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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】着色樹脂粒子のエタノール分散体
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20230721BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20230721BHJP
   C08F 2/44 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
C08L33/06
C08K5/05
C08F2/44 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019004349
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020111692
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 久人
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-030074(JP,A)
【文献】特開平09-291248(JP,A)
【文献】特開平10-077435(JP,A)
【文献】特開平10-046094(JP,A)
【文献】特開平11-140372(JP,A)
【文献】特開平10-176130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/06
C08K 5/05
C08F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒中のエタノールが25質量%以上であり、着色樹脂粒子は、少なくとも、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量がポリマー成分全量に対して、10質量%以上と、水への溶解度が10質量%以下となるカルボキシル基含有ビニルモノマーである下記A群から選ばれる少なくとも1種と、塩基性染料又は油溶性染料とで構成されることを特徴とする着色樹脂粒子のエタノール分散体。
A群:コハク酸-2-メタクリロイルオキシエチル、マレイン酸-2-メタクリロイルオキシエチル、フタル酸-2-メタクリロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸-2-メタクリロイルオキシエチル
【請求項2】
ポリマー成分としてメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルを含むことを特徴とする請求項1記載の着色樹脂粒子のエタノール分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色性、安定性などの色材としての機能に加えて、分散安定性、耐光性、耐水性に優れる着色樹脂粒子のエタノール分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特定のポリマー構成を有する樹脂エマルションを染料で染色して、疑似顔料とも呼ばれる色材として利用することが知られている。
【0003】
例えば、1)重合性界面活性剤の存在下で水溶性塩基性染料が溶解された酸性官能基を有するビニルモノマーを乳化重合して調製された水性インキ用着色樹脂粒子水性分散液(例えば、特許文献1参照)、2)重合性界面活性剤の存在下でビニルモノマーを乳化重合してえられる乳化重合液に水溶性染料を溶解した液を加熱処理してなるインキ用着色樹脂粒子水性分散液(例えば、特許文献2参照)、3)水溶性塩基性染料を溶解した酸性官能基を有するビニルモノマーとシアノ基を有するビニルモノマーを含む混合ビニルモノマーを重合性界面活性剤の存在下で乳化共重合してなる着色樹脂粒子水性分散液(例えば、特許文献3参照)、4)染料で染色された、シアノ基含有ビニルモノマー(A)、及び、特定式に示されるビニルモノマー(B)及びビニルモノマー(C)の一方または両方を構成モノマーとして含む共重合体からなる樹脂粒子を含有することを特徴とする水性インキ(例えば、特許文献4参照)が知られている。これらの着色樹脂粒子の分散媒の殆どは水が用いられている。
【0004】
上記特許文献1~4に記載の各着色樹脂粒子の色材は、発色性、安定性などに総合的に優れた性質を有している。しかしながら、塗布面の乾燥速度が遅いため汚染の原因となる。特に、プラスチック、金属、コート紙など液体浸透性の乏しい対象物に塗布した場合に顕著となる。また、上記特許文献1~4に記載の各着色樹脂粒子の分散媒の殆どは水が用いられており、分散媒をエタノールにした場合にも、分散安定性、耐光性、耐水性などの性能を発揮できることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-259337号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開平10-77435号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開平10-77436号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【文献】特開2001-181544号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の現状等に鑑み、これを解消しようとするものであり、発色性、安定性などの色材としての機能に加えて、分散安定性、耐光性、耐水性に優れる着色樹脂粒子のエタノール分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来の現状等に鑑み、鋭意研究を行った結果、分散媒中のエタノールを25質量%以上とし、着色樹脂粒子を構成する全ポリマー成分のうち、特定のポリマー成分の合計量を特定値以上とすることなどにより、上記目的の着色樹脂粒子のエタノール分散体が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明は、着色樹脂粒子のエタノール分散体は、分散媒中のエタノールが25質量%以上であり、着色樹脂粒子を構成する全ポリマー成分のうち、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量が10質量%以上であることを特徴とする。
