(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維、捲縮濃染性ポリエステル繊維、織編物、潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法、および捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
D01F8/14 B
(21)【出願番号】P 2018160647
(22)【出願日】2018-08-29
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 直哉
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓暉
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-199932(JP,A)
【文献】特公平03-070010(JP,B2)
【文献】特開昭61-097486(JP,A)
【文献】特開平03-082817(JP,A)
【文献】特開昭61-152816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂A、および、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂Bおよび、高比重無機微粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Bと、からなる複合糸
である潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維であって、
前記ポリエステル樹脂組成物Aおよび前記ポリエステル樹脂組成物Bの複合形状がサイドバイサイド型、または偏心芯鞘型であり、
前記ポリエステル樹脂組成物Bにおける前記高比重無機微粒子の含有割合が0.
5質量%
を超え、
沸水処理後の捲縮率が40%以上であることを特徴とする潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエステル樹脂A、および、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂Bおよび、高比重無機微粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Bと、からなる複合糸
である捲縮濃染性ポリエステル繊維であり、
単繊維の表面において微細孔が形成されている捲縮濃染性ポリエステル繊維であって、
前記単繊維のポリエステル樹脂組成物Aの表面において、5μm×5μmサイズの領域中の前記微細孔の個数が10個以上であり、前記微細孔の長軸が1.8μm以下、かつ短軸が0.8μm以下であり、
前記単繊維のポリエステル樹脂組成物Bの表面において、5μm×5μmサイズの領域中の前記微細孔の個数が1個以上であり、前記微細孔の長軸が1.6μm以上、かつ短軸が0.6μm以上であり、
前記ポリエステル樹脂組成物Bにおける高比重無機微粒子の含有割合が0.1質量%以上であり、
捲縮率が40%以上であることを特徴とする、捲縮濃染性ポリエステル繊維。
【請求項3】
請求項2に記載の捲縮濃染性ポリエステル繊維を含む、織編物。
【請求項4】
請求項1に記載の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法であって、下記の工程(I)および(II)をこの順に含む、製造方法。
(I)ポリエステル樹脂、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および高比重無機微粒子を含有するポリエステル組成物Bを準備する工程
(II)前記ポリエステル樹脂組成物Aと、前記ポリエステル樹脂組成物Bとを複合紡糸する工程
【請求項5】
請求項2に記載の捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法であって、下記の工程(I)~(III)をこの順に含む、製造方法。
(I)ポリエステル樹脂、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および高比重無機微粒子を含有するポリエステル組成物Bを準備する工程
(II)前記ポリエステル樹脂組成物Aと、前記ポリエステル樹脂組成物Bとを複合紡糸して、複合糸を得る工程
(III)前記複合糸にアルカリ減量処理を施し、単繊維表面に存在する、前記生成粒子および前記高比重無機微粒子の少なくとも一部を脱落させるとともに、捲縮を発現させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維、捲縮濃染性ポリエステル繊維、織編物、潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法、および捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、耐熱性又は機械的特性などの多くの特性に優れるため、衣料用途又は産業用途に広く利用されている。昨今の衣料用途においてポリエステル繊維は前述の特性のみならず、天然繊維の優れた風合いをも合わせ持つことを要求されている。特にウール等の梳毛を使用した布帛はソフト風合い、濃染性、ドレープ性を有しており、現在のトレンドを背景にこれらの特性を併せ持つポリエステル繊維の要望が高まっている。
【0003】
例えば、特許文献1には天然繊維の持つソフト風合いやストレッチ性を発現するため、熱収縮特性の異なる2種類のポリエステルをサイドバイサイド型に接合し、製織編後の加工時に受ける熱により捲縮性能を発現する潜在捲縮性の複合繊維が記載されている。また、特許文献2には芯鞘複合ポリエステル繊維の芯部に二酸化チタンを高濃度に含有させることで繊維の比重を高くし、結果としてドレープ性を向上させた複合繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-212838号公報
【文献】特開平10-317230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された技術を採用した場合、捲縮発現により嵩高であるがゆえに重量感に欠ける上、ポリエステル繊維特有のハリコシが発現するためドレープ性が非常に悪い。また、特許文献2に記載された技術を採用してドレープ性を向上させる場合、ドレープ性の向上には二酸化チタン等の高比重無機微粒子を含有させる必要がある。こうした場合、高比重無機微粒子の多くが白色であるため、二酸化チタンを含有させたポリエステル繊維は染色後の鮮明さ、色の深みといった濃染性に劣り、または梳毛調風合いも十分ではない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、こうした従来技術の問題点を改良し、ドレープ性を向上させるために高比重無機微粒子を含有させた場合であっても、布帛とした場合にソフト風合い、濃染性の何れにも優れ、梳毛調が発現しうる、捲縮性に優れたポリエステル繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、高粘度かつ特定の生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物と、低粘度かつ特定の高比重無機微粒子を有するポリエステル樹脂組成物とが複合された複合繊維は、アルカリ減量後に高い捲縮性を発現しつつ、布帛とした場合のソフト風合い、濃染性、ドレープ性、梳毛調の何れにも優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)~(5)を要旨とする。
