(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】積層鋼板、及び積層鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20230724BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20230724BHJP
H01F 41/02 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K15/02 F
H01F41/02 B
(21)【出願番号】P 2019193345
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】591201952
【氏名又は名称】株式会社一宮電機
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【氏名又は名称】松田 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】木梨 好一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 耕二
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-005449(JP,A)
【文献】特開2017-042014(JP,A)
【文献】特表2017-521994(JP,A)
【文献】特開2009-284631(JP,A)
【文献】特開平11-168865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 15/02
B21D 22/02
B21D 28/02
H01F 41/02
H01F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に積層された複数の鋼板と、
上記第1方向に隣り合う2つの鋼板である隣接鋼板の間に介在して、上記隣接鋼板を互いに接着する接着膜とを備え、
上記複数の鋼板の各々は、
第1主面と、
上記第1主面から上記第1方向にドーム状に膨出して、上記第1方向において隣り合う上記鋼板に当接する第1膨出部と、を有する積層鋼板。
【請求項2】
上記複数の鋼板の各々は、
上記第1主面と反対側にある第2主面と、
上記第2主面から上記第1方向と逆向きの第2方向にドーム状に膨出する第2膨出部とを有し、
上記第2膨出部の上記第2方向への膨出量は、上記第1膨出部の上記第1方向への膨出量よりも小さく、
上記隣接鋼板の一方の上記第1膨出部は、上記隣接鋼板の他方の上記第2主面において上記第2膨出部の周囲の部分に当接する請求項1に記載の積層鋼板。
【請求項3】
上記複数の鋼板の各々は、上記第1主面から上記第1方向と逆向きの第2方向にドーム状に窪む窪み部を有しており、
上記第1膨出部は、上記第1方向からの平面視で上記窪み部を包囲する請求項1又は2に記載の積層鋼板。
【請求項4】
上記複数の鋼板の各々は、上記第1主面とは反対側の第2主面から上記第1方向にドーム状に窪む窪み部を有しており、
上記隣接鋼板の一方の上記第1膨出部は、上記隣接鋼板の他方の窪み部に当接する請求項1に記載の積層鋼板。
【請求項5】
上記複数の鋼板の各々は、複数の上記第1膨出部を有しており、上記複数の第1膨出部は、予め定められた基準線に対して互いに対称な位置にある請求項1から4のいずれかに記載の積層鋼板。
【請求項6】
複数の鋼板の各々における位置に所定圧力を加えることで、上記複数の鋼板の各々が有する第1主面から第1方向にドーム状に膨出する第1膨出部を形成する成型工程と、
上記成型工程を経た上記鋼板に接着剤を塗布する塗布工程と、
上記塗布工程を経た上記鋼板の上記第1膨出部が上記成型工程を経た別の上記鋼板にと当接するように、上記成型工程を経た上記別の鋼板を、上記塗布工程を経た上記鋼板に積層する積層工程と、を備える積層鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鋼板が接着剤で接着された積層鋼板、及び積層鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機等の回転電機のコアには、積層鋼板が用いられている。積層鋼板は、例えば、次のようにして製造される。すなわち、成型工程において、帯状鋼板が所定形状に打ち抜かれて、複数の鋼板が生成される。接着工程において、各鋼板に接着剤が塗布される。