(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】有機半導体化合物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07D 495/04 20060101AFI20230724BHJP
H10K 10/40 20230101ALI20230724BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20230724BHJP
H10K 71/10 20230101ALI20230724BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20230724BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C07D495/04 101
C07D495/04 CSP
H10K10/40
H10K85/60
H10K71/10
H01L29/78 618A
H01L29/78 618B
(21)【出願番号】P 2019205709
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100155516
【氏名又は名称】小笠原 亜子佳
(72)【発明者】
【氏名】瀧宮 和男
(72)【発明者】
【氏名】川畑 公輔
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智史
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太郎
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-258900(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143775(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/115749(WO,A1)
【文献】特開2018-052926(JP,A)
【文献】特開2017-066089(JP,A)
【文献】特開2017-149659(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1663537(KR,B1)
【文献】Sawamoto, M. et al.,Soluble Dinaphtho[2,3-b:2',3'-f]thieno[3,2-b]thiophene Derivatives for Solution-Processed Organic Field-Effect Transistors,ACS Applied Materials & Interfaces,2016年,8(6),pp. 3810-3824
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、
mが3でありnが2であり、Lは下記式(2)乃至(6)
【化2】
のいずれかで表される二価の連結基、又は式(2)乃至(6)のいずれか2つが結合した二価の連結基を表し、Rはアルキル基又は芳香族基を表す)で表される有機半導体化合物。
【請求項2】
Rがメチル基である請求項
1に記載の有機半導体化合物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の有機半導体化合物を含む有機半導体材料。
【請求項4】
請求項
3に記載の有機半導体材料からなる有機薄膜。
【請求項5】
請求項
4に記載の有機薄膜を含む有機エレクトロニクスデバイス。
【請求項6】
請求項
3に記載の有機半導体材料の有機溶媒溶液を基板に塗布して有機半導体溶液層を設ける工程、及び該有機半導体溶液層から有機溶媒を除去する工程を含む有機薄膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体化合物及びその利用に関する。更に詳しくは、本発明はジナフト[3,2-b:2’,3’-f]チエノ[3,2-b]チオフェン(以下、「DNTT」と略す)誘導体とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機FET(電界効果トランジスタ)デバイス、有機EL(エレクトロルミネッセンス)デバイスなどの有機半導体を用いた薄膜デバイスが注目され、実用化されている。これらの薄膜デバイスに用いられる有機半導体材料として種々の化合物が研究、開発されており、例えば、特許文献1及び2には、DNTTは優れた電荷移動度を呈し、その薄膜が有機半導体特性を有することが示されている。しかしながら、特許文献1及び2に開示されているDNTT誘導体は、有機溶媒への溶解性が乏しく、塗布法等の溶液プロセスで有機半導体層を作製できないことが問題であった。
【0003】
この問題に対して、特許文献3および非特許文献1には、DNTT骨格に分岐鎖アルキル基を導入することにより有機溶媒への溶解性が改善することが示されているが、溶解度は1g/L未満であり十分とは言えない。
また、特許文献4ではDNTT骨格のチオフェン環に近い5,12位にアルキル基を導入することで溶解性は向上しているものの、分子配向が乱れることによりキャリア移動度が大幅に低下している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/050726号
【文献】国際公開第2010/098372号
【文献】国際公開第2014/115749号
【文献】国際公開第2014/027685号
【非特許文献】
【0005】
【文献】ACS Appl.Mater.Interfaces,8,3810-3824(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1乃至3及び非特許文献1に開示されているDNTT誘導体は、有機溶媒への溶解性が十分ではない。また特許文献4に開示されているDNTT誘導体は有機溶媒への溶解性は優れるが、キャリア移動度が十分ではない。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、有機溶媒への可溶性に優れ、塗布法などの溶液プロセスによる有機半導体層の製造に利用可能な溶液プロセス用有機半導体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定構造の有機半導体化合物が上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
[1]下記式(1)
【0009】
【0010】
(式(1)中、mおよびnはそれぞれ独立して1乃至10の整数を表し、Lは下記式(2)乃至(6)
【0011】
【0012】
のいずれかで表される二価の連結基または式(2)乃至(6)のいずれか2つが結合した二価の連結基を表し、Rはアルキル基又は芳香族基を表す)で表される有機半導体化合物、
[2]mが3でありnが2である前項[1]に記載の有機半導体化合物、
[3]Rがメチル基である前項[1]又は[2]に記載の有機半導体化合物、
[4]前項[1]乃至[3]のいずれか一項に記載の有機半導体化合物を含む有機半導体材料、
[5]前項[4]に記載の有機半導体材料からなる有機薄膜、
[6]前項[5]に記載の有機薄膜を含む有機エレクトロニクスデバイス、及び
[7]前項[4]に記載の有機半導体材料の有機溶媒溶液を基板に塗布して有機半導体溶液層を設ける工程、及び該有機半導体溶液層から有機溶媒を除去する工程を含む有機薄膜の形成方法、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る有機半導体材料は、有機溶媒への可溶性に優れる。このため、塗布法などの溶液プロセスにおいて溶媒量を低減することができ、また置換基の立体障害による分子配向への影響が少ないため、良好なキャリア移動度を示す有機半導体層の形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の有機薄膜トランジスタ(素子)の構造のいくつかの態様例を示す概略断面図であり、Aはボトムコンタクト-ボトムゲート型有機薄膜トランジスタ(素子)、Bはトップコンタクト-ボトムゲート型有機薄膜トランジスタ(素子)、Cはトップコンタクト-トップゲート型有機薄膜トランジスタ(素子)、Dはトップ&ボトムゲート型有機薄膜トランジスタ(素子)、Eは静電誘導トランジスタ(素子)、Fはボトムコンタクト-トップゲート型有機薄膜トランジスタ(素子)を示す。
【
図2】
図2は、本発明の有機薄膜トランジスタ(素子)の一態様例としてのトップコンタクト-ボトムゲート型有機薄膜トランジスタ(素子)の製造工程を説明するための説明図であり、(1)乃至(6)は各工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を説明する。
本発明の有機半導体化合物は、上記一般式(1)で表される。
【0016】
一般式(1)中、m及びnはそれぞれ独立して1乃至10の整数を表す。
一般式(1)のmとしては、1乃至5が好ましく、2乃至4がより好ましく、3が更に好ましい。
一般式(1)のnとしては、1乃至5が好ましく、2乃至4がより好ましく、2が更に好ましい。
【0017】
一般式(1)中、Lは上記一般式(2)乃至(6)のいずれかで表される二価の連結基、又は式(2)乃至(6)のいずれか2つが結合した二価の連結基を表す。
【0018】
一般式(1)中、Rはアルキル基又は芳香族基を表す。
一般式(1)のRが表すアルキル基としては、直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、直鎖アルキルがより好ましい。また、Rが表すアルキル基の炭素数は1乃至6が好ましく1乃至3がより好ましく、1が更に好ましい。
