(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】防汚性衣類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 31/04 20190101AFI20230724BHJP
D06M 14/00 20060101ALI20230724BHJP
D06M 14/18 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
A41D31/04
D06M14/00
D06M14/18
(21)【出願番号】P 2019025218
(22)【出願日】2019-02-15
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】廣垣 和正
(72)【発明者】
【氏名】杉山 稔
(72)【発明者】
【氏名】森島 英暢
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-039845(JP,A)
【文献】国際公開第2016/104054(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108968173(CN,A)
【文献】特開2006-130464(JP,A)
【文献】特開平05-080276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 14/00
D06M 14/18
A41D 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材にラジカル結合性基を有する環境応答型水溶性物質をグラフト重合させた防汚性布帛を含む衣類であって、
前記環境応答型水溶性物質は、一分子中にラジカル結合性基とともに親水性基と疎水性基を含み、
前記環境応答型水溶性物質は、布帛に対して0.1~50質量%グラフト重合されており、
前記親水性基はアミド基、エーテル基及びアルコール基から選ばれる少なくとも一つであり、
前記ラジカル結合性基はアクリロイル基、メタアクリロイル基及びビニル基から選ばれる少なくとも一つであり、
前記防汚性布帛は、乾燥気体中では
疎水性の収縮ゲル状態となり、防汚性かつ撥水性を有し、液体水中では
水と親和して親水性
の膨潤ゲル状態となり、
前記衣類は、着用時は疎水性を維持して防汚性かつ撥水性を有し、家庭洗濯時には親水性となって汚れを除去できることを特徴とする防汚性衣類。
【請求項2】
前記環境応答型水溶性物質の水に溶けなくなる温度(下限臨界溶液温度:LowerCriticalSolutionTemperature:LCST)が25℃~80℃である請求項
1に記載の防汚性衣類。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の防汚性衣類の製造方法であって、
前記衣類を構成する布帛の繊維基材にラジカル結合性基を有する環境応答型水溶性物質を接触させ、前記接触の前又は同時に電子線を照射して、前記環境応答型水溶性物質を繊維基材にグラフト重合し、次に洗浄し、乾燥することを特徴とする防汚性衣類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥気体中では防汚性かつ撥水性を有し、液体水中では親水性を有する防汚性衣類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防汚性かつ撥水性を付与した布帛は、衣類、カーペット、テーブルクロス等に使用されている。特許文献1には、乾燥汚れに対する防汚性を付与するため、炭素数22以下のフルオロアルキル基を含むフッ素化合物が提案されている。特許文献2には、フルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基を有する単量体と、アルキレンオキサイド基を有する単量体と、アセトアセチル基を有する単量体と、酸アニオン基を有する単量体から誘導される共重合体を使用して、洗濯耐久性と撥油性と防汚性を有する繊維加工剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002‐220781号公報
【文献】特開2010-222382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術の繊維加工剤にはフッ素を含んでおり、環境的に問題を含んでいた。
本発明は、上記問題を解決するため、環境に有害なフッ素を使用せずに、乾燥気体中では防汚性かつ撥水性を有し、液体水中では親水性を有する防汚性衣類及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の防汚性衣類は、繊維基材にラジカル結合性基を有する環境応答型水溶性物質をグラフト重合させた防汚性布帛を含む衣類であって、前記環境応答型水溶性物質は、一分子中にラジカル結合性基とともに親水性基と疎水性基を含み、前記環境応答型水溶性物質は、布帛に対して0.1~50質量%グラフト重合されており、前記親水性基はアミド基、エーテル基及びアルコール基から選ばれる少なくとも一つであり、前記ラジカル結合性基はアクリロイル基、メタアクリロイル基及びビニル基から選ばれる少なくとも一つであり、前記防汚性布帛は、乾燥気体中では疎水性の収縮ゲル状態となり、防汚性かつ撥水性を有し、液体水中では水と親和して親水性の膨潤ゲル状態となり、前記衣類は、着用時は疎水性を維持して防汚性かつ撥水性を有し、家庭洗濯時には親水性となって汚れを除去できることを特徴とする。
