(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ブレビバチルス菌によるヘテロ二量体タンパク質の生産
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20230724BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230724BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230724BHJP
C12R 1/08 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C12N1/21
C12N15/13
C12R1:08
(21)【出願番号】P 2019112794
(22)【出願日】2019-06-18
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】500546994
【氏名又は名称】株式会社プロテイン・エクスプレス
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 俊介
(72)【発明者】
【氏名】本間 佐知子
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-514417(JP,A)
【文献】Horita S. et al.,High-resolution crystal structure of the therapeutic antibody pembrolizumab bound to the human PD-1,Sci Rep,2016年,Vol. 6:35297,pp. 1-8
【文献】佐竹 炎,ヘテロダイマー形成によるホヤGnRH受容体パラログの differentialな機能調節機構,比較内分泌学,2012年,Vol. 38,pp. 158-162
【文献】高木 淳一,シグナル伝達におけるインテグリンの構造変化,血栓止血誌,2003年,Vol. 14,pp. 3-10
【文献】柳川 正隆 ほか,Gタンパク質共役型受容体の二量体化による機能制御メカニズム,生化学,2011年,Vol. 83,pp. 949-956
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレビバチルス菌を用いてヘテロ二量体タンパク質を作製する方法であって、ヘテロ二量体タンパク質を構成する一方の単量体タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを用いてブレビバチルス菌を形質転換し、もう一方の単量体タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを用い
てブレビバチルス菌を形質転換し、得られた2種類の形質転換ブレビバチルス菌を同時に混合培養し、それぞれのブレビバチルス菌にそれぞれの単量体タンパク質を培養液中に分泌生産させ、培養液中で2種類の単量体タンパク質を共有結合により結合させヘテロ二量体タンパク質を形成させることを含み、単量体タンパク質が抗体の可変領域と定常領域を有し、定常領域間のジスルフィド結合によりヘテロ二量体タンパク質を形成する、ヘテロ二量体タンパク質を作製する方法。
【請求項2】
ヘテロ二量体タンパク質が二重特異性抗体又はFabである、請求項1記載のヘテロ二量体タンパク質を作製する方法。
【請求項3】
単量体タンパク質1と単量体タンパク質2から形成されるヘテロ二量体タンパク質において、n種類の単量体タンパク質1とm種類の単量体タンパク質2の組合せの中から適切な組合せのヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法であって、単量体が抗体の可変領域と定常領域を有し、n及びmが10以下であり、n種類の単量体タンパク質1
をコードするDNAを挿入した発現ベクターのそれぞれを用いてブレビバチルス菌を形質転換しn種類の形質転換ブレビバチルス菌を作製し、m種類の単量体タンパク質2
