(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】熱延鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230721BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230721BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C21D9/46 T
C22C38/58
(21)【出願番号】P 2021504981
(86)(22)【出願日】2020-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2020009310
(87)【国際公開番号】W WO2020184356
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-04-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019043962
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】首藤 洋志
(72)【発明者】
【氏名】虻川 玄紀
(72)【発明者】
【氏名】榊原 章文
(72)【発明者】
【氏名】安藤 洵
(72)【発明者】
【氏名】安里 哲
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 将太
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】井上 猛
【審判官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-316301(JP,A)
【文献】特開2001-334306(JP,A)
【文献】特開2000-140930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00,38/58
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、質量%で、
C:0.030~0.250%、
Si:0.05~2.50%、
Mn:1.00~4.00%、
sol.Al:0.001~2.000%、
P:0.100%以下、
S:0.0200%以下、
N:0.01000%以下、
Ti:0~0.20%、
Nb:0~0.20%、
B:0~0.010%、
V:0~1.0%、
Cr:0~1.0%、
Mo:0~1.0%、
Cu:0~1.0%、
Co:0~1.0%、
W:0~1.0%、
Ni:0~1.0%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
Zr:0~0.01%、及び
残部:Fe及び不純物からなり、
5つの測定範囲で
、10mm以上の間隔を空けて4mm以上の長さで、それぞれ圧延方向及び前記圧延方向と直角方向に表面の高さプロファイルを測定し、それぞれの前記高さプロファイルで、最も高さ位置が高い点の高さ位置と最も高さ位置が低い点である凹み部の高さ位置との平均の高さ位置である平均高さ位置から前記凹み部までの高さ方向の距離をR
1(μm)、前記凹み部から前記圧延方向又は前記圧延方向と直角方向に5μm離間した2つの測定点の高さの平均をR
2(μm)としたとき、下記式(1)で表される曲率半径r
をそれぞれ求め、それら曲率半径rの平均値が10μm以上であり、
引張強度が500MPa以上であることを特徴とする熱延鋼板。
r=(25+|R
2-R
1|
2)/2|R
2-R
1|・・・(1)
【請求項2】
前記平均高さ位置よりも高さ位置が10μm以上低い領域をスケール傷部としたとき、前記スケール傷部の面積率が30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
前記化学成分として、質量%で、
Ti:0.001~0.20%、
Nb:0.001~0.20%、
B:0.001~0.010%、
V:0.005~1.0%、
Cr:0.005~1.0%、
Mo:0.005~1.0%、
Cu:0.005~1.0%、
Co:0.005~1.0%、
W:0.005~1.0%、
Ni:0.005~1.0%、
Ca:0.0003~0.01%、
Mg:0.0003~0.01%、
REM:0.0003~0.01%、
Zr:0.0003~0.01%
からなる群から構成される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱延鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐疲労特性に優れる高強度熱延鋼板に関する。
本願は、2019年3月11日に、日本に出願された特願2019-43962号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延によって製造されるいわゆる熱延鋼板は、比較的安価な構造材料として、自動車や産業機器の構造部材用素材として広く使用されている。特に、自動車の足廻り部品、に用いられる熱延鋼板には、軽量化、耐久性、衝撃吸収能などの観点から、高強度化が進められており、同時に重要保安部品であるため優れた耐疲労特性が必要とされている。