積層工程において、それぞれ接着剤を介して、複数の鋼板が積層される(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述された積層鋼板において、各鋼板の間に介在する接着剤の膜の厚みは、例えば、各鋼板に加わる積層方向の力によるが、各鋼板間の接着剤の膜の厚みを一定にすることは困難である。接着剤による鋼板の接着力は、膜の厚みにも依存する。したがって、各鋼板間の接着剤の厚みにバラツキがあると、鋼板の接着力にもバラツキが生じる。その結果、積層鋼板に外力が加わると、接着力の弱い箇所の鋼板同士が剥がれるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、接着膜が破断し難い積層鋼板、及び積層鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の第1局面は、積層鋼板であって、第1方向に積層された複数の鋼板と、上記第1方向に隣り合う2つの鋼板である隣接鋼板の間に介在して、上記隣接鋼板を互いに接着する接着膜とを備えている。上記複数の鋼板の各々は、第1主面と、上記第1主面から第1方向にドーム状に膨出して、上記第1方向において隣り合う上記鋼板に当接する第1膨出部と、を有する。
【0007】
上記構成によれば、第1膨出部によって隣接鋼板の隙間が一定に保たれるので、接着膜の膜厚のバラツキが抑制される。
【0008】
(2) 上記複数の鋼板の各々は、上記第1主面と反対側にある第2主面と、上記第2主面から上記第1方向と逆向きの第2方向にドーム状に膨出する第2膨出部とを有している。上記第2膨出部の上記第2方向への膨出量は、上記第1膨出部の上記第1方向への膨出量よりも小さい。上記隣接鋼板の一方の上記第1膨出部は、上記隣接鋼板の他方の上記第2主面において上記第2膨出部の周囲の部分に当接する。
【0009】
上記構成によれば、隣接鋼板の一方に対して他方が位置ずれし難い。
【0010】
(3) 上記複数の鋼板の各々は、上記第1主面から上記第1方向と逆向きの第2方向にドーム状に窪む窪み部を有する。上記第1膨出部は、上記第1方向からの平面視で上記窪み部を包囲する。
【0011】
(4) 上記複数の鋼板の各々は、上記第1主面とは反対側の第2主面から上記第1方向にドーム状に窪む窪み部を有する。上記隣接鋼板の一方の上記第1膨出部は、上記隣接鋼板の他方の窪み部に当接する。
【0012】
(5) 上記複数の鋼板の各々は、複数の上記第1膨出部を有する。上記複数の第1膨出部は、予め定められた基準線に対して互いに対称な位置にある。
【0013】
上記構成によれば、複数の第1膨出部によって隣接鋼板の全体に亘って隙間が一定に保たれるので、接着膜の膜厚のバラツキが抑制される。
【0014】
(6) 本発明の第2局面は、上記複数の鋼板の各々が有する第1主面から第1方向にドーム状に膨出する第1膨出部を形成する成型工程と、上記成型工程を経た上記鋼板に接着剤を塗布する塗布工程と、上記塗布工程を経た上記鋼板の上記第1膨出部が上記成型工程を経た別の上記鋼板にと当接するように、上記成型工程を経た上記別の鋼板を、上記塗布工程を経た上記鋼板に積層する積層工程と、を備える。
【0015】
上記工程によれば、成型工程において第1膨出部が形成され、積層工程において第1膨出部が別の鋼板と当接されるので、隣接鋼板の隙間が一定となり、接着剤による膜厚のバラツキを低減できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接着膜が破断し難い積層鋼板、及び積層鋼板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る回転電機10の構成を示す模式図である。
【
図2】
図1の線II-IIに沿う回転電機10の縦断面を軸方向102から見た時の模式図である。
【
図4】(A)は、
図3に示す1つの鋼板42Aを第1方向102Aから見た時の図であり、(B)は、同鋼板42Aを第2方向102Bから見た時の図である。
【
図5】
図3の線V-Vに沿う断面を矢印Aの方向から見た時の断面図である。
【
図6】(A)は、分割コア42Fの製造方法を示すフローチャートであり、(B)は、製造装置25の構成を示す模式図である。
【
図7】(A)、(B)は、分割コア42Fの第1変形例及び第2変形例をそれぞれ示す模式図である。
【
