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特許7317314構造物、構造体、構造体の製造方法、及び構造物の製造方法
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  • 特許-構造物、構造体、構造体の製造方法、及び構造物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】構造物、構造体、構造体の製造方法、及び構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 23/02 20060101AFI20230724BHJP
   E04C 5/07 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
B28B23/02 A
E04C5/07
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019185301
(22)【出願日】2019-10-08
(65)【公開番号】P2021059078
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 準治
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-54269(JP,A)
【文献】特開2005-82962(JP,A)
【文献】特表2009-508021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B23/00-23/22
E04C5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント組成物と、
前記セメント組成物の内部に配設された複数の構造体と、
を備え、
前記構造体は、耐腐食性を有する材料によって構成され、別の構造体と接続するための接続部を有し、
前記複数の構造体が、前記セメント組成物の内部において、前記接続部を介して接続されることにより三次元構造を構成し、
前記構造体は、外部と連通する空隙を内部に有し、前記空隙に前記セメント組成物が存在する
構造物。
【請求項2】
セメント組成物と、
前記セメント組成物の内部に配設された複数の構造体と、
を備え、
前記構造体は、耐腐食性を有する材料によって構成され、別の構造体と接続するための接続部を有し、
前記複数の構造体が、前記セメント組成物の内部において、前記接続部を介して接続されることにより三次元構造を構成し、
前記接続部は、別の構造体の接続部と嵌合する形状を有す
造物。
【請求項3】
前記接続部は、凹部、及び、別の構造体の接続部の凹部に挿嵌可能な凸部の少なくとも一方を含む請求項に記載の構造物。
【請求項4】
前記複数の構造体の少なくとも一部は、上下に隣接する構造体の接続部同士が重ならないように位置している請求項に記載の構造物。
【請求項5】
前記複数の構造体に対する前記セメント組成物のかぶり厚さが2cm未満である請求項1からのいずれかに記載の構造物。
【請求項6】
前記構造体は、当該構造物において前記構造体が配設される位置における応力に応じて算出された三次元形状を有する請求項1からのいずれかに記載の構造物。
【請求項7】
前記複数の構造体は、異なる材料によって構成された構造体を含む請求項1からのいずれかに記載の構造物。
【請求項8】
耐腐食性を有する材料によって構成され、
外部と連通し、セメント組成物を充填可能な空隙を内部に有し、
別の構造体と接続するための接続部を有し、
前記接続部を介して別の構造体と接続されることにより三次元構造を形成可能に構成された構造体。
【請求項9】
前記接続部は、別の構造体の接続部と嵌合する形状を有する請求項に記載の構造体。
【請求項10】
前記接続部は、凹部、及び、別の構造体の接続部の凹部に挿嵌可能な凸部の少なくとも一方を含む請求項に記載の構造体。
【請求項11】
引張強さ、圧縮強さ、剪断強さ、又は靭性が高くなるようにトポロジー最適化によって算出された三次元形状を有する請求項から1のいずれかに記載の構造体。
【請求項12】
ポアソン比が0.28以下である請求項から1のいずれかに記載の構造体。
【請求項13】
異なる材料によって構成された層を含む請求項から1のいずれかに記載の構造体。
【請求項14】
請求項から1のいずれかの構造体の三次元形状のデータを取得するステップと、
耐腐食性を有する材料を使用して、三次元プリンターにより前記構造体を形成するステップと、
を備える構造体の製造方法。
【請求項15】
前記構造体を形成するステップは、前記三次元プリンターが使用する材料を異なる材料に変更するステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項16】
