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特許7317379潰瘍性大腸炎及び原発性硬化性胆管炎の検査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】潰瘍性大腸炎及び原発性硬化性胆管炎の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230724BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20230724BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G01N33/53 N
C07K14/705 ZNA
C07K16/28
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020563877
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051592
(87)【国際公開番号】W WO2020141608
(87)【国際公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019000060
(32)【優先日】2019-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩川 雅広
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 威
(72)【発明者】
【氏名】児玉 裕三
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 浩
(72)【発明者】
【氏名】千葉 勉
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-519072(JP,A)
【文献】特表2009-502116(JP,A)
【文献】特表2015-527562(JP,A)
【文献】特表2009-500041(JP,A)
【文献】特表2006-516636(JP,A)
【文献】DANESE, S. et al.,Angiogenesis as a Novel Component of Inflammatory Bowel Disease Pathogenesis,Gastroenterology,2006年,Vol.130, No.7,pp.2060-2073
【文献】PENG, Z. W. et al.,Integrin αVβ6 Critically Regulates Hepatic Progenitor Cell Function and Promotes Ductular Reaction, Fibrosis and Tumorigenesis,HEPATOLOGY,2015年10月08日,Vol.63, No.1,pp.217-232
【文献】MAHLER, M. et al.,PR3-ANCA: A promising biomarker for ulcerative colitis with extensive disease,Clinica Chimica Acta,2013年06月24日,Vol.424,pp.267-273
【文献】STINTON, L. M. et al.,PR3-ANCA: A Promising Biomarker in Primary Sclerosing Cholangitis (PSC),PLOS ONE,2014年11月14日,Vol.9, No.11, e112877,[online], [retrieved on 2020.02.18], Retrieved from the Internet: <URL: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0112877><DOI: 10.1371/journal.pone.0112877>
【文献】ZENG, D. F. et al.,Autoantibody against integrin αvβ3 contributes to thrombocytopenia by blocking the migration and adhesion of megakaryocytes,Journal of Thrombosis and Haemostasis,2018年06月28日,Vol.16, No.9,pp.1843-1856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C07K 14/705
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潰瘍性大腸炎の検査方法であって、
潰瘍性大腸炎の指標として、検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
【請求項2】
前記検出工程が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検体が血液試料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
潰瘍性大腸炎の指標として、検体中の自己抗体を検出するための検査キットであって、前記自己抗体がインテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体であり、前記自己抗体を検出するためのインテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を含む、潰瘍性大腸炎を検査するための検査キット。
【請求項5】
更に検出用抗体を含む、請求項4に記載の検査キット。
【請求項6】
更に陽性標準液及び/又は陰性標準液を含む、請求項4又は5に記載の検査キット。
【請求項7】
前記インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、前記インテグリンαVβ3の断片又は全体を、固相に固定された形態で含む、請求項4~6いずれか1項に記載の検査キット。
【請求項8】
原発性硬化性胆管炎の検査方法であって、
原発性硬化性胆管炎の指標として、検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
【請求項9】
前記検出工程が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記検体が血液試料である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
原発性硬化性胆管炎の指標として、検体中の自己抗体を検出するための検査キットであって、前記自己抗体がインテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体であり、前記自己抗体を検出するためのインテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を含む、原発性硬化性胆管炎を検査するための検査キット。
【請求項12】
更に検出用抗体を含む、請求項11に記載の検査キット。
【請求項13】
更に陽性標準液及び/又は陰性標準液を含む、請求項11又は12に記載の検査キット。
【請求項14】
前記インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、前記インテグリンαVβ3の断片又は全体を、固相に固定された形態で含む、請求項11~13いずれか1項に記載の検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、潰瘍性大腸炎(UC)の検査方法、及び、UCを検査するための検査キットに関する。
【0002】
本発明の別の一態様は、原発性硬化性胆管炎(PSC)の検査方法、及び、PSCを検査するための検査キットに関する。
【背景技術】
【0003】
潰瘍性大腸炎では、大腸粘膜においてびらん又は炎症性の潰瘍が直腸から連続して生じ、下痢、血便、腹痛等の症状を伴う。潰瘍性大腸炎は若年者を中心に高齢者まで発症し、活動期と寛解期を繰り返すことから、長期にわたる治療が必要である。近年、潰瘍性大腸炎は全世界的に増加傾向にある。
【0004】
原発性硬化性胆管炎(PSC)は肝内外の胆管に多発性・びまん性の狭窄を生じる進行性の慢性肝疾患である。原発性硬化性胆管炎は、免疫学的異常を含めた多因子疾患と考えられているが、原因は不明である。原発性硬化性胆管炎は、炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)との合併が多い。
【0005】
特許文献1では、潰瘍性大腸炎の診断及び/又は予後予測のためのマッピング方法として、被検対象の腸内細菌叢を10種類の腸内細菌群に分類し、各腸内細菌群について自己組織化マップ解析によりデータ処理することを含む方法が記載されている。
【0006】
特許文献2では、原発性硬化性胆管炎、ウイルス性肝炎等の肝臓疾患の重篤の程度及び予後予測の評価の指標として、哺乳動物由来の血液由来試料中の可溶性LR11濃度を測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-122603号公報
【文献】特開2014-167446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の潰瘍性大腸炎の診断は、臨床症状、内視鏡的所見、注腸X線検査、生検組織学的検査に基づいた総合的な判断により行われている。しかしながら、潰瘍性大腸に特異的なバイオマーカーを用いた分子生物学的な診断基準は見出されていない。特許文献1には、潰瘍性大腸炎の診断のためのマッピング方法が記載されているが、腸内細菌叢の採取とその遺伝子解析を必要とするため実施は容易ではない。
【0009】
同様に、原発性硬化性胆管炎についても、従来の診断は臨床症状等の非特異的な基準に基づくものであり、原発性硬化性胆管炎に特異的なバイオマーカーを用いた分子生物学的な診断基準は見出されていない。特許文献2に記載の方法は、原発性硬化性胆管炎、ウイルス性肝炎等を含む肝臓疾患を診断する方法であるが、原発性硬化性胆管炎を他の肝臓疾患と区別して特異的に診断する方法ではない。
【0010】
そこで本発明は、潰瘍性大腸炎及び原発性硬化性胆管炎の分子生物学的な診断に関する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは驚くべきことに、潰瘍性大腸炎の患者、及び、原発性硬化性胆管炎の患者ではインテグリンαVβ6に対する自己抗体、及び、インテグリンαVβ3に対する自己抗体の血中濃度が有意に高いことを解明し、この知見に基づいて以下の発明を完成するに至った。
【0012】
(1)潰瘍性大腸炎の検査方法であって、
潰瘍性大腸炎の指標として、検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
(2)前記検出工程が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、(1)に記載の方法。
(3)前記検体が血液試料である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を含む、潰瘍性大腸炎を検査するための検査キット又は検査試薬。
(5)更に検出用抗体を含む、(4)に記載の検査キット又は検査試薬。
(6)更に陽性標準液及び/又は陰性標準液を含む、(4)又は(5)に記載の検査キット又は検査試薬。
(7)前記インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、前記インテグリンαVβ3の断片又は全体を、固相に固定された形態で含む、(4)~(6)のいずれかに記載の検査キット又は検査試薬。
(8)原発性硬化性胆管炎の検査方法であって、
原発性硬化性胆管炎の指標として、検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
(9)前記検出工程が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、(8)に記載の方法。
(10)前記検体が血液試料である、(8)又は(9)に記載の方法。
(11)インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を含む、原発性硬化性胆管炎を検査するための検査キット又は検査試薬。
(12)更に検出用抗体を含む、(11)に記載の検査キット又は検査試薬。
(13)更に陽性標準液及び/又は陰性標準液を含む、(11)又は(12)に記載の検査キット又は検査試薬。
(14)前記インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、前記インテグリンαVβ3の断片又は全体を、固相に固定された形態で含む、(11)~(13)のいずれかに記載の検査キット又は検査試薬。
(15)潰瘍性大腸炎に対する治療の効果を評価する方法であって、
潰瘍性大腸炎に対する治療が施された被験動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
(16)原発性硬化性胆管炎に対する治療の効果を評価する方法であって、
原発性硬化性胆管炎に対する治療が施された被験動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
【0013】
(17)潰瘍性大腸炎の診断方法であって、
被検動物に由来する検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び
前記抗体が検出された場合に、前記被検動物が潰瘍性大腸炎に罹患していると判断すること
を含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。
(18)前記検出が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、(17)に記載の方法。
(19)前記検体が血液試料であり、好ましくは、前記被検動物から単離された血液試料である、(17)又は(18)に記載の方法。
(20)インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を含む、潰瘍性大腸炎の診断のためのバイオマーカー。
(21)潰瘍性大腸炎の治療薬の候補物質をスクリーニングする方法であって、
試験物質を作用させた動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する抗体検出工程と、
前記試験物質を作用させたことにより前記検体中の前記抗体が減少した場合に、前記試験物質を、潰瘍性大腸炎の治療薬の候補物質として選抜する選抜工程と
を含む方法。
(22)潰瘍性大腸炎の非ヒトモデル動物を作製する方法であって、
非ヒト動物に、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を投与する抗体投与工程、並びに
非ヒト動物を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として免疫する免疫工程
のうち少なくとも一方を含む方法。
(23)潰瘍性大腸炎の指標を取得する方法であって、
検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
(24)前記検出工程が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、(23)に記載の方法。
(25)前記検体が血液試料である、(23)又は(24)に記載の方法。
(26)潰瘍性大腸炎を検査するための検査キット又は検査試薬の製造における、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体の使用。
