(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】金属溶射による微細成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/115 20060101AFI20230721BHJP
C23C 4/00 20160101ALI20230721BHJP
【FI】
B22F3/115
C23C4/00
(21)【出願番号】P 2019086278
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-02-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513295294
【氏名又は名称】木内 学
(73)【特許権者】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】木内 学
(72)【発明者】
【氏名】近藤 啓明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 豪孝
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-033215(JP,A)
【文献】特開2013-247036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末を用いた微細凹凸構造パターンの表面を有する金属溶射による微細成形物の製造方法であって、
前記微細成形物の表面における前記微細凹凸構造パターンの凸部状幅又は凹部状幅の最小値が、0.05mmで、
表面に前記微細凹凸構造パターンに対する
凸部状幅又は凹部状幅の最小値が、0.05mmの反転微細凹凸構造パターンを予め形成した基材と、前記金属粉末を火炎と共に噴射し、前記火炎の熱により溶融して形成された前記金属粉末の溶融物が、前記火炎内を飛行しつつ、前記火炎毎、冷媒により冷却されて基材表面に皮膜を形成する急冷溶射ガンを用い、前記基材に予め形成した反転微細凹凸構造パターンの表面に、前記反転微細凹凸構造パターンの凹凸を埋没させて平坦となる厚みの皮膜を形成した後、前記皮膜を基材から離型することにより成形された表面が微細凹凸構造パターンを有する薄板を得ることを特徴とする金属溶射による微細成形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用材料として、表面が微細な凹凸構造を有する金属微細成形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や電車などに車載される搭載型燃料電池や、小型軽量化する電子機器の放熱を担う放熱フィン付きヒートシンク、マイクロフィン等の放熱部材においては、これらの機器が用いられるコンパクト化、小型軽量化に伴う高性能化への要求に伴い、形状の精密性がより必要となってきている。
【0003】
燃料電池用セパレータでは、精密プレス技術を用いて、ガス流路やMEAとの接触面積を増加させるような形状を形成することで、製品の精度向上や薄型化を狙ったセパレータの開発が進められている。さらに、
図1又は
図2に示すような噴射ガンを用い、噴射された粉末粒子の溶融物を急冷しながら溝加工された基材表面に薄板状の非晶質膜を成膜し、その成膜時の温度を維持して溝付きロールで圧延後、最後に成膜を剥離して凹凸表面を有するセパレータ製品とするものである(特許文献1参照)。
【0004】
又、放熱フィン付きヒートシンクやマイクロフィンなどの放熱部材では、従来、基板上にろう付けした製品や、押出成型加工や鋳造加工法により作製されていたものが、近年は削り起こし工具を用いて金属板に放熱フィンを形成する放熱器の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2、3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-221167号公報
【文献】特開2001-102782号公報
