(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】姿勢再現自立型または姿勢変更自立型の人体型ダミー
(51)【国際特許分類】
G09B 23/28 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
G09B23/28
(21)【出願番号】P 2017162194
(22)【出願日】2017-08-25
【審査請求日】2020-07-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度・国立研究開発法人日本医療研究開発機構・事業名:ロボット介護機器開発・導入促進事業・研究開発課題名:安全評価基準・委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】523228509
【氏名又は名称】一般財団法人JASPEC
(72)【発明者】
【氏名】西山 輝之
【審査官】右田 純生
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150186(JP,A)
【文献】特開2013-257287(JP,A)
【文献】特開2009-063984(JP,A)
【文献】特開2014-137504(JP,A)
【文献】実開平05-060358(JP,U)
【文献】実開昭57-042883(JP,U)
【文献】特開2009-082519(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0121570(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00-19/14
G09B 1/00- 9/56
G09B 17/00-19/26
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の各部位の重量と大きさが模擬されている人体型ダミー装置であって、
対象となる前記人体の各部位の重量および大きさを模した各々の部位パーツと、それらを可動に支持接続する関節部と、前記人体の各部位パーツに個別に取り付け可能な付加錘体を備え、
前記各部位パーツが、少なくとも頭部、首部、肩部、上腕部、前腕部、手部、胸部、腹部、脊柱に相当する軸体を含む背中部、腰部、大腿部、下腿部、足部の部位パーツを備えたものであり、
前記肩部付近の動きを再現するために関連する前記関節部として、少なくとも、第1の関節部と、第2の関節部と、第3の関節部を備え、
前記第1の関節部が、前記肩部の部位パーツと前記胸部の部位パーツとの間にある関節部であり、前記胸部の部位パーツにある略垂直方向に垂直軸が配設された円筒シリンダと、その回転軸が略垂直方向で前記円筒シリンダに対して回転可能に配設された前記肩部の部位パーツにある部材とからなり、前記胸部の部位パーツの前記垂直軸に対する前記肩部の部位パーツの相対的摺動または相対的回転により両者がなす角度を変える運動を再現するものであり、
前記第2の関節部が、前記肩部の部位パーツと前記胸部の部位パーツとの間にある関節部であり、前記胸部の部位パーツにある略水平方向に水平軸が配設された円板と、その回転軸が略水平方向で前記胸部の部位パーツの前記円板に対して回転可能に配設された前記肩部の部位パーツにある円板とからなり、2枚の前記円板同士の相対的摺動または相対的回転により両者がなす角度を変える運動を再現するものであり、
前記第3の関節部が、前記肩部の部位パーツ内にある関節部であり、略水平方向に配設された部材と、その回転軸が略水平方向かつ略正面方向に配設された部材とからなり、前者の部材に対する後者の部材の相対的摺動または相対的回転により両者がなす角度を変える運動を再現するものであることを特徴とする人体型ダミー装置。
【請求項2】
前記肩部付近の動きを再現するために関連する前記関節部として、前記第1の関節部、前記第2の関節部、および、前記第3の関節部に加え、第4の関節部を備え、
前記第4の関節部が、前記上腕部の部位パーツにあることを特徴とする請求項1に記載の人体型ダミー装置。
【請求項3】
前記背中部の部位パーツの前記軸体と前記腰部の部位パーツとの接合箇所を、前記腰部の部位パーツの構造体の水平断面の中心に対して後ろ側に偏心させて立設したことを特徴とする請求項1または2に記載の人体型ダミー装置。
【請求項4】
前記付加錘体が、前記軸体より前方側の位置と後方側の位置の両方に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の人体型ダミー装置。
【請求項5】
前記腰部の部位パーツの構造体が前後方向に傾斜を持つ構造を備え、
前記背中部の部位パーツの前記軸体が弓なり構造または弓なりを模して前方に屈曲できる構造を備えたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の人体型ダミー装置。
【請求項6】
前記第1の関節部、前記第2の関節部および前記第3の関節部が、少なくとも2つの相対的摺動または相対的回転をする部材を備え、当該部材同士の基準位置が決まっており、前記相対的摺動または前記相対的回転により当該部材同士の角度が可変となるとともに、人体の重量を模した各々の前記部位パーツ同士を前記相対的摺動させて無段階または複数個の所定角度に固定する前各関節部の調節機構を備えたことを特徴とする
請求項1に記載の人体型ダミー装置。
【請求項7】
前記各関節部の調節機構が、前記基準位置に対する前記相対的摺動または前記相対的回転の角度が複数個の所定角度に調整して固定可能なものであり、
前記各関節部の2つの部材が、中心が同軸上にある板状体であり、前記同軸を回転軸として一方が他方に対して回転するものであり、前記板状体の一方が円周上に22.5度きざみで孔が設けられており、前記板状体の他方が円周上に40度きざみで孔が設けられており、前記板状体の両者の差分により5度きざみで0度から360度まで調整することができる構造であり、
前記各関節部の調節機構が、前記2枚の板状体の前記孔同士のいずれかが重複した位置で前記相対的摺動または前記相対的回転を固定するものであることを特徴とする請求項6に記載の人体型ダミー装置。
【請求項8】
前記胸部の部位パーツと前記腹部の部位パーツとのつなぎ目の箇所に前後方向に屈曲する前記関節部があり、
さらに前記腹部の部位パーツ内の箇所にも前後方向に屈曲する前記関節部が少なくとも1つ設けられていることを特徴とする請求項6に記載の人体型ダミー装置。
【請求項9】
前記各部位パーツに個別に取り付け可能なフレーム体を備え、前記フレーム体を取り付けることにより、人体の外表面の輪郭を概ね再現したことを特徴とする請求項1または2に記載の人体型ダミー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体を対象とした装置類の開発に資するデータを収集するまたは評価する人体型ダミー装置に関する。例えば、高齢者に特有な姿勢を再現したり変更したりできて自立可能な姿勢再現自立型または姿勢変更自立型の人体型ダミーである。ここで、人体を対象とした装置類とは例えば福祉用具、介護機器および介護ロボットなどがある。
