(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】改善されたエネルギー効率を得るための、自動車用トランスミッションフルード組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 141/08 20060101AFI20230721BHJP
C10M 141/10 20060101ALI20230721BHJP
C10M 135/18 20060101ALN20230721BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20230721BHJP
C10M 135/14 20060101ALN20230721BHJP
C10M 133/44 20060101ALN20230721BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230721BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20230721BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
C10M141/08
C10M141/10
C10M135/18
C10M137/10 A
C10M135/14
C10M133/44
C10N30:00 Z
C10N40:04
C10N10:12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018231284
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-12-13
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】キム ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ローラ エイ カフサル
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-085890(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114401(WO,A1)
【文献】特表2008-531796(JP,A)
【文献】特表平09-506118(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00049094(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートマチックトランスミッションフルードの全質量を基準として50質量%を超える潤滑粘度を持つオイルおよび
オートマチックトランスミッションフルードの全質量を基準としてそれぞれ50質量%未満の、
(a)
モリブデンジアルキルジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンアルキルキサンテート、モリブデンアルキルチオキサンテート、またはこれらの混合物を含む1種以上の油-溶性または分散性モリブデン-含有化合物および
(b) 異性化アルケニル-置換コハク酸無水物と
ポリアミンとの反応生成物
であって、以下の構造(II)によって特徴付けられる反応生成物
を含む、オートマチックトランスミッションフルード:
【化1】
ここで、xおよびyは、独立に0または1~30の整数であり、そこでx+yは1~30であり、またzは0または1~10の整数である。
【請求項2】
前記モリブデン-含有化合物(a)が、前記フルードに、該フルードの全質量を基準として約10質量百万分率と~約1,000質量百万分率との間のモリブデンを与えるような量で存在する、請求項1記載のオートマチックトランスミッションフルード。
【請求項3】
前記反応生成物(b)が、前記フルードの全質量を基準として、約0.5~約10質量%の量で存在する、請求項1記載のオートマチックトランスミッションフルード。
【請求項4】
前記反応生成物(b)が、前記フルードの全質量を基準として、約0.5~約10質量%の量で存在する、請求項2記載のオートマチックトランスミッションフルード。
【請求項5】
前記1種以上の油-溶性または分散性のモリブデン-含有化合物(a)が、三核モリブデン化合物を含む、請求項1記載のオートマチックトランスミッションフルード。
【請求項6】
前記1種以上の油-溶性または分散性のモリブデン-含有化合物(a)が、三核モリブデンジアルキルジチオカルバメート化合物を含む、請求項
5記載のオートマチックトランスミッションフルード。
【請求項7】
x+yが8~15であり、かつzがゼロまたは1~5の整数である、請求項1記載のオートマチックトランスミッションフルード。
【請求項8】
x+y=13であり、かつzが1または3である、請求項
7記載のオートマチックトランスミッションフルード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用トランスミッションフルード組成物を提供するものであり、該フルードは、その中における特定の定義された添加剤の存在を通して、改善された動力伝達特性を持つ。特に、本発明は、自動車両用のトランスミッションフルード組成物を提供するものであり、その使用は、動作中の該輸送機関の燃料効率を高める。
【背景技術】
【0002】
自動車業界において、動力伝達は、主としてその輸送機関の駆動系部材を通して起る。そのエンジンのクランクケースは、典型的には幾つかの形状のクラッチを介してそのトランスミッションと結合しており、動力伝達が該クラッチを横切って起こり、該トランスミッションを、および最終的にはそのロードホイールを駆動する。更に、クラッチは、該輸送機関の設計およびそのトランスミッションの型に依存して、該トランスミッション内に存在し得る。このようなクラッチの基本的な特徴は、該クラッチを形成するプレート間の接触を通して、効率的に動力を伝達するその能力である。この接触は、主としてクラッチプレートのペーパー表面と、リアクションプレートのスチール表面との間の接触(ペーパーオンスチール接触(paper-on-steel contact))である。最適の効率を得るためには、このペーパーオンスチール接触が、高い摩擦接触であり、結果として該プレート間の滑りおよびそれ故のエネルギー損失が最小化されることが重要である。該クラッチを潤滑処理するために使用されるフルードは、従ってこの高い摩擦型の、ペーパーオンスチール接触を向上かつ維持し得るものでなければならない。
上記トランスミッションのその他の部品、例えばギヤにおいて、接触は、スチール表面とペーパー表面との間の接触というよりも寧ろ2以上のスチール表面間のものである。これらのスチールオンスチール(steel-on-steel)接触とは対照的に、最適な燃料効率を得るためには、該接触している表面間の摩擦を最小化することが望ましい。従って、該トランスミッションを潤滑処理するのに使用される上記フルードは、接触しているスチール表面間の低い摩擦を助長しかつ維持することができなければならない。
【0003】
従って、同一のトランスミッションフルードによって満たされねばならない競合するファクタが存在する。他方において、該フルードは、ペーパーオンスチール接触に係る高い摩擦を維持し、あるいは該高い摩擦に対して悪影響を及ぼしてはならず、しかし他方ではスチールオンスチール接触における摩擦は減じられなければならない。
特定の化学的な添加剤が、スチールオンスチール接触での摩擦を減じる目的で使用し得ることは周知である。しばしばエステル等の有機化合物をベースとしている、これらの摩擦調整剤は、エンジンのクランクケースに適用するための潤滑油における広範囲の用途が見出されている。しかし、実験によって、これら同一の添加剤が、同様にペーパーオンスチール接触における摩擦をも減じて、これらのトランスミッションフルードにおける使用を不適切なものとしていることが示された。本発明は、オートマチックトランスミッションフルードにおいて使用した場合に、スチールオンスチール摩擦を減じ、かつ同時に高いペーパーオンスチール摩擦を維持する、化学的添加剤の組合せの発見に基いている。これは、効率的な動力伝達および低減されたエネルギー損失へと導き、結果として燃料経済性の利益をもたらす。
【発明の概要】
【0004】
従って、第一の局面において、本発明はオートマチックトランスミッションフルードを提供するものであり、該フルードは、大量の潤滑粘度を持つオイルおよび少量の、(a) 1種以上の油-溶性または分散性モリブデン-含有化合物および(b) 異性化アルケニル-置換コハク酸無水物と、以下の構造(II)によって特徴付けられるポリアミンとの反応生成物を含む:
