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特許7317504アルミニウム合金箔及びその積層体並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔及びその積層体並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20230724BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230724BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20230724BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20230724BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
C22C21/00 L
B32B15/08 P
B32B15/20
C22F1/04 B
C22F1/00 622
C22F1/00 627
C22F1/00 630C
C22F1/00 640A
C22F1/00 640D
C22F1/00 650A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018559437
(86)(22)【出願日】2017-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2017046358
(87)【国際公開番号】W WO2018123933
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-09-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2016252884
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新宮 享
(72)【発明者】
【氏名】大八木 光成
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125608号
【文献】特開2008-078277号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
B32B 15/08
B32B 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
96.9質量%以上のアルミニウム、0.4質量%以上3質量%以下のマンガン、0.04質量%以上0.08質量%以下の鉄、0.00001質量%以上0.1質量%以下のシリコン、0.00001質量%以上0.03質量%以下の銅、0.0005質量%以上0.01質量%以下の亜鉛、及び0.00001質量%以上0.001質量%以下のマグネシウム、
残余成分として、バナジウム、チタン、ジルコニウム、クロム、ニッケル、ホウ素、ガリウム、及びビスマスからなる群より選択される少なくとも一種をアルミニウム合金箔100質量%中にそれぞれ0.05質量%以下、
並びに不可避的不純物のみからなる、アルミニウム合金箔。
【請求項2】
厚みが5μm以上300μm以下である請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
アルミニウム合金箔100質量%中に、0.048質量%以上0.08質量%以下の鉄が含まれる、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のアルミニウム合金箔の何れか又は双方の面に、樹脂フィルム層及びコーティング層の何れか又は双方が積層された積層体であり、
該積層体の厚みが6μm以上301μm以下である積層体。
【請求項5】
96.9質量%以上のアルミニウム、0.4質量%以上3質量%以下のマンガン、0.04質量%以上0.08質量%以下の鉄、0.00001質量%以上0.1質量%以下のシリコン、0.00001質量%以上0.03質量%以下の銅、0.0005質量%以上0.01質量%以下の亜鉛、及び0.00001質量%以上0.001質量%以下のマグネシウム、
残余成分として、バナジウム、チタン、ジルコニウム、クロム、ニッケル、ホウ素、ガリウム、及びビスマスからなる群より選択される少なくとも一種をアルミニウム合金箔100質量%中にそれぞれ0.05質量%以下
並びに不可避的不純物のみからなる鋳塊を圧延する工程を有する、アルミニウム合金箔の製造方法。
【請求項6】
