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特許7316807STLアクチュエーションパスプランニング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】STLアクチュエーションパスプランニング
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20230721BHJP
   H01M 8/04992 20160101ALI20230721BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20230721BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230721BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20230721BHJP
   F04D 27/02 20060101ALI20230721BHJP
   F04D 27/00 20060101ALI20230721BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04992
H01M8/04313
H01M8/04746
B60L58/30
F04D27/02 D
F04D27/00 101D
F04B49/06 341B
F04B49/06 341D
【請求項の数】 20
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019040597
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2019207865
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】15/917,447
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508108718
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100104765
【弁理士】
【氏名又は名称】江上 達夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】ジョティルモイ ヴィ. デーシュムク
(72)【発明者】
【氏名】シャオチン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ジャレード ファンズワース
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 茂樹
【審査官】笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-143020(JP,A)
【文献】特開2012-167568(JP,A)
【文献】特開2014-081936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04
H01M 8/04992
H01M 8/04313
H01M 8/04746
B60L 58/30
F04D 27/02
F04D 27/00
F04B 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池回路の運転を制御するための複数の所望制御パスを決定するシステムであって、
少なくとも一つのアクチュエータ及び燃料電池スタックを含む前記燃料電池回路のモデルを格納するように構成されたメモリと、
前記燃料電池回路の所望運転に対応する複数のシステム要求を受信するように構成された入力デバイスと、
データを出力するように構成された出力デバイスと、
前記メモリ、前記入力デバイス及び前記出力デバイスと結合されたモデルプロセッサであって、
前記燃料電池回路の前記少なくとも一つのアクチュエータの時系列制御に対応する複数の時系列アクチュエータ状態の複数のセットを選択し、
前記少なくとも一つのアクチュエータのための制御として、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットを用いた前記モデルの複数のシミュレーションを実行し、
複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々についての前記複数のシミュレーション各々の複数の結果が、前記複数のシステム要求を満たすか否か、及び、前記複数の結果が前記複数のシステム要求からどの程度離れているか、を決定するために、前記複数のシミュレーションの前記複数の結果の分析を実行し、
前記複数の結果の前記分析に基づいて前記複数のシステム要求を満足する複数の時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択し、
複数の時系列アクチュエータ状態の前記最終セットを出力するように前記出力デバイスを制御する
モデルプロセッサと、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記モデルプロセッサは、改ざん技術を用いて以前の複数のシミュレーションの以前の複数の結果に基づいて、改善された複数の結果を提供する可能性の高い、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットの新たな複数のセットを識別することにより、前記新たな複数のセットを選択するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも一つのアクチュエータは、コンプレッサ及び2つの弁を含み、
複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットは、前記コンプレッサにより加えられるトルクに対応するコンプレッサトルク、及び、前記2つの弁の位置に対応する複数の弁ポジションを含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記少なくとも一つのアクチュエータはコンプレッサを含み、
前記コンプレッサの前記時系列制御は、コンプレッサトルクの増加に対応しており、
前記複数のシステム要求は、
前記燃料電池回路を通る空気流の制限又はオーバーシュートがないこと、
前記燃料電池回路の空気流又は圧力値が、所定期間内に、目標空気流又は圧力値に到達すること、及び、
前記燃料電池回路の前記空気流又は圧力値が、前記目標空気流又は圧力値の許容レベル内で安定すること
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも一つのアクチュエータはコンプレッサを含み、
前記コンプレッサの前記時系列制御は、コンプレッサトルクの減少に対応しており、
前記複数のシステム要求は、
前記コンプレッサでサージ状態が発生していないこと、
前記燃料電池スタックを通る空気流が、所定期間内に、所定空気流量率に低減すること、及び、
前記燃料電池回路の空気流又は圧力値が、目標空気流又は圧力値の許容レベル内で安定すること
を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