【0003】
疲労き裂は通常、鋼板の表面から発生するため、鋼板の表面性状を制御して耐疲労特性を向上させる取り組みがなされている。
【0004】
特許文献1、2には、デスケーリング温度を高温にすることで、デスケーリング性を向上させ、酸洗後の鋼板表面粗さRaを1.2μm以下にして、耐疲労特性を向上させる技術が報告されている。また、特許文献3には仕上げ圧延開始前のスケール厚を制御することにより、地鉄/スケール界面の粗さRaを1.5μm以下とし、耐疲労特性を向上させる技術が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第4404004号公報
【文献】日本国特許第4518029号公報
【文献】日本国特許第5471918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、疲労き裂の発生位置は鋼板表面の凹凸の凹み部のうち、最も曲率半径が小さい部分と考えられるが、この凹み部の曲率半径を制御する方法は従来の知見では示されていない。
【0007】
本発明は、上述に鑑み、以下に示す諸形態に想到したもので、500MPa以上1470MPa以下の優れた引張強度を有し、耐疲労特性に優れる高強度熱延鋼板を提供することを課題とする。更に好ましくは、本発明は、上記特性を有した上で、曲げ加工性に優れる高強度熱延鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様に係る熱延鋼板は、化学成分として、質量%で、C:0.030~0.250%、Si:0.05~2.50%、Mn:1.00~4.00%、sol.Al:0.001~2.000%、P:0.100%以下、S:0.0200%以下、N:0.01000%以下、Ti:0~0.20%、Nb:0~0.20%、B:0~0.010%、V:0~1.0%、Cr:0~1.0%、Mo:0~1.0%、Cu:0~1.0%、Co:0~1.0%、W:0~1.0%、Ni:0~1.0%、Ca:0~0.01%、Mg:0~0.01%、REM:0~0.01%、Zr:0~0.01%、及び残部:Fe及び不純物からなり、5つの測定範囲で、10mm以上の間隔を空けて4mm以上の長さで、それぞれ圧延方向及び前記圧延方向と直角方向に表面の高さプロファイルを測定し、それぞれの前記高さプロファイルで、最も高さ位置が高い点の高さ位置と最も高さ位置が低い点である凹み部の高さ位置との平均の高さ位置である平均高さ位置から前記凹み部までの高さ方向の距離をR1(μm)、前記凹み部から前記圧延方向又は前記圧延方向と直角方向に5μm離間した2つの測定点の高さの平均をR2(μm)としたとき、下記式(1)で表される曲率半径rをそれぞれ求め、それら曲率半径rの平均値が10μm以上であり、引張強度が500MPa以上である。
r=(25+|R2-R1|2)/2|R2-R1|・・・(1)
(2)(1)に記載の熱延鋼板は、前記平均高さ位置よりも高さ位置が10μm以上低い領域をスケール傷部としたとき、前記スケール傷部の面積率が30%以下であってもよい。
(3)(1)又は(2)に記載の熱延鋼板は、前記化学成分として、質量%で、Ti:0.001~0.20%、Nb:0.001~0.2%、B:0.001~0.010%、V:0.005~1.0%、Cr:0.005~1.0%、Mo:0.005~1.0%、Cu:0.005~1.0%、Co:0.005~1.0%、W:0.005~1.0%、Ni:0.005~1.0%、Ca:0.0003~0.01%、Mg:0.0003~0.01%、REM:0.0003~0.01%、Zr:0.0003~0.01%からなる群から構成される少なくとも1種を含有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一形態によれば、500MPa以上1470MPa以下の優れた引張強度を有し、耐疲労特性に優れた熱延鋼板を得ることができる。更に、本発明の好ましい態様によれば、上記特性を有した上で、曲げ内割れ発生の抑制ができる曲げ加工性に優れた熱延鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は熱延鋼板の板面を平面視したときの模式図であり、(b)は板厚方向から見たときの側面図である。
【
図2】(a)は熱延鋼板の板面を平面視したときの模式図であり、(b)は熱延鋼板から取得された3D画像データの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係る熱延鋼板について詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。各元素の含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
【0012】
まず、本発明を想到するに至った本発明者らの知見について説明する。
【0013】
本発明者らは、高強度鋼板の耐疲労特性について鋭意調査を行い、鋼板表面の凹み部の曲率半径が一定値を上回ると疲労の時間強度が上昇することを明らかにした。このメカニズムは以下のように推定される。鋼板が繰り返し負荷を受けると、疲労き裂の初期段階である入り込み(intrusion)が鋼板表面の凹み部に形成される。凹み部の曲率半径が大きいほど応力集中が小さくなるため、凹み部先端への応力集中が緩和され、入り込みの形成が抑制されて疲労き裂の発生が抑制される。従来、表面粗さの指標として用いられてきた平均粗さRaや最大高さ粗さRzを制御するのみでは、このような局所的な応力集中を緩和することが難しいため、耐疲労特性向上効果を得にくい場合があった。