請求項5で得られたアルミニウム合金箔の何れか又は双方の面に、樹脂フィルム層及びコーティング層の何れか又は双方を積層する工程を有する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金箔及びそれを用いた積層体、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から移動手段に使用される航空機、鉄道車両または自動車には、更なる軽量化が望まれている。さらに、取り扱いの観点からも各種機械部品、電気電子関係部材、建材、家庭用途等の幅広い分野において、部材の軽量化が望まれている。
【0003】
こうした中、これらの部材に金属材料を使用する場合には、比較的密度の大きい鉄鋼材料や銅ではなく、より密度の小さいアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を使用することで、部材の軽量化を図ることが行われている。
【0004】
しかし一般的にアルミニウム合金は、水、湿気、塩水等の影響により腐食しやすいという欠点がある。よって、屋外、特に海洋及び沿岸等の塩水の影響を受ける可能性のある用途及び、塩分を含む薬品及び塩分を含む食品の包装材料などの用途に展開することは困難である。
【0005】
そこで特許文献1において、マンガンを所定量含有させ、マンガン以外の各種元素含有量を相対的に抑制したアルミニウム合金が提案されている。マンガンを所定量含有させることにより、アルミニウム合金の耐食性を損なうことなく強度を高め、また所定の加工方法を採用することにより、成形性を良好にするための十分な伸びと、薄い箔を得るための高い圧延性を得ることが可能となっている。
【0006】
しかし、例えば発電施設及び自動車部品のような、より過酷な高温多湿環境に置かれる材料として採用する場合、引用文献1に開示されるアルミニウム合金より作製したアルミニウム合金箔では、高温多湿環境下における耐食性(以下、耐湿熱性という。)及び耐食性、特に耐湿熱性の面で十分な性能が得られない。また、薬品及び食品の包装材料用途に使用する場合も、内容物及び他の材料との接触による傷を十分に抑制し得るだけの表面硬度を有しているとは言えない。
【0007】
また、例えば電機電子関係部材では、一方の部材と他方の部材との接合及び積層等を行う工程で、より具体的には、ハンダリフローやヒートプレス、及び加熱成型等の工程において、前記部材は熱が掛かる環境にさらされる。こうした部材としてアルミニウム合金箔を採用する場合、熱によってアルミニウム合金箔の強度が低下してしまう。特許文献1には上述の工程中にかかる熱によるアルミニウム合金箔の強度低下が少なく、部材として十分な強度を維持するといった耐熱強度については言及されていない。
【0008】
このように、より過酷な環境下での耐湿熱性及び耐食性を備えたうえで、十分な表面硬度及び耐熱強度をも有する、アルミニウム合金箔及びそれを用いた積層体が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5116403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、優れた耐湿熱性及び耐食性を有し、且つ、十分な表面硬度及び耐熱強度を有するアルミニウム合金箔を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム合金箔中に、所定量のマンガンと共に所定量の鉄をも含有させることで、耐食性だけでなく耐湿熱性にも優れるとともに、十分な表面硬度及び耐熱強度を有するアルミニウム合金箔を提供できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下のアルミニウム合金箔及びその積層体を提供する。
項1.
アルミニウム合金箔100質量%中に、96.9質量%以上のアルミニウム、0.4質量%以上3質量%以下のマンガン、0.03質量%以上0.08質量%以下の鉄、0.00001質量%以上0.1質量%以下のシリコン、0.00001質量%以上0.03質量%以下の銅、0.00001質量%以上0.01質量%以下の亜鉛、及び0.00001質量%以上0.001質量%以下のマグネシウムを含む、アルミニウム合金箔。
項2.
厚みが5μm以上300μm以下である項1に記載のアルミニウム合金箔。
項3.
項1又は2に記載のアルミニウム合金箔の何れか又は双方の面に、樹脂フィルム層及びコーティング層の何れか又は双方が積層された積層体であり、該積層体の厚みが6μm以上301μm以下である積層体。
項4.
96.9質量%以上のアルミニウム、0.4質量%以上3質量%以下のマンガン、0.03質量%以上0.08質量%以下の鉄、0.00001質量%以上0.1質量%以下のシリコン、0.00001質量%以上0.03質量%以下の銅、0.00001質量%以上0.01質量%以下の亜鉛、及び0.00001質量%以上0.001質量%以下のマグネシウムを含有する鋳塊を圧延する工程を有する、アルミニウム合金箔の製造方法。
項5.
