(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】基板分離方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230721BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20230721BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2019094702
(22)【出願日】2019-05-20
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】當木 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】大森 健志
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-043808(JP,A)
【文献】特開2016-060675(JP,A)
【文献】特開2006-041007(JP,A)
【文献】特開2001-035253(JP,A)
【文献】特開2017-183600(JP,A)
【文献】特開2009-061462(JP,A)
【文献】特開2011-249523(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光の集光照射により
窒化ガリウムの基板の内部に改質層を形成する改質層形成工程と、
前記
窒化ガリウムの融点未満かつ前記改質層に含まれる
ガリウムの融点以上の温度である
水の中に前記
窒化ガリウムの基板を浸漬することで、前記改質層を溶融させる溶融工程と、
溶融した前記改質層を境界として、前記
窒化ガリウムの基板を分離する分離工程と、
を含む、
基板分離方法。
【請求項2】
前記改質層形成工程において、前記
窒化ガリウムの基板の内部の一面に渡って連続するように前記レーザ光を走査する、
請求項1に記載の基板分離方法。
【請求項3】
前記溶融工程において、前記
窒化ガリウムの基板を浸漬したのち、前記
水の温度を、前記改質層の融点未満から前記
窒化ガリウムの融点未満かつ前記改質層の融点以上に昇温する、
請求項1または2に記載の基板分離方法。
【請求項4】
前記溶融工程において、前記
水の含まれる液槽内を減圧する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の基板分離方法。
【請求項5】
前記レーザ光は、パルス幅100ps以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の基板分離方法。
【請求項6】
前記改質層形成工程において、前記レーザ光の照射により前記
窒化ガリウムが化学的に分解される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の基板分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板材料の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、シリコン(Si)ウエハに代表される脆性ウエハを製造する場合には、図示しないが、石英るつぼ内に溶融されたシリコン融液から凝固した円柱形のインゴットを適切な長さのブロックに切断して、その周縁部を目標の直径になるよう研削する。その後、ブロック化されたインゴット(基板)をワイヤソーによりスライスして脆性ウエハを製造している。この場合、切断の際にワイヤソーの太さ以上の切り代が必要となるので、厚さ0.1mm以下の薄い脆性ウエハを製造することが非常に困難であり、良品率も向上しないという問題がある。そこで、集光レンズでレーザ光の集光点を脆性材の内部に合わせ、そのレーザ光で脆性材を相対的に走査することにより、脆性材の内部に多光子吸収による面状の加工領域を形成し、この加工領域を剥離面として脆性材の一部をウエハとして剥離するウエハ製造方法およびウエハ製造装置が開示されている。この技術は、シリコン(Si)だけでなく、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)にも展開されている。
【0003】
また、特許文献1に記載のウエハの生成方法は、レーザ光を集光レンズに入射させ、六方晶単結晶インゴット内部に改質層を形成し、改質層から伸展するクラックを形成して分離起点を形成し、そのインゴットに超音波をかけることでウエハを分離するウエハの生成方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、特に劈開性を有する材料などにおいて、超音波振動の印加により起点から意図しない方向へクラックが進展し、割れに繋がるという課題がある。
【0006】
したがって、本開示は、分離性の高い基板分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の基板分離方法は、レーザ光の集光照射により被加工材の基板の内部に改質層を形成する形成工程と、