【背景技術】
【0002】
近年、既存の福祉用具、介護機器に加え、介護ロボットなど、利用者の介護を支援するロボットや装置類の開発が進んでいる。
近年の高齢化の進展に伴い、介護の現場での人手の確保が問題となっている。そこで、被介護者の歩行、食事、入浴、車いすへの移乗などの生活行為の一部を用具の使用及び機械的に介助・支援することにより、被介護者自らが自立してできる生活行為を増やしたり、介護者が被介護者を介護する際の介護作業を支援したりする用具・機器に加え、ロボットの開発も行われている。これらの中でロボットは介護ロボット、あるいはロボット介護機器と呼ばれることがある。本発明では介護ロボットの用語の意味として、いわゆる人型ロボットに限らず人体を対象とした装置類として広く捉えて述べる。
このように、高齢者人口の増加や介護士の不足に対応するため介護ロボットの開発・導入が進められている。今までは介護ロボットの大部分が介護保険の適用外となっていることから現場での普及は進んでいなかったが、ここ近年、介護ロボットの利用料を介護保険の適用範囲に入れる方針が打ち出されている。
【0003】
ここで、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットは生身の利用者の体への適用を目的とするので、その安全性や有用性は十分に検証されなければならない。つまり、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの開発において、介護ロボットの動きや耐久性などを実証し、評価することが重要となってくる。
福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの動きや耐久性などを客観的に実証し、評価するためには、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの使用を繰り返すことにより、それら福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの開発に資するデータを収集するまたは評価する必要がある。これらデータ収集や評価のために、実際の利用者を想定したモニター利用者を用いて試行することが有効ではあるが、多数の装置の評価のために、同じ利用者を毎回試行に協力させられるとは限らず、膨大な回数にわたり繰り返し操作して評価できるデータもある。これらをすべて生身の同じ利用者をもって福祉用具、介護機器並びに介護ロボットなどを試行することは物理的に無理である。
【0004】
そこで、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの利用者である実際の介護者を模したダミー装置が必要となってくる。
従来から医療や介護の現場で用いられてきた様々なダミー人形が知られている。
【0005】
例えば、
図12に示すような特開2003-255822号公報に開示された救急医療のトレーニング用のダミー人形が知られている。
図12に示すような特開2003-255822号公報に開示された救急医療のトレーニング用のダミー人形は、模擬心電計に表示された心電波形の患者となる施術人形と、心電波形に対応した処置を設定できる処置設定手段と、模擬心電計に表示された心電波形の症状と処置設定手段の設定とを比較する処置比較手段と、処置比較手段の比較結果を出力する手段と、模擬心電計に表示された心電波形の症状と処置設定手段の設定とが合致したとき、模擬除細動の実行を認知する手段を備えた模擬除細動器を備えた救急措置訓練装置が開示されている。
この特開2003-255822号公報に開示された救急医療のトレーニング用のダミー人形は心不全などの救急対応における直流通電法をトレーニングするための人形である。直流通電法は患者が陥った頻脈性不整脈を停止させて心臓を洞調律に復させる救急処置であるが、医療関係者に直流通電法をトレーニングさせる施術人形を伴う救急措置訓練装置が開発されている。
【0006】
次に、例えば、
図13に示すような特開2011-036514号公報に開示された人形および人形の関節構造が知られている。特開2011-036514号公報に開示された人形は、関節の動きを人体の関節の動きに模すことを主眼としたものである。間隙に可動関節を形成する2つの人形構成部位と、連結部材と、連結部材の端部と可動に嵌合する嵌合部材を有した構造を持っている。ここで、各人形構成部位の内部には嵌合部材がそれぞれ配置され、嵌合部材同士が連結部材により連結され、嵌合部材の少なくとも一方は、嵌合部材のある人形構成部位に対して相対的に移動可能となっている。さらに、嵌合部材には、人形構成部位同士が互いに離れる方向に移動した時に反発力を生じさせる反発力発生機構が設けられている。
このように、特開2011-036514号公報に開示された人形は、人体の動き、特に、関節の動きに特徴があるものとなっている。
【0007】
次に、例えば、
図14に示すような特許第4733215号公報に開示された人形が知られている。
図14に示すような特許第4733215号公報に開示された人形は、実質的に等身大の人形部と、人形部の傾斜を測定する傾斜測定器と、人形部を上下方向に可動に支持し、人形部を横抱きしたユーザーに所定の重さを体感させるためのトルクを付与する負荷装置と、負荷装置と人形部とを連結する連結具と、体重値を含む設定情報を入力するための入力部と、表示部と、音声出力部と、制御部を備えた横抱き動作体感装置である。ここで制御部が、人形部の姿勢を制御すると共に入力された体重値に基づき負荷装置に負荷を発生させ、傾斜測定器からの傾斜情報に基づき音声出力部から所定の音声を出力させ、傾斜測定器からの傾斜情報に基づき横抱き動作の評価を表示部に出力することを特徴とする横抱き動作体感装置となっている。加速度測定器を備え、傾斜測定器からの傾斜情報および加速度測定器からの加速度情報に基づき横抱き動作の評価を表示部に出力する機能も開示されている。
この人形は、体感型ゲーム機の一種であり、いわゆる横抱きのシミュレーションに特化したゲーム機用の人形である。
【0008】
【文献】特開2003-255822号公報
【文献】特開2011-036514号公報
【文献】特許第4733215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの動きや耐久性などを客観的に実証・評価するための人体型ダミーについては以下の幾つかの条件が挙げられる。
第1は、人体型ダミーとして、実際の人体の各部位の重量や大きさが模擬されていることである。実際の人体の各部位を模した各部位パーツを備えるため、各部位パーツと、骨格代わりにそれらを支持する軸となる首柱体および背柱体と、それらを可動に接続する関節部などを備えていることが挙げられる。