(27)前記インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、前記インテグリンαVβ3の断片又は全体が、固相に固定された形態である、(26)に記載の使用。
(28)潰瘍性大腸炎の検査に使用するための、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体。
(29)固相に固定された形態である、(25)に記載の、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体。
(30)潰瘍性大腸炎の非ヒトモデル動物を作製する方法に使用するための、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体。
(31)潰瘍性大腸炎の非ヒトモデル動物を作製する方法に使用するための、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体。
(32)潰瘍性大腸炎の非ヒトモデル動物を作製するための試薬の製造における、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体の使用。
(33)潰瘍性大腸炎の非ヒトモデル動物を作製するための試薬の製造における、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体の使用。
【0014】
(34)原発性硬化性胆管炎の診断方法であって、
被検動物に由来する検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び
前記抗体が検出された場合に、前記被検動物が原発性硬化性胆管炎に罹患していると判断すること
を含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。
(35)前記検出が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、(34)に記載の方法。
(36)前記検体が血液試料であり、好ましくは、前記被検動物から単離された血液試料である、(34)又は(35)に記載の方法。
(37)インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を含む、原発性硬化性胆管炎の診断のためのバイオマーカー。
(38)原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質をスクリーニングする方法であって、
試験物質を作用させた動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する抗体検出工程と、
前記試験物質を作用させたことにより前記検体中の前記抗体が減少した場合に、前記試験物質を、原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質として選抜する選抜工程と
を含む方法。
(39)原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物を作製する方法であって、
非ヒト動物に、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を投与する抗体投与工程、並びに
非ヒト動物を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として免疫する免疫工程
のうち少なくとも一方を含む方法。
(40)原発性硬化性胆管炎の指標を取得する方法であって、
検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法。
(41)前記検出工程が、インテグリンαVβ6の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出すること、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として用いてそれと免疫学的に反応する抗体を検出することを含む、(40)に記載の方法。
(42)前記検体が血液試料である、(40)又は(41)に記載の方法。
(43)原発性硬化性胆管炎を検査するための検査キット又は検査試薬の製造における、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体の使用。
(44)前記インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、前記インテグリンαVβ3の断片又は全体が、固相に固定された形態である、(43)に記載の使用。
(45)原発性硬化性胆管炎の検査に使用するための、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体。
(46)固相に固定された形態である、(45)に記載の、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体。
(47)原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物を作製する方法に使用するための、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体。
(48)原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物を作製する方法に使用するための、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体。
(49)原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物を作製するための試薬の製造における、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体の使用。
(50)原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物を作製するための試薬の製造における、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体の使用。
【0015】
(51)被検動物におけるインテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する方法であって、
被検動物に由来する検体中において前記抗体が存在するかを検出すること
を含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。前記ヒトは、潰瘍性大腸炎患者又は潰瘍性大腸炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。前記ヒトは、原発性硬化性胆管炎患者又は原発性硬化性胆管炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。前記ヒトは、潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎患者又は潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。
(52)前記検出が、前記検体を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体である抗原と接触させ、前記抗原と前記抗体との結合を検出することにより、前記検体中に前記抗体が存在するかを検出することである、(51)に記載の方法。
(53)前記検出が、前記検体を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体である抗原と接触させ、さらに、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgA抗体、抗ヒトIgM抗体及び/又は抗ヒトIgE抗体を接触させ、前記抗体と前記抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgA抗体、抗ヒトIgM抗体及び/又は抗ヒトIgE抗体との結合を検出することにより、前記検体中に前記抗体が存在するかを検出することである、(51)に記載の方法。
ここで、前記抗原は、固相に固定化されていることが好ましい。
(54)前記検体が、前記被検動物から単離された血液試料である、(51)~(53)のいずれかに記載の方法。ここで、前記血液試料は血清試料、血漿試料又は全血であることが好ましい。
(55)被検動物における潰瘍性大腸炎を診断する方法であって、
被検動物に由来する検体を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体である抗原を固定した固相担体と接触させ、前記抗原と、前記抗原と免疫学的に反応する抗体との結合を検出することにより、前記検体中に前記抗体が存在するかを検出すること、並びに、
前記検体中に前記抗体の存在が検出された場合に、前記被検動物が潰瘍性大腸炎に罹患していると診断すること
を含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。前記ヒトは、潰瘍性大腸炎患者又は潰瘍性大腸炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。
(56)前記検出が、前記検体を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体である抗原と接触させ、さらに、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgA抗体、抗ヒトIgM抗体及び/又は抗ヒトIgE抗体を接触させ、前記抗体と前記抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgA抗体、抗ヒトIgM抗体及び/又は抗ヒトIgE抗体との結合を検出することにより、前記検体中に前記抗体が存在するかを検出することである、(55)に記載の方法。
(57)前記検体が、前記被検動物から単離された血液試料である、(55)又は(56)に記載の方法。ここで、前記血液試料は血清試料、血漿試料又は全血であることが好ましい。
(58)被検動物における潰瘍性大腸炎を診断及び治療する方法であって、
被検動物に由来する検体中に、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体が存在するかを検出すること、
前記検体中に前記抗体の存在が検出された場合に、前記被検動物が潰瘍性大腸炎に罹患していると診断すること、並びに、
潰瘍性大腸炎に罹患していると診断された前記被検動物に、有効量の、潰瘍性大腸炎の治療薬を投与する、及び/又は、潰瘍性大腸炎を治療するための血球成分除去療法もしくは手術を施すこと
を含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。前記ヒトは、潰瘍性大腸炎患者又は潰瘍性大腸炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。
(59)前記治療薬が、ステロイド薬、5-アミノサリチル酸(5ASA)製剤、免疫調節薬(例えばアザチオプリン、メルカプトプリン)、生物学的製剤(例えばインフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、トファシチニブ、ベドリズマブ)、抗TNFα薬及び免疫抑制薬(例えばタクロリムス、シクロスポリン)から選択される1以上である、(58)に記載の方法。
(60)前記検体が、前記被検動物から単離された血液試料である、(58)又は(59)に記載の方法。ここで、前記血液試料は血清試料、血漿試料又は全血であることが好ましい。
(61)被検動物における原発性硬化性胆管炎を診断する方法であって、
被検動物に由来する検体を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体である抗原を固定した固相担体と接触させ、前記抗原と、前記抗原と免疫学的に反応する抗体との結合を検出することにより、前記検体中に前記抗体が存在するかを検出すること、並びに、
前記検体中に前記抗体の存在が検出された場合に、前記被検動物が原発性硬化性胆管炎に罹患していると診断すること
を含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。前記ヒトは、原発性硬化性胆管炎患者又は原発性硬化性胆管炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。
(62)前記検出が、前記検体を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体である抗原と接触させ、さらに、抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgA抗体、抗ヒトIgM抗体及び/又は抗ヒトIgE抗体を接触させ、前記抗体と前記抗ヒトIgG抗体、抗ヒトIgA抗体、抗ヒトIgM抗体及び/又は抗ヒトIgE抗体との結合を検出することにより、前記検体中に前記抗体が存在するかを検出することである、(61)に記載の方法。
(63)前記検体が、前記被検動物から単離された血液試料である、(61)又は(62)に記載の方法。
(64)被検動物における原発性硬化性胆管炎を診断及び治療する方法であって、
被検動物に由来する検体中に、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体が存在するかを検出すること、
前記検体中に前記抗体の存在が検出された場合に、前記被検動物が原発性硬化性胆管炎に罹患していると診断すること、並びに、
原発性硬化性胆管炎に罹患していると診断された前記被検動物に、有効量の、原発性硬化性胆管炎の治療薬を投与すること
を含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。前記ヒトは、原発性硬化性胆管炎患者又は原発性硬化性胆管炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。
(65)前記検体が、前記被検動物から単離された血液試料である、(64)に記載の方法。ここで、前記血液試料は血清試料、血漿試料又は全血であることが好ましい。
(66)前記被検動物から前記血液試料を単離することを更に含む、(54)、(57)、(60)又は(63)に記載の方法。
(67)被検動物における潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎を診断及び治療する方法であって、
被検動物に由来する検体中に、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体が存在するかを検出すること、
前記検体中に前記抗体の存在が検出された場合に、前記被検動物が潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎に罹患していると診断すること、並びに、
潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎に罹患していると診断された前記被検動物に、有効量の、潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎の治療薬を投与する、及び/又は、潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎を治療するための血球成分除去療法もしくは手術を施すことを含む方法。
