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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】超音波検査方法および超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/265 20060101AFI20230721BHJP
   G01N 29/06 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N29/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019169928
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021047091
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134925
【氏名又は名称】株式会社ニチゾウテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 薫
(72)【発明者】
【氏名】安部 正光
(72)【発明者】
【氏名】村上 丈一
(72)【発明者】
【氏名】服部 洋
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191572(JP,A)
【文献】特開2017-078662(JP,A)
【文献】特開2001-324484(JP,A)
【文献】特開2005-181170(JP,A)
【文献】特開2004-317475(JP,A)
【文献】特開昭62-207957(JP,A)
【文献】特開平03-056852(JP,A)
【文献】特開2002-350407(JP,A)
【文献】米国特許第06330831(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を用いて検査対象である管材の欠陥を検出する超音波検査方法において、
超音波を発信する複数のアレイ素子を有するアレイ探触子を、前記管材に定められた走査範囲内に向けて各アレイ素子から超音波を発信させて探傷試験を行いながら前記アレイ素子が並ぶアレイ並び方向と異なる方向へ移動させることにより、前記走査範囲内の走査を行う走査工程と、
前記走査範囲内のうち、走査により底面エコーが得られなかった箇所、および他の箇所よりも底面エコーが微弱であった箇所に欠陥が存在すると判定する判定工程と、
前記アレイ探触子によって発信された超音波のエコーに基づき、前記走査工程における探傷試験の結果である探傷画像を、前記アレイ探触子が前記管材の中心軸回りに回転した回転角度ごとに作成する探傷画像作成工程と、を備え、
前記走査工程において、前記アレイ探触子が、前記アレイ並び方向が前記管材の長さ方向と平行になるよう前記管材内部へ挿入された状態で、前記管材の内面に沿いながら前記管材の中心軸回りに回転され、
前記判定工程において、前記探傷画像を各回転角度間で比較すること
を特徴とする超音波検査方法。
【請求項2】
前記走査工程において、前記アレイ探触子の探傷方向が複数方向に向くように設定され、
前記探傷画像作成工程において、前記アレイ探触子によって発信された超音波のエコーに基づき、前記走査工程における探傷試験の結果である探傷画像を、探傷方向ごとに作成し、
さらに、これら探傷方向ごとの探傷画像を足し合わせた統合画像を作成することを特徴とする請求項に記載の超音波検査方法。
【請求項3】
前記走査工程において、探傷方向が、前記管材の中心軸に垂直な方向から一方に傾斜させた方向と、前記管材の中心軸に垂直な方向と、前記管材の中心軸に垂直な方向から他方に傾斜させた方向との三方向であることを特徴とする請求項に記載の超音波検査方法。
【請求項4】
前記探傷画像作成工程において、前記探傷画像のうち底面エコーが現れる部分として予想される底面エコー領域を抽出し、
複数の回転角度における前記底面エコー領域の画像を、回転角度順に並べた全角度画像を作成する
ことを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の超音波検査方法。
【請求項5】
前記走査工程において、前記アレイ探触子を前記管材の内面に押圧しながら探傷試験を行うことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の超音波検査方法。
【請求項6】
超音波を用いて検査対象である管材の欠陥を検出する超音波検査装置において、
超音波を発信する複数のアレイ素子を有し、前記アレイ素子がアレイ並び方向に並んでいるアレイ探触子と、
前記アレイ探触子を前記アレイ並び方向と異なる方向へ移動させる駆動部と、
前記駆動部によって前記アレイ探触子を移動させながら、前記管材に定められた走査範囲内に向けて各アレイ素子から超音波を発信させて探傷試験を行わせる指示を行う指示部と、
前記アレイ探触子によって発信された超音波のエコーに基づき、前記探傷試験の結果である探傷画像を、前記アレイ探触子が前記管材の中心軸回りに回転した回転角度ごとに作成する画像作成部と、を備え、
前記探傷画像を各回転角度間で比較することにより、前記走査範囲内のうち、走査により底面エコーが得られなかった箇所、および他の箇所よりも底面エコーが微弱であった箇所に欠陥が存在すると判定し、
