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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】アルミニウム積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/31 20060101AFI20230721BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230721BHJP
   C23C 18/52 20060101ALN20230721BHJP
   C23C 28/02 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
C23C18/31 Z
C22C21/00 N
C23C18/52 B
C23C28/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019195988
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021070831
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100060368
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 迪夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】村松 賢治
(72)【発明者】
【氏名】秋山 聡太郎
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-145867(JP,A)
【文献】特開2012-087411(JP,A)
【文献】特開2000-256864(JP,A)
【文献】特開2015-079599(JP,A)
【文献】特開平05-247572(JP,A)
【文献】特開2001-348682(JP,A)
【文献】特開2001-348670(JP,A)
【文献】特開平09-125282(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182589(WO,A1)
【文献】特公昭52-012131(JP,B1)
【文献】韓国登録特許第10-1826428(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/31
C22C 21/00
C23C 18/52
C23C 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SnおよびBiの少なくともいずれかを、合計で0.003質量%以上9質量%以下含有し、不可避不純物としてのSi以外に添加元素としてのSiを含有していないアルミニウム基材と、そして
前記アルミニウム基材の少なくとも一方面の少なくとも一部に、シングルジンケート処理により形成されたジンケート層と
を含むことを特徴とするアルミニウム積層体。
【請求項2】
前記アルミニウム基材は、5μm以上7mm以下の厚みを有するものであることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム積層体。
【請求項3】
前記ジンケート層は、その表面の少なくとも一部にNiめっき層が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム積層体。
【請求項4】
前記Niめっき層は、その表面に、さらにAuめっき層およびSnめっき層の少なくともいずれかが形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム積層体。
【請求項5】
アルミニウム溶湯を準備する工程と、
前記アルミニウム溶湯にSnおよびBiの少なくとも一方を添加することによって、SnおよびBiの合計質量の割合が0.0075質量%以上10質量%以下の混合溶湯を作製する工程と、
前記混合溶湯を用いて鋳塊または鋳造板を形成する工程と、
前記鋳塊または鋳造板を圧延することにより、SnおよびBiの合計質量の割合が0.0075質量%以上10質量%以下であり、不可避不純物としてのSi以外に添加元素としてのSiを含有していないアルミニウム基材を製造する工程と、
前記アルミニウム基材に対して230℃以上の温度で熱処理して調質する工程と、そして
前記アルミニウム基材の少なくとも一方面の少なくとも一部に、シングルジンケート処理によりジンケート層を形成する工程と
を含むアルミニウム積層体の製造方法。
【請求項6】
