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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】新規肉質改良剤およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/52 20060101AFI20230724BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20230724BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230724BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
C12N9/52 ZNA
C12N9/50
A23L33/10
C12N15/57
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018229604
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020089326
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松山 勇介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 大樹
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-276899(JP,A)
【文献】UniProt [online], Accession No.A0A1E7LF33_9ACTN,2017年01月18日,<URL: https://rest.uniprot.org/unisave/A0A1E7LF33?format=txt&versions =5>,[検索日 2022.11.16]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~()のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつエラスチンの分解活性を有するポリペプチド、およびコラーゲンの分解活性を有するポリペプチドを含有することを特徴とする、エラスチンの分解活性およびコラーゲンの分解活性を有する組成物。
(a)配列番号1記載のアミノ酸配列
(b) 配列番号1 記載のアミノ酸配列において1 ~ 1 0 個のアミノ酸残基が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列
)配列番号1記載のアミノ酸配列のC末端側が切断され、かつSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で示される分子量が14kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
)配列番号1記載のアミノ酸配列のN末端側が切断され、かつSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で示される分子量が11kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
【請求項2】
エラスチンの分解活性を有するポリペプチドが、至適反応pHがpH7.0~11.0であり、かつ至適反応温度が50~80℃である酵素である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の組成物で食肉を処理する、食肉の軟化方法。
【請求項4】
以下の(a)~()のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつエラスチンに対して分解活性を有するポリペプチド、およびコラーゲンに対して分解活性を有するポリペプチドで食肉を処理する、食肉の軟化方法。
(a)配列番号1記載のアミノ酸配列
(b) 配列番号1 記載のアミノ酸配列において1 ~ 1 0 個のアミノ酸残基が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列
)配列番号1記載のアミノ酸配列のC末端側が切断され、かつSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で示される分子量が14kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
)配列番号1記載のアミノ酸配列のN末端側が切断され、かつSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で示される分子量が11kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉質改良剤およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に食されている肉は、骨格に付着している骨格筋、消化管、血管、子宮などの中空の器官壁に存在する平滑筋、心臓を構成する骨格筋に分類される。通常は骨格筋が正肉とされ、平滑筋は、いわゆるホルモンとして利用される。骨格筋は、筋繊維と、スジや腱などの硬質タンパク質を主とする結合組織である間質とで構成される。硬質タンパク質としては、エラスチンやコラーゲンがあげられるが、これら硬質タンパク質は、エンドペプチダーゼ等の酵素の作用を受けにくい。硬質タンパク質を軟らかくするためには長時間の煮込みや加圧下での煮込みが必要であるとされるが、簡便さに欠ける。
【0003】