【0006】
本発明の防汚性衣類の製造方法は、前記の防汚性衣類の製造方法であって、前記衣類を構成する布帛の繊維基材にラジカル結合性基を有する環境応答型水溶性物質を接触させ、前記接触の前又は同時に電子線を照射して、前記環境応答型水溶性物質を繊維基材にグラフト重合し、次に洗浄し、乾燥することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防汚性衣類は、繊維基材にラジカル結合性基を有する環境応答型水溶性物質をグラフト重合させた防汚性衣類であり、前記環境応答型水溶性物質にはフッ素を含まず、乾燥気体中では防汚性かつ撥水性を有し、液体水中では親水性を有する。これにより、使用時は防汚性かつ撥水性を有し、家庭洗濯時には液体水中では親水性となって、汚れが落ちやすいものとなる。また本発明の製造方法は、繊維基材に対して環境応答型水溶性物質を効率よくグラフト重合できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1Aは本発明の一実施態様の衣類の家庭洗濯時における環境応答型水溶性物質の分子構造を示し、
図1Bは同、着用時における環境応答型水溶性物質の分子構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、繊維基材にラジカル結合性基を有する環境応答型水溶性物質をグラフト重合させた防汚性布帛である。ここで環境応答型水溶性物質とは、乾燥気体中では疎水性の収縮ゲル状態となり、液体水中では水と親和して親水性の膨潤ゲル状態になる性質を有する化合物である。前記環境応答型水溶性物質は、乾燥時、例えば衣類着用時は疎水性を維持することから防汚性かつ撥水性を有し、家庭洗濯時には親水性となって、汚れを容易に除去できる。また、前記環境応答型水溶性物質にはフッ素は含まない。フッ素化合物は合成時を含めて環境上好ましくない物質である。
【0010】
前記環境応答型水溶性物質は、布帛に対して0.1~50質量%グラフト重合されているのが好ましく、より好ましくは1~40質量%、さらに好ましくは3~35質量%である。この範囲であれば、乾燥時、例えば衣類着用時は防汚性かつ撥水性を有し、家庭洗濯時には汚れを容易に除去できる。
【0011】
前記環境応答型水溶性物質は、一分子中にラジカル結合性基とともに親水性基と疎水性基を含むことが好ましい。ラジカル結合性基は布帛にグラフト重合させるために有用である。親水性基はアミド基、エーテル基及びアルコール基から選ばれる少なくとも一つが好ましい。疎水性基はアルキル基又はシクロアルキル基が好ましく、さらに好ましくはn-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基などである。疎水性基は衣類着用時に防汚性かつ撥水性を有し、親水性基は家庭洗濯時には水と親和して親水性となり、汚れを容易に除去できる。
【0012】
前記ラジカル結合性基はアクリロイル基、メタアクリロイル基及びビニル基から選ばれる少なくとも一つが好ましい。これらは電子線照射により布帛にグラフト重合できる。
【0013】
前記環境応答型水溶性物質の水に溶けなくなる温度(下限臨界溶液温度:Lower Critical Solution Tempreture:LCST)は25~80℃が好ましく、さらに好ましくは28~72℃である。例えば、ポリN-イソプロピルアクリルアミドのLCSTは32℃である。
【0014】
LCSTは、示差走査熱量計(DSC)、例えばセイコーインスツル社製、DSC装置” DSC6200”を使用して測定できる。生地に環境応答型水溶性物質をグラフト重合させたときの、重合させたポリマーのLCSTの具体的な測定方法の一例として、環境応答型水溶性物質をグラフト重合した布帛に対して、DSC装置を用いて水中でのLCSTを求める。布試料を、はさみを使って細かく切断し、アルミパンに1mg入れる。その後、水をアルミパンに20μl加えて布帛を浸漬し5分放置する。そのあとキムワイプで水を吸い取り、密封してからDSC装置に仕掛ける。温度は-5℃から60℃、昇温速度は10℃/minで測定を行う。
【0015】
前記環境応答型水溶性物質は、具体的には、次の(化1)~(化4)の[a]~[d]に示す構造を持つ化合物があげられ、中でもN-置換アクリルアミド系ポリマーが好ましい。N-置換アクリルアミド系ポリマーは単独でも使用できるし、複数組み合わせて使用することもできる。(化1)~(化4)において、Rは炭素数1~22のアルキル基またはシクロアルキル基などであり、nは繰り返し単位である(電子線重合による主鎖の重合度を示すため数値範囲では示せない)。
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
前記[a]の構造を持つ化合物としては、N-置換アクリルアミド系があり、N-エチルアクリルアミド、N-プロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド:NIPAM、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-プロピルメタクリルアミド、2-カルボキシイソプロピルアクリルアミドなどがある。
