(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】車いす及び車いす用シート
(51)【国際特許分類】
A61G 5/12 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
A61G5/12 701
A61G5/12 702
(21)【出願番号】P 2019171873
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】598026851
【氏名又は名称】株式会社カワムラサイクル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】轟木 有希
(72)【発明者】
【氏名】山田 真希
(72)【発明者】
【氏名】黒岡 祐也
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-296706(JP,A)
【文献】特開2000-093464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の側フレームと、前記左右の側フレームの間で使用者の大腿部を支持する座部と、使用者の背中を支持する背面部と、使用者の臀部を支持する臀部シートとを備え、
前記臀部シートが前記座部と前記背面部とに掛け渡された一対の帯状シートを備え、
前記帯状シートの、左右方向外縁での長さが、左右方向内縁での長さより短い、車いす。
【請求項2】
前記一対の帯状シートの、一方の帯状シートの外縁から他方の帯状シートの外縁までの横幅が、前記背面部から前記座部に向かって漸減する、請求項1に記載の車いす。
【請求項3】
前記背面部が前記左右の側フレームの間で左右方向に延びる接続ベルトを備え、
それぞれの帯状シートが前記接続ベルトに接続されている、請求項1又は2に記載の車いす。
【請求項4】
それぞれの帯状シートが、前記臀部シートの平面視において、前記接続ベルトが前記帯状シートの左右方向外縁から左右方向内縁に向かって前記座部から離れる向きに傾斜して通される連結環を備える、請求項3に記載の車いす。
【請求項5】
上下方向において、前記臀部シートと前記背面部との接続位置が着座する使用者の腰の高さに位置する、
請求項1から4のいずれかに記載の車いす。
【請求項6】
使用者の腰を背後から支持する腰部ベルトを更に備え、
前記腰部ベルトが、前記臀部シートの前方に配置されている、
請求項1から5のいずれかに記載の車いす。
【請求項7】
前記帯状シートが、左右方向外縁が張られた状態で内縁が下方及び後方に凹み、着座する使用者の臀部の左右側面を支持しつつ、前記臀部に沿って屈曲して前記臀部を支持する、請求項1から6のいずれかに記載の車いす。
【請求項8】
車いすに着座する使用者の大腿部を支持する座部と、前記使用者の背中を支持する背面部と、前記使用者の臀部を支持する臀部シートとを備え、
前記臀部シートが、前記座部と前記背面部とに掛け渡された一対の帯状シートを備え、前記帯状シートの、左右方向外縁での長さが、左右方向内縁での長さより短い、車いす用シート。
【請求項9】
左右の側フレームと、前記左右の側フレームの間で使用者の大腿部を支持する座部と、使用者の背中を支持する背面部と、使用者の臀部を支持する臀部シートとを備え、
前記背面部が前記左右の側フレームの間で左右方向に延びる接続ベルトを備え、
前記臀部シートが前記座部と前記接続ベルトとに掛け渡されており、
前記接続ベルトが前記左右の側フレームの間で撓む状態で掛け渡されて
おり、
使用者の腰を背後から支持する腰部ベルトを更に備え、
前記腰部ベルトが、前記臀部シートの前方に配置されている、車いす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車いす用シートとこの車いす用シートを備える車いすに関する。
【背景技術】
【0002】
車いすは、着座する使用者を支える座部及び背面部を備える。この座部は、着座する使用者を下方から支持する。背面部は、使用者を後方から支持する。着座姿勢にある使用者の臀部は、前後方向から上下方向に湾曲している。この様に湾曲する臀部は、座部や背面部で支持し難い。
【0003】
