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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】二重管の溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 15/00 20060101AFI20230721BHJP
   H05H 7/20 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
B23K15/00 505
H05H7/20
B23K15/00 501A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019093129
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020185604
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 明啓
(72)【発明者】
【氏名】原 博史
(72)【発明者】
【氏名】木村 優志
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-041085(JP,A)
【文献】実開昭63-106583(JP,U)
【文献】特開2014-161907(JP,A)
【文献】特開2017-201602(JP,A)
【文献】特開昭56-071588(JP,A)
【文献】実開昭63-116702(JP,U)
【文献】特開2015-227812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 15/00
H05H 7/20
F22B 37/10
F16L 13/02
F28F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の中心軸を中心とした外筒及び内筒を有し、前記中心軸の軸線方向の一方の端部において前記外筒及び前記内筒を一体で固定する構造物が設けられ、前記軸線方向の他方の端部が開放された2つの二重管構造物のそれぞれの前記軸線方向の他方の端部同士を溶接して二重管を形成する二重管の溶接方法であって、
少なくとも前記内筒同士が接触又は近接するように、2つの二重管構造物のうち第1構造物の前記他方の端部と第2構造物の前記他方の端部とを対向させることと、
対向配置された前記第1構造物及び前記第2構造物に対して前記外筒の側方から前記外筒同士の間を貫通又は通過して前記内筒同士の対向部分に到達するように電子ビームを照射して前記内筒同士を溶接することと、
対向配置された前記第1構造物及び前記第2構造物に対して前記外筒の側方から前記外筒同士の対向部分に前記電子ビームを照射して前記外筒同士を溶接することと
を含む二重管の溶接方法。
【請求項2】
前記二重管は、1/2波長型共振器である
請求項1に記載の二重管の溶接方法。
【請求項3】
前記内筒同士を溶接する際、前記外筒同士の対向部分に照射する前記電子ビームの一部を貫通させて前記内筒同士の対向部分に到達させる
請求項1又は請求項2に記載の二重管の溶接方法。
【請求項4】
前記他方の端部同士を対向させた場合に前記外筒同士の対向部分の距離が前記内筒同士の対向部分の距離よりも大きくなるように前記二重管構造物が形成され、
前記内筒同士を溶接する際、前記外筒同士の間を通過させて前記電子ビームを前記内筒同士の対向部分に到達させる
請求項1又は請求項2に記載の二重管の溶接方法。
【請求項5】
前記内筒同士を溶接する場合、溶接縮みにより前記外筒同士の対向部分の距離が前記電子ビームの径よりも小さくなるように前記電子ビームを前記内筒に照射する
請求項4に記載の二重管の溶接方法。
【請求項6】
前記他方の端部同士を対向させた場合に前記外筒同士の対向部分の距離が前記内筒同士の対向部分の距離よりも大きくなるように前記二重管構造物が形成され、
前記内筒同士を溶接する場合、前記外筒同士の対向部分の距離よりも前記電子ビームの径を小さく絞った状態として前記外筒同士の間を通過させて前記内筒に前記電子ビームを照射し、
前記外筒同士を溶接する場合、前記内筒に照射する場合よりも前記電子ビームの径を大きくした状態で前記外筒に前記電子ビームを照射する
請求項1又は請求項2に記載の二重管の溶接方法。
【請求項7】
前記他方の端部同士を対向させた場合に前記外筒同士の対向部分の位置と前記内筒同士の対向部分の位置とが前記中心軸の軸線方向においてずれるように前記二重管構造物が形成され、かつ、前記外筒同士の対向部分が前記内筒同士の対向部分に向けて傾くように形成され、
前記内筒同士を溶接する場合、前記外筒同士の間を前記対向部分の傾き方向に前記電子ビームを通過させることで前記電子ビームを前記内筒同士の対向部分に到達させる