前記ポリマー成分としてメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発色性、安定性などの色材としての機能に加えて、分散安定性、耐光性、耐水性に優れる着色樹脂粒子のエタノール分散体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の着色樹脂粒子のエタノール分散体は、分散媒中のエタノールが25質量%以上であり、着色樹脂粒子を構成する全ポリマー成分のうち、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量が10質量%以上であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明に用いる着色樹脂粒子を構成する全ポリマー成分のうち、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量がポリマー成分全量に対して、10質量%以上とすることが必要となる。
これらの成分は、骨格モノマーとなるものであり、アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数4のアルコールとのエステルであり、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも1種を好適に示すことができる。なお、上記「(メタ)アクリル酸」の表記は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を表す。
これ以外の成分となるアクリル酸又はメタクリル酸と炭素数4以外のアルコールとのエステルでは、エタノール分散体とした場合、得られる着色樹脂粒子の分散安定性、耐光性、耐水性などの何れか1つ以上が劣ることとなる。
【0012】
また、用いる(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量がポリマー成分全量に対して、10質量%未満では、特に分散安定性が得られず、好ましくない。
好ましくは、分散安定性の点から用いる(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量がポリマー成分全量に対して、10質量%~60質量%とすることが望ましく、さらに望ましくは10質量%~40質量%である。
【0013】
本発明において、着色樹脂粒子を構成する全ポリマー成分のうち、上記(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分の他に、種々のモノマーを用いることができるが、より高い色濃度で着色する場合は、酸性官能基として水への溶解度が10質量%以下のカルボキシル基含有ビニルモノマーを用いることが望ましい。
これらのカルボキシル基含有ビニルモノマーは、発色モノマーとなるものであり、エタノール分散体とすることなどを勘案すれば、水への溶解度が10質量%以下であることが好ましく、カルボキシル基の酸性官能基を有するビニルモノマーであれば特に限定されず、例えば、コハク酸-2-メタクリロイルオキシエチル〔三菱レイヨン(株)製、アクリルエステルSA、水への溶解度:1.86質量%〕、マレイン酸-2-メタクリロイルオキシエチル〔三菱レイヨン(株)製、アクリルエステルML、水への溶解度:9.17質量%〕、フタル酸-2-メタクリロイルオキシエチル〔三菱レイヨン(株)製、アクリルエステルPA、水への溶解度:0.08質量%〕、ヘキサヒドロフタル酸-2-メタクリロイルオキシエチル〔三菱レイヨン(株)製、アクリルエステルHH、水への溶解度:3.40質量%〕などの少なくとも1種(各単独又は二種以上の混合、以下同様)が好ましく用いることができる。
特に好ましくは、エタノール分散体であっても、十分な発色性を付与する点から、フタル酸-2-メタクリロイルオキシエチルの使用が望ましい。
【0014】
本発明において、水への溶解度が10質量%以下となるカルボキシル基含有ビニルモノマーを用いると、上記(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分との混合モノマー中の酸性モノマーの割合を高めることができ、従って、塩基性染料や油溶性染料などの各種染料のビニルモノマーへ混和できる量が非常に多くなり、その結果、色の濃い発色性に優れ、エタノール分散体とした場合に、発色性などの色材としての機能に加えて、分散安定性、耐光性、耐水性に優れる着色樹脂粒子のエタノール分散体を得ることができる。
本発明に用いることができる染料としては、着色樹脂粒子に用いられる各種染料を用いることができ、発色性、分散安定性、および染料とモノマーの結合力などの点から、好ましくは、塩基性染料又は油溶性染料を用いることが望ましい。
【0015】
本発明に用いる塩基性染料としては、例えば、ジ及びトリアリールメタン系染料;アジン系(ニグロシンを含む)、オキサジン系、チアジン系等のキノンイミン系染料;キサンテン系染料;トリアゾールアゾ系染料;チアゾールアゾ系染料;ベンゾチアゾールアゾ系染料;アゾ系染料;ポリメチン系、アゾメチン系、アザメチン系等のメチン系染料;アントラキノン系染料;フタロシアニン系染料等の塩基性染料などの少なくとも1種が挙げられ、好ましくは、水溶性の塩基性染料が望ましい。
用いることができる具体的な黄色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックイエロー(Basic Yellow)-1、-2、-9、-11、-12、-13、-14、-15、-19、-21、-23、-24、-25、-28、-29、-32、-33、-34、-35、-36、-40、-41、-51、-63、-73、-80等のCOLOR INDEXに記載されている染料が挙げられる。また、市販されている黄色塩基性染料としては、AIZEN CATHILON YELLOW GPLH(保土谷化学工業社製の商品名)等が挙げられる。
