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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】標的抗生物質の感受性試験方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20230721BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230721BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20230721BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12N15/09 Z
C12Q1/6851 Z
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019132410
(22)【出願日】2019-07-18
(62)【分割の表示】P 2016522157の分割
【原出願日】2014-07-03
(65)【公開番号】P2019201654
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2019-07-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】61/842,827
(32)【優先日】2013-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514022464
【氏名又は名称】クヴェッラ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テイルブポア,サマッド
(72)【発明者】
【氏名】クハイン,アイ アイ
(72)【発明者】
【氏名】アラヴィ,ティノ
(72)【発明者】
【氏名】レオナード,スティーブン ウェズリー
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】福井 悟
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-520206(JP,A)
【文献】特表2003-526334(JP,A)
【文献】Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2006年,Vol.50, No.6,pp.1913-1920
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/WPIDS/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
迅速な抗菌剤感受性試験を行う方法であって、
共通の被験体に由来する第1試料及び第2試料を得るステップと、
増殖培地を第2試料に添加し、微生物増殖を促進するのに適切な条件下で第2試料をプレインキュベーションするステップと、
第2試料をプレインキュベーションしながら、第1試料に対して多重同定試験パネルを行い、第1試料における1以上の微生物細胞の存在を同定するステップであって、該多重同定試験パネルは第1試料における微生物細胞が予め増殖培地に暴露されることなく第1試料に対して行われ、該多重同定試験パネルは、第1試料内の微生物細胞の特性に関連した情報を提供するように構成され、該多重同定試験パネルの各試験は、グラム染色性、界、属、科、種及び菌株からなる群より選択される微生物細胞同定特性を有する微生物細胞の存在を検出するものであり、該多重同定試験パネルの結果に従って1種以上の候補抗生物質を選択することができる、ステップと、
第2試料に対して抗菌剤感受性試験を行って、第2試料内の微生物細胞に対する抗生物質の有効性の尺度を決定するステップであって、該抗生物質は上記多重同定試験パネルの結果に基づいて選択されたものである、ステップと
を含む方法。
【請求項2】
第2試料のプレインキュベーション前に抗生物質吸収剤を第2試料に添加し、抗菌剤感受性試験を行う前に該抗生物質吸収剤を第2試料から除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1試料内の微生物細胞の存在を、およそ1時間以内に多重同定試験パネルの中から同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
多重同定試験パネル及び抗菌剤感受性試験の一方又は両方を行うことが、rRNAを検出するために逆転写及びその後の多重増幅を行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
多重同定試験パネルの各試験が、界、科、グラム染色性、属、種及び株の1つと関連している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第2試料が第1試料から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1試料及び第2試料が全血試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第1試料及び第2試料が、喀痰試料、尿試料、脳脊髄液試料の1つに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第1試料及び第2試料が、血清試料及び血漿試料の1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
多重同定試験パネルの陽性試験結果の1以上の組み合わせが、それに関連した少なくとも1つの対応する抗生物質を有し、少なくとも1種の選択された抗生物質は、
選択された抗生物質として、多重同定試験パネルの結果に関連した対応する抗生物質を選択する工程であって、選択された抗生物質の有効性の決定が、医師から情報を受けることなしに上記選択された抗生物質に基づく反射試験(reflex test)として行われる、工程
により選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
抗菌剤感受性試験が、
第2試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップと、
主要アリコートに選択された抗生物質を添加するステップであって、選択された抗生物質は、少なくとも部分的には多重同定試験パネルの結果に基づいて選択されたものである、ステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して主要懸濁液を得るステップと、
参照アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して参照懸濁液を得るステップと、
主要懸濁液及び参照懸濁液中の微生物細胞を溶解して、主要溶解物及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、それにより主要アッセイシグナルを得るステップと、
参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、それにより参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
逆転写及び増幅がrRNAを検出するために行われ、参照アッセイシグナルと比較した主要アッセイシグナルの低下は、選択された抗生物質の有効性を示す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
逆転写及び増幅がtmRNAを検出するために行われ、参照アッセイシグナルと比較した主要アッセイシグナルの低下は、選択された抗生物質の有効性を示す、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
逆転写及び増幅がmRNAを検出するために行われ、参照アッセイシグナルと比較した主要アッセイシグナルの変化を利用して、選択された抗生物質の有効性を決定する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
主要アリコート及び参照アリコートをmRNAの産生を誘導するように構成された刺激に供するステップをさらに含み、該刺激は、感受性微生物細胞及び/又は耐性微生物細胞に関するmRNAの産生が上記抗生物質への微生物細胞の暴露に起因して変更されるように選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
逆転写及び増幅が、多重同定試験パネルのメンバーである微生物細胞種に関連した核酸配列を含むように複数の核酸配列を検出する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
逆転写及び増幅が、多重同定試験パネルのメンバーである微生物細胞の2種以上の間で保存されている少なくとも1つの核酸配列を検出する、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
微生物細胞を遠心分離又は濾過により分離する、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
選択された抗生物質を主要アリコートに添加する前に、主要アリコート及び参照アリコートを微生物増殖の促進に適切な条件下でインキュベーションする、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
主要アリコートが第1の主要アリコートであり、選択された抗生物質が第1の選択された抗生物質であり、ここで1以上の追加アリコートが第2試料から得られ、上記方法が、各追加アリコートに追加の選択された抗生物質を添加するステップ、各追加アリコートを処理して微生物細胞に対する各追加の選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップをさらに含み、ここで各追加の選択された抗生物質は、少なくとも部分的には微生物細胞の同定に基づいて選択される、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、「METHODS OF TARGETED ANTIBIOTIC SUSCEPTIBILITY TESTING」と題した、2013年7月3日出願の、米国特許仮出願第61/842,827号の優先権を主張するものであり、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、試料中の微生物細胞の抗生物質感受性を決定する方法に関する。本開示は、さらに微生物細胞中のRNAを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
薬剤耐性病原体の出現は、医師がやむを得ず、さらに高価で強力な、時としてより有毒な抗生物質により一般的な感染症を治療している世界的規模の医療的難局である。不運にも、新しい抗生物質の医薬開発は急速に衰退し、多剤耐性のいくつかの細菌を処置するための新しい作用物質が不足することになった。主流の臨床微生物学は遅くて費用がかかる。なぜならそれがまだ寒天プレート上のコロニー形成のための細菌増殖という、多くの時間を必要とし、ますます供給不足となっている熟練した専門家を必要とする労働集約型の方法に依存しているからである。抗生物質感受性データは、試料獲得の後2~3日間は通常利用可能ではない。この時間では遅すぎて、抗生物質の選択に有意な影響を及ぼすことはできない。感染性疾患を管理するために臨床医にリアルタイムの情報を提供して、臨床検体で見つかった病原体に対して同定及び抗生物質感受性試験(AST)を直接実施することができる新しい迅速な臨床微生物学方法が至急必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
迅速な微生物学の診断がない状態で、臨床医は、通常「経験のみにたよる」抗生物質治療を始める。このことは抗生物質が、可能性がある生物及びそれらの抗生物質耐性パターンについての知識に基づいて選ばれることを意味する。菌血症用の経験的な抗生物質は、通常、種々の推定される病原性細菌を治療する広域抗生物質である。広域抗生物質の乱用は、患者の微生物叢に選択圧を加え、耐性菌によるコロニー形成を容易にすることによって、抗生物質耐性の出現の一因となる。例えば、経験療法としてのバンコマイシン及びピペラシリン-タゾバクタムの一般的な使用が、バンコマイシン耐性腸球菌(enterococci)(VRE)及び基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌(E. coli)及び肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)生物の広範囲の出現に直接的に寄与した。対照的に、抗菌剤の投与を受ける患者が応答しなくなるまで、又は臨床的悪化を経験しなくなるまで、真菌血症が疑われないか又は治療されないことがよくある。初期の有効な抗生物質治療の使用が患者の転帰を改善し入院期間を短くすることを示唆する証拠がある。したがって、迅速に原因細菌を同定し、かつ適切な抗生物質治療を施すことができることにより、患者の転帰の改善をもたらすはずであり、並びに医療システムにとっての全般的コストが減少するはずである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
抗生物質に暴露後の微生物細胞に由来するRNA、例えばリボソームRNA又はトランスファーメッセンジャーRNA等の検出に基づいて抗生物質感受性試験を行うための方法を提供する。いくつかの実施形態では、アリコートを試料から得て、そのうちの1つは選択された抗生物質を含む。アリコートは増殖培地を含んでおり、微生物増殖に適切な条件下でインキュベーションし、各アリコート中の微生物細胞を取り出し溶解し、その後この溶解物を逆転写及び増幅に供して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の影響を推測する。1つの実施形態では、微生物細胞を含む試料を、選択された抗生物質の存在下でインキュベーションし、微生物細胞内のmRNAの産生を誘導するために刺激を与える。その後、微生物細胞を、溶解物内のmRNAを本質的に分解することなく溶解し、このmRNAを検出して、微生物細胞に対する抗生物質の影響を決定する。
【0006】
したがって、第1の態様では、迅速な抗生物質感受性試験を行う方法が提供され、その方法は、
第1溶解物に対して多重同定試験パネルを行うステップであって、第1溶解物が、微生物細胞を含有することが疑われる第1試料から得られたものである、ステップと、
微生物細胞を含有することが疑われる第2試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含み、また、第1試料及び第2試料は共通の被験体に由来する、ステップと、
主要アリコートに少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップであって、選択された抗生物質は、少なくとも部分的には多重同定試験パネルの結果に基づいて選択されたものである、ステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して主要懸濁液を得るステップと、
参照アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して参照懸濁液を得るステップと、
主要懸濁液及び参照懸濁液中の微生物細胞を溶解して、主要溶解物及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、多重同定試験パネルによって検出可能な微生物細胞に関連した核酸を検出し、それにより主要アッセイシグナルを得るステップと、