(1)ポリエステル樹脂A、および、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂Bおよび、高比重無機微粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Bと、からなる複合糸である潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維であって、前記ポリエステル樹脂組成物Aおよび前記ポリエステル樹脂組成物Bの複合形状がサイドバイサイド型、または偏心芯鞘型であり、前記ポリエステル樹脂組成物Bにおける前記高比重無機微粒子の含有割合が0.5質量%を超え、沸水処理後の捲縮率が40%以上であることを特徴とする潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維。
(2)ポリエステル樹脂A、および、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂Bおよび、高比重無機微粒子、を含有するポリエステル樹脂組成物Bと、からなる複合糸である捲縮濃染性ポリエステル繊維であり、単繊維の表面において微細孔が形成されている捲縮濃染性ポリエステル繊維であって、前記単繊維のポリエステル樹脂組成物Aの表面において、5μm×5μmサイズの領域中の前記微細孔の個数が10個以上であり、前記微細孔の長軸が1.8μm以下、かつ短軸が0.8μm以下であり、前記単繊維のポリエステル樹脂組成物Bの表面において、5μm×5μmサイズの領域中の前記微細孔の個数が1個以上であり、前記微細孔の長軸が1.6μm以上、かつ短軸が0.6μm以上であり、前記ポリエステル樹脂組成物Bにおける高比重無機微粒子の含有割合が0.1質量%以上であり、捲縮率が40%以上であることを特徴とする、捲縮濃染性ポリエステル繊維。
(3)(2)の捲縮濃染性ポリエステル繊維を含む、織編物。
【0009】
(4)(1)に記載の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法であって、下記の工程(I)および(II)をこの順に含む、製造方法。
(I)ポリエステル樹脂、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および高比重無機微粒子を含有するポリエステル組成物Bを準備する工程
(II)前記ポリエステル樹脂組成物Aと、前記ポリエステル樹脂組成物Bとを複合紡糸
する工程
(5)(2)に記載の捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法であって、下記の工程(I)~(III)をこの順に含む、製造方法。
(I)ポリエステル樹脂、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および高比重無機微粒子を含有するポリエステル組成物Bを準備する工程
(II)前記ポリエステル樹脂組成物Aと、前記ポリエステル樹脂組成物Bとを複合紡糸して、複合糸を得る工程
(III)前記複合糸にアルカリ減量処理を施し、単繊維表面に存在する、前記生成粒子および前記高比重無機微粒子の少なくとも一部を脱落させるとともに、捲縮を発現させる工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維は、高粘度かつ特定の生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物と、低粘度かつ特定の高比重無機微粒子を有するポリエステル樹脂組成物とが複合された複合形状を有しているために、アルカリ減量された後に高い捲縮性を発現しつつ、ソフト性に優れ、ドレープ性を向上させるために高比重無機微粒子を含有させた場合であっても濃染性が良好であり、さらには梳毛調にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維の複合形状を示す模式図である。
【
図2】実施例1で得られた捲縮濃染性ポリエステル繊維について、ポリエステル樹脂組成物Aが表面を形成する単繊維表面を、SEMを用いて撮影した写真である(倍率3500倍)。
【
図3】実施例1で得られた捲縮濃染性ポリエステル繊維について、ポリエステル樹脂組成物Bが表面を形成する単繊維表面を、SEMを用いて撮影した写真である(倍率3500倍)。
【
図4】
図4は、実施例1にて得られた潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維について、アルカリ減量処理を行う前の単繊維表面を、SEMを用いて撮影した写真である(倍率3500倍)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維]
本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維は、ポリエステル樹脂組成物A(以下、樹脂組成物Aという場合がある)と、ポリエステル樹脂組成物B(以下、樹脂組成物Bという場合がある)と、からなる複合糸である。樹脂組成物Aは、ポリエステル樹脂A、および、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、を含有する。樹脂組成物Bは、ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および、高比重無機微粒子、を含有する。樹脂組成物Bにおける前記高比重無機微粒子の含有割合が0.1質量%以上である。
【0013】
本発明における潜在捲縮性とは、沸騰水収縮処理を施した際に、コイルバネ状の立体的な捲縮(スパイラル捲縮)を発現する捲縮能を有するものである。この潜在的な捲縮性能は、本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維を構成する2種のポリエステル(ポリエステル樹脂A、ポリエステル樹脂B)の熱収縮差によって発現するものであり、沸騰水収縮処理をすることによって捲縮が顕在化する。本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維は、潜在捲縮が顕在化されることにより、顕在捲縮を有するものとなり、ソフト性およびストレッチ性に優れた布帛を得ることができる。
【0014】
本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維は、極限粘度の異なる2種のポリエステル樹脂Aを含む樹脂組成物Aと、ポリエステル樹脂Bを含む樹脂組成物Bと、が複合されてなるものであり、その複合形状がサイドバイサイド型、または偏心芯鞘型である。
【0015】
サイドバイサイド型とは、例えば
図1(イ)に示すように、2種類のポリエステル成分(樹脂組成物A、樹脂組成物B)の貼合わせ面が直線的でほぼ等分に貼り合わされている形状であるか、又は
図1(ロ)に示すように2種類のポリエステル成分の貼合わせ面が湾曲して貼り合わされている形状である。そして、偏心芯鞘型とは、例えば
図1(ハ)に示すように、一方の成分が鞘部に配され、他方の成分が芯部に配され、芯部と鞘部の中心が一致していない形状である。なお、
図1(ハ)においては、通常、より低粘度のポリエステル成分が鞘部に配され、より高粘度のポリエステル成分が芯部に配される。
【0016】
