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特許7317519ロール状長尺ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ロール状長尺ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/267 20210101AFI20230724BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20230724BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230724BHJP
   D03D 3/00 20060101ALI20230724BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230724BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20230724BHJP
【FI】
D03D15/267
B29B11/16
D03D1/00 A
D03D3/00
H05K1/03 610T
B29K105:08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019028284
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020133052
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 正朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 滋
(72)【発明者】
【氏名】松田 一徹
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-242047(JP,A)
【文献】特開平07-172642(JP,A)
【文献】特開平05-086214(JP,A)
【文献】特開昭47-029669(JP,A)
【文献】国際公開第2013/140812(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08-15/14
B65H18/00-18/28
C03C25/00-25/70
C08J5/04-5/10
5/24
D03D1/00-27/18
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として構成され、且つ表面処理剤で表面処理されたガラスクロスが、芯管に巻かれたロール状長尺ガラスクロスであって、
前記ガラスクロスの厚さが、8μm以上100μm以下であり、
前記厚さと、前記経糸の間隙幅との比(厚さ/経糸間隙)が、0.18以上2.0以下であり、
前記ロール状長尺ガラスクロスのロール密度(kg/m3)が、前記ガラスクロスのシート密度(kg/m3)の1.02倍以上1.25倍以下であり、
前記表面処理剤が、不飽和二重結合を有するシランカップリング剤である、
ロール状長尺ガラスクロス。
【請求項2】
前記厚さと、前記経糸の織り間隔との比(厚さ/経糸の織り間隔)、及び、前記厚さと、前記緯糸の織り間隔との比(厚さ/緯糸の織り間隔)のうちの大きい方の値が、0.07以上0.23以下である、
請求項1に記載のロール状長尺ガラスクロス。
【請求項3】
前記ロール状長尺ガラスクロスの幅入れ量が、マイナス0.5%以上0.1%未満である、
請求項1又は2に記載のロール状長尺ガラスクロス。
【請求項4】
前記ガラスクロスの動摩擦係数が、0.4以上0.8以下である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のロール状長尺ガラスクロス。
【請求項5】
前記表面処理剤の塗布量が、前記ガラスクロスの質量の0.08質量%以上0.30質量%以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のロール状長尺ガラスクロス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のロール状長尺ガラスクロスから解反したガラスクロスを得て、
得られた前記ガラスクロスマトリックス樹脂組成物を含侵することを含む
プリプレグの製造方法
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のロール状長尺ガラスクロスから解反したガラスクロスを得て、
得られた前記ガラスクロスにマトリックス樹脂組成物を含浸し、硬化することを含む
プリント配線板の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状長尺ガラスクロス、プリプレグ、及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられるプリント配線板は、通常、ガラスクロス等の基材にエポキシ樹脂やポリフェニレンエーテル樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸、乾燥してプリプレグとし、該プリプレグを単数又は複数枚重ねると共に、必要に応じて銅箔を重ねた後に加熱加圧成形して積層板とし、次いで、銅箔からなる回路パターンを形成する方法によって、製造される。
【0003】
近年、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、プリント配線板の低誘電率化、低誘電正接化が著しく進行している。プリント配線板は、主にガラスクロスと絶縁樹脂とで構成される複合材であるが、プリント配線板の低誘電化の要求に応えるために、それぞれの材料について、Lガラスクロス、NLガラスクロス等の低誘電ガラスクロス(例えば、特許文献1参照)、ポリフェニレンエーテル等の低誘電樹脂(例えば、特許文献2)を用いることが提案されている。ポリフェニレンエーテル等の低誘電樹脂は、従来から多用されているエポキシ樹脂等と比較して、反応性官能基が異なる点、及び極性が低い点等の特徴を有する。したがって、ガラスクロスと低誘電樹脂との良好な接着性を確保するために、ガラスクロスの表面処理剤として不飽和二重結合等の官能基を有するシランカップリング剤が汎用されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/175248号パンフレット
【文献】特許5274721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラスクロス表面処理を、低誘電樹脂との接着性を確保するために、例えば従来のアミノシランからビニルシランへ代替したり、表面処理剤の塗布量を増大させたりすると、ガラスクロスの表面の滑り性、ガラスクロスの風合い、ガラスクロスの経糸と緯糸の交錯点における糸同士の拘束性等が変化しやすくなる。そのため、外部応力の影響を受けてガラスクロスが変形しやすくなり、製品形態であるロール状ガラスクロスを形成する際、タルミ、目曲がり、及びシワ等の織構造の歪が発生しやすくなる課題を有している。
また、ガラスクロスの中でも、嵩高いガラスクロスは、逐次積層された状態で外部応力の影響を受けて変形しやすく、織物構造の歪みが発生しやすい。
さらに、上記した織構造の歪みが存在するロール状ガラスクロスでは、解反されたガラスクロスの品質が低下する傾向がある。そのため、プリント配線板を製造する過程での加熱加圧成形時及び/又は回路パターン形成時における寸法変化のバラツキを改善することが望まれている。
【0006】