項4で得られたアルミニウム合金箔の何れか又は双方の面に、樹脂フィルム層及びコーティング層の何れか又は双方を積層する工程を有する、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金箔及びその積層体によれば、優れた耐湿熱性及び耐食性を有し、且つ、十分な表面硬度及び耐熱強度を有するアルミニウム合金箔及びその積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、96.9質量%以上のアルミニウム、0.4質量%以上3質量%以下のマンガン、0.03質量%以上0.08質量%以下の鉄、0.00001質量%以上0.1質量%以下のシリコン、0.00001質量%以上0.03質量%以下の銅、0.00001質量%以上0.01質量%以下の亜鉛、及び0.00001質量%以上0.001質量%以下のマグネシウムを含むことを特徴とする。
【0015】
アルミニウム
本発明のアルミニウム合金箔において、JIS H 2102:2011に記載される方法に準じて測定されるアルミニウム純度は96.9質量%以上である。
【0016】
マンガン
本発明のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、0.4質量%以上3質量%以下のマンガンを含有する。マンガンは、アルミニウム合金の耐食性を大きく低下させることなく、強度を向上させる元素である。マンガンの含有率が0.4質量%未満であると十分な耐湿熱性及び耐食性が得られないだけでなく、表面硬度及び耐熱強度も低下する。また、マンガンの含有率が3.0質量%を超えると、アルミニウム合金表面の硬度は高くなるが、圧延性が低下し、アルミニウム合金箔を得ることができない。アルミニウム合金の耐食性、耐湿熱性、表面硬度、耐熱強度及び圧延性を兼ね備えるためには、マンガンの含有率を0.4質量%以上2.5質量%以下とすることが好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下とすることがより好ましい。
【0017】

本発明のアルミニウム合金箔は、該アルミニウム合金箔100質量%中に、0.03質量%以上0.08質量%以下の鉄を含有する。アルミニウム合金箔中に一定量の鉄を加えることにより、高温多湿雰囲気におけるアルミニウム合金箔の耐食性を向上させることができる。アルミニウム合金箔100質量%中の鉄の含有量が0.03質量%に満たない場合、高温多湿雰囲気におけるアルミニウム合金箔の耐食性が不十分となる。一方、鉄の含有量が0.08質量%を超えると、-40~60℃における塩水に対する耐食性が著しく低下する。
【0018】
アルミニウム合金箔に、鉄及びマンガンが含まれていると、Al(Fe、Mn)等のアルミニウム-鉄-マンガンの金属間化合物が形成される。アルミニウム-鉄-マンガンの金属間化合物が形成されたアルミニウム合金は、一般的にはアルミニウム-鉄系金属間化合物が形成されたアルミニウム合金と比較して、塩分による耐食性に優れる。また、マンガンのアルミニウム合金箔中の含有量が0.4質量%以上3質量%以下であることにより、アルミニウム-鉄-マンガンの金属間化合物が形成されやすくなる。一方で鉄の含有量が0.08質量%を越えると、上述のアルミニウム-鉄-マンガンの金属間化合物以外に、アルミニウム-鉄系金属間化合物も形成されるため、-40~60℃における塩水に対するアルミニウム合金箔の耐食性が著しく低下すると考えられる。
【0019】
また、鉄の含有量が少ないほどアルミニウム合金箔の表面硬度は低くなる。上述の理由を加味すると、鉄の含有量は0.04質量%以上0.07質量%以下がより好ましい。さらに好ましくは0.04質量%以上0.06質量%以下である。
【0020】
シリコン
シリコンがアルミニウム合金中に存在すると、酸性の環境ではアルミニウム合金の耐食性が低下し、特に孔食の原因となる。しかしシリコンが含有されることで高温多湿雰囲気における耐食性の低下を抑制することができる。一方、シリコンの含有率を小さくすると、アルミニウム合金の結晶粒径が小さくなる。これにより、アルミニウム合金の伸び、すなわち圧延性をも向上させることができる。これらを考慮すれば、アルミニウム合金箔100質量%中におけるシリコンの含有率を0.00001質量%以上0.1質量%以下にする必要があり、0.001質量%以上0.08質量%以下が、より好ましい。
【0021】

