(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】蓄電デバイス正極用分散剤
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20230721BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230721BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230721BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2021513165
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051591
(87)【国際公開番号】W WO2020208881
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/015908
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】木下 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】井樋 昭人
(72)【発明者】
【氏名】平石 篤司
(72)【発明者】
【氏名】矢野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】小山 皓大
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-170218(JP,A)
【文献】特開2018-170219(JP,A)
【文献】国際公開第2013/150778(WO,A1)
【文献】特開2015-128006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B
1及び下記一般式(3)で表される構成単位B
2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含み、且つ、構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上の共重合体であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上である、蓄電デバイス正極用分散剤。
【化1】
上記式中、R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
10、R
11、R
12は、同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、X
1は酸素原子又はNH を示し、R
4は炭素数16~30の炭化水素基を示し、X
2は酸素原子を示し、R
8は炭素数2~4の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、pは1、R
9は水素原子又はメチル基を示し、X
3は
、炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
【請求項2】
前記共重合体における、構成単位Aの含有量に対する構成単位Bの含有量の比(構成単位B/構成単位A)が0.2以上1.9以下である、請求項1記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項3】
前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が80質量%以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項4】
前記共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量が5質量%以上65質量%以下である、請求項1から3のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項5】
前記共重合体は、さらに下記一般式(4)で表される構成単位Cを含む、請求項1から4いずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【化2】
上記式中、R
13、R
14、R
15は、同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R
16は炭素数2以上4以下の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、X
4は、酸素原子、qは2以上であり、R
17は、水素原子又は炭化水素基を示す。
【請求項6】
前記共重合体の重量平均分子量が1,000以上500,000以下である、請求項1から
5のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項7】
前記構成単位Bが、2-ヒドロキシエチルメタクリレート,メトキシエチルメタクリレート,4-ビニルピリジン,メタクリル酸,及びメタクリルアミドから選ばれる少なくとも1種に由来の構成単位である、請求項1から6のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤。
【請求項8】
導電材、請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤、及び溶媒を含む電池用導電材スラリー。
【請求項9】
前記導電材は、カーボンナノチューブを含む、請求項8に記載の電池用導電材スラリー。
【請求項10】
前記導電材は、アセチレンブラックを含む、請求項8に記載の電池用導電材スラリー。
【請求項11】
正極活物質、導電材、請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤、及び溶媒を含む電池用正極ペースト。
【請求項12】
前記溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンである、請求項11に記載の電池用正極ペースト。
【請求項13】
電池用正極ペーストの製造方法であって、
請求項
8から
10のいずれかの項に記載の電池用導電材スラリーと正極活物質とを混合する工程を含む、電池用正極ペーストの製造方法。
【請求項14】
請求項1から7のいずれかの項に記載の蓄電デバイス正極用分散剤を含む電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス正極用分散剤、及びこれを含む、電池用導電材スラリー、電池用正極ペースト、並びに電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォンの普及や自動車市場でのゼロエミッション規制、さらには自然エネルギー活用の拡大などにより、蓄電デバイス、特にリチウムイオン二次電池の需要は大きくなってきている。需要拡大に伴い、小型、軽量、高容量、高出力、高エネルギー密度など、多くの要求があり、中でもエネルギー密度を高める要望は非常に高まっている。エネルギー密度を高めるために、使用する活物質の高容量化、電極の圧密化、電池の高電圧化などの検討がなされている。
【0003】
リチウムイオン電池は、一般的に金属箔上に活物質等を含む合材層が形成された電極を備えており、合材層の形成に用いられるペーストには、導電性の向上あるいは抵抗を低減する観点からカーボンブラックやカーボンナノチューブ等の導電材が使用され、ペースト中において導電材を効率よく分散し均一に配合するために分散剤が使用されるようになってきている。
【0004】
特開2012-166154号公報(特許文献1)には、分散剤であるステアリルメタクリレートとポリオキシプロピレン(平均付加モル数14)メタクリレートの共重合体と、カーボンブラック等の炭素材料と、有機溶媒と含む炭素材料分散液が開示されている。特開平1-254237号公報(特許文献2)には、ステアリルメタクリレートに由来の構成単位とメトキシポリエチレングリコール(平均付加モル数23)メタクリレートに由来の構成単位とを含む共重合体が分散剤として開示されている。特許第6285857号公報(特許文献3)には、正極活物質と、カーボンブラックと、溶媒と、例えばステアリルメタクリレートとPEG(2)MAの共重合体とを含む電池用正極ペーストが開示されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、一態様において、蓄電デバイス正極用分散剤であって、
下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B
1及び下記一般式(3)で表される構成単位B
2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含み、且つ、構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上の共重合体であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上である、蓄電デバイス正極用分散剤に関する。