参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、多重同定試験パネル同定パネルによって検出可能な微生物細胞に関連した核酸を検出し、それにより参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む。
【0007】
別の態様では、迅速な抗生物質感受性試験を行う方法が提供され、その方法は、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含む、ステップと、
主要アリコートに、少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを、選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して、主要濃縮懸濁液を得るステップと、
参照アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して、参照濃縮懸濁液を得るステップと、
主要濃縮懸濁液及び参照濃縮懸濁液中の微生物細胞を溶解して、主要溶解物及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物及び参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、微生物試験パネルのメンバーに関連した核酸を検出し、主要アッセイシグナル及び参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む。
【0008】
別の態様では、迅速な抗生物質感受性試験を行う方法が提供され、その方法は、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、複数の主要アリコート、及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含む、ステップと、
主要アリコートの少なくとも2つが別個の選択された抗生物質を含むように、各主要アリコートに少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して複数の主要懸濁液を得るステップと、
参照アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して参照懸濁液を得るステップと、
主要懸濁液及び参照懸濁液中の微生物細胞を溶解して、複数の主要溶解物、及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物及び参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、微生物パネルのメンバーに関連した核酸を検出し、複数の主要アッセイシグナル、及び参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む。
【0009】
別の態様では、迅速な抗生物質感受性試験を行う方法が提供され、その方法は、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含む、ステップと、
主要アリコートに、少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを、選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコート及び参照アリコート中の微生物細胞を、標的mRNAの産生を誘導するように構成された刺激に供するステップであって、該刺激は、感受性微生物細胞及び/又は耐性微生物細胞に関するmRNAの産生が、選択された抗生物質への微生物細胞の暴露に起因して変更されるように選択される、ステップと、
主要アリコート及び参照アリコート中の微生物細胞を溶解して、第1溶解物及び第2溶解物を得るステップであって、各溶解物中のmRNAの本質的な分解を回避するのに適するように溶解を行い、また、刺激に応答して微生物細胞中で産生されたmRNAの寿命に関連した時間スケールで溶解を行う、ステップと、
主要溶解物及び参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、微生物試験パネルのメンバーに関連したmRNAを検出し、主要アッセイシグナル及び参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む。
【0010】
別の態様では、抗生物質感受性試験を行う方法が提供され、その方法は、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップと、
少なくとも1種の選択された抗生物質を主要アリコートに添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートから得られた微生物細胞を溶解し、主要溶解物及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、試験パネルのメンバーに関連したtmRNAを検出し、主要アッセイシグナルを得るステップと、
参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、試験パネルのメンバーに関連した核酸を検出し、参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む。
【0011】
以下の詳細な説明及び図面を参照することにより、本開示の機能的かつ有利な態様をさらに理解することが可能になる。
【0012】
次に、単なる例示目的で、図面を参照しながら各実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】試料中の微生物細胞の抗生物質感受性を決定する方法の1つの例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこで微生物細胞の特性を同定パネルに基づいて、まず決定した後、試料アリコートを1種以上の抗生物質に暴露し、そこで1種以上の抗生物質を、以前に決定した微生物細胞の特性に基づいて選択する。抗生物質有効性は、アリコートから微生物細胞を分離し、分離した微生物細胞を溶解した後に逆転写及び増幅アッセイを行って、アッセイシグナルを参照アリコートから得た参照アッセイシグナルと比較することにより決定する。
図1B】試料中の微生物細胞の抗生物質感受性を決定する方法の別の例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこで抗生物質感受性試験を行う試料を、同定試験中に増殖培地でまずプレインキュベーションする。
図1C】試料の抗生物質感受性を決定する方法の1つの例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこで抗生物質感受性試験を行う試料を、まず抗生物質吸収剤と共にプレインキュベーションして試料中に当初から存在する抗生物質を除去する。
図1D】全血試料の抗生物質感受性を決定する方法の1つの例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこで少なくとも微生物細胞が懸濁される液体の一部をまず取り出して、試料中に当初から存在する抗生物質の濃度を減少させる。
図1E】全血試料の抗生物質感受性を決定する方法の1つの例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこで抗生物質感受性試験を行う試料を抗生物質吸収剤と共にプレインキュベーションして試料中に当初から存在する抗生物質を除去する。
図2A】試料中の微生物細胞の抗生物質感受性を決定する方法の1つの例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこで試料アリコートを1種以上の抗生物質及び増殖培地の存在下でインキュベーションし、引き続いて微生物細胞を分離し、溶解し、逆転写及び増幅に供する。抗生物質の有効性は、アッセイシグナルを参照アリコートから得られた参照アッセイシグナルと比較することにより決定する。
図2B】試料中の微生物細胞の抗生物質感受性を決定する方法の1つの例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこで試料アリコートを1種以上の抗生物質及び増殖培地の存在下でインキュベーションし、引き続いて微生物細胞を溶解し、逆転写及び増幅に供してトランスファーメッセンジャーRNA(tmRNA)を検出する。抗生物質の有効性は、アッセイシグナルを参照アリコートから得られた参照アッセイシグナルと比較することにより決定する。
図2C】1種以上の抗生物質への微生物細胞のインビボ暴露に基づいた抗生物質感受性試験を行う例示的な方法を示すフローチャートである。
図3】試料中の微生物細胞の抗生物質感受性を決定するための迅速なmRNA分析法の1つの例示的な実施態様を示すフローチャートであり、そこでmRNAの産生は、抗生物質への暴露後に加えた刺激に関連する。
図4A】対応するゲノムDNA(gDNA)の存在下で選択的にmRNAを増幅する方法について概略的に記す図である。
図4B】対応するゲノムDNA(gDNA)の存在下で選択的にmRNAを増幅する方法について概略的に記す図である。
図5】同定パネルのメンバーが同定パネルに関連した1種以上の対応する抗生物質を有する同定試験パネルの図である。いくつかの実施形態では、このような同定-抗生物質対応情報(場合により、試料のタイプ、感染(院内感染又は地域感染)のタイプ、及び病棟起源によってさらに分類される)は、医師からの情報を必要とせずに、抗生物質感受性試験のために1種以上の抗生物質を選択するための反射試験(reflex test)として使用することができる。
図6】血球を溶解することと、増殖培地を添加することと、続いて2時間プレインキュベーションを行うことを含む方法による全血サンプルの処理によって得られた、肺炎桿菌のリボソームRNA(rRNA)及びtmRNA検出のリアルタイム逆転写PCR(リアルタイムRT-PCR)シグナルをプロットする図である。
図7】血球を溶解することと、増殖培地を添加することと、続いて2時間プレインキュベーションを行うことを含む方法による全血サンプルの処理によって得られた、肺炎桿菌のrRNA及びtmRNAの、リアルタイムRT-PCRのCt値の表を示す。
図8】血球を溶解することと、増殖培地を添加することと、続いて2時間プレインキュベーションを行うことと、続いて8μg/mLのノルフロキサシン又はテトラサイクリンへの暴露を伴って又は伴わないで2時間インキュベーションすることを含む方法による全血サンプルの処理によって得られた肺炎桿菌rRNA検出のリアルタイムRT-PCRシグナルをプロットする図である。
図9】血球を溶解することと、増殖培地を添加することと、続いて2時間プレインキュベーションを行うことと、続いて8μg/mLのノルフロキサシン又はテトラサイクリンへの暴露を伴って又は伴わないで2時間インキュベーションすることを含む方法による全血サンプルの処理によって得られた肺炎桿菌rRNA検出のリアルタイムRT-PCRのCt値の表を示す。
図10】種々のプローブを用いたDnaK mRNAの検出に対応するリアルタイムRT-PCR及びPCRシグナルをプロットする図である。
図11】抗生物質の種々の用量に暴露して2時間後の微生物細胞に対応するリアルタイムRT-PCR及びPCRシグナルをプロットする図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の種々の実施形態及び態様が、以下の詳細な議論を参照して記載される。以下の説明及び図面は、本開示の例示であり、本開示を限定すると解釈すべきではない。多数の具体的詳細が、本開示の種々の実施形態の完全な理解を提供するために記載される。しかし、特定の例では、周知又は従来の詳細は、本開示の実施形態の正確な議論を提供するために、記載されていない。
【0015】
本明細書で使用する場合、用語「含む」及び「含むこと」は、包括的でオープンエンドであると解釈すべきであり、排他的ではない。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、用語「含む」及び「含むこと」並びにそれらの変化形は、特定された特徴、ステップ又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は構成要素の存在を排除すると解釈すべきではない。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「例示的(exemplary)」は、「例えば(example)、例として(instance)又は例示(illustration)として機能すること」を意味し、本明細書に開示される他の構成よりも好ましい又は有利であると解釈すべきではない。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「約」及び「およそ」は、値の範囲の上限及び下限に存在し得る変動、例えば性質、パラメータ及び寸法の変動をカバーすることを意味する。他に特定されない限り、語句「約」及び「およそ」は、プラス又はマイナス25%以下を意味する。
【0018】
別段の指定がない限り、任意の指定された範囲又は群は、ある範囲又は群のそれぞれ及び全ての構成要素を個々指し、それと同時にその内部に包含されるそれぞれ及び全ての可能性ある下位範囲又は下位群を指し、同様にその内部に含まれる任意の下位範囲又は下位群に関して述べる簡略的な方法と理解されるべきである。別段の指定がない限り、本開示は、下位範囲又は下位群のそれぞれ及び全ての具体的構成要素及び組合せにも関し、これらを本発明に明示的に取り込む。
【0019】
本明細書で使用する場合、「のオーダー」という用語は、量又はパラメーターと併せて使用すると、記載される量又はパラメーターの約1/10~10倍にまたがる範囲を表す。
【0020】
「抗生物質感受性試験」という用語は、本明細書で使用する場合、抗生物質を含むインビボの治療的処置の成功の可能性を評価又は決定するために利用することができる尺度を提供するために微生物細胞に対する抗生物質の影響に関する試験を指す。
【0021】
本開示は、微生物細胞の同定に基づいて選択された抗生物質の迅速な抗生物質感受性試験を行う様々な例示的な方法を提供する。本開示のいくつかの例示的な実施形態は、培養結果が利用できるようになる以前に、短時間の間に患者の試料から感受性又は耐性に関する評価又は決定を支援し、それによって、従来の同定及び抗生物質感受性結果が利用できるようになる前に抗菌療法に有意な影響を及ぼす。
【0022】
いくつかの実施形態において、試料内の微生物細胞の特性(例えば、界、属、科、種、菌株、グラム染色性、又は微生物細胞のDNA若しくはRNAに属する分子配列等の別の同定特徴)に関連した情報をまず得た後に、1種以上の候補抗生物質を選択することができるように抗生物質感受性試験を行うことができる。
【0023】
図1Aは、最初の多重同定試験パネルの結果に基づいて選択された抗生物質の有効性に関してこのような迅速な評価を行う1つの例示的な方法を示す。図1Aにおいて100で示すように、最初の多重検出ステップは、微生物細胞が多重同定試験パネルの結果に基づいて同定されるように、第1試料内の微生物細胞を同定するために行う。
【0024】
