(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】がん治療に使用するためのポリ(アルキルシアノアクリレート)ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 31/337 20060101AFI20230721BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230721BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230721BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20230721BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230721BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20230721BHJP
【FI】
A61K31/337
A61P35/00
A61K9/14
A61K9/51
A61K47/32
B82Y5/00
(21)【出願番号】P 2020552260
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2019057678
(87)【国際公開番号】W WO2019185685
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-25
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】514187224
【氏名又は名称】シンテフ ティーティーオー エイエス
(73)【特許権者】
【識別番号】517258833
【氏名又は名称】オスロ ウニヴェルスィテーツスィーケフース ホーエフ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モルク, イール
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, ルス
(72)【発明者】
【氏名】スルハイム, アイナル
(72)【発明者】
【氏名】ステンスタッド, ペール
(72)【発明者】
【氏名】ヨンセン, ハイディ
(72)【発明者】
【氏名】サンドヴィグ, キルステン
(72)【発明者】
【氏名】メランズモ, グンヒルド
(72)【発明者】
【氏名】スコットランド, トーレ
(72)【発明者】
【氏名】フラットマルク, シャスティ
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-520606(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107115532(CN,A)
【文献】特表2009-541462(JP,A)
【文献】Bulg. J. Chem.,2012年,Vol. 1, No. 2,pp. 61-73
【文献】Ultrasound in Med. & Biol.,2017年,Vol. 43, No. 11,pp. 2651-2669
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん治療に使用するための、カバジタキセル(CBZ)またはその薬学的に許容される塩が負荷されているPEG化ポリ(アルキルシアノアクリレート)(PACA)ナノ粒子(NP)を含む薬物送達システムであって、前記CBZ
が前記NPの5~20重量%を構成し、前記薬物送達システムが、NP安定化マイクロバブル(MB)を含まないことを条件とする、薬物送達システム。
【請求項2】
前記PACA NPが、ミニエマルションアニオン重合プロセスに従って生成される、請求項1に記載の薬物送達システム。
【請求項3】
前記NPが、さらに標的化部分によって表面修飾されている、請求項1または2のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項4】
前記PACA NPが、1~800n
mである、請求項1~3のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項5】
前記PACA NPが、10~500nm、または70~150nmから選択される範囲である、請求項4に記載の薬物送達システム。
【請求項6】
前記薬物送達システムが、非経口投与される、請求項1~
5のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項7】
前記薬物送達システムが、血中に投与される、請求項1~
6のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項8】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項1~
7のいずれかに記載の薬物送達システム。
【請求項9】
前記がんが、血管相の腫瘍である、請求項1~
8のいずれかに記載の薬物送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子および医療用途の分野に関する。具体的には、がん治療に使用するためのポリ(アルキルシアノアクリレート)ナノ粒子内にカプセル化されている活性成分に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品におけるナノテクノロジーの使用は、多くの心躍る可能性を提供し、多くの医療用途における潜在性が予見される。具体的には、ナノ医薬品は複雑な疾患の治療に大きな改善をもたらすと予想されている。ナノ粒子の使用が特定の価値を実証し始めている2つの領域は、薬物送達および分子イメージングである。
【0003】
ポリ(アルキルシアノアクリレート)(PACA)は、最初に外科用接着剤として開発および承認された。PACAナノ粒子(NP)は、生分解性であり、高い薬物負荷容量を可能にする薬物担体としての有望な能力を後に実証した。
【0004】
WO2014/191502A1は、PACAホモポリマーまたはコポリマーのステルスNPを調製するための、水中油型ミニエマルションのアニオン重合を含むワンステップ重合プロセスを開示している。開示されているように、ミニエマルションを特定の部類のポリアルキレングリコール誘導体と組み合わせて利用することによって、ポリアルキレングリコールに標的化部分を共有結合させることが可能であり、それによって、標的化基の導入およびステルスコロナの形成を同時に可能にする。ミニエマルションは、活性薬剤を含有することができることが記載されており、療法剤のリストが開示されている。しかしながら、いずれの例も、これらの薬剤のうちのいずれのカプセル化も含まず、インビトロまたはインビボデータのいずれも開示されていない。
【0005】
新しい標的治療オプションおよび免疫療法が開発されているが、依然として化学療法が進行がん患者の主な療法オプションである。しかしながら、ある特定のがんタイプには療法効果が十分ではなく、治療による重篤な副作用も生じる。薬物負荷NPのうちのいくつかの製品が市場に出ており、多くの新しい製品候補が臨床試験中である。がんの薬物送達におけるナノ粒子の使用の課題および機会を含むこれらの態様は、Shiら(2017)およびTorchilin(2014)を含む多数の概説および解説で考察されている。向上した透過性および保持(EPR)(enhanced permeability and retention)効果(Matsumura et Maeda,1986)の恩恵によって効能が改善されることに加えて、NPカプセル化薬物送達は、毒性の低減を実証し得る。Parahbakarら(2013)に記載されているように、市場の薬物負荷NPの主な利点は、遊離薬物よりも副作用が少なく、ある程度同様の療法効能を有することである。
【0006】
Snipstadら(2017)では、マイクロバブル(MB)および超音波と組み合わせたPEG化PEBCA NPの医学用途が開示されている。記載の薬物送達システムは、高分子ナノ粒子(NPMB)によって安定化されたマイクロバブルからなり、これは、超音波が媒介する薬物送達を可能にする。NPは、ミニエマルション重合によって合成される。トリプルネガティブヒト乳腺がん腫細胞MDA-MB-231における、カバジタキセル(CBZ)を含有するNPおよびこれらのNPのインビトロ毒性が開示されている。Snipstadら(2017)に開示されている薬物送達システムのインビボデータは、局所的な固形腫瘍に対するNP安定化MBによって達成される療法効果、および集束超音波を適用することによって改善された効果がどのように達成されるかを記載している。
【0007】
乳がんは、女性に最も一般的な非皮膚悪性腫瘍であり、がん死亡率では肺がん腫に次いで2番目である。乳がんにはいくつかのタイプがあり、過去10年間で、遺伝子発現プロファイルに基づいて乳がんの分子分類を実施することが可能になっている。ヒト乳房腫瘍の分析によって、独特な遺伝子シグネチャおよび臨床転帰を有する、著しく強力な分子サブタイプが明らかになっている(Toft and Cryns,Mol Endocrinol.2011 Feb;25(2):199-211)。基底様乳がん(BLBC)は、成人の乳腺の基底層または外層の上皮細胞によって発現される遺伝子の強力なクラスターによって定義される、特に攻撃的な分子サブタイプである。これらの腫瘍は若い女性に蔓延しており、多くの場合、急速に再発するため、BLBCは主要な臨床的課題である。加えて、ほとんどの(すべてではない)基底様腫瘍は、ステロイドホルモン受容体(エストロゲン受容体およびプロゲステロン受容体)、ならびにヒト上皮成長因子受容体2の発現が欠如しており、これらの主なトリプルネガティブ乳がんに対する標的療法オプションを制限する。Engebraatenら(2013)に記載されているように、基底様腫瘍には、標的療法は利用可能ではなく、したがって、患者は、改善された化学療法計画から利益を受けるであろう。
【0008】
乳がんに対応するものは、男性では前立腺がんである。これは、男性の間で最も一般的ながんであり、男性の生殖器系の腺である前立腺に発生する。ほとんどの前立腺がんはゆっくりと成長するが、しかしながら一部は比較的急速に成長する。がん細胞は、前立腺から体の他の領域、具体的には骨およびリンパ節に広がる場合がある。前立腺がんは、多くの場合、早期に発見されれば、うまく治療することができる。
【0009】