図8】ステータコア42の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る積層鋼板を用いた回転電機10について説明する。なお、以下に説明される実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0019】
[回転電機10の概略構成]
図1に示されるように、回転電機10は、電動機であり、具体的には、インナーロータ型のブラシレスモータ30である。ブラシレスモータ30は、ロータ31、シャフト32、及びステータ33等を、ハウジング36の内部に備えている。
【0020】
[ロータ31]
図1及び
図2において、ロータ31は、シャフト32の軸線104(
図1の一点鎖線を参照)周りに回転可能である。ロータ31は、ロータコア49を備えている。ロータコア49は、概ね円環形状を有する薄い複数の鋼板を軸方向102に積層した積層体である。鋼板は、具体的には、表面に絶縁皮膜が形成された電磁鋼板である。ロータコア49は、概ね円筒形状であり、外周面53、及び内周面55を有している。外周面53及び内周面55は、互いに異なる径を有する概ね円柱面である。外周面53及び内周面55は、軸線104を中心軸として共有している。内周面55は、貫通孔54を画定する。
【0021】
図2に示されるように、ロータ31は、表面磁石型又は埋込磁石型であり、8個のマグネット40を有している。各マグネット40は、永久磁石である。8個のマグネット40は、軸方向102からの平面視で、軸線104を中心とする周方向105において等角度間隔でロータコア49に配置されている。より詳細には、8個のマグネット40は、周方向105においてN極及びS極が交互に外周面53上に現れるように配置される。
【0022】
[シャフト32]
図1に示されるように、シャフト32は、軸方向102においてロータ31よりも長い円柱形状を有する。シャフト32は貫通孔54に挿入される。シャフト32の両端は貫通孔54から軸方向102に突き出る。この状態で、シャフト32は、ロータコア49の内周面55に固定される。シャフト32は、軸方向102の両側で、ハウジング36に設けられている2個のベアリング52を介してハウジング36に支持されている。これにより、シャフト32は、ロータ31とともに周方向105にハウジング36に対して回転可能である。軸方向102におけるシャフト32の一方端は、ハウジング36から軸方向102に突き出ている。
【0023】
[ステータ33の概略構成]
図1及び
図2に示されるように、ステータ33は、ステータコア42、12個の電気絶縁体45、及び12個のコイル39を備えている。なお、
図2には、3個の電気絶縁体45及び1個のコイル39のみが示されている。
【0024】
[ステータコア42]
図2に示すように、ステータコア42は、ロータ31の外周面53を包囲するように配置されており、大略的には筒状形状を有している。ステータコア42は、ステータヨーク43、及び12個のティース44を有している。なお、
図2には、1個のティースにのみ参照符号44が付されている。
【0025】
ステータヨーク43は、筒状形状を有しており、外周面61及び内周面62を有している。外周面61及び内周面62は、互いに異なる径を有する概ね円柱面である。外周面61及び内周面62は、軸線104を中心軸として共有している。内周面62の径は、ロータ31の外周面53よりも大きい。
【0026】
12個のティース44は、互いに同じ形状を有する。12個のティース44は、軸方向102から見た場合に、周方向105において等角度間隔で内周面62上に配置されている。各ティース44は、内周面62から軸線104に向かって、径方向103と平行に延びる。径方向103は、軸線104と直交する方向である。なお、
図2等には、径方向103の一例のみが示される。各ティース44の延出端は歯先面44Aである。各歯先面44Aは、ロータ31の外周面53及び各マグネット40のそれぞれから離間する。すなわち、各ティース44は、ロータ31の外周面53とギャップを介して対向する。なお、
図2には、1個の歯先面にのみ参照符号44Aが付されている。
【0027】
図2に示されるように、ステータコア42は、ティース44毎に分割された12個の分割コア42Fを有している。
図2には、3個の分割コアにのみ参照符号42Fが付されている。周方向105において隣り合う2個の分割コア42Fは、接着剤(図示せず)等により接着される。各分割コア42Fは、互いに同じ外形寸法を有しており、
図3、
図4に示すように、周方向105における中心面である基準面107に対して概ね互いに対称な形状を有している。
【0028】
[分割コア42F(積層鋼板)]
