(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】タップ切換台
(51)【国際特許分類】
H01F 29/02 20060101AFI20230724BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
H01F29/02 K
H01F27/28 128
(21)【出願番号】P 2017159368
(22)【出願日】2017-08-22
【審査請求日】2020-05-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕之
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】山田 正文
【審判官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-141428(JP,U)
【文献】実開平5-72058(JP,U)
【文献】実開昭48-38319(JP,U)
【文献】実開昭59-54917(JP,U)
【文献】実開昭58-66618(JP,U)
【文献】実開昭55-32007(JP,U)
【文献】特開平11-144783(JP,A)
【文献】特開2011-146230(JP,A)
【文献】特開平11-103700(JP,A)
【文献】実開昭60-186841(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F29/02
H01F27-28-27/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油入静止誘導機器で用いられるタップ切換台であって、
熱可塑性樹脂によって構成された台部と、
前記台部に埋設されたインサート金具である複数のタップ端子と、を有し、
前記インサート金具は、一端に形成された雌ネジ部と、他端に形成された、当該雌ネジ部と同軸である雄ネジ部とを有しており、
前記雌ネジ部は、前記台部表面に開口しており、
前記雄ネジ部は、前記台部表面から突出しており、
前記雌ネジ部の外周側は、抜け落ちを防止する構造であるローレットを有しており、
前記ローレットは、前記雌ネジ部の軸方向に連続したものではなく、凹凸の程度が熱可塑性樹脂の
熱劣化による減肉に起因する後退の程度よりも大きい、タップ切換台。
【請求項2】
前記台部は、取付対象に取り付けられる取付部を有しており、
前記取付部は、ネジ及びボルトを用いないで前記取付対象に取り付けられる、請求項1記載のタップ切換台。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、耐熱性、耐油性、電気絶縁性を有している、請求項1または請求項2記載のタップ切換台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器等の静止誘導機器において用いられるタップ切換台等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油入変圧器において絶縁性のタップ切換台(タップ台)が用いられていた(例えば、特許文献1,2参照)。そのような絶縁性のタップ切換台として、磁器製のものが一般に広く用いられている。磁器であれば、変圧器の運転に伴う経年劣化に耐えられるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-112060号公報
【文献】特開平6-112061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁器製のタップ切換台は、使用実績が豊富であり、また長期間にわたる高い信頼性を有するものであるが、設計の自由度が低く、また成型品の寸法精度が悪いという問題がある。さらに、変圧器の製作工程において割れる可能性があるという問題もある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、一の目的は、油入変圧器等の油入静止誘導機器において用いられる、磁器製でないタップ切換台を提供することである。また、他の目的は、その磁器製でないタップ切換台において好適に用いることができる部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の少なくとも一つを達成するため、本発明によるタップ切換台は、油入静止誘導機器で用いられるタップ切換台であって、熱可塑性樹脂によって構成された台部と、台部に設けられた複数のタップ端子と、を有するものである。