請求項から1のいずれかに記載の構造体を複数配設するステップと、構造体を囲むための型枠を形成するステップとを順序を問わずに実行した後、
前記型枠の内側に流動性を有するセメント組成物を充填するステップと、
前記セメント組成物を固化するステップと、
を実行する構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は構造物に関し、とくに、複数の構造体を含む構造物、その構造物に利用可能な構造体、構造体の製造方法、及び構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、砂、砂利、水などをセメントで凝固させた硬化物であり、構造物を建造する材料として広く使用されている。コンクリートは、圧縮力には強いが、引張力には弱いため、引張力を補強するために、コンクリートの中に鉄筋を配した鉄筋コンクリート構造が一般に採用されている。
【0003】
しかし、鉄筋はコンクリート内で腐食する可能性がある。鉄筋が腐食すると、その錆が膨張することでコンクリートのひび割れを誘発しうる。一旦ひび割れが生じると、そこから雨や湿気などによって水分が入り込み、鉄筋コンクリート構造自体の劣化を早める結果となる。過去に建造された大量の鉄筋コンクリート構造物において、このような劣化が進んでおり、既設の構造物の補修、修繕、維持管理などが大きな社会問題となっている。
【0004】
そこで、鉄筋を使用しないコンクリート構造物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された繊維製セル構造コンクリートの製造方法は、型枠内に三次元繊維構造が成形された繊維製セル構造体を形成する工程と、該型枠内にコンクリートを充填し、該セル構造体とともに固化させ、繊維製セル構造体をコンクリートの筋繊維構造としたことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-185798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、特許文献1に開示された技術を改良し、より力学的性能が高い構造物を、より効率的に建造することを可能とする技術に想到した。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、構造物の力学的性能を向上させるための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の構造物は、母材と、母材の内部に配設された複数の構造体と、を備える。構造体は、耐腐食性を有する材料によって構成され、別の構造体と接続するための接続部を有する。複数の構造体が、母材の内部において、接続部を介して接続されることにより三次元構造を構成する。
【0009】
本開示の別の態様は、構造体である。この構造体は、耐腐食性を有する材料によって構成され、外部と連通し、母材を充填可能な空隙を内部に有する。別の構造体と接続するための接続部を有する。接続部を介して別の構造体と接続されることにより三次元構造を形成可能に構成される。
【0010】
本開示の更に別の態様は、構造体の製造方法である。この方法は、上記の構造体の三次元形状のデータを取得するステップと、耐腐食性を有する材料を使用して、三次元プリンターにより構造体を形成するステップと、を備える。
【0011】
本開示の更に別の態様は、構造物の製造方法である。この方法は、上記の構造体を複数配設するステップと、構造体を囲むための型枠を形成するステップとを順序を問わずに実行した後、型枠の内側に流動性を有する母材を充填するステップと、母材を固化するステップと、を実行する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、構造物の力学的性能を向上させるための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に係る構造体の例を示す図である。
図2】実施の形態に係る構造体の接続部の例を示す図である。
図3】実施の形態に係る構造体が接続された状態の例を示す図である。