前記アレイ探触子が、前記アレイ並び方向が前記管材の長さ方向と平行になるよう前記管材内部へ挿入された状態で、前記管材の内面に沿いながら前記管材の中心軸回りに回転されること
を特徴とする超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波によって検査対象の欠陥を検査する超音波検査方法および超音波検査装置に関するものであり、特に、超音波を発信する複数のアレイ素子を備えたアレイ探触子を用いて検査を行う超音波検査方法および超音波検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種プラント、廃棄物処理設備、発電設備などの様々な設備においては、多管式熱交換器などの、管材とこれに垂直な管板とが溶接された構造体が設けられている。この管材と管板との間の溶接部の状態を検査するために、従来、特許文献1に記載されているような超音波検査装置を用いた超音波検査方法が行われることがあった。
【0003】
特許文献1に記載の超音波検査装置では、管の周囲に位置する溶接部を超音波による探傷試験で検査するにあたり、管の深さ方向に複数のアレイ素子が配列されているアレイ探触子から超音波を発信して、この超音波の反射(反射エコー)を受信し、受信された反射エコーから欠陥の有無を判別できるようにする。こうした超音波検査装置を用いた超音波検査方法により、溶接部に生じている欠陥が確実且つ速やかに検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-191572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の超音波検査方法では、超音波の反射による反射エコーの信号に基づいて検査を行うため、反射エコーが得られない場合には正常に検査を行えないという問題があった。
【0006】
従来の超音波検査方法では、検査対象が正常であれば反射エコーが返ってこないはずの箇所から反射エコーが返ってきたならば、欠陥が超音波を反射したことにより反射エコーが現れたのだと考えられるので、反射エコーが得られた箇所に欠陥が存在すると判定される。
【0007】
ところで図1に示すように、例えば溶接部12ではなく管材30に応力腐食割れ(SCC)などによる異方性の欠陥5(亀裂)が発生していることがある。アレイ探触子55からこの欠陥5の位置へと超音波が発信されると、超音波はこの欠陥5で散乱されてしまい、溶接部12へと至ることができないばかりか、超音波検査装置40の方へと戻ることもできない。したがって管材30に超音波を散乱させるような亀裂などの欠陥5があると、反射エコーが得られなくなる。同様に、管材30ではなく溶接部12に超音波を散乱させるような欠陥が存在している場合も、正常な反射エコーを得ることができない。反射エコーが得られない場合、実際には欠陥が存在するにも関わらず、超音波を反射させる欠陥が存在しない、つまり正常である、と判断されてしまい、誤った検査結果を出してしまうおそれがある。したがって、亀裂などの超音波を散乱させるような欠陥が存在していると、従来の反射エコーに基づく検査を正常に行うことができない。
【0008】
特許文献1に記載の超音波検査装置では探傷方向を複数方向にすることにより、様々な方法の欠陥を検出する確率を高めるようにしているが、例えば応力腐食割れ(SCC)による亀裂として生じる欠陥が広がる方向は一定ではなく、小さな範囲内でも複雑な形状となることがある。このような複雑な形状の欠陥はどのような方向から入射した超音波も散乱させてしまい、探傷方向を複数にするだけでは正常な検査を行うことができない。
【0009】
そこで本発明は、応力腐食割れ(SCC)による亀裂など、規則性なく様々な方向に広がる欠陥をも速やかに発見することを可能とし、検査対象に超音波を散乱させるような欠陥が存在する場合にも正しい検査結果が得られる超音波検査方法および超音波検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る実施形態の一例としての超音波検査方法は、超音波を用いて検査対象である管材の欠陥を検出する超音波検査方法において、超音波を発信する複数のアレイ素子を有するアレイ探触子を、前記管材に定められた走査範囲内に向けて各アレイ素子から超音波を発信させて探傷試験を行いながら前記アレイ素子が並ぶアレイ並び方向と異なる方向へ移動させることにより、前記走査範囲内の走査を行う走査工程と、前記走査範囲内のうち、走査により底面エコーが得られなかった箇所、および他の箇所よりも底面エコーが微弱であった箇所に欠陥が存在すると判定する判定工程と、前記アレイ探触子によって発信された超音波のエコーに基づき、前記走査工程における探傷試験の結果である探傷画像を、前記アレイ探触子が前記管材の中心軸回りに回転した回転角度ごとに作成する探傷画像作成工程と、を備え、前記走査工程において、前記アレイ探触子が、前記アレイ並び方向が前記管材の長さ方向と平行になるよう前記管材内部へ挿入された状態で、前記管材の内面に沿いながら前記管材の中心軸回りに回転され、前記判定工程において、前記探傷画像を各回転角度間で比較することを特徴とする。
【0013】
