分散安定剤の存在下で、水中にて攪拌下乳化重合して得られる。又、アクリル樹脂のガラス転移温度は、30度~60度の範囲内であると、下塗塗膜22の耐候性及び防火性が向上するため、好ましい。
【0035】
又、2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2に含有される密着付与剤21の種類に特に限定は無いが、例えば、水系アクリル樹脂エマルジョン20に含まれるアクリルモノマーと反応して、アクリル樹脂を重合するためのカップリング剤を挙げることが出来る。カップリング剤は、例えば、シランカップリン剤を挙げることが可能であり、これらは、下塗塗膜22の耐候性及び密着性を向上させることが出来る。
【0036】
又、下塗塗膜22の膜厚に特に限定は無いが、例えば、0.5mm~5.0mmの範囲内であると好ましく、1.0mm~5.0mmの範囲内であれば更に好ましい。これにより、防火塗料塗膜12に対する接着性を維持するとともに、必要最低限の下塗塗料2の塗布量で済み、塗布操作を簡素化出来る。
【0037】
又、下塗塗膜22の塗布方法に特に限定は無いが、例えば、吹付塗装方法(スプレー方式)、刷毛塗装方法、ローラー塗装方法等を挙げることが出来る。又、防火塗料1の塗布回数に特に限定は無いが、例えば、1回塗り、2回塗り、3回塗り、4回塗り等を挙げることが出来る。
【0038】
又、下塗塗膜22の塗布量に特に限定は無いが、例えば、0.5kg/m~3.0kg/mの範囲内であると好ましく、1.0kg/m~2.5kg/mの範囲内であると更に好ましい。
【0039】
又、防火塗料1と2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2は、本発明の目的を阻害しない範囲内で、他の添加物を含有しても構わない。他の添加物は、例えば、色剤、硬化剤、耐候剤、有機溶媒、顔料分散剤、乾燥剤、酸化防止剤、反応触媒、消泡剤、粘性調整剤、脱水剤、レベリング剤、沈降防止剤、ダレ止め剤、付着性付与剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を挙げることが出来る。
【0040】
又、建材Bの種類に特に限定は無いが、壁材、床材、屋根材、建築木材製品、合成木・人工木・再生木、天井材、合板集成材・化粧合板、下地材(内装・外装用)、改修・下地調整材、階段材、手摺材(手すり材)、ロートアイアン(錬鉄)、庇(ひさし)、内装・外装装飾材、内装・外装仕上げ材、デザイン建築製品、和風建築・和風インテリア等を挙げることが出来る。
【0041】
又、本発明に係る防火塗布物は、上述の下塗塗膜と防火塗料を用いて構成される。具体的には、防火塗布物は、建材Bの表面に形成された、2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2による下塗塗膜22と、下塗塗膜22の表面に塗布される防火塗料1と、を備える。
【0042】
又、本発明に係る防火塗布方法は、上述の下塗塗膜と防火塗料を用いて構成される。具体的には、防火塗布方法は、建材Bの表面に、2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2を塗布することで、当該表面に下塗塗膜22を形成する第一の形成工程と、下塗塗膜22の表面に、防火塗料1を塗布することで、当該表面に防火塗料塗膜12を形成する第二の形成工程と、を備える。
【0043】
これらによっても、これにより、上述と同様に、塗布対象への接着力に優れ、且つ、防火性及び遮熱性を有し、美観性を向上させることが可能となる。
【実施例
【0044】
以下に、本発明における実施例、比較例等を具体的に説明するが、本発明の適用が本実施例などに限定されるものではない。
(防火塗料、防火塗布物、防火塗布方法について)
【0045】
図2に示すように、水系アクリル樹脂エマルジョン20と密着付与剤21とを混合させた2液型水系アクリル樹脂エマルジョン2を下塗塗料として用意し、その下塗塗料2を、長尺の建材Bの表面に塗布して、約1.0mmの膜厚の下塗塗膜22を形成させた。次に、粉砕物10と1液型水系アクリル樹脂エマルジョン11とを混合した防火塗料1を用意し、その防火塗料1を下塗塗膜22の表面に塗布した。防火塗料1を吹付塗装で所定回数塗布し、塗布後の防火塗布物を製造した。これらの防火塗布物を実施例1-4とした。尚、粉砕物10の種類は、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかに変更した。
【0046】
一方、粉砕物10の平均粒子径が5mmを超える場合や粉砕物10の平均粒子径が0.5mm未満の場合、下塗塗料を用いずに建材Bの表面に防火塗料1を直接塗布した場合や下塗塗料の種類を2液型水系ウレタン樹脂エマルジョンにした場合の防火塗布物を製造した。これらの防火塗布物を比較例1-4とした。図3は、実施例1-4と比較例1-4の下塗塗料と防火塗料との各成分と結果を示す表である。
【0047】
又、粉砕物10の種類のうち、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれか2種類を組み合わせたり、防火塗料塗膜12の膜厚を10.0mmに厚くしたり、0.1mmに薄くしたりした場合の防火塗布物を製造した。これらの防火塗布物を実施例5-10とした。
