(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】管理データ取得方法、ポンプ装置の状態評価方法及びポンプ装置
(51)【国際特許分類】
F04B 51/00 20060101AFI20230721BHJP
G01D 9/00 20060101ALI20230721BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20230721BHJP
【FI】
F04B51/00
G01D9/00 A
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2019141868
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【氏名又は名称】河崎 眞一
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】柳田 浩貴
(72)【発明者】
【氏名】小松 一登
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-242730(JP,A)
【文献】特開2019-082157(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164745(WO,A1)
【文献】特開2005-241089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 51/00
G01D 9/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽内の液体を排出するポンプ装置に対する管理データ取得方法であって、
前記ポンプ装置の状態評価に用いるポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量を含む1以上の測定データを時系列的に取得する測定データ取得ステップと、
前記測定データ取得ステップで取得した測定データに基づいて、予め設定した時間区分ごとのポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量のばらつきを算出する演算処理ステップと、
前記演算処理ステップで算出したばらつき
が最小となる時間区分における測定データまたは所定の基準値よりも小さくなる時間区分における測定データを前記ポンプ装置の状態評価のための管理データとして採用する測定データを抽出する管理データ抽出ステップと、
を含む管理データ取得方法。
【請求項2】
前記演算処理ステップで算出するばらつきが、標準偏差または分散であり、
前記管理データ抽出ステップで抽出する測定データが、前記標準偏差または分散が最小となる時間区分における測定データである請求項1記載の管理データ取得方法。
【請求項3】
測定データは前記ポンプ装置を構成する機器の振動加速度データまたは軸変位データを含む請求項1または2記載の管理データ取得方法。
【請求項4】
前記測定データ取得ステップは、前記ポンプ装置の運転開始から所定時間経過した後に実行される請求項1から3の何れかに記載の管理データ取得方法。
【請求項5】
各時間区分は、少なくとも時系列的に連続する時間区分間で一部が時間的に重複するように設定されている請求項1から4の何れかに記載の管理データ取得方法。
【請求項6】
ポンプ装置の運転の度に請求項1から5の何れかに記載の管理データ取得方法を実行して、各管理データ抽出ステップで抽出した管理データに基づいて前記ポンプ装置の状態を評価するポンプ装置の状態評価方法。
【請求項7】
水槽内の液体を排出するポンプ装置であって、
回転軸と、
前記回転軸に取り付けられた羽根車と、
前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、
前記羽根車と前記軸受を収容するポンプケーシングと、
管理データ取得装置と、
を備えて構成され、
前記管理データ取得装置は、
前記ポンプ装置の状態評価に用いるポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量を含む1以上の測定データを時系列的に取得する測定データ取得部と、
前記測定データ取得部で取得した測定データに基づいて、予め設定した時間区分ごとのポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量のばらつきを算出する演算処理部と、
前記演算処理部で算出したばらつき
が最小となる時間区分における測定データまたは所定の基準値よりも小さくなる時間区分における測定データを前記ポンプ装置の状態評価のための管理データとして採用する測定データを抽出する管理データ抽出部と、
