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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】物理構造の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230721BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 G ZNM
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022015112
(22)【出願日】2022-02-02
(62)【分割の表示】P 2018524050の分割
【原出願日】2017-06-16
(65)【公開番号】P2022058851
(43)【公開日】2022-04-12
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2016125335
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390000686
【氏名又は名称】株式会社住化分析センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】今西 克也
(72)【発明者】
【氏名】廣田 和敏
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特許第7045990(JP,B2)
【文献】特開2009-264738(JP,A)
【文献】特開2011-074037(JP,A)
【文献】特開平10-189585(JP,A)
【文献】特表2007-524810(JP,A)
【文献】佐藤貴弥,JMS-S3000”SpiralTOF”を用いたレーザー脱離イオン化法による有機薄膜分析,日本電子news,2014年,46/1,53-58
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60-G01N 27/70
H01J 49/00-H01J 49/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MALDI-TOFMSによって得られた試料のイオン化挙動に基づいて、当該試料の物理構造を評価する評価工程を含み、
上記イオン化挙動の指標は、MALDI-TOFMSによって得られたイオン強度またはイオンの生成比率であり、
上記物理構造は、分子配向、密度、混合の程度、結晶性、ラジカル発生の状態、電荷トラップの状態および界面の状態からなる群より選択されるいずれか1つ以上であり、
上記イオン化挙動は、レーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度および測定雰囲気からなる群より選択されるいずれか1つ以上を変化させて得られ、
上記試料は、有機膜を含み、
上記評価工程を複数の試料に対して行い、その結果を比較する比較工程を含むことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
上記試料は複数の成分から構成され、当該成分毎に評価することを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
上記試料は複数の層から構成され、当該層毎に評価することを特徴とする請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
上記試料は、有機エレクトロニクス分野で使用されるものであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項5】
上記イオン化挙動は、レーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度および測定雰囲気からなる群より選択されるいずれか1つの変化に伴うイオン強度の変化を表したグラフによって示されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項6】
上記複数の試料は、異なる製造方法によって得られた試料であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の分析方法。
【請求項7】
上記複数の試料は、製造後に冷却、熱、光、電気、圧力下、減圧下および環境放置からなる群より選択されるいずれか1つによって変質させて得られた試料であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法に関する。より具体的には、本発明は、試料の構成成分の数および層構造によらず、低コストかつ迅速に試料全体の物理構造の差を成分毎に高感度で評価し、かつ複数の因子をまとめて評価し得る分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス分野において、有機膜は主に蒸着法で作製されている。しかしながら、産業の発展にはデバイスの大面積化および低コスト化が必須の課題であり、それを解決する手段として塗布法によるプロセスの開発が活発化している。有機膜の膜質はデバイス特性に大きな影響を及ぼすことが知られている。塗布法によって作製した有機膜の膜質は蒸着法によって作製した場合に比べて劣る点が大きな課題となっている。そのため、有機膜を構成する有機材料、並びにプロセス方法およびプロセス条件等の最適化が必要となる。
【0003】
そこで、蒸着法で得られた膜(蒸着膜)と塗布法で得られた膜(塗布膜)との間の膜質の差、または作製条件が異なる塗布膜間の差を評価する方法が求められている。特に有機膜は複数成分で構成され、多層構造になっている場合が多く、成分毎の評価が必要とされる。膜質には膜の密度、膜を構成する物質の配向、結晶性、凝集性およびアモルファス性、膜の硬さ、膜表面の粗さ、並びに膜厚等様々な因子が存在する。そのため、膜質評価には、顕微鏡観察(光学顕微鏡、SEM、TEM、AFMおよびSPM等)および分光分析(XRR、分光エリプソメトリー、ラマン分光、FTIR、SAXS、WAXSおよびXRD)等の様々な手法が利用されている。
【0004】
例えば、非特許文献1では、分光エリプソメトリーによる分子配向評価について記載されている。また、非特許文献2および3では、X線散乱等を利用した薄膜の構造等の解析について記載されている。
【0005】
一方、有機エレクトロニクス分野においては、化学成分毎にデータの抽出が可能なTOFMSを用いた分析も行われている。非特許文献4には、LDI-TOFMSによって有機発光ダイオードにおける化学的劣化を評価する技術が記載されている。非特許文献5には、LDI-TOFMSによって多層構造の有機膜試料について、層毎に分離して、構成される化学成分の膜の深さ方向の分布が評価される技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】横山 大輔、有機分子・バイオエレクトロニクス分科会会誌 Vol.22, No.4 (2011年11月) 203-208
【文献】G. Gupta et al., Appl.Mater.Interfaces 2015, 7, 12309-12318
【文献】小島 優子、SPring-8利用推進協議会 グリーンエネルギー研究会、「塗布型有機太陽電池用薄膜のナノ構造解析」、2012年11月5日、[online]、[2016年4月13日検索]、インターネット<http://www.spring8.or.jp/ext/ja/iuss/htm/text/12file/green_energy/7th/2.kojima.pdf>