特許文献1(特許第4470802号公報)には、座部の後部を前部より伸長し易くした車いすが開示されている。同様に、背面部の下方の腰椎部をその上方部分より伸長し易くしている。この車いすでは、座部の後部と背面部の腰椎部とが、臀部の湾曲に沿って、伸長しうる。この座部及び背面部は、従来の車いすのそれらに比べて、使用者の臀部に沿い易い。この車いすは、従来の車いすに比べて座り心地に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この車いすでは、座部の後部と背面部の腰椎部とが伸長することで、座部及び背面部は臀部の形状に沿い易い。しかしながら、この様な座部の後部と背面部の腰椎部とは、臀部の左右方向側面を十分に支持できない。この座部及び後部では、臀部でのフィット感に劣る。この座部及び背面部は、使用者の座り心地の観点で、更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、座り心地に優れる車いす用シートと車いすとの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車いすは、左右の側フレームと、前記左右の側フレームの間で使用者の大腿部を支持する座部と、前記使用者の背中を支持する背面部と、前記使用者の臀部を支持する臀部シートとを備える。前記臀部シートは、前記座部と前記背面部とに掛け渡された一対の帯状シートを備える。前記帯状シートの、左右方向外縁での長さは、左右方向内縁での長さより短い。
【0008】
本発明に係る他の車いすは、左右の側フレームと、前記左右の側フレームの間で使用者の大腿部を支持する座部と、使用者の背中を支持する背面部と、使用者の臀部を支持する臀部シートとを備える。前記臀部シートは、前記座部と前記背面部とに掛け渡された一対の帯状シートを備える。前記一対の帯状シートの、一方の帯状シートの外縁から他方の帯状シートの外縁までの横幅は、前記背面部から前記座部に向かって漸減する。
【0009】
好ましくは、前記背面部が前記左右の側フレームの間で左右方向に延びる接続ベルトを備える。それぞれの帯状シートが前記接続ベルトに接続されている。
【0010】
好ましくは、上下方向において、前記臀部シートと前記背面部との接続位置が着座する使用者の腰の高さに位置する。
【0011】
好ましくは、この車いすは、使用者の腰を背後から支持する腰部ベルトを更に備える。前記腰部ベルトは、前記臀部シートの前方に配置されている。
【0012】
本発明に係る車いす用シートは、車いすに着座する使用者の大腿部を支持する座部と、前記使用者の背中を支持する背面部と、前記使用者の臀部を支持する臀部シートとを備える。前記臀部シートは、前記座部と前記背面部とに掛け渡された一対の帯状シートを備える。前記帯状シートの、左右方向外縁での長さが、左右方向内縁での長さより短い。
【0013】
本発明に係る他の車いすは、左右の側フレームと、前記左右の側フレームの間で使用者の大腿部を支持する座部と、使用者の背中を支持する背面部と、使用者の臀部を支持する臀部シートとを備える。
前記背面部は、前記左右の側フレームの間で左右方向に延びる接続ベルトを備える。
前記臀部シートは、前記座部と前記接続ベルトとに掛け渡されている。前記接続ベルトは、前記側フレームの間で撓む状態で掛け渡されている。
【0014】
好ましくは、この車いすは、使用者の腰を背後から支持する腰部ベルトを更に備える。前記腰部ベルトは、前記臀部シートの前方に配置されている。
【発明の効果】
【0015】
この車いすでは、使用者の臀部の左右方向側面が十分に支持されつつ、臀部が下方から支持されうる。この車いすは、臀部のフィット感に優れる。この車いすは、座り心地に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る車いすが示された斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の車いすの一対の側フレーム及びクロスフレームが示された斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の車いすの座シートと臀部シートとが示された平面図である。
【
図4】
図4は、
図1の車いすの一対の側フレームに、座シート、背シート及び臀部シートが取り付けられた斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4の座シート及び臀部シートの拡大図である。