前記ジンケート層の表面の少なくとも一部にNiめっき層を形成するめっき工程をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム積層体およびその製造方法に関し、特にSnおよびBiのいずれかが特定量配合されたアルミニウム基材において、その表面にシングルジンケート処理によりジンケート層が形成されたアルミニウム積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは軽量で電気伝導性も良いことから、電子部品の適用基材としてよく検討されている。しかし、アルミニウムの酸化皮膜は強固であるため、コネクタ部品やはんだ付け部品として適用するのが困難である。そのための解決手段として、アルミニウムの酸化皮膜を除去し、その表面に異種金属をめっきすること等が挙げられるが、アルミニウムへめっきする技術に関しても様々な課題が存在する。
【0003】
例えば、アルミニウムの表面にNiやSnの異種金属のめっきをする前に、一般的にはジンケート処理が施される。アルミニウム表面に密着性の高い緻密なZn膜(ジンケート層)を形成するためには、数多くの複雑な工程を必要とする。先ず脱脂・エッチング・スマット除去などの前処理を行い、その後に一回目のジンケート処理(シングルジンケート)を施してZn膜を形成する。
【0004】
しかしながら、このZn膜は形状も粗く、アルミニウムとの密着性も弱いことから、その上にさらにNiめっきやSnめっきを施しても高い密着性を有するめっき膜を得ることができない。このため、一般的には一回目のジンケート処理(シングルジンケート)で形成されたZn膜は一度硝酸で剥離させ、その後の二回目のジンケート処理(ダブルジンケート)を施すことで初めて緻密なZn膜を得られるようにしている。
【0005】
例えば、特開2004-263210号公報(特許文献1)に開示されているように、アルミニウム基板表面に基板側からZn層、Ni層、Sn層を形成させることにより、はんだ付けを可能とする表面改質技術が知られている。
【0006】
しかしながら、特許文献1にも記載されているように、一般的なジンケートプロセスは、前処理、シングルジンケート処理(第一Zn置換処理)、Zn剥離、ダブルジンケート処理(第二Zn置換処理)の順で実施される。このため、アルミニウム基材を電子部品に用いる場合は、銅を電子部品に用いる場合に比べて上述のような複数のジンケート処理を施す必要がある結果、複雑な工程数が多くなりコストも増大となるという問題があった。そのため、現在でも電子部品には銅がよく用いられ、アルミニウムを、例えば回路基板などの電子部品に用いることの障壁となっていた。
【0007】
また、特開平09―125282号公報(特許文献2)に開示されているように、一般的なAlおよびAl合金用の亜鉛置換浴に特定の化合物を特定の配合量で添加することにで、シングルジンケート処理にて従来のダブルジンケート処理と同等の密着強度を有するジンケート層を形成する技術が知られている。
【0008】
しかしながら、特許文献2では特定の亜鉛置換浴を使うことにより、シングルジンケート処理での緻密な膜の生成を可能にしているが、ジンケート処理を行うための必須の条件である前処理までは簡略化または省略できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-263210号公報
【文献】特開平09―125282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、必ずしもダブルジンケート処理を必要とせず、或いはシングルジンケート処理を行うとしても必ずしもその前処理を必要とすることなく、ダブルジンケート処理により得られるアルミニウム基材とジンケート層との密着性と同等以上の高い密着性を有するアルミニウム積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、ジンケート処理の前処理およびダブルジンケート処理を必ずしも必要とせず、アルミニウム基材とジンケート層との高い密着性が得られる構成や条件について鋭意検討を重ねた結果、SnやBiを特定量配合したアルミニウム基材をジンケート処理すれば上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、SnおよびBiの少なくともいずれかを、合計で0.003質量%以上9質量%以下含有するアルミニウム基材と、そして前記アルミニウム基材の少なくとも一方面の少なくとも一部に、シングルジンケート処理により形成されたジンケート層とを含むことを特徴とするアルミニウム積層体が提供される。
【0013】
その結果、本発明のアルミニウム積層体は、必ずしもダブルジンケート処理を必要とせず、或いはシングルジンケート処理を行うとしても必ずしもその前処理を必要とすることなく、ダブルジンケート処理により得られるアルミニウム基材とジンケート層との密着性と同等以上の高い密着性を有することができるという優れた効果を奏する。
【0014】
また、上述したような本発明のアルミニウム積層体は、アルミニウム溶湯を準備する工程と、前記アルミニウム溶湯にSnおよびBiの少なくとも一方を添加することによって、SnおよびBiの合計質量の割合が0.0075質量%以上10質量%以下の混合溶湯を作製する工程と、前記混合溶湯を用いて鋳塊または鋳造板を形成する工程と、前記鋳塊または鋳造板を圧延することにより、SnおよびBiの合計質量の割合が0.0075質量%以上10質量%以下のアルミニウム基材を製造する工程と、前記アルミニウム基材に対して230℃以上の温度で熱処理して調質する工程と、そして前記アルミニウム基材の少なくとも一方面の少なくとも一部に、シングルジンケート処理によりジンケート層を形成する工程とを含む製造方法によって得ることができる。
