IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社NIPPOの特許一覧 ▶ 村樫石灰工業株式会社の特許一覧 ▶ 三井・デュポンフロロケミカル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】塵埃抑制処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/22 20060101AFI20230724BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20230724BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
C09K3/22 G
C09K3/22 E
C08L27/18
C08K5/092
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018246587
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105419
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】590002482
【氏名又は名称】株式会社NIPPO
(73)【特許権者】
【識別番号】000203047
【氏名又は名称】村樫石灰工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000174851
【氏名又は名称】三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓治
(72)【発明者】
【氏名】森 宏介
(72)【発明者】
【氏名】麦沢 正輝
(72)【発明者】
【氏名】乙女 喜文
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-185956(JP,A)
【文献】国際公開第2008/062653(WO,A1)
【文献】特開2001-026763(JP,A)
【文献】特開2006-225172(JP,A)
【文献】特開2016-130206(JP,A)
【文献】特開2012-077312(JP,A)
【文献】特開2014-080543(JP,A)
【文献】特表2014-529503(JP,A)
【文献】特開2000-342952(JP,A)
【文献】国際公開第2007/000812(WO,A1)
【文献】国際公開第1997/017382(WO,A1)
【文献】特開平08-020767(JP,A)
【文献】特開昭64-081883(JP,A)
【文献】特開昭52-032877(JP,A)
【文献】特開2020-105417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C04B 2/00-40/06
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塵埃抑制処理剤組成物を、発塵性粉末状物質と混合して得られた混合物に20~200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、PTFEをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法において、
前記塵埃抑制処理剤組成物が、コハク酸をPTFEの質量当たり0.5~2質量%の量で含有するpHが5~8の範囲にあるPTFEの水性分散液からなり、
前記発塵性粉末状物質が、セメント類、消石灰、生石灰粉末、鉱産物粉末、粘土鉱物粉、金属、非鉄金属の製造工程で副生されるスラグ粉末、石炭、燃焼灰粉末、石膏粉末、粉末状金属、カーボンブラック、活性炭粉、セラッミックス粉、顔料から選ばれる、固体粒子状物質が空気中に飛散し浮遊し、塵埃を発生する発塵性粉末状物質であることを特徴とする、発塵性物質の塵埃抑制処理方法。
【請求項2】
前記塵埃抑制処理剤組成物の含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下である請求項記載の塵埃抑制処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防塵効果が高く、分散安定性及び再分散性に優れたポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEという)の水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いた塵埃抑制処理方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、分散安定剤として水中の酸解離定数(pKa)が1~6である酸を含むPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いた塵埃抑制処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塵埃を出す物質の塵埃を抑制する技術は、健康上、安全上、環境上その他の要請から、生活のためにまた産業のために重要な技術である。