本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維において、樹脂組成物Aと樹脂組成物Bの複合比率(体積比)は、樹脂組成物A/樹脂組成物B=70/30~30/70が好ましく、60/40~40/60がより好ましい。樹脂組成物A/樹脂組成物Bの比が70/30より樹脂組成物Bの比率が大きいと、繊維強度、製糸性がより良好となる。一方、30/70より樹脂組成物Bの比率が小さいと、潜在捲縮性により優れるものとなる。
【0017】
本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維は、沸騰水収縮処理を施した後(後述のように、沸騰水中で30分間収縮処理を施した後)の捲縮率が40%以上であり、こうした高捲縮を有するものであるために、他素材と組み合わせて用いたり、種々の加工を施したりする場合においても、優れた捲縮性を有し、ソフト風合いに優れる布帛とすることが可能となる。捲縮率は45%以上であることが好ましく、50%以上がより好ましく、52%以上がさらに好ましく、55%以上が特に好ましい。捲縮率の上限は特に限定されないが、例えば85%以下であると、布帛の表面平滑性などがより良好となるため好ましい。
【0018】
2種類のポリエステルのうち、一方のポリエステル樹脂Aは潜在捲縮を顕在化させるための加熱処理においてポリエステル樹脂Bよりも粘度が低いポリマーである。これにより、ポリエステル樹脂Bはポリエステル樹脂Aよりも、収縮し難くなる。ポリエステル樹脂Aの極限粘度は0.75dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.70dl/g以下、さらに好ましくは0.65dl/g以下であり、いっそう好ましくは0.60dl/g以下であり、特に好ましくは0.53dl/g以下である。極限粘度が0.75dl/g以下である場合には、紡糸時にポリエステル樹脂Aへ付加される張力が適度に低下し、熱収縮が十分小さくなり、ひいては捲縮性に優れる(沸騰水収縮処理を施した後の捲縮率が40%以上となる)ため、好ましい。ポリエステル樹脂Aの極限粘度の下限値は、特に限定されないが、紡糸操業性が良好であるために、0.35dl/gであることが好ましく、0.40dl/gであることがより好ましい。
【0019】
2種類のポリエステルのうち、他方のポリエステル樹脂Bは潜在捲縮を顕在化させるための沸騰水収縮処理を施した後(例えば、後述のように、アルカリ減量処理による沸騰水中で30分間収縮処理を施した後)において高収縮するポリマーである。ポリエステル樹脂Bの極限粘度は、ポリエステル樹脂Aの極限粘度よりも高いことを前提として、0.55dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.60dl/g以上であり、さらに好ましくは0.63dl/g以上であり、いっそう好ましくは0.66dl/g以上であり、特に好ましくは0.68dl/g以上であり、特に好ましくは0.70dl/g以上である。極限粘度が0.55dl/g以上であれば、紡糸時に適切な張力がかかるために熱収縮が十分大きくなり、ひいては捲縮性に優れる(沸騰水収縮処理を施した後の捲縮率が40%以上となる)ため好ましい。ポリエステル樹脂Bの極限粘度の上限値は、紡糸操業性が良好であるために、0.85dl/gであることが好ましく、0.80dl/gであることがより好ましい。
【0020】
本発明においては、捲縮はポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bとの収縮差によって発現し、両者の収縮差が大きいほど捲縮がより強まり好ましい。具体的にはポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bの極限粘度差が0.02dl/g以上が好ましく、より好ましくは0.06dl/g以上、さらに好ましくは0.10dl/g以上、いっそう好ましくは0.15dl/g以上、特に好ましくは0.20dl/g以上であり、最も好ましくは0.25dl/g以上である。極限粘度差をこうした範囲とすることで、沸騰水収縮処理を施した後の捲縮率をいっそう高くすることができる。
【0021】
本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維は、樹脂組成物Aにおいて、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来するか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有する。なお、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を、単に金属化合物と称する場合がある。本発明において、潜在濃染性とは、ポリエステル繊維に対してアルカリ減量処理を施して、生成粒子、または高比重無機微粒子の少なくとも一部を脱落させ、単繊維表面に微細孔を形成することで発現する濃染性をいう。
【0022】
生成粒子とは、シリカ微粒子のような公知の不活性微粒子とは異なるものであり、後述のリン化合物と金属化合物とをあらかじめ反応させずに個別にポリエステル樹脂組成物の製造段階(合成反応系)に添加することで、リン化合物と金属化合物とが反応し形成される粒子である。
【0023】
生成粒子の平均粒子径は、0.1~4.0μmであることが好ましく、より好ましくは0.4~3.5μmであり、さらに好ましくは0.45~3.0μmである。平均粒子径が上記範囲であると、アルカリ減量処理により本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維を得た場合に、ポリエステル樹脂組成物Aの表面において、後述のような適切なサイズを有する微細孔を形成し得る生成粒子となる。生成粒子の平均粒子径は、例えば、リン化合物と金属化合物との組み合わせ、又はリン化合物と金属化合物との添加量を好ましいものとすることで、上記の範囲に制御することができる。
【0024】
リン化合物としては、例えば、リン酸類、ホスホン酸類、又はホスフィン酸類が挙げられる。なかでも、生成粒子の平均粒子径が大きすぎることがなく、ポリエステル繊維の濃染性(又は潜在濃染性)及び製糸工程の安定性が良好となるため、脂肪族のリン酸類が好ましく、特にリン酸エステルが好ましい。濃染性に優れる観点から、リン酸エステルの中でもリン酸トリエチル(トリエチルホスフェート)が特に好ましい。
【0025】
アルカリ金属化合物とは、特に、カルボン酸のアルカリ金属塩であり、その具体例として、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、又は安息香酸カリウムが挙げられる。なかでも、生成粒子の平均粒子径が最適な範囲となり、ポリエステルの重合反応時の副生成物を抑制できることから、酢酸リチウムが好ましい。
【0026】
アルカリ土類金属化合物とは、特に、カルボン酸のアルカリ土類金属塩であり、その具体例として、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム、プロピオン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸カルシウム、又は酢酸マンガンが挙げられる。特にカルボン酸のマグネシウム塩を用いた場合は、ポリエステル樹脂中に形成される生成粒子の粒子径が過大となることがなく、濃染性及びポリエステル繊維の製糸工程の安定性が良好となるため好ましい。なかでも、濃染性及び取扱性に優れるために、酢酸マグネシウムが特に好ましい。
