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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20230721BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20230721BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20230721BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C33/58
F16C19/06
G01L5/00 K
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2022561003
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2022026531
(87)【国際公開番号】W WO2023277193
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021111064
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
(72)【発明者】
【氏名】足立 重之
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-001807(JP,A)
【文献】特表2003-530565(JP,A)
【文献】特開2017-096445(JP,A)
【文献】特開昭55-132926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 41/00
F16C 33/58
F16C 19/06
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回転軸を有する外輪と、
前記外輪の内周側に前記外輪と同軸状に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の転動体と、
前記外輪の外周面上又は前記内輪の内周面上に配置されたひずみゲージと、を有し、
前記ひずみゲージは、前記外輪の外周面上又は前記内輪の内周面上に配置された3つ以上の検出素子を有し、
3つ以上の前記検出素子は、前記外輪又は前記内輪の周方向の位置、並びに前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも2つの検出素子を含む、転がり軸受。
【請求項2】
前記検出素子は抵抗体である、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
3つ以上の前記抵抗体は、グリッド方向を前記周方向に向けて配置されている、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
3つ以上の前記抵抗体は、前記周方向及び前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも3つの抵抗体を含む、請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記周方向及び前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも3つの前記抵抗体は、前記外輪の外周面又は内輪の内周面を前記回転軸方向に2分する仮想線の上に配置された第1抵抗体と、前記第1抵抗体の前記周方向の一方側かつ前記仮想線の前記回転軸方向の一方側に配置された第2抵抗体と、前記第1抵抗体の前記周方向の他方側かつ前記仮想線の前記回転軸方向の他方側に配置された第3抵抗体と、を含み、
前記第2抵抗体と前記第3抵抗体は、前記第1抵抗体を挟んで対向して配置されている、請求項4に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記周方向及び前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも3つの前記抵抗体は、前記第2抵抗体と前記周方向の位置が同じで前記回転軸方向の位置が異なる第4抵抗体と、
前記第3抵抗体と前記周方向の位置が同じで前記回転軸方向の位置が異なる第5抵抗体と、をさらに含み、
前記第4抵抗体と前記第5抵抗体は、前記第1抵抗体を挟んで対向して配置されている、請求項5に記載の転がり軸受。
【請求項7】
3つ以上の前記抵抗体は、前記外輪の外周面又は内輪の内周面を回転軸方向に2分する仮想線の一方側に配置された第6抵抗体及び第7抵抗体と、前記仮想線の他方側に配置された第8抵抗体及び第9抵抗体と、を含み、
前記第6抵抗体と前記第7抵抗体は前記周方向の位置が異なり、前記第8抵抗体と前記第9抵抗体は前記周方向の位置が異なり、
前記第6抵抗体と前記第8抵抗体は前記周方向の位置が同じであり、前記第7抵抗体と前記第9抵抗体は前記周方向の位置が同じである、請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項8】
3つ以上の前記抵抗体は、前記仮想線の一方側に配置された第10抵抗体と、前記仮想線の他方側に配置された第11抵抗体と、を含み、
前記第10抵抗体と前記第11抵抗体は、前記周方向の位置が同じであり、
前記第10抵抗体と前記第6抵抗体は、前記第7抵抗体を挟んで対向して配置されており、
前記第11抵抗体と前記第8抵抗体は、前記第9抵抗体を挟んで対向して配置されている、請求項7に記載の転がり軸受。
【請求項9】
3つ以上の前記抵抗体は、前記外輪の外周面又は内輪の内周面を回転軸方向に2分する仮想線の上に配置された第12抵抗体及び第13抵抗体と、
周方向において前記第12抵抗体と前記第13抵抗体の間に位置し、前記仮想線の一方側に配置された第14抵抗体と、前記仮想線の他方側に配置された第15抵抗体と、を含み、
前記第14抵抗体と前記第15抵抗体は、周方向の位置が同じである、請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項10】
前記抵抗体は、Cr、CrN、及びCrNを含む膜から形成されている、請求項2乃至8の何れか一項に記載の転がり軸受。
【請求項11】
ゲージ率が10以上である、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項12】
前記抵抗体に含まれるCrN及びCrNは、20重量%以下である、請求項10に記載の転がり軸受。
【請求項13】
前記CrN及び前記CrN中の前記CrNの割合は、80重量%以上90重量%未満である、請求項12に記載の転がり軸受。
【請求項14】
前記検出素子は、前記外輪の外周面又は前記内輪の内周面において生じるひずみによって生じる磁気変化を検出する検出素子であって、
3つ以上の前記検出素子は、前記外輪又は前記内輪の周方向の位置、並びに前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも2つの検出素子を含む、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項15】
3つ以上の前記検出素子は、グリッド方向を前記周方向に向けて配置されている、請求項14に記載の転がり軸受。
【請求項16】
3つ以上の前記検出素子は、前記周方向及び前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも3つの検出素子を含む、請求項15に記載の転がり軸受。
【請求項17】
前記周方向及び前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも3つの前記検出素子は、前記外輪の外周面又は内輪の内周面を前記回転軸方向に2分する仮想線の上に配置された第1検出素子と、前記第1検出素子の前記周方向の一方側かつ前記仮想線の前記回転軸方向の一方側に配置された第2検出素子と、前記第1検出素子の前記周方向の他方側かつ前記仮想線の前記回転軸方向の他方側に配置された第3検出素子と、を含み、
前記第2検出素子と前記第3検出素子は、前記第1検出素子を挟んで対向して配置されている、請求項16に記載の転がり軸受。
【請求項18】
前記周方向及び前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも3つの前記検出素子は、前記第2検出素子と前記周方向の位置が同じで前記回転軸方向の位置が異なる第4検出素子と、前記第3検出素子と前記周方向の位置が同じで前記回転軸方向の位置が異なる第5検出素子と、をさらに含み、