を備えているポンプ装置。
【請求項8】
前記演算処理部で算出するばらつきが、標準偏差または分散であり、
前記管理データ抽出部で抽出する測定データが、前記標準偏差または分散が最小となる時間区分における測定データである請求項7記載のポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽内の液体を排出するポンプ装置に対する管理データ取得方法、ポンプ装置の状態評価方法及びポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水機場に設置された多くのポンプ設備は設置後30年以上経過し、整備・更新時期に差し掛かっている。そのために要するコストを抑制しながら最適な整備・更新を行なうために、事前の精度の高い点検と診断が必要になっている。
【0003】
国土交通省による河川ポンプ設備の点検・整備・更新マニュアル(案)の維持管理の項には、以下のように記載されている。
排水機場のポンプ設備は、大雨等の自然現象に対応して必要なときに確実に始動でき、かつ必要な時間中故障なく十分な排水機能が発揮できなければならない。日常はほとんど運転されないため稼働時間は少ないが、一旦出水となると連続運転が要求され、また、運転時は高温多湿、気圧低下があり、非出水期は低温下での長期休止となるなど、通常の常用系設備とは異なった環境下にある。
【0004】
一方、排水機場のポンプ設備は、一旦稼働期に入ると確実に連続運転できることが要求され、設備を機能させながらの点検・整備の実施が求められるなどの特性を持っている。さらに、河川ポンプ設備共通のものとして、設備が多くの装置・機器等で構成されていて、一つが故障しても排水機能に何らかの影響を及ぼし、場合によっては機能停止という事態を招くことになるため、システム全体として確実に機能することが求められる。
【0005】
例えば、ポンプ装置の一例である立軸ポンプ装置は、回転軸と、回転軸に取り付けられた羽根車と、回転軸を回転自在に支持する水中軸受と、羽根車と水中軸受を収容するポンプケーシングとを備えて構成されている。立軸ポンプ装置は、ケーシング、羽根車及び水中軸受が水中に没水した状態で運転され、運転時間の経過とともにこれらの部材が徐々に腐食、摩耗していく。
【0006】
そのため、立軸ポンプ装置の点検作業を定期的に行って羽根車や水中軸受の摩耗具合やケーシングの腐食具合を確認し、必要に応じて補修または交換を行うことが必要となるが、部品の摩耗具合を確認するために、立軸ポンプ装置を解体し、クレーンなどにより立軸ポンプを引き上げて点検を行なうと、点検作業に要する設備費及び人件費が嵩むばかりか、長い点検時間を要するという問題がある。
【0007】
特許文献1には、ポンプの振動傾向を正確に管理することができるポンプ装置および方法が提案されている。
当該ポンプ装置は、吸込水槽内の液体を汲み上げるポンプ装置であって、回転軸、該回転軸に固定された羽根車、および前記回転軸を回転自在に支持する軸受を有するポンプと、前記吸込水槽の液面位置を計測する液面計と、前記ポンプの振動を計測する振動計測器と、前記振動計測器の計測値を記録する記録装置と、前記記録装置による前記計測値の記録を開始および停止させる記録制御部とを備え、前記記録制御部は、前記ポンプの吐出流量および前記吸込水槽の液面位置がそれぞれ所定の範囲内にあるときに、前記記録装置に前記計測値を記録させることを特徴とする。
【0008】
また、当該方法は、軸受に回転自在に支持された回転軸を介して羽根車を回転させることにより吸込水槽内の液体を汲み上げるポンプの振動の傾向を管理する方法であって、前記吸込水槽の液面位置および前記ポンプの吐出流量を監視し、前記ポンプの振動を計測し、前記吐出流量および前記吸込水槽の液面位置がそれぞれ所定の範囲内にあるときに、前記ポンプの振動の計測値を記録することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されたポンプ装置および方法を採用すれば、ポンプ装置を解体してクレーンなどを用いてポンプを引き上げるような手間の掛かる点検作業は不要になる。
【0011】
しかし、排水機場に設置されたポンプ装置などでは吐出流量を測定する流量計が設置されていない場合もあり、そのようなポンプ装置ではこの様な方法を採用することができない。
【0012】
また、吐出流量および吸込水槽の液面位置がそれぞれ所定の範囲内にある場合にポンプの振動の計測値を記録するように構成されているため、例えばポンプ装置の運転条件が当該所定の範囲から逸脱した領域で実負荷運転されるような場合には、ポンプの振動の計測値を記録することができない。