試験パネルは、例えば、界(例えば、真菌対細菌)、属、種、グラム染色性(例えば、パネルは、臨床的に関連する細菌種のサブセットに属する核酸配列に基づいた、グラム陰性微生物種及びグラム陽性微生物種に対する個別の試験を含んでいてもよい)、及び、所望により菌株に対する多重試験を含む同定の複数レベルを含んでいてもよい。このような試験パネルの一例を、図5に示す。したがって、いくつかの実施形態では、所定のタイプの微生物細胞を含む試料に対して試験を行う場合、多重形式の情報が、グラム染色性、属及び種等の多重同定試験パネルによって提供されてもよい。例えば、図5に示すように、所定の微生物細胞のタイプを分析する時、多重同定試験パネルの複数の試験、例えば界(例えば細菌)に関連する試験、グラム染色性(例えば、グラム陽性)に基づいた試験、属(例えばスタフィロコッカス属)に基づいた試験、及び種(例えば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))に基づいた試験のような試験が陽性である場合もある。したがって、多重同定試験パネルは必ずしも直接的同定を提供する必要はないが、その代り、グラム染色及び形態学の試験結果に類似の手法で、可能な微生物細胞のタイプの範囲を狭める1つ以上の試験結果を提供してもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、最初の試験が、より多量の微生物細胞を必要とする検査モダリティを含む、培養後に行う試験であってもよい。例えば、試料が血液培養陽性試料である場合、従来の表現型試験、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション及びMALDIに基づく検出のような方法を利用してもよい(場合によっては、最初に継代培養によって分離物を得る必要がある場合もある)。
【0026】
この例示的な実施形態では、最初の多重同定試験及び最初の抗生物質感受性試験を、同定結果及び抗生物質感受性結果の両方が従来の培養結果に先立って利用可能となるように行う。例えば、いくつかの例示的な実施形態では、本方法は直接の非培養試料に基づいて行われてもよい。他の例示的な実施形態では、本方法は、最初に増殖培地に暴露され、インキュベーションされたものの、血液培養又はプレートに基づいたコロニー増殖等の従来の培養による陽性の培養結果がまだ出ていない試料に基づいて行うことができる。
【0027】
試料が微生物細胞の少ない非培養試料である実施形態では、最初の多重同定試験は、多種多様の迅速な多重方法によって行うことができ、そこで選択される方法は、試料の性質により決まる。直接的な試料同定法の例としては、LightCycler(登録商標)SeptiFast Test MGRADE、Sepsitest(商標)、及びYVOO(登録商標)プロトコル等の分子技法を挙げることができる。非増幅方法も場合により利用することができるが、ただし、利用される試料調製方法が十分に高回収であり、かつ/又は、試料中の微生物細胞数が十分に多い場合(例えば、非増幅方法を尿試料のために利用することができ、微生物細胞数は通常約104CFU/ml超である)であることが理解される。
【0028】
別の例示的な実施態様では、非培養試料内の微生物細胞の同定は、「APPARATUS AND METHOD FOR PRETREATMENT OF MICROBIAL SAMPLES」と題した2013年3月15日出願の米国特許公開第2014/154687号(その全体が引用によって本明細書に組み込まれる)に開示る試料調製、溶解、及び/又は検出方法によって行ってもよい。
【0029】
簡潔には、米国特許公開第2014/154687号の1つの例示的な実施態様において、非培養試料の前処理は、非微生物細胞(血球など)について試料前処理容器内で場合によりまず選択的溶解を行い、引き続いてこの試料を遠心して生成する破片を除去し微生物細胞を濃縮することにより行うことができる。混和しない濃厚な緩衝液体を、前処理容器の遠心の際に、緩衝液体によって形成された液界面に隣接する微生物細胞を収集するために含めることができる。実質的な量の上清を除去し、収集した微生物細胞を再懸濁させ、液界面を再設定した後に、残りの懸濁液の少なくとも一部を、緩衝液体及び収集した微生物細胞を実質上除去することなく除去する。1サイクル以上の中間の洗浄サイクルを、処理された試料を抽出する前に、行ってもよく、この洗浄サイクルが「前処理された」試料を提供する。
【0030】
次いで、微生物細胞の抽出された懸濁液を、多重核酸増幅による同定の前に溶解プロセスに付す。1つの例示的な溶解方法は、細胞懸濁液中の潜在的PCR阻害剤及びヌクレアーゼを除去し、その後、ヌクレアーゼ阻害剤を含んでもよい溶解バッファーの中で、超音波照射した又は超音波照射していないビーズ破砕等の迅速溶解プロトコルを行うことを含んでいてもよい。これらの方法は複数のステップと試薬を含んでおり、PCRを行う前に引き続き精製ステップが必要となることがしばしばである。
【0031】
1つの例示的な実施態様では、電気溶解方法、例えば「METHODS AND DEVICES FOR ELECTRICAL SAMPLE PREPARATION」と題した2013年1月25日出願の米国特許公開第2014/004501号に開示された、電気溶解方法等を利用してもよい。この方法は、細胞懸濁液に微小流動流路内のパルス電界の列をかけることを含んでいる。流路の上部及び下部電極は、薄い絶縁体スペーサーによって分離され、流路の間隙を規定する。流路には、電気溶解及び処理の間に液体の蒸発を制御することを支援するために、処理中に流路内の適切な圧力を維持するために、さらに電場と熱効果への流体の露出を制御するために、入口と出口流路の両方においてバルブを使用してもよい。2つの電極に双極性電気パルス列を印加することにより、電気チャンバ内に電界を形成し、イオン電流及び液体のジュール加熱が得られる。1つの実施形態では、微生物細胞を5kV/cm超の電界にさらし、流路の温度が50ms未満で少なくとも120℃にまで達するように、振幅及びパルス数を選択する。このような条件が、広範囲の微生物細胞のタイプの迅速溶解に適していることが分かった。電気パルス列及び、その結果としてそれに伴うジュール加熱の持続時間は、短時間であるため、この加熱のメカニズムを「急速加熱」と呼ぶこととする。細胞に作用する電界と液体の急速加熱との結合効果は、微生物細胞を溶解させ、タンパク質及び核酸等の細胞内の分子を溶解物として細胞から放出させる(「E-溶解」)。さらに、細胞の巨大分子の含有量のうちのいくらかは、電界の印加から液体の冷却の間の期間に変質(transformation)を受ける。電気処理(「E-処理」)として本明細書において扱うこの方法は、rRNA及びgDNA等の核酸を酵素に接触しやすくし、次いで核酸増幅プロセスを確実にする効率を向上させることが分かった。さらに、このE-処理方法は、ヌクレアーゼ及び他のPCRを抑制する汚染物質等のタンパク質及び酵素を変性及び/又は不活性化することが分かった。したがって、E-溶解及びE-処理方法の組み合わせを、核酸ベースのアッセイのために準備されかつ適している溶解物を産出するために利用してもよい。
【0032】
第1試料の溶解物を得た後に、多重核酸検出ステップを行って試料中の微生物細胞を同定する。一例では、検出ステップは、例えば、上記のLightCycler(登録商標)SeptiFast Test MGRADE、Sepsitest(商標)、及びYVOO(登録商標)プロトコルによって使用される増幅方法等のgDNAを使用してもよい。別の例示的な実施形態では、多重検出は、米国特許公開第2014/154687号及び米国特許公開第2014/004501号に開示されるように、rRNAの逆転写及び多重増幅によって達成してもよい。
【0033】
図1Aを再び参照すると、同定パネルに従って微生物細胞を同定した後、ステップ105~135に従って抗生物質感受性試験のために、1種以上の適切な抗生物質を選択し使用してもよい。
【0034】
1つの例示的な実施態様では、1種以上の選択された抗生物質を、同定された微生物細胞に基づいて、医師が選択することができる。このような場合、医師は、(少なくとも)多重同定試験パネル及び耐性記録の結果に基づいて、1種以上の選択された抗生物質を選択することができる。このような実施形態では、選択された抗生物質は、このように医師によって下された決定に基づいて患者に処方される抗生物質である。このような実施形態は、医師への同定結果の伝達に関与する時間遅延、及び選択された抗生物質の選択を受け取ることに関与する時間遅延により、相当な時間遅延を含むこともある。
【0035】
別の例示的な実施形態では、選択された抗生物質は、診察又は医師からの情報を必要とせずに(つまり医師に同定結果を提供することなしに、及び医師が抗生物質を選択することを待たずに)選択することができ、後続の抗生物質感受性試験を反射試験として実施してもよい。このような実施形態では、抗生物質の選択は、1種以上の抗生物質を備えた多重同定試験の結果の様々な組合せを関連させる同定-抗生物質対応情報に基づいてもよい。このような関連の一例を図5に示し、ここで、多重同定試験パネルの結果の異なる組合せが、1種以上の選択された抗生物質に関連している。
【0036】
したがって、この反射に基づいた実施形態が処方箋/治療目的用の抗生物質の選択を含んでいる必要はないが、むしろ医師によって選択されそうな抗生物質の決定を含んでいることを理解されたい。その結果、選択された抗生物質の有効性の評価(例えばステップ105~130による、又は本明細書に開示された他の方法若しくはその変形による)は、医師からのフィードバックを待つことなく開始することができ、抗生物質の有効性の迅速な評価、及び医師への利用可能情報の迅速な伝達を可能にする。
【0037】
いくつかの実施形態では、同定-抗生物質対応情報は、試料のタイプ、感染(院内感染又は地域感染)のタイプ、及び病棟起源、又は抗生物質の選択に影響する他のカテゴリーの1つ以上によってさらに分類される。例えば、図5に示す情報は、試験結果の個々の関係する組合せに関連する抗生物質を提供し、一連の表として、又は複合表、決定樹、スプレッドシートとして、又は、例えば、データセット(電子的に問い合わせができるデータベース情報を含む)として、提供されてもよく、ここで関連する抗生物質が、試料のタイプ、感染(院内感染又は地域感染型)のタイプ、及び/又は病棟起源によってさらに区分化される。多重同定試験パネルからの試験結果の所定の組合せに関連している抗生物質をこのようにさらに区分化することは、医師によって処方される抗生物質とより高い可能性で一致する抗生物質の選択を提供する上で有益で有り得る。例えば、この情報は、同定-抗生物質対応情報が最新の耐性記録データ、及び場合により最新の、耐性菌の病院での大発生(又は大発生の危険)を表すことを保証するために、定期的に、更新することができる。
【0038】
図1Aを再び参照すると、1種以上の選択された抗生物質を選択した後に、試料の少なくとも2つのアリコートをステップ105で得る。ここで以後、アリコートは、主要アリコート及び参照アリコートと称する。以下に記載するように、主要アリコートは選択された抗生物質に暴露するために引き続き使用し、参照アリコートは対照として使用する。主要アリコートに選択された抗生物質を添加し、その後主要アリコート及び参照アリコートをインキュベーションした後、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を決定するために、逆転写及び増幅を、主要アリコート及び参照アリコートから分離された微生物細胞に対して行う。この方法を行うステップについて、以下に詳細に説明する。
【0039】
主要アリコート及び参照アリコートは共に増殖培地を含み、ここで増殖培地は、アリコートに添加してもよいし、あるいは試料をアリコートに分割する前に試料に添加してもよい。試験パネルが好気性微生物細胞と嫌気性微生物細胞の両方を含んでいる場合には、少なくとも2つの主要アリコートを、少なくとも1つの主要アリコートを好気生育用に、また少なくとも1つの他の主要アリコートを嫌気的生育用に、準備することができる。
【0040】
ステップ105に示すように、主要アリコート及び参照アリコートは第2試料から得られ、第1試料と第2試料は共に同一の被験体又は患者に属する。第2試料は、第1試料由来の別の試料であってもよい。例えば、全血試料の場合には、第2試料は追加のチューブ(例えば、別のVacutainer(商標)チューブ)として得ることができる。他の実施形態では、第2試料は第1試料から、例えば、第1試料のアリコートとして得ることができ、又はその逆に、第1試料は第2試料から得ることができる。
【0041】
試料をアリコートに分割する前に増殖培地を試料に加える場合は、試料を、微生物増殖を促進するのに適切な条件(例えば、適した温度と環境)下でプレインキュベーションしてもよい。同様に、ステップ105に示すように、アリコートは、微生物増殖を促進するのに適切な条件(例えば、適した温度及び環境、並びに初期時間遅延が微生物細胞の対数増殖期の増殖を達成するために必要な場合には、微生物細胞の少なくとも1回の倍加時間を超過する持続時間、例えば、少なくとも30分、又は少なくとも1時間、又は2時間の間)の下でプレインキュベーションしてもよい。
【0042】
この最初のプレインキュベーション期間は、少数の微生物細胞を含有する非培養試料の抗生物質感受性試験によく適している。例えば、いくつかの実施態様において、本明細書に記載のプレインキュベーションステップは、微生物細胞の数が非常に少ない試料の抗生物質感受性試験のために利用することができる。例えば、患者が敗血性(場合によっては、微生物細胞10個未満等である)であると、全血等の試料は通常、非常にわずかな微生物細胞を含む場合がある。微生物細胞の非常に少ないこのような場合、多数のアリコートへ試料を細分する必要性は、サンプリング過程の間に生じる可能性のある統計誤差により問題が多く、その後に行うアリコート間の比較の精度及び値を損なう可能性がある(以下に述べるように、この比較は、主要アリコートに加えられた1種以上の抗生物質の有効性を決定するために行う)。したがって、各アリコート内の微生物細胞の数が統計的サンプリング変動の影響を受けにくいように、試料をアリコートに分割する前に、このプレインキュベーション期間を微生物細胞の数を増加させるために利用してもよい。
【0043】
図1Bは、本方法の抗生物質感受性試験の部分を行う前に微生物細胞の増殖のための追加時間を与える上で有益で有り得るプレインキュベーションを行う1つの例示的な代替方法を示す。ステップ101に示すように、第1試料と第2試料は共に、多重同定試験パネルを行う前にステップ101において得られる。前述したように、第2試料は第1試料に対して、別々に得てもよいし、又は第1試料(例えば、第1試料のアリコートとして)から得てもよい。ステップ102では、増殖培地を、第2試料に添加し(あるいは、第2試料を、増殖培地を含んでいる容器又は器へ収集することができる)、この第2試料を、微生物細胞の増殖に適切な条件下でインキュベーションする。
【0044】
ステップ110に示すように、所定量の1種以上の選択された抗生物質を主要アリコートに添加する(試料が抗生物質に添加されるように、試料を分割して主要アリコートを得る器が抗生物質を含んでもよいことが分かる)。選択された抗生物質の量は、例えば臨床検査標準協会(CLSI)抗菌剤感受性試験基準に記載されている値等の既知の値又は標準化値に従って、決定することができる。別の例示的な実施態様では、選択された抗生物質の量は耐性記録データに基づいて決定することができる。
【0045】
したがって、1種以上の選択された抗生物質を主要アリコート(又は2つ以上の主要アリコート)に添加し、少なくとも1つの別のアリコートを抗生物質なしの参照アリコートとして使用する。本明細書に提供される例示的な実施形態は、選択された抗生物質の単一の量又は濃度についての試験を記述するが、選択された抗生物質の複数の量又は濃度を試験することもできる(例えば逐次的に、又は並行して)ことを理解されたい。例えば、試料は、少なくとも1つのアリコートを各抗生物質の量又は濃度について提供するように複数のアリコートで調製することができる。複数の抗生物質の濃度を備えた実施形態は、抗生物質の有効性に関連した最小阻止濃度又は他の尺度を測定、決定又は評価することを円滑に進めることができる。