【
図6】
図6は、
図1の車いすの一対の側フレームに、座シート、背シート、腰部シート及び臀部シートが取り付けられた側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0018】
図1には、本発明に係る車いす2が示されている。
図1の矢印Xは、車いす2の前後方向前向きを表している。矢印Yは、車いす2の左右方向左向きを表している。矢印Zは、車いす2の上下方向上向きを表している。
【0019】
この車いす2は、一対の側フレーム4と、連結フレームとしてのクロスフレーム6と、一対の前輪8と、一対の後輪10と、座部としての座シート12と、背面部としての背シート14と、腰部シート16と、臀部シート18とを備える。この腰部シート16は、腰部ベルト16aと腰部ベルト16aと背シート14と接続する腰上シート16bとを備える。
【0020】
図2には、一対の側フレーム4及びクロスフレーム6が示されている。それぞれの側フレーム4は、ベースパイプ22、シートサイドパイプ24、フットレストパイプ26、後輪取付部28、背パイプ30、前後一対の連結部32及び支持具34を備える。
【0021】
ベースパイプ22は、側フレーム4の下側に位置して前後方向に延びている。ベースパイプ22に、クロスフレーム6が連結される、前後一対の連結部32が取り付けられている。ベースパイプ22に、前輪8が取り付けられる(
図1参照)。
【0022】
シートサイドパイプ24は、ベースパイプ22の上方に位置して、前後方向に延びている。フットレストパイプ26は、側フレーム4の前側に位置している。フットレストパイプ26は、上下方向に延びている。フットレストパイプ26は、シートサイドパイプ24の前端部から下方に向かって延びている。フットレストパイプ26に、ベースパイプ22の前端が固定されている。
【0023】
後輪取付部28は、取付部本体28aと、連結支持部としての連結パイプ28bを備えている。取付部本体28aは上下方向に延びている。後輪取付部28の下端部は、ベースパイプ22の後部に固定されている。取付部本体28aは、後輪取付面28cと、後輪取付面28cに形成された複数の後輪取付孔28dとを備えている。連結パイプ28bは、シートサイドパイプ24に沿って前後方向に延びている。取付部本体28aの上端部は、連結パイプ28bの後部に固定されている。連結パイプ28bは、シートサイドパイプ24に固定されている。この後輪取付部28に、後輪10が取り付けられる(
図1参照)。
【0024】
背パイプ30は、後輪取付部28の上方で上下方向に延びている。背パイプ30は、シートサイドパイプ24の後端部から上方に延びている。背パイプ30の上端部30aは、上下方向から前後方向に屈曲し、後方に延びている。この上端部30aに、手押しハンドルが取り付けられている。手押しハンドルは、車いす2の後方に立つ介助者によって握られる。
【0025】
それぞれの連結部32は、ベースパイプ22に取り付けられている。この連結部32にクロスフレーム6が連結されている。一対の側フレーム4は、クロスフレーム6を介して連結されている。
【0026】
クロスフレーム6は、一対のシートパイプ36、前クロスメンバー対38及び後クロスメンバー対40を備えている。一対のシートパイプ36は、前後方向に延びている。それぞれのシートパイプ36は、シートサイドパイプ24に沿って延びている。
【0027】
前クロスメンバー対38は、クロスメンバー38aとクロスメンバー38bとからなっている。クロスメンバー38aの中央部とクロスメンバー38bの中央部が軸着されている。クロスメンバー38aの上端が左のシートパイプ36に、クロスメンバー38bの上端は、右のシートパイプ36に固定されている。クロスメンバー38aの下端部は右の連結部32に軸着され、クロスメンバー38bの下端部は左の連結部32に軸着されている。
【0028】
後クロスメンバー対40は、クロスメンバー40aとクロスメンバー40bとからなっている。後クロスメンバー対40は、前クロスメンバー対38の後方に位置している。クロスメンバー40aとクロスメンバー40bは、前述のクロスメンバー38aとクロスメンバー38bと同様に、ベースパイプ22に取り付けられた連結部32に軸着されている。クロスメンバー40aの上端がクロスメンバー38aに連結され、クロスメンバー40bの上端がクロスメンバー38bに連結されている。