【0027】
リン化合物と金属化合物との好ましい組み合わせは、生成粒子の平均粒子径を上記範囲に制御し、濃染性に顕著に優れるポリエステル繊維(潜在濃染性ポリエステル繊維、濃染性ポリエステル繊維)を得る観点から、リン酸エステルと酢酸の金属塩との組み合わせが好ましく、より好ましくはトリエチルホスフェート(リン酸トリエチル)と酢酸マグネシウムとの組み合わせであり、さらに、これらに加えて酢酸リチウムを併用することが最も好ましい。
【0028】
高比重無機微粒子を含有させることで繊維全体としての比重を増加させ、ドレープ性を発現させることができる。また、この高比重無機微粒子の少なくとも一部は、アルカリ減量されて脱落することにより、単繊維表面に微細孔(凹凸形状)が形成される。これにより、白色を呈する高比重無機微粒子を含有させているにも関わらず、含有させていない場合と同等の濃染効果を奏するものとなる。
【0029】
本発明において高比重無機微粒子とは、繊維を構成するポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタラート)よりも比重が重い無機微粒子を示す。高比重無機微粒子としては特に限定されないが、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム等が挙げられる。この中でも二酸化チタンはポリエステル繊維の添加剤として広く利用され、汎用性、取扱性に優れる。
【0030】
高比重無機微粒子の平均粒径は分散性、紡糸性、さらにアルカリ減量により粒子の少なくとも一部が脱落して生じる微細孔のサイズの点から0.1~1.5μmの範囲が好ましく、0.2~1.0μmの範囲がより好ましく、0.2~0.5μmの範囲がさらに好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であれば分散性が良好であり、1.5μm以下であれば紡糸性が良好となる。また、微細孔のサイズが上記範囲であると、生成粒子に由来する微細孔と、高比重無機微粒子に由来する微細孔とを同時に含有する効果により、白色を呈する高比重無機微粒子を含有させているにも関わらず、含有させていない場合と同等の濃染性を発現させる。高比重無機微粒子を樹脂組成物Bに含有させる方法としては、ポリエステル樹脂Bの重縮合反応槽の前で添加しても、紡糸前で添加してもよい。
【0031】
樹脂組成物Bにおける高比重無機微粒子の含有量は、ドレープ性を発現させる観点から、0.1質量%以上であり、0.2~10質量%が好ましく、1.5~7.5質量%が好ましく、1.5~5.0質量%がより好ましく、1.5~2.5質量%がさらに好ましい。高比重無機微粒子の添加量が10質量%以下であれば紡糸性がいっそう良好となり好ましい。
【0032】
[捲縮濃染性ポリエステル繊維]
本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維は、樹脂組成物Aと、樹脂組成物Bとからなり、単繊維の表面において微細孔が形成されている複合糸である。
樹脂組成物Aは、ポリエステル樹脂A、および、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、を含有する。
樹脂組成物Bは、ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および、高比重無機微粒子、を含有する。単繊維のポリエステル樹脂組成物Aの表面において、5μm×5μmサイズの領域中の前記微細孔の個数が10個以上であり、前記微細孔の長軸が1.8μm以下、かつ短軸が0.8μm以下である。ポリエステル樹脂組成物Bにおける高比重無機微粒子の含有割合が0.1質量%以上である。
【0033】
潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維において、繊維表面にて、上記のような平均粒子径の生成粒子および高比重無機微粒子の少なくとも一部が、アルカリ減量されて脱落することにより、単繊維表面に微細孔(凹凸形状)が形成された本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維とすることができる。
【0034】
微細孔と濃染性との関係性について以下に述べる。通常、ポリエステル繊維表面に光が入射すると、この入射光が反射することでギラツキが発生し、深みのある色合い又は十分な濃染性を発現することができない。しかし、本発明においては特定サイズの微細孔が高密度で存在することにより、単繊維表面に入射光が反射する際に散乱と再散乱とを繰り返した後、反射光が繊維表面に再度入射することで繊維中に吸収される光を増加させることができる。すなわち、ドレープ性を向上させるために白色を呈する高比重無機微粒子を含有させているにも関わらず、入射光を繊維表面へ多重散乱させて反射光を低減し、優れた濃染性と深みある色合いとを発揮することができる。なお、本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維においては、低粘度側の樹脂組成物A部分の表面において、高粘度側の樹脂組成物Bよりも微細な微細孔が存在するために、捲縮が付与された状態では、ポリエステル樹脂組成物Aが糸条の外側に配されるために、より濃染性に優れる。さらに、樹脂組成物Aの表面に微細孔が存在することで、梳毛調風合を高めることができる。
【0035】
入射光の多重散乱を促進させて濃染性を高め、さらに梳毛調風合を高めるために、単繊維における樹脂組成物A部分の表面には、可視光の波長(380~780nm)に適切に対応するようなサイズの微細孔が高密度に存在することが好ましい。こうした微細孔のサイズを達成するためには、上記の生成粒子の平均粒子径を上記のような範囲とすることができる。詳しくは、樹脂組成物A部分の表面における微細孔のサイズは、長軸が1.8μm以下、かつ短軸が0.8μm以下であり、長軸が0.4~1.7μmかつ短軸が0.2~0.7μmであることが好ましい。長軸が0.5~1.6μmかつ短軸が0.3~0.6μmであることがより好ましい。
【0036】
さらに、入射光の多重散乱を促進し、梳毛調風合いを高めるために、単繊維における樹脂組成物A部分の表面において、微細孔は、5μm×5μmの領域に、5個以上の個数で存在するものであり、10個以上の個数で存在することがより好ましく、15個以上の個数で存在することがさらに好ましい。
【0037】
一般に、ウール等の天然動物性繊維は捲縮能と繊維表面にスケールと呼ばれる凹凸を持つことが知られている。対して本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維は捲縮能を有し、かつ生成粒子の少なくとも一部が脱落することにより繊維表面に凹凸が生じるため、ウール等の天然動物性繊維と非常に類似した特徴を兼ね備えている。そのため、本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維はアルカリ減量処理後にウール等の優れた梳毛調風合い、ソフト風合いを発現する。
【0038】
また、本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維は優れたドレープ性と濃染性を同時に有することができる。この優れたドレープ性は、上記の高比重無機微粒子を含有させることで繊維全体としての比重を増加させることで発現される。ここで、高比重無機微粒子を含有させた場合は、微粒子の多くが白色であることに起因して濃染性に劣り、また梳毛調風合いに劣る場合がある。この高比重無機微粒子は、少なくともその一部がアルカリ減量されて脱落することにより、単繊維表面に微細孔(凹凸形状)が形成されることで、ドレープ性向上のために高比重無機微粒子を含有させた場合であっても、高比重無機微粒子が含有されていない場合と同等の濃染効果を奏するとともに、梳毛調風合いをいっそう向上させる。