【0015】
本発明で用いられるアルミニウム基材の形状は特に限定されないが、実際の工程上のハンドリング性などを考慮すると5μm以上7mm以下の厚みを有することが好ましい。
【0016】
また、本発明のアルミニウム積層体において、そのはんだ付け性をより向上させるためには、ジンケート層の表面の少なくとも一部にNiめっき層が形成されていることが好ましく、前記Niめっき層の表面にAuめっき層およびSnめっき層の少なくともいずれかが形成されていればさらに好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルミニウム積層体は、必ずしもダブルジンケート処理を必要とせず、或いはシングルジンケート処理を行うとしても必ずしもその前処理を必要とすることなく、ダブルジンケート処理により得られるアルミニウム基材とジンケート層との密着性と同等以上の高い密着性を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来のシングルジンケート処理のみを施したアルミニウム積層体のSEMによる断面写真
図2】本発明のシングルジンケート処理のみを施したアルミニウム積層体のSEMによる断面写真
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るアルミニウム積層体及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【0020】
本発明の一実施形態に係るアルミニウム積層体は、SnおよびBiの少なくともいずれかを、合計で0.003質量%以上9質量%以下含有するアルミニウム基材と、そして前記アルミニウム基材の少なくとも一方面の少なくとも一部に、シングルジンケート処理により形成されたジンケート層とを含んでいる。
【0021】
本実施形態のアルミニウム積層体において、アルミニウム基材の全質量に対するSnおよびBiの合計質量の割合が0.003質量%以上9質量%以下であり、その少なくとも一部表面にシングルジンケート処理によりジンケート層を形成させた場合、予め前処理も必要とせず、さらにこのアルミニウム積層体にダブルジンケート処理も必要することなく、アルミニウム基材と亜鉛層(ジンケート層)との密着性を高めることができる。
【0022】
本発明の実施形態において、上述した密着性向上のメカニズムは定かではないが、以下のように推察される。
【0023】
従来技術において、一回のジンケート(シングルジンケート)処理のみでアルミニウム基材に密着性の高い緻密なジンケート層が得られない原因としては、アルミニウム基材表面に形成される酸化皮膜の存在が考えられる。アルミニウムの酸化皮膜は強固であるため、かかる酸化被膜の存在が、アルミニウム基材表面の全域に亘る均一なジンケート層の成長を妨げ、ジンケート層が局所的に成長してしまうものと考えられる。その結果、アルミニウム基材の表面には、ジンケート層が形成される領域と形成されなかった領域とが混在するムラのある層が形成されるものと推察される。
【0024】
一方、上述のシングルジンケート処理に対してダブルジンケート処理は、シングルジンケート処理により形成されたジンケート層を硝酸で剥離してやることで、一度アルミニウム基材の表面全域に形成された酸化皮膜を弱い皮膜へ改質する。その後、再度二回目のジンケート(ダブルジンケート)処理を施すので、初めて緻密でアルミニウム基材との密着性にも優れたジンケート層が得られるというものである。別言すれば、ジンケート処理を施す前のアルミニウム基材自体の酸化皮膜全域を弱い状態にすることができれば、一回のジンケート処理でアルミニウム基材に密着性の高い緻密なジンケート層を形成されることができ、ジンケート処理は一度で完了させることができるものと考えられる。
【0025】
一般的なアルミニウム基材をシングルジンケート処理した直後のアルミニウム積層体のSEMによる断面写真を図1に示し、本実施形態のアルミニウム基材をシングルジンケート処理した直後のアルミニウム積層体のSEMによる断面写真を図2に示す。
【0026】
一般的なアルミニウム基材を用いてシングルジンケート処理したアルミニウム積層体は、その表面に大きな凹凸やムラがあり、また一部のジンケート層がアルミニウム基材から浮いて十分な密着性を得られていないことが判る。これに対して、本実施形態のアルミニウム積層体は、シングルジンケート処理のみであってもその表面には滑らかで緻密なジンケート層が形成されていることが判る。また、本実施形態によるジンケート層は、アルミニウム基材表面の全域に均一に形成されていることから、アルミニウム基材との間に高い密着性を有していることが判る。
【0027】
(アルミニウム積層体)