【0013】
さらに、吐出流量および吸込水槽の液面位置がそれぞれ所定の範囲内にある場合であっても、ポンプが定常運転状態に到っていない場合には、記録された振動の計測値の信頼性が損なわれる。
【0014】
本発明の目的は、ポンプ装置を評価するための管理データを信頼性の高い安定した状態で取得可能な管理データ取得方法、ポンプ装置の状態評価方法及びポンプ装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、本発明による管理データ取得方法の第一の特徴構成は、水槽内の液体を排出するポンプ装置に対する管理データ取得方法であって、前記ポンプ装置の状態評価に用いるポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量を含む1以上の測定データを時系列的に取得する測定データ取得ステップと、前記測定データ取得ステップで取得した測定データに基づいて、予め設定した時間区分ごとのポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量のばらつきを算出する演算処理ステップと、前記演算処理ステップで算出したばらつきが最小となる時間区分における測定データまたは所定の基準値よりも小さくなる時間区分における測定データを前記ポンプ装置の状態評価のための管理データとして採用する測定データを抽出する管理データ抽出ステップと、を含む点にある。
【0016】
測定データ取得ステップでは、ポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量を含む1以上の種類の測定データが時系列的に取得される。演算処理ステップでは、予め設定した時間区分ごとに各区分に属する測定データのばらつきが算出される。管理データ抽出ステップでは、ポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量のばらつきが最小となる時間区分における測定データまたは所定の基準値よりも小さくなる時間区分における測定データがポンプ装置の状態評価のための管理データとして抽出される。
【0017】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記演算処理ステップで算出するばらつきが、標準偏差または分散であり、前記管理データ抽出ステップで抽出する測定データが、前記標準偏差または分散が最小となる時間区分における測定データである点にある。
【0018】
各時間区分に含まれるポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量の測定データの標準偏差または分散がばらつきとして採用され、当該ばらつきが最小となる時間区分における測定データがポンプ装置の状態評価のための管理データとして抽出される。即ち、安定した定常状態のポンプ装置の測定データがポンプ装置の状態評価に好適な管理データとして抽出される。
【0019】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、測定データは前記ポンプ装置を構成する機器の振動加速度データまたは軸変位データを含む点にある。
【0020】
振動加速度データまたは軸変位データを測定することにより、ポンプ装置を構成する重要な機器、例えば軸受のような機器の劣化度合いを適切に評価できるようになる。
【0021】
同第四の特徴構成は、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記測定データ取得ステップは、前記ポンプ装置の運転開始から所定時間経過した後に実行される点にある。
【0022】
ポンプ装置の運転開始後の経過時間が短い時間領域では、安定した定常運転状態には到っておらず、そのため測定データが過渡的に不安定な値となり、そのような不安定な測定データを用いると機器の劣化の程度などを適切に評価することが困難になる。しかし、運転開始から所定時間経過した後の時間領域ではポンプ装置が安定した定常運転状態になっているため、機器の劣化の程度などを適切に評価可能な測定データが得られるようになる。
【0023】
同第五の特徴構成は、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、各時間区分は、少なくとも時系列的に連続する時間区分間で一部が時間的に重複するように設定されている点にある。
【0024】