このように、台部の絶縁材料を熱可塑性樹脂とすることによって、設計の自由度が高くなり、磁器に比べて成形品の寸法精度も向上する。また、変圧器等の製作工程において割れる可能性が低くなる。
【0007】
また、本発明によるタップ切換台では、タップ端子は、台部に埋設されたインサート金具であってもよい。
このような構成により、熱可塑性樹脂の熱劣化等による減肉にも対応することができるようになる。
【0008】
また、本発明によるタップ切換台では、インサート金具は、一端に形成された雌ネジ部と、他端に形成された、雌ネジ部と同軸である雄ネジ部とを有しており、雌ネジ部は、台部表面に開口しており、雄ネジ部は、台部表面から突出していてもよい。
このような構成により、例えば、タップ線をインサート金具の雌ネジ部にボルトを用いて固定し、接続片をインサート金具の雄ネジ部にナットを用いて固定することができる。
【0009】
また、本発明によるタップ切換台では、インサート金具は、ナットであってもよい。
このような構成により、例えば、そのナットに取り付けたボルトによって、または、そのボルトに取り付けられた他のナットによって、タップ線や接続片を取り付けることができる。
【0010】
また、本発明によるタップ切換台では、台部は、取付対象に取り付けられる取付部を有しており、取付部は、ネジ及びボルトを用いないで取付対象に取り付けられてもよい。
台部の熱可塑性樹脂に直接設けられた孔にネジやボルトを挿入することによって取付対象への取り付けがなされた場合には、熱可塑性樹脂の熱劣化等による減肉によって、ネジやボルトが緩み、台部が取付対象から外れる可能性もある。一方、このような構成により、ネジやボルトを用いないで取付部が取付対象に取り付けられることによって、そのような問題が起きないようにすることができる。なお、ネジやボルトを用いない場合には、例えば、取付部は、嵌め込み構造やスナップフィット等を用いて取付対象に取り付けられてもよい。
【0011】
また、本発明によるタップ切換台では、熱可塑性樹脂は、耐熱性、耐油性、電気絶縁性を有していてもよい。
このように、熱可塑性樹脂が耐熱性、耐油性を有することにより、油入静止誘導機器の油中でタップ切換台を用いた際の熱可塑性樹脂の劣化を低減させることができる。また、熱可塑性樹脂が電気絶縁性を有することにより、タップ端子間での短絡を防止することができる。
【0012】
また、上記目的の少なくとも一つを達成するため、本発明によるインサート金具は、熱可塑性樹脂に埋設されるインサート金具であって、一端に形成された雌ネジ部と、他端に形成され、雌ネジと同軸である雄ネジ部と、を備えたものである。
このような構成により、熱可塑性樹脂に埋設された1個のインサート金具によって、それぞれ独立した雌ネジ部と雄ネジ部とを提供することができる。その結果、例えば、雄ネジ部に固定していたものを着脱する際に、雌ネジ部に固定していたものが緩むような事態を回避することができる。
【0013】
また、本発明によるインサート金具では、雌ネジ部の外周側は、抜け落ちを防止する構造を有していてもよい。
このような構成により、そのインサート金具を熱可塑性樹脂に埋設した場合に、熱可塑性樹脂が熱劣化等によって減肉したとしても、そのインサート金具が熱可塑性樹脂から抜け落ちないようにすることができる。その抜け落ちを防止する機構は、例えば、ローレット等であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるタップ切換台によれば、台部の絶縁材料を熱可塑性樹脂とすることによって、設計の自由度が高くなり、寸法精度も向上し、変圧器等の製作工程において割れる可能性を低減することができる。また、本発明によるインサート金具によれば、雌ネジ部と雄ネジ部とを備えたことによって、一方のネジ部を用いた固定対象の着脱の際に、他方のネジ部における固定が緩むことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態によるタップ切換台の上面側を示す斜視図
【
図2】同実施の形態によるタップ切換台の下面側を示す斜視図
【
図3】同実施の形態によるタップ切換台の取付方法の一例を示す図
【
図4】同実施の形態によるタップ切換台の使用方法の一例を示す図
【
図5A】同実施の形態によるインサート金具の一例を示す図
【
図5B】同実施の形態によるインサート金具の一例を示す図
【
図6】同実施の形態によるインサート金具の断面を示す図
【
図7】同実施の形態による他のタップ切換台の使用方法の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明によるタップ切換台等について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態によるタップ切換台は、熱可塑性樹脂によって構成された台部と、インサート金具である複数のタップ端子とを有するものである。
