(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H05B 3/12 20060101AFI20230724BHJP
H05B 3/74 20060101ALI20230724BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
H05B3/12 A
H05B3/74
H01L21/68 R
(21)【出願番号】P 2019000638
(22)【出願日】2019-01-07
【審査請求日】2021-12-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 尚人
(72)【発明者】
【氏名】土佐 晃文
(72)【発明者】
【氏名】森川 量子
【審査官】河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-49844(JP,A)
【文献】特開2001-230060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/12, 3/20
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に略直交する第1の表面を有
し、AlNを主成分とするセラミックス部材と、
前記セラミックス部材に設けられ
、AlNを含む抵抗体と、
を備え、前記セラミックス部材の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、
前記抵抗体の少なくとも1つの特定断面において、前記抵抗体は、WCを含み、かつ、前記抵抗体におけるWに対するCの原子数比率は1より大きく、
前記抵抗体におけるWCに対するW
2Cの原子数比率は、0.1以下である、
ことを特徴とする保持装置。
【請求項2】
請求項1に記載の保持装置において、
前記特定断面において、前記抵抗体におけるWに対するCの原子数比率は、1.01以上である、
ことを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体素子を製造する際にウェハを保持する保持装置として、静電チャックが用いられる。静電チャックは、セラミックス部材と、例えば金属製のベース部材と、セラミックス部材とベース部材とを接合する接合部と、セラミックス部材の内部に配置されたチャック電極とを備えており、チャック電極に電圧が印加されることにより発生する静電引力を利用して、セラミックス部材の表面(以下、「吸着面」という。)にウェハを吸着して保持する。
【0003】
静電チャックの吸着面に保持されたウェハの温度が所望の温度にならないと、ウェハに対する各処理(成膜、エッチング等)の精度が低下するおそれがある。このため、静電チャックには、ヒータ電極がセラミックス部材の内部に配置されており、このヒータ電極の加熱により、セラミックス部材の吸着面の温度が所望の温度になるよう制御が行われる。
【0004】
ここで、ヒータ電極の形成材料として、W(タングステン)を用いた場合、例えばセラミックス部材の製造段階におけるセラミックス材料内の残炭具合や焼成条件等の要因により、ヒータ電極に、Wだけでなく、Wの炭化物であるWC(一炭化一タングステン)やW2C(一炭化二タングステン)等が生成されることがある。ここで、WCの比抵抗(19×10-6Ωcm程度)は、Wの比抵抗(6×10-6Ωcm程度)より大きく、W2Cの比抵抗(53×10-6Ωcm程度)は、WCの比抵抗よりさらに大きい。このため、ヒータ電極に、W2Cが存在すると、ヒータ電極の電気抵抗が顕著に増大する。そこで、従来から、WC粒子を含む導電性ペーストを用いてヒータ電極をセラミックスグリーンシートに形成し、W2Cの生成温度より低い温度で焼成することにより、ヒータ電極が内部に配置されたセラミックス部材を生成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばヒータ電極の発熱効率の向上等の観点から、ヒータ電極の抵抗温度係数の向上が要求されることがある。WC粒子を含む導電性ペーストを用いる上記従来の技術では、仮にW2Cの生成を低減できたとしても、ヒータ電極の抵抗温度係数が低い。その結果、例えば、所定の目標温度までセラミックス部材の吸着面を加熱できなくなったり、また、仮に所定の目標温度までセラミックス部材の吸着面を加熱できたとしてもヒータ電極の発熱効率が低下したりする、といった問題があった。
【0007】