複数の時系列アクチュエータ状態の前記最終セットは、物理的な燃料電池回路の物理的なアクチュエータの運転を制御するために、車両の電子制御ユニット(ECU)内において用いられるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記入力デバイスは更に、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットが残るべき複数の制限に対応する複数のシステム制約を受信するように構成されており、
前記モデルプロセッサは更に、前記複数のシステム制約において残るように、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々を選択するように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記モデルプロセッサは更に、最適化ツールを用いて、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットを選択するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記入力デバイスは更に、複数の時系列アクチュエータ状態の初期セットを受信するように構成されており、
前記モデルプロセッサは更に、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットの1番目として、複数の時系列アクチュエータ状態の前記初期セットをセットするように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記モデルプロセッサは更に、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々についての複数の結果が前記複数のシステム要求を満たすか否かを示すロバストネス値を決定し、そして、最大のロバストネス値を有する複数の時系列アクチュエータ状態のセットを選択することにより、複数の時系列アクチュエータ状態の前記最終セットを選択するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記複数のシステム要求は、信号時相理論(STL)を用いた定量的な複数の論理ステートメントを提供し、
前記モデルプロセッサは更に、前記結果を前記複数の論理ステートメントと比較することにより、前記ロバストネス値を計算するためにSTLを用いるSTLモニタを実行することにより、前記ロバストネス値を決定するように構成されている
ことを特徴とする請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
燃料電池回路の運転を制御するための複数の所望制御パスを決定するシステムであって、
少なくとも一つのアクチュエータ及び燃料電池スタックを含む前記燃料電池回路のモデルを格納するように構成されたメモリと、
前記燃料電池回路の所望運転に対応する複数のシステム要求を受信するように構成された入力デバイスと、
前記メモリ及び前記入力デバイスと結合されたモデルプロセッサであって、
前記燃料電池回路の前記少なくとも一つのアクチュエータの時系列制御に対応する複数の時系列アクチュエータ状態の複数のセットを選択し、
前記少なくとも一つのアクチュエータのための制御として、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットを用いた前記モデルの複数のシミュレーションを実行し、
複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々についての前記複数のシミュレーションの複数の結果が、前記複数のシステム要求を満たすか否か、及び、前記複数の結果が前記複数のシステム要求からどの程度離れているか、を示す前記複数のシミュレーション各々についての複数のロバストネス値を決定するために、前記複数のシミュレーションの前記複数の結果の分析を実行し、
前記複数のロバストネス値に基づいて前記複数のシステム要求を満足する複数の時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択する
モデルプロセッサと、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項13】
前記モデルプロセッサは、改ざん技術を用いた以前の複数のシミュレーションの以前の複数の結果に基づいて、改善された複数の結果を提供する可能性の高い、複数の時系列アクチュエータの状態の前記複数のセットの新たな複数のセットを識別することにより、前記新たな複数のセットを選択するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記少なくとも一つのアクチュエータは、コンプレッサ及び2つの弁を含み、
複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットは、前記コンプレッサにより加えられるトルクに対応するコンプレッサトルクと、前記2つの弁の位置に対応する弁ポジションとを含む
ことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記入力デバイスは更に、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットが残るべき複数の制限に対応する複数のシステム制約を受信するように構成されており、
前記複数のシステム制約の少なくともいくつかは、前記燃料電池回路の前記少なくとも一つのアクチュエータの物理的な複数の制限に対応しており、
前記モデルプロセッサは更に、前記複数のシステム制約において残るように、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々を選択するように構成されている
ことを特徴とする請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
燃料電池回路の運転を制御するための複数の所望制御パスを決定する方法であって、
メモリに、少なくとも一つのアクチュエータ及び燃料電池スタックを含む前記燃料電池回路のモデルを格納し、
入力デバイスにより、前記燃料電池回路の所望運転に対応する複数のシステム要求を受信し、
モデルプロセッサにより、前記燃料電池回路の前記少なくとも一つのアクチュエータの時系列制御に対応する複数の時系列アクチュエータ状態の複数のセットを選択し、
前記モデルプロセッサにより、前記少なくとも一つのアクチュエータの制御として、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットを用いて、前記モデルの複数のシミュレーションを実行し、
前記モデルプロセッサにより、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々についての複数の結果が前記複数のシステム要求を満たすか否か、及び、前記複数の結果が前記複数のシステム要求からどの程度離れているか、を決定するために、前記複数のシミュレーションの前記複数の結果を分析し、
