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特許7317213熱可塑性エラストマー、組成物、及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー、組成物、及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/02 20060101AFI20230721BHJP
   C08C 19/22 20060101ALI20230721BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20230721BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20230721BHJP
   C08G 18/69 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C08G81/02
C08C19/22
C08G18/10
C08G18/48 079
C08G18/69
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022510631
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012408
(87)【国際公開番号】W WO2021193772
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2020058692
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020068979
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 純
(72)【発明者】
【氏名】溝元 均
(72)【発明者】
【氏名】米村 真実
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-059742(JP,A)
【文献】特開2004-099662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテルを含みガラス転移温度が120℃以上であり重量平均分子量が1,000~40,000である高分子体(A)からなるブロック構造単位と、主としてジエン系ゴムを含みガラス転移温度が20℃以下であり重量平均分子量が700~30,000である高分子体(B)からなるブロック構造単位とを含む共重合体を主として含み、
前記共重合体が、前記高分子体(A)からなるブロック構造単位-前記高分子体(B)からなるブロック構造単位-前記高分子体(A)からなるブロック構造単位のブロック配列構造からなるABA共重合体である、
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー。
【請求項2】
ポリフェニレンエーテルを含みガラス転移温度が120℃以上であり重量平均分子量が1,000~40,000である高分子体(A)からなるブロック構造単位と、主としてジエン系ゴムを含みガラス転移温度が20℃以下であり重量平均分子量が700~30,000である高分子体(B)からなるブロック構造単位とを含む共重合体を主として含み、
前記共重合体が、前記高分子体(A)からなるブロック構造単位と、前記高分子体(B)からなるブロック構造単位とが交互に配列したブロック配列構造を含む、
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー。
【請求項3】
前記高分子体(A)が片末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルである、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項4】
前記高分子体(A)が両末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルである、請求項2に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項5】
前記高分子体(A)が両末端にイソシアネート基を有するポリフェニレンエーテルである、請求項2に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項6】
前記高分子体(B)が両末端にイソシアネート基を有するジエン系ゴムである、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項7】
前記ジエン系ゴムが水添ポリブタジエンゴムである、請求項6に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項8】
前記共重合体が、前記高分子体(A)からなるブロック構造単位と前記高分子体(B)からなるブロック構造単位とがウレタン結合を介して結合した共重合体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項9】
前記共重合体中の、高分子体(A)からなる前記ブロック構造単位と高分子体(B)からなる前記ブロック構造単位との合計質量割合が80質量%以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項10】
前記高分子体(A)中のポリフェニレンエーテルに由来する構造単位の質量割合が90質量%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項11】
前記高分子体(B)100質量%に対するジエン系ゴムの質量割合が60質量%以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマーを含む、熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー、組成物、及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性芳香族ポリエステル単位やポリアミド単位のような高い耐熱性や強度を示す構成単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位及び/又はポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位をソフトセグメントとする共重合体は、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、高温特性に優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であることから、自動車部品や産業用資材に幅広く使用されている。