【0029】
右のシートパイプ36は、図示されない座受具を介して、右のシートサイドパイプ24に着脱可能に支持される。左のシートパイプ36も、図示されない座受具を介して、左のシートサイドパイプ24に着脱可能に支持される。この前クロスメンバー対38及び後クロスメンバー対40とによって、車いす2の車幅が変更可能にされている。更に、車いす2の姿勢は、使用者が着座する使用姿勢と、左右の側フレーム4が互いに近づけられた折り畳み姿勢との間で、変更可能である。この車いす2は、折り畳み可能である。
【0030】
支持具34は、背パイプ30に取り付けられている。支持具34は、着座する使用者の腰の高さに配置されている。この腰の高さは、骨盤の中腹、より具体的には上後腸骨棘を支持する高さをいう。支持具34は、上下方向に延びる支持バー34aを備える。この支持バー34aは、背パイプ30の前方に位置して、上下方向に延びている。
【0031】
図3には、座シート12及び臀部シート18の平面図が示されている。この車いす2では、座シート12と臀部シート18とが一体で形成されている。図示されないが、座シート12と臀部シート18とが別体で形成され、座シート12と臀部シート18とが接続されてもよい。
【0032】
座シート12は、一対のシートパイプ36に掛け渡される。この座シート12は、座本体部42及び前端部44を備えている。この座本体部42は、特に限定されないが、例えば布から形成されている。座本体部42の左右方向端部に、複数の取付孔42aが形成されている。この取付孔42aによって、座本体部42は、シートパイプ36に、例えばネジ止めされる。
【0033】
この前端部44は、座本体部42の前方に位置し、一対のシートパイプ36に掛け渡される。この前端部44は、左右方向を長手方向とする帯状を呈している。この前端部44は、伸縮体としてのゴムバンド48と一対の布バンド50とを備える。ゴムバンド48の左右方向両端に布バンド50が接続されている。布バンド50の左右方向外端部に複数の取付孔50aが形成されている。この取付孔50aによって、前端部44は、シートパイプ36に例えばネジ止めされる。
【0034】
この座シート12は、必ずしも座本体部42と前端部44との別体でなくともよい。この座シート12は、布から形成されているが、使用者が支持可能であればよく特に材料を限定されない。
【0035】
臀部シート18は、一対の帯状シート52と一対の帯状シート52を連結する補強体54とを備えている。補強体54は、左右方向において一対の帯状シート52の間に位置して、一対の帯状シート52を接続している。臀部シート18は、補強体54を必ずしも必要としない。また、図示されないが、補強体54は、一対の帯状シート52と一体で形成されてもよい。
【0036】
それぞれの帯状シート52は、シート本体52aと、接続部として連結環52bとを備える。帯状シート52は、座シート12から延びる帯体から形成されている。この帯体が先端部で折り返されて、本体部と折り返し部とが形成されている。この折り返し部と本体部とが例えば縫合されて連結環52bを形成している。シート本体52aは、座シート12と接続される端から連結環52bに至るまでの帯体で形成されている。
【0037】
図3の二点鎖線L1は、座シート12と帯状シート52との境界を表している。この境界L1は、座シート12の、一対のシートパイプ36に掛け渡される部分における後端位置である。この境界L1では、座シート12は、一方のシートパイプ36から他方のシートパイプ36まで連続している。一点鎖線L2は、連結環52bの中心線を表している。
【0038】
図3の両矢印Wは、一方の帯状シート52の外縁から他方の帯状シート52の外縁までの横幅を表している。両矢印Loは、帯状シート52の左右方向外縁での長さを表している。両矢印Liは、帯状シート52の左右方向内縁での長さを表している。この長さLo及びLiは、帯状シート52の端から境界L1までの距離として測定される。連結環52bの中心線L2は、シート本体52aの長手方向に直交している。
【0039】