【文献】I.R. de Moraes et. al.,Organic Electronics 13 (2012) 1900-1907
【文献】佐藤貴弥ら、「レーザー脱離イオン化による有機薄膜の深さ方向分析の検討」、質量分析総合討論会講演要旨集 Vol. 62, Page. 131 (2014.05.07)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、低コストまたは迅速に試料の物理構造の差を高感度で評価し、かつ複数の因子を評価し得る分析方法を提供するという点からは改善の余地があった。また、試料が複数の成分で構成されている、もしくは多層構造になっている場合、解析が困難になることが多い。
【0008】
例えば、非特許文献1~3に記載の技術は、限られた因子を測定するものであった。そのため、複数の因子を測定する場合には、複数の測定方法を組み合わせる必要があり、評価のためのコストおよび時間が問題となる。非特許文献1に記載の技術は、原理的に試料全体の光学特性について、試料自体の物理定数と、理論的に構築する計算式を用いて最適化されたフィッティングパラメーターとを算出して評価している。そのため、非特許文献1に記載の技術では、試料が複数の成分で構成されている、または多層構造になっている場合、成分毎または層毎の分離評価が難しい。
【0009】
また、従来技術では、感度の観点から試料の物理構造を評価することが難しい場合もあった。非特許文献1に記載の技術は有機エレクトロニクスで使用されているような100nm以下の薄膜試料では、原理的にフィッティングの精度が低下するため、適切な評価が困難である。
【0010】
さらに、放射光X線を利用した非特許文献2および3の技術は、評価の感度は高いが、それ自体コストが高く、特定の施設での利用となるため、評価頻度が限定される。また、試料が複数の成分で構成されている、または多層構造になっている場合、原理的に成分毎または層毎の分離評価が難しい上に、X線の試料への侵入深さが限られるため、試料全体の評価ができないことがある。特に感度を向上させるために使用されるGI-SAXS法またはGI-WAXS法では試料表面のみの評価に限られる。
【0011】
なお、非特許文献4に記載の技術は、化学的変化を評価するものであって、有機膜の物理構造を評価するものではない。
【0012】
本発明の一態様は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料の構成成分の数および層構造によらず、低コストかつ迅速に試料全体の物理構造の差を成分毎に高感度で評価し、かつ複数の因子をまとめて評価し得る分析方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、MALDI-TOFMSを用いて試料のイオン化挙動を解析することにより、低コストかつ迅速に試料の物理構造の差を高感度で評価し、かつ複数の因子を評価し得る分析方法を実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は、以下の構成を含むものである。
【0014】
〔1〕MALDI-TOFMSによって得られた試料のイオン化挙動に基づいて、当該試料の物理構造を評価する評価工程を含むことを特徴とする分析方法。
【0015】
〔2〕上記試料は複数の成分から構成され、当該成分毎に評価することを特徴とする〔1〕に記載の分析方法。
【0016】
〔3〕上記試料は複数の層から構成され、当該層毎に評価することを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の分析方法。
【0017】
〔4〕上記試料は、有機膜を含むことを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の分析方法。
【0018】
〔5〕上記有機膜は、厚みが0.1nm~2μmであることを特徴とする〔4〕に記載の分析方法。
【0019】
〔6〕上記試料は、有機エレクトロニクス分野で使用されるものであることを特徴とする〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の分析方法。
【0020】
〔7〕上記イオン化挙動の指標は、MALDI-TOFMSによって得られたイオン強度またはイオンの生成比率であることを特徴とする〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の分析方法。
【0021】
〔8〕上記イオン化挙動は、レーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度および測定雰囲気からなる群より選択されるいずれか1つ以上を変化させて得られることを特徴とする〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の分析方法。
【0022】
〔9〕上記イオン化挙動は、レーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度および測定雰囲気からなる群より選択されるいずれか1つの変化に伴うイオン強度の変化を表したグラフによって示されることを特徴とする〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の分析方法。
【0023】
〔10〕上記評価工程を複数の試料に対して行い、その結果を比較する比較工程を含んでいることを特徴とする〔1〕~〔9〕のいずれか1つに記載の分析方法。
【0024】
〔11〕上記複数の試料は、異なる製造方法によって得られた試料であることを特徴とする〔10〕に記載の分析方法。
【0025】
〔12〕上記複数の試料は、製造後に冷却、熱、光、電気、圧力下、減圧下および環境放置からなる群より選択されるいずれか1つによって変質させて得られた試料であることを特徴とする〔10〕に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様は、試料の構成成分の数および層構造によらず、低コストかつ迅速に試料全体の物理構造の差を成分毎に高感度で評価し、かつ複数の因子をまとめて評価し得る分析方法を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】レーザー強度を変化させた場合のTPBiおよびIr(t-buppy)3の分子イオンのイオン強度を表すグラフを示す図である。
図2】レーザー周波数を変化させた場合のTPBiおよびIr(t-buppy)3の分子イオンのイオン強度を表すグラフを示す図である。
図3】レーザー強度を変化させた場合のB3PYMPMのイオン強度を表すグラフを示す図である。
図4】レーザー周波数を変化させた場合のB3PYMPMのイオン強度を表すグラフを示す図である。
図5】レーザー強度を変化させた場合のB3PYMPMの蒸着膜のマススペクトルを示す図である。
図6】レーザー強度を変化させた場合のB3PYMPMの塗布膜のマススペクトルを示す図である。
図7】レーザー強度を変化させた場合のB3PYMPMの2量体および3量体のイオン強度を表すグラフを示す図である。
図8】レーザー周波数を変化させた場合のB3PYMPMのネガティブイオンのイオン強度を表すグラフを示す図である。
図9】レーザー周波数を変化させた場合の、B3PYMPMの蒸着膜におけるネガティブイオンのマススペクトルを示す図である。
図10】レーザー周波数を変化させた場合の、B3PYMPMの塗布膜におけるネガティブイオンのマススペクトルを示す図である。