そこで、肉にコラーゲンを分解する活性を有する酵素を作用させることが知られている(特許文献1参照)。該文献記載の発明は、肉まんの中具にコラーゲンを分解する活性を有する酵素を作用させるものであり、肉まんの中具に含まれる肉塊程度の大きさの肉であれば、十分に機能が発揮される。しかし、より大きい肉片においては、コラーゲンを分解する活性を有する酵素だけでは分解できないエラスチンが残存すると食感に影響が出やすい。
【0004】
エラスチンの分解については、カゼイン、エラスチン、フィブリン、変性コラーゲンを分解する、豚の膵臓由来のエラスターゼの使用が特許文献2にて提案されている。しかし、該特許文献ではエラスターゼの入手先や具体的な性質に関する記載はなされていない。
【0005】
また、アルカリ性バチルス属細菌が産生するエラスターゼはエラスチン分解力が強いとの報告があり(特許文献3および4参照)、特許文献4では、コラゲナーゼとエラスターゼとを組み合わせることによってコラーゲンとエラスチンを効率良く分解して低品質の食肉を軟化できると示唆されている。しかし、特許文献3(とくに実施例3)に記載されているとおり、該特許文献4記載の発明で使用されている酵素は、かなり広範囲のペプチド結合に作用するものであり、依然としてエラスチンのみならず筋細胞も分解するとの問題は依然残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-014986号公報
【文献】特開平4-197156号公報
【文献】特開平3-224465号公報
【文献】特開平5-276899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、食肉における硬質タンパク質からなるスジや腱などの部位の分解活性は高いが、筋原線維の分解活性は低い組成物、または該組成物を用いる食肉の軟化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)~(4)に関する。
(1)以下の(a)~(e)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつエラスチンの分解活性を有するポリペプチド、およびコラーゲンの分解活性を有するポリペプチドを含有することを特徴とする、エラスチンの分解活性およびコラーゲンの分解活性を有する組成物。
(a)配列番号1記載のアミノ酸配列
(b)配列番号1記載のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸残基が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性または相同性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号1記載のアミノ酸配列のC末端側が切断され、かつ分子量約14kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
(e)配列番号1記載のアミノ酸配列のN末端側が切断され、かつ分子量約11kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
【0009】
(2)エラスチンに対して分解活性を有するポリペプチドが、至適反応pHがpH7.0~11.0であり、かつ至適反応温度が50~80℃である酵素である、上記(1)の組成物。
(3)上記(1)または(2)の組成物で食肉を処理する、食肉の軟化方法。
【0010】
(4)以下の(a)~(e)のいずれかのアミノ酸配列を有し、かつエラスチンに対して分解活性を有するポリペプチド、およびコラーゲンに対して分解活性を有するポリペプチドで食肉を処理する、食肉の軟化方法。
(a)配列番号1記載のアミノ酸配列
(b)配列番号1記載のアミノ酸配列において1~10個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1記載のアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性または相同性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号1記載のアミノ酸配列のC末端側が切断され、かつ分子量約14kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
(e)配列番号1記載のアミノ酸配列のN末端側が切断されたアミノ酸配列を有し、かつ分子量約11kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
【発明の効果】
【0011】
本発明のエラスチンの分解活性およびコラーゲンの分解活性を有する組成物は、食肉における硬質タンパク質からなるスジや腱などの部位の分解活性は高いが筋原線維の分解活性は低いため、食肉と接触させて処理するという簡便な方法で、スジや腱が多い食肉を食に適した状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、エラスチン分解活性を示すポリペプチドのSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果を示す図である。
図2図2は、各処理溶液における筋原繊維の分解性を示す図である。
図3図3は、各処理溶液におけるエラスチンの分解性を示す図である。
【0013】
図4図4は、エラスチン分解活性のpHによる相対活性を示す図である。
図5図5は、エラスチン分解活性の温度による相対活性を示す図である。