また、ガラスクロスは電子機器に用いられるプリント配線板等に用いられるが、プリント配線板の製造のための加工時に印加される熱への耐性、また、素材としての機能を高めるために、耐熱性を高めることが求められている。特に、ガラスクロスをポリフェニレンエーテル等の低誘電樹脂と組み合わせて用いる場合、十分な耐熱性を確保することが重要である。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、低誘電樹脂と組み合わせて用いた際に耐熱性に優れたものとなるガラスクロスから構成され、シワ等の織構造の歪が抑えられ、プリント配線板としたときの寸法変化のバラツキが小さいロール状長尺ガラスクロス、並びに、当該ガラスクロスを用いたプリプレグ及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、所定の、厚さ、厚さと経糸の間隙幅との比、及びロール密度を有し、並びにガラスクロスが所定の表面処理剤で表面処理されているロール状長尺ガラスクロスは、低誘電樹脂と組み合わせて用いた際に耐熱性が高く、シワ等の織構造の歪が抑えられ、プリント配線板としたときの寸法変化のバラツキが小さくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として構成され、且つ表面処理剤で表面処理されたガラスクロスが、芯管に巻かれたロール状長尺ガラスクロスであって、
前記ガラスクロスの厚さが、8μm以上100μm以下であり、
前記厚さと、前記経糸の間隙幅との比(厚さ/経糸間隙)が、0.18以上2.0以下であり、
前記ロール状長尺ガラスクロスのロール密度(kg/m3)が、前記ガラスクロスのシート密度(kg/m3)の1.02倍以上1.25倍以下であり、
前記表面処理剤が、不飽和二重結合を有するシランカップリング剤である、
ロール状長尺ガラスクロス。
[2]
前記厚さと、前記経糸の織り間隔との比(厚さ/経糸の織り間隔)、及び、前記厚さと、前記緯糸の織り間隔との比(厚さ/緯糸の織り間隔)のうちの大きい方の値が、0.07以上0.23以下である、
[1]に記載のロール状長尺ガラスクロス。
[3]
前記ロール状長尺ガラスクロスの幅入れ量が、マイナス0.5%以上0.1%未満である、
[1]又は[2]に記載のロール状長尺ガラスクロス。
[4]
前記ガラスクロスの動摩擦係数が、0.4以上0.8以下である、
[1]~[3]のいずれかに記載のロール状長尺ガラスクロス。
[5]
前記表面処理剤の塗布量が、前記ガラスクロスの質量の0.08質量%以上0.30質量%以下である、
[1]~[4]のいずれかに記載のロール状長尺ガラスクロス。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のロール状長尺ガラスクロスから解反したガラスクロスと、
前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物と、を有する、
プリプレグ。
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載のロール状長尺ガラスクロスから解反したガラスクロスと、
前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物の硬化物と、を有する、
プリント配線板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低誘電樹脂と組み合わせて用いた際に耐熱性が高く、シワ等の織構造の歪が抑えられ、プリント配線板としたときの寸法変化のバラツキが小さいロール状長尺ガラスクロス、並びに、当該ガラスクロスを用いたプリプレグ及びプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のロール状長尺ガラスクロスの経糸間隙を説明する図である。
図2】本実施形態のロール状長尺ガラスクロスのロール密度の算出方法を説明する図である。
図3】ロール状長尺ガラスクロスをロールの中心方向に向かって切断した場合の拡大断面を模式的に示した図である。
図4】本実施形態のロール状長尺ガラスクロスを製造における、ガラスクロスを巻き取ることに用いた装置を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
<ロール状長尺ガラスクロス>
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントからなるガラス糸を経糸及び緯糸として構成され、且つ表面処理剤で表面処理されたガラスクロスが、芯管に巻かれたロール状長尺ガラスクロスであって、
前記ガラスクロスの厚さが、8μm以上100μm以下であり、
前記厚さと、前記経糸の間隙幅との比(厚さ/経糸間隙)が、0.18以上2.0以下であり、
前記ロール状長尺ガラスクロスのロール密度(kg/m3)が、前記ガラスクロスのシート密度(kg/m3)の1.02倍以上1.25倍以下であり、
前記表面処理剤が、不飽和二重結合を有するシランカップリング剤である。
【0014】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスは、巻取り時に発生する織構造の歪が抑えられ、巻取りの工程の前までに生じた織構造の歪も軽減され、解反時の織構造の歪の発生も抑えられる。また、本実施形態のロール状長尺ガラスクロスを解反して得られたガラスクロスをプリント配線板とすると、低誘電樹脂との組み合わせにおいて高い耐熱性を確保し、且つ、寸法変化のバラツキを小さく抑えることができる。
以下、本実施形態の構成についてより詳細に説明する。
【0015】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスにおけるガラスクロスの厚さは、8μm以上100μm以下、好ましくは9μm以上98μm、より好ましくは10μm以上96μm以下である。ガラスクロスの厚さは100μm以下にすることにより、デジタル機器の高機能、小型軽量化によるプリント配線板の薄型化や高密度化が可能となる。上記厚さはプリント配線板の薄型化や高密度化の観点から薄い方が好ましいが、強度を高める観点から、厚さの下限は8μmである。
【0016】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスは、ロール状長尺ガラスクロスを構成するガラスクロスの厚さと、経糸の間隙幅との比(厚さ/経糸間隙)が、0.18以上2.0以下である。上記厚さと経糸の間隙幅との比(厚さ/経糸間隙)は、好ましくは0.18以上1.9以下であり、より好ましくは0.19以上1.0以下である。
【0017】
上記厚さ/経糸間隙は、緯糸のうねり構造を示す指標であり、ガラスクロスの嵩高さを示す指標の一つでもある。ここで経糸間隙(mm)とは、ガラスクロスを表面から観察した際に、一つの経糸と隣接する一つの経糸の間の、経糸が存在していない部分の幅の平均値である。経糸間隙を図1にて具体的に説明する。
図1は、本実施形態におけるガラスクロスを緯糸方向に切断した際の断面の模式図である。楕円は経糸の断面であり、波型は緯糸の断面である。経糸間隙は、経糸の織間隔Bと経糸幅Aとの差である。
また、厚さ/経糸間隙における厚さは、ガラスクロスの厚さ(mm)である。
【0018】
厚さ/経糸間隙の値が大きいことは、緯糸のうねりが大きくなること(緯糸が窮屈であること)を意味する。緯糸のうねりが大きいガラスクロスは、経糸に張力が作用した際に、緯糸が幅方向に大きく縮むため、ガラスクロスが幅方向に大きく収縮する力が作用する。すなわち、ガラスクロスの幅入れ量が大きくなる。厚さ/経糸間隙の値が0.18以上であると、幅入れが大きく、ガラスクロスに歪が発生し易いが、本実施形態のロール状長尺ガラスクロスとすることにより、織構造の歪みの少ないガラスクロスとすることができる。厚さ/経糸間隙の値が2.0以下であれば、本発明の他の要件であるロール密度比等を満たすロール状長尺ガラスクロスとすることにより、織構造の歪み回避できる。
厚さ/経糸間隙は、例えば、経糸幅の大きさを調整する方法等により、0.18以上2.0以下の範囲に制御することができる。