時系列的に取得した複数の測定データが所定の時間区分ごとにグループ化され、それぞれのばらつきが算出される。時間区分が重複していない場合には、各時間区分内の測定データのうちの僅かな測定データが他の測定データと大きく値が異なるような場合に、その時間区分の測定データのばらつきに重大な影響を与える可能性が有る。そのため当該僅かな測定データを除くとばらつきが非常に小さくなる場合でも、それら測定データが管理データに選ばれる確率が低下する。しかし、少なくとも時系列的に連続する時間区分間で一部が時間的に重複するように各時間区分が設定されると、同じ測定データが複数の時間区分で評価されるようになるので、適切な管理データとして選ばれる確率が増す。
【0025】
本発明によるポンプ装置の状態評価方法の第一の特徴構成は、ポンプ装置の運転の度に上述した第一から第五の何れかの特徴構成を備えた管理データ取得方法を実行して、各管理データ抽出ステップで抽出した管理データに基づいてポンプ装置の状態を評価する点にある。
【0026】
安定した状態の管理データに基づいてポンプ装置を評価できるようになり、信頼性の高い評価が可能になる。
【0027】
本発明によるポンプ装置の第一の特徴構成は、水槽内の液体を排出するポンプ装置であって、回転軸と、前記回転軸に取り付けられた羽根車と、前記回転軸を回転自在に支持する軸受と、前記羽根車と前記軸受を収容するポンプケーシングと、管理データ取得装置と、を備えて構成され、前記管理データ取得装置は、前記ポンプ装置の状態評価に用いるポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量を含む1以上の測定データを時系列的に取得する測定データ取得部と、前記測定データ取得部で取得した測定データに基づいて、予め設定した時間区分ごとのポンプ吐出圧またはポンプ吐出流量のばらつきを算出する演算処理部と、前記演算処理部で算出したばらつきが最小となる時間区分における測定データまたは所定の基準値よりも小さくなる時間区分における測定データを前記ポンプ装置の状態評価のための管理データとして採用する測定データを抽出する管理データ抽出部と、を備えている点にある。
【0028】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記演算処理部で算出するばらつきが、標準偏差または分散であり、前記管理データ抽出部で抽出する測定データが、前記標準偏差または分散が最小となる時間区分における測定データである点にある。
【発明の効果】
【0029】
以上説明した通り、本発明によれば、ポンプ装置を評価するための管理データを信頼性の高い安定した状態で取得可能な管理データ取得方法、ポンプ装置の状態評価方法及びポンプ装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】状態評価のための複数のセンサが取り付けられた立軸斜流ポンプ装置及び管理データ取得方法が用いられる管理データ取得システムの説明図
【
図2】(a)は測定データを取得する際に実行されるポンプ装置の管理運転のシーケンスの説明図、(b)は取得対象となる測定データの説明図
【
図3】管理データ取得手順を示す第1のフローチャート
【
図4】管理データ取得手順を示す第2のフローチャート
【
図5】(a)は時間区分を重複させない場合のばらつき算出方法の説明図、(b)は時間区分を重複した場合のばらつき算出方法の説明図
【
図6】(a)は加速度センサにより検出された管理データであるZ軸方向の振動レベルをプロットした傾向管理特性図、(b)は同Y軸方向の振動レベルをプロットした傾向管理特性図
【
図7】(a)は加速度センサにより検出された管理データであるZ軸方向の振動レベルから算出した近似曲線に基づく劣化予測特性図、(b)は同Y軸方向の振動レベルから算出した近似曲線に基づく劣化予測特性図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明による管理データ取得方法、ポンプ装置の状態評価方法及びポンプ装置を、立軸斜流ポンプ装置を例に説明する。
なお、本発明が適用されるポンプ装置は立軸斜流ポンプ装置に限るものではなく、立軸軸流ポンプ装置などの立軸ポンプ装置全般に適用可能であることはいうまでもなく、縦軸ポンプ装置以外の横軸ポンプ装置などの他の種類のポンプ装置にも適用可能である。
【0032】
[立軸斜流ポンプ装置の基本構成]
図1には、立軸斜流ポンプ装置P(以下、「ポンプP」と記す。)が示されている。ポンプPは、下端部に羽根車3が取り付けられた主軸(回転軸)2が、鉛直姿勢の揚水管6に複数の水中軸受1を介して回転可能に支持され、揚水管6の先端に羽根車3を収容する吐出しボウル4が接続され、さらに吐出しボウル4の先端に吸込ベル5が接続されて構成されている。
【0033】
揚水管6の上端側には、主軸2が水密かつ回転自在に貫通される吐出曲管7が接続され、主軸2はカップリング8を介して駆動機構11の出力軸に接続されている。