【文献】特開2009-032755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来からの方法では工数が多いために製品とするまでに多くの時間が費やされる点や、必要とされる精度の製品が得られない等の問題があり、その解決が望まれていた。
そこで、金属溶射技術を用い、目的とする表面形態を形成可能な表面を有する基材の該表面に金属を溶射して皮膜を形成し、目的とする表面形態を持つ薄板とする微細成形物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属の溶射技術を用い、目的とする表面形態を形成可能な表面、即ち目的とする表面形態を反転した表面形態を有する基材の該表面に金属を溶射し、表面形態の凹凸を埋設して平坦な面を有する皮膜を形成、基材と離型することで、目的とする表面形態を持つ薄板を、少ない工数で、且つ精度的にも従来技術では困難なレベルの精度で作製が可能な微細成形物の製造方法に係る発明である。
【0008】
本発明は、金属粉末を用いた微細凹凸構造パターンの表面を有する金属溶射による微細成形物の製造方法であって、前記微細成形物の表面における前記微細凹凸構造パターンの凸部状幅又は凹部状幅の最小値が、0.05mmで、表面に前記微細凹凸構造パターンに対する凸部状幅又は凹部状幅の最小値が、0.05mmの反転微細凹凸構造パターンを予め形成した基材と、前記金属粉末を火炎と共に噴射し、前記火炎の熱により溶融して形成された前記金属粉末の溶融物が、前記火炎内を飛行しつつ、前記火炎毎、冷媒により冷却されて基材表面に皮膜を形成する急冷溶射ガンを用い、前記基材に予め形成した反転微細凹凸構造パターンの表面に、前記反転微細凹凸構造パターンの凹凸を埋没させて平坦となる厚みの皮膜を形成した後、前記皮膜を基材から離型することにより成形された表面が微細凹凸構造パターンを有する薄板を得ることを特徴とする金属溶射による微細成形物の製造方法である。
【0009】
なお、本発明においては、表面が反転微細凹凸構造パターンを有する基材における凸部状幅又は凹部状幅の最小値が、0.15mmであることが好ましい。また、金属粉末における金属としては、ステンレスの外、Ti、Si、Cu、Al、Niのいずれか1種の金属、あるいは、2種以上からなる合金を用いることができる。さらに、本発明では、微細成形物における表面の微細凹凸構造の凸部状幅又は凹部状幅の最小値が、0.15mm、0.05mmの薄板を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属粉末の材質を選択することで、耐食性、導電性等の機能性特性に優れ、且つ複雑な表面形態の薄板を、効率良く製造が可能であると共に、精度面での需要に対応可能な金属製の薄板を製造でき、工業的に顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】超急冷遷移制御噴射装置(急冷溶射ガン)の使用状況を示す側面図である。
【
図2】大型の超急冷遷移制御噴射装置(急冷溶射ガン)を示す側面図(図(a))と底面図(図(b))である。
【
図3】本実施例に係る製造プロセスの概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[薄板の作製]
本発明に係る微細な3次元表面形状を有する微細成形物の製造方法について、
図3を参照しながら説明する。
【0013】
(1)製造される微細成形物32の所望の高さ及び幅の凹凸状部を備えた微細な3次元形状の表面に対し、反転形状として対応する所望の高さ及び幅の凹凸状部を備えた微細な反転3次元形状の表面を有する基材30を準備し、予め所望温度に昇温させる。
【0014】
(2)金属材料の粉末材料を、所要の急冷溶射ガンAを用いて火炎およびアシストガスと共に噴出させつつ溶解し且つ混合する。
【0015】
(3)火炎およびアシストガスと共に所望の距離および角度を以て、予め所望温度に昇温された基材30の反転3次元形状の表面に向けて噴射吹付ける。
【0016】
(4)さらに溶解・混合した前記原料の金属の粉末材料が、前記基材30に到達する以前に前記原料の金属の粉末材料の周囲に向けて噴射された所望冷媒の噴流により前記原料の金属の粉末材料の冷却を開始する。
【0017】
