(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】冷間圧延油組成物およびそれを用いた圧延鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20230721BHJP
B21B 1/22 20060101ALI20230721BHJP
B21B 27/10 20060101ALI20230721BHJP
C10M 101/04 20060101ALN20230721BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20230721BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20230721BHJP
C10M 145/28 20060101ALN20230721BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20230721BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20230721BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230721BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
C10M169/04
B21B1/22 L
B21B27/10 B
C10M101/04
C10M101/02
C10M105/32
C10M145/28
C10N20:04
C10N40:24 Z
C10N30:06
C10N30:00 A
(21)【出願番号】P 2019158584
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 健一
(72)【発明者】
【氏名】小林 健一
(72)【発明者】
【氏名】大河内 一輝
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-007544(JP,A)
【文献】特開昭55-147593(JP,A)
【文献】特開平04-320499(JP,A)
【文献】特開昭53-054159(JP,A)
【文献】特開昭58-164697(JP,A)
【文献】特開2011-001405(JP,A)
【文献】特開昭55-019483(JP,A)
【文献】特開平02-305894(JP,A)
【文献】特開2011-132427(JP,A)
【文献】特開2017-110090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00 -177/00
B21B 1/00 - 1/46
B21B 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)動植物油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油、および成分(b)重量平均分子量が2000以上20000以下であり、1分子当たりの質量に対するオキシエチレン基の質量比が0.5以上0.9以下であり、式(i)で示される、非イオン性界面活性剤、を含有することを特徴とする、冷間圧延油組成物。
R
1-O-(EO)x-R
2 (i)
(式(i)中、R
1およびR
2は独立してアルキル基、脂肪酸残基、ヒドロキシ脂肪酸残基、ヒドロキシステアリン酸ポリエステル残基、ポリブチレンオキシド残基、脂肪酸とヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基、およびヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基から選択され、EOはオキシエチレン基を示し、xは平均付加モル数を示し、xは25以上400以下である。)
【請求項2】
前記成分(b)の含有量が冷間圧延油組成物に対して、0.01質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の冷間圧延油組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷間圧延油組成物を鋼板に接触させ、冷間圧延を行う工程を含む、圧延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、普通鋼、ステンレス鋼、ケイ素鋼等の金属の冷間圧延時に循環方式で使用するエマルション型の冷間圧延油組成物に関する。更に詳しくは、乳化安定性および潤滑性に優れることで圧延材の表面品質の向上に寄与することが期待できる冷間圧延油組成物とそれを用いた圧延鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延に用いられるエマルション型の圧延油として、動植物油脂、鉱油およびエステル等の単体もしくは混合物を基油とし、更に界面活性剤、油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤等の各種添加剤が適宜配合されたものが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、3000以上の分子量と、5~9のHLB価を有する、第1非イオン性界面活性剤と、1000以上3000未満の分子量と、5~9のHLB価を有する第2非イオン性界面活性剤を含む冷間圧延油組成物をエマルションとして使用することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、基油、界面活性剤およびエラストマーを含有する金属圧延油組成物が水に乳化分散したクーラント(エマルション)が開示されている。
【0005】
特許文献3には、HLB4~13のポリエチレングリコール型ノニオン界面活性剤とカチオン性高分子界面活性剤とアルキレンジアミン誘導体とを含有する冷間圧延油組成物をエマルションとして使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-167595号公報
【文献】特開2011-1405号公報