また好ましくは、前記走査工程において、前記アレイ探触子の探傷方向が複数方向に向くように設定され、前記探傷画像作成工程において、前記アレイ探触子によって発信された超音波のエコーに基づき、前記走査工程における探傷試験の結果である探傷画像を、探傷方向ごとに作成し、さらに、これら探傷方向ごとの探傷画像を足し合わせた統合画像を作成するとよい。
【0014】
また好ましくは、前記走査工程において、探傷方向が、前記管材の中心軸に垂直な方向から一方に傾斜させた方向と、前記管材の中心軸に垂直な方向と、前記管材の中心軸に垂直な方向から他方に傾斜させた方向との三方向であるとよい。
【0015】
また好ましくは、前記探傷画像作成工程において、前記探傷画像のうち底面エコーが現れる部分として予想される底面エコー領域を抽出し、複数の回転角度における前記底面エコー領域の画像を、回転角度順に並べた全角度画像を作成するとよい。
【0016】
また好ましくは、前記走査工程において、前記アレイ探触子を前記管材の内面に押圧しながら探傷試験を行うとよい。
【0017】
また、本発明に係る実施形態の一例としての超音波検査装置は、超音波を用いて検査対象である管材の欠陥を検出する超音波検査装置において、超音波を発信する複数のアレイ素子を有し、前記アレイ素子がアレイ並び方向に並んでいるアレイ探触子と、前記アレイ探触子を前記アレイ並び方向と異なる方向へ移動させる駆動部と、前記駆動部によって前記アレイ探触子を移動させながら、前記管材に定められた走査範囲内に向けて各アレイ素子から超音波を発信させて探傷試験を行わせる指示を行う指示部と、前記アレイ探触子によって発信された超音波のエコーに基づき、前記探傷試験の結果である探傷画像を、前記アレイ探触子が前記管材の中心軸回りに回転した回転角度ごとに作成する画像作成部と、を備え、前記探傷画像を各回転角度間で比較することにより、前記走査範囲内のうち、走査により底面エコーが得られなかった箇所、および他の箇所よりも底面エコーが微弱であった箇所に欠陥が存在すると判定し、前記アレイ探触子が、前記アレイ並び方向が前記管材の長さ方向と平行になるよう前記管材内部へ挿入された状態で、前記管材の内面に沿いながら前記管材の中心軸回りに回転されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る実施形態の一例としての超音波検査方法および超音波検査装置によれば、超音波を散乱させるような欠陥が検査対象に発生していても、その欠陥が存在している箇所を発見することができる。
【0019】
また、アレイ探触子を管材の中心軸回りに回転させて走査を行う場合には、管材のどの角度に欠陥が存在しているかについて、管材の全周にわたって一度に検査することができる。
【0020】
また、全角度画像を作成する場合には、どの回転角度に欠陥が存在するかを視覚的にわかりやすく示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る実施形態の一例としての超音波検査方法において用いられる超音波装置の縦断面図。
図2図1の超音波検査装置の概略構成を示す図。
図3図1の超音波検査装置による検査対象となる管材と管板を示す平面図。
図4図3の回転角度Aにおいて得られる垂直リニアスキャン画像を示す図。
図5図3の回転角度Bにおいて得られる垂直リニアスキャン画像を示す図。
図6】管奥側から管端側の方向へ超音波を発信している超音波装置の縦断面図。
図7】管端側から管奥側の方向へ超音波を発信している超音波装置の縦断面図。
図8】管端側の方向への超音波発信により回転角度Aにおいて得られる斜角スキャン画像を示す図。
図9】管端側の方向への超音波発信により回転角度Bにおいて得られる斜角スキャン画像を示す図。
図10】回転角度Aにおける統合画像作成の概要を示す図。
図11】回転角度Bにおける統合画像作成の概要を示す図。
図12】全角度画像の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、本発明に係る実施形態の一例としての超音波検査方法において用いられる超音波検査装置40の縦断面図が示されている。この超音波検査装置40による検査の対象となっているのは、図中の上下方向(縦方向)を長さ方向として延びる管材30と、この管材30に対して垂直に溶接されている管板20であり、特に、管材30と管板20との間で管材30の回りに形成されている溶接部12を含む範囲が検査対象である。なお図3の平面図に示されるように、平面状に広がる管板20に対して複数の管材30が溶接されており、管材30同士は互いに平行に配置されている。
【0023】
[超音波検査装置40の概略構成]
図2に、超音波検査装置40の概略構成が示されている。超音波検査装置40は、管材30の内部に挿入される回転探傷部50を有しており、この回転探傷部50は、管材30の中心軸31回りに所定の回転方向51(ここでは図中の上側から見て右回り)で回転しつつ、管材30の内面から探傷試験を行う。超音波検査装置40は、回転探傷部50の回転と、探傷試験を制御する制御部60を有する。なお、以下においては、管材30の長さ方向(図2の上下方向)について、回転探傷部50が管材30に挿入される入口側を(図2中では上側)を管端側と呼び、その反対側(図2中では下側)を管奥側と呼ぶ。
【0024】
回転探傷部50は、管材30の長さ方向に沿って複数のアレイ素子56が配置されているアレイ探触子55と、回転探傷部50を管材30の中心軸31回りに回転させるモータ52と、回転探傷部50の回転角度を示す信号を発するエンコーダ53とを有する。アレイ探触子55は、各アレイ素子56の発振時54を調整することで、超音波による探傷方向および探傷範囲を変更することが可能になっている。