図6図6は、エラスチン分解活性の温度安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の組成物は、少なくともエラスチンを特異的に加水分解する活性を有するポリペプチド(以下、エラスチン分解活性を有するポリペプチドという)およびコラーゲンを特異的に加水分解する活性を有するポリペプチド(以下、コラーゲン分解活性を有するポリペプチドという)の2種類のポリペプチドを含有することにより、エラスチンの分解活性およびコラーゲンの分解活性を有する組成物である。
【0015】
本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドは、エラスチン分解活性において、以下の性質を示すポリペプチドである。
至適反応pH:pH7.0~11.0
至適反応温度:50~80℃
pH安定性:pH7.0以下で安定
温度安定性:5~60℃で安定
【0016】
ここで、至適反応pHとは、pH8.0の活性値を100%として、該活性値の80%以上の活性を維持するpHをいう。また、至適反応温度とは、70℃の活性値を100%として、該活性値の80%以上の活性を維持する温度をいう。また、pH安定性とは、所定のpHで25℃、24時間放置した後でも、反応前の活性値の90%以上が保たれるpHをいう。また、温度安定性とは、pH7.5で所定の温度で10分間置いた後でも、保温前の活性値の70%以上が保たれる温度をいう。
【0017】
本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドは、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において、約18kDa、約14kDa、または約11kDaのいずれかの分子量を示すポリペプチドである。それぞれの分子量を有するポリペプチドは単量体として存在してもよいが、二量体または三量体を形成して存在してもよい。
【0018】
本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドは、具体的には、以下の(a)~(e)のいずれかのアミノ酸配列であって、かつエラスチンに対して分解活性を有するポリペプチドである。
【0019】
なお、以下に示す配列番号1記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動において約18kDaの分子量を示すポリペプチドである。
(a)配列番号1記載のアミノ酸配列
(b)配列番号1記載のアミノ酸配列において1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個のアミノ酸が付加、欠失または置換されたアミノ酸配列
(c)配列番号1記載のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%の配列同一性または配列相同性を有するアミノ酸配列
(d)配列番号1記載のアミノ酸配列のC末端側が切断され、かつ分子量約14kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
(e)配列番号1記載のアミノ酸配列のN末端側が切断されたアミノ酸配列を有し、かつ分子量約11kDaのポリペプチドを構成するアミノ酸配列
【0020】
上記(b)におけるアミノ酸の欠失、置換または付加は同時に生じてもよく、置換または付加されるアミノ酸は天然型と非天然型とを問わない。天然型アミノ酸としては、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、L-システインなどがあげられる。
【0021】
また、上記(c)におけるアミノ酸配列の相同性または同一性は、例えば、配列番号1の配列に対して、クエリー配列(評価対象の配列)を、BLAST、FASTA、CLUSTAL等の解析ソフトを用いて適切にアラインメントし、算出することができる。なお、本願においては、CLUSTALアルゴリズムで算出された値を用いている。
【0022】
本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドは、公知の遺伝子工学的手法に準じてEscherichia coli等により生合成させて得てもよいし、Boc法やFmoc法等といった化学合成的手法を用いてもよい。化学合成的手法を用いる場合は、ペプチド合成装置を用いると簡便である。
【0023】
本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドは、上記手法以外に、Streptomyces属の微生物から単離することができる。例えば、Streptomyces erythraeusStreptomyces griseusStreptomyces omiyaensisStreptomyces fradiaeStreptomyces roseoflavusなどがある。
【0024】
これらの微生物を培養する培地は、該微生物の細胞が資化できる炭素源、窒素源、無機塩類を含有する培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0025】
炭素源としては、ブドウ糖、酢酸、エタノ-ル、グリセロ-ル、糖蜜、亜硫酸パルプ廃液等が用いられ、窒素源としては、尿素、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸塩などが用いられる。リン酸、カリウム、マグネシウム源としては、過リン酸石灰、リン酸アンモニウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の通常の工業用原料でよく、必要に応じて亜鉛、銅、マンガン、鉄イオン等の無機塩を添加する。さらに、必要に応じて、ビタミン、アミノ酸、核酸関連物質等を添加してもよい。カゼイン、酵母エキス、肉エキス、ペプトン等の有機物を添加してもよい。
【0026】