【0048】
一方、粉砕物10の濃度を80重量%としたり、40重量%としたりした場合の防火塗布物を製造した。これらの防火塗布物を比較例5-6とした。図4は、実施例5-10と比較例5-6の下塗塗料と防火塗料との各成分と結果を示す表である。
(評価方法)
【0049】
次に、製造後の防火塗布物の性能評価を行った。性能評価の項目は、接着性と、防火性と、遮熱性と、美観性とである。
(接着性)
【0050】
接着性は、製造後の防火塗布物を所定期間(1ヶ月)外部に放置し、その後の防火塗布物の凹凸表面を所定数撫でて、防火塗料塗膜が剥がれ落ちるか否かを確認した。
(基準)
【0051】
○:防火塗料塗膜が剥がれ落ちない場合、接着性が良好と判断した。
△:防火塗料塗膜の粉砕物が剥がれ落ちた場合、接着性が一部不良と判断した。
×:防火塗料塗膜が剥がれ落ちた場合、接着性が一部不良と判断した。
(防火性)
【0052】
防火性は、製造後の防火塗布物のうち、建材と下塗塗膜と防火塗料塗膜とを一体として100mm×100mm角の試験片として切断して取り出し、コーンカロリーメーター試験を行い、試験片の総発熱量を測定した。
(基準)
【0053】
○:20分間の総発熱量が8MJ/m以下の場合、防火性が良好と判断した。
△:10分間の総発熱量が8MJ/m以下の場合、防火性が一部不良と判断した。
×:5分間の総発熱量が8MJ/m以下の場合、防火性が不良と判断した。
(遮熱性)
【0054】
遮熱性は、製造後の防火塗布物のうち、建材と下塗塗膜と防火塗料塗膜とを一体として試験片として切断して取り出し、紫外可視近赤外分光光度計で、300nm-2500nmの波長範囲について、分光反射率を測定し、JIS K5602に準じて日射反射率(全波長域)を算出した。
(基準)
【0055】
○:全波長域の日射反射率が20%以上の場合、遮熱性が良好と判断した。
△:全波長域の日射反射率が20%未満、10%以上の場合、遮熱性が一部不良と判断した。
×:全波長域の日射反射率が10%未満の場合、遮熱性が不良と判断した。
(美観性)
【0056】
美観性は、製造後の防火塗布物のうち、建材と下塗塗膜と防火塗料塗膜とを一体として試験片として切断して取り出し、紫外可視近赤外分光光度計で、300nm-2500nmの波長範囲について、分光反射率を測定し、JIS K5600-4-4の3-2に準じて10度視野の明度(L*)を算出した。
(基準)
【0057】
○:明度(L*)が30以上の場合、美観性が良好と判断した。
△:明度(L*)が30%未満、20%以上の場合、美観性が一部不良と判断した。
×:明度(L*)が20%未満の場合、美観性が不良と判断した。
(評価結果)
【0058】
図3に示すように、比較例1、3-4では、全ての性能評価の項目が「×」であり、比較例2では、二つの性能評価の項目が「×」であり、これらは製品として不良であることが分かった。一方、実施例1-4では、全ての性能評価の項目が「〇」であり、これらは製品として合格であることが分かった。
【0059】
又、図4に示すように、比較例5-6では、全ての性能評価の項目が「×」であり、これらは製品として不良であることが分かった。一方、実施例5-8では、全ての性能評価の項目が「〇」であり、実施例9-10では、性能評価の項目が「〇」又は「△」であり、これらは製品として合格であることが分かった。
【0060】
又、図5には、粉砕物が、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかの場合の防火塗料塗膜の写真である。いずれの場合も、美観性に優れていることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上のように、本発明に係る防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法は、あらゆる建材の表面に有用であり、塗布対象への接着力に優れ、且つ、防火性及び遮熱性を有し、美観性を向上させることが可能な防火塗料、防火塗布物及び防火塗布方法として有効である。
【符号の説明】
【0062】
1 防火塗料
10 粉砕物
11 1液型水系アクリル樹脂エマルジョン
12 防火塗料塗膜
2 2液型水系アクリル樹脂エマルジョン
20 水系アクリル樹脂エマルジョン
21 密着付与剤
22 下塗塗膜
B 建材
【要約】
【解決手段】防火塗料は、全防火塗料に対して50重量%~70重量%の範囲内の濃度で、瓦、煉瓦、陶磁器、タイルのいずれかを粉砕することで得られ、平均粒子径が5.0mm以下である粉砕物と、全防火塗料に対して30重量%~50重量%の範囲内の濃度である1液型水系アクリル樹脂エマルジョンと、を含有する。防火塗料は、建材の表面に形成された、2液型水系アクリル樹脂エマルジョンによる下塗塗膜の表面に塗布される。又、防火塗布物と、防火塗布方法とは、防火塗料を用いる。塗布対象への接着力に優れ、且つ、防火性及び遮熱性を有し、美観性を向上させることが可能となる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5