銅はアルミニウム合金中に微量に存在してもアルミニウム合金の耐食性を低下させる。そのため、アルミニウム合金箔100質量%中に、銅の含有率は0.03質量%以下とする必要がある。銅の含有量の下限値は特に限定されないが、通常0.00001質量%程度である。銅の含有率を0.00001質量%未満にするためには、さらに分別結晶法を繰り返すこと等が必要になり、製造コストが著しく高くなる。また、好ましくは、銅の含有率は0.02質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以下である。
【0022】
亜鉛
亜鉛はアルミニウム合金内に微量に存在してもアルミニウム合金の耐食性を低下させる。そのため、アルミニウム合金箔100質量%中における亜鉛の含有率は0.01質量%以下とする必要がある。亜鉛の含有量の下限値は特に限定されないが、通常0.00001質量%程度である。亜鉛の含有率を0.00001質量%未満にするためには、三層電解法を繰り返すこと等が必要になり、製造コストが著しく高くなる。
【0023】
マグネシウム
マグネシウムは、アルミニウムの表面上に形成された酸化被膜中に濃縮しやすく、被膜欠陥を引き起こすため、アルミニウム合金の耐食性を低下させる。そのため、アルミニウム合金箔100質量%中におけるマグネシウムの含有率は0.001質量%以下とする必要がある。マグネシウムの含有量の下限値は特に限定されないが、通常0.00001質量%程度である。マグネシウムの含有率を0.00001質量%未満にするためには、三層電解法を繰り返すこと等が必要になり、製造コストが著しく高くなる。
【0024】
その他
本発明のアルミニウム合金箔は、上述した金属元素以外に、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等の遷移元素、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、及びビスマス(Bi)等からなる群より選択される一種以上の元素を含有してもよい。これら各元素の含有量は、アルミニウム合金箔100質量%中に、それぞれ0.05質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、本明細書において、アルミニウム合金箔の組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析法によって測定するものとする。測定装置としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製iCAP6500DUO、もしくは株式会社島津製作所製ICPS-8100などが挙げられる。
【0026】
アルミニウム合金箔の厚み
アルミニウム合金箔の厚みは、強度及び製造の容易性の観点から、5μm以上であることが好ましい。また、アルミニウム合金箔の軽量化という観点から、アルミニウム合金箔の厚みは300μm以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、5μm以上200μm以下とすることが好ましい。アルミニウム合金箔の厚みを上記範囲とするには、常法に従って、鋳造、圧延を行えばよい。また、適宜熱処理を行ってもよい。
【0027】
積層体
また本発明のアルミニウム合金箔の少なくとも一方の面に、樹脂フィルム層及びコーティング層の何れか又は双方を積層させた積層体とするのも好ましい実施態様である。かかる積層体は、塩水に対する耐食性及び高温多湿環境下での耐湿熱性が求められる環境下での使用に好適である。また、高い表面硬度をも有しているため、塩分を含んだ飲料及び食品の包装用、生理食塩水を含む薬品等の包装材用、断熱材や防水シート等の建材用、海洋及び沿岸部に設置される設備(例えば太陽光発電パネル)、船舶、航空、自動車、及び鉄道車両等の機械部品、並びに電気電子関係部材における紫外線、可視光、赤外線、電波等の電磁波、ガス、及び湿気からの遮蔽としての被覆用、家庭用及び装飾用分野にも十分な効果を発揮することができる。
【0028】
アルミニウム合金箔に積層させる樹脂フィルム層及びコーティング層の積層数及び、積層する順序等は、その積層体の使用用途等に応じ、適宜設定すればよく、限定はない。積層体の厚みは、強度の観点から、6μm以上とするのが好ましく、軽量化の観点から301μm以下とするのが好ましい。さらに好ましくは、10μm以上201μm以下である。
【0029】