【0025】
制御部60は、指示部61、駆動部62、回転角検知部63を有している。これらは回転探傷部50の回転に関係している。指示部61は、回転探傷部50を作動させる機能を有する。駆動部62は、指示部61からの指示によりモータ52を駆動させる。回転角検知部63は、エンコーダ53からの信号により回転探傷部50の回転角度を検知する。さらに制御部60は、複数超音波ビーム設定部67、発信部64、受信部65、画像作成部66、画像処理部68を有している。これらは超音波による探傷試験に関係している。複数超音波ビーム設定部67は、指示部61からの指示によりアレイ探触子55の探傷方向が複数の方向になるように設定を行う。発信部64は、複数超音波ビーム設定部67の設定に基づいてアレイ探触子55に超音波を発信させる。受信部65は、発信部64によってアレイ探触子55から発信された超音波の反射エコーを受信する。画像作成部66は、受信部65が受信した反射エコーの信号に基づき、検査対象の欠陥の有無を判定するために用いられる画像を作成する。画像処理部68は、画像作成部66により作成された画像に対して画像処理を行う。
【0026】
指示部61は、作業者が超音波検査装置40へ与える外部信号による指令、あるいは、回転角検知部63で検知された角度に基づいて、駆動部62および複数超音波ビーム設定部67へ指示を行う。駆動部62は、指示部61からの指示に基づき、図示しないバッテリーとモータ52との接続を切り替えるなどして、モータ52の駆動や停止を制御することにより、回転探傷部50の回転角度を切り替える。また、回転角検知部63は、検知した回転探傷部50の回転角度を、指示部61および画像作成部66に伝える。このようにして回転角度の切り替えおよびその検知を行いながら、各回転角度においてアレイ探触子55から超音波を発信させて探傷試験を行うことにより、走査範囲(ここでは管材30の360°全周)内の走査が行われる。
【0027】
複数超音波ビーム設定部67は、アレイ探触子55の探傷方向が複数方向に向くように設定することができ、ここでは一例として、管材30の中心軸31に垂直な方向から管奥側に傾斜させた方向(図6参照)にする第一斜角スキャン部71と、探傷方向を中心軸31に垂直な方向(図1参照)にする垂直スキャン部72と、探傷方向を中心軸31に垂直な方向から管端側に傾斜させた方向(図7参照)にする第二斜角スキャン部73とを備えることにより、探傷方向を三方向に設定することが可能となっている。第一斜角スキャン部71と第二斜角スキャン部73による設定は後述するが、垂直スキャン部72による設定についてここで説明しておくと、図1に示されているように、各アレイ素子56の発振時54を同時として設定することにより、アレイ探触子55の探傷方向が管材30の中心軸31に垂直な方向となる。
【0028】
画像作成部66は、受信部65に受信された反射エコーと、回転角検知部63により検知された回転探傷部50の回転角度とから、その回転角度における検査対象(ここでは溶接部12近くの管板20および管材30)の超音波反射状態を示す探傷画像を作成する。
【0029】
本実施形態例の超音波検査方法は、以上のような超音波検査装置40を用いて行われる。超音波検査方法が実施されるにあたってはまず、回転探傷部50が管材30に挿入され、管材30の内面から溶接部12とその近くの管板20および管材30に対して超音波が発信されるようにされる。次に、作業者が(図示しないスタートボタンを押すなどして)超音波検査装置40へ外部信号による指令を与えると、指示部61から駆動部62および複数超音波ビーム設定部67に指示が行われる。すると、回転探傷部50は、モータ52により管材30の中心軸31回りに所定の回転方向(ここでは管端側から見て右回り)に回転するとともに、アレイ探触子55から溶接部12,管板20,管材30に向けて超音波が発信される。アレイ探触子55から発信される超音波は、複数超音波ビーム設定部67の設定に応じて様々な方向となり得るが、図1では一例として管材30の中心軸31に垂直な方向に超音波が発信される様子が示されている。
【0030】
発信された超音波の反響(反射エコー)は、アレイ探触子55を通じて受信部65により受信される。この受信部65に受信された反射エコーと、回転角検知部63により検知された回転探傷部50の回転角度とから、画像作成部66が溶接部12,管板20,管材30の超音波反射状態を示す探傷画像を作成する。
【0031】
画像作成部66によって作成される探傷画像の一例を図4に示す。図4は、図3中の左上の管材30に挿入された回転探傷部50が、回転角度A(0°)において垂直スキャン部72が設定した探傷方向に超音波を発信する探傷試験を行って得られた結果、すなわち垂直リニアスキャン画像80を示したものである。なお、この回転角度Aにおいては溶接部12、管板20、管材30には欠陥が存在しないものとする。この画像の描画方式は、あくまで一例であるが、縦軸を管材30の内面から外方に向かう方向、横軸を管端側から管奥側に向かう方向、および、色彩を反射エコーの強度、とするコンター図となっている。なお、反射エコーの強度について、図中では白黒の濃淡で表しているが、実際には赤や青などの色彩変化で表すことが可能である。