図11】レーザー周波数を変化させた場合のB3PYMPMの蒸着膜および塗布膜におけるマススペクトルを示す図である。
図12】B3PYMPMの蒸着膜および塗布膜の、放射光軟X線吸収分光による測定結果を示す図である。
図13】B3PYMPMの蒸着膜および塗布膜の、GI-WAXSによる測定結果を示す図である。
図14】TPBiおよびIr(t-buppy)3を混合して得られた蒸着膜および塗布膜の、GI-SAXSによる測定結果を示す図である。
図15】MALDI-TOFMSによる有機多層薄膜の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、これらは本発明の一態様であり、本発明はこれらの内容に限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0029】
本発明の一実施形態に係る分析方法は、MALDI-TOFMSによって得られた試料のイオン化挙動に基づいて、当該試料の物理構造を評価する評価工程を含む。
【0030】
〔1.評価工程〕
本工程は、MALDI-TOFMSによって得られた試料のイオン化挙動に基づいて、当該試料の物理構造を評価する工程である。
【0031】
本発明者らは、後述の実施例に示すように、同じ材料を用いて異なる製造方法によって得られた膜試料(すなわち、化学構造としては同様の膜試料)をMALDI-TOFMSによって観察した場合に、イオン化挙動に差が見られることを見出した。これらの膜試料は同じ材料を用いているため、化学的には同じ組成である。それゆえ、このイオン化挙動の差は物理構造の差を反映していると考えられる。
【0032】
また、本発明者らは後述の実施例に示すように、異なる製造方法によって得られた膜試料をMALDI-TOFMS以外の分析方法によって評価した場合には実際に物理構造の差が見出されることも確認している。以上のことから、本分析方法によれば、試料の化学構造ではなく、試料の物理構造を評価することができると考えられる。
【0033】
このように試料の物理構造を評価できる分析方法は、塗布法の開発において膜質評価のスクリーニング法として大変有用であり、開発速度および開発精度の向上に役立つ。
【0034】
また、本分析方法によれば、MALDI-TOFMSを用いるため、上述の非特許文献2および3のように放射光X線を利用した技術に比べて、低コストである。また、MALDI-TOFMSを用いるがゆえに、試料の物理構造の差を高感度で評価し、かつ複数の因子をまとめて評価できる。
【0035】
<1-1.MALDI-TOFMS>
本発明の一実施形態に係る分析方法では、MALDI-TOFMSを用いる。MALDI-TOFMSは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI:Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization)と飛行時間型質量分析計(TOFMS:Time-of-Flight Mass Spectrometer)とを組み合わせた分析方法である。
【0036】
MALDIでは、まず、試料とマトリックス(イオン化補助剤)との混合結晶を作製する。そして、当該混合結晶へ、レーザー光のパルスを照射する。これにより、プロトンまたは金属カチオンが付加し、イオンが生成される。このイオンを質量分析計へ導入する。MALDIでは、マトリックスを利用するため、従来のイオン化法ではレーザー照射によって分解しやすかった高分子成分の質量分析が可能である。なお、分解しにくい成分の場合はマトリックスを使用しないで測定可能である。
【0037】
TOFMSは、加速された荷電粒子(イオン)が一定距離を飛行する時間を測定することによって、質量電荷比(m/z)を測定する。質量電荷比が大きいイオンは低速で飛行し、質量電荷比が小さいイオンは高速で飛行する。それゆえ、質量電荷比が大きいイオンは遅くイオン検出器に到達し、質量電荷比が小さいイオンは早くイオン検出器に到達する。このイオン検出器に到達するまでの飛行時間差から試料の質量を測定することが可能である。
【0038】
従来、MALDI-TOFMSは、非特許文献4に記載されているように、試料の化学構造の評価に用いられていた。すなわち、MALDI-TOFMSは、試料の定性的な観察に用いられていた。これに対し、本発明の一実施形態に係る分析方法では、MALDI-TOFMSを用いて試料のイオン化挙動を解析することにより、試料の物理構造の評価を行う。
【0039】
また、MALDI-TOFMSでは、測定対象とする成分の測定感度を向上させるために、試料の結晶状態を種々に変化させる前処理の工夫が行われ得る。特に微量の成分またはイオン化しにくい成分では結晶状態のわずかな差により検出の感度が大幅に変わる場合がある。本発明者らは、この点に着目し、MALDI-TOFMSを用いれば高感度にて物理構造を評価できることを見出した。すなわち、試料の物理構造は、イオン化する際に照射するレーザーエネルギーが試料を構成する各成分に伝わる方向および程度に影響を与えている。本発明の一実施形態は、その伝わり方の違いがTOFMSで検出されるイオンの生成率に反映されることを利用した発明である。
【0040】
<1-2.試料>
分析対象となる試料はイオン化可能な物質を含む試料であれば、特に限定されず、有機物であってもよく、無機物であってもよく、それらの混合物であってもよい。有機物は、単一の有機物であってもよく、異なる2種類以上の有機物の混合物であってもよい。また、無機物は、単一の無機物であってもよく、異なる2種類以上の無機物の混合物であってもよい。すなわち、上記試料は、複数の成分から構成されていてもよい。そして、この場合、本発明の一実施形態に係る分析方法によって、当該成分毎に評価してもよい。上述のように従来技術では、複数の成分を当該成分毎に評価することが難しい場合があったが、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、成分毎の評価も可能である。
【0041】
有機物としては、例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、ヘテロ芳香族炭化水素もしくはヘテロ多環芳香族炭化水素から誘導される化合物、環同士が共有結合を介して連結された化合物、フラーレンを骨格に含む化合物、ポルフィリンもしくはフタロシアニンを骨格に含む化合物、これらの構造を含む金属錯体化合物、並びに、これらの構造を含むオリゴマーおよびポリマー等が挙げられる。
【0042】
無機物としては、例えば、以下の元素のうちの少なくとも一つを含むものが挙げられる:〔アルカリ金属元素〕Li、Na、K、Rb、Cs;〔アルカリ土類金属元素〕Be、Mg、Ca、Sr、Ba;〔ランタノイド元素〕La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu;〔アクチノイド元素〕Th、U;〔遷移金属元素〕Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au;〔ホウ素族元素〕B、Al、Ga、In、Tl;〔炭素族元素〕Si、Ge、Sn、Pb;〔ニクトゲン元素〕P、As、Sb、Bi;〔カルコゲン元素〕S、Se、Te;〔ハロゲン元素〕F、Cl、Br、I。
【0043】