【0017】
図1、
図2はそれぞれ、本実施の形態によるタップ切換台1の上面側及び下面側の斜視図である。タップ切換台1は、油入静止誘導機器で用いられるものである。タップ切換台1は、通常、油入静止誘導機器における絶縁油が入っている容器(タンク)内の油面下に設置される。なお、本実施の形態では、油入静止誘導機器が油入変圧器である場合について主に説明する。タップ切換台1は、台部2と、複数のタップ端子3-1~3-7とを備える。複数のタップ端子3-1~3-7を特に区別しない場合には、タップ端子3と呼ぶものとする。なお、本実施の形態によるタップ切換台1は、無負荷、無電圧状態でタップを切り換えるために用いられる。
【0018】
台部2は、熱可塑性樹脂によって構成される。その台部2は、熱可塑性樹脂を射出成形することによって製造したものであってもよい。そのような射出成形によって製造することによって、磁器製のタップ切換台と比較して、大幅なコストダウンを実現することができる。また、設計の自由度も高まることになる。なお、台部2の形状は問わないが、例えば、複数のタップ端子3が平面状に配置される平面部を有していてもよい。
【0019】
その熱可塑性樹脂は、耐熱性、耐油性、電気絶縁性を有していることが好適である。その耐熱性等は、油入変圧器等の油中においてタップ切換台1が用いられる際に要求される程度のものである。より具体的には、熱可塑性樹脂は、油入変圧器等の油温に耐えられる程度の耐熱性を有していることが好適である。また、熱可塑性樹脂は、油入変圧器等で用いられる絶縁油への耐油性を有していることが好適である。さらに、熱可塑性樹脂は、油入変圧器等の絶縁油中において、タップ端子3間での短絡が起こらない程度の電気絶縁性を有していることが好適である。熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂であってもよく、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂であってもよく、それらを主成分とする樹脂であってもよい。また、熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性のエンジニアリングプラスチック(エンプラ)やスーパーエンジニアリングプラスチックであってもよい。また、熱可塑性樹脂には、強化剤が入っていてもよい。その強化剤は、例えば、ガラス繊維や無機質フィラーなどであってもよい。
【0020】
台部2は、取付対象に取り付けられる取付部2aを備えている。取付対象は、タップ切換台1が取り付けられる対象となるものであれば特に限定されないが、例えば、油入静止誘導機器における絶縁油の入っている容器に収容されているもの、例えば、変圧器本体や巻線部、巻線の巻回されているフレーム等であってもよい。また、取付部2aを取付対象に取り付けるとは、取付部2aを取付対象に直接、取り付けることであってもよく、他の1以上のものを介して、取付部2aを取付対象に間接的に取り付けることであってもよい。取付部2aの取付対象への取り付けは、取り外し可能なものであってもよく、または、そうでなくてもよい。
【0021】
取付部2aは、ネジやボルトによって取付対象に取り付けられてもよく、または、ネジ及びボルトを用いないで取付対象に取り付けられてもよい。本実施の形態では、後者の場合、すなわちネジもボルトも用いないで取付部2aが取付対象に取り付けられる場合について主に説明する。ネジやボルトを用いないで取付対象に取付部2aを取り付ける方法としては、
図3で示されるように取付部2aを取付板5,6に嵌め込んで固定する方法や、スナップフィットによって取付部2aを取付対象に取り付ける方法、ワイヤや他の結束具等によって取付部2aを取付対象に取り付ける方法などがある。本実施の形態では、取付板5,6を用いる場合について主に説明する。本実施の形態による台部2は、外方に突出した4個の板状の端部である取付部2aを有している。また、取付板5,6にはそれぞれ、その板状の端部を挿入可能な凹部が2個ずつ形成されており、その凹部にそれぞれ取付部2aの板状の端部が挿入されることによって、取付部2aが取付板5,6に取り付けられることになる。したがって、
図3においては、取付部2aが嵌め込み構造によって取付対象に取り付けられることになる。なお、その取付板5,6は、例えば、取付板5,6に埋設されたインサートナットを用いて取付対象に取り付けられてもよく、または他の方法によって取付対象に取り付けられてもよい。