【化1】
【0005】
ここで、xおよびyは、独立に0または1~30の整数であり、そこでx+yは1~30であり、またzは0または1~10の整数である。
第二の局面において、本発明は、オートマチックトランスミッションを備えた輸送機関の燃料経済性を改善する方法を提供するものであり、該方法は、該オートマチックトランスミッションを、上記第一の局面に従うオートマチックトランスミッションフルードで潤滑処理する工程を含む。
第三の局面において、本発明は、オートマチックトランスミッションを備えた輸送機関の燃料効率を改善するための、オートマチックトランスミッションフルードの使用を提供するものであり、そこで該オートマチックトランスミッションは、該オートマチックトランスミッションフルードによって潤滑処理され、該フルードは、大量の潤滑粘度を持つオイルおよび少量の、(a) 1種以上の油-溶性または分散性モリブデン-含有化合物および(b) 異性化アルケニル-置換コハク酸無水物と、以下の構造(II)によって特徴付けられるポリアミンとの反応生成物を含む:
【化2】
【0006】
ここで、xおよびyは、独立に0または1~30の整数であり、そこでx+yは1~30であり、またzは0または1~10の整数である。
本明細書において、以下の用語および表現は、もしも使用される場合には、以下において与えられる意味を持つ:
「有効成分(active ingredients)」または「(a.i.)」は、希釈剤または溶媒ではない添加剤物質を意味する;
「含む(comprising)」またはあらゆる同語源の用語は、述べられた特徴、段階、または整数または成分の存在を特定するが、1種以上のその他の特徴、段階、整数、成分またはこれらの集団の存在または付加を妨げるものではない。「からなる(consists of)」または「から本質的になる(consists essentially of)」という表現または同語源の表現は、「含む(comprises)」またはあらゆる同語源の用語の範囲内に含めることができる。該表現「から本質的になる」とは、物質が適用される上記組成物の特徴に実質的に影響を及ぼすことのない、該物質を含めることを可能とする。該表現「からなる」または同語源の表現は、単に、該表現が関連している、上記述べられた特徴、段階、整数、成分またはその集団が存在することのみを意味している;
「ヒドロカルビル(hydrocarbyl)」とは、ある化合物の化学基を意味し、該化合物は水素および炭素原子を含み、またその基は、該化合物の残部に、一炭素原子を介して直接結合している。該基は、1以上の、炭素および水素以外の原子を含むことができるが、これらが、該基の本質的なヒドロカルビル特性に影響を及ぼさないことを条件とする。当業者は、適切な基(例えば、ハロ、特にクロロおよびフルオロ、アミノ、アルコキシル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)を認識しているであろう。好ましくは、該ヒドロカルビル基は、特に断りがない限り、水素および炭素原子から本質的になっている。より好ましくは、該ヒドロカルビル基は、特に断りがない限り、水素および炭素原子からなっている。好ましくは、該ヒドロカルビル基は、脂肪族ヒドロカルビル基である。該用語「ヒドロカルビル」は「アルキル」、「アルキレン」、「アルケニル」、「アリル」および「アリール」を含む;
【0007】
「アルキル」とは、C1~C30アルキル基を意味し、該アルキル基は、上記化合物の残部に一つの炭素原子を介して直接結合されている。特段の断りがない限り、アルキル基は、十分な数の炭素原子が存在する場合には、線状(即ち、非分岐)または分岐であり得、環式、非環式、または部分環式/非環式であり得る。好ましくは、該アルキル基は、線状または分岐の非環式アルキル基を含む。アルキル基の代表的な例は、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ジメチルへキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル(icosyl)およびトリアコンチルを含むが、これらに限定されない;
「アルキレン」とは、「アルカンジイル」と同義であり、また2つの異なる炭素原子から水素原子を除くことにより、アルカンから誘導されるC2~C20、好ましくはC2~C10、より好ましくはC2~C6の二価の飽和非環式脂肪族炭化水素ラジカルを意味し、それは線状または分岐であり得る。アルキレンの代表的な例は、エチレン(エタンジイル)、プロピレン(プロパンジイル)、ブチレン(ブタンジイル)、イソブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレン、デシレン、1-メチルエチレン、1-エチルエチレン、1-エチル-2-メチルエチレン、1,1-ジメチルエチレンおよび1-エチルプロピレンを含む;
「ポリ(アルキレン)」は、「ポリ(アルケン)」と同義であり、またその適切なアルカンジイル繰返し単位を含むポリマーを意味する。このようなポリマーは、該適切なアルケンの重合により形成し得る(例えば、ポリイソブチレンはイソブテンを重合することにより形成し得る);
【0008】
「ポリ(アルキレニル)」は、「ポリ(アルケニル)」と同義であり、またその適切なアルカンジイル繰返しラジカルを含むポリマー系の置換基を意味する。適切には、該ポリ(アルキレニル)置換基は、その対応するポリ(アルキレン)と、該ポリ(アルキレン)にコハク酸無水物基を導入する反応体(例えば、無水マレイン酸)とを反応させることにより形成し得る;
「アルケニル」は、少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を含み、かつ上記化合物の残部に単一の炭素原子を介して直接結合しており、さもなければ「アルキル」として定義されるC2~C30、好ましくはC2~C12の基を意味する;
「アルキニル」は、少なくとも一つの炭素-炭素三重結合を含み、かつ上記化合物の残部に単一の炭素原子を介して直接結合されており、その点を除けば「アルキル」として定義される、C2~C30、好ましくはC2~C12の基を意味する;
「アリール」は、C6~C18、好ましくはC6~C10の芳香族基を意味し、該基は、随意に1種以上のアルキル、ハロ、ヒドロキシル、アルコキシおよびアミノ基で置換されており、これは上記化合物の残部に、単一の炭素原子を介して結合されている。好ましいアリール基は、フェニルおよびナフチル基およびその置換誘導体、特にフェニルおよびそのアルキル置換誘導体を含む;
「アルカノール」とはアルコールであり、該アルコールは、そのアルキル鎖の炭素原子(1または複数)に結合した1以上のヒドロキシル官能基を持つアルキル鎖からなっている。該用語「アルカノール」は、一価のアルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノールばかりでなく、多価アルカノールをも包含する;
「多価アルカノール」は、2つ以上のヒドロキシル官能基を含むアルカノールを意味する。より具体的には、該用語「多価アルカノール」とは、ジオール、トリオール、テトラオールおよび/またはこのような化合物の関連するダイマーまたは連鎖伸長ポリマーを包含する。更に一層具体的には、該用語「多価アルカノール」は、グリセロール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールおよびソルビトール、とりわけグリセロールを包含する;
【0009】
「モノカルボン酸」とは、単一のカルボン酸官能基を含む有機酸、好ましくはヒドロカルビルカルボン酸を意味する;
「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸」は、脂肪族C5~C29、好ましくはC7~C29、より好ましくはC9~C27、最も好ましくはC11~C23ヒドロカルビル鎖を持つモノカルボン酸を意味する。このような化合物は、ここにおいては脂肪族(C5~C29)、好ましくは(C7~C29)、より好ましくは(C9~C27)、最も好ましくは(C11~C23)ヒドロカルビルモノカルボン酸(1または複数)またはヒドロカルビル脂肪酸(1または複数)と呼ぶことができる(ここで、Cx~Cyは、該脂肪酸の脂肪族ヒドロカルビル鎖における全炭素原子数を表し、該脂肪酸自体は、そのカルボキシル炭素原子の存在のために、全体としてCx+1~Cy+1個の炭素原子を含む)。好ましくは、該脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸は、そのカルボキシル炭素原子を含めて、偶数個の炭素原子を含む。該脂肪酸の脂肪族ヒドロカルビル鎖は、飽和または不飽和(即ち、少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を含み)であり得、好ましくは、該脂肪族ヒドロカルビル鎖は不飽和であり、および少なくとも一つの炭素-炭素二重結合を含み、このような脂肪酸は、天然源(例えば、動物または植物油由来)から、および/または対応する飽和脂肪酸の還元により得ることができる;
