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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】抗CD47抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230721BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20230721BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230721BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230721BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230721BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230721BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/30 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K45/00
A61P35/02
A61P35/00
A61P37/02
A61P29/00
A61P25/16
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P25/00
A61P17/06
A61P1/04
A61P17/08
A61P3/10
A61P27/02
A61P9/10 101
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021573798
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-31
(86)【国際出願番号】 CN2020096841
(87)【国際公開番号】W WO2020253785
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/091924
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521543336
【氏名又は名称】レプ バイオファーマ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ゴン、ウェンシ
(72)【発明者】
【氏名】トウ、イーウェイ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/108733(WO,A2)
【文献】国際公開第2019/034895(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/042285(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/095358(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/195302(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
A61K 39/00-39/44
A61K 45/00-45/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体またはその断片であって、前記抗体またはその断片は、ヒトCD47(CD分類47)タンパク質に特異性を有し、かつ
(a)配列番号1のVH CDR1、配列番号2のVH CDR2、配列番号3のVH CDR3、配列番号4のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および、配列番号6のVL CDR3;または、
(b)配列番号1のVH CDR1、配列番号7のVH CDR2、配列番号8のVH CDR3、配列番号9のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および、配列番号10のVL CDR3、
を含む、抗体またはその断片。
【請求項2】
配列番号1のVH CDR1、配列番号2のVH CDR2、配列番号3のVH CDR3、配列番号4のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および配列番号6のVL CDR3を含む、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項3】
配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域を含む、請求項2に記載の抗体またはその断片。
【請求項4】
配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域を含む、請求項2または3に記載の抗体またはその断片。
【請求項5】
配列番号15もしくは16の前記アミノ酸配列、または配列番号15もしくは16の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号17の前記アミノ酸配列、または配列番号17の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む、請求項4に記載の抗体またはその断片。
【請求項6】
配列番号1のVH CDR1、配列番号7のVH CDR2、配列番号8のVH CDR3、配列番号9のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および配列番号10のVL CDR3を含む、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
配列番号13および18~19からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号13および18~19からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域を含む、請求項6に記載の抗体またはその断片。
【請求項8】
配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域を含む、請求項6または7に記載の抗体またはその断片。
【請求項9】
配列番号18もしくは19の前記アミノ酸配列、または配列番号18もしくは19の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号20の前記アミノ酸配列、または配列番号20の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む、請求項8に記載の抗体またはその断片。
【請求項10】
前記抗体またはその断片がヒト化抗体である、請求項1から9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の断片と、第2の特異性を有する第2の抗原結合断片とを含む、二重特異性抗体。
【請求項12】
前記第2の特異性が免疫細胞上の分子に対するものである、請求項11に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
前記分子が、PD-L1、PD-1、CTLA-4、LAG-3、CD28、CD122、4-1BB、TIM3、OX-40、OX40L、CD40、CD40L、LIGHT、ICOS、ICOSL、GITR、GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVM、BTLA、KIR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
前記断片および前記第2の抗原結合断片が、それぞれ独立して、Fab断片、単鎖可変断片(scFv)またはシングルドメイン抗体から選択される、請求項11から13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは請求項11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容され得る担体とを含む、組成物。
【請求項16】
請求項1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは請求項11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド。
【請求項17】
請求項1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは請求項11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む、単離された細胞。
【請求項18】
癌の治療を必要とする患者の癌を治療するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、請求項11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体、または請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記癌が固形腫瘍である、請求項18に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
【請求項20】
前記癌が血液悪性腫瘍である、請求項18に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
【請求項21】
前記癌が、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、白血病、リンパ腫、膵臓癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、乳癌、尿道癌、頭頸部癌、胃腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、腎癌、黒色腫、前立腺癌、甲状腺癌、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
【請求項22】
第2の癌治療薬をさらに含む、請求項18から21のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
【請求項23】
自己免疫疾患または炎症性疾患の治療を必要とする患者の自己免疫または炎症性疾患を治療するための、請求項1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、請求項11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体、または請求項15に記載の組成物。
【請求項24】
前記自己免疫疾患または炎症性疾患が、パーキンソン病、関節炎、関節リウマチ、多発性硬化症、乾癬、乾癬性関節炎、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、狼瘡、全身性エリテマトーデス、若年性関節リウマチ、若年性特発性関節炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、アジソン病、セリアック病、皮膚筋炎、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、シェーグレン症候群、I型糖尿病、血管炎、ぶどう膜炎、アテローム性動脈硬化症および強直性脊椎炎からなる群から選択される、請求項23に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
【請求項25】
前記自己免疫疾患または炎症性疾患がアテローム性動脈硬化症である、請求項23に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
【請求項26】
サンプル中のCD47の発現を検出する方法であって、請求項1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは請求項11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体を、前記抗体またはその断片がCD47に結合する条件で前記サンプルと接触させることと、前記サンプル中のCD47の発現を示す結合を検出することとを含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
CD47(CD分類47)タンパク質は、インテグリン関連タンパク質(IAP)としても知られており、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する50kDaの膜貫通タンパク質である。CD47は膜インテグリンと組んで、リガンドであるトロンボスポンジン-1(TSP-1)およびシグナル調節タンパク質α(SIRP-α)とも結合する。CD47は、アポトーシス、増殖、接着および移動を含む、さまざまな細胞プロセスに関与している。さらに、CD47は、免疫および血管新生反応にも重要な役割を果たしている。CD47は、ヒト細胞にユビキタスに発現しており、多くの異なる腫瘍細胞で過剰発現していることがわかっている。
【0002】
CD47は、ヒト卵巣癌の腫瘍抗原として最初に同定された。それ以来、CD47は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、および他の固形腫瘍を含む、多発性のヒト腫瘍タイプに発現することがわかっている。CD47が高いレベルにあると、癌細胞は、支配的な食作用促進シグナルであるカルレティキュリンの高いレベルを有しているにもかかわらず、ファゴサイトーシスを回避することができる。これは、マクロファージのSIRP-αがCD47に取り込まれるためである。SIRP-αの取り込みは、ファゴサイトーシスの阻害につながる。したがって、CD47をブロックすることで、自然免疫による癌細胞の認識および排除が誘発され、ファゴサイトーシスが有利に働く。
【0003】
抗CD47抗体治療は、マクロファージによる癌のファゴサイトーシスを可能にするだけでなく、癌特異的なリンパ球の活性化も促す。抗CD47抗体は、さまざまな癌、例えば、再発/難治性のB細胞非ホジキンリンパ腫、固形腫瘍、大腸癌、卵巣癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)および濾胞性リンパ腫(FL)の治療に評価されている。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、ヒトCD47タンパク質への高い結合アフィニティーを有し、CD47とその受容体SIRP-αとの間の相互作用を効果的に遮断することができる抗CD47抗体を提供するものである。本明細書で提供される例は、本明細書に開示されている抗CD47抗体が、ヒトMΦによる腫瘍細胞のファゴサイトーシスを促進することを実証している。一方、著しいRBC凝集を示した参照抗CD47抗体とは異なり、本発明の抗体は、150μg/mLまでの試験濃度において、RBC凝集を本質的に引き起こさなかった。これらの抗CD47抗体は、さまざまな種類の癌を治療するなどの治療目的に有用であり、診断および予後目的にも使用することができる。
【0005】
いくつかの実施形態は、抗体またはその断片を提供し、当該抗体またはその断片は、ヒトCD47(CD分類47)タンパク質に特異性を有し、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むVH CDR1、または配列番号1からの単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号1のバリアント;(b)配列番号2もしくは配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR2、または配列番号2もしくは配列番号7の4位、7位、12位もしくは15位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号2もしくは配列番号7のバリアント;(c)配列番号3もしくは配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR3、または配列番号3もしくは配列番号8の1位もしくは2位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号3もしくは配列番号8のバリアント;(d)配列番号4もしくは配列番号9のアミノ酸配列を含むVL CDR1、または配列番号4もしくは配列番号9の1位もしくは6位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号4もしくは配列番号9のバリアント;(e)配列番号5のアミノ酸配列を含むVL CDR2、または配列番号5からの単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号5のバリアント;および(f)配列番号6もしくは配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR3、または配列番号6もしくは配列番号10の5位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号6もしくは配列番号10のバリアントを含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、配列番号1のVH CDR1、配列番号2のVH CDR2、配列番号3のVH CDR3、配列番号4のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および配列番号6のVL CDR3を含む。
【0007】
そのような抗体および断片の例としては、配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域を有するものが挙げられる。そのような抗体または断片の例としては、配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域を有するものが挙げられる。
【0008】
いくつかの例では、抗体またはその断片は、配列番号15もしくは16のアミノ酸配列、または配列番号15もしくは16のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列、または配列番号17のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、配列番号1のVH CDR1、配列番号7のVH CDR2、配列番号8のVH CDR3、配列番号9のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および配列番号10のVL CDR3を含む。
【0010】
そのような抗体または断片の例としては、配列番号13および18~19からなる群から選択されたアミノ酸配列、または配列番号13および18~19からなる群から選択されたアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域が挙げられる。そのような抗体または断片の例としては、配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域が挙げられる。
【0011】
いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、配列番号18もしくは19のアミノ酸配列または配列番号18もしくは19のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号20のアミノ酸配列または配列番号20のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む。
【0012】