厚さ/経糸間隙は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0019】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスは、厚さと経糸の織り間隔との比(厚さ/経糸の織り間隔比)、若しくは厚さと緯糸の織り間隔の比(厚さ/緯糸の織り間隔比)のうちの大きい方の値が、好ましくは0.06以上0.23以下であり、より好ましくは0.065以上0.225以下であり、さらに好ましくは0.070以上0.22以下である。
厚さと経糸の織り間隔との比(厚さ/経糸の織り間隔比)、若しくは厚さと緯糸の織り間隔の比(厚さ/緯糸の織り間隔比)のうちの小さい方の値も、上記の範囲内であってよい。
【0020】
経糸の織り間隔(mm)及び緯糸の織り間隔(mm)は、それぞれ、経糸及び緯糸が存在する間隔であり、織密度の逆数として求められる値である。
経糸の織り間隔=25/経糸の織密度(25mm当たりの経糸本数)
緯糸の織り間隔=25/緯糸の織密度(25mm当たりの緯糸本数)
【0021】
厚さ/経糸の織り間隔、及び厚さ/緯糸の織間隔は、それぞれ本実施形態におけるガラスクロスの嵩高さを示す指標の一つとして用いることができる。
ガラスクロスはロール状に巻き取られる過程で、逐次積層され、何層ものガラスクロスが重なってロール形態のガラスクロスとなる。ここで、TD方向に巻取り張力を受けて巻き取られているある地点のガラスクロス(x層におけるガラスクロスともいう)は、x層より内側の層に応力を及ぼす。さらに、x層は、x層の外側に巻き取られるガラスクロス(x+1層)から応力を受ける。この時、嵩高いクロスほど、巻取り時に作用する応力により織物構造や応力分布にズレが生じやすく、また、ズレが蓄積されやすい傾向にある。
嵩高いガラスクロスでは、巻取り張力に幅方向のバラツキがある場合、ロール内部の応力分布状態が適正に巻き取られなかった場合、ガラスクロスの織構造にバラツキがある場合、又はガラスクロスを構成するガラス糸の厚さや撚り数や強度にバラツキがある場合に、シワ等の歪が顕著に発生しやすい傾向にある。
厚さ/経糸の織り間隔、及び/又は、厚さ/緯糸の織間隔が0.06以上であると、外部応力の影響を受けて歪が発生しやすく、また、歪が蓄積しやすいが、本実施形態のロール状長尺ガラスクロスとすることにより、織構造の歪みを抑えられる傾向にある。
厚さ/経糸の織り間隔、及び/又は、厚さ/緯糸の織間隔が0.23以下であれば、本発明の他の要件であるロール密度比等を満たすロール状長尺ガラスクロスとすることにより、織構造の歪み回避できる。
【0022】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスのロール密度は、図2に模式的に示すロール状長尺ガラスクロスを用いて以下のように説明される。コアCを除く1個のロール2の底面積Sにロール幅(高さ)Wを乗じた値、すなわち、コアCを除く1個のロール2の体積を求める。ロール密度は、コアCを除く1個のロール2の質量を上記体積で除して求められる値である。
ロール密度は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
本実施形態におけるガラスクロスのシート密度とは、ロール状長尺ガラスクロス1つ分をシート状としたとき、経糸方向の長さ、緯糸方向の長さ、及びガラスクロスの厚さを乗じた値を体積とし、ガラスクロスの重さを上記体積で除して求められる値である。
シート密度は、具体的には、ガラスクロスの単位面積当たりの質量(g/cm2)とガラスクロスの厚さ(cm)から求めることができる。ガラスクロスの単位面積当たりの質量(g/cm2)と厚さ(cm)とを測定し、ガラスクロスの単位面積当たりの質量を厚さで除することによって、シート密度(g/cm3)が算出される。
シート密度は、特に制限されないが、好ましくは0.5~1.5(g/cm3)であり、より好ましくは0.6~1.4(g/cm3)であり、さらに好ましくは0.65~1.3(g/cm3)である。ガラスクロスのシート密度が0.5~1.5(g/cm3)の範囲であるとき、ガラスクロスのプリント配線板用の補強基材として十分な強度を有するため好ましい。シート密度は、用いるガラスクロスを構成するガラス糸の密度、ガラス糸の太さ、ガラスクロスの織り方(織密度)等により調整することができる。
【0024】
本実施形態においては、メカニズムの詳細は不明ではあるもの、巻取り時に発生する織構造の歪が抑えられ、且つ巻取りの工程の前までに生じた織構造の歪も軽減される。解反時の織構造の歪の発生も抑えられることは、所定量の不飽和二重結合を有するシランカップリング剤にて表面処理され、所定の経糸の間隙幅との比(厚さ/経糸間隙)と所定のロール密度であることにより実現される。
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスのロール密度(g/cm3)は、前記ガラスクロスのシート密度(g/cm3)の1.02~1.25倍であり、好ましくは1.03~1.15倍であり、より好ましくは1.04~1.12倍である。
ロール状長尺ガラスクロスのロール密度がシート密度の1.02~1.25倍であることにより、例えば、緯糸のうねり構造が強いガラスクロス、嵩高いガラスクロスや、表面が滑りやすいガラスクロス、風合いが柔らかいガラスクロス等の、外部応力の影響を受けて歪が蓄積しやすいガラスクロスであっても、ガラスクロスが密接に巻取り芯管へ巻き取られた状態となり、ガラスクロスにタルミ、目曲がり、及びシワ等の織構造の歪を蓄積することを抑制できる。
【0025】
ロール密度の調整方法としては、例えば、ガラスクロスを巻取り芯管に巻き取る工程において、巻取り方法を調整する方法(具体的には、巻取り張力を調整する方法、ニップ圧を調整する方法、巻取りを行う直前にエキスパンダーロール等でガラスクロスを拡布する方法、ニップロールの材質をゴム弾性を有するゴム状弾性体とする方法等)、ガラスクロスに用いる糸種、織密度、糸幅等を調整して経糸及び緯糸のうねり構造やSS特性を調整する方法、ガラスクロスに塗布するシランカップリング剤の種類や塗布量を調整してガラスクロスの摩擦係数を調整する方法、ガラスクロスの風合いを調整する方法、及びこれらの方法を適時組み合わせた方法等が挙げられる。上記方法により、ガラスクロスを巻取方向、幅方向ともに歪が生じさせずに、緻密に逐次積層させて巻取ることができ、所定のロール密度に調整することができる。
【0026】
前記ロール密度は、ロールの内層から外層にいたるまで、すなわち、ロールの開始から終了までのロール全体にわたって、内層側の方が外層側より大きいか、或いは同等であることが好ましい。
したがって、ロール状長尺ガラスクロスにおけるガラスクロス層の厚さが1/2となる時点のロール密度は、最初のロール状長尺ガラスクロスのロール密度の0.95倍以上1.1倍以下であることが好ましい。
また、ロール状長尺ガラスクロスにおけるガラスクロス層の厚さが1/5となる時点のロール密度は、ガラスクロス層の厚さが1/2となる時点のロール密度の0.95倍以上1.3倍以下であることが好ましい。
ガラスクロス層の厚さが1/2及び1/5となる時点のロール密度は、ガラスクロス層の厚さを1/2又は1/5になるまで解反したところで実施例に記載のロール密度の測定する方法によって算出することができる。
【0027】
前記シート密度は、特に制限されないが、好ましくは0.5g/cm3以上1.5g/cm3以下であり、より好ましくは0.6g/cm3以上1.4g/cm3以下であり、さらに好ましくは0.65g/cm3以上1.3g/cm3以下である。シート密度が0.5g/cm3以上1.5g/cm3以下の範囲であるとき、ガラスクロスのプリント配線板用の補強基材として十分な強度を有するため好ましい。シート密度は、用いるガラスクロスを構成するガラス糸の密度、ガラス糸の太さ、ガラスクロスの織り方(織密度)等により調整することができる。