このような塵埃抑制技術としては、下記特許文献1に、PTFEを粉末状物質と混合し、該混合物に約20~200℃の温度で圧縮-せん断作用を施すことによりPTFEをフィブリル化して粉末状物質の塵埃発生を抑制する方法が提案されている。
【0003】
同提案に記載されているPTFEは、組成としてはテトラフルオロエチレンのホモポリマーで形態としてはファインパウダー又はエマルジョンであるテフロン(登録商標)6又はテフロン(登録商標)30、並びに組成としてはテトラフルオロエチレンの変性ポリマーで形態としては同じくファインンパウダーであるテフロン(登録商標)6Cなどである。
【0004】
また、下記特許文献2には、PTFEに対して1.0質量%以上の炭化水素系アニオン界面活性剤を含有する水性エマルジョンを使用する安定性のよい塵埃抑制方法が提案されており、粉末状物質について塵埃抑制効果があることが示されている。同公報によれば、PTFEの粒子は、下記特許文献3に開示されている乳化重合法、即ちテトラフルオロエチレンを水溶性重合開始剤及びフルオロアルキル基を疎水基とするアニオン系界面活性剤(以下、含フッ素乳化剤という)を乳化剤として含む水性媒体中に圧入、重合させることにより、水性エマルジョンの形態で製造されるが、安定性を増すためにさらに乳化安定剤が添加されている。
【0005】
更に、下記特許文献4には、含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下である含フッ素重合体水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いることにより、塵埃抑制効果があって、環境への影響を懸念することなく塵埃を抑制できる方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法で塵埃抑制処理剤として用いられるPTFEは高分子量であり、その水性分散液は長期間静置された場合には沈降し易く、一度沈降したPTFEは強固に固まり再分散し難いという問題が有り、PTFE水性分散液中のPTFE濃度の低下を引き起こすなど、使用条件によっては本来PTFEが備えている塵埃抑制効果を十分に発揮できなくなるおそれがあった。
そこで本発明者らは、分散安定性及び再分散性に優れ、塵埃抑制効果が有り且つ環境への影響を懸念することなく塵埃を抑制できる方法の開発に鋭意注力した結果、本発明に到達したものである。
【0007】
【文献】特公昭52-32877号公報
【文献】特開平8-20767号公報
【文献】米国特許第2,559,752号公報
【文献】国際公開公報WO2007/000812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、PTFE水性分散液中の高分子量PTFEが、長期間静置された場合には沈降し易く、一度沈降したPTFEは強固に固まり再分散し難いという問題に着目して、分散安定性及び再分散性に優れたPTFE水性分散液を用いる塵埃抑制処理方法の開発を進めた。
すなわち、本発明は、分散安定性及び再分散性に優れ且つ環境問題の可能性が低いPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いた、塵埃抑制効果が高く且つ環境問題の可能性が低い発塵性物質の塵埃抑制処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、塵埃抑制処理剤組成物を、発塵性粉末状物質と混合して得られた混合物に20~200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことにより、PTFEをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法において、前記塵埃抑制処理剤組成物が、コハク酸をPTFEの質量当たり0.5~2質量%の量で含有するpHが5~8の範囲にあるPTFEの水性分散液からなり、前記発塵性粉末状物質が、セメント類、消石灰、生石灰粉末、炭酸カルシウム、鉱産物粉末、粘土鉱物粉、金属、非鉄金属の製造工程で副生されるスラグ粉末、石炭、燃焼灰粉末、石膏粉末、粉末状金属、カーボンブラック、活性炭粉、セラッミックス粉、顔料から選ばれる、固体粒子状物質が空気中に飛散し浮遊し、塵埃を発生する発塵性粉末状物質であることを特徴とする、発塵性物質の塵埃抑制処理方法を提供する。
【0010】