【0010】
第2は、人体型ダミーにおいて、人体の各部位の重量バランスを再現されていることである。福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの利用者などは足腰の衰弱などで歩行が困難、あるいは自立ができない被介護者などを想定しているが、もともと人体は自立歩行に適したバランスを備えている。そのため、介護ロボットが利用者の体を支持するに際して、そのもともと人体が備えている各部位のバランスが影響するため、人体の各部位の重量バランスを再現する必要がある。
【0011】
第3は、人体型ダミーにおいて、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの利用者などの骨盤後傾並びに円背といった高齢者特有姿勢を正確かつ客観的に再現することである。
福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの利用者は、足腰の衰弱などで歩行が困難、あるいは自立ができない被介護者などを想定しているが、介護を受ける際の姿勢はある程度想定されるため、その介護を受ける姿勢にある利用者が実際にどのように感じるかが重要である。そのため、人体型ダミーを用いて福祉用具、介護機器並びに介護ロボットを正確に評価するためには、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの利用者においてその想定される介護姿勢を正確に再現する必要がある。人体型ダミーの姿勢がまちまちな状態では、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットなどの安全性や有用性を検証するためのデータは客観的に得られない。
【0012】
第4は、人体型ダミーにおいて、自立姿勢を取れることである。
福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの利用者として足腰の衰弱などで歩行が困難、あるいは自立ができない被介護者などが想定されているが、自立できる高齢者でも、ベッドからの立ち上がり、歩行、トイレ内での行動などに介護を必要としている利用者が多数おり、その場合の介護を受ける際の姿勢は腰が曲がりながらも自立しているということは十分に想定できる。そのため、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットを評価する人体型ダミーにおいても支持なく自立姿勢を取れるものが求められるケースも多い。
そこで、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの動きや耐久性などを客観的に実証・評価するため、上記条件を満たす人体型ダミーが必要となってくる。
【0013】
しかし、従来技術において、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットなどの安全性や有用性を検証するために適した人体型ダミーが存在しないのが現状である。
図12に示した上記の特開2003-255822号公報に開示された救急医療のトレーニング用のダミー人形は、心不全などの救急対応における直流通電法をトレーニングするための人形に特化したものであり、施術人形も医療関係者にとって直流通電法のトレーニングに役立つ機能が搭載されているに過ぎない。介護ロボットは利用者に対して救急医療を施すものではなく、目的とする介護支援機能を評価するためには適したものとはなっていない。
人体型ダミーとしての人体の各部位の重量や大きさが模擬されておらず、人体の各部位の重量バランスも再現されておらず、人体型ダミーとして介護を受ける際の姿勢を正確かつ客観的に再現できるものとはなっていない。そのため、この特開2003-255822号公報に開示された救急医療のトレーニング用のダミー人形は、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットなどの安全性や有用性を検証するために適した人体型ダミーには利用できるものではない。
【0014】
次に、
図13に示した上記の特開2011-036514号公報に開示された人形は、関節の動きが人体の関節の動きを模擬できることに特化したものである。人形構成部位同士が嵌合部材と連結部材を介して連結され、人体の関節を模した屈曲動作ができる。しかし、特開2011-036514号公報に開示された人形では関節の模擬はできるものの、関節の曲げ姿勢などを客観化する手段が示されておらず、同じ姿勢を再現できるものとはなっていない。つまり、人体型ダミーとして介護を受ける際の姿勢を正確かつ客観的に再現できるものとはなっていない。また、関節に特化しており、人体型ダミーとして人体の各部位の重量や大きさの模擬や人体の各部位の重量バランスの模擬については言及されていない。また、支持なく自立できるように各部位のバランスを取るための工夫については何も開示されていない。
【0015】
次に、
図14に示した特許第4733215号公報に開示された人形は、体感型ゲーム機の一種として、いわゆる横抱きのシミュレーションに特化したゲーム機用の人形である。女性を横抱きにした場合の大きさや、抱擁者の腕に掛かる重量などを再現したものであるが、特許第4733215号公報に開示された人形は、利用者が介護ロボットによって横抱きされるケースの模擬はある程度できるかもしれないが、関節の曲げ姿勢などを客観化する手段が示されておらず、同じ姿勢を再現できるものとはなっていない。また、横抱き以外の姿勢については何も開示されていない。つまり、人体型ダミーとして介護を受ける際に様々想定し得る姿勢を正確かつ客観的に再現できるものとはなっていない。また、横抱きが想定であるので、自立することは全く想定されていない。つまり、特許第4733215号公報には、人形が支持なく自立できるように各部位のバランスを取るための工夫については何も開示されていない。
【0016】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットなどの安全性や有用性を検証するために適した人体型ダミーを提供するために要求される条件、つまり、人体型ダミーとしての人体の各部位の重量や大きさが模擬され、人体の各部位の重量バランスも再現され、人体型ダミーとして介護を受ける際の姿勢を正確かつ客観的に再現でき、支持なく自立できるように各部位のバランスを取る工夫が盛り込まれているという諸条件を満たす人体型ダミー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は、人体を対象とした装置類の開発に資するデータを収集するまたは評価する人体型ダミー装置であって、対象となる前記人体の各部位の重量および大きさを模した各々の部位パーツと、それらを可動に支持接続する関節部を備えた構成となっている。