タキサンは、ヒトのがんにおいて効能が証明されている重要な化学療法剤である。タキサンとしては、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、およびそれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。元来、パクリタキセルは、太平洋イチイの木に由来していた。ドセタキセルは、パクリタキセルの半合成類似体である。Vrignaudら(2013)によって特徴評価されたCBZは、比較的新規の半合成タキサン誘導体である。CBZは、微小管の安定化による強力な細胞増殖抑制効果を有するが、その毒性に起因してその使用は制限されている。CBZは、いくつかのタイプのがんに対する効能を調査するいくつかの臨床試験に含まれている。CBZは、米国食品医薬品局(FDA)によって、ドセタキセル化学療法後の第2選択薬物として難治性前立腺がんの治療用に承認されている。タキサンは、水への可溶性が低いため、医薬品としての配合が困難である。
【0010】
したがって、療法剤を特定の場所に効果的に送達することが可能な新しい薬物送達システムを開発することが望ましく、したがってこれが本発明の目的である。具体的には、より少ない有害な副作用に加えて、効能を実証する薬物送達システムが望ましいであろう。
【0011】
新しい薬物送達システムが疎水性および/または難溶性の療法剤を送達することが可能であれば、さらに望ましい。
最終的には、薬物送達システムが標的療法が利用可能ではない腫瘍の治療に好適であれば、望ましい。
【発明の概要】
【0012】
本発明の第1の態様では、がん治療に使用するための、カバジタキセル(CBZ)またはその薬学的に許容される塩が負荷されているPEG化ポリ(アルキルシアノアクリレート)(PACA)ナノ粒子(NP)を含む、薬物送達システムであって、薬物送達システムが、NP安定化マイクロバブル(MB)を含まないことを条件とする、薬物送達システムが本明細書で提供される。
【0013】
この態様の一実施形態では、薬物送達システムは、MBを安定化するNP、またはガス充填MBを安定化するために使用されるNPを含まない。別の実施形態では、薬物送達システムは、MBに会合しているNPを含まない。なお別の実施形態では、薬物送達システムは、ガス充填MBを含まない。さらなる実施形態では、薬物送達システムは、MBを含まない。
【0014】
さらなる実施形態では、PACA NPは、ミニエマルションアニオン重合プロセスに従って生成される。
別の実施形態では、NPは、標的化部分によってさらに表面修飾されている。
【0015】
第1の態様の異なる実施形態によれば、PACA NPは、1~800nm、または10~500nm、または70~150nmから選択される範囲などの800nm未満である。
【0016】
なお他の実施形態では、CBZは、NPの1~90重量%、優先的にはNPの5~50重量%、より優先的には5~20重量%、または最も優先的にはNPの5~15重量%を構成する。特定の実施形態では、CBZは、NPの6~13重量%、より具体的にはNPの約6、7、8、9、10、11、12、または13重量%を構成する。
【0017】
第1の態様の他の実施形態では、薬物送達システムは、非経口投与され、薬学的に許容される賦形剤をさらに含み得る。
第1の態様のなお別の実施形態では、がんは、血管相の腫瘍である。
【0018】
さらなる実施形態では、腫瘍は、前立腺がん、乳がん、神経膠腫、肺がん、副腎皮質がん腫、精巣がん、尿路移行上皮細胞がん腫、および卵巣がんからなる群から選択されるタイプのがんに属する。なお別の実施形態では、薬物送達システムは、リンパ節を介した転移を防止するためのがんの予防的治療に使用するためのものである。
【0019】
なおさらなる実施形態では、薬物送達システムは、カプセル化薬物の療法効果を向上するための、免疫調節剤および/またはビヒクルとして使用するためのものである。
本発明の第2の態様では、第1の態様による薬物送達システムを、それを必要とする患者に投与することを含む、がんを治療するための方法も提供される。
【0020】
第3の態様では、本発明の第1の態様による薬物送達システムを含む組成物または溶液が提供される。組成物または溶液は、薬学的に許容される賦形剤および希釈剤を含む薬学的配合物であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】MAS98.12効能研究に使用したバッチのサイズ分布。PEBCA-CBZ(表1の215nmの平均zサイズを有するバッチ)のサイズ分布を濃い青色で示し、PEBCA(薬物を含まず、表1の156nmの平均zを有するバッチ)のサイズ分布を薄い青色で示す。Polysorbate80溶液に可溶化した非カプセル化CBZのサイズ分布を赤色で示す。y軸上の強度(%)は、全散乱の強度パーセントを意味する。
【
図2】患者由来のMAS98.12異種移植(PDX)乳房腫瘍モデルを担持するマウスで研究された治療効能および毒性。治療後の腫瘍成長阻害(A)および体重変化(B)。PEBCA-CBZおよびCBZは、赤い矢印で示されている33および36日目に、CBZ2x15mg/体重kgで注射した。空のPEBCA NP(PEBCA-CBZと同じ用量)および生理食塩水を陰性対照として使用した(平均±SEM、n=8~9腫瘍/5~6マウス)。腫瘍サイズは、無作為化時に測定したサイズと相対的である。移植後57日目の触診不可能な腫瘍は、完全寛解として示される。曲線下面積のウェルチt検定の統計的p値を示す(p=0.02)。
【
図3】MAS98.12腫瘍担持マウスで測定した、蛍光色素NR668を含有するPEBCA粒子の生体内分布。全身画像は、NPの静脈内投与の1、4、24、96時間後にIVISを用いて入手し、右側のカラースケールは、ラジアン効率×10
9を示す(A)。単離された臓器のエクスビボ蛍光画像は、注射24時間後に得た(B)。注射24時間後に収集された組織の対象のピクセルデータ領域ごとの、相対放射効率としての蛍光強度の定量化(C)。2匹の動物について得られた平均値、エラーバーは推定SD値を示す。PEBCA-CBZ:CBZおよびNR668を含有するPEBCA、PEBCA:NR668を含有するがCBZは含有しないPEBCA。LN:リンパ節。
【
図4】CBZ15mg/kgを投与後、質量分析法を用いて測定した血漿および臓器のCBZ濃度。時間と相関して測定した血漿濃度(A)。24時間後(B)および96時間後(C)に測定した、腫瘍および臓器のCBZ濃度。LN:リンパ節。示されているデータは、平均値±SD(n=3)である。y軸上ではすべて対数スケールが使用されていることに留意されたい。
【
図5】治療されたMAS98.12腫瘍におけるマクロファージ浸潤。マクロファージ浸潤は、生理食塩水(対照)、PEBCA NP(薬物を含まず)、非カプセル化CBZ、およびPEBCA-CBZの注射96時間後のMAS98.12腫瘍で測定した。(A):CD68に対する抗体を使用して、浸潤したマクロファージの総集団を定量化した。(B):iNOSに対する抗体を使用して、抗腫瘍原性(炎症誘発性)マクロファージの集団を定量化した。(C):CD206に対する抗体を用いて、腫瘍原性誘発性(抗炎症性)マクロファージの集団を定量化した。データは、平均±SEMとして示されている(対照試料ではn=3は、PEBCAではn=4、CBZおよびPEBCA-CBZではn=5)。アスタリスクは、独立2群のパラメトリックt検定によって得られた統計的有意性を示し、p<0.0005を***で印をつけ、p<0.0001を****で印をつけている。
【
図6】MAS98.12 PDXモデルでの治療効能。各バーは、
図2に示されている個々のMAS98.12腫瘍の平均曲線下面積(AUC)を表す。示されているデータは、平均±SEMである(各群でn=9または10の腫瘍)。統計的p値は、示された群を比較する、ウェルチの不等分散t検定を使用して計算されている。
【
図7】MDA-MB-231腫瘍を担持するマウスにおける治療効能。PEBCA-CBZ、非カプセル化CBZ、薬物を含まないPEBCA NP、および生理食塩水の2回の注射後、腫瘍成長阻害を測定した。赤い矢印は、注射の日を示す。PEBCA-CBZおよびCBZは、CBZ2x15mg/kgで注射し、薬物を含有しないPEBCA粒子を2x175mg注射し(PEBCA-CBZ群のNPの量と同様)、体重10gあたり2x0.1mlの生理食塩水を対照として注射した。
【
図8】NR668を含有するPEBCA粒子注射後に得られた単離臓器のエクスビボ蛍光画像。粒子の注射1、4、および96時間後に撮影した臓器の画像を示す(注射24時間後に撮影された画像を
図3に示す)。LN:リンパ節。
【
図9】治療されたMAS98.12腫瘍におけるマクロファージ浸潤の免疫組織化学的染色。マクロファージ浸潤は、生理食塩水(対照)、PEBCA NP(薬物を含まず)、非カプセル化CBZ、およびPEBCA-CBZ(左欄から右欄へ)の、注射96時間後の腫瘍で測定した。(A)抗CD68、(B)抗iNOS、および(C)抗CD206を用いた免疫組織化学的染色。スケールバー:100μm。
【
図10】3つの乳がん細胞株の細胞生存率および細胞増殖として測定した、インビトロ毒性。100nMのCBZを含むPEBCA-CBZは、4.5μg/mlのPEBCA材料を含有し、等量の空のPEBCA NPを比較のために与えた。左欄:MTTアッセイを用いて、インキュベーション72時間後に測定した細胞生存率。右欄:インキュベーション24時間後の[
3H]チミジン取り込みとして測定した、細胞増殖。次の細胞株を使用した:(A):MDA-MB-231、(B):MDA-MB-468、および(C):MCF-7。平均値±SD(n=3)として示されているデータ。
【
図11】Jevtana(登録商標)として配合されたCBZ、PEBCA NP中のCBZ、および対照を用いた、前立腺がん腫瘍モデル(PC3)の治療効果。3つの群の平均腫瘍サイズのプロット。矢印は治療日を示し、エラーバーは標準偏差を示し、***はp>0.001、t検定を示す。定義 「ナノ粒子(NP)」という用語は、本明細書では、800nm未満の直線寸法を有する粒子またはカプセルを説明するために使用される。
【0022】
「PEG化」という用語は、本明細書では、ナノ粒子への、ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー鎖の共有結合および非共有結合の両方、または融合のプロセスを説明するために使用され、これは以後PEG化(ペグ化)と記載される。当業者に既知であろうように、NP表面へのPEGの会合は、NPの周りに水のコロナを作り出すことによって、宿主の免疫系からNPを「隠す」ことができる。これによって、NPに対する免疫原性および抗原性を低減することができ、腎クリアランスの低減によってその循環時間を延長することができる。表面上のPEGの密度に応じて、PEGは、ブラシまたはキノコ構造に分類される。PEG化は、共有結合または非共有結合のいずれかによって、NPの合成中または合成後のいずれかで実施され、PEG化の特性の変動を生じることができる。
