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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】揚げ物用衣材
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20230724BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20230724BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018516866
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2018013327
(87)【国際公開番号】W WO2018181749
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2017068808
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】柿 崎 繁 美
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-115064(JP,A)
【文献】特開2003-334010(JP,A)
【文献】特開2003-219826(JP,A)
【文献】特開2002-171924(JP,A)
【文献】特開2001-120207(JP,A)
【文献】特開2002-051718(JP,A)
【文献】特開平09-084541(JP,A)
【文献】特開平10-004902(JP,A)
【文献】特表2012-527238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉、3糖~9糖のオリゴ糖および糖化率10未満のデキストリンから選択される少なくとも一つの糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を含んでなる油ちょう食品用バッターであって、
該バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が0.55~3.40であり、かつ、
穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)が0.85~1.70であり、
前記固形油脂が、バター、マーガリン、ショートニング、牛脂およびラードからなる群から選択され、
前記増粘剤が、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カードランおよびウェランガムからなる群から選択される、油ちょう食品用バッター。
【請求項2】
前記糖質が、3糖または4糖のオリゴ糖、および糖化率7~9のデキストリンから選択される少なくとも一つのものである、請求項1に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項3】
前記バッターにおける穀粉の含有割合が14質量%以上である、請求項1または2に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項4】
前記バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が0.60~3.40である、請求項1~3のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項5】
前記バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が1.20~2.70である、請求項1~4のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項6】
前記バッター中の穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)が1.00~1.50である、請求項1~5のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項7】
前記穀粉が、小麦粉、コーン粉、米粉、馬鈴薯粉、タピオカ粉、大豆粉、オーツ粉および大麦粉からなる群から選択される少なくとも1つの穀粉である、請求項1~6のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項8】
前記糖質が、マルトテトラオースである、請求項1~7のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッター。
【請求項9】
油ちょう食品用バッターを製造する方法であって、穀粉、3糖~9糖の糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を混合する工程を含んでなり、
該バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が0.55~3.40に、かつ、
穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)が0.85~1.70に調整され、
前記固形油脂が、バター、マーガリン、ショートニング、牛脂およびラードからなる群から選択され、
前記増粘剤が、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カードランおよびウェランガムからなる群から選択される、方法。
【請求項10】
前記バッターにおける穀粉の含有割合が14質量%以上に調整される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
油ちょう食品を製造する方法であって、
(a)目的とする油ちょう食品の中種を、請求項1~8のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッターで処理して油ちょう用加工食品を得る工程、および
(b)該油ちょう用加工食品を油ちょうする工程
を含んでなる、方法。
【請求項12】
工程(a)よりも後、かつ、工程(b)よりも前に、前記油ちょう用加工食品に打ち粉を付ける工程をさらに含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
油ちょう工程よりも後に行われる冷凍工程をさらに含んでなる、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
中種と、該中種の外側に位置する請求項1~8のいずれか一項に記載の油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなる、油ちょう食品。
【請求項15】
冷凍されている、請求項14に記載の油ちょう食品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、先に出願された日本国における特許出願である特願2017-068808号(出願日:2017年3月30日)に基づく優先権の主張を伴うものである。この先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【発明の背景】
【0002】
技術分野
本発明は、油ちょう食品に用いられる衣材に関し、より詳細にはマイクロ波調理に適した油ちょう食品の製造に好適に用いられるバッターに関する。
【0003】
背景技術
揚げ物商品において食感と外観を高い次元で両立させることは永遠の課題である。この課題を解決するため、様々な衣材やバッターが開発されている(例えば、特許文献1~5)。
【0004】
しかし、従来の衣材およびバッターでは、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した揚げ物は、衣が水っぽくなったり、へたったり、また、衣から油が染み出てベタベタしたりする等、揚げたての揚げ物と比較して良好な食感および外観が両立されているとは言えなかった。また、従来の衣材およびバッターでは、揚げ物の中種(具材)が水分を含む場合、中種から衣への水分移行を防ぐために衣が厚くなりがちで、家庭で手作りしたような薄い衣の揚げ物を作ることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-103917号公報
【文献】特開2016-54664号公報
【文献】特開2004-154009号公報
【文献】特開昭64-60334号公報
【文献】特開昭59-6847号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、穀粉、3糖~9糖の糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を含むバッターにおいて、穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)および穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)を特定の範囲に調整することにより、そのバッターを用いて得られる油ちょう食品をマイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した場合に、好ましい食感(歯応え、衣と中種の一体感)と好ましい外観を両立できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明の目的は、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した油ちょう食品において好ましい衣の食感と外観を両立することができるバッターおよび該バッターの製造方法、ならびに、該バッターを用いて得られる油ちょう食品および該油ちょう食品の製造方法を提供することにある。
【0008】
そして、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)穀粉、3糖~9糖のオリゴ糖および糖化率10未満のデキストリンから選択される少なくとも一つの糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を含んでなる油ちょう食品用バッターであって、該バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が0.55~3.80であり、かつ、穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)が0.85~1.90である、油ちょう食品用バッター。
