(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】繊維、不織布および繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/02 20060101AFI20230724BHJP
C08C 1/02 20060101ALI20230724BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20230724BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20230724BHJP
D04H 1/4266 20120101ALI20230724BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
D01F9/02
C08C1/02
D04H1/4382
D04H1/728
D04H1/4266
D01D5/04
(21)【出願番号】P 2019090508
(22)【出願日】2019-05-13
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【氏名又は名称】津島 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡
(72)【発明者】
【氏名】池田 葵
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-009002(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103741230(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101498057(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/02
C08C 1/02
D04H 1/4382
D04H 1/728
D04H 1/4266
D01D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有し、且つ、天然ゴムからなる
とともに、
前記天然ゴムを架橋していない状態で、且つ、繊維軸が一方向に配向した不織布状の加工形態にしたとき、比(繊維軸方向の弾性率/繊維軸に垂直な方向の弾性率)が、1.5以上である、繊維。
【請求項2】
有機溶剤を含有していない、請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の繊維を含む、不織布。
【請求項4】
繊維軸が一方向に配向している、請求項
3に記載の不織布。
【請求項5】
ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有し、且つ、天然ゴムからなる繊維を含む
とともに、
繊維軸が一方向に配向している、不織布。
【請求項6】
ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有し、且つ、天然ゴムからなるとともに、
前記天然ゴムを架橋していない状態で、且つ、繊維軸が一方向に配向した不織布状の加工形態にしたとき、比(繊維軸方向の弾性率/繊維軸に垂直な方向の弾性率)が、1.5以上である、繊維の製造方法であって、
天然ゴムラテックスに水溶性ポリマーを添加して紡糸用ラテックスを得る工程と、
前記紡糸用ラテックスを紡糸して繊維を得る工程と、
前記繊維を洗浄して前記水溶性ポリマーを除去する工程とを備える、繊維の製造方法。
【請求項7】
前記天然ゴムラテックスまたは前記繊維における天然ゴムを架橋する、請求項6に記載の繊維の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性ポリマーが、ポリエチレンオキシドである、請求項6または7に記載の繊維の製造方法。
【請求項9】
前記紡糸をエレクトロスピニング法で行う、請求項6~8のいずれかに記載の繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維、不織布および繊維の製造方法に関する。具体的には、天然ゴムからなる微細な繊維、その繊維を含む不織布および繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な天然ゴムはラテックスに架橋処理を施した伸縮性のあるポリマーであるが、加工形態はフィルムやバルクなどに限られており、不織布状の加工形態にはできなかった。天然ゴムの繊維化では、ポリカプロラクトンなどの他のポリマーや、炭素繊維を含有させることで繊維化を行った事例はあるが、純粋な天然ゴムからなる微細な繊維およびその不織布はこれまでのところ得られていない(例えば、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】L.M.M. Costa et al, 「Electrospinning of PCL/natural rubber blends」, Journal of Materials Science, 2013, 48, p. 8501-8508
