(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】血管新生抑制剤及び血管新生抑制剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20230724BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230724BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230724BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230724BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230724BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230724BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230724BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230724BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230724BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230724BHJP
A61K 35/76 20150101ALN20230724BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20230724BHJP
A61P 9/10 20060101ALN20230724BHJP
A61P 13/12 20060101ALN20230724BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20230724BHJP
A61P 17/06 20060101ALN20230724BHJP
A61P 19/02 20060101ALN20230724BHJP
A61P 19/08 20060101ALN20230724BHJP
A61P 25/00 20060101ALN20230724BHJP
A61P 27/02 20060101ALN20230724BHJP
A61P 1/04 20060101ALN20230724BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20230724BHJP
A61P 9/14 20060101ALN20230724BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230724BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20230724BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61K35/12
A61P43/00
A61P35/00
A61K48/00
C12Q1/02
C12Q1/686 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N15/113 Z
A61K35/76
A61P3/10
A61P9/10
A61P13/12
A61P17/00
A61P17/06
A61P19/02
A61P19/08
A61P25/00
A61P27/02
A61P1/04
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P9/14
C07K14/47
C12N15/63 Z
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2019567167
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 JP2019002370
(87)【国際公開番号】W WO2019146729
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2018010489
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、(再生医療実現拠点ネットワークプログラム(技術開発個別課題))「再生医療用製品の大量生産に向けたヒトiPS細胞用培養装置開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】松浦 勝久
(72)【発明者】
【氏名】青木 信奈子
(72)【発明者】
【氏名】阪本 覚
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
【審査官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0021058(KR,A)
【文献】国際公開第2018/164141(WO,A1)
【文献】KAYISLI, U A et al.,PNAS,2015年,Vol.112, No.16,p.5153-5158, Supporting information,Abstract, Supporting information Table S1,S2
【文献】SON, G W et al.,BioChip J,2014年,Vol.8, No.2,p.91-101,Abstract, 91頁33行-92頁2行, Table 4
【文献】MASUDA, S et al.,Biomaterials,2018年06月,Vol.166,p.109-121,Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 35/00-35/768
A61K 48/00
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LYPD1タンパク質の発現を亢進させる血管新生抑制剤のスクリーニング方法であって、
(i)被験物質で第1細胞を処理し、培養する工程、
(ii)前記第1細胞のLYPD1タンパク質の発現量を検出し、未処理の第1細胞のLYPD1タンパク質の量と比較する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1細胞が、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の線維芽細胞である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
(iii)前記工程(ii)において、未処理の第1細胞のLYPD1タンパク質の量よりも、LYPD1タンパク質の発現を亢進させる前記被験物質を選択する工程、
(iv)第2細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群に、前記被験物質を添加し、培養する工程;
(v)前記血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞によって形成させる血管内皮ネットワークを検出する工程、
をさらに含む、請求項
1又は
2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2細胞が、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の線維芽細胞である、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LYPD1タンパク質若しくはその誘導体、又はその一部、或いはそれを発現するベクター、或いはそれを発現する細胞、を有効成分として含有する、血管新生抑制剤に関する。また、本発明はLYPD1タンパク質の発現を亢進させる血管新生抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生とは、組織や臓器に、既存の毛細血管から新たな毛細血管が形成されることをいう。正常な血管新生は、胚や胎児の発達、胎盤の増殖、黄体の形成、子宮の成熟、創傷治癒など、限られた状況において生じるものであり、必要な状況が整うと血管新生は停止する。そのため、血管新生は、過剰に行われないように血管新生調節因子などによって厳密に調節されている(非特許文献1)。
【0003】
異常な血管新生に関する疾患には、関節炎などの炎症性疾患、糖尿病性網膜症などの眼科疾患、乾癬などの皮膚科疾患、及び固形悪性腫瘍などが含まれる。原発性の固形悪性腫瘍や転移性の固形悪性腫瘍は、その増殖や成長に必要となる栄養や酸素を供給するために、まわりに血管新生を誘導することが知られている(非特許文献2、非特許文献3)。また、血管新生が、固形悪性腫瘍が転移する機会を促進している。
【0004】
このような固形悪性腫瘍に対する有効な治療法の一つとして、血管新生を抑制する試みが行われている。例えば、抗VEGF抗体などの血管新生促進因子に対する阻害剤を投与する試みが行われており、それによって生存期間が延長することが報告されている(非特許文献4~6)。しかしながら、血管新生調節因子の抑制は、全身の血管内皮の機能異常をきたし、高血圧や血栓形成などの副作用をもたらすなどの課題がある。
【0005】
血管新生には、促進系機序とともに、抑制系機序も存在するが、抑制系機序の活性化によるがん治療に関しては、依然として標準的治療法とはなっておらず、新たな治療法の探索が続けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Folkman, J. Angiogenesis in cancer, vascular, rheumatoid and other disease. J. Nature Med. (1995) 1: 27-31
【文献】Folkman, J. Tumor angiogenesis: therapeutic implications. New Engl. J. Med., (1971) 285: 1182-1186
【文献】Folkman, J. Angiogenesis. J. Biol. Chem. (1992) 267: 10931-10934
【文献】Tewari KS., et al., Improved survival with bevacizumab in advanced cervical cancer. N Engl J Med. (2014) Feb. 20;370(8):734-43.
【文献】Yang JC., et al., A randomized trial of bevacizumab, an anti-vascular endothelial growth factor antibody, for metastatic renal cancer. New Engl. J. Med. (2003) Jul. 31;349(5):427-34.