図4に示される様に、背シート14は、背本体部56と、接続ベルト58を備える。背本体部56は、上方で一対の背パイプ30に掛け渡されている。この背本体部56は、着座する使用者の背中を支持する。接続ベルト58は、背本体部56の下方で一対の背パイプ30に掛け渡されている。この接続ベルト58は、左右方向に延びている。この接続ベルト58は、着座する使用者の腰の高さ(骨盤の中腹、より具体的には上後腸骨棘を支持する高さ)に配置されている。この接続ベルト58は、帯状シート52の連結環52bに通されている。これにより、臀部シート18と背シート14とが接続されている。
【0040】
図4の点Pは、連結環52bの接続位置を表している。
図4に示される様に、接続位置Pは、接続ベルト58の幅方向中心線L3と連結環52bの左右方向中心線L4との交差する中央位置として求められる。
【0041】
図5には、
図4の座シート12及び臀部シート18が示されている。臀部シート18の帯状シート52では、左右方向外縁の長さLoがその内縁の長さLiより短い。
図5では、背シート14の接続ベルト58が二点鎖線で示されている。接続ベルト58は、左右方向に延びている。このため、帯状シート52では、左右方向外縁の弛みより、その内縁の弛みが大きい。
【0042】
図6には、側フレーム4及びクロスフレーム6と共に、座シート12、背シート14、腰部シート16及び臀部シート18が示されている。座シート12は、一対のシートパイプ36に掛け渡される。背シート14は、一対の背パイプ30に掛け渡されている。臀部シート18は、座シート12と背シート14とに掛け渡されている。
【0043】
腰部シート16の腰部ベルト16aは、支持具34の支持バー34aに掛け渡されている。腰上シート16bは、腰部ベルト16aの上端から延びて、背シート14の背本体部56と接続されている。この腰部ベルト16aは、背シート14の接続ベルト58の前方に位置している。この腰部ベルト16aと接続ベルト58とは、着座する使用者の腰の高さに位置する。なお、腰部ベルト16aと腰上シート16bとは一体でも別体でもよく、腰上シート16bと背シート14とが一体でもよい。
【0044】
この車いす2では、座シート12は、着座する使用者の大腿部を支持する。この座シート12は、使用者の脚の付け根から前方の大腿部を支持する。背シート14は、使用者の背中を支持する。臀部シート18は、使用者の脚の付け根と背中との間で臀部を支持する。
【0045】
臀部シート18の帯状シート52の外縁での長さLoは、その内縁での長さLiより短い。帯状シート52は、外縁が張られた状態で内縁が下方及び後方に凹みうる。これにより、臀部シート18は、使用者の臀部の左右側面を支持しつつ、臀部に沿って屈曲して臀部を支持しうる。この臀部シート18は、使用者の臀部を安定的に支持しうる。
【0046】
この帯状シート52の長さは、内縁での長さLiから外縁での長さLoに向かって漸減している。これにより、帯状シート52は、立体的な曲面形状である臀部の形状に沿って、臀部を支持しうる。
【0047】
この臀部シート18では、左右方向一方の帯状シート52の外縁から他方の帯状シート52の外縁までの横幅Wは、背シート14から座シート12に向かって漸減する。一対の帯状シート52は、V字状を呈している。この一対の帯状シート52は、臀部の形状に沿って、臀部を支持しうる。
【0048】
なお、ここでは、V字状を呈する一対の帯状シート52を例に説明がされたが、本発明に係る一対の帯状シート52はこれに限定されない。帯状シート52の外縁での長さLoが内縁での長さLiより短くされていればよい。一対の帯状シート52は、平行に延びてもよいし、逆V字状を呈してもよい。また、一対の帯状シート52は、左右方向に一本ずつある例にて説明がされたが、左右方向に少なくとも一本ずつあればよく、この帯状シート52は、左右二本ずつであってもよいし、左右いずれか一方が一本で他方が二本であってもよい。
【0049】
この帯状シート52は、左右方向に延びる接続ベルト58に接続されている。この接続ベルト58は、前後方向に撓みうる。この接続ベルト58は、一対の帯状シート52が臀部の形状に沿うときに、一対の帯状シート52に従って撓みうる。この接続ベルト58は、一対の帯状シート52を臀部の形状に沿い易くしている。
【0050】
