IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミカドテクノス株式会社の特許一覧

特許7316650接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具
<>
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図1
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図2
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図3
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図4
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図5
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図6
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図7
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図8
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図9
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図10
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図11
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図12
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図13
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図14
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図15
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図16
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図17
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図18
  • 特許-接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】接合方法、接合装置、接合装置で用いる治具
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/56 20060101AFI20230721BHJP
   B29C 65/50 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
B29C43/56
B29C65/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019135005
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021017019
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】391020665
【氏名又は名称】ミカドテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】寺山 孝男
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-151596(JP,A)
【文献】特開2001-047586(JP,A)
【文献】特開平07-125071(JP,A)
【文献】特開2010-064419(JP,A)
【文献】特開2012-148445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
B30B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1対象物の第1主面と、第2対象物の第2主面とを、接合層を介して、接合させる接合方法であって、
前記第2主面に前記接合層を形成すると共に、前記接合層と前記第1主面とを離隔させた状態で、前記第1対象物と前記第2対象物とをチャンバー内に載置する載置工程と、
前記チャンバー内を排気して減圧状態とする排気工程と、
前記チャンバー内全体を均一な減圧状態とした前記チャンバー内で前記接合層と前記第1主面とを当接させる当接工程と、
前記チャンバー内に大気を導入する大気導入工程と、を有し、
前記当接工程の後、前記第1対象物と、前記第2対象物とを近接させるように押圧力を付与する押圧力付与工程を実施し、
前記押圧力付与工程では、前記チャンバーから押圧力が付与されることを特徴とする接合方法。
【請求項2】
さらに、前記チャンバー内に圧縮空気を導入して加圧状態とする圧縮空気導入工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記第1対象物の前記第1主面と表裏の関係にある第1裏面には、凹凸構造部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第1対象物の周縁には治具が取り付けられることを特徴とする請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
第1対象物の第1主面と、第2対象物の第2主面とを、接合層を介して、接合させる接合装置であって、
接合対象物を載置する接合用基台を有し、前記接合用基台を大気に対し開放状態とするか、又は、前記接合用基台を気密状態に収容するチャンバーと、
気密状態とされた前記チャンバーから、前記チャンバー内全体が均一な減圧状態とるように排気を行う排気部と、
前記チャンバー内全体が均一な減圧状態となるように前記排気部動作状態とされた状況、前記接合用基台上で、前記第1対象物と、前記第2主面に前記接合層が形成された前記第2対象物とを、前記第1主面と前記接合層とが離隔した状態から、前記第1主面と前記接合層とが当接した状態へと変位させる支持部材と、
前記第1対象物と、前記第2対象物とを近接させるように押圧力を付与する押圧力付与部と、を有し、
前記押圧力付与部として、前記チャンバーが、前記第1対象物と前記第2対象物とを近接させるように押圧力を付与することを特徴とする接合装置。
【請求項6】
気密状態とされた前記チャンバーに対して、圧縮空気を導入する圧縮空気導入部を有することを特徴とする請求項5に記載の接合装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の接合装置で用いる治具であって、
前記第1対象物の周縁に取り付けられ枠状をなすことを特徴とする治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1対象物の第1主面と、第2対象物の第2主面とを、例えば、粘着性を有する接合層を介して、接合させる接合方法、及びこのような接合方法を実現する接合装置、及び当該接合装置で好適に用い得る治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路基板や、光学部品等の製造工程においては、より小型で微細な部品・部材を対象とした加工が要求されるようになっている。このような加工としては、基板やフィルムといった平板状の部材同士を貼り合わせる加工、或いは、例えば電子チップ部品がマウントされている凹凸のある基板上にフィルムなどを追随させるようにしてラミネートする加工、或いは、凹凸を有する転写パターンを転写剤に転写する加工を挙げることができる。