本明細書に開示されている抗体またはその断片は、重鎖定常領域、軽鎖定常領域、Fc領域、またはこれらの組み合わせをさらに含み得る。軽鎖定常領域は、例えば、κまたはλ鎖の定常領域とすることができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、IgG、IgM、IgA、IgEまたはIgDのアイソタイプである。いくつかの実施形態では、アイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である。
【0014】
抗体またはその断片は、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体とすることができる。いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、ヒト化抗体である。
【0015】
いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、(a)2位のIle、(b)71位のVal、(c)76位のThr、および(d)93位のThr(Kabat番号付けによる)、ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される1つまたは複数のアミノ酸残基を含む重鎖可変領域を含む。
【0016】
本明細書では、本明細書に開示されている抗体またはそれらの断片の少なくとも1つと、薬学的に許容され得る担体とを含む組成物が提供される。また、抗体またはそれらの断片の少なくとも1つをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む単離された細胞も開示される。
【0017】
癌の治療を必要とする患者の癌を治療する方法も提供され、この方法は、有効量の本明細書に開示されている抗体またはそれらの断片の少なくとも1つを患者に投与することを含む。癌は、固形腫瘍または血液悪性腫瘍であり得る。いくつかの実施形態では、癌は、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、白血病、リンパ腫、膵臓癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、乳癌、尿道癌、頭頸部癌、胃腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、腎癌、黒色腫、前立腺癌、甲状腺癌、またはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、この方法はさらに、第2の癌治療薬を患者に投与することを含む。
【0018】
また、本明細書では、サンプル中のCD47の発現を検出する方法であって、本明細書に開示されている抗体またはそれらの断片の少なくとも1つを、抗体またはその断片がCD47に結合する条件でサンプルと接触させることと、サンプル中のCD47の発現を示す結合を検出することとを含む方法も提供される。サンプルは、腫瘍細胞、腫瘍組織、血液サンプル、またはこれらの組み合わせを含み得る。
【0019】
いくつかの実施形態は、本明細書に開示されている抗CD47抗体の断片と、免疫細胞上の分子に特異性を有する第2の抗原結合断片とを含む、単離された二重特異性抗体を提供する。免疫細胞上の分子は、例えば、PD-L1、PD-1、CTLA-4、LAG-3、CD28、CD122、4-1BB、TIM3、OX-40、OX40L、CD40、CD40L、LIGHT、ICOS、ICOSL、GITR、GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVM、BTLAまたはKIRであり得る。いくつかの実施形態では、断片および第2の抗原結合断片は、それぞれ独立して、Fab断片、単鎖可変断片(scFv)またはシングルドメイン抗体から選択される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体はさらにFc断片を含む。
【0020】
いくつかの実施形態は、限定されないが、アテローム性動脈硬化症などの自己免疫疾患または炎症性疾患を治療するための組成物および方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】G08およびH06抗体が用量依存的にヒトCD47に結合することを示す図である。
【0022】
図2】G08およびH06抗体がCD47/SIRP-αの相互作用を用量依存的に阻害することを示す図である。
【0023】
図3】ヒト化抗体B5711、B5712、B5713、B5714、B5715、およびB5716がヒトCD47(A)およびカニクイザルCD47(B)に用量依存的に結合することを示す図である。
【0024】
図4】ヒト化抗体B5711、B5712、B5713、B5714、B5715およびB5716がCD47/SIRP-αの相互作用を用量依存的に阻害することを示す図である。
【0025】
図5】RBC凝集アッセイにおける抗CD47抗体の赤血球(RBC)保存特性を示す図である。
【0026】
図6図3のRBC凝集アッセイの定量性を示すプロットである。
【0027】
図7】B5715がヒトマクロファージ(MΦ)による腫瘍細胞のファゴサイトーシスを促進したことを示すプロットである。
【0028】
図8】動物モデルにおけるB5712およびB5715の薬効を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
「a」または「an」の実体という用語は、その実体の1つまたは複数を指すことに留意されたい。例えば、「抗体(an antibody)」とは、1つまたは複数の抗体を表すものと理解される。したがって、「a」(または「an」)、「1つまたは複数」および「少なくとも1つ」という用語は、本明細書では互換的に使用することができる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、単数の「ポリペプチド」だけでなく複数の「ポリペプチド」を包含することを意図しており、アミド結合(ペプチド結合としても知られている)によって直線的に結合されたモノマー(アミノ酸)で構成された分子を指す。「ポリペプチド」という用語は、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖または複数の鎖を指し、産物の特定の長さを指すものではない。したがって、ペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」、または2つ以上のアミノ酸の鎖または複数の鎖を指すために使用される任意の他の用語が、「ポリペプチド」の定義内に含められ、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語の代わりに、またはこれらの用語のいずれかと互換的に使用することができる。「ポリペプチド」という用語はまた、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解的切断、または非天然に存在するアミノ酸による修飾を含むがこれらに限定されないポリペプチドの発現後修飾の産物を指すことを意図している。ポリペプチドは、天然の生物学的起源に由来するものであってもよいし、組換え技術によって産生されたものであってもよいが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されるとは限らない。ポリペプチドは、化学合成を含む任意の方法で生成してもよい。
【0031】
細胞、タンパク質、核酸、例えばDNAまたはRNAに関して本明細書で使用される「単離された」という用語は、高分子の天然源に存在する、それぞれ他のDNAまたはRNAから分離された分子を指す。本明細書で使用される「単離された」という用語はまた、組換えDNA技術によって産生された場合には細胞材料、ウイルス材料または培地を実質的に含まない核酸もしくはペプチド、または化学的に合成された場合には化学的前駆体もしくは他の化学物質を指す。さらに、「単離された核酸」とは、断片として天然には存在せず、天然の状態では見られないであろう核酸断片を含むことを意味する。「単離された」という用語はまた、他の細胞タンパク質または組織から単離された細胞またはポリペプチドを指すために本明細書で使用される。単離されたポリペプチドは、精製ポリペプチドと組換えポリペプチドとの両方を包含することを意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関連する「組換え」という用語は、天然には存在しないポリペプチドまたはポリヌクレオチドの形態を意図しており、その非限定的な例は、通常は一緒に存在しないであろうポリヌクレオチドまたはポリペプチドを組み合わせることによって作製することができる。
【0033】
「相同性」または「同一性」または「類似性」とは、2つのペプチド間または2つの核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較のためにアラインメントされていてもよい各配列における位置を比較することによって決定することができる。比較された配列における位置が同じ塩基またはアミノ酸で占められている場合、分子はその位置で相同性がある。配列間の相同性の程度は、配列によって共有される一致したまたは相同な位置の数の関数である。「非関連」または「非相同」配列は、本開示の配列の1つと40%未満の同一性を共有するが、好ましくは25%未満の同一性を共有する。
【0034】
ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドもしくはポリペプチド領域)が、別の配列と「配列同一性」の一定のパーセンテージ(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%)を有するとは、アラインメントされたときに2つの配列を比較すると、塩基(またはアミノ酸)のそのパーセンテージが同じであることを意味する。このアラインメントとパーセント相同性または配列同一性とは、当該技術分野で知られているソフトウェアプログラム、例えば、Ausubel et al.eds.2007)Current Protocols in Molecular Biologyに記載されているものを用いて決定することができる。いくつかの実施形態では、アラインメントにはデフォルトパラメータが使用される。デフォルトパラメータを使用する1つの非限定的なアラインメントプログラムがBLASTである。特に、プログラムは、以下のデフォルトパラメータを使用したBLASTNおよびBLASTPである:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;ストランド=両方;カットオフ値=60;期待値=10;マトリックス=BLOSUM62;記述=50配列;ソート順=HIGH SCORE;データベース=非重複性,GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳物+SwissProtein+SPupdate+PIR。生物学的に同等のポリヌクレオチドとは、上述の規定されたパーセント相同性を有し、同一または類似の生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。
【0035】
本明細書で使用される場合、「同等の核酸またはポリヌクレオチド」という用語は、核酸またはその相補体のヌクレオチド配列とある程度の相同性または配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を指す。二本鎖核酸のホモログとは、当該核酸またはその相補体とある程度の相同性を有するヌクレオチド配列を有する核酸を含むことを意図している。一態様では、核酸のホモログは、核酸またはその補体にハイブリダイズすることができる。同様に、「同等のポリペプチド」とは、参照ポリペプチドのアミノ酸配列とある程度の相同性、すなわち配列同一性を有するポリペプチドを指す。いくつかの態様では、配列同一性は、少なくとも約70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%である。いくつかの態様では、同等のポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、参照ポリペプチドまたはポリヌクレオチドと比較して、1つ、2つ、3つ、4つまたは5つの付加、欠失、置換およびそれらの組合せを有する。いくつかの態様では、同等の配列は、参照配列の活性(例えば、エピトープ結合)または構造(例えば、塩橋)を保持する。
【0036】
ハイブリダイゼーション反応は、異なる「ストリンジェンシー」の条件下で行うことができる。一般に、低ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション反応は、約10×SSC中または同等のイオン強度/温度の溶液中で約40℃にて行われる。中程度のストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、典型的には、約6×SSC中で約50℃にて行われ、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション反応は、一般的には、約1×SSC中で約60℃にて行われる。ハイブリダイゼーション反応は、当業者に周知である「生理学的条件」下で行うこともできる。生理学的条件の非限定的な例は、細胞内に通常見られるMg2+の温度、イオン強度、pHおよび濃度である。
【0037】
ポリヌクレオチドは、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4つのヌクレオチド塩基の特定の配列で構成されており、ポリヌクレオチドがRNAである場合にはチミンの代わりウラシル(U)が入る。したがって、「ポリヌクレオチド配列」という用語は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表記である。このアルファベット表記は、中央処理装置を有するコンピュータのデータベースに入力することができ、機能的ゲノミクスおよびホモロジー検索などのバイオインフォマティクスアプリケーションに使用することができる。「多型」という用語は、遺伝子またはその一部の形態が2つ以上共存していることを指す。少なくとも2つの異なる形態、すなわち2つの異なるヌクレオチド配列が存在する遺伝子の一部は、「遺伝子の多型領域」と呼ばれる。多型領域は単一のヌクレオチドであり得、その同一性は異なる対立遺伝子の点で異なる。
【0038】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドまたはそのアナログのいずれかの任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有することができ、既知または未知の任意の機能を果たすことができる。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、遺伝子または遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、ESTまたはSAGEタグ)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、dsRNA、siRNA、miRNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマーが挙げられる。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログなどの修飾ヌクレオチドを含むことができる。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリヌクレオチドのアセンブリの前または後に付与することができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。ポリヌクレオチドは、重合後、例えば標識成分とのコンジュゲートによってさらに修飾することができる。この用語はまた、二本鎖分子と一本鎖分子との両方を指す。特に指摘または要求されない限り、ポリヌクレオチドである本開示の任意の実施形態は、二本鎖形態と、二本鎖形態を構成することが既知または予測される2つの相補的な一本鎖形態の各々との両方を包含する。
【0039】
本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドに適用される「コードする」という用語は、そのネイティブ状態で、または当業者に周知の方法によって操作された場合に、ポリヌクレオチドが転写および/または翻訳されてポリペプチドおよび/またはその断片のmRNAを産生し得るならば、ポリペプチドを「コードする」と言われるポリヌクレオチドを指す。アンチセンス鎖はそのような核酸の相補体であり、コード化配列をそこから推定することができる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「抗体」または「抗原結合ポリペプチド」とは、抗原を特異的に認識および結合するポリペプチドまたはポリペプチド複合体を指す。抗体は、全抗体、任意の抗原結合断片またはその単鎖であってもよい。したがって、「抗体」という用語は、抗原に結合する生物学的活性を有する免疫グロブリン分子の少なくとも一部を含む任意のタンパク質またはペプチド含有分子を含む。そのような例としては、重鎖もしくは軽鎖もしくはそのリガンド結合部分の相補性決定領域(CDR)、重鎖もしくは軽鎖可変領域、重鎖もしくは軽鎖定常領域、フレームワーク(FR)領域、または任意のそれらの部分、または結合タンパク質の少なくとも1つの部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」または「抗原結合断片」という用語は、抗体の一部、例えばF(ab')、F(ab)、Fab'、Fab、Fv、scFvなどを意味する。構造に関係なく、抗体断片は、インタクトな抗体によって認識されるのと同じ抗原と結合する。「抗体断片」という用語は、アプタマー、Spiegelmerおよびダイアボディを含む。「抗体断片」という用語はまた、特定の抗原と結合して複合体を形成することによって抗体のように機能する、合成または遺伝子操作された任意のタンパク質を含む。
【0042】
本明細書で使用される場合、「単鎖可変断片」または「scFv」とは、免疫グロブリンの重鎖(V)および軽鎖(V)の可変領域の融合タンパク質を指す。いくつかの実施形態では、この領域は、10~約25個のアミノ酸の短いリンカーペプチドで接続されている。このリンカーは、可動性のためにグリシンだけでなく、溶解性のためにセリンまたはスレオニンも豊富に含み得、VのN末端をVのC末端と接続することができ、またはその逆も可能である。このタンパク質は、定常領域が除去され、リンカーが導入されているにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。ScFv分子は当該技術分野で知られており、例えば、米国特許第5,892,019号明細書に記載されている。
【0043】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、生化学的に区別することができるポリペプチドのさまざまな広範なクラスを包含する。当業者であれば、重鎖が、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロン(γ、μ、α、δ、またはε)に分類され、それらの中にはいくつかのサブクラス(例えば、γ1~γ4)があることを理解する。この鎖の性質により、抗体の「クラス」がそれぞれIgG、IgM、IgA IgGまたはIgEとして決定される。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgGなどは十分に特徴付けられており、機能的な特殊性を付与することが知られている。これらのクラスおよびアイソタイプのそれぞれの修飾バージョンは、本開示を考慮して当業者に容易に識別可能であり、したがって、本開示の範囲内にある。すべての免疫グロブリンクラスは、明らかに本開示の範囲内にあるが、以下の議論は、一般的には免疫グロブリン分子のIgGクラスに向けられる。IgGに関して、標準的な免疫グロブリン分子は、分子量約23,000ダルトンの2つの同一の軽鎖ポリペプチドと、分子量約53,000~70,000ダルトンの2つの同一の重鎖ポリペプチドとを含む。4本の鎖は、典型的には、「Y」字型のジスルフィド結合によってつながれており、軽鎖は「Y」の口部で始まり、可変領域を通って続く重鎖を囲む。