上記構成により、人体型ダミーとしての人体の各部位の重量や大きさを模擬することができ、人体の各部位の重量バランス並びに重心バランスも再現することができる。
【0018】
ここで、人体型ダミー装置において、その腰部に相当する前記部位パーツの構造体の水平断面の中心に対して、背部に相当する前記部位パーツの脊柱に相当する軸体を後ろ側に立設することにより、前側に重量が掛かりやすい各部位パーツの重量と、後ろ側に重量が掛かりやすい各部位パーツの重量とを前後方向に釣り合わせたことを特徴とするものである。
なお、人体型ダミー装置において、腰部に相当する部位パーツの構造体に傾斜を持たせる一方、脊柱に相当する軸体を弓なりまたは弓なりを模して前方に屈曲させつつ前後方向に釣り合わせる構造とすることも好ましい。
【0019】
上記構成により、脊柱に相当する軸体を意図的に後ろ側にずらすことにより、腰部の中心に対して、前側にかかる荷重と、後ろ側に掛かる荷重を分散させることにより、いわゆる“やじろべぇ”の効果により前後に安定しやすくさせる効果が得られ、支持なく自立できるように各部位のバランスを取ることが容易になる。
【0020】
各部位パーツとしては、例えば、頭部、首部、肩部、上腕部、前腕部、手部、胸部、腹部、背中部、腰部、大腿部、下腿部、足部の部位パーツを備えたものとすることができる。これら各部位のパーツがあれば、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットを利用する利用者の人体の各部位を考慮したデータの収集または評価を行うことができる。
【0021】
次に、関節部について述べる。
関節部は少なくとも2つの相対的摺動または相対的回転をする部材を備え、関節部の部材同士の基準位置が決まっており、相対的摺動または回転により角度が可変となるとともに、相対的摺動または回転の角度を固定しない無段階での変更、または複数個の所定角度に調整して固定可能な調節機構を備え、データの収集または評価時に採るべき所定姿勢に応じて、関節部の部材同士の相対的摺動または回転の角度を調節機構で調節することにより、各部位パーツの姿勢を略正確に再現できることを特徴とする。
上記構成により、データの収集または評価時に採るべき所定姿勢に応じて、関節部の部材同士の相対的摺動または回転の角度を調節機構で調節することにより、各部位パーツの姿勢を略正確に再現でき、人体型ダミーとして介護を受ける際の姿勢を正確かつ客観的に再現できる。
【0022】
例えば、調節機構として、基準位置に対する相対的摺動または相対的回転の角度が、複数個の所定角度に調整して固定可能なものとする場合で、関節部の2つの部材がその中心が同軸上にある板状体であり軸を回転軸として一方が他方に対して回転する構成である場合において、板状体の一方が円周上に22.5度きざみで孔が設けられており、板状体の他方が円周上に40度きざみで孔が設けられたものとし、調節機構が2枚の板状体の孔同士のいずれかが重複した位置で相対的摺動または相対的回転を固定する構成とすることが好ましい。
上記構成により、5度きざみの角度に調整することができる。
【0023】
特に、肩部の部位パーツについては、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットを利用する利用者の肩の姿勢の再現性を向上させるため、回転の調整ができる方向を多様とする。
まず、胸部の部位パーツと肩部の部位パーツとの連結部分において関節部が2つある。第1の関節部はその部材が略垂直方向に配設された円筒シリンダと前記円筒シリンダの回転軸であり、胸部の部位パーツに対して肩部の部位パーツが円筒シリンダの回転軸を中心に水平面内で回動可能となっている。いわゆる“肩のすぼめ”を再現する。第2の関節部はその部材が2枚の円板体同士が対向したものであり、相対的摺動または回転により角度が可変となり、胸部の部位パーツに対して肩部の部位パーツが垂直面内で回動可能である。いわゆる“腕の前後への回旋運動”を再現する。
【0024】
さらに、肩部の部位パーツと上腕部の部位パーツとの連結部分において関節部が2つある。第1の関節部は回転軸が正面方向に配設された円筒シリンダであり、肩部の部位パーツに対して腕全体の部位パーツが円筒シリンダの回転軸を中心に回動可能となっている。いわゆる“腕の横方向への上げ下げ”を再現する。第2の関節部は2枚の円板体同士が対向してその回転軸が略垂直に配地されたものであり、肩部の部位パーツに対して上腕部の部位パーツが水平面内で回動可能である。いわゆる“肩から下の腕のひねり”を再現する。
このように、肩部の部位パーツの周辺において、4つの回動部分を持たせたことにより、肩を回したり、腕を回したり、さらに、いわゆる肩をすぼめる姿勢などを再現することができる。
【0025】
次に、介護ロボットを利用する利用者の胸から腹の姿勢の再現性を向上させるため、胸部から腹部にかけた関節の位置や数を多様とする。胸部の部位パーツと腹部の部位パーツとのつなぎ目に前後方向に屈曲する方向に関節部を設け、腹部の部位パーツ内にも前後方向に屈曲する方向に関節部を少なくとも1つ設けた構成とすれば、いわゆる背中を丸めて前屈みになっている姿勢を再現することができる。
また、介護ロボットを利用する利用者の腹から腰の姿勢の再現性を向上させるため、腹部から腰部にかけた関節の位置や数を多様とする。上記のように腹部の部位パーツ内にも前後方向に屈曲する方向に関節部を少なくとも1つ設けた上に、さらに腹部の部位パーツと腰部の部位パーツとのつなぎ目に前後方向に屈曲する方向に関節部を設けた構成とすれば、いわゆる腰が曲がった姿勢を再現することができる。
【0026】
次に、本発明の人体型ダミー装置の各部位パーツの重量バランスの調整について述べる。
人体の各部位パーツに個別に取り付け可能な付加錘体を供給する工夫がある。付加錘体を取り付けることにより、重量のバランス、大きさのバランスを取りやすくできる。
付加錘体の例としては、部位パーツの軸体に対して取り付けるものであれば、軸体を受け入れる切れ目を備えた円板体であって、その重量が500g、1kg、3kg、5kgなど既知の重量である錘体がある。
また、付加錘体の例としては、部位パーツの外面に巻き付けるベルト状の帯体であって、その重量が500g、1kg、3kg、5kgなど既知の重量である錘体がある。
【0027】
次に、人体の各部位パーツに個別に取り付け可能なフレーム体について説明する。