をコードするDNAを挿入した発現ベクターのそれぞれを用いてブレビバチルス菌を形質転換しm種類の形質転換ブレビバチルス菌を作製し、単量体タンパク質1を産生するn種類のブレビバチルス菌のうちの1種類と、単量体タンパク質2を産生するm種類のブレビバチルス菌のうちの1種類を同時に混合培養し、それぞれのブレビバチルス菌にそれぞれの単量体タンパク質を培養液中に分泌生産させ、培養液中でヘテロ二量体タンパク質を形成させることにより、n×m種類のヘテロ二量体タンパク質を作製し、n×m種類のヘテロ二量体タンパク質の特性を検定し、適切な特性を有するヘテロ二量体タンパク質を選択することを含む、n種類の単量体タンパク質1とm種類の単量体タンパク質2の組合せの中から適切な組合せのヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
【請求項4】
2種類の単量体タンパク質を結合させる共有結合がジスルフィド結合である、請求項3記載のヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
【請求項5】
単量体が定常領域間のジスルフィド結合によりヘテロ二量体タンパク質を形成する、請求項3又は4に記載のヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
【請求項6】
ヘテロ二量体タンパク質が二重特異性抗体又はFabである、請求項5記載のヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレビバチルス菌を用いた組換えヘテロ二量体タンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレビバチルス菌は、タンパク質を菌体外に分泌生産可能な宿主であり、グラム陽性菌のために、エンドトキシンを有さず、菌体外プロテアーゼ活性が低く、培養が容易であり、かつ安全性が高いことから組換えタンパク質の生産に有利である。
【0003】
ブレビバチルス菌によりヘテロ二量体タンパク質の生産について報告されていた。例えば抗体の生産について、1つのプラスミドに重鎖をコードするDNA及び軽鎖をコードするDNAの両方を挿入し、該プラスミドを用いてブレビバチルス菌を形質転換し、該ブレビバチルス菌を培養し、培養中に培地中でヘテロ二量体タンパク質を形成させる方法が報告されていた(非特許文献1を参照)。また、重鎖可変領域(VH)をコードするDNAを有するブレビバチルス菌及び軽鎖可変領域(VL)をコードするDNAを有するブレビバチルス菌を混合培養し、培養中に培地中でVHとVLの弱い相互作用によりFvとしてヘテロ二量体タンパク質を形成させる方法が報告されていた(非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mizukami M. et al., Protein Expr Purif 2018 Oct, 150, pp.109-118
【文献】Horita et al., Scientific Reports 6, Article number: 35297(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ブレビバチルス菌を用いて二重特異性抗体等のヘテロ二量体タンパク質の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のように、ブレビバチルス菌を用いてヘテロ二量体タンパク質を生産することに関して、従来は、1つのプラスミドに重鎖をコードするDNA及び軽鎖をコードするDNAの両方を挿入し、該プラスミドを用いてブレビバチルス菌を形質転換し、該ブレビバチルスを培養し、培養中に培地中でヘテロ二量体タンパク質を形成させること、あるいは、重鎖可変領域(VH)をコードするDNAを有するブレビバチルス菌及び軽鎖可変領域(VL)をコードするDNAを有するブレビバチルス菌を混合培養し、培養中に培地中でVHとVLの弱い相互作用によりFvとしてヘテロ二量体タンパク質を形成させることが報告されていた。
【0007】
本発明者は、ヘテロ二量体タンパク質を形成する2つの単量体タンパク質をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入し、得られた2種類の発現ベクターで別々のブレビバチルス菌を形質転換し、2つの形質転換ブレビバチルス菌を同時に混合培養し、同じ培養液中に2つの単量体タンパク質を分泌させ、2つの単量体タンパク質を共有結合により結合させて、ヘテロ二量体タンパク質を形成させた。
【0008】