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の二重管の溶接方法。
【請求項8】
前記外筒同士を溶接する場合、前記外筒を構成する材料と同一材料の溶接材を前記外筒同士の対向部分に配置して前記電子ビームを照射する
請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の二重管の溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重管の溶接方法及び二重管の溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子や陽子などの荷電粒子を超伝導加速空洞により加速する超伝導加速器が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような超伝導加速器は、超伝導材料で形成された超伝導加速空洞を冷媒で冷却することで超伝導化する。これにより超伝導加速空洞の電気抵抗がほぼゼロになり、電力損失なく荷電粒子の加速を効率良く行うことができる。この超伝導加速器で用いられる超伝導加速空洞は、ニオブなどの超伝導材料を板金加工し、電子ビームにより溶接することにより製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3746611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超伝導加速器のような二重管構造同士を溶接する際、例えば接合する端部とは異なる端部に構造物等が設けられる場合には、当該構造物を避ける方向から電子ビームを照射する必要があり、溶接作業の困難性が高くなる。このため、溶接作業を容易に行うことが求められている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、溶接作業を容易に行うことが可能な二重管の溶接方法及び二重管の溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る二重管の溶接方法は、所定の中心軸を中心とした外筒及び内筒を有し、前記中心軸の軸線方向の一方の端部において前記外筒及び前記内筒を一体で固定する構造物が設けられ、前記軸線方向の他方の端部が開放された2つの二重管構造物のそれぞれの前記軸線方向の他方の端部同士を溶接して二重管を形成する二重管の溶接方法であって、少なくとも前記内筒同士が接触又は近接するように、2つの二重管構造物のうち第1構造物の前記他方の端部と第2構造物の前記他方の端部とを対向させることと、対向配置された前記第1構造物及び前記第2構造物に対して前記外筒の側方から前記外筒同士の間を貫通又は通過して前記内筒同士の対向部分に到達するように電子ビームを照射して前記内筒同士を溶接することと、対向配置された前記第1構造物及び前記第2構造物に対して前記外筒の側方から前記外筒同士の対向部分に前記電子ビームを照射して前記外筒同士を溶接することとを含む。
【0007】
本開示に係る二重管の溶接装置は、所定の中心軸を中心とした外筒及び内筒を有し、前記中心軸の軸線方向の一方の端部において前記外筒及び前記内筒が一体で固定され、前記軸線方向の他方の端部が開放された2つの二重管構造物のそれぞれの前記軸線方向の他方の端部同士を溶接して二重管を形成する二重管の溶接装置であって、少なくとも前記内筒同士が接触又は近接するように、2つの二重管構造物のうち第1構造物の前記他方の端部と第2構造物の前記他方の端部とを対向させる構造物保持部と、対向配置された前記第1構造物及び前記第2構造物に対して前記外筒の側方から電子ビームを照射する電子ビーム照射部と、前記構造物保持部及び前記電子ビーム照射部を制御することにより、対向配置された前記第1構造物及び前記第2構造物に対して前記外筒の側方から前記外筒同士の間を貫通又は通過して前記内筒同士の対向部分に到達するように電子ビームを照射して前記内筒同士を溶接させ、対向配置された前記第1構造物及び前記第2構造物に対して前記外筒の側方から前記外筒同士の対向部分に前記電子ビームを照射して前記外筒同士を溶接させる制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、溶接作業を容易に行うことが可能な二重管の溶接方法及び二重管の溶接装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る溶接装置の一例を模式的に示す図である。
図2図2は、本実施形態において製造される超伝導加速器の一例を示す断面図である。
図3図3は、本実施形態において製造される超伝導加速器の一例を示す平面図である。
図4図4は、本実施形態に係る二重管の溶接方法の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、溶接工程の一例を示す図である。
図6図6は、溶接工程の一例を示す図である。