フレーム体は人体の外表面を模したものであり、フレーム体を各部位パーツの表面に取り付けることにより、人体の外表面の輪郭を概ね再現することができる。介護ロボットなどが利用者の人体に接触する際、利用者の体に対して触れることとなるため、人体の外表面の輪郭を概ね再現することができれば、介護ロボットなどの安全性や有用性を検証する上で役に立つ。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかる人体型ダミーによれば、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットなどの安全性や有用性を検証するために適した人体型ダミーを提供するために要求される条件、つまり、人体型ダミーとしての人体の各部位の重量や大きさが模擬され、人体の各部位の重量バランスも再現され、人体型ダミーとして介護を受ける際の姿勢を正確かつ客観的に再現でき、支持なく自立できるように各部位のバランスを取る工夫が盛り込まれているという諸条件を満たすことができる。
脊柱に相当する軸体を意図的に後ろ側にずらすことにより、腰部の中心に対して、前側にかかる荷重と、後ろ側に掛かる荷重を分散させることにより、いわゆる“やじろべぇ”の効果により前後に安定しやすくさせる効果が得られ、支持なく自立できるように各部位のバランスを取ることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施例1に係る人体型ダミー装置100の構造を簡単に示す図である。
【
図2】
図1に示した人体型ダミー装置100の表面から、装着されている表面フレーム140を取り除いて示した図である。
【
図3】
図2に示した人体型ダミー装置から付加錘体130を取り除いて内部にある部位パーツ110および関節部120を剥き出しにして示した図である。
【
図4】関節部120による相対的摺動または相対的回転およびその角度の制御について説明した図(その1)である。
【
図5】関節部120による相対的摺動または相対的回転およびその角度の制御について説明した図(その2)である。
【
図6】頭部から肩部さらに腕部(上腕部、前腕部、手部)にかけた関節部120の動きを説明する図である。
【
図7】胸部、腹部、背中部、腰部にかけた関節部120の動きを説明する図である。
【
図8】下半身の関節部120の動きを説明する図である。
【
図9】人体型ダミー装置100において、前後方向に釣り合いをとって自立しやすくする工夫について説明する図である。
【
図10】腰部の部位パーツ110jの構造体に傾斜を持たせ、背部の部位パーツ110iの軸体を弓なりに前方に屈曲させた様子を示す図である。
【
図11】人体型ダミー装置100で再現する様々な姿勢の例を示したものである。
【
図12】従来技術(特開2003-255822号公報)に開示された救急医療のトレーニング用のダミー人形を示す図である。
【
図13】従来技術(特開2011-036514号公報)に開示された人形および人形の関節構造を示す図である。
【
図14】従来技術(特許第4733215号公報)に開示された人形を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の人体型ダミー装置は、人体を対象とした装置類の動作の実証、評価を行い、開発に資するデータを収集するまたは評価するものである。対象となる装置類としては、福祉用具、介護機器並びに介護ロボットがある。
以下、図面を参照しつつ、本発明の人体型ダミー装置の実施例を説明する。
【実施例1】
【0031】
実施例1として、本発明の人体型ダミー装置の基本構成について説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る人体型ダミー装置100の構造を簡単に示す図である。
図1(a)は正面、
図1(b)は側面図となっている。
図2は、
図1に示した人体型ダミー装置100の表面から、装着されている表面フレーム140を取り除いて示した図である。
図2(a)は正面図、
図2(b)は背面図となっている。
図3は、
図2に示した人体型ダミー装置(表面フレーム140を取り除いた状態)から、付加錘体130を取り除いて、内部にある部位パーツ110および関節部120を剥き出しにして示した図である。
図3(a)は正面図、
図3(b)は背面図となっている。
【0032】
図1から
図3に示すように、人体型ダミー装置100は、部位パーツ110、関節部120、付加錘体130、表面フレーム140を備えた構造となっている。
表面フレーム140は、人体の各部位パーツ110に個別に取り付け可能なフレーム体であって、フレーム体を取り付けることにより、人体の外表面の輪郭を概ね再現するものである。
本実施例1に示した構成例では、人体型ダミー装置100の表面は表面フレーム140により覆われた例となっている。
図1に示すように、表面フレーム140を装着した状態にて概ね人体の外形を滑らかに模したものとなっている。
【0033】
図2は、人体型ダミー装置100の外表面から、表面フレーム140を取り除いた様子を示す図であり、部位パーツ110と、部位パーツ110を支持接続する関節部120と、部位パーツ110に取り付けた付加錘体130が剥き出しになった図となっている。
【0034】
部位パーツ110は、人体の各部位の部材であり、実際の人体の部位の重量および大きさを模したものである。それらの重量と大きさの模擬のレベルは、人体型ダミー装置100が実証試験などを行う介護ロボットなどの装置類の相対的な重量や大きさ、評価に必要なデータの測定精度などにより変わってくるが、概ね人体の部位の重量と大きさが模擬されておれば良いケースが多い。
【0035】
部位パーツ110の構成は、人体型ダミー装置100が全身型か、部分型かで異なってくるが、ここでは全身型として説明する。全身型の場合、部位パーツ110は、少なくとも頭部、首部、肩部、上腕部、前腕部、手部、胸部、腹部、背部、腰部、大腿部、下腿部、足部の部位パーツが想定できる。
図2の構成例では、頭部の部位パーツ110a、首部の部位パーツ110b、肩部の部位パーツ110c、上腕部の部位パーツ110d、前腕部の部位パーツ110e、手部の部位パーツ110f、胸部の部位パーツ110g、腹部の部位パーツ110h、背部の部位パーツ110i、腰部の部位パーツ110j、大腿部の部位パーツ110k、下腿部の部位パーツ110m、足部の部位パーツ110nが図示されている。これら頭部の部位パーツ110a~足部の部位パーツ110nは、後述するように関節部120によって支持接続されている。
各部位パーツの大きさや重量は、実際の人体の各部位の大きさや重量を模擬したものとなっている。なお、大きさについては後述するように、表面フレーム140を装着する場合は、介護ロボットなどが取り扱う際の人体型ダミー装置100の外径は表面フレーム140装着後の外径となる点にも留意が必要である。
【0036】
次に、付加錘体130について説明する。
付加錘体130は、人体の各部位パーツ110に個別に取り付け可能なものであり、付加錘体を取り付けることにより、人体の各部位パーツ110の重量を調整したり、人体の各部位パーツ110間のバランスを取りやすくしたりするものである。
図2は、人体型ダミー装置100から表面フレーム140を取り除いた様子を示す図となっており、装着されている付加錘体130が見えている。