なお、このような課題は、ヒータ電極に限らず、その他の抵抗体が設けられたセラミックス部材に共通の課題である。また、このような課題は、静電チャックに限らず、抵抗体が設けられたセラミックス部材を備え、セラミックス部材の表面上に対象物を保持する保持装置一般に共通の課題である。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される保持装置は、第1の方向に略直交する第1の表面を有するセラミックス部材と、前記セラミックス部材に設けられた抵抗体と、を備え、前記セラミックス部材の前記第1の表面上に対象物を保持する保持装置において、前記抵抗体の少なくとも1つの特定断面において、前記抵抗体は、WCを含み、かつ、前記抵抗体におけるWに対するCの原子数比率は1より大きい。
【0011】
本願の発明者は、抵抗体におけるWに対するCの原子数比率が1より大きいと、抵抗体の抵抗温度係数が顕著に向上することを新たに見出した。そこで、本保持装置では、抵抗体の少なくとも1つの特定断面において、セラミックス部材に設けられた抵抗体は、WCを含み、かつ、抵抗体におけるWに対するCの原子数比率は1より大きい。これにより、本保持装置によれば、抵抗体におけるWに対するCの原子数比率が1以下である構成に比べて、抵抗体の抵抗温度係数を向上させることができる。
【0012】
(2)上記保持装置において、前記特定断面において、前記抵抗体におけるWに対するCの原子数比率は、1.01以上である構成としてもよい。本願の発明者は、抵抗体におけるWに対するCの原子数比率が1より大きい場合、抵抗体の材料比抵抗は、抵抗体のWに対するCの原子数比率の大小に影響されにくい、ことを新たに見出した。そこで、本保持装置では、抵抗体におけるWに対するCの原子数比率は、1.01以上である。これにより、本保持装置によれば、抵抗体の材料比抵抗の増加を抑制しつつ、抵抗体の抵抗温度係数を向上させることができる。
【0013】
(3)上記保持装置において、前記抵抗体の抵抗温度係数は、4500ppm/℃以上、6500ppm/℃以下である構成としてもよい。本保持装置では、抵抗温度係数は、4500ppm/℃以上、6500ppm/℃以下である。これにより、本保持装置によれば、例えば白金により構成された抵抗体の抵抗温度係数(約3900ppm/℃)に比べて、高い抵抗温度係数を有する抵抗体が設けられた保持装置を提供することができる。
【0014】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば静電チャック、真空チャック等の保持装置、サセプタ等の加熱装置、さらには、抵抗体が設けられたセラミックス部材、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態における加熱装置100の外観構成を概略的に示す斜視図である。
【
図2】実施形態における加熱装置100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】各サンプルにおけるヒータ電極の材料比抵抗と抵抗温度係数とに関する評価結果を示す説明図である。
【
図4】サンプル3におけるヒータ電極付近のXZ断面構成を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.本実施形態:
A-1.加熱装置100の構成:
図1は、本実施形態における加熱装置100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、
図2は、本実施形態における加熱装置100のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、加熱装置100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0017】
加熱装置100は、対象物(例えば、半導体ウェハW)を保持しつつ所定の処理温度(例えば、400~650℃程度)に加熱する装置であり、サセプタとも呼ばれる。加熱装置100は、例えば、成膜装置(CVD成膜装置やスパッタリング成膜装置等)やエッチング装置(プラズマエッチング装置等)といった半導体製造装置の一部として使用される。
【0018】
図1および
図2に示すように、加熱装置100は、保持体10と柱状支持体20とを備える。
【0019】
(保持体10)
保持体10は、所定の方向(本実施形態では上下方向)に略直交する保持面S1および裏面S2を有する略円板状の部材である。保持体10は、例えば、AlN(窒化アルミニウム)を主成分とするセラミックスにより形成されている。なお、ここでいう主成分とは、含有割合(重量割合)の最も多い成分を意味する。保持体10のセラミックス部分におけるAlNの含有率は、90体積%以上、99.5体積%以下であることが好ましい。保持体10の直径は、例えば100mm以上、500mm以下程度であり、保持体10の厚さ(上下方向における長さ)は、例えば3mm以上、20mm以下程度である。