【文献】特開2011-132427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3の冷間圧延油組成物では、大量の摩耗粉が発生して混入してくる過酷な条件下の冷間圧延において、エマルションの温度変化に影響されることなく優れた乳化安定性が得られ、かつ優れたプレートアウト性により良好な潤滑性を得ることは難しいのが現状である。
【0008】
本発明は、従来の冷間圧延に用いられるエマルション型の圧延油組成物が有する上述の諸問題を解決し、大量の摩耗粉が発生して混入してくる過酷な条件下の冷間圧延において、エマルションの温度変化に影響されることなく乳化安定性および潤滑性に優れることで圧延材の表面品質の向上に寄与することが期待できるエマルションを得られる冷間圧延油組成物および圧延鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の非イオン性界面活性剤を用いると上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]成分(a)動植物油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油、および成分(b)重量平均分子量が2000以上20000以下であり、1分子当たりの質量に対するオキシエチレン基の質量比が0.5以上0.9以下であり、式(i)で示される、非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする、冷間圧延油組成物。
R1-O-(EO)x-R2 (i)
(式(i)中、R1およびR2は独立してアルキル基、脂肪酸残基、ヒドロキシ脂肪酸残基、ヒドロキシステアリン酸ポリエステル残基、ポリブチレンオキシド残基、脂肪酸とヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基、およびヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基から選択され、EOはオキシエチレン基を示し、xは平均付加モル数を示し、xは25以上400以下である。)
[2]前記成分(b)の含有量が冷間圧延油組成物に対して、0.01質量%以上10質量%以下である、[1]に記載の冷間圧延油組成物。
[3][1]または[2]に記載の冷間圧延油組成物を鋼板に接触させ、冷間圧延を行う工程を含む、圧延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、大量の摩耗粉が発生して混入してくる過酷な条件下の冷間圧延において、エマルションの温度変化に影響されることなく乳化安定性および潤滑性に優れることで圧延材の表面品質の向上に寄与することが期待できるエマルションを得られる冷間圧延油組成物およびそれを用いた圧延鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の実施形態は、成分(a)動植物油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油、および成分(b)重量平均分子量が2000以上20000以下であり、1分子当たりの質量に対するオキシエチレン基の質量比が0.5以上0.9以下であり、式(i)で示される、非イオン性界面活性剤、を含有することを特徴とする、冷間圧延油組成物を提供するものである。
R1-O-(EO)x-R2 (i)
(式(i)中、R1およびR2は独立してアルキル基、脂肪酸残基、ヒドロキシ脂肪酸残基、ヒドロキシステアリン酸ポリエステル残基、ポリブチレンオキシド残基、脂肪酸とヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基、およびヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基から選択され、EOはオキシエチレン基を示し、xは平均付加モル数を示し、25以上400以下である。)
【0013】
<成分(a)>
本発明における成分(a)は、動植物油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油である。
基油としては、例えば、牛脂、ヤシ油、パーム油、パーム核油、ナタネ油、綿実油、ヒマシ油等の動植物油脂およびそれらの精製品;マシン油、スピンドル油、タービン油等の鉱油;並びにメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、イソブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール等の一価アルコールまたはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、へキシレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコールとラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の一価脂肪酸またはコハク酸、炭素数12のアルケニルコハク酸、炭素数36のダイマー酸、炭素数54のトリマー酸等の多価脂肪酸との合成エステル;が挙げられ、これら
の群から選ばれる1種類以上を選ぶことができる。
【0014】
なお、基油に対する非イオン性界面活性剤の溶解しやすさの観点から、動植物油脂、または多価アルコールと脂肪酸との合成エステルの基油については、エステル化されていないヒドロキシ基が残存している部分エステルを用いることが好ましい。
また、特に温度が低い時期に起こりやすい圧延油の固化および圧延加工によって発生した金属粉と圧延油の混和による圧延機廻り堆積スカムの生成を防止するためには、流動点が20℃以下の基油を使用することが好ましい。流動点が20℃より高い動植物油脂や合成エステル等を用いる場合は、流動点が低い別の基油との組み合わせで構成し、圧延油自体の流動点を好ましくは20℃以下に、より好ましくは10℃以下にすることにより、圧延材の表面品質および作業環境を大幅に向上することが可能になる。
【0015】
冷間圧延油組成物に対する成分(a)の含有量は、通常50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、また、通常99.99質量%以下、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでもよい。冷間圧延油組成物が水により希釈されたエマルションである場合、これらの上限と下限は水に希釈する前の成分(a)の含有量の上限と下限である。成分(a)の含有量が上記範囲内であれば、経済性および潤滑性の点で好ましい。