試料の形状も特に限定されないが、例えば、粉体の試料であってもよく、膜状の試料(以下、膜試料とも称する)であってもよい。また、本明細書において、有機物を含む膜試料を有機膜と称する場合もある。なお、有機膜は有機物の他に無機物を含んでいてもよい。また、上記膜試料は、1層の膜であってもよく、2層以上の膜からなる多層膜であってもよい。すなわち、上記試料は、複数の層から構成されていてもよい。そして、この場合、本発明の一実施形態に係る分析方法によって、当該層毎に評価してもよい。上述のように従来技術では、複数の層を当該層毎に評価することが難しい場合があった。非特許文献5に記載のとおり、LDI-TOFMSによれば、試料にレーザーを照射することで試料表面部においてアブレーションが起こる。従って、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、MALDI-TOFMSを用いて繰り返しレーザーを照射し、測定することで、層毎の評価も可能である。
【0044】
以上のことから、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、試料の構成成分の数および層構造によらず、迅速に試料全体の物理構造の差を評価することができる。
【0045】
また、試料は有機膜からなるものであってもよく、有機膜と他の部材とを備えるものであってもよい。すなわち、試料は有機膜を含むものであってよい。例えば、試料には、電極および/または固体封止膜等の無機物にて構成された部材が存在してもよい。
【0046】
上記膜試料の厚みも特に限定されず、1nm以下であってもよく、1~10nmであってもよく、10~100nmであってもよく、100~1000nmであってもよく、1~2μmであってもよく、2μm以上であってもよい。本明細書において、特に厚みが0.1nm~2μmである膜試料を薄膜とも称する。上記有機膜は、厚みが0.1nm~2μmであってもよい。本明細書において、有機膜であり、且つ薄膜である試料を有機薄膜とも称する。
【0047】
上記試料は、有機エレクトロニクス分野で使用されるものであってもよい。本明細書において、有機エレクトロニクス分野で使用される材料とは、例えば、有機EL、有機太陽電池および有機トランジスタ等にて使用される材料を意味する。上述のような有機薄膜は、有機エレクトロニクス分野で使用される材料に包含される。
【0048】
また、上記試料は、有機エレクトロニクス分野にて用いられ得る成分として、例えば、以下の成分を含んでいてもよい:2,2’、2’’-(1,3,5-ベンゼントリイル)-トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(以下、TPBiとも称する)、イリジウム(III)トリス(2-(4’-tert-ブチルフェニル)ピリジナト)(以下、Ir(t-buppy)3とも称する)、ビス-4,6-(3,5-ジ-3-ピリジルフェニル)-2-メチルピリミジン(以下、B3PYMPMとも称する)、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3とも称する)、4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル(以下、CBPとも称する)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(以下、TPDとも称する)およびトリス(2-フェニルピリジナト)イリジウム(III)(以下、Ir(ppy)3とも称する)等。
【0049】
なお、B3PYMPM、Alq3、CBP、TPDおよびIr(ppy)3はそれぞれ、下記式(1)~(5)で表される化合物である。
【0050】
【化1】
【0051】
【化2】
【0052】
【化3】
【0053】
【化4】
【0054】
【化5】
【0055】
なお、試料の物理構造が製品の性能に大きな影響を及ぼす分野は有機エレクトロニクス分野に限らない。すなわち、本発明の一実施形態に係る分析方法の対象となる試料は、有機エレクトロニクス分野において使用されるものに限らない。有機エレクトロニクスと同様に、電子またはイオンの流れが発生する蓄電池および燃料電池等の電池分野も該当する。また、水蒸気および酸素等のガス透過性、並びに引っ張り、引き裂き、ねじれ、加圧、減圧および温度等に対する機械強度に物理構造が影響を及ぼすようなフィルム、樹脂、ゴム、カーボン材料および金属、並びにそれらの複合材料等を使う分野でも該当する。
【0056】
上記試料が膜試料である場合、その製造方法は特に限定されない。本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、異なる製造方法によって得られた試料の間の物理構造の差を評価することができる。例えば、膜試料は、塗布膜および蒸着膜の少なくとも一方であってもよい。
【0057】
蒸着膜は、蒸着法によって製造された膜を意図する。蒸着法としては、物理的気相成長法(PVD)および化学的気相成長法(CVD)等が挙げられる。PVDとしては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法(MBE)およびレーザーアブレーション法等が挙げられる。CVDとしては、熱CVD、光CVD、プラズマCVDおよび有機金属気相成長法(MOCVD)等が挙げられる。
【0058】
塗布膜は、塗布法によって製造された膜を意図する。塗布法としては、インクジェット法、スピンコート法、ダイコート法、スプレー法およびスクリーン印刷法等が挙げられる。
【0059】
この他に、膜試料は、めっき法、陽極酸化またはゾル-ゲル法等によって製造されたものであってもよい。
【0060】
<1-3.物理構造>
本発明の一実施形態に係る分析方法は、試料の物理構造を評価する。本明細書において、試料の物理構造とは、同じ材料からなる試料間にて差が現れ得る特性を意図する。例えば、試料の物理構造には、同じ材料からなり、異なる製造方法によって得られた試料間にて差が現れ得る特性が含まれる。上記物理構造は、化学構造(例えば、高分子の末端基の構造、分子量分布および共重合体の組成等)を除くものである。
【0061】
上記物理構造は、例えば、分子配向、密度、混合の程度、結晶性、ラジカル発生の状態、電荷トラップの状態および界面の状態からなる群より選択されるいずれか1つ以上を含むものであってもよい。これらの物理構造が異なる場合、MALDI-TOFMSのレーザーによるエネルギーの伝わり方が異なり得る。それゆえ、本発明の一実施形態に係る分析方法によってこれらの物理構造を評価することができると推察される。これらの物理構造は、例えば、有機膜の膜質として重要である。すなわち、本発明の一実施形態に係る分析方法は、複数の因子をまとめて評価し得るものである。
【0062】
分子配向とは、試料を構成している分子がランダムに配向しているか、または特定の方向(例えば、膜が形成されている基板に平行または垂直な方向)へ配向しているかを表す。
【0063】
密度は、試料全体の平均として分子が詰まっているか否かを表す指標となる。換言すれば、密度は、隙間があるか否かを表す指標である。凝集性は、試料全体の中で、ある部分で分子同士が互いの間の引力等によって引き合い集合している状態が存在しているか否か、または当該部分の量が多いか少ないかを表す指標となる。なお、凝集性は、試料内において隙間のある箇所(密度の小さい箇所)と隙間のない箇所(密度の大きい箇所)とが存在するか(試料内において密度に偏りがあるか否か)も包含する意味である。
【0064】
混合の程度とは、例えば、試料に含まれる複数の成分が、試料全体として均一に混ざっているか否かを表す。「均一に混ざっているか否か」は、試料内において成分比が一定である箇所と一定でない箇所とが存在するかも包含する意味である。
【0065】
結晶性とは、結晶化しているか否かを表す。また、結晶における分子のパッキングの程度も物理構造に包含される。
【0066】