【0020】
図2に示すように、保持体10の内部には、保持体10を加熱する抵抗発熱体により構成されたヒータ電極50が配置されている。ヒータ電極50の詳細構成については後述する。ヒータ電極50の一対の端部は、保持体10の周縁側に配置されている。また、保持体10の内部には、一対の周縁側ビア導体51と、一対の導電路53と、ビア群52とが設けられている。各周縁側ビア導体51は、上下方向に延びる線状の導電体であり、保持体10の周縁側に位置している。各周縁側ビア導体51の上端は、ヒータ電極50の各端部に接続されている。各導電路53は、保持体10の径方向に延びる線状の導電体であり、各導電路53の上記径方向外側の端部に、各周縁側ビア導体51の下端が接続されている。ビア群52は、上下方向に延びる線状の導電体である複数(本実施形態では、2つ)のビア52Aを含む。各ビア52Aの上端は、各導電路53の上記径方向内側の端部に接続されている。また、保持体10の裏面S2の中央部付近には、一対の凹部12が形成されており、各凹部12内には受電電極(電極パッド)54が配置されている。各受電電極54は、保持体10の裏面S2に露出するように配置されており、受電電極54の露出部分はろう付け部56に覆われている。各ビア52Aの下端は各受電電極54に接続されている。これにより、ヒータ電極50と各受電電極54とが電気的に接続されている。
【0021】
(柱状支持体20)
柱状支持体20は、上記所定の方向(上下方向)に延びる略円柱状部材である。柱状支持体20は、保持体10と同様に、例えばAlNを主成分とするセラミックスにより形成されている。柱状支持体20の外径は、例えば30mm以上、90mm以下程度であり、柱状支持体20の高さ(上下方向における長さ)は、例えば100mm以上、300mm以下程度である。
【0022】
(接合部30)
保持体10と柱状支持体20とは、保持体10の裏面S2と柱状支持体20の上面S3とが上下方向に対向するように配置されている。柱状支持体20は、保持体10の裏面S2の中心部付近に、後述の接合材料により形成された接合部30を介して接合されている。
【0023】
図2に示すように、柱状支持体20には、保持体10の裏面S2側に開口する貫通孔22が形成されている。貫通孔22は、上下方向と略同一方向に延び、延伸方向にわたって略一定の内径を有する断面略円形の孔である。貫通孔22には、複数(本実施形態では2つ)の電極端子70が収容されている。各電極端子70の上端部は、金属ろう材(例えば金ろう材)を含む、ろう付け部56を介して受電電極54に接合されている。図示しない電源から各電極端子70、各受電電極54、ビア群52(ビア52A)を介してヒータ電極50に電圧が印加されると、ヒータ電極50が発熱し、保持体10の保持面S1上に保持された対象物(例えば、半導体ウェハW)が所定の温度(例えば、400~650℃程度)に加熱される。
【0024】
A-2.ヒータ電極50の詳細構成:
ヒータ電極50の詳細構成について説明する。ヒータ電極50は、導電性材料としてW(タングステン)を含む材料により形成されている。なお、ヒータ電極50は、W以外に、Mo(モリブデン)などの他の導電性材料を含んでいてもよい。また、ヒータ電極50は、導電性材料以外の成分を含んでいてもよい。例えば、保持体10とヒータ電極50との熱膨張差の低減のため、ヒータ電極50は、保持体10の主成分であるセラミックスと同じセラミックスを含んでいることが好ましい。
【0025】
また、ヒータ電極50は、少なくとも次の第1の要件を満たす。
<第1の要件>
ヒータ電極50の少なくとも1つの特定断面において、ヒータ電極50は、WC(一炭化一タングステン)を含み、かつ、ヒータ電極50におけるWに対するC(炭素)の原子数比率(以下、「カーボン比率」という)は1より大きい。
なお、「カーボン比率」は、ヒータ電極50に含まれるWとCとについて、Wの原子数に対する、Cの原子数の割合である。例えば、ヒータ電極50が、主として、WCとCとを含む場合、第1の要件を満たす。
【0026】
また、ヒータ電極50は、さらに、次の第2の要件を満たすことが好ましい。
<第2の要件>
ヒータ電極50の少なくとも1つの特定断面において、ヒータ電極50におけるカーボン比率は、1.01以上である。