前記第4検出素子と前記第5検出素子は、前記第1検出素子を挟んで対向して配置されている、請求項17に記載の転がり軸受。
【請求項19】
3つ以上の前記検出素子は、前記外輪の外周面又は内輪の内周面を回転軸方向に2分する仮想線の一方側に配置された第6検出素子及び第7検出素子と、前記仮想線の他方側に配置された第8検出素子及び第9検出素子と、を含み、
前記第6検出素子と前記第7検出素子は前記周方向の位置が異なり、前記第8検出素子と前記第9検出素子は前記周方向の位置が異なり、
前記第6検出素子と前記第8検出素子は前記周方向の位置が同じであり、前記第7検出素子と前記第9検出素子は前記周方向の位置が同じである、請求項15に記載の転がり軸受。
【請求項20】
3つ以上の前記検出素子は、前記仮想線の一方側に配置された第10検出素子と、前記仮想線の他方側に配置された第11検出素子と、を含み、
前記第10検出素子と前記第11検出素子は、前記周方向の位置が同じであり、
前記第10検出素子と前記第6検出素子は、前記第7検出素子を挟んで対向して配置されており、
前記第11検出素子と前記第8検出素子は、前記第9検出素子を挟んで対向して配置されている、請求項19に記載の転がり軸受。
【請求項21】
3つ以上の前記検出素子は、前記外輪の外周面又は内輪の内周面を回転軸方向に2分する仮想線の上に配置された第12検出素子及び第13検出素子と、
周方向において前記第12検出素子と前記第13検出素子の間に位置し、前記仮想線の一方側に配置された第14検出素子と、前記仮想線の他方側に配置された第15検出素子と、を含み、
前記第14検出素子と前記第15検出素子は、周方向の位置が同じである、請求項15に記載の転がり軸受。
【請求項22】
ゲージ率が10以上である、請求項14に記載の転がり軸受。
【請求項23】
前記検出素子は磁性体を含み、
前記検出素子は、前記外輪の外周面又は前記内輪の内周面において生じるひずみによって前記磁性体に圧力が加わったときの前記磁性体の磁化の強さの変化を検出する検出素子である、請求項14乃至22の何れか一項に記載の転がり軸受。
【請求項24】
前記検出素子は、磁性膜で絶縁膜を挟んだ磁気トンネル接合の構造を含んでおり、
前記検出素子は、前記外輪の外周面又は前記内輪の内周面において生じたひずみによって前記構造で発生する磁気変化を検出する検出素子である、請求項14乃至22の何れか一項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
内周側に軌道面を有する外輪と、外周側に軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に介在された転動体と、外輪又は内輪の表面に貼り付け可能なひずみゲージとを備えた転がり軸受が知られている。この転がり軸受は、外輪の軸方向に沿って貼付された2枚のひずみゲージを有している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-249594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の転がり軸受は、回転時の転動体の軌跡を検出できなかった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、回転時の転動体の軌跡を検出可能な転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本転がり軸受は、所定の回転軸を有する外輪と、前記外輪の内周側に前記外輪と同軸状に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置された複数の転動体と、前記外輪又は前記内輪のひずみを検出するひずみゲージと、を有し、前記ひずみゲージは、前記外輪の外周面上又は前記内輪の内周面上に配置された3つ以上の検出素子を有し、3つ以上の前記検出素子は、前記外輪又は前記内輪の周方向の位置、並びに前記回転軸方向の位置が異なる少なくとも2つの検出素子を含む。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、回転時の転動体の軌跡を検出可能な転がり軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る転がり軸受を例示する斜視図である。
図2】第1実施形態に係る転がり軸受を例示する図である。
図3図1におけるひずみゲージ近傍の拡大図である。
図4】転動体の軌跡の検出について説明する図(その1)である。
図5】転動体の軌跡の検出について説明する図(その2)である。
図6】転動体の軌跡の検出について説明する図(その3)である。
図7】第1実施形態に係るひずみゲージの1つの抵抗体近傍の平面図である。
図8】第1実施形態に係るひずみゲージの1つの抵抗体近傍の断面図である。
図9】第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージ近傍の拡大図である。
図10】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージ近傍の拡大図(その1)である。
図11】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージ近傍の拡大図(その2)である。
図12】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージ近傍の拡大図(その3)である。
図13】第2実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の一例を示す平面図および断面図である。
図14】第3実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の一例を示す斜視図、平面図、および断面図である。
図15】第3実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の他の一例を示す斜視図、平面図、および断面図である。
図16】第3実施形態に係るひずみゲージに含まれる検出素子の、更に他の一例を示す斜視図、平面図、および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
[転がり軸受]
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受を例示する斜視図である。図2は、第1実施形態に係る転がり軸受を例示する図であり、図2(a)は正面図、図2(b)は断面図、図2(c)は背面図である。
【0011】
図1及び図2を参照すると、転がり軸受1は、外輪10と、内輪20と、複数の転動体30と、保持器40と、シール51及び52と、ひずみゲージ100とを有する。なお、図2(a)及び図2(c)において、シール51及び52の図示は便宜的に省略されている。
【0012】
外輪10は、回転軸mを中心軸とする円筒形の構造体である。内輪20は、外輪10の内周側に外輪10と同軸状に配置された円筒形の構造体である。複数の転動体30の各々は、外輪10と内輪20との間に形成される軌道70内に配置された球体である。軌道70内にはグリース等の潤滑剤(図示略)が封入される。シール51及び52は、外輪10の内周面から内輪20側に突起し、軌道70を外界から遮断する。
【0013】
外輪10の内周面には、断面が円弧状の凹部11が外輪10の周方向に形成されている。又、内輪20の外周面には、断面が円弧状の凹部21が内輪20の周方向に形成されている。複数の転動体30は、凹部11及び21により周方向に案内される。
【0014】
保持器40は、軌道70内に配置されて複数の転動体30を保持する。具体的には、保持器40は、回転軸mと同軸の環状体であり、回転軸mの方向における一方の側に転動体30を収容するための凹部41を有し、他方の側が環状体の周方向に連続した背面部42となっている。
【0015】
図3は、図1におけるひずみゲージ近傍の拡大図である。図1図3に示すひずみゲージ100は、外輪10又は内輪20のひずみを検出するセンサである。ひずみゲージ100は、3つ以上の検出素子を含んでいる。本実施形態では、ひずみゲージ100は、検出素子として抵抗体を含む抵抗体ひずみゲージである。ひずみゲージ100は基材110上に、受感部となる第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130を有している。本実施形態では、ひずみゲージ100は、外輪10の外周面上に配置されており、外輪10のひずみを第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130の抵抗値の変化として検出する。