【文献】I. Cacciotti et al, 「Neat and GNPs loaded natural rubber fibers by electrospinning: Manufacturing and characterization」, Mater. Des, 2015, 88, p. 1109-1118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、天然ゴムからなる微細な繊維、その繊維を含む不織布および繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の繊維は、ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有し、且つ、天然ゴムからなる。
【0006】
本発明の不織布は、前記繊維を含む。
【0007】
本発明の繊維の製造方法は、天然ゴムラテックスに水溶性ポリマーを添加して紡糸用ラテックスを得る工程と、前記紡糸用ラテックスを紡糸して繊維を得る工程と、前記繊維を洗浄して前記水溶性ポリマーを除去する工程とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、天然ゴムの微細繊維化および不織布化により、例えば、天然ゴムシートの多孔度をあげて通気性を向上させたり、伸縮性をより高めることができる。これにより従来の天然ゴムでは実現できなかった新しい材料として、例えば、フィルタ材料や医療材料などの新規用途に天然ゴムを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の引張試験の結果を示す応力ひずみ曲線である。
【
図2】実施例1の引張試験における繊維軸方向および繊維軸に垂直な方向を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<繊維>
以下、本発明の一実施形態に係る繊維について詳細に説明する。
本実施形態の繊維は、ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有し、且つ、天然ゴムからなる。本実施形態の繊維は、実質的に天然ゴムのみからなる。
【0011】
天然ゴムは、シス1、4-ポリイソプレンの分子構造を有するバイオベースの天然ポリマーであり、伸縮性、強靭性などの高い機械的特性を有し、高電気抵抗、疎水性、撥水性などの性能も有する。また、ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有する微細繊維は、高表面積、多孔質(通気性)、配向(機械的異方性)などの性能を有する。本実施形態の繊維は、上述した天然ゴムおよび微細繊維のそれぞれの性能を兼ね備えることから、従来の天然ゴムでは実現できなかった新しい材料として新規用途に用いることができる。用途としては、例えば、フィルタ材料、医療材料、培養用基材などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
医療材料としては、例えば、貼付剤の基布、医療用手袋、包帯、衛生用品などが挙げられる。医療材料に本実施形態の繊維を用いれば、伸縮性、高通気性などの効果が得られる。また、本実施形態の繊維を、繊維軸が一方向に配向した不織布状の加工形態にすれば、繊維軸方向に伸びやすくて丈夫であり、且つ、繊維軸に垂直な方向には裂けるといった力学的異方性が得られる。この点からも本実施形態の繊維を医療材料に用いることができる。
【0013】
培養用基材としては、例えば、筋肉細胞などの分化基材、細胞凍結用の基材などが挙げられる。すなわち、本実施形態の繊維は、上述のとおり、伸縮性を有することから、筋肉細胞などの分化基材に用いることができる。また、本実施形態の繊維は、低Tg(低温下での伸縮性)を有することから、細胞凍結用の基材に用いることができる。
【0014】
本実施形態の繊維は、天然ゴムというバイオマスからなるので、低環境負荷を発揮することもできる。
【0015】
平均繊維径において、ナノオーダーとは、1nm以上1μm未満のことであり、マイクロオーダーとは、1μm以上1mm未満のことである。平均繊維径は、例えば、100nm~500μmであってもよい。平均繊維径は、走査型電子顕微(SEM)を使用して測定される値である。
【0016】
繊維は、有機溶剤を含有していなくてもよい。この場合には、天然ゴムというバイオマスからなることと相まって、優れた低環境負荷を発揮することができる。繊維が有機溶剤を含有していないことの確認は、例えば、ガスクロマトグラフィー法で行ってもよい。
【0017】