【0028】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスの弾性係数は、好ましくは50GPa以上80GPa以下であり、より好ましくは51GPa以上75GPa以下、さらに好ましくは52GPa以上75GPa以下、特に好ましくは53GPa以上63GPa以下である。
上述した低誘電ガラスのガラスクロスはEガラスクロスに比べて弾性係数が小さく、外部からの応力や内部応力の影響を受けやすいため、本実施形態のロール状長尺ガラスクロスとすることにより、織構造の歪が補正されて均一になりやすい傾向にある。
また、上述した低誘電ガラスのガラスクロスは、風合いが柔らかく、タルミや目曲がりやシワ等の織構造の歪が発生しやすく、このような品質上の不具合は、プリント配線板の性能、信頼性、安全性を損なうリスクが大きいため、本実施形態のロール状長尺ガラスクロスとして織構造の歪を解消することは非常に有用である。
弾性係数は、ガラスクロスを構成するガラス中の構成元素、特にホウ素の含有量及びリンの含有量を調整することにより制御される。
【0029】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスは、信号の高速化要求に応えることが可能であり、且つ、Eガラスに比べて弾性係数が小さい、低誘電ガラスクロスが好ましい。
低誘電ガラスのガラスクロスとしては、例えば、Lガラスクロス(弾性係数61GPa)、NEガラスクロス(弾性係数64GPa)、B23含有量15質量%~30質量%、SiO2含有量45質量%~60質量%、P25含有量2質量%~8質量%の低誘電ガラスクロス(弾性係数56GPa)等が挙げられる。
【0030】
本実施形態におけるガラスクロスは、公知の方法によって製造でき、例えば、製織したガラスクロスを、表面処理剤の濃度が0.1~3.0wt%である処理液、好ましくは水溶液、によってほぼ完全にガラスフィラメントの表面を表面処理剤で覆う被覆工程と、加熱乾燥により表面処理剤をガラスフィラメントの表面に固着させる固着工程と、ガラスクロスのガラス糸を開繊する開繊工程と、を有する方法を好適に挙げることができる。本実施形態におけるガラスクロスに塗布された、表面処理剤の塗布量は、ガラスクロスの製造における表面処理剤の被覆工程において塗布された量である。
【0031】
ガラスクロスに塗布された表面処理剤の塗布量は、好ましくは0.08質量%以上0.30質量%以下であり、より好ましくは0.13質量%以上0.27質量%以下であり、さらに好ましくは0.16質量%以上0.25質量%以下である。
塗布量を0.08質量%以上0.30質量%以下とすることにより、耐熱性を付与できるとともに、ガラスクロスに適度な動摩擦係数を付与することができる傾向にある。そのため、ガラスクロスを芯管へ巻き取られたロール状態としたときの積層構造においてガラスクロス層間で適度に滑りやすくなる。巻き取り工程において、この滑りが、ガラスクロスが図3に示すように層を噛み合って重なり合う状態で積層させる。なお図3は、ロール状長尺ガラスクロスをロールの中心に向かって切断したときの拡大した断面の一部を模式的に表した図であり、楕円は経糸の断面であり、波型は緯糸の断面である。
したがって、ガラスクロスの厚さが8~100μmの、タルミ、目曲がり、及びシワ等の織構造の歪が生じやすいガラスクロスであっても、この織構造の歪を抑制できる。
【0032】
表面処理剤の塗布量は、ガラスクロスの製造において表面処理剤の被覆工程における処理液のシランカップリング剤濃度を調整することにより制御することができる。本実施形態におけるガラスクロスに塗布された不飽和二重結合を有するシランカップリング剤の塗布量は、具体的には実施例に記載の測定方法によって求めることができる。
【0033】
表面処理剤としては、不飽和二重結合を有するシランカップリング剤であれば特に限定されないが、例えば、下記の式(1)で示されるシランカップリング剤を使用することが好ましい。
X(R)3-nSiYn ・・・(1)
【0034】
式(1)中、Xは、ロール状のガラスクロス積層構造においてガラスクロス層間を適度に滑りやすくする観点から、少なくとも一つの不飽和二重結合基を有する有機官能基が含まれる。不飽和二重結合基としては、ビニル基、アリル基が好適に挙げられる。
Yは、各々独立して、アルコキシ基であり、nは1以上3以下の整数であり、Rは、各々独立して、メチル基、エチル基、及びフェニル基からなる群より選ばれる基である。
Xの有機官能基には、アミノ基が含まれていてもよい。アミノ基としては、第一級アミンの基(-NH2)、第二級アミンの基(-NH-)、第三級アミンの基(-N<)であってもよく、これら第一級~第三級のアミンの基のいずれも包含する。
【0035】
上記のアルコキシ基としては、何れの形態も使用できるが、ガラスクロスへの安定処理化のためには、炭素数5以下のアルコキシ基が好ましい。
【0036】
シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-β-(N-ジ(ビニルベンジル)アミノエチル)-N-γ-(N-ビニルベンジル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
本実施形態における幅入れ量とは、無張力下におけるガラスクロスの幅Woと、巻き取りロール上でのガラスクロスの幅Waを用いて、以下の式(1)によって求めた値である。なお、ガラスクロスの幅入れとは、ガラスクロスを巻取り芯管に巻き取る工程において、経糸が巻取り張力により張り、その影響により緯糸の縮みが生じるため、幅方向に圧縮応力が作用する現象である。
幅入れ量(%)=(Wa-Wo)/Wo×100 ・・・(1)
【0038】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスの幅入れ量は、好ましくはマイナス0.5%以上0.1%未満であり、好ましくはマイナス0.4%以上0.1%未満であり、より好ましくはマイナス0.3%以上0.05%以下であり、さらに好ましくはマイナス0.2%以上0.05%以下であり、よりさらに好ましくはマイナス0.1%以上0%以下である。
【0039】
幅入れ量が0.1%未満であることにより、緯糸は本来のうねり状態であるか適度に張った状態が維持され、且つ、経糸も緯糸に拘束されてうねり状態が幅方向で均一に近づくため、寸法安定性に優れたガラスクロスが得られる。
また、幅入れ量がマイナス0.5%以上であることにより、経糸のうねりが過度に増大することなく、本来のうねり状態に近い形で維持されるため、ガラスクロスを密に積層することができ、巻取り状態が緊密になりやすい。
幅入れ量がマイナス0.5%以上0.1%未満であることにより、ガラスクロスの経糸及び緯糸のうねり構造がそれぞれ均一になり、且つ、巻取り状態が緊密に積層された状態となる。また、幅入れ量がマイナス0.5%以上0.1%未満であることにより、ガラスクロスの巻取りより前の工程、例えば、製織工程、開繊工程、表面処理工程等でガラスクロスに生じた歪までも解消されるため、織構造の均一なガラスクロスとすることができる。
以上のとおり、幅入れ量がマイナス0.5%以上0.1%未満であることにより、ガラスクロスにタルミ、目曲がり、及びシワ等の織構造の歪が発生することを抑制できる。
織構造、うねり構造が均一なガラスクロスは、該ガラスクロスに熱硬化性樹脂を含浸、乾燥してプリプレグとし、該プリプレグを用いて積層板とし、次いで、銅箔からなる回路パターンを形成する工程において、寸法変化のバラツキが低減することができる。
【0040】
ロール状長尺ガラスクロスの幅入れ量をマイナス0.5%以上0.1%未満とする方法としては、例えば、ガラスクロスを巻取り芯管に巻き取る工程において巻取り方法を調整する方法(具体的には、巻取り張力を調整する方法、巻取りを行う直前にエキスパンダーロール等でガラスクロスを拡布する方法、ニップ圧を調整する方法、ニップロールの材質をゴム弾性を有するゴム状弾性体とする方法等)、ガラスクロスに用いる糸種、織密度、糸幅等を調整して緯糸のうねり構造を調整する方法、ガラスクロスに塗布するシランカップリング剤の種類や塗布量を調整してガラスクロスの摩擦係数を調整する方法、ガラスクロスの風合いを調整する方法、及びこれらの方法を適時組み合わせた方法を挙げることができる。