【文献】Bear HD., et al., Bevacizumab added to neoadjuvant chemotherapy for breast cancer. New Engl. J. Med. (2012) Jan. 26;366(4):310-20.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、血管新生関連疾患の治療に用いることができる、新たな血管新生抑制剤を得ることを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究を行った。その結果、驚くべきことに、血管新生を抑制する新規の因子であるLYPD1タンパク質を見いだし、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
【0009】
[1] LYPD1タンパク質若しくはその誘導体、又はその一部、或いはそれを発現するベクター、或いはそれを発現する細胞、を有効成分として含有する、血管新生抑制剤。
[2] 血管新生関連疾患の治療又は予防に用いることを特徴とする、[1]に記載の血管新生抑制剤。
[3] 前記血管新生関連疾患が、固形がん、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶反応、新生血管緑内障、紅皮症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節症、アテローム性動脈硬化プラーク内の毛細血管増殖、ケロイド、創傷肉芽形成、血管癒着、関節リウマチ、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再狭窄症、アテローム性動脈硬化症、腸管癒着、潰瘍、肝硬変症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、臓器移植拒絶反応、腎糸球体症、糖尿病、炎症又は神経退行性疾患である、[2]に記載の血管新生抑制剤。
[4] 前記固形がんが、子宮頸がん、肺がん、膵がん、非小細胞肺がん、肝がん、結腸がん、骨肉腫、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、皮膚黒色腫、眼球内黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肝がん、脳腫瘍、膀胱がん、胃がん、肛門周囲腺がん、結腸がん、乳がん、卵管がん、子宮内膜がん、膣がん、外陰がん、ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌腺がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がん、尿管がん、腎細胞がん、腎盂がん、中枢神経系(CNS;central nervous system)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、又は脳下垂体腺腫である、[3]に記載の血管新生抑制剤。
[5] 前記LYPD1タンパク質が、配列番号1~14及び19から選択される配列を有するLYPD1タンパク質、又は配列番号1~14及び19から選択される配列と少なくとも85%の配列同一性を有するタンパク質である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の血管新生抑制剤。
[6] 前記細胞が、皮膚由来の線維芽細胞よりもLYPDタンパク質を高発現する細胞である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の血管新生抑制剤。
[7] 前記細胞が、心臓由来の線維芽細胞である、[6]に記載の血管新生抑制剤。
【0010】
[8] LYPD1タンパク質の発現を亢進させる血管新生抑制剤のスクリーニング方法であって、
(i)被験物質で第1細胞を処理し、培養する工程、
(ii)前記第1細胞のLYPD1タンパク質の発現量を検出し、未処理の第1細胞のLYPD1タンパク質の量と比較する工程、
を含む、方法。
[9] 前記第1細胞が、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の線維芽細胞である、[8]に記載の方法。
[10] (iii)前記工程(ii)において、未処理の第1細胞のLYPD1タンパク質の量よりも、LYPD1タンパク質の発現を亢進させる前記被験物質を選択する工程、
(iv)第2細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群に、前記被験物質を添加し、培養する工程;
(v)前記血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞によって形成させる血管内皮ネットワークを検出する工程、
をさらに含む、[8]又は[9]に記載の方法。
[11] 前記第2細胞が、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の線維芽細胞である、[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、血管新生の形成を阻害することが可能となり、血管新生関連疾患を治療又は予防することが可能となる。また、本発明によれば、血管新生関連疾患の治療又は予防に用いることができる、新たな血管新生阻害剤を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、心臓線維芽細胞が血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又は心臓線維芽細胞(心房はNHCF-a、心室はNHCF-v)とヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)とを共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又はヒト心臓線維芽細胞(心房はNHCF-a、心室はNHCF-v)と、iPS細胞由来血管内皮細胞(iPS-CD31+)又はヒト心臓由来微小血管内皮細胞(HMVEC-C)とを共培養後の、血管内皮ネットワークを示す図である。
【
図3】
図3は、マウス心臓線維芽細胞が血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)マウス皮膚線維芽細胞(DF)又はマウス心臓線維芽細胞(CF)と、マウスES細胞由来心筋細胞、マウスES細胞由来血管内皮細胞とを共培養後の心筋細胞(緑)及びCD31陽性細胞(赤)を示す図である。
【
図4】
図4は、ラット心臓線維芽細胞が血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)新生仔ラット皮膚線維芽細胞(RDF)又は心臓線維芽細胞(RCF)と、ラット新生仔心臓由来血管内皮細胞とを共培養後の血管内皮ネットワークを示す図である。CD31陽性細胞(緑)及び核(Hoechst33342(青))を表す。(C)(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
【
図5】
図5は、皮膚線維芽細胞と心臓線維芽細胞の遺伝子発現を比較した図である。(A)糖タンパク質関連遺伝子についてのヒートマップを示す。(B)血管新生に関連する遺伝子についてのヒートマップを示す。
【
図6】
図6は、LYPD1が発現する部位を示す図である。(A)ラット由来の各臓器におけるLYPD1の相対的発現量をqPCRにより評価したグラフである。(B)ラット心臓組織の免疫染色画像を示す図である(cTnT:心筋トロポニンT(緑)、LYPD1(赤)、DAPI:核(青)、Merged:マージ)。
【
図7】
図7は、ヒト及びラットの初代培養細胞におけるLYPD1遺伝子発現を比較した図である。(A)ヒト初代皮膚線維芽細胞(NHDF)及びヒト初代心臓線維芽細胞(心房:NHCF-a、心室:NHCF-v)のLYPD1の相対的発現量をqPCRにより評価したグラフである。(B)ラット初代皮膚線維芽細胞及びラット初代心臓線維芽細胞のLYPD1の相対的発現量をqPCRにより評価したグラフである。
【
図8】
図8は、血管ネットワーク形成がLYPD1の阻害(siRNA)により回復することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)ヒト心臓線維芽細胞にLYPD1に対するsiRNAを導入した後にHUVECと共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)ヒト心臓線維芽細胞にコントロールsiRNAを導入した後にHUVECと共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(D)(B)及び(C)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。
【
図9】
図9は、血管ネットワーク形成がLYPD1の阻害(抗LYPD1抗体)により回復することを示す図である。(A)ヒト心臓線維芽細胞とHUVECとを抗LYPD1抗体存在下で共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(B)ヒト心臓線維芽細胞とHUVECとをコントロールIgG存在下にて共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
【
図10】
図10は、血管ネットワーク形成がLYPD1の阻害(抗LYPD1抗体)により回復することを示す図である。(A)ラット新生仔心臓線維芽細胞とラット新生仔心臓由来血管内皮細胞とを抗LYPD1抗体存在下で共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(B)ラット新生仔心臓線維芽細胞とラット新生仔心臓由来血管内皮細胞とをコントロールIgG存在下にて共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞を示す。(C)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。(D)(A)及び(B)で示された血管内皮ネットワークの分岐点数を示すグラフである。