【0003】
ここで、上記のような貼り合わせ加工に用いる接着剤や、ラミネート加工に用いる樹脂や、転写加工に用いる転写剤などに気泡が残留してしまうと、製品の信頼性を損なったり、歩留まりを悪くしたりする、というような問題が発生する。
【0004】
このような問題に対処するために、例えば、特許文献1(特開2016-215532号公報)においては、凸部となる発光素子21が搭載された基材1上に、Bステージ状態の樹脂フィルム2を置いておき、これを密閉空間5に収容し、当該密閉空間5を負圧とした上で、さらに樹脂フィルム2を加熱し、前記凸部に沿わせた状態として、密閉空間5に圧縮空気を送り、樹脂フィルム2と発光素子21が搭載された基材1の凹凸とを樹脂フィルム2で密着させる技術が提案されている。
【文献】特開2016-215532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1(特開2016-215532号公報)で提案されている従来技術では、凸部となる発光素子21が搭載された基材1上に、Bステージ状態の樹脂フィルム2を、大気中において載置する工程が含まれており、この工程の際、微視的にみれば樹脂フィルム2は、その上の凹凸に対して完全に沿う分けではない。このために、樹脂フィルム2と凹凸との間に気泡が残留してしまう可能性があり、その結果、製品にボイドが混入してしまい、製品の信頼性を低下させたり、或いは、製造時の歩留まりを悪化させたりする、という課題を完全には解決することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するものであって、本発明に係る接合方法は、第1対象物の第1主面と、第2対象物の第2主面とを、接合層を介して、接合させる接合方法であって、前記第2主面に前記接合層を形成すると共に、前記接合層と前記第1主面とを離隔させた状態で、前記第1対象物と前記第2対象物とをチャンバー内に載置する載置工程と、前記チャンバー内を排気して減圧状態とする排気工程と、前記チャンバー内全体を均一な減圧状態とした前記チャンバー内で前記接合層と前記第1主面とを当接させる当接工程と、前記チャンバー内に大気を導入する大気導入工程と、を有し、前記当接工程の後、前記第1対象物と、前記第2対象物とを近接させるように押圧力を付与する押圧力付与工程を実施し、前記押圧力付与工程では、前記チャンバーから押圧力が付与されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る接合方法は、さらに、前記チャンバー内に圧縮空気を導入して加圧状態とする圧縮空気導入工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る接合方法は、前記第1対象物の前記第1主面と表裏の関係にある第1裏面には、凹凸構造部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る接合方法は、前記第1対象物の周縁には治具が取り付けられることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る接合装置は、第1対象物の第1主面と、第2対象物の第2主面とを、接合層を介して、接合させる接合装置であって、接合対象物を載置する接合用基台を有し、前記接合用基台を大気に対し開放状態とするか、又は、前記接合用基台を気密状態に収容するチャンバーと、気密状態とされた前記チャンバーから、前記チャンバー内全体が均一な減圧状態とるように排気を行う排気部と、前記チャンバー内全体が均一な減圧状態となるように前記排気部動作状態とされた状況、前記接合用基台上で、前記第1対象物と、前記第2主面に前記接合層が形成された前記第2対象物とを、前記第1主面と前記接合層とが離隔した状態から、前記第1主面と前記接合層とが当接した状態へと変位させる支持部材と、前記第1対象物と、前記第2対象物とを近接させるように押圧力を付与する押圧力付与部と、を有し、前記押圧力付与部として、前記チャンバーが、前記第1対象物と前記第2対象物とを近接させるように押圧力を付与することを特徴とする。

【0011】
また、本発明に係る接合装置は、気密状態とされた前記チャンバーに対して、圧縮空気を導入する圧縮空気導入部を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る治具は、前記記載の接合装置で用いる治具であって、前記第1対象物の周縁に取り付けられ枠状をなすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る接合方法は、減圧状態とされた前記チャンバー内で前記接合層と前記第1主面とを当接させる当接工程と、前記チャンバー内に大気を導入する大気導入工程と、を有しており、このような本発明に係る接合方法によれば、原理的に前記接合層と前記第1主面との間に気泡が残留することがなくなるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがない。
【0018】
また、本発明に係る接合装置は、チャンバー内の接合用基台上で、第1主面と接合層とが離隔した状態から、第1主面と接合層とが当接した状態で配することができる支持部材を有しており、このような本発明に係る接合装置によれば、原理的に前記接合層と前記第1主面との間に気泡を残留させないようにすることができるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがない。
【0019】
また、本発明に係る治具によれば、上記のような接合装置で用いることにより、ボイドが混入することはなく、信頼性が高く、製造時の歩留まりがよい製品を簡便に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る接合方法の概念を説明する図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る接合装置100の構成の概要を示す模式図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る接合装置100の下チャンバー112側の斜視図である。
図4】流路板200における通気路の構成を抜き出して示す図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図6】第1対象物10に対する枠状治具50の取り付けを説明する図である。
図7】第1対象物10における第1裏面15に搭載される電子チップ部品17の寸法と、枠状治具50の寸法とを示す図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図9】本発明の第1実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図10】本発明の第1実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図11】本発明の第1実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図12】接合工程の後工程である切断工程を説明する図である。
図13】接合加工された第1対象物10と第2対象物20とからなる製品を示す図である。
図14】本発明の第2実施形態に係る接合装置100の構成の概要を示す模式図である。