【0044】
本開示の抗体、抗原結合ポリペプチド、バリアント、またはそれらの誘導体としては、ポリクローナル、モノクローナル、多特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体またはキメラ抗体、単鎖抗体、エピトープ結合断片、例えば、Fab、Fab'およびF(ab')、Fd、Fvs、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)、VKまたはVHドメインのいずれかを含む断片、Fab発現ライブラリーによって産生された断片、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書に開示されているLIGHT抗体に対する抗Id抗体を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。本開示の免疫グロブリンまたは抗体分子は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであり得る。
【0045】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(Κ,λ)のいずれかに分類される。各重鎖クラスは、カッパまたはラムダ軽鎖のいずれかに結合され得る。一般に、軽鎖と重鎖とは互いに共有結合的に結合しており、2つの重鎖の「尾」部は、ハイブリドーマ、B細胞または遺伝子操作された宿主細胞のいずれかによって免疫グロブリンが生成された場合に、共有ジスルフィド結合または非共有結合によって互いに結合される。重鎖では、アミノ酸配列は、Y字型の分岐した端部のN末端から各鎖の下部のC末端まで延びる。
【0046】
軽鎖および重鎖の両方は、構造的相同性と機能的相同性との領域に分けられる。「定常」および「可変」という用語は、機能的に使用される。これに関して、軽鎖(VK)および重鎖(VH)の部分の両方の可変ドメインが抗原の認識および特異性を決定することが理解されよう。逆に、軽鎖(CK)および重鎖(CH1、CH2またはCH3)の定常ドメインは、重要な生物学的特性、例えば分泌、経胎盤移動、Fc受容体結合、補体結合などを付与する。慣例により、定常領域ドメインの番号付けは、それらが抗体の抗原結合部位またはアミノ末端から、より遠位になるにつれて増加する。N末端部分は可変領域であり、C末端部分は定常領域である。CH3およびCKドメインは、実際にはそれぞれ重鎖および軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0047】
上記のように、可変領域により、抗体は抗原上のエピトープを選択的に認識し、特異的に結合することが可能になる。すなわち、抗体のVKドメインおよびVHドメイン、または相補性決定領域(CDR)のサブセットが組み合わさって、三次元の抗原結合部位を画定する可変領域を形成する。この四次抗体構造は、Yの各アームの端部に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖およびVK鎖のそれぞれの3つのCDR(すなわち、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2およびCDR-L3)によって定義される。いくつかの例では、例えば、ラクダ科の種に由来する、またはラクダ科の免疫グロブリンに基づいて操作された一定の免疫グロブリン分子では、完全な免疫グロブリン分子は、重鎖のみからなり、軽鎖は含まれない場合がある。例えば、Hamers-Casterman et al.,Nature 363:446-448(1993)を参照されたい。
【0048】
天然に存在する抗体では、各抗原結合ドメインに存在する6つの「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体が水性環境でその三次元配置をとったときに、抗原結合ドメインを形成するように特異的に置かれたアミノ酸の短い不連続な配列である。「フレームワーク」領域と呼ばれる、抗原結合ドメインのアミノ酸の残りの部分は、より少ない分子間変動を示す。フレームワーク領域は、大部分がβ-シート構造をとり、CDRは、このβ-シート構造を接続しかつ場合によってはβ-シート構造の一部を形成するループを形成する。したがって、フレームワーク領域は、鎖間、非共有結合の相互作用によって、CDRを正しい向きに位置決めするための足場を形成するように機能する。位置決めされたCDRによって形成される抗原結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに対して相補的な表面を画定する。この相補的な表面は、その同族のエピトープに対する抗体の非共有結合的な結合を促進する。CDRおよびフレームワーク領域をそれぞれ含むアミノ酸は、それらが正確に定義されていることから、当業者によって任意の所与の重鎖または軽鎖可変領域について容易に同定することができる。(「Sequences of Proteins of Immunological Interest,」Kabat,E.,et al.,U.S.Department of Health and Human Services,(1983);およびChothia and Lesk,J.MoI.Biol.,196:901-917(1987)を参照されたい)。
【0049】
当該技術分野内で使用および/または許容され得る用語の定義が2つ以上ある場合、本明細書で使用される用語の定義は、逆のことが明示されていない限り、そのような意味をすべて含むことを意図している。特定の例は、「相補性決定領域」(「CDR」)という用語の使用であり、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドとの両方の可変領域内に見られる不連続な抗原結合部位を説明する。この特定の領域は、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」(1983)およびChothia et al.,J.MoI.Biol.196:901-917(1987)によって説明されており、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。KabatおよびChothiaによるCDRの定義には、互いに比較した場合、アミノ酸残基の重複またはサブセットが含まれる。それにもかかわらず、抗体またはそのバリアントのCDRに言及するためのいずれかの定義の適用は、本明細書で定義および使用される用語の範囲内であることを意図している。上記で引用される参考文献のそれぞれによって定義されるCDRを含む適切なアミノ酸残基を、比較として下記の表に示す。特定のCDRを含む正確な残基番号は、CDRの配列およびサイズに応じて異なる。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列が与えられれば、どの残基が特定のCDRを含むかを日常的に決定することができる。
【表1】
【0050】
Kabat et.al.はまた、任意の抗体に適用可能な可変ドメイン配列の番号付け体系を定義した。当業者は、配列自体を超える任意の実験データに依存することなく、この「Kabat番号付け」の体系を任意の可変ドメイン配列に明確に割り当てることができる。本明細書で使用される場合、「Kabat番号付け」は、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,「Sequence of Proteins of Immunological Interest"(1983)」によって示される番号付け体系を指す。
【0051】
上記の表に加えて、Kabat番号体系では、CDR領域は以下のように説明されている:CDR-H1は、およそアミノ酸31(すなわち、最初のシステイン残基の後からおよそ9残基目)で始まり、およそ5~7個のアミノ酸を含み、次のトリプトファン残基で終わる。CDR-H2は、CDR-H1の端部の後から15残基で始まり、およそ16~19個のアミノ酸を含み、次のアルギニンまたはリジン残基で終わる。CDR-H3は、CDR-H2の端部の後からおよそ33アミノ酸残基目で始まり、3~25個のアミノ酸を含み、配列W-G-X-Gで終わり、ここで、Xは任意のアミノ酸である。CDR-L1は、およそ残基24(すなわち、システイン残基の後)で始まり、およそ10~17個の残基を含み、次のトリプトファン残基で終わる。CDR-L2は、CDR-L1の端部の後からおよそ16残基目で始まり、およそ7個の残基を含む。CDR-L3は、CDR-L2の端部の後からおよそ33残基目(すなわち、システイン残基の後)で始まり、およそ7~11個の残基を含み、配列FまたはW-G-X-Gで終わり、ここで、Xは任意のアミノ酸である。
【0052】
本明細書に開示されている抗体は、鳥類および哺乳動物を含む任意の動物起源に由来し得る。好ましくは、抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマまたはニワトリの抗体である。いくつかの実施形態では、可変領域は、起源が(例えば、サメ由来の)軟骨魚類(condricthoid)であり得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「重鎖定常領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。重鎖定常領域を含むポリペプチドは、CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中央部および/または下部のヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそれらのバリアントもしくは断片の少なくとも1つを含む。例えば、本開示で使用するための抗原結合ポリペプチドは、CH1ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH2ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインおよびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖、またはCH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含み得る。別の実施形態では、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示で使用するための抗体は、CH2ドメインの少なくとも一部(例えば、CH2ドメインの全部または一部)を持たない場合がある。上記のように、重鎖定常領域は、天然に存在する免疫グロブリン分子とはアミノ酸配列が異なるように改変され得ることが当業者によって理解されよう。
【0054】
本明細書に開示されている抗体の重鎖定常領域は、異なる免疫グロブリン分子に由来し得る。例えば、ポリペプチドの重鎖定常領域は、IgG分子に由来するCH1ドメインおよびIgG分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖定常領域は、一部はIgG分子に由来し、一部はIgG分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖部分は、一部はIgG分子に由来し、一部はIgG分子に由来するキメラヒンジを含み得る。
【0055】
本明細書で使用される場合、「軽鎖定常領域」という用語は、抗体軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。好ましくは、軽鎖定常領域は、定常カッパドメインまたは定常ラムダドメインのうちの少なくとも1つを含む。
【0056】
「軽鎖-重鎖ペア」は、軽鎖のCLドメインと重鎖のCH1ドメインとの間のジスルフィド結合を介して二量体を形成することができる軽鎖および重鎖の集合を指す。
【0057】
前述のように、さまざまな免疫グロブリンのクラスの定常領域のサブユニット構造および三次元配置は周知である。本明細書で使用される場合、「VHドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖のアミノ末端可変ドメインを含み、「CH1ドメイン」という用語は、免疫グロブリン重鎖の最初(最もアミノ末端)の定常領域ドメインを含む。CH1ドメインはVHドメインに隣接し、免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域のアミノ末端にある。
【0058】
本明細書で使用される場合、「CH2ドメイン」という用語は、例えば、従来の番号付けスキーム(残基244~360、Kabat番号付け体系;および残基231~340、EU番号付け体系;Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」(1983)を参照されたい)を使用して、抗体の約244残基から360残基まで延びる重鎖分子の部分を含む。CH2ドメインは、別のドメインと密接にペアリングされていないという点でユニークである。それどころか、インタクトなネイティブIgG分子の2つのCH2ドメイン間に2つのN結合型分岐炭水化物鎖が挿入されている。また、CH3ドメインは、CH2ドメインからIgG分子のC末端まで延びており、およそ108残基を含むことも十分に立証されている。
【0059】
本明細書で使用される場合、「ヒンジ領域」という用語は、CH1ドメインをCH2ドメインにつなげる重鎖分子の部分を含む。このヒンジ領域は、およそ25残基を含み、可動性があるため、2つのN末端抗原結合領域を独立して移動させる。ヒンジ領域は、3つの異なるドメインに分割され得る:上部、中央部および下部のヒンジドメイン(Roux et al.,J.Immunol 161:4083(1998))。
【0060】
本明細書で使用される場合、「ジスルフィド結合」という用語は、2個の硫黄原子間に形成される共有結合を含む。アミノ酸システインは、ジスルフィド結合を形成するか、または第2のチオール基と架橋することができるチオール基を含む。ほとんどの天然に存在するIgG分子では、CH1とCK領域とはジスルフィド結合によって結合されており、この2つの重鎖は、Kabat番号付け体系を使用して239および242に対応する位置(位置226または229、EU番号付け体系)で2つのジスルフィド結合によって結合されている。
【0061】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗体」という用語は、免疫反応性領域または部位が第1の種から得られるかまたはそれに由来し、定常領域(本開示に従ってインタクト、部分的または改変されていてもよい)が第2の種から得られる任意の抗体を意味すると考えられる。特定の実施形態では、標的結合領域または部位は、非ヒト起源(例えば、マウスまたは霊長類)に由来し、定常領域はヒトである。
【0062】
本明細書で使用される場合、「ヒト化パーセント」は、ヒト化ドメインと生殖系列ドメインとの間のフレームワークのアミノ酸の相違(すなわち、非CDR相違)の数を求め、その数をアミノ酸の総数から減算し、次いでそれをアミノ酸の総数で割って100を掛けることにより算出される。
【0063】
「特異的に結合する」または「特異性を有する」とは、一般的には、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合することと、その結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間でいくらかの相補性を伴うこととを意味する。この定義によれば、抗体は、それがランダムな関連のないエピトープに結合するよりも容易に、その抗原結合ドメインを介してそのエピトープに結合するとき、そのエピトープに「特異的に結合する」と言われる。本明細書では、「特異性」という用語は、ある抗体があるエピトープに結合するときの相対アフィニティーを規定するために使用される。例えば、抗体「A」は、抗体「B」よりも所定のエピトープに対して高い特異性を有するとみなすことができたり、抗体「A」は、関連エピトープ「D」に対するよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言ったりすることができる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「治療する」または「治療」という用語は、治療処置と予防的または防止的措置との両方を指し、その目的は、癌の進行などの望ましくない生理学的な変化または障害を防止または遅延(軽減)させることである。有益なまたは望ましい臨床結果としては、症状の緩和、疾患の範囲の減少、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患の進行の引き延ばしまたは遅延、疾患の状態の改善または緩和、および寛解(部分的もしくは全体的であるかどうかにかかわらず)が、検出可能もしくは検出不能であるかどうかにかかわらず、挙げられるが、これらに限定されない。「治療」はまた、治療を受けていない場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延ばすことを意味し得る。治療を必要とする人には、すでに病態もしくは障害を患っている人だけでなく、病態もしくは障害を起こしやすい人または病態もしくは障害が予防されるべき人も含まれる。
【0065】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」とは、診断、予後診断または治療が望まれる任意の対象、特に哺乳動物の対象を意味する。哺乳動物の対象としては、ヒト、飼育動物、有用動物、および動物園用、スポーツ用またはペット用動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、雌ウシ、家畜ウシなどが挙げられる。
【0066】
本明細書で使用される場合、「治療を必要とする患者に」または「治療を必要とする対象」などの語句には、例えば、検出、診断手順および/または治療のために使用される本開示の抗体または組成物の投与から恩恵を受ける対象、例えば哺乳動物の対象(ヒト対象を含む)を含む。
抗CD47抗体
【0067】
本開示は、ヒトCD47タンパク質に高いアフィニティーを持つ抗CD47抗体を提供し、CD47とその受容体であるSIRP-αとの間の相互作用を効果的に遮断することができる。また、これらの抗CD47抗体は、ヒトMΦによる腫瘍細胞のファゴサイトーシスを促進する。ある既知の抗CD47抗体と比較して、本開示の抗体のさらに別の重要な利点は、これらの抗体が高濃度でもRBC凝集を引き起こさないことである。これらの試験した抗体は、強力な結合活性および阻害活性を示し、治療および診断での使用に有用である。
【0068】
CD47タンパク質は、50kDaの膜貫通タンパク質でり、細胞外のN末端にIgVドメインと、5つの膜貫通ドメインと、短いC末端の細胞内尾部とを有する。CD47は、細胞表面糖タンパク質であるIgファミリーに属するSIRP-αのリガンドであり、細胞外マトリックス糖タンパク質であるトロンボスポンジンファミリーの表現型メンバーであるトロンボスポンジン-1(TSP-1)の受容体であることが示されている。CD47/SIRP-αの相互作用は、リンパ球のホメオスタシス、樹状細胞(DC)の成熟および活性化、二次リンパ系器官における特定のDCサブセットの適切な局在化、および細胞の移動を制御する免疫系など、多くの体組織における多数の細胞間相互作用を制御するだけでなく、神経系の細胞も制御する。CD47とSIRP-αとの相互作用は、骨リモデリングにも重要な役割を果たしている。
【0069】
いくつかの実施形態は、配列番号1~6で定義されたCDR領域を有する重鎖および軽鎖可変ドメインを含む抗CD47抗体を提供する。いくつかの実施形態は、配列番号1、7~9、5および10で定義されたCDR領域を有する重鎖および軽鎖可変ドメインを含む抗CD47抗体を提供する。
第1表.CDR領域の配列
【表2】
【0070】
表1の特定のアミノ酸位置が強調されており、これは抗体B08とH06との間でアミノ酸が異なっている。これらのことは、抗体の抗原結合アフィニティーまたは他の生物学的活性を低下させずに、これらの位置のアミノ酸が変化し得ることを示唆している。