「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」は、ここにおいて定義されたような脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸のモノカルボン酸官能基が、エステル基に転化されているエステルを意味する。例えば、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルは、ここにおいて定義されているように、その対応する脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸またはその反応性誘導体(例えば、無水物または酸ハライド)と、アルカノールとを反応させることによって得ることができる。その代りにまたは付随的に、該脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルは、その天然の形状で、例えば脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸のグリセロールエステルとして得ることができる。従って、該用語「脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステル」は、脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸のグリセロールエステル、および同様に脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸またはその反応性誘導体(例えば、無水物または酸ハライド)とアルカノールとの反応により得られる脂肪族ヒドロカルビル脂肪酸エステルを包含する;
【0010】
「サリチレート石鹸(salicylate soap)」は、任意の過塩基化された物質を除く、上記1種以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート洗浄剤(1または複数)によって与えられる、アルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチル酸塩の量を意味する;
「アルカリ金属またはアルカリ土類金属サリチレート洗浄剤」は、ここにおいて定義されるようなサリチレート石鹸および任意の過塩基化物質を含む;
「ハロ」または「ハロゲン」とは、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを含む;
本明細書において使用される「油-溶性(oil-soluble)」または「オイル-分散性(oil-dispersible)」または同語源の用語は、上記化合物または添加物が、あらゆる割合で、上記オイルに対して可溶性、溶解性、混和性であり、または懸濁され得ることを、必ずしも表すものではない。しかし、これらのことは、該化合物または添加物が、例えば、オイルが使用されている環境内で、これらの意図された効果を発揮するのに十分な程度まで、該オイルに対して可溶性または安定に分散し得ることを、確かに意味している。その上、その他の添加物の追加の組入れは、必要ならば、特別な添加物のより高レベルでの組入れをも可能とするかもしれない。
ある添加物に関連する「無灰(ashless)」とは、該添加物が金属を含まないことを意味する;
ある添加物に関連する「灰分-含有(ash-containing)」とは、該添加物が金属を含むことを意味する;
「大量(major amount)」とは、ある組成物の述べられた成分(1または複数)に関して、および該組成物の全質量に関して表された、該組成物の内の50質量%を超えることを意味する;
【0011】
「少量(minor amount)」とは、ある組成物の述べられた成分(1または複数)に関して、および該組成物の全質量に関して表された、該組成物の内の50質量%未満を意味する;
「ppm」とは、上記組成物の全質量を基準とする、質量基準の百万分率(parts per million by mass;質量ppm)を意味する;
ある組成物または添加剤成分に係る「金属含有率(metal content)」、例えば上記添加剤濃縮物のモリブデン含有率または全金属含有率(即ち、全ての個々の金属含有率の総和)は、ASTM D5185により測定される;
ある添加剤成分またはある組成物に関連する「TBN」は、ASTM D2896により測定されるような、全塩基価(mg KOH/g)を意味する;
「KV40」および「KV100」は、ASTM D445により測定されるような、夫々40℃および100℃における動粘度を意味する;
「リン含有率」は、ASTM D5185により測定される;
「硫黄含有率」は、ASTM D2622により測定される;
「硫酸灰分含有率」は、ASTM D874により測定される;
Mnは数平均分子量を意味し、ポリマー本体については、線状ポリスチレン標準物質との関連で、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる;
Mwは重量平均分子量を意味し、ポリマー本体については、線状ポリスチレン標準物質との関連で、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる;
【発明を実施するための形態】
【0012】
今から、本発明をより一層詳細に説明する。そこで、本明細書において以下に説明される特徴は、本発明に係る全ての局面に適用可能であるものと理解すべきである。
油-溶性または分散性のモリブデン-含有化合物(a)
好ましくは、上述の1種以上のモリブデン-含有化合物(a)は、上記フルードの質量を基準として、10質量ppmと1,000質量ppmとの間のモリブデンを該フルードに与えるような量で存在する。より好ましくは、該1種以上のモリブデン-含有化合物(a)は、該フルードの質量を基準として、該フルードに10質量ppmと500質量ppmとの間、例えば50質量ppmと300質量ppmとの間のモリブデンを与えるような量で存在する。
好ましくは、上記油-溶性またはオイル-分散性のモリブデン化合物は、油-溶性またはオイル-分散性の有機モリブデン化合物である。このような有機モリブデン化合物の例として、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、硫化モリブデン等、およびこれらの混合物を挙げることができる。特に好ましいものは、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンアルキルキサンテートおよびモリブデンアルキルチオキサンテートである。特に好ましい有機モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートである。本発明の一態様において、任意の油-溶性またはオイル-分散性のモリブデン化合物は、上記組成物中の唯一のモリブデン原子の源として、モリブデンジチオカルバメートまたはモリブデンジチオホスフェートまたはこれらの混合物の何れかからなっている。本発明の別の態様において、該油-溶性またはオイル-分散性のモリブデン化合物は、上記トランスミッションフルードにおけるモリブデン原子の唯一の源として、モリブデンジチオカルバメートからなっている。
上記モリブデン化合物は単核、二核、三核または四核であり得る。二核および三核モリブデン化合物が好ましい。
【0013】
適切な二核またはダイマー系モリブデンジアルキルジチオカルバメートは、以下の式で表される:
【化3】
【0014】
ここで、R11~R14は、独立に1~24個の炭素原子を持つ直鎖、分岐鎖または芳香族ヒドロカルビル基を示し;およびX1~X4は、独立に酸素原子または硫黄原子を示す。該4つのヒドロカルビル基、R11~R14は、相互に同一または異なっていてもよい。
本発明の上記フルードにおいて有用なその他のモリブデン化合物は、式:Mo(R15OCS2)4およびMo(R15SCS2)4を持つ有機モリブデン化合物であり、そこにおいてR15は、一般的に1~30個の炭素原子、および好ましくは2~12個の炭素原子を持つアルキル、アリール、アラルキルおよびアルコキシアルキルおよび最も好ましくは2~12個の炭素原子を持つアルキルからなる群から選択される有機基である。特に好ましいものは、モリブデンのジアルキルジチオカルバメートである。