樹脂フィルム層に使用する樹脂フィルムとしては、公知の樹脂を材料とするフィルムを広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルアルコール、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリイミド及び塩化ビニルから選ばれる1種以上を用いることができる。樹脂フィルム層の厚みは、積層体の厚みが上記数値範囲内となるように、アルミニウム合金箔の厚み及び後述するコーティング層の厚みも考慮し、適宜設定すればよい。
【0030】
樹脂フィルム層をアルミニウム合金箔に積層するに際して両者を接着する方法としては、公知の方法を広く採用することができ、特に限定はない。具体的には、ポリエステルウレタン系、ポリエステル系等の2液硬化型接着剤を用いるドライラミネーション法、共押し出し法、押し出しコート法、押し出しラミネート法、ヒートシール法、及びアンカーコート剤を用いるヒートラミネーション法等が挙げられる。
【0031】
コーティング層には、チタン酸化物、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、及びクロム組成物などの無機物コート、アクリル、ポリカーボネート、シリコン樹脂、及びフッ素樹脂などの樹脂コートを採用することができる。その他にも、プラズマ処理、脂肪酸、シランカップリング剤などによる表面修飾、並びに、酸及び/又はアルカリなどによって形成される変成物などを好適に用いることができ、特に限定はない。コーティング層の厚みも、積層体の厚みが上記数値範囲内となるように、アルミニウム合金箔及び樹脂フィルム層の厚みを考慮し、適宜設定すればよい。
【0032】
アルミニウム合金箔の製造方法
本発明のアルミニウム合金箔の製造方法は、96.9質量%以上のアルミニウム、0.4質量%以上3質量%以下のマンガン、0.03質量%以上0.08質量%以下の鉄、0.00001質量%以上0.1質量%以下のシリコン、0.00001質量%以上0.03質量%以下の銅、0.00001質量%以上0.01質量%以下の亜鉛、及び0.00001質量%以上0.001質量%以下のマグネシウムを含有する鋳塊を圧延する工程を有することを、特徴とする。
【0033】
鋳塊は、例えば、アルミニウム地金を溶解し、鉄又はアルミニウム-鉄母合金、並びにマンガン又はアルミニウム-マンガン母合金を添加することにより得られる溶湯を凝固させて鋳造することにより、得ることができる。鋳造方法は特に限定されず、半連続鋳造、連続鋳造、及び金型鋳造等からなる群より選択される方法を採用することができる。
【0034】
得られた鋳塊に、均質化熱処理を行ってもよい。均質化熱処理は、たとえば加熱温度を400℃以上630℃以下、加熱時間を1時間以上20時間以下とする条件で行うことが好ましい。
【0035】
圧延するための方法としては、公知の圧延方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。
【0036】
但し、アルミニウム合金箔の厚みを調整しやすくするという観点から、熱間圧延工程の後に、冷間圧延工程を設けることが好ましい。また、熱間圧延工程における熱間圧延の回数及び冷間圧延工程における冷間圧延の回数は目的とする最終厚みに応じて適宜設定すればよい。
【0037】
冷間圧延を複数回実施する場合には、中間焼純を実施することも好ましい。この場合、冷間圧延工程を、1回又は複数回の冷間圧延、中間焼純、1回又は複数回の冷間圧延の順に実施することが好ましい。中間焼純は、焼純温度を50℃以上500℃以下、焼純時間を1秒以上20時間以下に設定して実施することが好ましい。かかる構成を採用することにより、アルミニウム合金箔の厚みを容易に調整することができる。
【0038】
また、熱間圧延工程及び冷間圧延工程の後、さらに、箔圧延工程を設けることも、好ましい。箔圧延工程を設けることにより、アルミニウム合金箔の厚みを調整することが、さらに容易になる。箔圧延工程は、重合圧延により実施してもよい。
【0039】
箔圧延工程の後に、さらに、50℃以上450℃以下の温度で1秒~50時間程度の熱処理を実施する熱処理工程を設けてもよい。熱処理工程を設けることにより、アルミニウム合金箔表面に残留している圧延油の除去による濡れ性向上やアルミニウム合金箔の機械特性を調整できる。
【0040】
積層体の製造方法