【0041】
幅入れ量は、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0042】
ガラスクロスの動摩擦係数は、好ましくは0.4以上0.8以下であり、より好ましくは0.45以上0.75以下であり、さらに好ましくは0.50以上0.70以下である。
動摩擦係数が0.4以上0.8以下であることにより、上述したようにロール状に積層した際のガラスクロス層間において適度な滑りやすさを発現でき、これにより巻取り時に発生する織構造の歪が緩和され、解反時に発生する織構造の歪も緩和される。
動摩擦係数を0.4以上0.8以下とする方法としては、例えば、ガラスクロスのシランカップリング剤を不飽和二重結合を有するシランカップリング剤とすること、及び表面処理剤の塗布量を調整する方法等が挙げられる。
なお、動摩擦係数は、実施例に記載の測定方法によって測定することができる。
【0043】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスの長さは、特に限定されないが、通常200m以上5,000m以下である。ガラスクロスの長さの範囲が200m以上5,000m以下であることにより、タルミ、目曲がり、シワ等の織構造の歪が低減される効果を十分に得ることができる。
ガラスクロスの長さは、長い方が、プリプレグ製造等を多量に連続して実施できるため好ましい。一方で、ガラスクロスの長さが短い方が、ロール状ガラスクロスの大きさ、重量が小さくなり、取り扱いや保管性に優れるため好ましい。
ガラスクロスの用途、及び加工する目的に合わせ、上記範囲からロール状長尺ガラスクロスの長さを適宜選択することが可能である。
【0044】
本実施形態のガラスクロスの幅は、特に限定されないが、500mm以上、600mm以上、700mm以上、800mm以上、900mm以上、又は1000mm以上でよく、2000mm以下、1900mm以下、1800mm以下、1700mm以下、1600mm以下、1500mm以下、1400mm以下、又は1300mm以下でよい。
特に、当該幅は、好ましくは800mm以上1500mm以下であり、より好ましくは900mm以上1400mm以下、さらに好ましくは1000mm以上1300mm以下である。
ガラスクロスの幅が800mm以上であることにより、製織工程、開繊工程、表面処理工程等においてガラスクロスにタルミ、シワ等の織構造の均一性に歪が生じやすいが、本実施形態のロール状のガラスクロスとすることにより、上記の歪を解消し、織構造の均一なガラスクロスとすることができる傾向にある。
また、ガラスクロスの幅が800mm以上1500mm以下の範囲であることにより、タルミ、目曲がり、シワ等の織構造の歪が低減される効果が十分に得られる傾向にあり、また、プリント配線板用のプリプレグ製造で常用されている樹脂塗工機に供してプリプレグを製造することができる。
【0045】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスが巻き取られた芯管は、直径100mm以上500mm以下の芯管であることが好ましい。芯管の直径は、より好ましくは130mm以上350mm以下、さらに好ましくは150mm以上300mm以下である。
芯管の直径が100mm以上であることにより、ロール内層部と外層部とでガラスクロスに作用する応力の差異が小さくなり、タルミ、目曲がり、シワ等の織構造の歪が低減される効果をより大きく得られる傾向にある。
芯管の直径が500mm以下であることにより、ロール状長尺ガラスクロスの径、重量を小さく抑えることができ、取り扱い性に優れる傾向にある。
芯管の径は、ガラスクロスの厚さ、長さ、重量、さらには、ガラスクロスに要求される均一性の度合いに応じ、上記直径の範囲から適宜選択することが可能である。
【0046】
ガラスクロスの織り構造としては、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の織り構造が挙げられる。さらに異種のガラス糸を用いた混織構造でもよい。この中でも、平織り構造が好ましい。
【0047】
<ロール状長尺ガラスクロスの製造方法>
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスを製造する方法としては、ガラスクロスを芯管に巻き取る工程において巻取り方法を調整する方法(巻取り張力を調整する方法、巻取りを行う直前にエキスパンダーロール等でガラスクロスを拡布する方法、ニップ圧を調整する方法、ニップロールの材質をゴム弾性を有するゴム状弾性体とする方法)、ガラスクロスに用いる糸種、織密度、糸幅等を調整して緯糸のうねり構造を調整する方法、ガラスクロスに塗布するシランカップリング剤の種類や塗布量を調整してガラスクロスの摩擦係数を調整する方法、ガラスクロスの風合いを調整する方法が好適に挙げられる。これらの方法を適時組み合わせることもできる。
【0048】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスの製造における、ガラスクロスを芯管に巻き取る工程は、例えば、図4に模式的に示すように、ガラスクロスを巻取る直前にエキスパンダーロール13、及びニップロール12を配置してガラスクロスの拡布を行う装置を用いることにより、製造することができる。
【0049】
ロール状ガラスクロスの製造では、ガラスクロスを巻取る直前に、巻取り芯管又は巻取りロールの近傍にエキスパンダーロールを配置し、該エキスパンダーロールにガラスクロスを通すことが好ましい。エキスパンダーロールは、ガラスクロスの幅入れを一旦解消させることができ、該ガイドロールより上流の工程に依存せず、安定した巻取りが可能となる傾向にある。
【0050】
エキスパンダーロールとしては、ガラスクロスを屈曲させてロールに通すことにより両端方向に張力を付与できるものであれば特に限定されない。エキスパンダーロールとしては、例えば、宮川ローラー社製のゼブラローラーCタイプ、Dタイプ等の、外周面に、繊維織物の走行方向に傾斜して複数の溝を有するタイプ;宮川ローラー社製のゼブラローラーAタイプ、Bタイプ、明和ゴム社製のコンポジヘリカルロール等の、繊維織物の走行方向に傾斜して摩擦係数や硬度の異なるゴムを交互に並べたタイプ;三橋社製のフラットエキスパンダーロール、ミラボーロール等の、ロール外周に設置したゴムが回転に伴い伸び縮みするタイプ;カンセンエキスパンダー社製のエキスパンダーロール、金陽社製のゴムエキスパンダーロール等の、ロールの軸を湾曲させたタイプ;加貫ローラー製のラジアルクラウンタイプ等の、両端部の直径に比べて中央部の直径が大きいクラウンロールと呼ばれるタイプ;等を用いることができる。
【0051】
また、本実施形態のロール状ガラスクロスの巻き取りでは、ニップロールによって前記巻取りロールの中心方向に10N/m以上500N/m以下の圧力、すなわちニップ圧をさらに付与しながら巻き取りを行うことが好ましい。ニップロールによって付与される圧力は、好ましくは10N/m以上500N/m以下であり、より好ましくは30N/m以上400N/m以下、さらに好ましくは50N/m以上300N/m以下である。ニップロールは、通常使用されるものであれば特に制限されない。
【0052】
ニップロールにより10N/m以上の圧力を付与しながら巻取りを行うことにより、巻取られているガラスクロスの層間への空気の巻き込みを小さくすることができるため、最外層にあるガラスクロスと1層内層側にあるガラスクロスとに適度な摩擦力が作用する。そのため、最外層のガラスクロスに巻取り張力に起因する圧縮応力が作用した場合でも、最外層がその一層内層のガラスクロスに拘束されて動き難くなるため、巻きシワが発生を抑えられ、ロール密度を調整できる。