また、本発明者らは、上記の凹み部の曲率半径を得るために効果的な熱間圧延方法も見出した。凹み部の曲率半径は熱間圧延時のスケールの成長速度によって特徴づけられ、熱間圧延中に鋼板表面に水膜をある条件で張ることでこれを達成できることが明らかになった。
さらに、本発明者らは、高強度鋼板の曲げ加工性についても調査を行い、鋼板強度が高くなるほど、曲げ加工時に曲げ内側から亀裂が生じやすくなることを明らかにした(以下、曲げ内割れと呼称する)。
曲げ内割れのメカニズムは以下のように推定される。曲げ加工時には曲げ内側に圧縮の応力が生じる。最初は曲げ内側全体が均一に変形しながら加工が進むが、加工量が大きくなると均一な変形のみで変形を担えなくなり、局所にひずみが集中することで変形が進む(せん断変形帯の発生)。
【0014】
このせん断変形帯が更に成長することで曲げ内側表面からせん断帯に沿った亀裂が発生し、成長する。高強度化に伴い曲げ内割れが発生しやすくなる理由は、高強度化に伴う加工硬化能の低下により、均一な変形が進みにくくなり、変形の偏りが生じやすくなることで、加工早期に(または緩い加工条件で)せん断変形帯が生じるためと推定される。
本発明者らの研究により、曲げ内割れは、引張強さ780MPa級以上の鋼板で発生しやすくなり、980MPa級以上の鋼板で顕著になり、1180MPa級以上の鋼板で更に顕著な課題となることがわかった。また、本発明者らは、500MPa以上の鋼板でも加工量が大きい際には曲げ内割れが課題となる場合があることも知見した。
【0015】
1.化学成分
以下、本実施形態に係る熱延鋼板の成分組成について詳細に説明する。本実施形態に係る熱延鋼板は、化学成分として、基本元素を含み、必要に応じて選択元素を含み、残部がFe及び不純物からなる。
【0016】
本実施形態に係る熱延鋼板の化学成分のうち、C、Si、Mn、Alが基本元素(主要な合金化元素)である。
【0017】
(C:0.030%以上0.250%以下)
Cは鋼板強度を確保する上で重要な元素である。C含有量が0.030%未満では、引張強度500MPa以上を確保することができない。したがって、C含有量は0.030%以上とし、好ましくは0.050%以上である。
一方、C含有量が、0.250%超になると、溶接性が悪くなるので、上限を0.250%とする。好ましくは、C含有量が0.200%以下、さらに好ましくは、0.150%以下である。
【0018】
(Si:0.05%以上2.50%以下)
Siは、固溶強化により材料強度を高めることができる重要な元素である。Si含有量が0.05%未満では、降伏強度が低下するため、Si含有量は0.05%以上とする。Si含有量は好ましくは、0.10%以上、さらに好ましくは0.30%以上である。
一方、Si含有量が2.50%超では、表面性状劣化を引き起こすため、Si含有量は2.50%以下とする。Si含有量は好ましくは2.00%以下、より好ましくは1.50%以下である。
【0019】
(Mn:1.00%以上4.00%以下)
Mnは、鋼板の機械的強度を高める上で有効な元素である。Mn含有量が1.00%未満では、500MPa以上の引張強度を確保することができないため好ましくない。したがって、Mn含有量は、1.00%以上とする。Mn含有量は好ましくは1.50%以上であり、より好ましくは2.00%以上である。
一方、Mnを過剰に添加すると、Mn偏析によって組織が不均一になり、曲げ加工性が低下するため好ましくない。したがって、Mn含有量は4.00%以下とし、好ましくは、3.00%以下、より好ましくは、2.60%以下である。
【0020】
(sol.Al:0.001%以上2.000%以下)
Alは、鋼を脱酸して鋼板を健全化する作用を有する元素である。sol.Al含有量が、0.001%未満では、十分に脱酸できないため、sol.Al含有量は、0.001%以上とする。但し、脱酸が十分に必要な場合、0.01%以上の添加がより望ましい。さらに好ましくは、sol.Al含有量は0.02%以上である。
一方、sol.Al含有量が2.000%超では、溶接性の低下が著しくなるとともに、酸化物系介在物が増加して表面性状の劣化が著しくなるため好ましくない。したがって、sol.Al含有量は2.000%以下とし、好ましくは1.500%以下であり、より好ましくは1.000%以下である。熱間圧延時に二相域圧延となり加工フェライト組織により延性が低下する恐れがあるので、sol.Al含有量はさらに好ましくは0.300%以下である。酸洗後の表面にAlの酸化物含有層が残留し、化成処理性が劣化する恐れがあるので、sol.Al含有量はさらに好ましくは0.150%以下である。表面のAlの酸化物含有層に起因するスリバー疵の発生が懸念されるため、sol.Al含有量は最も好ましくは0.080%以下である。
なお、sol.Alとは、Al2O3等の酸化物になっておらず、酸に可溶する酸可溶Alを意味する。
【0021】
