IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許-無灰炭の製造方法 図1
  • 特許-無灰炭の製造方法 図2
  • 特許-無灰炭の製造方法 図3
  • 特許-無灰炭の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】無灰炭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/00 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
C10L5/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020205199
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092397
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】堺 康爾
(72)【発明者】
【氏名】小堀 竜一
(72)【発明者】
【氏名】奥山 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 隆一
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002924(JP,A)
【文献】特開2015-074723(JP,A)
【文献】特開2019-077816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭、溶剤及びギ酸の混合によりスラリーを調製するスラリー調製工程と、
上記スラリー調製工程で調製されたスラリーの昇温により、上記溶剤に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程と、
上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程と、
上記分離工程で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程と
を備える無灰炭の製造方法。
【請求項2】
上記スラリー調製工程における上記石炭と上記ギ酸との混合温度が80℃以下である請求項1に記載の無灰炭の製造方法。
【請求項3】
上記スラリー調製工程で調製されるスラリーにおける上記ギ酸の含有量が、上記石炭及び上記ギ酸の合計含有量に対して6質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の無灰炭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無灰炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉用コークス等の製鉄用コークスとして、高強度のコークスが使用されている。高強度のコークスを得る場合、原料石炭としては、従来粘結性の高いいわゆる強粘結炭が使用されている。しかしながら、強粘結炭は比較的高価であるため、今日では、強粘結炭の使用量を少なくする技術が検討されている。
【0003】
強粘結炭の使用量を抑制しつつ、高強度のコークスを得ることができる原料炭として、無灰炭を使用する試みがなされている。例えば特許文献1には、無灰炭を粘結材として使用し、この無灰炭を一般炭と混合した混合炭をコークス原料として使用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-193740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製し、このスラリーから溶剤に可溶な石炭成分を含む溶液を分離したうえで、この溶液から溶剤を蒸発させることで無灰炭を製造することが記載されている。
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、上記公報に記載されている無灰炭の製造方法については、石炭の溶剤可溶成分の抽出率を向上する観点で、さらなる改良の余地があることが分かった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、石炭の溶剤可溶成分の抽出率を向上することが可能な無灰炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る無灰炭の製造方法は、石炭、溶剤及びギ酸の混合によりスラリーを調製するスラリー調製工程と、上記スラリー調製工程で調製されたスラリーの昇温により、上記溶剤に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程と、上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程と、上記分離工程で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程とを備える。