図2では、付加錘体130が分かりやすいようハッチングを施している。ここで、部位パーツ110に装着する付加錘体130の大きさ(重量)や個数を調整することにより、人体の各部位パーツ110の重量を調整し、人体の各部位パーツ110間のバランスを取ることができる。
【0037】
例えば、体重が60kgの利用者を想定する場合、総重量が60kgになるよう、部位パーツ110に装着する付加錘体130の大きさ(重量)や個数を調整すれば良い。体重が75kgの利用者を想定する場合、総重量が75kgになるよう、部位パーツ110に装着する付加錘体130の大きさ(重量)や個数を調整すれば良い。同様に、付加錘体130の大きさ(重量)や個数を調整することにより自在に想定する利用者の体重を再現することができる。
図3は、人体型ダミー装置100の外表面から、表面フレーム140および付加錘体130を取り除いた様子を示す図であり、部位パーツ110およびそれらを支持接続する関節部120が剥き出しになった図となっている。
【0038】
次に、関節部120を説明する。
関節部120は、部位パーツ110同士を可動に支持接続する構造体である。
関節部120は、少なくとも2つの相対的摺動または相対的回転をする部材を備えた構造となっており、相対的摺動または相対的回転により両者の位置関係が変化するものとなっている。さらに、その相対的摺動または相対的回転の角度を固定しない無段階での変更、または複数個の所定角度に調整して固定可能な調節機構を備えた構成となっている。
【0039】
図4から
図5は、関節部120による相対的摺動または相対的回転およびその角度の制御について説明した図である。
関節部120の部材は、部材同士が相対的摺動または相対的回転するものであれば多様な構造があり得る。
図4(a)に示した関節部120aの構成例は2枚の板状体が対向し合って相対的摺動または相対的回転する例となっている。
図4(a)の例では、関節部120は、2枚の板状体が回転可能に対向し合った略同サイズのものとなっている。また、内側の板状体と外側の板状体の中心が同軸上にあり、その軸を回転軸として、少なくとも一方が回転する構造となっている。
【0040】
図4(b)に示した関節部120bの構成例は円筒型のシリンダ体とその上端面および下端面に対して板状体が対向し合って相対的摺動または相対的回転する例となっている。
図4(b)の例では、関節部120は、円筒型のシリンダ体の径と板状体の径が回転可能に対向し合った略同サイズのものとなっており、その回転軸が同軸上にあり、その軸を回転軸として、少なくとも一方が回転する構造となっている。
図4(a)に示した関節部120a、
図4(b)に示した関節部120bとも、2つの部材が相対的摺動または相対的回転により基準位置から所定の角度を回転するものとなっている。
【0041】
図4(c)および
図4(d)は、関節部120の部材同士の相対的摺動または相対的回転に関する基準位置を説明する図である。
図4(c)に示すように、この例では、左側の板状体にはAからPまで円周を16等分した位置にアルファベット記号が設けられた例となっている。つまり、円周を22.5度きざみにした位置に印が設けられている。また、右側の板状体には0から8まで円周を9等分した位置の孔が設けられた例となっている。つまり、円周を40度きざみにした位置に孔が設けられている。
【0042】
関節部120の部材同士の相対的摺動または相対的回転に関する基準位置が決めておく。ここでは基準位置が、一方の板状体のアルファベット記号“A”の位置に対して他方の板状体の孔“0”の位置が重複している位置関係となっている。
図4(d)は、右側の板状体を上にして両者を重ね合わせた様子を示す図である。
図4(d)に示すように、孔“0”の中にアルファベット記号“A”が見えている。なお、孔“5”の中にアルファベット記号“J”が見えている。これが基準位置である。他の孔の下にはアルファベット記号が見えていても一部が欠けており、正面には見えないものとなっている。
この基準位置から所望の角度を相対的摺動または相対的回転させ、或る孔に対して或る孔が重複した状態において、両者の相対的位置関係を固定すれば各部位パーツ110間の位置関係が客観的に調整することができ、ひいては人体型ダミー装置100の姿勢を客観的に再現することができる。
【0043】
図5は、一例として角度調整を行う例を説明したものである。
図5(a)は、一方の板状体の孔“1”及び“6”の位置に対して他方の板状体のアルファベット記号“C”及び“L”が重複している位置関係となっている。この位置関係は、一方の板状体において22.5度が2きざみ分、つまり45度の位置に、他方の板状体において40度が1きざみ分、つまり40度の位置が合されており、両者間の相対的な回転角は5度となっている。
【0044】
図5(b)は、一方の板状体の孔“2”及び“7”の位置に対して他方の板状体のアルファベット記号“E”及び“N”が重複している位置関係となっており、この位置関係は、一方の板状体において22.5度が4きざみ分、つまり90度の位置に、他方の板状体において40度が2きざみ分、つまり80度の位置が合されており、両者間の相対的な回転角は10度となっている。
【0045】
図5(c)は、一方の板状体の孔“3”及び“8”の位置に対して他方の板状体のアルファベット記号“G”及び“P”が重複している位置関係となっており、この位置関係は、一方の板状体において22.5度が6きざみ分、つまり135度の位置に、他方の板状体において40度が3きざみ分、つまり120度の位置が合されており、両者間の相対的な回転角は15度となっている。
【0046】
図5(d)は、一方の板状体の“4”及び“0”の位置に対して他方の板状体のアルファベット記号“I”及び“B”が重複している位置関係となっており、この位置関係は、一方の板状体において22.5度が8きざみ分、つまり180度の位置に、他方の板状体において40度が4きざみ分、つまり160度の位置が合されており、両者間の相対的な回転角は20度となっている。
【0047】
図5(e)は、一方の板状体の孔“5”及び“1”の位置に対して他方の板状体のアルファベット記号“K”及び“D”が重複している位置関係となっており、両者間の相対的な回転角は25度となっている。また、
図5(f)は、一方の板状体の孔“6”及び“2”の位置に対して他方の板状体のアルファベット記号“M”及び“F”が重複している位置関係となっており、両者間の相対的な回転角は30度となっている。
【0048】
以下同様に、調整機構を用いて両者の差分を調整してゆけば、5度きざみで0度から360度まで調整することができる。
調節機構によって関節部120を介して各部位パーツ間の相対的位置関係を設定することにより、人体型ダミー装置100全体の姿勢を略正確に再現できる。人体型ダミー装置100全体の姿勢が略正確に再現されれば、介護ロボットなどの実証試験などにおいてデータの収集または評価時に採るべき所定姿勢を正確に制御することができる。
【0049】
次に、関節部120を介した人体型ダミー装置100の姿勢制御例について説明する。