本実施形態に係る熱延鋼板は、化学成分として、不純物を含有する。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップから、または製造環境等から混入するものを指す。例えば、P、S、N等の元素を意味する。これらの不純物は、本実施形態の効果を十分に発揮させるために、以下のように制限することが好ましい。また、不純物の含有量は少ないことが好ましいので、下限値を制限する必要がなく、不純物の下限値が0%でもよい。
【0022】
(P:0.100%以下)
Pは、一般には鋼に含有される不純物であるが、引張強度を高める作用を有するのでPを積極的に含有させてもよい。しかし、P含有量が0.100%超では溶接性の劣化が著しくなるため好ましくない。したがって、P含有量は0.100%以下に制限する。P含有量は好ましくは0.050%以下に制限する。上記作用による効果をより確実に得るためには、P含有量を0.001%以上にしてもよい。
【0023】
(S:0.0200%以下)
Sは、鋼に含有される不純物であり、溶接性の観点からは少ないほど好ましい。S含有量が0.0200%超では溶接性の低下が著しくなると共に、MnSの析出量が増加し、低温靭性が低下するため好ましくない。したがって、S含有量は0.0200%以下に制限する。S含有量は好ましくは0.0100%以下、さらに好ましくは0.0050%以下に制限する。なお、脱硫コストの観点から、S含有量は、0.001%以上としてもよい。
【0024】
(N:0.01000%以下)
Nは、鋼に含有される不純物であり、溶接性の観点からは少ないほど好ましい。N含有量が0.01000%超では溶接性の低下が著しくなるため好ましくない。したがって、N含有量は0.01000%以下に制限し、好ましくは0.00500%以下としてもよい。
【0025】
本実施形態に係る熱延鋼板は、上記で説明した基本元素および不純物に加えて、選択元素を含有してもよい。例えば、上記した残部であるFeの一部に代えて、選択元素として、Ti、Nb、B、V、Cr、Mo、Cu、Co、W、Ni、Ca、Mg、REM、Zrを含有してもよい。これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよい。よって、これらの選択元素の下限値を制限する必要がなく、下限値が0%でもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、上記効果は損なわれない。
【0026】
(Ti:0%以上0.20%以下)
Tiは、TiCとして、鋼板の冷却中又は巻取り中、鋼板組織のフェライト又はベイナイトに析出し、強度の向上に寄与する元素である。また、Tiが0.20%を超えると上記の効果は飽和して経済性が低下する。したがって、Ti含有量は、0.20%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.18%以下、より好ましくは0.15%以下である。上記の効果を好ましく得るためには、Ti含有量は、0.001%以上であればよい。好ましくは0.02%以上である。
【0027】
(Nb:0%以上0.20%以下)
Nbは、Tiと同様に、NbCとして析出し、強度を向上させるとともに、オーステナイトの再結晶を著しく抑制し、フェライトの結晶粒径を微細化する元素である。Nbが0.20%を超えると、上記の効果は飽和して経済性が低下する。したがって、Nb含有量は0.20%以下とする。好ましくは、0.15%以下、より好ましくは、0.10%以下である。上記の効果を好ましく得るために、Nb含有量は、0.001%以上であればよい。好ましくは0.005%以上である。
【0028】
なお、本実施形態に係る熱延鋼板では、化学成分として、質量%で、Ti:0.001%以上0.20%以下、Nb:0.001%以上0.20%以下、のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0029】
(B:0%以上0.010%以下)
Bは粒界に偏析して、粒界強度を向上させることで、打ち抜き時の打ち抜き断面の荒れを抑制することができる。したがって、Bを含有させてもよい。B含有量が0.010%を超えても、上記効果は飽和して、経済的に不利になるので、B含有量の上限は0.010%以下とする。B含有量は、好ましくは、0.005%以下、より好ましくは、0.003%以下である。上記の効果を好ましく得るためには、B含有量は、0.001%以上であればよい。
【0030】
(V:0%以上1.0%以下)(Cr:0%以上1.0%以下)(Mo:0%以上1.0%以下)(Cu:0%以上1.0%以下)(Co:0%以上1.0%以下)(W:0%以上1.0%以下)(Ni:0%以上1.0%以下)
V,Cr,Mo,Cu,Co,W,Niは、いずれも強度を安定して確保するために効果のある元素である。したがって、これらの元素を含有させてもよい。しかし、いずれの元素についても、それぞれ1.0%を超えて含有させても、上記作用による効果は飽和し易く経済的に不利となる場合がある。したがって、V含有量、Cr含有量、Mo含有量、Cu含有量、Co含有量、W含有量およびNi含有量は、それぞれ1.0%以下とすることが好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、V:0.005%以上、Cr:0.005%以上、Mo:0.005%以上、Cu:0.005%以上、Co:0.005%以上、W:0.005%以上およびNi:0.005%以上のうち、少なくとも1種を含有していることが好ましい。