【0039】
高比重無機微粒子の平均粒径は、分散性、紡糸性、さらにアルカリ減量により粒子の少なくとも一部が脱落して生じる微細孔のサイズの点から、0.1~1.5μmの範囲が好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であれば分散性が良好であり、1.5μm以下であれば紡糸性が良好となる。ポリエステルに含有させる方法としては、重縮合反応槽の前で添加しても、紡糸前で添加してもよい。
【0040】
高比重無機微粒子の含有量は、0.1質量%以上であり、0.2~10質量%が好ましく、1.5~7.5質量%が好ましく、1.5~5.0質量%がより好ましく、1.5~2.5質量%がさらに好ましい。高比重無機微粒子の添加量が10質量%以下であれば紡糸性が良好となり好ましい。
【0041】
樹脂組成物Bに高比重無機微粒子を添加すると、樹脂組成物B部分の単繊維表面において、アルカリ減量により高比重無機微粒子の少なくとも一部が脱落することによって微細孔が生じる。この微細孔のサイズは、濃染性の観点から長軸が1.6μm以上、かつ短軸が0.6μm以上であり、ポリエステル樹脂組成物Aの表面における微細孔よりも大きいことが好ましい。その上限値は、長軸が3.5μm以下、かつ短軸が1.5μm以下であることがより好ましく、長軸が1.8~3.4μmかつ短軸が0.6~1.4μmであることがさらに好ましい。長軸が2.0~3.3μmかつ短軸が0.7~1.3μmであることが特に好ましい。
【0042】
樹脂組成物B部分の単繊維表面において、濃染性、梳毛調風合いの観点から、5μm×5μmの領域に、微細孔は1個以上の個数で存在するものであり、5個以上の個数で存在することがより好ましい。
【0043】
前述の通り、入射光の多重散乱を促進させて濃染性を高めるためには、可視光の波長(380~780nm)に適切に対応するようなサイズの微細孔が存在することが好ましい。適切なサイズとは入射光の波長によって異なるため、可視光波長域からやや大きいサイズの微細孔が一様に存在することが望ましい。ここで、高比重無機微粒子をポリエステル樹脂Aに添加しない場合は、粒子径の小さい生成粒子が高比重無機微粒子との凝集により粗大化することがいっそう抑制され、結果として、波長の短い可視光に対応するサイズの微細孔がより形成され易くなる。そのため、高比重微粒子は生成粒子を含有しない樹脂組成物Bのみに含有させて、適切なサイズの微細孔が一様に存在するようせしめるのである。
【0044】
本発明は、高比重無機微粒子と生成粒子との少なくとも一部がアルカリ減量工程により脱落することで、微細孔が形成されると同時に、この微細孔のサイズが異なることの効果によって、入射光の多重散乱を促進させ濃染性を向上させうることを初めて見出したものである。詳しくは、ドレープ性を発現させる高比重無機微粒子の多くが白色であるために、従来では達成できなかった濃染性を向上させることができ、ドレープ性と濃染性の両立が達成されたものである。本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維を使用した布帛はソフト風合い、濃染性、ドレープ性に優れ、ウール等の梳毛を使用した布帛と同等の風合いを得る。
【0045】
本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維は、上述したように、2種類の微細孔のサイズ、個数を、同時に特定の範囲とすることにより、入射光を多重散乱させて反射光を低減させ、優れた濃染性を発現することができる。具体的には、本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維を筒編地とした後に黒色染色加工を施したときのL値は、14.0以下であることが好ましく、13.8以下であることがより好ましく、13.5以下であることがさらに好ましい。L値の測定方法の詳細は、実施例において後述する。
【0046】
本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂Aおよび/またはポリエステル樹脂Bは、ヒンダードフェノール系化合物のような抗酸化剤、コバルト化合物、蛍光剤、染料のような色調改良剤、酸化セリウムのような耐候性改良剤、難燃剤、静電剤、抗菌剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、セラミック等種々の改質剤や添加剤を含有してもよい。
【0047】
本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維の単繊維繊度は特に限定されず、例えば0.5~6dtexであることが好ましく、0.8~5dtexであることがより好ましい。単糸繊度が0.5dtex以上であると、捲縮性能の発現がいっそう良好となり、さらに紡糸安定性により優れる。一方、単糸繊度が6dtex以下であると、ウースター斑がいっそう良好となり、染色品位により優れる。
【0048】
本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法、捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法の一例について、以下に説明する。
【0049】
潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法は、下記の工程(I)および(II)をこの順に含む。
(I)ポリエステル樹脂、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および高比重無機微粒子を含有するポリエステル組成物Bを準備する工程
(II)前記ポリエステル樹脂組成物Aと、前記ポリエステル樹脂組成物Bとを複合紡糸する工程
【0050】
本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維の製造方法は、下記の工程(I)~(III)をこの順に含む。
(I)リポリエステル樹脂、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とに由来する生成粒子を含有するポリエステル樹脂組成物Aと、
前記ポリエステル樹脂Aより極限粘度が高いポリエステル樹脂B、および高比重無機微粒子を含有するポリエステル組成物Bを準備する工程
(II)ポリエステル樹脂組成物Aとポリエステル樹脂組成物Bとを複合紡糸する工程
(III)アルカリ減量処理を施し、単繊維表面に存在する生成粒子および高比重無機微粒子の少なくとも一部を脱落させる工程
【0051】
すなわち、工程(I)および(II)を実行することで、本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維を製造する。
【0052】
次いで、潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維に対して、工程(III)の塩基性化合物を接触させてアルカリ減量処理を施し、単繊維表面に存在する生成粒子および高比重無機微粒子の少なくとも一部を脱落させて、微細孔を形成し、これにより、本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維が得られる。