【化1】
上記式中、R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
10、R
11、R
12は、同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、X
1は酸素原子又はNH を示し、R
4は炭素数16~30の炭化水素基を示し、X
2は酸素原子を示し、R
8は炭素数2~4の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、pは1、R
9は水素原子又はメチル基を示し、X
3は、カルボシキル基、アミド基、又は炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
【0006】
本発明は、別の態様において、導電材、本発明の蓄電デバイス正極用分散剤、及び溶媒を含む、電池用導電材スラリーに関する。
【0007】
本発明は、別の態様において、正極活物質、導電材、本発明の蓄電デバイス正極用分散剤、及び溶媒を含む、電池用正極ペーストに関する。
【0008】
本発明は、別の態様において、電池用正極ペーストの製造方法であって、
本発明の電池用導電材スラリーと正極活物質とを混合する工程を含む、電池用正極ペーストの製造方法に関する。
【0009】
本発明は、別の態様において、本発明の蓄電デバイス正極用分散剤を含む電池用正極に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、比較例8の耐電圧性評価用ペーストを用いて形成されたCV測定用電極についてのCV測定結果である。
【
図2】
図2は、比較例8、及び比較例7の耐電圧性評価用ペーストを用いて形成されたCV測定用電極についてのCV測定結果、及び、分散剤由来の分解反応量を表す面積Sの算出の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
電池のエネルギー密度を高めるための高電圧化においては、導電材を分散する分散剤に高電圧耐性が足りないために、充電時に分散剤が分解し、ガス発生等による電池の劣化が進行する問題が発生している。
そこで、本発明は、高電圧領域下でも分解が抑制された蓄電デバイス正極用分散剤、及びこれを含む、電池用導電材スラリー、電池用正極ペースト、並びに電池用正極を提供する。
【0012】
本発明は、電池用正極ペースト(以下「正極ペースト」と略称する場合もある。)に、導電材を分散させるための蓄電デバイス正極用分散剤(以下「分散剤」と略称する場合もある。)として特定の共重合体が含まれることにより、分散剤の分解が抑制されて、電池の経時劣化が抑制できるという知見に基づく。
【0013】
本発明において、本発明の効果発現のメカニズムの詳細については明らかではないが、以下のように推察される。
【0014】
上記の通り、高電圧領域下での分散剤の分解は、電池の経時劣化の原因の一つとなっている。本発明の分散剤は、導電材に吸着する構成単位Aと、溶媒に対する溶解性を制御する構成単位Bを含む共重合体を含む。そのため、構成単位Aが導電材に吸着した状態で、構成単位Bが溶媒側へ広がりその立体反発によって、導電材間に強い立体的斥力が作用するので、導電材を溶媒中で高度に分散させることができる。加えて、本発明の分散剤において、高電圧領域下で分解する官能基が少ないか又は含まれないことにより、分散剤の分解が抑制されているものと推察される。ただし、本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されない。
【0015】
[蓄電デバイス正極用分散剤]
本発明は、一態様において、蓄電デバイス正極用分散剤であって、前記分散剤は、下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B1及び下記一般式(3)で表される構成単位B2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含み、且つ、構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上の共重合体であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上である、分散剤に関する。
【0016】
【0017】
上記式中、R1、R2、R3、R5、R6、R7、R10、R11、R12は、同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、X1は酸素原子又はNH を示し、R4は炭素数16~30の炭化水素基を示し、X2は酸素原子を示し、R8は炭素数2~4の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、pは1、R9は水素原子又はメチル基を示し、X3は、カルボシキル基、アミド基、又は炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
【0018】
本発明によれば、導電材の分散性が良好で高電圧領域下でも分解が抑制された蓄電デバイス正極用分散剤、及びこれを含む、電池用導電材スラリー、電池用正極ペースト、並びに電池用正極を提供できる。本発明の蓄電デバイス正極用分散剤、又は本発明の電池用導電材スラリーを含む電池用正極ペーストを用いて正極合材層を形成すれば、直流抵抗が低く、電池容量の経時的減少が抑制された電池用正極を提供できる。
【0019】
本発明において、「構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上の共重合体である」とは、共重合体の全構成単位に対する、前記構成単位Aの含有量と前記構成単位Bの含有量の合計が、80質量%以上であることを意味する。共重合体の全構成単位に対する、前記構成単位Aの含有量と前記構成単位Bの含有量(質量%)の合計は、共重合体の合成に使用されるモノマー全量に対する、後述のモノマーAとモノマーBの使用量の割合とみなすことができる。
【0020】
[構成単位A]
構成単位Aは、前記共重合体のうちの、導電材の表面に吸着する成分である。前記一般式(1)において、導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Aの導入の容易性の観点から、から、R1及びR2は水素原子が好ましく、R3は水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0021】
前記一般式(1)において、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、R4はアルキル基又はアルケニル基が好ましく、同様の観点から、R4の炭素数は、16以上であり、また同様の観点から、30以下であり、24以下が好ましく、22以下がより好ましく、20以下がさらに好ましく、18以下がさらに好ましい。R4の炭素数は、具体的には、16以上30以下であり、16以上24以下が好ましく、16以上22以下がより好ましく、16以上20以下がさらに好ましく、16以上18以下がさらにより好ましい。R4としては、より具体的には、セチル基、ステアリル基、オレイル基、ベヘニル基等が挙げられる。
【0022】
前記一般式(1)において、導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Aの導入の容易性の観点から、X1は酸素原子が好ましい。
【0023】
前記一般式(1)で表される構成単位Aは、導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Aの導入の容易性の観点から、前記一般式(1)におけるR1及びR2が水素原子であり、R3が水素又はメチル基であり、X1が酸素原子であり、R4の炭素数が16~20の構成単位a1であることが好ましい。
【0024】
共重合体を合成するにあたり、構成単位Aを与えるモノマー(以下、モノマーAともいう)の具体例としては、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のエステル化合物;パルミチル(メタ)アクリルアミド、ステアリル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミド等のアミド化合物が挙げられる。なかでも、導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Aの導入の容易性の観点から、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましく、パルミチル(メタ)アクリレート及びステアリル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ステアリル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がさらに好ましく、ステアリルメタクリレート(以下、「SMA」ともいう)がさらに好ましい。
【0025】