この方法により、従来より効率的に、二重特異性抗体等のヘテロ二量体タンパク質を作製することが可能になり、また、ヘテロ二量体タンパク質を形成する単量体タンパク質の適切な組合せを効率的にスクリーニングできるようになることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] ブレビバチルス菌を用いてヘテロ二量体タンパク質を作製する方法であって、ヘテロ二量体タンパク質を構成する一方の単量体タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを用いてブレビバチルス菌を形質転換し、もう一方の単量体タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを用いたブレビバチルス菌を形質転換し、得られた2種類の形質転換ブレビバチルス菌を同時に混合培養し、それぞれのブレビバチルス菌にそれぞれの単量体タンパク質を培養液中に分泌生産させ、培養液中で2種類の単量体タンパク質を共有結合により結合させヘテロ二量体タンパク質を形成させることを含む、ヘテロ二量体タンパク質を作製する方法。
[2] 2種類の単量体タンパク質を結合させる共有結合がジスルフィド結合である、[1]のヘテロ二量体タンパク質を作製する方法。
[3] 単量体タンパク質が抗体の可変領域と定常領域を有し、定常領域間のジスルフィド結合によりヘテロ二量体タンパク質を形成する、[1]又は[2]のヘテロ二量体タンパク質を作製する方法。
[4] ヘテロ二量体タンパク質が二重特異性抗体又はFabである、[3]のヘテロ二量体タンパク質を作製する方法。
[5] 単量体タンパク質1と単量体タンパク質2から形成されるヘテロ二量体タンパク質において、n種類の単量体タンパク質1とm種類の単量体タンパク質2の組合せの中から適切な組合せのヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法であって、n種類の単量体タンパク質1のそれぞれを用いてブレビバチルス菌を形質転換しn種類の形質転換ブレビバチルス菌を作製し、m種類の単量体タンパク質2のそれぞれを用いてブレビバチルス菌を形質転換しm種類の形質転換ブレビバチルス菌を作製し、単量体タンパク質1を産生するn種類のブレビバチルス菌のうちの1種類と、単量体タンパク質2を産生するm種類のブレビバチルス菌のうちの1種類を同時に混合培養し、それぞれのブレビバチルス菌にそれぞれの単量体タンパク質を培養液中に分泌生産させ、培養液中でヘテロ二量体タンパク質を形成させることにより、n×m種類のヘテロ二量体タンパク質を作製し、n×m種類のヘテロ二量体タンパク質の特性を検定し、適切な特性を有するヘテロ二量体タンパク質を選択することを含む、n種類の単量体タンパク質1とm種類の単量体タンパク質2の組合せの中から適切な組合せのヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
[6] 2種類の単量体タンパク質を結合させる共有結合がジスルフィド結合である。[5]のヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
[7] 単量体が抗体の可変領域と定常領域を有し、定常領域間のジスルフィド結合によりヘテロ二量体タンパク質を形成する、[5]又は[6]のヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
[8] ヘテロ二量体タンパク質が二重特異性抗体又はFabである、[7]のヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0010】
ヘテロ二量体タンパク質を形成する2つの単量体タンパク質をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入し、得られた2種類の発現ベクターで別々のブレビバチルス菌を形質転換し、2つの形質転換ブレビバチルス菌を同時に混合培養し、同じ培養液中に2つの単量体タンパク質を分泌させ、2つの単量体タンパク質を共有結合により結合させて、ヘテロ二量体タンパク質を形成させることにより、効率的に二重特異性抗体等のヘテロ二量体タンパク質を作製することが可能になり、また、ヘテロ二量体タンパク質を形成する単量体タンパク質の適切な組合せを迅速かつ効率的にスクリーニングできるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】発現ベクターpROXb3-Fabの構造を示す図である。
【
図2】発現ベクターpROXb3-VLCL及び発現ベクターpROXb3-VHCH1の構造を示す図である。
【