ここで前記被検動物はヒト又は非ヒト動物であり、好ましくはヒトである。前記ヒトは、潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎患者又は潰瘍性大腸炎を合併する原発性硬化性胆管炎に罹患していることが疑われるヒトであってよい。
(68)前記治療薬が、ステロイド薬、5-アミノサリチル酸(5ASA)製剤、免疫調節薬(例えばアザチオプリン、メルカプトプリン)、生物学的製剤(例えばインフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、トファシチニブ、ベドリズマブ)、抗TNFα薬及び免疫抑制薬(例えばタクロリムス、シクロスポリン)から選択される1以上である、(67)に記載の方法。
【0016】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-000060号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の潰瘍性大腸炎の検査方法及びそのための検査キットによれば、潰瘍性大腸炎を、高い感度及び特異度で検出することが可能であり、クローン病やその他炎症性腸疾患と区別して特異的に検出することが可能である。
【0018】
本発明の原発性硬化性胆管炎の検査方法及びそのための検査キットによれば、原発性硬化性胆管炎を、高い感度及び特異度で検出することが可能であり、IgG4関連硬化性胆管炎やその他肝胆道系疾患と区別して特異的に検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1-1】潰瘍性大腸炎患者血清(UC)及び対照血清(Control)中の、サブユニットのα鎖とβ鎖の組合せが異なる複数のヒトインテグリンに対する抗体の濃度を示す。
図1-2】潰瘍性大腸炎患者血清(UC)及び対照血清(Control)中の、サブユニットのα鎖とβ鎖の組合せが異なる複数のヒトインテグリンに対する抗体の濃度を示す。
図1-3】潰瘍性大腸炎患者血清(UC)及び対照血清(Control)中の、サブユニットのα鎖とβ鎖の組合せが異なる複数のヒトインテグリンに対する抗体の濃度を示す。
図1-4】潰瘍性大腸炎患者血清(UC)及び対照血清(Control)中の、サブユニットのα鎖とβ鎖の組合せが異なる複数のヒトインテグリンに対する抗体の濃度を示す。
図2】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、対照血清中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の濃度を示す。
図3】原発性硬化性胆管炎患者血清、IgG4関連硬化性胆管炎患者血清、対照血清中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の濃度を示す。
図4】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、対照血清中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の濃度を示す。
図5】原発性硬化性胆管炎患者血清、IgG4関連硬化性胆管炎患者血清、対照血清中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の濃度を示す。
図6】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の濃度を示す。
図7】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清、膠原病患者血清、及び健常人血清中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の濃度を示す。
図8A】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体IgG1の濃度を示す。
図8B】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体IgG2の濃度を示す。
図8C】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体IgG3の濃度を示す。
図8D】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体IgG4の濃度を示す。
図9A】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体IgAの濃度を示す。
図9B】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体IgMの濃度を示す。
図9C】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体IgEの濃度を示す。
図10A図10Aは、潰瘍性大腸炎患者の、2017年11月から2018年11月までの期間の各時点でのpartial Mayo score(左縦軸)、及び、抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体(IgG)の抗体価(右縦軸)を示す。
図10B図10Bは、別の潰瘍性大腸炎患者の、2017年11月から2018年11月までの期間の各時点でのpartial Mayo score(左縦軸)、及び、抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体(IgG)の抗体価(右縦軸)を示す。
図11】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の濃度を示す。
図12】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清、膠原病患者血清、及び健常人血清中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の濃度を示す。
図13A】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体IgG1の濃度を示す。
図13B】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体IgG2の濃度を示す。
図13C】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体IgG3の濃度を示す。
図13D】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体IgG4の濃度を示す。
図14A】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体IgAの濃度を示す。
図14B】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体IgMの濃度を示す。
図14C】潰瘍性大腸炎患者血清、クローン病患者血清、他の腸疾患患者血清中の、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体IgEの濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<1.検体>
本発明の検査方法が対象とする被検動物は特に限定されずヒトであってもよいし、他の非ヒト哺乳動物であってもよいが、好ましくはヒトである。
【0021】
本発明の検査方法に用いる検体としては、被検動物から採取される体液が挙げられる。具体的には、血清、血漿、全血等の血液試料のほか、唾液、髄液、尿などの血液以外の体液試料であってもよい。また、体液に限らず、被検動物から採取される組織、例えば、検査しようとする潰瘍性大腸炎の疾患部位(例えば大腸、直腸)や原発性硬化性胆管炎の疾患部位(例えば肝臓)から採取される組織も、検体として用いることができる。検体は、被検動物から分離された形態で本発明の検査方法に用いる。
【0022】
<2.インテグリンαVβ6>
インテグリンは、天然型では、α鎖及びβ鎖の2本のサブユニット鎖からなるヘテロ二量体分子からなるタンパク質である。α鎖としてα1~α11、αV、αX、αM、αL、αD、αE、αIIb、β鎖としてβ1~β8が知られており、それらの組み合わせが異なる複数のアイソフォームが存在する。
【0023】
インテグリンは上皮細胞表面に存在し、結合組織表面の細胞外マトリクスタンパクであるラミニン、フィブロネクチン等と結合する。
【0024】
インテグリンαVβ6は、α鎖としてαV、β鎖としてβ6を含むヘテロ二量体分子からなる。インテグリンαVβ6は正常組織ではほとんど発現しないが、炎症刺激時などに上皮細胞表面で発現する。
【0025】
本発明において、検出しようとする自己抗体と免疫学的に結合するインテグリンαVβ6の断片又は全体の起源は特に限定されないが、被検動物と同じ種であることが好ましく、特にヒトが好ましい。ヒト等の哺乳動物の種のインテグリンのαV鎖、β6鎖をコードする遺伝子の塩基配列情報および各鎖のアミノ酸配列情報は、公知のデータベース(GenBank等)から取得することができる。特に、ヒトインテグリンαV鎖アイソフォーム1のプレプロタンパク質のアミノ酸配列はGenBank Accession Number NP_002201.2として登録されており、配列番号1に示す。ヒトインテグリンβ6鎖の前駆体のアミノ酸配列はGenBank Accession Number NP_000879.2として登録されており、配列番号2に示す。ヒト以外の各種哺乳動物のインテグリンαV鎖及びβ6鎖のアミノ酸配列情報も同様に公知のデータベース(GenBank等)から取得することができる。データベースに登録されたαV鎖及びβ6鎖の一方又は両方のアミノ酸配列が、更に翻訳後修飾を受けて形成されたアミノ酸配列を含むαV鎖及びβ6鎖がインテグリンαVβ6を構成していてもよい。例えば、配列番号1のアミノ酸配列における第1位~第30位の部分配列はシグナルペプチド配列であり、ヒトインテグリンαV鎖の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列における第31位~第1048位の配列を含む。同様に、配列番号2のアミノ酸配列における第1位~第21位の部分配列はシグナルペプチド配列であり、ヒトインテグリンβ6鎖の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸配列における第22位~第788位の配列を含む。
【0026】
更に、本発明においてインテグリンαVβ6は、特に明示しない場合は、成熟又は未成熟のアミノ酸配列を含む天然型には限定されず、天然型のインテグリンαVβ6と等価な形態の変異体であってもよい。
【0027】
また、インテグリンαVβ6は、成熟又は未成熟のアミノ酸配列を含む天然型又は変異体のα鎖及びβ鎖が共にその全長を含む形態(すなわちインテグリンαVβ6の全体)には限定されず、インテグリンαVβ6の断片の形態であってもよい。
【0028】
また、検出しようとする自己抗体は、インテグリンαVβ6の断片又は全体のアミノ酸配列のみからなるものに免疫学的に結合する抗体には限定されず、インテグリンαVβ6の断片又は全体の各鎖に他のペプチドが付加されたもの(特にC末端側に付加されたもの)に免疫学的に結合する抗体であってもよい。
【0029】
インテグリンαVβ6の断片としては、インテグリンの二量体を構成するαV鎖、β6鎖のうち少なくとも1つが成熟又は未成熟の天然型又はその変異体よりも短いものが挙げられる。具体的には、αV鎖として、配列番号1に示すαV鎖のアミノ酸配列のうち、第31位のPheから第992位のValまでの部分配列を含むαV鎖を含む、及び/又は、β6鎖として、配列番号2に示すβ6鎖のアミノ酸配列のうち、第22位のGlyから第707位のAsnまでの部分配列を含むβ6鎖を含む二量体が、インテグリンαVβ6の断片として例示できる。インテグリンαVβ6の断片は、二量体を形成していることが好ましく、ラミニン、フィブロネクチン等の細胞外マトリクスタンパク質と結合活性を有していることがより好ましい。インテグリンαVβ6の断片が細胞外マトリクスタンパク質との結合活性を有していることは、ELISA法等により確認することができる。
【0030】
インテグリンαVβ6の全体又はその断片が二量体を形成していることは、インテグリンαVβ6の全体又はその断片を2-メルカプトエタノールの非存在下において、SDS-PAGEに供した際に、二量体の分子量相当のバンドを検出でき、かつ、2-メルカプトエタノールの存在下において、SDS-PAGEに供した際に、二量体の分子量相当のバンドが消失することにより確認できる。
【0031】
市販のインテグリンαVβ6としては、リコンビナントヒトインテグリンαVβ6(R&DSystems、米国ミネソタ州、製品番号3817-AV)が例示できる。このリコンビナントヒトインテグリンαVβ6は、配列番号1に示すαV鎖のアミノ酸配列のうち、第31位のPheから第992位のValまでの部分配列とそのC末端に付加されたリンカー配列及び酸性テール配列とからなるαV鎖と、配列番号2に示すβ6鎖のアミノ酸配列のうち、第22位のGlyから第707位のAsnまでの部分配列とそのC末端に付加されたリンカー配列及び塩基性テール配列とからなるβ6鎖との二量体である。
【0032】
インテグリンαVβ6の断片又は全体を構成するαV鎖の、より具体的な実施形態としては、
(I)配列番号1に示すアミノ酸配列又は配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第1048位のThrまでの部分配列を含むポリペプチド
(II)配列番号1に示すアミノ酸配列の部分配列を含み、(I)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド、
(III)配列番号1に示すアミノ酸配列又はその部分配列と、85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、(I)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド、及び
(IV)配列番号1に示すアミノ酸配列又はその部分配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、(I)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチドが挙げられる。
【0033】
前記(I)~(IV)のポリペプチドは、前記(I)~(IV)で規定するアミノ酸配列又は部分配列に、更に他のアミノ酸配列がN末端側及びC末端側の少なくとも一方に、好ましくはC末端側に、付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0034】
前記(II)、(III)及び(IV)において、(I)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチドとは、インテグリンβ6鎖(特に好ましくは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち第22位のGlyから第788位のCysまでの部分配列からなるポリペプチド鎖、又は、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、第22位のGlyから第707位のAsnまでの部分配列からなるポリペプチド鎖)と二量体を形成することができ、且つ、形成された二量体が、ラミニン、フィブロネクチン等の、天然型インテグリンαVβ6又は市販のインテグリンαVβ6が結合することができる細胞外マトリクスタンパク質と結合する能力を有することとなるポリペプチドが例示できる。
【0035】