【
図11】
図11は、ヒト皮膚芽細胞(NHDF)及びヒト心臓線維芽細胞(NHCF)、iPS由来間質細胞、間葉系幹細胞(MSC)における遺伝子発現をマイクロアレイで解析した結果を示した図である。クラスター解析を右に示す。
【
図12】
図12は、ヒトiPS由来間質細胞(iPS fibro-like)がヒトiPS CD31陽性細胞(iPS CD31+)由来の血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)本実施例の手順を示す図である。(B)ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又はヒトiPS由来間質細胞を、ヒトiPS CD31陽性細胞と共培養後、抗CD31抗体で免疫染色した図を示す。赤は、CD31陽性細胞を示す。(C)ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)、ヒト心臓線維芽細胞(NHCFa)及びヒトiPS由来間質細胞(iPS fibro-like)におけるLYDP1の発現をqPCRで評価したグラフを示す。
【
図13】
図13は、リコンビナントLYPD1が、血管内皮ネットワーク形成を阻害することを示す図である。(A)抗DYKDDDDKタグ抗体磁気ビーズを用いて精製したFLAG-LYPD1タンパク質をドデシル硫酸-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び免疫ブロッティングに供し、ペルオキシダーゼ結合抗-DYKDDDDKタグモノクローナル抗体(上段)及びウサギポリクローナル抗-LYPD1抗体(下段)で検出した。(B)リコンビナントLYPD1タンパク質で処理した後の血管内皮ネットワーク(チューブ)形成の様子を示す。CD31(緑)及び核(Hoechst33342(青))を染色した。スケールバーは400μmを表す。(C)リコンビナントLYPD1タンパク質で処理した後の血管内皮ネットワーク(チューブ)の長さの合計を示す。CD31陽性細胞が形成するチューブの長さを合計して算出した。値は、3回の独立した実験から、平均値±標準偏差を算出した。P<0.05。
【
図14】
図14は、心臓線維芽細胞による血管新生抑制作用は、血管内皮細胞数に依存しないことを示す図である。(A)ヒト心房由来線維芽細胞(NHCF-a)(2×10
4cells/cm
2、4×10
4cells/cm
2及び6×10
4cells/cm
2)と、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)(2.4×10
5cells/cm
2)とを共培養後、抗CD31抗体及びHoechstで染色した図を示す。緑はCD31陽性細胞、青は核を示す。(B)(A)で示された血管内皮ネットワークの全長を示すグラフである。いずれの細胞数においても、有意差を示さなかった。
【
図15】
図15は、マトリゲル(登録商標)チューブ形成アッセイによる組換えLYPD1の血管内皮ネットワーク形成の阻害効果を示す図である。マトリゲル(登録商標)でプレコーティングした96ウェルプレートのウェルに、HUVEC(1.0×10
4cells/cm
2)を播種し、組換えLYPD1タンパク質の非存在下(コントロール)又は存在下(1μg/mL、2μg/mL又は5μg/mL)で20時間培養した(5%CO
2、37℃)。スケールバーは500μmを示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、組織工学的に三次元生体組織を構築する研究を行う過程において、マウス、ラット及びヒトのいずれの哺乳動物由来の心臓線維芽細胞と血管内皮細胞を共培養した場合、血管内皮細胞のネットワーク形成が著しく抑制される現象を見出した。その原因について詳細に調べた結果、LYPD1タンパク質が、血管内皮ネットワークの形成阻害に関与することを見出した。本発明は、当該知見を基にして完成させたものである。
【0014】
1.血管内皮ネットワークの形成(血管新生)
本明細書において、用語「血管内皮ネットワーク」とは、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞が生体組織において構築する毛細血管様のネットワークである。血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の細胞表面マーカーとしてはCD31タンパク質が知られており、任意の方法によってCD31タンパク質を検出することで、生体組織における血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞の存在を検出することができる。血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞は、管腔構造を構築し、流体、特に血液が通る血管網を形成する。生体組織が生存するためには、栄養や酸素が含まれる血液をその隅々まで行き渡らせる必要があり、そのためには密度の高い血管網を構築する必要がある。その一方で、血管内皮ネットワークが過剰に形成されることにより、血管新生関連疾患(後述)が引き起こされたり、重篤化したりする。血管内皮ネットワークの形成(血管新生)が阻害されているか否かについては、上述のように構築された血管内皮ネットワークの長さ及び/又は分岐点を評価することによって判断することができる。血管内皮ネットワークの長さとは、単位面積あたりの血管内皮ネットワークの長さの合計をいい、血管内皮ネットワークの分岐点とは、単位面積あたりに存在する血管内皮ネットワーク同士が繋がった部位の総数をいう。後述の血管新生抑制剤のスクリーニング方法においては、被験物質を用いない場合(又はネガティブコントロールとしての化合物)と比較して、血管内皮ネットワークの長さ及び/又は分岐点が低い程、血管内皮ネットワークの形成を阻害する能力が高い血管新生抑制剤と評価することができる。血管内皮ネットワークの長さ及び/又は分岐点は、共焦点蛍光顕微鏡等により取得した画像を、例えば、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて、CD31陽性領域を血管内皮細胞として、血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出することができる。
【0015】
2.血管新生抑制剤
本明細書において、用語「血管新生抑制剤」とは、LYPD1タンパク質若しくはその誘導体又はその一部、或いはそれを発現するベクター、或いはそれを発現する細胞、或いは、直接的及び/又は間接的にLYPD1タンパク質の発現を亢進し、血管内皮ネットワークの形成(血管新生)を阻害する天然の若しくは合成された化合物又は細胞をいう。血管新生抑制剤は、後述のLYPD1タンパク質の発現を亢進させる血管新生抑制剤のスクリーニング方法によっても得ることができる。一実施態様において、本発明の血管新生抑制剤は、その医薬的に許容される塩であってもよい。本明細書において「医薬的な」又は「医薬的に許容される」とは、哺乳動物、特にヒトに適切に投与されたとき、副作用、アレルギー作用又はその他の有害作用を生じない分子及び組成物を意味する。本明細書において、医薬的に許容される担体又は賦形剤とは、非毒性の固形、半固形又は液体の注入剤、希釈剤、カプセル化物質又は任意の種類の製剤補助物を意味し、医薬的に許容される担体又は賦形剤は、本発明の血管新生抑制剤と共に用いることができる。
【0016】
2-1.LYPD1タンパク質
本明細書において、用語「LYPD1タンパク質」は、当該技術分野において一般的に使用される意味と同義のものとして使用され、LY6/PLAUR domain containing 1、PHTS、LYPDC1とも称されるタンパク質をいう(以下、「LYPD1」ともいう)。LYPD1タンパク質は、哺乳動物において広く保存されているタンパク質であり、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット等においても見出されている。天然のヒトLYPD1のmRNA及びアミノ酸の配列は、例えば、GenBankデータベース及びGenPeptデータベースにおいて、受入番号NM_001077427(配列番号1)及びNP_001070895(配列番号2)、NM_144586(配列番号3)、及びNP_653187(配列番号4)、NM_001321234(配列番号5)及びNP_001308163(配列番号6)、並びにNM_001321235(配列番号7)及びNP_001308164(配列番号8)として提供され、また、UniProtKBデータベースにおいて、Q8N2G4-2(配列番号19)として提供される。また、天然のマウスLYPD1のmRNA及びアミノ酸の配列は、例えば、GenBankデータベース及びGenPeptデータベースにおいて、受入番号NM_145100(配列番号9)及びNP_659568(配列番号10)、NM_001311089(配列番号11)及びNP_001298018(配列番号12)、並びに、NM_001311090(配列番号13)及びNP_001298019(配列番号14)として提供されている。
【0017】
LYPD1タンパク質は、脳において高発現しているタンパク質として知られているが、その機能についてはこれまでのところほとんど知られていない。LYPD1タンパク質のアミノ酸モチーフから、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型のタンパク質であると考えられている。
【0018】