【0023】
「標的化部分」という用語は、本明細書では、NPの表面に結合することができ、特定の細胞または生物学的表面への選択的結合を生じることができる、任意の分子を説明するために使用される。
【0024】
「受動的標的化」という用語は、本明細書では、血管の漏れおよびリンパ排液の障害に起因して発生する炎症のある悪性組織における、ナノ粒子の蓄積および/または保持を説明するために使用される。受動的標的化は、NPの表面上の部分を標的化することに依存しない。
【0025】
「能動的標的化」という用語は、本明細書では、標的化部分と細胞表面または生物学的表面との間の特異的相互作用に起因する、特定の細胞または生物学的表面上へのナノ粒子の蓄積および/または保持を説明するために使用される。
【0026】
「向上した透過性および保持(EPR)」効果という用語は、本明細書では、ある特定のサイズの分子(典型的にはリポソーム、ナノ粒子、および巨大分子薬物)が、正常組織におけるよりもはるかに多く腫瘍組織に蓄積される傾向がある現象を説明するために使用される。本明細書に記載のNPは、典型的には、約10~500、好ましくは約70~150nmなどの約1~800nmのサイズのものである。したがって、EPR効果は、本明細書に記載のNPが、選択的に血管外に浸出し、腫瘍に蓄積することを可能にするであろう。
【0027】
「非経口投与」および「非経口投与される」という用語は、当技術分野で認識されている用語であり、注射などの経腸および局所投与以外の投与モードを含み、限定されないが、静脈内、筋肉内、胸膜内、血管内、心膜内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、および胸骨内の注射および注入が挙げられる。
【0028】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、疾患の重症度および治療の必要性に照らして、本明細書に記載の治療を達成するために、系または組成物が、過度に有害な副作用がなく、ヒト患者を含む対象に投与するために好適であることを示す。
【0029】
「療法」、「治療する」、「治療すること」、および「治療」という用語は、疾患のリスクがある、または疾患を患っている患者に利益を提供するあらゆる行為を指すために同義的に使用され、少なくとも1つの症状の軽減、阻害、抑制、または排除を通じた状態の改善、疾患進行の遅延、疾患発症の可能性の予防、遅延、または阻害などを含む。
【0030】
「ナノ粒子が会合しているマイクロバブル」または「マイクロバブルが会合しているナノ粒子」という用語は、本明細書では、ナノ粒子がマイクロバブル界面とどのように相互作用することができるかを説明するために使用される。これに関連して使用される「会合する」という用語は、共有結合、非共有結合、水素結合、イオン結合、または他の任意の表面-表面相互作用などの任意のタイプの化学結合による会合を含む。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、がん治療に使用するための、カバジタキセル(CBZ)が負荷されているPEG化ポリ(アルキルシアノアクリレート)(PACA)ナノ粒子(NP)を含む、薬物送達システムについて説明し、薬物送達システムが、マイクロバブル(MB)を含まないことを条件とする。
【0032】
細胞毒性薬物CBZが負荷されているPACA NPの効果は、いくつかのインビトロおよびインビボ研究で実証されている。本明細書に開示されているように、研究は、3つの乳がん細胞株、免疫不全マウスの乳房脂肪体で成長した患者由来の1つの基底様異種移植モデル、および1つの前立腺がん腫瘍モデルにおける効果の実証を含む。NPカプセル化CBZは、非カプセル化薬物と同様の濃度で同様の、またはそれよりさらに良好な効能を有することが実証されている。患者由来の基底様異種移植で実証されるように、結果は、8つの腫瘍のうちの6つが完全寛解を示している。血液および選択された組織試料を使用して実施したCBZの質量分析法を用いて、非カプセル化CBZに対する、NPカプセル化CBZで得られる異なる薬物濃度を調査した。結果は、ナノ粒子カプセル化薬物が、血中での長い循環時間、腫瘍組織内での高い含有量を有することを示している。質量分析法を使用して24時間後に得られる組織の生体内分布は、蛍光物質NR668で標識されたナノ粒子のIVIS(登録商標)分光インビボイメージングを使用して得られる生体内分布データと、良好に相関する。これは、これらのデータもナノ粒子の分布を表すものであることを明確に示している。さらに、免疫組織化学を使用して、NPカプセル化CBZ注射後および非カプセル化CBZ注射後の、腫瘍組織へのマクロファージの浸潤を推定した。NPで治療された腫瘍では、腫瘍原性誘発性マクロファージに対して、抗腫瘍原性マクロファージの含有量が高いことも実証された。理論に縛られることなく、これは、NPカプセル化薬物で得られる改善された効果にさらに寄与し得る。要約すると、PACA NP内へのCBZのカプセル化は、臨床的に利用可能な薬物の配合物に代わる、有望な代替物である。
【0033】
当業者によって理解されるであろうように、本明細書に開示の発明は、Snipstadら(2017)に記載されているような薬物送達システムとは異なる。本明細書に記載されているように、本発明の薬物送達システムは、Snipstadら(2017)に記載されているようなNP安定化MBを含まない。異なる実施形態では、本発明による薬物送達システムは、MBを安定化するNPも、ガス充填MBを安定化するために使用されるNPも含まない。したがって、本発明の薬物送達システムは、Snipstadら(2017)に記載の超音波が媒介する送達システムとは対照的に、超音波に依存せずに治療効果を達成する。
【0034】
したがって、本明細書で提供される本発明の一実施形態は、がん治療に使用するための、CBZまたはその薬学的に許容される塩が負荷されているPEG化PACA NPを含む、薬物送達システムであって、薬物送達システムが、超音波または集束超音波などの音場によって媒介されないことを条件とする、薬物送達システムである。
【0035】
本発明のさらなる実施形態では、薬物送達システムは、MBに会合しているNPを含まない。ガス充填MBを含まない薬物送達システムも開示される。なお別の実施形態では、薬物送達システムは、MBを含まない。
【0036】
Sulheimら(2016)によって実証されたように、PACA NPの分解速度は、シアノアクリレートモノマーのアルキル鎖の選択によって制御することができる。使用されるモノマー、すなわちn-ブチル-、2-エチル-ブチル-、またはオクチルシアノアクリレート(それぞれBCA、EBCA、およびOCA)に細胞毒性が依存することも、細胞株のパネルを使用して実証されており、Sulheimら(2017)を参照されたい。
【0037】
本発明の異なる実施形態では、シアノアクリレートモノマーのアルキル鎖は、線状または分岐状C4~C10アルキル鎖である。好ましい実施形態では、使用されるモノマーは、n-ブチル-(BCA)、2-エチルブチル(EBCA)、ポリイソヘキシル(IHCA)、およびオクチルシアノアクリレート(OCA)からなる群から選択される。したがって、異なる実施形態では、薬物送達システムは、PBCA、PEBCA、PIHCA、およびPOCAからなる群から選択されるNPを含む。
【0038】
本明細書に記載されているように、NPは、PEG化されている、すなわち、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーでコーティングされている。
薬物送達におけるPEG化の理論的根拠は、静脈内(i.v.)注射などの非経口投与後の循環時間の増加を得ることである。これは良好に実証されており、当業者に既知である。Aslundら(2017)は、PACAナノ粒子に対する異なるタイプのPEGを含む分子の定量的および定性的効果を研究した。例えば、表面上のより長いPEGは、血液循環時間およびコラーゲンゲル中のPACA NPの拡散を増加させるであろうことを実証している。
【0039】
したがって、PEGのタイプを変動させることによって、異なる表面修飾を有するNPを達成することができる。これは、本明細書に記載のNPのゼータ電位、タンパク質吸着、拡散、細胞間相互作用、および血液循環半減期に影響を与えるであろう。
【0040】
本発明の異なる実施形態では、NPは、Jeffamine、Brij、Kolliphor、Pluronic、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるPEGを含む分子でPEG化される。
【0041】
一実施形態によれば、NPは、PluronicおよびKolliphorから選択されるPEGを含む分子でPEG化される。
別の実施形態によれば、NPは、BrijおよびKolliphorから選択されるPEGを含む分子でPEG化される。
【0042】
本発明の一実施形態では、PACA NPは、標的化部分を含む場合または含まない場合の両方のミニエマルションアニオン重合プロセス、具体的には、WO2014/191502に記載のワンステッププロセスによって生成される。
【0043】
標的化部分でさらに表面修飾されているNPを使用することによって、たとえば、標的化部分に共有結合しているポリアルキレングリコールを用いるミニエマルションアニオン重合技術によって調製されたNPを使用することによって、腫瘍または病変組織などの特定の位置で、能動的標的化および保持の向上を潜在的に可能にすることができる。また、これは、特定のリガンド-受容体相互作用に依存する、がん細胞への取り込みを促進することができる。
【0044】
標的化部分は、標的位置にNPの特異的結合を引き起こす、任意の好適な部分であり得る。
好ましくは、標的化部分は、100~200000Da、より好ましくは200~50000Da、さらにより好ましくは300~15000Daの範囲の分子量を有する。
【0045】
単一の標的化部分または異なる標的化部分の混合物が使用され得ることが理解されるべきである。
標的化部分の例は、アミノ酸、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片、糖類、炭水化物、グリカン、サイトカイン、ケモカイン、ヌクレオチド、レクチン、脂質、受容体、ステロイド、神経伝達物質、細胞表面マーカー、がん抗原、糖タンパク質抗原、アプタマー、またはそれらの混合物からなる群から選択される。特に好ましい標的化部分としては、線状および環状ペプチドが挙げられる。一実施形態では、標的化部分は、アミノ酸および脂質からなる群に属さない