図4】実施の形態に係る構造体の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図5】実施の形態に係る構造物の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示では、腐食する可能性のある鉄筋に代えて、耐腐食性を有する炭素、ガラス、樹脂などの材料で構成された構造体をコンクリートなどの母材の内部に配した構造を有する構造物を開示する。炭素やガラスなどの材料を含む繊維補強材は、腐食がなく、鉄筋よりも比強度が高い上に、造形の自由度が高く、複雑な三次元形状の構造体も三次元プリンター(3Dプリンター)などの造形技術を利用して比較的容易に形成することができる。したがって、従来の鉄筋コンクリート構造における主筋や配力筋などを模した形状の構造体だけでなく、トポロジー最適化などの計算力学手法を用いて構造物全体の力学的性能を最大にするように算出された三次元形状の構造体を形成することも可能である。このようにして形成された構造体を現場に配設し、その周囲にコンクリートなどの母材を充填して構造体とともに固化させることにより、鉄筋コンクリート構造よりも軽量で、力学的性能、耐久性、耐腐食性に優れた構造物を、より効率的に建造することができる。
【0015】
図1は、実施の形態に係る構造体の例を示す。本実施の形態の構造体10は、図1(a)に示すように、トポロジー最適化によって算出された三次元形状を有する。トポロジー最適化は、構造物の荷重や構造的な制約などの拘束条件の下で、構造物における材料の分布を最適化するための計算力学手法である。拘束条件の下で不要な材料が削除されるので、本実施の形態の構造体10は、外部と連通する空隙11を内部に有する。この空隙11には、コンクリートなどの母材が充填される。このように、トポロジー最適化によって、構造体10の力学的性能を維持又は向上させつつ、不要な材料を削除することができるので、構造体10を軽量化することができ、構造物の材料費を低減させることができる。また、構造体10が力学的エネルギーを効果的に吸収することができるので、構造物に大きな外力がかかっても、構造物が倒壊するのを防ぐことができる。また、靱性の低い材料で構造体10を形成しても、構造体10の三次元形状によって構造体10に靱性を付与することができるので、構造体10を形成する材料の選択肢を増やすことができる。
【0016】
構造体10は、外部と連通しない空洞を内部に有してもよい。これにより、構造体10を更に軽量化することができる。また、コンクリートなどの母材の使用量を低減させることができるので、構造物の材料費を低減させることができる。
【0017】
構造体10は、ポアソン比がほぼゼロとなるように算出された三次元形状を有してもよい。ポアソン比は、物体に弾性限界内で応力を加えたときに、応力に直角方向に発生する歪みと応力方向に沿って発生する歪みの比である。鉄などの金属は、ポアソン比が比較的大きいので、応力がかかって鉄筋が圧縮されたときに、圧縮方向に直角な方向に鉄筋が広がって、周囲のコンクリートにかかる応力が増大しうる。それに対して、本実施の形態の構造体10は、全体としてポアソン比がほぼゼロとなるような三次元形状を有するので、構造体10に応力がかかって圧縮されても、圧縮方向に直角な方向にほとんど歪まない構造とすることができる。これにより、周囲の母材に与える影響を低減し、亀裂などが生じるのを防ぐことができる。ポアソン比は、負であってもよい。ポアソン比は、鋼のポアソン比(0.28~0.3)以下であってもよい。ポアソン比は、コンクリートのポアソン比(0.167)以下であってもよい。ポアソン比は、0.15以下、0.1以下、0.05以下であってもよい。
【0018】
構造体10は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)、ガラス繊維強化樹脂(GFRP)などの繊維強化樹脂で形成されてもよいし、3Dプリンターによって造形可能な任意の材料で形成されてもよい。
【0019】
構造体10は、材料押出堆積法(FDM)、マテリアルジェッティング、バインダージェッティング、粉末焼結積層造形(SLS)、光造形法などの任意の技術を利用した3Dプリンターによって形成されてもよい。
【0020】
母材は、コンクリート、モルタル、セメントペーストなど、土木材料として使用可能な任意の材料であってもよい。母材には、高強度モルタル、高強度セメントなどが使用されることが望ましい。
【0021】
大規模な構造物を建造する場合には、母材の内部に補強材として配設される構造体も大きくなるので、3Dプリンターなどを使用して構造体を一体的に形成することは困難であると共に、構造体の大きさによっては運搬できないなど、制限がかかってきてしまう。したがって、本実施の形態では、3Dプリンターによって形成可能な程度の大きさの構造体を複数接続することにより、大規模な構造物の筋構造として機能する大きな構造体を形成する。
【0022】
図1(b)は、別の構造体と接続するための接続部を設けた構造体の例を示す。構造体10の外面のうち、別の構造体と接する接合面12に、隣接する別の構造体と接続するための接続部13が設けられる。接続部13は、別の構造体の接続部13と嵌合する形状を有する。このような接続部13を有する構造体10の三次元形状のデータを設計しておけば、3Dプリンターによって接続部13を有する構造体10を一体的に形成することができる。