培養条件は、培地の種類、培養方法などにより適宜選択すればよく、上記微生物の細胞が増殖し、本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドを産生できる条件であれば特に制限はない。例えば、pHは、3.0~9.0、好ましくは5.0~8.5、より好ましくは6.0~8.0に調整し、液体培地中で振盪培養または通気攪拌培養などの好気的条件下で、25~35℃、好ましくは27℃~30℃で6~96時間培養する。pHは、培養中、一定になるよう調整してもよい。pHの調整は、無機酸または有機酸、アルカリ溶液などを用いて行うことができる。
【0027】
培養後、培養液を、遠心分離、フィルタープレスなど、一般的な固液分離方法に供し、培養上清を得る。培養上清は、そのまま本発明の組成物の調製に用いることができるが、限外ろ過、疎水クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等により精製し、得られた精製処理物を、そのまま、または酵素活性を損なわない乾燥方法で乾燥物として、本発明の組成物の調製に用いてもよい。
【0028】
本発明に用いられるコラーゲン分解活性を有するポリペプチドは、コラーゲン類を特異的に加水分解する活性を有し、かつ筋原線維のタンパク質であるアクチンやミオシンの分解活性は低いポリペプチドであればいずれのポリペプチドでも用いることができる。コラーゲン類としては、コラーゲン、低分子コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲンやゼラチンを加水分解したコラーゲンペプチドがあげられる。
【0029】
本発明に用いられるコラーゲン分解活性を有するポリペプチドは、ヒト、ウシ、ブタ、マウス等の動物組織、クロストリジウム(Clostridium)属、ストレプトミセス(Streptomyces)属等の細菌、放線菌、真菌等から酵素精製の常法に準じて調製して用いてもよい。本発明に用いられるコラーゲン分解活性を有するポリペプチドは、市販のコラーゲン分解活性を有する酵素や酵素製剤を用いてもよい。
【0030】
本発明に用いられるコラーゲン分解活性を有するポリペプチドの至適反応温度や至適反応pHは、本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドの至適反応温度に合わせ、比較的高温およびアルカリ側のpHにあることが好ましい。
【0031】
市販のコラゲナーゼまたはコラゲナーゼ製剤としては、例えば、クロストリジウム・ヒストリティカム(Clostridium histolyticum)由来、ストレプトミセス(Streptmyces)属由来、アクロモバクター(Achromobacter)属等に由来するコラゲナーゼまたはコラゲナーゼ製剤等があげられる。
【0032】
本発明の組成物は、例えば、本発明に用いられるエラスチン分解活性を有するポリペプチドと本発明に用いられるコラーゲン分解活性を有するポリペプチドを混ぜ合わせる等の方法により調製することができる。
【0033】
本発明の組成物は、本発明の効果であるエラスチン分解活性およびコラーゲン分解活性が妨げられず、かつ不要に筋原線維の分解活性を付与しない限り、必要に応じて他の成分、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類等の糖類、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等の澱粉類、ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール類、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸等の有機酸及びその塩、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸、縮合リン酸およびそれらの塩等のpH調整剤、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC(アスコルビン酸)等のビタミン類、カルシウム、ナトリウム等のミネラル類又はその塩、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、キシリトール、トレハロース、パラチノース等の甘味料、香辛料、香料、色素等を含有してもよい。
【0034】
本発明中の組成物中の各ポリペプチドの含有量は、それぞれのポリペプチドのエラスチン分解活性およびコラーゲン分解活性の比活性(単位ポリペプチドあたりの酵素活性)にもよるが、通常、本発明の組成物1gあたり、エラスチンまたはコラーゲンの分解活性として、それぞれ0.1~1000ユニット(U)、より好ましくは1~100ユニット(U)となる量が好ましい。
【0035】
エラスチンの分解活性は、細粒化したエラスチンに色素であるコンゴーレッドを付着させたエラスチンコンゴーレッド(ナカライテスク社)を基質として用いて、495nmの吸光度を1時間に1変化させる活性を1ユニット(U:酵素活性単位)として算出できる。
【0036】
また、コラーゲンの分解活性は、コラーゲンタイプI型ウシ真皮由来(ペプシン可溶化)を基質として用いて、1分間に1μmolのL-ロイシンが生じる量を1ユニット(U)として算出できる。
本発明の組成物は、粉体、粒体、粉粒体等の固体状であっても、水、緩衝液等の水性媒体に分散または溶解された溶液状であってもよい。本発明の組成物が水性媒体に分散または溶解されている場合、該水性媒体のpHは、3~11程度であることが好ましい。
【0037】
本発明の組成物を、食肉と適当な条件下で接触させることにより、該食肉のスジや腱等の結合組織を分解して食しやすい食肉にすることができる。すなわち、本発明の組成物は、食肉の品質改良剤、好ましくは食肉の軟化処理剤として好適に用いることができる。