適切な三核有機モリブデン化合物は、式:Mo3SkLnQzを持つものおよびその混合物を包含し、該式においてLは、該化合物を上記オイルに対して可溶性または分散性とするのに十分な数の炭素原子を含む有機基を持つ独立に選択されるリガンドであり;nは1~4であり;kは4~7で変動し;Qは中性の電子供与化合物、例えば水、アミン、アルコール、ホスフィン、およびエーテルからなる群から選択され;およびzは0~5の範囲内にあり、かつ非化学量論的な値をも含む。少なくとも21個の全炭素原子、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子が、全ての該リガンドの有機基内に存在すべきである。
【0015】
上記リガンドは、以下のものおよびその混合物からなる群から独立に選択される:
【化4】
【0016】
そこにおいて、X5、X6、X7およびYは、酸素および硫黄からなる群から独立に選択され、およびそこにおいてR16、R17およびR18は、水素および同一または異なっていてもよい有機基から独立に選択される。好ましくは、該有機基はヒドロカルビル基、例えばアルキル(例えば、そこにおいて上記リガンドの残部に結合した炭素原子は一級または二級である)、アリール、置換アリールおよびエーテル基である。より好ましくは、各リガンドは同一のヒドロカルビル基を持つ。
重要なことは、上記リガンドの上記有機基は、上記化合物を上記オイルに対して可溶性または分散性とするのに十分な炭素原子数を持つ。例えば、各基における炭素原子数は、一般に約1~約100、好ましくは約1~約30、およびより好ましくは約4~約20の範囲内であろう。好ましいリガンドは、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート、およびジアルキルジチオカルバメートを含み、これらの中でもジアルキルジチオカルバメートがより好ましい。2種以上の上記官能基を含む有機リガンドも、同様にリガンドとして機能を果たし、またそのコアの1以上に対して結合することができる。当業者は、本発明の該化合物の形成が、該コアの電荷を釣り合わせるために、適切な電荷を持つリガンドを選択する必要があることを認識しているであろう。
【0017】
上記式:Mo
3S
kL
nQ
zを持つ化合物は、アニオン性のリガンドによって包囲されたカチオン性コアを有し、また例えば以下のような構造により表され、かつ+4という正味の電荷を持つ:
【化5】
【0018】
結果として、これらのコアを可溶化するために、該リガンド全てにおける全電荷は、-4でなければならない。4つのモノアニオン性リガンドが好ましい。如何なる理論にも拘泥するつもりはないが、2個以上の三核コアが、1種以上のリガンドによって結合または相互接続される可能性があり、また該リガンドが多座配位性であってもよいものと考えられる。これは、単一のコアに対して多重接続を持つ多座配位子型のリガンドの場合を含む。酸素および/またはセレンは、該コア(1または複数)内の硫黄と置換えることができる。
油-溶性またはオイル-分散性の三核モリブデン化合物は、その適切な液体(1または複数)/溶媒(1または複数)中で、モリブデン源、例えば(NH4)2Mo3S13.n(H2O)を、適切なリガンド源、例えばテトラアルキルチウラムジスルフィドと反応させることにより製造でき、該式においてnは0と2との間で変動し、また非化学量論的な値を含む。その他の油-溶性または分散性の三核モリブデン化合物は、該適切な溶媒(1または複数)内での、モリブデン源、例えば(NH4)2Mo3S13.n(H2O)、リガンド源、例えばテトラアルキルチウラムジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメート、またはジアルキルジチオホスフェート、および硫黄-抜取り(sulfur abstracting)剤、例えばシアニドイオン、スルフィットイオン、または置換ホスフィンの反応中に形成され得る。あるいはまた、三核モリブデン-硫黄ハライド塩、例えば[M']2[Mo3S7A6](ここで、M'は対イオンであり、およびAはCl、BrまたはI等のハロゲンである)は、該適切な液体(1または複数)/溶媒(1または複数)内で、ジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオホスフェート等のリガンド源と反応させて、油-溶性または分散性の三核モリブデン化合物を形成することができる。該適切な液体/溶媒は、例えば水性または有機系であり得る。
【0019】
特に好ましい一態様において、上記1種以上の油-溶性または分散性のモリブデン-含有化合物(a)は、三核モリブデン化合物を含む。
化合物の油-溶性または分散性は、上記リガンドの有機基内の炭素原子数により左右される可能性がある。好ましくは、少なくとも21個の全炭素原子が、該リガンドの全有機基において存在すべきである。好ましくは、選択された該リガンド源は、その有機基内に、該化合物を上記潤滑組成物に対して溶解性または分散性とするのに十分な炭素原子数を持つ。
その他のモリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物を含む。これらの化合物は、ASTMテストD-664またはD-2896の滴定手順によって判断されるように、塩基性窒素化合物と反応するであろうし、また典型的には六価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムおよびその他のアルカリ金属モリブデン酸塩およびその他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム(hydrogen sodium molybdate)、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデンまたは同様な酸性モリブデン化合物が含まれる。あるいはまた、本発明の組成物に対して、例えば米国特許第4,263,152号;同第4,285,822号;同第4,283,295号;同第4,272,387号;同第4,265,773号;同第4,261,843号;同第4,259,195号;および同第4,259,194号;およびWO 94/06897に記載されているように、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によってモリブデンを与えることもできる。
【0020】
異性化アルケニル-置換コハク酸無水物およびポリアミンの反応生成物(b):
反応生成物(b)は以下の構造(II)を持つ:
【化6】
【0021】
ここで、xおよびyは、独立に0または1~30の整数であり、そこでx+yは1~30であり、およびzは0または1~10の整数である。
好ましくは、上記構造(II)において、x+yは8~15であり、およびzは0または1~5の整数である。特に好ましい一態様において、x+y=13であり、およびzは1または3である。
一態様において、反応生成物(b)は、構造(II)を持ち、そこでzが3であり、かつx+y=13である化合物と、構造(II)を持ち、そこでzが1であり、かつx+y=13である化合物との混合物である。
好ましくは、上記反応生成物(b)は、上記トランスミッションフルード内に、該フルードの質量を基準として0.5~10質量%の量で存在する。より好ましくは、該反応生成物(b)は、該トランスミッションフルード内に、該フルードの質量を基準として1~7質量%、例えば2~5質量%の量で存在する。反応生成物(b)が、2種以上の、構造(II)を持つ化合物の混合物である場合、存在する(b)の量は、存在する全ての構造(II)を持つ化合物の総量を意味する。
無灰分散剤(c)
一態様において、本発明の上記オートマチックトランスミッションフルードは、少なくとも1種の分散剤(c)を更に含む。
ポリイソブテニルサクシンイミド、ポリイソブテニルサクシンアミド、ポリイソブテニル-置換コハク酸の混合エステル/アミド、ポリイソブテニル-置換コハク酸のヒドロキシエステル、およびヒドロカルビル-置換フェノール、ホルムアルデヒドおよびポリアミンのマンニッヒ(Mannich)縮合生成物が、上記無灰分散剤として適切である。これら分散剤の混合物も使用することができる。
【0022】