前記モデルプロセッサにより、前記複数の結果の前記分析に基づいて、前記複数のシステム要求を満たす複数の時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択する
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
車両の電子制御ユニット(ECU)を、物理的な燃料電池回路の物理的な複数のアクチュエータの制御運転のために、複数の時系列アクチュエータ状態の前記最終セットでプログラミングすることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
改ざん技術を用いて改善された複数のロバストネス値を提供する可能性の高い複数の時系列アクチュエータ状態の新たな複数のセットを識別することにより、複数の時系列アクチュエータ状態の前記新たな複数のセットを選択することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも一つのアクチュエータは、コンプレッサ及び2つの弁を含み、
複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットは、前記コンプレッサにより加えられるトルクに対応するコンプレッサトルク、及び、前記2つの弁の位置に対応する複数の弁ポジションを含む
ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも一つのアクチュエータはコンプレッサを含み、前記コンプレッサの前記時系列制御は、コンプレッサトルクの増加に対応しており、前記複数のシステム要求は、前記燃料電池回路を通る空気流の制限又はオーバーシュートがないこと、前記燃料電池回路の空気流又は圧力値が、所定期間内に、目標空気流又は圧力値に到達すること、及び、前記燃料電池回路の前記空気流又は圧力値が、前記目標空気流又は圧力値の許容レベル内で安定することを含むこと
並びに、
前記少なくとも一つのアクチュエータはコンプレッサを含み、前記コンプレッサの前記時系列制御は、コンプレッサトルクの減少に対応しており、前記複数のシステム要求は、前記コンプレッサでサージ状態が発生していないこと、前記燃料電池スタックを通る空気流が、所定期間内に、所定空気流量率に低減すること、及び、前記燃料電池回路の空気流又は圧力値が、目標空気流又は圧力値の許容レベル内で安定することを含むこと
の少なくとも一方を特徴とする請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、燃料電池回路中の所望圧力及び流量値を達成するための燃料電池回路の複数のアクチュエータの制御パスを識別するためのシステム及び方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、我々にとって、車両内の電源としてより身近なものとなりつつある。燃料電池は、例えば酸素等の酸化剤とともに水素を受け入れてよく、電力を生成するために、水素と酸化剤との間の反応を促進してよい。燃料電池の発電は、運転者による発電要求に基づいて変化してよい。例えば、運転者がアクセルペダルを踏み込んだ場合は、燃料電池にとって、加速が要求されない場合よりも多い電力を生成することが望ましい。どの程度の電力が燃料電池により生成されるかに基づいて、燃料電池内の空気流及び圧力が制御されることが望ましい。例えば、燃料電池に十分な空気が供給されなければ、燃料電池は不必要に乾燥し、燃料電池に潜在的に不可逆的な損傷を与える可能性がある。
【0003】
燃料電池回路は、燃料電池に空気を供給するためのコンプレッサを含む複数のアクチュエータを含んでよい。コンプレッサは、燃料電池回路を介して、空気を燃料電池に向けてよい。コンプレッサがサージ又は他の望ましくない状態となるのを防ぐために、コンプレッサを通る空気流及びその圧力比を制御することが望ましい。
【0004】
コンプレッサ及び燃料電池スタックの要求を常に満足するような方法で、複数のアクチュエータを制御することは相対的に難しいだろう。これに関して、圧力及び流量の制限を満たすために、燃料電池回路の複数のアクチュエータの時系列制御を識別するためのシステム及び方法は望ましい。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に記載のシステムは、燃料電池回路の運転を制御するための複数の所望制御パスを決定するシステムである。当該システムは、少なくとも一つのアクチュエータ及び燃料電池スタックを含む前記燃料電池回路のモデルを格納するように構成されたメモリを含む。当該システムは、前記燃料電池回路の所望運転に対応する複数のシステム要求を受信するように構成された入力デバイスも含む。当該システムは、データを出力するように構成された出力デバイスも含む。当該システムは、前記メモリ、前記入力デバイス及び前記出力デバイスと結合されたモデルプロセッサも含む。当該モデルプロセッサは、前記燃料電池回路の前記少なくとも一つのアクチュエータの時系列制御に対応する複数の時系列アクチュエータ状態の複数のセットを選択する。当該モデルプロセッサは、また、前記少なくとも一つのアクチュエータのための制御として、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットを用いた前記モデルの複数のシミュレーションを実行する。当該モデルプロセッサは、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々についての前記複数のシミュレーション各々の複数の結果が、前記複数のシステム要求を満たすか否か、及び、前記複数の結果が前記複数のシステム要求からどの程度離れているか、を決定するために、前記複数のシミュレーションの前記複数の結果の分析を実行する。当該モデルプロセッサは、また、前記複数の結果の前記分析に基づいて前記複数のシステム要求を満足する複数の時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択する。当該モデルプロセッサは、また、複数の時系列アクチュエータ状態の前記最終セットを出力するように前記出力デバイスを制御する。
【0006】
また、本明細書に記載のシステムは、燃料電池回路の運転を制御するための複数の所望制御パスを決定するシステムである。当該システムは、少なくとも一つのアクチュエータ及び燃料電池スタックを含む前記燃料電池回路のモデルを格納するように構成されたメモリを含む。当該システムは、前記燃料電池回路の所望運転に対応する複数のシステム要求を受信するように構成された入力デバイスも含む。当該システムは、前記メモリ及び前記入力デバイスと結合されたモデルプロセッサも含む。当該モデルプロセッサは、前記燃料電池回路の前記少なくとも一つのアクチュエータの時系列制御に対応する複数の時系列アクチュエータ状態の複数のセットを選択する。当該モデルプロセッサは、また、前記少なくとも一つのアクチュエータのための制御として、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットを用いた前記モデルの複数のシミュレーションを実行する。当該プロセッサは、また、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々についての前記複数のシミュレーションの複数の結果が、前記複数のシステム要求を満たすか否か、及び、前記複数の結果が前記複数のシステム要求からどの程度離れているか、を示す前記複数のシミュレーション各々についての複数のロバストネス値を決定するために、前記複数のシミュレーションの前記複数の結果の分析を実行する。当該モデルプロセッサは、また、前記複数のロバストネス値に基づいて前記複数のシステム要求を満足する複数の時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択する。