【0038】
食肉としては、豚肉、牛肉、鶏肉等の畜肉、エビ、カニ、ホタテ、イカ、カツオ、サケ等の魚介の肉等あげられるが、畜肉または魚肉が好ましい。肉の部位にも特に限定はないが、スジや腱等の結合組織の存在する部位が好ましい。肉の種類や部位は複数のものを併用してもよい。
【0039】
本発明の組成物で食肉を処理する方法としては、本発明の組成物と食肉とを、所定の時間、所定の温度およびpH条件下で接触させる方法があげられる。
本発明の組成物と食肉とを接触させる方法としては、本発明の組成物を食肉に振りかける方法、溶液状の本発明の組成物を食肉に注入する方法、溶液状の本発明の組成物に食肉を浸漬する方法、タンブリング等、いずれの方法を用いてもよい。
【0040】
本発明の組成物と食肉とを接触させる際、それぞれの量、温度および時間は、食肉中の結合組織の量、ならびに本発明の組成物中に含まれる各ポリペプチドの比活性および量により適宜調整すればよい。
【0041】
例えば、食肉100gに接触させる本発明の組成物の量を、本発明に用いられるエラスチン分解酵素活性を有するポリペプチドおよび本発明に用いられるコラーゲン分解活性を有するポリペプチドが、エラスチン分解活性およびコラーゲン分解活性として、それぞれ1~1000ユニット(U)、好ましくは、10~500ユニット(U)、より好ましくは20~300ユニット(U)含まれる量とすることがあげられる。
【0042】
本発明の組成物と食肉とを接触させ、食肉を処理する際の温度は、本発明の組成物中の各ポリペプチドの至適活性温度の範囲内であればよいが、60℃以上では食肉のタンパク質が変性する可能性があるため、実質は50~60℃程度が望ましい。また、食肉を処理後、すぐに使用しない場合は、加熱により微生物が増殖する恐れがあるため、10℃以下の冷蔵条件下であってもよい。
【0043】
また、食肉の処理時間は、処理温度により異なり、例えば、50~80℃では10~60分間程度であってもよいが、10℃以下では、1時間~数時間必要となる。このように、処理時間は、処理中の食肉の状態を観察しながら適宜設定すればよい。
また、処理時のpHも、特に限定されず、本発明の組成物中の各ポリペプチドの至適反応pHや安定pHを考慮して適宜設定すればよいが、通常、pH5~11程度である。
【0044】
以上、本発明の組成物を用いる食肉の処理方法を説明したが、本発明に用いられるエラスチン分解酵素活性を有するポリペプチドおよび本発明に用いられるコラーゲン分解活性を有するポリペプチドは、それぞれを別々に食肉と接触させることもできる。この場合の、それぞれの使用量、処理条件等は、本発明の組成物を用いる方法に準ずる。
【0045】
本発明の方法による食肉の処理では、スジや腱といった結合組織は軟化されるが、筋繊維部分は必要以上に分解されない。このため、本発明の方法を調理の事前処理に行うことにより、調理時の煮込みなどの時間を短縮することが可能となる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例
【0046】
(1)エラスチン分解活性を有するポリペプチドの製造
Streptomyces nanshensis(JCM16226)の胞子懸濁液(107個/ml以上)1白金耳分を種培地(可溶性コーンスターチ30g/l、コーン・スティープ・リカー30g/l、硫酸アンモニウム1g/l 、硫酸マグネシウム0.5g/l、炭酸カルシウム3g/lを含み、pH7.0に調整した培地)20mlに接種し、200ml容三角フラスコで28℃、200rpmで12時間培養し、種培養終了液を得た。
【0047】
得られた種培養終了液1mlを主培養用の培地(可溶性コーンスターチ300g/l、コーン・スティープ・リカー150g/l 、脱脂大豆粉250g/l 、硫酸アンモニウム10g/l 、硫酸マグネシウム5g/l 、炭酸カルシウム30g/lを含み、pH7.0に調整した培地)2000mlに移植し、10L容フラスコで28℃、200rpmで40時間培養し、主培養終了液を得た。
【0048】
主培養終了液を濾過して菌体等の固形分を除去し、分画分子量6,000の限外ろ過膜で処理を行い、濃縮液画分を回収し、これを噴霧乾燥に供してポリペプチドの粉末を得た。
(2)ポリペプチドのエラスチン分解活性
【0049】
ポリペプチドの粉末をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、クマシーブリリアントブルー染色法(シグマ社製)により染色した結果、図1に示すとおり、約18kDa、約14kDa、約11kDaの付近にバンドが確認された。
【0050】
該約18kDa、約14kDa、約11kDaのバンドに含まれるタンパク質のアミノ酸配列を常法により解析した結果、いずれのタンパク質も、同一のタンパク質がN末端側からプロセッシングを受けて短くなっていたタンパク質であった。約18kDaのタンパク質のアミノ酸配列を、配列番号1として示す。また、本ポリペプチドをコードする遺伝子の全長を常法により決定した結果、726bpの塩基配列からなる遺伝子であると推定された。
【0051】
該726bpの塩基配列からなる遺伝子をpNCMO2(タカラバイオ株式会社製)のマルチクローニングサイトにクローニングし、Brevibacillus発現システム(タカラバイオ株式会社製)にて発現解析を行った。その結果、約18kDa、約14kDaおよび約11kDaタンパク質もエラスチン分解活性を呈することを確認した。
【0052】
なお、エラスチン分解活性は、エラスチンコンゴーレッド(ナカライテスク社製)を基質として用い、1時間に495nmの吸光度を1変化させる酵素活性を1Uとした。
(3)ポリペプチドの基質特異性
【0053】