本明細書において、「LYPD1タンパク質」とは、天然に存在するLYPD1タンパク質若しくはその変異体及びその修飾体(総称して、「誘導体」という)、又はその一部をいう。この用語はまた、少なくとも1種のLYPD1活性を保持したLYPD1タンパク質のドメインが、例えば、他のポリペプチドと融合した融合タンパク質を意味するものであってもよい。LYPD1タンパク質はいかなる生物由来であってもよく、好ましくは、哺乳動物由来(例えば、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、ヤギ、ヒツジ等)、より好ましくは、ヒト及びヒト以外の霊長類由来、特に好ましくはヒトのLYPD1タンパク質である。本発明に用いられるLYPD1タンパク質は、配列番号1~14及び19から選択される配列や、配列番号1~14及び19から選択される配列と少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するタンパク質である。
【0019】
本発明のLYPD1タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記LYPD1タンパク質遺伝子の塩基配列から調製され得るプローブ、例えば同塩基配列の全体または一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるタンパク質であってもよい。そのようなプローブは、例えば、同塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、同塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、或いは通常のサザンハイブリダイゼーションにおける洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度及び温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。また、例えば、プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗浄条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0020】
LYPD1タンパク質を得る方法は、公知の遺伝子工学的手法及びタンパク質工学的手法などを用いることによって得ることが可能であり、例えば、FLAGタグと呼ばれる人工的な8アミノ酸配列(DYKDDDDK、Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys)をLYPD1タンパク質のN末端又はC末端に発現するように構築したベクターを任意の細胞に導入し、培養して発現させたタンパク質を、FLAGタグに対する抗体を結合させた樹脂によって精製する方法や、その他のタグ(例えば、BCCP、c-mycタグ、カルモジュリンタグ、HAタグ、Hisタグ、マルトース結合タンパク質タグ、Nusタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ、緑色蛍光タンパク質タグ、チオレドキシンタグ、Sタグ、Streptag II、Softag1、Softag3、T7タグ、エラスチン様ペプチド、キチン結合ドメイン及びキシラナーゼ10Aなど)を組み込んだLYPD1タンパク質を、任意の細胞にて発現させ、それぞれのタグに応じて最適な手法を選択して精製することにより得ることができる。タグを用いることなく、LYPD1タンパク質を発現している細胞を破砕し、例えば、抗LYPD1抗体を用いて直接精製することも可能である。
【0021】
LYPD1タンパク質は、植物細胞、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞、又はその抽出物などを用いて発現させることにより得ることが可能であり、好ましくは昆虫細胞又は哺乳動物細胞、より好ましくは哺乳動物細胞を用いて発現させて得ることができる。
【0022】
2-2.LYPD1タンパク質発現ベクター
本発明の一実施態様において、血管新生抑制剤としてのLYPD1タンパク質若しくはその誘導体又はその一部は、それをコードする核酸が任意のベクターに組み込まれた発現ベクター(以下、総称して「LYPD1タンパク質発現ベクター」という。)から発現されるものであってもよい。本発明において、LYPD1タンパク質発現ベクターに使用されるベクターは限定されず、公知のものを適宜選択可能である。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。LYPD1タンパク質若しくはその誘導体又はその一部をコードする核酸を任意のベクターに導入する方法は公知であり、特に限定されない。
【0023】
2-3.LYPD1タンパク質発現細胞
本発明の一実施態様において、血管新生抑制剤としてのLYPD1タンパク質若しくはその誘導体又はその一部は、任意の細胞から発現されるものであってもよい(以下、「LYPD1タンパク質発現細胞」という。)。例えば、LYPD1タンパク質発現細胞は、上述のLYPD1タンパク質発現ベクターによって形質転換された細胞であってもよい。LYPD1タンパク質発現ベクターを細胞へ導入する方法についても公知の方法に従えばよく、限定されない。LYPD1タンパク質発現ベクターが導入されて、LYPD1タンパク質を一時的又は持続的に発現する細胞を選択する方法も限定されず、例えば、発現ベクターにコードされている薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤(例えば、ネオマイシン、ハイグロマイシン等)を使用して選択すればよい。形質転換に用いることができる細胞は、生体から単離された細胞であってもよく、好ましくは、投与される対象から単離された細胞である。投与される対象由来の細胞であれば、対象に投与した場合に、免疫システムによって拒絶される可能性が低くなる。
【0024】
また、本発明の一実施態様において、LYPD1タンパク質発現細胞は、生体から単離された細胞であってよく、例えば、皮膚由来の線維芽細胞よりもLYPD1タンパク質を高発現する細胞、好ましくは脳、心臓、腎臓又は筋肉の生体組織に存在する間質細胞又は線維芽細胞であり、より好ましくは心臓由来の線維芽細胞である。
【0025】
また、本発明の一実施形態において、LYPD1タンパク質発現細胞は、ゲノム編集技術によってLYPD1遺伝子の発現を直接的及び/又は間接的に亢進させた細胞を用いることができる。本明細書において、ゲノム編集核酸とは、遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼを利用したシステムにおいて、所望の遺伝子を編集するために用いられる核酸をいう。遺伝子ターゲッティングに用いられるヌクレアーゼは、公知のヌクレアーゼの他、今後遺伝子ターゲッティングのために使用される新たなヌクレアーゼも包含される。例えば、公知のヌクレアーゼとしては、CRISPR/Cas9(Ran,F.A.,et al.,Cell,2013,154,1380-1389)、TALEN(Mahfouz,M.,et al.,PNAS,2011,108,2623-2628)、ZFN(Urnov,F.,et al.,Nature,2005,435,646-651)等が挙げられる。ゲノム編集技術によって、例えば、LYPD1遺伝子のプロモーター領域及び/又はエンハンサー領域に変異を導入することができる。その結果、LYPD1タンパク質を高発現する細胞を得ることが可能となる。
【0026】
ゲノム編集技術によって得られるLYPD1タンパク質発現細胞は、好ましくは皮膚由来の線維芽細胞よりもLYPD1タンパク質を高発現する細胞であり、より好ましくは、心臓由来の線維芽細胞と同程度又はそれ以上のLYPD1タンパク質を発現する細胞(例えば、心臓由来のヒト線維芽細胞が発現するLYPD1タンパク質の発現量と比較して、80%以上、90%以上、100%以上、110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%以上、LYPD1タンパク質を発現する細胞)である。
【0027】
本発明の一実施形態において、LYPD1タンパク質発現細胞は、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。本発明において、多能性幹細胞とは、自己複製能と多分化能を有する細胞であり、体を構成するあらゆる細胞を形成する能力(pluriopotent)を備える細胞をいう。自己複製能とは、1つの細胞から自分と同じ未分化な細胞を2つ作る能力のことをいう。本発明で用いられる多能性幹細胞は、例えば、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、胚性癌腫細胞(embryonic carcinoma cell:EC細胞)、栄養芽幹細胞(trophoblast stem cell:TS細胞)、エビブラスト幹細胞(epiblast stem cell:EpiS細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell:EG細胞)、多能性生殖細胞(multipotent germline stem cell:mGS細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)などが含まれる。これらの多能性幹細胞を分化誘導する方法としては、例えば、Matsuuraらの方法(Matsuura K.,et al.,Creation of human cardiac cell sheets using pluripotent stem cells.Biochem.Biophys.Res.Commun.,2012 Aug.24;425(2):321-327)に従って実施できる。
【0028】
2-4.LYPD1タンパク質の発現を亢進させる血管新生抑制剤としての化合物