前記(II)における部分配列としては、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第992位のValまでの部分配列が挙げられる。前記(III)及び(IV)における部分配列としては、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第1048位のThrまでの部分配列、又は、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第992位のValまでの部分配列が挙げられる。
【0036】
前記(III)における配列同一性は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0037】
前記(IV)において、「1もしくは複数個」は、例えば1~100個、好ましくは1~50個、好ましくは1~30個、好ましくは1~20個、好ましくは1~15個、好ましくは1~10個、好ましくは1~5個、好ましくは1~4個、好ましくは1~3個、好ましくは1~2個、好ましくは1個である。
【0038】
インテグリンαVβ6の断片又は全体を構成するβ6鎖の、より具体的な実施形態としては、
(V)配列番号2に示すアミノ酸配列又は配列番号2に示すアミノ酸配列のうち第22位のGlyから第788位のCysまでの部分配列を含むポリペプチド
(VI)配列番号2に示すアミノ酸配列の部分配列を含み、(V)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド、
(VII)配列番号2に示すアミノ酸配列又はその部分配列と、85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、(V)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド、及び
(VIII)配列番号2に示すアミノ酸配列又はその部分配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、(V)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチドが挙げられる。
【0039】
前記(V)~(VIII)のポリペプチドは、前記(V)~(VIII)で規定するアミノ酸配列又は部分配列に、更に他のアミノ酸配列がN末端側及びC末端側の少なくとも一方に、好ましくはC末端側に、付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0040】
前記(VI)、(VII)及び(VIII)において、(V)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチドとは、インテグリンαV鎖(特に好ましくは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第1048位のThrまでの部分配列からなるポリペプチド鎖、又は、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第992位のValまでの部分配列からなるポリペプチド鎖)と二量体を形成することができ、且つ、形成された二量体が、ラミニン、フィブロネクチン等の、天然型インテグリンαVβ6又は市販のインテグリンαVβ6が結合することができる細胞外マトリクスタンパク質と結合する能力を有することとなるポリペプチドが例示できる。
【0041】
前記(VI)における部分配列としては、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち第22位のGlyから第707位のAsnまでの部分配列が挙げられる。前記(VII)及び(VIII)における部分配列としては、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち第22位のGlyから第788位のCysまでの部分配列、又は、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち第22位のGlyから第707位のAsnまでの部分配列が挙げられる。
【0042】
前記(VII)における配列同一性は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0043】
前記(VIII)において、「1もしくは複数個」は、例えば1~100個、好ましくは1~50個、好ましくは1~30個、好ましくは1~20個、好ましくは1~15個、好ましくは1~10個、好ましくは1~5個、好ましくは1~4個、好ましくは1~3個、好ましくは1~2個、好ましくは1個である。
【0044】
前記(III)、前記(VII)及び後述する(XI)において、アミノ酸配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。配列解析ソフトウェアとしては、例えば、BLASTアルゴリズムのblastpプログラム、FASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。
【0045】
<3.インテグリンαVβ3>
インテグリンαVβ3は、α鎖としてαV、β鎖としてβ3を含むヘテロ二量体分子からなる。
【0046】
本発明において、検出しようとする自己抗体と免疫学的に結合するインテグリンαVβ3の断片又は全体の起源は特に限定されないが、被検動物と同じ種であることが好ましく、特にヒトが好ましい。ヒト等の哺乳動物の種のインテグリンのαV鎖、β3鎖をコードする遺伝子の塩基配列情報および各鎖のアミノ酸配列情報は、公知のデータベース(GenBank等)から取得することができる。
αV鎖については上述の通りであるから説明を省略する。
【0047】
ヒトインテグリンβ3鎖の前駆体のアミノ酸配列はGenBank Accession Number AAA52589.1として登録されており、配列番号3に示す。ヒト以外の各種哺乳動物のインテグリンβ3鎖のアミノ酸配列情報も同様に公知のデータベース(GenBank等)から取得することができる。
【0048】
データベースに登録されたαV鎖及びβ3鎖の一方又は両方のアミノ酸配列が、更に翻訳後修飾を受けて形成されたアミノ酸配列を含むαV鎖及びβ3鎖がインテグリンαVβ3を構成していてもよい。例えば、ヒトインテグリンαV鎖の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列における第31位~第1048位の配列を含む。同様に、配列番号3のアミノ酸配列における第1位~第26位の部分配列はシグナルペプチド配列であり、ヒトインテグリンβ3鎖の成熟ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号3のアミノ酸配列における第27位~第788位の配列を含む。
【0049】
更に、本発明においてインテグリンαVβ3は、特に明示しない場合は、成熟又は未成熟のアミノ酸配列を含む天然型には限定されず、天然型のインテグリンαVβ3と等価な形態の変異体であってもよい。
【0050】
また、インテグリンαVβ3は、成熟又は未成熟のアミノ酸配列を含む天然型又は変異体のα鎖及びβ鎖が共にその全長を含む形態(すなわちインテグリンαVβ3の全体)には限定されず、インテグリンαVβ3の断片の形態であってもよい。
【0051】
また、検出しようとする自己抗体は、インテグリンαVβ3の断片又は全体のアミノ酸配列のみからなるものに免疫学的に結合する抗体には限定されず、インテグリンαVβ3の断片又は全体の各鎖に他のペプチドが付加されたもの(特にC末端側に付加されたもの)に免疫学的に結合する抗体であってもよい。
【0052】
インテグリンαVβ3の断片としては、インテグリンの二量体を構成するαV鎖、β3鎖のうち少なくとも1つが成熟又は未成熟の天然型又はその変異体よりも短いものが挙げられる。具体的には、αV鎖として、配列番号1に示すαV鎖のアミノ酸配列のうち、第31位のPheから第992位のValまでの部分配列を含むαV鎖を含む、及び/又は、β3鎖として、配列番号3に示すβ3鎖のアミノ酸配列のうち、第27位のGlyから第718位のAspまでの部分配列を含むβ3鎖を含む二量体が、インテグリンαVβ3の断片として例示できる。インテグリンαVβ3の断片は、二量体を形成していることが好ましく、ラミニン、フィブロネクチン等の細胞外マトリクスタンパク質と結合活性を有していることがより好ましい。インテグリンαVβ3の断片が細胞外マトリクスタンパク質との結合活性を有していることは、ELISA法等により確認することができる。
【0053】
インテグリンαVβ3の全体又はその断片が二量体を形成していることは、インテグリンαVβ3の全体又はその断片を2-メルカプトエタノールの非存在下において、SDS-PAGEに供した際に、二量体の分子量相当のバンドを検出でき、かつ、2-メルカプトエタノールの存在下において、SDS-PAGEに供した際に、二量体の分子量相当のバンドが消失することにより確認できる。
【0054】
市販のインテグリンαVβ3としては、リコンビナントヒトインテグリンαVβ3(R&DSystems、米国ミネソタ州、製品番号3050-AV)が例示できる。このリコンビナントヒトインテグリンαVβ3は、配列番号1に示すαV鎖のアミノ酸配列のうち、第31位のPheから第992位のValまでの部分配列とそのC末端に付加されたリンカー配列及び酸性テール配列とからなるαV鎖と、配列番号3に示すβ3鎖のアミノ酸配列のうち、第27位のGlyから第718位のAspでの部分配列とそのC末端に付加されたリンカー配列及び塩基性テール配列とからなるβ3鎖との二量体である。
【0055】
インテグリンαVβ3の断片又は全体を構成するαV鎖の、より具体的な実施形態としては、前記(I)~(IV)から選択されるポリペプチドが挙げられる。
【0056】
インテグリンαVβ3の断片又は全体を構成するβ3鎖の、より具体的な実施形態としては、
(IX)配列番号3に示すアミノ酸配列又は配列番号3に示すアミノ酸配列のうち第27位のGlyから第718位のAspまでの部分配列又は配列番号3に示すアミノ酸配列のうち第27位のGlyから第788位のThrまでの部分配列を含むポリペプチド
(X)配列番号3に示すアミノ酸配列の部分配列を含み、(IX)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド、
(XI)配列番号3に示すアミノ酸配列又はその部分配列と、85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、(IX)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド、及び
(XII)配列番号3に示すアミノ酸配列又はその部分配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列を含み、(IX)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチド
からなる群から選択されるポリペプチドが挙げられる。
【0057】
前記(IX)~(XII)のポリペプチドは、前記(IX)~(XII)で規定するアミノ酸配列又は部分配列に、更に他のアミノ酸配列がN末端側及びC末端側の少なくとも一方に、好ましくはC末端側に、付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0058】
前記(X)~(XII)において、(IX)のポリペプチドと機能的に等価なポリペプチドとは、インテグリンαV鎖(特に好ましくは、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第1048位のThrまでの部分配列からなるポリペプチド鎖、又は、配列番号1に示すアミノ酸配列のうち第31位のPheから第992位のValまでの部分配列からなるポリペプチド鎖)と二量体を形成することができ、且つ、形成された二量体が、ラミニン、フィブロネクチン等の、天然型インテグリンαVβ3又は市販のインテグリンαVβ3が結合することができる細胞外マトリクスタンパク質と結合する能力を有することとなるポリペプチドが例示できる。
【0059】
前記(X)における部分配列としては、配列番号3に示すアミノ酸配列のうち第27位のGlyから第718位のAspまでの部分配列が挙げられる。前記(XI)及び(XII)における部分配列としては、配列番号3に示すアミノ酸配列のうち第27位のGlyから第718位のAspまでの部分配列、又は、配列番号3に示すアミノ酸配列のうち第27位のGlyから第788位のThrまでの部分配列が挙げられる。
【0060】
前記(XI)における配列同一性は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
【0061】
前記(XII)において、「1もしくは複数個」は、例えば1~100個、好ましくは1~50個、好ましくは1~30個、好ましくは1~20個、好ましくは1~15個、好ましくは1~10個、好ましくは1~5個、好ましくは1~4個、好ましくは1~3個、好ましくは1~2個、好ましくは1個である。
【0062】
<4.潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の検査方法>
本発明の検査方法は第一に、
潰瘍性大腸炎の検査方法であって、
潰瘍性大腸炎の指標として、検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法に関する。
【0063】
本発明の検査方法は第二に、
原発性硬化性胆管炎の検査方法であって、
原発性硬化性胆管炎の指標として、検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法に関する。
【0064】
以下の説明では「インテグリンαVβ6の断片又は全体」を総称して「インテグリンαVβ6」と称し、「インテグリンαVβ3の断片又は全体」を総称して「インテグリンαVβ3」と称する。
【0065】
本発明の第一の検査方法は、被検動物から取得した検体中のインテグリンαVβ6に対する抗体(自己抗体)及びインテグリンαVβ3に対する抗体(自己抗体)が、潰瘍性大腸炎に罹患していることの指標となるという驚くべき知見に基づき完成された。
【0066】
本発明の第二の検査方法は、被検動物から取得した検体中のインテグリンαVβ6に対する抗体(自己抗体)及びインテグリンαVβ3に対する抗体(自己抗体)が、原発性硬化性胆管炎に罹患していることの指標となるという驚くべき知見に基づき完成された。
【0067】
本発明の検査方法における検出工程は、検体中の、インテグリンαVβ6と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3と免疫学的に反応する抗体を検出する工程である。本発明において「検出」とは、検体中に、インテグリンαVβ6と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3と免疫学的に反応する抗体が存在するか否かを確認することのほか、検体中における該抗体の含有量を測定すること、すなわち「定量」すること、も包含する概念である。
【0068】
本発明の検査方法における検出工程は、検体中の前記抗体を定量的又は定性的に検出可能な方法であればよく、具体的な態様は特に限定されない。例えば、免疫学的手法を用いることができ、例えば、抗体酵素法(ELISA法)、免疫沈降法(IPP法)、免疫ブロット法(IB法)、ラテックス凝集法、免疫クロマトグラフィー法、間接蛍光抗体法(IF法)、ラジオイムノアッセイ法(RIA法)などの手法を挙げることができる。多くの検体を処理し得るELISA法が特に好ましい。ELISA法では、具体的には、前記抗体の抗原である、上記で詳述したようなインテグリンαVβ6、及び/又は、インテグリンαVβ3を固相に固定し、該固相に固定した抗原に検体を接触させ、抗原と、検体中に含有される可能性のある前記抗体との免疫複合体を、酵素標識をした検出用抗体等を用いて検出することで、前記抗体を検出することができる。ELISA法の実施に伴う非特異反応の抑制方法や、検出の際に使用し得る標識物質、測定機器などは、特に限定されない。抗原を固定するための固相としては、プレート、ビーズ、チューブなどの任意の形状の固相を用いることができる。