なお、ヒータ電極50の少なくとも1つの特定断面において、ヒータ電極50におけるカーボン比率は、1.20以下であることが好ましい。後述するように、上記第1の条件を満たす場合において、ヒータ電極50におけるカーボン比率がある程度高くても、ヒータ電極50の材料比抵抗(μΩ・cm)は略一定であるが、カーボン比率が1.20より高くなり、Cの含有量が過剰になると、ヒータ電極50の材料比抵抗に影響することが想定されるからである。
【0027】
また、ヒータ電極50は、さらに、次の第3の要件を満たすことが好ましい。
<第3の要件>
ヒータ電極50の抵抗温度係数は、4500ppm/℃以上、6500ppm/℃以下である。
なお、「抵抗温度係数」は、物質の温度変化に対する抵抗値の変化の割合を示すパラメータであり、抵抗温度係数が高いほど、加熱性が高いことを意味し、かつ、温度感受性が高いことを意味する。「抵抗温度係数」は、次の式で示される。
「抵抗温度係数(ppm/℃)」=(R-Ra)/Ra÷(T-Ta)×106
Ra:基準温度における抵抗値(Ω)
Ta:基準温度(℃)
R:任意温度における抵抗値(Ω)
T:任意温度(℃)
なお、ヒータ電極50の抵抗温度係数は、5000ppm/℃以上であることが、より好ましい。
【0028】
また、ヒータ電極50は、さらに、次の第4の要件を満たすことが好ましい。
<第4の要件>
ヒータ電極50の少なくとも1つの特定断面において、ヒータ電極50におけるWCおよびW2Cの存在は、X線結晶構造解析(XRD)により確認することができる。また、各物質(WC、W2Cの)の含有率(wt%)は、強度ピーク比をみることにより確認することができ、ヒータ電極50におけるW2Cの含有率が低ければ、ヒータ電極50内における高抵抗のW2Cの点在に起因してヒータ電極50における抵抗ばらつきが生じることを抑制することができる。なお、ヒータ電極50の少なくとも1つの特定断面において、ヒータ電極50におけるWCに対するW2C(一炭化二タングステン)の原子数比率は、0.1以下であることが好ましい。
【0029】
なお、加熱装置100は、特許請求の範囲における保持装置に相当し、上下方向(Z軸方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。保持体10は、特許請求の範囲におけるセラミックス部材に相当し、保持面S1は、特許請求の範囲における第1の表面に相当する。ヒータ電極50は、特許請求の範囲における抵抗体に相当する。
【0030】
A-3.加熱装置100の製造方法:
加熱装置100の製造方法は、例えば以下の通りである。初めに、保持体10と柱状支持体20とを作製する。
【0031】
保持体10の作製方法は、例えば以下の通りである。まず、AlN粉末100重量部に、Y2O3(酸化イットリウム)粉末1重量部と、アクリル系バインダ20重量部と、適量の分散剤および可塑剤とを加えた混合物に、トルエン等の有機溶剤を加え、ボールミルにて混合し、グリーンシート用スラリーを作製する。このグリーンシート用スラリーをキャスティング装置でシート状に成形した後に乾燥させ、グリーンシートを複数枚作製する。
【0032】
また、W粉末80重量部と、AlN粉末3.5重量部と、バインダ3重量部と、溶剤13.5重量部とを混合して混練することにより、メタライズペーストを作製する。このメタライズペーストを例えばスクリーン印刷装置を用いて印刷することにより、特定のグリーンシートに、後にヒータ電極50や受電電極54等となる未焼結導体層を形成する。また、グリーンシートにあらかじめビア孔を設けた状態で印刷することにより、後にビア群52(ビア52A)となる未焼結導体部を形成する。
【0033】
次に、これらのグリーンシートを複数枚(例えば30枚)熱圧着し、必要に応じて外周を切断して、グリーンシート積層体を作製する。このグリーンシート積層体をマシニングによって切削加工して円板状の成形体を作製し、この成形体を、窒素雰囲気において450℃で脱脂して脱脂体を得る。得られた脱脂体を、熱処理用のカーボン炉内においてAlN製のサヤに入れて、窒素雰囲気、常圧、例えば1825℃で4時間焼成して焼成体を作製する。このように、窒素雰囲気で、1800℃以上、4時間以上、焼成することにより、生成されたヒータ電極50には、W2Cはほとんど含まれておらず、主として、WCとCとが含まれることにより、少なくとも上記第1の要件を満たすヒータ電極50を生成することができる。その後、この焼成体の表面を研磨加工する。以上の工程により、保持体10が作製される。なお、脱脂温度、脱脂時間等の脱脂条件を変更することにより、ヒータ電極50におけるカーボン比率を調整することができる。
【0034】