本発明の塵埃抑制処理方法においては、前記塵埃抑制処理剤組成物の含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であること、が好適な態様である。
【0011】
本発明はまた、前記した塵埃抑制処理方法によって得られる、塵埃が抑制された発塵性物質の塵埃抑制処理物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、分散安定性及び再分散性に優れ且つ環境問題の可能性が低いPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を用いた、塵埃抑制効果が高く且つ環境問題の可能性が低い発塵性物質の塵埃抑制処理方法が提供される。
本発明により、優れた発塵性物質の塵埃抑制処理方法によって処理された、発塵が抑制され、かつ環境問題の可能性が低い発塵性物質の塵埃抑制処理物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、酸解離定数(pKa)が1~6である酸から選択される少なくとも1種を含有するPTFEの水性分散液からなる塵埃抑制処理剤組成物を、発塵性物質と混合し、該混合物に約20~200℃の温度で圧縮-せん断作用を施すことにより、PTFEをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する、発塵性物質の塵埃抑制処理方法、ならびに発塵性物質の塵埃抑制処理物を提供する。
【0014】
本発明のPTFEとしては、ホモポリマーと呼ばれるテトラフルオロエチレンの単独重合体(PTFE)と、変性ポリマーと呼ばれる1%以下のコモノマーを含むテトラフルオロエチレンの共重合体(変性PTFE)が挙げられる。PTFEはTFEのホモポリマーであることが好ましい。
変性PTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤は、PTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤に比べ塵埃抑制効果が低く、同じ塵埃抑制効果を出すためにしばしば50%以上多い量の処理剤を使用しなければならないことがある。
【0015】
本発明に用いるPTFE水性分散液中のPTFEは、平均粒径0.1~0.5μm程度、好ましくは0.1~0.3μm程度のコロイド粒子であることが望ましい。平均粒径が0.1μm未満のコロイド粒子は防塵効果が低く、一方平均粒径が0.5μmを超えるコロイド粒子の水性分散液は安定性が低いという欠点がある。
また、比重は2.27以下、好ましくは2.22以下、より好ましくは2.20以下であることが望ましい。比重が2.27を越えるPTFEも防塵効果が低いという欠点がある。
【0016】
本発明に用いるPTFE水性分散液中のPTFE濃度は特に限定されないが、塵埃発生物質への含フッ素重合体の分散効果を高めるためには、その濃度が低いほど好ましい。一方、PTFE水性分散液を輸送する際にはその濃度が高いほど輸送コストを節約できるため、通常10質量%以上、好ましくは20~70質量%の範囲であることが望ましい。更に高い濃度はPTFE水性分散液の安定性を損ねるため好ましくない。従って、製品として販売される塵埃抑制処理剤組成物中のPTFE濃度は、20~70質量%であり、塵埃発生物質へ混合するときはそれを水で希釈して5質量%以下のPTFE濃度として使用することも可能である。
【0017】
本発明の酸は、酸解離定数(pKa)が1~6、好ましくは2~6、より好ましくは4~6である酸から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
酸解離定数(pKa)は、水溶液中での解離し易さ(水素イオンの放出し易さ)を示し、酸解離定数が大きいほど弱酸(弱酸性)であることを示している。
この様な酸は、PTFE水性分散液中のPTFEの分散性及び再分散性を向上させることが可能となる。従って、酸解離定数が1未満の場合にはPTFEの凝集を引き起こしやすくなるため好ましくなく、酸解離定数が6を超える場合には分散安定効果が低くなるため好ましくない。
【0018】
この様な酸としては、HOC-(CH)n-COH(n=0~4)で示されるジカルボン酸である、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸から選択される少なくとも一種或いはそれらの混合物を好適に使用できる。より好ましくはアルキルジカルボン酸であり、より好ましくはエチレンジカルボン酸(コハク酸)が挙げられる。ジカルボン酸の場合、酸解離定数(pKa)として2つの値が得られるが、本発明においてはこれら2つの値の何れも1~6、好ましくは2~6、より好ましくは4~6の範囲であることが望ましい。
この様なジカルボン酸の添加量は、PTFEの質量当たり0.5質量%以上であり、好ましくは1~2質量%の範囲である。添加量が0.5質量%未満の場合にはPTFE水性分散液の分散安定効果が低く、また2質量%を超える場合にはPTFEの凝集を引き起こすため好ましくない。