図7図7は、溶接工程の他の例を示す図である。
図8図8は、溶接工程の他の例を示す図である。
図9図9は、溶接工程の他の例を示す図である。
図10図10は、溶接工程の他の例を示す図である。
図11図11は、溶接工程の他の例を示す図である。
図12図12は、溶接工程の他の例を示す図である。
図13図13は、溶接工程の他の例を示す図である。
図14図14は、溶接により形成された超伝導加速器の一部の構成を示す図である。
図15図15は、溶接工程の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る二重管の溶接方法及び二重管の溶接装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
図1は、本実施形態に係る溶接装置100の一例を模式的に示す図である。図1に示すように、溶接装置100は、チャンバ10と、電子ビーム照射部20と、制御部30とを備える。本実施形態において、溶接装置100は、対象物に電子ビームを照射する電子ビーム照射装置である。
【0012】
チャンバ10は、電子ビームの照射対象となる二重管構造物を収容する。チャンバ10は、ステージ11と、構造物保持部12とを有する。ステージ11は、構造物保持部12を支持する。ステージ11は、構造物保持部12を支持した状態で、例えば所定の回転軸を中心として回転可能である。
【0013】
構造物保持部12は、電子ビームの照射対象を保持する。構造物保持部12は、対象物(後述する、第1構造物51及び第2構造物52)のうち例えばステージ11側(上下方向の下側)の端部を保持する構造のみが図示されているが、これに限定されず、ステージ11とは反対側(上下方向の上側)の端部を保持する構造が設けられてもよい。構造物保持部12は、ステージ11が回転することにより、ステージ11と一体で回転可能である。
【0014】
電子ビーム照射部20は、照射部21と、撮像部22とを有する。照射部21は、不図示のカソード電極、グリッド電極、アノード電極、電磁コイル等、電子ビームを照射するための構成が設けられる。照射部21は、電子ビームの径を調整可能である。撮像部22は、電子ビームの照射位置の画像を撮像する。撮像された画像は、不図示の表示部により表示可能である。溶接装置100を操作するオペレータは、撮像された画像を見ることにより、電子ビームが照射される部分の状態を容易に視認することができる。また、オペレータは、撮像された画像を見ながら操作する場合、電子ビームを高精度に照射することが可能となる。
【0015】
制御部30は、チャンバ10及び電子ビーム照射部20の動作を制御する。制御部30は、チャンバ10において、例えばステージ11及び構造物保持部12の各動作を制御する。制御部30は、例えば電子ビーム照射部20の照射部21及び撮像部22の動作を制御する。
【0016】
図2及び図3は、本実施形態において製造される超伝導加速器40の一例を示す図である。図2は中心軸を通る平面による断面視、図3は上面視における図をそれぞれ示している。図2及び図3に示す超伝導加速器40は、例えば同軸1/2波長型超伝導加速器(HWR:Half Wave Resonator)である。超伝導加速器40は、加速空洞41と、ステム42と、ビーム管43と、洗浄ポート44、45とを有する。
【0017】
加速空洞41は、電子や陽子などの荷電粒子からなる荷電粒子ビームBを加速するものである。加速空洞41は、ニオブなどの超伝導材料により例えば円筒状に形成され、中心軸の軸線方向に連続する中空チャンバ形状をなしている。加速空洞41は、溶接部分46を介して洗浄ポート44と接合される。また、加速空洞41は、溶接部分48を介して洗浄ポート45と接合される。
【0018】
加速空洞41は、不図示の真空ポンプに接続される接続口を有する。加速空洞41は、真空ポンプにより真空引きすることで内部を真空状態とすることができる。また、加速空洞41は、不図示の電力入力部が設けられる。加速空洞41は、電力入力部により高周波の電力が入力されることにより、荷電粒子ビームBを加速するための電界を発生させる。
【0019】
ステム42は、加速空洞41の内側に配置され、ニオブなどの超伝導材料により例えば加速空洞41と同軸の円筒状に形成される。ステム42は、中心軸の軸線方向に連続する中空チャンバ形状をなしている。つまり、超伝導加速器40は、加速空洞41及びステム42による二重管構造となっている。ステム42は、溶接部分47を介して洗浄ポート44と接合される。また、ステム42は、溶接部分49を介して洗浄ポート45と接合される。
【0020】
ビーム管43は、加速空洞41及びステム42の中心軸に対して直交する方向に延びている。ビーム管43は、加速空洞41及びステム42を貫通して設けられる。ビーム管43は、荷電粒子ビームBを通過させる。
【0021】
洗浄ポート44、45は、加速空洞41の内部を洗浄するための洗浄水を導入する導入口である。洗浄ポート44、45は、超伝導加速器40において中心軸の軸線方向の両端に配置される。