図15】本発明の第2実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図16】本発明の第2実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図17】本発明の第2実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図18】本発明の第2実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。
図19】枠状治具50の取り外し工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。まず、図1を参照し本明細書で用いる用語等を定義する。図1は本発明の実施形態に係る接合方法の概念を説明する図である。
【0022】
本発明に係る接合方法においては、第1対象物10と、第2対象物20とを、例えば、粘着性や流動性を有する接合層30を介して接合することを目的としている。間に接合層30を介するので、第1対象物10と、第2対象物20とを直接的に当接させてこれらが固定状態となるわけではないが、本明細書では、接合層30を介して第1対象物10と第2対象物20とを固定状態とすることを、「接合」と称することとする。なお、第1対象物10と第2対象物20との固定状態は永続的なものである必要はない。
【0023】
本発明では原則的に、第1対象物10と第2対象物20とは、基板やフィルムといった略平板形状をなすものを想定しているが、第1対象物10と第2対象物20とは、必ずしもこのような形状のものに限定されるわけではない。ただし、以下、本明細書における実施形態においては、第1対象物10と第2対象物20とは、略平板形状をなすものとしている。
【0024】
第1対象物10と第2対象物20とは、必ずしも略平板形状をなすものである必要はないが、いずれも接合のために用いる面として、少なくとも一つの略平面状をなす面が対象物に含まれている必要はある。ただし、このような面は、平滑な面である必要はなく、場合によってはこのような面に凹凸パターンなどが形成されているようなものであっても構わない。
【0025】
また、第1対象物10と第2対象物20は、接合のために用いる面として、それぞれ曲面を有するものであってもよい。この場合、例えば、第1対象物10は凹状の曲面を有し、第2対象物20は凸状の曲面を有するとすると、当該凹状の曲面と、当該凸状の曲面とが、略同一の曲面を有することが前提となる。このような曲面は、平滑な曲面である必要はなく、凹凸パターンなどが形成されている曲面であっても構わない。
【0026】
また、第1対象物10と第2対象物20は、接合のために用いる面として、一方だけが曲面を有するものであってもよい。例えば、第1対象物10は凸状の曲面を有するもので、第2対象物20は可撓性を有する略平板形状をなすフィルムなどであってもよい。
【0027】
接合において用いられる前記のような面を、第1対象物10では第1主面11と称し、一方、第2対象物20では第2主面22と称する。また、略平板形状をなす第1対象物10において、第1主面11と表裏の関係にある面を第1裏面15として定義する。また、略平板形状をなす第2対象物20において、第2主面22と表裏の関係にある面を第2裏面25として定義する。
【0028】
第1対象物10、第2対象物20を構成し得る材料については、例えば、合成樹脂材料、半導体材料、ガラス材料、金属材料、セラミック材料、又はこれらの組み合わせからなる材料(プリント配線板等)を挙げることができる。合成樹脂材料により第1対象物10や第2対象物20を構成する場合、それらが可撓性を有する場合には、第1対象物10や第2対象物20は「フィルム」とも称され得る。
【0029】
本発明において、第1対象物10と第2対象物20とを接合する際には、第2対象物20の第2主面22には、あらかじめ接合層30を形成しておくものとする。このような接合層30には、接着剤、溶融した樹脂材料、転写剤などの材料が含まれ、第1対象物10や第2対象物20との接合工程を実施する前段においては、いずれも粘着性を有する状態とされている。ただ、本発明に係る接合工程中において、或いは接合工程後に、このような接合層30を固化するような工程を含めるようにしても構わない。
【0030】
また、接合層30は、本発明に係る接合方法における初期の工程から粘着性を有する必要は必ずしもない。例えば、接合層30は、本発明に係る接合方法における工程中で熱が加えられることで、可塑性を発現する熱可塑性樹脂のようなものであっても構わない。
【0031】
なお、第1対象物10と第2対象物20とを接合することによって得られた接合加工品を製品と称することがある。第1対象物10と第2対象物20との接合に得られる製品は、最終製品ともなり得るし、最終製品を得るまでの中間製品となることもあり得るし、また、第1対象物10と第2対象物20とを接合することによって得られた接合加工品の一部が、目的のものとなることもあり得る。
【0032】
また、以下の実施形態では、第2対象物20の第2主面22には、あらかじめ接合層30を形成しておくことを前提に説明を行うが、第1対象物10の第1主面11にも接合層を設けておくことが妨げられるものではない。
【0033】
また、以下では、第1対象物10又は第2対象物20の一方が上側となり、他方が下側となる実施形態により説明を行うが、このような上下関係は適宜逆とすることもできる。
【0034】
次に、以上のような第1対象物10と第2対象物20との接合を、接合装置の具体例を参照しつつ説明する。図2は本発明の第1実施形態に係る接合装置100の構成の概要を示す模式図である。
【0035】
接合装置100は、先に説明した第1対象物10や第2対象物20といった接合加工を行うための対象物をセットアップしておき、載置する接合用基台130を有している。この接合用基台130は、セットアップ時或いは、加工済み製品の取り出し時には大気に対し開放状態とされる。一方、接合用基台130は、接合工程実行時においては必要時応じて気密状態の空間とされる。このために、本発明に係る接合装置100は、接合用基台130の天面を収容可能で、かつ、大気に対して開閉可能なチャンバー110を有している。
【0036】
チャンバー110はステンレス鋼などから構成され得る。チャンバー110は、下チャンバー112と、下チャンバー112と嵌合する上チャンバー113とから構成されている。下チャンバー112には、前記接合用基台130が含まれるように構成されている。また、下チャンバー112は、接合装置100が設置される地上に対して不動とされている。
【0037】
一方、上チャンバー113は、この下チャンバー112に対して、上チャンバー昇降機構部120により上下に昇降する構成となっている。本実施形態においては、下チャンバー112が不動で上チャンバー113が昇降するように構成されているが、上チャンバー113を不動とし、下チャンバー112が昇降するように構成することもできるし、上チャンバー113、下チャンバー112の双方が昇降するように構成することもできる。これらのことは、本実施形態に限らず、本明細書記載の全てにおいて共通して言えることである。
【0038】
上チャンバー昇降機構部120の詳細については説明しないが、油圧やモーターなどにより、上チャンバー113を昇降させることができれば、どのような構成を用いても構わない。なお、チャンバー110においては、下チャンバー112と上チャンバー113とが嵌合する箇所や、或いは、上下する支持部材135と下チャンバー112との間の隙間など、部品同士が接触しつつ可動する摺動箇所においては気密性を保持するために、必要に応じてOリングなどのシール部材を設けることが好ましいが、本明細書においては図示省略している。
【0039】