【0019】
本発明の塵埃抑制処理剤組成物のpHは5~8、好ましくは5~7であることが望ましい。従来の塵埃抑制処理剤組成物のpHは、塵埃抑制処理剤組成物の長期保存におけるバクテリアの繁殖を防ぐため、そのpHは9~10のアルカリ性を示すが、pHが9~10の場合、分散安定性が低いため好ましくない。また、pHが1~4の酸性の場合はPTFEが凝集を引き起こしやすくなるため好ましくない。
【0020】
本発明に用いるPTFE水性分散液に含まれる含フッ素乳化剤は、難分解性であり環境への蓄積が懸念されるので含有率は低い事が望まれ、実用的な除去方法で含フッ素乳化剤の安定した含有率での製造が可能な50ppm以下であることが好ましい。
【0021】
含フッ素乳化剤の含有率が50ppm以下であるPTFE水性分散液を得る方法には特に制限がないが、例えば前述した特許文献3に開示されているような乳化重合法、即ちテトラフルオロエチレンを水溶性重合開始剤及び乳化剤としてフルオロアルキル基を疎水基とするアニオン系界面活性剤(含フッ素乳化剤)を含む水性媒体中に圧入、重合して得られる、含フッ素乳化剤(アンモニウム塩及び/又はアルカリ塩の形のパーフルオロオクタン酸)をPTFEの質量に対し約0.02~1質量%含む水性分散液から、含フッ素乳化剤を公知の除去方法、例えば特表2005-501956号(WO2003/020836)及び特表2002-532583号(WO00/35971)に記載される有効量の陰イオン交換体と接触させ分離して除去する方法、或いは米国特許第4,369,226号に記載される含フッ素重合体水性分散液の限外ろ過により除去する方法、にて除去することにより得ることができる。含フッ素乳化剤の除去方法はこれらに限定されるものではない。
【0022】
PTFE水性分散液に乳化剤として含まれる界面活性剤(含フッ素乳化剤)は、重合における反応不活性の故に不可欠のものではあるが難分解性で環境への影響が懸念されるため、塵埃抑制処理剤から出来るだけ除去されることが望ましい。また、含フッ素乳化剤は高価であるため回収され再利用されることが望ましい。
【0023】
前記した本発明に用いるPTFE水性分散液を得る乳化重合法において、乳化剤としては前述した特許文献3に開示されている乳化剤を選択して使用することができるが、本発明の目的のためには、特に非テロゲン性乳化剤と呼ばれることがある乳化剤が好ましく、たとえば炭素数6~20程度、好ましくは炭素数6~12程度のF(CF)n(CH)mCOOH(m:0または1、n:6~20)で表されるフッ素含有アルカン酸またはその塩、フッ素含有アルキルスルホン酸またはその塩などを挙げることができる。塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などを挙げることができる。具体的には、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタン酸、及びそれらの塩、2-パーフルオロヘキシルエタンスルホン酸及びその塩などを挙げることができるがこれに限られるものではない。
【0024】
更に、本発明に用いるPTFE水性分散液は、PTFE水性分散液の安定性を高めるため乳化安定剤を含んでいてもよい。乳化安定剤としては、炭化水素系アニオン系界面活性剤が好ましい。この界面活性剤は本質的に土中成分であるカルシウム、アルミニウム及び鉄分と水に不溶性又は難溶性の塩を形成するため、界面活性剤に起因する河川、湖沼及び地下水汚染を回避することが出来る。
【0025】
このような炭化水素系アニオン系界面活性剤としては、高級脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などがあるが、特にポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルエチレンスルホン酸(ポリオキシエチレンのnは1~6、アルキルの炭素数は8~11)、アルキルベンゼンスルホン酸(アルキルの炭素数は10~12)及び、ジアルキルスルホコハク酸エステル(アルキルの炭素数は8~10)などのNa,K,Li,及びNH塩はPTFE水性分散液に高い機械的安定性を与えるため、好ましいものとして例示することができる。
【0026】
乳化安定剤の添加量はPTFEの質量当り1.0質量%以上であり、好ましくは1.5~5質量%の範囲である。1.0質量%未満の添加量では含フッ素重合体水性分散液の安定効果が低く、また10質量%以上の添加量では経済的に不利である。
【0027】
本発明の塵埃抑制処理方法は、PTFEを発塵性物質と混合し、該混合物に20~200℃の温度で圧縮-剪断作用を施すことによりPTFEをフィブリル化して発塵性物質の塵埃を抑制する方法、例えば特許第2827152号、特許第2538783号等の方法において、酸解離定数が1~6の範囲にある安定化剤を含有するPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤を用いることが好ましい。