図3で示されるように取付部2aが取付板5,6に取り付けられる場合には、台部2は、間接的に取付対象に取り付けられることになる。取付板5,6は、例えば、熱可塑性樹脂によって構成されてもよく、または、他の材料によって構成されてもよい。その取付板5,6も、耐熱性、耐油性、電気絶縁性を有していることが好適である。
【0022】
タップ端子3は、台部2に埋設されたインサート金具である。台部2に配置されるタップ端子3の個数は問わない。
図1で示されるように、7個であってもよく、6個以下であってもよく、8個以上であってもよい。タップ端子3は、変圧器等のタップから引き出されたタップ線を接続したり、複数のタップ線を電気的に接続する接続片を固定したりするために用いられる端子である。タップ線の接続や接続片の固定は、例えば、ボルトやナットを用いて行われてもよい。その接続片は、タップ端子間を電気的に接続するものであり、タップの切り換えのために用いられる。ここで、タップ端子3として、インサート金具を用いる理由について説明する。熱可塑性樹脂は、熱劣化等によって減肉する可能性がある。したがって、熱可塑性樹脂製の台部2に直接ボルトを通してナットで締め付けても、その減肉によってナットに緩みが生じ、タップ線等が外れる可能性がある。そのため、タップ端子3として、台部2の熱可塑性樹脂に埋設されたインサート金具を用いる。そのようにインサート金具を用いることによって、熱可塑性樹脂に減肉が生じても、ボルトやナットがインサート金具に固定されている場合には、その減肉に応じた緩みが発生せず、タップ線等が外れることを防止することができる。したがって、インサート金具であるタップ端子3にナットやボルトを取り付ける場合には、タップ端子3とナットやボルトとの間に樹脂が存在しないことが好適である。ここで、熱可塑性樹脂の減肉とは、熱劣化や経年劣化等により、熱可塑性樹脂が痩せ、熱可塑性樹脂の表面が樹脂の内方に向かって後退することである。その減肉により、例えば、熱可塑性樹脂が薄くなったり、熱可塑性樹脂に設けられた開口部等のサイズがより大きくなったりすることになる。その結果、上記のような問題が起こりうることになるが、インサート金具を用いることによって、その問題を解決することができる。なお、インサート金具の材料は、電気伝導性と適度な硬度とを有しているものであることが好適である。そのような材料は特に限定されないが、例えば、黄銅(真鍮)であってもよく、他の材料であってもよい。適度な強度とは、例えば、ボルトやナットの締め付けによっても、表面やネジ部分、全体形状が変形しない程度の強度であってもよい。また、タップ端子3であるインサート金具は、熱可塑性樹脂の射出成形時に埋め込まれる成形時インサートであることが好適である。インサート金具が熱可塑性樹脂により強固に固定されるからである。
【0023】
タップ端子3として用いられるインサート金具(以下、「インサート金具3」とすることもある)は、例えば、(1)
図1、
図2で示される、雌ネジ部3a、雄ネジ部3bを有するものであってもよく、(2)雌ネジ部を有するナット(インサートナット)であってもよく、(3)雄ネジ部を有するボルトであってもよく、(4)円筒形状の貫通孔を有するもの(例えば、内周面にねじ切りのされていない点以外はナットと同様の形状のものなど)であってもよい。本実施の形態では、(1)の場合について主に説明するため、ここでは、(2)(3)(4)について簡単に説明する。(2)の場合には、熱可塑性樹脂に埋設されたナットの両端または一端が、台部2の表面に開口していることが好適である。すなわち、ナットの雌ネジ部が台部2の表面に開口していることが好適である。例えば、そのナットにボルトを回し込むことによって、または、そのボルトに1以上のナットを締め付けることによって、タップ線や接続片を固定するようにしてもよい。また、(3)の場合には、熱可塑性樹脂にボルトの頭部が埋設され、雄ネジ部が台部2の表面から突出していることが好適である。例えば、そのボルトに1以上のナットを締め付けることによって、タップ線や接続片を固定するようにしてもよい。なお、そのボルトが有する雄ネジ部の個数は1個であってもよく、2個であってもよい。後者の場合には、そのボルトは、オス・オスタイプのネジ継手と類似した形状であってもよい。また、(4)の場合には、熱可塑性樹脂に埋め込まれたインサート金具の有する円筒形状の貫通孔の両端が、台部2の表面に開口していることが好適である。そのインサート金具が複数埋設されたタップ切換台は、従来のボルト用の孔が設けられた磁器製のタップ切換台と同様のものであり、その貫通孔にボルトを通すことによってタップ線や接続片を固定することができる。このように、インサート金具3は、例えば、上記(1)~(3)のようにネジ部を有するものであってもよく、または、上記(4)のようにネジ部を有さないものであってもよい。ネジ部は、雌ネジ部及び雄ネジ部の少なくとも一方であってもよい。