【0009】
当該無灰炭の製造方法は、上記スラリー調製工程で、石炭、溶剤及びギ酸を混合したうえで、上記溶出工程でこのスラリーを昇温することによって、石炭の溶剤可溶成分の抽出率を向上することができる。より詳しく説明すると、石炭は300℃以上に昇温するとラジカル(石炭ラジカル)を生じるが、この石炭ラジカルが存在していると、上記溶出工程で石炭が重縮合して高分子化するため、溶剤可溶成分の抽出率が不十分となる。これに対し、当該無灰炭の製造方法は、石炭とギ酸とを混合した後にスラリーを昇温することで、石炭ラジカルを安定化することができる。その結果、石炭ラジカルに起因する石炭の重縮合を抑制し、石炭の溶剤可溶成分の抽出率を向上することができる。
【0010】
上記スラリー調製工程における上記石炭と上記ギ酸との混合温度としては、80℃以下が好ましい。このように、上記スラリー調製工程における上記石炭と上記ギ酸との混合温度が上記上限以下であることによって、上記石炭の溶剤可溶成分の抽出率を容易かつ確実に向上することができる。
【0011】
上記スラリー調製工程で調製されるスラリーにおける上記ギ酸の含有量が、上記石炭及び上記ギ酸の合計含有量に対して6質量%以下であるとよい。このように、上記ギ酸の含有量が上記上限以下であることによって、低コストでかつ効率的に無灰炭を製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明の一態様に係る無灰炭の製造方法は、石炭の溶剤可溶成分の抽出率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る無灰炭の製造方法を示すフロー図である。
図2図2は、図1の無灰炭の製造方法を実施可能な無灰炭の製造装置を示す模式図である。
図3図3は、No.1からNo.9の瀝青炭を用いたスラリーにおけるギ酸の含有量と石炭の溶剤可溶成分の抽出率との関係を示すグラフである。
図4図4は、No.10からNo.12の瀝青炭を用いたスラリーにおけるギ酸の含有量と石炭の溶剤可溶成分の抽出率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載の数値については、記載された上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な上限値から下限値までの数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0015】
[無灰炭の製造方法]
図1の無灰炭の製造方法(以下、「当該製造方法」ともいう。)は、石炭、溶剤及びギ酸の混合によりスラリーを調製するスラリー調製工程S1と、スラリー調製工程S1で調製されたスラリーの昇温により、上記溶剤に上記石炭の溶剤可溶成分を溶出させる溶出工程S2と、上記溶剤可溶成分が上記溶剤に溶出した溶液を上記スラリーから分離する分離工程S3と、分離工程S3で分離された上記溶液から上記溶剤を蒸発させる蒸発工程S4とを備える。蒸発工程S4では、上記溶剤を蒸発させることで、上記溶剤可溶成分を析出させる。この析出した溶剤可溶成分が、当該製造方法によって製造される無灰炭を構成する。なお、本発明において、「スラリー調製工程で調製されたスラリーを昇温する」とは、石炭とギ酸とを混合した後に、石炭とギ酸との混合物を昇温することを意味しており、溶剤の昇温時期を限定するものではない。
【0016】
まず、図2を参照して、当該製造方法を実施可能な無灰炭の製造装置(以下、「当該製造装置」ともいう。)の一例について説明する。
【0017】
[無灰炭の製造装置]
当該製造装置は、石炭X、溶剤Y及びギ酸Fを混合するスラリー調製部1と、スラリー調製部1で調製されたスラリーSの昇温により、溶剤Yに石炭Xの溶剤可溶成分を溶出させる溶出部2と、上記溶剤可溶成分が溶剤Yに溶出した溶液LをスラリーSから分離する分離部3と、分離部3で分離された溶液Lから溶剤YR1を蒸発させる蒸発部(第1蒸発部4)とを備える。分離部3は、スラリーSを、溶液Lと溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液Mとに固液分離する。第1蒸発部4は、溶剤YR1の蒸発によって上記溶剤可溶成分を析出させる。この析出した溶剤可溶成分が、当該製造装置によって製造される無灰炭HPCを構成する。また、当該製造装置は、第1蒸発部4で蒸発した溶剤YR1を回収する第1回収ライン5と、分離部3で分離された固形分濃縮液Mからこの固形分濃縮液Mに含まれている溶剤YR2を回収する第2回収ライン6と、第1回収ライン5及び第2回収ライン6の一方又は両方で回収された溶剤をスラリー調製部1で再利用するための再利用ライン7とを備える。