本明細書において、LYPD1タンパク質の発現を亢進させる血管新生抑制剤としての化合物は、例えば、有機低分子、ペプチド、タンパク質、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物又は細胞培養上清、植物由来の化合物又は抽出物(例えば、生薬エキス、生薬由来の化合物)、及び微生物由来の化合物若しくは抽出物又は培養産物などであってもよい。本発明において、LYPD1タンパク質の発現を亢進させる血管新生抑制剤としての化合物とは、直接的及び/又は間接的に作用し、LYPD1の発現を亢進させ、血管内皮ネットワークの形成(血管新生)を阻害するものをいい、後述のスクリーニング方法によって、被験物質から選択することができる。
【0029】
3.医薬組成物
本発明は、血管新生抑制剤、特にLYPD1タンパク質若しくはその誘導体、又はその一部、或いはそれを発現するベクター、或いはそれを発現する細胞、或いは、直接的及び/又は間接的にLYPD1タンパク質の発現を亢進し、血管内皮ネットワークの形成(血管新生)を阻害する天然の若しくは合成された化合物又は細胞、を有効成分として含有する、血管新生関連疾患の治療又は予防に用いるための、医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、それを必要とする対象に適用し、血管新生関連疾患の治療又は予防が可能となる。本発明の医薬組成物は、医薬的に許容される担体又は賦形剤を含んでもよい。
【0030】
4.血管新生抑制剤又は医薬組成物の対象への適用
本発明にかかる血管新生抑制剤又は医薬組成物は、対象に治療有効量で投与される。「治療有効量」とは、血管新生を阻害する所望の効果を発揮するのに必要かつ十分な血管新生抑制剤の量を意味する。
【0031】
本明細書において、「投与」とは、任意の適切な方法で対象に所定の物質を提供することを意味し、本発明の血管新生抑制剤又は医薬組成物の投与経路は、標的組織に送達できるものであれば、一般的なあらゆる経路を介して経口又は非経口投与することができる。また、本発明の血管新生抑制剤又は医薬組成物は、有効成分を標的細胞に送達する任意の装置を用いて投与することができる。
【0032】
本明細書において、「対象」とは、ヒト、ヒト以外の霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモット等)、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、ヤギ、ヒツジ等を含むが、これらに限定されない動物を意味し、一実施例においては哺乳動物を、又他の実施例においてはヒトを意味する。
【0033】
本発明の血管新生抑制剤の一日の使用量は、医者による医学的判断の範囲で、決定される。治療有効量は、治療及び/又は予防の対象となる障害及びその障害の重症度、使用する化合物の活性、使用する組成物、患者の年齢、体重、患者の健康状態、性別及び食事、投与時間、投与経路並びに使用する化合物の排泄率、治療期間、同時に使用される薬剤、及びその他医療分野で周知のファクターによって変化する。例えば、所望する治療効果を実現するために必要な量よりも低い量で血管新生抑制剤の投与を開始し、所望する効果が実現するまで投薬量を徐々に増加させることは当業者が実現可能な範囲である。血管新生抑制剤の用量は、成人1日当たり0.01~1000mgの広い範囲で変化させることができる。血管新生抑制剤を有効成分として含む医薬組成物は、治療する患者の症状に合わせて投薬するために、有効成分を0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250又は500mgを含有する。医薬組成物は、通常、活性成分を約0.01mg~約500mg、好ましくは活性成分を1mg~約100mg含有する。薬物の有効量は通常、1日当たり0.0002mg/kg体重~約20mg/kg体重、特に1日当たり約0.001mg/kg体重~7mg/kg体重までの投薬量で供給される。
【0034】
血管新生抑制剤又は医薬組成物が、LYPD1タンパク質若しくはその誘導体又はその一部を発現する細胞を含む場合、LYPD1タンパク質若しくはその誘導体又はその一部の形態や、その発現量などによって、治療有効用量(細胞数)は変化する。
【0035】
本発明の一実施態様において、血管新生抑制剤又は医薬組成物がLYPD1タンパク質若しくはその誘導体又はその一部を発現する細胞を含む場合、当該血管新生抑制剤又は医薬組成物を含む懸濁液を、患部又はその周辺に注射してもよく、当該血管新生抑制剤又は医薬組成物を含む「生体組織」を構築し、それを対象に投与(移植)してもよい。生体組織であれば、患部に生着することが可能であり、継続的に血管新生抑制剤が患部周辺に徐放され、血管新生抑制効果が持続することとなる。
【0036】
「生体組織」を作製する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、血管床上において細胞シートを積層して生体組織を構築する方法(国際公開第2012/036224号及び国際公開第2012/036225号を参照)、三次元プリンター技術を用いて生体組織を構築する方法(国際公開第2012/058278号を参照)、接着膜で被覆された細胞を用いて三次元構造体を作製する方法(特開第2012-115254号公報を参照)、生体内において臓器を構築する方法(Kobayashi T.,Nakauchi H.[From cell therapy to organ regeneration therapy: generation of functional organs from pluripotent stem cells].Nihon Rinsho.2011 Dec;69(12):2148-55;国際公開第2010/021390号;国際公開第2010/097459号を参照)の他、公知の製造方法により得られる生体組織も、本発明に適用することが可能であり、本発明の範囲に含まれる。
【0037】
本明細書において「細胞シート」とは、複数の任意の細胞を含む細胞群を細胞培養基材上で培養し、細胞培養基材上から剥離することで得られる1層又は複数層のシート状の細胞群をいう。細胞シートを得る方法としては、例えば、温度、pH、光等の刺激によって分子構造が変化する高分子を被覆した刺激応答性培養基材上で細胞を培養し、温度、pH、光等の刺激の条件を変えて刺激応答性培養基材表面を変化させることで、細胞同士の接着状態は維持しつつ、刺激応答性培養基材から細胞をシート状に剥離する方法や、任意の培養基材上で細胞培養し、物理的にピンセット等により剥離して得る方法等が挙げられる。細胞シートを得るための刺激応答性培養基材としては、0~80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆した温度応答性培養基材が知られている。温度応答性培養基材上で、ポリマーの水和力が弱い温度域で細胞を培養し、その後、培養液をポリマーの水和力が強い状態となる温度に変化させることで細胞をシート状に剥離して回収することができる。
【0038】
細胞シートを得るために用いられる温度応答性培養基材は、細胞が培養可能な温度域でその表面の水和力を変化させる基材であることが好ましい。その温度域は、一般に細胞を培養する温度、例えば33℃~40℃であることが好ましい。細胞シートを得るために用いられる培養基材に被覆される温度応答性高分子は、ホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特開平2-211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。
【0039】
刺激応答性高分子、特に温度応答性高分子としてポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用いた場合を例(温度応答性培養皿)に説明する。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集して白濁する。逆に31℃未満の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明では、このポリマーがシャーレなどの基材表面に被覆されて固定されたものである。したがって、31℃以上の温度であれば、培養基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に固定されているため、培養基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃未満の温度では、培養基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が培養基材表面に被覆されているため、培養基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着し、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できない表面となる。そのため、該基材を31℃未満に冷却すると、細胞が基材表面から剥離する。細胞が培養面一面にコンフルエントになるまで培養されていれば、該基材を31℃未満に冷却することによって細胞シートを回収できる。温度応答性培養基材は、同一の効果を有するものであれば限定されるものではないが、例えば、セルシード社(東京、日本)が市販するUpCell(登録商標)などを使用することができる。
【0040】
本発明の一実施態様において用いられる生体組織は、複数枚の細胞シートを積層した細胞シート(積層化細胞シート)であってもよい。積層化細胞シートを作製する方法としては、ピペット等によって培養液中に浮かんでいる細胞シートを培養液ごと吸い取り、別の培養皿の細胞シート上に放出して液流によって積層する方法や、細胞移動治具を用いて積層する方法等が挙げられる。その他、公知の方法によって積層化細胞シートを含む生体組織が得られる。
【0041】