上チャンバー113側には、通気路140が設けられており、当該通気路140には減圧ポンプなどからなる排気部150や、コンプレッサーなどの圧縮空気供給部155が接続されている。また、通気路140には圧力計191が設けられており、チャンバー110内の圧力をモニタすることができるようになっている。下チャンバー112と上チャンバー113とが嵌合し、チャンバー110内を気密状態とした後、排気部150を稼働させると、チャンバー110内の空間を、大気圧より低い気圧とすることできる。一方、チャンバー110を気密状態としたとき、圧縮空気供給部155を稼働させることで、チャンバー110内の空間を、大気圧より高い圧力とすることができるようになっている。
【0040】
なお、下チャンバー112と上チャンバー113とが嵌合しチャンバー110内が気密状態であるとき、チャンバー110内の空間を大気圧より低い気圧とすると、上チャンバー113が下方に動作する力が働くが、本発明に係る接合装置100においては、不図示のストッパなどの規制手段や位置決め手段により、所望とする高さで上チャンバー113を停止させることができるようになっている。上チャンバー昇降機構部120を油圧シリンダーにより構成した場合は、上チャンバー113を所望とする高さで停止させるため、油圧シリンダーの油圧回路における油の流動を止めるようにし、物理的なストッパなどを設けないようにすることもできる。
【0041】
同様に、チャンバー110内が気密状態であるとき、チャンバー110内の空間を大気圧より高い気圧とすると、上チャンバー113が上方に動作する力が働くが、本発明に係る接合装置100は、このような動作も不図示のストッパなどの規制手段により規制し、所望とする高さで上チャンバー113を止めることが可能に構成されている。
【0042】
また、下チャンバー112と上チャンバー113とが嵌合したチャンバー110内の気圧を変化させるために用いる通気路140は、上チャンバー113側に設けられているが、上チャンバー113側に通気路140を設けることは必須ではない。このような通気路は、下チャンバー112側に設けて、この下チャンバー112側の通気路に、排気部や圧縮空気供給部を接続するようにしてもよい。さらに、通気路や、気密となったチャンバー110内の気圧を変化・調整するための排気部や圧縮空気供給部は、上チャンバー113及び下チャンバー112の双方に用いるようにしてもよい。
【0043】
チャンバー110においては、下チャンバー112に接触するように下温度調整板117が設けられ、上チャンバー113に接触するように上温度調整板118が設けられている。下温度調整板117や上温度調整板118は、不図示の温度コントローラーと接続されており、これらを所望の温度に維持することができるようになっている。下温度調整板117や上温度調整板118の温度が制御されることで、接合層30の溶融や固化などを適宜制御することができるようになっている。また、下温度調整板117や上温度調整板118の温度を室温より高い一定温度に保つことなどにより、品質が安定した製品の生産を行うようにすることもできる。
【0044】
次に、被加工品である第1対象物10や第2対象物20が載置される接合用基台130についてより詳しく説明する。図3は本発明の第1実施形態に係る接合装置100の下チャンバー112側の斜視図である。
【0045】
下チャンバー112側の接合用基台130の天面部には、4本の支持部材135が、天面に対して昇降するように設けられている。各支持部材135は、モーター、油圧シリンダー、エアシリンダー、或いは、バネなどからなる支持部材昇降機構部133により昇降動作することができるようになっている。
【0046】
本実施形態においては、セットアップの時においては第1対象物10又は第2対象物20のいずれかを支持し、チャンバー110内の気圧が所望とするものとなったとき、支持部材昇降機構部133により、第1対象物10又は第2対象物20を降下させることを想定している。このような動作を可能とすれば、支持部材135の本数は4本に限定されるものではない。
【0047】
また、接合用基台130の天面部から突出している4本の支持部材135の内側の領域には、例えばステンレス鋼などにより構成される流路板200が配されている。図4は流路板200における通気路の構成を抜き出して示す図である。
【0048】
流路板200は、略平板状の部材であり、主面として底面210と、この底面210と表裏の関係にある天面220とを有するものである。天面220には、平面視で矩形状の天面溝222が設けられており、この天面溝222にはシール部材としてOリング230が配されている。
【0049】
また、流路板200には、天面220と、底面210とを連通させる貫通穴224が設けられている。底面210には、平面視で十字状に形成された底面溝214が設けられており、この底面溝214は貫通穴224とは空間的に連通するようになっている。このような構成により、流路板200においては、貫通穴224と底面溝214とからなる流路が形成されるようになっている。
【0050】
なお、図3で示す例では、4本の支持部材135は、流路板200の4隅に配されるレイアウトとされているが、4本の支持部材135が流路板200を貫通するようなレイアウトとしてもよい。要は、4本の支持部材135が接合用基台130の天面部に対して昇降するように構成されていれば、それらのレイアウトや機構について特に限定されるものではない。また、本実施形態においては、流路板200の底面溝214の形状は平面視で十字状としたが、底面溝214の形状はこれに限定されるものではない。
【0051】
以上のように構成される接合装置100を用いた接合方法の一例について説明する。図5は本発明の第1実施形態に係る接合方法における工程を説明する図である。なお、以下、本明細書においては、各「接合方法における工程を説明する図」では、昇降機構部や排気部、圧縮空気供給部などのブロック図についてはこれを図示省略する。また、選択された接合層30の材料などに基づいて、下温度調整板117や上温度調整板118が適切な温度で発熱するように設定されるものとする。
【0052】
第1実施形態に係る接合方法においては、第1対象物10がフィルム状のプリント基板であり、第1裏面15には複数の電子チップ部品17が搭載されていることを想定している。そして、このような第1対象物10に対して、接合層30として接着剤が塗布された、第2対象物20であるフィルムを、接合することを例として説明する。
【0053】
なお、第1主面11には、電子チップ部品17との電気的接続を実現するための配線回路が形成されている。電子チップ部品17の高さに対して、当該配線回路の高さは高いものではない。接合時、このような当該配線回路に基づく凹凸と接合層30とが沿わない可能性はあるものの、本発明によれば、配線回路が原因となる気泡が残留するようなことは原理的にない。なお、以下、当該配線回路についての記述は省略する。
【0054】
仮に、第1裏面15に複数の電子チップ部品17が搭載されている、上記のような設定の第1対象物10と第2対象物20とを、物理的なプレスによって接合しようとした場合、電子チップ部品17に対しても、プレス手段によって押圧力を加える必要が出てきてしまう。このような押圧力が電子チップ部品17に印加されると、接合時に電子チップ部品17が破損してしまうなどのリスクが高まってしまう、という問題がある。本発明に係る接合方法によれば、第1対象物10と第2対象物20とを接合させる力は、差圧に起因するものであるので、上記のようなリスクは存在しない。
【0055】
なお、電子チップ部品17が搭載されている第1裏面15を全体的にみて、「凹凸構造部」と称することとする。なお、第1対象物10における面で、「凹凸構造部」を構成し得るものは、電子チップ部品17に限定されるものではない。また、「凹凸構造部」なる語は、電子チップ部品17が搭載されている第1裏面15を示す上位概念として用いる。