(2)前記糖質が、3糖または4糖のオリゴ糖、および糖化率7~9のデキストリンから選択される少なくとも一つのものである、(1)に記載の油ちょう食品用バッター。
(3)前記バッターにおける穀粉の含有割合が14質量%以上である、(1)または(2)に記載の油ちょう食品用バッター。
(4)前記バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が0.60~3.40である、(1)~(3)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッター。
(5)前記バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が1.20~2.70である、(1)~(4)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッター。
(6)前記バッター中の穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)が0.85~1.70である、(1)~(5)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッター。
(7)前記バッター中の穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)が1.00~1.50である、(1)~(6)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッター。
(8)前記穀粉が、小麦粉、コーン粉、米粉、馬鈴薯粉、タピオカ粉、大豆粉、オーツ粉および大麦粉からなる群から選択される少なくとも1つの穀粉である、(1)~(7)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッター。
(9)前記増粘剤が、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カードランおよびウェランガムからなる群から選択される少なくとも1つの物質である、(1)~(8)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッター。
(10)油ちょう食品用バッターを製造する方法であって、穀粉、3糖~9糖の糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を混合する工程を含んでなり、該バッター中の穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)が0.55~3.80に、かつ、穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)が0.85~1.90に調整される、方法。
(11)前記バッターにおける穀粉の含有割合が14質量%以上に調整される、(10)に記載の方法。
(12)油ちょう食品を製造する方法であって、
(a)目的とする油ちょう食品の中種を、(1)~(9)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッターで処理して油ちょう用加工食品を得る工程、および
(b)該油ちょう用加工食品を油ちょうする工程
を含んでなる、方法。
(13)工程(a)よりも後、かつ、工程(b)よりも前に、前記油ちょう用加工食品に打ち粉を付ける工程をさらに含んでなる、(12)に記載の方法。
(14)油ちょう工程よりも後に行われる冷凍工程をさらに含んでなる、(12)または(13)に記載の方法。
(15)
中種と、該中種の外側に位置する(1)~(9)のいずれかに記載の油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなる、油ちょう食品。
(16)冷凍されている、(15)に記載の油ちょう食品。
【0009】
本発明のバッターを用いることにより、揚げたての状態はもちろん、冷凍保存または冷蔵保存を経た状態であっても、油ちょう食品の揚げ衣の軽い歯応えや中種との一体感(薄衣感)等の食感、および衣の外観を、ともに改善することができる。特に、本発明のバッターを用いて得られる油ちょう食品では、中種から揚げ衣への水分の移行が低減され、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した場合でも、揚げたてのような非常に良好な食感と外観を両立することができる。
【発明の具体的説明】
【0010】
本発明のバッターは、穀粉、3糖~9糖の糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を含み、固形油脂と穀粉の質量比および水と穀粉の質量比が特定の範囲にあるものである。このようなバッターは、穀粉、3糖~9糖の糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を含む材料をそれぞれ所定の配合量で混合用容器中に投入し、バッター状になるまで混合することにより製造することができる。