一般式(1)のRが表す芳香族基としては、芳香族炭化水素基又は複素環基が好ましく、芳香族炭化水素基がより好ましい。
一般式(1)のRが表す芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基及びベンゾピレニル基等が挙げられ、フェニル基又はナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
一般式(1)のRが表す複素環基の具体例としては、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、ピリドニル基、ベンゾキノリル基、アントラキノリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基及びチエノチエニル基等が挙げられ、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基又はチエノチエニル基が好ましく、ピリジル基又はチエニル基がより好ましい。
一般式(1)のRが表す芳香族炭化水素基及び複素環基はアルキル基を置換基として有していてもよく、該置換基として有していてもよいアルキル基は直鎖、分岐鎖または脂環式の何れにも限定されない。
【0019】
本発明の一般式(1)で表される有機半導体化合物は、例えば非特許文献1に記載の合成フローに基づき、対応する置換基を有する原料を用いることで合成することができる。
【0020】
また、一般式(1)で表される有機半導体化合物は、有機溶媒に可溶であることが求められる。該有機溶媒は、式(1)で表される有機半導体化合物を溶解し得るものであれば特に限定なく用いることができる。また、式(1)で表される有機半導体化合物を有機溶媒に溶解して得られる溶液の安定性を考慮した場合、室温における式(1)で表される有機半導体化合物の溶解度がある程度以上高いことが求められる。25℃における溶解度は通常0.5g/L以上であり、1.0g/L以上が好ましく、2.0g/L以上がより好ましい。また、溶液の安定性は、溶解後24時間経過した後も結晶の析出がないことが好ましく、溶解後1週間経過した後も完全に溶解していることがより好ましい。
【0021】
有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン及びジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン及びシクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール及びブトキシベンゼンなどのエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びN-メチルピロリドンなどのアミド類等、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン及びシクロヘキサノンなどのケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル及びベンゾニトリルなどのニトリル類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール及びシクロヘキサノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸エチル及び炭酸ジエチルなどのエステル類、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン及びデカリンなどの炭化水素類などを用いることができる。
【0022】
本発明の有機半導体材料は、式(1)で表される有機半導体化合物を含有する。
有機半導体材料中の式(1)で表される有機半導体化合物の含有量は特に限定されないが、通常は有機半導体材料中に50乃至100質量%程度である。
【0023】
本発明の有機半導体材料は、上記の式(1)で表される有機半導体化合物以外に、有機半導体デバイスの特性を改善及び/または他の特性を付与する等を目的として、必要に応じて他の添加剤を含んでいてもよく、半導体としての機能を阻害しないものであれば添加剤の種類は特に制限されない。例えば、本発明の式(1)以外の構造を有する半導体性材料、絶縁性材料のほか、レオロジーの制御するための界面活性剤、増粘剤、キャリア注入やキャリア量を調整するためのドーパントなどが一例として挙げられる。これらは組成物としての安定性を阻害しないものが好ましく、高分子であっても低分子であってもよい。これら添加剤の含有量は、その目的により異なるため一概には言えないが、式(1)で表される有機半導体化合物の含有量よりも少ない方が好ましい。
【0024】
本発明の有機薄膜は式(1)で表わされる有機半導体化合物を含む有機半導体材料を用いて得られる。該薄膜の膜厚は、その用途によって異なるが、通常1nm乃至1μmであり、好ましくは5nm乃至500nmであり、より好ましくは10nm乃至300nmである。
【0025】
有機薄膜の形成方法は、蒸着法などのドライプロセスや種々の溶液プロセスなどがあげられるが、本発明の有機半導体材料を有機溶媒に溶解した有機溶媒溶液を用いて、溶液プロセスで形成することが好ましい。有機溶媒溶液に用い得る有機溶媒としては、上記した有機溶媒と同じものが挙げられる。
溶液プロセスとしてはたとえば、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、スクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。溶液プロセスで成膜する場合、上記の塗布、印刷したのち、溶媒を蒸発させて薄膜を形成することが好ましい。
【0026】
式(1)で表わされる有機半導体化合物は、有機EL素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子及び有機トランジスタ素子等の有機半導体デバイスの有機薄膜の材料として好適に用いられる。その一例として有機トランジスタについて詳細に説明する。
【0027】
有機トランジスタは、有機半導体に接して2つの電極(ソース電極及びドレイン電極)があり、その電極間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。
一般に、有機トランジスタデバイスはゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal-InsuIator-Semiconductor MIS構造)がよく用いられる。絶縁膜に金属酸化膜を用いるものはMOS構造と呼ばれる。他には、ショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(すなわちMES構造)もあるが、有機トランジスタの場合、MIS構造がよく用いられる。
【0028】
以下、
図1に示す有機トランジスタデバイスのいくつかの態様例を用いて有機トランジスタについてより詳細に説明するが、本発明はこれらの構造には限定されない。
図1における各態様例において、1がソース電極、2が半導体層、3がドレイン電極、4が絶縁体層、5がゲート電極、6が基板をそれぞれ表す。尚、各層や電極の配置は、デバイスの用途により適宜選択できる。A乃至D及びFは基板と並行方向に電流が流れるので、横型トランジスタと呼ばれる。Aはボトムコンタクトボトムゲート構造、Bはトップコンタクトボトムゲート構造と呼ばれる。また、Cは半導体上にソース及びドレイン電極、絶縁体層を設け、さらにその上にゲート電極を形成しており、トップコンタクトトップゲート構造と呼ばれている。Dはトップ&ボトムコンタクトボトムゲート型トランジスタと呼ばれる構造である。Fはボトムコンタクトトップゲート構造である。Eは縦型の構造をもつトランジスタ、すなわち静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図である。このSITは、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリアが移動できる。またソース電極とドレイン電極が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流す、高速のスイッチングを行うなどの用途に好ましく適用できる。なお
図1中のEには、基板を記載していないが、通常の場合、
図1E中の1及び3で表されるソース又はドレイン電極の外側には基板が設けられる。
【0029】
次に各態様例における各構成要素について説明する。
基板6は、その上に形成される各層が剥離することなく保持できることが必要である。例えば樹脂板やフィルム、紙、ガラス、石英、セラミックなどの絶縁性材料;金属や合金などの導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成した物;樹脂と無機材料など各種組合せからなる材料;等が使用できる。使用できる樹脂フィルムの例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、デバイスに可撓性を持たせることができ、フレキシブルで、軽量となり、実用性が向上する。基板の厚さとしては、通常1μm乃至10mmであり、好ましくは5μm乃至5mmである。
【0030】