【0031】
(Ca:0%以上0.01%以下)(Mg:0%以上0.01%以下)(REM:0%以上0.01%以下)(Zr:0%以上0.01%以下)
Ca,Mg,REM,Zrは、いずれも介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、靭性を高める作用を有する元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、いずれの元素についてもそれぞれ0.01%を超えて含有させると、表面性状の劣化が顕在化する場合がある。したがって、各元素の含有量はそれぞれ0.01%以下とすることが好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、これらの元素の少なくとも一つの含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、その少なくとも1種である。上記REMの含有量はこれらの元素の少なくとも1種の合計含有量を意味する。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
【0032】
なお、本実施形態に係る熱延鋼板では、化学成分として、質量%で、Ca:0.0003%以上0.01%以下、Mg:0.0003%以上0.01%以下、REM:0.0003%以上0.01%以下、Zr:0.0003%以上0.01%以下、のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0033】
上記した鋼成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、鋼成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
【0034】
2.表面性状
本実施形態に係る熱延鋼板の表面性状では、凹み部の曲率半径を制御することが重要である。凹み部の曲率半径r(単位:μm)の求め方は、下記の通りである。接触粗さ計または非接触粗さ計を用いて、鋼板の圧延方向(L方向)および圧延方向と直角な方向(C方向)に対し、10mm以上の間隔を空けて4mm以上の長さで、高さプロファイルをそれぞれ任意の5箇所で測定する。得られた合計10本の高さプロファイルについて、それぞれ最も高さが低かった場所を凹み部Hとみなし、合計10箇所の凹み部Hの曲率半径rを測定する。各凹み部Hの曲率半径r(単位:μm)は、凹み部Hの高さR
1(μm)と凹み部から高さプロファイル上で5μm離れた測定点2点の高さの平均R
2(μm)を用いて、下記式(1)で求める。
r=(25+|R
2-R
1|
2)/2|R
2-R
1|・・・(1)
図1(a)は熱延鋼板100の板面を平面視したときの模式図であり、
図1(b)は板厚方向から見たときの側面図である。ここで、Xは圧延方向(L方向)又は圧延方向に直角な方向(C方向)を表し、YはXに直角な方向を表す。
「凹み部の高さR
1」は、
図1(b)に示したように、当該高さプロファイルにおいて、最も高さが高い位置と最も高さが低い位置(凹み部H)との平均の高さ位置を平均高さ位置Iとしたときの、平均高さ位置Iから凹み部Hまでの高さ方向の距離を単位μmで表したものである。また、「凹み部Hから高さプロファイル上で5μm離れた測定点2点」は、
図1に示した点A及び点Bであり、当該高さプロファイルが鋼板の圧延方向におけるプロファイルであれば、凹み部から圧延方向に5μm離間した測定点2点を表し、当該高さプロファイルが鋼板の圧延方向と直角方向におけるプロファイルであれば、凹み部から圧延方向と直角方向に5μm離間した測定点2点を表す。R
2は、点Aの高さR
21と点Bの高さR
22との平均値である。また、上述の「距離」は、平均高さ位置Iからの高さ方向の距離の絶対値を表し、その向きは問わないものとする。
【0035】
本発明者らの鋭意検討の結果、測定した10点の曲率半径rの平均値が10μm以上である鋼板では、母材の鋼板組織に関わらず、疲労の20万回時間強度が良好となることを見出した。好ましくは、曲率半径rの平均値が16μm以上、さらに好ましくは21μm以上となることである。
【0036】
また、本実施形態に係る熱延鋼板の表面性状は、深さ(上記式(1)のR1)が10μm以上の凹み部(深さが10μm以上の凹み部をスケール傷部と呼称する場合がある)の面積率が30%以下であることが望ましい。スケール傷部の面積率が30%超では、曲げ加工時の初期にスケール傷部の局所へのひずみ集中が生じ、曲げ内割れの亀裂発生の原因となるため好ましくない。
【0037】
スケール傷部の詳細な定義の仕方は以下の通りである。焦点深度の解析によって対象の3D画像データを取得するデジタル顕微鏡などの装置(例えばRH-2000(株式会社ハイロックス製))を用いて、熱延鋼板の表面3000μm×3000μmの範囲の3D画像データを取得する。
図2(a)は熱延鋼板100の板面を平面視したときの模式図であり、
図2(b)は熱延鋼板100から取得された3D画像データの一例である。