【0046】
ステップ115に示すように、次いで、アリコートを、微生物増殖(つまり、微生物細胞がインキュベーション中に抗生物質の非存在下で増殖しうるように)に適切な条件の下でインキュベーションする。例えば、微生物細胞は、増殖(以下にさらに説明するように、抗生物質の影響を阻止するように設計された培地と共に又は培地を使用せずに)に適切な増殖培地(例えば培養培地)の存在下で適温(例えば37℃)でインキュベーションすることができる。微生物細胞は、直接的に血液中に適切な抗凝血剤を含めること等、採取した試料の中で、適温(例えば37℃)で、インキュベーションすることができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、主要アリコートを選択された抗生物質と共にインキュベーションする持続時間は、微生物細胞のそれぞれの倍加時間及び抗生物質の作用様式に、少なくとも一部、基づいてもよい。例えば、細胞壁合成を妨げる抗菌剤は、ペプチドグリカンの合成をブロックし、細胞死のメカニズムは不完全な細胞壁又は弱くなった細胞壁に起因する細胞融解による。したがって、細胞壁合成阻害剤は、細菌の増殖に対してのみ活性である。細胞死のメカニズムは即時ではなく、多くの活性な細胞プロセスを含んでいる。DNA合成を妨げる抗菌剤は、例えば、DNAジャイレース-DNA複合体と結合し、DNA複製中に損傷したDNA鎖の修復をDNAジャイレースによって妨げ、即時の静菌作用を及ぼし、続いて細胞死をもたらす。
【0048】
いくつかの実施形態では、アリコートから微生物細胞を分離し、この微生物細胞を再懸濁した後に得られるRNAに基づいた核酸の量に影響する代謝応答を、抗生物質が感受性微生物細胞において誘導するのに十分に長い持続時間にわたり、主要アリコートを選択された抗生物質と共にインキュベーションする。例えば、以下の実施例1及び実施例2に示すように、暴露後1時間から2時間の間の時間遅延等の非常に短い時間遅延が、微生物細胞の分離及び溶解の後に検出されるrRNA及び/又はトランスファーメッセンジャーRNA(tmRNA)の量に関連したアッセイシグナルの重要な変化をもたらすのに十分であることが明らかになった。45分から1時間の間、又は30分から1時間の間の時間遅延等のさらに短い暴露時間が、参照アリコート中の微生物細胞を基準として、主要アリコート中の微生物細胞に対する選択された抗生物質の影響を検出するのに利用することができると考えられる。試料中の微生物細胞に対する選択された抗生物質の影響を検出するための抗生物質暴露の持続時間がこれほど短いと、迅速な抗生物質感受性試験、及び早期の標的抗菌療法における潜在的に重要な変化が可能になる。
【0049】
主要アリコート及び参照アリコートをインキュベーションした後に、主要懸濁液及び参照懸濁液が得られるように、主要アリコート及び参照アリコート中の微生物細胞を分離し、別の液体(例えば溶解液体又はバッファー)中に再懸濁する。この分離は、生成する主要懸濁液及び参照懸濁液の中で微生物細胞の十分な回収を達成するあらゆる適切な方法によって達成することができる。1つの例示的な実施態様では、保持された微生物細胞を場合により洗浄しながら、濾過することができる。
【0050】
別の実施形態では、主要懸濁液及び参照懸濁液を得るために遠心分離を利用することができる。例えば、米国特許公開第2014/154687号に開示された遠心分離法を利用することができ、その場合1回以上の洗浄ステップを場合により使用することができる。このような方法は、微生物細胞の高回収率(例えば90%超あるいは95%超)を維持しながら、微生物細胞が再懸濁される(使用される洗浄サイクル数に応じて)残液の高度の精製を行う点で有効であることが分かった。
【0051】
理論に制限されることは意図しないが、抗生物質の影響によって引き起こされる細胞壁の分解により、及び/又は分離によって微生物細胞の収集の効率に影響する微生物細胞の変化(例えば、遠心分離による収集効率は有効な抗生物質に暴露された微生物細胞については、より低くなることがある)により、主要アリコートからの微生物細胞の分離が主要アリコートの液相に入りこんだRNAを除去するのに有効であり得ると思われる。
【0052】
ステップ125に示すように、その後、主要懸濁液及び参照懸濁液を溶解して、主要溶解物及び参照溶解物を得る。このステップは、後の逆転写及び増幅ステップで検出されるRNAを保存するいずれの溶解方法によって行われてもよい。例えば、前述したように、米国特許公開第2014/004501号に開示された電気溶解方法は、このステップに有効であり得る。
【0053】
次いで、多重同定試験パネルによって検出可能な微生物細胞由来のRNAが検出されるように逆転写及び増幅を、主要溶解物及び参照溶解物に対して行う。したがって、各アッセイで多重同定試験パネルによって検出可能な微生物細胞由来のRNAを検出しながら、逆転写アッセイ及び増幅アッセイを、各溶解物について単一アッセイとして主要溶解物及び参照溶解物に対して行うことができる。あるいは、逆転写試験及び増幅試験を空間的に多重な試験パネルとして行ってもよく、各試験パネルは、多重同定試験パネルによって検出可能な1つ以上の微生物細胞由来のRNAを検出するように構成される。
【0054】
ステップ135に示すように、主要溶解物及び参照溶解物に対して行われた試験からのアッセイシグナルを、微生物細胞に対する1種以上の選択された抗生物質の有効性の決定、推定、又は評価を得るために比較することができる。1つの例示的な実施形態では、逆転写アッセイ及び増幅アッセイを、rRNAの検出のために行うことができる。以下の実施例1及び実施例2に示すように、主要アリコート中の微生物細胞が選択された抗生物質に感受性である場合、比較的短い暴露時間(例えば1~2時間)の後でさえ、rRNA RT-PCRシグナルは、主要アッセイシグナルについては、参照アッセイシグナルより有意に低いことが示された。
【0055】
別の例示的な実施形態では、逆転写アッセイ及び増幅アッセイを、tmRNA、又はmRNAの検出のために行うことができる。トランスファーメッセンジャーRNA(tmRNA)は、原核生物に特有で、一部の細菌の生存能にとって必須である(Trevor J. Franklin, George Alan Snow, Biochemistry and Molecular Biology of Antimicrobial Drug Action, 2005, p.96)。場合によっては、細胞周期の制御は、tmRNAの合成と分解の両方のタイミングによって厳密に調節される(Robert A. Meyers, RNA Regulation, 2014, p.68)。したがって、tmRNAは、細菌細胞の生存能の決定の適切な標的として選択することができる。以下の実施例1及び実施例2に示すように、主要アリコート中の微生物細胞が選択された抗生物質に感受性である場合、比較的短い暴露時間(例えば1~2時間)の後でさえ、tmRNA RT-PCRシグナルは、主要アッセイシグナルについては、参照アッセイシグナルより有意に低いことが示された。
【0056】
本明細書に記載の例示的な方法は、従来の培養結果(例えば血液培養、又は尿、喀痰及び脳脊髄液等の他の試料の培養)が利用できるようになる前に、試料の迅速な同定及び抗生物質試験を行うことによく適している。例えば、このような迅速な前培養同定及び抗生物質感受性試験方法の結果は、改良された抗菌療法に従って選択された抗生物質の有効性についても試験しながら、最初に処方された広域抗生物質のスペクトルを狭めること(つまり急速に広域スペクトルの治療を縮小すること)により、抗菌療法を改良するために利用することができる。このような方法は、抗菌療法が既に開始された場合については抗菌療法の誘導と迅速な再方向付け(re-vectoring)を提供する。あるいは、試験結果が利用できるようになる前にまだ抗菌療法が開始されていない時には、本明細書に開示された方法は広域抗生物質の使用を回避する初期治療の誘導を提供するために利用することができる。広域抗生物質の使用、又は乱用を回避することができることは、広域抗生物質の使用に関連する併存疾患及び死亡の危険性の増加を低減させる上で有益であり得る。例えば、このような戦略は、全て広域抗生物質の使用に関連している天然叢の根絶及び抗生物質耐性の進行の危険に起因する、毒性、二次感染の危険を回避するか又は低減する治療の送達を支援するために利用することができる。
【0057】
場合によっては、得られる試料が、試料収集の前に被験体に投与された抗生物質を含んでいてもよい。このような場合には、選択された抗生物質と共に主要試料をインキュベーションする前に、抗生物質の少なくとも一部を抽出することは有益であり得る。図1Cは、主要アリコートを得る前に、抗生物質吸収剤を第2試料に加える例示的な実施形態を示す。
【0058】
ステップ103において、増殖培地及び抗生物質吸収剤を第2試料に添加し、第2試料を微生物細胞の増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションする。いくつかの実施形態では、このプレインキュベーションステップは、抗生物質吸収剤の有効性及び濃度に応じて、30分から1時間の間、1時間から2時間の間、2時間から3時間の間、3時間から4時間の間、又は4時間超等の持続時間で行うことができる。さらに、図1Cにはステップ103を、多重同定試験パネルを行った後に行うものとして示しているが、これは、あるいは、ステップ100の前に実施するようにしてもよい。抗生物質吸収剤の例は、当業者に知られている木炭粒子及び抗生物質結合樹脂(例えばカチオン交換樹脂及びポリマー吸収樹脂)である。このような抗生物質吸収剤は、0.5~2時間の間の持続時間にわたって一般的抗生物質の残存活性を低減すると示された。
【0059】
ステップ104に示すように、第1アリコート及び第2アリコートを得る前に、抗生物質吸収剤を遠心分離又は濾過等の方法を用いて除去する。
【0060】
次に図1Dを参照すると、例示的な方法は、試料が全血試料である場合に、選択された抗生物質の有効性を決定するための方法について述べるものである。ステップ111において同定試験の多重パネルを行った後に(又は別法では、このステップの前に)、試料中の血球の少なくとも一部の溶解を達成するために血液溶解試薬を第2の全血試料に添加する。
【0061】
血液溶解試薬を添加し、血液溶解試薬を試料と混合した後に、生成する混合物の少なくとも一部を、微生物細胞を除去せずに保持したまま、除去する。これは、例えば、濾過又は遠心分離によって、達成することができる。例えば、この混合物は、場合により米国特許公開第2014/154687号に記載されているような緩衝液体の存在下で遠心分離に供してもよく、少なくとも一部の上清を除去することができる。例えば、除去される上清の部分は、異なる例示的な実施態様によれば、50%から75%の間、75%から90%の間、90%から95%の間、及び95%超でありうる。
【0062】
除去ステップの後、増殖培地を、微生物細胞が増殖培地に再懸濁されるように残りの懸濁液に添加する。理論に制限されることは意図しないが、血球の部分的な溶解が、試料中の微生物細胞の増殖を改善するのではないかと思われる。次いで、この再懸濁された試料を、ステップ112で示すような微生物細胞の増殖を促進するのに適切な条件下で、例えば1から2時間の間、又は例えば2から3時間の間の持続時間にわたり、インキュベーションすることができる。1つの例示的な実施態様では、血球溶解試薬の組成物は、約1mLの全血に対し、以下のように提供することができる。濃度約40mg/mLのサポニン(84510、シグマ(Sigma))、約10mg/mLのポリアネトールスルホン酸ナトリウム(SPS)(P2008、シグマ)及び約1体積%のポリ(プロピレングリコール)(PPG)MW 2000(202339、シグマ)を有する容積約100μLの水溶液。血液溶解試薬を全血試料と混合する際、サポニン、SPS及びPPGの最終濃度は、それぞれ約3.6mg/ml、0.9mg/ml及び0.09%である。
【0063】
1つの例示的な実施態様では、全血及び血液溶解試薬の混合時のサポニン及びSPSの濃度は、それぞれ約1.0~10mg/mL及び0.5~2mg/mLの範囲内とすることができる。
【0064】
別の例示的な実施態様では、血球溶解試薬の組成物は、約1mLの全血の溶解のために、以下のように提供することができる。pH範囲5~11のバッファー中に、約1.5体積%のTriton X-100(X-100、シグマ)、約18mg/mLのポリアネトールスルホン酸ナトリウム(SPS)(P2008、シグマ)及び約1体積%のポリ(プロピレングリコール)(PPG)MW 2000(202339、シグマ)を有する容積約100μLの水溶液。血液溶解試薬を全血試料と混合する際、Triton X-100、SPS及びPPGの最終濃度は、それぞれ約0.14%、0.55mg/ml及び0.03%である。
【0065】
1つの例示的な実施態様では、溶解試薬及び全血試料の混合時のTriton X-100及びSPSの濃度は、それぞれ約0.05~0.5%及び0.2~2mg/mLの範囲にあってもよい。前述したように、まず血液溶解試薬に暴露し、続いて混合物(微生物細胞を保持したまま)の少なくとも一部を除去することは、微生物細胞の生存能を著しく損なうことなく、増殖を促進する上で有益であり得るし、残りの懸濁液を濃縮する上でも有益であり得る。さらに、除去される混合物の量及び、続いて添加される増殖培地の量を、サンプリング時に試料の中に存在する抗生物質の希釈(例えば、不必要な抗生物質の少なくとも、50%、75%、90%又は95%の希釈を達成すること)を達成するために利用することができる。
【0066】
最初の血液溶解ステップを行った後に、ステップ113~115に従って、以前に記載したように、アリコートを得、インキュベーションする。
【0067】
次いで、主要アリコート及び参照アリコート中の微生物細胞を分離してもよく、アリコート中にまだ存在しうる血球のうちの少なくとも一部の溶解を達成するために、血液溶解試薬を分離ステップの前に各アリコートに添加する。例えば、米国特許公開第2014/154687号に記載されているような、血液溶解試薬を提供することができる。例えば、
【0068】
例えば、1つの例示的な実施態様では、およそ1mLの全血当たりの血球溶解試薬の組成は、以下のように提供され得る:およそ75mg/mLのサポニン(84510、Sigma)、およそ15mg/mLのポリアネトールスルホン酸ナトリウム(SPS)(P2008、Sigma)及びおよそ1体積%のポリ(プロピレングリコール)(PPG)MW 2000(202339、Sigma)の濃度を有する、およそ500μLの体積を有する水溶液。血液溶解試薬と全血試料との混合時に、サポニン、SPS及びPPGの最終濃度は、それぞれおよそ25mg/ml、5mg/ml及び0.3%である。
【0069】
1つの例示的な実施態様では、全血及び血液溶解試薬を混合した際のサポニン及びSPSの濃度は、それぞれ、およそ1.5~80mg/mL及び0.5~20mg/mLの範囲内であり得る。別の例示的な実施態様では、サポニン及びSPSの濃度は、それぞれ、およそ10~30mg/mL及び2.5~10mg/mLの範囲内であり得る。
【0070】
別の例示的な実施態様では、およそ1mLの全血を溶解させるための血球溶解試薬の組成は、以下のように提供され得る:pH範囲5~11のバッファー中、およそ1.5体積%のTriton X-100(X-100、Sigma)、およそ18mg/mLのポリアネトールスルホン酸ナトリウム(SPS)(P2008、Sigma)及びおよそ1体積%のポリ(プロピレングリコール)(PPG)MW 2000(202339、Sigma)の濃度を有する、およそ500μLの体積を有する水溶液。血液溶解試薬と全血試料との混合時に、Triton X-100、SPS及びPPGの最終濃度は、それぞれおよそ0.5%、6mg/ml及び0.3%である。1つの例示的な実施態様では、溶解試薬と全血試料との混合時に、Triton X-100及びSPSの濃度は、それぞれおよそ0.1~1.5%及び1~10mg/mLの範囲内であり得る。