【0003】
しかし、一般的に上記のような共重合体は、原料の溶解性、反応性などからハードセグメント/ソフトセグメントを構成する材料が限られているのが現状である。高い耐熱性を有するハードセグメントとソフトセグメントとの共重合体としては、ポリエステルエラストマー(特許文献1)やポリアミドエラストマー(特許文献2)などの結晶性高分子とポリエーテルとの共重合体が一般に知られているが、これらの樹脂は難燃性や透明性に問題を抱えている。
また、ポリフェニレンエーテルとポリブタジエンとの共重合物(特許文献3)も報告されているが、ランダム共重合体であり、透明性が不十分である他、原料と比較してガラス転移温度が高くなりすぎ、溶融加工性に影響を及ぼすといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平03-229752号公報
【文献】特許5369683号公報
【文献】国際公開第2019-203112号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、高い耐熱性、強度、伸びなどの機械物性を有しつつ、透明性に優れた熱可塑性エラストマーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
ポリフェニレンエーテルを含みガラス転移温度が120℃以上であり重量平均分子量が1,000~40,000である高分子体(A)からなるブロック構造単位と、主としてジエン系ゴムを含みガラス転移温度が20℃以下であり重量平均分子量が700~30,000である高分子体(B)からなるブロック構造単位とを含む共重合体を主として含み、
前記共重合体が、前記高分子体(A)からなるブロック構造単位-前記高分子体(B)からなるブロック構造単位-前記高分子体(A)からなるブロック構造単位のブロック配列構造からなるABA共重合体である、
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー。
[2]
ポリフェニレンエーテルを含みガラス転移温度が120℃以上であり重量平均分子量が1,000~40,000である高分子体(A)からなるブロック構造単位と、主としてジエン系ゴムを含みガラス転移温度が20℃以下であり重量平均分子量が700~30,000である高分子体(B)からなるブロック構造単位とを含む共重合体を主として含み、
前記共重合体が、前記高分子体(A)からなるブロック構造単位と、前記高分子体(B)からなるブロック構造単位とが交互に配列したブロック配列構造を含む、
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー。
[3]
前記高分子体(A)が片末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルである、[1]に記載の熱可塑性エラストマー。
[4]
前記高分子体(A)が両末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルである、[2]に記載の熱可塑性エラストマー。
[5]
前記高分子体(A)が両末端にイソシアネート基を有するポリフェニレンエーテルである、[2]に記載の熱可塑性エラストマー。
[6]
前記高分子体(B)が両末端にイソシアネート基を有するジエン系ゴムである、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー。
[7]
前記ジエン系ゴムが水添ポリブタジエンゴムである、[6]に記載の熱可塑性エラストマー。
[8]
前記共重合体が、前記高分子体(A)からなるブロック構造単位と前記高分子体(B)からなるブロック構造単位とがウレタン結合を介して結合した共重合体である、[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
[9]
前記共重合体中の、高分子体(A)からなる前記ブロック構造単位と高分子体(B)からなる前記ブロック構造単位との合計質量割合が80質量%以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
[10]
前記高分子体(A)中のポリフェニレンエーテルに由来する構造単位の質量割合が90質量%以上である、[1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
[11]
前記高分子体(B)100質量%に対するジエン系ゴムの質量割合が60質量%以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー。
[12]
[1]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマーを含む、熱可塑性エラストマー樹脂組成物。
[13]
[12]に記載の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を含む、成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に説明するとおり、高い耐熱性、強度、伸びなどの機械物性を有しつつ、透明性に優れた熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施する為の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細説明する。本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるわけではなく、その要旨の範囲で種々変形して実施可能である。
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「熱可塑性」とは、ガラス転移温度又は融点以上に加熱することで軟化する性質のことを指し、軟化することで容易に成形加工が可能になる。
「共重合」とは、異なる2種類以上の原料からポリマーを合成することを指す。
「交互に配列」とは、異なる構造(A)及び(B)が、(A)、(B)、(A)、(B)と順に繰り返す構造を取る配列を指す。
「ガラス転移温度」とは、後述の実施例に記載の方法で、示差走査熱量計(DSC)により測定される温度を指す。
【0010】
[熱可塑性エラストマー]
本実施形態の熱可塑性エラストマーは、ポリフェニレンエーテルを含みガラス転移温度が120℃以下である高分子体(A)と、主としてジエン系ゴムを含みガラス転移温度が20℃以下である高分子体(B)と、が共重合し、上記高分子体(A)に由来するブロック構造単位と上記高分子体(B)に由来するブロック構造単位とを含む共重合体を主として含む熱可塑性エラストマーである。