【0069】
ELISA法等の免疫学的手法では、前記抗原に、前記抗体を含む可能性のある検体を接触させる工程や、必要な洗浄工程や、必要な標識工程、必要な検出工程を、適当な緩衝液中で行うことができるが、好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン、ナトリウム、リチウム等から選択される1種以上の金属イオン含む緩衝液中で行うことが好ましい。前記金属イオンは好ましくはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、マンガンイオン等の二価金属イオンであり、特に好ましくはカルシウムイオン、マグネシウムイオン及びマンガンイオンのうち1種又は2種である。前記金属イオンの緩衝液中の濃度は特に限定されないが、合計で0.02mM~200mMが例示でき、0.2mM~20mMが好ましく、0.4mM~10mMが特に好ましい。これらの金属イオンを含む緩衝液中では、検出感度が高まるため好ましい。
【0070】
検出工程において、インテグリンαVβ6と免疫学的に反応する抗体の量、及び/又は、インテグリンαVβ3と免疫学的に反応する抗体の量は、前記抗体と前記抗原との免疫複合体に結合した検出用抗体の標識量の測定値として求めることができる。既知濃度の前記抗体を含む陽性標準液により検量線を作成し、検量線を用いて標識量の測定値から被検試料中の前記抗体の量を算出することもできる。
【0071】
検出工程において、インテグリンαVβ6と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3と免疫学的に反応する抗体が存在するか否かの判定(陽性/陰性の判定)は、被検動物個体(例えば、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の罹患が疑われるヒト)から得た検体中の前記抗体の測定値を、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎を罹患していない動物個体(例えば健常者)から得た検体中の前記抗体の測定値と比較することによって行うことができる。ここで、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎を罹患していない個体から得た検体中の前記抗体の測定値は、同時に測定して得た値であってもよいし、予め測定して得た値であってもよい。被検動物個体から得た検体中の前記抗体の測定値が、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎を罹患していない動物個体から得た検体中の前記抗体の測定値よりも有意に大きい場合に、陽性と判断することができる。
【0072】
検出工程において検出する、インテグリンαVβ6と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3と免疫学的に反応する抗体のアイソタイプは特に限定されず、IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体、IgE抗体等のアイソタイプであってよく、IgG抗体又はIgA抗体が特に好ましい。インテグリンαVβ6と免疫学的に反応する抗体としては、特にIgG又はIgAを検出することが好ましい。インテグリンαVβ3と免疫学的に反応する抗体としては特にIgG抗体を検出することが好ましい。IgG抗体のなかのサブクラスは特に限定されないが、例えばIgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体又はIgG4抗体を検出することができる。インテグリンαVβ6と免疫学的に反応するIgG抗体としては、IgG1抗体、IgG2抗体又はIgG4抗体を検出することがより好ましく、IgG1抗体を検出することが最も好ましい。インテグリンαVβ3と免疫学的に反応するIgG抗体としては、IgG1抗体、IgG2抗体又はIgG3抗体を検出することがより好ましく、IgG1抗体を検出することが最も好ましい。
【0073】
<5.潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の検査キット又は検査試薬>
本発明の検査キット又は検査試薬は第一に、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を含む、潰瘍性大腸炎を検査するための検査キット又は検査試薬に関する。
【0074】
本発明の検査キット又は検査試薬は第二に、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を含む、原発性硬化性胆管炎を検査するための検査キット又は検査試薬に関する。
【0075】
以下の説明では「インテグリンαVβ6の断片又は全体」を総称して「インテグリンαVβ6」と称し、「インテグリンαVβ3の断片又は全体」を総称して「インテグリンαVβ3」と称する。
【0076】
本発明の検査キット又は検査試薬は、上記の本発明の検査方法に使用することができる。
本発明の検査キットは、免疫学的測定に必要な試薬類、例えば、緩衝液、カルシウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、ナトリウム塩、リチウム塩等から選択される1種以上の金属塩等を必要に応じて含んでよい。
【0077】
本発明の検査試薬は、インテグリンαVβ6及び/又はインテグリンαVβ3と、溶媒、賦形剤等の製剤化の目的で許容される担体とを含有する、液状又は固形状の組成物であることができる。
【0078】
本発明の検査キット又は検査試薬において、インテグリンαVβ6、及び/又は、インテグリンαVβ3の形態は特に限定されず、溶液状態であってもよいし、乾燥状態であってもよいし、固相に固定された形態であってもよい。インテグリンαVβ6、及び/又は、インテグリンαVβ3が乾燥状態である場合、使用前に溶液状態にするための緩衝液や溶媒を本発明の検査キット又は検査試薬に含めてもよい。
【0079】
固相に固定された形態のインテグリンαVβ6、及び/又は、インテグリンαVβ3を含む検査キット又は検査試薬は、ELISA法により潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎を検査するために用いることができる。固相の形態としては、プレート、ビーズ、チューブなどの任意の形態であってよい。ELISA法により潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎を検査するためのキットは、前記固相以外に、陽性標準液、陰性標準液、ブロッキング液、洗浄液、検体希釈液、検出用抗体、基質液等を含むことができる。検出用抗体は、酵素等の検出可能な標識により標識されていてよい。陽性標準液には、インテグリンαVβ6、及び/又は、インテグリンαVβ3の自己抗体を含んだ潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎患者の血清希釈液以外に、インテグリンαVβ6、及び/又は、インテグリンαVβ3の抗体を添加した溶液が用いられる。当該溶液に添加する抗体としては、IgG抗体、IgA抗体、IgM抗体、IgE抗体等、測定の対象とする自己抗体のアイソタイプと同一のアイソタイプであることが好ましい。陰性標準液は、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎を罹患していない人の血清希釈液、潰瘍性大腸炎と医学的に区別される他の腸疾患の血清、原発性硬化性胆管炎と医学的に区別されるその他肝胆道系疾患の血清、健常人の血清(対照血清)及びその希釈液等が用いられる。
【0080】
<6.潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎に対する治療の効果を評価する方法>
本発明の治療効果の評価方法は第一に、
潰瘍性大腸炎に対する治療の効果を評価する方法であって、
潰瘍性大腸炎に対する治療が施された被験動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法に関する。
【0081】
本発明の治療効果の評価方法は第二に、
原発性硬化性胆管炎に対する治療の効果を評価する方法であって、
原発性硬化性胆管炎に対する治療が施された被験動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する検出工程
を含む方法に関する。
【0082】
以下の説明では「インテグリンαVβ6の断片又は全体」を総称して「インテグリンαVβ6」と称し、「インテグリンαVβ3の断片又は全体」を総称して「インテグリンαVβ3」と称する。
【0083】
本発明の検査方法に関して既述の通り、検体中の、インテグリンαVβ6と免疫学的に反応する抗体、及び、インテグリンαVβ3と免疫学的に反応する抗体は、それぞれ、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の指標として有用である。このため、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎に対する治療が施された被検動物から得た検体中の前記抗体の量は、治療が有効で治癒している場合は低下し、治療が十分に効果を発揮していない場合は治療開始前から変化しない又は上昇する。そこで、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎に対する治療が施された被検動物から得た検体中の前記抗体を検出することで、治療の効果を評価することが可能となる。
【0084】
被検動物としては、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の治療を受けたヒトや非ヒト動物が例示できる。
【0085】
本発明の治療効果の評価方法における、検体、インテグリンαVβ6、インテグリンαVβ3、抗体、検出工程などの具体的態様は、本発明の検査方法に関して説明したのと同様である。
【0086】
本発明の治療効果の評価方法における検出工程で得た、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎に対する治療が施された被検動物から得た検体中の前記抗体の定量結果を、例えば、前記治療を開始する前の同一動物個体から得た検体中の前記抗体の定量結果と比較して、前者が後者よりも小さい場合には、治療が有効であると評価することができる。一方、前者が後者と同程度或いは後者よりも大きい場合には、治療が有効でない又は十分でないと評価することができる。この評価結果に基づいて、治療を更に継続する、治療方針を変更する、治療を中止するなどの判断が可能である。
【0087】
また、本発明の治療効果の評価方法における検出工程で得た、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎に対する治療が施された被検動物から得た検体中の前記抗体の定量結果を、例えば、同一動物種の健常個体から得た検体中の前記抗体の定量結果と比較して、前者が後者と同程度である又はより小さい場合には、治療が有効であると評価することができる。一方、前者が後者よりも大きい場合には、治療が有効でない又は十分でないと評価することができる。この評価結果に基づいて、治療を更に継続する、治療方針を変更する、治療を中止するなどの判断が可能である。
【0088】
<潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質をスクリーニングする方法>
本発明のスクリーニング方法は第一に、
潰瘍性大腸炎の治療薬の候補物質をスクリーニングする方法であって、
試験物質を作用させた動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する抗体検出工程と、
前記試験物質を作用させたことにより前記検体中の前記抗体が減少した場合に、前記試験物質を、潰瘍性大腸炎の治療薬の候補物質として選抜する選抜工程と
を含む方法
に関する。
【0089】
本発明のスクリーニング方法は第二に、
原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質をスクリーニングする方法であって、
試験物質を作用させた動物から得た検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を検出する抗体検出工程と、
前記試験物質を作用させたことにより前記検体中の前記抗体が減少した場合に、前記試験物質を、原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質として選抜する選抜工程と
を含む方法
に関する。
【0090】
既述の通り、検体中の、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体は、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の指標として有用である。このため、試験物質を作用させたことにより前記検体中の前記抗体が減少した場合に、前記試験物質を、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質として選抜することが可能となる。
【0091】
本発明のスクリーニング方法の抗体検出工程を含む実施形態における、検体、インテグリンαVβ6の断片又は全体、インテグリンαVβ3の断片又は全体、抗体、抗体検出工程などの具体的態様は、本発明の検査方法に関して説明したのと同様である。
【0092】
本発明のスクリーニング方法において、試験物質としては、新規医薬の候補となる可能性のある試験物質であり特に限定されない。試験物質を作用させる動物は、典型的には、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物等の、健常個体と比較して、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体の、検体中での量が大きい動物である。
【0093】
本発明のスクリーニング方法の選抜工程では、抗体検出工程で得た、試験物質を作用させた動物から得た検体中の前記抗体の定量結果を、例えば、前記試験物質を作用させる前の同一動物個体から得た検体中の前記抗体の定量結果と比較して、前者が後者よりも小さい場合には、前記試験物質を作用させたことにより前記検体中の前記抗体が減少したと判断し、前記試験物質を、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質として選抜することができる。
【0094】
また、本発明のスクリーニング方法の選抜工程では、抗体検出工程で得た、試験物質を作用させた動物から得た検体中の前記抗体の定量結果を、例えば、同一動物種の健常個体から得た検体中の前記抗体の定量結果と比較して、前者が後者と同程度である又はより小さい場合には、前記試験物質を作用させたことにより前記検体中の前記抗体が減少したと判断し、前記試験物質を、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の治療薬の候補物質として選抜することができる。
【0095】
<潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物を作製する方法>
本発明の非ヒトモデル動物を作製する方法は第一に、
潰瘍性大腸炎の非ヒトモデル動物を作製する方法であって、