また、柱状支持体20の作製方法は、例えば以下の通りである。まず、窒化アルミニウム粉末100重量部に、酸化イットリウム粉末1重量部と、PVAバインダ3重量部と、適量の分散剤および可塑剤と、を加えた混合物に、メタノール等の有機溶剤を加え、ボールミルにて混合し、スラリーを得る。このスラリーをスプレードライヤーにて顆粒化し、原料粉末を作製する。次に、貫通孔22に対応する中子が配置されたゴム型に原料粉末を充填し、冷間静水圧プレスして成形体を得る。得られた成形体を脱脂し、さらにこの脱脂体を焼成する。以上の工程により、柱状支持体20が作製される。
【0035】
次に、保持体10と柱状支持体20とを接合する。保持体10の裏面S2および柱状支持体20の上面S3に対して必要によりラッピング加工を行った後、保持体10の裏面S2と柱状支持体20の上面S3との少なくとも一方に、例えば希土類や有機溶剤等を混合してペースト状にした接合剤を均一に塗布した後、脱脂処理する。次いで、保持体10の裏面S2と柱状支持体20の上面S3とを重ね合わせ、ホットプレス焼成を行うことにより、保持体10と柱状支持体20とを接合する。
【0036】
保持体10と柱状支持体20との接合の後、各電極端子70を各貫通孔22内に挿入し、各電極端子70の上端部を各受電電極54に例えば金ろう材によりろう付けすることにより、ろう付け部56を形成した。以上の製造方法により、上述した構成の加熱装置100が製造される。
【0037】
A-4.本実施形態の効果:
抵抗体の形成材料として、Wを用いた場合、例えばセラミックス部材の製造段階におけるセラミックス材料内の残炭具合や焼成条件等の要因により、抵抗体に、Wだけでなく、Wの炭化物であるWCやW2C等が生成されることがある。ここで、上述した従来技術のように、WC粒子を含む導電性ペーストを用いて抵抗体を形成すれば、高抵抗のW2Cの生成を抑制でき、抵抗体の電気抵抗の増大を抑制できる。しかし、主にWCにより形成された抵抗体の抵抗温度係数は比較的低いため、抵抗温度係数の向上の要求に応えることはできない。
【0038】
これに対して、本願の発明者は、抵抗体(本実施形態ではヒータ電極50)におけるWに対するCの原子数比率(カーボン比率)が1より大きいと、抵抗体の抵抗温度係数が顕著に向上することを新たに見出した。そこで、本実施形態の加熱装置100では、ヒータ電極50の少なくとも1つの特定断面において、セラミックス部材に設けられた抵抗体は、WCを含み、かつ、抵抗体におけるカーボン比率は1より大きい(上記第1の要件)。これにより、本実施形態によれば、ヒータ電極50におけるカーボン比率が1以下である構成に比べて、ヒータ電極50の抵抗温度係数を向上させることができる。
【0039】
また、本願の発明者は、抵抗体におけるカーボン比率が1より大きい場合、抵抗体の材料比抵抗は、抵抗体のWに対するCの原子数比率の大小に影響されにくい、ことを新たに見出した。すなわち、カーボン率が高くなると、その分、Wの含有率が低くなるため、抵抗体の材料比抵抗が増大することが想定される。ところが、カーボン率が過度に高くなければ、カーボン率の増減に関係なく抵抗体の材料比抵抗は所定の範囲(例えば、30μΩ・cm以下)内に安定することが分かった。そこで、本実施形態では、特定断面において、ヒータ電極50における半導体ウェハWに対するカーボン比率は、1.01以上であることが好ましい(上記第2の要件)。これにより、本実施形態によれば、ヒータ電極50の材料比抵抗の増加を抑制しつつ、ヒータ電極50の抵抗温度係数を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態では、ヒータ電極50の抵抗温度係数は、4500ppm/℃以上、6500ppm/℃以下であることが好ましい(上記第3の要件)。これにより、本実施形態によれば、例えば白金により構成されたヒータ電極の抵抗温度係数(約3900ppm/℃)に比べて、高い抵抗温度係数を有するヒータ電極50が設けられた加熱装置100を提供することができる。
【0041】
A-5.性能評価:
複数のセラミックス部材のサンプルを作製し、作製された複数のセラミックス部材のサンプルを用いて性能評価を行った。
図3は、各サンプルにおけるヒータ電極の材料比抵抗と抵抗温度係数とに関する評価結果を示す説明図である。
図4は、サンプル3におけるヒータ電極付近のXZ断面構成を模式的に示す説明図である。
【0042】
A-5-1.各サンプルについて:
図3に示すように、4つのサンプルについて、ヒータ電極の材料比抵抗と抵抗温度係数とに関する評価を行った。4つのサンプルは、全体として、上述の加熱装置100における保持体10と略同一構成である。具体的には、AlNの含有率が90~99.5体積%の材料により形成されたセラミックス部材と、セラミックス部材の内部に設けられたヒータ電極と、を備える。ヒータ電極は、導電性材料としてWを含む材料により形成されている。また、ヒータ電極には、AlNが含まれている。なお、各サンプルは、上述した製造方法と同様の方法により製造できる。