【0018】
<スラリー調製部>
スラリー調製部1は、石炭Xを供給可能な石炭供給部11と、ギ酸Fを供給可能なギ酸供給部12と、石炭Xとギ酸Fとが混合される混合槽13と、溶剤Yが貯留される溶剤タンク14と、溶剤タンク14に貯留されている溶剤Yを圧送するポンプ15と、ポンプ15によって圧送される溶剤Yを加熱する予熱器16と、混合槽13から送られる石炭X及びギ酸Fと、溶剤タンク14から送られる溶剤Yとを混合する混合管17とを含む。石炭供給部11と混合槽13、ギ酸供給部12と混合槽13、混合槽13と混合管17、溶剤タンク14と混合管17は、それぞれ配管で接続されている。
【0019】
(石炭供給部)
石炭供給部11としては、例えば常圧ホッパー又は加圧ホッパー等の公知のホッパーを用いることができる。
【0020】
〔石炭〕
石炭Xの種類としては、特に限定されるものではなく、瀝青炭、又は瀝青炭よりも安価な劣質炭(例えば亜瀝青炭又は褐炭)等が挙げられる。中でも石炭Xとして瀝青炭を用いることで、無灰炭HPCの製造効率をより高めることができる。石炭Xの粒度としては、特に限定されるものではないが、細かく粉砕されたもの、例えば粒度が1mm以下のものが好適に用いられる。また、石炭Xとしては、塊炭を用いることもできる。塊炭は、粒度が大きいため、分離部3における分離の効率化を図ることができる。なお、「塊炭」とは、石炭全体の質量に対する粒度5mm以上の石炭の質量割合が50%以上の石炭を意味する。また、「粒度(粒径)」とは、JIS-Z8815(1994)のふるい分け試験通則に準拠して測定した値を意味する。石炭のふるい分けには、例えばJIS-Z8801-1(2019)に規定する金属製網ふるいを用いることができる。
【0021】
また、石炭Xとしては、最高流動度が1000ddpm未満の低流動度炭を用いることも好ましい。石炭Xとして、上記低流動度炭を用いることで、無灰炭の製造効率を維持しつつ、無灰炭の製造コストを削減することができる。
【0022】
(ギ酸供給部)
ギ酸供給部12としては、例えば公知の耐圧容器を用いることができきる。ギ酸Fは、石炭Xの昇温によって生じる石炭ラジカルを安定化できるようにギ酸供給部12から供給される。ギ酸Fは、ギ酸水溶液又はギ酸化合物の態様でギ酸供給部12から供給されてもよい。
【0023】
(混合槽)
混合槽13は、石炭供給部11から供給される石炭Xとギ酸供給部12から供給されるギ酸Fとを混合可能に構成されている。混合槽13では、石炭Xと液体状態のギ酸Fとを混合する。石炭Xとギ酸Fとの混合温度の上限としては、80℃が好ましく、60℃がより好ましい。上記混合温度が上記上限を超えると、ギ酸Fの揮発量が多くなり、後述の溶出槽18において溶剤Yに石炭Xの溶剤可溶成分を十分に溶出させ難くなるおそれがある。一方、上記混合温度の下限としては、20℃が好ましく、25℃がより好ましい。上記混合温度が上記下限に満たないと、ギ酸Fの粘度が大きくなることで、ハンドリング性が低下するおそれがある。
【0024】
混合槽13における混合後のギ酸Fの含有量(石炭X及びギ酸Fの合計含有量に対する含有量)の上限としては、6質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。ギ酸Fの含有量が上記上限を超えると、無灰炭HPCの製造コストが高くなるおそれがある。一方、ギ酸Fの含有量の下限としては、特に限定されないが、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率を十分に大きくする観点から、例えば0.2質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。
【0025】
(溶剤タンク)
溶剤タンク14には、溶剤Yが貯留される。溶剤タンク14は、後述する再利用ライン7から送られた溶剤Yが還流するように構成されていてもよい。この構成によると、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率を大きくし、無灰炭HPCの製造効率を高めやすい。
【0026】
〔溶剤〕
溶剤Yとしては、石炭Xの溶剤可溶成分を溶出可能なものであれば特に限定されないが、例えば石炭由来の二環芳香族化合物が好適に用いられる。この二環芳香族化合物は、基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い溶出率を得ることができる。石炭由来の二環芳香族化合物としては、例えば石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、又はナフタレン油等を挙げることができる。
【0027】