【0071】
本明細書に開示されている実験例で実証されているように、配列番号1~6で定義されたCDR領域を含む抗体、または配列番号1、7~9、5および10で定義されたCDR領域を含む抗体は、マウスまたはヒト化されているかどうかにかかわらず、強力なCD47結合活性および阻害活性を有していた。いくつかの実施形態では、本開示の抗CD47抗体は、1つ、2つ、または3つの改変を伴う、表1に記載のVHおよびVL CDRの1つまたは複数を含む。そのような修飾は、アミノ酸の付加、欠失または置換であり得る。いくつかの実施形態では、この修飾のうちの少なくとも1つが、表1で下線および太字で示されているアミノ酸位置のうちの1つにある。例えば、この修飾は、配列番号1または5の任意の位置、配列番号2もしくは配列番号7の4位、7位、12位および/もしくは15位;配列番号3もしくは配列番号8の1位および/もしくは2位;配列番号4もしくは配列番号9の1位もしくは6位;配列番号6もしくは配列番号10の5位、またはこれらの任意の組み合わせとすることができる。
【0072】
いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1、または単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号1のバリアント;(b)配列番号2のVH CDR2、または配列番号2の4位、7位、12位および/もしくは15位に単一、二重、三重もしくは四重の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号2のバリアント;(c)配列番号3のVH CDR3、または配列番号3の1位および/もしくは2位に単一もしくは二重の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号3のバリアント;(d)配列番号4のVL CDR1、または配列番号4の1位もしくは6位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号4のバリアント;(e)配列番号5のVL CDR2、または単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号5のバリアント;ならびに(f)配列番号6のVL CDR3、または配列番号6の5位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号6のバリアントを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1;(b)配列番号2のVH CDR2;(c)配列番号3のVH CDR3;(d)配列番号4のVL CDR1;(e)配列番号5のVL CDR2、および(f)配列番号6のVL CDR3を含む。いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1、または配列番号1に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号1のバリアント;(b)配列番号2のVH CDR2、または配列番号2に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号2のバリアント;(c)配列番号3のVH CDR3、または配列番号3に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号3のバリアント;(d)配列番号4のVL CDR1、または配列番号4に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号4のバリアント;e)配列番号5のVL CDR2;および(f)配列番号6のVL CDR3、または配列番号6に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号6のバリアントを含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1、または配列番号1に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号1のバリアント;(b)配列番号2のVH CDR2、または配列番号2に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号2のバリアント;(c)配列番号3のVH CDR3、または配列番号3に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号3のバリアント;(d)配列番号4のVL CDR1、または配列番号4に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号4のバリアント;(e)配列番号5のVL CDR2、または配列番号5に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号5のバリアント;および(f)配列番号6のVL CDR3、または配列番号6に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号6のバリアントを含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1、または単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号1のバリアント;(b)配列番号7のVH CDR2、または配列番号7の4位、7位、12位および/もしくは15位に単一、二重、三重もしくは四重の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号7のバリアント;(c)配列番号8のVH CDR3、または配列番号8の1位および/もしくは2位に単一もしくは二重の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号8のバリアント;(d)配列番号9のVL CDR1、または配列番号9の1位もしくは6位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号9のバリアント;(e)配列番号5のVL CDR2、または単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号5のバリアント;ならびに(f)配列番号10のVL CDR3、または配列番号10の5位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号10のバリアントを含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1;(b)配列番号7のVH CDR2;(c)配列番号8のVH CDR3;(d)配列番号9のVL CDR1;(e)配列番号5のVL CDR2;および(f)配列番号10のVL CDR3を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1、または配列番号1に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号1のバリアント;(b)配列番号7のVH CDR2、または配列番号7に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号7のバリアント;(c)配列番号8のVH CDR3、または配列番号8に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号8のバリアント;(d)配列番号9のVL CDR1、または配列番号9に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号9のバリアント;e)配列番号5のVL CDR2、または配列番号5に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号5のバリアント;および(f)配列番号10のVL CDR3、または配列番号10に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有する配列番号10のバリアントを含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、単離された抗CD47抗体またはその断片は、(a)配列番号1のVH CDR1、または配列番号1に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号1のバリアント;(b)配列番号7のVH CDR2、または配列番号7に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号7のバリアント;(c)配列番号8のVH CDR3、または配列番号8に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号8のバリアント;(d)配列番号9のVL CDR1、または配列番号9に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号9のバリアント;(e)配列番号5のVL CDR2、または配列番号5に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号5のバリアント;および(f)配列番号10のVL CDR3、または配列番号10に対して単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号10のバリアントを含む。
【0079】
本明細書に開示されている置換は、いくつかの実施形態では、保存的置換である。
【0080】
「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが、当該技術分野で定義されており、これらの側鎖としては、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、免疫グロブリンポリペプチドの非必須アミノ酸残基が、好ましくは、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置き換えられる。別の実施形態では、アミノ酸のストリングが、側鎖ファミリーメンバーの順序および/または組成が異なる、構造的に類似したストリングで置き換えられ得る。
【0081】
保存的アミノ酸置換の非限定的な例を下記の第2表~第3表に提供しており、ここで、0以上の類似性スコア(第2表を参照されたい)が2つのアミノ酸間の保存的置換を示す。
第2表.アミノ酸類似性マトリックス
【表3】
第3表.保存的アミノ酸置換
【表4】
【0082】
いくつかの実施形態では、置換は、本開示の別の抗体からの同じCDR位置のアミノ酸によるものである。例えば、配列番号2のT4はPで置換することができ、配列番号2のG7はAで置換することができ、配列番号2のN12はSで置換することができ、配列番号2のF15はVで置換することができ、配列番号3のY1はNで置換することができ、配列番号3のN2はDで置換することができ、配列番号4のK1はRで置換することができ、配列番号4のL6はRで置換することができ、配列番号6のS5はNで置換することができ、配列番号7のP4はTで置換することができ、配列番号7のA7はGで置換することができ、配列番号7のS12はNで置換することができ、配列番号7のV15はFで置換することができ、配列番号8のN1はYで置換することができ、配列番号8のD2はNで置換することができ、配列番号9のR1はKで置換することができ、配列番号9のR6はLで置換することができ、配列番号10のN5はSで置換することができる。
【0083】
抗体および断片の例としては、配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域を有するものが挙げられる。そのような抗体および断片の例としては、配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域を有するものが挙げられる。
【0084】
いくつかの例では、抗体またはその断片は、配列番号15もしくは16のアミノ酸配列、または配列番号15もしくは16のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号17のアミノ酸配列、または配列番号17のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む。
【0085】
また、抗体および断片の例としては、配列番号13および18~19からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号13および18~19からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域が挙げられる。そのような抗体または断片の例としては、配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域が挙げられる。
【0086】
いくつかの実施形態では、抗体またはその断片は、配列番号18もしくは19のアミノ酸配列、または配列番号18もしくは19のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号20のアミノ酸配列、または配列番号20のアミノ酸配列に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%もしくは99%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む。
【0087】
ヒト化VHのうち、配列番号16は、マウスバージョンへの1つまたは複数のバックミューテーションを含む。同様に、VLの非限定的な例は、配列番号19にバックミューテーションを伴って提供されている。
【0088】
いくつかの実施形態では、バックミューテーションは、抗CD47抗体の1つまたは複数の特性を保持するために有用であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、本開示の抗CD47抗体、特にヒトまたはヒト化されたものは、1つまたは複数のバックミューテーションを含む。いくつかの実施形態では、VHのバックミューテーション(すなわち、規定された位置に含まれるアミノ酸)は、Kabat番号付けに従って、(a)2位のIle、(b)71位のVal、(c)76位のThr、および(d)93位のThrから選択される1つまたは複数、ならびにこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、バックミューテーションは、Kabat番号付けに従って、(a)2位のIleおよび(b)71位のVal、ならびにこれらの組み合わせから選択される。
【0089】
また、本明細書に開示されている抗体は、その由来となった天然に存在する結合ポリペプチドとアミノ酸配列が異なるように改変されている可能性があることも、当業者であれば理解されよう。例えば、指定されたタンパク質に由来するポリペプチドまたはアミノ酸配列は、類似していてもよく、例えば、出発配列に対して一定のパーセントの同一性を有していてもよく、例えば、出発配列に対して60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、またはこれらの値のいずれか2つの間の範囲で同一であってもよい。
【0090】
いくつかの実施形態では、抗体は、通常は抗体と関連しないアミノ酸配列または1つもしくは複数の部分を含む。例示的な修飾を、下記でより詳細に説明する。例えば、本明細書に開示されている抗体は、可動性リンカー配列を含んでもよいし、機能的部分(例えば、PEG、薬物、毒素または標識)を付加するように修飾されていてもよい。
【0091】
本開示の抗体、それらのバリアントまたは誘導体としては、修飾された誘導体、すなわち、共有結合が抗体のエピトープに対する結合を妨げないように、任意のタイプの分子の抗体に対する共有結合によって修飾された誘導体が挙げられる。例えば、限定するものではないが、抗体は、例えば、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、リン酸化、アミド化、既知の保護/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解的切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質などに対する結合によって修飾することができる。多数の化学的修飾のいずれかを、特異的化学切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成などを含むがこれらに限定されない既知の技術によって行うことができる。さらに、抗体は、1つまたは複数の非古典的アミノ酸を含み得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、抗体は、治療薬、プロドラッグ、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物学的応答修飾因子、医薬品またはPEGにコンジュゲートされ得る。
【0093】
抗体は、検出可能な標識、例えば放射性標識、免疫調節剤、ホルモン、酵素、オリゴヌクレオチド、光活性治療薬または診断薬、薬物もしくは毒素であり得る細胞毒性剤、超音波増強剤、非放射性標識、これらの組み合わせ、および当該技術分野で既知の他のそのような薬剤を含み得る治療薬にコンジュゲートまたは融合され得る。
【0094】
抗体は、それを化学発光化合物にカップリング結合することによって検出可能に標識することができる。次いで、化学発光タグ付き抗原結合ポリペプチドの存在は、化学反応の過程において現れる発光の存在を検出することによって決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、芳香族アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩およびシュウ酸エステルである。
【0095】
抗体はまた、152Euなどの蛍光発光金属、またはランタニド系列の他のものを使用して検出可能に標識することができる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を使用して抗体に結合することができる。さまざまな部分を抗体にコンジュゲートするための技術は周知である(例えば、Arnon et al.,「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」,in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy、Reisfeld et al.(eds.),pp.243-56(Alan R.Liss,Inc.(1985);Hellstrom et al.,「Antibodies For Drug Delivery」,in Controlled Drug Delivery(2nd Ed.)、Robinson et al.,(eds.),Marcel Dekker,Inc.,pp.623-53(1987);Thorpe,「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review」,in Monoclonal Antibodies '84:Biological And Clinical Applications、Pinchera et al.(eds.),pp.475-506(1985);「Analysis,Results,And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」,in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy、Baldwin et al.(eds.),Academic Press pp.303-16(1985)、およびThorpe et al.,「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」,Immunol.Rev.(52:119-58(1982)を参照されたい)。