【0023】
図1(c)は、複数の構造体が接続された状態の例を示す。複数の構造体10が母材の内部において接続部13を介して互いに接続されることにより、三次元の筋構造が形成される。これにより、応力が隣接する構造体同士の間で伝達され、三次元の筋構造全体に無駄なく伝播するような構造とすることができるので、構造物全体の力学的性能を向上させることができる。
【0024】
構造体10は、構造物において構造体10が配設される位置における応力に応じて算出された三次元形状を有する。構造物に配設される構造体の全体の三次元形状をトポロジー最適化によって算出し、算出された構造体を3Dプリンターによって形成可能な大きさに分割し、分割されたそれぞれの構造体10に接続部13を設けた三次元形状のデータを3Dプリンターに入力して、それぞれの構造体10を形成してもよい。それぞれの構造体10は、異なる複数の種類の材料によって形成されてもよい。この場合、材料ごとに構造体10を分割してもよい。分割された構造体10が異なる複数の種類の材料を含む場合は、構造体10を形成する3Dプリンター、又は、3Dプリンターが使用する材料を切り替えつつ、構造体10を一体的に形成してもよい。
【0025】
目的や用途などに応じてトポロジー最適化によって算出された三次元形状を有する複数の種類の構造体10が提供され、提供された複数の種類の構造体10を組み合わせて接続することにより構造物の筋構造が形成されてもよい。例えば、主筋として機能する構造体、配力筋として機能する構造体、構造物の基礎、壁、柱に配設される構造体などが提供されてもよい。また、物理的特性の異なる三次元形状を有する複数の種類の構造体10が提供され、構造体10が配設される位置において要求される物理的特性に応じた種類の構造体10が構造物に配設されてもよい。例えば、引張強さ、圧縮強さ、剪断強さ、又は靭性が高くなるようにトポロジー最適化によって算出された三次元形状を有する構造体10が提供されてもよい。この場合、構造物の全体における複数の種類の構造体10の三次元的な配置がトポロジー最適化によって算出されてもよい。複数の種類の構造体10は、異なる材料によって形成されてもよい。個々の構造体10は、1つの材料によって形成されてもよいし、異なる複数の材料を含んでもよい。
【0026】
構造体10が配設される位置において要求される力学的性能に応じて、適切な材料で適切な三次元形状を有する構造体10を形成することにより、軽量で、剛性、強度、靱性などの力学的性能に優れた構造物を、より効率的に建造することができる。また、耐腐食性を有する材料によって構造体10を形成することにより、構造物の耐久性及び耐腐食性を向上させることができる。
【0027】
図2は、実施の形態に係る構造体の接続部の例を示す。図2(a)は、接続部13の水平断面を概略的に示す。構造体10aの接続部13aは、上下方向に形成された凸部14を含む。構造体10bの接続部13bは、上下方向に形成された凹部15を含む。凸部14は、隣接する別の構造体の凹部15に上方から挿嵌可能な形状を有する。凹部15は、隣接する別の構造体の凸部14に上方から挿嵌可能な形状を有する。
【0028】
図2(b)は、隣接する構造体10の接続部13同士を接続する様子を示す。図2(b)の例では、接続部13に凹部15が形成された構造体10bが先に配設され、その隣に、接続部13に凸部14が形成された構造体10aが配設される。構造体10aの凸部14は、構造体10bの凹部15に上方から挿嵌可能な形状を有するので、構造体10aを上方から構造体10bの隣に配設するだけで、容易かつ確実に構造体10aと構造体10bとを接続することができる。
【0029】
図2(c)は、構造体10aと構造体10bが接続されたときの接続部13の水平断面を概略的に示す。凸部14及び凹部15は、それぞれT字状に形成されているので、接続部13同士が互いに係止される。これにより、任意の水平方向に応力がかかっても、隣接する構造体10の間で応力を伝達し合うことができる。また、構造体10同士が離れる方向に応力がかかっても、互いに接続された状態を維持することができる。
【0030】
構造体10は、凸部14のみを有してもよいし、凹部15のみを有してもよいし、双方を有してもよい。凸部14を有する構造体10と凹部15を有する構造体10とが隣接するように構造体10を配置すればよい。構造体10の側面に、左右方向、前後方向、その他の任意の水平方向に隣接する別の構造体10と接続するための接続部13が設けられてもよい。また、構造体10の底面又は頂面に、上下方向に隣接する別の構造体10と接続するための接続部が設けられてもよい。構造体10の底面又は頂面に設けられる接続部は、突起部と、突起部が挿嵌可能な凹部を有してもよい。