ラジカル発生の状態とは、試料中のラジカルの発生の有無および分布等を表す。
【0067】
電荷トラップの状態とは、捕捉された電荷の有無および分布等を表す。
【0068】
界面の状態とは、複数の成分から構成される、または複数の層(多層膜)で構成される試料の場合に、ある一つの成分に対して別の成分がどの程度の距離、量および引力で密着しているかを表す。多層膜で構成される試料の場合、各層の界面が、試料の作製中もしくは作製後に上層の成分と下層の成分とが混合される状態も含まれる。
【0069】
また、物理構造には、分子が弱い力で結合しているか否かおよび分子が溶媒和しているか否か等も包含される。
【0070】
このような物理構造は、試料の内部と表面との間で差が見られる場合もある。また、膜試料の上層部と下層部との間(界面)で差が見られる場合もある。
【0071】
また、塗布膜では、乾燥させるか否かによって溶媒の残留の程度が異なり、パッキングに影響する場合もある。さらに、塗布法で得られた多層膜では、残留溶媒の影響により、各層の界面付近が溶解する場合もある。一方、蒸着法で得られた多層膜ではこのようなことは起こらない。これにより、蒸着膜と塗布膜とで物理構造の差が生じることも考えられる。
【0072】
従来の分析方法では、1つの分析方法につき、上述の物理構造のうちの限られた項目しか評価することができなかった。これに対し、本発明の一実施形態に係る分析方法では、上述のような様々な物理構造を評価することができる。
【0073】
<1-4.イオン化挙動>
本発明の一実施形態に係る分析方法では、MALDI-TOFMSによって得られた試料のイオン化挙動を利用する。本明細書において、イオン化挙動とは、上記試料に含まれる成分をイオン化させた場合のイオンの挙動を意図する。イオン化挙動の指標としては、例えば、MALDI-TOFMSによって得られたイオン強度またはイオンの生成比率が挙げられる。
【0074】
イオン化挙動の解析において着目されるイオンとしては試料に含まれる成分のイオンであれば特に限定されない。本発明の一実施形態に係る分析方法では、MALDI-TOFMSを用いるがゆえに、試料が複数の成分の混合物であっても、質量電荷比に基づいて当該試料中の特定の成分のイオン化挙動に着目して解析することができる。着目されるイオンは、例えば、上述の有機エレクトロニクス分野にて用いられ得る成分のイオンであってもよい。
【0075】
また、着目されるイオンは、例えば、試料に含まれる成分の分子イオン(MおよびM)、プロトン化分子([M+H])、ナトリウムイオン付加分子([M+Na])、脱ハイドライド分子([M-H])、多価プロトン化分子([M+nH]n+)、脱プロトン化分子([M-H])および多価脱プロトン化分子([M-nH]n-)等が挙げられる。さらに、着目されるイオンは、その他の付加イオンであってもよく、フラグメントイオンであってもよく、単量体、2量体、3量体、4量体、またはそれ以上の多量体であってもよい。それらイオンが付加したものであってもよい。複数の成分が含まれる試料の場合は当該成分に由来するイオン同士が付加したものであってもよい。塗布法で作製された試料で残留する溶媒に由来するイオンが、試料に由来する成分由来のイオンに付加してもよい。試料を作製する際または作製した後に、非意図的に混入した不純物に由来するイオンが試料に由来する成分由来のイオンに付加してもよい。無機物と有機物とが含まれる試料の場合はそれらの錯体に相当するイオンでもよい。試料作製後に熱、光および/または電気等により変質したイオンも含まれる。上記イオンは、ポジティブイオンであってもよく、ネガティブイオンであってもよい。
【0076】
これらのイオンのそれぞれのイオン強度、または各イオンの生成比率をイオン化挙動の指標として用いればよい。例えば、上記イオン化挙動の指標は、イオン強度、フラグメントイオンの生成比率、付加イオンの生成比率、ポジティブイオンとネガティブイオンとの比率、またはプロトン化分子と分子イオンとの生成比率であることが好ましい。これらの指標は、物理構造の評価に好適に用いることができる。
【0077】
上記イオン化挙動は、ある特定の条件にて得られたものであってもよく、複数の条件にて得られたものであってもよい。好ましくは、上記イオン化挙動は、複数の条件にて得られたものであり、例えば、ある条件を段階的に(または連続的に)変化させて得られたものである。具体的には、上記イオン化挙動は、レーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度および測定雰囲気からなる群より選択されるいずれか1つ以上を変化させて得られることが好ましい。当業者であれば、MALDI-TOFMSによる分析において、これらの条件を変化させることが可能であり、これらの条件の変化に伴ってイオン化挙動が変化し得ることを理解できるであろう。これらの条件の変化に伴う上記イオン化挙動の指標の変化を解析することにより、試料の物理構造を評価することができる。これらの条件を変化させる範囲は特に限定されず、試料の種類および着目するイオンの種類等によって適宜選択すればよいが、以下に例を示す。
【0078】
レーザー強度は、発振するレーザーの最大強度を100%として、0.1~10%であってもよく、10~60%であってもよく、20~55%であってもよく、35~45%であってもよく、40~55%であってもよい。レーザー強度はレーザーが発振できるパワーなら限定されない。一般的に、レーザー強度が高ければ、試料が受けるエネルギーが大きく、イオン化しやすいため、イオン強度は高くなる。レーザー強度を変化させる場合は、1%ずつ変化させてもよく、10%ずつ変化させてもよい。
【0079】
レーザー周波数は、0.1~1000000Hzであってもよく、10~1000Hzであってもよい。レーザー周波数を変化させる場合は、10Hzずつ変化させてもよく、100Hzずつ変化させてもよい。レーザー周波数は、レーザーが発振できる周波数なら限定されない。
【0080】
レーザー波長は、200~380nmであってもよく、10~200nmであってもよく、10~121nmであってもよく、380~780nmであってもよく、780~1400nmであってもよく、1400~3000nmであってもよい。レーザー波長は、レーザーが発振できる波長なら限定されない。レーザー波長を変化させる場合は、5nmずつ変化させてもよく、50nmずつ変化させてもよい。
【0081】
温度は、絶対零度~-196℃であってもよく、-196~0℃であってもよく、0~25℃であってもよく、25~40℃であってもよく、40~100℃であってもよく、100℃以上であってもよい。温度を変化させる場合は、5℃ずつ変化させてもよく、10℃ずつ変化させてもよい。
【0082】
測定雰囲気は、窒素、アルゴン、ヘリウム、空気、酸素または水素であってもよい。
【0083】
本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、MALDI-TOFMSを用いるがゆえに、上述のように様々なイオン化挙動の指標を用いることができる。また、同様に、様々な条件を変化させた場合についてイオン化挙動を評価することができる。それゆえ、試料を様々な観点から評価することが可能である。すなわち、限られた因子についてのみ評価可能な従来技術に比べて、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、試料の物理構造に影響する様々な因子について評価できると考えられる。
【0084】
上記イオン化挙動は、グラフまたはマススペクトルとして表されてもよい。これにより、イオン化挙動を視覚的に理解しやすい。
【0085】