二官能性分子
【0096】
CD47は腫瘍抗原である。
腫瘍抗原標的分子として、CD47に特異的な抗体または抗原結合断片を、免疫細胞に特異的な第2の抗原結合断片と組み合わせて二重特異性抗体を生成することができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、免疫細胞は、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、食細胞、ナチュラルキラー細胞、好酸球、好塩基球およびマスト細胞からなる群から選択される。標的化され得る免疫細胞上の分子としては、例えば、CD3、CD16、CD19、CD28およびCD64が挙げられる。他の例としては、PD-1、CTLA-4、LAG-3(CD223としても知られている)、CD28、CD122、4-1BB(CD137としても知られている)、TIM3、OX-40またはOX40L、CD40またはCD40L、LIGHT、ICOS/ICOSL、GITR/GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVMまたはBTLA(CD272としても知られている)、およびキラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)が挙げられる。二重特異性の特定の例としては、CD47/LAG3、CD47/TIGIT、CD47/PD-1およびCD47/PD-L1が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
本明細書に開示されているように、CD47に特異的な抗体または抗原結合断片を、腫瘍抗原に特異的な第2の抗原結合断片と組み合わせて二重特異性抗体を生成することができる。「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞で産生される抗原性物質を指し、すなわち、それは宿主において免疫応答を誘発する。腫瘍抗原は腫瘍細胞の同定に有用であり、癌治療で使用するための潜在的な候補である。体内の正常なタンパク質は抗原性ではない。しかしながら、特定のタンパク質は、腫瘍形成中に産生または過剰発現されるため、体にとって「異質」であるように見える。このタンパク質としては、免疫系から十分に隔絶された正常なタンパク質、通常は非常に少量で産生されるタンパク質、通常は発生の特定の段階でのみ産生されるタンパク質、または変異により構造が修飾されたタンパク質を挙げることができる。
【0099】
豊富な腫瘍抗原が当該技術分野で知られており、スクリーニングによって新しい腫瘍抗原を容易に同定することができる。腫瘍抗原の非限定的な例としては、EGFR、Her2、EpCAM、CD20、CD30、CD33、CD47、CD52、CD133、CD73、CEA、gpA33、ムチン、TAG-72、CIX、PSMA、葉酸結合タンパク質、GD2、GD3、GM2、VEGF、VEGFR、インテグリン、αVβ3、α5β1、ERBB2、ERBB3、MET、IGF1R、EPHA3、TRAILR1、TRAILR2、RANKL、FAPおよびテネイシンが挙げられる。
【0100】
いくつかの態様では、一価単位は、対応する非腫瘍細胞と比較して、腫瘍細胞上で過剰発現されるタンパク質に対する特異性を有する。本明細書で使用される「対応する非腫瘍細胞」は、腫瘍細胞の起源と同じ細胞型である非腫瘍細胞を指す。そのようなタンパク質は必ずしも腫瘍抗原と異なるわけではないことに留意されたい。非限定的な例としては、ほとんどの結腸、直腸、乳房、肺、膵臓および胃腸管の癌で過剰発現される癌胎児性抗原(CEA);乳癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌および子宮頸癌で頻繁に過剰発現されるヘレグリン受容体(HER-2、neuまたはc-erbB-2);乳房、頭頸部、非小細胞肺および前立腺の固形腫瘍を含むさまざまな固形腫瘍で高度に発現される上皮成長因子受容体(EGFR);アシアロ糖タンパク質受容体;トランスフェリン受容体;肝細胞上に発現されるセルピン酵素複合体受容体;膵管腺癌細胞上で過剰発現される線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR);抗血管新生遺伝子治療のための血管内皮増殖因子受容体(VEGFR);非ムチン性卵巣癌の90%で選択的に過剰発現される葉酸受容体;細胞表面糖衣;炭水化物受容体;ならびに呼吸器上皮細胞への遺伝子送達に有用であり、かつ嚢胞性線維症などの肺疾患の治療に魅力的な高分子免疫グロブリン受容体が挙げられる。この点における二重特異性の非限定的な例としては、CD47/EGFR、CD47/Her2、CD47/CD33、CD47/CD133、CD47/CEAおよびCD47/VEGFが挙げられる。
【0101】
異なるフォーマットの二重特異性抗体も提供される。いくつかの実施形態では、抗CD47断片および第2の断片の各々は、それぞれ独立して、Fab断片、単鎖可変断片(scFv)またはシングルドメイン抗体から選択される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体はさらにFc断片を含む。
【0102】
抗体または抗原結合断片だけを含むのではない二官能性分子も提供される。腫瘍抗原標的分子として、CD47に特異的な抗体または抗原結合断片、例えばここに記載されているものは、任意選択的にペプチドリンカーを介して免疫サイトカインまたはリガンドと組み合わせることができる。結合された免疫サイトカインまたはリガンドとしては、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、GM-CSF、TNF-α、CD40L、OX40L、CD27L、CD30L、4-1BBL、LIGHTおよびGITRLが挙げられるが、これらに限定されない。そのような二官能性分子は、免疫チェックポイント遮断効果を腫瘍部位の局所免疫調節と組み合わせることができる。
抗体をコードするポリヌクレオチドおよび抗体を調製する方法
【0103】
本開示はまた、本開示の抗体、それらのバリアントまたは誘導体をコードする単離されたポリヌクレオチドまたは核酸分子を提供するものである。本開示のポリヌクレオチドは、同じポリヌクレオチド分子または別個のポリヌクレオチド分子上の抗原結合ポリペプチド、そのバリアントまたは誘導体の重鎖および軽鎖可変領域全体をコードし得る。さらに、本開示のポリヌクレオチドは、同じポリヌクレオチド分子または別個のポリヌクレオチド分子上の抗原結合ポリペプチド、そのバリアントまたは誘導体の重鎖および軽鎖可変領域の部分をコードし得る。
【0104】
抗体を作製する方法は、当該技術分野で周知であり、本明細書に記載されている。特定の実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチドの可変領域および定常領域の両方は、完全ヒトである。完全ヒト抗体は、当該技術分野で記載されている技術を使用し、本明細書で記載されているように作製することができる。例えば、特異的抗原に対する完全ヒト抗体は、抗原チャレンジに応答してそのような抗体を産生するように修飾されているが、その内因性遺伝子座が欠損しているトランスジェニック動物に抗原を投与することによって調製することができる。そのような抗体を作製するために使用することができる例示的な技術は、米国特許第6,150,584号明細書、同第6,458,592号明細書、同第6,420,140号明細書に記載されており、これらは参照によりその全体が組み込まれる。
【0105】
特定の実施形態では、調製された抗体は、治療対象の動物、例えば、ヒトにおいて、有害な免疫応答を誘発しない。一実施形態では、本開示の抗原結合ポリペプチド、バリアント、またはその誘導体は、当該技術分野で認識されている技術を用いて、その免疫原性を低減するために修飾される。例えば、抗体をヒト化、霊長類化、脱免疫化することができ、またはキメラ抗体を作製することができる。これらのタイプの抗体は、親抗体の抗原結合特性を保持または実質的に保持するが、ヒトでの免疫原性は低い、非ヒト抗体、典型的にはマウスまたは霊長類の抗体に由来する。これは、(a)非ヒト可変ドメイン全体をヒト定常領域にグラフトしてキメラ抗体を生成する方法;(b)非ヒト相補性決定領域(CDR)の1つもしくは複数の少なくとも一部を、重要なフレームワーク残基の保持の有無にかかわらず、ヒトフレームワークおよび定常領域にグラフトする方法;または(c)非ヒト可変ドメイン全体をグラフトするが、表面の残基を置換することよってヒト様セクションでそれらを「クローキング」する方法を含む、さまざまな方法によって実現できる。そのような方法は、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 57:6851-6855 (1984);Morrison et al.,Adv.Immunol.44:65-92(1988);Verhoeyen et al.,Science 239:1534-1536(1988);Padlan,Molec Immun.25:489-498(1991);Padlan,Molec.Immun.31:169-217(1994)、ならびに米国特許第5,585,089号明細書、同第5,693,761号明細書、同第5,693,762号明細書および同第6,190,370号明細書に記載されており、これらはすべてその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0106】
脱免疫化は、抗体の免疫原性を低下させるためにも使用され得る。本明細書で使用される場合、「脱免疫化」という用語には、T細胞エピトープを修飾するための抗体の改変が含まれる(例えば、国際出願公開WO9852976A1およびWO0034317A2)を参照されたい)。例えば、出発抗体からの可変重鎖および可変軽鎖の配列を分析し、配列内の相補性決定領域(CDR)および他の重要な残基に対するエピトープの位置を示す、各V領域のヒトT細胞エピトープ「マップ」が創出される。最終抗体の活性を変化させるリスクが低い代替アミノ酸置換を同定すべく、T細胞エピトープマップから個々のT細胞エピトープが分析される。アミノ酸置換の組み合わせを含む、さまざまな代替の可変重鎖および可変軽鎖配列が設計され、これらの配列は、続けてさまざまな結合ポリペプチドに組み込まれる。典型的には、12~24個のバリアント抗体が生成され、結合性および/または機能性が試験される。次いで、修飾された可変領域とヒト定常領域とを含む完全な重鎖および軽鎖遺伝子が発現ベクターにクローニングされ、その後のプラスミドが全抗体の産生のために細胞株に導入される。次いで、抗体が適切な生化学的および生物学的アッセイで比較され、最適なバリアントが同定される。
【0107】
本開示の抗原結合ポリペプチドの結合特異性は、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ(RIA)または酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などのインビトロアッセイによって決定することができる。
【0108】
あるいは一本鎖ユニットの生成について記載された技術(米国特許第4,694,778号明細書;Bird, Science 242:423-442(1988);Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 55:5879-5883(1988);およびWard et al.,Nature 334:544-554(1989))を、本開示の一本鎖ユニットを生成するために適合させることができる。Fv領域の重鎖および軽鎖の断片がアミノ酸ブリッジを介して結合することによって一本鎖ユニットが形成され、一本鎖の融合ペプチドが生じる。大腸菌で機能的なFv断片をアセンブルする技術も使用することができる(Skerra et al.,Science 242:1038-1041 (1988))。
【0109】
一本鎖のFvs(scFvs)および抗体の生成に使用することができる技術の例としては、米国特許第4,946,778号明細書および同第5,258,498号明細書;Huston et al.,Methods in Enzymology 203:46-88(1991);Shu et al.,Proc.Natl.Sci.USA 90:1995-1999(1993);ならびにSkerra et al.,Science 240:1038-1040(1988)に記載されているものが挙げられる。ヒトにおける抗体のインビボでの使用およびインビトロでの検出アッセイを含むいくつかの用途では、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体を使用することが好ましい場合がある。キメラ抗体とは、抗体の異なる部分が異なる動物種に由来する分子のことで、例えば、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する抗体などがある。キメラ抗体を生成する方法は、当該技術分野で知られている。例えば、Morrison,Science 229:1202 (1985);Oi et al.,BioTechniques 4:214(1986);Gillies et al.,J.Immunol.Methods 125:191-202(1989);米国特許第5,807,715号明細書;同第4,816,567号明細書;および同第4,816397号明細書を参照されたい(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0110】
ヒト化抗体とは、非ヒト種の抗体に由来する抗体分子のことで、非ヒト種からの1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)とヒト免疫グロブリン分子からのフレームワーク領域とを有する所望の抗原に結合する。多くの場合、ヒトフレームワーク領域のフレームワーク残基は、CDRドナー抗体の対応する残基で置換されて抗原結合性を変化させ、好ましくは向上させる。例えば、CDRとフレームワーク残基との相互作用をモデル化して抗原結合に重要なフレームワーク残基を同定したり、配列を比較して特定の位置にある変わったフレームワーク残基を同定したりすることによって、これらのフレームワーク置換は当該技術分野で周知の方法によって同定される(例えば、Queen et al.,米国特許第5,585,089号明細書;Riechmann et al.,Nature 332:323(1988)を参照されたい(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。抗体は、例えば、CDRグラフト化(欧州特許出願公開第239,400号明細書;PCT刊行物である国際公開第91/09967号;米国特許第5,225,539号明細書、同第5,530,101号明細書;および同第5,585,089号明細書)、ベニアリングまたはリサーフェシング(欧州特許出願公開第592,106号明細書;欧州特許出願公開第519,596号明細書;Padlan,Molecular Immunology 28(4/5):489-498 (1991);Studnicka et al.,Protein Engineering 7(6):805-814(1994);Roguska et al.,Proc.Natl.Sci.USA 91:969-973(1994))ならびに鎖シャフリング(米国特許第5,565,332号明細書(これは参照によりその全体が組み込まれる)を含む、当該技術分野で知られているさまざまな技術を用いてヒト化することができる。
【0111】
完全ヒト抗体は、ヒト患者の治療処置のために特に望ましいものである。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを用いたファージディスプレイ法を含む、当該技術分野で知られているさまざまな方法によって作製することができる。米国特許第4,444,887号明細書および同第4,716,111号明細書;ならびにPCT刊行物である国際公開第98/46645号、国際公開第98/50433号、国際公開第98/24893号、国際公開第98/16654号、国際公開第96/34096号、国際公開第96/33735号および国際公開第91/10741号も参照されたい(これらの各号は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0112】
ヒト抗体は、機能的な内因性免疫グロブリンを発現できないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて作製することもできる。例えば、ヒトの重鎖および軽鎖の免疫グロブリン遺伝子複合体をマウス胚性幹細胞にランダムにまたは相同組換えによって導入してもよい。あるいはヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子に加えて、ヒトの可変領域、定常領域および多様性領域をマウス胚性幹細胞に導入してもよい。マウスの重鎖および軽鎖の免疫グロブリン遺伝子は、相同組換えによるヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入とは別にまたは同時に機能しなくなることがある。特に、JH領域のホモ接合欠失により、内因性の抗体産生が妨げられる。改変した胚性幹細胞を拡大し、胚盤胞にマイクロインジェクションしてキメラマウスを作製する。次いでこのキメラマウスを繁殖させると、ヒト抗体を発現するホモ接合体の子孫が生まれる。トランスジェニックマウスは、通常の方法で、選択された抗原、例えば、所望の標的ポリペプチドの全部または一部で免疫される。抗原に対して向けられたモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を用いて、免疫されたトランスジェニックマウスから得ることができる。トランスジェニックマウスが保有するヒト免疫グロブリンの導入遺伝子は、B細胞の分化中に再編成し、続けてクラススイッチおよび体細胞変異を起こす。したがって、そのような技術を用いて、治療に有用なIgG、IgA、IgMおよびIgE抗体を作製することが可能である。このヒト抗体作製技術の概要については、Lonberg and Huszar Int.Rev.Immunol.73:65-93(1995)を参照されたい。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を作製するためのこの技術およびそのような抗体を作製するためのプロトコルの詳細な議論については、例えば、PCT刊行物である国際公開第98/24893号;国際公開第96/34096号;国際公開第96/33735号;米国特許第5,413,923号明細書、同第5,625,126号明細書、同第5,633,425号明細書、同第5,569,825号明細書、同第5,661,016号明細書、同第5,545,806号明細書、同第5,814,318号明細書および同第5,939,598号明細書を参照されたい(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。加えて、Abgenix,Inc社(カリフォルニア州フリーモント)およびGenPharm社(カリフォルニア州サンノゼ)などの企業が、上記と同様の技術を用いて、選択された抗原に対して向けられたヒト抗体の提供に携わることができる。
【0113】
選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「Guided Selection」と呼ばれる技術を用いて生成することもできる。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えば、マウス抗体が、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を導くために使用される。(Jespers et al.,Bio/Technology 72:899-903(1988)。米国特許第5,565,332号明細書も参照されたい(これは参照によりその全体が組み込まれる)。
【0114】