【0053】
工程(I)
(ポリエステル樹脂組成物Aの調整方法)
ポリエステル樹脂組成物Aの調整方法の一例は、以下の通りである。
ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを生成させて、前記ポリエステルオリゴマーに、リン化合物とアルカリ土類金属化合物とを添加するか、又は、リン化合物とアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行う。上述したように本明細書においては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を金属化合物と称する場合がある。
【0054】
ジカルボン酸としては、主にテレフタル酸を用いることができる。本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていてもよい。テレフタル酸以外の成分としては、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、p-ヒドロキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、又は1,4-シクロヘキシルジカルボン酸などが挙げられる。
【0055】
ジオール成分としては、主にエチレングリコールを用いることができる。本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じて他の成分が共重合されていてもよい。エチレングリコール以外の成分としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチレングリコール)、ジプロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、又はポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどが挙げられる。
【0056】
ジカルボン酸(テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸)とジオール(エチレングリコールを主成分とするジオール)とをエステル化反応させて、ポリエステルオリゴマーを得る。ここで、ポリエステルオリゴマーとはジカルボン酸成分及びジオール成分が、それぞれテレフタル酸及びエチレングリコールの場合には、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートを含み、さらに、一分子内にエチレンテレフタレートの繰り返し単位を2以上含み、かつ、いまだポリエチレンテレフタレートと呼べるほど極限粘度・分子量・重合度が上がっておらず、末端がカルボキシル基又はヒドロキシエチル基である化合物を表す。そのようなポリエステルオリゴマーが生成するまで、例えば、250℃の温度で3~8時間エステル化反応を行うことができる。エステル化反応の反応率を検知するために、生成する水の量を測定することができる。
【0057】
ポリエステルオリゴマーにはトリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸、グリセリン、ペンタエリトリトール、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどの多価ヒドロキシ化合物を、本発明の目的を達成する範囲内で共重合してもよい。
【0058】
上記のポリエステルオリゴマーに金属化合物とリン化合物とを添加し、次いで重縮合反応を行って、ポリエステル樹脂組成物Aを得る。重縮合反応とともに、リン化合物と金属化合物との反応が起こり、ポリエステル樹脂に不溶である上述したような生成粒子が形成する。
【0059】
リン化合物と金属化合物の添加順については、リン化合物を先としてもよいし、リン化合物を後にしてもよく、また、リン化合物と金属化合物とを混合して同時添加としてもよい。
【0060】
金属化合物の添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して10×10-4~100×10-4モルであることが好ましく、より好ましくは30×10-4~80×10-4モルである。含有量が10×10-4以上であると、ポリエステル繊維の濃染性を良好とするのに十分なサイズの生成粒子を形成することができ、かつポリエステル繊維表面に濃染性を良好とするために必要な前述の個数の微細孔を発現させることができる。100×10-4モル以下であると、粗大粒子の発生を抑制できるので、紡糸する際に溶融したポリエステル樹脂組成物をろ過するフィルターの目詰まりが発生せず、ポリエステル繊維の製糸工程の安定性を良好に保つことができる。
【0061】
リン化合物の添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して10×10-4~100×10-4モルであることが好ましく、より好ましくは20×10-4~90×10-4モルである。含有量が10×10-4モル以上であると、ポリエステル繊維の濃染性を良好とするのに十分なサイズの生成粒子を形成することができ、かつポリエステル繊維表面に濃染性を良好とするために必要な前述の個数の微細孔を発現させることができる。100×10-4モル以下であると、粗大な生成粒子の発生を抑制できるので、紡糸する際に溶融したポリエステル樹脂組成物をろ過するフィルターの目詰まりが発生せず、ポリエステル繊維の製糸工程の安定性を良好に保つことができる。なお、金属化合物とリン化合物とのモル比は、製糸安定性及び潜在濃染性に優れるために、(金属化合物)/(リン化合物)=0.5~1.5であることが好ましい。
【0062】
次いで、重縮合触媒(例えば、エチレングリコール溶液)を添加し重縮合反応を行って、ポリエステル樹脂組成物Aを得る。重縮合反応系には、必要に応じて、共重合モノマー又は着色防止剤のような添加剤を、エチレングリコール溶液又は分散液として添加してもよい。この場合、エチレングリコールを留去(減圧下でエチレングリコールを除去)することによって重縮合反応を開始し、引き続き留去しながら反応を行った後、常法によってストランドを払い出し、チップ化することができる。ここで、生成粒子の生成は重縮合触媒が添加されてから開始される。
【0063】
ポリエステル樹脂組成物Aの極限粘度は、0.75dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.70dl/g以下、さらに好ましくは0.65dl/g以下であり、いっそう好ましくは0.60dl/g以下であり、特に好ましくは0.53dl/g以下である。
【0064】
(ポリエステル樹脂組成物Bの調整方法)
ポリエステル樹脂組成物Bは、上記したようなポリエステル樹脂Bに、高比重無機微粒子を添加することにより調整される。高比重無機微粒子を樹脂組成物Bに含有させる方法としては、ポリエステル樹脂Bの重縮合反応槽の前で添加しても、紡糸前で添加してもよい。0.55dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.60dl/g以上であり、さらに好ましくは0.63dl/g以上であり、特に好ましくは0.66dl/g以上である。高比重無機微粒子の含有量は、0.1質量%以上であり、0.2~10質量%が好ましく、1.5~7.5質量%が好ましく、1.5~5.0質量%がより好ましく、1.5~2.5質量%がさらに好ましい。
【0065】