図3に示すように、各分割コア42Fは、積層鋼板の一例であって、軸方向102に積層された複数枚の鋼板42Aを備えている。各鋼板42Aは、電磁鋼板であり、軸方向102に互いに離間する主面46A,46B(
図4参照)を有する。主面46Bは、軸方向102において主面46Aと反対側にある。主面46Aは、第1主面の第1例であり、主面46Bは、第2主面の第1例である。以下、軸方向102において、主面46Bから主面46Aに向かう方向を第1方向102Aと称し、第1方向102Aの逆方向を第2方向102Bと称する。主面46A,46Bの各々は、分割コア42Fを軸方向102から視たときに同じ外形である。主面46A,46Bには、絶縁被膜が形成されている。これにより、各分割コア42Fにおいて複数枚の鋼板42Aは互いに電気的に絶縁される。各分割コア42Fは、接着膜47(
図5参照)を更に備えている。接着膜47は、
図5に示すように、軸方向102において隣り合う2枚の鋼板42A(以下、隣接鋼板42Aとも称する。)の間に介在する。各接着膜47は、2枚の隣接鋼板42Aを互いに接着する。
【0029】
各鋼板42Aの主面46A側には、
図4(A)に示すように、6個の窪み部71が形成されている。詳細には、6個の窪み部71は、窪み部71A~71Fを含む。窪み部71A,71Bは、各鋼板42Aにおいてステータヨーク43となる部分に位置する。詳細には、窪み部71A,71Bは、ステータヨーク43となる部分の周方向105における一方端及び他方端の近くで、且つ基準面107に対して概ね互いに対称な位置に形成されている。また、窪み部71A,71Bの各々は、径方向103において外周面61及び内周面62(
図2,
図3参照)となる部分の中間に位置する。窪み部71C,71Dは、各鋼板42Aにおいてティース44となる部分に、径方向103に沿って並んでいる。窪み部71C,71Dの各々は、基準面107に対して概ね対称な形状を有している。窪み部71E,71Fは、各鋼板42Aにおいてティース44となる部分において歯先面44A(
図2,
図3参照)となる部分の近くに位置する。詳細には、窪み部71E,71Fは、歯先面44Aとなる部分に周方向105に沿って形成されている。また、窪み部71E,71Fは、基準面107に対して概ね互いに対称な位置に形成されている。
【0030】
各窪み部71は、
図5に示すように、主面46Aから第2方向102Bに向かってドーム状に窪んでいる。すなわち、各窪み部71は、半球形形状の曲面、又は放物曲面を有している。また、各窪み部71は、
図4(A)に示すように、軸方向102からの平面視で円形の外形を有している。
【0031】
図4(A)に示すように、各鋼板42Aの主面46A側において、6個の窪み部71の周囲には、膨出部72が1つずつ形成されている。膨出部72は、第1膨出部の第1例である。各膨出部72は、対応する窪み部71を全周に亘って包囲し、主面46Aから第1方向102Aに向かってドーム状に膨出している。各膨出部72は、軸方向102からの平面視で環状形状を有している。各窪み部71の周方向105に沿う膨出部72の断面は概ね円弧形状又は放物線形状である。
【0032】
図4(B)に示すように、各鋼板42Aの主面46B側において、6個の窪み部71に対応する位置には、膨出部73が1つずつ形成されている。膨出部73は、第2膨出部の第1例である。各膨出部73は、主面46Bから第2方向102Bに向かってドーム状に膨出している。すなわち、各膨出部73は、半球形状の曲面、又は放物曲面を有している。また、各膨出部73は、軸方向102からの平面視で円形の外形を有している。
【0033】
図5において、主面46A,46Bの間の距離(以下、厚さとも称する)をAとし、主面46Aと各膨出部72の頂点との間の距離(以下、膨出量とも称する。)をBとし、主面46Bと各膨出部73の頂点との間の距離(以下、膨出量とも称する。)をCとする。Aが例えば0.3mm以下である場合、B,Cは、1.0μm≦B+C≦100.0μmを満たす値である。また、膨出量B,Cは、後述の塗布工程で接着剤が窪み部71に塗布される量により定められる。膨出量Bは更に、接着膜47による隣接鋼板42Aの接着強度により予め定められる。
図5では、膨出量Bは膨出量Cよりも小さい例が示されている。
【0034】