(5)所望の凝固状態又は半凝固状態に至った該原料の金属の粉末材料を前記基材30の微細な反転3次元形状表面の凹凸状部に凝着積層させて該凹凸状部の凹部を充満させると共に、凹凸状部を埋設する積層厚さに至るまで噴射吹付けして凝着積層させた皮膜31を形成する。
【0018】
(6)その後冷却を経て、所望の表面形態を備える皮膜31を基材30から離型し、薄板の微細成形物(薄板)32を回収する。
なお、基材30の凹凸の埋設には、複数回の金属溶射を実施して行なっても良い。更に、複数回の金属溶射を行なうような場合、溶射される金属種を変更して積層構造の皮膜とすることも可能である。
【0019】
上記のような本実施態様では、薄板の作製に
図1又は
図2に示すような「超急冷遷移制御噴射装置」(急冷溶射ガンとも称す)を用いることを特徴とする。
これらの装置は、粉末材料を原料にして、粉末供給管1又は11を通じて装置内に装入された粉末材料は、ガス燃焼により溶融されながら、ガス燃焼により生じた火炎(
図1では符号F)の火炎噴射口5又は15と同軸にある粉末噴射口6又は16から、その火炎内に取り込まれ、更なる溶融過程を受けながら、噴射方向の基材表面へと飛行し、基材表面に凝着、皮膜を形成するもので、本装置では、粉末材料は火炎内の飛行時から冷却を受けることから急冷処理を可能とする装置である。
なお、図中、2は冷却ガス供給管、7は筐体、12はミスト噴射ノズル、13はミスト噴射口である。
【0020】
このような
図1、
図2にある超急冷遷移制御噴射装置の違いは、一度に形成可能な皮膜の幅で、
図1は幅15mm、
図2では300mmとなっている。どちらの超急冷遷移制御噴射装置でも、同質の皮膜および薄板を得ることができるが、超急冷遷移制御噴射装置1台あたりの作製効率を重視する場合には
図2の装置を利用する。
又、基材表面に、一旦溶融させた粉末材料の急冷皮膜を形成し、さらに基材から剥離させた急冷薄板の作製が可能で、非晶質になりやすい組成の粉末材料を使用する場合に非晶質の皮膜および薄板の作製に適しているが、非晶質になりにくい組成、或いは非晶質の形態を持たない組成の粉末材料を用いた場合には、微細な組織を有する結晶質の皮膜及び薄板が作製可能である。
【0021】
具体的には、粉末材料は火炎に運ばれる飛行時に、その火炎中で完全に溶融し、基材9への到達前から窒素ガスやミスト等の冷媒(冷却ガスG)により急冷されていき、結果、基材9の表面に皮膜として形成される。その皮膜は、原料の粉末材料の種類により非晶質になるもの、結晶質になるものの制御が可能である。
【0022】
また、本実施態様では、上記薄板の作製に用いる「基材」の温度を制御する。
即ち、基材を加熱し、その基材温度を高めておくことにより、皮膜温度の降温速度を弱め、結晶質の皮膜形成に寄与する働きをする。その温度は、皮膜材料(粉末材料)の非晶質へのなり易さと、基材の材質を考慮して適宜設定されるものである。
【0023】
さらに本実施態様では、上記皮膜が形成される基材表面が、微細な3次元凹凸構造を有している点である。即ち、本実施態様における基材の皮膜形成面は、所望の皮膜表面を現出可能な形状に造形され、且つ
図4に、その具体例の一つを示すように、基材40には、その凹部状幅P、及び凸部状幅Wの最小値が0.15mm、より微細には最小値が0.05mm(50μm)程度迄可能なパターンを有し、本実施態様では、このサイズに追随して皮膜表面が形成可能となっている。さらに、凸部の頂部と凹部の底部間の長さである凸部状高さDと、凸部状幅Wとの関係、D/Wが1.0を超える場合にも、皮膜の形状追随性は良好で、所望の表面形態を有した薄板の製造が可能である。
【0024】
なお、本実施態様においては、上記のような超急冷遷移制御噴射装置に供給されて皮膜を経て薄板を形成する粉末材料として、非晶質化しにくい組成のSUS粉末材料や、Ti、Si、Cu、Al、Niのいずれか1種の金属粉末材料、又は2種以上の金属からなる合金粉末材料を用いることができる。
【符号の説明】
【0025】
A、B 急冷溶射ガン(超急冷遷移制御噴射装置)
D 凸部状高さ
F 火炎
G 冷却ガス
P 凹部状幅
W 凸部状幅
1、11 粉末供給管
2 冷却ガス供給管
4、14 冷却ガス噴射口
5、15 火炎噴射口
6、16 粉末噴射口
7 筐体
9、30、40 基材
12 ミスト噴射ノズル
13 ミスト噴射口
31 皮膜
32 薄板(微細成形物)