この帯状シート52は、連結環52bに接続ベルト58が通されている。この連結環52bは、接続ベルト58に沿って左右方向位置を調整しうる。この帯状シート52は、使用者に合せて、連結環52bの位置調整をしうる。この車いす2では、接続ベルト58が用いられたが、位置調整の観点では、これに限られない。帯状シート52の位置調整の観点では、一対の背パイプ30の間で左右に延びており、連結環52bが通される接続体であればよい。連結環52bは、例えば、一対の背パイプ30の間で左右に延びる金属パイプに通されてもよい。
【0051】
なお、ここでは、帯状シート52の連結環52bに背シート14の接続ベルト58が通されたが、本発明に係る帯状シート52と背シート14との接続はこれに限られない。この帯状シート52と背シート14とが例えば縫合されて接続されてもよい。
【0052】
この臀部シート18では、帯状シート52と背シート14との接続位置Pは、着座する使用者の腰の高さに位置する。これにより、臀部シート18は、腰と大腿部との間で屈曲する使用者の身体の曲面に沿い易い。
【0053】
この車いす2は、腰部シート16を備える。この腰部シート16の腰部ベルト16aが、臀部シート18の前方に配置されている。人体の背面は、臀部と背中との間の腰で前方に凹む。この腰部ベルト16aは、臀部シート18で臀部を支持した状態で、前方に位置する腰を背後から支持しうる。この腰部シート16を備えることで、この車いす2は使用者を後方から確りと支持しうる。
【0054】
図6に示される様に、この車いす2では、シートサイドパイプ24、フットレストパイプ26及び背パイプ30とは、一本のパイプを湾曲させて形成されている。シートサイドパイプ24は下方向きの荷重を受ける。背パイプ30は後方向きの荷重を受ける。このシートサイドパイプ24と背パイプ30との間には曲げモーメントが繰り返し発生する。車いす2では、シートサイドパイプ24と背パイプ30との間で受ける負荷は大きい。この車いす2では、シートサイドパイプ24と背パイプ30とが一本のパイプから形成されることで、側フレーム4は強度的に安定している。
【0055】
この車いす2では、臀部シート18が受ける荷重は、接続ベルト58を介して背パイプ30に作用する。前述の通り、側フレーム4では、シートサイドパイプ24と背パイプ30とが一本のパイプから形成される。側フレーム4は、シートサイドパイプ24と背パイプ30との間で発生する曲げモーメントに対して、強度的に安定している。この側フレーム4は、臀部シート18を備える車いす2に適している。
【0056】
この後輪取付部28では、取付部本体28aが連結パイプ28bに接続されている。この連結パイプ28bがシートサイドパイプ24に沿って延びており、この連結パイプ28bがシートサイドパイプ24に固定されている。これにより、後輪10から受ける反力は、シートサイドパイプ24に局所的に作用することが抑制されている。この車いす2では、背パイプ30や背パイプ30に連続するシートサイドパイプ24の後端部に、後輪10から受ける反力が直に作用しない。この側フレーム4は、この後輪取付部28を備えることで、強度的に更に安定している。
【0057】
この臀部シート18が受ける荷重は背パイプ30に作用するので、背パイプ30が受ける負荷が大きい。この車いす2では、後輪取付部28がシートサイドパイプ24に連結されている。これにより、背パイプ30が受ける負荷が軽減されている。この後輪取付部28は、臀部シート18を備える車いす2に適している。
【0058】
この車いす2では、シートパイプ36の前端部36aが前後方向に延びている。シートパイプ36の中間部36b及び後端部36cは、前方から後方に向かって下方向きに傾斜して延びている。使用者の大腿部を支持する座シート12は、このシートパイプ36に沿って掛け渡される。この座シート12の後方から臀部シート18が延びている。この座シート12及び臀部シート18は、使用者の臀部が前方にずれ上がることを抑制する。この座シート12及び臀部シート18は、使用者の臀部を安定して且つ安楽に支持しうる。
【0059】
この座シート12は、伸縮性に優れる前端部44を備えている。この座シート12では、着座する使用者の大腿部は臀部に向かって下方に傾斜する。更に、臀部シート18が使用者の臀部を大腿部より下方で支持しうる。この様な姿勢にある使用者の大腿部の膝裏近傍部分を、前端部44が支持する。この前端部44が伸長することで、この膝裏近傍部分が座シート12に圧迫されることが抑制される。この車いす2では、使用者は安楽に着座できる。