溶剤Yの沸点は、特に限定されないが、例えば溶剤Yの沸点の下限としては、180℃が好ましく、230℃がより好ましい。一方、溶剤Yの沸点の上限としては、300℃が好ましく、280℃がより好ましい。溶剤Yの沸点が上記下限未満であると、溶剤Yが揮発しやすくなるため、スラリーSにおける各成分の混合比の調整及び維持が困難となるおそれがある。逆に、溶剤Yの沸点が上記上限を超えると、第1蒸発部4で、石炭Xの溶剤可溶成分と溶剤Yとを分離し難くなるおそれがある。
【0028】
(ポンプ)
ポンプ15は溶剤タンク14と混合管17とを接続する配管に配置されている。ポンプ15の種類としては、溶剤タンク14に貯留されている溶剤Yを圧送できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば容積型ポンプ及び非容積型ポンプが挙げられる。上記容積型ポンプとしては、例えばダイヤフラムポンプ及びチューブフラムポンプが挙げられる。上記非容積型ポンプとしは、例えば渦巻ポンプが挙げられる。
【0029】
(予熱器)
予熱器16は、溶剤Yを加熱できるものであればその具体的な構成は特に限定されるものではない。予熱器16としては、例えば抵抗加熱式ヒーター及び誘導加熱コイルが挙げられる。また、予熱器16としては、熱媒を用いて加熱するものを用いることも可能である。
【0030】
予熱器16による加熱後(予熱後)の溶剤Yの温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、溶剤Yの温度の上限としては、480℃が好ましく、450℃がより好ましい。溶剤Yの温度が上記下限未満であると、石炭Xを構成する分子間の結合を十分に弱められず、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率が不十分となるおそれがある。逆に、溶剤Yの温度が上記上限を超えると、溶剤Yの温度を維持するための熱量が不必要に大きくなるため、無灰炭HPCの製造コストが増大するおそれがある。
【0031】
(混合管)
混合管17は、混合槽13から送られる石炭X及びギ酸Fと、溶剤タンク14から送られる溶剤Yとを混合することでスラリーSを調製する。
【0032】
スラリーS中の無水炭基準での石炭濃度の下限としては、5質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。一方、上記石炭濃度の上限としては、40質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記石炭濃度が上記下限未満であると、後述する溶出槽18における石炭Xの溶剤可溶成分の溶出量がスラリーSの処理量に対して少なくなるため、無灰炭HPCの製造効率が低下するおそれがある。逆に、上記石炭濃度が上記上限を超えると、溶剤Y中で石炭Xの溶剤可溶成分が飽和することで、上記溶剤可溶成分の溶出率が低下するおそれがある。
【0033】
<溶出部>
溶出部2は、混合管17と、混合管17の下流側に接続されている溶出槽18とを含む。
【0034】
(溶出槽)
溶出槽18は、攪拌機18a及びヒーター(不図示)を有する。溶出槽18には、混合管17内で混合されたスラリーSが送られる。より詳しくは、溶出槽18には、予熱器16で加熱された溶剤Yと、溶剤Yとの混合によって急速昇温された石炭X及びギ酸Fとを含むスラリーSが送られる。なお、「急速昇温」とは、例えば10℃/秒以上500℃/秒以下程度の加熱速度で加熱されることをいう。この急速昇温後のスラリーSの温度は、例えば350℃以上420℃以下程度である。
【0035】
溶出槽18は、混合管17から送られたスラリーSの温度をヒーターによって維持しながら攪拌機18aによってスラリーSを攪拌する。これにより、溶出槽18は、溶剤Yに石炭Xの溶剤可溶成分を溶出させる。
【0036】
当該製造装置では、石炭Xと液体状態のギ酸Fとが混合された後、この石炭X及びギ酸Fの混合物が溶剤Yと混合されることで昇温される。石炭Xは、溶剤Yと混合されて300℃以上に昇温されることで石炭ラジカルを生じるが、昇温の際にギ酸Fが存在していることで石炭ラジカルを安定化することができる。その結果、石炭ラジカルに起因する石炭Xの重縮合を抑制し、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率を向上することができる。
【0037】
溶出槽18の内部圧力の下限としては、1.1MPaが好ましく、1.5MPaがより好ましい。一方、溶出槽18の内部圧力の上限としては、5MPaが好ましく、4MPaがより好ましい。溶出槽18の内部圧力が上記下限未満であると、蒸発によって溶剤Yが減少することで石炭Xの溶剤可溶成分の溶出量が不十分となるおそれがある。逆に、上記内部圧力が上記上限を超えると、圧力を維持するためのコストの上昇に対して上記溶剤可溶成分の溶出量の増大効果が十分に得られないおそれがある。
【0038】
なお、溶出槽18における攪拌時間としては、特に限定されないが、上記溶剤可溶成分の溶出効率の観点から10分以上70分以下とすることができる。