ソース電極1、ドレイン電極3、ゲート電極5には導電性を有する材料が用いられる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO2、ZnO2、SnO2、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等の炭素材料;等が使用できる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていてもよい。ドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸;スルホン酸等の酸性官能基を有する有機酸;PF5、AsF5、FeCl3等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子;等が挙げられる。ホウ素、リン、砒素などはシリコンなどの無機半導体用のドーパントとしても多用されている。
【0031】
また、上記のドーパントにカーボンブラックや金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いられる。直接、半導体と接触するソース電極1およびドレイン電極3はコンタクト抵抗を低減するために適切な仕事関数を選択するか、表面処理などが重要である。
またソース電極とドレイン電極間の距離(チャネル長)がデバイスの特性を決める重要なファクターであり、適正なチャネル長が必要である。チャネル長が短ければ取り出せる電流量は増えるが、コンタクト抵抗の影響などの短チャネル効果が生じ、半導体特性を低下させることがある。該チャネル長は、通常0.01乃至300μm、好ましくは0.1乃至100μmである。ソースとドレイン電極間の幅(チャネル幅)は通常10乃至5000μm、好ましくは40乃至2000μmとなる。またこのチャネル幅は、電極の構造をくし型構造とすることなどにより、さらに長いチャネル幅を形成することが可能で、必要な電流量やデバイスの構造などにより、適切な長さにする必要がある。
【0032】
次にソース電極及びドレイン電極のそれぞれの構造(形)について説明する。ソース電極とドレイン電極の構造はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。
【0033】
ボトムコンタクト構造の場合は、一般的にはリソグラフィー法を用いて各電極を作製し、また各電極は直方体に形成するのが好ましい。最近は各種印刷方法による印刷精度が向上してきており、インクジェット印刷、グラビア印刷又はスクリーン印刷などの手法を用いて精度よく電極を作製することが可能となってきている。半導体上に電極のあるトップコンタクト構造の場合はシャドウマスクなどを用いて蒸着することができる。インクジェットなどの手法を用いて電極パターンを直接印刷形成することも可能となってきている。電極の長さは前記のチャネル幅と同じである。電極の幅には特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で、デバイスの面積を小さくするためには短い方が好ましい。電極の幅は、通常0.1乃至1000μmであり、好ましくは0.5乃至100μmである。電極の厚さは、通常0.5乃至1000nmであり、好ましくは1乃至500nmであり、より好ましくは5乃至200nmである。各電極1、3、5には配線が連結されているが、配線も電極とほぼ同様の材料により作製される。
【0034】
絶縁体層4としては絶縁性を有する材料が用いられる。例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリシロキサン、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体;酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の金属酸化物;SrTiO3、BaTiO3等の強誘電性金属酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物、硫化物、フッ化物などの誘電体;あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー;等が使用しうる。この絶縁体層はリーク電流を少なくするために電気絶縁特性が高いものが好ましく使用できる。それにより膜厚を薄膜化し、絶縁容量を高くすることができ、取り出せる電流が多くなる。また半導体の移動度を向上させるためには絶縁体層表面の表面エネルギーを低下させ、凹凸がなくスムースな膜であることが好ましい。その為に自己組織化単分子膜や、2層の絶縁体層を形成させる場合がある。絶縁体層4の膜厚は、材料によって異なるが、通常1nm乃至100μm、好ましくは5nm乃至50μm、より好ましくは5nm乃至10μmである。
【0035】
半導体層2の材料には、上記の式(1)で表わされる有機半導体化合物を少なくとも1種類含む有機半導体材料を用いることができる。先に示した薄膜の形成方法を用いて、式(1)で表される有機半導体化合物を含む有機薄膜を形成し、半導体層2とすることができる。
半導体層については複数の層を形成してもよいが、単層構造であることがより好ましい。半導体層2の膜厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。A、B及びDに示すような横型の有機トランジスタにおいては、所定以上の膜厚があればデバイスの特性は膜厚に依存しないが、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多いためである。必要な機能を示すための半導体層の膜厚は、通常、1nm乃至1μm、好ましくは5nm乃至500nm、より好ましくは10nm乃至300nmである。
【0036】
有機トランジスタには、例えば基板層と絶縁膜層や絶縁膜層と半導体層の間やデバイスの外面に必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、有機半導体層上に直接、又は他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることができる。また、有機トランジスタデバイスのオン/オフ比を上げることができるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
上記保護層の材料としては特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜;酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等の無機酸化膜;及び窒化膜等の誘電体からなる膜;等が好ましく用いられ、特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が好ましい。有機ELディスプレイ用に開発されているガスバリア性保護材料も使用が可能である。保護層の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を選択できるが、通常100nm乃至1mmである。
【0037】
また有機半導体層が積層される基板又は絶縁体層に予め表面改質や表面処理を行うことにより、有機トランジスタデバイスとしての特性を向上させることが可能である。例えば基板表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その上に成膜される膜の膜質や成膜性を改良することができる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わることがある。そのため、基板、絶縁体層などへの表面処理によって、その後に成膜される有機半導体層との界面部分の分子配向が制御される、あるいは基板や絶縁体層上のトラップ部位が低減されることにより、キャリア移動度等の特性が改良されるものと考えられる。
トラップ部位とは、未処理の基板に存在する例えば水酸基のような官能基をさし、このような官能基が存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果としてキャリア移動度が低下する。従って、トラップ部位を低減することもキャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。
【0038】
上記のような特性改良のための表面処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン等による自己組織化単分子膜処理、ポリマーなどによる表面処理、塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュア・ブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、コロナ放電などの電気的処理、繊維等を利用したラビング処理などがあげられ、それらの組み合わせた処理も行うことができる。
これらの態様において、例えば基板層と絶縁膜層や絶縁膜層と有機半導体層等の各層を設ける方法としては、前記した真空プロセス、溶液プロセスが適宜採用できる。
【0039】
次に、本発明に係る有機トランジスタデバイスの製造方法について、
図1の態様例Bに示すトップコンタクトボトムゲート型有機トランジスタを例として、
図2に基づき以下に説明する。この製造方法は前記した他の態様の有機トランジスタ等にも同様に適用しうるものである。
【0040】
(有機トランジスタの基板及び基板処理について)
本発明の有機トランジスタは、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで作製される(
図2(1)参照)。基板としては上記で説明したものが使用できる。この基板上に前述の表面処理などを行うことも可能である。基板6の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。材料によっても異なるが、通常1μm乃至10mmであり、好ましくは5μm乃至5mmである。また、必要により、基板に電極の機能を持たせるようにする事もできる。