上記で得られたアルミニウム合金箔の何れか又は双方の面に、樹脂フィルム層及びコーティング層の何れか又は双方を積層し、積層体を得ることも好ましい。ここでの積層の方法としては、公知の方法を広く採用することが可能であり、具体的には、ドライラミネート法、押し出しラミネート法、ウエットラミネート法、及びヒートラミネート法等からなる群より選択される方法を採用することができる。また、アルミニウム合金箔の何れか又は双方の面に、樹脂フィルム層及びコーティング層の双方を積層する場合には、コーティング層及び樹脂フィルム層をこの順に積層することが好ましい。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例
【0042】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0043】
表1に示す組成に基づき、アルミニウム合金を、約10℃/秒の冷却速度で溶解鋳造することにより厚み6mmのアルミニウム合金の板を得た。得られたアルミニウム合金の板を400℃にて5時間熱処理を行った。炉から板を取り出した後圧延し、実施例1~7及び比較例1~8の、厚み100μmのアルミニウム合金箔を得た。
【0044】
加えて表1に示す組成に基づき、アルミニウム合金を、約10℃/秒の冷却速度で溶解鋳造することにより厚み500mmのアルミニウム合金の板を得た。得られたアルミニウム合金の板を610℃にて10時間、均質化熱処理を行った。炉から板を取り出した後熱間圧延を施し、厚み7mmの熱間圧延板を得た後、冷間圧延を行い、表1に記載の厚みを有する実施例8~11及び比較例9のアルミニウム合金箔を得た。
【0045】
アルミニウム合金箔の組成情報は、アルミニウム合金箔を1.00g測り取り、誘導結合プラズマ発光分析法(装置名:株式会社島津製作所製ICPS-8100)により測定を行うことにより、得た。
【0046】
(耐湿熱性評価試験)
各実施例及び比較例のアルミニウム合金箔を、40mm×40mmに切り出しものを試験片とし、温度120℃で湿度が100%になるまで圧力をかけた雰囲気中に12時間放置し、放置前後の質量を計測し、表面の酸化腐食による質量増加率を算出した。質量増加率が1.0%未満のものを、十分な耐湿熱性を有すると評価した。なお、実施例8~11及び比較例9については試験片質量が異なるため、以下の式1で100μm厚みの質量増加率として評価した。
(式1)
質量増加率[%]=(放置後質量-放置前質量)/(放置前質量×100/試験片厚み[μm])×100
【0047】
(耐食性評価試験)
各実施例及び比較例のアルミニウム合金箔を、40mm×40mmに切り出しものを試験片とし、3質量%の塩化ナトリウムと3質量%の酢酸を含んだ水溶液に40℃で336時間浸漬し、浸漬前後の質量を計測し、溶解腐食による質量減少率を計測・算出した。質量減少率が12.0%未満のものを、十分な耐食性を有すると評価した。なお、実施例8~11及び比較例9については試験片質量が異なるため、以下の式2で100μm厚みの質量減少率として評価した。
(式2)
質量減少率[%]=(浸漬前質量-浸漬後質量)/(浸漬前質量×100/試験片厚み[μm])×100
【0048】
(ビッカース硬度測定試験)
得られた各実施例及び比較例のビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度は、表面の傷付き難さを指標として、島津製作所製ビッカース硬度計HMV-1を用い、ダイヤモンド圧子による圧下で、試験力が490mNで5秒間押し込んだ後のビッカース硬度測定試験を行った。ビッカース硬度HV0.05が55.0以上のものを、十分な表面硬度を有すると評価した。
【0049】
(耐熱性試験)
得られた各実施例及び比較例のアルミニウム合金箔を250℃で3時間加熱し、加熱前後の引張強度を測定した。引張強度は株式会社東洋精機製作所製オートグラフVES5Dを使用し、各アルミニウム合金箔を圧延幅方向15mm、圧延方向200mmに切り出し、標点間距離100mm、引張速度20mm/分で引張試験を行った際の、最大引張強度とした。加熱後の引張強度が150N/mm以上あるものを、十分な耐熱性を有すると評価した。
【0050】
(試験結果)
表1に示すように、各実施例のアルミニウム合金箔は、耐湿熱性、耐食性表面硬度及び耐熱強度の全てにおいて、良好な結果を示した。それに比べて各比較例のアルミニウム合金箔は、耐湿熱性、耐食性及び表面硬度の少なくとも1つ以上において満足のいく結果が得られなかった。
【0051】
【表1】