ニップロールにより500N/m以下の圧力を付与しながら巻取りを行うことにより、ガラスクロスに局所的に圧力が作用することによる毛羽立ち等の品質上の問題を抑えられる傾向にある。
【0053】
また、上記のニップロールの材質は、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ウレタンゴム、ハイバロンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム等からなる群より選択される1種以上を含む、ゴム弾性を有するゴム状弾性体であることが好ましい。
【0054】
また、上記のニップロールは、デュロメータタイプA型の硬度であるショアA硬度が30以上80以下であることが好ましい。ショア硬度が80以下であることにより、圧力が作用する面積が大きくなるため、エキスパンダーロールで拡幅されたクロスを、拡幅された状態を維持して巻き取ることができるため、好ましい。ショア硬度が30以上で、ニップロール自身の経時歪が抑えられるため、長期にわたり安定した巻取りを行うことができるので好ましい。
【0055】
<シート状のガラスクロス>
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスには、ロール状のガラスクロスから、解反して、シート状のガラスクロスとしたものも含まれる。また、ロール状のガラスクロスからガラスクロスを解反しながら、連続して、プリプレグ等の製造に供することもできる。本実施形態によれば、タルミ、目曲がり、シワ等の歪が少ないため、取り扱い性に優れ、且つ、寸法安定性に優れる、誘電率、誘電正接が低いガラスクロスを提供することができる。
【0056】
<プリプレグ>
本実施形態の一つは、本実施形態のロール状長尺ガラスクロスから解反したガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物と、を有する、プリプレグである。本実施形態のロール状長尺ガラスクロスを用いてプリプレグを製造することにより、プリプレグを加熱加圧成形して積層板を形成する工程、及び、回路を形成する工程での寸法安定性に優れるプリプレグを提供することができる。
【0057】
本実施形態のロール状長尺ガラスクロスを用いて作製されるプリプレグは、常法に従って製造することができる。例えば、本実施形態のロール状のガラスクロスを解反して得たガラスクロスに、エポキシ樹脂のようなマトリックス樹脂を有機溶剤で希釈したワニスを含浸させた後、乾燥炉にて有機溶剤を揮発させ、熱硬化性樹脂をBステージ状態(半硬化状態)にまで硬化させて樹脂含浸プリプレグを作製すればよい。
マトリックス樹脂組成物としては、上述のエポキシ樹脂の他に、ビスマレイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、BT樹脂、官能基化ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、全芳香族ポリエステルの液晶ポリマー(LCP)、ポリブタジエン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;及び、それらの混合樹脂等が挙げられる。誘電特性、耐熱性、耐溶剤性、及びプレス成形性を向上させる観点から、マトリックス樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂で変性した樹脂を用いてもよい。
また、マトリックス樹脂組成物としては、樹脂中にシリカ及び水酸化アルミニウム等の無機充填剤;臭素系、リン系、金属水酸化物等の難燃剤;その他シランカップリング剤;熱安定剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;顔料;着色剤;滑沢剤;等を混在させた樹脂を使用してもよい。
【0058】
<プリント配線板>
本実施形態の一つは、本実施形態のプリプレグを用いて製造されるプリント配線板、すなわち、本実施形態のプリプレグを備えるプリント配線板である。本実施形態のプリント配線板は、本実施形態のロール状長尺ガラスクロスから解反したガラスクロスと、前記ガラスクロスに含浸したマトリックス樹脂組成物の硬化物とを有する。本実施形態のプリプレグを用いてプリント配線板を製造することにより、高品質で、配線回路の正確なプリント配線板を提供することができる。
【0059】
なお、上述した各種測定値については特に断りのない限り、後述する実施例に記載された測定方法に即して測定される。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0061】
〔ガラスクロスの物性〕
ガラスクロスの物性、具体的には、ガラスクロスの厚さ、経糸及び緯糸の質量、経糸及び緯糸を構成するフィラメントの径、フィラメント数、経糸及び緯糸の織密度は、JIS R3420に従い測定した。
【0062】
〔経糸幅及び緯糸幅〕
実施例及び比較例で得られたガラスクロスから、経糸方向70mm、緯糸方向70mmの大きさのガラスクロス片を5枚切り出し、糸束測定用の試験片とした。
糸束測定用の試験片を、マクロスコープを用いて100倍の倍率で垂直方向から観察した。試験片1枚につき、50本の経糸の糸幅を無作為に測定し、得られた250本の経糸の糸幅の平均値を求め、当該平均値を経糸幅とした。
同様に、試験片1枚につき、50本の緯糸の糸幅を無作為に測定し、得られた250本の緯糸の糸幅の平均値を求め、当該平均値を緯糸幅とした。
【0063】
〔ロール密度〕
ロール状長尺ガラスクロスのロール密度は、図2の模式図に示されるように、コアCを除くロールの側面の面積S、ロール幅W、及びコアCを除くロールの質量を測定して求めた。
ロール密度は、側面の面積Sにロール幅Wを乗じた値、すなわち、コアCを除く1個のロール2の体積を求め、1個のロール2の質量を上記体積で除して求めた。
【0064】
〔シート密度〕
ロール状長尺ガラスクロスのシート密度は、ガラスクロスの単位面積当たりの質量(g/cm2)と厚さ(cm)とを測定し、当該ガラスクロスの単位面積当たりの質量を当該厚さで除することによって求めた。
【0065】
〔厚さと経糸の織り間隔との比〕
(経糸織密度)
糸束測定用の試験片を用い、織密度測定器(TEXTEST INSTRUMENTS社製のPICKCounter FX3250)を用いて経糸の織密度を測定した。5枚の試験片から得られた織密度値の平均値を算出し、経糸織密度(25mm当たりの経糸本数)を求めた。
(経糸の織り間隔)
下式により、経糸の織間隔を求めた。
経糸の織り間隔=25/経糸の織密度(mm)
(厚さと経糸の織り間隔との比)
下式により、厚さと経糸の織り間隔との比を求めた。
厚さと経糸の織り間隔との比=厚さ(mm)/経糸の織間隔(mm)
【0066】
〔厚さと緯糸の間隙幅との比〕
(緯糸織密度)
糸束測定用の試験片を用い、織密度測定器(TEXTEST INSTRUMENTS社製のPICKCounter FX3250)を用いて緯糸の織密度を測定した。5枚の試験片から得られた織密度値の平均値を算出し、緯糸織密度(25mm当たりの緯糸本数)を求めた。
(緯糸の織り間隔)
下式により、緯糸の織間隔を求めた。
緯糸の織間隔=25/緯糸の織密度(mm)
(厚さと緯糸の織り間隔との比)
下式により、厚さと緯糸の織り間隔との比を求めた。
厚さと緯糸の織り間隔との比=厚さ(mm)/緯糸の織間隔(mm)
【0067】
〔厚さと経糸の間隙幅との比〕
(経糸の間隙幅)
下式により、経糸の間隙幅を求めた。
経糸の間隙幅=経糸の織間隔(mm)-経糸幅(mm)
(厚さと経糸の間隙幅との比)
下式により、厚さと経糸の間隙幅との比を求めた。
厚さと経糸の間隙幅との比=厚さ(mm)/経糸の間隙幅(mm)
【0068】
〔厚さと緯糸の織り間隔との比〕
(緯糸の間隙幅)
下式により、緯糸の間隙幅を求めた。