【0031】
図3は、実施の形態に係る構造体が接続された状態の例を示す。図3(a)は、構造体10を模式的に示す。構造体10を形成したときの3Dプリンターの積層方向を矢印で示す。図3(a)の例では、積層方向は、接続部13が形成される方向、すなわち上下方向である。
【0032】
図3(b)は、複数の構造体10が接続された状態の例を示す。3Dプリンターは、材料を一層ずつ積層して三次元形状を形成するので、層間の材料の接着性は層内よりも弱くなりうる。したがって、3Dプリンターによる積層方向が一様にならないように複数の構造体10を配設する。これにより、構造物全体の力学的性能を向上させることができる。構造体全体の三次元形状を算出して複数の構造体10に分割する場合は、3Dプリンターによる積層方向も含めて設計しておく。予め形成された複数の種類の構造体10を組み合わせて構造体を形成する場合は、積層方向が異なる同種の構造体10を形成しておいて組み合わせる。図3(b)では、構造体10の一段分を示すが、構造体10を複数段に接続する場合も、3Dプリンターによる積層方向が構造体全体で一様にならないようにすればよい。
【0033】
図3(c)は、複数の構造体10が接続された状態を上方から見た様子を模式的に示す。接続部13の凹部及び凸部は上下方向に挿嵌可能に設けられるので、水平方向に隣接する構造体10同士は、水平方向にはずれにくいが、上下方向には水平方向よりもずれやすい。したがって、複数の構造体10を上下方向に重ねて配設する場合、複数の構造体の少なくとも一部は、上下に隣接する構造体10の接続部13同士が重ならないように位置している。これにより、水平方向に隣接する構造体10同士が接続部13付近で上下方向にずれるのを、上下方向に隣接する別の構造体10でおさえることにより防ぐことができる。したがって、構造物全体の力学的性能を向上させることができる。
【0034】
図4は、実施の形態に係る構造体の製造方法の手順を示すフローチャートである。構造体の三次元形状がトポロジー最適化によって算出される(S10)。算出された構造体の三次元形状データが3Dプリンターに入力される。3Dプリンターは、入力された三次元形状データに基づいて、耐腐食性を有する材料を使用して構造体を形成する(S12)。構造体が別の種類の材料を含む場合は(S14のY)、3Dプリンターが使用する材料が切り替えられる(S16)。3Dプリンターは、三次元形状データに基づいて、切り替えられた材料を使用して構造体を形成する(S12)。構造体が別の種類の材料を含まない場合は(S14のN)、構造体の製造を終了する。
【0035】
本実施の形態の構造体の製造方法によれば、耐久性、耐腐食性、及び力学的性能に優れた構造体を効率的に製造することができる。
【0036】
図5は、実施の形態に係る構造物の製造方法の手順を示すフローチャートである。構造物全体の三次元形状がトポロジー最適化によって算出される(S20)。構造物全体の設計に基づいて、現場に構造体が配設される(S22)。構造体は、既に配設された構造体の接続部の凹部に、隣接する構造体の接続部の凸部を上方から挿嵌させるように配設される。また、配設済みの構造体の上に配設する構造体の接続部が配設済みの構造体の接続部と重ならないように複数の構造体が積層される。
【0037】
構造体は、作業員によって配設されてもよいし、ロボットなどの機械によって配設されてもよい。本実施の形態の技術によれば、専門技能を有する鉄筋工がいなくても構造体を容易かつ精確に配設することができる。とくに、部材の接合部における鉄筋の組立作業は非常に複雑であり、経験の少ない鉄筋工が作業することは困難であったが、本実施の形態の構造体は、部材の接合部において隣接する構造体同士を接続部を介して容易に接続することができるので、経験の少ない作業員であっても作業することができる。
【0038】
構造体の周囲に構造体を囲むための型枠が形成される(S24)。型枠は、型枠工によって形成されてもよいし、高強度モルタル用3Dプリンターやコンクリート用3Dプリンターなどによって形成されてもよい。後者によれば、専門技能を有する型枠工がいなくても型枠を容易かつ精確に形成することができる。
【0039】