図2(b)に示す画像内において、最も高さが高い位置と最も高さが低い位置との平均の高さ位置を平均高さ位置Iとし、平均高さ位置Iよりも高さ位置が10μm以上低い領域をスケール傷部10と定義し、3D画像データを取得する装置でスケール傷部10の表面積を測定する。熱延鋼板100の表面3000μm×3000μmの範囲の3D画像データを用いて、当該範囲に含まれる全てのスケール傷部10の表面積を当該範囲の合計表面積で除することにより、スケール傷部10の面積率を算出する。
つまり、3000μm×3000μmの範囲内に、平均高さ位置よりも高さ位置が10μm以上低い領域が存在しない場合には、その範囲内にはスケール傷部が存在しないこととなる。
【0038】
3.鋼板組織
本実施形態に係る熱延鋼板は、鋼組織の構成相として、フェライト、パーライト、ベイナイト、フレッシュマルテンサイトおよび焼き戻しマルテンサイト、パーライト、残留オーステナイトなどのいずれの相を有していても良く、組織中に炭窒化物等の化合物を含有しても構わない。
例えば、面積%で、80%以下のフェライトや、0~100%のベイナイトまたはマルテンサイト、その他に残留オーステナイト:25%以下、パーライト:5%以下を含むことができる。
【0039】
4.機械特性
本実施形態に係る熱延鋼板は、自動車の軽量化に寄与する十分な強度として、500MPa以上の引張強度(TS)を有する。一方、本実施形態の構成で1470MPa超とすることは困難であるため、実質的な引張強度の上限は1470MPa以下である。そのため、引張強度の上限は特に定める必要はないが、本実施形態において実質的な引張強度の上限を1470MPaとすることができる。
なお、引張試験はJIS Z2241(2011)に準拠して行えばよい。
本実施形態に係る熱延鋼板は、優れた耐疲労特性を有する。そのため、本実施形態に係る熱延鋼板の幅方向1/4の位置から、圧延方向と直角な方向(C方向)が長手方向となるようにJIS Z 2275に記載の試験片を採取し、JIS Z 2275に準拠した平面曲げ疲労試験を実施して、破断繰り返し回数が20万回となるような時間強度を20万回時間強度としたとき、20万回時間強度が450MPa以上か、引張強さの55%以上である。
さらに、本実施形態に係る熱延鋼板は優れた曲げ加工性を有することが好ましい。そのため、本実施形態に係る熱延鋼板では、曲げ内割れ性の指標値とする限界曲げR/tの値が2.5以下であることが好ましい。R/tの値は、例えば、熱延鋼板の幅方向1/2位置から、短冊形状の試験片を切り出し、曲げ稜線が圧延方向(L方向)に平行である曲げ(L軸曲げ)と、曲げ稜線が圧延方向に直角な方向(C方向)に平行である曲げ(C軸曲げ)の両者について、JIS Z2248(Vブロック90°曲げ試験)に準拠して曲げ加工を行い、曲げ内側に生じた亀裂を調査して求めることができる。亀裂の発生しない最小曲げ半径を求め、L軸とC軸の最小曲げ半径の平均値を板厚で除した値を限界曲げR/tとして曲げ加工性の指標値とすることができる。
【0040】
5.製造方法
次に、本実施形態に係る熱延鋼板の好ましい製造方法について説明する。
【0041】
熱間圧延に先行する製造工程は特に限定するものではない。すなわち、高炉や電炉等による溶製に引き続き、各種の二次製錬を行い、次いで、通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造、または薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。連続鋳造の場合には、鋳造スラブを一度低温まで冷却したのち、再度加熱してから熱間圧延してもよいし、鋳造スラブを低温まで冷却せずに、鋳造後にそのまま熱延してもよい。原料にはスクラップを使用しても構わない。
【0042】
鋳造したスラブに、加熱工程を施す。この加熱工程では、スラブを1100℃以上1300℃以下の温度に加熱後、30分以上保持する。TiやNbが添加されている場合には1200℃以上1300℃以下の温度に加熱後、30分以上保持する。加熱温度が1200℃未満では、析出物元素であるTi,Nbが十分に溶解しないので、後の熱間圧延時に十分な析出強化が得られない上、粗大な炭化物として残存することで、成形性を劣化させるため好ましくない。したがって、Ti、Nbが含まれている場合にはスラブの加熱温度は1200℃以上とする。一方、加熱温度1300℃超では、スケール生成量が増大し、歩留りが低下するため、加熱温度は1300℃以下とする。加熱保持時間は、Ti、Nbを十分に溶解させるため、30分以上とすることが好ましい。また、過度のスケールロスを抑制するために加熱保持時間を10時間以下とすることが好ましく、5時間以下とすることがさらに好ましい。
【0043】
次に、加熱されたスラブを粗圧延して、粗圧延板とする粗圧延工程を施す。
粗圧延は、スラブを所望の寸法形状にすればよく、その条件は特に限定しない。なお、粗圧延板の厚さは、仕上げ圧延工程における、圧延開始時から圧延完了時までの熱延板先端から尾端までの温度低下量に影響を及ぼすため、これを考慮して決定することが好ましい。
【0044】
粗圧延板に、仕上げ圧延を施す。この仕上圧延工程では、多段仕上げ圧延を行う。本実施形態では、下記式(2)を満たす条件にて1200℃~850℃の温度域で仕上げ圧延を行う。
F≧0.5・・・(2)
Fは仕上げ圧延の開始から完了までの時間(x秒)のうち、鋼板がロールと接している時間(y秒)を除いた総時間(x-y秒)のうち、鋼板の表面が水膜で覆われている時間(z秒)の比率を示す。つまり、F=z/(x-y)で示される。