【0041】
(ゲート電極の形成について)
基板6上にゲート電極5を形成する(
図2(2)参照)。電極材料としては上記で説明したものが用いられる。電極膜を成膜する方法としては、各種の方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用される。成膜時又は成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても各種の方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。また、シャドウマスクを用いた蒸着法やスパッタ法やインクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれら手法を複数組み合わせた手法を利用し、パターニングすることも可能である。ゲート電極5の膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm乃至10μmであり、好ましくは0.5nm乃至5μmであり、より好ましくは1nm乃至3μmである。また、ゲート電極と基板を兼ねるような場合は上記の膜厚より大きくてもよい。
【0042】
(絶縁体層の形成について)
ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(
図2(3)参照)。絶縁体材料としては上記で説明した材料が用いられる。絶縁体層4を形成するにあたっては各種の方法を用いることができる。例えばスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、キャスト、バーコート、ブレードコーティングなどの塗布法、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法などのドライプロセス法が挙げられる。その他、ゾルゲル法やアルミニウム上のアルマイト、シリコン上の酸化珪素のように金属上に熱酸化法などにより酸化物膜を形成する方法等が採用される。尚、絶縁体層と半導体層が接する部分においては、両層の界面で半導体を構成する分子、例えば上記式(1)で表される有機半導体化合物の分子を良好に配向させるために、絶縁体層に所定の表面処理を行うこともできる。表面処理の手法は、基板の表面処理と同様のものを用いることができうる。絶縁体層4の膜厚は、その電気容量をあげることで取り出す電気量を増やすことができるため、できるだけ薄い膜であることが好ましい。このときに薄い膜になるとリーク電流が増えるため、その機能を損なわない範囲で薄い方が好ましい。通常0.1nm乃至100μmであり、好ましくは0.5nm乃至50μmであり、より好ましくは5nm乃至10μmである。
【0043】
(有機半導体層の形成について)
本発明の上記式(1)で表される有機半導体化合物を含む有機半導体材料は、有機半導体層の形成に使用される(
図2(4)参照)。有機半導体層を成膜するにあたっては、各種の方法を用いることができる。具体的にはディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法等の塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの溶液プロセスによる形成方法が挙げられる。
【0044】
溶液プロセスによって成膜し有機半導体層を得る方法について説明する。本発明の式(1)で表わされる有機半導体化合物を溶媒等に溶解し、さらに必要であれば添加剤などを添加した組成物を、基板(絶縁体層、ソース電極及びドレイン電極間の露出部)に塗布する。塗布の方法としては、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、シルクスクリーン印刷法、謄写版印刷法、リングラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法が挙げられる。
更に、塗布方法に類似した方法として水面上に上記の組成物を滴下することにより作製した有機半導体層の単分子膜を基板に移し積層するラングミュアプロジェクト法、液晶や融液状態の材料を2枚の基板で挟んで毛管現象で基板間に導入する方法等も採用できる。
【0045】
製膜時における基板や組成物の温度などの環境も重要で、基板や組成物の温度によってトランジスタの特性が変化する場合があるので、注意深く基板及び組成物の温度を選択するのが好ましい。基板温度は通常、0乃至200℃であり、好ましくは10乃至120℃であり、より好ましくは15乃至100℃である。用いる組成物中の溶媒などに大きく依存するため、注意が必要である。
この方法により作製される有機半導体層の膜厚は、機能を損なわない範囲で、薄い方が好ましい。膜厚が厚くなると漏れ電流が大きくなる懸念がある。有機半導体層の膜厚は、通常1nm乃至1μm、好ましくは5nm乃至500nm、より好ましくは10nm乃至300nmである。
【0046】
このように形成された有機半導体層(
図2(4)参照)は、後処理によりさらに特性を改良することが可能である。例えば、熱処理により、成膜時に生じた膜中の歪みが緩和されること、ピンホール等が低減されること、膜中の配列・配向が制御できる等の理由により、有機半導体特性の向上や安定化を図ることができる。本発明の有機トランジスタの作製時にはこの熱処理を行うことが特性の向上の為には効果的である。当該熱処理は有機半導体層を形成した後に基板を加熱することによって行う。熱処理の温度は特に制限は無いが通常、室温から150℃程度で、好ましくは40乃至120℃、さらに好ましくは45乃至100℃である。この時の熱処理時間については特に制限は無いが通常10秒から24時間、好ましくは30秒から3時間程度である。その時の雰囲気は大気中でもよいが、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気下でもよい。その他、溶媒蒸気による膜形状のコントロールなどが可能である。
【0047】
またその他の有機半導体層の後処理方法として、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や、酸化性あるいは還元性の液体などを用いて処理することにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
【0048】
また、ドーピングと呼ばれる手法において、微量の元素、原子団、分子、高分子を有機半導体層に加えることにより、有機半導体層特性を変化させることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸;PF5、AsF5、FeCl3等のルイス酸;ヨウ素等のハロゲン原子;ナトリウム、カリウム等の金属原子;テトラチアフルバレン(TTF)やフタロシアニン等のドナー化合物をドーピングすることができる。これは、有機半導体層に対して、これらのガスを接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは有機半導体層の作製後でなくても、有機半導体化合物の合成時に添加したり、有機半導体デバイス作製用の組成物を用いて有機半導体層を作製するプロセスでは、その組成物に添加したり薄膜を形成する工程段階などで添加することができる。また蒸着時に有機半導体層を形成する材料に、ドーピングに用いる材料を添加して共蒸着したり、有機半導体層を作製する時の周囲の雰囲気に混合したり(ドーピング材料を存在させた環境下で有機半導体層を作製する)、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。
これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられる。
【0049】
(ソース電極及びドレイン電極の形成)
ソース電極1及びドレイン電極3の形成方法等はゲート電極5の場合に準じて形成することができる(
図2(5)参照)。また有機半導体層との接触抵抗を低減するために各種添加剤などを用いることが可能である。
【0050】
(保護層について)
有機半導体層上に保護層7を形成すると、外気の影響を最小限にでき、また、有機トランジスタの電気的特性を安定化できるという利点がある(
図2(6)参照)。保護層の材料としては前記のものが使用される。保護層7の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm乃至1mmである。
保護層を成膜するにあたっては各種の方法を採用しうるが、保護層が樹脂からなる場合は、例えば、樹脂溶液を塗布後、乾燥させて樹脂膜とする方法;樹脂モノマーを塗布あるいは蒸着したのち重合する方法;などが挙げられる。成膜後に架橋処理を行ってもよい。保護層が無機物からなる場合は、例えば、スパッタリング法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法等の溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
有機トランジスタにおいては有機半導体層上の他、各層の間にも必要に応じて保護層を設けることができる。それらの層は有機トランジスタの電気的特性の安定化に役立つ場合がある。
【0051】
上記式(1)で表される有機半導体化合物を有機半導体材料として用いているため、プラスチック基板上に作製した他の構成部材の作製におけるプロセス温度に十分耐えうることができる。その結果、軽量で柔軟性に優れた壊れにくいデバイスの製造が可能になり、ディスプレイのアクティブマトリクスのスイッチングデバイス等として利用することができる。
【0052】