工程(II)
(複合紡糸)
工程(II)は、例えば、通常の複合紡糸型溶融紡糸機を用いて実行することができる。まず、紡糸口金の背面で2種類のポリエステル成分(ポリエステル樹脂組成物A、ポリエステル樹脂組成物B)をサイドバイサイド型又は偏心芯鞘型となるように合流させ、同一紡糸孔から吐出し紡糸する。その際、紡糸温度はポリエステル成分の極限粘度によって適宜選定されるが、通常、260~300℃の範囲が好ましい。紡出された糸条は、冷却固化後、必要に応じて紡糸油剤を付与し、例えば1000~4000m/分の速度で引き取り、一旦捲取る。その後、本発明の効果を損なわない範囲内で、別工程で延伸機により熱延伸を施すか、または仮撚機により延伸仮撚を施してもよい。もしくは引き取った糸条を一旦捲取ることなく紡糸に連続して熱延伸することにより、本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維を得てもよい。
【0066】
工程(III)
(アルカリ減量処理)
工程(III)において、潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維を製造し、次いで、これに対して、塩基性化合物を接触させてアルカリ減量処理を施し、単繊維表面に存在する生成粒子および高比重無機微粒子の少なくとも一部を脱落させて、サイズの異なる2種類の微細孔を形成し、これにより、本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維が得られる。
【0067】
アルカリ減量処理により、単繊維表面において適切なサイズ及び深さを有する微細孔を高密度で形成させることができ、この微細孔に起因して優れた濃染性が発現する。この塩基性化合物との接触は、例えば塩基性化合物の水溶液で処理することにより行うことができる。塩基性化合物との接触は、ポリエステル繊維を必要に応じて延伸加熱処理又は仮撚加工などの処理に供した後で行ってもよいし、ポリエステル繊維を布帛とした後に行ってもよい。
【0068】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、又は炭酸カリウムなどが挙げられる。中でも水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムが好ましい。塩基性化合物水溶液の濃度は、塩基性化合物の種類又はアルカリ減量処理条件などによって異なるが、例えば0.1~30質量%の範囲である。処理温度は、例えば、常温~100℃の範囲である。ポリエステル繊維のアルカリ減量率はポリエステル繊維の質量に対して例えば2質量%以上であることが好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。
【0069】
本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維をこのまま経糸や緯糸として用いて布帛としてもよいし、他の糸と混繊して用いてもよい。また、本発明の在捲縮濃染性ポリエステル繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、仮撚加工が施されてもよいし、仮撚混繊されてもよい。さらに実撚を付与したり実撚混繊したりしてもよく、またこれら加工を組み合わせて採用してもよい。
また、本発明の織編物は、上記した本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維を含む。本発明の織編物における捲縮濃染性ポリエステル繊維の混率は、特に限定されるものではなく、用途または所望の物性等に応じて、適宜に選択できる。さらに、その編密度または織密度、編組織または織組織等についても、特に限定されるものではなく、用途または所望の物性等に応じて適宜に選択できる。
【0070】
本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維は、衣料(特に、ブラックフォーマル)、水着、スポーツインナー、ランジェリー、又はファンデーションのような濃染性が必要とされる繊維製品に好適に用いられる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値及び評価は以下のとおりに行った。
【0072】
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃の条件下で、常法に基づき測定した。
【0073】
(2)生成粒子の平均粒子径(メジアン径)
ポリエステル樹脂組成物Aをオキサフルオロ-2-プロピルアルコールへ溶解させた溶液に対し、レーザー回折・散乱式粒度分析装置(島津製作所製、「SALD―7100」)を用いて測定した。
【0074】
(3)L値
潜在濃染性を有した潜在捲縮性ポリエステル複合糸を編機(小池機械製作所製、針本数:300本、釜径:3.5インチ)を用いて筒編地に編成し、後述の条件でアルカリ減量処理及び染色を施して、濃染性ポリエステル捲縮複合糸を含む筒編地を得た。この筒編地に対し、色彩色差計(マクベス社製分光光度計 CE-3100)を用いてL値を測定した。なお、L値はその値が小さいほど深みのある濃色であることを示す。
【0075】
(4)微細孔の個数
染色後の筒編地から、潜在濃染性を有した潜在捲縮性ポリエステル複合糸の単繊維をランダムに10本採取した。この単繊維の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3500倍で撮影した。撮影写真においてランダムに経5μm×横5μmの検査領域を設定し、この領域内に存在する微細孔の数をカウントし、10本の平均値で求めた。
【0076】
(5)微細孔のサイズ
上記(4)にて撮影された写真において、繊維表面に存在する微細孔をランダムに30個選定した。繊維の長手方向の長さを長軸とし、長手方向に直行する方向の長さを短軸として測定し、それぞれの平均値を求めた。
【0077】
(6)捲縮率
潜在濃染性を有した潜在捲縮性ポリエステル複合糸を、検尺機にて10回かせ取りした後、1/6800(cN/dtex)の荷重を掛けたまま30分間放置し、次いでこの状態を維持したまま沸水中に入れ30分間処理し、捲縮を顕在化させて捲縮性複合繊維を得た。その後、30分間風乾し、1/570(cN/dtex)の荷重を掛け、長さ(a)を測定した。次に1/570(cN/dtex)の荷重を外した後、1/23(cN/dtex)の荷重を掛けて、その長さ(b)を測定し、次式により捲縮率を求めた。
捲縮率(%)=〔(b-a)/b〕×100
【0078】
(7)梳毛調風合い
L値の測定方法にて記載した方法と同様にして、筒編地として染色した後に、染色後の筒編地に対し触感により、下記の基準で評価した。
◎:特に良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
【0079】
(8)ドレープ性
L値の測定方法にて記載した方法と同様にして、筒編地として染色した後に、染色後の筒編地に対し触感により、下記の基準で評価した。
◎:特に良好
○:良好
×:悪い
【0080】
(9)ソフト風合い
L値の測定方法にて記載した方法と同様にして、筒編地として染色した後に、染色後の筒編地に対し触感により、下記の基準で評価した。
◎:特に良好
○:良好
△:普通
【0081】
ポリエステル樹脂組成物Aの製造