上記熱可塑性エラストマーは、上記共重合体のみからなる熱可塑性エラストマーであってもよいし、さらに他の成分を含んでいてもよい。
【0011】
上記共重合体は、ポリフェニレンエーテルを含みガラス転移温度が120℃以上である高分子体(A)に由来するブロック構造単位(本明細書において、単に「ブロック構造単位(A)」と称する場合がある)と、主としてジエン系ゴムを含みガラス転移温度が20℃以下である高分子体(B)に由来するブロック構造単位(本明細書において、単に「ブロック構造単位(B)」と称する場合がある)とを含み、ブロック構造単位(A)及びブロック構造単位(B)のみからなることが好ましい。
上記共重合体は、上記ブロック構造単位(A)、上記ブロック構造体単位(B)以外の、他の構造単位を含んでいてもよい。
【0012】
(高分子体(A))
上記高分子体(A)は、ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位を含み、ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位のみからなることが好ましい。上記高分子体(A)は、ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位以外に、他の構造単位を含んでいてもよい。
上記高分子体(A)は、両末端にフェノール性水酸基を有することが好ましく、両末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルであることがより好ましい。
上記高分子体(A)は、片末端にフェノール性水酸基を有することが好ましく、片末端にフェノール性水酸基を有するポリフェニレンエーテルであることがより好ましい。
上記高分子体(A)は、両末端にイソシアネート基を有することが好ましく、両末端にイソシアネート基を有するポリフェニレンエーテルであることがより好ましい。
末端にイソシアネート基を有する高分子は、例えば、高分子体の末端のヒドロキシル基を、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネートで変性することなどにより得られる。次いで、末端にヒドロキシル基を有する高分子体(B)と反応させ、共重合体を得てよい。
末端のイソシアネート変性は、高分子体(A)の片末端に行ってもよいし両末端に行ってもよい。なかでも、高分子体(A)の末端フェノール性水酸基の反応性が低いために、高分子量体(A)の両末端をジイソシアネートで変性した後に、高分子体(B)と反応させることで、より分子量の高い共重合体が得られる。
上記ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの何れのジイソシアネートを用いてもよいが、ジイソシアネートと両末端ヒドロキシル基を有する高分子体との反応は、両末端を変性させる高分子体が、一部単独で重合し、高分子量化することで不溶化し、後の共重合反応が進行しにくい。よって、上記点を鑑みると、ジイソシアネート化合物中の、それぞれのイソシアネート基の反応性が異なるものが好ましく、特にトリレンジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0013】
-ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位-
上記ポリフェニレンエーテルとしては、下記式(I)及び/又は(II)で表される繰り返し単位を含む重合体が好ましく、下記式(I)及び/又は(II)で表される繰り返し単位が繰り返されてなる重合体であることがより好ましい。ポリフェニレンエーテルは、単独重合体(ホモポリマー)又は共重合体(コポリマー)でありうる。
【化1】
【化2】
(上記の式(I)及び式(II)中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基である。ただし、R及びRが同時に水素原子ではない。)
上記高分子体(A)に含まれるポリフェニレンエーテルに由来する構造単位は、一種であってもよいし複数種であってもよい。
【0014】
ポリフェニレンエーテルの単独重合体として、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-n-ブチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレン)エーテル、及びポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレン)エーテルなどが挙げられる。中でも、入手の容易性及び価格の観点から、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテルが好ましい。
【0015】
ポリフェニレンエーテルの上記共重合体とは、上記式(I)及び/又は(II)で表される繰り返し単位を主たる構造単位とする共重合体であり、上記式(I)及び/又は(II)で表される繰り返し単位のみからなる共重合体であってもよい。ここで、主たる構造単位とは、共重合体100質量%に対して、該構造単位の質量割合が70質量%超であることをいう。
上記共重合体の具体例として、例えば、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体、2,6-ジメチルフェノールとo-クレゾールとの共重合体、及び2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとo-クレゾールとの(3元)共重合体などが挙げられる。
【0016】
上記高分子体(A)の両末端は、上記ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位のフェノール性水酸基であることが好ましい。
【0017】
上記高分子体(A)中の、ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位の質量割合は、90質量%以上であることが好ましい。
【0018】
-他の構造単位-
上記高分子体(A)に含まれる他の構造単位としては、例えば、下記式(III)で表される化合物などのフェノール性水酸基を二つ有する化合物に由来する構造単位、などが挙げられる。
【化3】
(式(III)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群より選択され、Xは、単結合、2価のヘテロ原子、及び炭素数1~6の芳香族又は脂肪族炭化水素で置換されていてもよい炭素数1~12の2価の炭化水素基からなる群より選択される。)