【0022】
このように構成された超伝導加速器40は、加速空洞41が冷却されることで超伝導状態とされる。荷電粒子ビームBは、ビーム管43から加速空洞41内に入り、ステム42を経て加速空洞41の外部に送り出される。超伝導加速器40は、荷電粒子ビームBの粒子流路に沿って複数連接される。隣接する超伝導加速器40同士は、一方の超伝導加速器40のビーム管43と他方の超伝導加速器40のビーム管43が不図示の接続管を介し接続される。
【0023】
上記のように構成される超伝導加速器40は、ニオブなどの超伝導材料を板金加工し、溶接することにより製造される。例えば、加速空洞41、ステム42及びビーム管43を組み立てる。また、洗浄ポート44及び洗浄ポート45をそれぞれ形成する。その後、加速空洞41、ステム42及びビーム管43の組み立て構造物に対して、まず、電子ビームを用いて洗浄ポート44を溶接する。これにより、図2に示す第1構造物51が形成される。第1構造物51は、二重管状の加速空洞41及びステム42を有する二重管構造物である。以下、第1構造物51のうち加速空洞41を外筒51aと表記し、ステム42を内筒51bと表記する。第1構造物51は、一方の端部においては外筒51a及び内筒51bが洗浄ポート44によって一体で固定され、他方の端部においては外筒51a及び内筒51bが開放され、断面が露出した状態となっている。
【0024】
次に、第1構造物51に対して、電子ビームを用いて洗浄ポート45を溶接する。洗浄ポート45は、洗浄水を導入する開口部分に対して、加速空洞41に接合させる部分と、ステム42に接合させる部分とが接続された構成である。洗浄ポート45は、この加速空洞41に接合させる部分と、ステム42に接合させる部分とが二重管状に形成された二重管構造物である。以下、洗浄ポート45を第2構造物52と表記し、加速空洞41に接合させる部分を外筒52aと表記し、ステム42に接合させる部分を内筒52bと表記する。第2構造物52は、一方の端部(開口部分側の端部)において外筒52a及び内筒52bが一体で固定され、他方の端部においては外筒52a及び内筒52bが開放され、断面が露出した状態となっている。
【0025】
図4は、本実施形態に係る二重管の溶接方法の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、二重管の溶接方法は、第1構造物51の他方の端部と第2構造物52の他方の端部とを対向配置する工程(ステップS10)と、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から外筒51a、52aの間を貫通又は通過して内筒51b、52bの対向部分5454に到達するように電子ビームを照射して内筒51b、52bを溶接する工程(ステップS20)と、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から外筒51a、52aの対向部分53に電子ビームを照射して外筒51a、52aを溶接する工程(ステップS30)と、を含む。本実施形態に係る二重管の溶接方法は、例えば溶接装置100を用いて行われる。この場合、制御部30が溶接装置100の各部の動作を制御することにより、各ステップS10、S20、S30が行われる。なお、各動作については、オペレータが手動で行ってもよい。
【0026】
ステップS10では、外筒51aの端部と外筒52aの端部とが対向し、内筒51bの端部と内筒52bの端部とが対向するように、第1構造物51と第2構造物52とを構造物保持部12によって保持する。
【0027】
ステップS20及びステップS30(以下、溶接工程と表記する場合がある)では、以下の各手法により、外筒51a、52a同士の溶接及び内筒51b、52b同士の溶接を行う。
【0028】
図5及び図6は、溶接工程の一例を示す図である。図5及び図6に示すように、内筒51b、52b同士を溶接する際、照射部21から外筒51a、52aの対向部分53に電子ビームEBを照射する。このとき、照射部21は、当該電子ビームEBの一部が、外筒51a、52aの対向部分53を貫通して内筒51b、52bの対向部分54に到達するように照射する。
【0029】
これにより、まず、外筒51a、52aの対向部分53に照射される電子ビームEBによって外筒51a、52a同士が溶接される。また、外筒51a、52aの間を貫通した電子ビームEBaは、内筒51b、52bの対向部分54に照射される。この電子ビームEBaによって、内筒51b、52bが溶接される。つまり、1回の電子ビームEBの照射により、外筒51a、52a同士及び内筒51b、52b同士が同時に溶接される。
【0030】
外筒51a、52aの対向部分53を貫通した電子ビームEBaは、外筒51a、52aの対向部分53に照射される電子ビームEBに比べて強度が低下する。このため、照射部21は、貫通した電子ビームEBaの強度が内筒51b、52b同士が溶接可能となるように、電子ビームEBの照射強度を調整する。