【0043】
4つのサンプルは、ヒータ電極が、主成分としてのWを含む点で共通するが、ヒータ電極におけるカーボン比率が互いに異なる。カーボン比率は、次の方法により特定することができる。まず、各サンプルにおけるヒータ電極付近の特定断面(例えばXZ断面)について、ヒータ電極に含まれる各成分元素の濃度(タングステン濃度、カーボン濃度)を特定する。タングステン濃度は、ヒータ電極に含まれる成分元素におけるWの原子数割合(atm%)であり、カーボン濃度は、ヒータ電極に含まれる成分元素におけるCの原子数割合(atm%)である。次に、カーボン濃度をタングステン濃度で除算することにより、カーボン比率を特定することができる。なお、各サンプルにおける各成分元素の濃度(atm%)は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)の定量分析により特定することができる。なお、ヒータ電極付近の特定断面のうち、カーボン比率を特定するための領域は、メタライズ部分(ヒータ電極 すなわち、WCが存在する部分)の最上端より1μmだけ下の位置から、メタライズ部分の最下端より1μmだけ上の位置までの領域である。
【0044】
サンプル1では、ヒータ電極は、主として、W単体を含んでおり、WCやW2C等のWの炭化物やCをほとんど含んでおらず、ヒータ電極におけるカーボン比率は、略0である。すなわち、サンプル1は、上述の第1の要件を満たしていない。サンプル2では、ヒータ電極は、主として、WCを含んでおり、さらに、W2Cを含んでいるが、Cをほとんど含んでおらず、ヒータ電極におけるカーボン比率は、0.5未満である。すなわち、サンプル2は、上述の第1の要件を満たしていない。
【0045】
一方、サンプル3,4では、ヒータ電極は、主として、WCを含んでおり、さらに、Cを含んでいる。サンプル3では、ヒータ電極におけるカーボン比率は、1.05(>1)であり、サンプル4では、ヒータ電極におけるカーボン比率は、1.15(>1)である。すなわち、サンプル3,4は、上述の第1の要件を満たしている。さらに、サンプル3,4では、ヒータ電極におけるカーボン比率は、1.01以上であるため、サンプル3,4は、上述の第2の要件を満たしている。
図4に示すように、サンプル3では、ヒータ電極は、主としてWC(
図4中、点ハッチング部分)を含んでおり、そのWCの領域内にAlN(
図4中、黒色部分)が点在している。また、ヒータ電極には、WCに固溶した複数のC(斜め線ハッチング部分)が点在している。なお、WCにCが固溶していることは、XRDにおいて、Cが固溶していないときのWCの強度ピークを示す回折角度に対して、Cが固溶しているときのWCの強度ピークを示す回折角度がずれることからも確認することができる。
【0046】
A-5-2.評価方法について:
各サンプルにおけるヒータ電極の材料比抵抗(μΩ・cm)は、次のようにして求めることができる。まず、各サンプルにおけるヒータ電極の抵抗値を、抵抗計を用いて測定する。その測定されたヒータ電極の抵抗値と、ヒータ電極の長手方向に直交する断面の面積と、ヒータ電極の長さとから、ヒータ電極の材料比抵抗を求める。また、各サンプルにおけるヒータ電極の抵抗温度係数(ppm/℃)は、次のようにして求めることができる。各サンプルを例えば炉内で加熱し、サンプルの温度上昇過程における各温度でのヒータ電極の抵抗値を、マルチメータを用いて計測する。そして、基準温度から各温度までの温度変化量から、ヒータ電極の抵抗温度係数を求める。
【0047】
A-5-3.評価結果について:
サンプル1では、ヒータ電極の材料比抵抗は、28.6μΩ・cmであり、30μΩ・cm以下に抑制されている。これは、サンプル1では、ヒータ電極が高抵抗のWCやW2Cを含有していないからである。しかし、サンプル1では、ヒータ電極の抵抗温度係数は、3090ppm/℃であり、例えば4500ppm/℃より低い。サンプル2では、ヒータ電極の材料比抵抗は、69μΩ・cmであり、30μΩ・cmを大きく上回っている。これは、サンプル2では、ヒータ電極が、主として、高抵抗のWCやW2Cが含有しているからである。しかも、サンプル2では、ヒータ電極の抵抗温度係数は、3300ppm/℃であり、4500ppm/℃より低い。
【0048】