【0016】
ひずみゲージ100において、第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130は、各々の長手方向(後述のグリッド方向)を外輪10の周方向に向けて配置されている。外輪10の周方向は回転軸m方向よりも伸縮し易いため、第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130の各々の長手方向を外輪10の周方向に向けて配置することで、大きなひずみ波形を得ることができる。
【0017】
ただし、第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130の各々の長手方向を回転軸m方向に向けて配置しても十分なひずみ波形が得られる場合は、そのような配置としてもよい。
【0018】
図1及び図3において、CLは、外輪10の外周面を回転軸m方向に2分する仮想線であり、外輪10の外周面のセンターラインを示している。第1抵抗体130は、センターラインCL上に配置されている。第1抵抗体130は、例えば、グリッド幅方向(後述)の中心がセンターラインCLと一致するように配置することができる。
【0019】
第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130は、周方向の位置及び回転軸m方向の位置が異なる。第2抵抗体130は、第1抵抗体130の周方向の一方側かつセンターラインCLの回転軸m方向の一方側に配置されている。第3抵抗体130は、第1抵抗体130の周方向の他方側かつセンターラインCLの回転軸m方向の他方側に配置されている。なお、各抵抗体の位置とは、平面視で基材110の抵抗体が形成されている領域(以降、抵抗体形成領域とする)の重心の位置を指すものとする。
【0020】
第2抵抗体130と第3抵抗体130は、第1抵抗体130を挟んで、センターラインCLに対して斜めとなる方向に、対向して配置されている。ここで、第2抵抗体130と第3抵抗体130が第1抵抗体130を挟んで対向して配置されるとは、平面視で、第2抵抗体130の抵抗体形成領域の重心と第3抵抗体130の抵抗体形成領域の重心とを結ぶ直線が、第1抵抗体130の何れかの部分を通過することである。
【0021】
第1抵抗体130と第2抵抗体130の外輪10の周方向の距離と、第1抵抗体130と第3抵抗体130の外輪10の周方向の距離とは、例えば、等しい。第1抵抗体130と第2抵抗体130の回転軸m方向の距離と、第1抵抗体130と第3抵抗体130の回転軸m方向の距離とは、例えば、等しい。なお、各抵抗体間の距離とは、平面視で各抵抗体の抵抗体形成領域の重心の間の距離を指すものとする。
【0022】
ひずみゲージ100において、第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130図3のような配置とすることで、一周期内における転動体30の周方向の出力変動と回転軸m方向の出力変動の検出が可能となるため、回転時における転動体30の軌跡を検出できる。
【0023】
例えば、図4及び図5のような軌跡の場合、第1抵抗体130の出力に対して第2抵抗体130及び第3抵抗体130の出力が小さくなるので、その比率により、回転時における転動体30の軌跡を検出できる。図4の軌跡よりも図5の軌跡の方が、第1抵抗体130の出力に対する第2抵抗体130及び第3抵抗体130の出力がより小さくなるので、両者を区別できる。
【0024】
また、図6のような軌跡の場合は、第1抵抗体130の出力は図4及び図5の場合と同じであるが、第2抵抗体130及び第3抵抗体130の出力はほぼゼロとなる。この場合、図4とは反対に傾斜する軌跡であることを検出できる。また、第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130の出力を継続的に監視することで、転動体30の軌跡の変化を知ることができる。
【0025】
このように、転がり軸受1では、ひずみゲージ100の出力に基づいて回転時における転動体30の軌跡を検出できるため、転動体30の回転数や予圧に加えて転動体30の軌跡を考慮した寿命予測が可能となる。すなわち、ひずみゲージ100の出力に基づいて、転動体30の回転時の現象を正確に把握可能となり、より精度の高い寿命予測ができる。また、転がり軸受1を使用する様々な製品についても、余寿命診断が可能となる。特に各抵抗体に後述のCr混相膜を用いる場合、Cr混相膜はゲージ率が10以上で高感度であり、小さい変位を検出できるため、転動体30の軌跡を精度良く検出できる。
【0026】
以下、ひずみゲージ100について詳説する。なお、特に区別する必要がない場合は、第1抵抗体130、第2抵抗体130、及び第3抵抗体130を抵抗体130と総称する場合がある。
【0027】
図7は、第1実施形態に係るひずみゲージの1つの抵抗体近傍の平面図である。図8は、第1実施形態に係るひずみゲージの1つの抵抗体近傍の断面図であり、図7のA-A線に沿う断面を示している。図3図7、及び図8を参照すると、ひずみゲージ100は、抵抗体130、配線140、電極150、及びカバー層160を含む組を3組有しており、これらは1つの基材110上に配置されている。ただし、図3とは異なり、1つの基材110上に抵抗体130、配線140、電極150、及びカバー層160を含む組を1組有するひずみゲージを、外輪10の外周面上に3つ配置してもよい。なお、図7では、便宜上、カバー層160の外縁のみを破線で示している。カバー層160は、必要に応じて設ければよい。
【0028】
なお、図7及び図8では、便宜上、ひずみゲージ100において、基材110の抵抗体130が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体130が設けられていない側を下側又は他方の側とする。また、各部位の抵抗体130が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体130が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。ただし、ひずみゲージ100は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。また、平面視とは対象物を基材110の上面110aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材110の上面110aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0029】
基材110は、抵抗体130等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材110の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材110の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材110の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0030】
基材110は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0031】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材110が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材110は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0032】
基材110の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO、ZrO(YSZも含む)、Si、Si、Al(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO、BaTiO)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。また、基材110の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材110上に、例えば、絶縁膜が形成される。
【0033】
抵抗体130は、基材110上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体130は、基材110の上面110aに直接形成されてもよいし、基材110の上面110aに他の層を介して形成されてもよい。なお、図7では、便宜上、抵抗体130を濃い梨地模様で示している。