有機トランジスタは、メモリー回路デバイス、信号ドライバー回路デバイス、信号処理回路デバイスなどのデジタルデバイスやアナログデバイスとしても利用できる。さらにこれらを組み合わせることにより、ディスプレイ、ICカードやICタグ等の作製が可能となる。更に、有機トランジスタは化学物質等の外部刺激によりその特性に変化を起こすことができるので、センサーとしての利用も可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
実施例において、融点はStanford Research Systems社製のOptimelt MPA100、核磁気共鳴スペクトルはBruker社製のAvance500、HR-MSはJEOL社製のJMS-T100GCV、元素分析はYanaco社製のMT-6 CHN CORDERを用いて測定した。
尚、実施例における「部」は質量部を意味する。
【0054】
実施例1(下記式7で表される本発明の有機半導体化合物の合成)
(工程1)下記式1で表される化合物の合成
滴下漏斗を取り付け加熱乾燥した500mL四口フラスコ中で、窒素雰囲気下、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン(TMP)15.3mL(90mmol)をテトラヒドロフラン(THF)90mLに溶解させた。-80℃まで冷却した後、ノルマルブチルリチウム(n-BuLi)のモル濃度1.55Mヘキサン溶液58mL(溶液中のノルマルブチルリチウムのモル数;90mmol)をゆっくり滴下した。-80℃で10分間撹拌後、塩化亜鉛-テトラメチルエチレンジアミン錯体8.30部(22.5mmol)を加え、0℃まで昇温した。15分間撹拌後、再び-80℃まで冷却し、2-ブロモ-6-メトキシナフタレン7.11部(30.0mmol)を加えた。反応液を室温まで昇温して2時間撹拌後、ジメチルジスルフィド(MeS-SMe)16.0mL(180mmol)を加えた。17時間撹拌後、2N塩酸を加え、反応溶液を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、反応混合物をろ取してロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた反応混合物をヘキサン:塩化メチレン8:2の混合溶媒を移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、下記式1で表される化合物6.23部(22.0mmol、収率73%)を白色固体として得た。
【0055】
【0056】
工程1で得られた式1で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. 86.2-86.8℃
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ (ppm) 7.85 (d, 1H, J = 1.6 Hz), 7.56 (d, 1H, J = 8.8 Hz), 7.43 (dd, 1H, J = 8.8, 2.0 Hz), 7.32 (s, 1H), 7.03 (s, 1H), 3.99 (s, 3H), 2.53 (s, 3H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ (ppm) 154.63, 131.42, 130.40, 130.33, 128.52, 128.38, 128.07, 121.53, 117.59, 104.47, 55.93, 14.32.
HRMS (EI) m/z: Calcd for C12H11BrOS [M]+: 281.9714. Found: 281.9726.
Elemental analysis: Calcd for C12H11BrOS: C, 50.90; H, 3.92. Found: C, 50.73; H, 3.85.
【0057】
(工程2)下記式2で表される化合物の合成
500mL四口フラスコ中で、工程1で得られた式1で表される化合物5.66部(20.0mmol)を塩化メチレン150mLに溶解させた。0℃で三臭化ホウ素(BBr3)のモル濃度1.0M塩化メチレン溶液25mL(溶液中の三臭化ホウ素のモル数;25mmol)をゆっくり滴下した。9時間撹拌した後、氷水に注ぎ入れ、反応溶液を塩化メチレンで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、反応混合物をろ取してロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた反応混合物を再結晶により精製し、下記式2で表される化合物5.28部(19.6mmol、98%)を白色固体として得た。
【0058】
【0059】
工程2で得られた式2で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. 123.4-123.7℃
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ (ppm) 152.87, 133.25, 132.37, 130.18, 129.92, 129.18, 128.09, 125.92, 117.40, 109.29, 19.53.
HRMS (EI) m/z: Calcd for C11H9BrOS [M]+: 267,9558. Found: 267.9574.
Elemental analysis: Calcd for C11H9BrOS: C, 49.09; H, 3.37. Found: C, 48.99; H, 3.38.
【0060】
(工程3)下記式3で表される化合物の合成
500mL四口フラスコ中で、工程2で得られた式2で表される化合物5.20部(19.3mmol)を塩化メチレン120mLに溶解させた。そこにトリエチルアミン6.4mL(46mmol)を添加して0℃まで冷却した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物3.9mL(23mmol)をゆっくり滴下した。1時間撹拌後、1N塩酸を加え、反応溶液を塩化メチレンで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、反応混合物をろ取してロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた反応混合物をヘキサン:塩化メチレン3:7の混合溶媒を移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、下記式3で表される化合物7.59部(18.9mmol、収率98%)を白色固体として得た。
【0061】
【0062】
工程3で得られた式3で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. 73.2-74.6℃
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 7.95 (d, 1H, J = 1.5 Hz), 7.68 (s, 1H), 7.65 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 7.55 (dd, 1H, J = 8.5, 2.0 Hz), 7.53 (s, 1H), 2.59 (s, 3H).
HRMS (EI) m/z: Calcd for C12H8BrF3O3S2 [M]+: 399.9050. Found: 399.9065.
Elemental analysis: Calcd for C12H8BrF3O3S2: C, 35.92; H, 2.01. Found: C, 35.76; H, 2.09.
【0063】
(工程4)下記式4で表される化合物の合成
2L四口フラスコ中で、工程3で得られた式3で表される化合物22.47部(56.00mmol)を塩化メチレン1000mLに溶解させた。0℃まで冷却後、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)の20質量%水溶液13.10部(水溶液中のメタクロロ過安息香酸のモル数;60.70mmol)をゆっくり加えた。6時間撹拌後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液でクエンチし、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、反応混合物をろ取してロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた反応混合物を塩化メチレン:酢酸エチル=19:1の混合溶媒を移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、下記式4で表される化合物22.81部(54.67mmol、98%)を白色固体として得た。
【0064】
【0065】
工程4で得られた式4で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. 122.0-122.4℃
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.42 (s, 1H), 8.19 (d, 1H, J = 1.5 Hz), 7.83 (s, 1H), 7.81 (d, 1H, J = 9.0 Hz), 7.76 (dd, 1H, J = 8.5 Hz, 2.0 Hz), 2.90 (s, 3H).
HRMS (EI) m/z: Calcd for C12H8BrF3O4S2 [M]+: 415.9000. Found: 415.9023.