仕上げ圧延中に成長するスケールも鋼板に凹み部を形成する原因になり得るが、鋼板表面を水膜で覆うことでその成長を抑制することができるため、鋼板表面を水膜で覆う時間が長いほど望ましい。F≧0.5を満たせば、良好な疲労の時間強度を得ることができる、好ましくはF≧0.6であり、更に好ましくはF≧0.7である。
鋼板表面を水膜で覆う方法はロール間で水をスプレー状に吹き付けることなどが挙げられる。
【0045】
また、仕上げ圧延では下記式(3)を満たすことが望ましい。
K/Si*≧1.2・・・(3)
ここで、Si≧0.35のときはSi*=140√Siとし、Si<0.35のときはSi*=80とする。なお、Siは鋼板のSi含有量(質量%)を表す。
Si*は凹み部の形成しやすさを示す鋼板成分に関するパラメータである。鋼板成分のSi量が多いと、熱間圧延時に表層に生成するスケールは、比較的デスケーリングされやすく鋼板に凹み部を作りにくいウスタイト(FeO)から、鋼板に根を張るように成長して凹み部を作りやすいファイアライト(Fe2SiO4)に変化する。そのため、Si量は大きいほど、すなわちSi*は大きいほど凹み部が形成しやすい。ここで、Si添加による凹み部の形成しやすさはSiを0.35質量%以上添加した時に特に効果が顕著になる。そのため0.35質量%以上の添加時にはSi*はSiの関数となるが、0.35質量%未満では定数となる。
【0046】
また、上記式(3)におけるKは、下記式(4)で表される。K=Σ((FTn-930)×Sn)・・・(4)
ここで、FTnは仕上げ圧延のn段目における鋼板温度(℃)、Snは仕上げ圧延のn-1段目とn段目の間に水をスプレー状に鋼板に吹き付けるときの時間当たりの吹き付け量(m3/min)である。
Kは凹み部の形成しにくさを示す製造条件のパラメータである。Kは仕上げ前のデスケーリングで剥離しきれなかったスケールや、仕上げ圧延中に再度形成したスケールを、仕上げ圧延中にデスケーリングする上での効果を示す項であり、高い温度において、多量の水をスプレー状に鋼板に吹き付けることでよりデスケーリングしやすくなることを示す。
なお、デスケーリング制御のメカニズムから考えると、スケール傷部の形成しにくさを示す製造条件の本来のパラメータは「温度に関するパラメータ」と「水の吹付量に関するパラメータ」との積を、仕上げ圧延を行う温度範囲で積分したものになると考えられる。これは、より高温でより多くの水を吹きつけることでデスケーリングを助長するという考え方によるものである。
本発明者らは、製造条件を制御する上でより簡易なパラメータとするため、上記の本来のパラメータを各ロール間で分割したものを総和することに相当するパラメータK(式4)を用いることで、表面粗さの制御が可能であることを見出している。ここで、パラメータKは仕上げ圧延機のスタンド数やロール間距離、通板速度によっては、上記の本来のパラメータとかい離してくることが考えられる。しかしながら、本発明者らは、仕上げ圧延スタンド数5~8台、ロール間距離4500mm~7000mm、通板速度(最終段通過後の速度)400~900mpmの範囲内であれば、上記のパラメータKを用いて表面粗さの制御が可能なことを確認している。
【0047】
上記式(3)に示すように、凹み部の形成しにくさを示す製造条件のパラメータKと凹み部の形成しやすさを示す鋼板成分に関するパラメータSi*の比が1.2以上であれば、スケール傷部の面積率を30%未満とすることができ、曲げ内側の亀裂の発生を抑制できる。
F≧0.5と同時にK/Si*≧1.2を満たすとF≧0.5のみを満たすときに比べ、スケール傷部の面積率を小さくでき、曲げ内側の亀裂の発生をより抑制できるため好ましい。
【0048】
仕上げ圧延に続いて、冷却工程および巻取り工程を施す。
本実施形態の熱延鋼板では、ベース組織の制御ではなく、表面性状を制御することによって、上述の好適な特性を達成しているため、冷却工程および巻取り工程の条件は特に限定しない。したがって、多段仕上げ圧延後の冷却工程、および巻取り工程は、常法によって行えば良い。
【0049】
熱延鋼板には、冷却後に必要に応じて酸洗を施してもよい。酸洗処理は、例えば、3~10%濃度の塩酸に85℃~98℃の温度で20秒~100秒で行えばよい。
【0050】
熱延鋼板には、冷却後に必要に応じてスキンパス圧延を施してもよい。スキンパス圧延には、加工成形時に発生するストレッチャーストレインの防止や、形状矯正の効果がある。
【実施例】
【0051】
以下に本発明に係る熱延鋼板を、例を参照しながらより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明の熱延鋼板の例であり、本発明の熱延鋼板は以下の態様に限定されるものではない。以下に記載する実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、これらの一条件例に制限されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用することができる。
【0052】
表1に示す化学成分の鋼を鋳造し、鋳造後、そのままもしくは一旦室温まで冷却した後に再加熱し、1200℃~1300℃の温度範囲に加熱し、その後、1100℃以上の温度で、表2及び表3に記載の粗圧延板板厚まで、スラブを粗圧延して粗圧延板を作製した。