配設された構造体に対する母材のかぶり厚さは、鉄筋コンクリート構造において要求されるかぶり厚さより薄くてもよい。鉄筋コンクリート構造においては、鉄筋の腐食を防ぐために、コンクリートの表面から鉄筋の表面までの最小距離が建築基準法によって定められている。本実施の形態の技術によれば、鉄筋に代えて、耐腐食性を有する材料によって形成された構造体を筋構造として配するので、鉄筋よりも母材のかぶり厚さを薄くすることができる。構造体に対する母材のかぶり厚さは、耐力壁以外の壁又は床においては2cm未満、耐力壁、柱又ははりにおいては3cm未満、直接土に接する壁、柱、床若しくははり又は布基礎の立上り部分においては4cm未満、基礎においては捨コンクリートの部分を除いて6cm未満であってもよい。構造体に対する母材のかぶり厚さは、例えば、6cm未満、4cm未満、3cm未満、2cm未満、1cm未満、0.9cm未満、0.8cm未満、0.7cm未満、0.6cm未満、0.5cm未満であってもよい。これにより、構造物を軽量化することができる。また、母材の使用量を低減させることができるので、構造物の材料費を低減させることができるとともに、構造物の建造や解体に際して排出される二酸化炭素の量を削減することができる。
【0040】
構造体を複数配設するステップ(S22)と、構造体を囲むための型枠を形成するステップ(S24)とは、順序を問わずに実行してもよい。すなわち、構造体を複数配設してから、配設された構造体の周囲に型枠を形成してもよいし、構造体を囲むための型枠を形成してから、形成された型枠の内側に構造体を複数配設してもよい。双方のステップが実行された後、型枠の内側に流動性を有する母材が充填される(S26)。その後、母材を固化することにより構造物が完成される(S28)。
【0041】
本実施の形態の構造物製造方法によれば、耐久性、耐腐食性、及び力学的性能に優れた構造物を効率的に建造することができる。また、構造物の建造コストを低減させることができる。
【0042】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0043】
上記の実施の形態では、主に、構造物を建造する現場で型枠と構造体を形成して母材を流し込む場合について説明したが、本実施の形態の技術は、プレキャスト工法においても利用可能である。この場合、上述した構造体の製造方法によって製造したプレキャスト部材が現場に運搬されて設置される。構造体を複数のプレキャスト部材に分割する際にも、トポロジー最適化などの計算力学手法によってプレキャスト部材の分割方法が決定されてもよい。
【0044】
本開示のある態様は、構造物である。この構造物は、母材と、母材の内部に配設された複数の構造体と、を備え、構造体は、耐腐食性を有する材料によって構成され、別の構造体と接続するための接続部を有し、複数の構造体が、母材の内部において、接続部を介して接続されることにより三次元構造を構成する。この態様によると、構造物の耐久性、耐腐食性、及び力学的性能を向上させることができる。
【0045】
構造体は、外部と連通する空隙を内部に有し、空隙に母材が存在してもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0046】
接続部は、別の構造体の接続部と嵌合する形状を有してもよい。この態様によると、構造体同士を容易かつ確実に接続することができる。
【0047】
接続部は、接続部は、凹部、及び、別の構造体の接続部の凹部に挿嵌可能な凸部の少なくとも一方を含んでもよい。この態様によると、構造体を容易に配設することができる。
【0048】
複数の構造体の少なくとも一部は、上下に隣接する構造体の接続部同士が重ならないように位置していてもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0049】
複数の構造体は、耐腐食性を有する材料を使用した三次元プリンターによって形成され、それぞれの構造体の材料の積層方向が一様にならないように複数の構造体の三次元構造が形成されてもよい。この態様によると、構造体を効率的に形成することができる。また、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0050】
複数の構造体に対する母材のかぶり厚さが2cm未満であってもよい。この態様によると、構造物を軽量化することができる。また、母材の使用量を低減させることができるので、構造物の材料費を低減させることができる。
【0051】
構造体は、当該構造物において構造体が配設される位置における応力に応じて算出された三次元形状を有してもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0052】
複数の構造体は、物理的特性の異なる三次元形状を有する複数の種類の構造体を含み、構造体が配設される位置において要求される物理的特性に応じた種類の構造体が配設されてもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0053】
複数の構造体は、引張強さ、圧縮強さ、剪断強さ、又は靭性が高くなるようにトポロジー最適化によって算出された三次元形状を有する構造体を含んでもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0054】