【0032】
[回転角度Aの垂直リニアスキャン画像80]
回転角度Aにおける垂直リニアスキャン画像80において、アレイ探触子55からごく近くの不感帯INSとなっている領域以外には、底面エコー信号80E、繰り返しエコー信号80R、もう一つの繰り返しエコー信号80Rが確認される。底面エコー信号80Eは、管材30の外周面(底面)において溶接部12より管奥側で管板20との間に僅かな隙間がある位置、すなわち管材30の材質の連続性(音響的連続性)が途切れる位置で超音波が反射する(底面エコーが発生する)ことにより得られる信号であり、繰り返しエコー信号80R,80Rは、この底面エコーが繰り返し反射することにより得られる信号である。このように、欠陥のない箇所においては底面エコーが得られるため、探傷画像(ここでは垂直リニアスキャン画像80)には底面エコー信号80Eおよび繰り返しエコー信号80R,80Rが確認される。
【0033】
[回転角度Bの垂直リニアスキャン画像90]
次に、図3の回転角度Bにおける垂直リニアスキャン画像90を図5に示す。回転角度Bにおいては、図1に示すように、管材30に超音波を散乱させる欠陥5が存在するものとする。回転角度Bの垂直リニアスキャン画像90においては、回転角度Aにおいて確認された底面エコー信号80E、繰り返しエコー信号80R,80Rが確認されない。これは管材30の外周面に向けて発信された超音波を欠陥5が散乱させたことにより、管材30の外周面(底面)からの底面エコーが得られなくなったことによるものである。
【0034】
[欠陥存在判定]
このように、超音波を散乱させる欠陥5の存在する箇所においては底面エコーが得られなくなる(または、他の箇所より微弱になる)ので、底面エコー信号80Eが確認される探傷画像(ここでは回転角度Aにおける垂直リニアスキャン画像80)と、底面エコー信号80Eが確認されない探傷画像(ここでは回転角度Bにおける垂直リニアスキャン画像90)とを比較することにより、底面エコーが得られない(または微弱な)箇所に欠陥5が存在すると判定することができる。回転角度Aと回転角度Bとの比較では、管材30の中心軸31から回転角度Bの方向に欠陥5が存在すると判定できる。この判定は作業者が各回転角度の探傷画像を見比べて行ってもよいし、画像解析を行うプログラムにより自動的に判定が行われるようになっていてもよい。また、自動的に判定を行う場合は、画像作成を行うことなく、探傷試験の結果データを解析して底面エコーが得られなかった箇所を割り出すことにより欠陥5の存在する箇所を自動的に判定する機能を超音波検査装置40が有していてもよい。なお、底面エコーが微弱であるかどうかの判定基準は、探傷試験条件や検査対象によって適宜設定される。例えば欠陥が存在しない箇所(上記の例では回転角度A)で得られた底面エコー信号の強度を基準強度として、基準強度の30%を閾値として設定しておき、この閾値と他の箇所(例えば回転角度B)で得られた信号とを比較して、閾値を下回れば微弱と判定する、といった判定を行うことができる。ここで、欠陥が存在しない箇所でのデータとしては、欠陥の存在しないことが予め確認されている標準構造体(欠陥の有無以外は検査対象と同等の性質を有するもの)に対して行われた事前検査で得られた探傷試験の結果データが用いられてもよい。また、作業者が探傷画像を目視して判定を行う場合にも、画像内での信号の表示(色や濃淡)がどのようなものであると微弱な信号とみなされるのか、についての基準が予め設定されていてもよい。
【0035】
[斜角スキャン]
本実施形態においては、上記の垂直リニアスキャン(図1)のほかに、斜角スキャンが行われる。上記の通り複数超音波ビーム設定部67(図2)は垂直スキャン部72のほかに第一斜角スキャン部71と第二斜角スキャン部73を備えており、これらが各アレイ素子56の発振時54を調整することにより、管材30の中心軸31に垂直な方向から傾斜した方向にアレイ探触子55の探傷方向を設定することができる。
【0036】
図6には第一斜角スキャン部71がアレイ探触子55の探傷方向を設定する場合が示されている。この図6に示されている通り、アレイ素子56の発振時54を管奥側から管端側につれて遅延させるように設定することにより、アレイ探触子55の探傷方向が管材30の中心軸31に垂直な方向から管端側に傾斜させた方向となる。なお、図6に示すような扇形状で広範囲の探傷(セクタスキャン)は、実際には発振時54の適切な制御により、各アレイ素子56からそれぞれ発信される超音波が重なり合った合成波面を形成し、超音波の伝播方向・焦点域を所望のパラメータに合致するよう調節することで行われるものであるが、ここでは図示の簡略化のため、1つのアレイ素子56から1つの矢印が伸びる形で模式的に示している。
【0037】
図7には第二斜角スキャン部73がアレイ探触子55の探傷方向を設定する場合が示されている。図6と同様に模式的な図示であるが、この図7に示されている通り、アレイ素子56の発振時54を管端側から管奥側につれて遅延させるように設定することにより、アレイ探触子55の探傷方向が、管材30の中心軸31に垂直な方向から管奥側に傾斜させた方向となる。
【0038】
以上のような複数方向(ここでは三種類)の超音波は、アレイ探触子55から各方向へ同時に、あるいは人間が遅れを体感できない程度の時間(例えば0.01~0.1秒程度)だけずらして発信される。