橙色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックオレンジ(Basic Orange)-1、-2、-7、-14、-15、-21、-22、-23、-24、-25、-30、-32、-33、-34等のCOLOR INDEXに記載されている染料が挙げられる。
赤色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックレッド(Basic Red)-1、-1:1、-2、-3、-4、-8、-9、-12、-13、-14、-15、-16、-17、-18、-22、-23、-24、-25、-26、-27、-29、-30、-32、-34、-35、-36、-37、-38、-39、-40、-41、-42、-43、-46、-49、-50、-51、-52、-53等のCOLOR INDEXに記載されている染料が挙げられる。また、市販されている赤色塩基性染料としては、AIZEN CATHILON RED BLH、AIZEN CATHILON RED RHなど(以上、保土谷化学工業社製の商品名)、Diacryl Supra Brilliant Red 2Gなど(三菱化学社製の商品名)、Sumiacryl Red B(住友化学社製の商品名)等が挙げられる。
【0016】
紫色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックバイオレット(Basic Violet)-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-10、-11、-11:1、-12、-13、-14、-15、-16、-18、-21、-23、-24、-25、-26、-27、-28、-29、-33、-39等のCOLOR INDEXに記載されている染料が挙げられる。
青色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックブルー(Basic Blue)-1、-2、-3、-5、-6、-7、-8、-9、-15、-18、-19、-20、-21、-22、-24、-25、-26、-28、-29、-33、-35、-37、-40、-41、-42、-44、-45、-46、-47、-49、-50、-53、-54、-58、-59、-60、-62、-63、-64、-65、-66、-67、-68、-69、-70、-71、-75、-77、-78、-79、-82、-83、-87、-88、等のCOLOR INDEXに記載されている染料が挙げられる。また、市販されている青色塩基性染料としては、AIZEN CATHILON TURQUOISE BLUE LH(保土谷化学工業社製の商品名)等が挙げられる。
緑色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックグリーン(Basic Green)-1、-4、-6、-10等のCOLOR INDEXに記載されている染料が挙げられる。また、市販されている緑色塩基性染料としては、Diacryl Supra Brilliant Green 2GL(三菱化学社製の商品名)等が挙げられる。
茶色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックブラウン(Basic Brown)-1、-2、-4、-5、-7、-11、-12、-13、-15のCOLOR INDEXに記載されている染料が挙げられる。また、市販されている茶色塩基性染料としては、Janus Brown R(日本化学社製の商品名)、AIZEN CATHILON BROWN GH(保土谷化学工業社製の商品名)等が挙げられる。
黒色塩基性染料の例としては、C.I.ベーシックブラック(Basic Black)-1、-2、-3、-7、-8等のCOLOR INDEXに記載されている染料或いはニグロシン系塩基性染料が挙げられる。
【0017】
本発明に用いる油溶性染料としては、一般に市販されているモノアゾ、ジスアゾ、金属錯塩型モノアゾ、アントラキノン、フタロシアニン、トリアリールメタン等が挙げられる。また、酸・塩基性染料等の官能基を疎水基で置換した造塩タイプ油溶性染料も使用することができる。
黄色系としては、C.I.ソルベントイエロー16、29、30、33、79、82、93、98、114、116;オレンジ系としては、C.I.ソルベントオレンジ62,67;赤色系としては、C.I.ソルベントレッド18、49、122、146、218;青色系としては、C.I.ソルベントブルー5、36、44、63、70、83、105、111;黒色系としては、C.I.ソルベントブラック3、7、27、29、34;等がそれぞれ挙げられる。
具体的な市販油溶性染料としては、青染料SBNブルー701(保土谷化学工業社製)、青染料オイルブルー650(オリエント化学工業社製)、赤染料SOC-1-0100(オリエント化学工業社製)、オイルブラック860(オリエント化学工業社製)等を挙げることができる。
【0018】
本発明の着色樹脂粒子のエタノール分散体は、例えば、着色樹脂粒子を構成する全ポリマー成分のうち、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量がポリマー成分全量に対して、10質量%以上と、上記酸性官能基として水への溶解度が10質量%以下のカルボキシル基含有ビニルモノマーと、塩基性染料又は油溶性染料等とで構成される着色樹脂粒子が、エタノールが25質量%以上の分散媒中に分散されているものであり、その製造方法としては、例えば、上記酸性官能基として水への溶解度が10質量%以下のカルボキシル基含有ビニルモノマーと、上記(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量が10質量%以上である混合モノマーに塩基性染料又は油溶性染料等を溶解し、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素などを重合開始剤として、また還元剤を更に併用した重合開始剤とし、更に必要に応じて重合性界面活性剤を用いて乳化重合することなどにより製造することができる。また、上記染色は重合と同時に行ったが、重合後に塩基性染料又は油溶性染料等を溶解して染色を行っても良い。
【0019】