上記イオン化挙動は、レーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度および測定雰囲気からなる群より選択されるいずれか1つの変化に伴うイオン強度の変化を表したグラフによって示されることが好ましい。これにより、イオン化挙動が試料の物理構造に与える影響を視覚的に理解しやすい。グラフとしては、例えば、縦軸をイオン強度とし、横軸をレーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度または測定雰囲気等としたものが挙げられる。この場合、上述の特定のイオンのイオン強度またはマススペクトル全域の積算のイオン強度を縦軸としてもよい。
【0086】
また、マススペクトルとしては、イオン強度を縦軸とし、質量電荷比を横軸としたものが挙げられる。上述のレーザー強度、レーザー周波数、レーザー波長、温度または測定雰囲気を変化させた場合に得られた複数のマススペクトルを利用してもよい。
【0087】
〔2.比較工程〕
本発明の一実施形態に係る分析方法では、上記評価工程を複数の試料に対して行い、その結果を比較する比較工程を含んでいてもよい。上記複数の試料とは、物理構造に差が存在するか否かを調べたい試料であればよい。これにより、イオン化挙動に基づいて、試料間の物理構造の差を比較することができる。
【0088】
例えば、上記複数の試料は、異なる製造方法によって得られた試料であってもよい。これにより、製造方法に起因する物理構造の差を比較することができる。具体的には、上記複数の試料は、蒸着膜および塗布膜であってもよい。
【0089】
また、上記複数の試料は、製造後に冷却、熱、光、電気、圧力下、減圧下および環境放置からなる群より選択されるいずれか1つによって変質させて得られた試料であってもよい。これにより、製造後に冷却、熱、光、電気および/または環境放置に起因する物理構造の差を比較することができる。なお、本明細書において、環境放置とは、試料を特定の環境下にて放置することを意図する。特定の環境とは、ある一定の環境条件を指しており、例えば大気圧で恒温恒湿の環境を意図する。
【0090】
評価工程の結果は、上述のようにグラフまたはマススペクトルとして表されてもよい。これにより、物理構造の差を視覚的に比較することができる。
【0091】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0092】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
〔1.試料の調製〕
後述する材料を用いた真空蒸着法によって蒸着膜を作製した。また、同じ材料を用いたスピンコート法によって塗布膜を作製した。具体的には材料を溶媒にて溶解した後、回転数2000rpmにて塗布膜を作製した。なお、塗布膜については、110℃にて30分間乾燥(ベーク)させたものを作製した。蒸着膜および塗布膜のいずれも、シリコン基板上に作製した。
【0094】
〔2.MALDI-TOFMSによる測定〕
上述のように調製した蒸着膜および塗布膜について、MALDI-TOFMSを用いてイオン強度を測定した。ここでは、下記〔3.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(1)〕以降で実施したMALDI-TOFMSによる測定における共通の条件について説明する。
【0095】
測定用プレートに蒸着膜および塗布膜を配置し、当該測定プレートをMALDI-TOFMS装置に設置した。MALDI-TOFMS装置としては、日本電子社製JMS-S3000を用いた。
【0096】
より詳細な条件については、下記〔3.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(1)〕以降にて説明する。
【0097】
〔3.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(1)〕
MALDI-TOFMSを用いて、レーザー周波数を10Hzとして、レーザー強度を19%から40%まで変化させてイオン強度を測定した。材料としてTPBiを85重量%およびIr(t-buppy)3を15重量%用いて、厚み25nmに製膜した試料について測定を行った。なお、塗布膜作製時の材料を溶解する溶媒としてトルエンを用いた。また、イオン強度は、各試料上の複数の箇所から得られた測定値の平均値である。
【0098】
図1は、レーザー強度を変化させた場合のTPBiおよびIr(t-buppy)3の分子イオンのイオン強度を表すグラフを示す図である。縦軸はイオン強度を表し、横軸はレーザー強度を表す。ひし形(ダイヤ)は蒸着膜を表し、三角形は塗布膜を表す。
【0099】
図1の(a)は、m/z 653であるTPBiの分子イオンのイオン強度を表すグラフである。図1の(a)からわかるように、TPBiに着目した場合、レーザー強度が高い範囲においては、蒸着膜は塗布膜に比べてイオン強度が高かった。
【0100】
図1の(b)は、m/z 821であるIr(t-buppy)3の分子イオンのイオン強度を表すグラフである。図1の(b)からわかるように、Ir(t-buppy)3に着目した場合、TPBiに比べて、蒸着膜と塗布膜との差は小さかった。
【0101】
以上のように、本発明の一実施形態に係る分析方法によってレーザー強度を変化させた場合のイオン化挙動を解析することにより、蒸着膜と塗布膜との間の差を検出することができる。蒸着膜と塗布膜とは同じ材料を用いているため、これらの間の差は化学構造によるものではなく、物理構造によるものであると考えられる。すなわち、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、MALDI-TOFMSを用いて試料の物理構造を評価できる。
【0102】
また、本発明の一実施形態に係る分析方法は、試料が複数の成分から構成される場合にも適用可能である。また、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、成分毎に分析することが可能である。例えば、今回は、TPBiとIr(t-buppy)3との間でイオン化挙動に差が見られた。そのため、着目する成分毎に高感度で物理構造を評価することができると考えられる。
【0103】
〔4.レーザー周波数の変化に伴うイオン化挙動(1)〕
MALDI-TOFMSを用いて、レーザー強度を21%として、レーザー周波数を10Hzから1000Hzまで変化させてイオン強度を測定した。試料としては、〔3.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(1)〕と同様のものを用いた。また、イオン強度は、各試料上の複数の箇所から得られた測定値の平均値である。
【0104】
図2は、レーザー周波数を変化させた場合のTPBiおよびIr(t-buppy)3の分子イオンのイオン強度を表すグラフを示す図である。縦軸はイオン強度を表し、横軸はレーザー周波数を表す。ひし形は蒸着膜を表し、三角形は塗布膜を表す。
【0105】
図2の(a)は、m/z 653であるTPBiの分子イオンのイオン強度を表すグラフである。図2の(a)からわかるように、TPBiに着目した場合、蒸着膜は塗布膜に比べてイオン強度が高かった。
【0106】
図2の(b)は、m/z 821であるIr(t-buppy)3の分子イオンのイオン強度を表すグラフである。図2の(b)からわかるように、蒸着膜は塗布膜に比べてイオン強度が高かった。
【0107】