また、窪み部71及び膨出部72を主面46Aに沿って切断して得られる空間の容積をD,Eとし、膨出部73を主面46Bに沿って切断して得られる空間の容積をFとする。D~Fは、D>F且つD=E+Fを満たす値である。これにより、積層鋼板の製造工程における積層工程で、隣接鋼板42Aの一方の膨出部73が他方の膨出部72の内部にはまり込むように隣接鋼板42Aを積層すると、隣接鋼板42Aの主面46A,46Bの間には、距離Bの間隙ができる。また、積層工程よりも前工程である塗布工程で、窪み部71に接着剤が塗布されている場合、隣接鋼板42Aの主面46A,46Bの間には、厚さBの接着膜47が形成される。
【0035】
[電気絶縁体45]
図1及び
図2において、12個の電気絶縁体45は、対応するティース44に固着される樹脂モールドで実現される。樹脂モールドは、電気絶縁性を有する樹脂の成型品である。12個の電気絶縁体45は、ステータコア42の表面の一部を覆う。
【0036】
[コイル39]
各コイル39は、各ティース44に電気絶縁体45を介して巻回されている。具体的には、各コイル39は、電気絶縁体45の中間部分に巻回されている。各コイル39には、図示しないコントローラにより、U相、V相及びW相の交流電圧が与えられる。12個のティース44により包囲される空間に、回転磁界が形成される。これにより、ロータ31が回転する。
【0037】
[分割コア42F(積層鋼板)の製造方法]
以下、
図6を参照して、分割コア42Fの製造方法について説明する。製造方法は、
図6(A)に示すように、第1成型工程(S1)、塗布工程(S2)、及び第2成型工程(S3)及び積層工程(S4)を含む。
【0038】
図6(B)に示すように、製造装置25には、帯状鋼板Xが送り込まれる。帯状鋼板Xは、0.3mm以下の厚さを有している。帯状鋼板Xの両主面には絶縁被膜が形成されている。製造装置25は、第1パンチ251及び第1ダイ252を備えている。第1パンチ251及び第1ダイ252は、軸方向102に対応する方向において互いに対向する。第1パンチ251の形状は更に、窪み部71に対応する形状を有している。第1ダイ252は更に、膨出部73に対応する形状を有している。製造装置25は、帯状鋼板Xにおいて6個の窪み部71に対応する位置に第1パンチ251及び第1ダイ252により所定圧力を加える(第1成型工程,S1)。所定圧力は、分割コア42Fの製造前の実験やシミュレーションにより予め導出され、帯状鋼板Xの絶縁被膜が破断しない圧力である。所定圧力を加えることで、製造装置25は、鋼板42Aにおける主面46A側(すなわち、帯状鋼板X)に容積Dの窪み部71(
図5参照)を形成し、主面46B側に容積Fの膨出部73(
図5参照)を形成する。D>Fであるため、また、主面46A側において、窪み部71の周囲には、容積E(=D-F)の膨出部72(
図5参照)が形成される。
【0039】
次に、製造装置25は、塗布機構253を更に備えている。塗布機構253は、成型工程を経た鋼板42A(すなわち、帯状鋼板X)の窪み部71に、エポキシ樹脂接着剤等の接着剤を塗布する(S2,塗布工程)。
【0040】
製造装置25は、第2パンチ254及び第2ダイ255を備えている。第2パンチ254及び第2ダイ255の各々の形状は、軸方向102から見た分割コア42Fの平面形状に対応している。製造装置25は、第2パンチ254及び第2ダイ255により、塗布工程を経た帯状鋼板Xを分割コア42Fの平面形状に打ち抜いて、鋼板42Aを形成する(第2成型工程,S3)。
【0041】
製造装置25は、第2成型工程を経た鋼板42Aは、第2ダイ255の抜き孔256内に積層される。製造装置25は、第2ダイ255の下方に積層機構257を更に備える。抜き孔256及び積層機構257により、抜き孔256内に鋼板42Aが軸方向102に積層される。積層時、隣接鋼板42Aの一方の主面46Aに、隣接鋼板42Aの他方の主面46Bが対向する。より詳細には、主面46Bの膨出部73が、主面46Aの膨出部72により区画される空間にはまり込む。これにより、窪み部71に塗布された接着剤は、膨出部72からあふれ出て、主面46A,46Bの間の隙間を隣接鋼板42Aの外側に向かって拡がっていく。その結果、隣接鋼板42A間に接着膜47が形成され、これらが接着される(積層工程,S4)。S1~S4が繰り返されることで、分割コア42Fが製造される。
【0042】
[分割コア42F(積層鋼板)の作用・効果]
分割コア42Fによれば、鋼板42Aが積層工程で軸方向102に積層される際、隣接鋼板42Aの一方に形成された膨出部72が、隣接鋼板42Aの他方の主面46Bに当接する。これにより、隣接鋼板42Aの一方の主面46Aと、隣接鋼板42Aの他方の主面46Bの間の間隔が膨出部72の高さBとなる。これにより、接着膜47の膜厚のバラツキが抑制され、接着膜47が破断し難くなる。