【0056】
図5は、上チャンバー113が上昇された状態で、接合用基台130が大気中に開放された様子を示している。このような状態で、図5に示されるように、第1対象物10と、第2対象物20とが接合用基台130上にセットアップされる。
【0057】
ここで、第1対象物10と、第2対象物20とには、枠状治具50、50’が適用されているので、このような治具の構成について説明する。以下の例では、第1対象物10に取り付けられる枠状治具50を例とするが、第2対象物20に取り付けられる枠状治具50’も、同様の構成(寸法は異なる)を有している。
【0058】
図6は第1対象物10に対する枠状治具50の取り付けを説明する図である。図6(A)は第1対象物10に取り付ける前の枠状治具50を示しており、図6(B)は枠状治具50を第1対象物10における第1裏面15に取り付けた状態を示している。枠状治具50を第1対象物10の第1裏面15に取り付ける際には、取り外し時に過度な力を要することがない、適切な接着力を有する接着剤などを用いることができる。
【0059】
接合工程において、第1対象物10に取り付けられる枠状治具50は、中央部がくりぬかれた平板のような構成を有する、周縁のみからなる額縁状(枠状)の部材であり、例えばステンレス鋼などにより構成することができる。
【0060】
このような枠状治具50は、表裏の関係にある一対の主面53を有している。また、枠状治具50の外周側縁四方には外周面56があり、一対の主面53間の内側における側面四方には内周面54がある。一対の主面53のうち、一方の主面53に前記のような接着力の接着剤を塗布して、第1対象物10の第1裏面15に取り付けられる。
【0061】
図7は第1対象物10における第1裏面15に搭載される電子チップ部品17の寸法と、枠状治具50の寸法とを示す図であり、図6(B)に示す状態の概略断面である。本実施形態においては、枠状治具50の一対の主面53間の距離(枠状治具50の厚さ)T2は、電子チップ部品17の主面間の距離(電子チップ部品17の高さ)T1より長く設定されている。このような構成により、第1対象物10を流路板200の天面220に載置する場合においても、電子チップ部品17が天面220に接触するようなことがない。
【0062】
本実施形態においては、電子チップ部品17が天面220に接触することがないように、上記のように枠状治具50の厚さT2を、電子チップ部品17の高さT1より大きく設定する構成を採用したが、電子チップ部品17が天面220に接触しないように、枠状治具50を用いる代わりに、枠状治具50と同寸法を有する枠状の凸部を流路板200側に設けるようにすることもできる。
【0063】
なお、本実施形態においては、枠状治具50は、第1対象物10の第1裏面15に取り付けるケースで説明を行っているが、枠状治具50は第1対象物10の第1主面11側に取り付けるケースもあり得る。また、枠状治具を、第1対象物10の第1主面11側、及び、第1裏面15側の双方に取り付けるようにすることもできる。また、本実施形態では、枠状治具50を第1対象物10に取り付けるケースで説明したが、枠状治具50を第1対象物10に取り付ける以外に、枠状治具50の上に第1対象物10を単に載せるだけのケースもあり得る。また、本実施形態では、第1対象物10が平面視矩形状であったので、枠状治具50が、額縁状(枠状)のものであったが、第1対象物10が円板状のものであれば、枠状治具50を、周縁のみからなるドーナツ状のものとすることもできる。
【0064】
また、本実施形態においては、第1対象物10に取り付ける治具としては、枠形状を有する枠状治具50とした。しかしながら、第1対象物10に取り付ける治具は、第1対象物10の周縁を連続的に囲う枠形状を有するものである必要は必ずしもない。また、本発明においては、接合を行う第1対象物10や第2対象物20の形状によっては、治具を用いる必要がない場合がある。
【0065】
上記のような枠状治具50を用いて、第1対象物10が接合用基台130の上、より詳しくは、流路板200の上に載置されセットされる。ここで、枠状治具50の主面53が、流路板200の天面220に載置されると、枠状治具50の主面53が、Oリング230全周を押圧して、枠状治具50の主面53と流路板200の天面220は、密着するようになっている(図5参照)。
【0066】
図5に示すように、第1対象物10が接合用基台130上の流路板200にセットされても、電子チップ部品17が搭載された第1裏面15直下の空間と、第1対象物10の第1主面11より上方の空間とは、流路板200に底面溝214や貫通穴224が形成されているために、互いに通じた空間となっている。
【0067】
次に、第2対象物20のセットについて説明する。第2対象物20の第2主面22には、接合層30として接着剤が塗布される。第2対象物20の周縁に相当する箇所においては、当該接着剤(接合層30)の粘着力を利用して、枠状治具50’が貼着される。
【0068】
接合用基台130上から突出している4本の支持部材135が、枠状治具50’を支持するようにして、接合層30が第2主面22に形成されている第2対象物20がセットされる。ここで、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11とは離隔された状態で、接合用基台130上に載置されることが、本発明に係る接合方法では肝要となる。
【0069】
上記のように接合用基台130上に、第1対象物10と第2対象物20とがセットされると、続いて、図8に示すように上チャンバー113を降下し下チャンバー112と嵌合させて、接合用基台130上の空間をチャンバー110内で気密状態とする。次に、排気部150(図8には不図示)を動作させて、チャンバー110内の空間を大気圧より低い気圧とし、チャンバー110内を減圧とする。ここで、圧力計191をモニタしておき、チャンバー110内が所望とする圧力(dとなる圧力)となるまで、上チャンバー113をストッパなどで規制しておく。
【0070】
チャンバー110内が所望の圧力となると、続いて、支持部材昇降機構部133(図8には不図示)を動作させて、4本の支持部材135を同時に降下させていき、第2対象物20を第1対象物10に近接させるように降下させていく。最終的に、第2対象物20の第2主面22に形成されている接合層30と、第1対象物10の第1主面11とが当接されるまで、支持部材135を降下させる。
【0071】
チャンバー110内が閾値の所望圧力以下であり、十分に高い真空度であるとすると、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11との間に微小空間が形成されてしまっていても、当該微小空間内には空気が存在する分けではない。従って、チャンバー110内の圧力が、前記所望圧力(閾値となる圧力)より高い圧力に戻されると、理論上、当該微小空間は周囲からの圧力により消失する。
【0072】
以上のように、本発明に係る接合方法においては、原理的に接合層30と第1主面11との間に、前記微小空間に基づく気泡が残留することがなくなるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがないのである。
【0073】
図9に示す工程では、上チャンバー113を規制していたストッパ(不図示)を解除し、上チャンバー113が第2対象物20の第2裏面25を押圧する程度までに、上チャンバー113を降下させる。ここで、そのような押圧力は、第2対象物20等を破壊しない範囲のものであり、第2対象物20と第1対象物10とを近接させ、介在する接合層30を押し潰す程度の押圧力が想定される。実際的には、上チャンバー113が第2対象物20の第2裏面25に当接するか、しないか程度のものであって構わない。ここで、図9に示す工程で、降下してくる上チャンバー113を規制するストッパなどの規制手段や位置決め手段を設けておくことが好ましい。