以上のことから、本発明の一実施形態に係る分析方法によってレーザー周波数を変化させた場合のイオン化挙動を解析することによっても、試料の物理構造の差を評価することができる。すなわち、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、多様なパラメータを用いて物理構造の評価を行うことができる。
【0108】
また、周波数の変化に対するイオン強度の傾向に着目すると、Ir(t-buppy)3に該当する図2の(b)では、測定した周波数の全領域に対してイオン強度が直線的に正の相関を示す。これに対して、TPBiに該当する図2の(a)では500Hzまではイオン強度が正の相関を示すが、1000Hzでは大きく減少している。つまり、化合物によって周波数の変化に対する影響の受け方が異なる様子が現れている。従って、着目する化合物の種類を変更することによって、膜質(物理構造)に影響する因子を異なる観点にて評価することができると考えられる。
【0109】
また、上述の図1の(b)においてIr(t-buppy)3に着目すると蒸着膜と塗布膜との差はほとんどなかったが、図2の(b)ではIr(t-buppy)3に着目した場合にも蒸着膜と塗布膜との差が見出された。このように図1図2とでは異なる結果が得られたことから、レーザー強度を変化させた場合とレーザー周波数を変化させた場合とで、異なる観点にて評価することができると考えられる。
【0110】
〔5.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(2)〕
MALDI-TOFMSを用いて、レーザー周波数を10Hzとして、レーザー強度を35%から54%まで変化させてイオン強度を測定した。材料としてB3PYMPMを用いて30nmに製膜した試料について測定を行った。なお、塗布膜作製時の材料を溶解する溶媒としてクロロホルムを用いた。また、イオン強度は、各試料上の複数の箇所から得られた測定値の平均値である。
【0111】
図3は、m/z 555([M+H])であるB3PYMPMのイオン強度を表すグラフを示す図である。縦軸はイオン強度を表し、横軸はレーザー強度を表す。ひし形は蒸着膜を表し、正方形は塗布膜を表す。図3から、B3PYMPMに着目した場合、蒸着膜と塗布膜との差は小さいものの、レーザー強度41~44%の範囲では差が見られた。また、このことから、B3PYMPMのイオン化挙動は、上述のTPBiのイオン化挙動とは異なる傾向を示すことがわかる。従って、着目する化合物の種類を変更することによって、膜質に影響する因子を異なる観点にて評価することができると考えられる。
【0112】
〔6.レーザー周波数の変化に伴うイオン化挙動(2)〕
上述の図3では、レーザー強度が41~44%の範囲において、蒸着膜と塗布膜との間でイオン強度にわずかに差が見られた。そこで、MALDI-TOFMSを用いて、レーザー強度を44%として、レーザー周波数を10Hzから1000Hzまで変化させてイオン強度を測定した。試料としては、〔5.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(2)〕と同様のものを用いた。また、イオン強度は、各試料上の複数の箇所から得られた測定値の平均値である。
【0113】
図4は、m/z 554(M)であるB3PYMPMのイオン強度を表すグラフを示す図である。縦軸はイオン強度を表し、横軸はレーザー周波数を表す。ひし形は蒸着膜を表し、正方形は塗布膜を表す。図4において、塗布膜は蒸着膜に比べてイオン強度が高かった。このことからも、B3PYMPMのイオン化挙動は、上述のTPBiのイオン化挙動とは異なる傾向を示すことがわかる。
【0114】
また、蒸着膜では周波数の変化に対して、イオン強度がほぼ一定なのに対し、塗布膜では100Hzまではイオン強度が高く、250Hzではイオン強度が大きく減少し、1000Hzまではほぼ一定のイオン強度を示した。これらの結果は上述のTPBiおよびIr(t-buppy)3のイオン化挙動とは異なる傾向を示すことがわかる。つまり、着目する化合物の種類を変更することによって、膜質に影響する因子を異なる観点にて評価することができると考えられる。
【0115】
〔7.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(3)〕
MALDI-TOFMSを用いて、レーザー周波数を10Hzとして、レーザー強度を40%から44%まで変化させてイオン強度を測定した。試料としては、〔5.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(2)〕と同様のものを用いた。
【0116】
図5は、レーザー強度を変化させた場合のB3PYMPMの蒸着膜のマススペクトルを示す図である。図5の(a)~(c)はそれぞれ、レーザー強度が40%、41%および44%の場合を表す。
【0117】
図6は、レーザー強度を変化させた場合のB3PYMPMの塗布膜のマススペクトルを示す図である。図6の(a)~(c)はそれぞれ、レーザー強度が40%、41%および44%%の場合を表す。
【0118】
図5および6においては、レーザー強度が高くなるにつれ、高分子のピークが現れた。具体的には、2量体および3量体等の高分子のピークが現れた。また、図6では、レーザー強度が高くなるにつれ、低分子の分解ピーク(フラグメントイオンのピーク)が増加した。つまり、マススペクトルを用いることにより、膜質に影響する因子を上述の実施例とは異なる観点にて評価することができると考えられる。
【0119】
なお、図5および6において、点線で囲んだピークは粉体測定(データは示していない)では見られなかったピークを表す。また、図6において、一点鎖線で囲んだピークは、図5(すなわち、蒸着膜)では見られなかったピークを表す。このように膜試料のマススペクトルからも蒸着膜と塗布膜との間の差を検出することができる。
【0120】
〔8.二量体および三量体のイオン化挙動〕
MALDI-TOFMSを用いて、レーザー周波数を10Hzとして、レーザー強度を35%から54%まで変化させてイオン強度を測定した。試料としては、〔5.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(2)〕と同様のものを用いた。また、イオン強度は、各試料上の複数の箇所から得られた測定値の平均値である。
【0121】
図7は、レーザー強度を変化させた場合のB3PYMPMの2量体および3量体のイオン強度を表すグラフを示す図である。縦軸はイオン強度を表し、横軸はレーザー強度を表す。ひし形は蒸着膜を表し、正方形は塗布膜を表す。
【0122】
図7の(a)は、m/z 1107([2M+H])であるB3PYMPMの2量体のイオン強度を表すグラフである。図7の(b)は、m/z 1659([3M+H])であるB3PYMPMの3量体のイオン強度を表すグラフである。
【0123】
図7の(a)および(b)にいずれにおいても、レーザー強度が高い範囲(例えば、レーザー強度が45%以上の範囲)では、蒸着膜は塗布膜に比べてイオン強度が高かった。この結果は、図3に示すように蒸着膜と塗布膜との間の差が小さかった分子イオンの結果とは異なる。また、2量体に比べて3量体のほうが、差が大きかった。つまり、2量体および3量体等に着目することによって、膜質に影響する因子を上述の実施例とは異なる観点にて評価することができると考えられる。
【0124】
〔9.ネガティブイオンの挙動〕
MALDI-TOFMSを用いて、レーザー強度を44%として、レーザー周波数を10Hzから1000Hzまで変化させてイオン強度を測定した。試料としては、〔5.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(2)〕と同様のものを用いた。また、イオン強度は、各試料上の複数の箇所から得られた測定値の平均値である。