所望のモノクローナル抗体をコードするDNAは、(例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによる)従来の手順を用いて容易に単離および配列決定することができる。単離およびサブクローニングされたハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい供給源となる。一旦単離されたDNAは、発現ベクターに入れてもよく、次いでこれは、大腸菌細胞、シミアンCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または他の方法では免疫グロブリンを産生しない骨髄腫細胞などの原核生物または真核生物の宿主細胞にトランスフェクトされる。より詳細には、単離されたDNA(本明細書に記載されているように合成されたものであってもよい)は、1995年1月25日付けで出願されたNewman et.al.,米国特許第5,658,570号明細書(これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているように、製造抗体のための定常領域および可変領域の配列をクローニングするために使用されてもよい。基本的に、これは、選択された細胞からのRNAの抽出、cDNAへの変換、およびIg特異的プライマーを用いたPCRによる増幅を伴う。この目的に適したプライマーは、米国特許第5,658,570号明細書にも記載されている。本明細書に記載されているように、所望の抗体を発現する形質転換細胞を比較的大量に増殖させて、免疫グロブリンの臨床的および商業的な供給を提供することができる。
【0115】
さらに、日常的な組換えDNA技術を用いて、本開示の抗原結合ポリペプチドの1つまたは複数のCDRを、フレームワーク領域内、例えば、ヒトフレームワーク領域に挿入して、非ヒト抗体をヒト化してもよい。フレームワーク領域は、天然に存在するまたはコンセンサスなフレームワーク領域であってもよく、好ましくはヒトフレームワーク領域である(例えば、ヒトフレームワーク領域のリストが掲載されているChothia et al.,J.Mol.Biol.278:457-479(1998)を参照されたい)。好ましくは、フレームワーク領域とCDRとの組み合わせによって生成されたポリヌクレオチドは、所望のポリペプチド、例えばLIGHTの少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する抗体をコードする。好ましくは、フレームワーク領域内で1個または複数のアミノ酸置換を行ってもよく、好ましくは、アミノ酸置換により抗体のその抗原への結合が改善される。さらに、そのような方法を用いて、鎖内ジスルフィド結合に関与する1個または複数の可変領域システイン残基のアミノ酸置換または欠失を行って、1つまたは複数の鎖内ジスルフィド結合を持たない抗体分子を生成することができる。ポリヌクレオチドの他の改変は、本開示に包含され、当業者が備えている技術の範囲内である。
【0116】
加えて、適切な抗原特異性を有するマウス抗体分子からの遺伝子を、適切な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と一緒にスプライシングすることによって「キメラ抗体」を作製するために開発された技術(Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA:851-855(1984);Neuberger et al.,Nature 372:604-608(1984);Takeda et al.,Nature 314:452-454(1985))を使用することができる。本明細書で使用される場合、キメラ抗体とは、異なる部分が異なる動物種に由来する分子のことで、例えば、マウスモノクローナル抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する抗体などがある。
【0117】
組換え抗体を生成するためのさらに別の高効率な手段は、Newman,Biotechnology 10:1455-1460(1992)に開示されている。具体的には、この技術により、サル可変ドメインとヒト定量配列とを含む霊長類化された抗体の生成が生じる。この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、この技術は、同一出願人による米国特許第5,658,570号明細書、同第5,693,780号明細書および同第5,756,096号明細書にも記載されており、これらの各号は参照により本明細書に組み込まれる。
【0118】
あるいは当業者に周知である技術を用いて、抗体産生細胞株を選択し、培養してもよい。そのような技術は、さまざまな実験室マニュアルおよび主な出版物に記載されている。この点について、以下に記載の開示に使用するのに適した技術が、Current Protocols in Immunology,Coligan et al,Eds.,Green Publishing Associates and Wiley-Interscience,John Wiley and Sons,New York (1991)に記載されており、これは付録を含めて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0119】
さらに、当業者に知られている標準的な技術を用いて、本開示の抗体をコードするヌクレオチド配列に変異を導入することができ、これには、アミノ酸置換をもたらす部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、バリアント(誘導体を含む)は、基準となる可変重鎖領域、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、可変軽鎖領域、CDR-L1、CDR-L2および/またはCDR-L3に対して50個未満のアミノ酸置換、40個未満のアミノ酸置換、30個未満のアミノ酸置換、25個未満のアミノ酸置換、20個未満のアミノ酸置換、15個未満のアミノ酸置換、10個未満のアミノ酸置換、5個未満のアミノ酸置換、4個未満のアミノ酸置換、3個未満のアミノ酸置換、または2個未満のアミノ酸置換をコードする。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の突然変異を、飽和突然変異誘発などによって、コーディング配列の全部または一部に沿ってランダムに導入し、その結果得られた変異体を生物学的活性についてスクリーニングして、活性を保持する変異体を同定することができる。
治療
【0120】
本明細書に開示されている抗CD47抗体、バリアントまたは誘導体は、治療および診断法、例えば、癌の治療および/または診断に使用される。
【0121】
本開示は、本明細書に記載される障害または病態の1つまたは複数を治療するための、動物、哺乳動物およびヒトなどの患者に本開示の抗体、バリアント、誘導体、またはそれらの断片を投与することを含む抗体ベースの治療を含む。本開示の治療化合物としては、本開示の抗体(本明細書に記載されるそのバリアントおよび誘導体を含む)、本開示の抗体(本明細書に記載されるそのバリアントおよび誘導体を含む)をコードする核酸またはポリヌクレオチド、ならびにそれらの断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
本開示の抗体は、癌の治療または抑制に使用することができる。いくつかの実施形態では、癌の治療を必要とする患者の癌を治療する方法が提供される。この方法は、いくつかの実施形態では、有効量の本開示の抗体を患者に投与することを含む。いくつかの実施形態では、患者の癌細胞(例えば、間質細胞)の少なくとも1つが、CD47を発現しているか、過剰発現しているか、または発現するように誘導されている。PD-L1の発現を誘導は、例えば、腫瘍ワクチンの投与または放射線治療によって行うことができる。
【0123】
CD47タンパク質を発現する腫瘍としては、膀胱癌、非小細胞肺癌、腎癌、乳癌、尿道癌、大腸癌、頭頸部癌、扁平上皮癌、メルケル細胞癌、胃腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、腎癌および小細胞肺癌が挙げられるが、これらに限定されない。現在開示されている抗体は、任意の1つまたは複数のそのような癌の治療に使用することができる。
【0124】
細胞療法、例えばキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法もまた、本開示で提供される。本開示の抗CD47抗体と接触させられる(あるいは本開示の抗CD47抗体を発現するように操作される)適切な細胞を使用することができる。そのように接触または操作されると、次いで細胞は治療を必要とする癌患者に導入され得る。癌患者は、本明細書に開示されているタイプのいずれかの癌を有し得る。細胞(例えば、T細胞)は、例えば、腫瘍浸潤性Tリンパ球、CD4+T細胞、CD8+T細胞、またはこれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されない。
【0125】
いくつかの実施形態では、細胞は、癌患者本人から単離された。いくつかの実施形態では、細胞は、ドナーによって、または細胞バンクから提供された。細胞を癌患者から単離すると、望ましくない免疫反応を最小限に抑えることができる。
【0126】
本開示の抗体、またはそのバリアントもしくは誘導体を用いて治療、予防、診断および/または予後診断され得る、細胞生存の増加に関連する更なる疾患または病態としては、悪性腫瘍ならびに関連疾患、例えば白血病(急性白血病(例えば、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病(骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性および赤血球性白血病を含む)を含む)および慢性白血病(例えば、慢性骨髄性(顆粒球性)白血病および慢性リンパ性白血病))、真性赤多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病および非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、および固形腫瘍であって、肉腫および癌腫、例えば線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、甲状腺癌、子宮内膜癌、黒色腫、前立腺癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起神経膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫および網膜芽細胞腫を含むがこれらに限定されない固形腫瘍の進行および/または転移が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
内皮細胞のCD47と白血球のSIRPγとの相互作用が、炎症部位でのT細胞の経内皮移動(TEM)を制御していることが明らかになっている。CD47ノックアウトマウスは、炎症領域に血中のT細胞ならびに好中球および単球の動員減少を示す。また、CD47はマウス赤血球の自己マーカーとしても機能しており、RBCがファゴサイトーシスを回避できるようにする。CD47を持たない赤血球は、SIRPαとの相互作用によって媒介されるプロセスであるマクロファージによって血流から速やかに除去される。
【0128】
したがって、いくつかの実施形態では、自己免疫疾患または炎症性疾患の治療を必要とする患者の自己免疫疾患または炎症性疾患を治療するための組成物および方法であって、有効量の本開示の抗体またはその断片を患者に投与することを含む、組成物および方法が提供される。
【0129】
自己免疫疾患または炎症性疾患の非限定的な例としては、パーキンソン病、関節炎、関節リウマチ、多発性硬化症、乾癬、乾癬性関節炎、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、狼瘡、全身性エリテマトーデス、若年性関節リウマチ、若年性特発性関節炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、アジソン病、セリアック病、皮膚筋炎、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、シェーグレン症候群、I型糖尿病、血管炎、ぶどう膜炎、アテローム性動脈硬化症および強直性脊椎炎が挙げられる。一実施形態では、自己免疫疾患または炎症性疾患はアテローム性動脈硬化症である。
併用療法
【0130】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている抗CD47抗体またはその断片は、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤、抗菌剤もしくは抗生剤および/または抗真菌剤と組み合わせて投与される。当該技術分野で知られているこれらの薬剤のいずれも、本開示の組成物と組み合わせて投与することができる。
【0131】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている抗CD47抗体またはその断片は、化学療法剤と組み合わせて投与される。本開示の組成物と共に投与され得る化学療法剤としては、抗生物質誘導体(例えば、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ダウノルビシンおよびダクチノマイシン);抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン);代謝拮抗剤(例えば、フルオロウラシル、5-FU、メトトレキサート、フロクスウリジン、インターフェロンα-2b、グルタミン酸、プリカマイシン、メルカプトプリンおよび6-チオグアニン);細胞毒性薬(例えば、カルムスチン、BCNU、ロムスチン、CCNU、シトシンアラビノシド、シクロホスファミド、エストラムスチン、ヒドロキシ尿素、プロカルバジン、マイトマイシン、ブスルファン、シスプラチンおよび硫酸ビンクリスチン);ホルモン(例えば、メドロキシプロゲステロン、エストラムスチンリン酸ナトリウム、エチニルエストラジオール、エストラジオール、酢酸メゲストロール、メチルテストステロン、2リン酸ジエチルスチルベストロール、クロロトリアニセンおよびテストラクトン);ナイトロジェンマスタード誘導体(例えば、メファレン、クロラムブシル、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)およびチオテパ);ステロイドとその組合せ(例えば、リン酸ベタメタゾンナトリウム);ならびにその他(例えば、ジカルバジン、アスパラギナーゼ、ミトタン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチンおよびエトポシド)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている抗CD47抗体またはその断片は、サイトカインと組み合わせて投与される。本開示の組成物と共に投与することができるサイトカインとしては、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、抗CD40、CD40LおよびTNF-αが挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されている抗CD47抗体またはその断片は、例えば放射線療法などの他の治療または予防レジメンと組み合わせて投与される。
【0134】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される抗CD47抗体および組成物は、1つまたは複数の更なる治療薬と共に使用または組み合わせてもよい。1つまたは複数の治療薬としては、Ablの阻害剤、活性化CDCキナーゼ(ACK)、アデノシンA2B受容体(A2B)、アポトーシスシグナル調節キナーゼ(ASK)、オーロラキナーゼ、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)、BRD4などのBETブロモドメイン(BRD)、c-Kit、c-Met、CDK活性化キナーゼ(CAK)、カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ(CaMK)、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)、カゼインキナーゼ(CK)、ジスコイジンドメイン受容体(DDR)、上皮成長因子受容体(EGFR)、フォーカルアドヒージョンキナーゼ(FAK)、Flt-3、FYN、グリコーゲン合成酵素キナーゼ(GSK)、HCK、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)、IKKβεなどのIKK、IDH1などのイソクエン酸脱水素酵素(IDH)、ヤヌスキナーゼ(JAK)、KDR、リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(LCK)、リシルオキシダーゼタンパク質、リシルオキシダーゼ様タンパク質(LOXL)、LYN、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、MEK、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)、NEK9、NPM-ALK、p38キナーゼ、血小板由来成長因子(PDGF)、ホスホリラーゼキナーゼ(PK)、ポロ様キナーゼ(PLK)、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)、タンパク質キナーゼA、Bおよび/またはCなどのタンパク質キナーゼ(PK)、PYK、脾臓チロシンキナーゼ(SYK)、セリン/スレオニンキナーゼTPL2、セリン/スレオニンキナーゼSTK、シグナル伝達兼転写(STAT)、SRC、TBK1などのセリン/スレオニン-タンパク質キナーゼ(TBK)、TIE、チロシンキナーゼ(TK)、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)、YES、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
本開示の抗CD47抗体は、いくつかの実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤と一緒に使用することができる。免疫チェックポイントとは、免疫系において、シグナルを上げる(共刺激性分子)か、またはシグナルを下げる(共抑制性分子)かのいずれかの分子である。多くの癌は、共抑制分子のアゴニストまたは共刺激分子のアンタゴニストによってT細胞のシグナルを抑制することによって、免疫系からその身を保護している。免疫チェックポイントのアゴニストまたはアンタゴニストは、細胞によるそのような保護メカニズムを阻止するのに役立ち得る。免疫チェックポイントのアゴニストまたはアンタゴニストは、以下のチェックポイント分子:PD-1、CTLA-4、LAG-3(CD223としても知られている)、CD28、CD122、4-1BB(CD137としても知られている)、TIM3、OX-40/OX40L、CD40/CD40L、LIGHT、ICOS/ICOSL、GITR/GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVMまたはBTLA(CD272としても知られている)のいずれか1つまたは複数を標的化することができる。
【0136】
プログラムT細胞死1(PD-1)は、T細胞の表面に見られる膜貫通タンパク質であり、これは腫瘍細胞上のプログラムT細胞死リガンド1(PD-L1)に結合すると、T細胞活性が抑制され、T細胞媒介性細胞毒性が減少されることになる。したがって、PD-1およびPD-L1は、免疫ダウンレギュレーターまたは免疫チェックポイント「オフスイッチ」である。PD-1阻害剤の例としては、ニボルマブ(オプジーボ)(BMS-936558)、ペムブロリズマブ(キトルーダ)、ピディリズマブ、AMP-224、MEDI0680(AMP-514)、PDR001、MPDL3280A、MEDI4736、BMS-936559およびMSB0010718Cが挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