前記被加工材の融点未満かつ前記改質層に含まれる物質の融点以上の温度である液体の中に前記被加工材の基板を浸漬することで、前記改質層を溶融させる溶融工程と、
溶融した前記改質層を境界として、前記被加工材の基板を分離する分離工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る基板分離方法によれば、分離性の高い基板分離を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2A】本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置によるレーザ光の走査方法1を示す概略平面図である。
【
図2B】本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置によるレーザ光の走査方法2を示す概略平面図である。
【
図2C】本開示の実施形態に係るレーザ加工装置によるレーザ光の走査方法3を示す図
【
図3】本開示の実施形態に係るレーザ加工後の基板材料における改質層の形成状態を示す図
【
図4】本開示の実施の形態1における基板分離方法の改質層を形成した脆性材を分離するための装置概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様に係る基板分離方法は、レーザ光の集光照射により被加工材の基板の内部に改質層を形成する改質層形成工程と、
前記被加工材の融点未満かつ前記改質層に含まれる物質の融点以上の温度である液体の中に前記被加工材の基板を浸漬することで、前記改質層を溶融させる溶融工程と、
溶融した前記改質層を境界として、前記被加工材の基板を分離する分離工程と、
を含む。
【0011】
第2の態様に係る基板分離方法は、上記第1の態様において、前記形成工程において、前記被加工材の基板の内部の一面に渡って連続するように前記レーザ光を走査してもよい。
【0012】
第3の態様に係る基板分離方法は、上記第1又は第2の態様において、前記溶融工程において、前記被加工材の基板を浸漬したのち、前記液体の温度を、前記改質層の融点未満から前記被加工材の融点未満かつ前記改質層の融点以上に昇温してもよい。
【0013】
第4の態様に係る基板分離方法は、上記第1から第3のいずれかの態様において、前記溶融工程において、前記液体の含まれる液槽内を減圧してもよい。
【0014】
第5の態様に係る基板分離方法は、上記第1から第4のいずれかの態様において、前記レーザ光は、パルス幅100ps以下であってもよい。
【0015】
第6の態様に係る基板分離方法は、上記第1から第5のいずれかの態様において、前記形成工程において、前記レーザ光の照射により前記被加工材が化学的に分解されてもよい。
【0016】
第7の態様に係る基板分離方法は、上記第1から第6のいずれかの態様において、前記被加工材は窒化ガリウムであってもよい。
【0017】
以下、本開示の実施の形態に係る基板分離方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において、実質的の同一の部材には同一の符号を付している。
【0018】
(実施の形態1)
<基板分離方法>
実施の形態1に係る基板分離方法は、被加工材の基板の内部に改質層を形成する改質層形成工程と、被加工材の基板を液体に浸漬することで、改質層を溶融させる溶融工程と、溶融した改質層を境界として、被加工材の基板を分離する分離工程と、を含む。上記液体は、被加工材の融点未満かつ改質層に含まれる物質の融点以上の温度である。
これによって、改質層に含まれる物質が液体に溶け出し、改質層を境界として基板を分離することができる。この場合、劈開性を有する材料からなる基板であっても、劈開、割れ等を抑制しながら基板を分離できる。
【0019】
以下に、この基板分離方法に含まれる改質層形成工程と、これに用いるレーザ加工装置20(
図1)と、溶融工程及び分離工程と、これに用いる基板分離装置30(
図4)と、について順に説明する。
【0020】
(レーザ加工装置の構成)
図1は、本開示の実施の形態1における基板分離方法に含まれる改質層形成工程において用いるレーザ加工装置20の概略図である。
レーザ加工装置20は、レーザ光を発振するレーザ発振器2と、レーザ光を複数のビームに分岐あるいはビームの形状や波形を変更する位相変調部11と、レーザ光を反射させるミラー4と、レーザ光を集光して基板材料1に照射する集光レンズ5と、基板材料1を駆動させるXYステージ6、Zステージ7、及び回転ステージ8と、基板材料1を固定する固定治具9と、レーザ加工装置20を制御する制御部10と、を備える。
【0021】
<基板材料>
図1に図示した基板材料1は、脆性材料により形成されている。基板材料1は、例えば、GaNインゴットである。なお、GaNインゴットは、予め表面が鏡面加工されていることが好ましい。
【0022】
<レーザ発振器>