【0125】
図8は、m/z 554(M)であるB3PYMPMのネガティブイオンのイオン強度を表すグラフを示す図である。
【0126】
ここで、上述の図4はポジティブイオンのイオン強度を表している。図4では、レーザー周波数が小さい範囲で蒸着膜と塗布膜との差が大きかったのに対し、図8では、レーザー周波数が大きい範囲で蒸着膜と塗布膜との差が大きかった。また、図4および8からわかるように、その差は、ポジティブイオンに比べてネガティブイオンのほうが大きい。従って、B3PYMPMのネガティブイオンに着目した場合は、ポジティブイオンに着目した場合に比べて、より高感度にて物理構造の差を評価することができると考えられる。
【0127】
図9は、レーザー強度を41%としてレーザー周波数を変化させた場合の、B3PYMPMの蒸着膜におけるネガティブイオンのマススペクトルを示す図である。図9の(a)~(c)はそれぞれ、レーザー周波数が10Hz、100Hzおよび1000Hzの場合を表す。
【0128】
図10は、レーザー強度が41%としてレーザー周波数を変化させた場合の、B3PYMPMの塗布膜におけるネガティブイオンのマススペクトルを示す図である。図10の(a)~(c)はそれぞれ、レーザー周波数が10Hz、100Hzおよび1000Hzの場合を表す。
【0129】
図9および10のいずれにおいても、レーザー周波数が高くなるにつれて低分子のフラグメントピークが減少し、1000Hzでは、きれいなマススペクトルのパターンを示している。ここで、いずれの周波数でも図10の塗布膜試料の方が低分子のフラグメントの強度が図9の蒸着膜試料より小さく、きれいなパターンを示している。このようにマススペクトルに着目した場合にも、物理構造の差を評価することができる。
【0130】
〔10.分子イオン〕
MALDI-TOFMSを用いて、レーザー強度を41%として、レーザー周波数を20Hzから250Hzまで変化させてイオン強度を測定した。試料としては、〔5.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(2)〕と同様のものを用いた。図11は、レーザー周波数を変化させた場合のB3PYMPMの蒸着膜および塗布膜におけるマススペクトルを示す図である。
【0131】
図11の(a)および(b)は蒸着膜のマススペクトルを表し、それぞれレーザー周波数が20Hzおよび250Hzの場合を表す。
【0132】
図11の(c)および(d)は塗布膜のマススペクトルを表し、それぞれレーザー周波数が20Hzおよび250Hzの場合を表す。
【0133】
蒸着膜および塗布膜のいずれにおいても、レーザー周波数の上昇に伴うイオン強度の上昇は[M+H]よりもMのほうが大きく、その程度は蒸着膜のほうが塗布膜より顕著であった。この変化には分子内または分子間のプロトンの有無が関与していると考えられる。イオンの種類に着目することによって、膜質に影響する因子を上述の実施例とは異なる観点にて評価することができると考えられる。
【0134】
〔11.分子配向性の確認〕
放射光軟X線吸収分光を用いて、蒸着膜および塗布膜の分子配向を評価した。B3PYMPMを材料として蒸着膜(真空蒸着法、厚み50nm)および塗布膜(スピンコート法、1000rpm、厚み10nm)をそれぞれシリコン基板上に製膜し、これらを試料として用いた。測定装置としてはAdvanced Light Source(ALS)BL6.3.2を用い、全電子収量法によって測定した。測定においては、軟X線の入射角度を30~90度に変化させた。なお、評価はN-K吸収端領域にて行った。これにより、N原子に着目した異方性評価を行った。
【0135】
図12は、B3PYMPMの蒸着膜および塗布膜の、放射光軟X線吸収分光による測定結果を示す図である。なお、図12の縦軸は、σ*の強度を基準として規格化した強度を表す。
【0136】
図12の(a)は、蒸着膜の測定結果を表す。図12の(a)では、軟X線の入射角度が90度に近づくにつれてπ*の相対強度が低下した。このことから、蒸着膜では、π軌道が基板に対して垂直に張り出していると考えられる。すなわち、蒸着膜は、水平配向性を示す。
【0137】
図12の(b)は、塗布膜の測定結果を表す。図12の(b)では、軟X線の入射角度を変化させても、スペクトル形状に変化が見られなかった。すなわち、塗布膜は、ランダム配向性を示す。
【0138】
このように、蒸着膜と塗布膜とでは、材料が同じであっても分子配向が異なることが明らかになった。すなわち、蒸着膜と塗布膜とは、上述のMALDI-TOFMSにおいても観察されたように、物理構造が異なる。
【0139】
〔12.結晶性の確認〕
GI-WAXS(微小角入射広角X線散乱)を用いて、蒸着膜および塗布膜の結晶性を評価した。B3PYMPMを材料としてシリコン基板上に厚み30nmの蒸着膜(真空蒸着法)および塗布膜(スピンコート法、1000rpm)をそれぞれ作製し、これらを試料として用いた。測定装置としてはSPring-8のBL08B2を用い、波長1.0Å、カメラ長(試料と検出器との距離)125.4mm、入射角0.1度、露光時間10秒とした。
【0140】
図13は、B3PYMPMの蒸着膜および塗布膜の、GI-WAXSによる測定結果を示す図である。GI-WAXSによる測定結果において、ピークが一致する場合、同様の結晶性を有すると判断できる。図13によれば、蒸着膜では、~3.7Åと~3.2Åにおいてピークが見られ、これはπ-スタッキングに相当すると考えられる。一方、塗布膜ではこのようなピークは見られない。
【0141】
従って、蒸着膜と塗布膜とでは、材料が同じであっても結晶性が異なることが明らかになった。すなわち、蒸着膜と塗布膜とは、上述のMALDI-TOFMSにおいても観察されたように、物理構造が異なる。
【0142】
〔13.混合膜試料の物理構造の確認〕
GI-SAXS(微小角入射小角X線散乱)を用いて、蒸着膜および塗布膜の結晶性を評価した。試料としては、〔3.レーザー強度の変化に伴うイオン化挙動(1)〕と同様のものを用いた。
【0143】
図14は、TPBiおよびIr(t-buppy)3を混合して得られた蒸着膜および塗布膜の、GI-SAXSによる測定結果を示す図である。図14から、蒸着膜と塗布膜とでは、異なる曲線が得られる。従って、図14からも、蒸着膜と塗布膜とは、異なる物理構造を有することがわかる。
【0144】
より具体的には、蒸着膜と塗布膜とでは、密度もしくは均一性が異なる、配向が異なる、分子構造(分子内の結合角度または結合長さ)が異なる、または分子間の距離と均一性とが異なる、と考えられる。また、蒸着膜の曲線はフリンジを有するため、周期構造が揃っている(均一性が高い)と考えられる。
【0145】
〔14.有機多層薄膜の評価〕
ガラス基板上にTPD膜、CBPとIr(ppy)3との混合膜、Alq3膜、Al膜(電極)をこの順番に製膜した試料(すなわち、有機多層薄膜)についてMALDI-TOFMSによる測定を行った。
【0146】
図15は、MALDI-TOFMSによる有機多層薄膜の測定結果(マススペクトル)を示す図である。図15から、試料が複数の層から構成されている場合にも、用いた成分全てを検出できることがわかる。すなわち、本発明の一実施形態に係る分析方法は、試料の層構造によらずに適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の一態様は、有機エレクトロニクス等の種々の分野において、試料の物理構造の分析に利用することができる。
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