【0071】
血液溶解試薬を添加した後、例えば濾過又は遠心分離などの方法を用いて微生物細胞を分離し得る。例えば、微生物細胞は、米国特許出願公開2014/154687号に開示されている方法のように、遠心分離により、任意的に洗浄を行って、分離することができる。次に、分離された微生物細胞を、上述のように、ステップ125~135に従って溶解し、アッセイし得る。
【0072】
図1Eに示すように、サンプリング時に試料の中に存在した抗生物質の存在又は活性をさらに低減させることを達成するために、追加のステップを設けてもよい。例えば、ステップ116及びステップ117で示すように、抗生物質吸収剤を添加し、続いて、図1Cに関連して上記と同様の方法で微生物細胞の懸濁液から除去してもよい。
【0073】
前述の例示的な実施形態は、以下のようにサンプリングに関する問題に対処する上で有益であり得る。分離ステップは、十分な量の原試料を、次の段階において試料の大きさにより課された制約によって制限されずに用いることができるように、微生物細胞の遠心濃縮(又は濾過及び後続の再懸濁による濃縮)を使用してもよい。例えば、試料の大きさが1mL以下のオーダーで小さいことがアッセイステップの自動化には望ましいが、約1CFU/mLまで検出限界を低下させるには、1mLよりはるかに大量の試料を必要とする。第2に、増殖培地を備えた第2試料(及び/又はアリコート)のプレインキュベーションでは、微生物細胞の数の増加が可能になり、それにより統計的サンプリング誤差に対するシステムの感度が減少する。第3に、抗生物質感受性試験の前に行われる多重同定試験パネルは、通常候補抗生物質の数を(例えば1種、2種、又は3種の候補抗生物質(処理施設の耐性記録に従って))の小さな数に限定する。さらに、処理施設の耐性記録が考慮に入れられる場合には、関係する抗生物質試験濃度の数は1つの濃度、又は、おそらく、2つ若しくは3つの濃度に減らされてもよい。第4に、検出対象としてRNAを使用することが多コピー数のRNA分子により溶解後のサンプリング誤差を最小限にする。本明細書に開示されるように、核酸増幅検出用に選択される標的RNA分子は、リボソームRNA(rRNA)、トランスファーメッセンジャーRNA(tmRNA)又は豊富に存在するメッセンジャーRNAを選択することができる。
【0074】
図2Aは、最初の多重同定試験パネルを実施することを必要とせずに、抗生物質感受性試験を行う例示的な実施形態を示す。ステップ200に示すように、2つ以上の主要アリコートを試料から得て、少なくとも1つの参照試料も得る。アリコートを得る前に、場合により初期試料を最初に増殖培地でインキュベーションしてもよいし、あるいは、アリコート中に存在する微生物細胞の数を増加させるためにステップ205に示すように、場合によりアリコートを増殖培地でインキュベーションしてもよい。
【0075】
ステップ210において、主要アリコートの少なくとも2つが異なる抗生物質を含むように、1種以上の抗生物質を各主要アリコートに添加する。したがって、主要アリコートを、異なる抗生物質のパネルについて試験し、そこでは2つ以上の主要アリコートが、同じ抗生物質の異なる濃度を含んでいてもよい。アリコートを処理し、各アリコートから溶解物を得るために図1Aのステップ115~125に記載されているように、ステップ215~225を行う。
【0076】
ステップ230において、試験パネルからの微生物細胞の存在に関連しているRNAに基づいた核酸配列を検出するために、第1溶解物及び第2溶解物に対して逆転写及び増幅を行う。例えば、試験パネルは、1組の臨床的に関係のあるグラム陽性微生物細胞、グラム陰性微生物細胞及び真菌微生物細胞であってもよい。検出される核酸配列は、試験パネルのメンバーからの核酸配列の集合のいずれかであり、試験パネルを構築する微生物細胞タイプに特有の1つ以上の配列を含み得る。検出される核酸配列の1つ以上は、試験パネルの2つ以上のメンバーの間で保存された配列を含んでいてもよい。次いで、第1溶解物及び第2溶解物から生成するアッセイシグナルを比較して、試料の中に存在する微生物細胞を同定することなく、抗生物質の有効性を決定する。最初の多重同定試験パネルの実施を待つ必要がないので、最初の抗生物質有効性情報が緊急に必要な場合には、このような実施形態は有用であり得る。
【0077】
図2Bは、tmRNAの検出のための逆転写及び増幅によって抗生物質感受性試験を行う例示的な方法を示し、この方法は多重同定試験パネルによる微生物細胞の最初の同定を用いて行ってもよいし、あるいは用いずに行ってもよい。図2Bにおける後続のステップは、図2Aにおいて開示したステップに類似している。ステップ255において、試験パネルに属する微生物細胞に関連しているtmRNAを検出するために、主要溶解物及び参照溶解物に対して逆転写を行う。ステップ260において、次いで、選択された抗生物質の有効性を決定するために主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較する。
【0078】
図2Cは、抗生物質感受性試験が、処方された抗生物質への微生物細胞のインビボ暴露に基づいて行われる代替の例示的な実施形態を示す。ステップ400において、第1試料は、患者又は被験体から得られ、ここで試料は微生物細胞を含有することが疑われている。次いで、上に記載したように、迅速な多重確認試験パネルを行って微生物細胞の特性に関係する情報を得る。例えば、米国特許公開第2014/154687号及び米国特許公開第2014/004501号に開示された、試料調製、分離及び溶解方法を利用することができる。
【0079】
ステップ410において、1種以上の抗生物質を、同定パネルからの結果に基づいて選択する。例えば、上述の抗生物質選択法のいずれかを利用することができる。
【0080】
1種以上の抗生物質を患者又は被検体に処方した後に、そしてインビボのインキュベーション遅延の経過(例えば1時間未満の、1時間から2時間の間の、2時間から3時間の間の、3時間から4時間の間の、又は4時間超の時間遅延)後に、第2試料をステップ415において得る。
【0081】
次いで、ステップ420において、患者に処方された抗生物質と微生物細胞とのインビボのインキュベーションによりアッセイシグナルの変化を決定するために、第2試料を試験する。この試験は、同じ多重同定試験パネルであってもよい。別の実施形態では、試験パネルは、第1試料を試験して陽性であった1つ以上の試験に基づいて、本来の同定試験パネルのサブセットであってもよい。最後に、ステップ425において、処方された抗生物質が微生物細胞に対して有効であったかどうか決定するために、第1試験及び第2試験からのアッセイシグナルを比較する。
【0082】
以下に記載する他の例示的な実施形態では、微生物細胞の抗生物質感受性を決定する又は推定するために、迅速な時間スケールで細胞のmRNA含有量を検査する方法である。以下に記載する例示的な実施形態は、刺激に応答して産生された標的mRNAの転写状態(例えば量又は濃度)に基づいて抗生物質に対する微生物細胞の感受性レベルを推定する又は決定する方法を提供する。既知の抗生物質感受性試験方法と異なり、本開示の実施形態は、短期間に患者の試料から感受性又は耐性について直接に決定することを支援し、治療選択肢に有意な影響を及ぼす。
【0083】
いくつかの実施形態において、試料内の微生物細胞の特性(例えば属、種、界、グラム染色性、又は微生物細胞のDNA若しくはRNAに属する分子配列等の別の同定特徴)に関連した情報をまず得た後に、1種以上の候補抗生物質を選択することができる(上に記載したように)ように、抗生物質感受性試験を行うことができる。次いで、微生物細胞を、選択された抗生物質(例えば、懸濁液は、血液試料又は液体の血液培養培地等の微生物細胞及び抗生物質を含めて提供される)にさらし、抗生物質の非存在下で微生物細胞の増殖を支援すると思われる条件下に(また場合により、例えば耐性の微生物細胞の場合には、抗生物質の存在下で)インキュベーションする。感受性微生物細胞及び/又は耐性微生物細胞において、抗生物質が転写応答、表現型応答、又は代謝応答等の応答を誘導するのに十分に長い持続時間(例えば、約30分から約2時間まで)で、微生物細胞を抗生物質と共にインキュベーションする。微生物細胞を抗生物質にさらした後に、微生物細胞を溶解して標的mRNAを放出させ、抗生物質に対する微生物細胞の感受性を評価するためにこの標的mRNAを続いて検出する。
【0084】
既知の抗生物質感受性試験方法と異なり、抗生物質に対する微生物細胞の誘導された応答は、細胞死又は細胞増殖の欠如を含んでいる必要はないが、抗生物質への暴露の後に微生物細胞の長期的な生存能を示す応答を含んでいてもよい。例えば、抗生物質に対する微生物細胞の応答は、微生物細胞が再生する能力及び/又は刺激に応答して所定のmRNAを発現する能力の阻害又は抑制等の長期的な生存能の欠損に関連した代謝的変化を含んでいてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、細胞内のmRNAの産生が抗生物質に対する微生物細胞の耐性及び/又は感受性に直接関連するように、標的mRNAを、所定の生物及び抗生物質に関して選択することができ、ここで抗生物質への微生物細胞の暴露が標的mRNAの細胞内濃度の迅速な変化を生じる。
【0086】
細胞内mRNAの誘導された産生が抗生物質に暴露して数秒から数分以内に生じるように、標的mRNAを選択することができる。例えば、微生物細胞は抗生物質に耐性があってもよく、抗生物質への暴露に対する微生物細胞の応答は、抗生物質への暴露下の微生物細胞の生存能を支援するための標的mRNAの産生を含むことができる。このような標的mRNAを検出して、微生物細胞の耐性特性を決定することができる。他の例においては、微生物細胞は抗生物質に感受性であってもよく、抗生物質への暴露に対する微生物細胞の応答は、抗生物質への暴露下の微生物細胞の生存能の減少を示す標的mRNAの産生を含むことができる。このような標的mRNAを検出して、微生物細胞の感受性特性を決定することができる。
【0087】
標的mRNAが溶解物において安定であるように微生物細胞を溶解して標的mRNAを放出することができ、アッセイを行って溶解物中のmRNAの存在又は量に関連した尺度を決定することができる。抗生物質に暴露されていない試料アリコートにも溶解とmRNAアッセイを行うことができ、2つのアリコートから得られた尺度を比較して、抗生物質に対する微生物細胞の感受性を決定するか又は評価することができる。
【0088】
他の実施形態では、標的mRNAの産生が抗生物質への微生物細胞の暴露と間接的に関係があるように、標的mRNAを選択してもよい。感受性微生物細胞及び/又は耐性微生物細胞に関するmRNAの産生が、抗生物質への微生物細胞の暴露により変更されるように、刺激及び標的mRNAを選択する。例えば、感受性微生物細胞中の標的mRNAの産生が抗生物質への暴露後に低減されるように、また、標的mRNAの産生が、耐性微生物細胞において実質的に変化しないように、標的mRNAは、刺激に応答して生存細胞(又は、例えば、増殖期の細胞)によって産生されるmRNAであるように選択することができる。このような実施形態において、感受性微生物細胞及び/又は耐性微生物細胞にとって、抗生物質の存在に対する表現型応答、代謝応答、又は他の応答を受けるのに、十分に長い持続時間にわたり、抗生物質に微生物細胞を暴露した後に、微生物細胞を、微生物細胞中で標的mRNAの産生に関連した刺激にさらしてもよい。
【0089】
次いで、標的mRNAが溶解物中で安定である(つまり、標的mRNAは溶解時に溶解物内で実質的に分解しない)ように微生物細胞を速やかに溶解して標的mRNAを放出することができ、アッセイを行って溶解物中の標的mRNAの存在又は量に関連した尺度を決定することができる。抗生物質に暴露されていないアリコートにも刺激、溶解及びmRNAアッセイを行うことができ、2つのアリコートから得られた尺度を比較して、抗生物質に対する微生物細胞の感受性を決定するか又は評価することができる。
【0090】
前述したように、標的mRNAを著しい分解もなく続いて検出できるように、標的mRNAを実質的に安定な形態にする方法で迅速な細胞溶解を行うことにより、標的mRNAを検出できる形態で放出させる。抗生物質又は刺激の存在に応答したmRNAの産生が、数秒から数分の時間スケールのような迅速な時間スケールで生じる場合がある。したがって、いくつかの実施形態では、放出されそして検出されるmRNAが、抗生物質の存在又は刺激の適用に対する微生物細胞の応答を示すように、微生物細胞の溶解を、微生物細胞内の標的mRNAの産生に関連した持続時間内(例えば約30秒から10分以内に微生物細胞内に産生された標的mRNAの寿命に関連した時間スケールで)に行う。
【0091】
当業者は、多くの従来の溶解方法が、(a)抗生物質又は与えられた刺激に応答して微生物細胞内の標的mRNAの産生に関連した持続時間内の溶解を行うことと、(b)標的mRNAが安定している溶解物を産生すること、の2重の制約を満足できないことを理解するであろう。
【0092】
1つの例示的な溶解方法は、細胞懸濁液中の潜在的PCR阻害剤及びヌクレアーゼを除去し、その後、ヌクレアーゼ阻害剤を含む溶解バッファーの中で、超音波照射あり又はなしのビーズ破砕等の迅速溶解プロトコルを行うことを含んでいてもよい。残念なことに、これらの方法は多重ステップと試薬を含んでおり、その後、PCRを行う前に精製ステップがしばしば必要となる。
【0093】
1つの例示的な実施態様では、前述の2重の溶解制約は、米国特許公開第2014/004501号に開示された迅速な電気溶解方法によって満足させることができる。このような方法は、標的mRNA産生の時間スケールよりはるかに短い時間スケールの迅速電気溶解を提供し、さらにヌクレアーゼの不活性化により安定な形態で標的mRNAを維持するのに適切な溶解物も提供する。
【0094】
次に図3を参照すると、微生物の感受性試験を行う例示的な方法を示すフローチャートを提供し、1つの実施形態において、抗生物質に試料中の微生物細胞を暴露した後に、外部刺激を与え、ここで刺激は微生物細胞内のmRNAの産生を誘導するために提供され、続いて微生物細胞をmRNAの検出に基づいて抗生物質感受性を評価するために溶解する。この非限定的な例示的な方法では、溶解は、米国特許公開第2014/004501号に開示された電気溶解方法を用いて行うことができる。
【0095】
ステップ310において、試料を、病原性微生物細胞の存在及び特性に関して試験する。このステップは種々の方法によって行うことができ、そこで選択される方法は、試料の性質で決まる。例えば、試料が血液培養陽性試料である場合、従来の表現型試験、蛍光インサイチューハイブリダイゼーション及びMALDIに基づく検出のような方法を利用してもよい(場合によっては、最初に継代培養によって分離物を得る必要がある場合もある)。試料も培養に供しなかった場合、直接的な試料同定は、LightCycler(登録商標)SeptiFast Test MGRADE、Sepsitest(商標)、及びYVOO(登録商標)プロトコル等の分子技法を用いて行うことができる。別の例示的な実施態様では、微生物細胞の同定は、上に記載したように、米国特許公開第2014/154687号に開示された方法によって行うことができる。
【0096】
次いで、抗生物質の選択をステップ312において行う。抗生物質の選択は、同定された微生物細胞に対して有効であると示された公表された抗生物質又は既知の抗生物質に基づいた方法、及び/又は、耐性記録に基づいた方法等の、既知の方法によって行うことができる。本明細書において提供される例示的な実施形態は、1種の抗生物質の選択及び試験に関するが、2種以上の抗生物質を試験してもよいことが理解されるはずである。