本発明のLYPD1タンパク質若しくはその誘導体、又はその一部、或いはそれを発現するベクター、或いはそれを発現する細胞、或いは、直接的及び/又は間接的にLYPD1タンパク質の発現を亢進し、血管内皮ネットワークの形成(血管新生)を阻害する天然の若しくは合成された化合物又は細胞を有効成分として含有する、血管新生抑制剤又は医薬組成物は、血管新生を阻害することを可能とするものであり、治療又は予防することが可能な血管新生関連疾患としては、例えば、固形がん、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶反応、新生血管緑内障、紅皮症、増殖性網膜症、乾癬、血友病性関節症、アテローム性動脈硬化プラーク内の毛細血管増殖、ケロイド、創傷肉芽形成、血管癒着、関節リウマチ、骨関節炎、自己免疫疾患、クローン病、再狭窄症、アテローム性動脈硬化症、腸管癒着、潰瘍、肝硬変症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、悪性腎硬化症、血栓性微小血管症、臓器移植拒絶反応、腎糸球体症、糖尿病、炎症又は神経退行性疾患などが挙げられる。本発明の血管新生抑制剤又は医薬組成物を用いることによって、異常な血管新生を抑制することができ、上記疾患を治癒又は予防することが可能となる。
【0042】
また、本発明のLYPD1タンパク質若しくはその誘導体、又はその一部、或いはそれを発現するベクター、或いはそれを発現する細胞、を有効成分として含有する、血管新生抑制剤又は医薬組成物を用いて治療又は予防できる固形がんとしては、例えば、子宮頸がん、肺がん、膵がん、非小細胞肺がん、肝がん、結腸がん、骨肉腫、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、皮膚黒色腫、眼球内黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肝がん、脳腫瘍、膀胱がん、胃がん、肛門周囲腺がん、結腸がん、乳がん、卵管がん、子宮内膜がん、膣がん、外陰がん、ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌腺がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織肉腫、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、膀胱がん、腎がん、尿管がん、腎細胞がん、腎盂がん、中枢神経系(CNS;central nervous system)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、又は脳下垂体腺腫などが挙げられる。本発明の血管新生抑制剤又は医薬組成物を用いることによって、上記固形がんの周囲に生じる血管新生を抑制し、増殖や成長に必要となる栄養や酸素を欠乏させることによって上記固形がんを治癒又は予防することが可能となる。また、上記固形がんの転移も予防する。特に、固形がんの治療において、がん細胞に直接作用することなく腫瘍に栄養を供給する血管新生を阻害する本発明の血管新生抑制剤は、がん細胞の薬物耐性を避けることができるという利点もある。
【0043】
一実施態様において、本発明のLYPD1タンパク質若しくはその誘導体、又はその一部、或いはそれを発現するベクター、或いはそれを発現する細胞、を有効成分として含有する、血管新生抑制剤又は医薬組成物は、公知の抗がん剤又は血管新生抑制剤をさらに含んでもよく、上記疾患の治療に用いられる公知の他の治療と併用することができる。他の治療としては、化学療法、放射線治療、ホルモン治療、骨髄移植、幹細胞治療、他の生物学的治療、免疫治療などが含まれるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の血管新生抑制剤又は医薬組成物に含まれる他の抗がん剤の例としては、例えば、DNAアルキル化剤(メクロレタミン、クロラムブシル、フェニルアラニン、シクロホスファミド、イホスファミド、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾトシン、ブスルファン、チオテパ、シスプラチン、カルボプラチンなど)、抗がん性抗生物質(アクチノマイシンD、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、マイトマイシン、Cブレオマイシンなど)及び植物アルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、パクリタキセル、ドセタキセル、エトポシド、テニポシド、トポテカン、イリノテカンなど)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明の血管新生抑制剤又は医薬組成物に含まれる、他の血管新生抑制剤の例としては、例えば、アンギオスタチン、抗血管新生アンチトロンビンIII、アンギオザイム、ABT-627、Bay 12-9566、ベネフィン、ベバシズマブ、BMS-275291、軟骨由来阻害剤、CAI、CD59補体断片、CEP-7055、Col 3、コンブレタスタチンA-4、エンドスタチン(コラーゲンXVIII断片)、フィブロネクチン断片、Gro-β、ハロフジノン、ヘパリナーゼ、ヘパリンヘキササッカライド断片、HMV833、ヒト絨毛膜ゴナドトロピン(hCG)、IM-862、インターフェロンα/β/γ、インターフェロン誘導タンパク質(IP-10)、インターロイキン-12、クリングル5(プラスミノーゲン断片)、マリマスタット、デキサメタゾン、メタロプロテアーゼ阻害剤(TIMP)、2-メトキシエストラジオール、MMI270(CGS 27023A)、MoAb IMC-1C11、ネオバスタット、NM-3、パンゼム、PI-88、胎盤リボヌクレアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン活性化阻害剤、血小板因子4(PF4)、プリノマスタット、プロラクチン16kD断片、プロリフェリン関連タンパク質(PRP)、PTK 787/ZK 222594、レチノイド、ソリマスタット、スクアラミン、SS 3304、SU 5416、SU6668、SU11248、テトラヒドロコルチゾール-S、テトラチオモリブデート、サリドマイド、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、TNP-470、形質転換成長因子-β(TGF-β)、バスキュロスタチン、バソスタチン、ZD6126、ZD6474、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)、ビスホスホネート(例えば、アレンドロネート、エチドロネート、パミドロネート、リセドローネート、イバンドロネート、ゾレドロネート、オルパドロネート、インカドロネート又はネリドロネート)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
5.医薬組成物を製造するための血管新生抑制剤の使用
一実施態様において、本発明の血管新生抑制剤は、血管新生関連疾患の治療又は予防するための医薬組成物を製造するために使用することができる。
【0047】
6.血管新生抑制剤のスクリーニング法
本発明の血管新生抑制剤はさらに、公知のスクリーニング方法を応用することによって候補物質(被験物質)の中から同定することができる。例えば、以下の工程を含む方法が挙げられる。
【0048】
(i)被験物質で第1細胞を処理し、培養する工程、
(ii)前記第1細胞のLYPD1タンパク質の発現量を検出し、未処理の第1細胞のLYPD1タンパク質の量と比較する工程。
【0049】
LYPD1タンパク質の発現量を検出する方法は、公知の方法を用いればよく、例えば、定量的PCR法(qPCR)、ウエスタンブロット法、フローサイトメータ法(FACS)、ELISA法、免疫組織化学法など、周知の技術を用いて評価することができる。
【0050】
第1細胞は、LYPD1タンパク質を低発現する細胞であってよく、例えば、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の細胞、好ましくは、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の線維芽細胞、より好ましくは皮膚由来の線維芽細胞である。
【0051】
一実施態様において、本発明の血管新生抑制剤のスクリーニング法は、さらに以下の工程を含むことができる。
【0052】
(iii)前記工程(ii)において、未処理の第1細胞のLYPD1タンパク質の量よりも、LYPD1タンパク質の発現を亢進させる前記被験物質を選択する工程、
(iv)第2細胞と、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞とを含む細胞群に、前記被験物質を添加し、培養する工程;
(v)前記血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞によって形成させる血管内皮ネットワークを検出する工程。
【0053】
第2細胞は、LYPD1を低発現する細胞(2.4×105cells/cm2)と、血管網を構築する血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞(例えば、2.0×104cells/cm2)と、上記(iii)工程で選択された被験物質とを予めインキュベートし、培養皿に播種して37℃、5%CO2にて数日間培養し、血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞が形成する血管内皮ネットワークを顕微鏡(好ましくは蛍光顕微鏡)にて観察し、血管内皮ネットワークの長さ及び分岐点の数を評価することができる。
【0054】
第2細胞は、LYPD1タンパク質を低発現する細胞であってよく、例えば、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の細胞、好ましくは、皮膚由来、食道由来、精巣由来、肺由来又は肝臓由来の線維芽細胞、より好ましくは皮膚由来の線維芽細胞である。
【0055】