共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量は、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、35質量%以上であり、38質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、同様の観点から、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下がさらにより好ましく、55質量%以下がさらにより好ましく、50質量%以下がさらにより好ましい。これらの観点を総合すると、本発明に用いる共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量は、35質量%以上90質量%以下が好ましく、35質量%以上80質量%以下がより好ましく、35質量%以上70質量%以下がさらに好ましく、35質量%以上60質量%以下がさらにより好ましく、38質量%以上55質量%以下がさらにより好ましく、40質量%以上50質量%以下がさらにより好ましい。尚、本発明において、共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量は、重合に用いるモノマー全量に対するモノマーAの使用量の割合とみなすことができる。
【0026】
[構成単位B]
構成単位Bは、共重合体のうちの溶媒への溶解を制御する成分である。当該溶媒は、後述の、本発明の、電池用導電材スラリー(以下、「導電材スラリー」と略称する場合もある。)、及び電池用正極ペースト(以下、「正極ペースト」と略称する場合もある。)に含まれる溶媒である。前記一般式(2)において、導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Bの導入の容易性の観点から、R5及びR6は水素原子が好ましく、R7は水素原子またはメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。導電材の分散性向上の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、R9は水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Bの導入の容易性の観点から、R8はエチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0027】
前記一般式(3)において、導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Bの導入の容易性の観点から、R10及びR11は水素原子が好ましく、R12は水素原子またはメチル基が好ましい。X3は、炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基、カルボキシル基、アミド基が好ましい。
【0028】
構成単位Bは、導電材の分散性向上の観点から、前記一般式(2)において、R5及びR6は水素原子、R7は水素原子またはメチル基、X2が酸素原子、pが1、R8がエチレン基、R9が水素原子である構成単位b11、前記一般式(2)において、R5及びR6は水素原子、R7は水素原子またはメチル基、X2が酸素原子、pが1、R8がエチレン基、R9がメチル基である構成単位b12、前記一般式(3)において、R10及びR11は水素原子、R12は水素原子またはメチル基、X3が炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基である構成単位b21、前記一般式(3)において、R10及びR11は水素原子、R12は水素原子またはメチル基、X3がCOOHである構成単位b22、及び前記一般式(3)において、R10及びR11は水素原子、R12は水素原子またはメチル基、X3がCONH2である構成単位b23から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0029】
共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量は、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらにより好ましく、35質量%以上がさらにより好ましく、40質量%がさらにより好ましく、同様の観点から、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。これらの観点を総合すると、本発明に用いる共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量は、5質量%以上65質量%以下が好ましく、10質量%以上65質量%以下がより好ましく、20質量%以上65質量%以下がより好ましく、30質量%以上65質量%以下がさらにより好ましく、35質量%以上65質量%以下がさらにより好ましく、40質量%以上60質量%以下がさらにより好ましい。尚、本発明において、共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量は、重合に用いるモノマー全量に対するモノマーBの使用量の割合とみなすことができる。
【0030】
共重合体における、構成単位Aと構成単位Bの質量比(構成単位B/構成単位A)は、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましく、0.6以上がさらにより好ましく、0.7以上がさらにより好ましく、0.8以上がさらにより好ましく、そして、同様の観点から、1.9以下が好ましく、1.85以下がより好ましく、1.8以下がさらに好ましく、1.7以下がさらに好ましく、1.6以下がさらにより好ましく、1.5以下がさらにより好ましい。これらの観点を総合すると、前記質量比(構成単位B/構成単位A)は、0.2以上1.9以下が好ましく、0.2以上1.85以下がより好ましく、0.2以上1.8以下がさらに好ましく、0.3以上1.8以下がよりさらに好ましく、0.5以上1.7以下がさらにより好ましく、0.6以上1.6以下がさらにより好ましく、0.7以上1.6以下がさらにより好ましく、0.8以上1.5以下がさらにより好ましい。尚、本発明において、質量比(構成単位B/構成単位A)は、共重合体の重合に用いるモノマーBとモノマーAの質量比とみなすことができる。
【0031】
構成単位Bとしては、非イオン性モノマー由来の構造、又は重合後に非イオン性基を導入した構造等が挙げられる。
共重合体を合成するにあたり、構成単位Bを与えるモノマー(以下、モノマーBともいう)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらの中でも、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、4-ビニルピリジン、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリルアミドから選ばれる少なくとも1種が好ましく、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」ともいう)、メトキシエチルメタクリレート(以下、「PEGMA(EO1)」ともいう)、4-ビニルピリジン(以下、「4-VPy」ともいう)、メタクリル酸(以下、「MAA」ともいう)、及びメタクリルアミド(以下、「MAAm」ともいう)から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0032】
共重合体の全構成単位に対する、前記構成単位Aの含有量と前記構成単位Bの含有量の合計は、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、80質量%以上であり、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましく、100質量%がさらにより好ましい。
【0033】
[構成単位C]
共重合体が、平均付加モル数が2モル以上のアルキレンオキサイド鎖を含む構成単位Cを含む場合、その含有量は10質量%以下であることを要するが、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、構成単位Cの含有量は、7質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、実質的に0質量%以下が更に好ましく、0質量%が更により好ましい。
【0034】
共重合体は、前記構成単位Cとして、例えば、下記一般式(4)で表される構成単位を含む場合がある。
【0035】
【0036】
上記式中、R13、R14、R15は、同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R16は炭素数2以上4以下の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、X4は、酸素原子、qは2以上であり、R17は、水素原子又は炭化水素基を示す。