【0024】
次に、上記(1)のインサート金具3について説明する。
図5Aは、上記(1)のインサート金具3の外観を示す図であり、
図6は、
図5Aで示されるインサート金具3の雌ネジ部3a及び雄ネジ部3bの中心軸(回転軸)を通る断面を示す断面図である。
図5Aで示されるように、インサート金具3は、雄ネジ部3bと、その雄ネジ部3bの首側(ネジ先と逆の側)に設けられた基部3dとを有する。その基部3dの雄ネジ部3bと反対側には、雌ネジ部3aが設けられている。したがって、インサート金具3は、一端に形成された雌ネジ部3aと、他端に形成された雄ネジ部3bとを有していることになる。雌ネジ部3aは、貫通しておらず、底部3cを有する。インサート金具3の両端に設けられている雌ネジ部3aと雄ネジ部3bとは、その雌ネジ部3aの底部3c側と雄ネジ部3bの首側とが繋がることによって接続されている。したがって、上記(1)のインサート金具3は、雌ネジ部3aを有する袋ナットである基部3dに雄ネジ部3bが連なった状態で設けられているということもできる。なお、雌ネジ部3aと雄ネジ部3bとは同軸である。すなわち、雌ネジ部3aの中心軸と、雄ネジ部3bの中心軸とは、同一直線上に存在する。雌ネジ部3aの径及びピッチと、雄ネジ部3bの径及びピッチとは、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、本実施の形態では、基部3dの外形が、雌ネジ部3aや雄ネジ部3bと同軸の円筒形状である場合について主に説明するが、そうでなくてもよい。基部3dの外形は、直方体形状や多角柱形状等であってもよい。なお、
図5A等では、ねじ切りのされていない棒状の先端(棒先)を有する雄ネジ部3bについて示しているが、雄ネジ部3bの先端側の形状は問わない。例えば、雄ネジ部3bの先端の形状は、例えば、面取りのなされた面取り先であってもよく、球面状になった丸先であってもよく、その他の形状であってもよい。
【0025】
インサート金具3が台部2の熱可塑性樹脂に埋設された場合に、
図1、
図2で示されるように、雌ネジ部3aが台部2の表面に開口し、雄ネジ部3bが台部2の表面から突出していることが好適である。雌ネジ部3aにボルトを入れることができ、また、雄ネジ部3bにナットを締め付けることができるようにするためである。したがって、雌ネジ部3aが台部2の表面に開口しているとは、雌ネジ部3aにボルトを挿入できることを意味していてもよい。また、雄ネジ部3bが台部2の表面から突出しているとは、その雄ネジ部3bにナットを取り付けられることを意味していてもよい。また、
図1、
図2で示されるように、雌ネジ部3aが台部2の下面側に開口している場合には、雄ネジ部3bは、台部2の反対側の面である上面側から突出することになる。また、
図1、
図2で示されるように、インサート金具3が熱可塑性樹脂に埋設される場合に、インサート金具3の埋設される箇所の周囲にボス2bが形成されていてもよい。例えば、台部2における熱可塑性樹脂の厚さを薄くする場合には、そのようなボス2bを設けることによって、インサート金具3をより強固に熱可塑性樹脂に固定することができる。なお、インサート金具3が上記(1)のものである場合には、そのボス2bは貫通しているものとなる。
【0026】
雌ネジ部3aの外周側は、抜け落ちを防止する構造を有していることが好適である。なお、雌ネジ部3aの外周側とは、雌ネジ部3aが設けられている基部3dの外面である。基部3dの外面がそのような構造を有することにより、インサート金具3の基部3dの部分が台部2の熱可塑性樹脂に埋設された場合に、インサート金具3が台部2から抜け落ちることを防止することができる。その構造は、例えば、
図5Aで示されるように、ローレット11であってもよく、
図5Bで示されるように、基部3dの外周に設けられた1以上の溝部12であってもよく、その他の突起や凸部、凹部等であってもよい。その構造によって、インサート金具3が雄ネジ部3b等の軸方向に抜け落ちることを防止するため、ローレット11や溝部12等は、その軸方向に連続したものではないことが好適である。また、ローレット11や溝部12、突起、凸部、凹部等の凹凸の程度は、熱可塑性樹脂の減肉に起因する基部3dの外周面における熱可塑性樹脂の後退の程度よりも大きいことが好適である。熱可塑性樹脂が基部3dの外周側において減肉したとしても、抜け落ちを防止する構造が熱可塑性樹脂に食い込んでいることが好適だからである。
【0027】
次に、本実施の形態によるタップ切換台1の使用方法について簡単に説明する。
図4は、本実施の形態によるタップ切換台1の使用方法の一例を説明するための図である。