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(モル比がTPA:EG=1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のポリエステル低重合体を連続的に得た。このポリエステル低重合体を重縮合反応缶に投入し、容器内を窒素で置換した。次いで、重縮合触媒として三酸化アンチモンをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して2.0×10-4モル、リン化合物としてリン酸トリエチルをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して28.6×10-4モル、金属化合物として酢酸マグネシウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して25.0×10-4モル、及び、酢酸リチウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して25.0×10-4モルとなるよう添加した。圧力を徐々に減じて1時間後に1.2hPa以下とした。この条件で攪拌しながら重縮合反応を4時間行った後、常法により払い出してペレット化し、極限粘度が0.50dL/gのポリエステル樹脂組成物Aを得た。
【0082】
実施例1
上記したポリエステル樹脂組成物Aと、ポリエステル樹脂組成物B(極限粘度0.69dL/gであり、二酸化チタン2質量%を含有した常法で得られるポリエチレンテレフタラート樹脂)とを、それぞれ常用の溶融紡糸機に投入し、24個の紡糸孔が穿設されているサイドバイサイド型口金から紡出させた。体積比は、ポリエステル樹脂組成物A:ポリエステル樹脂組成物B=50:50とした。紡出した糸条を空気流により冷却し、オイリング装置(油剤供給装置)を通過させて油剤を付与した。この糸条を紡糸速度3250m/分にて引取り、丸断面単繊維からなる繊維を得た(84dtex24f)。
【0083】
得られた繊維を常用の延伸機にて、85℃の熱ローラを介して1.5倍に延伸し、さらに170℃のヒートプレートで熱処理を行って巻き取り、延伸糸であるポリエステル繊維(潜在濃染性を有した潜在捲縮性ポリエステル複合糸)を得た(56dtex24f)。
【0084】
この潜在濃染性を有した潜在捲縮性ポリエステル複合糸を上述の機械で筒編地に編成し、水酸化ナトリウムを20g/リットルの割合で用い、温度98℃、時間30分、及び浴比1:50の条件でアルカリ減量処理を行った(減量率20%)。
【0085】
次いで、下記の手法で染色を行った。染料剤(Dystar社製、商品名「Dianix Black HG-FS conc.」、分散染料)を7.5%omfの割合で用いた。浴比を1:50とし、温度135℃かつ時間30分間の条件で染色を行った。次いで、水酸化ナトリウム2g/リットル及びハイドロサルファイト2g/リットルを含む水溶液にて、80℃で20分間還元洗浄し、この筒編地を各種評価に付した。
【0086】
図2は、実施例1で得られた捲縮濃染性ポリエステル繊維について、ポリエステル樹脂組成物Aが表面を形成する単繊維表面を、SEMを用いて撮影した写真である(倍率3500倍)。
図3は、実施例1で得られた捲縮濃染性ポリエステル繊維について、ポリエステル樹脂組成物Bが表面を形成する単繊維表面を、SEMを用いて撮影した写真である(倍率3500倍)。対して
図4は、実施例1にて得られた潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維について、アルカリ減量処理を行う前の単繊維表面を、SEMを用いて撮影した写真である(倍率3500倍)。
図2と
図3と
図4との対比から明らかなように、本発明の潜在捲縮濃染性ポリエステル繊維においては、アルカリ減量処理により特定サイズが高密度で存在している。また、
図2と
図3との対比から明らかなように、生成粒子と高比重微粒子を異なるポリエステル樹脂に添加することで、異なるサイズの微細孔が形成される。また、
図3から明らかなようにポリエステル樹脂組成物B部分の表面には、白色を呈する二酸化チタンが表面に付着しているが、微細孔に起因して、表2に示したようにL値は十分に低減されており、濃染性に優れている。
【0087】
(参考例2)
ポリエステル樹脂組成物Bとして二酸化チタン含有量を0.4質量%含有に変更した以外は、実施例1と同様におこなった。
【0088】
(比較例1)
ポリエステル樹脂組成物Bとして二酸化チタン含有量を0質量%含有に変更した以外は、実施例1と同様におこなった。
【0089】
(実施例3)
ポリエステル樹脂組成物Aの重縮合触媒としてリン酸トリエチルをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して60×10-4モル、酢酸マグネシウムをポリエステルを構成する酸成分1モルに対して50×10-4モルとなるよう添加したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0090】
(実施例4)
ポリエステル樹脂組成物Aの極限粘度を0.45dL/g、及び、ポリエステル樹脂組成物Bの極限粘度を0.73dL/gに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0091】
(実施例5)
ポリエステル樹脂組成物Aの極限粘度を0.55dL/g、及び、ポリエステル樹脂組成物Bの極限粘度を0.65dL/gに変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0092】
(比較例2)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、生成粒子を含まない極限粘度0.50dL/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は、実施例1と同様におこなった。
【0093】
(比較例3)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、生成粒子を含まない極限粘度0.50dL/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は、参考例2と同様におこなった。
【0094】
(比較例4)
ポリエステル樹脂組成物Aに代えて、生成粒子を含まない極限粘度0.50dL/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた以外は、比較例1と同様におこなった。
【0095】
実施例および比較例で得られた結果を、表1、表2にまとめて示す。
【0096】
【0097】
【0098】
実施例1、3~5で得られた本発明の捲縮濃染性ポリエステル繊維は、ドレープ性を向上させるために高比重無機微粒子を含有させたにも関わらず、含有させていない比較例1と同等の濃染性を達成し得るものであった。さらに、捲縮性、梳毛調の風合い、ソフト風合いのいずれにも優れていた。
【0099】
比較例1は、高比重無機微粒子を含有しなかったために、濃染性には優れるものの、ドレープ性に劣り、梳毛調の風合いが、やや乏しいものであった。
【0100】
比較例2は、ポリエステル樹脂Aの表面において、特定のサイズを有する微細孔が形成されなかったことから、ポリエステル樹脂組成物Bの表面における微細孔のサイズまたは個数に関わらず、濃染性、および梳毛調の風合いに劣っていた。
【0101】
比較例3は、ポリエステル樹脂A、およびポリエステル樹脂組成物Bの表面において、特定のサイズを有する微細孔が形成されなかったことから、濃染性、ドレープ性、および梳毛調の風合いの何れにも劣っていた。