【0097】
ステップ314において、試料の少なくとも2つのアリコートを得る。選択された抗生物質の所定量は、例えば、臨床検査標準協会(CLSI)抗菌薬感受性試験基準に記載されている値等の既知の値又は標準化値に従って決定することができる。抗生物質を1つのアリコートに添加することができ、少なくとも1つの他のアリコートを抗生物質なしの対照として用いる。本明細書において提供される例示的な実施形態は、選択された抗生物質の単一の量又は濃度の試験について記述するが、選択された抗生物質の複数の量又は濃度を試験することもできる(例えば逐次的に、又は並行して)ことを理解されたい。例えば、試料は、少なくとも1つのアリコートを各抗生物質量又は濃度について提供するように、複数のアリコートで調製することができる。複数の抗生物質濃度を備えた実施形態は、抗生物質の有効性に関連した最小阻止濃度又は他の尺度を測定、決定又は評価することを円滑に進めることができる。
【0098】
次いで、ステップ316に示すように、試料アリコートを、微生物増殖(つまり微生物細胞がインキュベーション中に抗生物質の非存在下で増殖しうるように)に適切な条件の下でインキュベーションする。例えば、微生物細胞は、増殖に適切な培地(抗生物質の影響を阻止するように設計された培地を使用しないで)において適温(例えば37℃)でインキュベーションすることができる。他の例においては、微生物細胞は、直接的に血液中に場合により適切な抗凝血剤を含めること等、採取した試料の中で、適温(例えば37℃)で、インキュベーションすることができる。
【0099】
いくつかの実施形態では、抗生物質への暴露に適切な時間は、微生物細胞のそれぞれの倍加時間及び抗生物質の作用様式に、少なくとも部分的に基づきうる。例えば、細胞壁合成を妨げる抗菌剤は、ペプチドグリカンの合成をブロックし、細胞死のメカニズムは不完全な細胞壁又は弱くなった細胞壁に起因する細胞融解による。したがって、細胞壁合成阻害剤は、細菌の増殖に対してのみ活性である。細胞死メカニズムは即時ではなく、多くの活性な細胞プロセスを含んでいる。DNA合成を妨げる抗菌剤は、例えば、DNAジャイレース-DNA複合体と結合し、DNA複製中に損傷したDNA鎖の修復をDNAジャイレースによって妨げ、即時の静菌作用を及ぼし、続いて細胞死をもたらす。
【0100】
この例示的な方法において、微生物細胞を溶解バッファー中で分離し場合により濃縮するように、各アリコートをステップ318において処理し、それにより各アリコート用の微生物細胞の懸濁液を得る。分離法は、米国特許公開第2014/154687号に開示されたプロトコル等の任意の適切なプロトコルを用いて行うことができる。
【0101】
この例示的な方法は、ただ1つの例示的な実施態様だけを提供するものであり、その他の方法が微生物細胞を分離し場合により濃縮することができることを理解されたい。
【0102】
ステップ320において、各懸濁液を、微生物細胞内の標的mRNAの産生を誘導するために選択されている刺激にさらす。mRNAの産生が、刺激に応答して抗生物質への暴露に起因して変更されるように、標的mRNA及び刺激を選択することができる。例えば、感受性微生物細胞中の標的mRNAの産生が抗生物質への暴露後に低減されるように、そしてまた、標的mRNAの産生が、耐性微生物細胞において実質的に変化しないように、刺激に応答して生存細胞によって産生されるmRNAとなるように、標的mRNAを選択することができる。この刺激は、標的mRNAの産生を生じる物理的刺激、化学的刺激、又は電気的刺激等の任意の刺激であってよい。標的mRNA及び関連する刺激の例を以下に説明する。
【0103】
次いで、各懸濁液の電気的な処理を、上に記載したように、米国特許公開第2014/004501号に開示された方法によって、ステップ322において行う。電気的処理法は微生物細胞を溶解し、細胞内rRNA及びゲノムDNAをさらに外部の酵素作用を受けやすくする。前述したように、このステップで電気処理も提供する電気的処理法は、さらに、後続の増幅及び検出に対して阻害性の酵素又は因子を実質的に不活性化する。
【0104】
ステップ324において、溶解物を適切なマスターミックス(master mix)と混合し、逆転写を行って溶解物中のmRNAを対応するcDNAに転写する。マスターミックスは、cDNAに対してPCR増幅のサイクルを行うための成分を含みうる。次いで、転写されたcDNAの増幅を、PCR(又はその変形)等の増幅方法によって前もって形成する。最後に、ステップ328において増幅産物を検出し、2つのアリコートに対応するレベルを、ステップ330において比較して抗生物質の感受性を判断する。
【0105】
mRNAの増幅及び検出は、対応するgDNAを除去せずに行ってもよい。1つの実施形態では、これは、特に低温(RT温度は40~50℃の範囲である)で結合し、非特異的DNAタグを含むプライマーを用いて達成することができる。これによって、mRNAだけがこのプライマーによってタグが付加されることになり、このプライマーはその後、PCRステップ(高いアニーリング温度において)の間中、前の逆転写(RT)ステップでmRNAから変換されたcDNAを特異的に増幅するのに用いることができる。
【0106】
この方法の原理は、図4A及び図4Bを参照することにより理解することができる。適切なプライマーを提供し、有効なアッセイを行うための例示的な方法は、以下のとおりである。
【0107】
まず、目的とする遺伝子を標的としてフォワードプライマー及びリバースプライマーを設計する。融解温度が低い40数度となるまで、リバースプライマー(さらにRTプライマー)からヌクレオチドを除去する。次いで、非特異的DNAタグをリバースプライマーの5'末端へ付加する。特異的配列+TAGの融解温度は約64℃超となる。次いで、RT反応を約42℃で行い、PCRを約65℃のアニーリング温度で行う。これらの状態下で、増幅が、タグ付加cDNA(mRNAとタグ付加リバースプライマーとのRTによって得られたcDNA)だけに生じうる。
【0108】
図4Aにおいて、逆転写(RT)を、低温(低い40数度において)で行い、そのRT時に、タグ付加リバースプライマーのアニーリングのためにgDNAを変性させない。したがって、mRNAだけがタグ付加リバースプライマーによってアニーリングされ、タグ付加cDNAへ逆転写される。図4BのPCRサイクル#1の間に、gDNAのアンチセンス鎖及びタグ付加cDNAはフォワードプライマーによってアニーリングされ、それぞれのセンス鎖が複製される。gDNAの複製されたセンス鎖には、タグのための相補的配列がないがタグ付加cDNAの複製されたセンス鎖にはタグのための相補的配列がある。図4BのPCRサイクル#2の間に、タグ付加核酸のみにおけるタグ配列の存在及びタグ付加リバースプライマーの高いアニーリング温度(約64℃超)により、タグ付加リバースプライマーだけが、成功的にタグ付加センス鎖にアニーリングすることができる。図4Bの以下のPCRサイクルの間に、タグ付加核酸は指数関数的に増幅される。
【0109】
開示された方法及び実施形態では、混入を防ぎ、かつ標的mRNA分子数の損失を軽減するために、ステップの一部又は全てを、自動システムで行ってもよい。自動化は、さらに処理ステップ間の時間遅延を低減し、mRNA検出の「リアルタイムの」又はスナップショット性質を、増大するか又は最大化するために利用することができる。
【0110】
前述したように、種々のmRNAは、本明細書に開示された抗生物質感受性試験方法によって調査することができる。例えば、生存可能な微生物細胞(例えば増殖期の細胞)による刺激に応答して産生される標的mRNAを選択してもよい。他の例においては、特定の抗生物質(例えば、抗菌物質を阻害するDNA合成による二本鎖DNA損傷の形成がDNA修複酵素等のSOS応答遺伝子の発現を誘導する)に応答して産生される標的mRNAを選択してもよい。あるいは、標的mRNAは、全ての殺菌性抗生物質(例えば、感受性細菌菌株中で活性化されうる活性酸素種(ROS)の生成)による細胞死の共通のメカニズムである、保存された細菌死経路を同定することにより、選択してもよい。
【0111】
検出用の標的mRNA及びそれに関連する遺伝子の非限定例としては、以下が挙げられる。細菌の増殖のモニタリングに関しては、多数の遺伝子が細菌の分裂及び増殖(例えばDnaK、TufA、RpoA)に関連している。これらの遺伝子(刺激の適用の有無に拘わらず)のmRNAレベルのモニタリングによって、細菌が抗生物質の存在下で増殖しているかどうか判断することは可能である。
【0112】
他の例示的な遺伝子及び標的mRNAは、熱ショック、低温ショック、栄養制限(緊縮応答)及びDNA損傷試薬(SOS応答)等の環境ストレスに対する高度に組み合わせられた細菌応答に関連している。熱ショックに関連した例示的な遺伝子及び標的mRNAは熱ショックタンパク質(hsp)である。低温ショックに関連した例示的な遺伝子及び標的mRNAは低温ショックタンパク質(csp)である。イソロイシルtRNAシンテターゼ阻害剤であるムピロシンに対する緊縮応答に関連した例示的な遺伝子及び標的mRNAは、イソロイシン生合成に関与する酵素(ilv、leu)である。マイトマイシンCに対するSOS応答に関連した例示的な遺伝子及び標的mRNAは、DNA代謝に関与するタンパク質(uvr、ssb)である。他の例においては、いくつかの特定遺伝子及び標的mRNAは特定の小分子の存在下で誘導される場合がある。例えば乳糖発酵に関与する酵素の誘導、イソプロピル-β-D-チオ-ガラクトシド(IPTG)によるラックオペロン遺伝子である。抗生物質-感受性微生物細胞がこれらの誘導因子に応答する能力を阻止することができるので、例えば、細菌菌株が特定の抗生物質に耐性があるかどうか決定するためにこのメカニズムを使用することができるだろう。
【0113】
さらに、細菌のアポトーシス様経路が最近特性決定されており、細菌が特定の抗生物質によって殺傷されるかどうか決定することに適用される。多くの抗生物質が活性酸素種(ROS)の生成を介して作用しており、このことは抗生物質に対する微生物細胞の感受性を決定する別の方法となり得ると考えられている。
【0114】
大部分の細菌mRNAの半減期は、転写産物の安定性の変動に応じて、40秒から60分の範囲である。例えば黄色ブドウ球菌において産生された転写産物のmRNAの半減期の大多数は、急速に分解された(89.7%は5分未満であった)が、転写産物の1.1%が安定(半減期30分超)であった。興味深いことには、これらの細菌中の熱ショックと低温ショックの応答の誘導は、mRNA転写産物の大多数の半減期が5~30分であり、劇的にmRNA転写産物を安定させるように思われる(Andersonら、J Bacterial 2006 188(19)、6739)。
【0115】
前述の実施形態は、標的抗生物質感受性試験の方法を開示したものであり、本明細書に開示した方法は他の用途に役立つように修正されかつ/又は適合させることができることを理解されたい。例えば、1つの例示的な実施態様では、前述の方法の実施形態を、刺激に応答して産生される標的mRNAの検出により、1つ以上の微生物細胞の状態を評価、調査又は決定するために修正することができる。例えば、1個以上の細胞の生存能は微生物細胞を含む懸濁液に刺激を与え(ここでこの刺激は、生きている微生物細胞においてmRNA産生を誘導するために選択される)、微生物細胞内のmRNAの産生に関連した時間スケールの範囲内で微生物細胞を溶解し、溶解物中のmRNAを検出することにより評価することが可能である。このような実施形態は、限定はしないが、臨床診断、疫学的調査、法医学、抗菌剤の開発及び治療候補のハイスループットスクリーニングを含む広範囲の用途のために利用することができることを理解されたい。
【0116】
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
1.迅速な抗生物質感受性試験を行う方法であって、
第1溶解物に対して多重同定試験パネルを行うステップであって、第1溶解物が、微生物細胞を含有することが疑われる第1試料から得られたものである、ステップと、
微生物細胞を含有することが疑われる第2試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含み、また、第1試料及び第2試料は共通の被験体に由来する、ステップと、
主要アリコートに少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップであって、選択された抗生物質は、少なくとも部分的には多重同定試験パネルの結果に基づいて選択されたものである、ステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して主要懸濁液を得るステップと、
参照アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して参照懸濁液を得るステップと、
主要懸濁液及び参照懸濁液中の微生物細胞を溶解して、主要溶解物及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、多重同定試験パネルによって検出可能な微生物細胞に関連した核酸を検出し、それにより主要アッセイシグナルを得るステップと、
参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、多重同定試験パネル同定パネルによって検出可能な微生物細胞に関連した核酸を検出し、それにより参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む方法。
2.逆転写及び増幅がrRNAを検出するために行われ、参照アッセイシグナルと比較した主要アッセイシグナルの低下は、選択された抗生物質の有効性を示す、実施形態1に記載の方法。
3.逆転写及び増幅がtmRNAを検出するために行われ、参照アッセイシグナルと比較した主要アッセイシグナルの低下は、選択された抗生物質の有効性を示す、実施形態1に記載の方法。
4.逆転写及び増幅がmRNAを検出するために行われ、参照アッセイシグナルと比較した主要アッセイシグナルの変化を利用して、選択された抗生物質の有効性を決定する、実施形態1に記載の方法。
5.主要アリコート及び参照アリコートをmRNAの産生を誘導するように構成された刺激に供するステップをさらに含み、該刺激は、感受性微生物細胞及び/又は耐性微生物細胞に関するmRNAの産生が上記抗生物質への微生物細胞の暴露に起因して変更されるように選択される、実施形態4に記載の方法。
6.逆転写及び増幅が、多重同定試験パネルにより検出可能な微生物細胞に関連した核酸配列を含むように複数の核酸配列を検出する、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
7.逆転写及び増幅が、多重同定試験パネルにより検出可能な微生物細胞の2種以上の間で保存されている少なくとも1つの核酸配列を検出する、実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
8.微生物細胞を遠心分離により分離する、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
9.微生物細胞を濾過により分離する、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
10.第1試料及び第2試料が全血試料であり、上記方法が、主要アリコート及び参照アリコートを得る前に、第1の血液溶解試薬を第2試料に添加するステップをさらに含む、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