図3】発現ベクターpROXb3-scFv(EGFR)-CH1-His及び発現ベクターpROXb3-scFv(CD3)-CL-DDDDKの構造を示す図である。
【
図4-1】Fab(A)及び二重特異性抗体(B)の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ブレビバチルス菌を用いてリコンビナントのヘテロ二量体タンパク質を生産する方法である。
【0013】
ブレビバチルス菌は、タンパク質を菌体外に分泌生産することができる細菌であり、Brevibacillus choshinensis(ブレビバチルス・チョウシネンシス)、Brevibacillus brevis(ブレビバチルス・ブレビス)が挙げられ、Brevibacillus choshinensis HPD31(FERM BP-1087、Takagi H et al., Int J Syst Bacteriol. 1993 Apr;43(2):221-31)が好ましい。
【0014】
本発明において生産するヘテロ二量体タンパク質は、2つの異なる単量体タンパク質が共有結合により二量化したタンパク質である。共有結合は好ましくはジスルフィド結合であり、そのため、2つの単量体タンパク質は少なくとも1つのシステイン残基を有する。抗体分子と抗体分子の二量体タンパク質、抗体分子とリガンド分子の二量体タンパク質、抗体分子と毒素タンパク質分子の二量体タンパク質等が挙げられる。好ましくは二量体タンパク質は抗体又はその断片からなる単量体タンパク質で構成される。好適なヘテロ二量体タンパク質として、二重特異性抗体、Fab等が挙げられる。二重特異性抗体は、2個の抗原結合部位のそれぞれが、異なる抗原に結合する抗体をいい、IgG抗体において、2つの可変領域がそれぞれ異なり別々の分子と結合する。二重特異性抗体のフォーマット(型)は限定されないが、2つの単量体タンパク質のそれぞれが抗体の定常領域と可変領域を含み、これらの2つの単量体タンパク質が定常領域間でジスルフィド結合により結合して二量体タンパク質を形成する。
【0015】
通常の抗体は、重鎖可変領域及び重鎖定常領域並びに軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域とから構成される。重鎖定常領域は、3個のドメインCH1、CH2及びCH3から構成されている。また、軽鎖定常領域は、1個のドメインCLで構成されている。軽鎖定常領域は、κ又はλ定常領域である。
【0016】
本発明のヘテロ二量体タンパク質を構成する単量体タンパク質は、好ましくは抗体の定常領域のすべて又は一部を含んでおり、単量体タンパク質の定常領域同士のジスルフィド結合等の共有結合によりヘテロ二量体タンパク質を形成する。定常領域同士の結合は、重鎖定常領域どうしの結合であっても、CH1等の重鎖定常領域と軽鎖定常領域(CL)との結合であってもよい。
【0017】
二重特異性抗体は、通常の抗体のように、重鎖可変領域及び重鎖定常領域並びに軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域とから構成され2つの可変領域が異なる抗原に結合する構造を有していてもよい。定常領域は複数のドメインから構成される必要はなく、1つのドメインのみを含んでいてもよい。また、可変領域は2つの単量体タンパク質のそれぞれに重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含んでいる。1つの単量体タンパク質が重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をFabとして含んでいてもよいし、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域が弱い相互作用で結合したFvとして含んでいてもよいし、重鎖可変領域と軽鎖可変領域を一本鎖であるペプチドリンカーで結合させたscFv(single chain Fv)として含んでいてもよいし、重鎖のみで抗原と結合可能な重鎖抗体VHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)として含んでいてもよい。また、2つの抗体の定常領域と可変領域を含む単量体タンパク質において、可変領域を含む部分が同じ構造を有している必要はなく、例えば、一方がFabであり、一方がscFvであってもよい。
【0018】
図4-1及び
図4-2にFabの構造(
図4-1A)及び二重特異性抗体の構造(
図4-1B及び
図4-2A、B)を示す。