【0074】
図9に示すように、上チャンバー113が第2対象物20の第2裏面25に当接しこれを押し込み、第2対象物20と第1対象物10とを近接させる工程(「押圧力付与工程」とも称する)は、本発明において効率的に第1対象物10と第2対象物20との接合加工品を製造する上で重要である。この工程により、第2対象物20と第1対象物10とを若干近接させ、介在する接合層30を押しつぶし、第2対象物20と第1対象物10とがある程度密着したことを担保することができる。
【0075】
本実施形態においては、押圧力付与工程は、上チャンバー113による第2対象物20の第2裏面25への当接でこれを行うようにしているが、押圧力付与工程を実施するために、上チャンバー113以外の専用の構成を設けるようにしてもよい。
【0076】
なお、押圧力付与工程は、本発明に係る接合方法おいては必須ではないが、このような工程があることで、製造効率が向上するものと期待することができる。
【0077】
また、本実施形態では、押圧力付与工程では、上チャンバー113が第2対象物20の第2裏面25の全面に当接しこれに押圧力を付与するようにしている。一方、押圧力付与工程では、第2対象物20の第2裏面25の周縁にのみ押圧力を付与するようにすることもできる。ここで、このような押圧力付与工程を実施したとしても、本実施形態においては、電子チップ部品17が天面220に接触することがない構成を有していることが肝要である。
【0078】
なお、本実施形態のように、押圧力付与工程として、上チャンバー113を第2対象物20の第2裏面25の全面に当接させて押圧する、ということは、平面視の圧力分布でみると同押圧力付与工程で、接合層30を挟む第1対象物10及び第2対象物20の周縁に大きな圧力分布を形成している、ということに換言することができる。
【0079】
上チャンバー113を降下させる際の力には、チャンバー110内の気圧が大気圧より低いことによる、差圧の力を利用するようにしてもよいし、上チャンバー昇降機構部120(図9には不図示)による駆動力を利用するようにしてもよい。
【0080】
また、以上の説明では、支持部材昇降機構部133を動作させて、能動的に支持部材135を降下させて、第2対象物20に形成されている接合層30と、第1対象物10の第1主面11とを当接させるようにしたが、本発明は、支持部材昇降機構部133の動作によって第2対象物20を下降させることで、接合層30と第1主面11とを当接させることに限定されるものではない。
【0081】
ストッパなどの規制手段を解除すれば、チャンバー110内の気圧が大気圧より低いので、上チャンバー113は下降するが、このような上チャンバー113の下降を利用して、第2対象物20を押し下げつつ、支持部材135を接合用基台130内に押し込むようにして、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11とを当接させるようにしてもよい。このとき、支持部材135には上方へ向かう付勢力が適切に付与されていることが好ましい。このような付勢力には、弾性を有する合成樹脂、バネ、エアシリンダー等を用いることができる。
【0082】
さて、図10に示す工程では、通気路140から圧縮空気供給部155(図10には不図示)によって圧縮空気をチャンバー110内に供給する。チャンバー110内に圧縮空気が供給されると、上チャンバー113が上昇していくが、下チャンバー112との嵌合状態が外れることがないようにストッパ(不図示)などで規制することが好ましい。
【0083】
図10に示すように気密状態とされているチャンバー110に、圧縮空気が充填されることになるので、第1主面11と接合層30とを当接させる工程で、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11との間に微小空間が形成されてしまっていても、当該微小空間内には実質的に空気が存在するわけではないので、当該微小空間は差圧の力によって押しつぶされて消失することになる。
【0084】
なお、本実施形態においては、図10に示す工程で、気密状態とされているチャンバー110内に、圧縮空気供給部155(図10には不図示)により圧縮空気を導入して、前記のような微小空間を消失させて気泡をなくすようにしているが、接合層30に用いる材料の選択によって、或いは、第1対象物10と第2対象物20とを当接させる前のチャンバー110内の真空度によっては、図10に示す工程において、チャンバー110内に大気のみを導入することで、十分に、前記微小空間を消失させることができる。この場合、圧縮空気供給部155は利用する必要がなくなるので、装置を簡単・安価に構成することが可能となる。
【0085】
図11に示す工程では、圧縮空気供給部155(図11には不図示)による圧縮空気の導入を停止し、不図示のバルブ操作等により、チャンバー110内における気圧を大気圧に戻し、上チャンバー昇降機構部120(図11には不図示)を動作させて上チャンバー113を上昇させる。これにより、接合用基台130上において接合加工された第1対象物10と第2対象物20とを、接合装置100から取り出すことができる。
【0086】
接合装置100から取り出された接合加工された第1対象物10と第2対象物20とは、例えば、図12に示すように、切断工程によって、枠状治具50、50’と共に、周縁が切り落とされ、図13に示す所望とする接合加工品を得ることができる。前記切断工程によって、切り落とされた第1対象物10と第2対象物20と貼着されていた枠状治具50、50’は適宜使い回される。
【0087】
本実施形態では、切断工程によって、枠状治具50、50’と共に、周縁が切り落とす例を説明したが、貼着されている枠状治具50、50’を取り外し切断加工以外の他の加工を施すようなこともあり得るし、貼着されている枠状治具50、50’の一方のみを取り外し、他の後加工を施すようなこともあり得る。
【0088】
以上、本発明に係る接合方法は、減圧状態とされた前記チャンバー110内で前記接合層30と前記第1主面11とを当接させる当接工程と、前記チャンバー110内に大気を導入する大気導入工程と、を有しており、このような本発明に係る接合方法によれば、原理的に前記接合層30と前記第1主面11との間に気泡が残留することがなくなるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがない。
【0089】
また、本発明に係る接合装置100は、チャンバー110内の接合用基台130上で、第1主面11と接合層30とを離隔させた状態から、第1主面11と接合層30とを当接させた状態へと変位させることができる支持部材135を有しており、このような本発明に係る接合装置100によれば、原理的に前記接合層30と前記第1主面11との間に気泡を残留させないようにすることができるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがない。
【0090】
また、本発明に係る治具50、50’によれば、上記のような接合装置100で用いることにより、ボイドが混入することはなく、信頼性が高く、製造時の歩留まりがよい製品を簡便に製造することが可能となる。
【0091】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図14は本発明の第2実施形態に係る接合装置100の構成の概要を示す模式図である。なお、先の第1実施形態に係る接合装置100の参照符号と同様の参照符号が付された構成については、先のものと同様であるので、説明を省略する。
【0092】