本発明、本実施形態において、アルミニウム積層体とは、アルミニウム基材を含む積層体を意味する。アルミニウム基材は特にその形状に限定はないが、アルミニウム箔とアルミニウム板を含む概念である。
【0028】
本実施形態において基材となるアルミニウムは、SnおよびBiの少なくとも一方を含有しており、アルミニウムの全質量に対するSnおよびBiの合計質量の割合は0.003質量%以上9質量%以下である。
【0029】
上記アルミニウム基材の不可避不純物または任意の添加元素としては、Fe、Si、Cu、Znなどが挙げられ、それら全部の合計質量の上限値は2質量%以下であることが好ましい。これら不純物は、Sn、Biのアルミニウム基材表面への偏析を阻害する要因になるからである。
【0030】
アルミニウム基材中のSn、Bi、任意の添加元素または上記不純物の含有量は、全反射蛍光X線(TXRF)法、ICP発光分光分析(ICP)法、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)法などにより測定することができる。
【0031】
上記アルミニウム基材の形状に特に限定はないが、その厚みは5μm以上7mm以下であることが好ましい。一般的に、アルミニウム基材の厚みを5μmよりも薄く圧延するのは難しく、逆に7mmよりも厚くするとジンケート処理やめっきの工程におけるハンドリング性が著しく低下するからである。
【0032】
また、ジンケート層の厚みは特に限定されないが、0.03μm以上3μm以下であると、アルミニウム基材との密着性が向上するので好ましい。
【0033】
アルミニウム基材、ジンケート層の厚みはSEMにより断面観察することで確認できる。本実施形態では、アルミニウム基材、ジンケート層の厚みをランダムに10か所以上測定し、その平均値を厚みとしている。また、観察前に断面をイオンミリングなどで研磨しておくことがより好ましい。
【0034】
(アルミニウム積層体の製造方法)
本実施形態におけるアルミニウム積層体を製造するための好適な方法を以下に例示する。本実施形態におけるアルミニウム積層体の製造方法は、アルミニウム溶湯を準備する工程と、アルミニウム溶湯にSnおよびBiの少なくとも一方を添加することによって、SnおよびBiの合計質量の割合が0.0075質量%以上10質量%以下の混合溶湯に調整する工程と、混合溶湯を用いて鋳塊または鋳造板を形成する工程と、鋳塊または鋳造板を圧延することにより、SnおよびBiの合計質量の割合が0.0075質量%以上10質量%以下のアルミニウム基材を製造する工程と、アルミニウム基材に対して230℃以上の温度で熱処理を実施して調質する工程と、そしてアルミニウム基材の少なくとも一方面の少なくとも一部にシングルジンケート処理によりジンケート層を設ける工程とを含んでいる。
【0035】
上記のアルミニウム積層体の製造方法において、アルミニウム溶湯を準備する工程から、アルミニウム基材を製造する工程に至る過程により、本実施形態で用いられるアルミニウム基材が得られる。
【0036】
ジンケート層を設ける前のアルミニウム基材は、含有するSnおよびBiの合計質量の割合が0.0075質量%以上10質量%以下であることが好ましい。ジンケート処理前のアルミニウム基材のSnおよびBiの含有量が0.0075質量%以上10質量%以下にすると、ジンケート処理後のSnおよびBiの含有量は0.003質量%以上9質量%以下の範囲に調整されるからである。これは、SnおよびBiが偏析したアルミニウム基材の表面部分がジンケート処理時に除去されることによるものと推察される。
【0037】
ジンケート層を設ける前のアルミニウム基材のSnおよびBiの合計質量が0.0075質量%よりも少なければ、SnおよびBiをアルミニウム基材の表面に十分に偏析させることができず、酸化皮膜が弱くならないおそれがある。一方、SnおよびBiの合計質量が10質量%よりも多くなると、アルミニウム基板上にジンケート層が形成され難くなる。このため、ジンケート層を設ける前のアルミニウム基材のSnおよびBiの合計質量は、0.0075質量%以上10質量%以下の範囲のうち、特に0.02質量%以上1質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
本実施形態のアルミニウム積層体の製造方法では、鋳塊または鋳造板を形成する工程における鋳造方法は限定されないが、DC(Direct Chill)鋳造や双ロール連続鋳造を用いることができる。そして、その鋳塊または鋳造板を目的の厚みまで圧延することで、本実施形態に用いるアルミニウム基材を得ることができる。
【0039】
次いで、得られた上記のアルミニウム基材を230℃以上の温度で熱処理し調質する工程により、SnおよびBiをアルミニウム基材の表面に偏析させて酸化皮膜を弱くすることで、後述するシングルジンケート処理を施しても、ジンケート層との間で高い密着性を示すアルミニウム基材の表面層を得ることができる。
【0040】