【0039】
画像作成部66は、斜角スキャンの結果についても探傷画像を作成する。作成される探傷画像の一例を図8に示す。図8は、図3中の左上の管材30に挿入された回転探傷部50が、回転角度A(0°)において第一斜角スキャン部71が設定した探傷方向に超音波を発信する探傷試験を行って得られた結果、すなわち第一斜角スキャン画像82を示したものである。回転角度Aの第一斜角スキャン画像82において、不感帯INS以外には、底面エコー信号82E、繰り返しエコー信号82R、もう一つの繰り返しエコー信号82Rが確認される。このように、斜角スキャンを行った場合でも、欠陥のない箇所(回転角度A)においては底面エコーが得られるため、探傷画像(ここでは第一斜角スキャン画像82)には底面エコー信号82Eおよび繰り返しエコー信号82R,82Rが確認される。
【0040】
次に、図3の回転角度Bにおける第一斜角スキャン画像92を図9に示す。回転角度Bの第一斜角スキャン画像92においては、回転角度Aの第一斜角スキャン画像82において確認された底面エコー信号82E、繰り返しエコー信号82R,82Rが確認されない。
【0041】
このように、斜角スキャンを行った場合でも、超音波を散乱させる欠陥5の存在する箇所においては底面エコーが得られなくなる(または、他の箇所より微弱になる)ので、底面エコー信号82Eが確認される探傷画像(ここでは回転角度Aにおける第一斜角スキャン画像82)と、底面エコー信号82Eが確認されない探傷画像(ここでは回転角度Bにおける第一斜角スキャン画像92)とを比較することにより、底面エコーが得られない(または微弱な)箇所に欠陥5が存在すると割り出すことができる。
【0042】
[統合画像]
以上のように、複数の探傷方向のそれぞれでの探傷試験の結果として回転角度ごとに作成された探傷画像を各回転角度間で比較して検証することにより、欠陥5の存在判定を行うことが可能である。また、画像処理部68が画像処理によって複数の探傷方向の探傷画像を統合することにより、複数方向での探傷試験の結果をまとめて検証することも可能になる。アレイ探触子55は上記の通り複数超音波ビーム設定部67が設定する複数(ここでは三方向)の探傷方向で探傷試験を行うことができ、画像作成部66は、その探傷方向ごとに探傷画像を作成することにより、複数の、ここでは三種類の探傷画像を作成することができる。画像処理部68は、これら三種類の画像を足し合わせることで、1枚の統合画像を作成する。この1枚の統合画像は、三方向の探傷試験での反射エコー強度の情報を全て含むことになるので、この統合画像を検証することにより、三方向での探傷試験の結果をまとめて検証することが可能である。
【0043】
図10に、画像処理部68による統合画像88の作成の概要を示す。図10には、図3中の左上の管材30に挿入された回転探傷部50が、回転角度A(0°)において行った探傷試験の結果が示されている。ここでは、垂直スキャン部72,第一斜角スキャン部71,第二斜角スキャン部73がそれぞれ設定した探傷方向での探傷試験の結果として、画像作成部66によって作成された垂直リニアスキャン画像80,第一斜角スキャン画像82,第二斜角スキャン画像84が示されている。画像処理部68は、これら探傷方向ごとの三種類の画像を足し合わせることにより、1枚の統合画像88を作成する。この回転角度Aの統合画像88には、垂直リニアスキャン画像80,第一斜角スキャン画像82,第二斜角スキャン画像84の情報が全て含まれている。すなわち、垂直リニアスキャン画像80に表れている反射エコー信号80E,繰り返しエコー信号80,80Rと、第一斜角スキャン画像82に表れている反射エコー信号82E,繰り返しエコー信号82,82Rと、そして第二斜角スキャン画像84に表れている反射エコー信号84E,繰り返しエコー信号84R,84Rと、の情報が統合されて、統合画像88からは反射エコー信号88E,繰り返しエコー信号88R,88Rの存在が確認できる。
【0044】
画像処理部68は、こうした統合画像を回転角度ごとに作成することができる。図11には、図3中の左上の管材30に挿入された回転探傷部50が、回転角度Bにおいて行った探傷試験の結果が示されている。画像処理部68は、回転角度Bにおける垂直リニアスキャン画像90,第一斜角スキャン画像92,第二斜角スキャン画像94を足し合わせることにより、回転角度Bの統合画像98を作成する。そして、これを回転角度Aの統合画像88と比較することにより、反射エコー信号88Eが確認されない回転角度Bに欠陥5が存在すると判定することができる。
【0045】
このように、探傷方向ごとの探傷画像を足し合わせた統合画像88,98を、アレイ探触子55の回転角度ごとに作成して、回転角度ごとの統合画像88,98を各回転角度間で比較することにより、底面エコーが現れていない回転角度B(あるいは他の回転角度よりも底面エコーが微弱である回転角度)を、欠陥5が存在する箇所として割り出すことができる。
【0046】
[全角度画像]
また、画像処理部68は、複数の回転角度における探傷画像を基にして画像処理を行うことにより、後述の全角度画像を作成することができる。この全角度画像を用いると、欠陥5の存在する箇所(回転角度)を割り出すにあたって、複数の探傷画像を回転角度ごとに1枚ずつ比較せずとも、走査範囲(ここでは管材30の360°全周)の全体にわたって一度に調べることができる。
【0047】