レーザ発振器2は、レーザ光を発振(出射)する装置である。加工対象の基板材料1に対する透過率を考慮したレーザ波長を選択するにより、効率の良いレーザ加工が可能である。
<ミラー>
ミラー4は、レーザ発振器2から照射されたレーザ光を反射させるものであり、レーザの波長に対して90%以上の反射率を持つものである。
<集光レンズ>
集光レンズ5は、ミラー4で反射されたレーザ光を集光し、基板材料1内に照射するためのものである。この集光レンズ5は、レーザ光の波長に対して、開口数(NA)が、0.1以上0.95以下であることが好ましく、さらに作動距離が大きいものであればなお好ましい。
また、集光レンズ5には、収差補正機能がある方が望ましい。収差補正機能は、レンズの球面収差による集光点Qのレーザ光の照射方向への伸びを抑制することが出来る機能である。よって、集光点Qでのレーザ光のエネルギー密度を高くできる。なお、収差補正方法については、補正環付の集光レンズ5を用いる方法や、位相変調素子を用いる方法であってもよく、特に限定されるものではない。
【0023】
<レーザ光>
基板材料1に照射されるレーザ光は、例えば、波長1064nm以下、パルス幅100ps以下、周波数10MHz以下、NA0.95以下であれば、基板材料1に割れ等が生じることなく改質層を形成することができる。
また、基板材料1に照射されるレーザ光は、多光子吸収の誘起による内部加工が可能であれば制限されるものではない。この多光子吸収による内部加工によって、改質層12を形成することが可能となる。さらに、この多光子吸収を用いることが、例えばGaNの場合、化学的にGaが析出することに寄与する。
また、生産性を考えると基板材料1に照射されるレーザ光の繰り返し周波数は高い方が良いため、1Hz以上10MHz以下の範囲でバランスのよいものを適用することが好ましい。
また、基板材料1に照射されるレーザ光は、波長が100nm以上10000nm以下の範囲で、基板材料1に対して30%以上が透過すれば制限されるものではない。なお、波長が短い方が集光時にスポット径を小さくすることができ、熱影響を低減させることができるため、望ましい。
【0024】
<XYステージ>
XYステージ6は、基板材料1の全面を加工するために用いる駆動手段の一つであって、固定治具9をX軸方向またはY軸方向に移動させるためのものである。位置決め精度が1μmであり、ストロークがX・Y軸方向共に200mmである。また、走査速度は0.1mm/sec以上3m/sec以下の範囲において可変可能である。
<Zステージ>
Zステージ7は、基板材料1の全面を加工するために用いる駆動手段の一つであって、固定治具9をZ軸方向に移動させるためのものである。位置決め精度が1μmであり、ストロークはZ方向に10mmである。
<回転ステージ>
回転ステージ8は、基板材料1の全面を加工するために用いる駆動手段の一つであって、固定治具9を正方向または逆方向に回転させるためのものである。回転速度は0.1rpm以上5000rpm以下の範囲において可変可能である。
【0025】
<固定治具>
固定治具9は、基板材料1を固定するための治具である。この固定治具9としては、例えば、基板材料1の側面を挟んで固定する機能を有するもの、基板材料1を接着により固定する機能を有するもの、基板材料1を真空吸着により固定する機能を有するもの等が考えられる。
【0026】
<制御部>
制御部10は、レーザ加工装置20を制御するためのものである。制御部10としては、例えばコンピュータを用いることができる。制御部10は、レーザ発振器2のレーザ光の発振のON/OFF制御を行う。また、制御部10は、XYステージ6、Zステージ7、回転ステージ8の駆動制御を行う。この制御部10により、レーザ発振器2、XYステージ6、Zステージ7、回転ステージ8は同期制御される。
【0027】
<位相変調部>
位相変調部11は、通過あるいは反射するレーザ光を複数のビームに分岐したりビームの形状や波形を変更したりする。この位相変調部11として、例えば回折格子が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
また、
図1に図示した改質層12は、基板材料1内にレーザ光を集光照射した際に形成される層である。基板材料1がGaNインゴットの場合、多光子吸収加工による反応(2GaN→2Ga+N
2)により改質層12が形成される。改質層12は、この反応により化学的に分解された層が、連続的に形成されていることが望ましい。化学的に分解された層を連続的に形成するための方法については、後述する。改質層12の厚みは、レーザ光を集光照射することで、条件に応じて数μm~数百μmまで選択的に形成することが可能である。後述する分離工程においては、改質層12の厚みが大きい方が分離性は向上する。しかし一方で、改質層12を大きくすることは材料ロスに繋がるため、改質層12の厚みは50μm以下であることが好ましい。
【0029】
このような構成からなるレーザ加工装置20により、基板材料1の表面側から裏面側に向けて集光されたレーザ光照射しながら走査することによって複数の改質層110を階層的に形成することができる。