血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞が形成する血管内皮ネットワークは、蛍光標識された抗CD31抗体又は血管内皮細胞特異的抗体を用いて検出して評価してもよい。また、例えば、GFPなどの蛍光タンパク質を発現する血管内皮細胞及び/又は血管内皮前駆細胞を用い、蛍光を検出することにより評価してもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0057】
<使用した細胞及び調整方法>
以下の実施例中で使用した細胞は以下の通りである。
・ヒト皮膚線維芽細胞(Lonzaより購入。NHDF-Ad 正常ヒト皮膚線維芽細胞(CC-2511))
・ヒト心臓線維芽細胞(Lonzaより購入。NHCF-a(正常ヒト心臓線維芽細胞-心房(CC-2903))、NHCF-v(正常ヒト心臓線維芽細胞-心室(CC-2904))
・ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)(Lonzaより購入。Cat.#C2517A))
・正常ヒト心臓微小血管内皮細胞(HMVEC-C)(Lonzaより購入。Cat.#CC-7030)
・ヒトiPS由来間質細胞:ヒトiPS細胞から心筋細胞を分化誘導する際に得られる細胞群より培養皿への接着性が心筋細胞よりも高い細胞群を分取すると線維芽様の細胞が得られる。これをヒトiPS由来間質細胞とした(
図12(A)参照)。ヒトiPS細胞から心筋細胞への分化は、Matsuura K.,et al.Creation of human cardiac cell sheets using pluripotent stem cells.Biochem Biophys Res Commun.2012 Aug 24;425(2):321-7.に記載の方法により行った。
・ヒトiPS細胞由来血管内皮細胞(iPS-CD31+)は、以下を参照して、調製することにより得た(White MP.,et al.,Stem Cells.2013 Jan;31(1):92-103)。
・Cos-7細胞(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクより入手)
【0058】
<実施例1>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図1)
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)又は心臓線維芽細胞(心房由来:NHCF-a、心室由来:NHCF-v)(2.4×10
5cells/cm
2)と、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)(2.0×10
4cells/cm
2)とを3日間、5%CO
2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0059】
血管内皮ネットワーク形成はヒト皮膚線維芽細胞との共培養で促進されるが、ヒト心臓線維芽細胞との共培養では阻害された。
【0060】
<実施例2>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図2)
ヒト皮膚線維芽細胞又は心臓線維芽細胞(2.4×10
5cells/cm
2)と、iPS細胞由来血管内皮細胞(iPS-CD31+)又は正常ヒト心臓微小血管内皮細胞(HMVEC-C)(2.0×10
4cells/cm
2)とを3日間、5%CO
2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0061】
ヒトiPS由来血管内皮細胞やヒト心臓微小血管内皮細胞の血管内皮ネットワーク形成でもヒト皮膚線維芽細胞との共培養による促進、ヒト心臓線維芽細胞との共培養による阻害がみられた。
【0062】
<実施例3>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図3)
マウス皮膚線維芽細胞又は心臓線維芽細胞(6×10
4cells/cm
2)と、マウスES細胞由来心筋細胞(2.4×10
5cells/cm
2)と、マウスES細胞由来血管内皮細胞(2.0×10
4cells/cm
2)とを3日間、5%CO
2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(PE Rat Anti-Mouse CD31,553373,BD Biosciences)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0063】
マウスES細胞由来血管内皮細胞の血管内皮ネットワーク形成はマウス皮膚線維芽細胞の存在下で促進されるが、マウス心臓線維芽細胞の存在下では阻害された。
【0064】
<実施例4>
心臓線維芽細胞は血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図4)
SDラット(Jcl:SD、三共ラボ、日本)より採取したプライマリーの新生仔ラット皮膚線維芽細胞(RDF)又は心臓線維芽細胞(RCF)(2.4×10
5cells/cm
2)と、ラット新生仔心臓由来血管内皮細胞(2.0×10
4cells/cm
2)とを3日間、5%CO
2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Mouse anti Rat CD31 Antibody,MCA1334G,Bio-Rad)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した。
【0065】
血管内皮ネットワーク形成はラット皮膚線維芽細胞との共培養で促進されるが、ラット心臓線維芽細胞との共培養では阻害された。
【0066】
<実施例5>
皮膚線維芽細胞と心臓線維芽細胞の遺伝子発現比較(図5)
ヒト皮膚線維芽細胞及び心臓線維芽細胞(心房由来及び心室由来)よりトータルRNAを抽出し遺伝子発現をマイクロアレイで解析した(DNAチップ研究所(日本)へ委託)。糖タンパク質関連遺伝子及び血管新生関連遺伝子についてヒートマップを示した(
図5)。
【0067】
ヒト皮膚線維芽細胞及び心臓線維芽細胞における遺伝子発現パターンは大きく異なっていた。アレイの結果を元に候補分子のスクリーニングを行い、心臓線維芽細胞に高発現する血管新生抑制因子LYPD1(Gen Bank受入番号:NM_144586.6、配列番号1)を同定した。
【0068】
<実施例6>
LYPD1はラット心臓間質に発現する(図6)
ラット由来の各臓器におけるLYPD1の発現をqPCRで評価した。ラット各臓器よりトータルRNAを抽出し、トータルRNA画分に含まれるmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、qPCRの鋳型とした。qPCRはTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Rn01295701_m1,Thermo Fisher Scientific)を用いて比較CT法により行った(
図6(A))。ラット由来の各臓器におけるLYPD1の発現を評価したところ心臓で高発現していた。
【0069】
図6(B)はラット心臓組織の免疫染色画像を示す。抗cTnT(cardiac Troponin T抗体(Anti-Troponin T,Cardiac Isoform,Mouse-Mono(13-11),AB-1,MS-295-P,Thermo Fisher Scientific))、抗LYPD1抗体(ab157516,abcam)及びDAPI(核)を染色した。
【0070】
ラット心臓組織における発現を免疫染色により評価したところ、cardiac Troponin T陽性の心筋細胞とは共染されず、心臓間質に発現していた。
【0071】
<実施例7>
ヒト及びラット初代培養細胞におけるLYPD1の遺伝子発現比較(図7)
ヒト及び新生仔ラット由来の皮膚線維芽細胞及び心臓線維芽細胞におけるLYPD1の発現をqPCRで評価した。各細胞よりトータルRNAを抽出し、トータルRNA画分に含まれるmRNAを鋳型としてcDNAを合成しqPCRの鋳型とした。qPCRはTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Hs00375991_m1(human),Rn01295701_m1(rat),Thermo Fisher Scientific)を用いて比較CT法により行った。
【0072】
ヒト及び新生仔ラット由来の皮膚線維芽細胞ではLYPD1はほとんど検出されなかったが、心臓線維芽細胞では高発現していた。
【0073】
<実施例8>
血管ネットワーク形成はLYPD1の阻害により回復する(図8)
Lipofectamine(商標)RNAiMAX Transfection Reagent(Thermo Fisher Scientific)を用いてヒト心臓線維芽細胞にLYPD1に対するsiRNA(Silencer(登録商標)Select siRNA,Cat.#4392420,Thermo Fisher Scientific)(1nM)又はコントロールSiRNA(Silencer(登録商標)Select Negative Control No.2 siRNA,Cat.#4390846)(1nM)を導入し2日間培養した後、siRNAを導入したヒト心臓線維芽細胞(2.4×10
5cells/cm
2)とHUVEC(2.0×10
4cells/cm
2)とを3日間、5%CO
2、37℃で共培養し、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さを算出した。
【0074】
LYPD1に対するsiRNAの配列は以下の配列を使用することができる。
5’-GGCUUUGCGCUGCAAAUCC-3’(配列番号15)
5’-GGAUUUGCAGCGCAAAGCC-3’(配列番号16)
【0075】
本実施例においては、よりsiRNAの安定性を高めるために、以下の配列を用いた。