【0037】
導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Cの導入の容易性の観点から、R13及びR14は水素原子が好ましく、R15は水素原子またはメチル基が好ましく、R17は水素原子またはメチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。導電材の分散性向上の観点及び共重合体への構成単位Cの導入の容易性の観点から、R16はエチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0038】
qは、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上から、2以上であり、50以下が好ましく、2以上23以下がより好ましく、2以上10以下がさらに好ましく、2以上5以下がさらにより好ましい。
【0039】
構成単位Cとしては、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上から、R13及びR14が水素原子であり、R15が水素原子またはメチル基であり、R16はエチレン基であり、R17が水素原子またはメチル基であり、qが2以上10以下である構成単位が好ましく、R13及びR14が水素原子であり、R15がメチル基であり、R16はエチレン基であり、R17が水素原子またはメチル基であり、qが2以上10以下である構成単位がより好ましい。
【0040】
共重合体を合成するにあたり、構成単位Cを与えるモノマー(以下、「モノマーC」ともいう)としては、導電材の分散性向上の観点、分散剤の分解抑制の観点、電池の直流抵抗低減の観点及び電池容量維持率の向上から、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数=9)(以下、「PEGMA(EO9)」ともいう)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数=2)(以下、「PEGMA(EO2)」ともいう)が挙げられる。
【0041】
平均付加モル数が2モル以上のアルキレンオキサイド鎖を含む構成単位C中の一般式(4)で表される構成単位の割合は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、一方、100質量%以下が好ましい。尚、共重合体の重合に用いられ、構成単位Cを与えるモノマーをモノマーCと称し、共重合体の重合に用いられ、一般式(4)で表される構成単位を与えるモノマーをモノマーC1と称することとすると、構成単位Cの全構成単位中の一般式(4)で表される構成単位の割合(質量%)は、モノマーC全量に対するモノマーC1の割合とみなすことができる。
【0042】
共重合体は、導電材の分散性向上の観点から、下記の共重合体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
SMAとPEGMA(EO1)の共重合体
SMAとHEMAの共重合体
SMAとPEGMA(EO1)とHEMAの共重合体
SMAと4-VPyの共重合体
SMAとMAAの共重合体
SMAとPEGMA(EO1)と4-VPyの共重合体
SMAとPEGMA(EO1)とMAAの共重合体
SMAとPEGMA(EO1)とMAAmの共重合体
SMAとHEMAと4-VPyの共重合体
SMAとHEMAとMAAの共重合体
SMAとHEMAとMAAmの共重合体
SMAとMAAと4-VPyの共重合体
SMAとPEGMA(EO1)とPEGMA(EO9)
SMAとHEMAとPEGMA(EO2)
【0043】
共重合体の重量平均分子量は、導電材の分散性向上の観点及び電池容量維持率の向上の観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上がさらに好ましく、20,000以上がさらにより好ましく、30,000以上がさらにより好ましく、そして、同様の観点から、500,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、120,000がさらに好ましく、100,000以下がさらに好ましい。共重合体の重量平均分子量は、具体的には、1000~50万が好ましく、5,000~200,000がより好ましく、10,000~120,000がさらに好ましく、20,000~120,000がさらにより好ましく、30,000~100,000がさらにより好ましい。尚、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0044】
共重合体の合成方法は特に限定されず、通常の(メタ)アクリル酸エステル類の重合に使用される方法が用いられる。例えば、フリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法である。例えば、フリーラジカル重合法を用いる場合は、モノマーA及びモノマーBを含むモノマー成分を溶液重合法で重合させるなど、公知の方法で得ることができる。
【0045】
溶液重合に用いられる溶媒としては、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタン)、芳香族系炭化水素(トルエン、キシレン等)、低級アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル(テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等)、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶媒を使用することができる。電池用正極の導電材に用いる観点から、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。溶媒量は、モノマー全量に対する質量比で、0.5~10倍量が好ましい。
【0046】
重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えばアゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンぺルオキシド類等が挙げられる。重合開始剤量は、モノマー成分全量に対し0.01~5モル%が好ましい。重合反応は、窒素気流下、60~180℃の温度範囲で行うのが好ましく、反応時間は0.5~20時間が好ましい。
【0047】
また、分子量を調整するための、公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、イソプロピルアルコールや、メルカプトエタノール等のメルカプト化合物が挙げられる。
共重合体において、構成単位A、構成単位B、の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでも良い。また、これら構成単位以外の構成単位を含んでいてもよい。
【0048】
[電池用導電材スラリー]
本発明は、一態様において、本発明の分散剤を用いて作製された電池用導電材スラリーであって、導電材、前記分散剤、及び溶媒を含む電池用導電材スラリーである。
【0049】
[導電材]
前記導電材は、導電性炭素材料である。導電材は、充放電反応を効率的に行い、電気伝導性を高めるためのものであり、例えば、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン等の炭素材料が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して用いることができる。低抵抗の観点からアセチレンブラック、CNT、及びグラフェンが好ましい。
【0050】
導電材がCNTである場合は、種々の層数、直径、または長さのCNTであってもよい。CNTは、単層CNT(SWCNT)、2層CNT(DWCNT)、多層CNT(MWCNT)に分類され、得られる正極に求められる特性に応じて、単層、2層、多層のいずれのCNT及びそれらの混合物を用いることができる。CNTの分散性能と入手容易性の観点から、多層CNTを用いることが好ましい。
【0051】
CNTの平均直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により測定されるが、本発明ではその平均直径は、特に限定されなくてもよく、CNTの分散性向上の観点から、1nm以上が好ましく、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上、さらにより好ましくは8nm以上であり、そして、導電性向上の観点から、100nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下、さらにより好ましくは20nm以下、さらにより好ましくは15nm以下である。CNTの平均直径は、具体的には、1nm以上100nm以下が好ましく、3nm以上50nm以下がより好ましく、5nm以上30nm以下がさらに好ましく、5nm以上20nm以下がさらにより好ましく、8nm以上15nm以下がさらにより好ましい。