【0011】
本発明のバッターにおいて、穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)は0.55~3.80であり、0.60~3.40であることが好ましく、1.20~2.70であることがより好ましい。
【0012】
また、本発明のバッターにおいて、穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)は0.85~1.90であり、0.85~1.70であることが好ましく、1.00~1.50であることがより好ましい。ここで、水分量については、水として投入される量だけでなく、他の材料に含まれる水の量も考慮する必要がある。よって、水を有意な量で含有する材料を配合する場合には、その材料に含まれる水の質量も算入した上で穀粉に対する水分の質量比を調整することが望ましい。
【0013】
本発明に用いられる穀粉としては、特に制限されるものではなく、例えば、小麦、大麦、オーツ麦、トウモロコシ、コメ、馬鈴薯、タピオカおよび大豆等の穀物を挽いて得られる粉末だけでなく、これらの穀物の澱粉、およびこれらの澱粉に対して物理的または化学的な加工を施した、エーテル架橋澱粉、α化澱粉、アセチル化架橋澱粉等の澱粉類が挙げられる。本発明の好ましい実施態様によれば、小麦、大麦、オーツ麦、トウモロコシ、コメ、馬鈴薯、タピオカおよび大豆等の穀物を挽いて得られる粉末が用いられる。本発明において、穀粉は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明のバッターにおける穀粉の含有量は特に制限されるものではないが、上述した穀粉に対する水分の質量比を考慮すると、例えば、バッターの質量に対して14質量%以上であることが好ましく、14質量%~40質量%であることがより好ましく、14質量%~35質量%であることがさらに好ましく、17質量%~25質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明に用いられる糖質は、糖アルコールでないことが好ましい。また、本発明に用いられる糖質は、食品への適合性および製造コストの観点から、特にオリゴ糖(マルトテトラオース等)、デキストリンが好ましい。中でも、本発明に用いられるオリゴ糖は3糖~9糖であってよく、好ましくは3糖または4糖である。また、本発明に用いられるデキストリンの糖化率(DE値:Dextrose equivalent)は10未満であってよく、好ましくは3~9であり、より好ましくは7~9である。また、本発明において、糖質は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の好ましい実施態様によれば、糖質としてマルトテトラオースが単独で用いられる。
【0016】
本発明のバッターにおける3糖~9糖の糖質の含有量は特に制限されるものではなく、目的とする油ちょう食品の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、本発明のバッターにおける3糖~9糖の糖質の含有量は、バッターの質量に対して10質量%~30質量%とすることが適当であり、15質量%~25質量%とすることが好ましく、18質量%~23質量%とすることがより好ましい。
【0017】
本発明に用いられる固形油脂としては、常温で固体である食用の油脂であればいずれのものを用いてもよく、例えば、植物性油脂、動物性油脂、およびそれらの加工油脂のいずれであってもよい。また、本発明に用いられる固形油脂は、溶融状態の油脂を固体化したものであってもよい。本発明に用いられる固形油脂の融点は特に制限されるものではないが、30℃以上であることが好ましく、32℃~42℃であることがより好ましい。このような油脂としては、例えば、バター、マーガリン、ショートニング、牛脂およびラード等が挙げられる。本発明において、固形油脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の好ましい実施態様によれば、固形油脂としてショートニングが単独で用いられる。
【0018】
本発明のバッターにおける固形油脂の含有量は特に制限されるものではなく、目的とする油ちょう食品の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、本発明のバッターにおける固形油脂の含有量は、バッターの質量に対して20~60質量%とすることが適当であり、25~45質量%とすることが好ましく、27~42質量%とすることがより好ましい。
【0019】