【0034】
抵抗体130は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(図7のA-A線の方向(周方向))に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(図7ではA-A線と垂直な方向(回転軸m方向))となる。
【0035】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e及び130eを形成する。抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e及び130eは、配線140を介して、電極150と電気的に接続されている。言い換えれば、配線140は、抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e及び130eと各々の電極150とを電気的に接続している。
【0036】
抵抗体130は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体130は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0037】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、CrN等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0038】
抵抗体130の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体130の厚さが0.1μm以上であると、抵抗体130を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。また、抵抗体130の厚さが1μm以下であると、抵抗体130を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材110からの反りを低減できる点で更に好ましい。抵抗体130の幅は、抵抗値や横感度等の要求仕様に対して最適化し、かつ断線対策も考慮して、例えば、10μm~100μm程度とすることができる。
【0039】
例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、抵抗体130がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体130はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0040】
また、抵抗体130がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0041】
また、CrN及びCrN中のCrNの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCrN中のCrNの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCrNにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0042】
一方で、膜中に微量のNもしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0043】
配線140は、基材110上に形成され、抵抗体130及び電極150と電気的に接続されている。配線140は、第1金属層141と、第1金属層141の上面に積層された第2金属層142とを有している。配線140は直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線140は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、図7では、便宜上、配線140及び電極150を抵抗体130よりも薄い梨地模様で示している。
【0044】
電極150は、基材110上に形成され、配線140を介して抵抗体130と電気的に接続されており、例えば、配線140よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極150は、ひずみにより生じる抵抗体130の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。
【0045】
電極150は、一対の第1金属層151と、各々の第1金属層151の上面に積層された第2金属層152とを有している。第1金属層151は、配線140の第1金属層141を介して抵抗体130の終端130e及び130eと電気的に接続されている。第1金属層151は、平面視において、略矩形状に形成されている。第1金属層151は、配線140と同じ幅に形成しても構わない。
【0046】
なお、抵抗体130と第1金属層141と第1金属層151とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、抵抗体130と第1金属層141と第1金属層151とは、厚さが略同一である。また、第2金属層142と第2金属層152とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、第2金属層142と第2金属層152とは、厚さが略同一である。
【0047】
第2金属層142及び152は、抵抗体130(第1金属層141及び151)よりも低抵抗の材料から形成されている。第2金属層142及び152の材料は、抵抗体130よりも低抵抗の材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、第2金属層142及び152の材料として、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。第2金属層142及び152の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、3μm~5μm程度とすることができる。
【0048】
第2金属層142及び152は、第1金属層141及び151の上面の一部に形成されてもよいし、第1金属層141及び151の上面の全体に形成されてもよい。第2金属層152の上面に、更に他の1層以上の金属層を積層してもよい。例えば、第2金属層152を銅層とし、銅層の上面に金層を積層してもよい。あるいは、第2金属層152を銅層とし、銅層の上面にパラジウム層と金層を順次積層してもよい。電極150の最上層を金層とすることで、電極150のはんだ濡れ性を向上できる。
【0049】
このように、配線140は、抵抗体130と同一材料からなる第1金属層141上に第2金属層142が積層された構造である。そのため、配線140は抵抗体130よりも抵抗が低くなるため、配線140が抵抗体として機能してしまうことを抑制できる。その結果、抵抗体130によるひずみ検出精度を向上できる。
【0050】
言い換えれば、抵抗体130よりも低抵抗な配線140を設けることで、ひずみゲージ100の実質的な受感部を抵抗体130が形成された局所領域に制限できる。そのため、抵抗体130によるひずみ検出精度を向上できる。
【0051】
特に、抵抗体130としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージにおいて、配線140を抵抗体130よりも低抵抗化して実質的な受感部を抵抗体130が形成された局所領域に制限することは、ひずみ検出精度の向上に顕著な効果を発揮する。また、配線140を抵抗体130よりも低抵抗化することは、横感度を低減する効果も奏する。
【0052】
なお、配線140の引き回しパターンや、各電極150の位置は、適宜設定できる。例えば、各抵抗体に接続される電極150を所定の位置に一列に並べてもよい。
【0053】
カバー層160は、基材110上に形成され、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出する。配線140の一部は、カバー層160から露出してもよい。抵抗体130及び配線140を被覆するカバー層160を設けることで、抵抗体130及び配線140に機械的な損傷等が生じることを防止できる。また、カバー層160を設けることで、抵抗体130及び配線140を湿気等から保護できる。なお、カバー層160は、電極150を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0054】