本発明において、上記乳化重合の際には、上記各成分以外に、メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルや、他の疎水性ビニルモノマーを混合して乳化重合を行ってもよい。メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルを更に用いると、分散安定性をさらに高めることができる。このメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルの使用量は、ポリマー成分全量に対して、5~20質量%が望ましい。
【0020】
また、用いることができる疎水性ビニルモノマーとしては、特に制限することはなく、例えば、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン類などが挙げられる。また、該乳化重合において、エポキシ基、ヒドロキシメチルアミド基、イソシアネート基などの反応性架橋基を有するモノマーや2つ以上のビニル基を有する多官能性モノマーを配合して架橋してもよい。
【0021】
本発明において、前記着色樹脂粒子を構成するポリマー成分のうち、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の合計量が10質量%以上と、上記カルボキシル基含有ビニルモノマーなどの合計含有量は、発色性、安定性などの色材としての機能に加えて、分散安定性、耐光性、耐水性を向上させ本発明の効果を更に発揮せしめる点から、ポリマー構成中50質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは、60質量%~90質量%が望ましい。
特に好ましくは、上記(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の合計量が10~40質量%、上記カルボキシル基含有ビニルモノマーの含有量が10~40質量%、メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルが、5~20質量%であることが望ましい。
【0022】
本発明において、上記塩基性染料又は油溶性染料など染料の含有量は、発色性、耐候性、安定性などの色材としての機能の点から、モノマー全量に対して、好ましくは、0.2~50質量%、更に好ましくは、0.5~10質量%とすることが望ましい。
【0023】
上記必要に応じて用いることができる重合性界面活性剤としては、上記乳化重合に通常用いられる重合性界面活性剤であれば特に制限はないが、例えば、重合性界面活性剤としては、アニオン系またはノニオン系の重合性界面活性剤であり、アデカ(株)製のアデカリアソープNE-10、同NE-20、同NE-30、同NE-40、同SE-10N、花王(株)製のラテムルS-180、同S-180A、同S-120A、三洋化成工業(株)製のエレミノールJS-20などの少なくとも1種が挙げられる。これらの重合性界面活性剤の使用量は、上記モノマー全量に対して、0~50質量%、好ましくは、0.1~50質量%が望ましい。
【0024】
本発明において、上記好ましい態様、具体的には、上記酸性官能基として水への溶解度が10質量%以下のカルボキシル基含有ビニルモノマーと、上記(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルから選ばれる少なくとも一つ以上の成分合計量が10質量%以上である混合モノマーに、上述の如く塩基性染料又は油溶性染料等を溶解し、乳化重合することにより、または、少なくとも、上記混合モノマーの重合後に塩基性染料又は油溶性染料等を溶解して染色することにより、樹脂固形分として20~50質量%の着色樹脂粒子がエタノールに分散されている着色樹脂粒子のエタノール分散体が得られることとなる。
得られる上記着色樹脂粒子のエタノール分散体は、発色性、安定性などの色材としての機能に加えて、分散安定性、耐光性、耐水性に優れるので、サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具用、スタンプ用、印刷用、インクジェット記録用などの色材として好適に用いることができる。
また、本発明において、得られる着色樹脂粒子のエタノール分散体における着色樹脂粒子の平均粒子径は、各モノマー種、含有量、重合の際の重合条件等により変動するものであるが、0.8μm以下となるものであり、特にサインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具のペン芯において目詰まりすることなく、また、分散安定性などに優れたものとなるので筆記具用、インクジェット記録などとして特に有用である。なお、本発明で規定する「平均粒子径」は、粒度分布測定装置〔FPAR1000(大塚電子製)〕にて、測定したD50の値である。
【実施例
【0025】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1~8及び比較例1~5〕
下記調製法により実施例1~8及び比較例1~5の各着色樹脂粒子のエタノール分散体を調製した。
(実施例1)
2リットルのフラスコに、撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管、モノマー投入用1000ml分液漏斗を取り付け、温水槽にセットし、エタノール500g、重合性界面活性剤〔アデカ社製、「アデカリアソープSE-10N」〕50gおよび過硫酸アンモニウム3gを仕込んで、窒素ガスを導入しながら、内温を50℃まで昇温した。
【0027】
フタル酸-2-メタクリロイルオキシエチル〔三菱レイヨン(株)製、アクリルエステルPA〕300g、メタクリル酸-n-ブチル180gからなる混合モノマー480gに、水溶性塩基性染料〔保土谷化学工業(株)製、「AIZEN CATHILON RED BLH 200%」〕40gを混合した液を調製した。
この調製液を上記分液漏斗から温度50℃付近に保った上記フラスコ内に撹拌下で3時間にわたって添加し、乳化重合を行った。さらに5時間熟成して重合を終了し、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0028】
(実施例2)