本発明に用いられる増粘剤は、食品用の増粘剤であればいずれのものを用いてもよく、例えば、ペクチン、タマリンドガム、カラギーナン、プロピレングリコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カードランおよびウェランガム等が挙げられる。本発明の好ましい実施態様によれば、本発明に用いられる増粘剤はメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カードランおよびウェランガムである。本発明において、増粘剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の好ましい実施態様によれば、メチルセルロースが単独で用いられる。
【0020】
本発明のバッターにおける増粘剤の含有量は特に制限されるものではなく、目的とする油ちょう食品の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、本発明のバッターにおける増粘剤の含有量は、バッターの質量に対して0.05~3質量%とすることが適当であり、0.1~2質量%とすることが好ましく、0.4~1質量%とすることがより好ましい。
【0021】
本発明に用いられる卵白としては、典型的には鶏卵の卵白が用いられる。本発明に用いられる卵白とは、卵白を含んでいればよく、全卵から卵黄を除去して得た卵白であってもよく、全卵であってもよい。また、本発明に用いられる卵白としては、乾燥粉末化された卵白および全卵を用いることもできる。
【0022】
本発明のバッターにおける卵白の含有量は特に制限されるものではなく、目的とする油ちょう食品の種類等に応じて適宜決定することができる。例えば、本発明のバッターにおける卵白の含有量は、バッターの質量に対して8~32質量%とすることが適当であり、10~28質量%とすることが好ましく、12~25質量%とすることがより好ましい。卵白として、全卵を用いる場合、卵白の含有量が上記範囲となるように全卵の含有量を調製することが望ましい。
【0023】
本発明のバッターは、上記必須成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、また、他の効果を発揮させるために、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、食塩、砂糖、アミノ酸等の調味料、β-カロテン等の色素、香料、酸味料、乳化剤、pH調整剤、糖類、食物繊維、動物性または植物性タンパク質素材などが挙げられる。他の成分の配合割合は、その成分の種類に応じて適宜決定することができるが、他の成分の合計配合割合は20質量%以下であることが好ましい。ここで、他の成分が水を有意な量で含有する場合や、穀粉を含有する場合には、その成分に含まれる水および穀粉の質量も算入した上で穀粉に対する固形油脂の質量比(固形油脂/穀粉)および穀粉に対する水分の質量比(水分/穀粉)を調整することが望ましい。
【0024】
本発明において「油ちょう用加工食品」とは、目的とする油ちょう食品の中種と、該中種の外側に位置する本発明のバッターの層とを含んでなる。また、本発明において「油ちょう用加工食品」とは、油ちょう処理用の加工がなされ、かつ、油ちょう処理前である食品をいう。
【0025】
本発明において油ちょう用加工食品は、目的とする油ちょう食品の中種を、本発明のバッターで処理するバッター処理工程を含む方法により製造することができる。例えば、目的とする油ちょう食品の中種に、少なくとも本発明のバッターを付着させることにより、好ましくは中種の表面を本発明のバッターでコーティングすることにより、本発明の油ちょう用加工食品を製造することができる。本発明において「油ちょう用加工食品」は、油ちょう食品の中種に本発明のバッターを付着させた後に、さらに衣素材を付着させることにより製造することもできる。
【0026】
このような油ちょう用加工食品としては、例えば、本発明のバッターと衣素材とを中種に付着させて得られる、油ちょう処理前の鶏唐揚げ等の唐揚げ類、コロッケ類、メンチカツ、トンカツ、エビフライ、魚介類フライ等のフライ類;本発明のバッターで直接衣層を形成する、油ちょう処理前の天ぷら類が挙げられる。
【0027】
衣素材としては、典型的には小麦粉(打ち粉)が用いられるが、小麦粉以外の衣素材を用いることも可能である。このような小麦粉の代用品としては、例えば、パン粉、クラッカー、コーンフレーク、穀物を主体とする押出し成形による膨化物、麩、高野豆腐、おから等が知られており、これらを、そのまま、あるいは適当な大きさまですり下ろしたり、砕いたりした上で使用することができる。
【0028】
例えば、油ちょう用加工食品として油ちょう前鶏唐揚げを製造する場合、カットした鶏肉に調味液を浸み込ませて得られた中種の表面に小麦粉を付着させ、次いで本発明のバッターを均一に付着させ、さらに打ち粉(小麦粉)を付着させることにより、油ちょう前鶏唐揚げを得ることができる。また、このような方法において、中種を、エビ、豚肉、魚介類等の素材に代え、打ち粉(小麦粉)をパン粉に代えることにより、油ちょう前の、エビフライ、トンカツ、魚介フライ等を製造することができる。
【0029】