【0043】
また、膨出部72の膨出量Bは、膨出部73の膨出量Cよりも大きい。この場合、積層工程において、膨出部72は、窪み部71の深さによらず、主面46Bにおいて膨出部73の周囲に当接する。これにより、隣接鋼板42Aの一方に対して他方が位置ずれし難い。
【0044】
また、膨出部72が主面46A側の複数の箇所に形成される。これにより、隣接鋼板42Aの一方の主面46Aと、隣接鋼板42Aの他方の主面46Bとの間の間隔、すなわち、接着膜47の膜厚のバラツキを広い領域に亘って抑制できる。また、複数の窪み部71(具体的には、窪み部71A,71B等)が基準面107に対して対称に位置する。すなわち、複数の膨出部72が基準面107に対して対称に位置する。これによって、接着膜47の膜厚のバラツキを更に抑制できる。
【0045】
[分割コア42Fの第1変形例]
実施形態では、各鋼板42Aの主面46A側に窪み部71及び膨出部72が形成され、主面46B側に膨出部73が形成されていた。しかし、これに限らず、
図7(A)に示すように、主面46B側に膨出部73が形成されなくともよい。
【0046】
[分割コア42Fの第2変形例]
他にも、
図7(B)に示すように、主面46A側に膨出部72が形成されずに、各鋼板42Aの主面46Aに窪み部71が形成され、各鋼板42Aの主面46Bに膨出部73が形成されてもよい。ここで、主面46Aと窪み部71の底との間の距離(以下、深さとも称する。)をGとする。膨出部73の膨出量Cは、深さGよりも大きい。この場合、膨出部73が窪み部71にはまり込むことで、隣接鋼板42Aの一方の主面46Aと、他方の主面46Bとの間の間隔が概ね一定になる。これによっても、隣接鋼板42Aの一方の主面46Aと、他方の主面46Bと間隔のバラツキを抑制できる。なお、主面46Bは第1主面の第2例であり、主面46Aは第2主面の第2例である。膨出部73は、第1膨出部の第2例であり、窪み部71は、窪み部の第2例である。また、膨出部73の膨出量Cは深さGよりも小さく、且つ膨出部73の直径が窪み部71の直径よりも大きくてもよい。この場合、膨出部73が窪み部71の周縁に当接して、隣接鋼板42Aの一方の主面46Aと、他方の主面46Bとの間の間隔が概ね一定になる。
【0047】
なお、第1変形例及び第2変形例のような鋼板42Aは、第1パンチ251及び第1ダイ252の形状と、所定圧力とを適宜調整することで実施可能である。
【0048】
[ステータコア42の変形例]
ステータコア42は、分割コア42Fに分割されずに、
図8に示すように、ステータコア42を軸方向102から平面視した時の外形形状を有する鋼板42Aを軸方向102に積層したものであってもよい。
【0049】
[その他の変形例]
実施形態では、ステータコア42は、12個の分割コア42Fを有していた。しかし、これに限らず、ステータコア42は、3個以上の分割コア42Fに分割されればよい。また、1個の分割コアに複数のティースが形成されていてもよい。
【0050】
前述された実施形態では、分割コア42Fが積層鋼板の一例として説明がされているが、ロータ31が、実施形態で説明した鋼板42Aからなる積層鋼板であってもよい。また、積層鋼板の用途は電動機に限定されず、例えば発電機のコアや角度センサのコアとして用いられてもよい。
【0051】
また、実施形態の製造装置25は、塗布機構253を備えているが、塗布機構253は、電磁鋼板を所定形状に打ち抜くプレス機構から独立していてもよい。この場合、塗布工程(S2)は、ダイにおける鋼板の積層の後に行われる。すなわち、製造装置25の積層機構257により積層された鋼板同士は接着されておらず、積層機構257から取り出された積層鋼板において、隣接鋼板42Aが離間されて、隣接鋼板42Aの間に接着剤が塗布され、その後に再び隣接鋼板42Aにおいて、隣接鋼板42Aの一方に形成された膨出部72が、隣接鋼板42Aの他方の主面46Bに当接されて、一定の膜厚の接着膜47が形成される。
【符号の説明】
【0052】
10・・・回転電機
30・・・ブラシレスモータ
42・・・ステータコア
42F,48・・・分割コア(積層鋼板)
42A・・・鋼板、隣接鋼板
43,81・・・ステータヨーク
44,82・・・ティース
44A,82A・・・歯先面
46A,46B・・・主面
47・・・接着膜
71・・・窪み部
71,71A~71F・・・窪み部
72,73・・・膨出部(第1膨出部、第2膨出部)
S1・・・第1成型工程
S2・・・塗布工程
S3・・・第2成型工程
S4・・・積層工程