前記[b]の構造を持つ化合物としては、アミド系があり、N-ビニルピロリドン、N-ビニルイソブチルアミドなどがある。
前記[c]の構造を持つ化合物としては、エーテル系があり、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルアルコール、エチレンオキサイド、ビニルメチルエーテル、オキシエチレンビニルエーテル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースなどがある。
前記[d]の構造を持つ化合物としては、オキソザリン系があり、2-イソプロピル-2-オキサゾリンなどがある。
【0021】
溶媒は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、メチルエチルケトンなど1種以上を使用できる。分散液は乳化剤を含んでも良い。また、架橋剤を含んでもよく、例えば、1分子あたり2個以上のラジカル重合性基を有する有機化合物で、メチロールメラミン、グリオキザール、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリグリセリンアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどを使用できる。
【0022】
共重合体を使用することも可能であり、例えばN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)に、親水性基としてN,N-ジメチルアクリルアミド、疎水性基としてN-n-ブチルアクリルアミドなど、ブチルメタクリレートなどを共重合できる。親水性基を共重合した場合は、LCSTは高温側へシフトでき、疎水性基を共重合した場合は、LCSTは低温側へシフトできることから、親水性と疎水性のバランスを制御できる。
【0023】
本発明の防汚性布帛は、織物、編み物及び不織布から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。また防汚性布帛を構成する繊維基材は、ポリエステル、ナイロン(ポリアミド)、アクリル、モダアクリル、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、アラミド、レーヨン、アセテート、キュプラ、コットン、ウール、麻、絹などが好ましい。
【0024】
次に製造方法について説明する。本発明の防汚性布帛の製造方法は、布帛を構成する繊維基材に電子線またはγ線もしくは紫外線等の放射線を照射した後、ラジカル結合性基を有する環境応答型水溶性物質を接触させて、前記環境応答型水溶性物質を前記繊維基材にグラフト重合するか(前照射法)、又は前記環境応答型水溶性物質を前記繊維基材に接触させた後に、電子線またはγ線もしくは紫外線等の放射線を照射して前記環境応答型水溶性物質を前記繊維基材にグラフト重合し(同時照射法)、次に洗浄し、乾燥する。照射方法については、取り扱いやすさ、安全性やラジカルを有効に発生させる観点から、電子線を採用することが好ましい。
【0025】
電子線照射は、通常は1~200kGy、好ましくは5~100kGy、より好ましくは10~50kGyの照射量が達成されればよい。雰囲気条件は、窒素雰囲気下で照射を行う。また電子線は透過力があるため、繊維基材の片面に照射するだけでよい。電子線照射装置としては市販のものが使用可能であり、例えば、エリアビーム型電子線照射装置としてEC250/15/180L(岩崎電気(株)社製)、EC300/165/800(岩崎電気(株)社製)、EPS300((株)NHVコーポレーション製)などが使用できる。
【0026】
電子線を照射した後は通常、水洗により未反応成分を除去し、乾燥する。乾燥は例えば、繊維基材を20~90℃で0.5~24時間保持することによって達成される。
【0027】
以下図面を用いて説明する。
図1Aは本発明の一実施態様の衣類の家庭洗濯時における環境応答型水溶性物質の分子構造を示し、
図1Bは同、着用時における環境応答型水溶性物質の分子構造を示す。この環境応答型水溶性物質は、乾燥気体中では
図1Bに示すように疎水性の収縮ゲル状態となり、液体水中では
図1Aに示すように水と親和して親水性の膨潤ゲル状態になる。したがって、衣類着用時は疎水性を維持することから防汚性かつ撥水性を有し、家庭洗濯時には親水性となって、汚れを容易に除去できる。
【実施例】
【0028】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<環境応答型水溶性物質の固着>