複数の構造体は、異なる材料によって構成された構造体を含んでもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0055】
本開示の別の態様は、構造体である。この構造体は、耐腐食性を有する材料によって構成され、外部と連通し、母材を充填可能な空隙を内部に有し、別の構造体と接続するための接続部を有し、接続部を介して別の構造体と接続されることにより三次元構造を形成可能に構成される。この態様によると、構造体の耐久性、耐腐食性、及び力学的性能を向上させることができる。
【0056】
接続部は、別の構造体の接続部と嵌合する形状を有してもよい。この態様によると、構造体同士を容易かつ確実に接続することができる。
【0057】
接続部は、接続部は、凹部、及び、別の構造体の接続部の凹部に挿嵌可能な凸部の少なくとも一方を含んでもよい。この態様によると、構造体を容易に配設することができる。
【0058】
構造体は、引張強さ、圧縮強さ、剪断強さ、又は靭性が高くなるようにトポロジー最適化によって算出された三次元形状を有してもよい。この態様によると、構造体の力学的性能を向上させることができる。
【0059】
構造体のポアソン比が0.28以下であってもよい。この態様によると、構造体の力学的性能を向上させることができる。
【0060】
構造体は、異なる材料によって構成された層を含んでもよい。この態様によると、構造体の力学的性能を向上させることができる。
【0061】
本開示の更に別の態様は、構造体の製造方法である。この方法は、上記の構造体の三次元形状のデータを取得するステップと、耐腐食性を有する材料を使用して、三次元プリンターにより構造体を形成するステップと、を備える。この態様によると、耐久性、耐腐食性、及び力学的性能に優れた構造体を効率的に製造することができる。
【0062】
構造体を形成するステップは、三次元プリンターが使用する材料を異なる材料に変更するステップを含んでもよい。この態様によると、構造体の力学的性能を向上させることができる。
【0063】
本開示の更に別の態様は、構造物の製造方法である。この方法は、上記の構造体を複数配設するステップと、構造体を囲むための型枠を形成するステップとを順序を問わずに実行した後、型枠の内側に流動性を有する母材を充填するステップと、母材を固化するステップと、を実行する。この態様によると、耐久性、耐腐食性、及び力学的性能に優れた構造物を効率的に建造することができる。
【0064】
構造体を配設するステップにおいて、既に配設された構造体の接続部の凹部に、隣接する構造体の接続部の凸部を挿嵌させてもよい。この態様によると、構造体を容易に配設することができる。
【0065】
構造体を配設するステップにおいて、配設済みの構造体に隣接する構造体の少なくとも一部の接続部が配設済みの構造体の接続部と重ならないように複数の構造体を配設してもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0066】
複数の構造体は、耐腐食性を有する材料を使用した三次元プリンターによって形成され、構造体を配設するステップにおいて、それぞれの構造体の材料の積層方向が一様にならないように複数の構造体の三次元構造を形成してもよい。この態様によると、構造体を効率的に形成することができる。また、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0067】
型枠を形成するステップにおいて、構造体に対する母材のかぶり厚さが2cm未満となるように構造体の周囲に型枠を形成してもよい。この態様によると、構造物を軽量化することができる。また、母材の使用量を低減させることができるので、構造物の材料費を低減させることができる。
【0068】
複数の構造体は、物理的特性の異なる三次元形状を有する複数の種類の構造体を含み、構造体を配設するステップにおいて、構造体が配設される位置において要求される物理的特性に応じた種類の構造体が配設されてもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0069】
複数の構造体は、引張強さ、圧縮強さ、剪断強さ、又は靭性が高くなるようにトポロジー最適化によって算出された三次元形状を有する構造体を含んでもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【0070】
複数の構造体は、異なる材料によって形成された構造体を含んでもよい。この態様によると、構造物の力学的性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0071】
10 構造体、11 空隙、12 接合面、13 接続部、14 凸部、15 凹部。
図1
図2
図3
図4
図5