図6は、頭部から肩部さらに腕部(上腕部、前腕部、手部)にかけた関節部120の動きを説明する図である。
図6(a)は、頭部から肩部にかけての動きの例を示す図である。
図6(a)に示すように、頭部の部位パーツ110aは首部の部位パーツ110bとの間の関節部120は
図4(b)のタイプの関節部であり、その回転軸が正面を向いた状態で配設された例となっている。この関節部120の働きによりいわゆる“頭の傾け動作”が可能となっている。また、首部の部位パーツ110bと肩部の部位パーツ110cとの間の関節部120は
図4(a)のタイプの関節部であり、その回転軸が垂直方向に向いた状態で配設されたものとなっている。この関節部120の働きによりいわゆる“左右の首ふり動作”が可能となっている。
【0050】
図6(b)、
図6(c)、
図6(d)は、肩部付近から、腕部(上腕部、前腕部、手部)付近の動きの例を示す図である。
この構成例では、肩付近の動きを再現するため4つの関節部120が設けられている。
肩付近の動きを再現する4つの関節部のうちの1つ目(1)として、
図6(b)に示すように、肩部の部位パーツ110cは胸部の部位パーツ110gとの間の関節部120は、
図4(b)のタイプの関節部でありその回転軸が垂直に配設されたものとなっている。その関節部120の働きによりいわゆる肩をすぼめる動作が可能となっている。
【0051】
肩付近の動きを再現する4つの関節部のうちの2つ目(2)として、
図6(c)の上側、
図6(d)の上左側には肩部の部位パーツ110cと上腕部の部位パーツ110dとの間に比較的大きな板状体の関節部120がある。この関節部120は
図4(a)に示したタイプでその回転軸が胸部側に向いた状態で配設されたものとなっている。その関節部120の働きによりいわゆる“腕を前後に振る動作”が可能となっている。
【0052】
肩付近の動きを再現する4つの関節部のうちの3つ目(3)として、
図6(c)の上側、
図6(d)の上中央には肩部の部位パーツ110cと上腕部の部位パーツ110dとの間にシリンダ状の関節部120がある。この関節部120は
図4(b)に示したタイプでその回転軸が正面側に向いた状態で配設されたものとなっている。その関節部120の働きによりいわゆる“腕を横方向に開いて上げ下げする動作”が可能となっている。
【0053】
肩付近の動きを再現する4つの関節部のうちの4つ目(4)として、上腕部の部位パーツ110d内のいわゆる上腕二頭筋に相当する部分にも
図4(a)に示すタイプの関節部120がその回転軸を垂直にして配設されている。これは肩から腕全体を捻る動きを再現するものである。
【0054】
次に、肘の動きを再現するものとして、上腕部の部位パーツ110dと前腕部の部位パーツ110eとの間の肘に相当する部分にも
図4(b)に示すタイプの関節部120がその回転軸を水平で横方向に向けて配設されている。
【0055】
次に、手首の動きを再現するため、前腕部の部位パーツ110e内に
図4(b)に示すタイプの関節部120がその回転軸を垂直に向けて配設されており、前腕部の部位パーツ110eと手部の部位パーツ110fの間に
図4(b)に示すタイプの関節部120がその回転軸を正面に向けて配設されており、手首の旋回、手首の捻りなどの動作を再現するものとなっている。
【0056】
次に、胸部、腹部、背中部、腰部にかけた関節部120の動きを説明する。
図7は、胸部、腹部、背中部、腰部にかけた関節部120の動きを説明する図である。
なお、
図7では、動きが分かりやすいように、胸部の部位パーツ110g、腹部の部位パーツ110hなど動きに関連しない部材の表示は省略し、背部の部位パーツ110iの脊柱にあたる軸部材と、関節部120を中心に示している。
【0057】
図7(a)は正立している状態である。
中央側には背部の部位パーツ110iの上側部材と下側部材の間に関節部120bがあり、この関節部120bは
図4(b)に示したタイプでその回転軸が水平で横方向に向いた状態で配設されたものとなっている。
図7(b)はその関節部120の働きによりいわゆる“胸腹を前後に曲げる動作”が可能となっている。
【0058】
同様に、
図7(c)の下側には腰部の動きを再現する2つの関節部120がある。
2つのうち上側の関節部120bは、背部の部位パーツ110iと腰部の部位パーツ110jとの間にあり、この関節部120は
図4(b)に示したタイプでその回転軸が水平で横方向に向いた状態で配設されたものとなっている。その関節部120の働きによりいわゆる“腰を前後に曲げる動作”が可能となっている。
【0059】
2つのうち下側の関節部120は、腰部の部位パーツ110j内に設けられたものであり、
図4(a)に示したタイプでその回転軸が垂直方向を向いた状態で配設されたものとなっている。その関節部120の働きによりいわゆる“上半身を旋回させる動作”が可能となっている。
【0060】
なお、この構成例では設けていないが、腰部の動きを再現する関節部として3つ目を設けることも可能である。それは、腰部の部位パーツ110j内に比較的大きな
図4(b)タイプの関節部120をその回転軸が正面方向に向くように配設してものであり、その関節部120を設けることによりいわゆる“体側曲げ運動の動作”が再現可能となる。
【0061】
次に、下半身の関節部120の動きを説明する。
図8は下半身の関節部120の動きを説明する図である。
図8(a)および
図8(b)の上側の示すように、股関節の動きを再現するために上部付近に3つの関節部120が設けられている。
【0062】
3つのうち1つ目は、
図8(b)の上側付近に(1)で示すもので、腰部の部位パーツ110jと大腿部の部位パーツ110kとの間に比較的大きな
図4(a)に示したタイプの関節部120bである。その回転軸が水平で横方向に向いた状態で配設されたものとなっている。その関節部120bの働きにより回転軸の周りに周回する相対的摺動または相対的回転によっていわゆる“足の蹴り出し動作”が可能となっている。
【0063】
3つのうち2つ目は、
図8(b)の上側付近に(2)で示すもので、腰部の部位パーツ110jと大腿部の部位パーツ110kとの間に設けられた
図4(b)に示したタイプの関節部120bである。その回転軸が正面を向いた状態で配設されたものとなっている。その関節部120bの働きによりいわゆる“足の開脚動作”が可能となっている。
【0064】
3つのうち3つ目は、
図8(a)および
図8(b)の上側付近に(3)で示すもので、大腿部の部位パーツ110k内に設けられた
図4(a)に示したタイプの関節部120aである。その回転軸が垂直を向いた状態で配設されたものとなっている。その関節部120の働きによりいわゆる“足の回旋、捻り動作”が可能となっている。なお、実際の人体では大腿部の内部に回旋を可能とする関節はないが、この例では構造上、大腿部の部位パーツ110kの内部に関節に相当する部材を設けている。
【0065】