塩基性窒素-含有無灰分散剤は、周知の潤滑油添加剤であり、またその製造方法は、特許文献において広く記載されている。好ましい分散剤は、上記ポリイソブテニルサクシンイミドおよびサクシンアミドであり、そこにおいて該ポリイソブテニル-置換基は、好ましくは炭素原子数40を超える長鎖である。これらの物質は、ポリイソブテニル-置換ジカルボン酸物質と、アミン官能基を含む分子とを反応させることにより容易に製造される。適切なアミンの例はポリアミン、例えばポリアルキレンポリアミン、ヒドロキシ-置換ポリアミンおよびポリオキシアルキレンポリアミンである。ポリアルキレンポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミンおよびペンタエチレンヘキサミンが好ましい。1分子当たりの平均窒素原子数が7を超える混合物も、利用可能である。これらは、一般に重質ポリアミンまたはH-PAMsと呼ばれている。これらの物質は、商品名、例えばダウケミカル(Dow Chemical)からの「HPA」および「HPA-X」、ハンツマンケミカル(Huntsman Chemical)からの「E-100」およびその他の下に市場から入手できる。ヒドロキシ-置換ポリアミンの例は、N-ヒドロキシアルキル-アルキレンポリアミン、例えばN-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、およびUS 4,873,009に記載されている型のN-ヒドロキシアルキル化アルキレンジアミンを含む。典型的には、ポリオキシアルキレンポリアミンの例は、200~2,500の範囲の平均分子量を持つ、ポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンジアミンおよびトリアミンを含む。この型の製品は、ジェファミン(Jeffamine)という商標の下で入手可能である。
当技術において知られているように、上記アミンと上記ポリイソブテニル-置換ジカルボン酸物質(適切には、アルケニルコハク酸無水物またはマレイン酸無水物)との反応は、従来オイル溶液内でこれら反応体を一緒に加熱することによって実現されている。100~250℃という反応温度および1~10時間という反応時間が典型的である。反応率は、大幅に変動する可能性があるが、一般的には0.1~1.0当量というジカルボン酸の単位含有率が、該アミン-含有反応体の反応性当量(reactive equivalent)につき使用される。
【0023】
特に好ましい無灰分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物およびポリアルキレンポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミンまたはH-PAMから形成されるポリイソブテニルサクシンイミドである。該ポリイソブテニル基は、ポリイソブテンを由来とするものであり、また好ましくは750~5,000、例えば900~2,500という範囲の数平均分子量(Mn)を持つ。当技術において知られているように、該分散剤は、後処理に付すことができる(例えば、ホウ素化剤またはリンの無機酸を使用して)。適切な例は、US 3,254,025、US 3,502,677およびUS 4,857,214において与えられている。
好ましくは、存在する場合、上記無灰分散剤は、上記トランスミッションフルードの質量を基準として、0.1質量%と10質量%との間、好ましくは該トランスミッションフルードの質量を基準として0.1質量%と5質量%との間、例えば該トランスミッションフルードの質量を基準として0.5質量%と3質量%との間の量で存在する。2種以上の無灰分散剤の混合物を、該トランスミッションフルードに含めることができ、その場合において、ここで与えられた量は、使用された分散剤混合物の総量を意味する。
好ましい一態様において、上記オートマチックトランスミッションフルードは、該トランスミッションフルードの質量を基準として0.1質量%と10質量%との間の、ポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤(c)または2種以上の異なるポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤(c)の混合物を更に含む。より好ましくは、該オートマチックトランスミッションフルードは、該トランスミッションフルードの質量を基準として0.1質量%と5質量%との間、例えば0.5質量%と3質量%との間のポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤(c)、または2種以上の異なるポリイソブテニル無灰分散剤(c)の混合物を更に含む。ポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤(c)は、ホウ酸化されて(borated)いてもまたはホウ酸化されていなくても、あるいはこれらの混合物であってもよい。
【0024】
潤滑粘度を持つオイル
本発明の全ての局面に関連して、上記潤滑粘度を持つオイルは、当技術において知られているような任意の適切な潤滑油であり得る。適切なオイルは、天然潤滑油、合成潤滑油およびこれらの混合物を由来とするものである。
上記潤滑粘度を持つオイルは、任意の適切な粘度を持つものであり得るが、好ましいものは、低粘度を持つオイルである。典型的には、該潤滑粘度を持つオイルは、40℃において20mm2/s(cSt)以下の動粘度を持つであろう。好ましい潤滑粘度を持つオイルは、40℃にて20~10mm2/s(cSt)、例えば40℃にて14~15mm2/s(cSt)という動粘度を持つ。
天然潤滑油は動物油、植物油(例えば、ヒマシ油およびラード油)、石油系油分、鉱油、および石炭またはシェール由来のオイルを含む。鉱油が好ましい天然オイルである。
適切な鉱油は、全ての通常の鉱油ベースストックを包含する。これは、化学構造においてナフテン系またはパラフィン系のオイルを含む。オイルは酸、アルカリ、およびクレーまたはその他の薬剤、例えば塩化アルミニウムを使用する、従来の方法により精製され、あるいは該オイルは、例えばフェノール、二酸化硫黄、フルフラール、ジクロロジエチルエーテル等の溶媒を用いる溶媒抽出法によって製造される抽出オイルであり得る。これらは水素化精製処理または水素化処理、冷却または接触的脱蝋法による脱蝋、または水素化分解処理に掛けることができる。該鉱油は、天然の粗製の源(crude sources)から製造でき、あるいは異性化ワックス物質または他の精製法由来の残渣で構成されるものであってもよい。
合成潤滑油は、炭化水素油およびハロ-置換炭化水素油、例えばオリゴマー化され、重合され、および共重合されたオレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン、イソブチレンコポリマー、塩素化ポリラクテン(polylactenes)、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)、等およびこれらの混合物);アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)ベンゼン等);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル等);およびアルキル化ジフェニルエーテル、アルキル化ジフェニルスルフィド、並びにこれらの誘導体、類似体および同族体等を含む。
【0025】
この部類の合成オイル由来の好ましいオイルは、グループ(Group) IVベースストック、即ちポリα-オレフィン(PAO)であり、α-オレフィンの水素添加されたオリゴマー、特に1-デセンのオリゴマー、とりわけフリーラジカル法、チーグラー(Ziegler)触媒作用法またはカチオン触媒作用法によって製造されるものを含む。これらは、例えば2~16個の炭素原子を含む分岐または直鎖α-オレフィンのオリゴマーであり得、具体的な例は、ポリプロペン、ポリイソブテン、ポリ-1-ブテン、ポリ-1-ヘキセン、ポリ-1-オクテンおよびポリ-1-デセンを含む。ホモポリマー、インターポリマーおよび混合物が含まれる。
同様に、合成潤滑油はアルケンオキサイドポリマー、インターポリマー、コポリマー、およびこれらの誘導体を含み、そこでその末端ヒドロキシル基はエステル化、エーテル化等により変性されている。この部類の合成オイルは、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドの重合により製造されるポリオキシアルキレンポリマー;これらポリオキシアルキレンポリマーのアルキルおよびアリールエーテル(例えば、1,000という平均分子量を持つメチル-ポリイソプロピレングリコールエーテル、1,000~1,500という分子量を持つポリプロピレングリコールのジフェニルエーテル);およびこれらのモノ-およびポリ-カルボン酸エステル(例えば、テトラエチレングリコールの酢酸エステル、混合C3~C8脂肪酸エステル、およびC12オキソ酸ジエステル)によって例示される。