上記実施例1において、メタクリル酸-n-ブチルに替わりアクリル酸-iso-ブチル180gを用いた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0029】
(実施例3)
上記実施例1において、メタクリル酸-n-ブチルに替わりアクリル酸-tert-ブチル180gを用いた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0030】
(実施例4)
上記実施例1において、メタクリル酸-n-ブチルに替わりアクリル酸-n-ブチル180gを用いた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0031】
(実施例5)
上記実施例1において、メタクリル酸-n-ブチル50gを用いた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0032】
(実施例6)
上記実施例1において、メタクリル酸メチル45gをさらに加えた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0033】
(実施例7)
上記実施例2において、メタクリル酸メチル80gをさらに加えた以外は、上記実施例2と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0034】
(実施例8)
上記実施例1において、メタクリル酸エチル60gをさらに加えた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0035】
(比較例1)
上記実施例1において、メタクリル酸-n-ブチルに替わりメタクリル酸メチル180gを用いた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0036】
(比較例2)
上記実施例2において、アクリル酸-iso-ブチルに替わりメタクリル酸メチル180gを用いた以外は、上記実施例2と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0037】
(比較例3)
上記実施例3において、アクリル酸-tert-ブチルに替わりメタクリル酸メチル180gを用いた以外は、上記実施例3と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0038】
(比較例4)
上記実施例4において、アクリル酸-n-ブチルに替わりメタクリル酸メチル180g用いた以外は、上記実施例4と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0039】
(比較例5)
上記実施例1において、メタクリル酸-n-ブチル30gを用いた以外は、上記実施例1と同様にして、着色微粒子のエタノール分散体を得た。
【0040】
(筆記具用油性インク組成物の調製)
上記実施例1~8及び比較例1~5で得られた各着色樹脂粒子のエタノール分散体を用いて下記に示す配合処方にしたがって、常法により各筆記具用油性インク組成物を調製した。
各着色樹脂粒子のエタノール分散体は、樹脂固形分約50質量%であった。
(配合組成)
各着色樹脂粒子のエタノール分散体 50質量%
pH調整剤(トリエタノールアミン) 1質量%
水溶性有機溶剤(エチレングリコール) 5質量%
エタノール 44質量%
【0041】
得られた各筆記具用油性インク組成物(全量100質量%)について、下記方法により筆記具としてマーキングペンを作製し、下記各評価方法により、安定性、描線乾燥性(筆記用紙、教科書)について評価した。
下記表1に実施例1~8及び比較例1~5の各評価結果を示す。
【0042】
(筆記具:マーキングペンの作製)
マーキングペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:プロパス・ウインド PUS-102T、ペン先、太:PE樹脂、細:PET繊維〕に上記実施例1~8及び比較例1~5で製造した各インク組成物を装填してマーキングペンを作製した。
【0043】
(安定性の評価方法)
上記で得た実施例1~8及び比較例1~5で調製した各インク組成物をガラス製バイアル瓶に充填し蓋を閉め、50℃の環境下に保存し、一定期間後に、バイアル瓶内のインクに凝集や沈降が見られない期間を「安定性が維持されている期間」とし、下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:3ヶ月以上
B:1ヶ月以上3ヶ月未満
C:2週間以上1ヶ月未満
D:2週間未満
【0044】
(耐水性の評価方法)
JIS S6037:2006「マーキングペン」の6.7耐水性に準拠した。
上記で得た実施例1~8及び比較例1~5で製造した各インク組成物を装填したマーキングペンを用いて筆記用紙に連続5回手書きでらせん状に筆記し、一分後にこの筆記用紙を蒸留水に一時間浸漬後取り出して、筆記描線を目視で観察し、下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:描線に変化はない。
B:やや描線のにじみが観察される。
C:描線濃度・状態に大きな変化が見られる。
【0045】
(耐光性の評価方法)
JIS S6037:2006「マーキングペン」の6.5耐光性に準拠して行った。
上記で得た実施例1~8及び比較例1~5で製造した各インク組成物を装填したマーキングペンを用いて筆記用紙に筆記したものを試験紙とし、これを露光して、下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:退色がほとんど確認されなかった
B:若干の退色が確認された
C:著しい退色が確認された
【0046】
【表1】
【0047】
上記表1を考察すると、本発明範囲となる実施例1~8は、発色性などの色材としての機能に加えて、分散安定性、耐光性、耐水性に優れることが判った。
これに対して、本発明の範囲外となる比較例1~5では、本発明の効果を発揮できないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
得られる着色樹脂粒子のエタノール分散体は、サインペンやマーキングペン、ボールペンなどの筆記具用、スタンプ用、印刷用、インクジェット記録用などの色材として好適に用いることができる。