ナノ粒子は、漏れやすい血管系を有する腫瘍の周りの領域に蓄積するので、ナノ粒子が全身的に血中に投与されるときのナノ粒子のサイズが、ナノ粒子の標的化効果に影響を与えることが以前から知られている。これは、腫瘍組織における「強化された透過性および保持」(EPR)効果として知られている。EPR効果は一種の標的化であり、一般的に「受動的標的化」と称される。
【0046】
従来、腫瘍標的化アプローチは、「受動的標的化」と「能動的標的化」とに分類される。
EPR効果は、受動的標的化の形態として当業者には既知であろう。NPの表面上への標的化部分の導入は、一種の能動的標的化として当業者には既知であろう。
【0047】
血管新生は、新しい毛細血管が形成されることによる生物学的プロセスである。それは、胚発生、排卵、および創傷修復などの多くの生理学的状態、ならびに関節炎、糖尿病性網膜症、および腫瘍などの病理学的状態に不可欠である。
【0048】
腫瘍は、酸素および栄養素の拡散制限に起因して代謝要求が制限される前に、およそ1~2mm3のサイズに成長し得る。このサイズを超えて成長するためには、腫瘍は血管新生表現型に切り替わり、周囲の血管から新生血管系の形成を開始する。したがって、腫瘍は血管新生能力を備えており、それらの成長、侵襲、および転移は血管新生に依存する。一部の例外を除いて、ほとんどの場合、新生物細胞集団は、血管新生能力を獲得し、その成長を維持するのに十分な血管網を生成した後にのみ、臨床的に観察可能な腫瘍を形成するであろう。さらに、新しい血管は、新生物細胞集団が循環系に進入し、離れた部位に転移するための入り口を提供する。腫瘍の血管新生は、腫瘍細胞によって作り出された血管新生分子によって本質的に媒介される。
【0049】
理論に縛られることなく、EPR効果の現象は、腫瘍細胞が増殖するために血管の生成を刺激する腫瘍の能力によって引き起こされる。血管内皮成長因子(VEGF)および当業者に既知の他の成長因子は、がんの血管新生に関与している。腫瘍細胞は、150~200μmほど小さく凝集し、それらへの栄養素および酸素供給のために新生血管系によって行われる血液供給に依存し始める。しかしながら、これらの新しく形成された腫瘍血管は、通常、形態および構造が異常である。それらは、穿孔を有する不完全に並んだ欠陥のある内皮細胞、平滑筋層の欠如、またはより広い内腔を有する神経支配、およびアンジオテンシンIIの機能的受容体の損傷を有する。さらに、腫瘍組織は通常、効果的なリンパ排液が欠如している。これらのすべての要因は、異常な分子および異常な流体輸送ダイナミクスをもたらし、特に、本明細書に開示のNPには好適である。
【0050】
したがって、血管系の透過性亢進およびリンパ排液の欠如に起因して、EPR効果は、腫瘍におけるNPの受動的蓄積を生じるであろう。これは、NPが血管に拘束されている正常組織で見られるものとは対照的である。これによって、本明細書に記載のNPは、腫瘍標的化には魅力的なものになる。腫瘍に達するNPの割合を増加するために、NPの全身循環時間を増加させる。循環時間を延長することによって、血管内の開口部を通じてNPが拡散する可能性が増加するので、腫瘍内に蓄積することが可能なNPの数が向上するであろう。
【0051】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、薬物送達システムは、限定されないが、結腸、肺、乳房、子宮頸部、膀胱、前立腺、および膵臓の腫瘍を含む、腫瘍などのがん治療用である。
【0052】
さらに、本発明によるNPは、リンパ節に部分的に蓄積することが実証されている。これは、リンパ節の転移性がん細胞の治療に利用することができる。したがって、本発明の一実施形態では、薬物送達システムは、リンパ節の転移性がん細胞を治療するためのものである。なお別の実施形態では、薬物送達システムは、リンパ節を通じた転移を防止することによる、がんの予防的治療のためのものである。さらなる実施形態では、薬物送達システムは、腫瘍の治療および転移の予防的治療のためのものである。
【0053】
本発明の別の実施形態では、腫瘍は、透過性を亢進可能である、および/またはリンパ排液が欠如した血管系を有する。
腫瘍成長は、無血管性、およびその後の血管相からなる。本発明の一実施形態では、腫瘍は血管相にある。
【0054】
実施例で使用したNPは、細胞毒性薬物のカバジタキセル(CBZ)を含有している。CBZは、微小管の分解を阻害する半合成のタキサン誘導体である。CBZは、水への可溶性が非常に低く、遊離した非カプセル化薬物の投与を複雑にする。
【0055】
しかしながら、実施例で実証されるように、アルキルシアノアクリレートモノマーへのCBZの優れた融和性および可溶性に起因して、高濃度のこの薬物は、アルキルシアノアクリレートモノマー溶液に溶解することができ、したがってPACA内にカプセル化される。
【0056】
本発明の異なる実施形態によれば、NP内のCBZ負荷容量は、NPの1~90重量%、優先的にはNPの5~50重量%であり得る。特に好ましい実施形態では、CBZの負荷容量は、NPの5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15重量%などのNPの5~15重量%である。
【0057】
したがって、本発明による薬物送達システムは、高い負荷容量を有し、本発明の治療効果に影響を与えることが示されている。
CBZは水に不溶性であるため、従来の配合物は、Polysorbate80溶液に可溶化させたCBZである。本明細書で使用する場合、非カプセル化または遊離CBZは、従来の配合物を指す。
【0058】
CBZは、いくつかのタイプの前立腺がん、副腎皮質がん腫、精巣がん、尿路移行上皮細胞がん腫、および卵巣がんを含む、異なるタイプのがんへの影響を研究する、いくつかの臨床試験に含まれている。本発明者らは、神経膠腫および肺がんにおけるCBZの療法効果も実証した。
【0059】
臨床研究では、CBZの効能は、深刻な副作用および中毒死を伴うことが実証されている。臨床試験で観察された毒性速度は、CBZの使用および管理に障害をもたらすと想定されているが、一方で、この薬物の高い活性が実証されている。副作用のリスク、ならびに投与計画に由来する高いコストおよび不快感、ならびにCBZ治療のために以前提案された投与計画を順守する患者の欠如により、臨床試験から臨床診療への移行時には、CBZはあまり使用されないであろうと推測されている。したがって、例えば前立腺がん治療において、例えば3週間ごとから毎週に投与計画を制限して、関連する毒性を増加させることなく、用量強度および活性を増加させることが可能なより良好な療法範囲とともに、血液耐性を改善することが提案されている。
【0060】
したがって、本発明者らによって記載される薬物送達システムは、薬物負荷NPが遊離薬物よりも悪影響が少ないという利点によって、CBZを非常に妥当なものにする。CBZをNP内にカプセル化することによって、薬物のより徐放性のプロファイルが提供され、毒性の一部が改良され、より高用量の投与を可能にすることができる。悪影響を低減することによって、薬物の用量を増加させることが可能になる。したがって、薬物をNP内にカプセル化することによって、治療効果がさらに改善されるであろう。したがって、本発明者らは、本明細書に記載の薬物送達システムをがん治療に使用すると、治療効果を向上する、および/または副作用を低減するであろうという考えを提案する。
【0061】
異なる実施形態では、本発明は、がん治療に使用するための、CBZまたはその薬学的に許容される塩が負荷されているPEG化PACA NPを含む、薬物送達システムであって、腫瘍が、前立腺がん、乳がん、神経膠腫、肺がん、副腎皮質がん腫、精巣がん、尿路移行上皮細胞がん腫、および卵巣がんからなる群から選択されるタイプのがんに属する、薬物送達システムを提供する。
【0062】
本発明の特定の一実施形態では、腫瘍は、前立腺がん腫、ホルモン不応性前立腺がん、前立腺新生物、または骨転移性前立腺がんなどのタイプの前立腺がんに属する。
本発明の別の特定の実施形態では、腫瘍は、管腔様および基底様乳がんを含むタイプの乳がんに属する。
【0063】
乳がんは、遺伝子発現パターンに基づいて主要なサブグループに分類することができる。最も攻撃的なサブタイプに属する腫瘍は、一般的に、アントラサイクリンおよびタキサン系の化学療法計画で治療される。実施例では、PEBCA NP内にカプセル化されているCBZの成長阻害効果は、インビトロおよびインビボの乳がんモデル、ならびにインビボの前立腺がん腫瘍モデルで実証されている。2つの主なタイプの乳がん、管腔様および基底様サブグループを表す3つの乳がん細胞株を使用した。また、免疫不全マウスの乳房脂肪体に細胞株のうちの1つを注射し、成長させる。加えて、攻撃的な基底様乳がんを高く表すことが以前実証された、1人の患者に由来する異種移植(PDX)が実施例に含まれる。
【0064】
本明細書で提示される1つの発見は、基底様PDXモデルで実証された、非カプセル化CBZと比較して改善されたPEBCA-CBZの療法効果が驚くべきことに実証されたことである。これが、NP内への薬物のカプセル化後、腫瘍に送達されるCBZの増加に起因し得ることが、質量分析法を用いた分析によって示された。また、PEBCA-CBZで治療した腫瘍は、非カプセル化CBZで治療した腫瘍よりも腫瘍原性誘発性マクロファージの含有量が低いことが、免疫組織化学的染色によって明らかになった。理論に縛られることなく、これは、効能の改善に寄与し得る。PEBCA-CBZと非カプセル化CBZとの効能の違いを解明するために、実施例は、親油性および近赤外蛍光物質NR668が負荷されている粒子のインビボ生体内分布を実証している。PEBCA-CBZおよび非カプセル化CBZの両方を注射後の組織におけるCBZの生体内分布、および血漿中のCBZの動態を説明するために、定量的質量分析法を使用した。
【0065】
前立腺がん腫を用いる実施例は、PEBCA NP内にカプセル化されているCBZが、臨床的に承認された配合物と同様の成長阻害を有したことを実証している。正常組織と比較してがん細胞における薬物負荷NPの保持が向上した本発明の薬物送達システムは、悪影響がより少なく、より多い用量の投与を可能にする。
【0066】
転移性腫瘍の治療のための、リンパ節への薬物送達が議論されてきた。局所リンパ節は多くのがんタイプにおいて主な転移部位であるため、リンパ組織へのPEBCA-CBZの蓄積は、療法および予防的治療の両方にさらに寄与し得る。
【0067】
要約すると、PEBCA-CBZ NPは、前立腺がんおよび乳がん治療に有望な結果を実証し、本明細書に開示の腫瘍治療に使用するための薬物送達システムの療法効果を裏付ける。