図4-1Bに示す二重特性抗体は2つの単量体タンパク質の一方が重鎖定常領域(CH1)と特定の抗原に結合するscFv(scFv1)が結合した分子であり、もう一方は軽鎖定常領域(CL)とCH1と結合したscFvとは異なる抗原に結合するscFv(scFv2)が結合した分子であり、これらの2つの分子がCH1とCLの間のジスルフィド結合により結合し、二量体タンパク質を形成している。
図4-1Bに示す二重特異性抗体をbispecific miniantibodyと呼ぶことがある。
図4-2Aに示す二重特異性抗体は通常のIgG抗体の構造を有し、二量体タンパク質のそれぞれの単量体タンパク質の可変領域が結合する抗原が異なっている。
図4-2Bに示す二重特異性抗体は
図4-1Bに示す二重特異性抗体において、一方の単量体タンパク質の可変領域がFabである二重特異性抗体である。
図4-1及び4-2に示す二重特性抗体は例示であり、本発明の二重特異性抗体はこれらの二重特異性抗体に限定されない。
【0019】
本発明のヘテロ二量体タンパク質は、ヘテロ二量体タンパク質を構成する一方の単量体タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクター及びもう一方の単量体タンパク質をコードするDNAを挿入した発現ベクターを、別々の発現ベクターとして、2種類の発現ベクターを作製する。次いで、それらの2種類の発現ベクターを用いてブレビバチルス菌を形質転換し、異なる単量体タンパク質を産生する2種類のブレビバチルス菌を得る。これら2種類のブレビバチルス菌を同時に混合培養することにより、それぞれのブレビバチルス菌は異なる単量体タンパク質を産生する。培地中に分泌された2種類の単量体タンパク質は、ジスルフィド結合等の共有結合により結合し、培地中でヘテロ二量体タンパク質を形成する。それぞれの単量体タンパク質を産生し得るブレビバチルス菌を別々に培養し、得られた2種類の培養液を混合し、2種類の単量体タンパク質を結合させることにより、ヘテロ二量体タンパク質を形成させることも可能であるが、2種類のブレビバチルス菌を同時に混合培養し、単量体タンパク質の産生、分泌と二量体タンパク質の形成を同時に行わせた場合の方が二量体タンパク質の形成効率は高くなる。2種類の形質転換したブレビバチルス菌のそれぞれの単量体タンパク質の産生効率が異なる場合、混合するブレビバチルス菌の数を調節すればよい。好ましくは、2種類の単量体タンパク質が同様のモル数ずつ産生されるように調節する。
【0020】
ベクターに挿入するDNAは宿主細胞からの単量体タンパク質の分泌を促進するシグナルペプチドをコードするDNAを含んでいてもよい、この場合、シグナルペプチドをコードするDNAと単量体タンパク質をコードするDNAをインフレームで連結するようにする。単量体タンパク質が産生された後にシグナルペプチドが除去され、成熟タンパク質として得ることができる。
【0021】
この際、一方の単量体タンパク質をコードするDNA及びもう一方の単量体タンパク質をコードするDNAをプロモーター等のエレメントと機能的に連結してもよい。ここで機能的に連結とは、エレメントがその機能を果たすように連結することをいう。
【0022】
プロモーターとしては、ブレビバチルス菌で機能するプロモーターであれば良く、Brevibacillus choshinensis HPD31細胞壁蛋白質HWP(Ebisu S et al., J.Bacteriol.1990 172:1312-1320)をコードする遺伝子のプロモーターがより好ましい。
【0023】
本発明の遺伝子を挿入するためのベクターは、ブレビバチルス菌中で複製可能なものであれば特に限定されない。例えば、pROXb3(株式会社プロテイン・エクスプレス)、pBIC、pNY326、pNCMO2(タカラバイオ株式会社)等が挙げられる。
【0024】
発現ベクターは公知の方法で宿主細胞に導入し、宿主細胞を形質転換することができる。例えば、エレクトロポレーション法、PEG法等がある。
【0025】
形質転換したブレビバチルス菌の培養は通常の細菌の培養方法に従って行えばよい。用いる培地は限定されないが、TM培地、TMN培地、2SY培地、2SYN培地、2SLN培地、LB培地等を用いることができる。培養は、25~40℃で行い、好ましくは通気下での振とう培養により行う。
【0026】