【0052】
CNTの平均長は、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により測定されるが、本発明ではその平均長は、特に限定されなくてもよく、導電性向上の観点から、1μm以上が好ましく、そして、分散性向上の観点から、500μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらにより好ましくは100μm以下である。よって、具体的には、1μm以上500μm以下が好ましく、1μm以上300μm以下がより好ましく、1μm以上200μm以下がさらに好ましく、1μm以上100μm以下がさらに好ましい。
【0053】
本発明の導電材スラリーにおける導電材の含有量は、導電材の種類によって異なるが、作業性および配合性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0054】
導電材がアセチレンブラックの場合、本発明の導電材スラリーにおける導電材の含有量は、作業性および配合性の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらにより好ましくは10質量%以下である。
【0055】
導電材が平均直径10nm程度の多層CNTの場合、本発明の導電材スラリーにおける導電材の含有量は、作業性および配合性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらにより好ましくは5質量%以下である。
【0056】
[分散剤の含有量]
本発明の導電材スラリーにおける分散剤の含有量は、分散性および電池性能の観点から、導電材100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部であり、そして、同様の観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下である。
【0057】
導電材がアセチレンブラックの場合は、本発明の導電材スラリーにおける分散剤の含有量は、分散性および電池性能の観点から、導電材100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部であり、そして、同様の観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。
【0058】
導電材が平均直径10nm程度の多層CNTの場合は、本発明の導電材スラリーにおける分散剤の含有量は、分散性および電池性能の観点から、導電材100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【0059】
[溶媒]
本発明の導電材スラリーに含まれる溶媒は、分散剤を溶解し、導電材を分散可能とする分散媒として、そして、正極ペーストを作製する際に結着剤を溶解可能とする溶媒であることが好ましく、例えば、好ましくはNメチル-2-ピロリドンがあげられる。
【0060】
本発明の導電材スラリーにおける溶媒の含有量は、作業性および配合組成の容易性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは97質量%以下である。
【0061】
本発明の導電材スラリーは、本発明の効果を損なわない範囲で、更に、任意成分を含有してもよい。当該任意成分としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、及び中和剤から選ばれる少なくとも1種であげられる。また、本発明の導電材スラリーは、正極ペーストに含まれる結着剤の少なくとも一部を、任意成分として含んでいてもよい。
【0062】
本発明の導電材スラリーのE型粘度計を使用した際の25℃における粘度は、作業性の観点から、好ましくは1000mPa・s以下、より好ましくは100mPa・s以下である。
【0063】
本発明の導電材スラリーの製造方法は、例えば、導電材、分散剤、溶媒及び必要に応じて前記任意成分を、公知の方法で配合し、混合分散機等を用いて分散させることにより製造できる。混合分散機としては、例えば、超音波ホモジナイザー、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、及びペイントシェーカー等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0064】
[電池用正極ペースト]
本発明は、一態様において、本発明の分散剤を用いて作製された電池用正極ペーストであって、正極活物質、導電材、結着剤、本発明の分散剤、及び溶媒を含む電池用正極ペーストに関する。
【0065】
[正極活物質]
正極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能であって、充放電反応が可能である活物質であればよく、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、三元系(NMC系)LiNixMnyCozO2、Liリッチ形(Li(LixMe1-x)O2(Me=Co,Ni,Mnなど)、Niリッチ形(LiNixCoyAlzO2)等のリチウム金属複合酸化物が挙げられる。これら化合物は部分的に元素置換したものであってもよい。特に、LiCoO2や5Vスピネル(一般式LiaNixMnyMzO4)などの高電位の正極活物質を用いた場合に、本発明は有効に利用されうる。正極活物質は粒状物として用いられる。その平均粒径としては、例えば、1μm以上40μm以下とすることができる。
【0066】
本発明の正極ペーストにおける正極活物質の含有量は、正極ペーストの全固形分量に対し、高容量化の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、そして、正極合剤層の集電体への結着力向上の観点から、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0067】
[導電材の含有量]
本発明の正極ペーストは、導電材の種類は、前記本発明の導電材スラリーに含まれるそれと同じでよい。本発明の正極ペーストにおける導電材の含有量は、正極ペーストの全固形分量に対し、導電性向上の観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、そして、電池容量向上の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0068】
[結着剤]
結着剤は、正極合剤層と集電体との間の接着機能を持たせるものであり、結着剤とも呼ばれ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が一般的に用いられる。
【0069】
本発明の正極ペーストにおける結着剤の含有量は、正極ペーストの全固形分量に対し、正極合剤層と集電体との結着力向上の観点から、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、そして、電池容量向上の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0070】
[分散剤の含有量]
本発明の分散剤(共重合体)と導電材との質量比(共重合体/導電材)は、導電材の分散性向上の観点から、0.005以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、そして、電池の出力維持の観点から、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。質量比(共重合体/導電材)は、具体的には、0.005以上1以下が好ましく、0.02以上0.5以下がより好ましく、0.05以上0.3以下がさらに好ましい。
【0071】
[溶媒]
本発明の正極ペーストに含まれる溶媒は、正極活物質や導電材を分散可能とする分散媒として、そして、結着剤や分散剤を溶解可能とする溶媒として、例えば、好ましくはNメチル-2-ピロリドンがあげられる。
【0072】
本発明の正極ペーストにおける溶媒の含有量は、正極ペーストの塗工性の向上の観点から、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
【0073】
[任意成分]
本発明の正極ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、正極活物質、導電材、結着剤、本発明の分散剤、溶媒以外に、更に任意成分を含有してもよい。当該任意成分としては、例えば、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、及び中和剤から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0074】
[正極ペーストの製造方法]
本発明は、一実施形態において、本発明の正極ペーストの製造方法に関する。