第2実施形態に係る接合装置100が、先の第1実施形態に係る接合装置100と相違する点は、接合用基台130上に流路板200が設けられていない点である。
【0093】
先の第1実施形態に係る接合装置100では、第1対象物10の第1裏面15には複数の電子チップ部品17が設けられており、この電子チップ部品17が載置面と接触しないように枠状治具50が取り付けられていた。そして、枠状治具50の内周面54で囲まれた電子チップ部品17直下の空間を、第1対象物10の第1主面11側の空間と連通させるために溝などが形成された流路板200を設けるようにしていた。
【0094】
一方、第2実施形態に係る接合装置100では、接合用基台130上には、平滑な面である、第2対象物20の第2裏面25を載置するようにしているので、先の実施形態で用いたような流路板200を用いることはない。接合用基台130上に配する対象物は、第2実施形態のように第2対象物20の方であってもよいし、第1実施形態のように第1対象物10の方であってもよい。
【0095】
また、本実施形態においては、平面視で第1対象物10と、第2対象物20とが同一の形状をなしており、第1対象物10と第2対象物20とがちょうど重なり合うように接合される。そこで、第1対象物10と第2対象物20とを接合用基台130上でセットする際には、第1対象物10と第2対象物20とが平面視で重なり合うように、位置決めを行う必要がある。
【0096】
このために、接合用基台130の天面には、第2対象物20を規制し、第2対象物20の位置決めを行い得る複数の位置合わせピン129が植設されている。
【0097】
また、それぞれの支持部材135の天面には位置合わせピン136が立設されている。一方、第1対象物10に取り付けられる枠状治具50には、当該位置合わせピン136が嵌入される貫通穴57が設けられている。4本の支持部材135に設けられる位置合わせピン136を、枠状治具50の4隅それぞれに設けられている貫通穴57に嵌入すると、ちょうど第1対象物10の位置合わせが完了するようになっている。
【0098】
なお、平面視で第1対象物10と、第2対象物20とが同一の形状をなしているために、第1対象物10に枠状治具50を取り付けるようにして、この枠状治具50を支持部材135の天面に載置するようにしたが、仮に平面視で第1対象物10が、第2対象物20よりを含むような面積を有する場合には、枠状治具50を用いないようにすることもできる。
【0099】
以上のように構成される第2実施形態に係る接合装置を用いた接合方法の一例について説明する。第2実施形態に係る接合方法においては、第1対象物10が半導体材料からなる基板であり、その第1裏面15側には微小な凹凸パターン18が形成されていることを想定している。また、第2対象物20も半導体材料で形成された基板で、第2対象物20の第2主面22側には、接合層30として接着剤が塗布されていることを想定している。
【0100】
なお、本明細書においては、凹凸パターン18が形成されている第1裏面15を全体としてみて「凹凸構造部」なる語で上位概念的に捉えることがある。
【0101】
本実施形態においては、第1裏面15側には微小な凹凸パターン18が形成されているので、第1対象物10と第2対象物20とを、物理的なプレスによって接合しようとした場合、凹凸パターン18に対しても、プレス手段によって押圧力を加える必要が出てきてしまう。このような押圧力が凹凸パターン18に印加されると、接合時に凹凸パターン18にダメージを与えてしまう可能性がある。本発明に係る接合方法によれば、第1対象物10と第2対象物20とを接合させる力は、差圧に起因するものであるので、凹凸パターン18にダメージを与えてしまうようなことはない。
【0102】
図14は、上チャンバー113が上昇された状態で、接合用基台130が大気中に開放された様子を示している。このような状態で、図14に示されるように、第1対象物10と、第2対象物20とが接合用基台130上にセットアップされる。
【0103】
接合層30が第2主面22に形成されている第2対象物20は、接合用基台130の天面に植設されてなる複数の位置合わせピン129によって規制されるようにして、当該天面上に載置されることで、セットが完了する。
【0104】
第1対象物10は第1裏面15側において、取り外し時に過度な力を要することがない、適切な接着力を有する接着剤により、枠状治具50が取り付けられる。枠状治具50の厚さは、第1対象物10の凹凸パターン18における最大の凸部の高さより、大となるように設定されている。これにより、押圧力付与工程で凹凸パターン18が上チャンバー113に接触するようなことがない。
【0105】
枠状治具50の4隅には貫通穴57が設けられており、4本の支持部材135の位置合わせピン136を、これらの貫通穴57に嵌入することで、第1対象物10のセットが完了する。
【0106】
なお、本実施形態においては、凹凸パターン18が上チャンバー113に接触することがないように、上記のように枠状治具50の厚さを、凹凸パターン18の高さより大きく設定する構成を採用したが、凹凸パターン18が上チャンバー113に接触しないように、枠状治具50を用いる代わりに、枠状治具50と同寸法を有する枠状の凸部を上チャンバー113側に設けるようにすることもできる。
【0107】
ここで、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11とは離隔された状態で、接合用基台130上に載置されることが、本実施形態に係る接合方法においても肝要となる。
【0108】
上記のように接合用基台130上に、第1対象物10と第2対象物20とがセットされると、続いて、図15に示すように上チャンバー113を降下し下チャンバー112と嵌合させて、接合用基台130上の空間をチャンバー110内で気密状態とする。次に、排気部150(図15には不図示)を動作させて、チャンバー110内の空間を大気圧より低い気圧とし、チャンバー110内を減圧とする。ここで、圧力計191をモニタしておき、チャンバー110内が所望とする圧力(閾値となる圧力)となるまで、上チャンバー113をストッパ(不図示)などで規制しておく。
【0109】
チャンバー110内が所望の圧力となると、続いて、支持部材昇降機構部133(図15には不図示)を動作させて、4本の支持部材135を同時に降下させていき、第2対象物20を第1対象物10に近接させるように降下させていく。最終的に、第2対象物20の第2主面22に形成されている接合層30と、第1対象物10の第1主面11とが当接されるまで、支持部材135を降下させる。
【0110】
チャンバー110内が閾値の所望圧力以下であり、十分に高い真空度であるとすると、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11との間に微小空間が形成されてしまっていても、当該微小空間内には空気が存在する分けではない。従って、チャンバー110内の圧力が、前記所望圧力(閾値となる圧力)より高い圧力に戻されると、理論上、当該微小空間は周囲からの圧力により消失する。
【0111】
以上のように、本発明に係る接合方法においては、原理的に接合層30と第1主面11との間に、前記微小空間に基づく気泡が残留することがなくなるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがないのである。
【0112】
図16に示す工程では、上チャンバー113を規制していたストッパ(不図示)を解除し、上チャンバー113が、第1対象物10に貼着されている枠状治具50を押圧する程度までに、上チャンバー113を降下させる。ここで、そのような押圧力は、第1対象物10、枠状治具50等を破壊しない範囲のものであり、第1対象物10と第2対象物20とを近接させ、介在する接合層30を押し潰す程度の押圧力が想定される。実際的には、上チャンバー113が第1対象物10に貼着されている枠状治具50に当接するか、しないか程度のものであって構わない。ここで、図16に示す工程で、降下してくる上チャンバー113を規制するストッパなどの規制手段を設けておくことが好ましい。