CTLA-4は、免疫系をダウンレギュレートするタンパク質受容体である。CTLA-4阻害剤の非限定的な例としては、イピリムマブ(ヤーボイ)(BMS-734016、MDX-010、MDX-101としても知られている)およびトレメリムマブ(かつてのチシリムマブ、CP-675,206)が挙げられる。
【0138】
リンパ球活性化遺伝子3(LAG-3)は、細胞表面上の免疫チェックポイント受容体であり、Tregに対する作用による免疫応答を抑制するだけでなく、CD8+T細胞に直接影響する。LAG-3阻害剤としては、LAG525およびBMS-986016が挙げられるが、これらに限定されない。
【0139】
CD28は、ほぼすべてのヒトCD4+T細胞上、およびすべてのCD8T細胞の約半分で恒常的に発現され、T細胞の増殖を促す。CD28阻害剤の非限定的な例としては、TGN1412が挙げられる。
【0140】
CD122は、CD8+エフェクターT細胞の増殖を増加させる。非限定的な例としては、NKTR-214が挙げられる。
【0141】
4-1BB(CD137としても知られている)は、T細胞増殖に関与している。CD137媒介性シグナル伝達は、T細胞、特にCD8+T細胞を活性化誘導細胞死から保護することも知られている。PF-05082566、ウレルマブ(BMS-663513)およびリポカリンはCD137阻害剤の例である。
【0142】
上記の併用治療のいずれにおいても、抗CD47抗体は、他の抗癌剤と同時にまたは別々に投与することができる。別々に投与する場合、抗CD47抗体は、他の抗癌剤の前または後に投与することができる。
【0143】
任意の特定の患者の特定の投与量および治療レジメンは、使用される特定の抗体、それらのバリアントまたは誘導体、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、および食事、および投与時間、排泄率、薬物の組合せ、および治療下の特定の疾患の重症度を含むさまざまな要因に依存する。医療介護者によるそのような要因の判断は、当該技術分野の通常の技術の範囲内である。量はまた、治療される個々の患者、投与経路、製剤のタイプ、使用される化合物の特性、疾患の重症度、および所望の効果に依存する。使用量は、当該技術分野で周知の薬理学的および薬物動態学的原理によって決定され得る。
【0144】
抗体、それらのバリアントまたは誘導体の投与方法は、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路を含むが、これらに限定されない。抗原結合ポリペプチドまたは組成物は、任意の好都合な経路、例えば、注入またはボーラス注射により、上皮または粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)を介した吸収によって投与され得、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与され得る。したがって、本開示の抗原結合ポリペプチドを含有する医薬組成物は、経口、直腸、非経口、大槽内、膣内、腹腔内、局所的(粉末、軟膏、点滴または経皮パッチによる)、口腔内に、または経口もしくは経鼻スプレーとして投与され得る。
【0145】
本明細書で使用される「非経口」という用語は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下および関節内の注射および注入を含む投与モードを指す。
【0146】
投与は全身的でも局所的であってもよい。加えて、脳室内および髄腔内注射を含む任意の適切な経路によって、本開示の抗体を中枢神経系に導入することが望ましい場合がある。脳室内注射は、例えば、Ommayaリザーバーなどのリザーバーに取り付けられた脳室内カテーテルによって促進され得る。例えば、吸入器またはネブライザーの使用、およびエアロゾル化剤を用いた処方によって、肺投与も採用することができる。
【0147】
本開示の抗体ポリペプチドまたは組成物を、治療を必要とする領域に局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定するものではないが、手術中の局所注入によって、例えば、手術後の創傷被覆材と組み合わせた局所塗布によって、注射によって、カテーテルによって、坐剤によって、またはインプラント(前述のインプラントは、多孔性、非多孔性、またはゼラチン状の材料からなり、膜、例えばサイラスティックな膜、または繊維を含む)によって実現され得る。好ましくは、本開示の抗体を含むタンパク質を投与する場合、タンパク質が吸収しない材料を使用するように注意を払わなければならない。
【0148】
いくつかの実施形態では、抗原結合ポリペプチドまたは組成物は、制御放出システムで送達することができる。例えば、ポンプを使用してもよい(Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201;Buchwald et al.,1980,Surgery 88:507;Saudek et al.,1989、N.Engl.J.Med.321:574を参照されたい)。別の例として、ポリマー材料を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla. (1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley, New York(1984);Ranger and Peppas,J.,1983,Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61を参照されたい;Levy et al.,1985,Science 228:190;During et al.,1989、Ann.Neurol.25:351;Howard et al.,1989,J.Neurosurg.71:105も参照されたい)。さらに別の例では、制御放出システムを、治療標的、すなわち脳の近くに配置することで、全身投与量のほんの一部で済ませることができる(例えば、Goodson,in Medical Applications of Controlled Release(上記参照),vol.2,pp.115-138(1984)を参照されたい)。制御放出システムの他のいくつかの非限定的な例は、Langer(1990,Science 249:1527-1533)のレビューで議論されている。
【0149】
本開示の組成物がタンパク質をコードする核酸またはポリヌクレオチドを含むいくつかの実施形態では、核酸は、そのコードされたタンパク質の発現を促進するために、適切な核酸発現ベクターの一部として構築し、それが細胞内になるように投与することによって、例えば、レトロウイルスベクター(米国特許第4,980,286号明細書を参照されたい)の使用によって、または直接注射によって、またはマイクロパーティクルボンバードメント法(例えば、遺伝子銃法;バイオリスティック法(Dupont社)の使用、または脂質もしくは細胞表面受容体もしくはトランスフェクション試薬によるコーティングによって、または核に入ることが知られているホメオボックス様ペプチドに連結して投与すること(例えば、Joliot et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:1864-1868を参照されたい)などによって、インビボ投与することができる。あるいは相同組換えによって、核酸を細胞内に導入し、宿主細胞のDNA内に組み込んで発現させることができる。
【0150】
炎症性、免疫性または悪性の疾患、障害または病態の治療、抑制および予防に有効となる本開示の抗体の量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、最適な投与量の範囲を割り出しやすくするために、任意にインビトロアッセイを採用することができる。また、製剤に採用される正確な用量は、投与経路、および疾患、障害または病態の深刻さに依存し、施術者の判断および各患者の状況に応じて決定されるべきである。有効用量は、インビトロまたは動物モデルの試験系から得られた用量反応曲線から外挿することができる。
【0151】
一般的な提案として、本開示の抗原結合ポリペプチドの患者への投与量は、典型的には、患者の体重の0.1mg/kg~100mg/kg、患者の体重の0.1mg/kg~20mg/kg、または患者の体重の1mg/kg~10mg/kgである。一般的に、ヒト抗体は、外来ポリペプチドに対する免疫応答のために、他の種からの抗体よりも人体内での半減期が長い。したがって、ヒト抗体の投与量を少なくしたり、投与頻度を少なくしたりすることが可能な場合が多い。さらに、例えば、脂質化などの修飾によって、抗体の取り込みおよび組織への浸透(例えば、脳への浸透)を高めることで、本開示の抗体の投与量および投与頻度を減らすことができる。
【0152】
本開示の抗体、そのバリアント、または誘導体を投与することを含む、悪性疾患、病態または障害を治療する方法は、典型的には、ヒトに使用する前に、所望の治療または予防活性について、インビトロで、次いで許容可能な動物モデルでインビボで試験される。トランスジェニック動物を含む適切な動物モデルは、当業者に周知である。例えば、本明細書に記載されている抗原結合ポリペプチドの治療有用性を実証するためのインビトロアッセイには、抗原結合ポリペプチドが細胞株または患者の組織サンプルに及ぼす効果が含まれる。抗原結合ポリペプチドが細胞株および/または組織サンプルに及ぼす効果は、本明細書の別の箇所で開示されているアッセイなど、当業者に知られている技術を利用して決定することができる。本開示に従って、特異的な抗原結合ポリペプチドの投与が適応されるかどうかを決定するために使用することができるインビトロアッセイには、患者の組織サンプルを培養物で増殖し、化合物に曝露するか、またはその他の方法で投与し、当該化合物が組織サンプルに及ぼす効果を観察するインビトロ細胞培養アッセイが含まれる。
【0153】
さまざまな送達システムが知られており、本開示の抗体または本開示の抗体をコードするポリヌクレオチドを投与するために使用することができ、例えば、リポソーム、マイクロ粒子、マイクロカプセルへのカプセル化、化合物を発現することができる組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu,1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)、レトロウイルスまたは他のベクターの一部としての核酸の構築などが挙げられる。
診断方法
【0154】
CD47の過剰発現は、いくつかの腫瘍サンプルで観察され、CD47過剰発現細胞を有する患者は、本開示の抗CD47抗体を用いた治療に応答する可能性が高い。したがって、本開示の抗体は、診断および予後診断の目的で使用することもできる。
【0155】
好ましくは細胞を含むサンプルは、癌患者または診断を望む患者であり得る患者から取得することができる。細胞は、腫瘍組織の細胞または腫瘍ブロック、血液サンプル、尿サンプルまたは患者からの任意のサンプルとする。サンプルの任意の前処理の際、サンプルは、抗体がサンプル中に潜在的に存在するCD47タンパク質と相互作用することを可能にする条件下で、本開示の抗体とインキュベートすることができる。ELISAなどの方法を使用して、抗CD47抗体の利点を活かし、サンプル中のCD47タンパク質の存在を検出することができる。
【0156】
サンプル中のCD47タンパク質の存在(任意に量または濃度と共に)を、患者が抗CD47抗体を用いた治療に適していることを示すものとして、または患者が癌治療に応答した(もしくは応答しなかった)ことを示すものとして、癌の診断に使用することができる。予後診断の方法の場合、検出は、治療の進行を示すために癌治療の開始時に、特定の段階で1回、2回、または3回以上行うことができる。
組成物
【0157】
本開示はまた、医薬組成物を提供するものである。そのような組成物は、有効量の本明細書に開示されている抗CD47抗体またはその断片と、薬学的に許容され得る担体とを含む。いくつかの実施形態では、組成物はさらに第2の抗癌剤(例えば、免疫チェックポイント阻害剤)を含む。
【0158】
いくつかの実施形態では、「薬学的に許容され得る」という用語は、連邦政府もしくは州政府の監督機関によって承認されたこと、または動物、より詳細にはヒトでの使用のために米国薬局方もしくは他の一般に認可された薬局方にリストが掲載されていることを意味する。「薬学的に許容され得る担体」は、一般には、無毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、封入材料、または任意のタイプの製剤補助剤である。
【0159】
「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、医薬品添加剤または賦形剤を指す。そのような薬物担体は、無菌液体、例えば、水、および石油、動物、植物または合成起源のものを含む油、例えば落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などであり得る。水は、医薬組成物が静脈内投与されるときの好ましい担体である。生理食塩液およびデキストロース水溶液およびグリセロール溶液も、特に注射可能な溶液のための液体担体として採用することができる。適切な医薬品添加剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩もしくはリン酸塩も含むことができる。抗菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張性を調節するための薬剤も想定される。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤などの形態をとることができる。組成物は、従来のバインダーおよび担体、例えばトリグリセリドを用いて坐剤として処方することができる。経口製剤としては、標準的な担体、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。適切な薬物担体の例は、E.W.Martin著Remington's Pharmaceutical Sciencesに記載されており、この文献は参照により組み込まれる。そのような組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するために、適切な量の担体と一緒に、好ましくは精製された形態で治療有効量の抗原結合ポリペプチドを含む。処方は投与モードに適合しなければならない。親製剤は、ガラス製もしくはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器または複数回投与用バイアルに封入することができる。
【0160】
いくつかの実施形態では、組成物は、ヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として、日常的な手順に従って製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、組成物はまた、可溶化剤および注射部位の疼痛を和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔薬を含んでもよい。一般的には、成分は、例えば、活性薬剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密閉容器内の乾燥凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、別々にまたは一緒に混合して単位剤形で供給される。組成物が注入により投与される場合、無菌の医薬品グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルで調剤することができる。組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分を混合することができるように、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0161】
本開示の化合物は、中性または塩の形態として処方され得る。薬学的に許容され得る塩としては、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどのアニオンを用いて形成されたもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどのカチオンで形成されたものが挙げられる。
実施例
例1:ヒトCD47に対するマウスモノクローナル抗体の生成
【0162】
抗ヒトCD47マウスモノクローナル抗体を、ハイブリドーマ技術を用いて生成した。
【0163】
抗原:ヒトCD47-Fcタンパク質(Sino Biological社、カタログ番号12283-H02H)
【0164】
免疫化:ヒトCD47に対するマウスモノクローナル抗体を生成するために、6~8週齢の雌のBALB/cマウスにCD47-Fcタンパク質で免疫した。4ラウンドの免疫後、免疫したマウスの血清をELISAで抗体価評価に供した。簡単に言うと、マイクロタイタープレートに、ELISAコーティングバッファー中10g/mlのヒトCD47タンパク質を100μl/ウェル、4℃室温(RT)で一晩コーティングし、次いで200μl/ウェルの5%脱脂粉乳でブロックした。免疫したマウスの血清の希釈液を各ウェルに加え、37℃で1~2時間インキュベートした。プレートをPBS/Tweenで洗浄し、次いでホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)をコンジュゲートさせた抗マウスIgG抗体と37℃で1時間インキュベートした。洗浄後、プレートをTMB基質で顕色させ、OD450nmの分光光度計で分析した。十分な抗CD47IgG抗体価を持つマウスに、免疫後42日目に40μgのヒトCD47-Fcタンパク質をブーストした。
【0165】
免疫ライブラリーの構築:CD47を免疫したマウスの脾臓から増幅された抗体遺伝子断片からなるファージミドベクターを用いてファージライブラリーを構築した。抗体フォーマットは、ファージディスプレイライブラリーのFab断片である。No.3とNo.5のマウスからそれぞれ2つの免疫したライブラリーを作成した。ライブラリーサイズは1.2×10で、配列多様性を以下のように分析した。各ライブラリーからピックアップした10個のクローンについて、さらに配列決定した。90%超の配列が、これら2つのライブラリーのCDRに十分な多様性を示した。
【0166】
ファージパンニングおよびクローン選択:CD47は50kDaの膜受容体で、細胞外N末端のIgVドメイン、5つの膜貫通ドメイン、短いC末端の細胞内尾部を有する。ヒトFcとコンジュゲートしたヒトCD47-IgVドメインタンパク質、またはビオチン化したヒトCD47-IgVドメインタンパク質(Sino Biological社、カタログ番号12283-H02H)をファージライブラリーパンニングの抗原として使用した。
【0167】
ヒトCD47-Fcタンパク質に対するファージライブラリー溶液のパンニングを行った:ビオチン標識したCD47-Fcタンパク質をまずストレプトアビジン-Dynabeadsとインキュベートした。ファージライブラリーはビオチン標識したCD47をコーティングしたDynabeadsとインキュベートし、Kingfisher磁気ビーズ精製システムで洗浄した。結合したファージをトリプシンで溶出した。結果生じるファージはアウトプット1である。結合したファージをSS320細胞とインキュベートし、次ラウンドのパンニング・スクリーニングのために2YTプレートにプレーティングした。計3ラウンドのパンニング・スクリーニングを行った。アウトプット1、アウトプット2およびアウトプット3のファージELISAは、3ラウンドのスクリーニングの後、富化したCD47バインダーを示した。
【0168】
アウトプット2およびアウトプット3のファージから単一のクローンを採取した。これらのクローンの大腸菌上清を、抗原結合ELISAに供した。良好な結合力を示したクローンを、その後の配列決定のために選択した。その結果、9つのユニークな配列が同定された。