Elemental analysis: Calcd for C12H8BrF3O4S2: C, 34.55; H, 1.93. Found: C, 34.40; H, 1.98.
【0066】
(工程5)下記式5で表される化合物の合成
500mL四口フラスコ中で、工程4で得られた式4で表される化合物4.17部(10.0mmol)、2-トリメチルスタニル(ナフト[2,3-b]チオフェン)3.61部(10.4mmol)、塩化リチウム1.27部(30.0mmol)およびPd(PPh3)4 0.14部(0.20mmol)を1,4-ジオキサン125mLに溶解させた。前記で得られた混合溶液を50℃で48時間撹拌した後、水でクエンチし、反応溶液を塩化メチレンで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、反応混合物をろ取してロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた反応混合物を再結晶により精製し、下記式5で表される化合物4.27部(94.5mmol、収率95%)を黄色固体として得た。
【0067】
【0068】
工程5で得られた式5で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. 262.9-264.9℃
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.56 (s, 1H), 8.37 (s, 1H), 8.36 (s, 1H), 8.20 (d, 1H, J = 1.5 Hz), 8.06 (s, 1H), 8.01-7.99 (m, 1H), 7.95-7.93 (m, 1H), 7.82 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.71 (dd, 1H, J = 8.5, 1,5 Hz), 7.61 (s, 1H), 7.55-7.49 (m, 2H), 2.55 (s, 3H)
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ (ppm) 143.62, 139.89, 139.08, 138.18, 133.92, 132.29, 131.81, 131.42, 131.31, 130.83, 130.58, 129.62, 128.58, 128.33, 127.31, 125.97, 125.49, 124.17, 123.95, 122.72, 122.14, 120.47, 42.14.
HRMS (EI) m/z: Calcd for C23H15BrOS2 [M]+: 449.9748. Found:449.9753.
Elemental analysis: Calcd for C23H15BrOS2: C, 61.20; H, 3.35. Found: C, 61.19; H, 3.36.
【0069】
(工程6)下記式6で表される化合物の合成
50mLフラスコに工程5で得られた式5で表される化合物226mg(0.500mmol)およびイートン試薬10mLを加えた。室温で4日間撹拌した後、氷水に注ぎ入れ、ろ過することで黄色固体を得た。この黄色固体をピリジン35mLに懸濁させ、20時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、メタノールに注ぎ入れ、ろ過することで黄色固体を得た。得られた反応混合物を加熱したクロロホルムを移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、さらに昇華精製することにより、下記式6で表される化合物140mg(0.343mmol、収率69%)を黄色微結晶として得た。
【0070】
【0071】
工程6で得られた式6で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. > 350℃
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.46 (s, 1H), 8.42 (s, 1H), 8.37 (s, 2H), 8.14 (s, 1H), 8.10-8.00 (br, 2H), 7.93 (d, 1H, J = 8.5 Hz), 7.62 (dd, 1H, J = 9.0 Hz, 2.0 Hz) 7.58-7.56 (br, 2H).
HRMS (EI) m/z: Calcd for C22H11BrS2 [M]+: 417.9486. Found: 417.9495.
Elemental analysis: Calcd for C22H11BrS2: C, 63.01; H, 2.64. Found: C, 62.90; H, 2.71.
【0072】
(工程7)下記式7で表される本発明の有機半導体化合物の合成
30mL四口フラスコに、6mLのTHFと削り状マグネシウム194mg(8.0mmol)を加えて懸濁液とし、1,2-ジブロモエタンを数滴加えて攪拌した。続いて、1-ブロモ-4-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)ブタン1.02部(4.0mmol)を加えて50℃で12時間攪拌した。生じた反応液を20mLのTHFで希釈した(濃度0.09M)。調整したグリニャール試薬の内の7.0mL(0.63mmol)を30mL四口フラスコに測り取り、次いで工程6で得られた式6で表される化合物104mg(0.25mmol)と[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド7.3mg(0.01mmol)を加えた。混合物を還流下において30時間反応させた。反応液を室温まで冷ました後、100mLの水を加え、100mLのクロロホルムで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過により硫酸マグネシウムを取り除き、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製と、続くクロロホルムとメタノールを用いた晶析により下記式7で表される本発明の有機半導体化合物104mg(0.202mmol、収率81%)を黄色固体として得た。
【0073】
【0074】
工程7で得られた式7で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. 348.7℃
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.41 (s, 1H), 8.35 (s, 1H), 8.33 (s, 1H), 8.31 (s, 1H), 8.04-8.01 (m, 1H), 7.95-7.93 (m, 2H), 7.69 (d, J = 1.5 Hz, 1H), 7.54-7.51 (m, 2H), 7.38 (dd, J = 8.5, 1.5 Hz, 1H), 3.66-3.64 (m, 4H), 3.62-3.59 (m, 2H), 3.56-3.51 (m, 4H), 3.37 (s, 3H), 2.85 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 1.85-1.79 (m, 2H), 1.73-1.67 (m, 2H).
13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ (ppm) 140.9, 140.8, 140.3, 133.9, 133.3, 132.5, 131.8 (two peaks seem to be overlapped) , 131.4, 131.3, 129.9, 128.3, 128.2, 127.5, 127.4, 125.8, 125.64, 125.61, 122.4, 121.8, 120.0, 119.9, 72.0, 71.3, 70.7, 70.6, 70.2, 59.0, 36.0, 29.4, 27.7.
HRMS (FD) m/z: [M]+ calcd for C31H30O3S2, 514.1636; found, 514.1637.
Elemental analysis: Calcd for C31H30O3S2: C, 72.34; H, 5.88. Found: C, 72.17; H, 5.85.
【0075】
実施例2(下記式8で表される本発明の有機半導体化合物の合成)
(工程8)
耐圧バイアル中に、工程6で得られた式6で表される化合物75mg(0.18mmol)、1.6Mのナトリウム2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)エタン-1-オレート0.6mL(0.96mmol)、ヨウ化銅(I)8.6mg(0.045mmol)、N1,N2-ジフェネチルオキサラミド(DPEO)13.3mg(0.045mmol)およびTHF5mLを投入し、マイクロウェーブ反応器を用いて140℃で90分反応を行った。反応溶液に水20mLを加え、クロロホルムで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。セライトろ過により固形分を除去したのち、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製と、続くクロロホルムとヘキサンによる晶析による精製を行い、下記式8で表される本発明の有機半導体化合物70mg(0.14mmol、収率77%)を黄色固体として得た。
【0076】
【0077】
工程8で得られた式8で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. 373.7℃
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.41 (s, 1H), 8.34 (s, 1H), 8.28 (s, 1H), 8.27 (s, 1H), 8.04-8.01 (m, 1H), 7.96-7.94 (m, 1H), 7.92 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.54-7.51 (m, 2H), 7.24 (dd, J = 8.5 Hz, 2.5 Hz, 1H), 7.21 (d, J = 2.5 Hz, 1H), 4.31 (t, J = 4.8 Hz, 2H), 3.97 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 3.81-3.79 (m, 2H), 3.73-3.71 (m, 2H), 3.69-3.67 (m, 2H), 3.57-3.55 (m, 2H), 3.39 (s, 3H).