繊維は、タンパク質を含有していなくてもよい。この場合には、低アレルギー性を発揮することができる。繊維がタンパク質を含有していないことの確認は、例えば、エライザ法で行ってもよい。
【0018】
繊維における天然ゴムは、架橋していてもよいし、架橋していなくてもよい。本実施形態の繊維は、天然ゴムを架橋していない状態でも高い機械的特性を発揮することができる。
【0019】
繊維は、天然ゴムを架橋していない状態で、且つ、繊維軸が一方向に配向した不織布状の加工形態にしてもよい。このとき、比(繊維軸方向の弾性率/繊維軸に垂直な方向の弾性率)が、例えば、1.5以上、好ましくは3以上、さらに好ましくは10以上であってもよい。この場合には、高い機械的特性を発揮することができる。同様の理由から、比(繊維軸方向の引張強度/繊維軸に垂直な方向の引張強度)が、例えば、1.5以上、好ましくは3以上であってもよい。また、比(繊維軸方向の破断強度/繊維軸に垂直な方向の破断強度)が、例えば、1.5以上、好ましくは3以上であってもよい。
【0020】
弾性率、引張強度および破断強度は、JIS K6251に基づく引張試験により測定される値である。なお、弾性率、引張強度および破断強度の具体的な値は、製造条件などで変わるため、特に限定されない。
【0021】
<不織布>
次に、本発明の一実施形態に係る不織布について詳細に説明する。
本実施形態の不織布は、上述した実施形態の繊維を含む。すなわち、本実施形態の不織布は、天然ゴムからなる微細な繊維を含むことから、天然ゴムシートの多孔度をあげて通気性を向上させたり、伸縮性をより高めることができる。
【0022】
不織布は、上述した実施形態の繊維のみで構成されていてもよいし、上述した実施形態の繊維に加えて、他の繊維をさらに含んでいてもよい。他の繊維としては、例えば、綿、羊毛、麻、パルプ、絹、石綿などの天然繊維、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン、アクリル繊維、ビニロン、アラミド繊維、ガラス繊維などの合成繊維などが挙げられる。
【0023】
不織布は、繊維軸が一方向に配向していてもよい。この場合には、繊維軸方向に伸びやすくて丈夫であり、且つ、繊維軸に垂直な方向には裂けるといった力学的異方性が得られる。
【0024】
不織布の厚さは、例えば、0.01~1mmであってもよいが、これに限定されない。
【0025】
<繊維の製造方法>
次に、本発明の一実施形態に係る繊維の製造方法について詳細に説明する。
【0026】
本実施形態の繊維の製造方法は、以下の(1)~(3)の工程を備えている。
(1)天然ゴムラテックスに水溶性ポリマーを添加(混和)して紡糸用ラテックスを得る工程。
(2)紡糸用ラテックスを紡糸して繊維を得る工程。
(3)繊維を洗浄して水溶性ポリマーを除去する工程。
【0027】
本実施形態によれば、水系ラテックスからの直接紡糸によって繊維を得ることができる。それゆえ、溶媒の精製などが不要であり、有機溶媒(有機溶剤)を使用せずに水系での製造が可能であることから、天然ゴムからなる微細な繊維を環境負荷の低い方法で効率よく低コストで製造することができる。
【0028】
天然ゴムは、ゴムノキの樹液から天然ゴムラテックスとして採取される天然資源である。天然ゴムラテックスは、タンパク質、糖、アルカロイドなどを含む水系のコロイド(水系エマルション)である。
【0029】
(1)の工程において、天然ゴムラテックスの濃度は、例えば、10~70質量%であってもよい。また、天然ゴムラテックスは、市販品を用いてもよい。市販の天然ゴムラテックスとしては、例えば、Getahindus社製の「G-TEX HA」などが挙げられる。
【0030】
水溶性ポリマーは、天然ゴムラテックスの粘度を高めて直接紡糸を可能にする役割を有する。水溶性ポリマーとして、ポリエチレンオキシド(PEO)を用いてもよい。ポリエチレンオキシドは、それ自体が紡糸しやすい水溶性ポリマーである。なお、ポリエチレンオキシドに代えて、他の水溶性ポリマーを用いてもよい。
【0031】
水溶性ポリマーは、単独で添加してもよいし、予め水性媒体などで溶解して溶液の状態としてから添加してもよい。水性媒体としては、例えば、水などが挙げられる。水溶性ポリマーを溶液の状態で使用する場合、溶液の濃度は、例えば、1~10質量%であってもよい。
【0032】
水溶性ポリマーは、天然ゴムラテックスの粘度を高めて直接紡糸が可能となるような割合で添加すればよい。それゆえ、水溶性ポリマーの添加量は、特定の値に限定されない。
【0033】
水溶性ポリマーは、固形分換算による質量比で、水溶性ポリマーが天然ゴムラテックスよりも少ない比率となるように添加してもよい。この場合には、天然ゴムラテックスの比率が相対的に多くなることから、生産性が高い。天然ゴムラテックスと水溶性ポリマーとの比率は、例えば、固形分換算による質量比で、天然ゴムラテックス:水溶性ポリマー=1:0.01~0.5であってもよい。
【0034】