綿35質量%/ポリエステル65質量%の織物(質量114g/m2)を、室温(20±5℃)で、N-イソプロピルアクリルアミド(和光純薬工業株式会社製、分子量113、以下において単に「NIPAM」とも記す。)をメタノール80質量%、蒸留水20質量%から成る溶媒に溶解して得られたN-イソプロピルアクリルアミドの溶液(N-イソプロピルアクリルアミド70重量%)に浸漬した後、絞り率が約50重量%になるまでマングルで絞り、その織物の一方の面に対して、エリアビーム型電子線照射装置(Curetron;株式会社NHVコーポレーション製)により、窒素ガス雰囲気下で加速電圧250kV、照射線量200kGyの条件で電子線を照射した。電子線照射した織物を80℃の乾燥機で3時間反応させた。その後、メタノールと蒸留水で各30分ずつ振盪洗浄し、70℃の乾燥機で乾燥させ、環境応答型水溶性物質(NIPAMの単独重合体)が固着された織物を得た。織物を100質量%とした場合、環境応答型水溶性物質の固着量は25.0質量%であった。電子線照射により、N-イソプロピルアクリルアミドは互いに重合するとともに、織物を構成する綿(セルロース繊維)およびポリエステル繊維と共有結合することになる。環境応答型水溶性物質を含む織物を分光測色計(CM-600d;コニカミノルタジャパン株式会社製)でポリエステルフィルム(厚み25μm)越しに測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は-0.7、b*は3.9(a*は赤方向、-a*は緑方向、b*は黄方向、-b*は青方向を示す)であった。
【0029】
<水系汚れの付着>
マイクロピペットを用いて赤ワイン(「酸化防止剤無添加のおいしいワイン」;サントリーホールディングス株式会社製)を50μl、環境応答型水溶性物質を含む織物に滴下し、10秒後に濾紙を載せて、その上に100gの荷重かけて60秒放置した。その後、熱乾燥機で30℃、15分乾燥させ、汚染部を分光測色計(CM-600d;コニカミノルタジャパン株式会社製)でポリエステルフィルム(厚み25μm)越しに測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は滴下前が-0.7に対し、滴下後1.7と赤方向に移行した。
【0030】
<水系汚れの洗浄>
赤ワインの汚れが付着した環境応答型水溶性物質を含む織物を、超音波洗浄機(AS52GTU;AS ONE製)を用いて、水温10~20℃(浴比1:600)で15分間洗浄した。その後、70℃で乾燥した。汚染部を分光測色計(CM-600d;コニカミノルタジャパン株式会社製)でポリエステルフィルム(厚み25μm)越しに測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は洗浄前が1.7に対し、洗浄後は-0.2へと緑方向に移行した。
【0031】
<油系汚れの付着>
マイクロピペットを用いてラー油(「辣油」;エスビー食品株式会社製)を1滴、環境応答型水溶性物質を含む織物に滴下し、10秒後に濾紙を載せて、その上に100gの荷重かけて60秒放置した。その後、熱乾燥機で30℃、15分乾燥させ、汚染部を分光測色計(CM-600d;コニカミノルタジャパン株式会社製)でポリエステルフィルム(厚み25μm)越しに測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は滴下前が3.9に対し、滴下後15.4へと黄方向に移行した。
【0032】
<油系汚れの洗浄>
ラー油の汚れが付着した環境応答型水溶性物質を含む織物を、超音波洗浄機(AS52GTU;AS ONE製)を用いて、水温10~20℃(浴比1:600)で15分間洗浄した。その後、70℃で乾燥した。汚染部を分光測色計(CM-600d;コニカミノルタジャパン株式会社製)でポリエステルフィルム(厚み25μm)越しに測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は洗浄前が15.4に対し、洗浄後は11.0へと青方向に移行した。
【0033】
(実施例2)
<環境応答型水溶性物質の固着>
N-イソプロピルアクリルアミドの溶液濃度を35重量%に代えた以外は実施例1と同様に作製した。環境応答型水溶性物質の固着量は10.5質量%であった。
この環境応答型水溶性物質を含む織物の色相と彩度を示す色度a*は‐0.8、b*は3.5であった。
<水系汚れの付着>
実施例1と同様に赤ワインを滴下した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は滴下前が-0.8に対し、滴下後5.9と赤方向に移行した。
<水系汚れの洗浄>
実施例1と同様に洗浄した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は洗浄前が5.9に対し、洗浄後は1.9へと緑方向に移行した。
<油系汚れの付着>
実施例1と同様にラー油を滴下した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は滴下前が3.5に対し、滴下後20.4へと黄方向に移行した。
<油系汚れの洗浄>
実施例1と同様に洗浄した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は洗浄前が20.4に対し、洗浄後は8.7へと青方向に移行した。
【0034】
(実施例3)
<環境応答型水溶性物質の固着>
N-イソプロピルアクリルアミドの溶液濃度を9重量%に代えた以外は実施例1と同様に作製した。環境応答型水溶性物質の固着量は2.7質量%であった。
この環境応答型水溶性物質を含む織物の色相と彩度を示す色度a*は‐0.8、b*は4.1であった。
<水系汚れの付着>
実施例1と同様に赤ワインを滴下した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は滴下前が-0.8に対し、滴下後6.6と赤方向に移行した。