【0031】
図6に示すように、第1構造物51及び第2構造物52を中心軸AXの軸回りに1回転させることで、外筒51a、52a同士及び内筒51b、52b同士を同時に溶接することができる。
【0032】
図7から図9は、溶接工程の他の例を示す図である。図7に示すように、外筒51aと外筒52aとが対向し、内筒51bと内筒52bとが対向した場合に、外筒51a、52aの対向部分53の距離d1が内筒51b、52bの対向部分54の距離よりも大きくなるように第1構造物51及び第2構造物52を形成しておく。
【0033】
この状態で、内筒51b、52b同士を溶接する際、図8に示すように、外筒51a、52aの間を通過させて電子ビームEBを内筒51b、52bの対向部分54に到達させる。この内筒51b、52bの対向部分54に照射される電子ビームEBにより、内筒51b、52b同士が溶接される。内筒51b、52b同士が溶接された場合、第1構造物51と第2構造物52とが互いに近づく方向に収縮する、いわゆる溶接縮みが生じる。この溶接縮みにより、外筒51a、52aの対向部分53の距離が距離d1から距離d2(d1>d2)に短縮される。その後、図9に示すように、照射部21から外筒51a、52aの対向部分53に電子ビームEBを照射する。これにより、外筒51a、52a同士が溶接される。溶接縮みによって短縮された後の距離d2が、電子ビームEBの径よりも小さくなるように距離d1を調整することにより、電子ビームの径を変更することなく、外筒51a、52a及び内筒51b、52bを溶接することができる。
【0034】
図10及び図11は、溶接工程の他の例を示す図である。なお、図10及び図11に示す例においては、図7に示す例と同様に、外筒51aと外筒52aとが対向し、内筒51bと内筒52bとが対向した場合に、外筒51a、52aの対向部分53の距離が内筒51b、52bの対向部分54の距離よりも大きくなるように第1構造物51及び第2構造物52を形成しておく。
【0035】
この状態で、内筒51b、52b同士を溶接する際、図10に示すように、スリットSLによって電子ビームEBの径を縮小し、スリットSLから電子ビームEBbを出射する。スリットSLの開口部の寸法は、電子ビームEBbが外筒51a、52aの間を通過するように設定される。スリットSLを通過した電子ビームEBbは、外筒51a、52aの間を通過し、内筒51b、52bの対向部分54に到達する。この電子ビームEBbが内筒51b、52bの対向部分54を照射することにより、内筒51b、52b同士が溶接される。
【0036】
その後、図11に示すように、照射部21と外筒51a、52aとの間からスリットSLを取り除き、照射部21から外筒51a、52aの対向部分53に電子ビームEBを照射する。これにより、外筒51a、52a同士が溶接される。
【0037】
図12及び図13は、溶接工程の他の例を示す図である。図12に示すように、外筒51aと外筒52aとが対向し、内筒51bと内筒52bとが対向した場合に、外筒51a、52aの対向部分53の位置と内筒51b、52bの対向部分54の位置とが中心軸AXの軸線方向においてずれるように、かつ、外筒51a、52aの対向部分53側の端部51c、52cが内筒51b、52bの対向部分54に向けて傾くように、第1構造物51及び第2構造物52を形成しておく。
【0038】
この状態で、内筒51b、52b同士を溶接する際、図13に示すように、外筒51a、52aの対向部分53の傾き方向に沿って電子ビームEBが外筒51a、52aの間を通過するように、当該電子ビームEBを照射する。これにより、電子ビームEBは、外筒51a、52aの間を通過して、内筒51b、52bの対向部分54に到達する。この電子ビームEBは、内筒51b、52bの対向部分54を照射する。これにより、内筒51b、52b同士が溶接される。その後、図13に示すように、外筒51a、52aの端部51c、52cに電子ビームEBを照射する。これにより、外筒51a、52a同士が溶接される。
【0039】
図14は、溶接により形成された超伝導加速器40の一部の構成を示す図である。図14に示すように、加速空洞41の内面41aにおいては、溶接部分48によって内側に突出する突出部41bが形成される。また、ステム42の外面42aにおいて、溶接部分49によって外側に突出する突出部42bが形成される。
【0040】
例えば、溶接部分49が溶接部分48に対して中心軸AXの軸線方向において同じ位置に配置される場合(図中破線で示す仮想の溶接部分49a)、溶接部分48と仮想の溶接部分49aとの間では、電界が集中しやすくなる。このため、予期しない放電等が生じやすくなる。一方、図14に示す例では、溶接部分48と溶接部分49とが中心軸AXの軸線方向にずれている、つまり、突出部41bと突出部42bとが中心軸AXの軸線方向にずれている。この場合、突出部41bと突出部42bとの間の距離d4は、仮想の溶接部分49aが設けられる場合の突出部41bと突出部49bとの距離d3に比べて大きくなるため、電界の集中が抑制される。