産生されたヘテロ二量体タンパク質の精製は、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用して行えばよい。例えば、アフィニティークロマトグラフィー、その他のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。また、ヘテロ二量体タンパク質をアフィニティータグ付きの状態で製造した後、アフィニティータグを利用したアフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる。アフィニティータグ配列としては、例えば、2~12個、好ましくは4個以上、さらに好ましくは4~7個、さらに好ましくは5個若しくは6個のヒスチジンからなるポリヒスチジン配列が挙げられる。ポリヒスチジン配列を用いる場合、ニッケルをリガンドとしたニッケルキレートカラムクロマトグラフィーを利用することにより合成タンパク質を精製することができる。また、ポリヒスチジンに対する抗体をリガンドとして固定化したカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる。その他、HATタグ、HNタグ、V5タグ、Xpressタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV-Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09、CruzTag22、CruzTag41、Glu-Gluタグ、Ha.11タグ、KT3タグ等を用いることもできる。タグを用いて精製する場合、二量体タンパク質を形成する2つの単量体タンパク質のそれぞれに異なるタグを付けておくことにより、2種類のタグを用いた2段階のアフィニティー精製を行うことにより形成された二量体タンパク質のみを精製することが可能になる。
【0027】
さらに、本発明は、ヘテロ二量体タンパク質において、複数の単量体タンパク質の適切な組合せをスクリーニングする方法を含む。該スクリーニング方法は、特に二重特異性抗体を作製する際に、所望の反応性を有する二重特異性抗体をスクリーニングするときに有用である。
【0028】
二重特異性抗体は、ヘテロ二量体タンパク質のそれぞれの単量体タンパク質の可変領域が異なる抗原に結合する。それぞれの可変領域がそれぞれの抗原のどのエピトープを認識するかは二重特異性抗体の反応性に重要であり、抗原認識部位間の位置関係で決まってくる。従って、有用な二重特異性抗体を作製するには、2つの単量体タンパク質のそれぞれの可変領域が結合するエピトープの適切な組合せを多数の組合せの中から選択することが好ましい。例えば、二重特異性抗体が、それぞれ抗原Aと抗原Bに結合する単量体タンパク質のヘテロ二量体タンパク質であって、抗原A及び抗原Bの候補エピトープが5個ずつあるとき、5×5=25通りの組合せの二重特異性抗体の反応性を検討する必要がある。
【0029】
ヘテロ二量体タンパク質の一方の単量体タンパク質をコードするDNAともう一方の単量体タンパク質をコードするDNAを1つの発現ベクターに挿入して、該発現ベクターを用いてブレビバチルス菌を形質転換し、ブレビバチルス菌を培養し、2つの単量体タンパク質を産生、分泌させ、分泌後形成されたヘテロ二量体タンパク質の反応性を検討する場合、5種類の一方の単量体タンパク質と5種類のもう一方の単量体タンパク質の組合せを有する発現ベクターを作製する必要があり、トータルで5×5=25種類の発現ベクターが必要になる。25種類の発現ベクターにより25種類の形質転換ブレビバチルス菌を作製し、培養する必要がある。一方、本発明では、ヘテロ二量体タンパク質の一方の単量体タンパク質をコードするDNAともう一方の単量体タンパク質をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入して、該発現ベクターを用いて別々のブレビバチルス菌を形質転換し、2種類のブレビバチルス菌を混合培養するため、必要になる発現ベクターの種類は、5+5=10種類である。それぞれの単量体タンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターでそれぞれ5種類ずつの形質転換ブレビバチルス菌を作製、5種類ずつのブレビバチルス菌を組合せで混合培養する。
【0030】
いずれの場合でも25回の培養を必要とする点では同じであるが、作製するベクターの数が大きく異なり、ヘテロ二量体タンパク質の一方の単量体タンパク質をコードするDNAともう一方の単量体タンパク質をコードするDNAを別々の発現ベクターに挿入して、該発現ベクターを用いて別々のブレビバチルス菌を形質転換し、2種類のブレビバチルス菌を混合培養し、2つの単量体タンパク質を産生、分泌させ、分泌後形成されたヘテロ二量体タンパク質の反応性を検討する場合の方が効率的にスクリーニングを行うことができる。