上記式(III)で表される化合物としては、例えば、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA(すなわち、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールB、4,4’-ビフェノールなどが挙げられる。
【0019】
上記フェノール性水酸基を二つ有する化合物は、例えば、各フェノール性水酸基から水素原子を除いた二価の連結基として、上記高分子体(A)に含まれていてよい。例えば、上記連結基は、上記ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位と連結してよい。
【0020】
上記高分子体(A)としては、上記他の構造単位が2つの上記ポリフェニレンエーテルに由来する構造単位に挟まれ、両末端が各ポリフェニレンエーテルのフェノール性水酸基である高分子であってよい。該高分子体としては、例えば、下記式(IV)で表される化合物であってもよい。
【化4】
(式(IV)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表す。R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基を表す。k、l、p、qは、それぞれ独立に、1~4の整数を表す。n、mは、繰り返し単位数を表し、それぞれ独立に、1~1000の整数を表す。)
【0021】
上記高分子体(A)の分子量に関しては、数平均分子量が千~数十万のものを入手可能であるが、本実施形態の熱可塑性エラストマーの原料としては、数平均分子量が20,000以下のものが好ましい。上記高分子体(A)の重量平均分子量としては、1,000~40,000が好ましい。
尚、本明細書において、数平均分子量、重量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーの測定結果に基づいて、ポリスチレン換算で算出した値を意味する。
【0022】
上記高分子体(A)のガラス転移温度は、熱可塑性エラストマーが耐熱性を示す観点から、120℃以上であり、好ましくは130~230℃、より好ましくは140~220℃である。
【0023】
上記高分子体(A)は、例えば、特開2019-189686号公報の方法に従い合成することが可能である。
【0024】
(高分子体(B))
上記高分子体(B)としては、主として、ブタジエンゴム、水素添加ブタジエンゴムなどのジエン系ゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ポリエーテル、ポリオレフィン、で構成されている高分子としてもよい。これらの中でも、熱や酸素で劣化しにくく、柔軟性にも優れる観点から、ジエン系ゴムが好ましく、ブタジエンゴム、水素添加ポリブタジエンなどの水素添加ブタジエンゴムがより好ましく、さらに好ましくは水素添加ブタジエンゴムである。
なお、主として構成されるとは、高分子体(B)100質量%に対して、当該構造の質量割合が60質量%以上であることをいい、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、両末端に導入した官能基部を除いて高分子体(B)全体を占めていることが特に好ましい。
【0025】
上記高分子体(B)の分子量に関しては、数平均分子量が数百~数十万のものを入手可能であるが、本実施形態の熱可塑性エラストマーの原料としては、数平均分子量が500~20,000のものが好ましく、特に1,000~10,000のものが好ましい。また、上記高分子体(B)の重量平均分子量としては、700~30,000が好ましい。
【0026】
上記高分子体(B)のガラス転移温度は、熱可塑性エラストマーが伸びなどのゴム的性質を示す観点から、20℃以下であることが好ましく、より好ましくは-80~0℃、さらに好ましくは-70~-10℃である。
【0027】
上記高分子体(B)は、いずれかの両末端を反応性の高い官能基で変性することが好ましい。上記官能基としては、イソシアネート基、酸無水物、グリシジル基などが好ましい。これらの中でも、末端変性の容易さから、イソシアネート基が特に好ましい。
【0028】
末端にイソシアネート基を有する高分子は、例えば、高分子体(B)の末端のヒドロキシル基を、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネートで変性することにより得られる。次いで、末端にヒドロキシル基を有する高分子体(A)と反応させ、共重合体を得てよい。
【0029】
末端のイソシアネート変性は、高分子体(B)の片末端に行ってもよいし両末端に行ってもよい。なかでも、高分子量体(A)のフェノール性水酸基の反応性が低いために、高分子量体(B)の両末端をジイソシアネートで変性した後に、高分子体(A)と反応させることで、より分子量の高い重合体が得られる。
【0030】
上記ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられ、ジイソシアネートと両末端ヒドロキシル基を有する高分子体との反応は、両末端を変性させる高分子体が、一部単独で重合し、高分子量化することで不溶化し、後の共重合反応が進行しにくい。よって、上記点を鑑みると、ジイソシアネート化合物中の、それぞれのイソシアネート基の反応性が異なるものが好ましく、特にトリレンジイソシアネートを用いることが好ましい。
【0031】
上記高分子体(B)は、さらに他の構造単位を含んでいてもよい。上記他の構造単位としては、主として含まれる構造単位と共重合できる構造単位であれば特に限定されない。
【0032】
上記共重合体における、上記ブロック構造単位(A)、上記ブロック構造単位(B)以外の他の構造単位としては、ブロック構造単位であってもよいし、モノマー成分に由来する構造単位であってもよい。上記共重合体は、ブロック構造単位のみからなるブロック共重合体であることが好ましい。
【0033】
上記他の構造単位としては、特に限定されず、熱可塑性エラストマーに用いられる公知のモノマー成分に由来する構造単位が挙げられる。
上記共重合体において、上記他の成分に由来する他の構造単位は、上記高分子体(A)に由来する構造単位と、上記高分子体(B)に由来する構造単位と以外の部分(好ましくは、上記ブロック構造単位(A)と上記ブロック構造単位(B)とが交互に配列した構造以外の部分)に含まれることが好ましい。
【0034】