(1)の工程で得られる紡糸用ラテックスは、水系ラテックスである。紡糸用ラテックスの粘度は、天然ゴムラテックスの粘度よりも高い。紡糸用ラテックスの粘度は、例えば、1,000mPa・s以上であってもよい。この場合には、直接紡糸しやすい。紡糸用ラテックスの粘度の上限値は、500,000mPa・s以下であってもよい。なお、一般的な天然ゴムラテックスの粘度は、10mPa・s以上1,000mPa・s未満である。粘度は、回転型レオメーターで測定される値である。
【0035】
(2)の工程における紡糸は、エレクトロスピニング法で行ってもよい。エレクトロスピニング法の条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。
印加電界:1.0~4.0kV/cm
コレクタ線速度:1~40m/s
流量:0.1~3.0mL/h
なお、エレクトロスピニング装置は、特に限定されない。
【0036】
(2)の工程で得られる繊維(以下、「第1繊維」ということがある。)は、天然ゴムおよび水溶性ポリマーで構成されている。第1繊維は、ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有していてもよい。
【0037】
(3)の工程における第1繊維を洗浄した後の繊維(以下、「第2繊維」ということがある。)は、天然ゴムからなる。なお、洗浄によってタンパク質も除去できることから、第2繊維のタンパク質の含有量は、第1繊維のタンパク質の含有量よりも少ない。
【0038】
第2繊維は、ナノオーダーまたはマイクロオーダーの平均繊維径を有していてもよい。なお、第2繊維の径は減少する傾向にあるが、洗浄プロセスで膨潤する場合があり実質的には変化しない場合がある。すなわち、第2繊維の平均繊維径は、第1繊維の平均繊維径から減少するか、または第1繊維の平均繊維径と実質的に同じになる傾向がある。
【0039】
洗浄に用いる洗浄液としては、例えば、水などが挙げられる。なお、水溶性ポリマーを第1繊維から除去可能な限り、洗浄液は水に限定されない。洗浄温度は、例えば、10~40℃であってもよい。洗浄方法としては、例えば、浸漬などが挙げられる。洗浄時間は、例えば、30分以上であってもよい。洗浄時間の上限値は、特に限定されないが、30時間以下であってもよい。水溶性ポリマーが第1繊維から除去されたことの確認は、例えば、ATR-FTIR測定で行ってもよい。
【0040】
天然ゴムラテックスまたは繊維における天然ゴムを架橋してもよい。架橋は、例えば、加硫などで行ってもよいが、これに限定されない。
【0041】
加硫の際に用いる加硫剤としては、例えば、硫黄などが挙げられる。加硫剤の添加量は、例えば、天然ゴム100質量部に対して0.1~5.0質量部であってもよい。
【0042】
加硫の際には、加硫促進剤などを用いてもよい。加硫促進剤としては、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDEC)などが挙げられるが、これに限定されない。加硫促進剤の添加量は、例えば、天然ゴム100質量部に対して0.1~5.0質量部であってもよい。
【0043】
加硫後に熱処理を行ってもよい。熱処理温度は、例えば、120~180℃であってもよい。熱処理時間は、例えば、5分~4時間であってもよい。
【0044】
以上、本発明に係る実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることはいうまでもない。
【0045】
以下、合成例および実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の合成例および実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
(合成例1)
まず、天然ゴムラテックスおよび水溶性ポリマーとして、以下のものを準備した。
天然ゴムラテックス:濃度が60質量%であるGetahindus社製の「G-TEX HA」
水溶性ポリマー:濃度が6質量%であるポリエチレンオキシドの水溶液
【0047】
次に、天然ゴムラテックスに水溶性ポリマーを添加して紡糸用ラテックスを得た。具体的には、質量比で、天然ゴムラテックス:水溶性ポリマー=1:1の割合で、天然ゴムラテックスに水溶性ポリマーを添加した。すなわち、天然ゴムラテックスと水溶性ポリマーとの比率を、固形分換算による質量比で、天然ゴムラテックス:水溶性ポリマー=1:0.1にした。
【0048】
得られた紡糸用ラテックスの粘度を測定した。また、比較として天然ゴムラテックスの粘度も測定した。測定結果は、以下のとおりである。
紡糸用ラテックスの粘度:15,400mPa・s
天然ゴムラテックスの粘度:290mPa・s
【0049】
粘度の測定条件は、以下のとおりである。
測定装置:回転型レオメーターMCR302
プレート:コーンプレート(直径25mm)
せん断速度:10 1/s
測定温度:20℃