【0007】
また、本明細書に記載の方法は、燃料電池回路の運転を制御するための複数の所望制御パスを決定する方法である。当該方法は、メモリに、少なくとも一つのアクチュエータ及び燃料電池スタックを含む前記燃料電池回路のモデルを格納する工程を含む。当該方法は、入力デバイスにより、前記燃料電池回路の所望運転に対応する複数のシステム要求を受信する工程も含む。当該方法は、モデルプロセッサにより、前記燃料電池回路の前記少なくとも一つのアクチュエータの時系列制御に対応する複数の時系列アクチュエータ状態の複数のセットを選択する工程も含む。当該方法は、前記モデルプロセッサにより、前記少なくとも一つのアクチュエータの制御として、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセットを用いて、前記モデルの複数のシミュレーションを実行する工程も含む。当該方法は、前記モデルプロセッサにより、複数の時系列アクチュエータ状態の前記複数のセット各々についての複数の結果が前記複数のシステム要求を満たすか否か、及び、前記複数の結果が前記複数のシステム要求からどの程度離れているか、を決定するために、前記複数のシミュレーションの前記複数の結果を分析する工程も含む。当該方法は、前記モデルプロセッサにより、前記複数の結果の前記分析に基づいて、前記複数のシステム要求を満たす複数の時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択する工程も含む。
【0008】
本発明の他のシステム、方法、特徴及び利益は、下記の図面及び詳細な説明を検討することにより、当業者に明らかになるだろう。このような追加のシステム、方法、特徴及び利益は全て、この明細書に含まれること、本発明の請求の範囲に含まれること、及び、付随のクレームにより保護されること、を意図している。図面に示される構成部品は必ずしも一定の縮尺ではなく、本発明の重要な特徴をよりよく説明するために誇張されることがある。図面において、同様の参照番号は、異なる図を通して同様の部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る車両の電源としての燃料電池回路を含む車両を描くブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係る図1の燃料電池回路のブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る図2の燃料電池回路のコンプレッサの動作パラメータを描く速度マップである。
図4】本発明の実施形態に係る図2の燃料電池回路の複数のアクチュエータの動作を制御するための所望の制御パスを決定するためのシステムのブロック図である。
図5A】本発明の実施形態に係る図2の燃料電池回路の複数のアクチュエータの動作を制御するための方法を描くフローチャートである。
図5B】本発明の実施形態に係る図2の燃料電池回路の複数のアクチュエータの動作を制御するための方法を描くフローチャートである。
図6】本発明の実施形態に係る燃料電池回路のシステム要求に関する図5A及び5Bの方法を用いたシミュレーションの出力例を描くグラフである。
図7】本発明の実施形態に係る時系列アクチュエータ状態を用いたシミュレーションの結果と、時系列アクチュエータ状態の例示的なセットである。
図8】本発明の実施形態に係るランキングに基づいて選択可能な最適解が得られるように潜在的な時系列制御解をランク付けするための改ざんルーチンを描くフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書は、燃料電池回路の複数のアクチュエータの所望の時系列制御パスを識別するためのシステム及び方法を記載する。システム及び方法は、例えば、ある期間にわたって複数のアクチュエータの同期時系列制御を決定すること等の、いくつかの利益を提供する。この利益は、例えば燃料電池回路の要素にダメージを与えるなどの望ましくない効果が生じる可能性を低減する所望のパターンにおいて状態を変化させるために、燃料電池回路を通る空気の全ての圧力及び流量値が生じるように、複数のアクチュエータの制御を可能とする。システムは、燃料電池回路が、システムにより識別された制御パスを物理的に実行可能であることを確保するために、例えば物理的な燃料電池回路のモデルを用いて時系列制御を決定する等の追加の利益を提供する。システムは、例えばランクに基づいて選択可能な最適解等の潜在的な時系列制御解をランク付けするために、改ざん技術を有利に使用する。
【0011】
例示的なシステムは、燃料電池回路の所望動作を示すシステム要求を受信した入力デバイスと、燃料電池回路のモデルに基づく物理学を格納するメモリとを含む。モデルプロセッサは、複数のアクチュエータの時系列制御に対応する時系列アクチュエータ状態の新たなセットを選択可能であるとともに、モデルと新たに選択された時系列アクチュエータ状態と用いたシミュレーションを実行可能である。モデルプロセッサはその後、システム要求に対するシミュレーション結果を比較して、要求が満たされているか否か、及び、結果が要求からどの程度離れたところにあるかを決定する。モデルプロセッサはその後、比較に基づくシステム要求を最も満たす時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択してよい。
【0012】
図1を参照して、車両100は、例えば空気等の気体を燃料電池に供給するためのシステム101の要素を含む。特に、車両100及びシステム101は、ECU102と、エンジン112、モータジェネレータ114、バッテリ116及び燃料電池回路118の少なくとも一つを含んでよい電源110とを含む。燃料電池回路118は、システム101の一部であってよい。
【0013】
ECU102は、車両100の複数の要素各々と接続されてよく、自動車システムのために特別に設計された一以上のプロセッサ又はコントローラを含んでよい。ECU102の機能は、単一のECUにおいて、又は、複数のECUにおいて実装されてよい。ECU102は、車両100の要素からデータを受信してよく、受信されたデータに基づいて決定をしてよく、決定に基づいて要素の動作を制御してよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、車両100は、完全に自律して又は半自律していてよい。これに関して、ECU102は、開始位置から目的地まで車両100を運転するために、車両100の様々な態様(例えば操舵、減速、加速等)を制御してよい。
【0015】