11.第1の血液溶解試薬を添加した後に第2試料を遠心分離するステップ、及び上清の少なくとも一部を取り出すステップをさらに含む、実施形態10に記載の方法。
12.第1の血液溶解試薬がサポニン及びSPSを含み、全血と第1の血液溶解試薬との混合時のサポニン及びSPSの濃度が、それぞれ約1.0~10mg/mL及び0.5~2mg/mLである、実施形態10又は11に記載の方法。
13.主要アリコートから微生物細胞を分離する前に、第2の血液溶解試薬を主要アリコートに添加するステップをさらに含む、実施形態10~12のいずれかに記載の方法。
14.第2の血液溶解試薬がサポニン及びSPSを含み、全血と第2の血液溶解試薬との混合時のサポニン及びSPSの濃度が、それぞれ約1.5~80mg/mL及び0.5~20mg/mLである、実施形態13に記載の方法。
15.第1試料及び第2試料が、喀痰試料、尿試料、脳脊髄液試料の1つに由来する、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
16.第1試料及び第2試料が、血清試料、血漿試料及び血液培養試料の1つである、実施形態1~9のいずれかに記載の方法。
17.第2試料が第1試料から得られる、実施形態1~16のいずれかに記載の方法。
18.主要アリコート及び参照アリコートを得る前に、増殖培地を第2試料に添加する、実施形態1~17のいずれかに記載の方法。
19.第1溶解物における核酸の多重増幅検出を行う前に増殖培地を第2試料に添加し、第2試料を、核酸の多重増幅検出を行いながら、微生物増殖の促進に適切な条件下でインキュベーションする、実施形態18に記載の方法。
20.選択された抗生物質を主要アリコートに添加する前に、第2試料を微生物増殖の促進に適切な条件下でインキュベーションする、実施形態18に記載の方法。
21.第2試料のインキュベーション前に抗生物質吸収剤を第2試料に添加し、主要アリコート及び参照アリコートを得る前に該抗生物質吸収剤を第2試料から除去する、実施形態19又は20に記載の方法。
22.選択された抗生物質を主要アリコートに添加する前に、主要アリコート及び参照アリコートを微生物増殖の促進に適切な条件下でインキュベーションする、実施形態1~17のいずれかに記載の方法。
23.多重同定試験パネルの各試験が、界、科、グラム染色性、属、種及び株の1つと関連している、実施形態1~22のいずれかに記載の方法。
24.核酸の多重増幅検出が、rRNAを検出するために逆転写及びその後の多重増幅を利用する、実施形態1~23のいずれかに記載の方法。
25.逆転写を、初期増殖ステップを行うことなしに実施する、実施形態24に記載の方法。
26.微生物細胞の存在を、およそ1時間以内に同定パネルの中から同定する、実施形態1~25のいずれかに記載の方法。
27.アリコートの数が2である、実施形態1~26のいずれかに記載の方法。
28.アリコートの数が2~4である、実施形態1~26のいずれかに記載の方法。
29.主要アリコートが第1の主要アリコートであり、選択された抗生物質が第1の選択された抗生物質であり、ここで1以上の追加アリコートが第2試料から得られ、上記方法が、各追加アリコートに追加の選択された抗生物質を添加するステップ、各追加アリコートを処理して微生物細胞に対する追加の選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップをさらに含み、ここで各追加の選択された抗生物質は、少なくとも部分的には微生物細胞の同定に基づいて選択される、実施形態1~26のいずれかに記載の方法。
30.選択された抗生物質が、少なくとも部分的には微生物細胞の同定に基づいて、かつ少なくとも部分的にはメモリに記録された耐性記録の処理により、自動的に選択される、実施形態1~29のいずれかに記載の方法。
31.選択された抗生物質が、医師から得られた情報に基づいて得られる、実施形態1~29のいずれかに記載の方法。
32.多重同定試験パネルの陽性試験結果の1以上の組み合わせが、それに関連した少なくとも1つの対応する抗生物質を有し、少なくとも1種の選択された抗生物質は、
選択された抗生物質として、多重同定試験パネルの結果に関連した対応する抗生物質を選択する工程であって、選択された抗生物質の有効性の決定が、医師から情報を受けることなしに上記選択された抗生物質に基づく反射試験(reflex test)として行われる、工程
により選択される、実施形態1~29のいずれかに記載の方法。
33.多重同定試験パネルの陽性試験結果の1以上の組み合わせが、それに関連して、少なくともサンプルタイプによって分類された複数の対応する抗生物質を有し、選択された抗生物質は、第1試料のサンプルタイプに関連したその対応する抗生物質として選択される、実施形態32に記載の方法。
34.多重同定試験パネルの陽性試験結果の1以上の組み合わせが、それに関連して、少なくとも病棟によって分類された複数の対応する抗生物質を有し、選択された抗生物質は、第1試料が収集された病棟に関連したその対応する抗生物質として選択される、実施形態32に記載の方法。
35.多重同定試験パネルの陽性試験結果の1以上の組み合わせが、それに関連して、少なくとも地域感染又は院内感染としての感染の起源によって分類された複数の対応する抗生物質を有し、選択された抗生物質は、該感染起源に関連したその対応する抗生物質として選択される、実施形態32に記載の方法。
36.迅速な抗生物質感受性試験を行う方法であって、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含む、ステップと、
主要アリコートに、少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを、選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して、主要濃縮懸濁液を得るステップと、
参照アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して、参照濃縮懸濁液を得るステップと、
主要濃縮懸濁液及び参照濃縮懸濁液中の微生物細胞を溶解して、主要溶解物及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物及び参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、微生物試験パネルのメンバーに関連した核酸を検出し、主要アッセイシグナル及び参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む方法。
37.主要アリコートが第1の主要アリコートであり、選択された抗生物質が第1の選択された抗生物質であり、ここで1以上の追加アリコートが試料から得られ、上記方法が、各追加アリコートに追加の選択された抗生物質を添加するステップ、各追加アリコートを処理して各追加の選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップをさらに含む、実施形態36に記載の方法。
38.迅速な抗生物質感受性試験を行う方法であって、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、複数の主要アリコート、及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含む、ステップと、
主要アリコートの少なくとも2つが別個の選択された抗生物質を含むように、各主要アリコートに少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して複数の主要懸濁液を得るステップと、
参照アリコートから微生物細胞を分離し、分離された微生物細胞を再懸濁して参照懸濁液を得るステップと、
主要懸濁液及び参照懸濁液中の微生物細胞を溶解して、複数の主要溶解物、及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物及び参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、微生物パネルのメンバーに関連した核酸を検出し、複数の主要アッセイシグナル、及び参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む方法。
39.迅速な抗生物質感受性試験を行う方法であって、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップであって、主要アリコート及び参照アリコートは増殖培地を含む、ステップと、
主要アリコートに、少なくとも1種の選択された抗生物質を添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートを、選択された抗生物質の有効性の試験のために微生物増殖を促進するのに適切な条件下でインキュベーションするステップと、
主要アリコート及び参照アリコート中の微生物細胞を、標的mRNAの産生を誘導するように構成された刺激に供するステップであって、該刺激は、感受性微生物細胞及び/又は耐性微生物細胞に関するmRNAの産生が、選択された抗生物質への微生物細胞の暴露に起因して変更されるように選択される、ステップと、
主要アリコート及び参照アリコート中の微生物細胞を溶解して、第1溶解物及び第2溶解物を得るステップであって、各溶解物中のmRNAの本質的な分解を回避するのに適するように溶解を行い、また、刺激に応答して微生物細胞中で産生されたmRNAの寿命に関連した時間スケールで溶解を行う、ステップと、
主要溶解物及び参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、微生物試験パネルのメンバーに関連したmRNAを検出し、主要アッセイシグナル及び参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む方法。
40.抗生物質感受性試験を行う方法であって、
微生物細胞を含有することが疑われる試料から、少なくとも主要アリコート及び参照アリコートを得るステップと、
少なくとも1種の選択された抗生物質を主要アリコートに添加するステップと、
主要アリコート及び参照アリコートから得られた微生物細胞を溶解し、主要溶解物及び参照溶解物を得るステップと、
主要溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、試験パネルのメンバーに関連したtmRNAを検出し、主要アッセイシグナルを得るステップと、
参照溶解物に対して逆転写及び増幅を行って、試験パネルのメンバーに関連した核酸を検出し、参照アッセイシグナルを得るステップと、
主要アッセイシグナルと参照アッセイシグナルを比較して、微生物細胞に対する選択された抗生物質の有効性の尺度を得るステップと
を含む方法。
以下の実施例は、当業者が本開示の実施形態を理解及び実行することを可能にするために提示される。これらは、本開示の範囲に対する限定として解釈すべきではなく、それらの例示及び代表としてのみ解釈すべきである。
【実施例
【0117】
実施例1及び2では、グラム陰性大腸菌(Escherichia coli)及び肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の細菌細胞を、LB寒天プレート上で増殖させ、単一コロニーの細胞を、LBブロス中で37℃で一晩培養した。これらの細胞を、7000rpmで5分間遠心した。細胞ペレットを、0.2μmフィルターを通して予め濾過した0.8mMリン酸バッファーpH7.4中で2回洗浄し、再懸濁した。
【0118】
血液サンプル前処理が必要とされたときには、血球溶解試薬を使用した。血球溶解試薬は、サポニン(84510、Sigma)、ポリアネトールスルホン酸ナトリウム(SPS)(P2008、Sigma)及びポリ(プロピレングリコール)(PPG)MW 2000(202339、Sigma)の混合物からなる。サポニンは、試薬グレードの水中に溶解し、0.2μmのPESシリンジフィルターを通して濾過し、Amicon Ultra-15 10K MWカットオフ(Z706345、Sigma)を使用して精製した。SPSは、試薬水中に溶解し、0.2μmのPESシリンジフィルターを通して濾過した。PPG MW 2000(202339、Sigma)は、元の瓶から直接使用した。さらに、Fluorinert(商標)FC-40(F9755、Sigma)を添加して、緩衝用液体として機能させた。
【0119】
いずれかの変更が指定されない限り、血球溶解ステップとその後の4回の洗浄サイクルとを含む以下の例示的前処理手順を、血液サンプルの前処理を必要とする実験において実施した。10μLのFluorinert(商標)を、2mLのシリコン処理微小遠心管(T3531、Sigma)に添加し、その後500μLの血球溶解試薬を添加した。血球溶解試薬は、75mg/mLサポニン、15mg/mL SPS及び1%PPGからなっていた。微生物細胞でスパイクしたEDTA処理したヒト全血(健常ボランティア由来)1mLを、血球溶解試薬及びFluorinert(商標)を含む管に添加し、10回反転させ、10秒間低速でボルテックス混合することによって混合した。混合物中の構成要素の最終濃度は、25mg/mLサポニン、5mg/mL SPS及び0.33%PPGであった。これらの管を、12,000rpmで1分間遠心し、1.35mLの上清を除去し、150μLの液体上清、Fluorinert(商標)及び沈降した微生物細胞を残した。1回目の洗浄サイクルを、1.35mLの0.8mMリン酸バッファーを上記のように150μLの残留液体上清に添加し、10秒間低速でボルテックス混合することによって混合し、12,000rpmで1分間遠心し、1.35mLの上清を除去し、150μLの液体上清、Fluorinert(商標)及び沈降した微生物を残すことによって、実施した。残りの洗浄サイクルを、0.75mLの0.8mMリン酸バッファーを150μLの残留液体上清に添加し、10秒間低速でボルテックス混合することによって混合し、12,000rpmで1分間遠心し、0.75mLの上清を除去し、150μLの液体上清、Fluorinert(商標)及び沈降した微生物を残すことによって、実施した。最後の洗浄後、沈降した微生物細胞を、残留液体中に再懸濁した。陽性対照サンプルは、それぞれの実験における前処理サンプルの名目上濃度と同じ濃度のそれぞれの微生物細胞で0.8mMリン酸バッファーpH7.4をスパイクすることによって調製する。
【0120】
電気的細胞溶解を使用した実施例では、前処理サンプル及び陽性対照サンプルを、10μL/10秒の段階で電気チャンバを通過させ、50μsの持続時間及び190Vの振幅を有するn=250の両極性方形パルスを印加した。この電気チャンバは、6.4×15×0.2mm3の寸法を有し、インレットポート及びアウトレットポートは、限定的なタイプのものであった。
【0121】
以下の実施例では、リアルタイム逆転写PCR(リアルタイムRT-PCR)アッセイを実施して、それぞれの微生物細胞タイプの16S rRNA、tmRNA又はmRNA中の特異的標的領域を検出した。プライマーを、配列アライメントソフトウェア(Bioedit、Ibis Biosciences、USA)及びプライマー設計ソフトウェア(Primer3、National Institutes of Health)によって設計した。電気溶解後の前処理サンプルの細胞溶解物を、リアルタイムRT-PCRに供した。
【0122】