【0028】
特定のPTFEは、上記したような適度な条件下で圧縮-剪断作用を施すとフィブリル化したクモの巣状に超微細繊維化するが、本発明の発塵性物質の塵埃抑制処理物は、発塵性物質がクモの巣状の微細繊維に捕捉凝集されることにより塵埃抑制されていると考えられる。
【0029】
本発明において塵埃抑制処理される発塵性物質は、無機及び/または有機の発塵性物質であって、物質、形状などには特に限定はない。本発明は、発塵性物質として発塵性粉末状物質にも効果的に適用できる。特に好適に処理可能な発塵性物質としては、例えば、ポルトランドセメント、アルミナセメントなどのセメント類、消石灰、生石灰粉末、炭酸カルシウム、ドロマイト、マグネサイト、タルク、珪石、蛍石などの鉱産物粉末、カオリン、ベントナイト等の粘土鉱物粉、鉄鋼等の金属、非鉄金属の製造工程で副生されるスラグ粉末、石炭、ゴミ等の燃焼灰粉末、石膏粉末、粉末状金属、カーボンブラック、活性炭粉、金属酸化物等のセラッミックス粉、顔料等が挙げられ、すなわち固体粒子状物質が空気中に飛散し浮遊し、塵埃を発生する全ての発塵性物質が挙げられる。
【0030】
本発明の塵埃抑制処理方法は、建材分野、土壌安定材分野、固化材分野、肥料分野、焼却灰及び有害物質の埋立処分分野、防爆分野、化粧品分野、各種プラスチックス類への充填材分野等において塵埃抑制処理し、発塵性物質の塵埃抑制処理物を得るのに好適に用いられる。
【実施例
【0031】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0032】
(1)PTFE粒子の平均粒子径
PTFE粒子の平均粒径は、マイクロトラックUPA150 Model No.9340(日機装社製)を用いて測定した。
(2)発塵性粉体の粒子径
(株)堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定器にて、エタノールを分散媒として測定した。
【0033】
(3)PTFEの標準比重
ASTM D-4894により測定した。
乳化重合により得られるPTFE水性分散体を、純水を用いて15質量%濃度に調整する。その後ポリエチレン容器(1000ml容量)に約750ml入れ手で激しく振蕩して重合体を凝集させる。水から分離した重合体のパウダーを150℃で16時間乾燥する。乾燥した樹脂粉末12.0gを直径2.85cmの円筒形型中に入れてならし、30秒後に最終圧力が350kg/cmとなるよう圧力を次第に増加し、350kg/cmの最終圧力で2分間保持する。このようにして得られた予備成形体を30分間380℃の空気炉中で焼成した後、1分間1℃の割合で294℃まで冷却し、294℃で1分間保持した後、空気炉中から取り出し室温(23±1℃)で冷却して標準試料とする。室温(23℃±1℃)における同体積の水の重量に対する標準試料の重量比を標準比重とする。
この標準比重は平均分子量の目安となり、一般に標準比重が低い程分子量は大きい。
【0034】
(4)PTFE水性分散液中の含フッ素乳化剤濃度
PTFE水性分散液を-20℃の冷凍庫に入れ凍らせ、PTFEを凝集し水と分離した。ポリ容器の中身を全てソックスレーの抽出器に移し、約80mlのメタノールで7時間抽出を行う。メスアップしたサンプル液を液体クロマトグラフで測定を行い、PTFE水性分散液中の含フッ素乳化剤濃度を算出する。
【0035】
(5)落下粉塵量
内径39cm、高さ59cmの円筒容器の頂部投入口より試料200gを自然落下させ、底面より高さ45cmの位置の容器内の浮遊粉塵量(相対濃度(CPM:Count per Minute)を散乱光式デジタル粉塵計により測定する。浮遊粉塵量の測定は、試料投入後1分間計測を連続し5回行い、試料投入前の測定値(ダークカウント)を差し引いた値の幾何平均値を当該試料の「落下粉塵量」とする。幾何平均値xは次の式により求める。
Log x=1/5・Σlog(xI‐d)
ここで、xI:個々の浮遊粉塵量、d:ダークカウントである。
【0036】
(原料)
本発明実施例および比較例で用いた原料は下記のとおりである。
(1)PTFE水性分散液(I)
(平均粒径0.2μm、樹脂固形分濃度30質量%、水中の酸解離定数がpKa1が4.2、pKa2が5.6であるコハク酸をPTFEの重量に対して1.6質量%含有、pH7.2、含フッ素乳化剤含有量21ppm、比重2.19、アニオン系界面活性剤をPTFEの重量に対して3.0質量%含む)
(2)PTFE水性分散液(II)
(平均粒径0.2μm、樹脂固形分濃度30質量%、水中の酸解離定数pKa1が4.2、pKa2が5.6のコハク酸をPTFEの重量に対して1.6質量%含有、pH6.9、含フッ素乳化剤含有量21ppm、比重2.14、アニオン系界面活性剤をPTFEの重量に対して3.0質量%含む)