【0050】
次に、紡糸用ラテックスを紡糸した。紡糸は、エレクトロスピニング法で行った。エレクトロスピニング法の条件は、以下のとおりである。
印加電界:2.0kV/cm
コレクタ線速度:5m/s
流量:3.0mL/h
【0051】
上述のように紡糸することによって繊維を得た。繊維は、繊維軸が一方向に配向しており、且つ、厚さが70~170μmである不織布の状態で得た。
【0052】
最後に、得られた繊維を洗浄して水溶性ポリマーを除去した。洗浄条件は、以下のとおりである。
洗浄液:水
洗浄温度:25℃
洗浄方法:浸漬
洗浄時間:24時間
【0053】
洗浄後の繊維について、ATR-FTIR測定を行った。その結果、洗浄後の繊維には、水溶性ポリマー(ポリエチレンオキシド)に由来するピークは検出されなかった。
【0054】
洗浄前および洗浄後における繊維の表面をSEMで観察した。その結果、洗浄前および洗浄後において、繊維軸が一方向に配向した異方性構造が観察された。また、繊維材料の特徴である高い空隙も観察された。
【0055】
洗浄前および洗浄後における繊維の平均繊維径をSEMを使用して測定した。測定結果は、以下のとおりである。
洗浄前の繊維の平均繊維径:33μm
洗浄後の繊維の平均繊維径:33μm
【0056】
平均繊維径を測定する際のSEMの測定条件は、次のとおりである。まず、観察試料をイオンコータによりPt/Pdでコーティング(コーティング時間120s、印加電流15mA、チャンバー圧力6Pa)した。その後SEMを用いて観察(印加電圧12kV)した。観察したSEM画像より繊維径を計測した。
【0057】
(合成例2)
まず、天然ゴムラテックスおよび水溶性ポリマーとして、合成例1と同じものを準備した。次に、天然ゴムラテックスに水溶性ポリマーを合成例1と同じ割合で添加して紡糸用ラテックスを得た。そして、天然ゴムラテックスにおける天然ゴムを加硫するため、得られた紡糸用ラテックスに加硫剤および加硫促進剤をさらに添加した。加硫剤としては、硫黄を用いた。加硫剤の添加量は、天然ゴム100質量部に対して0.5質量部にした。また、加硫促進剤としては、ZnDECを用いた。加硫促進剤の添加量は、天然ゴム100質量部に対して0.5質量部にした。
【0058】
次に、紡糸用ラテックスを紡糸した。紡糸は、エレクトロスピニング法で行った。エレクトロスピニング法の条件は、以下のとおりである。
印加電界:2.0kV/cm
コレクタ線速度:3m/s
流量:2.5mL/h
【0059】
上述のように紡糸することによって繊維を得た。繊維は、繊維軸が一方向に配向している不織布の状態で得た。
【0060】
次に、得られた繊維に熱処理を施した。すなわち、加硫後に熱処理を行った。熱処理の条件は、以下のとおりである。
熱処理温度:150℃
熱処理時間:2時間
【0061】
最後に、熱処理後の繊維を合成例1と同様にして洗浄し、水溶性ポリマーを除去した。そして、洗浄後の繊維について、ATR-FTIR測定を行った。その結果、洗浄後の繊維には、水溶性ポリマー(ポリエチレンオキシド)に由来するピークは検出されなかった。
【0062】
洗浄前(熱処理後)および洗浄後における繊維の表面をSEMで観察した。その結果、洗浄前および洗浄後において、繊維軸が一方向に配向した異方性構造が観察された。また、繊維材料の特徴である高い空隙も観察された。
【実施例1】
【0063】
合成例1で得た繊維(不織布)について、機械的特性を評価した。具体的には、JIS K6251に基づく引張試験を行い、弾性率、引張強度および破断強度を測定した。応力ひずみ曲線を
図1に、弾性率、引張強度および破断強度の測定結果を表1に示す。
【0064】
なお、測定は、繊維軸方向および繊維軸に垂直な方向について行った。各方向について具体的に説明すると、
図2に示すように、合成例1で得た繊維1(不織布10)は、複数の繊維1におけるそれぞれの繊維軸が一方向に配向している。そして、
図2に示す矢印A方向が、繊維軸方向であり、矢印B方向が、繊維軸に垂直な方向である。
【0065】
[比較例1]
架橋していない天然ゴムからなる厚さ487μmのキャストフィルムを使用した以外は、実施例1と同様にして引張試験を行い、弾性率、引張強度および破断強度を測定した。測定は、一方向について行った。応力ひずみ曲線を
図1に、弾性率、引張強度および破断強度の測定結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
図1および表1から明らかなように、実施例1は、繊維軸方向に伸びやすくて丈夫であり、且つ、繊維軸に垂直な方向には裂けるといった力学的異方性が得られていることがわかる。また、繊維軸方向において、実施例1は比較例1よりも高い機械的特性を発揮していることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1・・・繊維
10・・・不織布
A・・・繊維軸方向
B・・・繊維軸に垂直な方向