【0068】
さらに、PACA NPが抗腫瘍原性マクロファージの腫瘍内の存在を向上すると思われるという観察は、本発明の薬物送達システムがより普遍的な価値を有し得、免疫調節剤としておよび/またはカプセル化薬物の療法効果を向上することが可能なビヒクルとして使用することができることを裏付けることができる。
【0069】
本発明の実施形態によれば、薬物送達システムは、非経口などの全身投与される組成物中で提供される。
本発明の最後の態様では、本発明の第1の態様による薬物送達システムを、それを必要とする患者に投与することを含む、がんを治療する方法を含む。
【実施例】
【0070】
実施例1
材料および方法
ナノ粒子の合成および特性評価。PEG化PEBCA NPを、ミニエマルション重合によって合成した。0.2%(w/w)のブチル化ヒドロキシトルエン(Fluka(Switzerland))および2%(w/w)のMiglyol812(Cremer(USA))を含有する2.5gの2-エチルブチルシアノアクリレート(モノマー(Cuantum Medical Cosmetics(Spain))からなる油相を調製した。光学イメージング用の蛍光粒子は、油相に0.2%(w/w)のNR668(改変Nile Red)、カスタム合成を添加することによって調製した。油相にCBZ(10%(w/w)、Biochempartner Co.Ltd.(China)、製品番号BCP02404)を添加することによって、治療のための細胞増殖抑制薬物を含有する粒子を調製した。
【0071】
Pluronic F68(2mM、Sigma(USA))を含有する0.1MのHCl(20ml)、およびKolliphor HS15(6mM、Sigma(Germany))からなる水相を油相に添加し、すぐに氷上で3分間超音波処理した(6x30秒間隔、60%振幅、Branson Ultrasonics digital sonifier450(USA))。溶液を室温で一晩回転させた後(15rpm、SB3回転器(Stuart,UK))、1MのNaOHを使用してpHを5に調節した。回転させながら室温で5時間重合を続けた。1mMのHClを用いて分散液を透析して(Spectra/Por透析膜MWCO 100,000Da、Spectrum Labs(USA))、未反応のPEGを除去した。NPのサイズ、多分散指数(PDI)、およびゼータ電位は、Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments(UK))を使用する、動的光散乱およびレーザードップラーマイクロ電気泳動によって測定した。カプセル化薬物の量を計算するために、粒子をアセトンに溶解(1:10)することによって薬物を粒子から抽出し、質量分析法に接続した液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)によって以下のように定量化した。
【0072】
LC-MS/MSによるCBZの定量化。純粋な化学物質またはNPの一部としてのCBZを、Agilent 6490トリプル四重極質量分析計に接続したAgilent 1290HPLCシステムを使用するLC-MS/MSによって定量化した。Ascentis ExpressC8(75x2.1mm、2.7μmの粒子サイズ)を、同じ材料(Sigma)の5x2.1mmガードカラムとともに、HPLCカラムを40℃で使用した。溶離液Aは水中25mMのギ酸であり、溶離液Bは100%メタノールであり、流量は0.5ml/分であった。移動相勾配は、55%のBで1.5分間、次いで55%から80%のBで1分間、続いて1分間のウォッシュアウト時間であり、その後カラムの再平衡化による無勾配化した。注入量は、5.00μlであった。MS検出は、ポジティブESIモード(Agilent Jetstream)で、トランジションm/z858.3→577.2を使用してマルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードで定量化した。親イオンは、Na付加物として選択し、これによって、最高の感度を得た。同様に、六重水素化内部標準物質は、864.4→583.2トランジションで検出した。どちらの分析物も、380Vフラグメンターおよび20Vの衝突エネルギーで分析した。
【0073】
正確な定量化には、参照標準物質を使用した。非標識CBZ標準物質は、>98%の純度で合成(上記参照)に使用したものと同じであった。六重水素化CBZ内部標準物質は、Toronto Research Chemicalsから購入した((Toronto,Canada)カタログ番号C046502、99.6%同位体純度)。標準物質をアセトンに溶解させ、少なくとも5つの濃度ポイントにまたがる一連の標識のない標準物質を構築するために使用した。
【0074】
定量限界(LOQ)は、標準曲線の最低濃度ポイント(0.1ng/ml)の6回の反復定量化から、具体的には平均と6つの標準偏差として計算し、これは0.19ng/mlのLOQの量であった(シグナル/ノイズ比>20)。同じ標準試料セットに基づく正確性は、8.8%、精度は18.0%であった。
【0075】
LC-MS/MS分析前の組織試料の処理。組織試料のCBZ含有量を定量化することができるように処理するために、組織の酵素消化、続いて上記のLC-MS/MS方法を使用するCBZの抽出および定量化のプロトコルを構築した。酵素緩衝液は、ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、パパイン(Merck、F275644)0.125mg/ml、トリプシン(Sigma-Aldrich、T7409)2.5mg/ml、コラゲナーゼ(Sigma-Aldrich、C7926)0.8mg/ml、ヒアルロニダーゼ(Sigma-Aldrich、H3506)0.69mg/ml、およびTriton X-100(Sigma-Aldrich、T-8787)1%(v/v)の最終濃度を有する、1%(v/v)のペニシリン-ストレプトマイシン原液(Sigma-Aldrich、P0781)を含むDulbecco改変イーグル培地(DMEM、Thermo Fisher Scientific(USA)、41965039)からなる。CBZの生体内分布を測定するために、凍結臓器(肝臓、脾臓、リンパ節、腎臓、腫瘍)を解凍し、新しく調製した酵素緩衝液を組織50mgあたり1mlで添加し、臓器全体を消化させた。組織が完全に溶解するまで、試料を1日1回ボルテックスしながら37℃で72時間加熱した。組織の消化物、ならびに動物の血漿試料をアセトンで10倍に希釈し、その後遠心分離し、これは、タンパク質および他の巨大分子の両方を沈殿させる二重の効果を有し、したがって試料がクリーンアップされ、すべてのCBZが確実に可溶化される。可能なマトリックス効果を補正するために、アセトンに溶解させた内部標準物質(六重水素化CBZ)を、アセトン希釈中に10ng/mlの最終濃度まで添加した。
【0076】
細胞株。この研究では、3つの乳がん細胞株を使用した。MDA-MB-231(トリプルネガティブ、クローディン低)をRPMI1640中で培養し、MDA-MB-468(トリプルネガティブ、基底)およびMCF-7(管腔A)細胞株をDMEM中で培養した。すべての培地は、10%(w/v)ウシ胎児血清アルブミン(Sigma)および100単位/ペニシリン/ストレプトマイシン(PenStrep(登録商標)、Sigma)mlで強化した。すべての細胞株はATCCから入手し、マイコプラズマについて定期的に試験した。24または96ウェルプレートで成長している細胞を、Tween-80(Fluka)に溶解させたPEBCA-CBZ、CBZ(非カプセル化CBZ)、およびCBZを含まないPEBCAの連続希釈液とともに、37℃で24、48、または72時間、5%のCO2雰囲気下でインキュベートした。一般的に使用されるMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)細胞生存率アッセイによって、[3H]チミジン取り込みに基づいて細胞増殖を測定することによって、[3H]ロイシン取り込みによるタンパク質合成を測定することによって、およびCellTiterGlo(登録商標)を使用してATPレベルを測定することによってのいずれかで、毒性を評価した。
【0077】
MTT細胞生存率アッセイ。細胞を異なるNP/物質とともに24、48、および72時間インキュベートした。次いで細胞培地を吸引し、最終濃度250μgのMTT/mlを含有する100μlの培地と交換した。ホルマザン粒子を形成するために、37℃で3時間インキュベーションを続け、これを1%(v/v)NH4Clを含むDMSOに溶解させた。プレートリーダ(Biosys Ltd(Essex,UK))で、吸光度を570nmで読み取り、650nmでの吸光度からバックグラウンドを差し引いた。
【0078】
[3H]チミジン取り込みによって測定した細胞増殖。DNAへの[3H]チミジン取り込みを使用して、細胞増殖を推定した。細胞を異なるNP/物質とともに24時間インキュベートした。次いで細胞培地を吸引し、[3H]チミジン(3μg/ml、75μCi/ml)を含有する無血清細胞培地と置き換えた。37℃で30分間インキュベーションを続けた。培地を除去し、5%(w/v)トリクロロ酢酸(TCA)を添加した。5分後、細胞をTCAで2回洗浄し、0.1MのKOH 200μlで可溶化した後、3mlのシンチレーション液(Perkin Elmer(USA))と混合した。シンチレーション計測器(Tri-Carb 2100TR、Packard Bioscience(USA))で1分間、放射能を計測した。
【0079】
[3H]ロイシン取り込みによって測定したタンパク質合成。PEBCA-CBZおよびCBZがタンパク質合成に及ぼす影響を決定するために、細胞をこれらの物質とともに24時間インキュベートした。次いで細胞培地を吸引し、ロイシンを含まないHEPES培地(28mMのHEPES、(MEM中の4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸))で細胞を1回洗浄し、さらに[3H]ロイシン(2μCi/ml)を含有する、ロイシンを含まないHEPES培地で37℃で30分間インキュベートした。培地を除去し、5%(w/v)TCAを添加して、タンパク質を沈殿させた。5分後、細胞を5%(w/v)TCAで再度洗浄し、0.1MのKOH 200μlで可溶化した後、3mlのシンチレーション液と混合し、上記のように放射能を計測した。
【0080】