【0039】
<分離部>
分離部3は、溶出槽18と配管によって接続されている。分離部3は、溶出槽18から送られたスラリーSを、遠心分離法又は重力沈降法等を用いて、上記溶剤可溶成分が溶剤Yに溶出した溶液Lと溶剤不溶成分及び溶剤Yを含む固形分濃縮液Mとに固液分離する。
【0040】
分離部3における固液分離方法としては、沈降速度を高めて分離効率を向上できる重力沈降法が好ましい。また、重力沈降法は、スラリーSを連続処理できる観点からも好ましい。スラリーSを重力沈降法により分離する場合、上記溶剤可溶成分を含む溶液Lは分離部3の上部に溜まる。この溶液Lは必要に応じてフィルターユニットを用いて濾過した後、第1蒸発部4に排出される。一方、上記溶剤不溶成分を含む固形分濃縮液Mは、分離部3の下部に溜まり、後述する第2蒸発部19に排出される。
【0041】
分離部3内は、加熱及び加圧されていることが好ましい。分離部3内の加熱温度の下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましい。一方、分離部3内の加熱温度の上限としては、420℃が好ましく、400℃がより好ましい。上記加熱温度が上記下限未満であると、上記溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記加熱温度が上記上限を超えると、加熱のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0042】
分離部3の内部圧力の下限としては、1MPaが好ましく、1.4MPaがより好ましい。一方、上記内部圧力の上限としては、3MPaが好ましく、2MPaがより好ましい。上記内部圧力が上記下限未満であると、上記溶剤可溶成分が再析出し、分離効率が低下するおそれがある。逆に、上記内部圧力が上記上限を超えると、加圧のための運転コストが高くなるおそれがある。
【0043】
<第1蒸発部>
第1蒸発部4は、分離部3で分離した溶液Lから溶剤YR1を蒸発させる。第1蒸発部4は、溶剤YR1の蒸発によって溶剤可溶成分を無灰炭HPCとして析出させる。第1蒸発部4で析出した無灰炭HPCは、例えばコークスの原料石炭よりも高い発熱量を示す。さらにこの無灰炭HPCは、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、例えば原料石炭よりも遥かに優れた流動性を示す。そのため、この無灰炭HPCは、コークス原料に配合する原料炭として好適に用いられる。
【0044】
第1蒸発部4は、例えば蒸発分離器を用いた一般的な蒸留法によって溶剤YR1を蒸発させるよう構成されてもよく、スプレードライ法等の蒸発法によって溶剤YR1を蒸発させるよう構成されてもよい。
【0045】
<第1回収ライン>
第1回収ライン5は、第1蒸発部4で蒸発した溶剤YR1を回収し、再利用ライン7に送る。第1回収ライン5は、第1蒸発部4で蒸発した溶剤YR1を液化するための熱交換器(不図示)を有していてもよい。
【0046】
<第2回収ライン>
第2回収ライン6は、分離部3で分離した固形分濃縮液Mが供給される第2蒸発部19と、第2蒸発部19と再利用ライン7とを接続する溶剤排出管20とを含む。第2蒸発部19は、固形分濃縮液Mから溶剤YR2を蒸発させて副生炭RCを得る。第2蒸発部19は、例えば蒸発分離器を用いた一般的な蒸留法によって溶剤YR2を蒸発させるよう構成されてもよく、スプレードライ法等の蒸発法によって溶剤YR2を蒸発させるよう構成されてもよい。溶剤排出管20は、第2蒸発部19で蒸発した溶剤YR2を回収し、再利用ライン7に送る。溶剤排出管20には、第2蒸発部19で蒸発した溶剤YR2を液化するための熱交換器(不図示)が配置されていてもよい。
【0047】
<再利用ライン>
再利用ライン7は、第1回収ライン5から送られた溶剤YR1及び第2回収ライン6から送られた溶剤YR2を溶剤タンク14に還流させる。なお、再利用ライン7は、第1回収ライン5から送られた溶剤YR1及び第2回収ライン6から送られた溶剤YR2の一方のみを溶剤タンク14に還流させるように構成されていてもよい。また、再利用ライン7は、第1回収ライン5から送られた溶剤YR1及び第2回収ライン6から送られた溶剤YR2の両方又はいずれか一方に分留処理を施したうえで、分留後の溶剤を溶剤タンク14に還流するように構成されていてもよい。
【0048】
当該製造装置は、スラリー調製部1で石炭X、溶剤Y及びギ酸Fを混合したうえで、溶出部2でこのスラリーSを昇温することによって、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率を向上することができる。
【0049】
続いて、図2の製造装置を使用した場合を例にして、当該製造方法の各工程について詳説する。
【0050】
<スラリー調製工程>