エンジン112は、燃料を機械的なパワーに変換する。これに関して、エンジン112は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等であってよい。
【0016】
バッテリ116は、電力を蓄積する。いくつかの実施形態では、バッテリ116は、バッテリ、フライホイール、スーパーキャパシタ、蓄熱デバイス等を含む一以上のエネルギストレージを含んでよい。
【0017】
燃料電池回路118は、電気的エネルギを生成するための化学反応を促進する複数の燃料電池を含んでよい。例えば燃料電池は、水素及び酸素を受け入れてよく、水素と酸素との間の反応を促進してよう、そして、反応の結果として電力を出力してよい。これに関して、燃料電池回路118により生成された電気的エネルギは、バッテリに蓄積されてよい。いくつかの実施形態では、車両100は、燃料電池回路118を含む複数の燃料電池回路を含んでよい。
【0018】
モータジェネレータ114は、バッテリに蓄積されている電気的エネルギ(又は、燃料電池回路118から直接受け取った電気的エネルギ)を、車両100の推進に利用可能な機械的パワーに変換してよい。モータジェネレータ114は更に、エンジン112又は車両100の車輪から受け取った機械的パワーを、エネルギとしてバッテリ116に蓄積されてよい、及び/又は車両100の他の要素により用いられてよい、電力に変換してよい。いくつかの実施形態では、モータジェネレータ114は、加えて又は代えて、タービン又は他の推力を生成可能なデバイスを含んでよい。
【0019】
ここで図2を参照して、燃料電池回路118の追加的な詳細が描かれている。特に、燃料電池回路118は、空気取入口200、エアクリーナ202、コンプレッサ204、インタークーラ206、燃料電池スタック208、バイパス支流210、バイパス支流210に沿って配置されたバイパス弁212、及び、制限弁214を含む。
【0020】
空気取入口200は、例えば図1の車両100の外側等の、周囲環境から空気を受け入れてよい。
【0021】
コンプレッサ204は、ターボコンプレッサ又は空気を圧縮可能な他のコンプレッサであってよい。これに関して、コンプレッサ204は、エアクリーナ202からの空気を吸い込み、圧縮空気を出力してよい。
【0022】
インタークーラ206は、コンプレッサ204からの空気を受け入れてよく、例えば冷却剤等の流体も受け入れてよい。インタークーラ206は、空気から冷却剤へ熱を移してよく、又は、冷却剤から空気へ熱を移してよい。これに関して、インタークーラ206は、燃料電池回路118を吹き抜ける空気の温度を調整してよい。
【0023】
燃料電池スタック208は、複数の燃料電池を含んでよい。燃料電池は、インタークーラ206からの空気に加えて水素を受け取ってよい。燃料電池は、空気中の酸素と水素との間の電力を生成する化学反応を促進してよい。
【0024】
インタークーラ206からの空気は、例えば、燃料電池スタック208を吹き抜ける空気と、バイパス支流210を吹き抜ける空気とに分けられてよい。これに関して、バイパス支流210を吹き抜ける空気は、燃料電池スタック208を吹き抜けることはできない。バイパス弁212は、バイパス支流210を通る空気流の量を調整するとともに、燃料電池スタック208を通る空気流の量を調整するように制御されてよい。例えば、バイパス弁212が100パーセント(100%)閉じている場合、燃料電池回路118を通る空気流の全ては、燃料電池スタック208を吹き抜け、バイパス支流210は通らない。
【0025】
制限弁214は、同様に、調整可能な弁ポジションを有する。制限弁214の調整可能な弁ポジションは、燃料電池スタック208内の空気の圧力を調整するために制御されてよい。例えば、燃料電池スタック208内の圧力は、制限弁214を閉じることにより上昇してよく、制限弁214が開けられることにより減少してよい。
【0026】
図1及び2を参照して、コンプレッサ204、バイパス弁212及び制限弁214の各々は、アクチュエータとみなされてよく、ECU102により制御されてよい。例えばECU102は、車両の運転者からのパワー要求を受信してよい(又は、自律又は半自律の車両においてパワー要求を生成してよい)。ECU102は、パワー要求を燃料電池回路118内の特定の場所の所望の圧力又は空気流に対応する所望の圧力又は流量値に変換してよい。ECU102は、その後、所望の圧力又は流量値を達成するために、コンプレッサ204、バイパス弁212及び制限弁214各々を制御してよい。
【0027】
燃料電池回路118のアクチュエータの制御は、比較的複雑であることが多い。これは、一のアクチュエータのアクチュエータ位置における変化が、燃料電池回路118を通る全ての圧力及び流量値に影響を及ぼすことに起因している。例えば、制限弁214のポジションの変化は、燃料電池回路118の各要素を通る流量率及び圧力に影響を及ぼすだろう。
【0028】
これに関して、ECU102は、時系列制御ロジックを用いて各アクチュエータを同期して制御するように設計されている。このような制御は、開始状態から最終状態まで所望のパスを流れるような、燃料電池回路118を通る圧力及び流量値を生じる。例えば、ECU102は、コンプレッサ204全体の目標圧力比、及び、コンプレッサ204を通る目標質量流量を受信してよい。ECU102は、コンプレッサ204を通る現在の圧力比及び現在の流量が、目標圧力比及び目標流量に達するように、所望のパスに基づいてコンプレッサ204、バイパス弁212及び制限弁214を制御してよい。
【0029】
所望のパスは、燃料電池回路118の様々な要求を満たすために選択されてよい。例えば、要求は、コンプレッサ204がサージ状態又はストール状態となる可能性を妨げる又は低減するような、燃料電池回路118全体の特定の圧力及び流量値のオーバーシュートを低減するような、制限を含んでよい。
【0030】
ここで図3を参照すると、速度マップ300は、図2のコンプレッサ204の圧力比、空気流量率及びコンプレッサ速度の関係を描いている。速度マップ300は、コンプレッサを通る空気流量率(X軸)と、コンプレッサ全体の圧力比(Y軸)とをプロットし、更に、コンプレッサの速度と対応する複数の速度ライン302を含んでいる。
【0031】
速度マップ300は、サージライン302及びストールライン306を含んでいる。サージライン304の外側での(例えば位置308での)コンプレッサの動作は、コンプレッサにより経験されるサージ状態を招く。ストールライン306の外側での(例えば位置310での)コンプレッサの動作は、コンプレッサにより経験されるストール状態を招く。ストール状態及びサージ状態は望ましくない。
【0032】
速度マップ300は更に、ゼロスロープライン312及びオーバーブーストライン314を含んでいる。サージライン304とゼロスロープライン312との間でのコンプレッサの動作は、コンプレッサにより経験される、望ましくない、サージのような状態を招く。オーバーブーストライン314は、コンプレッサを動作させるには望ましくない最大圧力比を越えることに対応している。
【0033】