図4において、タップ端子3-1の雄ネジ部3bにナットで固定されたリード線(図示せず)は、第1のブッシングを介して変圧器等の外部に引き出される。同様に、タップ端子3-2の雄ネジ部3bにナットで固定されたリード線(図示せず)は、第2のブッシングを介して変圧器等の外部に引き出される。また、タップ端子3-1の雌ネジ部3aにねじ込まれたボルトによって、巻線の一端が固定される。また、その巻線の複数のタップから引き出された複数のタップ線がそれぞれ、タップ端子3-4,3-5,3-6,3-7の雌ネジ部3aにねじ込まれたボルトによって固定される。また、タップ端子3-2とタップ端子3-3とは、タップ端子3-2の雌ネジ部3aにねじ込まれたボルト、及びタップ端子3-3の雌ネジ部3aにねじ込まれたボルトによってそれぞれ両端が固定されたリード線によって電気的に接続される。そして、タップ端子3-3と、4個のタップ端子3-4,3-5,3-6,3-7のいずれかとを接続片7によって接続することによって、所望のタップを選択でき、変圧器等の変圧比を変更できるようになる。例えば、二次側を規定の電圧にするために、一次側の電圧が6000Vであればタップ端子3-3,3-4の間を接続し、6300Vであればタップ端子3-3,3-5の間を接続し、6600Vであればタップ端子3-3,3-6の間を接続し、6900Vであればタップ端子3-3,3-7の間を接続すると設定されていてもよい。
図4では、タップ端子3-3とタップ端子3-7とが接続片7によって接続されている。その接続片7は、それぞれタップ端子3-3及びタップ端子3-7の雄ネジ部3bに取り付けられたナット8によって固定されている。なお、その接続片7等は、すでに公知であり、詳細な説明を省略する。タップを切り換える場合には、ナット8を緩めて接続片7をタップ端子3-7から外し、所望のタップに応じたタップ端子3に接続片7を付け替えることになる。なお、複数のタップ端子3の接続関係は、上記の説明以外のものであってもよい。
【0028】
なお、本実施の形態では、
図1や
図4で示されるように、接続片7の接続されるタップ端子3が扇形に配置される場合について説明したが、そうでなくてもよい。台部2において、
図7で示されるように複数のタップ端子3が千鳥状に配置されてもよく、複数のタップ端子3がその他の形状に配置されてもよい。
図7において、タップ端子3-11,3-12がそれぞれタップ端子3-1,3-2に対応する端子である。また、タップ端子3-13~3-16にそれぞれタップ線が接続される。具体的には、第1のコイル(図示せず)の一端がタップ端子3-11の雌ネジ部3a側に固定され、第1のコイルの他端及び1本のタップ線がそれぞれ、タップ端子3-14,3-16の雌ネジ部3a側に固定されてもよい。また、第2のコイル(図示せず)の一端がタップ端子3-12の雌ネジ部3aに固定され、第2のコイルの他端及び1本のタップ線がそれぞれ、タップ端子3-13,3-15の雌ネジ部3aに固定されてもよい。そして、タップ端子3-13,3-14の間、タップ端子3-14,3-15の間、または、タップ端子3-15,3-16の間を接続片7によって接続させることによって、所望のタップが選択され、変圧器等の変圧比が変更されるようになってもよい。なお、例えば、第1及び第2のコイルは両方、一次側のコイルであってもよい。
【0029】
以上のように、本実施の形態によるタップ切換台1によれば、熱可塑性樹脂によって絶縁性の台部2を構成することによって、設計の自由度が高くなる。したがって、例えば、タップ切換台1の形状を、タップ切換台1を配置する箇所等に適合するものとすることも可能になる。また、磁器製のタップ切換台と比較して、寸法精度が向上することになる。そのため、例えば、油入静止誘導機器の容器内部を、より精度高く設計することが可能となる。また、磁器製のタップ切換器と比較して、コストダウンすることもでき、また、静止誘導機器の製作工程において割れる可能性もほぼなくなるため、生産性も向上することになる。また、磁器に比べてコンパクトなタップ切換台を提供することも可能となる。さらに、インサート金具を用いることによって、熱可塑性樹脂の減肉の問題にも対応することができる。また、一端に雌ネジ部3aが構成され、他端に雄ネジ部3bが構成されたインサート金具3を用いることによって、例えば、同じタップ端子3にタップ線と接続片とを取り付けた場合であっても、接続片の着脱の際にタップ線の固定が緩むことを防止することができる。具体的には、1本のボルトに、タップ線と接続片の両方を接続した場合には、接続片の着脱の際に、タップ線の締め付けが緩む可能性もある。一方、雌ネジ部3aと雄ネジ部3bとを有するインサート金具3を用いることによって、タップ線と接続片とをそれぞれ別々に接続することができ、接続片の着脱の際にタップ線の締め付けが緩む事態を回避することができる。また、インサート金具3の雌ネジ部3aと雄ネジ部3bとが同軸であることによって、雌ネジ部3aの位置を容易に把握でき、組み立て時の作業性が向上することになる。また、インサート金具3の雌ネジ部3aの外周側にローレットなどの抜け落ちを防止する構造が設けられていることによって、インサート金具3が台部2から抜け落ちることを防止することができる。また、台部2が、ネジやボルトを用いないで取付対象に取り付けられる取付部2aを備えていることによって、取付部2aを取付対象に取り付ける際に、インサート金具を用いなくてもよいことになる。また、その取付方法が、