【0030】
(レーザ光の走査方法)
図2Aは、本開示の実施形態に係るレーザ加工装置によるレーザ光の走査方法1を示す図である。また、
図2Bは、本開示の実施形態に係るレーザ加工装置によるレーザ光の走査方法2を示す図である。また、
図2Cは、本開示の実施形態に係るレーザ加工装置によるレーザ光の走査方法3を示す図である。
【0031】
(レーザ光の走査方法1)
図2Aは、XYステージ6を用いて、基板材料1に対してレーザ光を直線的に走査するときの走査方法を示している。この
図2Aにおいて幅Dは、レーザ光が直線的に走査する場合の各走査ライン間のピッチを示している。また開始点Sは、レーザ光の照射開始位置を示し、終点Eは、レーザ光の照射終了位置を示している。
【0032】
基板材料1に照射されたレーザ光は、まず、XYステージ6による固定治具9のY軸方向への移動に伴いY軸上に走査する。続いて、XYステージ6により、固定治具9を前回の走査に対してX軸方向に幅Dだけ移動させる。
【0033】
続いて、XYステージ6を前回の走査方向とは逆方向に移動させることにより、固定治具9はY軸上を前回とは逆方向に移動する。よって、レーザ光はY軸上を逆方向に走査する。以降、この動作をレーザ光が終点Eに到達するまで繰り返すことにより、基板材料1の全面にレーザ加工を行う。このように基板材料1に対してレーザ照射を行うことで、基板材料1の内面には直線状の改質層12が形成される。
【0034】
なお、レーザ加工の際、基板材料1の外縁部に形成される改質層12からガスを抜くために、基板材料1に対して連続した改質層12を形成する必要がある。このような場合、レーザ光の走査速度やレーザパワー、周波数に応じて変化するパルス間の間隔や、幅Dの変化により改質層12の形成量を変化させる。
【0035】
(レーザ光の走査方法2)
図2Bは、回転ステージ8とXYステージ6とを用いて、基板材料1に対してレーザ光を円周上に走査するときの走査方法を示している。この
図2Bにおいて開始点Sは、レーザ光の照射開始位置を示し、終点Eは、レーザ光の照射終了位置を示している。
【0036】
基板材料1に照射されたレーザ光は、回転ステージ8による固定治具9の回転移動と、XYステージ6による固定治具9のX軸方向/Y軸方向の移動に伴い、開始点Sから終点Eに向かって固定治具9の回転方向に走査する。よって、レーザ光は基板材料1の外縁から中心方向に向けてらせん状に走査される。
【0037】
このようにレーザ走査する場合、制御部10は、今回の集光点Qにおける回転ステージ8の回転速度を考慮したうえでXYステージ6を移動させる。これにより、レーザ光の走査速度を制御するとともに、レーザ光の照射のらせん状の経路の間隔が等間隔になるように制御する。なお、上記のようにレーザ光を基板材料1の外縁から中心方向に向けて走査することに限定されない。例えば、レーザ光を終点Eから開始点Sに向けて、即ち、レーザ光を中心から外縁方向に向けて走査するようにしてもよい。このように基板材料1に対してレーザを照射することで、基板材料1内には回転位置に応じた改質層12が形成されていく。
【0038】
(レーザ光の走査方法3)
図2Cは、円周上に並べられた複数の基板材料1a、100b、100c…の各々に対して回転ステージ8とXYステージ6とを用いて、レーザ光を円周上に走査するときの走査方法を示している。なお、レーザ光の走査方法は
図2Bと同様である。
【0039】
回転ステージ8による固定治具9の回転移動により、固定治具9の回転中心部では回転速度が無限大に近づく。そのため、
図2Bの走査方法では、中心である終点E近傍では過度なレーザ光の照射が生じる可能性がある。そこで、
図2Cのように複数枚の基板材料1を配置することにより中心部近傍での照射を避けることで、過度なレーザ光の照射を防ぐことができる。
【0040】
(レーザ加工後の基板材料における改質層の形成状態)
図3は、本開示の実施形態に係るレーザ加工後の基板材料における改質層の形成状態を示す図である。
【0041】
図3におけるN1は改質層110aから改質層110bの厚みを示している。N2は改質層110bから改質層110cの厚みを示している。N3は改質層110cから表面101の厚みを示している。また、Q1は改質層110aを生成するためのレーザ光の集光点の深さを示している。Q2は改質層110bを生成するためのレーザ光の集光点の深さを示している。Q3は改質層110cを形成するためのレーザ光の深さを示している。
【0042】
図3を参照し、改質層110aは、レーザ加工により基板材料1の表面101から見て最も深い位置に形成される層である。この改質層110aは、最初に形成される層である。
改質層110bは、レーザ加工により改質層110aが形成された後に形成される層であって、改質層110aの次に深い位置に形成される層である。
改質層110cは、レーザ加工により改質層110bが形成された後に形成される層であって、基板材料1の表面101から見て最も浅い位置に形成される層である。
【0043】