【0060】
図されないが、車いす2は、更にクッションを備えてもよい。クッションは、座シート12、背シート14、腰部シート16及び臀部シート18と使用者の身体との間で緩衝材として機能する。この車いす2では、クッションとして、好ましくは、厚さ方向のみならず、幅方向及び長手方向にも伸縮可能な材料が用いられる。例えば、クッションとして、メッシュ状のカバーシートが用いられる。
【0061】
この車いす2は、折り畳み可能である。臀部シート18では、帯状シート52は布から形成されている。この帯状シート52は柔軟性を備えるので、車いす2の折り畳みを阻害しない。また、一対の帯状シート52は、座シート12と背シート14とに掛け渡されている。座シート12や背シート14が布やベルト等の柔軟性を備える材料からなっても、この臀部シート18は臀部を適正に支持しうる。この臀部シート18は、折り畳み可能な車いす2に適している。
【0062】
この帯状シート52は布から形成されているが、これに限られない。帯状シート52は、伸縮部材、例えばシート状のゴムからなってもよい。また、臀部シート18は、長手方向の長さが調整可能であってもよい。また、この臀部シート18は座シート12と一体で形成されたが、別体であってもよい。また、臀部シート18と背シート14とが一体で形成されてもよいし、臀部シート18と座シート12と背シート14とが一体で形成されてもよい。
【0063】
この車いす2では、帯状シート52と接続ベルト58とが縫合されていてもよい。また、帯状シート52と接続ベルト58とが一体の布地であってもよい。帯状シート52と接続ベルト58とが一体の場合には、長さLo及びLiは、帯状シート52の縁の延長線と接続ベルト58の上縁との交点から境界L1までの距離として、測定される。
【0064】
この車いす2では、臀部シート18として、一対の帯状シート52が用いられたが、本発明に係る臀部シート18はこれに限らない。車いす2の使用姿勢において、臀部シート18の左右方向外側部分が張られた状態で臀部シート18の左右方向内側部分が撓む状態であればよい。これにより、使用者の臀部の左右方向側面が十分に支持されつつ、臀部が下方から支持されうる。このような臀部シート18は、臀部のフィット感に優れ、座り心地に優れる。
【0065】
この車いす2では、接続ベルト58に代えて、車いす2の使用姿勢において撓んだ状態で掛け渡される他の接続ベルトが用いられてもよい。車いす2では、使用姿勢において、この他の接続ベルトの一対の側フレーム4の間の長さが、一対の側フレーム4の間隔より長くされる。これにより、臀部シート18に代えて、長さLoと長さLiとが同じ長さにされた他の臀部シートが用いられても、他の臀部シートの左右方向内側部分が撓む状態になりうる。この様な他の接続ベルトに他の臀部シートを掛け渡すことで、他の臀部シートは、その左右方向外側部分が張られた状態で、その左右方向内側部分が撓む状態になりうる。
【0066】
この車いす2では、他の接続ベルトに変更される他は、前述の車いす2の構成と同様にされうる。また、他の接続ベルトと他の臀部シートとに変更される他は、前述の車いす2の構成と同様にされうる。なお、この他の臀部シートにおいても、長さLoと長さLiとは同じ長さに限定されない。また、この他の臀部シートが、一対の帯状シート52と同様に、一対の帯状シートで形成されてもよい。
【0067】
このような他の接続ベルトを備える車いす2では、使用者の腰を背後から支持する腰部ベルト16aを備えることが特に好ましい。腰部シート16(腰部ベルト16a)を備えることで、この車いす2は使用者を後方から確りと支持しうる。また、この様な他の接続ベルトでは、他の接続ベルトと他の臀部シートとが一体の布地から容易に制作できる。なお、他の接続ベルトと他の臀部シートとが縫合されていてもよいし、それぞれ別体で制作されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
2・・・車いす
4・・・側フレーム
12・・・座シート(座部)
14・・・背シート(背面部)
16・・・腰部シート
16a・・・腰部ベルト
16b・・・腰上シート
18・・・臀部シート
52・・・帯状シート
52a・・・帯体本体
52b・・・連結環(接続部)
58・・・接続ベルト