油ちょう用加工食品は、製造した直後に油ちょう処理を行って油ちょう食品としてもよいが、冷凍または冷蔵保存し、その後に油ちょう処理を行って油ちょう食品としてもよい。冷凍または冷蔵の方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、冷凍保存の場合、エアーブラスト式凍結法、セミエアーブラスト式凍結法、コンタクト式凍結法等の凍結法に従って油ちょう用加工食品を凍結した後に、-18℃以下で保存する方法や、液化窒素や液化炭酸を噴霧して油ちょう用加工食品を凍結した後に、-18℃以下で保存する方法を用いることができる。特に、凍結方法としては、-35℃前後での急速冷凍が望ましい。
【0030】
本発明の油ちょう食品とは、上記油ちょう用加工食品を油ちょうしてなる食品をいう。本発明の油ちょう食品は、中種と、該中種の外側に位置する本発明の油ちょう食品用バッターに由来する加熱後バッター層とを含んでなるものである。このような油ちょう食品は、上記油ちょう用加工食品を油ちょうすることにより製造することができる。例えば、油ちょう処理は、製造された直後の油ちょう用加工食品、または製造された後に冷凍または冷蔵保存された油ちょう用加工食品を、140~200℃の食用油脂中で1~6分秒間油ちょう加熱することにより、行うことができる。
【0031】
このようにして製造された油ちょう食品は、製造後すぐに食卓に供されてもよく;冷凍または冷蔵保存し、その後、マイクロ波(電子レンジ)調理等の二次調理を施した後に食卓に供されてもよく;常温で保存された後に食卓に供されてもよい。本発明の油ちょう食品の冷凍または冷蔵の方法は、本発明の油ちょう用加工食品について上述したものと同様である。特に、本発明の油ちょう食品は、マイクロ波(電子レンジ)による二次調理を施した後にも良好な食感(歯応え、衣と中種の一体感)と良好な外観を両立できるという点で有利である。
【実施例
【0032】
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1:バッターの組成の検討(1)
衣の良好な食感および外観をもたらすバッターの組成を、原材料の種類および配合量の点から検討した。
(1)バッターサンプルの製造
下記の表1に示す配合表に従って材料を投入し、ハンドミキサー(松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)製、型番:MK-H4)を用いて、材料が均一になるまで約3分間混合し、バッターサンプルを製造した。
【0034】
(2)バッターサンプルを用いた冷凍鶏唐揚げの製造
1.鶏もも肉を、包丁で約30gにカットした。
2.調味料(鶏もも肉100gに対して、水:8.5g、みりん:2g、リン酸塩:0.7g、濃口しょうゆ:5g、しょうがしぼり汁:1.5g、すりおろしにんにく:0.5g)を混合して調味液を調製した。
3.ポリエチレン袋にカットした鶏もも肉および調味液を1:0.2の重量比で投入し、液漏れしないようにシールで封をした。
4.タンブラー(真空マッサージタンブラー、型番:MG-40)を用いて、常圧下、約10℃の室温で、25rpmで50分間マッサージして調味液を鶏もも肉に染み込ませた。
5.4で得られた調味済鶏もも肉をポリエチレン袋から取り出してボウルに移し、小麦粉を、鶏もも肉100g(調味前の鶏もも肉の正味の重量)に対して3gを加え、ヘラで混合して、4で得られた調味済鶏もも肉の表面に小麦粉をまんべんなく付着させた。
6.(1)で製造した各バッターサンプルを、鶏もも肉100g(調味前の鶏もも肉の正味の重量)に対して約15g加え、ヘラで混合して、5で得られた調味済鶏もも肉の表面に各バッターサンプルをまんべんなく付着させた。
7.下記の表1に示す各打ち粉を、6で得られた調味済鶏もも肉に1個ずつ手で付着させた(鶏もも肉100g(調味前の鶏もも肉の正味の重量)に対して打ち粉3g)。
8.7で得られた調味済鶏もも肉を、150~180℃に熱した油で3分間~6分間加熱し、鶏もも肉の中心の温度(芯温)が80℃以上になるように油ちょうして鶏唐揚げを得た。
9.8で得られた鶏唐揚げを5~10分間程度放冷し、約-35℃の凍結庫に入れて急速冷凍した。
10.9で得られた冷凍鶏唐揚げを約-10℃の冷凍庫に約10日間入れて保管した。
【0035】
(3)官能評価
上記(2)のようにして製造・保管された各冷凍鶏唐揚げを、6個ずつ皿に載せてラップをせずに、電子レンジを用いて600Wで3分40秒間加熱し、常温で約30分間静置した。このようにして得られた鶏唐揚げを、官能評価のサンプルとした。
【0036】
各鶏唐揚げサンプルについて、専門パネル3名による官能評価を行った。評価項目および評価基準は以下のとおりとした。
(i)衣の歯応え(喫食による評価)
2点:衣の引きがほとんどなく、適度に固く、歯応えが軽い。
0点:衣の引きが少なく、許容できる固さ、歯応えがある。
-2点:衣の引きがあり、固く、歯応えが重い。
(ii)衣の外観(目視による外観評価)
○:全体的に極めて良好な揚げ色である。
△:部分的に揚げ色が濃いが許容できる揚げ色である。
×:揚げ色にムラがあり、焦げがあり不良な揚げ色である。
(iii)衣と中種の一体感
○:衣と中種とに全体的に一体感があり、極めて良好な薄衣感がある。
△:衣と中種とに部分的に一体感があり、許容できる薄衣感がある。
×:衣と中種とにほとんど一体感がなく、薄衣感がない。
【0037】
【表1】
【0038】
(4)結果と考察