<水系汚れの洗浄>
実施例1と同様に洗浄した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は洗浄前が6.6に対し、洗浄後は2.0へと緑方向に移行した。
<油系汚れの付着>
実施例1と同様にラー油を滴下した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は滴下前が4.1に対し、滴下後24.6へと黄方向に移行した。
<油系汚れの洗浄>
実施例1と同様に洗浄した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は洗浄前が24.6に対し、洗浄後は10.5へと青方向に移行した。
【0035】
(実施例4)
<環境応答型水溶性物質の固着>
N-イソプロピルアクリルアミドの溶液をNIPAM56wt%とDA(ドデシルアクリレート)24wt%、溶媒としてIPAを10wt%、メタノール10wt%の混合溶液に代えた以外は実施例1と同様に作製し、環境応答型水溶性物質(NIPAMとDAとの共重合物質)の固着量は20.5質量%であった。
この環境応答型水溶性物質を含む織物の色相と彩度を示す色度a*は‐0.7、b*は3.7であった。
<水系汚れの付着>
実施例1と同様に赤ワインを滴下した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は滴下前が-0.7に対し、滴下後-0.2と赤方向に移行した。
<水系汚れの洗浄>
実施例1と同様に洗浄した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度a*は洗浄前が-0.2に対し、洗浄後は-0.6へと緑方向に移行した。
<油系汚れの付着>
実施例1と同様にラー油を滴下した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は滴下前が3.7に対し、滴下後20.0へと黄方向に移行した。
<油系汚れの洗浄>
実施例1と同様に洗浄した後の汚染部を測定したところ、色相と彩度を示す色度b*は洗浄前が20.0に対し、洗浄後は14.0へと青方向に移行した。
【0036】
(比較例1)
N-イソプロピルアクリルアミドの溶液に代えて、メタノール80%、蒸留水20%から成る水溶液を用い、電子線照射工程を省略した以外は、実施例1と同様にして、環境応答型水溶性物質が固着されていない織物を得た。この織物の色相と彩度を示す色度a*は‐0.5、b*は1.6であった。また、該織物を用いた以外は、実施例1と同様にして水系汚れの付着、洗浄を行い、汚染部を分光測色計(CM-600d;コニカミノルタジャパン株式会社製)でポリエステルフィルム(厚み25μm)越しに測定したところ、a*は滴下前が-0.5に対し、滴下後8.2へと赤方向に移行した。その後実施例1と同様にして洗浄前後では、a*は洗浄前が8.2に対し、洗浄後は3.7へと移行した。
また、実施例1と同様にして油系汚れの付着、洗浄を行い、汚染部を分光測色計(CM-600d;コニカミノルタジャパン株式会社製)でポリエステルフィルム(厚み25μm)越しに測定したところ、b*は滴下前が1.6に対し、滴下後29.3へと黄方向に移行した。その後実施例1と同様にして洗浄前後では、b*は洗浄前が29.3に対し、洗浄後は21.0へと青方向に移行した。
【0037】
上記実施例及び比較例において、環境応答型水溶性物質の固着量、水系汚れおよび油系汚れの滴下による汚れの付着程度を滴下前後の色度a*、b*の変位量から、また洗浄による汚れの浄化程度を洗浄前後の色度a*、b*の変位量から、下記数式(1)~(5)のように算出した。
環境応答型水溶性物質の含有量(重量%)=(W1-W0)/W0×100 (1)
上記数式(1)で、W1は環境応答型水溶性物質が固着された織物の重量であり、W0はN-イソプロピルアクリルアミドを含む溶液に浸漬する前の織物の重量である。
汚れの付着程度(赤方向)=A1-A0 (2)
上記数式(2)で、A0は汚れ滴下前のa*の値であり、A1は汚れ滴下後のである。
汚れの付着程度(黄方向)=B1-B0 (3)
上記数式(3)で、B0は汚れ滴下前のb*の値であり、B1は汚れ滴下後のb*の値である。
洗浄による浄化の程度(赤方向)=(A1-A2)/(A1-A0)×100 (4)
上記数式(4)で、A2は洗浄後のa*の値である。
洗浄による浄化の程度(黄方向)=(B1-B2)/(B1-B0)×100 (5)
上記数式(5)で、B2は洗浄後のb*の値である。赤ワインの汚れの変化についてはa*の値で、ラー油の汚れの変化についてはb*の値から評価した。
以上の結果をまとめて表1~2に示す。
【0038】
【0039】
【0040】
表1、2から明らかなとおり、実施例1~4品は汚れにくく、汚れても洗浄により浄化しやすいことが確認できた。なお、実施例1及び比較例1では超音波洗浄機を用いて洗浄したが、家庭洗濯でも同様である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の防汚性布帛は、下着、中着、外着、上衣、下衣、靴下、手袋、マフラー、スカーフ、帽子などの衣類、シーツ、布団カバー、枕カバー、テーブルクロス、カーペットなどの様々な分野に有用である。