ATPを測定することによって推定される細胞生存率。供給者によって記載されているように、CellTiter-Glo(登録商標)(Promega、WI,USA)アッセイを使用することによるATPレベルを測定して、細胞の生存率を試験した。細胞をPEBCA-CBZまたはCBZとともに72時間インキュベートし、その後体積の半分を除去し、等量のATP試薬と交換し穏やかに混合した。10分間インキュベートした後、細胞溶解物を遮光した96ウェルプレートに移し、プレートリーダ(Biosys Ltd(Essex,UK))で発光を測定した。
【0081】
ヌードマウスにおける治療効能評価。すべての動物実験は、ノルウェー動物研究機関(Norwegian Animal Research Authority)(許可番号15-136041)に従って承認および実施され、欧州実験動物科学連合(European Laboratory Animal Science Association)(FELASA)の規制に従って行った。マウスは病原菌のない条件下で、一定温度(21.5±0.5℃)および一定湿度(55±5%)、15回/時間の空気交換および12時間の明/暗サイクルで飼育した。マウスには、4mg/lの濃度の17-β-エストラジオールが補充された蒸留水を自由に利用させた。この研究に使用したすべてのマウスは、Department of Comparative Medicine(Oslo University Hospital(Norway))の地元で飼育されていたメスの無胸腺ヌードfoxn1nuマウス(5~6週齢、体重18~20g)であった。
【0082】
本来の位置で成長している基底様異種移植モデルMAS98.12をインハウスで確立し、Lindholmら(2012)に以前記載されているように使用した。MDA-MB-231細胞株を使用するときには、150万個の細胞を乳房脂肪体に注射し、成長している腫瘍を連続移植に使用した。MAS98.12モデルについては、1~2mm3の健康な腫瘍組織片をメス無胸腺マウスの乳房脂肪体の両横に移植した。腫瘍がおよそ5mmの直径に達した後、マウスを無作為に異なる治療群に割り当てた(各群の平均体積は49~57mm3であった)。
【0083】
PEBCA-CBZ NPは、15mg/kgのCBZおよび175mg/kgのNPの用量で、i.v.尾静脈注射として2回(無作為化後1日目および4日目に)与えた。同等量の空のPEBCA NPを対照として与えた。非カプセル化CBZは、Polysorbate80(40mg/ml)中に原液として調製し、13%(v/v)のエタノールでさらに希釈して、10mg/mlのCBZの希釈標準溶液にした。注射溶液は、0.9%(w/v)のNaClの希釈標準溶液に希釈することによって、投与直前に調製した。同量のエタノール(1.2~1.4%(v/v))をビヒクル対照として使用し、注射量は200~290μlの範囲であった。治療の初日から、腫瘍の直径および体重を週2回測定した。マウスの健康状態を毎日監視し、瀕死状態になった場合、または腫瘍が1500mm3に達した場合は、頸椎脱臼によってと殺した。腫瘍をキャリパによって測定し、腫瘍体積を式0.5x長さx幅2に従って計算し、治療開始時の平均腫瘍体積に関連付けた。
【0084】
インビボイメージング。IVIS(登録商標)分光インビボイメージングシステム(Perkin Elmer)を使用して、MA98.12を担持するマウスの生体内分布を研究するために、親油性および蛍光色素NR668で標識したPEBCA NPを使用した。マウスには、効能研究と同じ用量のPEBCA-CBZまたは薬物を含まないPEBCAを静脈内注射した。CBZを含有するバッチは、CBZを含有しないバッチよりもやや大きい粒子を有する。(表S1)。535/640nmの励起/発光波長ペアは、最高のシグナル対ノイズ比を与えることが見出され、したがってNPのイメージングに使用した。注射1、4、24、および96時間後に全身画像を入手し、次いで頸椎脱臼によって動物を犠牲にし、臓器を採取した。臓器は、上と同じ環境を使用して、IVISスキャナを用いてエクスビボで撮像した。臓器における相対シグナル強度は、Living Imageソフトウェア(Perkin Elmer)を使用して、それぞれの臓器の周りに描かれた対象の領域の1ピクセルあたりの放射効率(発光[光子/秒/cm
2/str]/励起光[μW/cm
2]×10
9)として計算した。インビボイメージングに使用されるPEBCA NPの蛍光測定は、CBZを含まない粒子が、CBZを含有するPEBCA NPのものの1.17倍の蛍光強度を有したことを示し、
図3Cに示されているデータは、この違いに対して補正する。
【0085】
血中の生体内分布と薬物動態。MAS98.12腫瘍を担持するマウス(n=3)の尾静脈への、PEBCA-CBZおよび非カプセル化CBZ(15mg/kg)の単回iv注射後に、血液および組織の試料を得た。空の粒子(PEBCA)および生理食塩水を陰性対照として使用した。血液試料は、尾静脈穿刺(注射およそ2分後、ならびにその後注射1、4、および24時間後)によって、または終末心臓穿刺(注射96時間後)によってのいずれかで、EDTAを含有するVacutainerチューブ(BD Biosciences(San Jose,CA,USA))に取得し、氷上で保管した。0~24時間の試料は、同じ動物(n=3)から連続的に収集し、96時間後の試料は、別個のマウス(n=3)から得た。血液を4℃で15分間、および3400xg遠心分離し、上清血漿を収集し、LC-MS/MS分析まで-80℃で保存した。24または96時間後に動物をと殺し、組織試料(腫瘍、肝臓、脾臓、リンパ節、および腎臓)を採取した。臓器を生理食塩水で穏やかに洗浄し、次いで液体窒素で急速冷凍し、上記のようにさらに処理およびLC-MS/MS分析するまで-80℃で保存した。統計分析は、t検定を使用して実施した。
【0086】
免疫組織化学。MAS98.12効能研究で注射したのと同じ物質を単回注射した96時間後に、MAS98.12を担持するマウスから腫瘍を収集した。腫瘍を4%(v/v)ホルマリン中で保存し、次いでパラフィン処理し、スライスして、連続スライド(厚さ3μm)を調製した。脱パラフィン剤Neo-clearおよび封入剤Neo-mountは、VWR(Radnor(PA,USA))から得た。10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で脱パラフィン化したスライドを、100℃の水浴に20分間置くことによって、熱処理してエピトープの再露出を実施した。Tris緩衝生理食塩水(TBS、50mMのTris-Cl、150mMのNaCl、pH7.6)中3%(v/v)の過酸化水素でスライドをインキュベートすることによって、内因性ペルオキシダーゼ活性を遮断した。切片を洗浄し、TBS中3%(w/v)のウシ血清アルブミン(Roche diagnostics GmbH(Mannheim,Germany))を用いて非特異的結合の遮断を30分間実施した。次いで切片を一次抗体とともに60分間インキュベートした。3つの異なる抗体、すなわち抗CD68(1mg/ml、ab125212、Abcam(Cambridge,UK))、抗CD206(0.1μg/ml、ab64693、Abcam(Cambridge,UK))、および抗iNOS(0.5μg/ml、ab15323、Abcam(Cambridge,UK))を使用して、マクロファージの異なる集団を検出した。CD68はマクロファージ集団全体に一般的に使用されるマーカーであり、iNOS(誘発性一酸化窒素シンターゼ)はM1マクロファージ(抗腫瘍原性および炎症誘発性マクロファージ)のマーカーであり、CD206はM2マクロファージ(腫瘍原性誘発性および抗炎症性マクロファージ)のマーカーである。ステップ間でスライドを洗浄するために、TBSを使用した。一次抗体の検出は、製造元(Biocare Medical(Concord,CA,USA))のプロトコルに従って、MACH3ウサギHRPポリマー検出キットを使用して実施した。シグナルは、Betazoid DaB色素原キット(Biocare Medical)とともに提供される色素原溶液を用いるインキュベーションによって構築した。対比染色には、ヘマトキシリンおよび37mMの水酸化アンモニウム含有溶液(Sigma-Aldrich(St.Louis,MO,USA))を使用した。
【0087】
染色した組織切片を、40x対物レンズを使用してスキャンした(NanoZoomer HT、Hamamatsu Photonics(Hamamatsu,Japan))。CD68、iNOS、およびCD206の程度は、ImmunoPathソフトウェア(Room4 Ltd.(Crowborough,UK))を使用して自動的にスコアリングした。非特異的または偽陽性染色を避けるために、壊死領域ならびに血管を除いた腫瘍領域に、手動でマークを付けた。次いで、注釈が付けられた領域は、効率的な処理のために、対象の画像ごとにより小さなフレームに分割した。注釈が付けられた代表的な領域は、コンピュータ画像分析によってさらに分析した。異なる腫瘍から無作為に選択された画像に画像分析プロトコルを設定して、ヘマトキシリン染色された青色の陰性染色と茶色の陽性染色とを区別するようにソフトウェアを設定した。分析結果は、注釈が付けられた領域全体の、ポジティブピクセル部分およびネガティブピクセル部分の数を提供する。
【0088】
統計分析。効能研究の有意性を計算するために、各腫瘍の曲線下面積を計算し、ウェルチの不等分散を使用して群の平均値を比較した。異なる治療群間の腫瘍退縮の頻度に有意差があるかどうかを決定するために、フィッシャーの正確確率検定を使用した。特に明記しない限り、ウェルチ補正を用いず独立2群の両側スチューデントt検定を使用した。統計分析は、GraphPad Prism(Windowsバージョン7.00、GraphPad Software(La Jolla,California,US))またはMicrosoft Excelのいずれかを使用して実施した。
【0089】
結果
PEBCA粒子の特徴評価。使用したバッチの粒子サイズ、多分散性指数(PDI)、およびゼータ電位は、それぞれ148~227nm(z平均)、0.04~0.19、および-(0.6~2.4)mVの範囲であった。最終粒子の薬物含有量は、6.0~8.6%(w/w)であり、NP原液中にCBZ2.0~3.4mg/mlを得た(表S1)。薬物CBZまたは蛍光標識NR668を添加すると、PEBCA NPのサイズが増加した(表S1)。MAS98.12腫瘍モデルにおける効能研究に使用した2つのバッチのサイズ分布曲線、およびCBZ(溶液中でクラスターを形成)のものを
図1に示す。
【0090】