【0031】
一方の単量体タンパク質1がn種類あり、もう一方の単量体タンパク質2がm種類あり、n種類の単量体タンパク質1とm種類の単量体タンパク質2の組合せの中から適切な組合せのヘテロ二量体タンパク質をスクリーニングするとき、n種類の単量体タンパク質1のそれぞれを用いてブレビバチルス菌を形質転換しn種類の形質転換ブレビバチルス菌を作製し、m種類の単量体タンパク質2のそれぞれを用いてブレビバチルス菌を形質転換しm種類の形質転換ブレビバチルス菌を作製し、単量体タンパク質1を産生するn種類のブレビバチルス菌のうちの1種類と、単量体タンパク質2を産生するm種類のブレビバチルス菌のうちの1種類を同時に混合培養し、それぞれのブレビバチルス菌にそれぞれの単量体タンパク質を生産させ培養液中に分泌させ、培養液中でヘテロ二量体タンパク質を形成させる。この結果、n×m種類のヘテロ二量体タンパク質が作製される。得られたn×m種類のヘテロ二量体タンパク質の特性を検定し、適切な特性を有するヘテロ二量体タンパク質を選択すればよい。ここで、二量体タンパク質がFabや二重特異性抗体の場合、n種類の単量体タンパク質1は、いずれも同じ抗原に結合する単量体タンパク質であるが、n種類の単量体タンパク質1の間で、反応性が異なったり、あるいは結合するエピトープが異なっている。同様に、m種類の単量体タンパク質2は、いずれも同じ抗原に結合する単量体タンパク質であるが、m種類の単量体タンパク質2の間で、反応性が異なったり、あるいは結合するエピトープが異なっている。ここで、n及びmは、100以下、好ましくは50以下、さらに好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。この場合の、適切な特性は作製しようとする二重特異性抗体により異なるが、例えば、それぞれの単量体タンパク質が結合する、抗原Aと抗原Bを架橋させ、接触させる特性が挙げられる。例えば、がん細胞表層抗原とリンパ球等のエフェクター細胞表層抗原を認識する二重特異性抗体は、これらの細胞を接触させることにより、近接させたリンパ球による抗腫瘍効果を発揮し得る。あるいは、活性型第XI因子とX因子を認識しる二重特異性抗体は、これらの因子を架橋することにより、第VIII因子の補因子機能を代替することにより血友病治療効果を発揮する。
【実施例】
【0032】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)発現ベクターの構築
ヘテロ二量体タンパク質であるFabタンパク質として抗TNF-α抗体医薬品であるアダリムマブ(販売名;ヒュミラ)のFab領域のアミノ酸配列からブレビバチルス用のコドンに変換したVLCL遺伝子(配列番号1)、VHCH1遺伝子(配列番号2)を人工合成し、ブレビバチルス用の発現ベクターpROXb3のBspHI/HindIII認識配列に
図1のように導入し、発現ベクターpROXb3-Fabを構築した。
【0034】
別途、VLCL遺伝子及びVHCH1遺伝子をそれぞれpROXb3のBspHI/HindIII認識配列に
図2のように独立して導入した発現ベクターpROXb3-VLCL及びpROXb3-VHCH1を構築した。
【0035】
ヘテロ二量体タンパク質の別の形態である二重特異性抗体(Bispecific miniantibody)のモデルとして、がん細胞表層タンパク質であるEGFRとリンパ球の表層タンパク質であるCD3の両方を認識可能な低分子二重特異性抗体Ex3(MAbs. 2018 Jul 9:1-10.)をモデルとし、抗EGFR抗体のscFvにCH1とHisタグを連結した遺伝子(配列番号3)、及び抗CD3抗体のscFvにCLとDDDDKタグを連結した遺伝子(配列番号4)をそれぞれ人工遺伝子合成し、pROXb3のBspHI/HindIII認識配列に導入することで、発現ベクターpROXb3-scFv(EGFR)-CH1-His、pROXb3-scFv(CD3)-CL- DDDDKを構築した(
図3)。
【0036】
なお、各遺伝子の上流にはシャイン・ダルガノ配列(SD配列)及び、ブレビバチルス菌で機能するシグナルペプチド(SP)を導入しておくことで、ブレビバチルス菌体外への分泌生産が可能となる。
図4-1及び4-2にFab、二重特異性抗体の二量体形成時の模式図を示した。
【0037】