上記共重合体は、上記高分子体(A)と上記高分子体(B)とが共重合し、ブロック構造単位(A)とブロック構造単位(B)とが交互に配列した構造(本明細書において、「交互構造」と称する場合がある)、すなわち(A)-(B)-(A)-(B)・・・という直列の繰り返し構造、を有することが好ましい。交互構造を含むことにより、透明性に一層優れ、さらに、耐熱性、強度を有しつつ、伸びなどの柔軟性に一層優れる。
上記共重合体は、上記ブロック構造単位(A)と上記ブロック構造単位(B)とが交互に配列した交互構造を含むことが好ましく、少なくとも(B)-(A)-(B)又は(A)-(B)-(A)の繰り返し構造を含むことがより好ましく、上記繰り返し構造のみからなることがさらに好ましい。
上記交互構造以外の部分としては、例えば、上記他の成分に由来する他の構造単位を含む構造などが挙げられる。
【0035】
上記ブロック構造単位(A)と上記ブロック構造単位(B)とは、ウレタン結合を介して結合していることが好ましい。これにより、高分子体間の結合部が強固となり、優れた強度を示す熱可塑性エラストマーを得ることができる。
【0036】
上記共重合体としては下記式(V)又は(V’)で表される化合物が好ましい。
【化5】
【化6】
式(V)、式(V’)中、RAは高分子体(A)を示し、RBは高分子体(B)を示す。
【0037】
上記共重合体中の、上記高分子体(A)に由来するブロック構造単位と、上記高分子体(B)に由来するブロック構造単位との合計質量割合としては、耐熱性、伸びなどの特性に優れる観点から、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
また、上記共重合体中の、上記交互構造の質量割合としては、耐熱性、透明性の観点から、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上特に好ましくは100質量%である。
【0038】
上記共重合体を製造する際の、高分子体(A)と高分子体(B)との添加量の割合は、特に限定されず、高分子体(A)に対して大きいモル数の高分子体(B)を用いてもよいし、高分子体(B)に対して大きいモル数の高分子体(A)を用いてもよいし、高分子体(A)と高分子体(B)とを等しいモル数用いてもよい。中でも、高分子体(A)と高分子体(B)とが等モルであることが好ましい。高分子体(A)と高分子体(B)とが等モルを満たすことにより、反応後に高分子体(A)及び高分子体(B)が残存せず、より耐熱性や強度に優れた熱可塑性エラストマーが得られる。
【0039】
上記熱可塑性エラストマーは、上記共重合体を主として含む。上記熱可塑性エラストマー100質量%に対する上記共重合体の質量割合としては、80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
上記熱可塑性エラストマーに含まれる上記共重合体以外の他の成分としては、共重合されなかった高分子体(A)及び/又は高分子体(B)、共重合に用いた溶媒や触媒などが挙げられる。
【0040】
本実施形態の熱可塑性エラストマーは、ガラス転移温度を有することが好ましい。上記熱可塑性エラストマーのガラス転移温度としては、耐熱性に優れる観点から、120℃以上であることが好ましい。本実施形態の熱可塑性エラストマーのガラス転移温度は、上記高分子体(A)のガラス転移温度に近いことが好ましく、上記高分子体(A)のガラス転移温度±30℃以内であることが好ましく、より好ましくは上記高分子体(A)のガラス転移温度±20℃以内、さらに好ましくは上記高分子体(A)のガラス転移温度±10℃以内である。
【0041】
本実施形態の熱可塑性エラストマーは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィーによる分子量測定において、ポリスチレン換算で算出した数平均分子量が、好ましくは3,000~150,000、より好ましくは4,000~100,000、さらに好ましくは5,000~80,000である。数平均分子量が上記範囲であることにより、耐熱性や機械強度に優れ、粘度が高くなりすぎず、成形加工性にも優れる。
また、本実施形態の熱可塑性エラストマーの重量平均分子量としては、耐熱性、機械強度、成形加工性の観点から、4,000~200,000であることが好ましく、より好ましくは5,000~120,000である。
【0042】
本実施形態の熱可塑性エラストマーは、例えば、高分子体(A)と高分子体(B)とを溶剤に均一に溶解した後、加熱下で反応させることで共重合体として得ることができる。
共重合に使用できる溶剤としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、これらの混合溶剤を使用してもよい。中でも、沸点が低く重合後の除去が容易なトルエンが好ましい。
反応温度は30℃~120℃であり、好ましくは40℃~110℃である。
反応時間は好ましくは1時間~30時間である。
高分子体(A)と高分子体(B)の共重合を促進させるために触媒を使用してもよい。触媒としては、例えば、トリエチルアミン、エチルヘキサン酸スズ、ジラウリン酸ジブチルスズなどが挙げられる。
【0043】
[熱可塑性エラストマー樹脂組成物]
本実施形態の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、上述の本実施形態の熱可塑性エラストマーを含み、さらに他の添加剤を含んでいてもよい。上記熱可塑性エラストマー樹脂組成物は、上記熱可塑性エラストマーのみからなっていてもよい。
上記熱可塑性エラストマー樹脂組成物中の上記熱可塑性エラストマーの質量割合は、熱可塑性エラストマー樹脂組成物の質量(100質量%)に対して、80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上である。上記熱可塑性エラストマー樹脂組成物の質量(100質量%)に対する上記共重合体の質量割合は、80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上である。
【0044】
(他の添加剤)
上記他の添加剤としては、例えば、滑剤、可塑剤、離型剤、抗菌剤、防カビ剤、光安定剤、難燃剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱安定剤、消泡剤、分散剤などが挙げられる。
【0045】
上記熱可塑性エラストマー樹脂組成物中の上記他の添加剤の質量割合は、熱可塑性エラストマーの質量(100質量部)に対して、3質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。他の添加剤の質量割合が少ない方が、得られる成形体が良好な特性を発現しやすい。
【0046】
[成形体]