官能評価の結果を、各サンプルに使用したバッターにおける「油脂/穀粉(質量比)」、「水分/穀粉(質量比)」および「穀粉(質量%)」とともに下記の表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から明らかなように、穀粉、3糖~9糖の糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を含むバッターを用いた試験区1、13、6、8、29、11、27、28、15および37のサンプルにおいては評価結果が良好であった。すなわち、これらの試験区のサンプルにおいては、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した場合であっても、衣が良好な食感(衣の歯応え、衣と中種の一体感)および外観を両立していることが確認された。なお、試験区2および3のサンプルは、外観は良好な評価結果であったが、バッターがゆるく水っぽかったため、バッターと中種の結着性が悪かった。また、これらのサンプルにおいては、中種の表面に付着したバッター中の水が打ち粉と混ざり、打ち粉が多く付着しやすくなり、衣のひきや油っぽさが見られた。これらの結果、試験区2および3のサンプルは、衣の食味および食感が適当ではなかったために総合評価を×とした。試験区5のサンプルも許容できる評価結果であったが、衣に甘味があり、揚げ物の衣の食味として適当ではなかったために総合評価を×とした。試験区7および34のサンプルも許容できる評価結果であったが、試験区7のサンプルは、衣がごわごわしており、試験区34のサンプルは、衣表面に油が浮き出ており、いずれも衣の食感として適当ではなかったために総合評価を×とした。試験区9のサンプルも食感および外観ともに良好な評価結果であったが、衣の食感にひきがあり、揚げ物の衣の食感として適当ではなかったため総合評価を×とした。
【0041】
実施例2:バッターの組成の検討(2)
衣の良好な食感および外観をもたらすバッターの組成を、原材料の配合量の点からさらに検討した。
(1)鶏唐揚げサンプルの製造
下記の表3に示す配合表に従って、実施例1の(1)に記載の方法によりバッターサンプルを製造した。各バッターサンプルを用いて、実施例1の(2)に記載の方法により冷凍鶏唐揚げを製造し、各冷凍鶏唐揚げを、実施例1の(3)の方法により加熱調理して官能評価の鶏唐揚げサンプル得た。
【0042】
【表3】
【0043】
(2)官能評価
各鶏唐揚げサンプルについて、専門パネル3名による官能評価を行った。評価項目および評価基準は実施例1と同様とした。
【0044】
(3)結果と考察
官能評価の結果を、各サンプルに使用したバッターにおける「油脂/穀粉(質量比)」、「水分/穀粉(質量比)」および「穀粉(質量%)」とともに下記の表4に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
表4から明らかなように、穀粉、3糖~9糖の糖質、固形油脂、増粘剤および卵白を含むバッターの中でも、油脂と穀粉の質量比(油脂/穀粉)が0.55~3.80であり、水分と穀粉の質量比(水分/穀粉)が0.85~1.90であり、かつ、バッターに対する穀粉の含有量が14質量%以上であるバッターを用いたサンプルにおいて、特に評価結果が良好であった。一方で、油脂と穀粉の質量比(油脂/穀粉)が3.80を超えると衣が柔らかすぎ、0.85未満であると衣が固く噛み切りにくくなり、いずれも衣の食感として良好ではなかった。また、水分と穀粉の質量比(水分/穀粉)が1.90を超えると衣が固く噛み切りにくくなり、0.85未満であると衣にいわゆる「ひき」が生じ、いずれも衣の食感として良好ではなかった。さらに、バッターに対する穀粉の含有量が14質量%未満であると、バッターと中種とが分離したり、中種をコーティングする機能が弱くなり、中種に含まれる油や調味液が衣表面に染み出して油ちょう時に衣が焦げやすくなり外観が損なわれた。
【0047】
実施例3:本発明のバッターと従来技術のバッターとの比較
本発明のバッターと従来技術のバッターとの比較検討を行った。
(1)鶏唐揚げサンプルの製造
本発明のバッターサンプルとして、表1の試験区13のバッターサンプルを使用した。
一方、下記の表5に示す配合表に従って、実施例1の(1)に記載の方法により従来技術のバッターサンプルを製造した。試験区19および20のバッターサンプルは、それぞれ特開2004-154099号公報の「試験例1」および「試験例2」のバッターサンプルに相当する。なお、試験区19および20のバッターサンプルは「ゆるい」液状であったため、調味済鶏もも肉に十分に付着しなかった。従って、試験区23および24として、それぞれ試験区19および20のバッターサンプルを基準にして水分量を減らし、穀粉量を増やしたバッターサンプルを製造した。また、試験区21のバッターサンプルは、特開昭59-6847号公報の第1表の「改良バッター」に相当する。また、試験区25のバッターサンプルは、試験区23のバッターサンプルと同様に、試験区21のバッターサンプルの水分量を調整したものであり、試験区26のバッターサンプルは、特開昭64-60334号公報の「実施例1」のバッターの水分量を調整したものに相当する。
【0048】