本発明の正極ペーストの製造方法は、正極活物質と導電材と結着剤と本発明の分散剤と溶媒とを混合する工程を含み、任意の順に混合してもよい。1つの好ましい工程としては、導電材と分散剤と溶媒とを混合し、これらが均質になるまで分散したのち、正極活物質と、結着剤と、残余の溶媒とを混合し、これらが均質になるまで攪拌することにより正極ペーストを得る方法が挙げられる。また、別の好ましい工程として、正極活物質と前記導電材スラリーと必要に応じて溶媒とを混合し、これらが均質になるまで撹拌したのち、結着剤と残余の溶媒とを混合し、これらが均質になるまで撹拌することにより正極ペーストを得る方法が挙げられる。各成分の混合、攪拌の手段には拘らない。例えば、自公転式攪拌機を用いることができる。
【0075】
[電池用電極及びその製造方法]
本発明は、一実施形態において、本発明の正極ペーストを用いて形成された正極合剤層を含む、電池用電極(以下、「本発明の電極」ともいう)に関する。故に、本発明の電池用電極には、本発明の分散剤が含まれる。本発明の電極は、本発明の正極ペーストを用いること以外は公知の電極の製造方法により製造でき、例えば、本発明の正極ペーストを集電体に塗布、乾燥した後、必要に応じてプレスして所定の寸法に加工することにより得られる。前記集電体には、従来から公知のアルミニウム箔等の集電体を用いることができる。正極ペーストの塗工には、ダイヘッド、コンマリバースロール、ダイレクトロール、グラビアロール等を用いることができる。塗工後の乾燥は、加温、エアフロー、赤外線照射等を単独あるいは組み合わせて行うことができる。正極のプレスは、ロールプレス機等により、行うことができる。
【0076】
[電池]
本発明は、一実施形態において、本発明の電極を含む電池(以下、「本発明の電池」ともいう)に関する。電池としては、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、全固体電池など、前記の電極の製造方法を用いて正極を作製する形態の電池である。
【0077】
本発明の電池の形状としては、コイン型、円筒型、角型、フィルム型及び積層ラミネート型等のいずれの形状であってもよい。
【0078】
本発明の電池は、本発明の電極を用いること以外は公知の電池の製造方法により製造できる。例えば、リチウムイオン電池の製造方法の一実施形態としては、本発明の電極(正極)と負極を、セパレータを介して重ね合わせ、電池形状に捲回あるいは積層させて、電池容器あるいはラミネート容器に挿入し、該容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。
【0079】
セパレータは、一実施形態において、正極と負極間の絶縁、さらには電解液を保持するなどの機能を持つ部材である。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、セルロースあるいはそれら積層品等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0080】
電解液としては、通常、有機溶媒に電解質を溶解した溶液が用いられる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等の鎖状カーボネート;鎖状および環状エステル類、イオン液体類等が挙げられ、これらは単独又は2種以上を併用してもよい。電解質とは、有機溶媒に溶解して電気を伝導する働きを有するイオン性化合物を示す。電解質としては、リチウムイオン電池の場合、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiCF3CO2、LiCl、LiBr、LiSCN等のリチウム塩を単独又は2種以上を併用してもよい。
【0081】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の導電材スラリー及び電池用正極ペーストを開示する。
<1> 導電材、下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B
1及び下記一般式(3)で表される構成単位B
2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含む共重合体、及び溶剤を含み、共重合体の構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上である、電池用導電材スラリー。
【化4】
上記式中、R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
10、R
11、R
12は、同一又は異なり、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、X
1は酸素原子又はNH を示し、R
4は炭素数16~30の炭化水素基を示し、X
2は酸素原子を示し、R
8は炭素数2~4の直鎖又は分岐のアルキレン基を示し、pは1、R
9は水素原子又はメチル基を示し、X
3は、カルボシキル基、アミド基、又は炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
<2> 導電材、下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B
1及び下記一般式(3)で表される構成単位B
2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含む共重合体、及び溶剤を含み、共重合体の構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上80質量%以下であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量が5質量%以上65質量%以下である、電池用導電材スラリー。
【化5】
上記式中、R
1、R
2、R
5、R
6、R
10、R
11は水素であり、R
3、R
7、R
12は、同一又は異なり、水素原子又はメチル基を示し、X
1は酸素原子を示し、R
4は炭素数16~22の炭化水素基を示し、X
2は酸素原子を示し、R
8はエチレン基又はプロピレン基を示し、pは1、R
9は水素原子又はメチル基を示し、X
3は、カルボシキル基、アミド基、又は炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
<3> 導電材、下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B
1及び下記一般式(3)で表される構成単位B
2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含む共重合体、及び溶剤を含み、共重合体の構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上80質量%以下であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量が5質量%以上65質量%以下であり、前記共重合体の構成単位Aの含有量に対する構成単位Bの含有量の比(構成単位B/構成単位A)が0.2以上1.8以下である、電池用導電材スラリー。
【化6】
上記式中、R
1、R
2、R
5、R
6、R
10、R
11は水素であり、R
3、R
7、R
12は、同一又は異なり、水素原子又はメチル基を示し、X
1は酸素原子を示し、R
4は炭素数16~22の炭化水素基を示し、X
2は酸素原子を示し、R
8はエチレン基又はプロピレン基を示し、pは1 、R
9は水素原子又はメチル基を示し、X
3は、カルボシキル基、アミド基、又は炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
<4> 導電材、下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B
1及び下記一般式(3)で表される構成単位B
2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含む共重合体、及び溶剤を含み、共重合体の構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上70質量%以下であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量が20質量%以上65質量%以下であり、前記共重合体の構成単位Aの含有量に対する構成単位Bの含有量の比(構成単位B/構成単位A)が0.5以上1.7以下である、電池用導電材スラリー。
【化7】
上記式中、R
1、R
2、R
5、R
6、R
10、R
11は水素であり、R
3、R
7、R
12は、同一又は異なり、水素原子又はメチル基を示し、X
1は酸素原子を示し、R
4は炭素数16~20の炭化水素基を示し、X
2は酸素原子を示し、R
8はエチレン基を示し、pは1、R
9は水素原子又はメチル基を示し、X
3は、カルボシキル基、アミド基、又は炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
<5> 導電材、下記一般式(1)で表される構成単位Aと、下記一般式(2)で表される構成単位B