速度マップ300は更に、システムオンパス316及びコンプレッサオフパス320を描いている。さて、図2及び3を参照して、システムオンパス316は、開始状態322から最終又は目標状態324までのコンプレッサ204の例示的な制御を描いている。文言「オンパス」は、パワー要求を増加を招くドライバ命令に応答して、コンプレッサ204によりとられるパスであってよく、コンプレッサ204における圧力比、空気流量率及び速度の増加を招いてよい。文言「オフパス」は、パワー要求の低下を招くドライバ命令にお応答して、コンプレッサ204によりとられるパスであってよく、コンプレッサ204において、圧力比、空気流量率及び速度の減少を招いてよい。オン状態の間バイパス弁212は典型的には閉じているので、速度マップ300は、(コンプレッサオンパス及び燃料電池オンパスとは対照的に)システムオンパス316のみを含んでいてよい。これは、燃料電池スタック208を通る流量値が、コンプレッサ204を通る流量値と等しくなることを招く。
【0034】
システムオンパス316は、開始状態322から目標状態324までコンプレッサにより経験される例示的な状態を描いている。図示するように、望ましくないオーバーシュート326が、システムオンパス316の間に経験される。オーバーシュートは、コンプレッサ204を通る空気流量率が、目標状態324に戻り落ち着く前に、目標状態324を越えるということである。図示するように、約700標準リットル毎分のオーバーシュートは、オンパス316の間に経験される。
【0035】
コンプレッサオフパス320は、目標状態324から開始状態322に戻るコンプレッサ204により経験される例示的な状態を描いている。燃料電池オフパス320は、目標状態324から開始状態322の戻る燃料電池スタック208により経験される例示的な状態を描いている。この例に示すように、燃料電池オフパス320は、望ましくないことに、サージライン304を横切る。これに関して、オーバーシュート326と燃料電池オフパス320のサージとを回避するように、燃料電池回路118のアクチュエータが制御されることが望ましい。
【0036】
図4を参照すると、図2の燃料電池回路118のアクチュエータの所望の制御パスを決定するためのシステム400が示されている。システム400は、モデルプロセッサ402、メモリ404、出力デバイス406、入力デバイス408及び入力/出力(I/O)ポート410を含む。
【0037】
モデルプロセッサ402は、例えばARMプロセッサ、DSPプロセッサ、分散プロセッサ、又は、中央演算の他の形態等のコンピュータプロセッサであってよい。モデルプロセッサ402は、機械可読命令を実行するように適合されてよい。特に、モデルプロセッサ402は、アクチュエータの所望の制御パスを識別するために、燃料電池回路のモデル412を用いたシミュレーションを実行するように適合されてよい。
【0038】
モデルプロセッサ402は、メモリ404に電気的に結合されてよい。メモリ404は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートディスクドライブ、ハイブリッドディスクドライブ又は他の適切なデータストレージ等の、非一時的なメモリまたはデータストレージデバイスであってよい。メモリ404は更に、燃料電池回路のモデル412を格納してよい。いくつかの実施形態では、メモリ404は、モデルプロセッサ402により後に分析されるアクチュエータの入力及び出力信号を格納してもよい。
【0039】
出力デバイス406は、人又は他の機械にデータを出力可能な任意のデバイス又はポートを含んでよい。例えば、出力デバイス406は、ディスプレイ、スピーカ、タッチスクリーン等を含んでよい。
【0040】
入力デバイス408は、人又は他の機械からのデータを受信可能な任意のデバイス又はポートを含んでよい。例えば、入力デバイス408は、マイクロホン、キーボード、タッチスクリーン等を含んでよい。
【0041】
I/Oポート410は、リモートデバイスと通信可能な任意のポート又はデバイスであってよい。例えば、I/Oポート410は、任意のIEEE802.11プロトコル(例えばWi-Fi(登録商標)ポート)、ブルートゥース(登録商標)ポート、シリアルポート等を介して通信可能なポートを含んでいてよい。これに関して、I/Oポート410は、(I/Oポート410を介してデータが受信されるときの)入力デバイス、及び/又は、(I/Oポート410を介してデータが出力されるときの)出力デバイスが考慮されてよい。
【0042】
上述したように、モデルプロセッサ402は、燃料電池回路の各アクチュエータのための所望の制御パスを識別するためのモデル412を用いたシミュレーションを実行してよい。いくつかの実施形態では、モデルプロセッサ402は、所望の制御パスを出力するように、それらが識別されるまで、出力デバイス406を制御してよい。いくつかの実施形態では、モデルプロセッサは、I/Oポート410を介して、ECU102に所望の制御パスを提供してよい。これに関して、ECU102は、燃料電池回路のアクチュエータを、所望の制御パスに従うように制御してよい。
【0043】
図3及び4を参照して、モデルプロセッサ402は、複数の所望のオンパス及び複数の所望のオフパスを識別してよい。例えば、モデルプロセッサ402は、ストールライン306に沿った第1のオンパス、サージライン304に沿った第2のオンパス、及び、ストールライン306とサージライン304との間に位置する中間ライン330に沿った第3のオンパスを識別してよい。モデルプロセッサ402は更に、ストールライン306に沿った第1のオフパス、サージライン304に沿った第2のオフパス、及び、中間ライン330に沿った第3のオフパスを識別してよい。
【0044】
ここで図5A及び5Bを参照すると、燃料電池回路のアクチュエータを制御する所望の制御パスを決定するための方法500が示されている。方法500は、図4のシステムと類似するシステムの要素により実行されてよい。
【0045】
ブロック502において、燃料電池回路のモデルは、メモリ内に格納されていてよい。このモデルは、燃料電池回路の物理学ベースモデルであってよく、例えばSimulink(登録商標)又はMatLab(登録商標)――どちらもマサチューセッツ州ナティックのMathWorkから入手可能――等の任意のモデリング環境を用いて作成されてよい。
【0046】
ブロック504において、モデルプロセッサは、入力デバイスからシステム要求を受信してよい。システム要求は、燃料電池回路の所望動作に対応している。例えば、システム要求は、例えば、燃料電池回路を通る空気流の制限されたオーバーシュート又はオーバーシュートなし、ストール状態及びサージ状態を回避すること等のアイテムを含んでよい。ブロック504において受信されたシステム要求は、論理ステートメントとして提供されてよい。例えば、論理ステートメントは、シグナル時相理論(STL)を用いて表現されてよい。論理ステートメントは、本質的に定量的なものであってよい。
【0047】
システム要求は、オンパスとオフパスとで異なってよい。オンパスについてのシステム要求の例示的なセットは、次のものを含んでいてよい。即ち、燃料電池スタックを通る空気流の制限されたオーバーシュート又はオーバーシュートなし、コンプレッサを通る空気流の制限されたオーバーシュート又はオーバーシュートなし、燃料電池スタックを通る空気流量率が、所定期間内に、目標空気流量率(例えば、ワイドオープンスロットル(WOT)状態に対応する空気流量率)に到達すべきである、燃料電池スタックの圧力比が、所定期間内に、目標圧力比に到達すべきである、燃料電池スタックを通る空気流量率が、目標空気流量率の相対的に小さなマージン内に安定すべきである、コンプレッサを通る全空気流量率が、目標全空気流量率の相対的に小さなマージン内に安定すべきである、及び、燃料電池スタックの圧力比が、目標圧力比の相対的に小さなマージン内に安定すべきである。所定期間は、早い応答時間を満足することを考慮した期間に対応する。