緯糸の間隙幅=緯糸の織間隔(mm)-緯糸幅(mm)
(厚さと緯糸の間隙幅との比)
下式により、厚さと緯糸の間隙幅との比を求めた。
厚さと緯糸の間隙幅との比=厚さ(mm)/緯糸の間隙幅(mm)
【0069】
〔シランカップリング剤の塗布量〕
(乾燥減量A)
ガラスクロスを110℃の乾燥機の中に入れ、60分間乾燥した。乾燥後、ガラスクロスをデシケータに移し、20分間置き、室温まで放冷した。放冷後、ガラスクロスを0.1mg以下の単位で量った。
次に、ガラスクロスを600℃、20分間加熱処理した後、ガラスクロスをデシケータに移し、20分間置き、室温まで放冷した。放冷後、ガラスクロスを0.1mg以下の単位で量った。
加熱処理前のガラスクロスの質量と加熱処理後のガラスクロスの質量との差(g)を、測定に用いたガラスクロスの質量(g)にて除した値を、乾燥減量A(質量%)とした。
(乾燥減量B)
次いで、乾燥減量Aを求めたガラスクロスを用い、上記の乾燥減量Aを求めた方法と同様の方法で乾燥減量を求め、乾燥減量B(%)とした。
(シランカップリング塗布量)
上記で求めた、乾燥減量Bと乾燥減量Aの差異を、シランカップリング剤塗布量とした。
シランカップリング塗布量(質量%)=乾燥減量B(質量%)-乾燥減量A(質量%)
【0070】
〔幅入れ量〕
幅入れ量は、無張力下におけるガラスクロスの幅Woと、巻き取りロール上でのガラスクロスの幅Waを用いて、以下の式(1)によって求めた。
幅入れ量(%)=(Wa-Wo)/Wo×100 ・・・(1)
幅入れ量は、具体的には、以下の1)~4)に沿って測定した。
1)ガラスクロスロールの最表層面における幅方向の長さを測定した。このとき、MD方向に対して垂直な向きである幅方向の長さWaを測定し、測定した部位の片方の端部に印をつけた。
2)ガラスクロスロールから約2mのガラスクロスを巻き出した時点において、タルミが無い状態で、上記1)において印をつけた箇所の幅方向の長さWoを測定した。
3)式(1)により幅入れ量を求めた。
4)同じガラスクロスロールを用いて、上記1)から3)までの測定を5回繰り返し、その平均値を幅入れ量とした。
【0071】
〔動摩擦係数〕
JIS K 7125に準拠し、ガラスクロス対ガラスクロスの値として測定した。動摩擦測定器(TRILAB社製 TL201Ts)を用い、荷重100g、掃引速度10mm/s、掃引長さ50mmの条件で測定した。
【0072】
〔耐熱性〕
寸法安定性評価用に作製したプリプレグを8枚重ね、さらにその両側に、厚さ12μm、表面粗さRz2.0μmの銅箔(FV-WS箔、古河電工製)を重ねた。次いで、室温から昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力5kg/cm2の条件で真空プレスを行い、130℃まで達したら昇温速度3℃/分で加熱しながら圧力40kg/cm2の条件で真空プレスを行い、200℃まで達したら温度を200℃に保ったまま圧力40kg/cm2、60分間の条件で真空プレスを行うことによって、銅張積層板を作製した。
片側だけの銅箔をエッチングにより除去し、耐熱性試験を実施した。耐熱性試験は、試験片を50mm角に切り出した。次いで、105℃のオーブンに試験片を入れ2時間乾燥させた。得られた試験片を用いて、プレッシャークッカーテストを2気圧、4時間の条件で実施した。その後、288℃のはんだ浴に20秒ディップする試験を30回繰り返す耐熱性試験を実施した。なお、ディップの間隔は20秒間とした。
目視による観察により、下記に基づき耐熱性を評価した。表中、◎は288℃の条件で、膨れ、剥離、及び白化のいずれも確認されなかった積層板であったことを表す。〇は、260℃の条件で、膨れ、剥離、及び白化のいずれも確認されなかった積層板であり、288℃の条件では、膨れ、剥離、及び白化の何れかが発生したことを表す。×は、260℃の条件で、膨れ、剥離、及び白化の何れかが発生した積層板であったことを表す。
【0073】
〔ロール状のガラスクロス品質、及び、解反時のロール状のガラスクロス品質〕
ロール状のガラスクロス品質は、ロール巻取り時、及び、巻き終わり後に外観検査を行い、巻きシワの有無、巻き崩れの有無を確認した。表中○は、ロール巻取り時、及び、巻き終わり後において、巻きシワ及び巻き崩れが無かったことを表す。
解反時のロール状のガラスクロス品質は、解反しているロールの外観検査を行い、巻きシワ、巻き締まりシワに起因する凹凸の有無を確認した。表中○は、巻きシワ及び凹凸が無かったことを表す。
【0074】
〔寸法安定性評価〕
(試験プリプレグ作製)
実施例及び比較例で得られたロール状のガラスクロスの表層側500mを、幅430mmの3本に巻取り方向と同じ方向で分割加工し、幅430mm、長さ500mの3本のガラスクロスを得、それぞれ表層側a、表層側b、表層側cとした。ここで、表層側500mとは、最表層の巻取り終了点からの500mである。
【0075】
また、実施例及び比較例で得られたロール状のガラスクロスの内層側500mを、幅430mmの3本に分割加工し、幅430mm、長さ500mの3本のガラスクロスを得、それぞれ内層側a、内層側b、内層側cとした。ここで、内層側500mとは、巻取り芯管の巻取り開始点より550mから、上記巻取り芯管の巻取り開始点より50mまでの間の500mである。
【0076】
次いで、得られた6本のガラスクロスである、表層側a、表層側b、表層側c、内層側a、内層側b、及び内層側cのそれぞれを、エポキシ樹脂ワニスを用いたプリプレグ塗工に供し、6本の試験プリプレグである、表層側a、表層側b、表層側c、内層側a、内層側b、及び内層側cを得た。なお、エポキシ樹脂ワニスは、低臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂80質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂20質量部、ジシアンジアミド2質量部、2-エチル-4-メチルイミダゾール0.2質量部、2-メトキシ-エタノール100質量部を配合して調合した。プリプレグ塗工は、ガラスクロスを3m/minの速度で搬送させ、エポキシ樹脂ワニスにガラスクロスを浸漬し、樹脂含量が68質量%になるように隙間を調整したスリットを通して余分なワニスを掻き落とした後、乾燥温度170℃、乾燥時間1分30秒の条件で乾燥する条件で行った。
【0077】
(試験基板作製)
ロール状のガラスクロスの異なる部位から作製された試験プリプレグ、表層側a、表層側b、表層側c、内層側a、内層側b、及び内層側cを用いて、以下の方法で試験基板、表層側a、表層側b、表層側c、内層側a、内層側b、及び内層側cを作製した。
【0078】
プリプレグを340mm×340mmの大きさにカットし、該プリプレグを2枚積層し、次いで両表面に厚さ12μmの銅箔を配置し後、195℃、40kgf/cm2で圧縮成型し、試験基板である、表層側a、表層側b、表層側c、内層側a、内層側b、及び内層側cを得た。
【0079】
(寸法安定性評価)
得られた試験基板に、125mm間隔となるよう、タテ方向3カ所×ヨコ方向3カ所の合計9カ所に標点をつけた。そして、タテ方向、ヨコ方向のそれぞれについて、隣接する2標点の標点間隔6箇所を測定し、測定値αを得た。次に、エッチング処理によって鋼箔を取り除き、170℃で30分加熱した後、該標点間隔を再度測定し、測定値βを得た。
【0080】
経糸方向、緯糸方向について、測定値αと測定値βとの差の測定値αに対する割合を算出し、経糸方向、緯糸方向について、それぞれ6点の基準点間の寸法変化率値を求めた。
【0081】
上記の寸法変化率の測定を、ロール状のガラスクロスの異なる部位から作製された試験基板6枚である、表層側a、表層側b、表層側c、内層側a、内層側b、及び内層側cについて実施し、経糸方向、緯糸方向について、それぞれ合計36点の基準点間の寸法変化率値を求めた。
【0082】