【0169】
この9つの配列をPcDNA3.4ベクターにクローニングし、293T細胞で発現させた。培養上清からタンパク質Gでモノクローナル抗体を精製した。精製した抗体を、CD47-Hisタンパク質に対するELISA結合評価に供した。図1に示すように、G08およびH06のクローンは、CD47抗原に対する用量依存的な結合を示した。
第4表.G08およびH06の変数配列
【表5】
第5表.G08およびH06のCDR配列
【表6】
例2:ヒトCD47に対するマウスモノクローナル抗体によるCD47/SIRP-α相互作用の遮断
【0170】
SIRP-αとの相互作用を遮断するマウス抗huCD47 mAbsの機能をさらに評価するために、HTRFアッセイを用いた。Tag1-SIRP-αとTag2-CD47との相互作用は、抗Tag1-テルビウム(HTRFドナー)と抗Tag2-XL665(HTRFアクセプター)とを用いて検出した。SIRP-αとCD47との結合によりドナー抗体とアクセプター抗体とを近接させると、ドナー抗体の励起がアクセプター抗体への蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を誘発し、アクセプター抗体はまた665nmで特異的に発光した。この特異的なシグナルは、CD47/SIRP-αの相互作用の程度に正比例する。したがって、CD47/SIRP-αの相互作用を遮断する分子は、HTRFシグナルの減少を引き起こすと考えられる。
【0171】
G08およびH06抗体は、CD47とSIRP-αとの相互作用を遮断する活性について評価した。図2に示すように、G08およびH06抗体の両方が、CD47/SIRP-αの相互作用を用量依存的に遮断することができる。
例3:G08およびH06クローンのヒト化設計
【0172】
mAbのG08およびH06の可変領域遺伝子を用いて、ヒト化モノクローナル抗体(mAb)を作製した。まず、mAbのG08およびH06のVHおよびVKのアミノ酸配列を、利用可能なヒトIg遺伝子配列のデータベースと比較して、全体的に最良に一致するヒト生殖細胞系Ig遺伝子配列を見出した。軽鎖ではVk1-4遺伝子が最もヒトに近い遺伝子として一致し、重鎖ではVH1-2遺伝子が最もヒトに近い遺伝子として一致した。
【0173】
次いで、CDRL1、L2およびL3をVk1-4遺伝子のフレームワーク配列に、CDRH1、H2およびH3をVH1-2遺伝子のフレームワーク配列にグラフトして、ヒト化可変ドメイン配列を設計した。次いで、3Dモデルを作成し、マウスのアミノ酸をヒトのアミノ酸に置き換えることで、結合および/またはCDRのコンフォメーションに影響を与えることができる任意のフレームワークの位置があるかどうかを決定した。重鎖の場合、フレームワーク中のRおよびVがバックミューテーションに関与していた。
第6表G08およびH06のCDR配列(太字/斜体はバックミューテーションを示している)
【表7】
【0174】
この遺伝子をpcDNA3.4ベクターにクローニングし、293F細胞にトランスフェクトした。第7表に従って、ヒト化抗体を作製した。培養上清からタンパク質Gで抗体を精製した。精製した抗体を、ヒトCD47-Hisタンパク質およびcyno CD47-Hisタンパク質の両方に対するELISA結合評価に供した。図3に示すように、すべての抗体がヒトCD47およびcyno CD47タンパク質の両方に対する用量依存的な結合を示した。
第7表.ヒト化CD47抗体の設計
【表8】
例4:ヒトCD47に対するヒト化モノクローナル抗体によるCD47/SIRP-α相互作用の遮断
【0175】
SIRP-αとの相互作用を遮断するヒト化抗huCD47 mAbsの活性を評価するために、HTRFアッセイを用いた。Tag1-SIRP-αとTag2-CD47との相互作用は、抗Tag1-テルビウム(HTRFドナー)と抗Tag2-XL665(HTRFアクセプター)とを用いて検出した。SIRP-αとCD47との結合によりドナー抗体とアクセプター抗体とを近接させると、ドナー抗体の励起がアクセプター抗体への蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を誘発し、アクセプター抗体はまた665nmで特異的に発光した。この特異的なシグナルは、CD47/SIRP-αの相互作用の程度に正比例する。したがって、CD47/SIRP-αの相互作用を遮断する分子は、HTRFシグナルの減少を引き起こすと考えられる。
【0176】
抗CD47抗体であるB5711、B5712、B5713、B5714、B5715およびB5716は、CD47とSIRP-αとの相互作用を遮断する活性について評価した。図4に示すように、これらの抗体はすべて、CD47/SIRP-αの相互作用を用量依存的に遮断することができる。
例5:RBC凝集アッセイにおけるRBC保存特性
【0177】
ヒト赤血球(RBC)をPBS中で10%に希釈し、丸底96ウェルプレートでCD47抗体を滴下しながら37℃で2時間インキュベートした。血球凝集反応の証拠は、非血球凝集化RBCの点状の赤いドットと比較して、ヘーズとして現れる非沈降RBCの存在によって実証される(図5を参照されたい)。
【0178】
図6は、抗体存在下でのRBCペレットの面積を定量化し、IgG対照の面積で正規化して決定された「凝集指数」と呼ばれる血球凝集アッセイの定量値を示している。既知のCD47抗体Hu5F9-G4(5F9)は0.21μg/mL以上の濃度で著しいRBC凝集を示したが、新規のCD47抗体(B5711~B5716)は150μg/mLまでの試験濃度でRBC凝集が本質的に見られなかった。
例6:Biacore(登録商標)によるヒト化抗体のフルキネティックアフィニティー
【0179】
この例では、ヒト化抗体の結合キネティクスを調べるために、Biacoreを用いてアフィニティーランキングを行った。B5711、B5712、B5713、B5714、B5715およびB5716の各mAbを、タンパク質Aチップを用いて捕獲した。5nMのヒトCD47-hisタグタンパク質を、30L/分の流速で120秒間、捕獲した抗体の上に注入した。抗原を130秒間かけて解離させた。表8に示すように、B5712、B5713、B5715およびB5716は、キメラ抗体に匹敵する優れたアフィニティーを示している。
第8表.ヒト化抗体のアフィニティーランキング
【表9】
【0180】
ヒト化抗体と組換えCD47タンパク質(ヒトCD47-hisタグ)との結合は、BIACORE(商標)による捕獲法を用いて試験した。B5712およびB5715のmAbは、タンパク質Aチップを用いて捕獲した。ヒトCD47-hisタグタンパク質の連続希釈液を、30μg/mlの流速で120秒間、捕獲した抗体上に注入した。抗原を600秒間かけて解離させた。すべての実験はBiacore T200で行った。データ解析はBiacore T200評価用ソフトウェアを用いて行い、表9に示した。
第9表.Biacore(登録商標)によるアフィニティー
【表10】
例7:ヒトマクロファージ(MΦ)による腫瘍細胞のファゴサイトーシスの研究
【0181】
ヒト血液からPBMCを単離し、単球を6日間かけてマクロファージに分化させた。CD47を内因性に発現しているヒト腫瘍細胞株HL-60を標的細胞として選択し、PKH26で標識し、次いでMDMに腫瘍細胞と食細胞とを5:1の比で加え、CD47抗体をさまざまな用量で加えた。1時間のインキュベーション後、細胞をPBS中で再懸濁し、マクロファージマーカーCD11b抗体で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。ファゴサイトーシスは、CD11b細胞にゲーティングし、次いでPKH26+細胞の割合を評価することによって測定した。
【0182】
図7に示すように、B5712(HSP206A-CDRG)およびB5715(HSP206B-CDRG)は、ヒトMΦによる腫瘍細胞のファゴサイトーシスを用量依存的に促進することができる。
例8:Raji-Lucリンパ腫マウスモデルでの薬効実験
【0183】
この例では、Raji-Lucリンパ腫マウスモデルにおいて、ヒト化抗体B5712およびB5715の有効性を試験した。
【0184】
PBS中で希釈したRaji-Luc細胞を、0.2mLの容量で5×10個の細胞濃度にてB-NDGマウスの尾静脈に播種した。注射後0日目と3日目に、小動物用イメージャーを用いて、腫瘍のイメージング信号値を測定した。平均イメージング信号強度が約1×10p/sに達したときに、腫瘍のイメージング信号値と動物の体重とに応じて、該当する動物を4つの実験群に分け、各実験群には8匹ずつ割り当てた。総ヒトIgG、5F9(Hu5F9-G4)、B5712およびB5715を3日に1回、腹腔内注射で投与した。用量は、10μg/gの実験動物の体重に基づいて算出した。マウスの体重は週2回計った。週2回、IVIS Lumina LTを用いて、マウス腫瘍のイメージング信号マップおよび信号強度を取得した。その結果を図8に示している。5F9のように、B5712およびB5715もこれらのマウスにおいて、体重減少(A)、信号強度(B)および全生存率(C)の点で強力なインビボ有効性を示した。
【0185】
本開示は、本開示の個々の態様の単一の例示として意図されている、記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるべきではなく、機能的に同等である任意の組成物または方法は、本開示の範囲内にある。本開示の精神または範囲から逸脱することなく、本開示の方法および組成物にさまざまな修正および変更を行うことができることは、当業者には明らかである。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内にあるという条件で、本開示の修正および変更を網羅することを意図している。
【0186】
本明細書で言及されるすべての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
(項目1)
抗体またはその断片であって、前記抗体またはその断片は、ヒトCD47(CD分類47)タンパク質に特異性を有し、かつ
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含むVH CDR1、または配列番号1からの単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号1のバリアント;
(b)配列番号2もしくは配列番号7のアミノ酸配列を含むVH CDR2、または配列番号2もしくは配列番号7の4位、7位、12位もしくは15位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号2もしくは配列番号7のバリアント;
(c)配列番号3もしくは配列番号8のアミノ酸配列を含むVH CDR3、または配列番号3もしくは配列番号8の1位もしくは2位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号3もしくは配列番号8のバリアント;
(d)配列番号4もしくは配列番号9のアミノ酸配列を含むVL CDR1、または配列番号4もしくは配列番号9の1位もしくは6位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号4もしくは配列番号9のバリアント;
(e)配列番号5のアミノ酸配列を含むVL CDR2、または配列番号5からの単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号5のバリアント;および
(f)配列番号6もしくは配列番号10のアミノ酸配列を含むVL CDR3、または配列番号6もしくは配列番号10の5位に単一の置換、欠失もしくは挿入を有する配列番号6もしくは配列番号10のバリアントを
を含む、抗体またはその断片。
(項目2)
配列番号1のVH CDR1、配列番号2のVH CDR2、配列番号3のVH CDR3、配列番号4のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および配列番号6のVL CDR3を含む、項目1に記載の抗体またはその断片。
(項目3)
配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号11および15~16からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域を含む、項目2に記載の抗体またはその断片。
(項目4)
配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号12および17からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域を含む、項目2または3に記載の抗体またはその断片。
(項目5)
配列番号15もしくは16の前記アミノ酸配列、または配列番号15もしくは16の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号17の前記アミノ酸配列、または配列番号17の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む、項目4に記載の抗体またはその断片。
(項目6)
配列番号1のVH CDR1、配列番号7のVH CDR2、配列番号8のVH CDR3、配列番号9のVL CDR1、配列番号5のVL CDR2、および配列番号10のVL CDR3を含む、項目1に記載の抗体またはその断片。
(項目7)
配列番号13および18~19からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号13および18~19からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域を含む、項目6に記載の抗体またはその断片。
(項目8)
配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列、または配列番号14および20からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域を含む、項目6または7に記載の抗体またはその断片。
(項目9)
配列番号18もしくは19の前記アミノ酸配列、または配列番号18もしくは19の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む重鎖可変領域と、配列番号20の前記アミノ酸配列、または配列番号20の前記アミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドを含む軽鎖可変領域とを含む、項目8に記載の抗体またはその断片。
(項目10)
前記抗体またはその断片がヒト化抗体である、項目1から9のいずれか一項に記載の抗体またはその断片。
(項目11)
項目1から10のいずれか一項に記載の断片と、第2の特異性を有する第2の抗原結合断片とを含む、二重特異性抗体。
(項目12)
前記第2の特異性が免疫細胞上の分子に対するものである、項目11に記載の二重特異性抗体。
(項目13)
前記分子が、PD-L1、PD-1、CTLA-4、LAG-3、CD28、CD122、4-1BB、TIM3、OX-40、OX40L、CD40、CD40L、LIGHT、ICOS、ICOSL、GITR、GITRL、TIGIT、CD27、VISTA、B7H3、B7H4、HEVM、BTLA、KIR、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、項目12に記載の二重特異性抗体。
(項目14)
前記断片および前記第2の抗原結合断片が、それぞれ独立して、Fab断片、単鎖可変断片(scFv)またはシングルドメイン抗体から選択される、項目11から13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
(項目15)
項目1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは項目11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容され得る担体とを含む、組成物。
(項目16)
項目1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは項目11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド。
(項目17)
項目1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは項目11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードする1つまたは複数のポリヌクレオチドを含む、単離された細胞。
(項目18)
癌の治療を必要とする患者の癌を治療するための、項目1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、項目11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体、または項目15に記載の組成物。
(項目19)
前記癌が固形腫瘍である、項目18に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
(項目20)
前記癌が血液悪性腫瘍である、項目18に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
(項目21)
前記癌が、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、白血病、リンパ腫、膵臓癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、乳癌、尿道癌、頭頸部癌、胃腸癌、胃癌、食道癌、卵巣癌、腎癌、黒色腫、前立腺癌、甲状腺癌、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、項目18に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
(項目22)
第2の癌治療薬をさらに含む、項目18から21のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
(項目23)
自己免疫疾患または炎症性疾患の治療を必要とする患者の自己免疫または炎症性疾患を治療するための、項目1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、項目11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体、または項目15に記載の組成物。
(項目24)
前記自己免疫疾患または炎症性疾患が、パーキンソン病、関節炎、関節リウマチ、多発性硬化症、乾癬、乾癬性関節炎、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、狼瘡、全身性エリテマトーデス、若年性関節リウマチ、若年性特発性関節炎、グレーブス病、橋本甲状腺炎、アジソン病、セリアック病、皮膚筋炎、多発性硬化症、重症筋無力症、悪性貧血、シェーグレン症候群、I型糖尿病、血管炎、ぶどう膜炎、アテローム性動脈硬化症および強直性脊椎炎からなる群から選択される、項目23に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
(項目25)
前記自己免疫疾患または炎症性疾患がアテローム性動脈硬化症である、項目23に記載の抗体またはその断片、二重特異性抗体、または組成物。
(項目26)
サンプル中のCD47の発現を検出する方法であって、項目1から10のいずれか一項に記載の抗体またはその断片、もしくは項目11から14のいずれか一項に記載の二重特異性抗体を、前記抗体またはその断片がCD47に結合する条件で前記サンプルと接触させることと、前記サンプル中のCD47の発現を示す結合を検出することとを含む、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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