図12に、全角度画像WAの一例を示す。この全角度画像WAにより、図3の左上の管材30に挿入された回転探傷部50が0°から360°まで回転する間に、各回転角度において底面エコーが現れるかどうかを調べることができる。全角度画像WAは、各回転角度における探傷画像を基に作成される。全角度画像WAを作成するにあたって、画像処理部68はまず、各探傷画像において底面エコーが現れる部分として予測される底面エコー領域Zを設定する。この底面エコー領域Zは、例えば図10の統合画像88に示す通り、底面エコー信号88Eが確認される探傷画像においてその底面エコー信号88Eが表示される部分を含む領域として設定される。具体的には、アレイ探触子55からどれだけ離れた位置からの信号として底面エコー信号88Eが現れるかの予測を基に底面エコー領域Zが設定され、ここでは管材30の内面から外方へ向かう方向(画像内の縦軸)における一定の範囲が底面エコー領域Zとして設定される。底面エコー領域Zをどのように設定するかについては、管材30の厚みが既知で全周にわたり一定であれば、その厚みを基に算出することができる。例えば管材30の厚みが2mm程度であれば、2.1mm~4.9mm程度の範囲が底面エコー領域Zとして設定される。また、シングルアレイ探触子などを用いて管材30の厚みを測定した上で、測定結果を基に底面エコー領域Zを算出してもよいし、あるいは作業者または画像処理プログラムが各探傷画像を確認して、どの部分に実際に底面エコーが現れているかを基に底面エコー領域Zを設定してもよい。
【0048】
こうして設定された底面エコー領域Zを各回転画像の探傷画像に当てはめて、底面エコー領域Zの画像を抽出する。例えば図10の統合画像88(回転角度A)からは底面エコー信号88Eが表示された画像が得られ、図11の統合画像98(回転角度B)からは底面エコー信号が表示されていない画像が得られる。こうして各回転画像の探傷画像から底面エコー領域Zの画像を抽出したら、それらを回転角度順に並べる。図12においては、図10の統合画像88(回転角度A)や図11の統合画像98(回転角度B)から抽出した底面エコー領域Zの画像を、左に90°回転させた上で、横軸を回転角度として並べたものを全角度画像WAとしている。なおこの場合、縦軸は管奥側から管端側に向かう方向に相当する。
【0049】
全角度画像WAによれば、回転角度Aを含むほとんどの回転角度において底面エコー信号BEが確認される一方で、回転角度Bなど、いくつかの回転角度においては溝状信号DGが確認され、これらの回転角度では底面エコー信号BEが欠けているか、微弱になっていることがわかる。したがって、こうした溝状信号DGが現れている回転角度を、底面エコーが現れていない(または微弱になっている)回転角度、すなわち欠陥5が存在する箇所として割り出すことができる。
【0050】
なお上記においては統合画像88,98に対して底面エコー領域Zを設定し、各回転角度の統合画像を基に全角度画像WAを作成したが、適切に底面エコー領域Zを設定すれば、垂直リニアスキャン画像や斜角スキャン画像を基に全角度画像を作成することも可能である。
【0051】
(実施例)
本発明に係る超音波検査方法で欠陥を発見することが可能であることを確認する試験を行った。図3に示されるように管板20に対して垂直に複数の管材30が溶接されたオーステナイト系ステンレス鋼で製作された構造体からなる試験体を用意した。この試験体を、塩化マグネシウム溶液からなる腐食液に浸したり、熱を加えたりして応力腐食割れが発生しやすい環境に晒した後、管材30の一つに回転探触部50を挿入して、内面から360°全周に対して探傷試験を行って全角度画像を作成したところ、35°の回転角度(探傷スタート位置から回転探触部50が35°回転した位置)において溝状信号が確認され、底面エコーが現れなかった。そこで管材30を35°の方向で切断して縦断面を確認したところ、図1に示す欠陥5のような、管材30の管奥側の位置に存在する亀裂状の欠陥が発見された。管材30にこのような亀裂があると、それが伝播して溶接部12などにも広がることがあり、例えば化学プラントにおける多管式熱交換器においては管材30内部を流れる流体が外部へ漏れ出す不具合の原因となるが、本発明の超音波検査方法により、こうした不具合の原因となる亀裂を早期に発見することができることが確認された。また、溶接部を有する検査対象に対して検査を行う際、本発明の超音波検査方法であれば、溶接部だけでなく、管材などの母材に発生している欠陥も発見することが可能であることが確認された。
【0052】
以上、本発明の超音波検査方法について、実施形態の一例を基に説明したが、本発明は説明した実施形態に限定されるものではなく、様々に変形・改善することが可能である。以下にいくつかの変形例を説明するが、これらもあくまで一例であり、本発明がこれらの変形例に限定されることを意味するものではない。
【0053】