いずれかの変更が指定されない限り、5μL体積のRT-PCR反応を、1μLのサンプル、1μLのKapa 2G Robust Hotstart、5Xバッファー(KK5517, KAPA Biosystems)、0.05μLのKapa 2G Robust Hotstart、DNAポリメラーゼ(kk5517, KAPA Biosystems)、0.2μLの逆転写酵素(GoScript、A5004 Promega)、0.04μLの100 mM dNTPs (10297-117, Life Technologies)、0.25μLのDMSO、0.13μLのSYBR Green (1/375希釈、S7563 Invitrogen)、各0.5μLのフォワードプライマー及びリバースプライマー(2.5μM)、及び1.34μLのRNAase不含水を混合することによって調製した。示した実験において、5μL体積のPCR反応のために、組成物は、逆転写酵素の代わりに0.2μLのRNAase不含水を添加した以外はRT-PCR反応と同じであった。rRNA又はtmRNAを標的とするリアルタイムRT-PCRは、二本鎖DNA結合蛍光色素SYBR Greenを使用して、Eco Real Time PCRシステム(illumina)において50℃で5分間の逆転写、逆転写酵素の不活性化、及び97℃で5分間のhotstart DNAポリメラーゼの活性化、その後の35~40サイクルのcDNA増幅(95℃で5秒間の変性、63℃で7秒間のアニーリング及び72℃で10秒間の伸長)によって実施した。mRNAを標的とするリアルタイムRT-PCR又はPCRは、以下の実施例を、42℃で20分間の逆転写、逆転写酵素の不活性化、及び97℃で5分間のhotstart DNAポリメラーゼの活性化、その後の35~40サイクルのcDNA増幅(95℃で3秒間の変性、66℃で3秒間のアニーリング及び72℃で15秒間の伸長)によって実施した。
【0123】
[実施例1]部分的に溶解した後に濃縮した全血サンプル中の細菌の増殖
次の実施例において、血球の部分的な溶解及び血液培養物の濃縮の後に全血サンプル中の細菌の増殖を確実にする方法を記述する。肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)種を例として用いた。肺炎桿菌をスパイクした全血中の血球を、溶解試薬によって部分的に溶解し、ほとんどの上清を遠心の後に除去した。採取した微生物細胞を含んでいる残存する最小量の液体を、TSB増殖培地を用いて濃縮し、37℃でプレインキュベーションして混合物中でこの細菌を増殖させた。
【0124】
肺炎桿菌細胞を濃度100CFU/mLで、2mLのEDTA処理した全血にスパイクした。40mg/mLのサポニン、10mg/mLのSPS及び1%のPPGを含む200μLの血球溶解試薬を、血液に添加した。内容物を、十分に転倒混和し続いて低速で10秒間ボルテックス混合し、12,000rpmで2分間遠心し、200μLの液体及び沈殿して残存している血球及び微生物細胞を残して、1.8mLの上清を除去した。1回の洗浄サイクルを、1.8mLのTSB培地を残存している200μLの上清液に添加し、転倒混和し、12,000rpmで2分間遠心し、200μLの液体及び沈殿して残存している血球及び微生物細胞を、1.8mLの上清を除去することにより行った。残存する最小量の液体を、3.8mLのTSB増殖培地を用いて濃縮し、十分に転倒混和し、37℃で2時間プレインキュベーションして混合物中でこの細菌を増殖させた。プレインキュベーションの0時間、1時間及び2時間の時点で、各培養物の1mLを、血球溶解ステップを含む血液サンプル前処理手順に供し、続いて洗浄サイクルを4回、上に記載したように行った。
【0125】
得られた前処理したサンプル中の肺炎桿菌細胞を、電気溶解によって溶解し、名目上1個の細胞を含む1μLの細胞溶解物をRT-PCRに供した。本実施例の中で用いたrRNAプライマーは、rRNAプライマー#2(enterob4)フォワード(5'-ACAAGCGGTGGAGCATGTGG-3')(配列番号1)、及びrRNAプライマー#2(enterob4)リバース(5'-GCGGGACTTAACCCAACATTTCAC-3')(配列番号2)である。166塩基対の16S rRNA断片をrRNAプライマー対#2によって増幅した。本実施例の中で用いたtmRNAプライマーは、tmRNAプライマー#Cフォワード(5'-GCAAACGACGAAAACTACGCTTTAGC-3')(配列番号3)、及びtmRNAプライマー#Cリバース(5'-CCTACATCCTCGGTACTACATGC-3')(配列番号4)である。240塩基対(肺炎桿菌Kp52.145株をリファレンスとして使用してヌクレオチド97~337)のtmRNA断片を、tmRNAプライマー対#Cによって増幅した。濃縮した血液培養物中で細菌の増殖を示すために、リアルタイム蛍光シグナル対サイクル番号を図6に提示し、rRNA及びtmRNAプライマーを用いたリアルタイムRT-PCRのCt値の表を図7に示す
【0126】
[実施例2]部分的に溶解した後に濃縮(enriched)した全血サンプル中の細菌の抗菌感受性試験
次の実施例において、血球の部分的な溶解及び血液培養物の濃縮の後に全血サンプル中の細菌の抗菌感受性試験を実施する方法を記述する。肺炎桿菌種を例として用いた。肺炎桿菌をスパイクした全血中の血球を、溶解試薬によって部分的に溶解し、ほとんどの上清を遠心の後に除去した。残存する最小量の液体を、TSB増殖培地を用いて濃縮し、37℃でプレインキュベーションして混合物中でこの細菌を増殖させた。プレインキュベーション時間の終了時に、一方は抗生物質を含まず、残りは種々の抗生物質を含む複数のチューブに培養物をアリコート分注して、抗菌感受性試験を実施した。
【0127】
肺炎桿菌細胞を濃度100CFU/mLで、2mLのEDTA処理した全血にスパイクした。200μLの水中に40mg/mLのサポニン、10mg/mLのSPS及び1%のPPGを含む血球溶解試薬を、血液に添加した。内容物を、十分に転倒混和し続いて低速で10秒間ボルテックス混合し、12,000rpmで2分間遠心し、200μLの液体及び沈殿して残存している血球及び微生物細胞を残して、1.8mLの上清を除去した。1回の洗浄サイクルを、1.8mLのTSB培地を残存している200μLの上清液に添加し、転倒混和し、12,000rpmで2分間遠心し、1.8mLの上清を除去することにより行い、200μLの液体及び沈殿して残存している血球及び微生物細胞を得た。残存する最小量の液体に、3.8mLのTSB増殖培地を補充し、十分に転倒混和し、37℃で2時間プレインキュベーションして混合物中でこの細菌を増殖させた。プレインキュベーション時間の終了時に、培養物各1mLを複数のチューブに分配した。1つのチューブを、抗生物質を含まない非処理増殖対照チューブと称し、残りのそれぞれのチューブに8μg/mL最終濃度のノルフロキサシン及びテトラサイクリンを添加した。培養チューブを37℃にて2時間インキュベートし、インキュベーション時間の終了時に各TSB濃縮血液培養物1mLを、血球溶解ステップを含む血液サンプル前処理手順に供し、続いて洗浄サイクルを4回、上に記載したように行った。得られた前処理したサンプル中の肺炎桿菌細胞を、電気溶解によって溶解し、名目上1個の細胞を含んでいる1μLの細胞溶解物をRT-PCRに供した。
【0128】
本実施例で使用したrRNAプライマーは、rRNAプライマー#1 (enterob2)フォワード(5’-GTGCCCTTGAGGCGTGGCTTC-3’)(配列番号5)、rRNAプライマー#1 (enterob2)リバース(5’-GCGGGACTTAACCGAACATTCAC-3’)(配列番号6)、rRNAプライマー#2 (enterob4)フォワード(5’-ACAAGCGGTGGAGCATGTGG-3’)(配列番号7)、rRNAプライマー#2 (enterob4)リバース(5’-GCGGGACTTAACCCAACATTTCAC-3’)(配列番号8)、rRNAプライマー#3 (ebGN3)フォワード(5’-ACTTTCAGCGGGGAGGAAGG-3’)(配列番号9)、及びrRNAプライマー#3 (ebGN3)リバース(5’-GCGGGACTTAACCCAACATTTCAC-3’)(配列番号10)である。203塩基対の16S rRNA断片(肺炎桿菌Kp52.145株をリファレンスとして使用してヌクレオチド504~707)をプライマー対#1により増幅し、166塩基対をプライマー対#2により増幅し、666塩基対をプライマー対#3により増幅した。
【0129】
本実施例で使用したtmRNAプライマーは、tmRNAプライマー#Aフォワード(5’-GCAAACGACGAAAACTACGCTTTAGC-3’)(配列番号11)、tmRNAプライマー#Aリバース(5’- GCTTAGTCAGTCTTTACATTCGC-3’)(配列番号12)、tmRNAプライマー#Bフォワード(5’-GCAAACGACGAAAACTACGCTTTAGC-3’)(配列番号13)、tmRNAプライマー#Bリバース(5’- CGGACGGACACGCCACTAAC-3’)(配列番号14)、tmRNAプライマー#Cフォワード(5’-GCAAACGACGAAAACTACGCTTTAGC-3’)(配列番号15)、tmRNAプライマー#Cリバース(5’- CCTACATCCTCGGTACTACATGC-3’)(配列番号16)、tmRNAプライマー#Dフォワード(5’-GGGATTTGCGAAACCCAAGGTGC-3’)(配列番号17)、tmRNAプライマー#Dリバース(5’-GTTTTAACGCTTCAACCCCAGGC-3’)(配列番号18)、tmRNAプライマー#Eフォワード(5’-GGGATTTGCGAAACCCAAGGTGC-3’)(配列番号19)、tmRNAプライマー#Eリバース(5’-GCTTAGTCAGTCTTTACATTCGC-3’)(配列番号20)、tmRNAプライマー#Fフォワード(5’-GGGATTTGCGAAACCCAAGGTGC-3’)(配列番号21)、tmRNAプライマー#Fリバース(5’-CGGACGGACACGCCACTAAC-3’)(配列番号22)、tmRNAプライマー#Gフォワード(5’-GGGATTTGCGAAACCCAAGGTGC-3’)(配列番号23)、tmRNAプライマー#Gリバース(5’-CCTACATCCTCGGTACTACATGC-3’)(配列番号24)である。218塩基対のtmRNA断片(肺炎桿菌Kp52.145株をリファレンスとして使用してヌクレオチド97~315)をプライマー対#Aにより増幅し、183塩基対をプライマー対#Bにより増幅し、240塩基対をプライマー対#Cにより増幅し、221塩基対をプライマー対#Dにより増幅し、293塩基対をプライマー対#Eにより増幅し、258塩基対をプライマー対#Fにより増幅し、315塩基対をプライマー対#Gにより増幅した。
【0130】
サイクル数に対するリアルタイム蛍光シグナルを図8及び9に示し、ノルフロキサシン及びテトラサイクリンを用いた感受性試験を実証する。本実施例では、抗生物質なし(非処理)培養物と比較して、抗生物質に応答したrRNA及びtmRNAの低減が実証された。
【0131】
[実施例3]mRNA標的を対応のgDNAの存在下で検出する場合のプローブ依存性及び特異性 実施例3及び4では、グラム陰性大腸菌(E. Coli)細胞を、LB寒天プレート上で増殖させ、単一コロニーの細胞を、LBブロス中で37℃で一晩培養した。指数増殖期の細胞を用いて実験を行うため、500μLの一晩培養物を5mLのLBブロスに接種し、OD600 nmが0.3~0.5に達する(およそ108CFU/mLに相当する)まで指定時間にわたって37℃にて振盪しながらインキュベートした。細胞懸濁液1mLを、10000rpmで5分間遠心した。細胞ペレットを、0.2μmフィルターを通して予め濾過した1mLの0.5mMリン酸バッファーpH7.4中で2回洗浄し、再懸濁した。
【0132】
洗浄した細胞懸濁液を約107CFU/mLとなるよう10倍希釈し、その50μLを42℃にて3分間インキュベートして、熱ショック条件を誘導した。熱ショックを受けた細胞を直ちに連続希釈して104CFU/mLとして、E溶解(E-lysis)に供した。
【0133】
以下の実施例では、リアルタイム逆転写PCR(RT-PCR)又はリアルタイムPCRアッセイを実施して、それぞれの大腸菌のDnaK mRNA又はgDNA中の特異的標的領域を検出した。プライマーを、配列アライメントソフトウェア(Bioedit、Ibis Biosciences、USA)及びプライマー設計ソフトウェア(Primer3、National Institutes of Health)によって設計した。電気溶解後の細胞溶解物を、リアルタイムRT-PCR又はPCRに供した。このサンプルに加えて、細胞懸濁に使用される予め濾過されたリン酸バッファーを陰性対照としてRT-PCR又はPCRに供した。
【0134】
本実施例では、500μLの大腸菌一晩培養物を5mLのLBブロスに接種し、37℃にて90分間振盪しながらインキュベートした。上述のようにリン酸バッファーで細胞を洗浄及び再懸濁した後、E溶解の直前に、細胞を42℃にて3分間インキュベートして熱ショックを誘導した。名目上10細胞を含む1μlの電気溶解後の細胞溶解物をリアルタイムRT-PCR又はPCRのみに供した。DnaKフォワードプライマー(5’- GTACTACCAACTCTTGTGTAGCG -3’)(配列番号25)、R1リバースプライマー(5’- AGCAGCAATAATTTTGAACGGC -3’)(配列番号26)、5’タグを有するR5リバースプライマー(5’- AGTACGCACGGTATCAGCAGCAAT -3’)(配列番号27)及び5’タグを有するR8リバースプライマー(5’- GCAGCACGGTTTTGAACGGCAT -3’)(配列番号28)を本実施例では使用した。サイクル数に対するリアルタイム蛍光シグナルを図10に示す。
【0135】
観察されるように、タグを有しないリバースプライマーを用いると、RT-PCRアッセイ及びRTアッセイのCT値の違いはわずか3.4サイクルであるが、この違いは8.4サイクルまで増加した。これは、適当なプライマーの選択によりバックグラウンド抑制の改善が32倍になる。したがって、プライマー配列は、増幅、及びmRNAから得られる増幅産物に対するgDNAから得られる増幅産物の比率に影響を及ぼす。
【0136】
[実施例4]抗生物質への細菌の暴露後のmRNAレベルの違い
本実施例では、500μLの大腸菌一晩培養物を、最終濃度4又は8μg/mLの抗生物質ノルフロキサシンを含む又は含まない5mLのLBブロスに接種し、37℃にて120分間振盪しながらインキュベートした。上述のようにリン酸バッファーで細胞を洗浄及び再懸濁した後、E溶解の直前に、細胞を42℃にて3分間インキュベートして熱ショックを誘導した。名目上10細胞を含む1μlの電気溶解後の細胞溶解物をリアルタイムRT-PCR(RT+)又はPCR(RT-)に供した。本実施例ではDnaKフォワードプライマー(5’- GTACTACCAACTCTTGTGTAGCG -3’)(配列番号29)及び5’タグを有するR5リバースプライマー(5’- AGTACGCACGGTATCAGCAGCAAT -3’)(配列番号30)を使用した。サイクル数に対するリアルタイム蛍光シグナルを図11に示す。
【0137】
観察されるように、抗生物質ノルフロキサシンへの微生物細胞の暴露によって、標的mRNAの量がおよそ8~16倍(PCRの3~4サイクルに相当する)減少した。これらの結果は、熱誘導に起因するmRNAレベルが、抗菌剤に対する感受性によって実質的に影響を受けることを示している。
【0138】
上記特定の実施形態は、例示目的で示されており、これらの実施形態は、種々の改変及び代替的形態を受け入れる余地があり得ることを理解すべきである。特許請求の範囲は、開示された特定の形態に限定されることを意図しないが、本開示の精神及び範囲内に入る全ての改変、等価物及び代替物をカバーする意図であることを、さらに理解すべきである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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