もう一つの適切な部類の合成潤滑油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸およびアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等)と、様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、へキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等)とのエステルを含む。これらエステルの具体的な例はジブチルアジペート、ジ(2-エチルヘキシル)セバケート、ジ-n-へキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2-エチルヘキシルジエステル、および1モルのセバシン酸と、2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成される複合エステル等を含む。合成オイルのこの部類を由来とするオイルの好ましい型は、C4~C12アルコールのアジペートである。
【0026】
同様に、合成潤滑油として有用なエステルは、C5~C12モノカルボン酸と、ポリオールおよびポリオールエーテル、例えばネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等とから製造されるものをも含む。
上記潤滑粘度を持つオイルは未精製、精製、再精製オイルまたはこれらの混合物を由来とするものであり得る。未精製オイルは天然源または合成源(例えば、石炭、シェール、またはタールサンドビチューメン)から、更なる精製または処理なしに直接得られる。未精製オイルの例は、レトルト操作から直接得られるシェールオイル、蒸留により直接得られる石油系油分またはエステル化工程により直接得られるエステルオイルを含み、これら各々は、その後に更なる処理なしに使用される。精製オイルが、1以上の特性を改善するために、1以上の精製段階で処理されている点を除いて、精製オイルは、該未精製オイルと類似する。適切な精製技術は蒸留、水素化精製、脱蝋、溶媒抽出、酸または塩基抽出、濾過およびパーコレーションを含み、これらの技術全ては、当業者にとって公知である。再精製オイルは、使用済みオイルを、該精製オイルを得るために使用されたものと類似の方法で処理することによって得られる。これらの再精製オイルは、また再生オイルまたは再処理オイルとも呼ばれ、またしばしば、使用済みの添加剤およびオイル分解生成物を除去するための技術により付随的に処理される。
もう一つの部類の潤滑粘度を持つ適切なオイルは、天然ガスフィードストックのオリゴマー化またはワックスの異性化により製造されるようなベースストックである。これらベースストックは、何通りもの呼び方で呼ぶことができるが、一般にこれらはガス-ツー-リキッド(gas-to-liquid)(「GTL」)またはフィッシャー-トロプシュ(Fischer-Tropsch)ベースストックとして知られている。
上記潤滑粘度を持つオイルは、1種以上の上記オイルのブレンドであり得、および天然および合成潤滑油のブレンド(即ち、部分的に合成されたもの)は、本発明の下で明確に意図されている。
【0027】
補助添加剤
オートマチックトランスミッションフルードにおいて普通に見られる添加剤は、本発明に係る上記オートマチックトランスミッションフルード内に含めることができる。適切な補助添加剤は、当業者にとっては公知であろう。幾つかの例を、以後の節において説明する。
金属-含有洗浄剤
これらは当技術において周知であり、また様々な型の潤滑油において広く用いられている。その例は、アルカリまたはアルカリ土類金属と、1種以上の以下の酸性物質(またはその混合物):(1) スルホン酸、(2) カルボン酸、(3) サリチル酸、(4) アルキルフェノール、(5) 硫化アルキルフェノールとの、油溶性の中性または過塩基化された塩を含む。コスト-有効性の、毒物学的なおよび環境的な観点から、このような酸の一般的に好ましい塩は、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムおよびマグネシウムの塩である。
油溶性で中性の金属-含有洗浄剤は、該洗浄剤中に存在する酸性部分の量との関連で、化学量論的に等価な量の金属を含むような洗浄剤である。従って、一般的に該中性洗浄剤は、その過塩基化された方割れと比較した場合に、低い塩基度を持つであろう。
【0028】
金属洗浄剤との関連における上記用語「過塩基化された(overbased)」とは、金属塩であって、そこでその金属が、その有機ラジカルよりも化学量論的に多量に存在するものを示すために使用される。該過塩基化された塩の製造のために普通に使用される方法は、化学量論的に過剰量の金属中和剤、例えば金属酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、または硫化物と共に、酸の鉱油溶液を、約50℃の温度にて加熱する工程、およびその得られる生成物を濾過する工程を含む。同様に、大過剰の金属の組入れを援助するために、該中和段階において「促進剤」を使用することも公知である。該促進剤として有用な化合物の例は、フェノール系物質、例えばフェノール、ナフトール、アルキルフェノール、チオフェノール、硫化アルキルフェノール、およびホルムアルデヒドとフェノール系物質との縮合生成物;アルコール、例えばメタノール、2-プロパノール、オクタノール、セロソルブ(Cellosolve)アルコール、カルビトールアルコール、エチレングリコール、ステアリルアルコール、およびシクロへキシルアルコール;およびアミン、例えばアニリン、フェニレンジアミン、フェノチアジン、フェニル-β-ナフチルアミンおよびドデシルアミンを含む。該塩基性の塩を製造するために特に効果的な方法は、酸と過剰量の塩基性アルカリ土類金属中和剤および少なくとも一つのアルコール促進剤とを混合する工程、および該混合物を高温、例えば60~200℃にて炭酸化する工程を含む。
【0029】
潤滑油において使用される一般の金属-含有洗浄剤の例は、リチウムフェネート、ナトリウムフェネート、カリウムフェネート、カルシウムフェネート、マグネシウムフェネート、硫化リチウムフェネート、硫化ナトリウムフェネート、硫化カリウムフェネート、硫化カルシウムフェネート、および硫化マグネシウムフェネート、そこで各芳香族基は、炭化水素の溶解性を付与するために1種以上の脂肪族基を持つ;リチウムスルホネート、ナトリウムスルホネート、カリウムスルホネート、カルシウムスルホネート、およびマグネシウムスルホネート、そこで各スルホン酸部分は、芳香核に結合しており、また順に該芳香核は通常、炭化水素の溶解性を付与するために、1種以上の脂肪族置換基を含む;リチウムサリチレート、ナトリウムサリチレート、カリウムサリチレート、カルシウムサリチレート、およびマグネシウムサリチレート、そこでその芳香族部分は、通常炭化水素溶解性を付与するために、1種以上の脂肪族置換基で置換されている;10~2,000個の炭素原子を持つ加水分解されたリン硫化オレフィンまたは10~2,000個の炭素原子を持つ加水分解されたリン硫化アルコールおよび/または脂肪族-置換フェノール系化合物のリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩;脂肪族カルボン酸および脂肪族-置換脂環式カルボン酸のリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウム塩;および油-溶性有機酸の多くのその他の同様なアルカリおよびアルカリ土類金属塩等の物質の中性および過塩基化された塩を含むが、これらに限定されない。2種以上の異なるアルカリおよび/またはアルカリ土類金属の中性または過塩基化された塩の混合物が使用される。同様に、2種以上の異なる酸からなる混合物の中性および/または過塩基化された塩(例えば、1種以上の過塩基化されたカルシウムフェネートと、1種以上のカルシウムフェネート)も使用される。
【0030】
油溶性の中性および過塩基化された金属洗浄剤およびアルカリ土類金属-含有洗浄剤の製造方法は、当業者にとって周知であり、また特許文献において広く報告されている。
金属-含有洗浄剤はホウ素化することができる。ホウ素化金属洗浄剤の製造方法は、当業者にとっては周知であり、また特許文献において広く報告されている。