【0041】
図15は、溶接工程の他の例を示す図である。例えば、図7から図13に示す例のように内筒51b、52bを溶接した後、外筒51a、52aを溶接する場合には、図15に示すように、外筒51a、52aを構成する材料と同一材料(例えば、ニオブ等)の溶接材55を外筒51a、52aの対向部分53に配置して電子ビームEBを照射してもよい。
【0042】
以上のように、本実施形態に係る二重管の溶接方法は、所定の中心軸AXを中心とした外筒51a、52a及び内筒51b、52bを有し、中心軸AXの軸線方向の一方の端部において外筒51a、52a及び内筒51b、52bを一体で固定する洗浄ポート44、45が設けられ、軸線方向の他方の端部が開放された第1構造物51及び第2構造物52のそれぞれの軸線方向の他方の端部同士を溶接して二重管を形成する二重管の溶接方法であって、少なくとも内筒51b、52b同士が接触又は近接するように、第1構造物51の他方の端部と第2構造物52の他方の端部とを対向させることと、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から外筒51a、52a同士の間を貫通又は通過して内筒51b、52b同士の対向部分に到達するように電子ビームを照射して内筒51b、52b同士を溶接することと、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から外筒51a、52a同士の対向部分に電子ビームを照射して外筒51a、52a同士を溶接することとを含む。
【0043】
また、本実施形態に係る二重管の溶接装置100は、所定の中心軸AXを中心とした外筒51a、52a及び内筒51b、52bを有し、中心軸AXの軸線方向の一方の端部において外筒51a、52a及び内筒51b、52bを一体で固定する洗浄ポート44、45が設けられ、軸線方向の他方の端部が開放された第1構造物51及び第2構造物52のそれぞれの軸線方向の他方の端部同士を溶接して二重管を形成する二重管の溶接装置100であって、少なくとも内筒51b、52b同士が接触又は近接するように、第1構造物51の他方の端部と第2構造物52の他方の端部とを対向させた状態で第1構造物51と第2構造物52とを保持可能な構造物保持部12と、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から電子ビームを照射する電子ビーム照射部20と、構造物保持部12及び電子ビーム照射部20を制御することにより、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から外筒51a、52aの間を貫通又は通過して内筒51b、52bの対向部分54に到達するように電子ビームを照射して内筒51b、52bを溶接させ、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から外筒51a、52aの対向部分53に電子ビームを照射して外筒51a、52aを溶接させる制御部30とを備える。
【0044】
本実施形態によれば、対向配置された第1構造物51及び第2構造物52に対して外筒51a、52aの側方から外筒51a、52a同士の間を貫通又は通過して内筒51b、52b同士の対向部分に到達するように電子ビームを照射して内筒51b、52b同士を溶接するため、外筒51a、52a及び内筒51b、52bを固定する洗浄ポート44、45が配置される場合においても、洗浄ポート44、45を迂回するように電子ビームを照射する必要が無く、外筒51a、52aの側方から電子ビームを照射することで、外筒51a、52a及び内筒51b、52bの溶接を行うことができる。これにより、溶接作業を容易に行うことが可能となる。
【0045】
本実施形態に係る二重管の溶接方法において、二重管は、1/2波長型共振器である。1/2波長型共振器は、中心軸AXの軸線方向の両端に洗浄ポート44、45が設けられる。この洗浄ポート44、45を迂回するように電子ビームを照射して溶接することが困難であるが、本実施形態では、このような照射を行わなくても、外筒51a、52aの側方から電子ビームを照射することで、外筒51a、52aと内筒51b、52bとの溶接を行うことができる。
【0046】
本実施形態に係る二重管の溶接方法において、内筒51b、52b同士を溶接する際、外筒51a、52a同士の対向部分に照射する電子ビームの一部を貫通させて内筒51b、52b同士の対向部分に到達させる。これにより、1回の電子ビームの照射により外筒51a、52aと内筒51b、52bとを同時に溶接することができる。
【0047】