そして、アルミニウム基材の少なくとも一方面の少なくとも一部を一回のジンケート(シングルジンケート)処理することにより、アルミニウム基材の表面との間で高い密着性を有するジンケート層が形成される。具体的なジンケート処理としては、SnおよびBiを表面偏析させたアルミニウム基材を脱脂やエッチングなどの前処理を施すことなく直接ジンケート液に浸漬させることで、アルミニウム基材上に上述のジンケート層を形成することができる。
【0041】
また、本実施形態のアルミニウム積層体の製造方法では、ジンケート液に浸漬させる前にアルミニウム基材をポリイミドなどのフィルムと貼り合わせてフレキシブル基板としても、或いはガラスエポキシ樹脂などの硬質材料と貼り合わせてリジット基板としてもよい。この場合は、アルミニウム積層体を作製後、アルミニウム基材の表面を回路の如くパターン化させることも可能である。
【0042】
さらに、本実施形態のアルミニウム積層体の製造方法では、シングルジンケート処理により形成されたジンケート層の表面の少なくとも一部にNiめっき層を設けるためのめっき工程をさらに備えていてもよい。めっき工程としては、無電解ニッケルめっき、または電解ニッケルめっきによりNiめっき層を形成することができる。また、Niめっき上には、さらにAuめっき層またはSnめっき層を形成してもよい。
【実施例
【0043】
[実施例1]
(アルミニウム積層体の製造)
実施例1のアルミニウム積層体は、以下のようにして製造した。
先ず、JIS-A1N90材からなるアルミニウム(純度99.98質量%以上)を溶融させたアルミニウム溶湯を準備した。次に、アルミニウム溶湯にSnを投入し、Snの含有量が0.020質量%である混合溶湯を作製した。そして、この混合溶湯を用いて鋳塊を形成した(鋳造工程)。
次に、鋳塊の表面を切削除去した後、これを室温(25℃)にて冷間圧延し、厚さ30μmのアルミニウム基材を製造した。次に、アルミニウム基材を350℃まで10時間で昇温し、24時間保持することでSnおよびBiをアルミニウム表面に偏析させた。
熱処理後のアルミニウム基材を10cm×15cmにカットし、エッチングなどの前処理を施すことなく、ジンケート処理剤サブスターZn-8(奥野製薬工業株式会社製)に浸漬させ、アルミニウム基材上にジンケート層を形成した。
ジンケート処理後は水洗し、さらに無電解ニッケルめっき液トップニコロンMP-GE(奥野製薬工業株式会社製)に浸漬させ、アルミニウム基材表面にNiめっきを施した。
【0044】
(アルミニウム積層体の評価)
1.表面性状の評価
Niめっき前で、アルミニウム基材をシングルジンケート処理した直後のアルミニウム積層体のSEMによる断面写真の観察結果に基づき、図2に示すような緻密なジンケート層が得られた場合は良好:「〇」と評価し、図1に示すように不均一な粒子が付着した凹凸形状を呈する場合は不良:「×」と評価した。アルミニウム積層体の表面性状の評価を表1に示す。
【0045】
2.密着性の評価
Niめっき後のジンケート層とアルミニウム基材の密着性を評価するために、チップ抵抗をはんだ付けし、その接合強度を測定した。測定方法は以下のとおりである。
先ず、はんだペースト(商品名:「SN97C P608 D4」、株式会社日本スペリア社製)をアルミニウム積層体へ、中心間隔が3.35mm、それぞれが1.25mm×1.60mm面積の厚み80μmとなるように塗布し、その2点均一にまたがるように3216型チップ抵抗を配置した。
卓上型真空はんだリフロー装置(ユニテンプジャパン株式会社製;型番RSS-450-210)に入れ、真空引きした後に窒素流量1L/分の雰囲気で250℃まで加熱し、30秒保持した。
リフロー完了後、はんだ付けされたチップ抵抗に対し、ボンドテスター(Nordson dageシリーズ4000)を使用してシェア強度を測定した。ツール移動速度は0.3mm/秒で実施した。基材が0.3mmより薄いアルミニウム箔である場合は、基材とFR-4基板とをプリプレグを使って熱接着させて補強した。10点測定し、その平均値を接合強度とした。接合強度(シェア強度)の結果を表1に示す。なお、接合強度が50N以上のものは密着性が高いものと判断できる。
【0046】
[実施例2]
アルミニウム溶湯へのSnの添加量を1質量%として、ジンケート処理後のアルミニウム基材のSn含有割合を0.85質量%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0047】
[実施例3]
アルミニウム溶湯へのSnの添加量を0.008質量%としてジンケート処理後のアルミニウム基材のSn含有割合を0.003質量%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0048】
[実施例4]
アルミニウム溶湯へのSnの添加量を10質量%としてジンケート処理後のアルミニウム基材のSn含有割合を8.9質量%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0049】
[実施例5]
アルミニウム溶湯へのSnの添加量を0.019質量%としてジンケート処理後のアルミニウム基材のSn含有割合を0.008質量%とし、アルミニウム基材の厚みを5μmとした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0050】