なお、本実施の形態では、基板材料1に形成される改質層110は3層としているが、層数はこれに限られない。また、改質層110の形成位置や形成量等についても制限されるものではない。
【0044】
(複数の改質層の形成方法)
引き続き
図3を参照し、基板材料1内に複数の改質層を形成するための形成方法について説明する。
上述したように、本実施形態では、集光したレーザ光を基板材料1の表面101から基板材料1内に向けて照射しながら走査することにより複数の改質層110a、110b、110cを階層的に形成する。
【0045】
改質層110が形成されると、その改質層110より深い位置にはレーザ光はほとんど透過しなくなる。そこで、複数の改質層110a、110b、110cを階層的に形成する場合、まず、基板材料1の表面101から最も深い位置にレーザ光の集光点を合わせて走査させることにより最下層のレーザ加工を行う。これによって最も深い位置の改質層110aを形成する。その後、順次、浅い位置Q2、Q3にレーザ光の集光点を合わせて走査させることによりレーザ加工を行って、改質層110b、110cを順に形成する。
【0046】
また、一つの改質層110を形成する際、基板材料1の全面に亘って改質層110を形成するほうが好ましい。ただし、改質層110が一部形成されていない箇所があった場合、後からその箇所にレーザ光が照射可能であれば後で改質層110を形成することもできる。
【0047】
改質層110a、110b、110cを形成する場合の工程1乃至工程3について説明する。
工程1について
(1-1)まず、制御部10は、基板材料1の集光点データに基づいて集光レンズ5を制御し、レーザ光を基板材料1の表面101に対して略垂直に照射して集光点を最も深い位置のQ1に合わせる。
(1-2)続いて、上述したような走査方法を用いてレーザ光を走査させることにより略同一面内にレーザ加工を行う(工程1)。
このレーザ加工によって、まず、改質層110aを形成する。
【0048】
工程2について
(2-1)続いて制御部10は、基板材料1の集光点データに基づいて集光レンズ5を制御し、レーザ光を基板材料1の表面101に対して略垂直に照射して集光点を次に深い位置のQ2に合わせる。ここで集光点Q2は、ウエハの厚みを十分確保できる厚みN1を考慮した値である。
(2-2)続いて、上述したような走査方法を用いてレーザ光を走査させることにより略同一面内にレーザ加工を行う(工程2)。
このレーザ加工によって、次に、改質層110bを形成する。
【0049】
工程3について
(3-1)最後に、制御部10は、基板材料1の集光点データに基づいて集光レンズ5を制御し、レーザ光を基板材料1の表面101に対して略垂直に照射して集光点を最も浅い位置のQ3に合わせる。ここで集光点Q3は、ウエハの厚みを十分確保できる厚みN2を考慮した値である。
(3-2)続いて、上述したような走査方法を用いてレーザ光を走査させることにより略同一面内にレーザ加工を行う(工程3)。
このレーザ加工によって、最後に、改質層110cを形成する。
【0050】
なお、基板材料1の表面101側からではなく、図示しない裏面側からレーザ光を照射するようにしてもよい。そのようにした場合、改質層110c、110b、110aの順に形成していく。
【0051】
このようなレーザ加工により改質層110a、110b、110cが形成された基板材料1は、後の分離工程において図示しない分離機によって、改質層110a、110b、110cのそれぞれを分離面として分離される。分離機によって分離させることによって複数枚(ここでは3枚)の基板が作製される。
なお、基板に分離することにより、残存する基板材料1には残留改質層が残るため、分離面を洗浄、研磨してから、次の基板の分離を行うことが好ましい。
【0052】
(基板分離装置の構成)
図4は、本開示の実施の形態1における基板分離方法に含まれる溶融工程及び分離工程において、改質層を形成した脆性材を分離するための基板分離装置30の構成を示す概略図である。
この基板分離装置30は、液体14を溜めている液槽13と、液体14に温度を印加する温度印加装置15と、液槽13内を減圧する減圧装置16と、温度や圧力の制御等を行う制御装置17と、を備える。
【0053】
<液槽>
液槽13は、例えば水といった液体を溜める。液槽13の材質は、中に入れる液体と特に反応せず、分解しないものであれば特に制限はない。
【0054】
<液体>
液体14は、液槽13に溜めることができる液体であり、例えば水といったものである。特に液体の種類に制限はないが、液槽13や、周辺装置に影響を与えない物質を選択することが好ましい。特に、基板材料1の材質や改質層12に含まれる分子と反応しない液体、すなわち薬液でないことが好ましい。例えば、改質層12と反応する薬液を使用した場合、安全面の不安や、コストが大きくなることが懸念される。本方式のように、液体14として、例えば、温度上昇した水を使用することで、溶融のみで分離を行うため、安全面の不安やコストも削減することができる。また、溶融して液体14に分散したGaを回収し、金属の再利用を行うことで、コスト面をさらに向上させることも可能である。