13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ (ppm) 157.0, 141.6, 140.8, 134.0, 132.7, 132.55, 132.51, 131.4, 131.3, 130.7, 129.8, 128.3, 127.4, 127.2, 125.8, 125.6, 122.4, 120.9, 120.1, 119.8, 119.7, 105.6, 72.0, 71.0, 70.8, 70.7, 69.8, 67.6, 59.1.
HRMS (FD) m/z: [M]+ calcd for C29H26O4S2, 502.1273; found, 502.1273.
Elemental analysis: Calcd for C29H26O4S2: C, 69.30; H, 5.21. Found: C, 68.98; H, 5.26.
【0078】
実施例3(下記式9で表される本発明の有機半導体化合物の合成)
(工程9)
10mL四口フラスコ中に、工程6で得られた式6で表される化合物42mg(0.10mmol)、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-1-チオール54mg(0.30mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)クロロホルム付加体5.2mg(0.005mmol)、4,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9’-ジメチルキサンテン(Xantphos)6.9mg(0.012mmol)、炭酸カリウム21mg(0.15mmol)およびp-キシレン2mLを投入し攪拌した。混合液にアルゴンガスを2分間バブリングすることで脱気を行い、加熱還流下14時間反応を行った。反応後、反応溶液に水20mLを加え、クロロホルムで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。セライトろ過により固形分を除去したのち、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製と、続くクロロホルムとメタノールによる晶析を行い、下記式9で表される本発明の有機半導体化合物38mg(0.073mmol、収率73%)を黄色固体として得た。
【0079】
【0080】
工程9で得られた式9で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び
元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. > 400℃
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.42 (s, 1H), 8.36 (s, 1H), 8.31 (s, 1H), 8.30 (s, 1H), 8.05-8.03 (m, 1H), 7.96-7.92 (m, 2H), 7.86 (d, J = 2.0 Hz, 1H), 7.55-7.52 (m, 2H), 7.47 (dd, J = 8.5, 2.0 Hz, 1H), 3.77 (t, J = 7.0 Hz, 2H), 3.69-3.64 (m, 6H), 3.55-3.53 (m, 2H), 3.37 (s, 3H), 3.29 (t, J = 7.0 Hz, 2H).
13C NMR (CDCl3, 125 MHz): δ (ppm) 141.7, 140.8, 134.1, 133.82, 133.76, 132.3, 132.2, 131.7, 131.5, 131.3, 129.6, 128.8, 128.3, 127.4, 127.1, 126.0, 125.8, 125.7, 122.5, 121.5, 120.12, 120.0, 72.0, 70.69, 70.65, 70.57, 70.0, 59.1, 32.9.
HRMS (FD) m/z: [M]+ calcd for C29H26O3S3, 518.1044; found, 518.1044.
Elemental analysis: Calcd for C29H26O3S3: C, 67.15; H, 5.05. Found: C, 67.01; H, 5.05.
【0081】
実施例4(下記式10で表される本発明の有機半導体化合物の合成)
(工程10)
10mL四口フラスコ中に、工程6で得られた式6で表される化合物63mg(0.15mmol)、2-(5-(4-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)ブチル)チオフェン-2-イル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン173mg(0.45mmol)、酢酸ジパラジウム(II)0.7mg(0.003mmol)、S-Phos2.6mg(0.0063mmol)、リン酸カリウム184mg(0.8mmol)、トルエン4.5mL、および水0.5mLを投入し攪拌した。混合液にアルゴンガスを5分間バブリングすることで脱気を行い、加熱還流下12時間反応を行った。反応後、セライトろ過により固形分を濾別し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製と、続くクロロホルムとメタノールによる晶析を行い、下記式10で表される本発明の有機半導体化合物77mg(0.13mmol、収率86%)を黄色固体として得た。
【0082】
【0083】
工程10で得られた式10で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
【0084】
m.p. 385.5℃
1H NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.42 (s, 1H), 8.39 (s, 1H), 8.37 (s, 1H), 8.32 (s, 1H), 8.07 (d, J = 2.0 Hz, 1H) 8.06-8.03 (m, 1H), 8.01 (d, J = 8.5 Hz, 1H) 7.97-7.94 (m, 1H), 7.76 (dd, J = 8.5, 2.0 Hz, 1H), 7.55-7.52 (m, 2H), 7.31 (d, J = 3.5 Hz, 1H), 6.82 (d, J = 3.5 Hz, 1H), 3.68-3.66 (m, 4H), 3.63-3.61 (m, 2H), 3.57-3.52 (m, 4H), 3.38 (s, 3H), 2.90 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 1.85-1.79 (m, 2H), 1.75-1.70 (m, 2H).
13C NMR (CDCl3, 50 °C, 175 MHz): δ (ppm) 146.0, 141.9, 141.7, 141.0, 134.1, 133.9, 132.6, 132.5, 132.4, 131.9, 131.7, 131.5, 130.5, 128.9, 128.4, 127.4, 126.0, 125.7, 125.5, 124.3, 123.5, 122.9, 122.5, 122.4, 120.2, 120.0, 72.2, 71.2, 70.9, 70.7, 70.4, 59.0, 30.2, 29.3, 28.3.
HRMS (FD) m/z: [M]+ calcd for C35H32O3S3, 596.1514; found, 596.1515.
Elemental analysis: Calcd for C35H32O3S3: C, 70.44; H, 5.40. Found: C, 70.42; H, 5.45.
【0085】
比較例1(下記式11で表される比較用化合物の合成)
(工程11)
50mLシュレンク管に亜鉛粉末0.49部(7.5mmol)と塩化リチウム0.36部(8.6mmol)を加え、真空下で加熱乾燥した後、窒素置換した。アルゴン置換した耐圧バイアルに工程6で得られた式6で表される化合物132mg(0.315mmol)、(トリメチルシリルエチニル)トリブチルスズ182mg(0.469mmol)、Pd(PPh3)4 9.5mg(0.0082mmol)およびトルエン19mLを加え、マイクロウェーブ反応器で180℃1時間加熱した。反応溶液を、塩化メチレンを移動相とするシリカゲルクロマトグラフィーで精製し、さらに昇華精製することにより、下記式11で表される比較用化合物99mg(0.228mmol、収率72%)を黄色固体として得た。
【0086】
【0087】
工程11で得られた式11で表される化合物の融点、核磁気共鳴スペクトル、HR-MSスペクトル及び元素分析の結果は、以下のとおりであった。
m.p. > 350℃
1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): δ (ppm) 8.43 (s, 1H), 8.39 (s, 1H), 8.36 (s, 1H), 8.32 (s, 1H), 8.10 (d, 1H), 8.04 (dt, 1H, J = 4.5 Hz, 2.0 Hz), 7.96 (m, 1H), 7.95 (m, 1H) 7.55-7.35 (m, 3H), 0.311 (s, 9H).