【0034】
主軸2の上方の吐出曲管7との接合部にはラビリンスシール等を用いた上部軸封装置10が設けられている。
【0035】
主軸2は、保護管13で被覆され、水中軸受1は保護管13に供給された潤滑水により潤滑されるように構成されている。なお、駆動機構11としては、原動機や電動機及びそれらに接続される減速機やクラッチなどが含まれるが、以下の説明では駆動機構11が主原動機とクラッチを備えた減速機からなるものとする。
【0036】
[状態評価に用いる各種センサの配置]
ポンプPには、主軸2の軸心方向であるZ軸及びZ軸に直交するY軸方向の振動を検出する一対の加速度センサ(黒丸印)D1がスラスト軸受部に設けられ、揚水圧力を検出する圧力センサ(黒四角印)D3が吐出曲管7に設けられ、主軸2と直交するX方向(平面視で吐出曲管7の延出方向)及びY方向(平面視で吐出曲管7の延出方向に直交する方向)における主軸2の変位を計測する二つの渦電流方式の変位センサ(黒三角印)D2が設けられている。なお、変位センサD2は吐出曲管7の延出方向を基準とする必要はなく、2つの変位センサD2が同一平面で直交するように設ければよい。
【0037】
[管理データ取得システムの構成]
管理データ取得システムは、ポンプPに備えた制御盤20と、LANを介して制御盤20に接続された傾向管理端末30及び傾向管理サーバ40を備えて構成されている。なお、LANは有線または無線の何れであってもよい。管理データ取得装置20Bにより得られた管理データが累積的に傾向管理サーバ40に蓄積され、また管理データに基づいて傾向管理端末30にポンプPの振動状態、主軸2の軸変位状態、吐出圧などの傾向がグラフ表示され、先の予測値がグラフ表示される。
【0038】
制御盤20は、ポンプPを起動または停止制御するシーケンス制御装置20Aと、シーケンス制御装置20Aにより制御されるポンプPの状態を監視する管理データ取得装置20Bなどの機能ブロックを備えている。制御盤20には、CPU及びCPUにより実行される制御プログラムなどが格納されたメモリと、入出力インタフェース回路23などが設けられ、CPUにより制御プログラムが実行されることにより、上述したシーケンス制御装置20A及び管理データ取得装置20Bの各機能ブロックが具現化される。
【0039】
入出力インタフェース回路23には、制御盤20に備えた起動スイッチ及び停止スイッチの操作に応答してポンプPを起動するための各種の制御信号を出力する出力回路と、ポンプPの各部に備えたセンサやスイッチからの信号を入力する入力回路を備えている。
【0040】
出力回路からは、主原動機に対する起動信号、吐出弁に対する開閉信号、バイパス弁に対する開閉信号、減速機に備えたクラッチに対する接続または切断信号などが出力される。
【0041】
入力回路には、各センサD1,D2,D3の信号線SW、及び、ポンプPの動作状態を示す複数の接点信号線やアナログの電流信号線が接続されている。具体的に、加速度センサD1により検出されたスラスト軸受部のZ方向及びY方向の振動信号が±5Vの電圧信号として出力され、変位センサD2により検出された主軸2のX方向及びY方向の変位信号が0-5Vの電圧信号として出力され、圧力センサD3により検出された吐出圧力が歪み信号として出力される。
【0042】
また、吐出弁の全開及び全閉を示すリミットスイッチ信号、バイパス弁の全開及び全閉を示すリミットスイッチ信号、主原動機の始動電磁弁信号、減速機に備えたクラッチの接続信号、起動スイッチ及び停止スイッチのスイッチ信号などが接点信号として入力される。
【0043】
さらに、吐出弁の開度、ポンプ井の水位、主原動機の回転速度、ポンプの回転速度などが4-20mAの電流信号として入力される。なお、ポンプの回転速度は変位センサD2のX,Y方向の信号の周波数分析に基づいて算出することも可能である。
【0044】
[ポンプPの立上げシーケンスと立下げシーケンス]
図2(a)に示すように、シーケンス制御装置20Aは、制御盤20に備えた起動スイッチがオン操作され、運転指令が発動されたことを検出すると、主原動機(機関)に始動信号を出力し、主原動機が規定速度に立ち上がったことを検出すると、減速機のクラッチに対して接続信号を出力してポンプPに動力を伝達する。
【0045】
ポンプPが規定速度に達すると全閉状態の吐出バルブを全開状態に制御する。実負荷運転ではなく管理運転である場合には、バイパス弁を全閉状態から全開状態に切り替える。各バルブの状態は上述した接点信号により把握される。バルブが全開位置となった後に所定時間の待機を経て、管理データ取得装置20Bにより後に詳述する管理データ取得のための測定データのサンプリングが開始される。バイパス弁はポンプPの揚水をポンプ井に戻す戻り管路に設けられた弁で、管理運転時にポンプ井の水位の低下を招かないようにするための弁である。