【表1】
【0076】
siRNAによりLYPD1の発現を抑制したヒト心臓線維芽細胞ではLYPD1による血管新生抑制効果が阻害され、共培養したHUVECの血管ネットワーク形成がみられた(
図8(B)~(D)参照)。
【0077】
<実施例9>
血管ネットワーク形成はLYPD1の阻害により回復する(図9)
ヒト心臓線維芽細胞(2.4×10
5cells/cm
2)とHUVEC(2.0×10
4cells/cm
2)とを抗LYPD1抗体(5μg/mL)(ab157516,abcam)存在下又はコントロール抗体の存在下(5μg/mL)(正常ウサギIgG、Wako、日本、Cat.#148-09551)にて4日間、5%CO
2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した(
図9(A)及び(B))。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて、抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した(
図9(C)及び(D))。
【0078】
LYPD1に対する抗体の存在下では、ヒト心臓線維芽細胞に発現するLYPD1による血管新生抑制効果が阻害され、共培養したHUVECの血管ネットワーク形成がみられた。
【0079】
<実施例10>
血管ネットワーク形成はLYPD1の阻害により回復する(図10)
ラット新生仔心臓線維芽細胞(2.4×10
5cells/cm
2)とラット新生仔心臓由来血管内皮細胞(2.0×10
4cells/cm
2)とをLYPD1抗体(ab157516,abcam)存在下(5μg/mL)又はコントロール抗体の存在下(5μg/mL)(正常ウサギIgG、Wako、日本、Cat.#148-09551)にて4日間、5%CO
2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Mouse anti Rat CD31 Antibody,MCA1334G,Bio-Rad)で免疫染色した(
図10(A)及び(B))。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した(
図10(C)及び(D))。
【0080】
LYPD1に対する抗体の存在下ではラット心臓線維芽細胞に発現するLYPD1による血管新生抑制効果が阻害され、共培養したラット心臓由来血管内皮細胞の血管ネットワーク形成がみられた。
【0081】
<実施例11>
iPS由来間質細胞は心臓線維芽細胞と同一のクラスターに分類される(図11)
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)及びヒト心臓線維芽細胞(NHCF)、ヒトiPS由来間質細胞、ヒト間葉系幹細胞(Lonza、Cat.#PT-2501)における遺伝子発現をマイクロアレイで解析しクラスタリングした。iPS由来間質細胞は心臓線維芽細胞と同一のクラスターに分類された。
【0082】
<実施例12>
iPS由来間質細胞はiPS CD31陽性細胞の血管内皮ネットワーク形成を阻害する(図12)
ヒトiPS由来間質細胞をヒトiPS CD31陽性細胞と共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得した(
図12(B))。
【0083】
ヒトiPS CD31陽性細胞の血管内皮ネットワーク形成はヒト皮膚線維芽細胞との共培養で促進されるが、ヒトiPS由来間質細胞との共培養では阻害された。
【0084】
ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)、ヒト心臓線維芽細胞(NHCFa)及びヒトiPS由来間質細胞(iPS fibro-like)のLYPD1の発現をqPCRで評価した。各細胞よりトータルRNAを抽出し、トータルRNA画分に含まれるmRNAを鋳型としてcDNAを合成しqPCRの鋳型とした。qPCRはTaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(Hs00375991_m1,Thermo Fisher Scientific)を用いて比較CT法により行った(
図12(C))。
【0085】
ヒトiPS由来間質細胞はヒト心臓線維芽細胞と同様、LYPD1の発現が高かった。
【0086】
<実施例13>
組換えLYPD1発現及び精製、並びに血管内皮ネットワークの阻害効果の確認
ヒトLYPD1 cDNA配列をコードするタンパク質を、公表された配列データに従って選択した。シグナル配列の後に挿入されたFLAG配列を有するヒトLYPD1を、GenScript(Piscataway、NJ、USA)によって合成し、pcDNA3.1ベクター(以下、「pFLAG-LYPD1」という。)に挿入した。
【0087】
COS-7細胞を、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地;Invitrogen)中、37℃、5%CO2雰囲気中で維持培養した。pFLAG-LYPD1を、Lipofectamine(登録商標)3000(Invitrogen)を用いて、製造者の指示に従ってCOS-7細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞をRIPA緩衝液(Wako、日本)で溶解した。
【0088】
FLAG-LYPD1タンパク質を、抗DYKDDDDKタグ抗体磁気ビーズ(Wako、日本)を用いて4℃で3時間免疫沈降させた。続いてビーズをRIPA緩衝液で3回洗浄し、FLAG-LYPD1タンパク質を、DYKDDDDKペプチド(Wako、日本)を添加することによってビーズから溶出させた。溶出液を12.5%SDS-PAGEゲルで分離し、Immobilon-P(Merck、ドイツ)にブロットした。
【0089】
FLAG-LYPD1タンパク質を、ペルオキシダーゼ結合-抗DYKDDDDKタグモノクローナル抗体(Wako、日本)及びウサギポリクローナル抗LYPD1抗体(abcam)を用いて検出した。
【0090】
ECL Prime Western Blotting Detection Reagent(GE Healthcare UK Ltd.、英国)を製造者の指示に従って使用し、バンドを可視化し、digital imaging system(LAS3000、GE Healthcare UK Ltd)によって検出した。標準としてウシ血清アルブミンを用いて、クーマシー(Bradford)プロテインアッセイキット(Thermo Scientific、Rockford、イリノイ州、米国)によりタンパク質収量を測定した(
図13A)。
【0091】
ヒト皮膚線維芽細胞(2.4×105cells/cm2)とHUVEC(2.0×104cells/cm2)を混合した細胞群に、FLAG-LYPD1タンパク質(1.25μg/mL)又はコントロールIgG(1.25μg/mL、正常ウサギIgG、Wako、日本、Cat.#148-09551)を添加し、10%ウシ胎仔血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ変法イーグル培地(5%CO2、37℃)で培養した。抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色画像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さを算出した。
【0092】
その結果、リコンビナントLYPD1タンパク質を添加することによって、血管内皮ネットワーク形成が阻害されることが明らかとなった(
図13B及びC)。
【0093】
<実施例14>
心臓線維芽細胞による血管新生抑制作用は、血管内皮細胞数に依存しない(図14)
ヒト心房由来線維芽細胞(NHCF-a)(2×10
4cells/cm
2、4×10
4cells/cm
2及び6×10
4cells/cm
2)と、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)(2.4×10
5cells/cm
2)とを3日間、5%CO
2、37℃で共培養後、抗CD31抗体(Human CD31/PECAM-1 PE-conjugated Antibody,FAB3567P,R&D)で免疫染色し、Hoechstで核を染色した。ImageXpress Ultra confocal high content screening system(Molecular Devices,LLC,Sunnyvale,CA,USA)を用いてCD31染色像及び、Hoechstの蛍光像を取得し、MetaXpress software(Molecular Devices,LLC)を用いて抗CD31抗体で染色された領域を血管内皮細胞として血管内皮ネットワークの長さと分枝点を算出した(
図14(A)及び(B))。
【0094】
心臓線維芽細胞による血管新生抑制作用は、血管内皮細胞数に依存しないことが明らかとなった。
【0095】
<実施例15>
マトリゲル(登録商標)チューブ形成アッセイによる組換えLYPD1の血管内皮ネットワーク形成の阻害効果の確認(図15)
実施例13と同様の方法によって得られた組換えLYPD1タンパク質を本実験に用いた。
【0096】
成長因子を減らしたマトリゲル(登録商標)(BD Biosciences)でプレコーティングした96ウェルプレートのウェルに、HUVEC(1.0×10
4cells/cm
2)を播種し、EGM-2培地(Lonza)を用いて組換えLYPD1タンパク質の非存在下(コントロール)又は存在下(1μg/mL、2μg/mL又は5μg/mL)で20時間培養した(5%CO
2、37℃)。その後、光学顕微鏡を用いて、チューブ形成の様子を観察した(
図15)。
【0097】
その結果、組換えLYPD1タンパク質は、HUVECに直接作用し、量依存的に血管内皮ネットワーク形成を阻害できることが明らかとなった。
【配列表】