1及び下記一般式(3)で表される構成単位B
2から選ばれる少なくとも1種の構成単位Bとを含む共重合体、及び溶剤を含み、共重合体の構成単位Aの含有量と構成単位Bの含有量の合計が80質量%以上であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Aの含有量が35質量%以上60質量%以下であり、前記共重合体の全構成単位中の構成単位Bの含有量が30質量%以上65質量%以下であり、前記共重合体の構成単位Aの含有量に対する構成単位Bの含有量の比(構成単位B/構成単位A)が0.6以上1.6以下である、電池用導電材スラリー。
【化8】
上記式中、R
1、R
2、R
5、R
6、R
10、R
11は水素であり、R
3、R
7、R
12は、同一又は異なり、水素原子又はメチル基を示し、X
1は酸素原子を示し、R
4は炭素数16~20の炭化水素基を示し、X
2は酸素原子を示し、R
8はエチレン基を示し、pは1、R
9は水素原子又はメチル基を示し、X
3は、カルボシキル基、アミド基、又は炭素数1~4の炭化水素基を有していてもよいピリジニル基を示す。
<6> 前記共重合体は、さらに下記一般式(4)で表される構成単位Cを含む、<1>乃至<5>の何れか一つに記載の電池用導電材スラリー。
【化9】
上記式中、R
13、R
14、は水素原子を示し、R
15、R
17は、同一又は異なり、水素原子又はメチル基を示し、R
16はエチレン又はプロピレン基を示し、X
4は酸素原子を示し、qは2以上10以下の整数である。
<7> 前記共重合体の重量平均分子量が5,000以上200,000以下である、<1>乃至<6>の何れか一つに記載の電池用導電材スラリー。
<8> 前記導電材がカーボンナノチューブを含む、<1>乃至<7>の何れか一つに記載の電池用導電材スラリー。
<9> 前記導電材がアセチレンブラックを含む、<1>乃至<7>の何れか一つに記載の電池用導電材スラリー。
<10> 前記導電材の含有量が1質量%以上10質量%以下である、<1>乃至<9>の何れか一つに記載の電池用導電材スラリー。
<11> 前記共重合体の含有量が、導電材100質量部に対して5質量部以上30質量部以下である、<1>乃至<10>の何れか一つに記載の電池用導電材スラリー。
<12> 前記溶媒が、N-メチル-2-ピロリドンである、<1>乃至<11>の何れか一つに記載の電池用導電材スラリー。
<13> <1>乃至<12>の何れかの項に記載の導電材スラリーと正極活物質とを含む、電池用正極ペースト。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0083】
[不揮発分の測定]
共重合体溶液の不揮発分は、以下のようにして測定した。
シャーレに乾燥無水硫酸ナトリウム10gとガラス棒を入れ、その全体の質量を測定し、W3(g)とする。さらに、このシャーレ内に、共重合体のNMP溶液を試料として2gを入れ、その全体の質量を測定し、W1(g)とする。シャーレ内で、乾燥無水硫酸ナトリウムと試料を前記ガラス棒で混合し、シャーレ内に、ガラス棒で混合した乾燥無水硫酸ナトリウムと試料及びガラス棒を入れたまま、140℃の減圧乾燥機(窒素気流下、圧力40kPa)でシャーレ全体を12時間乾燥する。乾燥後のシャーレ全体の質量を測定し、W2(g)とする。次式より得られた値を不揮発分とした。
不揮発分(質量%)=100-(W1-W2)/(W1-W3)×100
【0084】
[共重合体の重量平均分子量の測定]
共重合体の重量平均分子量は、GPC法により測定した。詳細な条件は以下の通りである。
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム :α-M + α-M(東ソー社製)
カラム温度 :40℃
検出器 :示差屈折率
溶離液 :60mmol/LのH3PO4及び50mmol/LのLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液
流速 :1mL/min
検量線に用いる標準試料 :東ソー社製単分散ポリスチレン 5.26×102、1.02×105、8.42×106;西尾工業社製単分散ポリスチレン 4.0×103、3.0×104、9.0×105(数字はそれぞれ分子量)
試料溶液 :共重合体の固形分を0.5wt%含有するDMF溶液
試料溶液の注入量 :100μL
【0085】
[使用原料]
実施例及び比較例の、導電材スラリー、耐電圧性評価用ペースト、及び電池評価用正極ペーストの調製に用いた分散剤及びその原料の詳細は、下記及び表1~2に下記の通りである。
(モノマーA)
・SMA:メタクリル酸ステアリル(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルS)(R4:C18H37)
・SA:アクリル酸ステアリル(富士フイルム和光純薬株式会社製)(R4:C18H37)
(モノマーB)
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・PEGMA(EO1):メトキシエチルメタクリレート(東京化成工業社製)
・4-VPy:4-ビニルピリジン(東京化成工業製)
・MAA:メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・MAAm:メタクリルアミド(東京化成工業社製)
・AA:アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
(モノマーC)
・PEGMA(EO9):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルM-90G、エチレンオキサイドの平均付加モル数=9)
・PEGMA(EO2):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業社製、品番:NK-エステルM-20G、エチレンオキサイドの平均付加モル数=2)
(その他の原料)
・NMP:N-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・V-65B:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(富士フイルム和光純薬株式会社製、開始剤)
・PVP(K-30):富士フイルム株式会社製、重量平均分子量40000(カタログ値)
【0086】
【0087】
【0088】
[共重合体Aの合成例]
「滴下用モノマー液」として、50gのSMA、50gのPEGMA(EO1)及び70gのNMP混合液からなる混合溶液を作製した。「開始剤液」として、1gのV-65Bと5gのNMPからなる混合溶液を作製した。「滴下用開始剤液」として、1gのV-65Bと30gのNMPからなる混合溶液を作製した。還流管、攪拌装置、温度計及び窒素導入管を取り付けたセパラブルフラスコ(反応槽)に80gのNMPと上記開始剤液を入れ、反応槽内を窒素置換し、加熱により槽内温度(仕込原料の温度)を65℃にした。槽内温度が65℃に到達した後、前記「滴下用モノマー液」及び前記「滴下用開始剤液」を同時に3時間かけて滴下した。終了後、1時間攪拌した。次に、約30分かけて75℃まで昇温し、その後、さらに2時間攪拌した。次いで40℃以下まで冷却した。濃度調製のため、槽内にNMPを添加して、共重合体AのNMP溶液を得た。その不揮発分は40質量%で、重量平均分子量は65000であった。尚、開始剤の使用量は、共重合体Aの合成に使用するモノマー全質量を100質量部に対して2.0質量部(ただし、共重合体Jでは1.4質量部)とした。
【0089】
[共重合体B~Rの合成例]
「滴下用モノマー液」の調製において、共重合体B~Rの合成に使用される各モノマーの質量比、共重合体の合成に使用する開始剤の使用量を、各々、表2に記載の値としたこと以外は、[共重合体Aの合成例]と同様にして、共重合体B~RのNMP溶液を、各々得た。尚、連鎖移動剤は、共重合体Iの合成の際にのみ使用し、その使用量は、共重合体Iの合成に使用するモノマー全質量を100質量部として、0.5質量部とした。連鎖移動剤として、メルカプトエタノールを使用した。
【0090】
[分散性評価]
導電材スラリーの分散性評価は、以下の調製方法により得た導電材スラリーを用いて、粘度およびCNTの粒径を測定することにより確認した。結果は表2に示した。
【0091】
(実施例1)
カーボンナノチューブ(Nanocyl製NC7000、平均直径9.5nm、平均長1.5μm)0.3gを、60mLメディアバイアルに取り、それに[共重合体Aの合成例]で調製した共重合体AのNMP溶液を0.15g(固形分0.06g;CNT100質量部に対して共重合体Aは20質量部)を加え、そこへ重量合計が30gになるようNMPを加えた。
得られた混合物を、撹拌しながらホーン型超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製UT-300)で出力30μmで10分間分散し、実施例1の導電材スラリー1(共重合体A0.2質量%)を得た。
【0092】
<分散性評価基準>