上記(1)で調製したポリペプチドの粉末をエラスチン分解活性が1U/mlとなるように20mmol/Lのトリス塩酸緩衝液(pH7.5)に溶解してポリペプチドの溶液とした。ウシ肩肉より調製した1%筋原線維溶液900μlに、該ポリペプチドの溶液100μlを加え、pH8.0、25℃で6時間反応させた。同様の操作を、市販の中性、アルカリプロテアーゼ4種(ビオプラーゼOP、ビオプラーゼSP-20FG(以上ナガセケムテックス社製)、アルカラーゼ(ノボザイムズ社製)、プロチンSD-AY10(天野エンザイム社製))を用いて行い、それぞれの処理液をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。
【0054】
その結果、図2に示すとおり、本発明のポリペプチドの溶液を作用させた画分(「実施例」画分)では、他の4種のプロテアーゼを作用させた画分と比較して筋原線維に由来するバンドが多く認められ、筋原線維の分解活性が弱いことが示された。
【0055】
次に、上記ポリペプチドの溶液のエラスチン分解活性を2U/mlに調製し、該溶液100μl に、0.6%のウシ靭帯由来のエラスチン懸濁液900μlを加え、pH8.0、25℃で8時間反応させた。その結果、図3に示すとおり、上記で調製したエラスチン分解活性を有するポリペプチドの溶液のエラスチンの分解活性は市販酵素に比べ、顕著に強いことが示された。
(4)至適温度、至適pHおよび温度安定性
【0056】
上記(3)における基質特異性の検討と同様に、上記ポリペプチドの至適反応pH、至適反応温度、及び温度安定性を測定した。
まず、pH5.0~7.0のリン酸緩衝液、pH7.0~8.5のトリス塩酸緩衝液、pH8.5~11.0の炭酸緩衝液を用い、各緩衝液中での上記ポリペプチドのエラスチン分解活性を測定した。pH8.0の活性値を100%とした時の相対値で評価した結果、pH7.0から11.0までの幅広いpHで高い酵素活性を示しており、80%以上の活性が保持されていた(図4)。また、至適反応pHは8.0であった。
【0057】
つぎに、4℃~80℃の各条件下でエラスチン分解活性を測定した。その結果、4℃~80℃の幅広い温度帯で活性が認められ、至適の反応温度は70℃であることが分かった(図5)。
つぎに、30℃~70℃の各温度で10分間インキュベートした後の残存活性を測定した。その結果、30~60℃で高い残存活性が認められた(図6)。
(5)コラーゲン分解活性およびエラスチン分解活性の測定
【0058】
コラーゲン分解活性を有する市販の酵素製剤(デナチーム PMC SOFTER:ナガセケムテックス社製)および上記(1)で調製したポリペプチドを用い、それぞれのコラーゲン分解活性をコラーゲンタイプI型ウシ真皮由来(ペプシン可溶化)を基質として用いてニンヒドリン法で、およびエラスチン分解活性をエラスチンコンゴーレッド法で測定した。
【0059】
また、それぞれの酵素活性が互いに阻害的影響を及ぼす可能性について、該酵素製剤およびポリペプチドを、上記単独使用の場合と同量ずつ併用した場合のコラーゲン分解活性およびエラスチン分解活性を調べた。
結果として、各試験区における活性(反応液1mlあたりの活性(U))を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すとおり、コラーゲン分解活性を有する酵素製剤と上記(1)のポリペプチドを併用することで、互いの活性に阻害的影響をおよぼすことなく、コラーゲンおよびエラスチンのいずれも分解することができた。
(6)食肉の処理
【0062】
表2に記載した量の、水、上記(1)のポリペプチド、および市販のコラーゲン分解活性を有する食肉軟化剤(MCフードスペシャリティーズ社製。コラーゲン分解活性を有するプロテアーゼ0.1%の他、乳化剤、クエン酸等を含有する。)を用い、食肉の処理液を調製した。なお、表中、エラスチン分解活性を有するポリペプチドのエラスチン分解活性として、上記(2)の記載に準じて測定したものを表記した。
【0063】
調製した食肉の処理液に食肉(牛のショートプレート5mm厚)100gを浸漬し、冷蔵庫(5℃以下)で2時間放置した。2時間放置後、食肉を取出し、スチームコンベクションオーブンにて170℃、7分間加熱調理し、食肉の筋組織部分(赤身部分)と結合組織部分(スジ)の食感について、訓練された5名のパネラーにより以下の基準で官能評価した。
【0064】
赤身部分
◎:より軟らかく、噛み切りやすい
〇:軟らかく、噛み切りやすい
△:噛み切れるが、かたさを感じる
×:かたく、かみきれない
【0065】
すじ部分:
◎:より噛み切りやすい
〇:噛み切りやすい
△:噛み切れるが、かたさを感じる
×:かたく、かみきれない
各試験区での食肉について最も多かった評価を表3に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すとおり、コラーゲン分解活性を有する食肉軟化剤と上記(1)で調製したポリペプチドを併用することにより、赤身部分に加えて肉のスジ部分も、噛み切れる程度に軟化させることができた。
【0069】
なお、表2に示す配合に、さらに乳化剤等の改良剤を併用することにより、該ポリペプチドは、例えば試験区2に相当するような少量でも試験区4と同等の効果を発揮できることを別途確認した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のエラスチンの分解活性およびコラーゲンの分解活性を有する組成物を用いれば、食肉における硬質タンパク質からなるスジや腱などの部位の分解活性は高いが筋原線維の分解活性は低いため、食肉と接触させて処理するという簡便な方法で、スジや腱が多い食肉を食に適した状態とすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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