【0113】
図16に示すように、上チャンバー113が第1対象物10に貼着されている枠状治具50に当接しこれを押し込み、第1対象物10と第2対象物20とを近接させる工程(「押圧力付与工程」とも称する)は、本発明において効率的に第1対象物10と第2対象物20との接合加工品を製造する上で重要である。この工程により、第1対象物10と第2対象物20とを若干近接させ、介在する接合層30を押し潰し、第1対象物10と第2対象物20とがある程度密着したことを担保することができる。
【0114】
本実施形態においては、押圧力付与工程は、上チャンバー113による枠状治具50への当接でこれを行うようにしているが、押圧力付与工程を実施するために、上チャンバー113以外の専用の構成を設けるようにしてもよい。
【0115】
なお、押圧力付与工程は、本発明に係る接合方法おいては必須ではないが、このような工程があることで、製造効率が向上するものと期待することができる。
【0116】
また、本実施形態では、押圧力付与工程では、上チャンバー113が枠状治具50を介して第2対象物20の第2裏面25の周縁部のみに当接しこれに押圧力を付与するようにしている。ここで、このような押圧力付与工程を実施したとしても、本実施形態においては、凹凸パターン18が上チャンバー113に接触することがない構成を有していることが肝要である。
【0117】
上チャンバー113を降下させる際の力には、チャンバー110内の気圧が大気圧より低いことによる、差圧の力を利用するようにしてもよいし、上チャンバー昇降機構部120(図16には不図示)による駆動力を利用するようにしてもよい。
【0118】
また、以上の説明では、支持部材昇降機構部133を動作させて、能動的に支持部材135を降下させて、第2対象物20に形成されている接合層30と、第1対象物10の第1主面11とを当接させるようにしたが、本発明は、支持部材昇降機構部133の動作によって第2対象物20を下降させることで、接合層30と第1主面11とを当接させることに限定されるものではない。
【0119】
ストッパなどの規制手段を解除すれば、チャンバー110内の気圧が大気圧より低いので、上チャンバー113は下降するが、このような上チャンバー113の下降を利用して、枠状治具50を介して第1対象物10を押し下げつつ、支持部材135を接合用基台130内に押し込むようにして、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11とを当接させるようにしてもよい。このとき、支持部材135には上方へ向かう付勢力が適切に付与されていることが好ましい。このような付勢力には、弾性を有する合成樹脂、バネ、エアシリンダー等を用いることができる。
【0120】
さて、図17に示す工程では、通気路140から圧縮空気供給部155(図17には不図示)によって圧縮空気をチャンバー110内に供給する。チャンバー110内に圧縮空気が供給されると、上チャンバー113が上昇していくが、下チャンバー112との嵌合状態が外れることがないようにストッパなどで規制することが好ましい。
【0121】
図17に示すように気密状態とされているチャンバー110に、圧縮空気が充填されることになるので、第1主面11と接合層30とを当接させる工程で、第2対象物20側の接合層30と、第1対象物10の第1主面11との間に微小空間が形成されてしまっていても、当該微小空間内には実質的に空気が存在するわけではないので、当該微小空間は差圧の力によって押しつぶされて消失することになる。
【0122】
なお、本実施形態においては、図17に示す工程で、気密状態とされているチャンバー110内に、圧縮空気供給部155(図17には不図示)により圧縮空気を導入して、前記のような微小空間を消失させて気泡をなくすようにしているが、接合層30に用いる材料の選択によって、或いは、第1対象物10と第2対象物20とを当接させる前のチャンバー110内の真空度によっては、図10に示す工程において、チャンバー110内に大気のみを導入することで、十分に、前記微小空間を消失させることができる。この場合、圧縮空気供給部155は利用する必要がなくなるので、装置を簡単・安価に構成することが可能となる。
【0123】
図18に示す工程では、圧縮空気供給部155(図18には不図示)による圧縮空気の導入を停止し、不図示のバルブ操作等により、チャンバー110内における気圧を大気圧に戻し、上チャンバー昇降機構部120(図18には不図示)を動作させて上チャンバー113を上昇させる。これにより、接合用基台130上において接合加工された第1対象物10と第2対象物20とを、接合装置100から取り出すことができる。
【0124】
接合装置100から取り出された接合加工された第1対象物10と第2対象物20とは、例えば、図19に示すように、枠状治具50が取り外されて、所望とする接合加工品を得ることができる。取り外された枠状治具50は適宜使い回される。
【0125】
以上のような本発明の他の実施形態に係る接合方法は、減圧状態とされた前記チャンバー110内で前記接合層30と前記第1主面11とを当接させる当接工程と、前記チャンバー110内に大気を導入する大気導入工程と、を有しており、このような本発明の他の実施形態に係る接合方法によれば、原理的に前記接合層30と前記第1主面11との間に気泡が残留することがなくなるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがない。
【0126】
また、本発明の他の実施形態に係る接合装置100は、チャンバー110内の接合用基台130上で、第1主面11と接合層30とを離隔させた状態から、第1主面11と接合層30とを当接させた状態へと変位させることができる支持部材135を有しており、このような本発明の他の実施形態に係る接合装置100によれば、原理的に前記接合層30と前記第1主面11との間に気泡を残留させないようにすることができるので、製品にボイドが混入することはなくなり、製品の信頼性を低下させたり、製造時の歩留まりを悪化させたりすることがない。
【0127】
また、本発明の他の実施形態に係る治具50によれば、上記のような接合装置100で用いることにより、ボイドが混入することはなく、信頼性が高く、製造時の歩留まりがよい製品を簡便に製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0128】
10・・・第1対象物
11・・・第1主面
15・・・第1裏面
17・・・電子チップ部品
18・・・凹凸パターン
20・・・第2対象物
22・・・第2主面
25・・・第2裏面
30・・・接合層
50、50’・・・枠状治具
53・・・主面
54・・・内周面
56・・・外周面
57・・・貫通穴
100・・・接合装置
110・・・チャンバー
112・・・下チャンバー
113・・・上チャンバー
117・・・下温度調整板
118・・・上温度調整板
120・・・上チャンバー昇降機構部
129・・・位置合わせピン
130・・・接合用基台
133・・・支持部材昇降機構部
135・・・支持部材
136・・・位置合わせピン
140・・・通気路
150・・・排気部
155・・・圧縮空気供給部
191・・・圧力計
200・・・流路板
210・・・底面
214・・・底面溝
220・・・天面
222・・・天面溝
224・・・貫通穴
230・・・Oリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19