上記の実施形態例においては、管板20に対して垂直に溶接された管材30を検査対象としているが、本発明の超音波検査方法の検査対象はこれに限るものではなく、超音波を用いた検査が行われる対象全般に対して適用することが可能である。すなわち、超音波を発信する複数のアレイ素子がアレイ並び方向に沿って配置されたアレイ探触子を、検査対象に定められた走査範囲内に向けて各アレイ素子から超音波を発信させて探傷試験を行いながらアレイ並び方向と異なる方向(典型的には直交する方向)へ移動させることにより、走査範囲内の走査を行うことが可能な対象であれば検査対象とすることができる。なお、アレイ探触子はアレイ並び方向に対して斜め方向や、任意の曲線経路で移動してもよいし、検査対象によっては一部アレイ並び方向と同じ方向へ移動してもよい。こうした走査により底面エコーが得られない(または微弱な)箇所があれば、その箇所に欠陥が存在すると判定することができる。管材20以外の具体的な検査対象としては、例えば平面的に広がる板材に本発明の超音波検査方法を適用することができる。また、上記の実施形態例においては、いわゆるフェーズドアレイ法による検査について説明しているが、本発明の超音波検査方法を用いることが可能な検査手法はこれに限るものではなく、アレイ探触子を用いた検査手法全般に用いることができる。例えば、開口合成法(FMC/TFM)による検査においても本発明の超音波検査方法を用いることが可能である。
【0054】
また上記の実施形態例においては、管材30に対して管板20が垂直に溶接されているものとしているが、必ずしも垂直である必要はなく、管材30と管板20の間の角度が鋭角であってもよい。また、上記の実施形態例においては複数の管材30が平行に配置されているものとしたが、これらも必ずしも平行である必要はなく、また、管材30が1本だけであってもよい。
【0055】
また上記の実施形態例においては、探傷試験を行う際、アレイ探触子55を管材30内部で単に回転させるものとしているが、探傷試験を行う際に、アレイ探触子55が管材30の内面に押圧されるようにしてもよい。アレイ探触子55を管材30の内面に押圧させる手段としては例えば、弾性力によりアレイ探触子55を管材30の内面に向けて移動させることが可能な押圧機構を超音波探傷装置40に設けることが考えられる。このようにすれば、管材30の内径が不明である場合や、腐食などにより内径が不均一となっている場合であっても、アレイ探触子55を確実に管材30の内面に近接させることができる。また、アレイ探触子55から管材30への超音波の伝搬効率がよくなり、欠陥のない箇所においては底面エコーが鮮明に得られるようになる。ひいては、底面エコーが微弱になる欠陥のある箇所も発見しやすくなる。また、アレイ探触子55を管材30の内面へ押圧するにあたり、管端側と管奥側の2ヶ所で押圧するようにすれば、より安定的に押圧が行われることになり、アレイ探触子55が管材30の内面に対して適切に押圧され、管材30の内面からアレイ探触子55が離れることによる誤検知、例えば欠陥5が生じていない箇所で底面エコーが消失することを防ぐことができる。
【0056】
また上記の実施形態例においては、複数の探傷方向を、管材30の中心軸31に垂直な方向と、中心軸31に垂直な方向から一方(管端側)に傾斜させた方向と、中心軸31に垂直な方向から他方(管奥側)に傾斜させた方向と、の三方向としているが、探傷方向はこれに限るものではなく、異なる傾斜角度で同じ方向へ傾斜している探傷方向が含まれていてもよいし、探傷方向が四方向以上であってもよいし、また探傷方向が一方向や二方向のみであってもよい。探傷方向を様々な方向とすることにより、広い範囲での探傷が可能となる。その一方で、上記したように、例えば垂直リニアスキャン画像のみからでも欠陥の存在する箇所を発見することは可能である。
【0057】
また上記の実施形態例においては、図6図7において斜角スキャンをセクタスキャン(斜角セクタスキャン)としているが、これらをリニアスキャンとすることも可能である。すなわち、管材30の中心軸31に垂直な方向から一方に傾斜させた探傷方向と、管材30の中心軸31に垂直な方向から他方に傾斜させた探傷方向へ斜角リニアスキャンにより探傷を行ってもよい。このように垂直スキャンと斜角スキャンをいずれもリニアスキャンとした場合には、各方向の探傷試験の条件が一致するので、探傷試験の精度が高まる。一方、探傷範囲が扇形となるセクタスキャンにより探傷を行った場合には、より広い範囲での探傷が可能となる。
【符号の説明】
【0058】
5 欠陥
12 溶接部
20 管板
30 管材
31 中心軸
40 超音波検査装置
50 回転探触部
51 回転方向
52 モータ
53 エンコーダ
54 発振時
55 アレイ探触子
56 アレイ素子
60 制御部
61 指示部
62 駆動部
63 回転角検知部
64 発信部
65 受信部
66 画像作成部
67 複数超音波ビーム設定部
68 画像処理部
71 第一斜角スキャン部
72 垂直スキャン部
73 第二斜角スキャン部
80 垂直リニアスキャン画像(回転角度A)
80E 底面エコー信号
80R 繰り返しエコー信号
80R 繰り返しエコー信号
82 第一斜角スキャン画像(回転角度A)
82E 底面エコー信号
82R 繰り返しエコー信号
82R 繰り返しエコー信号
84 第二斜角スキャン画像(回転角度A)
88 統合画像(回転角度A)
88 底面エコー信号
88R 繰り返しエコー信号
88R 繰り返しエコー信号
90 垂直リニアスキャン画像(回転角度B)
92 第一斜角スキャン画像(回転角度B)
94 第二斜角スキャン画像(回転角度B)
98 統合画像(回転角度B)
A 回転角度
B 回転角度
BE 底面エコー信号
DG 溝状信号
INS 不感帯
WA 全角度画像
Z 底面エコー領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12