【0046】
実負荷運転ではポンプ水位が停止水位に達した後の停止指令に応じて、管理運転では予め設定された管理運転時間の経過後の停止指令に応じて、ポンプ停止シーケンスを開始する。先ず、吐出バルブを閉止し、その後クラッチを切断し、クラッチの切断を検知するとポンプの速度が低下したことを確認し、機関停止前タイマを設定する。機関停止前タイマをカウントアップすると機関停止信号を出力する。
【0047】
[管理データ取得方法の説明]
管理データ取得装置20Bは、測定データ取得部25と、演算処理部26と、管理データ抽出部27を備えている。
測定データ取得部25は、ポンプPの状態評価に用いるポンプ吐出圧を含む1以上の測定データ、本実施形態ではスラスト軸受部で代表するポンプPの振動データ及び主軸2の軸変位データを時系列的に取得してメモリに格納するように構成されている。
【0048】
演算処理部26は、測定データ取得部25で取得した測定データに基づいて、予め設定した時間区分ごとのポンプ吐出圧のばらつきを算出するように構成されている。ばらつきとして標準偏差または分散が採用される。なお、ばらつきとしては、標準偏差や分散を要素として含む他の指標であってもよい。
【0049】
管理データ抽出部27は、演算処理部26で算出したポンプ吐出圧のばらつきに基づいてポンプPの状態評価のための管理データとして採用する測定データをメモリの測定データ記憶領域から抽出してメモリの管理データ記憶領域に格納する。具体的には、ポンプ吐出圧の標準偏差または分散が最小となる時間区分における測定データを管理データとして抽出する。なお、抽出対象は、標準偏差または分散が最小となる時間区分における測定データに限るものではなく、標準偏差または分散が所定の基準値よりも小さくなる時間区分における測定データを抽出してもよい。
【0050】
本実施形態では、ポンプ吐出流量を検出する流量センサを備えていない態様を説明しているが、流量センサを備えている場合には、ポンプ吐出圧のばらつきに代えてポンプ吐出流量のばらつきを採用してもよい。
【0051】
図2(b)に示すように、さらに、ポンプ吐出圧が設定圧に到り、所定の待機時間が経過すると、上述した各センサD1,D2,D3の信号を所定時間間隔で取得(サンプリング)して、時系列的な測定データとしてメモリ22の測定データ記憶領域に記憶する。なお、
図2(b)に示した数値は例示であり、特段の意味を持つものではない。
【0052】
図3及び
図4には、管理データ取得の手順が示されている。所定期間ごとに設定されている定期点検時期になると(SA1,SA2)、上述したようにシーケンス制御装置20AによりポンプPが起動される(SA3)。
【0053】
測定データ取得部25は、その後、安定待機タイマで計時される一定の時間経過の後に(SA4)、所定の時間間隔で各センサD1,D2,D3の値を取得(サンプリング)し(SA5)、所定時間が経過すると各センサD1,D2,D3に対する測定データの取得を完了する(SA6)。その後、シーケンス制御装置20AによりポンプPの停止シーケンスが実行される(SA8,SA9)。
【0054】
図4に示すように、測定データ取得部25は、上述のステップSA6,SA7で取得されメモリ22の測定データ記憶領域に格納された測定データである吐出圧に対して、所定時間間隔Δtごとに測定データをグループ化し(SB1)、各グループ内の測定データに対してばらつきを算出する(SB2)。
【0055】
全てのグループに対して吐出圧のばらつきを算出すると(SB3,Y)、ばらつきが最小となるグループを特定し(SB4)、当該グループに属する測定データ、つまり吐出圧、振動、軸変位の各測定データを管理データとしてメモリ22の管理データ格納領域に格納する(SB5)。もちろん当該管理データは、定期点検時期を示すタイム情報とともに格納される。
【0056】
図5(a)には、クラッチが接続された後に圧力センサD3により測定される吐出圧の変化の様子が黒丸で示されている。吐出し弁が全開されて定格速度に達した後の2分間は、ポンプPが過渡的に不安定となるリスクを回避すべく、測定データのサンプリングを待ち、その後の5分間に所定周期でサンプリングが開始される。サンプリング周期は特に限定されるものではない(
図5(a)に示す黒丸は例示であり、実際のデータを正確に表すものではない。)。
【0057】
5分の間にサンプリングされた測定データは、時系列的に30秒間隔で10グループにグルーピングされ、各グループに属する測定データの標準偏差Sn(n=1,2,・・・,10)が算出される。標準偏差Snが最小となるグループに属する測定データが管理データとして採用される。