【0016】
<成分(b)>
本発明における成分(b)は式(i)で示される、非イオン性界面活性剤である。
R1-O-(EO)x-R2 (i)
式中のR1およびR2は独立してアルキル基、脂肪酸残基、ヒドロキシ脂肪酸残基、ヒドロキシステアリン酸ポリエステル残基、ポリブチレンオキシド残基、脂肪酸とヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基、およびヒドロキシ脂肪酸の縮合物の残基から選択される。
ここで、アルキル基としては、直鎖または分岐鎖を有するデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル等が挙げられる。
脂肪酸残基、およびヒドロキシ脂肪酸残基としては、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、オレイン酸残基、リノール酸残基、デカン酸残基、ドデカン酸残基、ヒドロキシステアリン酸残基等が挙げられる。
ヒドロキシステアリン酸ポリエステル残基としては、ヒドロキシステアリン酸ポリエステルのヒドロキシ基とカルボキシ基がエステル結合してなるヒドロキシステアリン酸ポリエステルのカルボキシ残基が挙げられる。
ポリブチレンオキシド残基としては、ブチレンオキシド2~75モル重合体残基等が挙げられる。
なお、式中のR1およびR2における残基とは、基となる化合物からヒドロキシ基を除いた構造を指す。例えば、ラウリン酸残基は、ラウリン酸のカルボキシ基からヒドロキシ基を除いた構造を指し、ポリブチレンオキシド残基は、ポリブチレンオキシドの末端のヒドロキシ基のうち1個を除いた構造を指す。
【0017】
式中、EOはオキシエチレン基を示し、xは平均付加モル数を示す。xは25以上400以下であり、下限は好ましくは30以上、より好ましくは50以上であり、また、上限は好ましくは300以下、より好ましくは250以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでもよい。
【0018】
尚、成分(b)の重量平均分子量は2000以上20000以下である。成分(b)の重量平均分子量は、好ましくは3000以上、より好ましくは4000以上であり、また、好ましくは16000以下、より好ましくは14000以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでもよい。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透カラムク
ロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0019】
成分(b)1分子の質量に対するオキシエチレン基の質量比は0.5以上0.9以下であり、下限は好ましくは0.6以上であり、上限は好ましくは0.8以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでもよい。
【0020】
尚、グリフィン法によるHLBの値は、成分(b)1分子の質量に対するオキシエチレン基の質量比に20を乗じることで求められ、成分(b)1分子の質量に対するオキシエチレン基の質量比0.5以上0.9以下はHLBで10以上18以下に相当するものである。
【0021】
本発明において成分(b)は、冷間圧延油組成物に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。これらの上限と下限はいずれの組み合わせでもよい。冷間圧延油組成物が水により希釈されたエマルションである場合、これらの上限と下限は水に希釈する前の成分(b)の含有量の上限と下限である。成分(b)の含有量を上記範囲内で用いると、充分な乳化安定性を発揮することができる。
【0022】
また、本発明の冷間圧延油組成物は、必須成分である成分(a)、および成分(b)以外にも、本発明の効果が損なわれない範囲内であれば、必要に応じて、他の界面活性剤、各種油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含有してもよい。例えば他の界面活性剤としてはアルキル基の炭素数が12~18のポリエチレングリコールアルキルエステル、アルキル基の炭素数が12~18のポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、アルキル基の炭素数が12~18のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル基の炭素数が8~12のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーおよびその変成物、炭素数が12~18の脂肪酸のジエタノールアミド、炭素数が12~18の脂肪酸のアルカノールアミン塩等が;油性向上剤としては炭素数12~18の一価脂肪酸、炭素数36のダイマー酸、炭素数54のトリマー酸等が;極圧添加剤としては、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル、硫化エステル、硫化オレフィン、ポリサルファイド等が;酸化防止剤としては2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、α-ナフチルアミン等が挙げられる。
【0023】
また、本発明で用いる成分(b)の製造方法の一例を簡単に示す。撹拌機、検水管、温度計および窒素吹込みラインを備えた四つ口フラスコに、所定量のヒドロキシステアリン酸、ブロック状エチレンオキシド、チタン系触媒を仕込んだ後、フラスコ内を窒素ガスで置換し、昇温を開始する。その後、200℃~220℃で10~18時間、反応水を溜出させながらエステル化反応を行ない、反応物の酸価が一定値以下になったことを確認してから反応を終了させることで、目的の非イオン性界面活性剤を得ることができる。
【0024】
<冷間圧延油組成物の製造方法>