各バッターサンプルを用いて、実施例1の(2)に記載の方法により冷凍鶏唐揚げを製造し、各冷凍鶏唐揚げを、実施例1の(3)の方法により加熱調理して官能評価の鶏唐揚げサンプル得た。
【0049】
【表5】
【0050】
(2)官能評価
各鶏唐揚げサンプルについて、専門パネル3名による官能評価を行った。評価項目および評価基準は実施例1と同様とした。
【0051】
(3)結果と考察
官能評価の結果を、各サンプルに使用したバッターにおける「油脂/穀粉(質量比)」、「水分/穀粉(質量比)」および「穀粉(質量%)」とともに下記の表6に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
表6から明らかなように、本発明のバッターは、従来技術のバッターと比較して、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した場合であっても、衣が良好な食感および外観を両立していることが確認された。
【0054】
実施例4:バッターと打ち粉の組み合わせの検討
本発明のバッターと打ち粉との組み合わせについて検討を行った。
(1)鶏唐揚げサンプルの製造
本発明のバッターサンプルとして、表1の試験区13のバッターサンプルを使用した。
下記の表7に示すように打ち粉とバッターを組み合わせて、実施例1の(2)に記載の方法により冷凍鶏唐揚げを製造し、各冷凍鶏唐揚げを、実施例1の(3)の方法により加熱調理して官能評価の鶏唐揚げサンプル得た。なお、試験区1および13のバッターサンプルは、表1の試験区1および13のバッターサンプルに対応する。
【0055】
【表7】
【0056】
表7の結果から明らかなように、本発明のバッターサンプルと打ち粉B(一般打ち粉)とを組み合わせた試験区13は、通常家庭で使用されるような、全卵と打ち粉B(一般打ち粉)とを組み合わせた試験区14と比較して、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した場合であっても、衣が良好な食感および外観を両立していることが確認された。さらに、本発明のバッターサンプルは、打ち粉Aと組み合わせた試験区1でマイクロ波(電子レンジ)加熱調理後の良好な食感および外観を両立していただけではなく、打ち粉B(一般打ち粉)と組み合わせた試験区13においてもマイクロ波(電子レンジ)加熱調理後の良好な食感および外観を両立していることが確認された。
【0057】
実施例5:本発明のバッターを鶏唐揚げ以外に使用した場合の衣の食感と外観の確認(1)
本発明のバッターを、チキンカツに使用した場合の衣の食感と外観について確認を行った。
(1)チキンカツサンプルの製造
本発明のバッターサンプルとして、表1の試験区13のバッターサンプルを使用した。
打ち粉の代わりにパン粉(フライスター株式会社製、フライスターパン粉セブン)を使用した以外は、実施例1の(2)に記載の方法により冷凍チキンカツを製造し、冷凍チキンカツを、実施例1の(3)の方法により加熱調理して官能評価のチキンカツサンプル得た。
【0058】
(2)官能評価
各チキンカツサンプルについて、専門パネル3名による官能評価を行った。評価項目および評価基準は実施例1と同様とした。
【0059】
(3)結果と考察
官能評価の結果は以下の通りであった。
衣の歯応え :1.80
外観 :○
衣と中種の一体感:○
また、「油脂/穀粉(質量比)」、「水分/穀粉(質量比)」および「穀粉(質量%)」の各値は以下の通りであった。
油脂/穀粉(質量比):1.32
水分/穀粉(質量比):1.23
穀粉(質量%):22.0重量%
【0060】
上記の結果から、本発明のバッターは、パン粉を衣とする揚げ物においても、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した場合に良好な食感および外観を両立し得ることが確認された。
【0061】
実施例6:本発明のバッターを鶏唐揚げ以外に使用した場合の衣の食感と外観の確認(2)
本発明のバッターを、サーモンフライに使用した場合の衣の食感と外観について確認を行った。
(1)サーモンフライサンプルの製造
本発明のバッターサンプルとして、表1の試験区13のバッターサンプルを使用した。
鶏もも肉の代わりに鮭切り身を中種として使用し、マッサージによる調味を行わない以外は、実施例1の(2)に記載の方法により冷凍サーモンフライを製造し、冷凍サーモンフライを、実施例1の(3)の方法により加熱調理して官能評価のサーモンフライサンプル得た。
【0062】
(2)官能評価
各サーモンフライサンプルについて、専門パネル3名による官能評価を行った。評価項目および評価基準は実施例1と同様とした。
【0063】
(3)結果と考察
官能評価の結果は以下の通りであった。
衣の歯応え :1.30
外観 :○
衣と中種の一体感:○
また、「油脂/穀粉(質量比)」、「水分/穀粉(質量比)」および「穀粉(質量%)」の各値は以下の通りであった。
油脂/穀粉(質量比):1.32
水分/穀粉(質量比):1.23
穀粉(質量%):22.0重量%
【0064】
上記の結果から、本発明のバッターは、鶏もも肉以外の食材を中種とする揚げ物においても、マイクロ波(電子レンジ)で加熱調理した場合に良好な食感および外観を両立し得ることが確認された。