粗圧延板に対して、以下の3種類の仕上げ圧延機を用いて仕上げ圧延を行った。
圧延機A:スタンド数7台、ロール間距離5500mm、通板速度700mpm
圧延機B:スタンド数6台、ロール間距離5500mm、通板速度600mpm
圧延機C:スタンド数7台、ロール間距離6000mm、通板速度700mpm
仕上げ圧延のn段目の鋼板温度FTnを表2及び表3に、仕上げ圧延のn-1段目とn段目の間に水をスプレー上に鋼板に吹き付けるときの時間当たりの吹き付け量(m3/min)Snを表4及び表5に示した。また、用いた仕上げ圧延機についても表4及び表5に示した。
仕上げ圧延完了後、熱延板組織をベイナイト、フェライト-ベイナイト、マルテンサイトとすることを狙いとして、以下に示す、各冷却パターンで冷却および巻取りを行った。
【0053】
(ベイナイトパターン:冷却パターンB)
本パターンで作製した熱延鋼板は、仕上げ圧延後、20℃/秒以上の冷却速度で、巻取り温度450℃~550℃まで冷却後、コイル状に巻き取る、冷却工程および巻取り工程を施した。
【0054】
(フェライト-ベイナイトパターン:冷却パターンF+B)
本パターンで作製した熱延鋼板は、仕上げ圧延後、20℃/秒以上の平均冷却速度で600~750℃の冷却停止温度範囲まで冷却し、冷却停止温度範囲内で2~4秒保持後、さらに冷却速度20℃/秒以上の平均冷却速度で、500~600℃の巻取り温度でコイル状に巻き取る冷却工程および巻取り工程を施すことによって得た。なお、この工程において、温度、保持時間等を明確に決定する必要がある場合には、以下の式のAr3温度を用いて温度、時間を設定した。なお、以下の式におけるC、Si、Mn、Ni、Cr、Cu、Moはそれぞれの元素の単位:質量%での含有量を表す。
Ar3(℃)=870-390C+24Si-70Mn-50Ni-5Cr-20Cu+80Mo
【0055】
(マルテンサイトパターン:冷却パターンMs)
本パターンで作製した熱延鋼板は、仕上げ圧延完了後、20℃/秒以上の平均冷却速度で、100℃以下の巻取り温度まで冷却後、コイル状に巻き取る、冷却工程および巻取り工程を施して製造した。
【0056】
各熱延鋼板に対し、3~10%濃度の塩酸に85℃~98℃の温度で20秒~100秒の酸洗処理を行い、スケールを剥離させた。
凹み部の曲率半径は以下のように測定した。接触粗さ計を用いて、鋼板の圧延方向および圧延方向と直角方向に対し、10mm以上の間隔を空けて4mm以上の長さで、高さプロファイルをそれぞれ5箇所で測定し,上記で定義した凹み部の曲率半径を算出した。
スケール傷部の面積率は以下のようにして測定した。マイクロスコープ(株式会社ハイロックス製・RH-2000)を用いて、熱延鋼板の表面3000μm×3000μmの範囲の3D画像データを取得し、上記で定義したスケール傷部の面積率を算出した。
【0057】
<熱延鋼板の特性の評価方法>
引張強度は、熱延鋼板の幅方向1/4の位置から、圧延方向と直角な方向(C方向)が長手方向となるように、採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠して引張試験を実施し、引張最大強さTS(MPa)、突合せ伸び(全伸び)EL(%)を求めた。TS≧500MPaを満たした場合、高強度熱延鋼板であるとして合格とした。
疲労強度は、熱延鋼板の幅方向1/4の位置から、圧延方向と直角な方向(C方向)が長手方向となるようにJIS Z 2275に記載の試験片を採取し、JIS Z 2275に準拠した平面曲げ疲労試験を実施して求めた。破断繰り返し回数が20万回となるような時間強度を20万回時間強度とした。20万回時間強度が450MPa以上か、引張強さの55%以上であった場合、耐疲労特性に優れた熱延鋼板であるとして合格とした。
【0058】
曲げ試験片は、熱延鋼板の幅方向1/2位置から、100mm×30mmの短冊形状の試験片を切り出し、以下の試験に供した。
曲げ稜線が圧延方向(L方向)に平行である曲げ(L軸曲げ)と、曲げ稜線が圧延方向に直角な方向(C方向)に平行である曲げ(C軸曲げ)の両者について、Z2248(Vブロック90°曲げ試験)に準拠して曲げ加工性を調査し、亀裂の発生しない最小曲げ半径を求め、L軸とC軸の最小曲げ半径の平均値を板厚で除した値を限界曲げR/tとして曲げ性の指標値とした。R/t≦2.5であった場合、曲げ加工性に優れた熱延鋼板であると判断した。
ただし、亀裂の有無は、Vブロック90°曲げ試験後の試験片を曲げ方向と平行でかつ板面に垂直な面で切断した断面を鏡面研磨後、光学顕微鏡で亀裂を観察し、試験片の曲げ内側に観察される亀裂長さが30μmを超える場合に亀裂有と判断した。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
表1~表7に示したように、本発明の条件を満たす実施例では、全ての機械特性が好適であった。一方、本発明の条件を少なくとも一以上充足しない比較例では、一以上の機械特性が好適ではなかった。
【符号の説明】
【0067】
X 圧延方向(L方向)又は圧延方向と直角の方向(C方向)
Y Xと直角の方向
T 板厚方向
H 凹み部
I 平均高さ位置
R1 凹み部Hの高さ
R2 凹み部Hから5μm離れた2点の高さの平均
10 スケール傷部
100 熱延鋼板