非ヒト動物に、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を投与する抗体投与工程、並びに
非ヒト動物を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として免疫する免疫工程
のうち少なくとも一方を含む方法
に関する。
【0096】
本発明の非ヒトモデル動物を作製する方法は第二に、
原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物を作製する方法であって、
非ヒト動物に、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を投与する抗体投与工程、並びに
非ヒト動物を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として免疫する免疫工程
のうち少なくとも一方を含む方法
に関する。
【0097】
本発明の非ヒトモデル動物の作製方法での、インテグリンαVβ6の断片又は全体、インテグリンαVβ3の断片又は全体、抗体等の具体的形態は、本発明の検査方法におけるものと同様である。
【0098】
非ヒト動物に、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体を投与する抗体投与工程により、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物の作製が可能である。
【0099】
抗体を投与する非ヒト動物としては、例えばBALB/cマウス、B6マウス等のマウス、その他の非ヒト動物が例示できる。
【0100】
抗体投与工程における、インテグリンαVβ6の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体と免疫学的に反応する抗体の投与経路は特に限定されないが、例えば、皮下投与、腹腔内投与、静脈投与等が例示できる。前記抗体は、精製された抗体として非ヒト動物に投与される必要はなく、例えば、抗体を含む血清として非ヒト動物に投与されてもよい。
【0101】
抗体投与工程において投与する抗体は、投与を受ける非ヒト動物が有するインテグリンαVβ6及び/又はインテグリンαVβ3と免疫学的に反応できるように選択する。
【0102】
一方、非ヒト動物を、インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を抗原として免疫する免疫工程により、潰瘍性大腸炎又は原発性硬化性胆管炎の非ヒトモデル動物の作製が可能である。
抗原を投与する非ヒト動物としては、例えばBALB/cマウス、B6マウス等のマウス、その他の非ヒト動物が例示できる。
【0103】
免疫工程における方法は特に限定されない。インテグリンαVβ6の断片又は全体、及び/又は、インテグリンαVβ3の断片又は全体を、完全フロイントアジュバント等の適当なアジュバントとともに、非ヒト動物に皮下投与、静脈内投与、或いは腹腔内投与等の経路で投与することで、非ヒト動物を免疫することができる。
【0104】
免疫工程において、抗原として投与するインテグリンαVβ6の断片又は全体及び/又はインテグリンαVβ3の断片又は全体は、それに対する抗体が、免疫される非ヒト動物が有するインテグリンαVβ6及び/又はインテグリンαVβ3に自己免疫により免疫学的に反応できるように選択する。
【実施例
【0105】
<実験1:潰瘍性大腸炎の患者に特異的な自己抗体の特定>
本発明者らは、潰瘍性大腸炎の患者に特異的な自己抗体の抗原を特定するために、文献から既知の細胞外マトリクスタンパク質を抗原候補として、個別に固相に固定し、潰瘍性大腸炎患者の血清中に、前記細胞外マトリクスタンパク質に結合する抗体が含まれるか否かを、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法により確認した。
【0106】
ELISA法では、潰瘍性大腸炎患者の血清中に含まれ得る、固相に固定された抗原候補と結合するヒトIgGを検出対象の自己抗体とし、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)により標識されたウサギ抗ヒトIgGポリクローナル抗体を検出用抗体とした。
【0107】
1.抗原の候補
抗原候補として、細胞外マトリクスタンパク質として既知の以下のタンパク質を用いた。
ヒトインテグリンα2bβ3(7148-A2、R&D system)
ヒトインテグリンα1β1(7064-AB、R&D system)
ヒトインテグリンα2β1(5698-A2、R&D system)
ヒトインテグリンα3β1(2840-A3、R&D system)
ヒトインテグリンα4β1(5668-A4、R&D system)
ヒトインテグリンα4β7(5397-A3、R&D system)
ヒトインテグリンα5β1(3230-A5、R&D system)
ヒトインテグリンα6β1(7809-A6、R&D system)
ヒトインテグリンα6β4(5497-A6、R&D system)
ヒトインテグリンα9β1(5438-A9、R&D system)
ヒトインテグリンα10β1(5895-AB、R&D system)
ヒトインテグリンα11β1(6357-AB、R&D system)
ヒトインテグリンαEβ7(5850-A3、R&D system)
ヒトインテグリンαLβ2(3868-AV、R&D system)
ヒトインテグリンαMβ2(4047-AM、R&D system)
ヒトインテグリンαVβ1(6579-AVB、R&D system)
ヒトインテグリンαVβ3(3050-AV、R&D system)
ヒトインテグリンαVβ5(2528-AV、R&D system)
ヒトインテグリンαVβ6(3817-AV、R&D system)
ヒトインテグリンαVβ8(4135-AV、R&D system)
ヒトインテグリンαXβ2(5755-AX、R&D system)
【0108】
2.血清試料
潰瘍性大腸炎と診断された8名の患者から血清試料を取得した。
潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
対照血清試料として、3名の健常者からの血清試料を取得した。
【0109】
3.手順
以下の試験では、特に明示しない場合は、ELISA Starter Accessory Kit(E101,Bethyl Laboratories)を用いた。
ELISA用コーティングバッファー(ELISA Coating Buffer)、ELISA用洗浄溶液(ELISA Wash Solution)、ELISA用ブロッキングバッファー(ELISA Blocking Buffer)、コンジュゲート希釈剤(Conjugate Diluent)は全て前記キットの指示書に従い調製した。
全ての工程は明示しない限り室温で行った。
【0110】
3.1.抗原候補によるコーティング
(1)上記の抗原候補の1つを前記キットのELISA用コーティングバッファーに希釈して2μg/ml濃度溶液とした。この溶液100μlを前記キットのマイクロウェルプレートの各ウェルに加えた。
(2)上記のマイクロウェルプレートを4℃で60分間インキュベートした。
(3)インキュベート後に各ウェルから溶液を吸引除去した。
(4)各ウェルを前記キットのELISA用洗浄溶液により洗浄した。具体的には、各ウェルに前記ELISA用洗浄溶液を満たし、次いで、前記ELISA用洗浄溶液を吸引除去する洗浄操作を3回行った。
【0111】
3.2.ブロッキング
(1)前記キットのELISA用ブロッキングバッファー200μlを各ウェルに添加した。
(2)30分間インキュベートした。
(3)インキュベート後、前記ELISA用ブロッキングバッファーを除去した後、各ウェルを3回洗浄した。
【0112】
3.3.被検試料
(1)前記潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=8)又は前記対照血清試料(n=3)を、前記キットのコンジュゲート希釈剤(Conjugate Diluent)により1:100の割合で希釈した。
(2)前記希釈により得られた血清希釈液を、ブロッキング後のマイクロウェルプレートの各ウェルに100μl加えた。
(3)60分間インキュベートした。
(4)インキュベート後、前記血清希釈液を除去し、各ウェルを5回洗浄した。
【0113】
3.4.HRPコンジュゲート検出用抗体
(1)HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)とコンジュゲートされた検出用抗体(abcam6759,ウサギ抗ヒトIgG H&L(HRP))を、前記キットのコンジュゲート希釈剤(Conjugate Diluent)により1:50000の割合で希釈した。
(2)前記希釈により得られた検出用抗体希釈液を、血清を接触させたマイクロウェルプレートの各ウェルに100μl加えた。
(3)60分間インキュベートした。
(4)インキュベート後、前記検出用抗体希釈液を除去し、各ウェルを5回洗浄した。
【0114】
3.5.酵素基質反応
(1)製造元の推奨条件に従ってTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)溶液を調製した。
(2)前記TMB溶液を、検出用抗体を接触させたマイクロウェルプレートの各ウェルに100μl加えた。
(3)7分間~8分間インキュベートした。
(4)TMBの酸化を停止するために、100μlの0.18M HSOを、各ウェルに加えた。
(5)マイクロプレートリーダーを用い、450nmの波長にて、前記酸化反応の生成物による呈色を測定した。
【0115】
4.結果と考察
結果を図1-1~図1-4に示す。各グラフの表題部分に抗原候補のインテグリンのαサブユニットとβサブユニットのタイプの組合せを示す。
【0116】
図1-1~図1-4において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。UCは潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=8)を示し、Controlは対照血清試料(n=3)を示す。
【0117】
ヒトインテグリンαVβ6及びヒトインテグリンαVβ3を抗原として用いたとき、それに対する抗体の濃度が、潰瘍性大腸炎患者血清の4つの試料において、対照血清試料よりも高いことが確認された(図1-3、図1-4)。このことは、ヒトインテグリンαVβ6に対する自己抗体の血清中濃度の増加、及び、ヒトインテグリンαVβ3に対する自己抗体の血清中濃度の増加が、潰瘍性大腸炎の診断指標となり得ることを示唆する。他のヒトインテグリンを抗原として用いたときは、それに対する抗体の濃度は、潰瘍性大腸炎患者血清試料と対照血清試料とで有意な差は認められなかった。
【0118】
<実験2:抗ヒトインテグリンαVβ6抗体に基づく潰瘍性大腸炎の診断>
実験1では、潰瘍性大腸炎患者血清において抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の濃度が高いことが確認された。
【0119】
そこで、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の血清中濃度に基づいて潰瘍性大腸炎を診断できる可能性を検討するため、本実験では試料の母数を増やし、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=63、クローン病と診断された患者からの血清試料をn=48、健常者又はベーチェット病、好酸球性胃腸炎、感染性腸炎、虚血性腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、IBDU(inflammatory bowel disease unclassified)と診断された患者からの対照血清試料をn=11の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0120】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体濃度を実験1で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。ただし、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した。
【0121】
結果を図2に示す。図2において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=63)を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料(n=48)を示し、「コントロール」は対照血清試料(n=11)を示す。破線で示すカットオフ値は、対照血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0122】
図2から、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では63例中58例で陽性であり感度は92%であった。一方、クローン病患者血清試料では48例中45例で陰性、対照血清試料では11例中11例で陰性であり特異度は95%であった。この結果は、ヒトインテグリンαVβ6に対する自己抗体の血中濃度に基づき潰瘍性大腸炎の診断が可能であることを裏付ける。
【0123】
<実験3:抗ヒトインテグリンαVβ6抗体に基づく原発性硬化性胆管炎の診断>
本実験では抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の血清中濃度に基づいて原発性硬化性胆管炎(PSC)を診断できる可能性を検討した。PSC患者血清試料をn=24、IgG4関連硬化性胆管炎と診断された患者からの血清試料をn=5、健常者からの対照血清試料をn=6の母数で使用した。
原発性硬化性胆管炎24症例のうち18症例は潰瘍性大腸炎を合併していた。
【0124】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体濃度を実験1で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。ただし、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した。
【0125】
結果を図3に示す。図3において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「原発性硬化性胆管炎」はPSC患者血清試料(n=24)を示し、「IgG4関連硬化性胆管炎」はIgG4関連硬化性胆管炎患者血清試料(n=5)を示し、「コントロール」は対照血清試料(n=6)を示す。破線で示すカットオフ値は、対照血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0126】
図3から、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体は、PSC患者血清試料では24例中23例で陽性であり感度は96%であった。一方、IgG4関連硬化性胆管炎患者血清試料では5例中4例で陰性、対照血清試料では6例中6例で陰性であり特異度は91%であった。この結果は、ヒトインテグリンαVβ6に対する自己抗体の血中濃度に基づき原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断が可能であることを裏付ける。
【0127】
<実験4:抗ヒトインテグリンαVβ3抗体に基づく潰瘍性大腸炎の診断>
実験1では、潰瘍性大腸炎患者血清において抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の濃度が高いことが確認された。
【0128】