カバー層160は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成できる。カバー層160は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層160の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0055】
ひずみゲージ100を製造するためには、まず、基材110を準備し、基材110の上面110aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体130、第1金属層141、及び第1金属層151となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体130、第1金属層141、及び第1金属層151の材料や厚さと同様である。
【0056】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0057】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層Aを成膜する前に、下地層として、基材110の上面110aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により所定の膜厚の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0058】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体130)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材110に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能や、基材110と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0059】
基材110を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層AがCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層Aの酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0060】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層A(抵抗体130)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0061】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。また、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si、TiO、Ta、SiO等が挙げられる。
【0062】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0063】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0064】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0065】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0066】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0067】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0068】
なお、機能層の平面形状は、例えば、図7に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。あるいは、機能層は、基材110の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0069】
また、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材110側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ100において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0070】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材110の上面110aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0071】
ただし、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材110の上面110aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0072】
機能層の材料と金属層Aの材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層Aとしてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0073】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層Aを成膜できる。あるいは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層Aを成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCrNの割合、並びにCrN及びCrN中のCrNの割合を調整できる。
【0074】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。また、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0075】
なお、金属層AがCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層Aの結晶成長を促進する機能、基材110に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び基材110と金属層Aとの密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0076】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製できる。その結果、ひずみゲージ100において、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ100において、ゲージ特性を向上できる。
【0077】
次に、金属層Aの上面に、第2金属層142及び第2金属層152を形成する。第2金属層142及び第2金属層152は、例えば、フォトリソグラフィ法により形成できる。
【0078】
具体的には、まず、金属層Aの上面を覆うように、例えば、スパッタ法や無電解めっき法等により、シード層を形成する。次に、シード層の上面の全面に感光性のレジストを形成し、露光及び現像して第2金属層142及び第2金属層152を形成する領域を露出する開口部を形成する。このとき、レジストの開口部の形状を調整することで、第2金属層142のパターンを任意の形状とすることができる。レジストとしては、例えば、ドライフィルムレジスト等を用いることができる。
【0079】
次に、例えば、シード層を給電経路とする電解めっき法により、開口部内に露出するシード層上に第2金属層142及び第2金属層152を形成する。電解めっき法は、タクトが高く、かつ、第2金属層142及び第2金属層152として低応力の電解めっき層を形成できる点で好適である。膜厚の厚い電解めっき層を低応力とすることで、ひずみゲージ100に反りが生じることを防止できる。なお、第2金属層142及び第2金属層152は無電解めっき法により形成してもよい。
【0080】
次に、レジストを除去する。レジストは、例えば、レジストの材料を溶解可能な溶液に浸漬することで除去できる。
【0081】
次に、シード層の上面の全面に感光性のレジストを形成し、露光及び現像して、図7の抵抗体130、配線140、及び電極150と同様の平面形状にパターニングする。レジストとしては、例えば、ドライフィルムレジスト等を用いることができる。そして、レジストをエッチングマスクとし、レジストから露出する金属層A及びシード層を除去し、図7の平面形状の抵抗体130、配線140、及び電極150を形成する。