次いで、6枚の試験基板である、表層側a、表層側b、表層側c、内層側a、内層側b、及び内層側cから得られた経糸方向の寸法変化率値36点の平均値を求め、経糸方向の寸法変化率とした。また、経糸方向の36点の寸法変化率値の標準偏差を求め、経糸方向の寸法変化率のバラツキとした。
【0083】
同様に、緯糸方向の寸法変化率値36点の平均値を求め、緯糸方向の寸法変化率とした。また、緯糸方向の36点の寸法変化率値の標準偏差を求め、緯糸方向の寸法変化率のバラツキとした。
【0084】
<実施例1>
経糸、緯糸ともに、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数100本、撚り数1.0ZのEガラス糸を使用し、エアジェットルームを用いてガラスクロスを製織し、幅1,350mmの生機を得た。
該生機に400℃で24時間加熱処理し脱糊した後、表面処理剤としてシランカップリング剤である、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン;KBM502(信越シリコーン社製))を用いた処理液にガラスクロスを浸漬し、絞液後、120℃で1分乾燥し、さらに高圧水スプレーによる開繊を実施した後に幅加工を行い、ガラスクロスAを得た。
該ガラスクロスをエキスパンダーロールで拡布した後、初期巻取り張力350N、最終巻取り張力150Nの巻取り張力条件で、巻取りロール上でショア硬度30のゴム弾性を有するニップロールで幅方向に均一にニップ圧を加えながら、直径240mmの巻き巻取り芯管に巻取り、幅1,290mm、長さ2,000m、のロール状のガラスクロスAを得た。
なお、前記巻取り過程工程中に、ロール密度の推移をモニターしながら巻取り張力とニップ圧を調整し、ロール内部の応力分布とロール密度の制御を行いながら巻取りを実施した。
【0085】
<実施例2>
低誘電用のLガラス糸を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作により、ロール状のガラスクロスBを得た。
【0086】
<実施例3>
経糸、緯糸ともに、平均フィラメント径5.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0ZのEガラス糸を使用し、経糸及び緯糸の織密度を52.5本/25mmとしたこと以外は、実施例1と同様に製織し、ガラスクロスCを得た。
該ガラスクロスを、初期巻取り張力380N、最終巻取り張力180Nとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により巻取りを行い、ロール状のガラスクロスCを得た。
【0087】
<実施例4>
経糸、緯糸ともに、平均フィラメント径7.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0ZのEガラス糸を使用し、経糸の織密度を60本/25mm、緯糸の織密度お57本/25mmとしたこと以外は、実施例1と同様に製織し、ガラスクロスDを得た。
該ガラスクロスを、初期巻取り張力450N、最終巻取り張力200Nとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により巻取りを行い、ロール状のガラスクロスDを得た。
【0088】
<実施例5>
経糸、緯糸ともに、平均フィラメント径6.0μm、フィラメント数200本、撚り数1.0ZのEガラス糸を使用し、経糸の織密度を59本/25mm、緯糸の織密度お61本/25mmとしたこと以外は、実施例1と同様に製織し、ガラスクロスEを得た。
該ガラスクロスを、初期巻取り張力450N、最終巻取り張力200Nとしたこと以外は、実施例1と同様の操作により巻取りを行い、ロール状のガラスクロスEを得た。
【0089】
<比較例1>
表面処理剤としてアミノシランカップリング剤であるN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン;KBM-602(信越シリコーン社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作よりガラスクロスFを得た。
該ガラスクロスをエキスパンダーロールで拡布した後、初期巻取り張力200N、最終巻取り張力150Nの巻取り張力条件で、巻取りロール上で金属製のニップロールで幅方向に均一にニップ圧を加えながら、直径240mmの巻き巻取り芯管に巻取り(従来の巻取り方法)、幅1,290mm、長さ2,000m、のロール状のガラスクロスAを得た。
【0090】
<比較例2>
表面処理剤としてアミノシランカップリング剤であるN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン;KBM-602(信越シリコーン社製)を用いたこと以外、実施例1と同様の操作によりガラスクロスGを得た。
該ガラスクロスを、実施例1と同様の操作により巻き巻取り、ロール状のガラスクロスGを得た。
【0091】
<比較例3>
実施例1と同様の操作により、ガラスクロスHを得た。
該ガラスクロスをエキスパンダーロールで拡布した後、初期巻取り張力200N、最終巻取り張力170Nの巻取り張力条件で、巻取りロール上で金属製のニップロールで幅方向に均一にニップ圧を加えながら、直径240mmの巻き巻取り芯管に巻取り(従来の巻取り方法)、幅1,290mm、長さ2,000m、のロール状のガラスクロスHを得た。
【0092】
<比較例4>
実施例1と同様の操作により、ガラスクロスIを得た。
該ガラスクロスをエキスパンダーロールで拡布した後、初期巻取り張力350N、最終巻取り張力300Nの巻取り張力条件で、巻取りロール上で金属製のニップロールで幅方向に均一にニップ圧を加えながら、直径240mmの巻き巻取り芯管に巻取り(従来に比較して高い巻取り張力)、幅1,290mm、長さ2,000m、のロール状のガラスクロスIを得た。
【0093】
<比較例5>
実施例1と同様の操作により、ガラスクロスJを得た。
該ガラスクロスをエキスパンダーロールで拡布した後、初期巻取り張力350N、最終巻取り張力300Nの巻取り張力条件で、巻取りロール上でショア硬度30のゴム弾性を有するニップロールで幅方向に均一にニップ圧を加えながら、直径240mmの巻き巻取り芯管に巻取り(従来に比較して高い巻取り張力、ゴム弾性を有するニップロールで押圧印加)、幅1,290mm、長さ2,000m、のロール状のガラスクロスJを得た。
なお、前記巻取り過程工程中に、ロール密度の推移をモニターしながら巻取り張力とニップ圧を調整し、ロール内部の応力分布とロール密度の制御を行いながら巻取りを実施した。
【0094】
<比較例6>
実施例3と同様の操作により、ガラスクロスKを得た。
該ガラスクロスをエキスパンダーロールで拡布した後、初期巻取り張力300N、最終巻取り張力250Nの巻取り張力条件で、巻取りロール上で金属製のニップロールで幅方向に均一にニップ圧を加えながら、直径240mmの巻き巻取り芯管に巻取り(従来の巻取り方法)、幅1,290mm、長さ2,000m、のロール状のガラスクロスKを得た。
【0095】
<比較例7>
高圧水スプレーによる開繊強度を強くして、経糸の糸幅を広く偏平化させたこと以外は、実施例4と同様の操作により、ロール状のガラスクロスLを得た。
【0096】
<比較例8>
実施例5と同様の操作により、ガラスクロスMを得た。
該ガラスクロスをエキスパンダーロールで拡布した後、初期巻取り張力250N、最終巻取り張力200Nの巻取り張力条件で、巻取りロール上で金属製のニップロールで幅方向に均一にニップ圧を加えながら、直径240mmの巻き巻取り芯管に巻取り(従来の巻取り方法)、幅1,290mm、長さ2,000m、のロール状のガラスクロスMを得た。
【0097】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、プリプレグ等に用いるガラスクロスとして、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4