好ましくは、金属-含有洗浄剤は、存在する場合、本発明に係る上記オートマチックトランスミッションフルード内に、該フルードの質量を基準として、該フルードに10質量ppmと1,000質量ppmとの間の金属を与えるような量で存在する。より好ましくは、本発明に係る該オートマチックトランスミッションフルードは、1種以上の金属-含有洗浄剤を、該フルードの質量を基準として、該フルードに10質量ppmと500質量ppmとの間、例えば50質量ppmと300質量ppmとの間の金属を与えるような量で含む。好ましい態様において、該金属-含有洗浄剤は、カルシウム-含有洗浄剤を含む。
【0031】
油溶性リン化合物
油溶性リン化合物は、任意の適切な型のものであり得、また異なる化合物の混合物であってもよい。典型的には、このような化合物は耐磨耗保護性(anti-wear protection)を与えるために使用される。唯一の制限は、該物質が上記オートマチックトランスミッションフルード内での溶解、および該フルードにおけるその作用部位への輸送を可能とするように、油溶性であるべきことである。適切なリン化合物の例は、ホスフィットおよびチオホスフィット(そのモノ-アルキル、ジ-アルキル、トリ-アルキルおよび加水分解されたまたは部分的に加水分解された類似体);ホスフェートおよびチオホスフェート;無機リン化合物、例えば亜リン酸(phosphorus acid)、リン酸またはそれらのチオ-類似体;リン酸アミンである。特に適切なリン化合物の例は以下の構造により表されるモノ-、ジ-およびトリ-アルキルホスフィット:
【化7】
および以下の構造によって表されるトリアルキルホスフェートを含む:
【化8】
【0032】
ここで、基R5、R6およびR7は、同一または異なっていてもよく、また上に定義されたようなヒドロカルビル基またはアリール基、例えばフェニルまたは置換フェニルであり得る。付随的に、あるいはまた上記構造における1以上の酸素原子は、硫黄原子で置換えて、他の適切なリン化合物とすることができる。
好ましい油溶性リン化合物は、基R5およびR6およびR7(存在する場合)が、線状アルキル基、例えばブチル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシルおよびオクタデシルであるようなものであり、またより好ましい態様では該対応する基は、チオエーテル結合を含むものである。分岐した基も、同様に適している。化合物の非限定的な例は、ジブチルホスフィット、トリブチルホスフィット、ジ-2-エチルヘキシルホスフィット、トリ-ラウリルホスフィットおよびトリラウリル-トリチオホスフィットおよび上記の基R5およびR6およびR7(存在する場合)が、3-チオヘプチル、3-チオノニル、3-チオウンデシル、3-チオトリデシル、5-チオヘキサデシルおよび8-チオオクタデシルである対応するホスフィットを含む。最も好ましいアルキル-ホスフィットは、US 5,185,090およびUS 5,242,612に記載されているものである。
任意の有効量の油溶性リン化合物を使用し得るが、典型的にはその使用量は、例えば上記動力伝達フルードに、該フルードの単位質量当たり10~1,000、好ましくは100~750、より好ましくは200~500質量百万分率(part per million by mass)(ppm)の元素状のリンを与えるような量であろう。
【0033】
腐蝕抑制剤
腐蝕抑制剤は金属の腐蝕を減じるために使用され、またしばしばその代わりに、金属不活性化剤または金属不動態化剤と呼ばれている。適切な腐蝕抑制剤は、窒素および/または硫黄-含有ヘテロ環式化合物、例えばトリアゾール(例えば、ベンゾトリアゾール)、置換チアジアゾール、イミダゾール、チアゾール、テトラゾール、ヒドロキシキノリン、オキサゾリン、イミダゾリン、チオフェン、インドール、インダゾール、キノリン、ベンズオキサジン、ジチオール、オキサゾール、オキサトリアゾール、ピリジン、ピペラジン、トリアジンおよびこれらの内の任意の1種以上に係る誘導体である。好ましい腐蝕抑制剤は、以下の構造により表されるベンゾトリアゾールである:
【化9】
【0034】
ここにおいて、R8は、存在しないか、あるいは線状または分岐で、飽和または不飽和であり得る、C1~C20ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビル基である。これは、特性上アルキルまたは芳香族性であり、および/またはN、OまたはS等のヘテロ原子を含むリング構造を含むことができる。適切な化合物の例はベンゾトリアゾール、アルキル-置換ベンゾトリアゾール(例えば、トリルトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、へキシルベンゾトリアゾール、オクチルベンゾトリアゾール等)、アリール-置換ベンゾトリアゾールおよびアルキルアリール-またはアリールアルキル-置換ベンゾトリアゾールである。好ましくは、該トリアゾールは、ベンゾトリアゾールまたはアルキルベンゾトリアゾールであり、後者におけるアルキル基は、1~約20個の炭素原子、好ましくは1~約8個の炭素原子を含む。ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールが、特に好ましい。
【0035】
もう一つの好ましい腐蝕抑制剤は、以下の構造によって表される置換チアジアゾールである:
【化10】
ここで、R
9およびR
10は、独立に水素または炭化水素基であり、該基は脂肪族または芳香族であり得、環式、脂環式、アラルキル、アリールおよびアルカリールを含む。これら置換チアジアゾールは、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(DMTD)分子から誘導される。DMTDの多くの誘導体が、当技術において記載されており、また任意のこのような化合物を、本発明で使用される上記トランスミッションフルードに含めることができる。US 2,719,125、US 2,719,126および3,087,937は、様々な2,5-ビス-(炭化水素ジチオ)-1,3,4-チアジアゾールの製造を説明している。
【0036】
DMTDのその他の誘導体も、同様に有用である。これらは、上記カルボン酸エステルであって、そこでR9およびR10がカルボニル基を介してそのスルフィドの硫黄原子に結合されているものを含む。これらのチオエステル含有DMTD誘導体の製造は、US 2,760,933に記載されている。DMTDと、少なくとも10個の炭素原子を持つα-ハロゲン化脂肪族モノカルボン酸との縮合によって製造されるDMTD誘導体は、US 2,836,564に記載されている。この方法は、R9およびR10が、HOOC-CH(R19)-(R19はヒドロカルビル基である)であるDMTD誘導体を生成する。更に、これらの末端カルボン酸基のアミド化またはエステル化によって製造されるDMTD誘導体も、同様に有用である。
2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾールの製造は、US 3,663,561において記載されている。
好ましい部類のDMTD誘導体は、上記2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾールと上記2,5-ビス-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールとの混合物である。このような混合物は、商品名ハイテック(Hitec) 4313の下に市販されている。
腐蝕抑制剤は、任意の有効量で使用し得るが、これらは、典型的には上記トランスミッションフルードの質量を基準として約0.001~5.0質量%、好ましくは0.005~3.0質量%、最も好ましくは0.01~1.0質量%という量で使用される。
【0037】
当技術において公知のその他の添加剤を、上記トランスミッションフルードに添加することができる。これらは、他の磨耗防止剤、極圧添加剤、酸化防止剤、粘度調整剤等を包含する。これらは、典型的には、例えば「潤滑油添加剤(Lubricant Additives)」, C.V. Smallheer & R. Kennedy Smith, 1967, pp 1-11において開示されている。
上記必要とされる添加剤(a)および(b)、および使用される場合における随意の添加剤(c)およびその他の添加剤は、上記オートマチックトランスミッションフルードを形成するために、上記潤滑粘度を持つオイルに対して別々に添加することができ、あるいはより便宜的にはこれらは該オイルに対して、キャリア流体または溶媒に溶解されまたは分散された、該必要とされる化合物を含有する添加剤濃縮物または「添加剤パッケージ」として添加することができる。従って、更なる局面において、本発明は添加剤濃縮物を提供するものであり、該濃縮物は、両者共に上記第一の局面に関連して定義された如き、0.1質量%と10質量%との間の化合物(a)および5~30質量%の反応生成物(b)、30質量%までの無灰分散剤(c)、および随意の1種以上のその他の添加剤を含んでおり、該濃縮物の残部はキャリア流体または溶媒である。