スラリー調製工程S1はスラリー調製部1で行う。スラリー調製工程S1では、まず、石炭供給部11から供給された石炭Xとギ酸供給部12から供給されたギ酸Fとを混合槽13で混合する。
【0051】
スラリー調製工程S1における石炭Xとギ酸Fとの混合温度の上限としては、80℃が好ましく、60℃がより好ましい。上記混合温度が上記上限を超えると、ギ酸Fの揮発量が多くなり、石炭Xの昇温によって生じる石炭ラジカルを十分に安定化することができないおそれがある。一方、上記混合温度の下限としては、20℃が好ましく、25℃がより好ましい。上記混合温度が上記下限に満たないと、ギ酸Fの粘度が大きくなることで、ハンドリング性が低下するおそれがある。
【0052】
続いて、スラリー調製工程S1では、混合槽13で混合された石炭X及びギ酸Fを、溶剤タンク14から供給され、予熱器16で加熱された溶剤Yと混合する。すなわち、スラリー調製工程S1では、石炭Xとギ酸Fとの混合、及びこの混合物と溶剤Yとの混合の2段階の混合によってスラリーSを調製する。
【0053】
スラリー調製工程S1で調製されるスラリーSにおけるギ酸Fの含有量の上限としては、石炭X及びギ酸Fの合計含有量に対して6質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。ギ酸Fの含有量が上記上限を超えると、無灰炭HPCの製造コストが高くなるおそれがある。一方、ギ酸Fの含有量の下限としては、特に限定されないが、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率を十分に大きくする観点から、例えば0.2質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。
【0054】
<溶出工程>
溶出工程S2は溶出部2で行う。溶出工程S2では、混合管17内でスラリーSを昇温した後、溶出槽18で、スラリーSの温度を維持しつつスラリーSを攪拌する。溶出工程S2では、スラリーSの昇温及び攪拌によって、溶剤Yに石炭Xの溶剤可溶成分を溶出させる。溶出工程S2における昇温後のスラリーSの温度としては、350℃以上420℃以下程度とすることができる。
【0055】
当該製造方法では、スラリー調製工程S1で石炭Xと液体状態のギ酸Fとが混合された後に、溶出工程S2でこのスラリーSを300℃以上に昇温する。石炭Xは、300℃以上に昇温されると石炭ラジカルを生じるが、昇温の際にギ酸Fが存在していることで石炭ラジカルを安定化することができる。具体的には、下記式1に表される反応によって水素及び電子が石炭Xに供給されることで、石炭ラジカルを安定化させることができる。その結果、石炭ラジカルに起因する石炭Xの重縮合を抑制し、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率を向上することができる。
HCOOH→CO+2H+2e ・・・1
【0056】
溶出工程S2における溶出槽18の内部圧力及び攪拌時間としては、当該製造装置の溶出槽18において説明した通りとすることができる。
【0057】
<分離工程>
分離工程S3は分離部3で行う。分離工程S3では、溶出工程S2によって処理されたスラリーSを、遠心分離法又は重力沈降法等を用いて、溶剤可溶成分が溶剤Yに溶出した溶液Lと溶剤不溶成分及び溶剤Yを含む固形分濃縮液Mとに固液分離する。
【0058】
分離工程S3における分離部3内の加熱温度及び分離部3の内部圧力としては、当該製造装置の分離部3において説明した通りとすることができる。
【0059】
<蒸発工程>
蒸発工程S4は第1蒸発部4で行う。蒸発工程S4では、分離工程S3で分離された溶液Lから溶剤YR1を蒸発させ、溶剤可溶成分を無灰炭HPCとして析出させる。蒸発工程S4によって得られた無灰炭HPCは、コークス原料に配合する原料炭として好適に用いられる。
【0060】
なお、上述の各工程の他、当該製造方法は、蒸発工程S4で蒸発した溶剤YR1を回収する第1回収工程と、分離工程S3で分離された固形分濃縮液Mからこの固形分濃縮液Mに含まれている溶剤YR2を回収する第2回収工程と、上記第1回収工程及び上記第2回収工程の一方又は両方で回収された溶剤をスラリー調製工程S1で再利用させる再利用工程とを備えている。以下、上記第1回収工程、上記第2回収工程及び上記再利用工程の具体的な手順の一例について説明する。
【0061】
<第1回収工程>
上記第1回収工程は第1回収ライン5で行う。上記第1回収工程では、蒸発工程S4で蒸発した溶剤YR1を回収し、再利用ライン7に送る。上記第1回収工程では、溶剤YR1を液化したうえで再利用ライン7に送ってもよい。
【0062】
<第2回収工程>