【0058】
図5(b)には、別実施形態が示されている。各時間区分は、少なくとも時系列的に連続する時間区分間で一部が時間的に重複するように設定されている。例えば、データサンプリング開始から30秒経過するまでの測定データが第1グループにグルーピングされ、データサンプリング開始から15秒経過し45秒までの測定データが第2グループにグルーピングされ、データサンプリング開始から30秒経過し60秒までの測定データが第3グループにグルーピングされる、というように、時系列的にサンプリングされた測定データが複数のグループに属するようにグルーピングされ、各グループに対して標準偏差Sn(n=1,2,・・・,20)が算出される。標準偏差Snが最小となるグループに属する測定データが管理データとして採用される。
【0059】
時系列的に取得した複数の測定データが所定の時間区分ごとにグループ化され、それぞれのばらつきが算出される。
図5(a)のように、時間区分が重複していない場合には、各時間区分内の測定データのうちの僅かな測定データが他の測定データと大きく値が異なるような場合に、その時間区分の測定データのばらつきに重大な影響を与える可能性が有る。そのため当該僅かな測定データを除くとばらつきが非常に小さくなる場合でも、それら測定データが管理データに選ばれる確率が低下する。しかし、
図5(b)のように、少なくとも時系列的に連続する時間区分間で一部が時間的に重複するように各時間区分が設定されると、同じ測定データが複数の時間区分で評価されるようになるので、適切な管理データとして選ばれる確率が増す。
【0060】
なお、所定時間間隔が30秒となる例を説明したが、所定時間間隔は30秒に限るものではなく、適宜設定すればよい値である。また、所定時間間隔が30秒となる例で、15秒単位ずらせてグループ化する例を説明したが、この値も適宜設定すればよい。
【0061】
このようにして得られた管理データはLANを介して傾向管理端末30及び傾向管理サーバ40に送られ、傾向管理サーバ40で累積的に管理される。傾向管理サーバ40には、このような管理データに基づいて傾向管理グラフや劣化予測グラフを表示処理するアプリケーションプログラムがインストールされている。
【0062】
図6(a)には加速度センサD1により検出された管理データから演算されたZ軸方向の振動速度レベルを示す傾向管理特性図が示され、
図6(b)には加速度センサD1により検出された管理データから演算されたY軸方向の振動速度レベルを示す傾向管理特性図が示されている。時間の経過に伴って振動振幅が次第に大きくなっていることが判る。なお、グラフ中の二点鎖線で示したレベルは初期値に加えて、注意報レベル、警報レベルが示されており、管理データが注意報レベルを超えると何らかの構成部品に劣化が進んでいると判断でき、管理データが警報レベルを超えると直ちにメンテナンスを実行する必要があると判断できる。
【0063】
図7(a)には加速度センサD1により検出された管理データから演算されたZ軸方向の振動速度レベルを示す劣化予測特性図が示され、
図7(b)には加速度センサD1により検出された管理データから演算されたY軸方向の振動速度レベルを示す劣化予測特性図が示されている。
【0064】
現時点まで蓄積された管理データに基づいて指数関数近似した予測管理グラフが表示される。注意報レベルまたは警報レベルに達する時期を予測することができ、事前に適切な保守管理計画を策定することができるようになる。
【0065】
また、ポンプPの構成部品が経年的に劣化すると、特定周波数領域でスペクトル強度が大きくなるといった特有の傾向が発現する。上述した管理データに基づいて周波数解析を行うことにより、ポンプPの構成部品の劣化度合いを間接的に評価できるようにもなる。
【0066】
上述した実施形態は、本発明の一例に過ぎず、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。例えば、センサの種類や取付位置、測定データのサンプリング周期、サンプリング時間、時間区分などの具体的な値は適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0067】
1:水中軸受
2:主軸
3:羽根車
4:吐出しボウル(ポンプケーシング)
6:揚水管(ポンプケーシング)
7:吐出曲管(ポンプケーシング)
20:制御盤
20A:シーケンス制御装置
20B:管理データ取得装置
23:入出力インタフェース回路
25:測定データ取得部
26:演算処理部
27:管理データ抽出部
30:傾向管理端末
40:傾向管理サーバ
D1:加速度センサ
D2:変位センサ
D3:圧力センサ
P:ポンプ装置
SW:信号線