図3で示されるように突出部を凹部に挿入する方法やスナップフィットである場合には、取付部2aをより簡単に取り付けることができるようになり、静止誘導機器の製造時の作業性を向上させることができる。
【0030】
なお、本実施の形態では、雌ネジ部3aと雄ネジ部3bとを有するインサート金具3を、すべて同じ向きとなるように台部2に配置する場合について説明したが、そうでなくてもよい。例えば、
図1において、タップ端子3-1,3-2については、反対向きに、すなわち雄ネジ部3bが下面側から突出するように台部2に設けられてもよい。
【0031】
また、上記実施の形態では、取付部2aがネジやボルトを用いないで取付対象に取り付けられる場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。取付部は、ネジまたはボルトによって取付対象に取り付けられてもよい。その場合には、熱可塑性樹脂の減肉の問題があるため、取付部にもインサート金具を埋設し、そのインサート金具にネジやボルトを通すことによって、そのネジやボルトによって台部2を取付対象に取り付けるようにしてもよい。そのインサート金具は、例えば、インサートナットであってもよく、または、円筒形状の貫通孔を有する部材であってもよい。そのインサートナット等は、台部2において、タップ端子3が配置されている面と同じ面に設けられてもよい。その場合には、そのインサートナット等の箇所が、取付部であると考えてもよい。
【0032】
また、本実施の形態では、油入静止誘導機器が油入変圧器である場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。油入静止誘導機器は、例えば、油入リアクトルであってもよい。
【0033】
また、本実施の形態では、タップ端子3がインサート金具によって構成される場合について説明したが、そうでなくてもよい。インサート金具でないタップ端子が台部2に設けられてもよい。その場合には、タップ端子は、台部2に固定されていてもよく、または、台部2に対して動きうる状態で取り付けられていてもよい。いずれの場合であっても、タップ端子は、台部2から分離されないように台部2に取り付けられていることが好適である。また、タップ端子とタップ線や接続片との接続は、上記説明のように、ボルトやナットによって行われてもよく、または、その他の方法によって行われてもよい。
【0034】
また、本実施の形態では、雌ネジ部3aと雄ネジ部3bとを有するインサート金具3が、タップ切換台1において用いられる場合について説明したが、そうでなくてもよい。そのインサート金具3は、他の装置において他の用途のために熱可塑性樹脂に埋設されて用いられてもよい。他の用途は、インサート金具3に固定対象を固定することであってもよく、インサート金具3を電気的な端子として用いることであってもよく、その他の用途であってもよい。タップ切換台1以外でインサート金具3が用いられる場合であっても、雌ネジ部3aが熱可塑性樹脂の表面に開口し、雄ネジ部3bが熱可塑性樹脂の表面から突出するように、インサート金具3の基部3dが熱可塑性樹脂に埋設されることが好適である。そのようなインサート金具3を用いることによって、熱可塑性樹脂によって構成される構成品において、熱可塑性樹脂の減肉によって生じる問題を解決することができる。また、一方のネジ部を用いた固定対象の着脱の際に、他方のネジ部における固定が緩むことを防ぐことができる。
【0035】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上より、本発明によるタップ切換台によれば、台部の絶縁材料を熱可塑性樹脂とすることによって、設計の自由度が高くなるなどの効果が得られ、例えば、油入変圧器等において用いられるタップ切換台等として有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 タップ切換台
2 台部
2a 取付部
3 タップ端子(インサート金具)
3a 雌ネジ部
3b 雄ネジ部
3d 基部
11 ローレット
12 溝部