【0055】
<温度印加装置>
温度印加装置15は、液体14に温度を印加する装置である。温度印加装置15は、例えばヒータであり、温度の印加方法に関しては特に制限されるものではない。
<減圧装置>
減圧装置16は、液槽13内の圧力を減圧することが可能な装置である。液槽13内を減圧することで、改質層12に液体14がより早く入り込む。これによって、Gaをより液体14中に分散させることが可能である。このため、基板分離の際に時間を短縮することが可能となる。
<制御装置>
制御装置17は、温度や圧力の制御等を行う装置である。制御装置17としては、例えば、コンピュータを用いることができる。制御装置17は、液体14の温度に基づいて、温度印加装置15を制御することが好ましい。温度測定に関しては、例えば、液体の温度を熱電対や温度測定用カメラ等を用いて、温度を把握するといった方法があるが、特に制限されるものではない。
【0056】
(基板材料の分離方法)
図4を用いて、基板材料1に改質層12を形成した材料から、基板を分離する工程について説明する。
基板材料1がGaNインゴットの場合、多光子吸収加工による反応により形成された改質層12には、金属Gaが含まれる。ここで、Gaの融点は29.7℃であり、液体14が水である場合、Gaの融点は液体14である水の融点よりも低い。
そこで、温度印加装置15を用いて、液体14の温度を、GaNの融点未満かつGaの融点以上にしたうえで、基板材料1を液体14に浸漬する。これによって、Gaが溶融し、液体14中に分散する。そして、改質層12の一部が溶け出すことで、改質層12を境界として、基板が分離する。
【0057】
さらに分離性を向上させるために、改質層12を形成した基板材料1を、Gaの融点未満の温度である液体14に浸漬したうえで、温度印加装置15を用いて、液体14をGaNの融点未満かつGaの融点以上の温度に昇温することが望ましい。これによって、温度変化の際、基板材料1に含まれるGaと、改質層12に形成しているGaとの熱膨張率の違いにより、分離がさらに促進される。
【0058】
また、さらに分離性を向上させるために、基板材料1を液体14に浸漬したうえで、減圧装置16を用いて、液槽13内部の圧力を減少させることが望ましい。これによって、圧力変化の際、改質層12の内部に液体14がより浸透し、液体14へのGaの分散が促進される。
【0059】
なお、上述した、温度印加装置15を用いた手法と、減圧装置16を用いた手法とは、組み合わせることでより分離性が向上する。さらに、化学的に分解された層が連続的に形成されて改質層12を成すことで、分離性がより向上する。
【0060】
さらに、基板がGaの表面張力により自然分離しづらい場合が考えられる。この場合、ゴム製の柔らかく基板に大きな負荷をかけずに軽く固定ができる材料を使用し、基板材料1の表面に平行に力を加えることで、分離をアシストするといった方法を用いてもよい。
【0061】
通常、基板材料を分離する際、例えば
図3のように改質層12が複数層形成されている場合は、改質層12のどの位置から分離するかがわからない。そのため、改質層12-Bといった位置から分離した際、再度基板を取り出すためには、改質層12-Bに付着している金属Gaを拭き取り、改質層12-Bを形成した面を再度固定できるようにした後に、基板を分離するといった工程を導入する必要がある。
【0062】
本方式では、改質層12-A、12-B、12-Cの形成された基板材料1を液体14の中に入れて、その中で改質層12に存在する金属Gaを溶かす。そうすることで、どの改質層12の位置で基板材料1が最初に分離したとしても、その後に連続して基板の分離を行うことが可能である。
【0063】
なお、基板材料1は、今回GaNについて説明をしたが、内部に改質層を形成できる材料であり、改質により分解した際に元の基板材料よりも低融点である低融点材料を形成する材料であれば、適用可能である。
また、パルス幅は、100ps以下の範囲で、多光子吸収による内部加工が可能であれば制限されるものではない。
【0064】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示の基板分離方法は、脆性材内部加工時に全面改質及び脆性材から改質層を分離面として基板を生成することができる基板分離方法である。これにより、基板分離工程の簡易化や分離時の割れの抑制といった脆性基板の製造コスト削減が可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 基板材料
2 レーザ発振器
4 ミラー
5 集光レンズ
6 XYステージ
7 Zステージ
8 回転ステージ
9 固定治具
10 制御部
11 位相変調部
12 改質層
13 液槽
14 液体
15 温度印加装置
16 減圧装置
17 制御装置
20 レーザ加工装置
30 基板分離装置
100、100a、100b、100c 基板材料
101 表面
110、110a、110b、110c 改質層