本発明の冷間圧延油組成物を製造する方法については、特に制限はない。通常は成分(a)を40~80℃に加温、撹拌しながら、成分(b)および、必要に応じて前記の各種添加剤を添加して製造するのがよいが、成分(b)および各種添加剤は、いずれを先に添加してもよいし、同時に添加してもよい。冷間圧延油組成物は、成分(a)に成分(b)および、必要に応じて各種添加剤を添加したものを、水により希釈して得られたエマルションであってもよく、水により通常0.2体積%以上20体積%以下、好ましくは0.5体積%以上10体積%以下になるよう希釈する。希釈に使用する水は、脱イオン水、水道水、工業用水のいずれでもよく、エマルションの製造方法に特に制限はない。
【0025】
<冷間圧延油組成物を用いた圧延鋼板の製造方法>
本発明の第2の実施形態は、冷間圧延油組成物を鋼板に接触させ、冷間圧延を行う工程を含む、圧延鋼板の製造方法である。
冷間圧延油組成物は、水により通常0.2体積%以上20体積%以下、好ましくは0.5体積%以上10体積%以下になるよう希釈して得られたエマルションをクーラント液として圧延加工部へ供給して鋼板に接触させるのがよい。また、本発明における冷間圧延油組成物は圧延加工により生じた磨耗粉の混入に対する乳化安定性に優れることから、鋼板に接触させたエマルションを回収して再利用する循環方式で用いることが好ましい。循環方式で使用する際にマグネチックセパレーター、DEMフィルター、ストレーナー、ラバルセパレーターやフラットベットフィルター等のフィルター類を併用したときのスカム除去によるクーラント液清浄化効果が大きいので、圧延材の表面品質および作業環境を向上すること、圧延油原単位を低減することにも寄与できる。
【実施例】
【0026】
次に実施例を比較例と共に示し、本発明による効果をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0027】
[実施例1~6、および比較例1~4]
冷間圧延油組成物の成分(a)としてトリメチロールプロパントリオレエート(流動点-30℃)と、成分(b)として表1に示す界面活性剤A~Jを上記非イオン性界面活性剤の製造方法に準じて製造したものを、表2に示す質量比で混合することにより圧延油組成物(実施例1~6、および比較例1~4)を調製した。この圧延油組成物を、以下に示す試験で評価した。
なお、性能評価項目は乳化性(試験例1)、乳化安定性(試験例2)とプレートアウト性(試験例3)であり、評価結果は表2に併記した。
【0028】
【0029】
【0030】
試験例1 乳化性試験
表2に示す各圧延油組成物を下記の試験条件で水と混合することでエマルションを建浴し、ホモミクサーMARK II(プライミクス社製)で撹拌後のエマルションをコールターカ
ウンターマルチライザーIII(ベックマンコールター社製)で測定した中位径の値により
評価した。
本試験では酸化鉄粉が混入していない新油エマルションの中位径が小さいほど乳化性が良好であるといえる。
(乳化性試験条件)
圧延油濃度:3体積%
使用水 :脱イオン水(電気伝導度1μS/cm未満)に塩化ナトリウム(試薬一級)を添加後、攪拌溶解し、電気伝導度を100μS/cmに調整した水
建浴量 :1L
浴温度 :50℃
撹拌条件 :ホモミクサー10000rpm×30min
【0031】
(乳化性評価基準)
新油エマルションの中位径の大小で評価した。
乳化性の評価基準;
◎:中位径12μm未満
○:中位径12μm以上、16μm未満
△:中位径16μm以上、20μm未満
×:中位径20μm以上
【0032】
試験例2 高温および/または酸化鉄粉混入に対する乳化安定性試験
表2に示す各圧延油組成物を下記の条件で水と混合することでエマルションを建浴し、ホモミクサーMARK II(プライミクス社製)で撹拌後のエマルションの中位径をコールタ
ーカウンターマルチライザーIII(ベックマンコールター社製)で測定した。本試験では
各圧延油組成物の50℃新油エマルションの中位径を基準とし、80℃新油エマルションおよび、酸化鉄粉混入時におけるエマルションの中位径の変化が小さいほど乳化安定性が良好であるといえる。
(乳化安定性試験条件)
圧延油濃度:3体積%
建浴量 :1L
浴温度 :50℃または80℃
撹拌条件 :ホモクキサー10000rpm×30min
使用微粉 :市販の酸化鉄粉(Fe3O4、粒径0.1μm)
酸化鉄粉混入量:エマルションに対して0ppm(新油)、または1000ppm
【0033】
(乳化安定性評価基準)
各圧延油組成物の50℃新油エマルションの中位径(試験例1の結果)を基準とし、80℃新油エマルションおよび、酸化鉄粉混入時におけるエマルション(50℃および80℃)の中位径の変化率の大小で評価した。乳化安定性に優れるとは、エマルションの中位径の変化率が小さいことである。
変化率=(各条件におけるエマルション中位径-50℃新油エマルション中位径)/50℃新油エマルション中位径
乳化安定性の評価基準;
◎:変化率0.2未満
○:変化率0.2以上、0.4未満
△:変化率0.4以上、0.6未満
×:変化率0.6以上
【0034】
試験例3 プレートアウト性試験
試験例1で調製した各圧延油組成物の新油エマルション中に、以下の試験条件に記載のテストピースを浸漬し、引き上げてからテストピース上の余剰エマルションを湯洗後、表面炭素分析装置RC-612型(LECO社製)にてテストピース上の付着油分量を測定した。本試験では付着油分量が多いほどプレートアウト性が良好なため、潤滑性に優れるといえる。なお、プレートアウト性とは、エマルションが鋼板に衝突して、その油分のみが表面に付着し、水分が排除される現象をいう。
(プレートアウト性試験条件)
供試液 :試験例1で調製した各圧延油組成物の新油エマルション
テストピース :SPCC-SB(0.8mm×25mm×100mm)
浸漬時間 :1sec
湯洗条件 :50℃の湯槽に浸漬1sec
付着油分量測定:表面炭素分析装置にて500℃×5minでテストピース上の付着炭素量測定後、付着炭素量を1.3倍することで付着油分量に換算した。
【0035】
(プレートアウト性評価基準)
付着油分量からプレートアウト性を評価。
プレートアウト性の評価基準;
◎:付着油分量が1000mg/m2以上
○:付着油分量が750mg/m2以上、1000mg/m2未満
△:付着油分量が500mg/m2以上、750mg/m2未満
×:付着油分量が500mg/m2未満
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明における冷間圧延油組成物は、普通鋼、ステンレス鋼、ケイ素鋼等をはじめとする金属の冷間圧延時に水で希釈して乳化させたエマルションとして循環方式で使用される。