(実施例2)Fab生産量の比較
ブレビバチルス菌Brevibacillus choshinensis HPD31を各発現ベクターpROXb3-Fab、pROXb3-VLCL、pROXb3-VHCH1で形質転換した。各形質転換体を2mLのTMN培地(1%ポリペプトン、0.5%肉エキス、0.2%酵母エキス、0.001%硫酸鉄(II)七水和物、0.001%硫酸マンガン(II)五水和物、0.0001%硫酸亜鉛七水和物、1%グルコース、50μg/mLネオマイシン)で30℃、18時間培養を行なった(前培養)。新たに用意した100mLのTMN培地に(1)pROXb3-Fab形質転換体培養液1mLを添加(独立培養)、(2)pROXb3-VLCL形質転換体培養液0.5mL、及びpROXb3-VHCH1形質転換体培養液0.5mLを添加(混合培養)、(3)pROXb3-VLCL形質転換体培養液1mLを添加、(4)pROXb3-VHCH1形質転換体培養液1mLを添加した4種の培養を30℃、48時間で実施した。
【0038】
培養終了後の培養液から、遠心操作により上清を回収した。菌体外に分泌生産されたFabは遠心上清をSDS-PAGEに供し、抗Fab抗体を用いたウェスタンブロットにて検出を行い、シグナル強度から相対定量を行った。結果を表1に示す。なお、SDS-PAGEのサンプル調製の際に還元剤を非添加とすることで、VLCLとVHCH1がジスルフィド結合を介したヘテロ二量体タンパク質となった約50kDaの位置にシグナルが検出される。
【0039】
【0040】
(1)の菌体外Fab生産量に対し、(2)の混合培養のFab生産量は1.4倍と、その生産性の向上が確認された。(3)と(4)の培養上清を培養終了後に混合(30℃、24時間)し、ヘテロ二量体タンパク質としてのFabが形成されるか試みたが、二量体の分子量の位置にバンドは検出されなかった。
【0041】
pROXb3-Fabのように1つの発現ベクターに2種類の遺伝子を乗せる場合、発現ベクターのサイズが大きくなり、構築が困難となる。さらにシグナルペプチドと分泌生産させたいものの組み合わせは、その生産能に大きく影響することが知られている。2種類の遺伝子を乗せた発現ベクターでシグナルペプチドの検討することは、例えばそれぞれの遺伝子に対し、3種のシグナルペプチドを検討しようとすると、9種類の組み合わせの発現ベクターを構築する必要がある。それに対し、(2)のように混合培養をするのであれば、それぞれ3種類の発現ベクターを構築し、培養時に組み合わせを変えるだけで良い。つまり、本混合培養はヘテロ二量体タンパク質の生産性向上だけでなく、その組み合わせの検討を効率的に行うことができる培養手法と言える。
【0042】
(実施例3)二重特異性抗体生産量の比較
Fabの生産と同様に、二重特異性抗体の形成能について混合培養を検討した。ブレビバチルス菌Brevibacillus choshinensis HPD31を各発現ベクターpROXb3-scFv(EGFR)-CH1-His、pROXb3-scFv(CD3)-CL-DDDDKで形質転換した。各形質転換体を2mLのTMN培地で30℃、18時間培養を行なった(前培養)。新たに用意した100mLのTMN培地に(1)pROXb3-scFv(EGFR)-CH1-His形質転換体培養液0.5mL、及びpROXb3-scFv(CD3)-CL-DDDDK形質転換体培養液0.5mLを添加した。並行して(2)pROXb3-scFv(EGFR)-CH1-His形質転換体培養液1mLを添加、(3)pROXb3-scFv(CD3)-CL-DDDDK形質転換体培養液1mLを添加した3種の培養を30℃、48時間で実施した。
【0043】
実施例2と同様に(1)の混合培養後の菌体外培養液、(2)と(3)の培養上清を混合(30℃、24時間)したものを非還元条件のSDS-PAGEでヘテロ二量体タンパク質形成量を抗His抗体によるウェスタンブロットにて定量した。結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
混合培養をした場合の二量体形成量は実施例2のFabの場合と同様に、それぞれを培養した後に混合したときよりも多くなり、2種の形質転換体を混合培養することは、Fabに限らずヘテロ二量体タンパク質を生産するために有用な培養方法であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の方法により、二重特異性抗体等の医薬の有効成分を効率的に製造することができる。
【配列表】