PEBCA-CBZは、MAS98.12マウスモデルで、遊離CBZよりも腫瘍成長をより効率的に阻害する。PDXモードでCBZが組み込まれたPEBCA NPの効能を試験するために、MAS98.12腫瘍をヌードマウスの乳房脂肪体に移植し、薬物負荷粒子(PEBCA-CBZ)、空の粒子(PEBCA)、非カプセル化(遊離)CBZ、および対照として生理食塩水で治療した(
図2A)。注射された用量は、CBZ2x15mg/体重kgであり、これは2x175mg/kgの粒子用量に相当する(
図2A)。腫瘍成長は、空のPEBCA NPによって影響を受けなかった。CBZ治療は、腫瘍成長を著しく阻害し、PEBCA-CBZ治療の効果は、腫瘍サイズの低減を引き起こしたことによって、より明白であった(
図2A)。PEBCA-CBZ治療群では、8つの腫瘍のうち6つが完全寛解したが、CBZ治療腫瘍では9つのうちの2つのみであり、陰性対照群では1つもなかった(フィッシャーの正確確率検定(片側):p=0.04、PEBCA-CBZとCBZとの比較)。
【0091】
4つの群間の腫瘍成長の違いをさらに評価するために、個々の腫瘍の曲線下面積(AUC)を各々計算し、各治療群の平均値を比較した。PEBCA-CBZの効能は、非カプセル化CBZを用いる治療よりも有意に良好である(p=0.02、
図S1)。治療開始時の重量と相対的な体重として測定した、異なる治療の毒性を
図2Bに示す。CBZを用いる2つの治療(非カプセル化またはPEBCA-CBZとしてカプセル化)は、およそ15%の体重減少を引き起こしたが、最後の注射から1週間後に毒性が後退した。この許容される体重減少および回復時間は、PEBCA-CBZとCBZとで同等であった。空のPEBCA NPの投与は、体重から推定されるように、いかなる毒性作用も引き起こさなかった。
【0092】
PEBCA-CBZおよび非カプセル化CBZの効能も、MDA-MB-231腫瘍担持マウスで研究した。このモデルでは、2つのCBZ配合物間の有意差は検出されなかったが、腫瘍成長の遅延が観察された(
図S2)。CBZ(遊離およびカプセル化薬物)は、MAS98.12と比較すると、MDA-MB-231腫瘍では効果が低かった。薬物の遊離配合物の毒性に起因して、非カプセル化薬物の用量を増加させることによって効能を改善することは不可能であった。
【0093】
PEBCA粒子のインビボ生体内分布。MAS98.12を担持するマウスにおけるPEBCA NPの生体内分布は、蛍光色素NR668を含有する粒子注射後、最大96時間の蛍光イメージングによって研究した。1、4、24、および96時間後にIVIS(登録商標)分光スキャナを使用してマウスを撮像し(
図3A)、次いで臓器を採取しエクスビボで視覚化することができるように犠牲にした。注射24時間後に採取したすべての臓器の画像を
図3Bに示し、臓器ごとの対象領域のピクセルサイズと相対的な平均放射効率を
図3Cにプロットする。1、4、および96時間で得られた臓器の画像を、
図S3に示す。遊離NR668色素を注射しても、使用した波長では検出可能な蛍光は得られず(データは示さず)、したがって、検出されたシグナルが、PEBCAに結合したNR668からのものであることを示している。
図3および
図S3に示されている画像は、示されているすべての組織への急速な取り込みを実証しており、注射24時間後、肝臓、脾臓、およびリンパ節で最も強いシグナルが観察されたが、腫瘍、腎臓、心臓、肺でも蛍光は容易に検出可能であった(
図3C)。
【0094】
カプセル化および非カプセル化CBZの薬物動態および生体内分布。PEBCA-CBZおよび非カプセル化CBZ(15mg/kg)を、MAS98.12腫瘍を担持するマウスの尾静脈に静脈内注射した。注射のおよそ2分後、ならびに注射1、4、24、および96時間後に血液試料を採取し、LC-MS/MS方法を使用してCBZについて血漿試料を分析した。ほとんどすべての時点でのCBZ濃度は、PEBCA-CBZを受けたマウスでは、遊離CBZを受けたマウスと比較して少なくとも10倍高かった(
図4A)。PEBCA-CBZおよびCBZの両方の血漿濃度/時間曲線は、初期の分布段階、続いて最終消失相を示す。データポイントの数が少ないことにより、非線形回帰を通じた分布または消失半減期を決定することができなかった。最初の2つのデータポイント(最大1時間)に基づく補間は、PEBCA-CBZおよびCBZでそれぞれおよそ50分および30分の範囲での分布半減期を示す。同様に、最後の2つの時点(24時間および96時間)の平均値に基づいて消失半減期を計算すると、両方の化合物では約60時間のこの相の半減期を示す。CBZと比較したPEBCA-CBZの投与後に観察されるより高い血漿濃度は、CBZと比較して、PEBCA-CBZの低い分布体積および低い総クリアランスを示唆している。これは、NP配合物が血管コンパートメントから脱出する可能性、および主に細網内皮系を通じたNPの消失が低いことと一致している。
【0095】
CBZ濃度は、PEBCA-CBZおよびCBZ(15mg/kg)の単回注射後に、腫瘍、肝臓、脾臓、リンパ節、および腎臓で測定した。注射24および96時間後に採取した試料で得られた結果を、それぞれ
図4BおよびCに示す。組織1mgあたりの薬物の最高量は、脾臓で得られた。しかしながら、
図4のデータは、PEBCA-CBZの肝臓/脾臓比が、注射24時間後に2.1倍、注射96時間後に4.4倍であることを示し、マウス
15の肝臓の質量が脾臓のもののおよそ13倍であると想定すると、肝臓が、これらのNPのほとんどを取り込んでいることを実証している。CBZ ng/組織mgとして測定した腫瘍試料中のCBZの量は、PEBCA-CBZ注射後の肝臓のものの20%(24時間)および1.4%(96時間)であった。
【0096】
CBZの濃度は、非カプセル化薬物(CBZ)と比較して、粒子結合物(PEBCA-CBZ)の注射24時間後に分析されたすべての組織において有意に高く(t検定、p値<0.01)、最高量のPEBCA-CBZを含有する肝臓および脾臓で最大の違いが観察された。非カプセル化CBZ注射後、最高濃度のCBZが腫瘍で見出されたが、このレベルは、PEBCA-CBZ群で得られたレベルの約1/3にすぎない。注射96時間後に得た試料では、PEBCA-CBZの注射後に分析されたすべての組織でCBZを(LC-MS/MS方法のLOQを上回って)検出することができたが、遊離CBZの注射後には腫瘍組織のみで検出された(
図4C)。この時点で、遊離CBZ注射後の腫瘍におけるCBZの濃度は、PEBCA-CBZ注射後に得られた濃度のおよそ50%であったが、PEBCA-CBZ試料の高い分散に起因して、この差は統計的に有意ではなかった(p=0.18)。PEBCA-CBZの注射24時間および96時間後に得た組織試料のCBZ濃度を比較すると、腫瘍、脾臓、および腎臓で減少し、肝臓およびリンパ節では24~96時間に増加している。MAS98.12腫瘍組織での減少のみが有意差である(p=0.02)。また、非カプセル化CBZを注射後のCBZ濃度は、24時間と比較して96時間後の腫瘍では有意に低かった(p<0.001)。CBZを含有しないPEBCA NP注射後、血漿および組織試料もCBZについて分析し、これらすべての試料(PEBCA-CBZ注射後に分析された試料と同様)は、分析方法のLOQを下回った。
【0097】
治療されたMAS98.12腫瘍におけるマクロファージ浸潤。治療中のMAS98.12腫瘍へのマクロファージの浸潤は、免疫組織化学によって推定した。浸潤マクロファージの総集団の程度は、CD68に対する抗体およびスキャンしたスライドの自動定量化を使用して定量化した。遊離CBZまたは生理食塩水を受けたマウスと比較して、PEBCA-CBZまたは薬物を含まないPEBCAを注射したマウスでは、腫瘍浸潤マクロファージのレベルの増加が観察されたが、差は統計的有意性に達さなかった(
図5A)。また、炎症誘発性M1マクロファージ(iNOS)のマーカーは、PEBCA-CBZまたはPEBCAを受けたマウスの腫瘍へのマクロファージ浸潤の増加を実証した(
図5B)。しかしながら、CD206陽性細胞として測定した抗炎症M2マクロファージサブセットは、生理食塩水対照と比較して、PEBCAを受けた腫瘍でのみ、浸潤の増加を実証した(
図5C)。さらに、PEBCA-CBZを受けたマウスの腫瘍は、PEBCAを単独で受けた腫瘍よりも、有意に低いレベルのこの腫瘍原性誘発性マクロファージ集団を示した(p<0.001、
図5C)。
【0098】
インビトロ細胞研究。2つの異なる試験システムを使用して、3つの細胞株、すなわちMDA-MB-231、MDA-MB-468、MSF-7における、PEBCA-CBZ、非カプセル化CBZ、および薬物を含まないPEBCAの細胞毒性を試験した、すなわち、24時間後の[
3H]チミジンの取り込みによる細胞増殖、およびMTTアッセイを使用して72時間後の細胞生存率を測定した。PEBCA-CBZおよびCBZは、すべての細胞株で、薬物を含まないPEBCAよりも有意に(130~350倍の範囲)毒性が高かったが、いずれかの細胞株におけるこれらの試験システムのうちのいずれでも、PEBCA-CBZおよびCBZの毒性効果に差はなかった(
図10)。インキュベーション72時間後にMTTアッセイを使用すると、試験したすべての細胞株の細胞のごく一部(10~20%)は、非常に高いCBZ濃度でも生存したことが明らかであった。他の2つの試験システムも使用して、PEBCA-CBZおよび非カプセル化CBZの毒性を、3つすべての細胞株で試験した。タンパク質合成([
3H]ロイシン取り込み)への影響を、インキュベーション24時間後に測定し、ATPレベル(CellTiter-Glo(登録商標))を72時間後に測定した。これらの試験システムで得られた結果(データは示さず)は、
図S5に示したものと非常に似ていた。インキュベーション24および48時間後にもMDA-MB-231細胞に対してMTTアッセイを実施し、得られたデータは、インキュベーション72時間後に示されたもの(
図10)と同様であったが、これらのより短いインキュベーション時間の後は毒性効果が小さかった(データは示さず)。
【0099】
考察
本研究の主な発見は、CBZを含有するPEBCA NPを用いて基底様PDXマウスモデルで観察された、著しく良好な療法効果であり、CBZ15mg/kgを2回注射した後、8つの腫瘍のうち6つで完全寛解が得られた(
図2A)。非カプセル化CBZに対するPEBCA-CBZの有利な効果について、いくつか可能性のある説明を想定することができ、得られたデータは少なくとも次の要因:NP-CBZのより長い血中循環、および腫瘍における薬物のより高い濃度(
図4)、ならびに治療された腫瘍における抗iNOS標識マクロファージ対抗CD206標識マクロファージのより高い比(16~17)(
図5)を指している。
【0100】