次に、膝の動きを再現する関節部120について説明する。
図8(b)に示すように、大腿部の部位パーツ110kと下腿部の部位パーツ110mとの間の膝部分の関節部120bがあり、その回転軸が水平で横方向に向いて配設されており、いわゆる“膝の曲げ動作”を再現できるものとなっている。
【0066】
次に、足首の動きを再現するための関節部120について説明する。
図8(a)、
図8(b)に示すように、足首の動きを再現するための3つの関節部120が設けられている。
【0067】
3つのうちの1つ目は、
図8(a)および
図8(b)の下側付近に(1)で示すもので、下腿部の部位パーツ110mと足部の部位パーツ110nとの間の足首に関節部120aである。その回転軸が垂直方向を向くように配設されており、いわゆる“足首の回旋動作”が再現できる。
【0068】
3つのうちの2つ目は、
図8(a)の下側付近に(2)で示すもので、足部の部位パーツ110nの中に
図4(d)で示したタイプの関節部120である。その回転軸が正面を向く方向に配設されたものがあり、いわゆる“足首を捻る動作”が再現されるものとなっている。
【0069】
3つのうちの3つ目は、
図8(a)の下側付近に(2)で示すもので、足部の部位パーツ110nの中に
図4(d)で示したタイプの関節部120である。その回転軸が水平で横方向に配設されたものがあり、いわゆる“足首を曲げ伸ばしする動作”を再現するものとなっている。
【0070】
以上が関節部120の簡単な説明である。
なお、実際の人間の肩関節や股関節や足首の関節などのように柔軟で多方向に自在に曲がるものの再現は、いわゆるボールジョイント方式でベアリングが受け軸のような機械的構造も可能である。ここでは、
図5に説明したように、人体型ダミー装置100の各部位の姿勢を正しく再現するために数値化しやすい関節部120を用いて構成した例となっているため、一部、実際の人体には存在しない部分に便宜上関節部120を設けているが、関節部の構造や配設位置は適宜設計することができる。
【0071】
次に、人体型ダミー装置100が自立しやすくする工夫について説明する。
図9は、人体型ダミー装置100において、前後方向に釣り合いをとって自立しやすくする工夫について説明する図である。
人体型ダミー装置100において、前後方向に釣り合い、特に上半身の前後方向の釣り合いをとるためには、背部の部位パーツ110iの脊柱に相当する軸体と腰部の部位パーツ110jの構造体の接合箇所Sに対して、前側に重量が掛かる各部位パーツの重量モーメントと、後ろ側に重量が掛かる各部位パーツの重量モーメントとを釣り合わせる必要がある。ここで、胸部の部位パーツ110g、腹部の部位パーツ110hは身体の前方に位置しており前方にかかる重量モーメントが大きくなる傾向にあり、また、頭部の部位パーツ110a、首部の部位パーツ110b、肩部の部位パーツ110c、上腕部の部位パーツ110d、前腕部の部位パーツ110e、手部の部位パーツ110fも、高齢者の姿勢を再現するとやや身体の前方に位置しているため、やはり接合箇所Sに対して前方にかかる重量モーメントが大きくなる傾向にある。一方、背部の部位パーツ110iの背面側、腰部の部位パーツ110jの背面側は関節部などがなく付加錘体130を装着するスペースはある程度確保できる。
【0072】
そこで、工夫として、
図9に示すように、腰部の部位パーツ110jの構造体の水平断面の中心に対して、背部の部位パーツ110iの脊柱に相当する軸体を後ろ側に立設するようあえて偏心させる。このように偏心させた上、前側にある胸部の部位パーツ110g、腹部の部位パーツ110h、腰部の部位パーツ110jの表側にそれぞれ付加錘体130を取り付けるとともに、後ろ側にある背部の部位パーツ110i、腰部の部位パーツ110jの裏側にもそれぞれ付加錘体130を取り付ける。このように、敢えて前後の両方に付加錘体130取り付けることにより、背部の部位パーツ110iの脊柱に相当する軸体と腰部の部位パーツ110jの構造体の接合箇所Sに対して、前側に重量が掛かる各部位パーツの重量モーメントと、後ろ側に重量が掛かる各部位パーツの重量モーメントを創出した上でそれらを釣り合わせる。これは、いわゆる一種の“やじろべぇ”の効果が生じていることとなる。つまり、前後の一方に付加錘体130がない場合に比べて、両方に付加錘体130がある方が安定しやすく、かつ、背部の部位パーツ110iの脊柱に相当する軸体を後ろ側に偏心させているので、各部位パーツの前後方向の釣り合いが取りやすくなる。
【0073】
さらに、利用者が高齢者である場合を想定して、人体型ダミー装置100において、いわゆる腰が曲がった姿勢を再現しつつも自立した姿勢を再現するニーズもあるが、この場合、腰部の部位パーツ110jの構造体を前後方向に傾斜を持たせる一方、背部の部位パーツ110iの脊柱に相当する軸体を弓なりになるよう前方に屈曲させつつ前後方向に釣り合わせる工夫が可能である。
【0074】
図10は、腰部の部位パーツ110jの構造体を後ろ方向に傾斜を持たせ、背部の部位パーツ110iの脊柱に相当する軸体を弓なりになるよう前方に屈曲させた様子を示す図である。
図10(a)に示すように、腰部の部位パーツ110jの構造体が前傾している。このように骨盤角度が前後に傾斜している姿勢は高齢者の背が曲がった人によく見られる姿勢である。介護ロボットなどを利用する利用者はこのような背の曲がった高齢者が想定されるため、人体型ダミー装置100においてこの骨盤が前傾・後傾した姿勢を再現することは重要である。
図10(b)および
図10(c)は、人体型ダミー装置100の各部位パーツ110の接続関係を簡単に示した図である。
図10(b)は立位姿勢、
図10(c)は座位姿勢である。座位姿勢になると若干椅子により姿勢が補正されるが、やはり腰が曲がっている傾向は出ることが多いことを想定して姿勢を調整すれば良い。
【0075】
図11は、人体型ダミー装置100で再現する様々な姿勢の例を示したものである。
本発明の人体型ダミー装置100は関節部120の調整により、
図11に示すような多様な姿勢を再現でき、高齢者に良くみられる背の曲がり並びに骨盤の前後傾についても個人差の違いまで加味して様々な姿勢が再現できる様子が分かる。
【0076】
以上、本発明の人体型ダミー装置の構成例における好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の人体型ダミー装置は、人体を対象とした装置類の開発に資するデータを収集するまたは評価する人体型ダミー装置に適用することができる。人体を対象とした装置類とは例えば福祉用具、介護機器並びに介護ロボットなどがある。福祉用具、介護機器並びに介護ロボットの開発に資するデータを収集したり客観的に評価したりするための人体型ダミー装置として提供できる。
【符号の説明】
【0078】
100 人体型ダミー装置
110 部位パーツ
120 関節部
130 付加錘体
140 表面フレーム