本実施形態の成形体は、上述の実施形態の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を含む。
上記成形体は、例えば、本実施形態の熱可塑性エラストマー樹脂組成物を成形して製造することができる。上記成形体の製造方法としては、例えば、混練した上記熱可塑性エラストマー樹脂組成物を金型に流し込み成形する方法などが挙げられる。また本実施形態の熱可塑性エラストマー樹脂組成物は基盤上に塗布し、乾燥することで積層体とすることも可能である。上記成形体は、例えば、車両内装用部品、家電製品の筐体などに用いることができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0048】
後述の各例で用いた評価方法を以下に示す。
【0049】
<評価方法>
(引張試験)
ISO37type2厚み2mmのダンベル試験片を用いて、次の条件で引張試験を実施した。
機種:INSTRON社製5564
引張速度:50mm/min
チャック間距離:25mm
試験片破断時のひずみと最大応力を読み取った。
【0050】
(ガラス転移温度)
高分子体(A)、高分子体(B)及び熱可塑性エラストマーのガラス転移温度は、次の条件で測定した。
機種:NETZSCH社製DSC3500
測定条件:窒素雰囲気下、-20~240℃温度変化20K/min
2ndスキャン時のデータをガラス転移温度として読み取った。
【0051】
(重量平均分子量、数平均分子量)
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
GPC機種:東ソー社製HPLC-8320
カラム:Shodex社製K-803L、K-806M
移動相:クロロホルム1.0ml/min
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
単分散ポリスチレンの溶出曲線により各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出した。
【0052】
<実施例1>
(高分子体(A1)の合成)
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、0.2512gの塩化第二銅2水和物、1.1062gの35%塩酸、9.5937gのN,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、213.0gのn-ブタノール及び496.0gのメタノール、122.8gの2,6-ジメチルフェノール、57.1gの2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンを加えた。使用した溶剤の組成質量比はn-ブタノール:メタノール=30:70であった。次いで激しく攪拌しながら反応器へ180mL/分の速度で酸素をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は45℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。
酸素を導入し始めてから120分後、酸素含有ガスの通気をやめ、この重合混合物に1.30gのエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)を溶かした50%水溶液を添加し、次いで1.62gのハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のポリフェニレンエーテルが白色となるまで、45℃で1時間反応させた。反応終了後、濾過して、メタノール洗浄液(b)と、洗浄されるポリフェニレンエーテル(a)との質量比(b/a)が4となる量の洗浄液(b)で3回洗浄し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。次いで120℃で1時間、真空乾燥し乾燥ポリフェニレンエーテル(高分子体(A1))を得た。
得られた高分子体(A1)の重量平均分子量は3,940、数平均分子量は2,190、ガラス転移温度は150℃であった。
【0053】
(熱可塑性エラストマー1の合成)
フラスコに両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエン樹脂(日本曹達株式会社 GI-3000)18.2質量部、ジフェニルメタンジイソシアネート3.16質量部及びトルエン31.6質量部を加えて攪拌、溶解させたのちに触媒としてトリエチルアミン0.12質量部を加えて70℃まで昇温し、1時間反応させ高分子体(B1)(両末端イソシアネート化水素添加ポリブタジエン)を得た。得られた高分子体(B1)の重量平均分子量は5,328、数平均分子量は4,417、ガラス転移温度は-35℃であった。
その後高分子体(A1)15.4質量部をトルエン31.6質量部に溶解させた溶液を滴下し、更に70℃で2時間加熱することで高分子体(A1)と高分子体(B1)とを共重合させ、熱可塑性エラストマーを得た。なお、共重合時のモル比は、高分子体(A1):高分子体(B1)=1:1であった。
得られた熱可塑性エラストマーをエタノール中で再沈殿させた後に、真空乾燥をして熱可塑性エラストマー1を回収した。熱可塑性エラストマー1の重量平均分子量は36,700、数平均分子量は17,900であった。
この熱可塑性エラストマー1を用いて、ガラス転移温度の測定をおこなった。得られた熱可塑性エラストマー1は、上記高分子体(A1)に由来するブロック構造単位と、高分子体(B1)に由来するブロック構造単位とが交互に配列したA1-B1-A1共重合体を95質量部以上含み、A1-B1-A1共重合体を主として含んでいた。
【0054】
(成形体の作製)
上記熱可塑性エラストマーを、混錬機(Xplore MC15 レオ・ラボ株式会社製)にて210℃、窒素雰囲気下で3分間、スクリューを100rpmで回転させ混錬をおこなった。混錬後、溶融樹脂を50℃に保持したISO37 type2の金型に流し込み40秒間保持する事で小型試験片を作製した。この試験片を用いて引張試験を実施した。結果を表1に示す。
【0055】
<実施例2>
熱可塑性エラストマー合成時に用いる高分子体(A1)の使用量を12.2質量部とし、高分子体Bとして、両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエンの使用量を21.4質量部、ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を3.65質量部とした以外は実施例1と同様にして得た高分子体(B2)(両末端イソシアネート化水素添加ポリブタジエン、重量平均分子量5328、数平均分子量4417、ガラス転移温度-35℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー2及び成形体を作製し、引張試験を行った。熱可塑性エラストマー2の重量平均分子量は33900、数平均分子量は15800であった。