LC-MS/MS方法を使用して、血漿およびいくつかの組織のCBZの量を定量化した。血漿データは、CBZがNPに組み込まれるとより長い時間循環していることを明確に示しており、PEBCA-CBZを受けたマウスのほぼすべての時点でのCBZ濃度は、遊離CBZを受けたマウスと比較して、少なくとも10倍高かった(
図4A)。そのようなデータを評価すると、NPに組み込まれたCBZは、NPから放出される前に療法効果を有さないことを銘記することが重要である。したがって、MAS98.12モデルに例示されるように、良好な療法効果を得るには、NPの生分解が必要である。
【0101】
NR668で標識されたPEBCA NPを用いて得られたインビボ蛍光イメージングデータは、CBZが存在することが分かった組織と同じ組織に蛍光が蓄積されていることを実証している。予想通り、これらのデータは、ほとんどのNPが肝臓に達することを示している。注射24時間後に測定した1ピクセルあたりの蛍光の肝臓/脾臓比は、CBZを含まないNPでは2.9、CBZを含むNPでは2.4であると推定されたが、肝臓対脾臓の総CBZ含有量の比は、MS分析に基づいて2.1と計算した。(1ピクセルあたりの測定に基づく)蛍光イメージングからの定量的データの解釈には注意が必要であるが、2つの異なる方法を用いて得たこれらの生体内分布データは、同様の結果を示した。遊離NR668の注射が測定可能なインビボシグナルを与えなかったという、本明細書での観察、(Snipstadら(2017)で実証されているように)NR668が同様の組成物を含むNPから漏れなかったという事実、および非カプセル化CBZの血液からの急速な消失は、CBZおよびNR668のほとんどが、注射24時間後にNP内に封じ込められていることを示している。したがって、これらの低分子物質の生体内分布は、現時点でのPEBCA NPの分布をよく表していると思われる。Snipstadら(2017)に開示の研究では、NPはやや似ているが、別のPEG化および蛍光マーカーを使用して、注射6時間後に5.3の肝臓/脾臓比が報告された。この研究では、注射24時間後に腫瘍で得られた平均蛍光シグナルは、CBZを含有しないNPでは肝臓のシグナルの12%、およびCBZを含有するNPでは3%であった。IVISデータ(
図3A、B)は、CBZを含有するNPよりも、薬物を含まないPEBCA NP注射後の蛍光が高いことを示している。おそらく、薬物を含むNPのサイズがやや大きい(表S1)ことが、この違いの原因である。
【0102】
マクロファージは、乳腺腫瘍で最も豊富な免疫細胞である。腫瘍随伴マクロファージ(TAM)は元来、抗腫瘍活性を発揮すると考えられていたが、臨床的および実験的証拠の増加によって、TAMも腫瘍の進行を促進し、抗がん薬物の応答に影響を与え得ることが示されている。従来、活性化された炎症誘発性(M1タイプ)マクロファージが抗腫瘍原性特性を呈することが知られている一方で、代わって腫瘍誘発性マクロファージは、活性化され抗炎症(M2タイプ)と称される。可塑性は、マクロファージ集団の特徴であり、それらの表現型の動的な変化によって、異なるサブタイプが定義される。M1およびM2のマーカーは、主な表現型または機能を認識するために一般的に使用されるが、この組のマーカーは、集団全体のより包括的な特徴評価に推奨される。本実施例では、M1表現型およびマンノース受容体(CD206)を検出するために広く受け入れられている、一酸化窒素シンターゼ(iNOS)を使用して、M2タイプを定義している。
【0103】
TAMは、環境(context)、例えば、微小環境における要因または外部から添加された抗がん薬物による影響を受ける。興味深いことに、ドセタキセルの効果は、乳がんモデルにおけるM2マクロファージの枯渇およびM1マクロファージの拡大に部分的に依存することが示されている。対照的に、効率的な成長遅延にもかかわらず、別のタキサンである遊離CBZを用いる治療では、マクロファージ集団における応答は観察されなかった。しかしながら、PEBCAカプセル化CBZを用いる治療によって、抗腫瘍効能が有意に改善され、腫瘍の75%で完全寛解を生じた。免疫組織化学的定量化に使用される腫瘍の数は少ないが、データは、この良好な効果を説明し得る2つの可能性のあるメカニズムを示唆している。第1に、PEBCA NP(薬物の有無にかかわらず)を用いる治療では、腫瘍の炎症が上昇する傾向が観察された。これは、腫瘍への抗腫瘍原性M1マクロファージのホーミングにおけるPEBCA NPの役割を暗に意味し得、したがって、CBZの効果をさらに裏付けることができる。第2に、薬物を含まないNPを用いる治療と比較して、PEBCA-CBZ治療は、腫瘍におけるCD206発現を有意に低減することも示し、これは腫瘍原性誘発性マクロファージの枯渇を示し得る。
【0104】
M2マクロファージは、マクロピノサイトーシスによる活発なエンドサイトーシス的取り込みを示すが、この取り込みは、M1マクロファージでは実質的に不活性であることが最近発表された。さらに、別の研究では、M2マクロファージが、エンドサイトーシスを使用してコラーゲンを分解し、固形腫瘍の腫瘍成長を促進することが示された。理論に縛られることなく、PEBCA-CBZを用いる治療後に観察されたM2マクロファージの減少および腫瘍成長への強い影響は、マクロピノサイトーシスによるPEBCA-CBZの取り込み、およびその後のこれらのM2マクロファージの死に関連している。したがって、M1およびM2マクロファージの固有の特性、ならびにM2マクロファージに対する薬物含有粒子の選択的毒性効果は、治療の効能を増加させ得る。TAMをM1に分極させる(M1/M2マクロファージの比率を増加させる)ことによって、マウスのがんモデルに有望な療法効果が示されることが、以前発表されている。
【0105】
また、MAS98.12 PDXモデルと同じ効能を示さない、同所に成長するMDA-MB-231腫瘍でも、PEBCA-CBZおよび非カプセル化CBZの効果を調べた。空のPEBCAと比較した、MDA-MB-231腫瘍におけるPEBCA-CBZの療法効果がデータで実証されてはいるが、その効果は、非カプセル化CBZで見られるものとは異なる。
【0106】
これらのNPの結果はEPR効果に基づくので、腫瘍血管系は、腫瘍内でのNP蓄積に重要な要因である。基底様MAS98.12腫瘍は、管腔様MAS98.06腫瘍よりも高い血管分布を有することが以前示されている。また、血管新生は、マウスのMDA-MB-231腫瘍で目視されているが、MAS98.12とMDA-MB-231腫瘍との血管分布の違いはあまりよく特徴評価されていない。しかしながら、以前発表された2つの研究では、血液体積は、MDA-MB-231接種5週間後の腫瘍体積の2.4%、およびMAS98.12移植5週間後5.9%を占め、後者のモデルでより効率的な血管分布を示唆している。したがって、血管分布の程度は、効能に影響を与え得る。
【0107】
組織試料内の蛍光インビボイメージングデータおよびCBZ定量化の両方で、リンパ節におけるPEBCA NPの蓄積が明らかに実証されている(
図3B、C、および
図4B)。リンパ節における薬物または造影剤の蓄積が最近見直され、最良の蓄積のためには非常に小さいNPを注射することの利点が示唆されている。この研究では、本研究に使用したものと同様の粒子、すなわちPluronic F127で修飾され、ビンクリスチンが負荷されているポリ(ブチルシアノアクリレート)のリンパ節への蓄積が報告されている。これらのNPは、ビンクリスチンを急速に放出することが示されているので、非カプセル化薬物注射後にもビンクリスチンがリンパ節に蓄積され、これらのNPが実際にリンパ節に蓄積した程度を評価することは困難である。転移性腫瘍の治療のための、リンパ節への薬物送達が議論されてきた。局所リンパ節は、局所乳がん転移の最初の部位であり、攻撃的なトリプルネガティブ基底様乳がんの主な転移部位でもあるため、リンパ組織へのPEBCA-CBZの蓄積が、そのような治療にさらに寄与し得る。
【0108】
要約すると、PEBCA-CBZ NPは、乳がん治療に有望な結果を実証し、本明細書に開示の固形腫瘍治療に使用するための薬物送達システムの療法効果を裏付ける。
さらに、PACA NPが抗腫瘍原性マクロファージの腫瘍内の存在を向上すると思われるという観察は、本発明の薬物送達システムがより普遍的な価値を有し得、免疫調節剤としておよび/またはカプセル化薬物の療法効果を向上することが可能なビヒクルとして使用することができることを裏付けることができる。
【0109】
【0110】
実施例2
Jevtana(登録商標)として配合されている、またはPEBCA NP内にカプセル化されているCBZを用いる前立腺がん腫瘍モデルの治療
方法:
乳がん治療研究で説明されているように、Jevtanaを配合した。簡単に言えば、CBZをTween80中に40mg/mlで溶解させ、次いで13%のEtOHで1:4に希釈した。乳がん治療研究で説明されているように、CBZが負荷されているPEBCA NPを調製し、特徴評価した。簡単に言えば、CBZを10w/v%でモノマー相に添加し、ペグ化PEBCA NPをワンステップミニエマルション重合で作製した。DLSを用いてサイズ、サイズ分布、およびゼータ電位について、NPを特徴評価した。
【0111】
10%のFBSおよび1%のペンシリン/ストレプトアビジンを含むDMEM中で、ヒトPC3前立腺腺がん腫細胞を成長させた。50μlの細胞培地中300万個の細胞を、マウスの後脚に皮下注射した。腫瘍体積が200mm3に達したときに治療を開始し、毎週1回の治療を3週間続けた。1;対照-治療なし、2;10mg/kgCBZ-PEBCA、3;10mg/kgのJevtana、を受ける3つの群に、動物を無作為に分けた。尾静脈のカテーテルを通して、薬物を投与した。キャリパを用いて腫瘍を週2回測定し、腫瘍が1000mm3に達したときに動物を安楽死させた。
結果:
動的光散乱でNPを特徴評価し、180nmの直径、0.18のPDI、-1.7mVのゼータ電位を有した。CBZカプセル化を質量分析法で測定し、8.5w/w%のNP質量であることが分かった。
【0112】
臨床的に承認された配合物として、またはPEBCA NP内のいずれかで配合されると、CBZは、同様の成長阻害を有することが分かった(
図1)。両方の治療は、最初の治療14日後に、未治療の対照とは有意に異なった(p<0.001、t検定)。
【0113】
図11では、3つの群の平均腫瘍サイズがプロットされている。矢印は治療日を示し、エラーバーは標準偏差を示し、***はp>0.001、t検定を示す。図から分かるように、PEBCA NP内に配合されたCBZの細胞増殖抑制効果は、前立腺がんモデルPC3における薬物の臨床配合物の効果と同様であった。
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