【0048】
オフパスについてのシステム要求の例示的なセットは、次のものを含んでいてよい。即ち、速度マップ内のサージラインを横切らないこと、速度マップ内のゼロスロープラインを横切らないこと、燃料電池スタックを通る空気流量率が、所定期間内に、目標空気流量率に達する又は下回るべきである、燃料電池スタックを通る空気流量率が、目標空気流量率の相対的に小さなマージン内に安定すべきである、コンプレッサを通る全空気流量率が、目標空気流量率の相対的に小さなマージン内に安定すべきである、及び、燃料電池スタックの圧力比が、目標圧力比の相対的に小さなマージン内に安定すべきである。
【0049】
図6を簡単に参照して、チャート700は、システム要求に加えて、例えばコンプレッサを通る空気流量率などの例示的なパラメータを描いている。第1ライン702は、空気流量率の時間変化を描いており、第2ライン704は目標空気流量率を描いている。第1システム要求は、所定レベル706より低い空気流量率のオーバーシュートであってよい。所定レベル706は、許容可能なオーバーシュート値を示している。図示するように、空気流量率は、第1ライン702が、所定レベル706より低いオーバーシュート量708によりオーバーシュートすることにより描かれている。
【0050】
他のシステム要求は、空気流量率が、期間712の後に許容レベル710内で安定することであってよい。図示するように、空気流は、期間712が経過した後、許容レベル710内に残っており、実際には、期間714後に許容レベル710に落ち着く。
【0051】
他のシステム要求は、空気流量率が、所望応答時間716内に目標704の少なくとも許容レベル710内へ増加することであってよい。図示するように、空気流量率は、所望応答時間716より小さい実際の応答時間718内に、許容レベル710内に到達する。それ故、空気流は、例えば図6に描かれているように、各システム要求を満たす。
【0052】
図5A及び5Bに戻り、ブロック506を参照すると、モデルプロセッサは、入力デバイスからシステム制約を受信してよい。システム制約は、モデルプロセッサにより選択されるアクチュエータ状態が維持すべき範囲内での制限に対応してよく、論理ステートメントとして提供されてよい。いくつかの実施形態では、システム制約は、例えば、アクチュエータの物理的な制限に対応する制限を含んでよい。例えば、システム制約は、弁が特定率(例えば、5パーセント(5%)毎ミリ秒)のみで開弁又は閉弁してよいこと、コンプレッサトルクが、コンプレッサの物理的なトルク制限を超えることができないこと、等の制限を含んでよい。
【0053】
システム制約は、オペレータにより選択された追加的な制限も含んでよい。例えば、システム制約は、バイパス弁が全てのオンパスの間閉じたままであるべきという制限を含んでよい。このような制約は、バイパス弁の物理的な制限に対応してなくてよいが、オペレータは、燃料電池回路の利用可能な知識に基づくテストフィールドを制限するこのような制約を提供してよい。
【0054】
ブロック508において、モデルプロセッサは、時系列アクチュエータ状態の初期セットを受信又は決定してよい。時系列アクチュエータ状態の初期セットは、入力デバイス、例えばユーザ、から受信してもよいし、モデルプロセッサにより決定されてもよい。例えば、モデルプロセッサは、初期セットとして時系列アクチュエータ状態のランダムなセットを選択するようにプログラムされていてよく、初期セットとして、時系列アクチュエータ状態の事前提供されたセットを選択するようにプログラムされていてよく、他の態様であってもよい。
【0055】
時系列アクチュエータ状態は、所定期間にわたる、各アクチュエータについてアクチュエータ状態の進行に対応してよい。例えば図7を参照すると、オンパスについての時系列アクチュエータ状態の例示的なセット600が示されている。特に、時系列アクチュエータ状態のセット600は、燃料電池電流602、バイパス弁位置604、コンプレッサトルク要求606及び制限弁位置608を含んでいる。図示するように、時系列アクチュエータ状態のセット600は、ある期間にわたるアクチュエータ状態の進行を含んでいる。例えば、コンプレッサトルク要求606は、ゼロのトルク要求から始まり第1期間後に増加し、第2期間後に減少する。
【0056】
図5A及び5Bに戻り、ブロック510を参照して、モデルプロセッサは、ブロック508において受信又は決定された時系列アクチュエータ状態の初期セットを用いて、モデルのシミュレーションを実行してよい。例えば、モデルプロセッサは、シミュレーションの間、時系列アクチュエータ状態の初期セットに基づいて、各アクチュエータを制御してよい。モデルプロセッサは、例えば、燃料電池回路の様々な要素に対応する流量率及び圧力比等の様々なパラメータを、シミュレーションの間に決定してよい。モデルプロセッサは更に、シミュレーションの結果としての様々なパラメータを格納してよい。
【0057】
例えば図7を再度参照して、モデルプロセッサは、時系列アクチュエータ状態のセット600を用いたシミュレーションから導かれる燃料電池回路のパラメータを示す結果のセット650を決定してよい。図示するように、結果のセット650は、コンプレッサを通る全空気流量率652、コンプレッサの圧力比654、燃料電池スタックを通る空気流量率656、及び、バイパス支流を通る空気流量率を示している。モデルプロセッサは、結果のセット650がシステム要求を満たすか否かを決定するために、結果のセット650を分析してよい。結果のセット650がシステム要求を満たす場合、対応する時系列アクチュエータ状態のセット600は、燃料電池回路の良い制御であるとみなされてよい。
【0058】
図5A及び5Bに戻り、ブロック512を参照すると、モデルプロセッサは、シグナル時相理論(STL)を用いた時系列アクチュエータ状態の初期セットのロバストネス値を決定してよい。モデルプロセッサは、分析結果とシステム要求とを比較する式又は関数を生成することにより、STLを実装するSTLモニタを用いてよい。STLモニタは、結果を比較するためにSTLを用いてよく、比較に基づいて、正規化値としてのロバストネス値を出力してよい。例えば、モデルプロセッサは、STL、アクチュエータ入力信号及びアクチュエータ出力信号を用いた比較に基づいて、正規化値としてのロバストネス値を計算してよい。ロバストネス値は、分析結果がシステム要求を満たすか否か、及び、結果がシステム要求からどの程度離れて位置しているかを示す。別の言い方をすると、ロバストネス値は、量的要求を満足する時系列アクチュエータ状態のセットからのアクチュエータ状態の与えられた時系列の推定符号付距離を参照してよい。
【0059】