【0082】
例えば、ウェットエッチングにより、金属層A及びシード層の不要な部分を除去できる。金属層Aの下層に機能層が形成されている場合には、エッチングによって機能層は抵抗体130、配線140、及び電極150と同様に図7に示す平面形状にパターニングされる。なお、この時点では、抵抗体130、第1金属層141、及び第1金属層151上にシード層が形成されている。
【0083】
次に、第2金属層142及び第2金属層152をエッチングマスクとし、第2金属層142及び第2金属層152から露出する不要なシード層を除去することで、第2金属層142及び第2金属層152が形成される。なお、第2金属層142及び第2金属層152の直下のシード層は残存する。例えば、シード層がエッチングされ、機能層、抵抗体130、配線140、及び電極150がエッチングされないエッチング液を用いたウェットエッチングにより、不要なシード層を除去できる。
【0084】
その後、必要に応じ、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するカバー層160を設けることで、ひずみゲージ100が完成する。カバー層160は、例えば、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層160は、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0085】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、第1実施形態とは抵抗体の配置が異なるひずみゲージの例を示す。なお、第1実施形態の変形例1において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0086】
図9は、第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージ近傍の拡大図である。図9を参照すると、ひずみゲージ100Aは、第4抵抗体130及び第5抵抗体130が追加された点が、ひずみゲージ100と相違する。第4抵抗体130及び第5抵抗体130は、グリッド方向を外輪10の周方向に向けて配置されている。
【0087】
第4抵抗体130は、第2抵抗体130と周方向の位置が同じで回転軸m方向の位置が異なる。第5抵抗体130は、第3抵抗体130と周方向の位置が同じで回転軸m方向の位置が異なる。つまり、第4抵抗体130と第5抵抗体130は、周方向及び回転軸m方向の位置が異なる。第4抵抗体130と第5抵抗体130は、センターラインCLに対して斜めとなる方向に、第1抵抗体130を挟んで対向して配置されている。
【0088】
このように、第4抵抗体130及び第5抵抗体130が追加されたことで、図6に示す転動体30の軌跡の場合に第4抵抗体130及び第5抵抗体130から出力が得られるため、転動体30の軌跡の検出精度を向上できる。
【0089】
〈第1実施形態の変形例2〉
第1実施形態の変形例2では、抵抗体の配置のバリエーションを示す。なお、第1実施形態の変形例2において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0090】
本発明に係る転がり軸受において、ひずみゲージは3つ以上の抵抗体を有し、3つ以上の抵抗体が、外輪の周方向及び外輪の回転軸方向の位置が異なる少なくとも2つの抵抗体を含む構成であればよい。このような構成によれば、転動体30の軌跡を検出できる。以下、このような構成の例を示すが、下記の例には限定されない。
【0091】
図10は、第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージ近傍の拡大図(その1)である。図10を参照すると、ひずみゲージ100Bは、基材110上に配置された第6抵抗体130、第7抵抗体130、第8抵抗体130、及び第9抵抗体130を有する。第6抵抗体130、第7抵抗体130、第8抵抗体130、及び第9抵抗体130は、グリッド方向を外輪10の周方向に向けて配置されている。
【0092】
第6抵抗体130及び第7抵抗体130は、センターラインCLの一方側に配置されている。第8抵抗体130及び第9抵抗体130は、センターラインCLの他方側に配置されている。第6抵抗体130と第7抵抗体130は周方向の位置が異なり、第8抵抗体130と第9抵抗体130は周方向の位置が異なる。第6抵抗体130と第8抵抗体130は周方向の位置が同じであり、第7抵抗体130と第9抵抗体130は周方向の位置が同じである。
【0093】
ひずみゲージ100Bでは、第6抵抗体130、第7抵抗体130、第8抵抗体130、及び第9抵抗体130の出力がほぼ同じであれば、転動体30が図5の軌跡であることを検出できる。また、第6抵抗体130の出力が第8抵抗体130の出力より大きく、第9抵抗体130の出力が第7抵抗体130の出力より大きければ、転動体30が図4の軌跡であることを検出できる。また、第6抵抗体130の出力が第8抵抗体130の出力より小さく、第9抵抗体130の出力が第7抵抗体130の出力より小さければ、転動体30が図6の軌跡であることを検出できる。
【0094】
なお、第6抵抗体130と第8抵抗体130との間隔、及び第7抵抗体130と第9抵抗体130との間隔が狭いほど、転動体30が図5の軌跡である場合の各抵抗体からの出力を大きくできる。
【0095】
図11は、第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージ近傍の拡大図(その2)である。図11を参照すると、ひずみゲージ100Cは、第10抵抗体13010及び第11抵抗体13011が追加された点が、ひずみゲージ100Bと相違する。第10抵抗体13010及び第11抵抗体13011は、グリッド方向を外輪10の周方向に向けて配置されている。
【0096】
第10抵抗体13010はセンターラインCLの一方側に配置され、第11抵抗体13011はセンターラインCLの他方側に配置されている。第10抵抗体13010と第11抵抗体13011は、周方向の位置が同じである。第10抵抗体13010と第6抵抗体130は、センターラインCLに対して平行方向に、第7抵抗体130を挟んで対向して配置されている。また、第11抵抗体13011と第8抵抗体130は、センターラインCLに対して平行方向に、第9抵抗体130を挟んで対向して配置されている。
【0097】
このように、第10抵抗体13010及び第11抵抗体13011が追加されたことで、図4図6に示すいずれの転動体30の軌跡の場合にも第10抵抗体13010及び第11抵抗体13011から出力が得られるため、転動体30の軌跡の検出精度を向上できる。
【0098】
図12は、第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージ近傍の拡大図(その3)である。図12を参照すると、ひずみゲージ100Dは、基材110上に配置された第12抵抗体13012、第13抵抗体13013、第14抵抗体13014、及び第15抵抗体13015を有する。第12抵抗体13012、第13抵抗体13013、第14抵抗体13014、及び第15抵抗体13015は、グリッド方向を外輪10の周方向に向けて配置されている。
【0099】
第12抵抗体13012及び第13抵抗体13013は、センターラインCL上に配置されている。第12抵抗体13012及び第13抵抗体13013は、例えば、グリッド幅方向の中心がセンターラインCLと一致するように配置することができる。
【0100】
第14抵抗体13014は、周方向において第12抵抗体13012と第13抵抗体13013の間に位置し、センターラインCLの一方側に配置されている。第15抵抗体13015は、周方向において第12抵抗体13012と第13抵抗体13013の間に位置し、センターラインCLの他方側に配置されている。第14抵抗体13014と第15抵抗体13015は周方向の位置が同じである。
【0101】
ひずみゲージ100Dでは、第12抵抗体13012と第13抵抗体13013の出力レベルから、転動体30が図5の軌跡であることを検出できる。また、第12抵抗体13012と第15抵抗体13015や、第13抵抗体13013と第14抵抗体13014が同程度の出力であれば、転動体30が図4の軌跡であることを検出できる。また、第12抵抗体13012と第14抵抗体13014や、第13抵抗体13013と第15抵抗体13015が同程度の出力であれば、転動体30が図6の軌跡であることを検出できる。