当業者には周知であろう如く、上記添加剤濃縮物に関連して、そのキャリア流体または溶媒は、任意の適切な流体であり得、そこで該流体に対して、該添加剤は容易に溶解しまたは分散され、また該流体は、同様に上記オートマチックトランスミッションフルードを形成するのに使用される上記潤滑粘度を持つオイルと相溶性である。その例は、先に記載されたような潤滑粘度を持つオイルおよび溶媒、例えばソルベッソ(Solvesso)という商品名の下に販売されているものを含む。
典型的に、上記添加剤濃縮物は、上記オートマチックトランスミッションフルードを形成するための潤滑粘度を持つオイルに対して、該フルードの質量を基準として、5質量%と50質量%との間の量で添加されるであろう。好ましくは、該添加剤濃縮物は、該オートマチックトランスミッションフルードを形成するための潤滑粘度を持つオイルに対して、該フルードの質量を基準として、5質量%と20質量%との間の量で添加されるであろう。
【実施例】
【0038】
今から、本発明を、単なる非限定的な実施例を通して説明しよう。
3種のトランスミッションフルードを、以下の表に記載されているように製造した:
【表1】
(i) 二核モリブデンジアルキルジチオカルバメート(モリバン(Molyvan
TM) 822);
(ii) 三核モリブデンジアルキルジチオカルバメート;
(iii) 構造(II)を持つ生成物、該構造においてz = 1およびx + y = 13;
(iv) 構造(II)を持つ生成物、該構造においてz = 3およびx + y = 13;
(v) ホウ酸化ポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤;
(vi) 非-ホウ酸化ポリイソブテニルサクシンイミド無灰分散剤;
(vii) サリチル酸カルシウム洗浄剤。
【0039】
実施例1および実施例2は、本発明に係る実施例であり、また比較(Comp.)は比較例であり、そこではモリブデン化合物は全く使用されていなかった。また、全ての実施例は、オートマチックトランスミッションフルードにおいて普通に見られる従来の添加剤をも含んでおり、それらは、腐蝕抑制剤、油溶性リン化合物の形状にある酸化防止剤極圧/磨耗防止添加剤、および粘度調整剤を含んでいた。各フルードの残部は、2種のAPIグループIIIベースオイルの混合物であった。
【0040】
各フルードは、ペーパーオンスチール(POS)静止摩擦および動的スチールオンスチール(SOS)摩擦を決定すべくテストされた。POSは、小型の低速滑り摩擦試験装置(Low Velocity Friction Apparatus)(LVFA)上で、SAE1035バレル研磨スチールプレートに対して、D600繊維プレートを使用して測定された。この方法は、80℃および120℃にて、6、30および60分後の、傾斜路(ramp)および静止摩擦測定からなっている。80℃および120℃における静止摩擦を、フルード同士で比較した。SOS摩擦は、JASO M358-2005法を用いて、ファレックスブロックオンリング(Falex block-on-ring)装置上で測定された。1.00m/s、0.25m/s、および0.025m/sにおける摩擦測定値を、これらフルード間で比較した。結果を、以下の表に示した。
【表2】
【0041】
上記結果は、本発明に係る実施例が、上記比較例に比してPOS摩擦を維持していたが、より一層改善されたSOS摩擦を与えたことを示している。特に良好なSOS摩擦は、実施例2の上記三核モリブデン化合物を使用して実現された。
【0042】
実施例2および比較例のフルードは、同様にFTP-75ヒュエルエコノミー(Fuel Economy)テストサイクルを利用して、輸送機関内でもテストされた。使用された輸送機関は、6-速式トランスアクスルオートマチックトランスミッションを備えた、ヒュンダイアゼラベース(Hyundai Azera Base) 3.3L, V6 (USモデル(US Model))であった。結果を、以下の表に示した。
【表3】
【0043】
実施例2に関する全体的な燃費効率増加は、0.9%であった。これは統計的優位性に係る0.2%という限界を超えるものと考えられる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕大量の潤滑粘度を持つオイルおよび少量の、(a) 1種以上の油-溶性または分散性モリブデン-含有化合物および(b) 異性化アルケニル-置換コハク酸無水物と、以下の構造(II)によって特徴付けられるポリアミンとの反応生成物を含む、オートマチックトランスミッションフルード:
ここで、xおよびyは、独立に0または1~30の整数であり、そこでx+yは1~30であり、またzは0または1~10の整数である。
〔2〕前記モリブデン-含有化合物(a)が、前記フルードに、該フルードの全質量を基準として約10質量百万分率と~約1,000質量百万分率との間のモリブデンを与えるような量で存在する、前記〔1〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔3〕前記反応生成物(b)が、前記フルードの全質量を基準として、約0.5~約10質量%の量で存在する、前記〔1〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔4〕前記反応生成物(b)が、前記フルードの全質量を基準として、約0.5~約10質量%の量で存在する、前記〔2〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔5〕前記1種以上の油-溶性または分散性のモリブデン-含有化合物(a)が、モリブデンジアルキルジチオカルバメート、モリブデンジアルキルジチオホスフェート、モリブデンアルキルキサンテート、モリブデンアルキルチオキサンテート、またはこれらの混合物を含む、前記〔1〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔6〕前記1種以上の油-溶性または分散性のモリブデン-含有化合物(a)が、三核モリブデン化合物を含む、前記〔1〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔7〕前記1種以上の油-溶性または分散性のモリブデン-含有化合物(a)が、三核モリブデンジアルキルジチオカルバメート化合物を含む、前記〔6〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔8〕x+yが8~15であり、かつzがゼロまたは1~5の整数である、前記〔1〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔9〕x+y=13であり、かつzが1または3である、前記〔8〕記載のオートマチックトランスミッションフルード。
〔10〕添加剤濃縮物であって、該濃縮物の全質量を基準として約0.1~約10質量%の(a) 1種以上の油-溶性または分散性モリブデン-含有化合物;および該濃縮物の全質量を基準として約5~約30質量%の(b) 異性化アルケニル-置換コハク酸無水物と、以下の構造(II)によって特徴付けられるポリアミンとの反応生成物;該濃縮物の全質量を基準として約30質量%までの無灰分散剤(c);および随意の1種以上の他の添加剤を含み、該濃縮物の残部がキャリア流体または溶媒である、前記添加剤濃縮物:
そこで、xおよびyは独立にゼロまたは1~30の整数であり、そこでx+yは1~30であり、およびzはゼロまたは1~10の整数である。
〔11〕オートマチックトランスミッションフルードであって、該フルードの全質量を基準として約5~約50質量%の、前記〔10〕記載の添加剤濃縮物を含み、その残部が潤滑粘度を持つオイルである、前記フルード。
〔12〕オートマチックトランスミッションを備えた輸送機関の燃料経済性を改善する方法であって、該方法が、該オートマチックトランスミッションを、前記〔1〕記載のオートマチックトランスミッションフルードで潤滑処理する工程を含む、前記方法。
〔13〕オートマチックトランスミッションを備えた輸送機関の燃料経済性を改善する方法であって、該方法が、該オートマチックトランスミッションを、前記〔9〕記載のオートマチックトランスミッションフルードで潤滑処理する工程を含む、前記方法。
〔14〕オートマチックトランスミッションを備えた輸送機関の燃料経済性を改善する方法であって、該方法が、該オートマチックトランスミッションを、前記〔11〕記載のオートマチックトランスミッションフルードで潤滑処理する工程を含む、前記方法。