13C NMR (C2D2Cl4, 120 °C, 100 MHz): δ (ppm) 141.77, 141.03, 134.52, 133.93, 133.15, 132.40, 131.82, 131.53, 131.33, 131.03, 130.77, 128.56, 128.31, 128.10, 127.33, 126.11, 125.08, 122.50, 122.26, 121.05, 120.24, 119.93, 105.67, 96.01, 0.04.
HRMS (EI) m/z: Calcd for C27H20S2Si [M]+: 436.0776. Found: 436.0779.
Elemental analysis: Calcd for C27H20S2Si: C, 74.27; H, 4.62. Found: C, 74.18; H, 4.71.
【0088】
(溶解度の評価)
実施例1乃至4及び比較例1で得られた有機半導体化合物の粉末約1mgをバイアルに量り取り、正確に質量を測定した。そこにクロロホルムを加えていき、有機半導体化合物が完全に溶解した時点までに加えたクロロホルムの体積を確認した。有機半導体化合物の質量と前記クロロホルムの添加量から溶解度(有機半導体化合物の質量[g]/加えたクロロホルムの体積[L])を算出した。尚、完全に溶解した時点の見極めは目視確認により行った。比較例2は特許文献3に記載の下記式12で表される化合物の測定データをまた、比較例3は特許文献4に記載の下記式13で表される化合物の測定データを引用した。結果を表1に示した。
【0089】
【0090】
【0091】
実施例1乃至4で得られた本発明のエチレングリコール基を有する化合物は良好な溶解性を示した。一方、比較例1で得られた直鎖アルキル基を有する比較用の化合物や比較例2のアルキニル基を有する化合物は溶媒への溶解性が低く、有機半導体材料として溶液プロセスに用いることは困難である。
【0092】
実施例5(本発明の有機エレクトロニクスデバイス(有機トランジスタ)の作製)
実施例1で得られた式7で表される有機半導体化合物にクロロホルムを加え、加熱することで3mg/mLの溶液を調製した。この溶液を用いて、オクチルトリメトキシシランにより表面処理を施したSiO
2熱酸化膜付きnドープシリコウエハー上にスピンコート法により有機薄膜を作製し、次いで、前記で得られた有機薄膜上にシャドウマスクを用いてAuを真空蒸着してソース電極及びドレイン電極を作製することによりトップコンタクト型の有機トランジスタを得た。得られた有機トランジスタのチャネル長は20μm、チャネル幅は100μmであった。
図1Bはトップコンタクト型の有機トランジスタの構造を示すものである。尚、本実施例の有機トランジスタにおいては、nドープシリコンウェハー上の熱酸化膜が絶縁層4の機能を有し、nドープシリコンウェハーが基板6及びゲート電極5の機能を兼ね備えている。
【0093】
実施例6乃至8(本発明の有機エレクトロニクスデバイス(有機トランジスタ)の作製)
実施例1で得られた式7で表される有機半導体化合物を、実施例2乃至4で表される式8乃至10で表される有機半導体化合物にそれぞれ変更した以外は実施例5に準じて、トップコンタクト型の有機トランジスタをそれぞれ得た。
【0094】
比較例4(比較用の有機エレクトロニクスデバイス(有機トランジスタ)の作製)
実施例1で得られた式7で表される有機半導体化合物を、比較例3の式13で表される有機半導体化合物に変更した以外は実施例5に準じて、比較用のトップコンタクト型の有機トランジスタを得た。
【0095】
(有機エレクトロニクスデバイス(有機トランジスタ)の特性評価)
有機トランジスタの性能は、ゲート電極に電位をかけた状態でソース電極とドレイン電極の間に電位をかけた時に流れた電流量に依存する。この電流値の測定結果を、有機半導体層中に生じるキャリア種の電気的特性を表現する下記式(a)に用いることにより、移動度を算出することができる。
Id=ZμCi(Vg-Vt)2/2L・・・(a)
式(a)中、Idは飽和したソース・ドレイン電流値、Zはチャネル幅、Ciは絶縁体の電気容量、Vgはゲート電位、Vtはしきい電位、Lはチャネル長であり、μは決定する移動度(cm2/Vs)である。Ciは用いたSiO2絶縁膜の誘電率、Z、Lは有機トランジスタデバイスのデバイス構造よりに決まり、Id、Vgは有機トランジスタデバイスの電流値の測定時に決まり、VtはId、Vgから求めることができる。式(a)に各値を代入することで、それぞれのゲート電位での移動度を算出することができる。
【0096】
実施例5乃至8及び比較例1で得られた有機トランジスタについて、ドレイン電圧-30Vの条件で、ゲート電圧を+20V乃至-80Vまで掃引した場合のドレイン電流変化を測定し、その結果から正孔移動度とオン電流とオフ電流の比を算出した。結果を表2に示した。
【0097】
【0098】
本発明の有機半導体化合物は、母骨格近傍が直鎖の置換基(実施例1乃至3)または平面である芳香族置換基(実施例4)であるため母骨格の配向に影響を与えにくく、10-2~10-1オーダーの高い移動度となった。一方、母骨格中心に立体障害が大きな置換基を有する比較例3の化合物では移動度が10-3オーダーと低い値となった。
【0099】
本発明の式(1)で表される有機半導体化合物は溶媒に対する溶解性に優れるため、該縮合多環芳香族化合物及び有機溶媒を含有する有機半導体組成物から容易に有機薄膜を成形可能であり、しかも該有機薄膜を有する有機トランジスタは、正孔移動度10-1cm2/Vsオーダー、オン/オフ比103~105の優れたトランジスタ特性を発現した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の溶液プロセス用有機半導体材料は有機溶媒への可溶性に優れるため、塗布法などの印刷プロセスにおいて有機半導体デバイスを作成する際に好適に用いられると共に、該化合物を用いて得られる有機薄膜を有する有機半導体デバイスは、良好な半導体特性を発現する。よって、本発明は有機トランジスタデバイス、ダイオード、コンデンサ、薄膜光電変換デバイス、色素増感太陽電池、有機ELデバイス等の分野に利用することが可能である。