得られた熱可塑性エラストマー2は、上記高分子体A1に由来するブロック構造単位と、高分子体B2に由来するブロック構造単位とが交互に配列したA1-B2-A1共重合体を90質量部以上含み、A1-B2-A1共重合体を主として含んでいた。
なお、共重合時のモル比は、高分子体(A1):高分子体(B2)=1:2であった。
【0056】
<実施例3>
熱可塑性エラストマー合成時に用いる高分子体(A1)の使用量を17.4質量部とし、高分子体Bとして、両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエンの使用量を16.2質量部、ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を2.81質量部とした以外は実施例1と同様にして得た高分子体(B3)(両末端イソシアネート化水素添加ポリブタジエン、重量平均分子量5328、数平均分子量4417、ガラス転移温度-35℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー3及び成形体を作製し、引張試験を行った。熱可塑性エラストマー3の重量平均分子量は34200、数平均分子量は14900であった。
得られた熱可塑性エラストマー3は、上記高分子体A1に由来するブロック構造単位と、高分子体B3に由来するブロック構造単位とが交互に配列したA1-B3-A1共重合体を80質量部以上含み、A1-B3-A1共重合体を主として含んでいた。
なお、共重合時のモル比は、高分子体(A1):高分子体(B3)=2:1であった。
【0057】
<実施例4>
(熱可塑性エラストマーの合成)
フラスコに高分子体(A1)を11.8質量部、トリレンジイソシアネート1.73質量部及びトルエン26.7質量部を加えて攪拌、溶解させたのちに触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ6.00質量部を加えて室温で、10分間反応させ、高分子体(A2)(両末端イソシアネート化高分子体)を得た。得られた高分子体(A2)の重量平均分子量は5、940、数平均分子量は3,190、ガラス転移温度は149℃であった。
その後、高分子体(B4)(両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエン樹脂B4、日本曹達株式会社 GI-3000、重量平均分子量5085、数平均分子量4123、ガラス転移温度-35℃)17.8質量部をトルエン35.9質量部に溶解させた溶液を滴下し、更に50℃で6時間加熱することで高分子体(A2)と高分子体(B4)とを共重合させ、熱可塑性エラストマー4を得た。なお、共重合時のモル比は、高分子体(A2):高分子体(B4)=1:1であった。
得られた熱可塑性エラストマーをエタノール中で再沈殿させた後に、真空乾燥をして熱可塑性エラストマー4を回収した。熱可塑性エラストマー4の重量平均分子量は48,800、数平均分子量は18,700であった。
得られた熱可塑性エラストマー4は、上記高分子体(A2)に由来するブロック構造単位と、高分子体(B4)に由来するブロック構造単位とが交互に配列したA2-B4-A2共重合体を95質量部以上含み、A2-B4-A2共重合体を主として含んでいた。
得られた熱可塑性エラストマー4を用いて、実施例1と同様にして成形体を作製した。
【0058】
<実施例5>
(高分子体(A3)の合成)
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、0.2512gの塩化第二銅2水和物、1.1062gの35%塩酸、9.5937gのN,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、71.0gのn-ブタノール及び638.0gのメタノール、180.0gの2,6-ジメチルフェノールを入れた。使用した溶剤の組成質量比はn-ブタノール:メタノール=10:90であった。次いで激しく攪拌しながら反応器へ180mL/分の速度で酸素をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は45℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。
酸素を導入し始めてから120分後、酸素含有ガスの通気をやめ、この重合混合物に1.30gのエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)を溶かした50%水溶液を添加し、次いで1.62gのハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のポリフェニレンエーテルが白色となるまで、45℃で1時間反応させた。反応終了後、濾過して、メタノール洗浄液(b)と、洗浄されるポリフェニレンエーテル(a)との質量比(b/a)が4となる量の洗浄液(b)で3回洗浄し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。次いで120℃で1時間、真空乾燥し乾燥ポリフェニレンエーテル(高分子(A3))を得た。
得られた高分子体(A3)ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量は2,890、数平均分子量は1,510、ガラス転移温度は149℃であった。
【0059】
(熱可塑性エラストマーの合成)
フラスコに高分子体(B4)(両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエン樹脂、日本曹達株式会社 GI-3000)12.8質量部、ジフェニルメタンジイソシアネート2.13質量部及びトルエン35.5質量部を加えて攪拌、溶解させたのちに触媒としてトリエチルアミン0.12質量部を加えて70℃まで昇温し、1時間反応させ高分子体(B5)(両末端イソシアネート化水素添加ポリブタジエン)を得た。得られた高分子体(B5)の重量平均分子量は5,328、数平均分子量は4,417、ガラス転移温度は-35℃であった。
その後高分子体(A3)13.4質量部をトルエン35.03質量部に溶解させた溶液を滴下し、更に70℃で2時間加熱することで高分子体(A3)と高分子体(B5)とを共重合させ、熱可塑性エラストマーを得た。なお、共重合時のモル比は、高分子体(A3):高分子体(B5)=2:1であった。