これに対して、サンプル3では、ヒータ電極の材料比抵抗は、28.2μΩ・cmであり、30μΩ・cm以下に抑制されている。しかも、サンプル3では、ヒータ電極の抵抗温度係数は、5021ppm/℃であり、4500ppm/℃より高い。また、サンプル4では、ヒータ電極の材料比抵抗は、26.8μΩ・cmであり、30μΩ・cm以下に抑制されている。しかも、サンプル4では、ヒータ電極の抵抗温度係数は、5649ppm/℃であり、4500ppm/℃より高い。以上のことから、ヒータ電極が、WCを含み、かつ、ヒータ電極におけるカーボン比率は1より大きい、という上記第1の要件を満たすことにより、ヒータ電極の抵抗温度係数が向上することが分かる。また、ヒータ電極におけるカーボン比率は、1.01以上である、という上記第2の要件を満たすことにより、ヒータ電極の材料比抵抗の増大を抑制しつつ、ヒータ電極の抵抗温度係数の向上を図ることができることが分かる。
【0049】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0050】
上記実施形態における加熱装置100を構成する各部材の形成材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。例えば、上記実施形態における加熱装置100では、保持体10と柱状支持体20との主成分(セラミックス粒子)は、AlNであったが、例えばAl2O3(アルミナ)など、他のセラミックスであってもよい。また、保持体10の主成分と柱状支持体20の主成分とは、互いに異なる材料であってもよい。なお、セラミックス部材のセラミックス部分の主成分がAlN以外の材料(アルミナ等)であっても、セラミックス部分の残炭により、抵抗体にWCやW2Cが生成され、ヒータ電極の抵抗温度係数が低くなる、という問題が生じることがある。これに対して、本発明を適用することにより、抵抗体の抵抗温度係数を向上させることができる。
【0051】
上記実施形態では、抵抗体として、ヒータ電極50を例示したが、抵抗体は、加熱用に限らず、例えば測温用抵抗体などであってもよい。なお、抵抗体が測温用抵抗体である場合、抵抗体の抵抗温度係数が大きいことは、温度感受性が高いことを意味する。したがって、本発明を適用することにより、セラミックス部材に設けられる測温抵抗体の温度感受性が向上し、その結果、例えばセラミックス部材の保持面S1の温度の測定精度を向上させることができる。また、抵抗体は、セラミックス部材の内部に配置されたものに限らず、例えば、セラミックス部材の表面側(例えば上記実施形態において保持体10の裏面S2側)に配置されている構成であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態において、加熱装置100は、上述の第2の要件から第4の要件の少なくとも1つを満たさない構成であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態における加熱装置100の構成は、あくまで例示であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、保持体10および柱状支持体20のZ軸方向視の外形が略円形であるとしているが、他の形状であってもよい。また、柱状支持体20に形成された貫通孔22に収容される電極端子は、ヒータ電極50に電気的に接続された端子に限らず、例えば、プラズマを発生させる高周波(RF)電極に電気的に接続された端子や、静電吸着のための吸着電極に電気的に接続された端子でもよい。また、上記実施形態では、受電電極54は、保持体10の裏面S2に形成された凹部12内に配置されているが、保持体10の裏面S2上に配置されているとしてもよい。要するに、受電電極は、保持体の第2の表面側に配置されていればよい。
【0054】
また、上記実施形態において、ビア群52は、1つのビア52Aを含むとしてもよいし、3つ以上のビア52Aを含むとしてもよい。
【0055】
上記実施形態における加熱装置100の製造方法はあくまで一例であり、種々変形可能である。
【0056】
本発明は、加熱装置に限らず、静電チャック、真空チャック等の保持装置にも適用可能である。要するに、本発明は、抵抗体が設けられたセラミックス部材を備える保持装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10:保持体 12:凹部 13:溶剤 20:柱状支持体 22:貫通孔 30:接合部 50:ヒータ電極 51:周縁側ビア導体 52:ビア群 52A:ビア 53:導電路 54:受電電極 56:ろう付け部 70:電極端子 80:W粉末 100:加熱装置 S1:保持面 S2:裏面 S3:上面 W:半導体ウェハ