そこで、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の血清中濃度に基づいて潰瘍性大腸炎を診断できる可能性を検討するため、本実験では試料の母数を増やし、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=15、クローン病と診断された患者からの血清試料をn=4、健常者からの対照血清試料をn=9の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0129】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体濃度を実験1で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。ただし、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した。
【0130】
結果を図4に示す。図4において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=15)を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料(n=4)を示し、「コントロール」は対照血清試料(n=9)を示す。破線で示すカットオフ値は、対照血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0131】
図4から、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では63例中58例で陽性であり感度は93%であった。一方、クローン病患者血清試料では4例中4例で陰性、対照血清試料では9例中9例で陰性であり特異度は100%であった。この結果は、ヒトインテグリンαVβ3に対する自己抗体の血中濃度に基づき潰瘍性大腸炎の診断が可能であることを裏付ける。
【0132】
<実験5:抗ヒトインテグリンαVβ3抗体に基づく原発性硬化性胆管炎の診断>
本実験では抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の血清中濃度に基づいて原発性硬化性胆管炎(PSC)を診断できる可能性を検討した。PSC患者血清試料をn=24、IgG4関連硬化性胆管炎と診断された患者からの血清試料をn=5、健常者又は胆管癌、原発性胆汁性胆管炎、肝硬変、肝細胞癌と診断された患者からの対照血清試料をn=6の母数で使用した。
原発性硬化性胆管炎24症例のうち18症例は潰瘍性大腸炎を合併していた。
【0133】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体濃度を実験1で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。ただし、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した。
【0134】
結果を図5に示す。図5において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「原発性硬化性胆管炎」はPSC患者血清試料(n=24)を示し、「IgG4関連硬化性胆管炎」はIgG4関連硬化性胆管炎患者血清試料(n=5)を示し、「コントロール」は対照血清試料(n=6)を示す。破線で示すカットオフ値は、対照血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0135】
図5から、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体は、PSC患者血清試料では24例中15例で陽性であり感度は63%であった。一方、IgG4関連硬化性胆管炎患者血清試料では5例中5例で陰性、対照血清試料では6例中6例で陰性であり特異度は100%であった。この結果は、ヒトインテグリンαVβ3に対する自己抗体の血中濃度に基づき原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断が可能であることを裏付ける。
【0136】
<実験6:抗ヒトインテグリンαVβ6抗体に基づく潰瘍性大腸炎の診断>
本実験では、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の血清中濃度に基づいて潰瘍性大腸炎を診断する方法が、潰瘍性大腸炎を特異的に陽性と診断できることを確認した。本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=66、クローン病患者血清試料をn=47、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=9の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0137】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体濃度を実験2で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。
【0138】
結果を図6に示す。図6において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料を示し、「他の腸疾患」は、前記他の腸疾患患者血清試料を示す。破線で示すカットオフ値は、前記他の腸疾患患者血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0139】
抗ヒトインテグリンαVβ6抗体は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では66例中62例で陽性であり感度は94%であった。一方、クローン病患者血清試料では47例中44例で陰性、他の腸疾患患者血清試料では9例中9例で陰性であり、特異度は95%であった。この結果は、ヒトインテグリンαVβ6に対する自己抗体の血中濃度は、潰瘍性大腸炎患者において特異的に高いことを示す。
【0140】
<実験7:抗ヒトインテグリンαVβ6抗体に基づく潰瘍性大腸炎の診断>
本実験では、抗ヒトインテグリンαVβ6抗体の血清中濃度に基づいて潰瘍性大腸炎を診断する方法が、潰瘍性大腸炎を特異的に陽性と診断できることを確認した。本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=51、クローン病患者血清試料をn=26、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=24、膠原病患者血清試料をn=27、健常人の血清試料をn=22の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0141】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ6抗体濃度を実験2で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。
【0142】
結果を図7に示す。図7において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料を示し、「他の腸疾患」は、前記他の腸疾患患者血清試料を示し、「膠原病」は膠原病患者血清試料を示し、「健常人」は健常人血清試料を示す。破線で示すカットオフ値は、健常人血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0143】
抗ヒトインテグリンαVβ6抗体は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では51例中43例で陽性であり感度は84%であった。一方、クローン病患者血清試料では26例中24例で陰性、他の腸疾患患者血清試料では24例中23例で陰性、膠原病患者血清試料では27例中26例で陰性、健常人血清試料では22例中22例で陰性であり、特異度は96%であった。この結果もまた、実験6と同様に、ヒトインテグリンαVβ6に対する自己抗体の血中濃度は、潰瘍性大腸炎患者において特異的に高いことを示す。
【0144】
<実験8:潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体のIgGサブクラス>
本実験では、潰瘍性大腸炎患者の血清中の抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体のIgGサブクラスを確認した。
【0145】
本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=47、クローン病患者血清試料をn=8、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=8の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0146】
ヒトインテグリンαVβ6と特異的に結合するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4を区別して検出するために、抗原としてヒトインテグリンαVβ6を用いる実験1で記載したELISA法において、検出用抗体として、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG1抗体(Anti-IgG1-HRP、AP006、Binding Site)、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG2抗体(Anti-IgG2-HRP、AP007、Binding Site)、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG3抗体(Anti-IgG3-HRP、AP008、Binding Site)、又は、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG4抗体(Anti-IgG4-HRP、AP009、Binding Site)を使用し、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した以外は、実験1と同様の手順でELISA法を行った。
【0147】
IgG1の検出結果を図8Aに、IgG2の検出結果を図8Bに、IgG3の検出結果を図8Cに、IgG4の検出結果を図8Dにそれぞれ示す。図8A図8Dにおいて、縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=47)を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料(n=8)を示し、「他の腸疾患」は前記他の腸疾患患者血清試料(n=8)を示す。図8A図8Dにおいて、破線で示すカットオフ値は、前記他の腸疾患患者血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0148】
図8Aは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ6と結合するIgG1は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中45例で陽性(感度96%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0149】
図8Bは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ6と結合するIgG2は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中29例で陽性(感度62%)、クローン病患者血清試料では8例中7例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0150】
図8Cは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ6と結合するIgG3は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中10例で陽性(感度21%)、クローン病患者血清試料では8例中6例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0151】
図8Dは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ6と結合するIgG4は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中19例で陽性(感度40%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0152】
これらの実験結果から、潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体のIgGサブクラスはIgG1が優勢であることが確認された。
【0153】
<実験9:潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体のアイソタイプ>
本実験では、潰瘍性大腸炎患者の血清中の抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体として、IgG以外のアイソタイプであるIgA、IgM、IgEを検出した。
【0154】
本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=47、クローン病患者血清試料をn=8、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=8の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0155】
ヒトインテグリンαVβ6と特異的に結合するIgA、IgM、IgEを検出するために、抗原としてヒトインテグリンαVβ6を用いる実験1で記載したELISA法において、検出用抗体として、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgA抗体(Goat anti-Human IgA Antibody HRP Conjugated、A80-102P、BETHYL)、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgM抗体(Goat anti-Human IgM Antibody HRP Conjugated、A80-100P、BETHYL)、又は、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgE抗体(Goat anti-Human IgE Cross-Adsorbed Secondary Antibody, HRP、A18799、Invitrogen)を使用し、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した以外は、実験1と同様の手順でELISA法を行った。
【0156】
IgAの検出結果を図9Aに、IgMの検出結果を図9Bに、IgEの検出結果を図9Cにそれぞれ示す。図9A図9Cにおいて、縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=47)を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料(n=8)を示し、「他の腸疾患」は前記他の腸疾患患者血清試料(n=8)を示す。図9A図9Cにおいて、破線で示すカットオフ値は、前記他の腸疾患患者血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0157】