得られた熱可塑性エラストマー5をエタノール中で再沈殿させた後に、真空乾燥をして熱可塑性エラストマーを回収した。熱可塑性エラストマー5の重量平均分子量は13,870、数平均分子量は6,470であった。得られた熱可塑性エラストマーは、A3-B5-A3共重合体を95質量部以上含み、A3-B5-A3共重合体を主として含んでいた。
この熱可塑性エラストマーを用いて、ガラス転移温度の測定をおこなった。
【0060】
(成形体の作製)
上記熱可塑性エラストマーを、混錬機(Xplore MC15 レオ・ラボ株式会社製)にて210℃、窒素雰囲気下で5分間、スクリューを100rpmで回転させ混錬をおこなった。混錬後、溶融樹脂を50℃に保持したISO37 type2の金型に流し込み40秒間保持する事で小型試験片を作製した。この試験片を用いて引張試験の評価を行った。結果を表1に示す。
【0061】
<実施例6>
熱可塑性エラストマー合成時に用いる高分子体(A3)の使用量を14.1質量部とし、高分子体Bとして、両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエン樹脂の使用量を19.7質量部、ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を2.52質量部とした以外は実施例1と同様にして得た高分子体(B6)(両末端イソシアネート化水素添加ポリブタジエン、重量平均分子量5328、数平均分子量4417、ガラス転移温度-35℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー6及び成形体を作製し、引張試験の評価を行った。
なお、共重合時のモル比は、高分子体A3:高分子体B6=3:2であった。
得られた熱可塑性エラストマー6は、A3-B6-A3共重合体を80質量部以上含み、A3-B6-A3共重合体を主として含んでいた。熱可塑性エラストマー6の重量平均分子量は12330、数平均分子量は6250であった。
【0062】
<実施例7>
熱可塑性エラストマー合成時に用いる高分子体(A3)の使用量を11.3質量部とし、両末端にイソシアネート基を持つ水素添加ポリブタジエンB3の使用量を19.0質量部、ジフェニルメタンジイソシアネートの使用量を1.88質量部とした以外は実施例1と同様にして得た高分子体(B7)(両末端イソシアネート化水素添加ポリブタジエン、重量平均分子量5328、数平均分子量4417、ガラス転移温度-35℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱可塑性エラストマー及び成形体を作製し、引張試験の評価を行った。
なお、共重合時のモル比は、高分子体(A3):高分子体(B7)=5:4であった。
得られた熱可塑性エラストマー7は、A3-B7-A3共重合体を70質量部以上含み、A3-B7-A3共重合体を主として含んでいた。
熱可塑性エラストマー7の重量平均分子量は11500、数平均分子量は6060であった。
【0063】
<実施例8>
(熱可塑性エラストマーの合成)
フラスコに高分子体(A3)を15.9質量部、トリレンジイソシアネート1.84質量部及びトルエン31.9質量部を加えて攪拌、溶解させたのちに触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ6.66質量部を加えて室温で、10分間反応させ、高分子体(A4)(両末端イソシアネート化高分子体)を得た。得られた高分子体(A4)の重量平均分子量は3、890、数平均分子量は2,510、ガラス転移温度は149℃であった。
その後、高分子(B4)(両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエン樹脂、日本曹達株式会社 GI-3000)15.8質量部をトルエン27.9質量部に溶解させた溶液を滴下し、更に50℃で6時間加熱することで高分子体(A4)と高分子体(B4)とを共重合させ、熱可塑性エラストマー8を得た。なお、共重合時のモル比は、高分子体(A4):高分子体(B4)=2:1であった。
得られた熱可塑性エラストマー8は、A4-B4-A4共重合体を95質量部以上含み、A4-B4-A4共重合体を主として含んでいた。熱可塑性エラストマー8の重量平均分子量は14270、数平均分子量は6530であった。
【0064】
<比較例1>
上記高分子体(A1)のみで評価・試験をおこなった。引張試験では、測定できないほどに脆く、測定限界以下であった。
【0065】
<比較例2>
上記高分子体(A1)50質量部に、高分子Bの代わりに水添スチレン系熱可塑性エラストマー(H1041 旭化成株式会社製)50質量部を加え実施例1と同様に成形体を作製した。
【0066】
<比較例3>
フラスコに両末端にヒドロキシ基を持つ水素添加ポリブタジエン樹脂B4(日本曹達株式会社 GI-3000)16.6質量部、ジフェニルメタンジイソシアネート2.80質量部及びトルエン33.2質量部を加えて攪拌、溶解させたのちに触媒としてトリエチルアミン0.07質量部を加え、高分子体(A1)33.2質量部をトルエン質量部に溶解させた溶液を加え、更に70℃で6時間加熱することで高分子体(A1)と高分子体(B4)とをランダムに共重合させ、熱可塑性エラストマーを得た。なお、共重合時のモル比は、高分子体(A1):高分子体(B4)=1:1であった。
得られた熱可塑性エラストマーをエタノール中で再沈殿させた後に、真空乾燥をして熱可塑性エラストマーを回収した。得られた。熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は12,081、数平均分子量は6,291、ガラス転移温度は149℃であった。結果を表1に示す。
【0067】
実施例1~4、6~8及び比較例1~3で用いた高分子体(A)、高分子体(B)の量、引張試験、ガラス転移温度、透明性の結果を表1に示した。透明性については実施例1又は5に記載の方法で作製した上記ISO37 type2成形片を用いて目視評価を実施した。透明性評価は成形片を厚み方向に見た際に成形片越しに文字などが視認できる場合を「〇」、視認できなかったものを「×」とした。
【0068】
実施例1~8より、上記高分子体(A)と上記高分子体(B)から得られる熱可塑性エラストマーは、十分に高い強度を示しつつ伸度を保持することが確認できた。またいずれのサンプルでも高いガラス転移温度、透明性を保持することを確認した。
【0069】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の成形体は、耐熱性やゴム的性質、透明性などに優れるものであり、車両内装用部品や家電製品の筐体などの幅広い分野で好適に利用できる。