分散性の良否を判断する基準として導電材スラリーの粘度およびCNTの粒径を用いた。導電材スラリーの粘度およびCNTの粒径は、各々下記の方法にて測定した。
スラリー粘度およびCNTの粒径は、使用する導電材の種類及び配合量や、その他の成分により影響するため、前記の調製方法を用い、分散剤未添加の導電材スラリーとの比較において良否の判断を行った。
具体的には、分散剤を含まない比較例8に対する、実施例1~12、比較例1~7の相対評価にて判定した。
スラリー粘度:比較例8の導電材スラリー20の粘度の対数値Xと各例の導電材スラリーの粘度の対数値Yの差(X-Y)が、0.5以上であれば良好、0.8以上であればより良好、1.0以上であれば更に良好である。
CNTの粒径:比較例8のCNTの粒径の対数値xと各例のCNTの粒径の対数値yの差(x-y)が、0.5以上であれば良好、0.8以上であればより良好、1.0以上であればさらに良好、1.3以上であればさらにより良好である。
【0093】
<粘度測定>
実施例1の導電材スラリー1について、E型粘度計を使用し、25℃での粘度を測定した。粘度は62mPa・sであり、分散性は良好であった。
【0094】
<粒径測定>
実施例1の導電材スラリー1を、N-メチル2-ピロリドンで500倍に希釈し、ガラスセルに入れ、そのセルを株式会社堀場製作所製のLA-920に装着し20℃にてCNTの粒径を測定した。粒径は0.46μmであり、分散性は良好であった。
【0095】
(実施例2~12、比較例1~7)
実施例2~12、比較例1~7では、共重合体AのNMP溶液を、各々、共重合体B~RのNMP溶液又はPVPのNMP溶液に代えたこと以外は、実施例1に記載の調製方法にしたがって、導電性スラリー2~19を調製し、分散性評価を行った。
なお、比較例6において、CNTは全く分散していなかったため、これ以降の耐電圧性評価、電池評価は行わなかった。
【0096】
(比較例8)
比較例8では、共重合体AのNMP溶液の代わりに、NMP0.15gを用いたこと以外は実施例1に記載の方法に従って、導電材スラリー20を調製し、分散性評価を行った。比較例8の導電材スラリー20の粘度は700mPa・sであり、CNTの粒径は11μmであり、CNTは全く分散していなかった。
【0097】
[耐電圧性評価]
分散剤の耐電圧性評価は、以下の調製方法により得た耐電圧性評価用ペースト(以下「評価用ペースト」と略称する。)を用いて、サイクリックボルタンメトリーを測定することにより確認した。
【0098】
(実施例1)
8質量%PVDF溶液(クレハ製KFポリマーL#7208)7.5g(固形分0.6g)、導電材としてアセチレンブラック(AB)(デンカ製HS-100)0.6g、[共重合体Aの合成例]で調製した共重合体AのNMP溶液0.15g(固形分0.06g)、NMP0.45gをマルエム製スクリュー管No.7に秤量し、均一になるまでかき混ぜた。その後、自転公転ミキサー(AR-100 株式会社 シンキー製)を用いて2000rpmで20分攪拌して、実施例1の評価用ペースト1を得た。
【0099】
<サイクリックボルタンメトリー(CV)測定>
得られた実施例1の評価用ペースト1を、アルミニウム集電箔上にアプリケーターで塗工し、100℃で30分間乾燥して塗膜組成AB:PVDF:分散剤=10:10:1(質量比)のCV測定用電極を得た。得られた電極を打ち抜き、80℃で一晩減圧乾燥させた。乾燥後の電極を用いて、ドライ雰囲気下で対極及び参照極をともに金属リチウムとした三極セルを組み立て、電解液を注入した。電解液には、1mol/L LiPF6 EC/DEC=3/7(vol%)を用いた。得られたセルについて、ポテンショスタット(東陽テクニカ製)を用いて、掃引電位3~5V、掃引速度1mV/sで、CVを測定した。結果は表2に示した。
【0100】
(実施例2~12、比較例1~5及び7)
実施例2~12、比較例1~5及び7では、共重合体AのNMP溶液に代えて、共重合体B~QのNMP溶液又はPVPのNMP溶液を用いたこと以外は、(実施例1)に記載の方法に従って、各々、評価用ペースト2~17及び19を調製し、それらについて、耐電圧性評価を行った。
【0101】
(比較例8)
比較例8では、共重合体AのNMP溶液の代わりに、NMP0.15gを用いたこと以外は(実施例1)に記載の方法に従って、評価用ペースト20を調製し、耐電圧性評価を行った。
【0102】
[分解電位、面積Sの算出]
図1は、分散剤を含まない比較例8の評価用ペースト20を用いて形成されたCV測定用電極についてのCV測定結果である。また、
図2は、分散剤としてPVPを使用した比較例7の評価用ペースト19を用いて形成されたCV測定用電極についてのCV測定結果を
図1に重ね合わせたグラフである。分散剤の分解反応が起きると電流値が増加する。電流値の立ち上がりが始まった電圧(すなわち、分散剤を含まない比較例8の評価用ペースト20を使用したCV測定結果のグラフから電流値が乖離し始めた電位)を分解電位とし、実施例1~12、比較例1~7の評価用ペーストを用いて形成されたCV測定用電極について、各々、分解電位を測定した。また、CV測定用電極が分散剤を含まない場合(比較例8、
図1参照)との電流値の差分を足し合わせる事で面積値を算出し、分解量とした。
図2の斜線部分は、PVPの分解総量に相当し、これを面積Sとした。実施例1~12、比較例1~5及び7についても面積S値を各々求め、分解総量の比較を明確化するために、PVPを用いた場合の面積S値を100とした相対面積値を表2に示した。当該相対面積値が小さいほど、分散剤の分解量が少ないことを意味する。
【0103】
[電池特性の評価]
(実施例1)
<電池評価用正極ペーストの作製>
導電材(AB)0.8g、PVDF溶液10g(固形分0.8g)、及び[共重合体Aの合成例]で調製した共重合体AのNMP溶液0.2g(固形分0.08g)を混合し、自転公転ミキサーを用いて2000rpmで20分撹拌した。次いで、得られた混合物に、正極活物質(日本化学工業製セルシードNMC532)18.32g、及び溶剤(Nメチル-2-ピロリドン、和光純薬製)1.8gを加えて、さらに自転公転ミキサーを用いて2000rpmで20分撹拌し、電池評価用正極ペースト(以下「正極ペースト」と略称する。)1を得た。ペーストの固形分は、正極活物質、導電材、結着剤、及び分散剤であり、正極ペースト中の全固形分濃度は64.3質量%であり、正極活物質、導電材、結着剤、分散剤の質量比率は91.6:4:4:0.4(固形分換算)であった。
【0104】
<電極及び電池の作製>
厚さ20μmのアルミ箔上に、正極容量密度が1.0~1.5mAh/cm2となるように、正極ペーストを塗工し、100℃で30分間予備乾燥を行った。その後直径13mmに打ち抜きプレスして電極(正極)を得た。得られた電極を真空乾燥器を用いて100℃で12時間乾燥し、正極上に、直径16mmのセパレータ、直径15mm厚さ0.5mmのコイン状金属リチウムを配置して、2032型コインセルを作製した。電解液には、1M LiPF6 EC/DEC(体積比)=1/1を用いた。
【0105】
<直流抵抗の測定>
下記の充放電条件1で3サイクル充放電を行い、0.2CAで2.5時間充電を行いSOC(残容量)を50%とした後、種々の電流値で10秒間放電したときの電圧降下とそのときの電流値によって導かれる傾きから直流抵抗を算出した。33.5Ωであった。
(充放電条件1)
30℃、0.2CA 充電4.2V CC/CV 1/10Cカットオフ
放電0.2CA CC 3.0Vカットオフ
【0106】
<高電圧サイクル評価>
上記(充放電条件1)で3サイクル充放電を行った後に、下記の(充放電条件2)により50サイクル充放電を行い、容量維持率(50サイクル終了時の放電容量/1サイクル目の放電容量)を算出した。容量維持率(%)が大きいほど、電池の経時劣化が抑制されていることを意味する。実施例1の正極ペースト1を用いて作製された電池の容量維持率は84.3%であった。
(充放電条件2)
30℃、1CA、充電4.5VCC/CV 1/10カットオフ
放電1CA CC 3.0Vカットオフ
【0107】
(実施例2~12、比較例1~5及び7)
実施例2~12、比較例1~5及び7では、共重合体AのNMP溶液に代えて、共重合体B~QのNMP溶液又はPVPのNMP溶液を用いたこと以外は、(実施例1)に記載の方法に従って、各々、正極ペースト2~17及び19を調製し、それらについて、電池特性の評価を行った。結果は表2に示した。
【0108】
(比較例8)
比較例8では、共重合体AのNMP溶液の代わりに、NMP0.2gを用いたこと以外は(実施例1)に記載の方法に従って、正極ペースト20を調製し、電池特性の評価を行った。結果は表2に示した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の蓄電デバイス正極用分散剤は、導電材の分散性が良いだけでなく、高電圧下での分解が抑制されるため、本発明の蓄電デバイス正極用分散剤および/またはこれを含有する導電材スラリーを用いた正極ペーストを電池用正極の形成に用いれば、電池のエネルギー密度を高めるとともに、高電位下でも高い耐久性を維持でき、リチウムイオン電池等の蓄電デバイスの性能向上に寄与し得る。