【0102】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0103】
例えば、上記の実施形態等では、外輪の外周面上にひずみゲージを配置して外輪のひずみを検出する例を示したが、内輪の内周面上にひずみゲージを配置して内輪の内周面のひずみを検出してもよい。この場合も、各抵抗体を図3等の配置とすることで、転動体30の軌跡を検出できる。
【0104】
このように、第1実施形態およびその変形例では、ひずみゲージ100の検出素子として、抵抗体を用いる例について説明した。すなわち、第1実施形態では、ひずみゲージ100が所謂「抵抗体ひずみゲージ」である場合について説明した。しかしながら、本開示に係るひずみゲージ100は抵抗体ひずみゲージに限定されない。例えば、ひずみゲージ100は、外輪の外周面又は内輪の内周面において生じるひずみによって生じる磁気変化を検出する3つ以上の検出素子を含むひずみゲージであってもよい。
【0105】
具体的には、ひずみゲージ100は、ビラリ現象(後述)を利用した検出素子を含んだひずみゲージであってもよい。また、ひずみゲージ100は、磁気トンネル接合(後述)の構造を有する検出素子を含んだひずみゲージであってもよい。以下、第2実施形態では、ビラリ現象を利用した検出素子を含むひずみゲージ100について説明する。また、第3実施形態では、磁気トンネル接合の構造を有する検出素子を含んだひずみゲージ100について説明する。
【0106】
〈第2実施形態〉
図13は、第2実施形態に係るひずみゲージ100に含まれる検出素子300の一例を示す図である。図13の(a)は、検出素子300を図1の抵抗体130、130、および130のように基材110に貼り付けたときの、上面(すなわち、貼付け面と反対の面)から見下ろした平面図である。一方、図13の(b)は、図13の(a)に示す検出素子300の、α―α´面における断面図を示している。なお、図13のいずれの図も、検出素子300の配線は図示していない。しかしながら、検出素子300は、後述する駆動コイル320と電源とを接続する配線と、感知コイル380によって検出された電流を伝達するための配線も有していてよい。
【0107】
図13の(a)に示す通り、検出素子300は、駆動コイル320と、感知コイル380と、ベース層310とを含む。感知コイル380は、ベース層310を芯材とするコイルである。また、駆動コイル320は、ベース層310を芯材としたコイルであって、感知コイルの外側に巻かれたコイルである。このように、駆動コイル320および感知コイル380は、駆動コイル320が外側、感知コイル380が内側に配置された2重構造を形成している。このように、感知コイル380を駆動コイル320の内側に巻くことで、感知コイル380全体に均一に交番磁界(後述)を加えることができる。これにより、検出素子300の性能が向上する。
【0108】
駆動コイル320は、磁界を発生させるためのコイルである。電源から駆動コイル320に交流電流が供給されると、駆動コイル320はその周囲に交番磁界を生じさせる。ベース層310は、略平板状の金属板(後述するベース金属370)を絶縁層(後述する絶縁層360)で覆ったものである。ベース層310の金属板は、検出素子300における磁性体である。ベース層310の金属板は駆動コイル320が発生させた交番磁界によって磁化される。感知コイル380は、ベース金属370の磁化の強さを検出するためのコイルである。駆動コイル320および感知コイル380の材質は、Cu、Ag、Al、およびAu等の導電性金属、ならびに、これらの金属の合金であることが望ましい。なお、駆動コイル320および感知コイル380の巻き数および断面積の大きさは、検出素子300に要求されるひずみの検知感度に応じて適宜設計されてよい。
【0109】
図13の(b)の断面図を参照して、検出素子300について更に詳述する。なお、以下説明する層340~360は、芯材であるベース金属370に巻き付けられや構造である。したがって、図13の(b)において、同じ部材番号を付した層はベース金属370を取り囲んで繋がっているといえる。
【0110】
検出素子300は、前述の通り、ベース層310に感知コイル380および駆動コイル320が巻き付けられた構造をしている。ベース層310はベース金属370を絶縁層360が覆った構造をしている。絶縁層360を取り囲むように、絶縁層350が形成されている。絶縁層350は、感知コイル380を含む層であり、感知コイル380の間隙を絶縁材料で充填した層である。更に絶縁層350を取り囲むように、絶縁層340が形成される。絶縁層340は、駆動コイル320を含む層であり、駆動コイル320の間隙を絶縁材料で充填した層である。
【0111】
なお、ベース金属370は、例えば、センダスト等のFe-Si-Al系合金、および、パーマロイ等のNi-Fe系合金等の軟磁性体材料で構成されることが望ましい。また、絶縁層340、350,および360は、磁界に影響しないドライフィルムまたは感光性ポリイミド等のレジスト硬化物であることが望ましい。
【0112】
図13の(b)の断面図が示す通り、検出素子300の貼り付け面側は、基材110に貼り付けられる。なお、検出素子300は、全体として平板または薄膜状の検出素子であってもよい。検出素子300が平板または薄膜状である場合、基材110へより容易に貼り付けることができる。
【0113】
以上、本実施形態に係る検出素子300は、磁性体であるベース金属370を含んでいる。駆動コイル320に電流が流れると磁界が発生し、ベース金属370は磁化される。この状態で転がり軸受け1の外輪10の外周面、又は、内輪20の内周面においてひずみが生じると、ひずみは基材110を伝わり、ベース金属370に応力が加わる。ベース金属370に応力が加わると、その応力に応じて、ベース金属370の透磁率が変化し、磁化の強さが変化する。このように、磁性体に応力がかかることによって、磁性体の透磁率および磁化の強さが変化する現象のことを「ビラリ現象」という。検出素子300の構成によれば、ピックアップコイルである感知コイル380には、ベース金属370の磁化の強さに応じた交流電圧が誘起される。したがって、ビラリ現象の原理に基づけば、この交流電圧の値から、ベース金属370にかかる応力(すなわち、基材110のひずみ度合)を算出することができる。なお、図13の(a)に示した例の場合、検出素子300のグリッド方向は、同図におけるα-α´方向である。
【0114】
このような原理によって、検出素子300は、基材110が受けたひずみを検出することができる。すなわち、検出素子300は、ひずみゲージ100の検出素子として機能する。
【0115】
本実施形態に係るひずみゲージ100は、以上で説明したような検出素子300を3つ以上含んでいる。そして、そのうち少なくとも2つの検出素子300は、外輪10又は内輪20の周方向における位置、並びに前記回転軸方向における位置が異なるように配置される。したがって、本実施形態によれば、回転時の転動体の軌跡を検出可能な転がり軸受1を提供することができる。
【0116】
また、本実施形態に係るひずみゲージ100の検出素子300は、第1実施形態、第1実施形態の変形例1、および、第1実施形態の変形例2に示したあらゆる配置位置で配置可能である。すなわち、第1実施形態に係る抵抗体130(抵抗体130~13015)を検出素子300に置き換えた配置とすることが可能である。これにより、ビラリ現象を利用した検出素子300を用いて、抵抗体ひずみゲージを用いたときと同様に転動体の軌跡を検出することができる。したがって、本実施形態に係るひずみゲージ100は、第1実施形態および第1実施形態の変形例1および2に係るひずみゲージ100と同様の効果を奏する。
【0117】
〈第3実施形態〉
図14は、第3実施形態に係るひずみゲージ100に含まれる検出素子500の一例を示す図である。図15は、第3実施形態に係る検出素子の他の一例を示す図である。また、図16は、第3実施形態に係る検出素子の更に他の一例を示す図である。図14~16の(a)はそれぞれ、検出素子500、600、および700の斜視図である。図14~16の(b)はそれぞれ、検出素子500、600、および700をz軸の負方向に見おろしたときの平面図である。図14~16の(c)は、検出素子500、600、および700の、zy平面に平行な面での断面図である。なお、検出素子500、600、および700の、外輪10または内輪20への貼り付け面は、下側(z軸の負の方向)の平面(xy平面に平行な面)である。なお、図14~16のいずれの図も、検出素子の配線は図示していない。しかしながら、これらの検出素子500、600、および700は、後述する上流電極510と電源とを接続する配線と、下流電極520と電源とを接続する配線を有していてよい。