上記第2回収工程は第2回収ライン6で行う。上記第2回収工程では、分離工程S3で分離された固形分濃縮液Mから溶剤YR2を蒸発させて副生炭RCを得る。上記第2回収工程では、蒸発によって副生炭RCから分離された溶剤YR2を回収し、再利用ライン7に送る。上記第2回収工程では、溶剤YR2を液化したうえで再利用ライン7に送ってもよい。
【0063】
<再利用工程>
上記再利用工程は再利用ライン7で行う。上記再利用工程では、上記第1回収工程で回収された溶剤YR1及び上記第2回収工程で回収された溶剤YR2を溶剤タンク14に還流させる。溶剤タンク14に還流した溶剤Yは、スラリー調製工程S1で溶剤Yの一部として再利用される。なお、上記再利用工程では、上記第1回収工程で回収された溶剤YR1及び上記第2回収工程で回収された溶剤YR2の一方のみを溶剤タンク14に還流させてもよい。また、上記再利用工程では、上記第1回収工程で回収された溶剤YR1及び上記第2回収工程で回収された溶剤YR2の両方又はいずれか一方に分留処理を施したうえで、分留後の溶剤Yを溶剤タンク14に還流させてもよい。
【0064】
<利点>
当該製造方法は、スラリー調製工程S1で石炭X、溶剤Y及びギ酸Fを混合したうえで、溶出工程S2でこのスラリーSを昇温することによって、石炭Xの溶剤可溶成分の抽出率を向上することができる。そのため、当該製造方法によると、無灰炭HPCの製造効率を高めることができる。
【0065】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0066】
例えば当該製造方法は、上述の第1回収工程、第2回収工程及び再利用工程を備えていなくてもよい。この場合、当該製造装置は、上述の第1回収ライン、第2回収ライン及び再利用ラインを備えていなくてもよい。また、当該製造方法が、第1回収工程及び第2回収工程のうちの一方のみを備えている場合、当該製造装置は、第1回収工程に対応する第1回収ライン及び第2回収工程に対応する第2回収ラインのいずれか一方を備えていればよい。
【0067】
上記スラリー調製工程では、石炭、溶剤及びギ酸を同時に混合してもよい。この場合、例えば石炭、溶剤及びギ酸の混合後にスラリーを昇温すればよい。
【実施例
【0068】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0069】
目開き1.0mmの篩を通過した粒子径1.0mm以下のNo.1からNo.12の瀝青炭をそれぞれ石炭として用い、溶剤として工業用の二環芳香族化合物である1-メチルナフタレンを用いて、石炭40gに対して溶剤240gを混合した。次に、この混合物に常温でギ酸を混合してスラリーを調製した。上述の手順で調製されたスラリーを、ステンレスフィルタを有する容量500ccのオートクレーブに投入し、2.0MPaの圧力条件で380℃に昇温した。さらに、温度を380℃に維持しつつ回転数600rpmで40分間攪拌し、溶剤に石炭の溶剤可溶成分を溶出させた。この攪拌の後、そのままの温度で急速濾過することで、溶剤可溶成分が溶剤に溶出した溶液をスラリーから分離した。上記溶液の分離後に残った固形分濃縮液をアセトンで洗浄したうえ、乾燥させて、廬残(溶剤不溶成分)の重量を測定した。スラリー調製前の石炭の重量と廬残の重量とを用いて、石炭の溶剤可溶成分の抽出率を算出した。No.1からNo.9の瀝青炭を用いたスラリーにおけるギ酸の含有量[質量%](石炭とギ酸との合計含有量に対するギ酸の含有量)と溶剤可溶成分の抽出率[質量%]との関係を図3に、No.10からNo.12の瀝青炭を用いたスラリーにおけるギ酸の含有量[質量%](石炭とギ酸との合計含有量に対するギ酸の含有量)と溶剤可溶成分の抽出率[質量%]との関係を図4に示す。
【0070】
図3及び図4に示すように、No.1からNo.12のいずれについても、スラリーにギ酸を含有させることで溶剤可溶成分の抽出率が大きくなっている。また、No.1からNo.12のいずれについても、ギ酸の含有量を0質量%から6質量%の間で増加することで、ギ酸の含有量の増加に対応して溶剤可溶成分の抽出率が総体的に増加している。このことから、石炭にギ酸を混合してスラリーを調製したうえで、このスラリーを昇温させることで、溶剤可溶成分の抽出率を向上できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明の一態様に係る無灰炭の製造方法は、石炭の溶剤可溶成分の抽出率を高めることができるので、無灰炭を効率的に製造するのに適している。
【符号の説明】
【0072】
1 スラリー調製部
2 溶出部
3 分離部
4 第1蒸発部
5 第1回収ライン
6 第2回収ライン
7 再利用ライン
11 石炭供給部
12 ギ酸供給部
13 混合槽
14 溶剤タンク
15 ポンプ
16 予熱器
17 混合管
18 溶出槽
18a 攪拌機
19 第2蒸発部
20 溶剤排出管
F ギ酸
L 溶液
M 固形分濃縮液
S スラリー
X 石炭
Y、Y、YR1、YR2 溶剤
HPC 無灰炭
RC 副生炭
図1
図2
図3
図4