図9Aは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ6と結合するIgAは、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中35例で陽性(感度74%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0158】
図9Bは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ6と結合するIgMは、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中11例で陽性(感度23%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0159】
図9Cは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ6と結合するIgEは、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中10例で陽性(感度21%)、クローン病患者血清試料では8例中7例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0160】
これらの実験結果から、潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体としてはIgG以外にIgA、IgM、IgEも含まれ、IgAが優勢であることが確認された。
【0161】
<実験10:潰瘍性大腸炎の病勢と、抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体の抗体価との相関関係>
潰瘍性大腸炎の病勢と、抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体(IgG)の抗体価との相関関係について検証した。
【0162】
病勢の評価にはMayo scoreから粘膜所見(内視鏡所見)を除いたpartial Mayo scoreを用いた。
【0163】
抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体(IgG)の抗体価は、上記の実験2と同様の手順で測定した。
【0164】
図10A図10Bに、代表的な2名の潰瘍性大腸炎患者の、2017年11月から2018年11月までの期間の各時点でpartial Mayo score(左縦軸)、及び、抗ヒトインテグリンαVβ6自己抗体(IgG)の抗体価(右縦軸)をそれぞれ示す。
【0165】
どちらの患者も、partial Mayo scoreの変化に伴い、抗体価も同様に変化していた。
【0166】
<実験11:抗ヒトインテグリンαVβ3抗体に基づく潰瘍性大腸炎の診断>
本実験では、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の血清中濃度に基づいて潰瘍性大腸炎を診断する方法が、潰瘍性大腸炎を特異的に陽性と診断できることを確認した。本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=66、クローン病患者血清試料をn=47、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=9の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0167】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体濃度を実験4で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。
【0168】
結果を図11に示す。図11において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料を示し、「他の腸疾患」は、前記他の腸疾患患者血清試料を示す。破線で示すカットオフ値は、前記他の腸疾患患者血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0169】
抗ヒトインテグリンαVβ3抗体は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では66例中60例で陽性であり感度は91%であった。一方、クローン病患者血清試料では47例中38例で陰性、他の腸疾患患者血清試料では9例中9例で陰性であり、特異度は84%であった。この結果は、ヒトインテグリンαVβ3に対する自己抗体の血中濃度は、潰瘍性大腸炎患者において特異的に高いことを示す。
【0170】
<実験12:抗ヒトインテグリンαVβ3抗体に基づく潰瘍性大腸炎の診断>
本実験では、抗ヒトインテグリンαVβ3抗体の血清中濃度に基づいて潰瘍性大腸炎を診断する方法が、潰瘍性大腸炎を特異的に陽性と診断できることを確認した。本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=51、クローン病患者血清試料をn=26、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=24、膠原病患者血清試料をn=27、健常人の血清試料をn=22の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0171】
各血清試料中の抗ヒトインテグリンαVβ3抗体濃度を実験4で記載したのと同様の手順でELISA法により測定した。
【0172】
結果を図12に示す。図12において縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「UC」は潰瘍性大腸炎患者血清試料を示し、「CD」はクローン病患者血清試料を示し、「他の腸疾患」は、前記他の腸疾患患者血清試料を示し、「膠原病」は膠原病患者血清試料を示し、「健常人」は健常人血清試料を示す。破線で示すカットオフ値は、健常人血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0173】
抗ヒトインテグリンαVβ3抗体は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では51例中42例で陽性であり感度は82%であった。一方、クローン病患者血清試料では26例中21例で陰性、他の腸疾患患者血清試料では24例中21例で陰性、膠原病患者血清試料では27例中27例で陰性、健常人血清試料では22例中22例で陰性であり、特異度は92%であった。この結果もまた、実験11と同様に、ヒトインテグリンαVβ3に対する自己抗体の血中濃度は、潰瘍性大腸炎患者において特異的に高いことを示す。
【0174】
<実験13:潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ3自己抗体のIgGサブクラス>
本実験では、潰瘍性大腸炎患者の血清中の抗ヒトインテグリンαVβ3自己抗体のIgGサブクラスを確認した。
【0175】
本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=47、クローン病患者血清試料をn=8、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=8の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0176】
ヒトインテグリンαVβ3と特異的に結合するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4を区別して検出するために、抗原としてヒトインテグリンαVβ3を用いる実験1で記載したELISA法において、検出用抗体として、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG1抗体(Anti-IgG1-HRP、AP006、Binding Site)、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG2抗体(Anti-IgG2-HRP、AP007、Binding Site)、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG3抗体(Anti-IgG3-HRP、AP008、Binding Site)、又は、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgG4抗体(Anti-IgG4-HRP、AP009、Binding Site)を使用し、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した以外は、実験1と同様の手順でELISA法を行った。
【0177】
IgG1の検出結果を図13Aに、IgG2の検出結果を図13Bに、IgG3の検出結果を図13Cに、IgG4の検出結果を図13Dにそれぞれ示す。図13A図13Dにおいて、縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=47)を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料(n=8)を示し、「他の腸疾患」は前記他の腸疾患患者血清試料(n=8)を示す。図13A図13Dにおいて、破線で示すカットオフ値は、前記他の腸疾患患者血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0178】
図13Aは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ3と結合するIgG1は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中39例で陽性(感度83%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0179】
図13Bは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ3と結合するIgG2は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中14例で陽性(感度30%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0180】
図13Cは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ3と結合するIgG3は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中16例で陽性(感度34%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0181】
図13Dは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ3と結合するIgG4は、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中3例で陽性(感度6%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0182】
これらの実験結果から、潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ3自己抗体のIgGサブクラスはIgG1が優勢であることが確認された。
【0183】
<実験14:潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ3自己抗体のアイソタイプ>
本実験では、潰瘍性大腸炎患者の血清中の抗ヒトインテグリンαVβ3自己抗体として、IgG以外のアイソタイプであるIgA、IgM、IgEを検出した。
【0184】
本実験では、潰瘍性大腸炎患者血清試料をn=47、クローン病患者血清試料をn=8、他の腸疾患(感染性腸炎、虚血性腸炎、ベーチェット病、好酸球性胃腸炎、クロンカイト・カナダ症候群、又は、IBDU)患者血清試料をn=8の母数で使用した。
この実験でも、潰瘍性大腸炎患者としては、原発性硬化性胆管炎の合併がない患者を選択した。
【0185】
ヒトインテグリンαVβ3と特異的に結合するIgA、IgM、IgEを検出するために、抗原としてヒトインテグリンαVβ3を用いる実験1で記載したELISA法において、検出用抗体として、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgA抗体(Goat anti-Human IgA Antibody HRP Conjugated、A80-102P、BETHYL)、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgM抗体(Goat anti-Human IgM Antibody HRP Conjugated、A80-100P、BETHYL)、又は、HRPとコンジュゲートされた抗ヒトIgE抗体(Goat anti-Human IgE Cross-Adsorbed Secondary Antibody, HRP、A18799、Invitrogen)を使用し、ELISA用洗浄溶液、ELISA用ブロッキングバッファー及びコンジュゲート希釈剤には、CaCl及びMgClをそれぞれの終濃度が1mMとなるように添加した以外は、実験1と同様の手順でELISA法を行った。
【0186】
IgAの検出結果を図14Aに、IgMの検出結果を図14Bに、IgEの検出結果を図14Cにそれぞれ示す。図14A図14Cにおいて、縦軸は固相上の検出用抗体量に比例する450nmでの吸光度の相対値を示す。「潰瘍性大腸炎」は潰瘍性大腸炎患者血清試料(n=47)を示し、「クローン病」はクローン病患者血清試料(n=8)を示し、「他の腸疾患」は前記他の腸疾患患者血清試料(n=8)を示す。図14A図14Cにおいて、破線で示すカットオフ値は、前記他の腸疾患患者血清試料の吸光度相対値の平均値に、標準偏差(SD)の3倍の値を加えた値である。
【0187】
図14Aは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ3と結合するIgAは、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中5例で陽性(感度11%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0188】
図14Bは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ3と結合するIgMは、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中10例で陽性(感度21%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0189】
図14Cは次の結果を示す。ヒトインテグリンαVβ3と結合するIgEは、潰瘍性大腸炎患者血清試料では47例中0例で陽性(感度0%)、クローン病患者血清試料では8例中8例で陰性、前記他の腸疾患患者血清試料では8例中8例で陰性であった。
【0190】
これらの実験結果から、潰瘍性大腸炎患者の抗ヒトインテグリンαVβ3自己抗体のアイソタイプとしてはIgA、IgM、IgEはいずれも少ないことが確認された。
【0191】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
【配列表】
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