(3)PTFE水性分散液(III)
(平均粒径0.2μm、樹脂固形分濃度30質量%、pH9.0、含フッ素乳化剤含有量21ppm、比重2.19、アニオン系界面活性剤をPTFEの重量に対して3.0質量%含む)
(4)粉末生石灰
(CaO:93.7%、MgO:1.06%)2.0mmの標準網フルイを全通、600μmの標準網フルイ残分7.86%、300μmの標準網フルイ残分25.19%、150μmの標準網フルイ残分18.80%、150μmの標準網フルイ通過分48.15%の粉末生石灰を用いた。
【0037】
(実施例1及び2、比較例1)
PTFE水性分散液I~IIIを各々試験管に18g入れ、室温にて30日静置後及び70日静置後の沈降量を測定し分散安定性とした。
また、同様に30日静置後及び70日静置後、試験管を上下に10回手で振とうした後の沈降量を測定し再分散沈降量を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例3)
粉末生石灰1,000gを容積5リットルの小型ソイルミキサーに投入し、回転数140r.p.m.で攪拌しながら、PTFE水性分散液(I)0.33g(PTFE樹脂固形分0.10g、生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.01質量%に相当)を清水99.77gに分散した分散液を徐々に投入した。
投入開始より約1分後には生石灰の水和反応熱による水蒸気を発生し始め、その後約2分で水分のすべてが生石灰の水和により消石灰の生成のため使用され尽くし水蒸気の発生が無くなった。攪拌開始より3分後にミキサーの攪拌を止めた。このときの温度を温度計で計測すると103℃であった。この塵埃抑制処理された生石灰は、水和反応により新たに生成した消石灰約30%を含む生石灰と消石灰の混合物であった。得られた塵埃抑制処理物の落下発塵量を測定した。結果を表2に示す。
【0040】
(実施例4)
PTFE水性分散液(I)0.67g(PTFE樹脂固形分0.20g、生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.02質量%に相当)を清水99.53gに分散した分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下発塵量を測定した。結果を表2に示す。
【0041】
(実施例5)
PTFE水性分散液(II)0.33g(PTFE樹脂固形分0.10g、生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.01質量%に相当)を清水99.77gに分散した分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下発塵量を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
(実施例6)
PTFE水性分散液(II)0.67gPTFE樹脂固形分0.20g、生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.02質量%に相当)を清水99.53gに分散した分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下発塵量を測定した。結果を表2に示す。
【0043】
(比較例2)
PTFE水性分散液(III)0.33g(PTFE樹脂固形分0.10g、生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.01質量%に相当)に分散した分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下発塵量を測定した。結果を表2に示す。
【0044】
(比較例3)
PTFE水性分散液(III)0.67g(PTFE樹脂固形分0.20g、生石灰に対しPTFE樹脂固形分で0.02質量%に相当)を清水99.53gに分散した分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして塵埃抑制処理された生石灰と消石灰の混合物を得た。得られた塵埃抑制処理物の落下発塵量を測定した。結果を表2に示す。
【0045】
(比較例4)
PTFE水性分散液を使用せず清水100gを用いた以外は、実施例1と同様にして、得られた生石灰と消石灰の混合物の落下発塵量を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、分散安定性及び再分散性に優れ、且つ環境問題の可能性が低いPTFE水性分散液からなる塵埃抑制処理剤を用いた、塵埃抑制効果が従来の方法と同様に高く、且つ環境問題の可能性が低い、発塵性物質の塵埃抑制処理方法ならびに発塵性物質の塵埃抑制処理物が提供される。