[実施例6]
アルミニウム溶湯へのSnの添加量を0.020質量%として、ジンケート処理後のアルミニウム基材のSn含有割合を0.017質量%とし、アルミニウム基材の厚みを7mmとした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0051】
[実施例7]
アルミニウム溶湯へのSnの添加量を0.021質量%として、更にBiを0.013質量%添加し、SnとBiの合計含有量を0.034質量%とし、ジンケート処理後のアルミニウム基材のSnおよびBiの合計含有割合を0.014質量%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0052】
[実施例8]
Snに変えてBiを0.020質量%アルミニウム溶湯へ添加し、ジンケート処理後のアルミニウム基材のBiの含有割合を0.009質量%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
SnもBiも添加しなかった以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2]
Snの添加量を0.007質量%としてジンケート処理後のアルミニウム基材のSnの含有割合を0.002質量%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3]
Snの添加量を15質量%としてジンケート処理後のアルミニウム基材のSnの含有割合を13.5質量%とした以外は実施例1と同様にしてアルミニウム積層体を得て、表面性状の評価および接合強度を測定した。その結果を表1に示す
【0056】
【表1】
【0057】
上述の通り、実施例1~8のアルミニウム積層体は、一回のジンケート処理により緻密なジンケート層が得られ、そしてNiめっき後のはんだ接合強度も高い値を示すことから、アルミニウム基材との高い密着性を有するジンケート層が得られることが判った。一方、これに対して比較例1~3のアルミニウム積層体は、一回のジンケート処理では緻密なジンケート層が得られず、その結果、接合強度も極端に低く、はんだ接合(濡れ)自体もできないことが判った。
【0058】
次に、本実施形態のアルミニウム積層体にNiめっきを施したものが、ダブルジンケート処理したものと同等の半田接合性を発現するか否かを確認した。
【0059】
[実施例9]
実施例1で得られたアルミニウム積層体にNiめっきを施し、このNiめっきに更にAuめっきを施した。実施例1と同様にして接合強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0060】
[実施例10]
実施例1で得られたアルミニウム積層体にNiめっきを施し、このNiめっきに更にSnめっきを施した。実施例1と同様にして接合強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0061】
[参考例1]
実施例1で得られたアルミニウム積層体に、ジンケート層を硝酸で剥離させた後、実施例1のジンケート処理を再び繰り返し、これにNiめっきを施した。実施例1と同様にして接合強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0062】
[参考例2]
実施例1で得られたアルミニウム積層体に、ジンケート層を硝酸で剥離させた後、実施例1のジンケート処理を再び繰り返し、これにNiめっきを施し、更にAuめっきを施した。実施例1と同様にして接合強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0063】
[参考例3]
実施例1で得られたアルミニウム積層体に、ジンケート層を硝酸で剥離させた後、実施例1のジンケート処理を再び繰り返し、これにNiめっきを施し、更にSnめっきを施した。実施例1と同様にして接合強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0064】
[参考例4]
市販の銅箔(厚さ35μm)を実施例1と同等の大きさにカットし、実施例1と同様にして接合強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2から理解されるように、本実施形態のアルミニウム積層体は、前処理をせず且つシングルジンケート処理のみにより形成させたジンケート層でも、ダブルジンケート処理したものや銅箔と同等以上のはんだ接合強度があることが判った。すなわち、本発明のアルミニウム積層体およびその製造方法によれば、必ずしもダブルジンケート処理を必要とせず、或いはシングルジンケート処理を行うとしても必ずしもその前処理を必要とすることなく、ダブルジンケート処理により得られるアルミニウム基材とジンケート層との密着性と同等以上の高い密着性を有するアルミニウム積層体を提供することができる。
図1
図2