本実施形態に係る二重管の溶接方法において、他方の端部同士を対向させた場合に外筒51a、52a同士の対向部分の距離が内筒51b、52b同士の対向部分の距離よりも大きくなるように二重管構造物が形成され、内筒51b、52b同士を溶接する際、外筒51a、52a同士の間を通過させて電子ビームを内筒51b、52b同士の対向部分に到達させる。これにより、外筒51a、52aの側方から電子ビームを照射することで、内筒51b、52bの溶接を容易に行うことができる。
【0048】
本実施形態に係る二重管の溶接方法において、内筒51b、52b同士を溶接する場合、溶接縮みにより外筒51a、52a同士の対向部分の距離が電子ビームの径よりも小さくなるように電子ビームを内筒51b、52bに照射する。この構成では、内筒51b、52b同士を溶接する際の溶接縮みを利用して、外筒51a、52a同士の距離を短縮させることにより、電子ビームの径を変更することなく、外筒51a、52a及び内筒51b、52bを溶接することができる。
【0049】
本実施形態に係る二重管の溶接方法において、他方の端部同士を対向させた場合に外筒51a、52a同士の対向部分の距離が内筒51b、52b同士の対向部分の距離よりも大きくなるように二重管構造物が形成され、内筒51b、52b同士を溶接する場合、外筒51a、52a同士の対向部分の距離よりも電子ビームの径を小さく絞った状態として外筒51a、52a同士の間を通過させて内筒51b、52bに電子ビームを照射し、外筒51a、52a同士を溶接する場合、内筒51b、52bに照射する場合よりも電子ビームの径を大きくした状態で外筒51a、52aに電子ビームを照射する。これにより、外筒51a、52aの側方から電子ビームを照射することで、内筒51b、52bの溶接を容易に行うことができる。また、内筒51b、52bの溶接後、外筒51a、52aを同一方向から溶接することができる。
【0050】
本実施形態に係る二重管の溶接方法において、他方の端部同士を対向させた場合に外筒51a、52a同士の対向部分の位置と内筒51b、52b同士の対向部分の位置とが中心軸AXの軸線方向においてずれるように二重管構造物が形成され、かつ、外筒51a、52a同士の対向部分が内筒51b、52b同士の対向部分に向けて傾くように形成され、内筒51b、52b同士を溶接する場合、外筒51a、52a同士の間を対向部分の傾き方向に電子ビームを通過させることで電子ビームを内筒51b、52b同士の対向部分に到達させる。これにより、外筒51a、52aの側方から電子ビームを照射することで、内筒51b、52bの溶接を容易に行うことができる。また、溶接後に形成される超伝導加速器40において、溶接部分による突出部41bと突出部42bとが中心軸AXの軸線方向にずれている。この場合、突出部41bと突出部42bとの間の距離d4が、仮想の溶接部分49aが設けられる場合の突出部41bと突出部49bとの距離d3に比べて大きくなるため、電界の集中が抑制される。
【0051】
本実施形態に係る二重管の溶接方法において、外筒51a、52a同士を溶接する場合、外筒51a、52aを構成する材料と同一材料の溶接材55を外筒51a、52a同士の対向部分に配置して電子ビームを照射する。これにより、外筒51a、52aを容易かつ確実に溶接することができる。
【0052】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態において、電子ビームEBの径を縮小する際、スリットSLを用いる構成を説明したが、これに限定されない。例えば、照射部21を制御することにより、内筒51b、52bに照射する場合と外筒51a、52aに照射する場合とで、電子ビームEBの径を変化させてもよい。
【0053】
また、上記実施形態においては、二重管が1/2波長型共振器である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。二重管は、中心軸の軸線方向の一方の端部において外筒及び内筒を一体で固定する構造物が設けられ、軸線方向の他方の端部が開放された構成であれば、他の構造物であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 チャンバ
11 ステージ
12 構造物保持部
20 電子ビーム照射部
21 照射部
22 撮像部
30 制御部
40 超伝導加速器
41 加速空洞
41a 内面
41b,42b,49b 突出部
42 ステム
42a 外面
43 ビーム管
44,45 洗浄ポート
46,47,48,49 溶接部分
49a 仮想の溶接部分
51 第1構造物
51a,52a 外筒
51b,52b 内筒
51c,52c 対向部分
52 第2構造物
53,54 対向部分
55 溶接材
100 溶接装置
B 荷電粒子ビーム
EB,EBa,EBb 電子ビーム
d1,d2,d3,d4 距離
AX 中心軸
SL スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15