例えば図7を参照すると、システム要求は、コンプレッサの圧力比が、所定期間内で目標値の10パーセント(10%)の範囲内に到達することであってよい。図示するように、燃料電池電流602は、目標圧力比がセットされた時間に対応する時間に増加する。コンプレッサの圧力比654に対応する結果は、最新時間(であるが所定期間内)において値660が、目標圧力比の10パーセント(10%)の範囲内であることを描いている。それ故、モデルプロセッサにより決定されたロバストネス値は、時系列アクチュエータ状態の初期セット600がシステム要求を満たすことを示してよい。
【0060】
例示を続けて、圧力比値がより早く目標値の10%の範囲内に到達した場合、ロバストネス値は、結果650に基づいて計算された当該ロバストネス値より大きくなってよい。より高いロバストネス値を伴う時系列アクチュエータ状態の第1セットは、より低いロバストネス値を伴う時系列アクチュエータ状態の第2セットよりアクチュエータのよりよい制御に対応してよい。別の言い方をすれば、より高い(更には、いくつかの実施形態では、正の)ロバストネス値は、時系列アクチュエータ状態の対応するセットが、システム要求の最適な満足度を提供することを示してよい。いくつかの実施形態では、モデルプロセッサは、アクチュエータのよりよい制御のために、より低いロバストネス値を割り当てるよう設計されてよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、モデルプロセッサは、システム要求を満たす時系列アクチュエータ状態のセットに対して正のロバストネス値を、システム要求を満たさない時系列アクチュエータ状態のセットに対して負のロバストネス値を割り当てるように設計されてよい。
【0062】
図5A及び5Bに戻り、ブロック514を参照すると、モデルプロセッサは、改良された結果を提供する可能性のある時系列アクチュエータ状態の新たなセットを選択してよい。いくつかの実施形態では、モデルプロセッサは、時系列アクチュエータ状態の新たなセットをランダムに選択してよい。例えば、第2の繰り返しにおいて、モデルプロセッサは、改良された結果を提供する可能性のある時系列アクチュエータ状態の新たなセットを選択するための十分な情報を有していないかもしれない。しかしながら、その後の繰り返しの間に、モデルプロセッサは、そのような選択を可能とする十分な情報を有するだろう。
【0063】
例えば、時系列アクチュエータ状態の第1セットは、2秒間にわたりトルク要求を徐々に上げてよく、第1ロバストネス値を有してよい。時系列アクチュエータ状態の第2セットは、1秒間にわたりトルク要求を徐々に上げてよく、第1ロバストネス値より大きい第2ロバストネス値を有してよい。全ての他のアクチュエータ制御状態が第1セットから第2セットまで一定のままであると仮定すると、モデルプロセッサは、トルク要求の、1秒より短い期間にわたる上昇を生じる時系列アクチュエータ状態の新たなセットを選択してよい。モデルプロセッサは、コンプレッサトルクの減少時間の増加によりロバストネス値が増加するという事実に基づいて、この選択を行ってよい。
【0064】
ブロック516において、モデルプロセッサは、時系列アクチュエータ状態の新たなセットを用いてモデルのシミュレーションを実行してよく、ブロック518において、STLを用いて時系列アクチュエータ状態の新たなセットのロバストネス値を決定してよい。モデルプロセッサは、所定のアクションが生じるまでブロック514から518までの実行を継続してよい。所定のアクションは、完了したときに、方法500が中止されるべきアクションに対応してよい。例えば、モデルプロセッサは、所定の期間について、又は、所定量の繰り返しについて、ブロック514から518までの実行を継続してよい。いくつかの実施形態では、モデルプロセッサは、システム要求の全てを満足する時系列アクチュエータ状態のセットが見つかるまで、ブロック514から518までの実行を継続してよい。
【0065】
ブロック520において、モデルプロセッサは、ロバストネス値に基づいて時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択してよい。例えば、モデルプロセッサは、最も高いロバストネス値を有する時系列アクチュエータ状態の最終セットを選択してよい。
【0066】
ブロック522において、モデルプロセッサは、時系列アクチュエータ状態の最終セットを出力するために出力デバイスを制御してよい。例えば、時系列アクチュエータ状態の最終セットはディスプレイ上に出力されてよい。
【0067】
ブロック524において、時系列アクチュエータ状態の最終セットは、車両の物理的な燃料電池回路を制御するために、車両のECU内に組み込まれてよい。別の言い方をすれば、時系列アクチュエータ状態の最終セットは、ある時間にわたるアクチュエータ状態の所望の進行を規定してよく、それ故、アクチュエータの制御ロジックとして用いられてよい。
【0068】
ブロック526において、方法500の以前のブロックは、複数のオンパス及び複数のオフパスについて繰り返されてよい。例えば図3を参照すると、モデルプロセッサは、サージライン304に沿った第1オンパス、ストールライン306に沿った第2オンパス及び中間ライン330に沿った第3オンパスを識別してよい。モデルプロセッサは更に、サージライン304に沿った第1オフパス、ストールライン306に沿った第2オフパス及び中間ライン330に沿った第3オフパスを識別してよい。
【0069】
モデルプロセッサは、ランキングに基づいて最適解を選択できるように、潜在的な時系列制御解をランク付けするために、改ざん技術を用いてよい。例えば図8を参照すると、改ざんルーチン800が、最適解を選択するために用いられてよい。ブロック802において、モデルプロセッサは、燃料電池回路のシミュレーションを用いてアクチュエータのシミュレーションを実行してよい。その後モデルプロセッサは、STLモニタ806により受信された時系列アクチュエータ状態804を出力してよい。
【0070】
STLモニタ806は、時系列アクチュエータ状態804を分析してよく、上述したロバストネス値に対応するロバストネス値808を決定して出力してよい。
【0071】
最適化ツール810は、ロバストネス値808を受信してよく、改良されたロバストネス値808を生成可能な新たなアクチュエータポジション812(例えば、弁ポジション、モータトルク、等)を識別してよい。
【0072】
様々な実施形態では、改ざんルーチン800は、所定量の繰り返しについて実行されてよく、又は、ロバストネス値808が、燃料電池回路の所望動作に対応する所望ロバストネス閾レベルに到達するまで実行されてよい。
【0073】
明細書及びクレーム全体で用いられている「少なくともA及びB」は、「A」のみ、「B」のみ、及び、「A及びB」を含む。方法/システムの例示的な実施形態は、イラストスタイルで開示されている。したがって、全体を通して使用されている用語は、非限定的に読まれるべきである。したがって、全体を通して使用されている用語は、非限定的に読まれるべきである。本明細書中の教示に対するわずかな変更は当業者には想起されるであろうが、本明細書に保証される特許の範囲内で制限されることを意図するものは合理的に進歩の範囲内にある全てのそのような実施形態である。添付の特許請求の範囲およびその均等物を考慮しない限り、その技術はここに貢献し、その範囲は制限されないものとする。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8