【0118】
図14の(a)に示す通り、検出素子500、600、および700は、上流電極510と、下流電極520と、磁性膜530と、絶縁膜540と、を含む。絶縁膜540は、図示のように磁性膜530で挟まれている。この磁性膜530と絶縁膜540によって、磁気トンネル接合が形成される。すなわち、検出素子500は、磁気トンネル接合の構造に電極を接続した構造である。
【0119】
以降の説明では、z軸における正方向を「上側」、z軸における負方向を「下側」とも称する。なお、上流電極510および/または下流電極520の更に下側には、プラスチックフィルム等で構成されるフレキシブル基板が設けられていてもよい。なお、当該基板は基材110を兼ねていてもよい。
【0120】
磁性膜530は磁性ナノ薄膜である。絶縁膜540は絶縁体のナノ薄膜である。磁気トンネル接合の構造が形成可能であれば、磁性膜530と、絶縁膜540の材質は特に限定されない。例えば、磁性膜530としてコバルト鉄ボロン、または、Fe、Co、Niなどの3d遷移金属強磁性体及びそれらを含む合金等を用いることができる。また、絶縁膜540として、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムや酸化マグネシウム等を用いることができる。
【0121】
上流電極510および下流電極520は、磁気トンネル接合の構造に対し電圧を印加するための電極である。図14~16の例では、電流は上流電極510から下流電極520へと流れる。例えば図14の(c)の場合、上流電極510と下流電極520の間に電圧を印加すると、電子は上側の磁性膜530から、絶縁膜540を超えて下側の磁性膜530に流れ込む。これは「トンネル効果」と呼ばれている現象であり、電子が絶縁膜540を通過するときの電気抵抗は、「トンネル抵抗」と呼ばれている。なお、図14~16の例では、電極の各部の接合部は、磁気トンネル接合の構造をショートパスする電流が流れない様に端部が処理された構造となっている。
【0122】
ところで、基材110等を介して検出素子500にひずみがかかると、トンネル接合の構造において、磁気変化が起こる。より具体的には、上側と下側の磁性膜530の磁化方向がずれる。このように、上下の磁性膜530の磁化方向がずれると、磁化方向が平行な場合に比べて、トンネル抵抗が大きくなる(トンネル磁気抵抗効果)。したがって、前述の構成を備えた検出素子500では、検出素子500(より厳密には、磁気トンネル接合の部分)のひずみの大きさに応じて、電極間を流れる電流が小さくなる。すなわち、ひずみが大きくなるにつれ、電気抵抗が大きくなる。検出素子500は、このように、印加した電圧に対する電流値に基づきひずみを検出することができる。したがって、検出素子500を転がり軸受1の外輪10または内輪20に貼り付けることによって、軸受にかかるひずみを測定することができる。
【0123】
磁気トンネル接合の構造を有する検出素子は、図14に示した例に限定されない。例えば、図15および図16に示すような検出素子600および700を採用することも可能である。図15に示す検出素子600も、図16に示す検出素子700も、上流電極510、下流電極520、磁性膜530、および絶縁膜540で構成されること、および、これらの構成によってひずみを検出する原理については、検出素子500と同様である。また、検出素子600および700の基本的な動作についても、検出素子500と同様である。なお、検出素子500、600、および700のグリッド方向は、それぞれ図14図16におけるy軸方向(y軸の正方向およびy軸の負方向)に相当する。図15に示す検出素子600は図示の通り、上側の磁性膜530と下側の磁性膜530が、一部繋がった構造をしている。すなわち、磁性膜530の一部の領域においてのみ、磁気トンネル接合の構造が形成されており、当該構造においてトンネル磁気抵抗効果が生じる。一方、図16に示す検出素子700は、基板710を介して基材110に貼り付けられる。図14図16に示すように、検出素子は前述の原理を超えない範囲であれば、要求されるサイズ、耐久性、および検出すべき応力の大きさ等に応じて、適宜その設計が変更されてよい。
【0124】
なお、検出素子500、600、および700は素子全体として、フィルム型などの略平板状の形状であってよい。これにより、基材110に、検出素子500を容易に貼り付けることができる。また、検出素子500、600、および700は、駆動コイル等、磁気トンネル接合の構造部分に対して、微弱な磁界を印加するための構造を有していてもよい。磁気トンネル接合の構造部分に対して磁界を印加することにより、前述のトンネル磁気抵抗効果をより安定して測定することができるため、安定してひずみを検出することができる。
【0125】
また、検出素子500、600、および700における「上流電極」および「下流電極」は便宜上の名称であり、電流の流れる方向は逆であってもよい。つまり、図14図16で示した検出素子500、600、および700において、下流電極520の方から、上流電極510の方へと電流が流れる設計であってもよい。
【0126】
本実施形態に係るひずみゲージ100は、以上で説明したような検出素子500を3つ以上、600を3つ以上、または700を3つ以上含んでいる。そして、そのうち少なくとも2つの検出素子500、600、または700は、外輪10又は内輪20の周方向における位置、並びに前記回転軸方向における位置が異なるように配置される。したがって、本実施形態によれば、回転時の転動体の軌跡を検出可能な転がり軸受1を提供することができる。
【0127】
また、本実施形態に係るひずみゲージ100の検出素子500、600、および700は、それぞれ、第1実施形態、第1実施形態の変形例1、および、第1実施形態の変形例2に示したあらゆる配置位置で配置可能である。すなわち、第1実施形態に係る抵抗体130(抵抗体130~13015)のセットを、検出素子500、600、または700のセットに置き換えた配置とすることが可能である。これにより、磁気トンネル効果を利用した検出素子500、600、および700を用いて、抵抗体ひずみゲージ100を用いたときと同様に転動体の軌跡を検出することができる。したがって、本実施形態に係るひずみゲージ100は、第1実施形態および第1実施形態の変形例1および変形例2に係るひずみゲージ100と同様の効果を奏する。
【0128】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0129】
例えば、上記の実施形態等では、外輪の外周面上にひずみゲージを配置して外輪のひずみを検出する例を示したが、内輪の内周面上にひずみゲージを配置して内輪の内周面のひずみを検出してもよい。この場合も、各抵抗体を図3等の配置とすることで、転動体30の軌跡を検出できる。
【0130】
本国際出願は2021年7月2日に出願した日本国特許出願2021-111064号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2021-111064号の全内容を本国際出願に援用する。
【符号の説明】
【0131】
1 転がり軸受、10 外輪、11、21、41 凹部、20 内輪、30 転動体、40 保持器、42 背面部、51、52 シール、60 ハウジング、70 軌道、100、100A、100B、100C、100D ひずみゲージ、110 基材、110a 上面、130 第1抵抗体(検出素子)
、130 第2抵抗体(検出素子)、130 第3抵抗体(検出素子)、130 第4抵抗体(検出素子)、130 第5抵抗体(検出素子)、130 第6抵抗体(検出素子)、130 第7抵抗体(検出素子)、130 第8抵抗体(検出素子)、130 第9抵抗体(検出素子)、13010 第10抵抗体(検出素子)、13011 第11抵抗体(検出素子)、13012 第12抵抗体(検出素子)、13013 第13抵抗体(検出素子)、13014 第14抵抗体(検出素子)、13015 第15抵抗体(検出素子)、130e、130e 終端、140 配線、141、151 第1金属層、142、152 第2金属層、150 電極、160 カバー層、300、500、600、700 検出素子、310 ベース層、 320 駆動コイル、340、350、360 絶縁層、370 ベース金属、380 感知コイル、510 上流電極、520 下流電極、530 磁性膜、540 絶縁膜、710 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
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図16